審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2026-700187

水まわり部材

審判番号
2026-700187
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-051788
登録番号
7733874
請求日
2026年03月02日
審決日
2026年05月29日
公報発行日
2026年07月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】TOTO株式会社
  • 【異議申立人】鈴木 多香子
審判長/審判官
  • 審判長 天野 宏樹
  • 審判官 壷内 信吾
  • 審判官 宮久保 博幸
分類
P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7733874号発明「水まわり部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7733874号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7733874号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和6年3月27日の出願であって、令和7年8月27日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年9月4日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、令和8年3月2日に特許異議申立人 鈴木 多香子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~5)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。また、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 水まわりに配置される部材であって、 表面に凹凸を有する透明層を備え、 前記透明層の表面のRa値は、1.0以上4.0以下であり、 前記透明層の表面のRsk値は、0.0以上1.4以下であり、 前記透明層の表面のRku値は、3.0以上である、水まわり部材。 【請求項2】 前記透明層は、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、透明塩化ビニル、及びエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含む、請求項1に記載の水まわり部材。 【請求項3】 前記透明層は、前記凹凸を有する表面層と、前記表面層の裏面側に位置する基部層と、を有し、 前記表面層は、樹脂を含む塗膜と、前記塗膜の内部に分散された粒子と、を含み、 前記凹凸は、前記粒子により形成される、請求項1または2に記載の水まわり部材。 【請求項4】 前記表面層の鉛筆硬度は、1H以上である、請求項3に記載の水まわり部材。 【請求項5】 前記表面層は、アニオン性官能基及び双性イオン官能基の少なくともいずれかを含む親水性化合物を含む、請求項3に記載の水まわり部材。」 第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要 令和8年3月2日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性) 本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性) 本件発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 具体的理由は次のとおりである。 (1)粒径 本件発明1は、透明層の表面凹凸形状のみ特定しているが、他方で、本件特許明細書等には、粒径が1種類(SE-020T)の粒子(具体的数値なし)で清掃性、意匠性等の所望の評価が得られたことしか記載されておらず(図6)、他の粒径で当該評価が得られるとは考えられない。 よって、本件発明1は、サポート要件を満たしていない。本件発明2~5についても同様である。 (2)膜厚 本件発明1は、透明層の表面凹凸形状のみ特定しているが、他方で、本件特許明細書等には、膜厚が5~15μmの場合に清掃性等の所望の評価が得られたことしか記載されておらず(図6)、当該膜厚以外の例えば1μmの膜厚で当該評価が得られるとは考えられない。 よって、本件発明1は、サポート要件を満たしていない。本件発明2~5についても同様である。 (3)樹脂 本件発明1は、透明層の表面凹凸形状のみ特定しているが、他方で、本件特許明細書等には、塗膜がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの場合に清掃性等の所望の評価が得られたことしか記載されておらず(図6)、当該樹脂以外の樹脂で当該評価が得られるとは考えられない。 よって、本件発明1は、サポート要件を満たしていない。本件発明2~5についても同様である。 (4)Rku 本件発明1は、「前記透明層の表面のRku値は、3.0以上である」と特定しているが、本件特許明細書等には、Rkuが6.6以下の場合に図6の評価が得られたことしか記載されておらず、Rkuの値が極めて高い場合に当該評価が得られるとは考えられない。 よって、本件発明1は、サポート要件を満たしていない。本件発明2~5についても同様である。 4 申立理由4(明確性) 本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 具体的理由は次のとおりである。 (1)透明層 本件発明1は、「透明層」と特定しているが、「透明層」とは、光透過率を指すのか、鮮明度をさすのか不明確である。本件発明2~5についても同様である。 (2)Rku 本件発明1は、「前記透明層の表面のRku値は、3.0以上である」と特定しているが、上限が不明確である。本件発明2~5についても同様である。 5 申立理由5(実施可能要件) 本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 具体的理由は次のとおりである。 (1)粒径 本件発明1は、水まわり部材の表面凹凸形状を特定しているが、当該表面凹凸形状を実現するためには、水まわり部材(の表面層)に含まれる粒子の粒径をどのように選択するかが必要不可欠であると考えられる。 これに対して、本件特許明細書等には、当該粒径が、当業者が実施しうる程度に記載されていない。 よって、本件発明1は、実施可能要件を満たしていない。本件発明2~5についても同様である。 (2)Rku 本件発明1は、「前記透明層の表面のRku値は、3.0以上である」と特定しているが、発明の詳細な説明には、Rkuの値が極めて高い場合に当業者が発明を実施しうるのか説明されていない。 よって、本件発明1は、実施可能要件を満たしていない。本件発明2~5についても同様である。 6 証拠方法 ・甲第1号証:特開2022-48110号公報 ・甲第2号証:特開2024-1734号公報 ・甲第3号証:特開2014-233946号公報 ・甲第4号証:特開2014-198754号公報 証拠の表記は特許異議申立書の記載に従った。 以下、順に「甲1」等という。 第4 当審の判断 当審は、申立人が申し立てた特許異議申立理由によって、本件発明1~5についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。 1 申立理由1、2(甲1を主たる証拠とする新規性、進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には「艶消物品」に関し、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。 ・「【請求項1】 表面の少なくとも一部に、ISO25178-2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50超である表面形状を有する艶消物品。 