特許異議申立
2023-700294
セルロースナノファイバー含水分散液
- 審判番号
- 2023-700294
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-516247外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7139417
- 請求日
- 2023年03月17日
- 審決日
- 2023年10月16日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7139417号発明「セルロースナノファイバー含水分散液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7139417号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし15〕、〔16ないし23〕、24、25、26、27及び28について訂正することを認める。
特許第7139417号の請求項1ないし28に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7139417号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし28に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)4月15日(優先権主張 平成30年4月23日、同年5月18日、同年10月12日、同年11月13日)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月9日にその特許権の設定登録(請求項の数28)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年3月17日に特許異議申立人 吉川 雅也(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし28)がされ、同年6月5日付けで取消理由が通知され、同年8月4日に特許権者 旭化成株式会社から訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年同月10日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年9月14日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年8月4日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし15も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし15も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし15も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし15も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし15も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項16に「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」とあるのを、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項16の記載を直接又は間接的に引用する請求項21ないし23も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項17に「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」とあるのを、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項17の記載を直接又は間接的に引用する請求項21ないし23も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項18に「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」とあるのを、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項18の記載を直接又は間接的に引用する請求項21ないし23も同様に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項19に「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」とあるのを、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項19の記載を直接又は間接的に引用する請求項21ないし23も同様に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項20に「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」とあるのを、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)」に訂正する。
併せて、請求項20の記載を直接又は間接的に引用する請求項21ないし23も同様に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項24に「(F)熱可塑性樹脂」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項25に「(F)熱可塑性樹脂」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項26に「(F)熱可塑性樹脂」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項27に「(F)熱可塑性樹脂」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項28に「(F)熱可塑性樹脂」とあるのを、「(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項2による請求項2についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項3による請求項3についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項4についての訂正について
訂正事項4による請求項4についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)請求項5についての訂正について
訂正事項5による請求項5についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)請求項6ないし15についての訂正について
訂正事項1ないし5による請求項6ないし15についての訂正は、請求項1ないし5についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし5による請求項6ないし15についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)請求項16についての訂正について
