審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2023-700977

水溶性フィルム、その製造方法および包装体

審判番号
2023-700977
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-562508外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7240420
請求日
2023年09月15日
審決日
2024年03月22日
公報発行日
2024年06月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7240420号発明「水溶性フィルム、その製造方法および包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7240420号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。
特許第7240420号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 24項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

特許第7240420号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、

2019年(令和1年)12月27日(優先権主張 平成30年12月28日)を国際出願日とする出願であって、

令和 5年 3月 7日にその特許権の設定登録(請求項の数 11)がされ、

令和 5年 3月15日に特許掲載公報が発行され、

その後、当該特許に対し、

令和 5年 9月15日に 大澤 孝明 (以下、「特許異議申立人」という。)により全ての請求項に係る特許に対して特許異議申立てがされ、

令和 5年11月10日付けで取消理由が通知され、

令和 6年 1月12日に特許権者 株式会社クラレ から訂正請求がされると共に意見書が提出され、

令和 6年 1月29日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、

令和 6年 3月 4日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正について

1 訂正の内容

令和 6年 1月12日にされた訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正部分を示す。)

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に、

「得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、下記式(1)を満たす」と記載されているのを、

「得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、(A1)0が20%以上80%以下であり、下記式(1)を満たす」に訂正する。

請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし11も同様に訂正する。

(2)訂正事項2

本件特許明細書の段落【0010】および段落【0014】にそれぞれ、

「得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、下記式(1)を満たす」と記載されているのを、

「得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、(A1)0が20%以上80%以下であり、下記式(1)を満たす」に訂正する。

(3)訂正事項3

本件特許明細書の段落【0100】および段落【0105】の【表1】にそれぞれ「実施例6」と記載されているのを、「参考例1」に訂正する。

(4)一群の請求項について

訂正前の請求項1ないし11について、請求項2ないし11は請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

したがって、訂正前の請求項1ないし11に対応する訂正後の請求項1ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1に係る請求項1の訂正について

訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1におけるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量(A1)0を20%以上80%以下に特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書【0034】からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし11についても同様である。

(2)訂正事項2に係る本件特許明細書の段落【0010】および段落【0014】の訂正について

訂正事項2に係る本件特許明細書の段落【0010】および段落【0014】の訂正は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書との整合を図るための訂正である。よって、訂正事項2に係る本件特許明細書の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項2に係る本件特許明細書の段落【0010】および段落【0014】の訂正は、本件特許明細書の段落【0034】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において訂正をするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

そして、訂正事項2に係る本件特許明細書の段落【0010】および段落【0014】の訂正は、請求項1に記載された結晶成分量(A1)0を特定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3に係る本件特許明細書の段落【0100】および段落【0105】【表1】の訂正について

訂正事項3に係る本件特許明細書の段落【0100】および段落【0105】【表1】の訂正は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書との整合を図るための訂正である。よって、訂正事項3に係る本件特許明細書の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項3に係る本件特許明細書の段落【0100】および段落【0105】【表1】の訂正は、訂正事項1に伴い、訂正後の請求項1ないし11に記載された発明の実施例に該当しないものとなった「実施例6」の表記を「参考例1」に変更するものであって、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において訂正をするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

そして、訂正事項3に係る本件特許明細書の段落【0100】および段落【0105】【表1】の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(4)独立特許要件について

本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし11に対してされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 小括

以上のとおり、本件訂正請求による特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号を目的とし、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項、第6項の規定に適合するものである。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許明細書及び本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】

マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって、

重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、(A1)0が20%以上80%以下であり、下記式(1)を満たす、水溶性フィルム。

(数1)

0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、

かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0・・・(1)

【請求項2】

さらに、下記式(2)を満たす、請求項1に記載の水溶性フィルム。

(数2)

(A1)180/(A1)0<0.3・・・(2)

【請求項3】

前記結晶成分量(A1)0が80%以下であり、かつ、

前記混合溶液中に前記水溶性フィルムを浸漬した直後における前記スピン-スピン緩和曲線から求めた拘束非晶成分量を(A2)0としたとき、拘束非晶成分量(A2)0が5~30%である、請求項1または2に記載の水溶性フィルム。

【請求項4】

前記結晶成分量(A1)0と前記拘束非晶成分量(A2)0との比(A1/A2)0が1~20である、請求項3に記載の水溶性フィルム。

【請求項5】

厚さ35μmの前記水溶性フィルムを30℃の脱イオン水に浸漬したときの破断時間が10~100秒である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水溶性フィルム。

【請求項6】

請求項1~5のいずれか1項に記載の水溶性フィルムの製造方法であって、

前記ポリビニルアルコール樹脂と溶媒とを含有する製膜原液を用意することと、

前記製膜原液を回転する支持体上に供給して、液状被膜を形成することと、

前記支持体上で前記液状被膜から前記溶媒を除去して、前記水溶性フィルムを得ることと、を有する、水溶性フィルムの製造方法。

【請求項7】

前記製膜原液は、さらに前記ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して10質量部以上で可塑剤を含有する、請求項6に記載の水溶性フィルムの製造方法。