【請求項2】 前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRsm(曲線要素の平均長さ)が、100.00μm以下である請求項1に記載の艶消物品。 【請求項3】 前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)が、8.00μm以上である請求項1又は2に記載の艶消物品。 【請求項4】 前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、5.50μm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の艶消物品。 【請求項5】 艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成される請求項1~4のいずれか1項に記載の艶消物品。 【請求項6】 前記表面形状を形成する前記艶消層の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有する請求項5に記載の艶消物品。 【請求項7】 前記不規則なシワが、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、前記複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部とにより構成される、請求項6に記載の艶消物品。」 ・「【技術分野】 【0001】 本開示は、艶消物品に関する。 【背景技術】 【0002】 従来から、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装用部材;外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材;窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材;また、箪笥、棚、机等の一般家具;食卓、流し台等の厨房家具;家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板;車両の内装又は外装用部材等の表面を装飾し、保護するための物品として、またいわゆる化粧材又は化粧シート等が用いられている。そして、かかる化粧材としては、例えば、所望の機能を有する表面層を有するものが用いられている。 【0003】 これらの用途に用いられる化粧材には、その意匠性を向上させるために艶消効果(「マット効果」とも称される。)を用いて質感を向上させる手法が汎用される。艶消効果を用いた化粧材として、例えば、特許文献1には、基材シートの片面に絵柄層及び隠蔽層を有し、もう一方の面にマット層、グロス層等の艶調整層を有する化粧シートが提案されている。特許文献1の化粧シートでは、艶調整層のマット層とグロス層が有する光沢の差により、絵柄層、隠蔽層を引き立てるという意匠効果が得られており、その実施例では、全面に設けられるマット層には樹脂分100重量部あたりに球形状アルミナ10重量部及び炭酸カルシウム40重量部の合計50重量部の艶消剤を添加したマットインキが用いられている。」 ・「【0008】 本開示は、優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつざらざらした触感に優れる艶消物品を提供することを課題とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記課題を解決すべく、本開示は、 表面の少なくとも一部に、ISO25178-2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50超である表面形状を有する艶消物品、 を提供する。 【発明の効果】 【0010】 本開示によれば、優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつざらざらした触感に優れる艶消物品を提供することができる。」 ・「【0013】 本開示の艶消物品は、表面の少なくとも一部に、ISO25178-2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50超である表面形状を有することを特徴とするものである。」 ・「【0019】 後述するSku(クルトシス)との関係で、Ssk(スキューネス)は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.50以上、更に好ましくは0.75以上、より更に好ましくは1.00以上である。Sku(クルトシス)が0.30以上であると、艶消効果及びざらざらした触感が向上する。 上限としては特に制限はないが、通常3.50以下程度であり、好ましくは3.00以下、より好ましくは2.75以下である。上限が3.50以下であると、製造が容易になる。」 ・「【0022】 既述のSsk(スキューネス)との関係で、Sku(クルトシス)は、好ましくは3.60以上、より好ましくは3.70以上、更に好ましくは3.80以上である。上限としては特に制限はないが、製造の容易性等の観点から、10.00以下程度であり、好ましくは9.00以下、より好ましくは8.00以下である。Sku(クルトシス)が上記範囲内であると、艶消効果及びざらざらした触感が向上する。 【0023】 本開示の艶消物品の表面形状は、既述のように、特定のSsk(スキューネス)とSku(クルトシス)とを有するものであり、Ssk(スキューネス)の規定による、高さに対する幅が狭く、アスペクト比が高めである断面形状が細長い形状の凸部がより多く存在し、一定の距離を保ちながら分布するという特徴と、Sku(クルトシス)の規定による凸部の領域上において先端形状の突起部及び底部がつぼまった(鋭角な)凹陥部が散在するという特徴を兼ね備えたものとなる。 本開示の艶消物品の表面形状は、その先端形状が尖った形状であり、細長い形状の凸部が多く散在することにより、指の腹で触れた際に適度な接触頻度で尖った先端形状を感じることができる。このような感覚が、指の腹で粗面を触れた際に感じる触感、粗くなめらかではない、ささくれて粗さが感じられるような触感、すなわち「ざらざら」した触感につながるものと考えられる。また、そのような凸部が存在することで、相対的に凹部を有することとなるため、艶消効果も得られているものと考えられる。艶消効果の発現についての詳細は、後述する。 【0024】 本開示の艶消物品の表面形状は、後述する図6に示される平面視にて視認される微小なシワ(皺)を有することが好ましい。本開示の艶消物品の表面形状について、Ssk(スキューネス)及びSku(クルトシス)、好ましくは後述するRsm(曲線要素の平均長さ)、Rz(最大高さ)、Ra(算術平均粗さ)は、微小なシワ(皺)を有することで特定の数値範囲内となりやすくなる。他方、微小なシワ(皺)は、特定の数値範囲内のSsk(スキューネス)及びSsk(スキューネス)、また好ましくは特定の数値範囲内のRsm(曲線要素の平均長さ)、Rz(最大高さ)、Ra(算術平均粗さ)を有することで、形成しやすくなる。このように、Ssk(スキューネス)及びSku(クルトシス)等と微小なシワ(皺)とは、表裏一体の関係にあるといえる。そして、このような表面形状を有することで、ざらざらとした触感とともに艶消効果が向上することとなる。」 ・「【0030】 本開示において、表面形状として、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、5.50μm以下であることが好ましい。 Ra(算術平均粗さ)は、輪郭曲線の高さ方向のパラメータの一つであり、基準長さにおける輪郭曲線において、平均面からの高低差の平均値である。Ra(算術平均粗さ)の数値が小さいほど、表面形状における凸部、これに応じて形成する凹部がより小さくなり、より滑らかで均一な形状となる傾向があることを示す指標である。よって、上記Ssk(スキューネス)及びSku(クルトシス)を満足する表面形状において、Ra(算術平均粗さ)が5.50μm以下であると、表面形状が有する凸部の形状をより均一かつ穏やかなものがより多く存在することになるため、突飛な触感が抑えられ、特にざらざらした触感が向上する。