訂正事項6による請求項16についての訂正は、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」からさらに「カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6による請求項16についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)請求項17についての訂正について
訂正事項7による請求項17についての訂正は、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」からさらに「カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7による請求項17についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(9)請求項18についての訂正について
訂正事項8による請求項18についての訂正は、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」からさらに「カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項8による請求項18についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(10)請求項19についての訂正について
訂正事項9による請求項19についての訂正は、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」からさらに「カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項9による請求項19についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(11)請求項20についての訂正について
訂正事項10による請求項20についての訂正は、「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」からさらに「カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項10による請求項20についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(12)請求項21ないし23についての訂正について
訂正事項6ないし10による請求項21ないし23についての訂正は、請求項16ないし20についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6ないし10による請求項21ないし23についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(13)請求項24についての訂正について
訂正事項11による請求項24についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項11による請求項24についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(14)請求項25についての訂正について
訂正事項12による請求項25についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項12による請求項25についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(15)請求項26についての訂正について
訂正事項13による請求項26についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項13による請求項26についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(16)請求項27についての訂正について
訂正事項14による請求項27についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項14による請求項27についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(17)請求項28についての訂正について
訂正事項15による請求項28についての訂正は、「(F)熱可塑性樹脂」からさらに「ポリビニルアルコール」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項15による請求項28についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし15による請求項1ないし28についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし15による請求項1ないし28についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし15は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1ないし5による請求項1ないし15についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
訂正前の請求項16ないし23は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項6ないし10による請求項16ないし23についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
訂正事項11による請求項24についての訂正、訂正事項12による請求項25についての訂正、訂正事項13による請求項26についての訂正、訂正事項14による請求項27についての訂正及び訂正事項15による請求項28についての訂正は、いずれも、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
また、特許異議申立人からの特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし28に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし15〕、〔16ないし23〕、24、25、26、27及び28について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし28に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし28に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項2】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項3】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項4】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項5】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、セルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項6】