【請求項8】

前記製膜原液の前記支持体上への供給速度をS0[m/秒]とし、前記支持体の回転速度をS1[m/秒]としたとき、S1/S0が7以下である、請求項6または7に記載の水溶性フィルムの製造方法。

【請求項9】

前記支持体の表面温度が50~110℃である、請求項6~8のいずれか1項に記載の水溶性フィルムの製造方法。

【請求項10】

請求項1~5のいずれか1項に記載の水溶性フィルムで構成された包材と、

前記包材に内包された薬剤と、を含む、包装体。

【請求項11】

前記薬剤が農薬、洗剤または殺菌剤である、請求項10に記載の包装体。

第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について

令和 5年 9月15日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)

本件特許発明1ないし11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(サポート要件)

本件特許の請求項1ないし11の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件請求項1ないし11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明1は、化学的構成の要件として漠然とした<構成A>「マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって、」しか特定されていない。

実施例1~8以外の如何なる態様であれば、<構成B>「重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、下記式(1)を満たす、水溶性フィルム。(数1)0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0・・・(1)」を充足できるのか、拡張乃至一般化できない。

・本件特許発明2ないし11についても同様である。

3 申立理由3(明確性要件)

本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件請求項1ないし11に係る特許は、特許法第113条第4項に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明1は、<構成A>という一般的で非常に広範な範囲を包含する化学的構成しか規定されておらず、<構成B>を充足するための<構成A>の具体的態様が不明瞭である。

・本件特許発明2ないし11についても同様である。

4 申立理由4(実施可能要件)

本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件請求項1ないし11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明1は、<構成A>という一般的で非常に広範な範囲を包含する化学的構成しか規定されておらず、実施例1~8以外の如何なる具体的構成によれば<構成B>を充足するか、過度の試行錯誤を要するものである。

・本件特許発明2ないし11についても同様である。

5 証拠方法

甲第1号証:国際公開第2017/043514号
甲第2号証:特開2016-60746号公報
甲第3号証:特開2005-179390号公報
甲第4号証:国際公開第2016/190235号
甲第4-2号証:特開2001-329130号公報
甲第5号証:無効2000-35529号審決公報
甲第6号証:化学大辞典3、昭和55年9月15日縮刷版第24刷、共立出版株式会社発行、第110~111頁
第7号証:「特許・実用新案審査基準」第III部 特許要件 第2章 新規性・進歩性(特許法第29条第1項・第2項) 第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い
甲第8号証:特開2000-296529号公報

証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。

以下、順に「甲1」等という。

第5 取消理由の概要

令和 5年11月10日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要はおおむね次のとおりである。

取消理由(サポート要件)

本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

なお、該取消理由は、申立理由2とおおむね同旨である。

・本件特許発明の解決しようとする課題は、水に対する溶解性に優れ、かつロール状で保管する時の端部における融着を低減し得る水溶性フィルム、その製造方法及び水溶性フィルムを用いた包装体を提供することである。

これに対し、本件特許発明1の(A1)60/(A1)0で表される値は、PVAフィルム中の結晶成分量の0秒-60秒間の経時変化率であって、初期結晶成分量の大きさを表す指標ではない。

本件特許の発明の詳細な説明【0034】に記載されるように、初期結晶成分量(A1)0はPVAの機械的強度と水溶性に関係する。

結晶性成分量A1の経時変化率(A1)60/(A1)0が0.2<(A1)60/(A1)0<0.6を満たしても、初期結晶量(A1)0の値が小さい場合には、ロール保管時の融着防止特性を付与することができない。

そうすると、初期結晶量(A1)0の下限値の特定がない本件特許の請求項1ないし11の発明特定事項では、発明の課題を解決することができると当業者は認識できない。

したがって、本件特許発明1ないし11は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、本件特許の発明の詳細な説明の記載を、本件特許発明1ないし11の範囲にまで、拡張乃至一般化することはできない。

第6 取消理由についての当審の判断

当審は、以下に述べるように取消理由は理由がないと判断する。

1 サポート要件の判断基準

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

そこで、検討する。

2 特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。

3 発明の課題

本件特許明細書の発明の詳細な説明【0008】によると、本件特許発明1ないし11の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「水に対する溶解性に優れ、かつロール状で保管するときの端部における接触面同士の融着を低減し得る水溶性フィルム、その製造方法および水溶性フィルムを用いた包装体を提供する」ことである。

4 判断

本件特許明細書の発明の詳細な説明【0009】には、課題を解決するための手段として、「ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルム中の結晶成分量の経時変化率を特定範囲とすることにより、水溶性フィルムの水に対する溶解性を制御することができ、上記問題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」旨記載されており、同【0010】には本件特許発明1ないし11に対応する記載がある。