また艶消効果も向上する。」 ・「【0034】 〔基材〕 本開示の艶消物品を形成する基材は、その形態(あるいは形状)は特に制限なく、例えばフィルム、シート又は板、多面体、多角柱、円柱、球体、回転楕円体等の各種形状の中から好ましく採用することができる。ここで、フィルム、シート及び板は、相対的に厚みの薄いものからフィルム、シート及び板と称されるが、本明細書中においては、これら三者を厳密に区別する意義は特になく、フィルム、シート及び板の相違によって、本開示の権利解釈に相違が生じることはないものとする。よって、本明細書においては、フィルム、シート及び板については、これらを「シート」、「シート状」等と総称することがある。 本開示の艶消物品が積層体により構成される場合、基材の形状としては、シート状であることが好ましい。基材がシート状であると、特に後述する艶消層を設けやすいことから製造適性が向上し、また例えば樹脂成形品に貼着等により一体化しやすいため、後加工適性が向上する。 【0035】 基材の構成材料としては、特に限定されず、樹脂、金属、非金属無機材料、繊維質材料、木質系材料等の各種材料を用途に応じて適宜選択することができる。これらの各種材料により構成される基材を一層、又はこれらの各種材料により構成される基材を二層以上組み合わせた複数層として用いることができる。複数層とする場合、異種材料の層を2層以上積層して一体化し、各層の材料の有する諸機能を互いに補完することができる。」 ・「【0037】 基材に用いられ得る樹脂としては、各種の合成樹脂、天然樹脂等が挙げられる。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂が挙げられ、艶消物品の製造適性、取扱い適性、後加工適性等を考慮すると、熱可塑性樹脂が好ましい。 【0038】 熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、アイオノマー、各種オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレングリコール-テレフタル酸-イソフタル酸共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のアクリル樹脂;ナイロン6、ナイロン66等に代表されるポリアミド樹脂;三酢酸セルロース、セロファン、セルロイド等のセルロース樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等のスチレン樹脂;ポロビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂等が好ましく挙げられる。 天然樹脂としては、天然ゴム、松脂、琥珀等が好ましく挙げられる。 また、硬化性樹脂としては、後述する艶消層の構成材料として例示する熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂等が好ましく挙げられる。」 ・「【0053】 〔艶消層〕 本開示の艶消物品における艶消層は、上記の基材の少なくとも一部に設けられ、かつ上記の表面形状、すなわちSsk(スキューネス)が0.00以上であり、Sku(クルトシス)が3.50超である表面形状を有する層である。また、図4に示されるように、表面形状を有する面が上記基材側とは反対側の面となるように設けられる層である。 よって、本開示の艶消物品は、艶消層を備え、上記表面形状が艶消層の表面により形成される構成を有することが好ましく、また機械的強度、製造適性等を考慮すると、艶消層は、樹脂組成物の硬化物、好ましくは硬化物樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物により構成される層であることが好ましい。 【0054】 艶消層を形成する上記樹脂組成物としては、優れた艶消効果を有し、かつざらざらした触感に優れる艶消物品を得ることを考慮すると、樹脂及びシワ形成安定剤を含む樹脂組成物(以下、「艶消層形成用の樹脂組成物」と称することがある。)が好ましい。すなわち、本開示において艶消層は、樹脂及びシワ形成安定剤を含む層であることが好ましい。 【0055】 (シワ形成安定剤) シワ形成安定剤は、艶消層の少なくとも一方の表面でシワの形成を安定させることで、艶消物品の表面の少なくとも一部に有する表面形状を形成する艶消層の全面にわたり均一に艶消効果の視認性が発現し、部分的な艶のムラが低減される、安定的な艶消効果の視認性、そして艶消層の全面にわたりシワが安定して形成することによる面状態の均一性を付与する機能を有するものである。そして、艶消層に形成するシワは、ざらざらした触感の発現にも大きく寄与する。本明細書において、「安定的な艶消効果の視認性」について、以下、「安定的な艶消効果の視認性」といった表現、これに準ずる表現を用いる場合がある。また、「面状態の均一性」は、「質感」と称することがある。 よって、従来技術におけるいわゆる「艶消剤」と本開示における「シワ形成安定剤」とは、例えその構成物質、平均粒子径が同じであった場合においても、両者の艶消の機構(作用)、艶消を発現させるための構造、及び使用量と、表面の艶(グロス値)の程度との関係において異なるものとなる。また、シワを形成することにより、ざらざらした触感を発現させる点でも、「艶消剤」とは異なるものである。 【0056】 上記特許文献1等の従来技術において、艶消表現のために用いられてきた艶消剤は、物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果の視認性を発現するものである。具体的には、一般に艶消剤と称されるものは、一般に艶消剤粒子と周囲の樹脂及び空気との屈折率差を有し、その粒子の輪郭形状に対応した光線の反射及び屈折性界面による光拡散効果により艶消効果の視認性を発現するものである。一方、本開示の艶消物品において、シワ形成安定剤は、粒子それ自体による光線の反射及び屈折による光拡散が艶消効果の視認性を発現するのではなく、シワ形成安定剤に起因して艶消層の表面におけるシワの形成を安定させることで、かかる表面と空気との屈折率差界面での光拡散効果により艶消物品に安定的に艶消効果の視認性とともに質感を付与するというものである。よって、本開示で用いられるシワ形成安定剤は、それ自体が艶消効果の視認性を発現する艶消剤とは、仮に、両者の構成物質、平均粒子径が同じであったとしても、両者の艶消の機構及び作用、艶消を発現させるための構造等は異なるものである。 さらに、「シワ形成安定剤」と「艶消剤」とは、含有量と表面の艶(グロス値)との関係においても異なる。同じ物質Aをシワ形成開始剤AW(W:シワ,wrincle)として用い、これを特定量Cで含有させて表面にシワを形成させた場合の表面の60°グロス値G60°AW(C)は、同物質Aを単なる艶消剤AMとして用い、これを特定量Cで含有させるも表面にシワが形成しない場合の表面の60°グロス値G60°AM(C)よりも明らかに低下する。すなわち、以下の関係式が成立する。 G60°AW(C)<G60°AM(C) 【0057】 本開示の艶消物品における艶消層は、従来艶消剤として用いられてきた剤を含んでもよいが、艶消剤を用いても得られない程度に極めて優れた艶消効果が安定的に得られ、ざらざらした触感が得られるという発明の効果の特徴を考慮すると、艶消剤を含まないことが好ましい。このように、本開示の艶消物品は、従来艶消効果の視認性を得るために用いていた艶消剤を実質的に含まなくても、極めて優れた艶消効果の視認性及び質感を有するものであるといえる。ここで、「艶消剤を含まない」とは、艶消剤を全く含まないことに加えて、含んでいても艶消剤自体の作用効果に基づく艶消効果の視認性を有することがない、具体的には艶消剤の含有量が樹脂100質量部に対して15.0質量部未満、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下であることを意味する。 