(B)表面処理剤の数平均分子量が200~30000である、請求項1~5のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項7】
(B)表面処理剤の曇点が10℃以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項8】
(B)表面処理剤の、親水性セグメント質量分率に対する疎水性セグメント質量分率の比(疎水性セグメント質量分率/親水性セグメント質量分率)が1.5~20である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項9】
(B)表面処理剤がノニオン界面活性剤である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項10】
(E)酸化防止剤を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項11】
(F)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらのいずれか2種以上の混合物からなる群より選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a、前記樹脂組成物の引張降伏強度b、及び前記(F)熱可塑性樹脂の引張降伏強度cから、下記式(1):
引張降伏強度向上率=(b/c-1)/a (1)
に従って求められる引張降伏強度向上率が、1.0よりも大きい、請求項1~11のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂組成物中の(A)セルロースナノファイバーの質量含有率a、前記樹脂組成物の曲げ弾性率d、及び前記(F)熱可塑性樹脂の曲げ弾性率eから、下記式(2):
曲げ弾性率向上率=(d/e-1)/a
に従って求められる曲げ弾性率向上率が、3.0よりも大きい、請求項1~12のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物から形成された、樹脂成形体。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー樹脂組成物の製造方法であって、
少なくとも、(A)セルロースナノファイバーと、(B)HLB値が0.1以上8.0未満である表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂とを混練することを含む、方法。
【請求項16】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項17】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項18】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項19】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項20】
(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記(B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、セルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項21】
(B)表面処理剤がノニオン界面活性剤である、請求項16~20のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項22】
(E)酸化防止剤を更に含む、請求項16~21のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー含水分散液。
【請求項23】
請求項16~22のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー含水分散液の乾燥物である、セルロースナノファイバー乾燥体。
【請求項24】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項25】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項26】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含み、前記疎水性セグメントがポリオキシプロピレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項27】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記(B)表面処理剤の分子構造が、ABA型のトリブロック構造、3分岐構造、及び4分岐構造から選択される1つである、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項28】
(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記(B)表面処理剤の分子構造が、親水性セグメント-疎水性セグメント-親水性セグメントのトリブロック構造である、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年3月17日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9、11ないし21及び23ないし28は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし28は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)「(A)セルロースナノファイバー」が、変性物、特にオキソ酸変性基含有の変性物である場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許発明1ないし28は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)(B)表面処理剤の親水性セグメントと疎水性セグメントとが、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックとの組合せと異なる種類や、カルボン酸など、水酸基以外の(A)セルロースナノファイバーの水酸基による水素結合に影響し得る官能基を含む場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許発明1、2、4ないし17、19ないし25、27及び28は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても、「(A)セルロースナノファイバー」が、変性物、特にオキソ酸変性基含有の変性物である場合に、本件特許発明1ないし28を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。