本件特許明細書の発明の詳細な説明【0015】ないし【0018】には、1HパルスNMRの測定原理と「T2緩和」現象について記載され、同【0019】ないし【0020】には水溶性フィルムの重水と重メタノールとの混合溶媒中での1HパルスNMR測定により水溶性フィルム中の結晶成分量の経時変化が計測されることが記載され、同【0021】ないし【0025】には本実験における1HパルスNMR測定の緩和曲線のフィッティング条件として、結晶成分及び拘束非晶成分のそれぞれはガウス型緩和、非晶成分をExp型緩和とし、結晶成分の緩和時間tau1=0.01ms、拘束非晶成分の緩和時間tau2=0.05ms、非晶成分の緩和時間tau3=0.70msと固定して、結晶成分量(A1)、拘束非晶成分量(A2)、非晶成分量(A3)を定義したことが記載され、さらに同【0026】ないし【0027】には、水溶性フィルムが収容されたサンプル管内に重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された混合溶液を投入し、水溶性フィルムを混合溶液に浸漬した直後を「0秒経過時」と定義し、浸漬直後、浸漬60秒経過時及び180秒経過時に測定を開始して得られた緩和曲線から求められた結晶成分量(A1)を、それぞれ(A1)0、(A1)60、(A1)180と表記すること、拘束非晶成分量(A2)、非晶成分量(A3)についても同様に表記されることが記載されている。

そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明【0028】ないし【0033】には、水溶性フィルム(PVAフィルム)の結晶成分量(A1)の経時変化率が、0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0・・・(1)を満たすことが必要であり、当該式は、PVAフィルム中の結晶成分量(A1)は、経時的に減少するが、浸漬後60秒経過時においても、初期量に対してある程度の量を保持していることを示しており、PVAフィルム中の結晶成分量(A1)の経時変化率を特定範囲とすることによって、吸湿時のPVAフィルムの溶解速度をコントロールし得、高い水溶性と、ロール状で保管するときの端部における接触面同士の融着を防止し得る特性を付与し得ることを見出したことが記載されている。ここで、(A1)60/(A1)0が0.2以下であると、PVAフィルムの吸湿時の溶解速度が速すぎて、ロール保管時の融着防止特性を付与することができないこと、一方で(A1)60/(A1)0が0.6以上である場合にはPVAフィルムの結晶成分量(A1)の経時変化率(経時低下率)が極端に低く、水溶性に劣ることが記載され、かつ、(A1)180/(A1)0<0.3であれば、浸漬後180秒経過時における結晶成分量(A1)が十分に少なく、当該式を満たすPVAフィルムはより高い水溶性を有することが記載されている。

加えて、本件特許明細書の発明の詳細な説明【0034】には、結晶成分量(A1)0の上限は80%以下が好ましく、下限は20%以上が好ましく、結晶成分量(A1)0が上記範囲であると、PVAフィルムの機械的強度が不足することを防止しつつ、PVAフィルムに高い水溶性を付与することができることが記載されている。

さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明【0042】には上述の様なパラメータを上記範囲にコントロールするための方法として、例えば、ポリビニルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)を調整する方法、可塑剤の添加量を調整する方法、フィルム製造条件(支持体の表面温度、熱処理条件等)を調整する方法、または上述の方法の組み合わせで調整する方法が挙げられることが記載されている。

また、本件特許明細書の発明の詳細な説明【0043】にはPVAについて、同【0044】ないし【0046】には共重合可能な他のモノマーと他のモノマーに由来する構造単位の量について、同【0047】ないし【0048】にはPVAの重合度について、同【0049】ないし【0050】にはけん化度について、同【0051】ないし【0052】にはPVAの含有率について、同【0053】ないし【0055】には可塑剤について、同【0056】ないし【0060】には澱粉またはPVA以外の水溶性高分子について、同【0061】ないし【0065】には界面活性剤について、同【0067】ないし【0069】にはPVAフィルムの破断時間について、同【0070】にはPVAフィルムの厚みについて、同【0071】ないし【0085】はPVAフィルムの製造方法としての流延製膜法及び溶融押出製膜法について記載されている。

そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0097】ないし【0106】には、マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムの具体的製造例(実施例1ないし5、参考例1、実施例7及び8、比較例1ないし5)が記載されており、(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0を満たし、(A1)60/(A1)0の値が0.01~0.98の全13例のうち、0.2<(A1)60/(A1)0<0.6を満たし、かつ、(A1)0が20%以上80%以下を満たす実施例1ないし5、実施例7及び8の水溶性フィルムでは、適正な破断時間(高い水溶性)を有しつつ、膠着性評価がA(端部において接触面同士の膠着がなく、水溶性フィルムを抵抗なく巻き出せた。)という良好な結果が得られたことが記載されている。

そうすると、当業者は、マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって、重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、(A1)0が20%以上80%以下であり、0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0を満たす水溶性フィルムであれば、発明の課題を解決できると認識できる。

そして、本件特許発明1は上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、本件特許発明2ないし11は、本件特許発明1における特定事項をさらに限定するものであるから、本件特許発明1ないし11は発明の課題を解決することができるものである。

したがって、本件特許発明1ないし11は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

よって、本件特許発明1ないし11に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。

5 特許異議申立人の主張について

(1)特許異議申立書における特許異議申立人の主張について

第4 2の特許異議申立人の主張について検討する。

本件特許発明1の発明特定事項により、発明の課題を解決すると当業者が理解することは上記4にて検討のとおりである。

そして、本件特許発明1の発明特定事項を備えているが、実施例1ないし5、7及び8以外の態様は、発明の課題を解決することができず、拡張乃至一般化できない、との特許異議申立人の主張は、具体的な根拠を伴うものでもない。

よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。

(2)令和 6年 3月 4日提出の意見書における特許異議申立人の主張について

令和 6年 3月 4日提出の意見書における特許異議申立人の主張について検討する。

特許異議申立人は令和 6年 3月 4日提出の意見書(第4頁第1行~第12頁第3行)において、次のように主張している。

・「(A1)0」は、初期結晶成分量の大きさを示すものであるから、「(A1)0が20%以上80%以下」は水溶性フィルムの初期の物性であるのに対し、「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」で表される経時変化率は、0秒~60秒、及び0秒~180秒での変化率である。

・「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」で表される経時変化率は、事後的に変化するものであるはずがないから、初期の物性のみに影響されるものである。

・この「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」で表される経時変化率は、数多の要因で定まるものであるから、単に(A1)0の上限値と下限値とで限定する訂正事項1によって、「(A1)0が20%以上80%以下」であることが特定されても、実施例1ないし5、7及び8以外の如何なる態様によって、「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」で表される経時変化率を充足することにより、水溶性とロール保管時の融着防止特性の向上という課題を解決できるか、明細書に明示がなく、サポート要件を満たさない。

・実施例1ないし5、7及び8以外の態様として、「(A1)0以外の初期の物性、乃至は、水溶性フィルムの製造条件(例えば、金属ロール温度、S1/S0、熱処理温度、ポリビルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)や、可塑剤の添加量や、フィルム製造条件(支持体の表面温度、熱処理条件等)」という本件特許発明1で記載されていない構成で特定しなければ、「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」で表される経時変化率も変動してしまうので、実施例1ないし5、7及び8以外に拡張乃至一般化できない。

特許異議申立人の主張について検討するに、本件特許発明1の発明特定事項により、発明の課題を解決すると当業者が理解することは上記4にて検討のとおりである。

そして、本件特許発明1の発明特定事項以外に、「水溶性フィルムの製造条件(例えば、金属ロール温度、S1/S0、熱処理温度、ポリビルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)や、可塑剤の添加量や、フィルム製造条件(支持体の表面温度、熱処理条件等)」等を発明特定事項として特定しなければ、発明の課題を解決することができない、という特許異議申立人の主張は、具体的な根拠や理由を伴ってなされるものでなく、採用することはできない。

6 取消理由についてのまとめ

以上のとおり、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当しない。よって、取消理由によって本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立理由について

取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立理由は、

・申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)

・申立理由3(明確性要件)

・申立理由4(実施可能要件)である。

以下、順に検討する。

1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について

(1)甲1の記載事項等

折りたたみ中(クリックで表示)

ア 甲1の記載事項

甲1には「フィルムロール及び薬剤包装体」に関して次の事項が記載されている。

「[0010] 本発明のフィルムロールは、形状安定性に優れたフィルムロールであり、該フィルムロールから巻き出されたPVA系フィルムは外観も良好であり、各種の包装用途に用いることができ、特に薬剤等のユニット包装用途に有用である。」

「[0013] そして、可塑剤(B)の含有量が、PVA系樹脂(A)100重量部に対して25重量部以上であると、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの強靭さを損なわず、また、機械強度により優れるようになる。」

「[0020] 上記PVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には82~99.9モル%、更には85~98.5モル%、殊には90~97モル%であることが好ましい。・・・(以下略)・・・」

「[0021] 上記PVA系樹脂(A)の重合度は一般的に水溶液粘度で示すことができ、・・・(以下略)・・・」

「[0023] 本発明で用いる変性PVA系樹脂としては、アニオン性基変性PVA系樹脂、カチオン性基変性PVA、ノニオン性基変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、水に対する溶解性の点で、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。アニオン性基の種類としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられるが、耐薬品性及び経時安定性の点で、カルボキシル基、スルホン酸基、特にはカルボキシル基が好ましい。
[0024] 上記アニオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、1~10モル%であることが好ましく、更に好ましくは2~9モル%、特に好ましくは2~8モル%、殊に好ましくは3~7モル%である。かかる変性量が少なすぎると、水に対する溶解性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA系樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下したりする傾向があり、また、ブロッキングを引き起こしやすくなる傾向があり、実用性が低下するものとなる。」

「[0032] 本発明においては、上記ビニルエステル系化合物と共重合可能な以下の不飽和単量体を共重合させてもよいが、変性PVA系樹脂を得る場合は、以下の単量体として、変性基を有する不飽和単量体を共重合させる必要がある。不飽和単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記共重合可能な単量体の含有割合は、通常、10モル%以下である。」