なお、本願明細書において「艶消剤」は、既述のように頭出しの効果により凸部を形成する観点から、具体的には艶消剤が含まれ得る層、すなわち艶消層の厚さの100%超及び30μm超のいずれか小さい方を下限とする平均粒子径を有する粒子を意味する。 【0058】 本開示においては、シワ形成安定剤としては、艶消剤ではない、平均粒子径が艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とするものであれば特に制限なく用いることができる。 艶消効果及びざらざらした触感を向上させることを考慮すると、平均粒子径が艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とするシワ形成安定剤について、その平均粒子径により区別される二種のシワ形成安定剤の少なくともいずれかを用いることが好ましい。二種のシワ形成安定剤は、具体的には、平均粒子径が1μm以上、かつ前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とするシワ形成安定剤1、及び平均粒子径が1μm未満であるシワ形成安定剤2である。」 ・「【0062】 シワ形成安定剤1の平均粒子径は、1μm以上、かつ前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とする。安定的に艶消効果を向上させ、ざらざらした触感を向上させることを考慮すると、シワ形成安定剤1の平均粒子径は、好ましくは1.3μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは1.8μm以上であり、上限としては、艶消層の厚さに対しては、好ましくは艶消層の厚さの90%以下、より好ましくは艶消層の厚さの80%以下、更に好ましくは艶消層の厚さの70%以下であり、絶対値については、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは8μm以下、より更に好ましくは7μm以下であり、艶消層の厚さに対する上限と絶対値の上限とを任意に組み合わせた場合のいずれか小さい方とすればよい。例えば、艶消層の厚さの90%以下及び20μm以下のいずれか小さい方を上限としてもよいし、艶消層の厚さの90%以下及び10μm以下のいずれか小さい方を上限とすることもできる。なお、艶消層の厚さについては後述する。 【0063】 シワ形成安定剤2の平均粒子径は、1μm未満である。シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、ざらざらした触感を向上させることを考慮すると、シワ形成安定剤2の平均粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上であり、上限として好ましくは900nm以下、より好ましくは700nm以下、更に好ましくは500nm以下である。 本明細書において、シワ形成安定剤の平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における質量平均値d50として測定したものである。」 ・「【0068】 艶消層の少なくとも一方の表面に発現するシワは、上記表面形状、すなわち上記の特定の数値範囲内にあるSsk(スキューネス)及びSku(クルトシス)、好ましくはその他Rsm(曲線要素の平均長さ)、Rz(最大高さ)、Ra(算術平均粗さ)を有する表面形状を呈するものであれば特に制限はなく、シワの発現により上記表面形状を有するものとなるため、シワ形成安定剤により形成が安定し、安定的に艶消効果を発現し、かつざらざらした触感をも発現することとなる。 シワについて、上記表面形状を発現し、艶消効果を向上させ、かつざらざらした触感を向上させる観点から、艶消層の少なくとも一方の表面は、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有することが好ましく、不規則なシワは、複数の突起部により形成する複数の凸部と、複数の突起部により囲まれて形成する凹部と、により構成されていることが好ましく、突起部は線条の突起部を有していることが好ましい。本明細書において、「線条の突起部」(以下、「線条突起部」とも称する。)とは、突起部の長さと幅との比(長さ/幅)が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であることを意味し、長さ及び幅の決定方法は後述の通りである。 本開示において、より好ましい不規則なシワは、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部により構成されるもの、である。」 ・「【0072】 既述のように、艶消層はその少なくとも一方の表面にシワ、すなわち凹凸形状を有する。凹凸形状における凸部と凹部は、例えば本開示の化粧材の表面の画像の明度差を利用して、濃度分布画像で最も濃い部分を階調255とし、濃度分布画像で最も薄い部分を階調0として、階調0~255について、階調0~127を凹部、階調128~255を凸部と、二値化処理して区分すればよい。 【0073】 本開示の艶消物品の表面は、少なくともその一部に不規則なシワが形成されていることが好ましく、全面にわたって不規則なシワが形成されていることがより好ましい。シワが形成する箇所は、艶消物品の表面であれば特に制限はなく、例えば後述する絵柄に応じた箇所、すなわち絵柄上だけに限らず、表面の少なくとも一部であれば、シワの形成による艶消効果及びざらざらした触感は発現する。例えば、後述する装飾層を有し、かつ一部に不規則なシワが形成する場合、シワは装飾層の絵柄に応じた箇所、例えば絵柄上に形成すると、絵柄が周囲に比べてより艶消された箇所として視認されるため、意匠性の向上を図ることができる。」 ・「【0085】 (樹脂) 艶消層を形成する樹脂としては、上記シワ形成安定剤を所定量で含む艶消層形成用の樹脂組成物を形成し、硬化することにより硬化物となり艶消層を構成する樹脂であればよい。このような樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂が挙げられる。艶消層は、図4~6にも示されるように、本開示の艶消物品の最表面に設けられ得る層である。そのため、シワ形成安定剤によりシワを形成しやすい樹脂であることの他、艶消物品としての使用性向上を考慮すると、加工特性、耐汚染性、耐擦傷性、耐候性等の表面特性を発現しやすい樹脂であることが好ましく、電離放射線硬化性樹脂はこれらの観点から好ましい樹脂である。本開示の艶消物品は、艶消層に含まれるシワ形成安定剤の含有量が極めて少ないため、その表面特性として、艶消層を形成する樹脂の性能がより直接的に発揮されることとなる。」 ・「【0093】 本開示において、艶消層を形成する樹脂としては、上記重合性オリゴマーを単独で、上記重合性モノマーを単独で、また上記重合性オリゴマーと重合性モノマーとを組み合わせて用いることができるが、上記重合性モノマーを単独で、また上記重合性オリゴマーと重合性モノマーとを組み合わせて用いることが好ましい。重合性オリゴマーとしては多官能性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、多官能性ウレタンアクリレートオリゴマーがより好ましいく、また重合性モノマーとしては多官能の重合性モノマーが好ましく、多官能性(メタ)アクリレートモノマーがより好ましく、多官能アクリレートモノマーが更に好ましい。シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、かつざらざらした触感を向上させることができ、更に加工特性、耐擦傷性及び耐候性等の表面特性を向上させることもできる。 組み合わせて用いる場合、これと同様の理由により、重合性オリゴマーと重合性モノマーとの合計100質量部に対する重合性オリゴマーの含有量は、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは55質量部以上、より更に好ましくは60質量部以上であり、上限として好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。 