(2)本件特許の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても、(B)表面処理剤の親水性セグメントと疎水性セグメントとが、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックとの組合せと異なる種類や、カルボン酸など、水酸基以外の(A)セルロースナノファイバーの水酸基による水素結合に影響し得る官能基を含む場合に、本件特許発明1、2、4ないし17、19ないし25、27及び28を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2018-48218号公報
甲第2号証:国際公開第2013/100146号
甲第3号証:第一工業製薬カタログ「工業用薬剤製品一覧」 https://www.dks-web.co.jp/catalog_pdf/kogyoyoyakuzaiichiran.pdf
甲第4号証:特願2020-516247拒絶理由通知書、令和3年9月9日付け
甲第5号証:特開2018-44100号公報
甲第6号証:特願2020-516247意見書、令和3年11月10日提出
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和5年6月5日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由は申立理由1とおおむね同旨である。
・取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし9、11ないし21及び23ないし28に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし28に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「セルロースナノファイバー濃縮物の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、セルロースナノファイバーを容易に高固形分化、即ち濃縮することができる、セルロースナノファイバー濃縮物の製造方法を提供することを目的とする。」
・「【0014】
セルロース系原料は、セルロースだけでなく、アニオン変性セルロースも含む概念である。アニオン変性セルロースとは、アニオン性の基(カルボキシル基やカルボキシメチル基、リン酸基など)を導入したセルロース系原料をいう。そのため、セルロースナノファイバーの具体例には、カルボキシル基を導入したカルボキシル化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル基を導入したカルボキシメチル化セルロースナノファイバー、及び、リン酸基を導入したリン酸化セルロースナノファイバーも含まれる。ここで、上記のカルボキシル基やカルボキシメチル基、リン酸基等のアニオン性基には、酸型だけでなく、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩など、塩型も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。
【0015】
カルボキシル化セルロースナノファイバーの例としては、TEMPO酸化セルロースが挙げられる。TEMPO酸化セルロースとは、パルプ等の天然セルロースを、水溶性の安定ニトロキシルラジカルであるTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシルの略称)触媒酸化したセルロースシングルナノファイバーである。TEMPO酸化セルロースは、数平均繊維径が2~150nmのセルロース繊維であって、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基に酸化変性された、微細なセルロース繊維である。」
・「【0025】
濃縮助剤(A)としては、ポリオキシアルキレン鎖を分子内に有する化合物、アルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。このうち、ポリオキシアルキレン鎖を分子内に有する化合物が、曇点を有する濃縮助剤(A1)であり、アルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースが、熱ゲル化点を有する濃縮助剤(A2)である。
【0026】
ここで、曇点とは、濃縮助剤(A1)を含む溶液の温度を上昇させていったときに、溶液から濃縮助剤(A1)が不溶化し始める温度である(「化学辞典」、(株)東京化学同人、1994年発行)。
【0027】
曇点を有する濃縮助剤(A1)である、ポリオキシアルキレン鎖を分子内に有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル、及びポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0028】
ポリオキシアルキレン鎖は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、及びブチレンオキサイドから群から選ばれる一種以上のアルキンオキシドの開環重合物であることが好ましい。より好ましくは、ポリオキシアルキレン鎖は、エチレンオキサイド単独の開環重合物、あるいは、エチレンオキサイドと、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドとを組み合わせた開環重合物である。アルキレンオキシド(オキシアルキレン基)の平均付加モル数は、特に限定しないが、20~300モルであることが好ましく、より好ましくは、30~100モルである。
【0029】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーとしては、エチレンオキシド5~200モルとプロピレンオキシド5~200モルとの共重合体が挙げられる。好適に使用できるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーとしては、第一工業製薬株式会社製の「エパン」シリーズ等が挙げられる。」
・「【0059】
再分散させる際に用いる分散媒としての樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、およびポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂やポリビニルブチラールなどの上記有機溶剤に溶解する樹脂が好ましい。再分散させる分散媒として水及び/又は有機溶剤とともに樹脂を用いる場合、再分散後に、得られたセルロースナノファイバー分散体を乾燥させることにより、樹脂中にセルロースナノファイバーが分散したセルロースナノファイバー/樹脂複合体を作製してもよい。」
・「【0064】
[実施例1~8、比較例1~3]
TEMPO酸化セルロースナノファイバーの2質量%水分散液(レオクリスタI-2SP、第一工業製薬株式会社製)に表1に記載した濃縮助剤(A)及び水を添加し、ホモミキサー(T.K.ロボミックス、プライミックス社製)を用いて8000rpm、10分間処理することで表1に記載の濃度の濃縮助剤含有TEMPO酸化セルロースナノファイバー水分散液を調製し、試料液とした。
【0065】