「[0071] 本発明で用いられる界面活性剤(D)としては、PVA系フィルム製造時のキャスト面からの剥離性改善の目的で含有されるものであり、通常、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル等が挙げられ、1種または2種以上併用して用いられる。中でも、製造安定性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルが好適である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
[0072] かかる界面活性剤(D)の含有量については、PVA系樹脂(A)100重量部に対して0.01~3重量部であることが好ましく、更には0.1~2.5重量部、特には0.5~2重量部であることが好ましい。かかる含有量が少なすぎると製膜装置のキャスト面と製膜したPVA系フィルムとの剥離性が低下して生産性が低下する傾向があり、多すぎるとフィルムを包装体とする場合に実施するシール時の接着強度が低下する等の不都合を生じる傾向がある。」
「[0076] 本発明において、上記流延法を行うに際して、例えば、下記の通り行われる。
溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、中でも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。
溶解温度が、高温溶解の場合には、通常80~100℃、好ましくは90~100℃であり、加圧溶解の場合には、通常80~130℃、好ましくは90~120℃である。
溶解時間としては、通常1~20時間、好ましくは2~15時間、更に好ましくは3~10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。」
「[0078] 流延法においては、例えば、PVA系樹脂(A)(粉末)に水を加えてPVA系樹脂水溶液とし、好ましくは更に可塑剤(B)及びその他の配合物を加え、樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。或いは、PVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)及び各種配合物を含有した樹脂組成物に水を加えて樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。かかる樹脂組成物の水分散液または水溶液の固形分濃度は、10~50重量%であることが好ましく、特には15~40重量%、更には20~35重量%であることが好ましい。かかる濃度が低すぎるとPVA系フィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、ドープの脱泡に時間を要したり、PVA系フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。更に、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面の温度が低すぎると乾燥に時間がかかる傾向があり、高すぎると製膜時に発泡する傾向がある。
[0079] 上記水分散液または水溶液をT-ダイ等のスリットを通過させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面やポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチック基材表面等のキャスト面に流延し、乾燥し、必要に応じて更に熱処理して本発明のPVA系フィルムを得ることができる。
例えば、下記の製膜条件にて行うことができる。
[0080] PVA系樹脂組成物の水分散液または水溶液における吐出部の温度は、60~98℃であることが好ましく、特には70~95℃である。かかる温度が低すぎると乾燥時間が長くなり生産性が低下する傾向があり、高すぎると発泡等が生じる傾向がある。
[0081] 製膜に際して、製膜速度は3~80m/分であることが好ましく、特には5~60m/分、更には8~50m/分であることが好ましい。
また、熱処理においては、熱ロールにて行うこともできるが、その他、フローティングや遠赤外線処理等も挙げられる。とりわけ、熱ロールにて行うことが生産性の点で好ましい。熱処理温度としては、50~150℃であることが好ましく、特には70~130℃であることが好ましく、熱処理時間としては、1~60秒であることが好ましく、特には3~50秒、更には5~40秒であることが好ましい。
[0082] また、アプリケーターを用いて、樹脂組成物の水分散液または水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンフィルム等のプラスチック基材あるいは金属基材上にキャストして、乾燥させてPVA系フィルムを得ることもできる。
[0083] PVA系フィルムの厚みとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは10~120μm、更には15~110μm、特には20~100μmであることが好ましい。かかる厚みが薄すぎるとフィルムの機械的強度が低下する傾向があり、厚すぎると水への溶解速度が遅くなる傾向があり、製膜効率も低下する傾向がある。
[0084] PVA系フィルムの幅としては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは300~5000mm、更には500~4000mm、特には800~3000mmであることが好ましい。かかる幅が狭すぎると生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みや膜厚の制御が困難になる傾向がある。」
「[0087] また、本発明においては、得られたPVA系フィルムの含水率は、帯電防止性や機械強度、シール性の点で3~15重量%であることが好ましく、特には5~14重量%、更には6~13重量%であることが好ましい。かかる含水率が低すぎるとフィルムが硬くなりすぎたり、帯電してほこりなどの異物が混入する傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。かかる含水率に調整するに際しては、乾燥条件や調湿条件を適宜設定することにより達成することができる。
なお、上記含水率は、JIS K 6726 3.4に準拠して測定され、得られた揮発分の値を含水率とする。」
「[0111] 以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
[0112] PVA系樹脂として、以下のものを用意した。
・カルボキシル基変性PVA(A1):
続きを表示(全29行)
20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%
・未変性PVA(A2):
20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%
・カルボキシル基変性PVA(A3):
20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度96モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%
・未変性PVA(A4):
20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度88モル%
・未変性PVA(A5):
20℃における4%水溶液粘度5mPa・s、平均ケン化度88モル%
[0113]<実施例1>
PVA系樹脂(A)として、カルボキシル基変性PVA(A1)を90部、20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%の未変性PVA(A2)を10部、可塑剤(B)として、多めの可塑剤すなわち、ソルビトール(b1)を20部及びグリセリン(b2)を20部、フィラー(C)として澱粉(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(D)として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を2部及び水を混合して、溶解処理をし、澱粉が分散したPVA水溶液(固形分濃度25%)を得た。
そして、上記PVA水溶液を用い、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により、10m/分の速度で流延製膜法に従い製膜し、温度95℃の条件で乾燥させ、PVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。そして、上記PVA系フィルムの両端部をスリットして、フィルム幅1000mm、フィルム長さ300m、フィルム膜厚89μmのPVAフィルム(水溶性フィルム)のフィルムロールを得た。
[0114] 上記で得られたフィルムロールについて、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
〔Leeb硬度〕
23℃、50%RHの環境下で、上記で得られたフィルムロールの最表面において、幅方向に対して全幅を10等分したときのそれぞれの1等分の同一線上の中央点の10カ所について、エフティーエス社製硬さ試験機「エコーチップ バンビーノ2」を用い、ASTM A956準拠のLeeb硬度を測定した。かかる10カ所での測定結果より、最大値(X)と最小値(Y)の差(X-Y)を算出した。
なお、Leeb硬度の測定カ所である10カ所については、フィルムの先端部分から20cm内側部分を測定カ所とすることとした。
[0115]<実施例2~4、比較例1>
実施例1において、表1に示す通りに変更した以外は同様に行い、PVA系フィルム(水溶性フィルム)のフィルムロールを得た。
上記で得られたフィルムロールについて、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
[0116][表1]
[図:0001411341000001.jpg]
[0117] 上記の結果より、実施例では、フィルムロールの最表面の硬度のばらつきが非常に小さいものであり、そのため、巻き取り時のエアの噛みこみもなく、巻き取り時や巻き取り後の巻ずれもなく、また、巻き締りも起こらない、形状安定性に優れたものとなるのに対して、比較例では、最表面の硬度のばらつきも大きいものであり、本発明の目的は達成されないものである。
[0118]〔薬剤包装体の作製〕
上記で得られた実施例1のPVA系フィルムについて、Engel社製包装体製造機を用いて、下記の手順にて薬剤包装体を作製した。
即ち、装置の下部にある金型(成型される包装体:縦45mm、横42mm、高さ30mm)の上に、PVA系フィルム(ボトムフィルム)を固定し、装置の上部にもPVA系フィルム(トップフィルム)を固定した。ボトムフィルムを10秒間、90℃の熱風を発生させるドライヤーで加熱し、ボトムフィルムを金型に真空成型した。その後、P&G社製の「アリエールパワージェルボール」に包装された液体洗剤(グリセリン5.4%、プロピレングリコール22.6%、水分10.4%を含有)を成型されたPVA系フィルムに20mL投入した。トップフィルムに水を1.5g塗布し、トップフィルムとボトムフィルムを圧着した。30秒間圧着した後に、真空を解放し、薬剤包装体を得た。この得られた包装体の外観は、問題の無いものであった。」