【0094】 (樹脂組成物) 艶消層は、上記シワ形成安定剤を所定含有量で含む樹脂組成物の硬化物により構成されることが好ましく、樹脂組成物は、好ましくは上記樹脂と、上記シワ形成安定剤を所定含有量で含むものである。本開示で用いられる樹脂組成物は、上記シワ形成安定剤及び樹脂の他、所望の性能等に応じて、他の成分を含んでもよい。 艶消層形成用の樹脂組成物は、例えばその粘度を低下させる等の目的で、単官能性(メタ)アクリレートを含有してもよい。これらの単官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。」 ・「【0103】 〔その他の層〕 本開示の艶消物品は、上記艶消層、基材の他、その他の層として、例えばプライマー層、透明性樹脂層、装飾層、接着層等を必要に応じて有し得る。これらの層を有する本開示の艶消物品の一実施形態を示す断面図を図4及び5に示す。図4及び5は、本開示の艶消物品の一実施形態を示す断面図であり、艶消物品1をその厚さ方向に平行な面で切断した断面図である。ここで、「厚さ方向」は、図4及び5におけるZ方向のことを意味する。 図4に示される艶消化粧材1は、基材5及び艶消層4を順に有しており、図5に示される艶消物品1は、基材5、装飾層6、接着層7、透明性樹脂層8、プライマー層9及び艶消層4を順に有している。」 ・「【0109】 (透明性樹脂層) 本開示の艶消物品は、その強度を高めるため、また後述する装飾層を有する場合は装飾層の保護等の観点から、透明性樹脂層を有してもよい。透明性樹脂層は、基材を有する場合は、基材と艶消層との間に設ければよく、装飾層を有する場合は、装飾層を保護するため、装飾層と艶消層との間に設ければよい。 【0110】 透明性樹脂層を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下、「ABS樹脂」とも称される。)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、これらの中でも後加工適性等の観点からポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂が好ましい。また、これらの各種樹脂を2種類以上積層して、又は混合して使用してもよい。 【0111】 透明性樹脂層は、透明性樹脂層よりも基材側を視認できる程度に透明であればよく、また装飾層を有する場合は装飾層を視認できる程度に透明であればよく、無色透明の他、着色透明及び半透明であってもよい。すなわち、本開示において、「透明性」とは、無色透明の他、着色透明及び半透明も含むことを意味する。 【0112】 透明性樹脂層は、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤、また着色剤等の添加剤を含有してもよい。 透明性樹脂層の厚さは、装飾層の保護、また後加工適性等を考慮すると、20μm以上150μm以下が好ましく、40μm以上120μm以下がより好ましく、60μm以上100μm以下が更に好ましい。 【0113】 (装飾層) 本開示の艶消物品は、意匠性を向上させるため、装飾層を有してもよい。装飾層は、艶消層のシワを有する少なくとも一方の面とは反対側の面に設ければよく、基材を有する場合は基材と艶消層との間に、また透明性樹脂層を有する場合は装飾層、透明性樹脂層及び艶消層の順に設ければよい。」 ・「【0122】 [艶消物品の製造方法] 本開示の艶消物品の第一の製造方法は、艶消層を、上記の樹脂及びシワ形成安定剤を含む艶消層形成用の樹脂組成物の層を、少なくとも100nm以上380nm以下の波長光で照射して形成する艶消層形成工程を備える、ことを特徴とするものである。 第一の製造方法により、例えば図4及び5に示されるような、基材、及びその少なくとも一部に上記表面形状を有する、例えば樹脂組成物の硬化物層を艶消層として有する積層体のように、複数の層が積層してなる積層体の構成を有する艶消物品を製造することができる。例えば、上記の艶消層形成用の樹脂組成物を、基材上に塗布し、基材上に樹脂組成物の層を形成し、上記照射することで艶消層を形成すれば、基材と艶消層とを有する艶消物品を製造することができる。艶消物品を艶消層により上記表面形状を有するものとすることで、前記艶消層側の表面が上記表面形状を有するものとすることができる。そのため、第一の製造方法は、艶消層側の60°グロス値が20.0以下、10.0以下、さらにはそれ以下という艶消効果を有し、かつざらざらした触感を有する艶消物品を製造する場合に好適な製造方法である。」 ・「【0170】 [実施例1] コロナ放電処理を施したポリプロピレンシート(厚さ:100μm)を基材とし、基材の一方の面に、印刷インキ(バインダー樹脂:2液硬化型アクリル-ウレタン樹脂)をグラビア法で塗布して着色層(厚さ:3μm)を設け、着色層上に、アクリル樹脂及びウレタン樹脂をバインダー樹脂として含む樹脂組成物を塗布してプライマー層(厚さ:2μm)を設け、プライマー層上に、艶消層形成用の樹脂組成物(多官能ウレタンアクリレートオリゴマー(4官能、平均分子量:1800):65質量部、多官能アクリレートモノマー(2官能、分子量:400):35質量部、シワ形成安定剤1(シリカ粒子、平均粒子径:3μm):3.0質量部、シワ形成安定剤2(シリカ粒子、平均粒子径:5nm):3.0質量部、光重合開始剤(ベンゾフェノン系):0.8質量部)を、グラビア法により塗布し(塗布量:5g/m2(乾燥時))、次いでエキシマ光照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:172nm(Xe2)、紫外線出力密度:1W/cm、積算光量:10~100mJ/cm2、窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下))、次いで更に高圧水銀灯を用いて照射して(紫外線出力密度:200W/cm)、基材上に艶消層を設け、基材と艶消層とを有する艶消物品を得た。得られた艶消物品について、艶消層側から60°グロス値を測定したところ、1.6であった。また、上記の方法により表面形状の測定、質感及び触感の評価を行った。これらの結果を第1表に示す。 【0171】 [実施例2] 実施例1において、基材として紙基材(厚さ:30μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、艶消物品を得た。得られた艶消物品の艶消層側の60°グロス値及び質感の評価を第1表に示す。また、上記の方法により表面形状の測定、質感及び触感の評価を行った。これらの結果を第1表に示す。」 ・「【0178】 【表1】 [図:0001437430000001.jpg] 【0179】 第1表の結果から、本開示の艶消物品は、その艶消層側の60°グロス値が1.4、1.6となっており、艶消効果の視認性に極めて優れた物品であり、質感にも優れるものであることが確認された。また、ざらざらした触感にも優れたものであることも確認された。 一方、艶消剤を含む比較例1の物品は15.0質量部と実施例におけるシワ形成安定剤の含有量より多い量を含有させても、艶消層に相当する表面の層にシワの形成がなく、その60°グロス値は8.3と実施例の艶消物品のグロス値に劣っており、質感にも劣るものであることが確認された。 【0180】 図7~9は、各々実施例1~3の艶消物品の光学顕微鏡画像である(いずれも画像の横幅が272.0μmに該当する。)。実施例1~3の光学顕微鏡画像(各々図7~9)によれば、これらの実施例の艶消化粧材はその表面に不規則なシワを有していることが確認できる。一方、比較例1の光学顕微鏡画像(図10)によれば、実施例の艶消化粧材のようなシワは確認されず、艶消剤の輪郭形状に対応した凸形状が確認されており、面状態が不安定であり(均一でなく)、質感に優れるものとはいえないものであった。この結果から、本開示の艶消物品は、その表面のシワにより、特定の表面形状を呈するものとなり、その表面形状に起因して、極めて優れた艶消効果の視認性及び質感を有するとともに、しっとりした触感に優れるものとなっていることが確認された。」 ・「【産業上の利用可能性】 【0185】 本開示の艶消物品は、優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつざらざらした触感に優れているため、種々の用途、例えば壁、天井、床等の建築物の内装用部材;外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材;窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材;また、箪笥、棚、机等の一般家具;食卓、流し台等の厨房家具;家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板;車両の内装又は外装用部材等の各種部材用の化粧部材として、好適に用いられる。 また、上記の建築物等に用いられる化粧部材の他、本開示の艶消物品は、そのまま単体で、又は艶消物品を他の素材(被着材)と積層、複合、又は組み合わせた形態で、包装材料、白板(ホワイトボード)又は黒板、クレジットカード、キャッシュカード、テレフォンカード、各種証明書類等の各種カード、各種キーボードの鍵盤、窓、扉、間仕切り等の透明板(窓硝子等)、人工皮革等としても好適に用いられる。」 ・「【図5】 [図:0001437430000002.jpg] 」 ・「【図7】 [図:0001437430000003.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 上記アの記載事項を、特に実施例1として製造された艶消物品に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。 「コロナ放電処理を施した厚さ100μmのポリプロピレンシートからなる基材の一方の面に、印刷インキをグラビア法で塗布して厚さ3μmの着色層を設け、当該着色層上に、アクリル樹脂及びウレタン樹脂をバインダー樹脂として含む樹脂組成物を塗布して厚さ2μmのプライマー層を設け、当該プライマー層上に、艶消層形成用の樹脂組成物(多官能ウレタンアクリレートオリゴマー(4官能、平均分子量:1800):65質量部、多官能アクリレートモノマー(2官能、分子量:400):35質量部、シワ形成安定剤1(シリカ粒子、平均粒子径:3μm):3.0質量部、シワ形成安定剤2(シリカ粒子、平均粒子径:5nm):3.0質量部、光重合開始剤(ベンゾフェノン系):0.8質量部)をグラビア法により塗布し(塗布量:5g/m2(乾燥時))、次いでエキシマ光照射装置を用いて紫外線を照射し、次いで更に高圧水銀灯を用いて照射して基材上に艶消層を設けて得た、基材と艶消層とを有する艶消物品であって、 表面に不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、Ssk(スキューネス)が1.06、Sku(クルトシス)が6.47、Ra(算術平均粗さ)が1.91μmである表面形状を有する、艶消物品。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「艶消物品」は、内装用部材、外装用部材、建具又は造作部材、厨房家具等の各種用途に用いられるもの(甲1の【0185】)であるから、本件発明1の「水回りに配置される部材」と、甲1発明の「艶消物品」とは、「部材」という限りにおいて一致する。 甲1発明の「艶消層」は、その材料からみて着色層を視認できる程度に透明(【0111】)であり、表面に不規則なシワを有するものであるから、本件発明1における「表面に凹凸を有する透明層」に相当する。そして、当該「艶消層」は、Ra(算術平均粗さ)が1.91μmである表面形状を有するものであるから、甲1発明は本件発明1の「前記透明層の表面のRa値は、1.0以上4.0以下であり、」との特定事項を満たす。 してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。 (一致点) 「部材であって、 表面に凹凸を有する透明層を備え、 前記透明層の表面のRa値は、1.0以上4.0以下である、 部材。」 (相違点) ・相違点1 部材について、本件発明1は「水まわりに配置される部材であって」「水まわり部材」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。 ・相違点2 透明層の表面について、本件発明1は「Rsk値は、0.0以上1.4以下であり、」「Rku値は、3.0以上である、」と特定するのに対し、甲1発明は「Ssk(スキューネス)が1.06、Sku(クルトシス)が6.47」「である表面形状を有する」ことが特定されているものの、Rsk値及びRku値については特定されていない点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 甲1発明において特定されるパラメータである「Ssk(スキューネス)」及び「Sku(クルトシス)」はISO25178-2:2012に規定される面粗さのパラメータであるのに対し、本件発明1における「Rsk値」及び「Rku値」はJIS B 0601:2013に準拠して測定される線粗さのパラメータであり、両者は定義が異なるから、測定対象となる表面の性状にかかわらず両者の測定値が一致するとはいえない。そうすると、甲1発明における艶消層の表面の「Rsk値」及び「Rku値」は不明であり、相違点2は実質的な相違点である。 そして、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、艶消層の表面の「Rsk値」及び「Rku値」に着目し、相違点2に係る本件発明1の特定事項を満たすものとする動機付けとなる記載はない。 そして、本件発明1は、相違点2に係る発明特定事項を有することにより、「水まわり部材において、清掃性とフロスト調の外観による意匠性とを両立する」(本件明細書の【0015】、【0046】~【0047】)ことができるという、甲1及び他の証拠から予測することができない顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明及び他の全ての証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ 申立人の主張について 相違点2に関し、申立人は、特許異議申立書23頁において以下のとおり主張する。 「なお、表面形状に関するパラメータであるSsk、Skuは、一次元のパラメータであるRsk、Rkuを二次元で測定したものであり、より正確な表面形状特性である(測定点数が多い)。また、測定対象が方向性のない表面であれば両者は原則同じ数値となり(各測定領域の均一性が前提)、方向性があるのであれば本件第1発明はサポート要件違反である。」 上記主張について検討する。 申立人は、Ssk及びSkuと、Rsk及びRkuとの関係について、「測定対象が方向性のない表面であれば両者は原則同じ数値となり(各測定領域の均一性が前提)」と主張しているが、甲1発明は「その表面に不規則なシワを有していることが確認」されており(【0180】、図7~9)、当該形状を前提としても甲1発明におけるSsk及びSkuが本件発明1におけるRsk及びRkuと同じ数値になることを裏付ける証拠は提示されておらず、申立人の主張は根拠に欠けるものである。 むしろ、甲1発明における艶消物品の表面は「不規則なシワにより構成される凹凸形状」を有しており、不規則ではあるがシワという一定の方向性を持つ構造を備えることから、仮に甲1発明の表面についてRsk、Rkuを測定した場合、その値はSsk、Skuの値と異なるものとなる可能性があり、両者が一致する蓋然性が高いとまではいえない。 そうすると、甲1発明が相違点2に係る本件発明1の特定事項を満たすものとは直ちにいうことができず、申立人の主張は採用することができない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~5について 本件発明2~5は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記(2)で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4は、いずれも甲1に記載された発明ではない。