試料液5gを、毎分1℃の昇温速度で、それぞれの試料液の曇点又は熱ゲル化点の15℃以上の温度に加温し、続いて、同じく試料液の曇点又は熱ゲル化温度の15℃以上の温度に加温したメンブレンろ過器でろ過して、実施例1~8に係るセルロースナノファイバー濃縮物を得た。加温及びろ過温度は、表1に記載の通りである。ろ過器のフィルターはオムニポア社製メンブレンフィルター(直径47mm、材質がPTFEであるもの)を用いた。このとき、ろ過器に試料を入れた時点からろ過器のフィルターの下に液が移動しなくなるまでの時間を測定し、ろ過時間とした。」
・「【0071】
表1中の濃縮助剤(A)は以下の通りである。
・エパン740:第一工業製薬株式会社製のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー
・DKS NL-60:第一工業製薬株式会社製のポリオキシエチレン(6EO)ラウリルエーテル
・ノイゲンLP-100:第一工業製薬株式会社製のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル
・メトローズSM4000:信越化学工業株式会社製のメチルセルロース
・メトローズ65SH4000:信越化学工業株式会社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース
【0072】
【表1】
[図:0001405824000001.jpg]
【0073】
[実施例9~16]
表2に記載の濃度で濃縮助剤(A)及び調整助剤(B)を添加したTEMPO酸化セルロースナノファイバー水分散液を調製し、試料液とした。ここでは、濃縮助剤(A)にはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーである第一工業製薬株式会社製のエパン740を、TEMPO酸化セルロースナノファイバーにはTEMPO酸化セルロースナノファイバーの2質量%水分散液(レオクリスタI-2SP、第一工業製薬株式会社製)を用いた。試料液が曇点の15℃以上の温度に加温されていることを確認後、同じく試料液の曇点の15℃以上の温度に保温したメンブレンろ過器でろ過した。加温及びろ過温度は、表2に記載の通りである。このとき、ろ過器に試料を入れた時点からろ過器のフィルターの下に液が移動しなくなるまでの時間を測定し、ろ過時間とした。また、ろ過残渣の固形分を測定した。
・・・(略)・・・
【0076】
【表2】
[図:0001405824000002.jpg]
【0077】
[実施例17]
実施例17として、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの代わりに下記方法で針葉樹系パルプを用いて作製した置換度0.05のカルボキシルメチル化セルロースナノファイバーを用いること以外、実施例1と同様にして、濃縮助剤(A)にエパン740を用い濃縮試験を行ったところ、実施例1で得られた結果と同じく、良好なろ過性及び濃縮度を示す結果が得られた。
【0078】
家庭用ミキサーで粉砕した針葉樹パルプ(LBKP)20gに、イソプロピルアルコール(IPA)112gと水48gとの混合溶媒160gを加え、次に水酸化ナトリウムを8.8g加え、撹拌、混合させた後、30℃で60分間攪拌した。次いで、反応液を70℃まで昇温し、モノクロロ酢酸ナトリウムを12g(有効成分換算)添加した。1時間反応させた後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりの置換度0.05のアニオン変性セルロース繊維を得た。その後、アニオン変性セルロース繊維を固形分濃度2質量%とし、高圧ホモジナイザーを用いて圧力140MPaで5回処理することにより、アニオン性基としてカルボキシメチル基由来のカルボン酸ナトリウム塩基(-CH2COONa)を有するセルロースナノファイバーの水分散体を得た。得られたカルボキシルメチル化セルロースナノファイバーは、数平均繊維径が25nm、アニオン性基(カルボキシル基)量が0.30mmol/gであった。
【0079】
[実施例18]
実施例18として、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの代わりに下記方法で針葉樹系パルプを用いて作製したリン酸化セルロースナノファイバーを用いること以外、実施例1と同様にして、濃縮助剤(A)にエパン740を用い濃縮試験を行ったところ、実施例1で得られた結果と同じく、良好なろ過性及び濃縮度を示す結果が得られた。
【0080】
リン酸二水素ナトリウム二水和物10.14g、リン酸水素二ナトリウム1.79gを19.27gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬A」という。)を得た。このリン酸化試薬AのpHは25℃で4.73であった。
【0081】
針葉樹晒クラフトパルプを濃度4質量%になるように水を加えて、ダブルディスク型リファイナーで変則CSF(平織り80メッシュ、パルプ採取量を0.3gとした以外はJIS P8121-2(カナダ標準ろ水度法)に準ずる)が250ml、長さ平均繊維長が0.68mmになるまで叩解し、パルプスラリーを得た。得られたパルプスラリーを絶乾質量で3g分取し、イオン交換水で0.3質量%に希釈した後、抄紙法により脱水し、パルプシートを得た。得られたパルプシートの含水率は90%、厚みは200μmであった。
【0082】
このパルプシートを前記リン酸化試薬A31.2g(乾燥パルプ100質量部に対してリン元素量として80.2質量部)に浸漬させ、170℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社DKM400)で2時間半加熱処理し、セルロースにリンオキソ酸基を導入した。次いで、リンオキソ酸基を導入したセルロースに500mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、濾過脱水して、脱水シートを得た。得られた脱水シートを300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液5mlを少しずつ添加し、pHが12~13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、500mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに2回繰り返して、リンオキソ酸導入セルロースの脱水シートを得た。
【0083】
洗浄脱水後に得られたリンオキソ酸導入セルロースの脱水シートにイオン交換水を添加後、攪拌し、2.0質量%のスラリーにした。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス-2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、リン酸化セルロースナノファイバースラリーを得た。
・・・(略)・・・
【0085】
【表3】
[図:0001405824000003.jpg]
・・・(略)・・・
【0089】
[樹脂への再分散性評価]
実施例1で得られたろ過残渣0.19gを100mLビーカーに測り取り、30mLの純水を加え、超音波ホモジナイザー(ソニック社製、VC-505)で5分間攪拌し、再分散液とした。この再分散液を、固形分が10質量%になるように純水に溶解、調製したPVA溶液1gに、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの固形分がPVA固形分に対して5質量%、即ち0.005gになるように加えた。混合液を十分に攪拌した後、シャーレにキャストし、乾燥させてTEMPO酸化セルロースナノファイバー/PVA複合膜を調製し、実施例19とした。