イ 甲1に記載された発明

上記アより、甲1の実施例3を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>

「PVA系樹脂(A)として、20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度96モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%であるカルボキシル基変性PVA(A3)を100部、可塑剤(B)として、グリセリン(b2)を22部、フィラー(C)として澱粉(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(D)として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を2部及び水を混合して、溶解処理をし、澱粉が分散したPVA水溶液(固形分濃度25%)を得、上記PVA水溶液を用い、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製製膜機により、10m/分の速度で流延製膜法に従い製膜し、温度95℃の条件で乾燥させ、PVA系フィルム(水溶性フィルム)を得、上記PVA系フィルムの両端部をスリットして、フィルム幅1000mm、フィルム長さ300m、フィルム膜厚89μmとしたPVAフィルム(水溶性フィルム)。」

(2)検討

ア 本件特許発明1についての対比・判断

本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明における「20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度96モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%であるカルボキシル基変性PVA(A3)」、「PVAフィルム(水溶性フィルム)」は、本件特許発明1における「マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂」、「水溶性フィルム」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。

<一致点>

「マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルム。」

<相違点>

本件特許発明1は、「重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、(A1)0が20%以上80%以下であり」「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」「を満たす」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。

甲1には、重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に水溶性フィルムを浸漬して行った水溶性フィルムの1HパルスNMR測定に関する記載はなく、その測定値は不明であるから、上記相違点は実質的な相違点である。

よって、本件特許発明1は甲1発明ではない。

そして、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明における水溶性フィルムにおいて、重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に水溶性フィルムを浸漬して行った水溶性フィルムの1HパルスNMR測定によるスピンースピン緩和曲線から求めた結晶成分量を上記相違点に係る数値範囲とする動機となる記載はない。

したがって、甲1発明において、相違点に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

当該相違点に関し、特許異議申立人は、特許異議申立書において次のように主張している。

・甲1には1HパルスNMR測定による測定方法も数値限定も記載がない点で一見相違するように見えるが、このような数値限定は既に知られた甲1発明に記載のマレイン酸モノメチルエステル変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムについて、所定方法で測定した固有値を示したにすぎず、何ら新たな化学的な構成で特定したものではなく、物として両者は重複している(特許異議申立書第12頁)。

・本件特許発明1の実施例と甲1発明の実施例3とを対比すると、両者は、マレイン酸モノメチルエステル変性PVAのケン化度、重合度、変性量、水溶性フィルム中の可塑剤(グリセリン)の含有量、界面活性剤の量と種類、水の配合、製膜原液の揮発分率、流延製膜法による製膜条件の点でそれぞれ同じであるか、類似する数値条件で水溶性フィルムを作製しているから、本件特許発明1の実施態様の一例である本件特許公報の実施例1と甲1発明の実施例3とは、同一であるか実質的に同一である(特許異議申立書第13頁ないし第25頁)。