また、本件発明2~5は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由1、2のまとめ 以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲1に記載された発明ではないから特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~5は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由1及び2(甲1を主たる証拠とする新規性、進歩性)により本件発明1~5についての特許を取り消すことはできない。 2 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件発明の課題について 本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0004】の記載からみて、本件発明1~5の課題(以下、「発明の課題」という。)は「清掃性と意匠性とを両立できる水まわり部材を提供すること」にあるものと認められる。 (3)本件明細書の記載について 発明の詳細な説明の【0018】~【0028】には、透明層20を有する水まわり部材の構造について記載されている。 また、【0029】~【0033】、【0047】には、透明層20の表面のRa値、Rsk値及びRku値の好ましい範囲とその技術的意義について記載され、【0034】~【0036】、【0044】~【0045】には透明層20の表面の凹凸を形成する方法について記載されている。 そして、【0055】~【0066】には実施例が記載され、透明層の表面のRa値が1.3~3.6、Rsk値が0.7~1.4、Rku値が3.2~6.6の実施例1~12では清掃性、意匠性のいずれの評価も「合格」であったのに対し、Ra値、Rsk値及びRku値のうちいずれかが上記好ましいとされる範囲を満たさない比較例1~15では清掃性、意匠性のいずかが「不合格」であったことが記載されている。 (4)サポート要件の判断 上記(3)の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、Ra、Rsk及びRkuの好ましい範囲とその技術的意義についての説明が、実施例及び比較例の結果とも整合し、それらが課題解決に寄与することを理解することができるから、「水まわりに配置される部材」において、「表面に凹凸を有する透明層を備え、」「前記透明層の表面のRa値は、1.0以上4.0以下であり、」「前記透明層の表面のRsk値は、0.0以上1.4以下であり、」「前記透明層の表面のRku値は、3.0以上である、」との特定事項を満たすことで、「清掃性と意匠性とを両立できる水まわり部材を提供すること」ができ、発明の課題を解決できるものと認識することができる。 そして、本件発明1~5は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを有するものであるから、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (5)申立人の主張について 申立人は、本件発明1~5のサポート要件に関して上記第3 3(1)~(4)のとおり主張しているので、以下、検討する。 ア 第3 3(1)粒径について 申立人は、発明の詳細な説明には特定の粒径の粒子(SE-020T)を用いた実施例しか記載されておらず、他の粒径の場合に所望の評価が得られるとは考えられないとの点を主張している。しかしながら、発明の詳細な説明には、上記(3)で挙げた点に加え、表面層の粒子の種類や平均粒径等を調整することで、透明層の表面のRa値、Rsk値及びRku値を所望の値にすることができること(【0034】)、及び、透明層の表面のRa値、Rsk値及びRku値が所定の数値範囲を満たすことにより、清掃性とフロスト調の外観による意匠性とを両立できること(【0046】~【0047】)が記載されており、実際、上記(4)に記載したとおり、Ra、Rsk、Rkuが所定の数値範囲を満たす部材は発明の課題を解決できると認識することができるものである。そうすると、発明の詳細な説明に接した当業者は、表面層に含まれる粒子の粒径に関わらず透明層の表面のRa値、Rsk値及びRku値を所定の数値範囲を満たすよう調整することにより、発明の課題を解決することができると理解できる。 よって、申立人の第3 3(1)の主張は採用できない。 イ 第3 3(2)膜厚、(3)樹脂について 申立人は、発明の詳細な説明には表面層として特定の膜厚(5~15μm)及び特定の塗膜(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)を用いた実施例しか記載されておらず、他の膜厚又は樹脂の場合に所望の評価が得られるとは考えられないとの点を主張している。しかしながら、発明の詳細な説明には、上記(3)及び上記アで挙げた点に加え、透明層20の表面層21について、「表面層21の厚さT1は、例えば、0.1μm以上100μm以下、好ましくは、1μm以上50μm以下、さらに好ましくは5μm以上25μm以下である。」(【0024】)と記載され、また、表面層21を構成する塗膜211について、「塗膜211は、樹脂を含む。塗膜211は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、透明塩化ビニル、ポリプロピレン、及びエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含む。」(【0026】)と記載され「表面層21は、例えば、塗膜211と、粒子212と、を有する。粒子212は、塗膜211の内部に分散されている。透明層20の表面20aの凹凸(表面層21の表面21aの凹凸)は、粒子212により形成される。」(【0025】)と記載されている。また、上記(4)に記載したとおり、Ra、Rsk、Rkuが所定の数値範囲を満たす部材は発明の課題を解決できると認識することができるものである。そうすると、発明の詳細な説明に接した当業者は、実施例で用いられた膜厚及び樹脂に限らず、【0024】、【0026】に例示されるような任意の膜厚及び樹脂を用い、粒子の添加等により透明層の表面のRa、Rsk及びRkuを所定の数値範囲を満たすように調整することにより、発明の課題を解決することができると理解できる。 よって、申立人の第3 3(2)及び(3)の主張は採用できない。 ウ 第3 3(4)Rkuについて 申立人は、発明の詳細な説明にはRkuが6.6以下の実施例しか記載されておらず、Rkuの値が極めて高い場合に所望の評価が得られるとは考えられないとの点を主張している。しかしながら、発明の詳細な説明には、Rkuが凹凸の先端の尖り具合を表すパラメータであり、3を超えるときは尖っていることが記載されているから(【0032】)、3を超えていれば凹凸に汚れが入り込むことはなく課題解決を阻害しないと理解できる(【0047】も参照)。また、発明の詳細な説明にはRkuの値が高いために課題を解決できなかったといえる実施例又は比較例は記載されておらず、透明層の表面のRkuの値が高い場合には部材の清掃性又は意匠性が好ましいものとならないという技術常識もない。そうすると、発明の詳細な説明に接した当業者は、表面のRku値については「3.0以上」との条件を満たすことにより発明の課題を解決することができ、上限は特に限定されないことを理解できる。 よって、申立人の第3 3(4)の主張は採用できない。 (6)申立理由3についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当しない。 よって、申立理由3(サポート要件)では、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由4(明確性)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)明確性要件の判断 本件特許の請求項1~5の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載及び図面とも整合する。 