・・・(略)・・・
【0092】
【表4】
[図:0001405824000004.jpg]
【0093】
表4に示すように、濃縮助剤を用いずに試料液を濃縮することで得た比較例1のセルロースナノファイバー濃縮物は、水またはPVAに対して再分散性が不十分であり、PVAとの複合化膜を調製した際に粗大物を生じた。一方、濃縮助剤(A)にエパン740を用いると、水またはPVAに対して再分散性が良好であり、PVAとの複合化膜を調製した際に粗大物を生じなかった。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例19、実施例17及び実施例18に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1組成物発明」、「甲1分散液発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1組成物発明>
「TEMPO酸化セルロースナノファイバーの2質量%水分散液(レオクリスタI-2SP、第一工業製薬株式会社製)に濃縮助剤(A)(エパン740)及び水を添加し、ホモミキサー(T.K.ロボミックス、プライミックス社製)を用いて8000rpm、10分間処理することで濃縮助剤含有TEMPO酸化セルロースナノファイバー水分散液を調製し、試料液とし、試料液5gを、毎分1℃の昇温速度で、試料液の曇点又は熱ゲル化点の15℃以上の温度に加温し、続いて、同じく試料液の曇点又は熱ゲル化温度の15℃以上の温度に加温したメンブレンろ過器でろ過して、セルロースナノファイバー濃縮物を得、得られたろ過残渣0.19gを100mLビーカーに測り取り、30mLの純水を加え、超音波ホモジナイザー(ソニック社製、VC-505)で5分間攪拌し、再分散液とし、この再分散液を、固形分が10質量%になるように純水に溶解、調製したPVA溶液1gに、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの固形分がPVA固形分に対して5質量%、即ち0.005gになるように加え、混合液を十分に攪拌した後、シャーレにキャストし、乾燥させて調製したTEMPO酸化セルロースナノファイバー/PVA複合膜。」
<甲1分散液発明>
「カルボキシルメチル化セルロースナノファイバー又はリン酸化セルロースナノファイバーの2質量%水分散液(レオクリスタI-2SP、第一工業製薬株式会社製)に濃縮助剤(A)(エパン740)及び水を添加し、ホモミキサー(T.K.ロボミックス、プライミックス社製)を用いて8000rpm、10分間処理することで調製した濃縮助剤含有カルボキシルメチル化セルロースナノファイバー又はリン酸化セルロースナノファイバー水分散液。」
<甲1製法発明>
「TEMPO酸化セルロースナノファイバーの2質量%水分散液(レオクリスタI-2SP、第一工業製薬株式会社製)に濃縮助剤(A)(エパン740)及び水を添加し、ホモミキサー(T.K.ロボミックス、プライミックス社製)を用いて8000rpm、10分間処理することで濃縮助剤含有TEMPO酸化セルロースナノファイバー水分散液を調製し、試料液とし、試料液5gを、毎分1℃の昇温速度で、試料液の曇点又は熱ゲル化点の15℃以上の温度に加温し、続いて、同じく試料液の曇点又は熱ゲル化温度の15℃以上の温度に加温したメンブレンろ過器でろ過して、セルロースナノファイバー濃縮物を得、得られたろ過残渣0.19gを100mLビーカーに測り取り、30mLの純水を加え、超音波ホモジナイザー(ソニック社製、VC-505)で5分間攪拌し、再分散液とし、この再分散液を、固形分が10質量%になるように純水に溶解、調製したPVA溶液1gに、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの固形分がPVA固形分に対して5質量%、即ち0.005gになるように加え、混合液を十分に攪拌した後、シャーレにキャストし、乾燥させてTEMPO酸化セルロースナノファイバー/PVA複合膜を調製するTEMPO酸化セルロースナノファイバー/PVA複合膜の製造方法。」
(2)甲2に記載された事項
甲2には、「粒子凝集測定用ラテックス粒子」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「[0009] 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明の粒子凝集測定用ラテックス粒子を作製するに至った。すなわち、本発明は、以下のものである。
・・・(略)・・・
[3]ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが、下記式(I)に示す構造を有し、重量平均分子量が1000~15000であり、かつEO(エチレンオキサイド、以下同様)含有率が5~90%である、上記[2]に記載の粒子凝集測定用ラテックス粒子。」
・「[0018] 本発明のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、下記式(I)に示す構造を有し、重量平均分子量が1000~15000であり、かつEO含有率が5~90%である。
[0019] HO(C2H4O)a-(C3H6O)b-(C2H4O)cH (I)
(式中、a,b,cは任意の整数を表し、a+b+cが17~300単位となることを限度として、a+cは2~270単位の平均重合度のオキシエチレンとなるよう決定され、かつbは15~40単位の平均重合度のオキシプロピレンとなるよう決定される。)
[0020] 本発明のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、上述のように疎水性のポリオキシプロピレンブロックポリマーが、2つの親水性のポリオキシエチレンブロックポリマーにより挟まれた構造より成り、非イオン性界面活性剤として挙動する。
[0021] 本発明において使用するポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーを含有する市販品の具体的な例としては、「エパン(登録商標)」の名称で第一工業製薬社より販売されている非イオン性界面活性剤や「プルロニック(登録商標)」の名称でアデカ社より販売されている非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
なお、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーの成分としての表記は数種類存在し、各表記間で相互に同一性、類似性を確認できるが、同一名称の市販品であっても各表記間での数値が完全に一致しない場合がある。これらは重合性高分子に特有のものであり当業者は当然に理解しうる。
[0022] 本発明において使用するポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーの、より具体的な市販品の例を以下に挙げる。
「エパン(登録商標)」の名称で第一工業製薬社より販売されている非イオン性界面活性剤としては、以下が挙げられる。
エパン410:重量平均分子量1333、EO含有率10%、
エパン710:重量平均分子量2222、EO含有率10%、
エパン485:重量平均分子量8000、EO含有率85%、