上記特許異議申立人の主張を検討する。

上記特許異議申立人の主張する本件特許公報の実施例1と甲1の実施例3のそれぞれの水溶性フィルムの組成や製膜条件は、一部ではその条件が両者一致し、一部ではその条件が両者類似し、また、一部ではそれら製造条件が不明である。

そうすると、マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムを重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時の結晶成分量(A1)0、(A1)60、(A1)180について、(A1)0が20%以上80%以下であり、0.2<(A1)60/(A1)0<0.6を満たす蓋然性が高い、とまではいえない。

よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。

イ 本件特許発明2ないし11についての対比・判断

本件特許発明2ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。

よって、本件特許発明2ないし11は甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由1についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし11は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。

よって、申立理由1によって本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3(明確性要件)について

(1)明確性要件の判断基準

特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

そこで、検討する。

(2)特許請求の範囲の記載

特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。

(3)明確性要件の判断

本件特許の請求項1ないし11の記載は、それ自体に不明瞭な記載はなく、願書に添付した明細書の記載とも整合する。

したがって、本件特許発明1ないし11に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(4)特許異議申立人の主張について

ア 特許異議申立書における特許異議申立人の主張について

特許異議申立人の上記第4 3の主張について検討する。

本件特許発明1ないし11は、「マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルム」という化学的構成において「重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180」として数値限定にて特定したものであり、その測定原理と測定値に関しては本件特許明細書の発明の詳細な説明【0015】ないし【0020】に、緩和曲線のフィッティング条件は本件特許明細書の発明の詳細な説明【0021】ないし【0025】にそれぞれ説明ないし定義されていることから、その測定方法及び当該数値限定はそれ自体明瞭である。

そして、「重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180」の数値限定を満たす例として、本件特許の発明の詳細な説明の【0089】ないし【0105】【表1】に7例の具体例が挙げられており、当業者はその具体的態様についても理解することができる。

よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。

イ 令和 6年 3月 4日提出の意見書における特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は令和 6年 3月 4日提出の意見書(第13頁第10行~第16頁第10行)において、次のように主張している。

・本件特許発明1は、「マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって」という一般的で非常に広範な化学的構成しか規定されておらず、当該構成であれば、全ての態様が「(A1)0が20%以上80%以下」「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」を充足するものではない。

・「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6」の条件は、ポリビニルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)、可塑剤の量、支持体(金属ロール)の表面温度、S1/S0の値、および追加の熱処理条件の変動で、充足/非充足となるのだから、本件特許発明1の「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6」は単なる願望を記載しているに過ぎず、経時変化(率)で水溶性フィルムを特定したところで、本件特許発明1は不明確である。

特許異議申立人の主張を検討するに、請求項1に記載された「(A1)0が20%以上80%以下」「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」は、それ自体が明確であることは上記(3)において検討したとおりである。

そして、水溶性フィルムにおける「(A1)0」「(A1)60/(A1)0」「(A1)180/(A1)0」の各測定値は、「ポリビニルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)、可塑剤の量、支持体(金属ロール)の表面温度、S1/S0の値、および追加の熱処理条件」等の変動により、数値が変わることは、明確性要件の判断には関係がない。

よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。

(5)申立理由3についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しない。

よって、申立理由3によって本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由4(実施可能要件)について

(1)実施可能要件の判断基準

上記第3のとおり、本件特許発明1ないし5及び10ないし11は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。

また、上記第3のとおり、本件特許発明6ないし9は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。

そこで、検討する。

(2)実施可能要件の判断

発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし11の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。

したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし5及び10ないし11を生産し、使用することができる程度の記載があるといえ、また、本件特許発明6ないし9の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえるから、よって、本件特許発明1ないし11に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。

(3)特許異議申立人の主張について

ア 特許異議申立書における特許異議申立人の主張について

特許異議申立人の上記第4 4の主張について検討する。

本件特許の発明の詳細な説明には、重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180の数値限定を満たす例として、本件特許の発明の詳細な説明の【0089】ないし【0105】【表1】には水溶性フィルム7例が、具体的なフィルム製造条件を伴って記載されており、これら数値限定を満たす水溶性フィルムを製造するに際し、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるとの特許異議申立人の主張は具体的な根拠がなく、採用することができない。

イ 令和 6年 3月 4日提出の意見書における特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は令和 6年 3月 4日提出の意見書(第16頁第17行~第17頁第23行)において次のように主張している。

・本件特許発明1は、「マレイン酸モノメチルエステルまたは無水マレイン酸変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって」という一般的で非常に広範な化学的構成しか規定されておらず、実施例1ないし5、7及び8以外の如何なる具体的構成によれば、「(A1)0が20%以上80%以下」及び「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」を充足するか、過度の試行錯誤が必要である。

・本件特許明細書【0042】に記載されるように、パラメータを本件特許発明1の範囲にコントロールすることが重要であるところ、そのパラメータのコントロールの方法として、例えば、ポリビニルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)を調整する方法、可塑剤の添加量を調整する方法、フィルム製造条件(支持体の表面温度、熱処理条件等)を調整する方法、または上述の方法を組み合わせて調整する方法が挙げられるのだから、調整すべき要因が多岐にわたり過ぎる。