したがって、本件発明1~5に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)申立人の主張について 申立人は、本件発明1~5の明確性について、上記第3 4(1)及び(2)のとおり主張しているので、以下、検討する。 ア 第3 4(1)透明層について 透明とは一般的に光を透過する性質を意味する語であり、本件発明1における「透明層」とは、そのような性質を有する層であることが理解できる。 「透明層」について、申立人は「光透過率を指すのか、鮮明度をさすのか不明確である。」と主張しているが、鮮明度を表す用語として本件明細書では「クラリティ」との語が用いられ(【0035】~【0036】、【0061】)、「透明」とは区別されているから、本件明細書において「透明」との語は、鮮明度ではなく単に光を透過する性質を指すことは明らかである。 よって、申立人の第3 4(1)の主張は採用できない。 イ 第3 4(2)Rkuについて 請求項1には、「前記透明層の表面のRku値は、3.0以上である」と記載されており、当該記載によればRku値の下限は「3.0以上」であり、上限は存在しないことが明確に理解できる。そうすると、本件発明1で規定されるRku値の数値範囲は明確であり、上限値が記載されていないことをもって本件発明1が不明確であるということはできない。 よって、申立人の第3 4(2)の主張は採用できない。 (4)申立理由4(明確性)についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当しない。 よって、申立理由4(明確性)では、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由5(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断手法 物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。 (2)本件明細書の記載事項 発明の詳細な説明には、上記2(3)のとおりの記載に加え、以下の記載がある。 【0018】~【0028】には、透明層20を有する水まわり部材の構造について、例示される水まわり部材100は、基材10が透明層20により覆われた構造であり、透明層20は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、透明塩化ビニル、ポリプロピレン、及びエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含み、表面層21と基部層22とを有し、さらに当該表面層21は、例えば、塗膜211と、塗膜211の内部に分散された粒子212を含み、透明層20の表面20aの凹凸は粒子212により形成されることが記載されている。 また、【0037】には、表面層21の塗膜211がアクリル樹脂及びエポキシ樹脂の少なくともいずれかを含むことで、表面層21の鉛筆硬度を1H以上にすることができること、【0038】~【0042】には、表面層21がアニオン性官能基及び双性イオン官能基の少なくともいずれかを含む親水性化合物を含むことで透明層20の表面に親水性を付与できることが、記載されている。 さらに、【0044】~【0045】にはスプレー塗装又は成形による水まわり部材の製造方法が記載され、【0055】~【0066】には実施例として、粒子を含有する樹脂をアクリル板基材にスプレー塗装することによるサンプルの製造手順が具体的に記載されており、得られた実施例1~12の透明層の表面は、Ra値が1.0以上4.0以下、Rsk値が0.0以上1.4以下、Rku値が3.0以上という各数値範囲を満たすものであったことが記載されている。 (3)実施可能要件についての判断 当業者は、上記(2)に示した記載事項に基づいて、表面に凹凸を有する透明層を備え、透明層の表面のRa値、Rsk値及びRku値が本件発明1で特定される範囲を満たす部材を製造することができ、当該部材を清掃性と意匠性とを両立できる水まわり部材として使用することができる。 そうすると、発明の詳細な説明は、本件発明1に関し、その物を生産し、かつ、その物を使用することができる程度に具体的に記載されているものといえる。請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2~5についても同様の記載があるといえる。 よって、本件発明1~5に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たす。 (4)申立人の主張について 申立人は、本件発明1~5の実施可能要件に関して上記第3 5(1)及び(2)のとおり主張しているので、以下、検討する。 ア 第3 5(1)粒径について 発明の詳細な説明には、実施例として特定の粒子(根上工業社製のART PEARL SE-020T)を用いたことが具体的に記載されており、少なくとも実施例と同様の製造方法を用いることにより本件発明1を実施することができるといえる。 さらに、粒子の粒径について、【0026】には「粒子212の平均粒径は、例えば、5μm以上30μm以下である。粒子212の添加量は、例えば、表面層21の粒子212以外の材料に対して、1wt%以上20wt%以下である。粒子212は、必要に応じて添加され、省略可能である。」との記載があり、【0034】には、「例えば、表面層21が粒子212を含む場合には、粒子212の種類、平均粒径、添加量、塗膜211の膜厚などを調整することで、Ra値、Rsk値、及びRku値を所望の値にすることができる。また、例えば、表面層21が粒子212を含まない場合には、透明層20の表面を形成する成形型の形状などにより、Ra値、Rsk値、及びRku値を所望の値にすることができる。」との記載がある。 上記の記載に接した当業者であれば、実施例に記載された具体的な製造手順を手がかりにして粒子の粒径や添加量を調整し、本件発明1の特定事項を満たす水まわり部材を製造することができ、また、粒子を用いない場合であっても、成形型の形状等を調整することで、本件発明1の特定事項を満たす水まわり部材を製造することができるといえる。請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2~5についても同様である。 よって、申立人の第3 5(1)の主張は採用できない。 イ 第3 5(2)Rkuについて 発明の詳細な説明の【0032】には、Rku値が凹凸の先端の尖り具合を表し、Rku値が3を超えるとき凹凸の先端は尖っていることが記載されている。また、【0049】には粒子により凹凸を形成することができること、【0045】には金型の転写によって望む凹凸を形成しても良いことが記載されているから、当業者は【0049】又は【0045】の方法により任意に尖った形状の凹凸、すなわちRku値が3.0以上の凹凸を表面に有する透明層を備えた水まわり部材を製造することができると理解する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2~5についても同様である。 よって、申立人の第3 5(2)の主張は採用できない。 (5)申立理由5についてのまとめ 以上のことから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、いずれも特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当しない。 よって、申立理由5(実施可能要件)では、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできないものである。 また、他に、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700187

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存