・実施例1ないし5、7及び8以外の如何なる態様であれば、「(A1)0が20%以上80%以下」及び「0.2<(A1)60/(A1)0<0.6、かつ(A1)180/(A1)0<(A1)60/(A1)0」を充足するか、本件特許明細書中、実施例1ないし5、7及び8以外に、当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

特許異議申立人の主張を検討するに、上記アにおいて検討したように、本件特許明細書の【0089】ないし【0105】【表1】には、本件特許発明1の特定事項を満たす水溶性フィルム7例が具体的なフィルム製造条件を伴って記載されているだけでなく、同【0042】にはポリビニルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)、可塑剤の添加量、フィルム製造条件(支持体の表面温度、熱処理条件等)を調整する方法やこれらを組み合わせて調整する方法が記載されており、同【0046】にはビニルエステル重合体に占める他のモノマーに由来する構成単位の割合を変化させることで(A1)60/(A1)0を調整することができること、同【0049】にはPVAのケン化度と結晶成分量(A1)0との関係について、及び、(A1)60/(A1)0、(A1)180/(A1)0との関係について、同【0054】には(A1)0の割合を適切な範囲に調整するための可塑剤の含有量について、同【0073】には水溶性フィルムの製造工程中での、支持体上に流延された液状皮膜の乾燥工程における乾燥速度と(A1)0との関係について、同【0074】には同じく製造工程中での、製膜原液の揮発分率と(A1)0との関係について、同【0077】には製膜原液を流延する支持体の表面温度と(A1)0との関係について、同【0079】には製膜原液への支持体への供給速度S0と支持体の回転速度S1の比(S1/S0)と(A1)0との関係について、同【0082】には乾燥炉または乾燥ロールの温度と(A1)0との関係について、同【0083】には熱処理の温度と(A1)0との関係について、それぞれの調整因子とその調整の方向性が開示されており、これら本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項の全てと出願時の技術常識を勘案すれば、当業者がその実施をするのに、過度の試行錯誤を要するものであるとはいえない。

よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。

(4)申立理由4についてのまとめ

上記のとおり、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しない。

よって、申立理由4によって本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

第8 結語

以上のとおり、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700977

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決142件(大澤 孝明、株式会社クラレ)
  • 2025-700321異議申立 / 2026-06-04 / 訂正認容樹脂組成物及び成形体
    同じ当事者: 株式会社クラレ
  • 2025-700775異議申立 / 2025-12-23 / 維持防水部品及びそれを備えた電子機器、インサート成形体を用いる防水方法ならびに電子機…
    同じ当事者: 株式会社クラレ
  • 2025-700332異議申立 / 2025-11-04 / 訂正認容吸着フィルター
    同じ当事者: 株式会社クラレ
  • 2023-700995異議申立 / 2025-10-07 / 訂正認容二重ロープ構造体
    同じ当事者: 株式会社クラレ
  • 2024-700083異議申立 / 2025-08-08 / 訂正認容ビニルアルコール系重合体及びその用途
    同じ当事者: 株式会社クラレ
同じ根拠条文の審決1,089件(特許法113条4号、特許法36条4項1号)
  • 2024-700025異議申立 / 2025-09-22 / 訂正認容球状架橋粒子
    共通の条文: 特許法113条4号、特許法36条4項1号
  • 2023-700294異議申立 / 2023-10-16 / 訂正認容セルロースナノファイバー含水分散液
    共通の条文: 特許法113条4号、特許法36条4項1号
  • 2023-700049異議申立 / 2023-04-27 / 維持ポリイミドフィルムの製造方法
    共通の条文: 特許法113条4号、特許法36条4項1号
  • 2021-701203異議申立 / 2023-01-26 / 訂正認容吸水性樹脂粒子、吸収性物品、吸水性樹脂粒子を製造する方法、及び吸収性物品の液漏れ…
    共通の条文: 特許法113条4号、特許法36条4項1号
  • 2022-700630異議申立 / 2022-11-21 / 維持水溶性フィルム及び薬剤包装体
    共通の条文: 特許法113条4号、特許法36条4項1号
同じ論点・分野の審決(審決分類)551件(113・C08J、121・C08J、536・C08J ほか)
  • 2026-700187異議申立 / 2026-05-29 / 維持水まわり部材
    共通の審決分類: 113・C08J、121・C08J、536・C08J、537・C08J
  • 2026-700139異議申立 / 2026-04-24 / 維持ポリエステルフィルム
    共通の審決分類: 113・C08J、121・C08J、536・C08J、537・C08J
  • 2022-701115異議申立 / 2026-04-15 / 訂正認容ポリイミドフィルム
    共通の審決分類: 113・C08J、121・C08J、536・C08J、537・C08J
  • 2025-700195異議申立 / 2025-12-17 / 訂正認容樹脂粒子及びその用途
    共通の審決分類: 113・C08J、121・C08J、536・C08J、537・C08J
  • 2024-700025異議申立 / 2025-09-22 / 訂正認容球状架橋粒子
    共通の審決分類: 113・C08J、121・C08J、536・C08J、537・C08J

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存