エパン785:重量平均分子量13333、EO含有率85%、
エパン750:重量平均分子量4000、EO含有率50%、
エパン420:重量平均分子量1500、EO含有率20%、
エパン450:重量平均分子量2400、EO含有率50%、
エパン610:重量平均分子量2000、EO含有率10%、
エパン680:重量平均分子量8800、EO含有率80%、
エパン740:重量平均分子量3300、EO含有率40%、
エパン720:重量平均分子量2500、EO含有率20%、
これらのうち、エパン410、エパン710、エパン485、エパン785を使用することが本発明には好ましい。」
2 取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1組成物発明を対比する。
甲1組成物発明における「TEMPO酸化セルロースナノファイバー」は本件特許発明1における「(A)セルロースナノファイバー」に相当する。
甲1組成物発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は本件特許発明1における「(B)表面処理剤」に相当する。
甲1組成物発明における「PVA」は「ポリビニルアルコール」のことであり、「熱可塑性樹脂」であり、しかも、「不飽和ポリエステル」ではないから、本件特許発明1における「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステル及びポリビニルアルコールを除く。)」と、「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」という限りにおいて一致する。
甲1組成物発明における「TEMPO酸化セルロースナノファイバー」が「水酸基」を有することは当業者に明らかであるから、甲1組成物発明は本件特許発明1における「前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し」という発明特定事項を充足する。
甲1組成物発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は、甲2によると、「疎水性のポリオキシプロピレンブロックポリマーが、2つの親水性のポリオキシエチレンブロックポリマーにより挟まれた構造より成」るものであるから、甲1組成物発明は本件特許発明1における「前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し」という発明特定事項を充足するとともに、「前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む」という発明特定事項を充足する。
甲1組成物発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は、甲2によると、「EO含有率40%」であり、「HLB値」は6.7(20×(0.4×44)/(0.4×44+0.6×58)=6.7)と計算されるから、甲1組成物発明は本件特許発明1における「前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し」という発明特定事項を充足する。
甲1組成物発明における「TEMPO酸化セルロースナノファイバー/PVA複合膜」は本件特許発明1における「セルロースナノファイバー樹脂組成物」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「(F)熱可塑性樹脂(但し、不飽和ポリエステルを除く。)」に関して、本件特許発明1においては、さらに「ポリビニルアルコールを除く」と特定されているのに対して、甲1組成物発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
甲1には、「エパン740」という特定の「濃縮助剤(A)」を用いる甲1組成物発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1組成物発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「樹脂成形体に充分な機械的特性及び熱特性を与えつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを与える樹脂組成物が提供される」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0017】)という効果は、甲1組成物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和5年9月14日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
・「甲第1号証では、ポリビニルアルコールは、水溶性樹脂の一例として挙げられており、他にポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンもポリビニルアルコールと同列に挙げられている(段落0059)。ここで、熱可塑性とは、「加熱すると軟化し、別の形に変形しうる性質。金属・ガラス・ある種の合成樹脂などに見られる。」を意味する(広辞苑第5版、発行日:平成10年11月11日)。少なくとも甲第1号証に挙げる水溶性樹脂として挙げられている樹脂はいずれも、一般に加熱によって軟化する性質を示し、熱可塑性樹脂と認める。また、甲第1号証に挙げる水溶性樹脂も、訂正発明の熱可塑性樹脂も、セルロースナノファイバーと複合体を形成するための樹脂である点で用途及び機能は共通している。
よって、甲第1号証には、甲1組成物発明におけるPVA(ポリビニルアルコール)を水溶性樹脂に置き換えた甲1’組成物発明が記載されており、訂正発明1は、この甲1’組成物発明と実質的に同一である。」(上記意見書第2及び3ページ)
(イ)特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
甲1の【0059】に「ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン」等の樹脂が「ポリビニルアルコール」と同列に挙げられているとしても、「ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン」等の樹脂を採用した場合に、「エパン740」という特定の「濃縮助剤(A)」を採用するとは限らないことから、「甲第1号証には、甲1組成物発明におけるPVA(ポリビニルアルコール)を水溶性樹脂に置き換えた甲1’組成物発明が記載されて」いるとは認められない。
したがって、上記主張は採用できない。
エ まとめ
本件特許発明1と甲1組成物発明の間に相違点1がある以上、本件特許発明1は甲1組成物発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1は甲1組成物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5それぞれと甲1組成物発明を対比する。
甲2によると、甲1組成物発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は、本件特許発明2ないし5それぞれにおける「(B)表面処理剤」に関する発明特定事項を充足する。
また、上記以外の発明特定事項に関して、本件特許発明2ないし5それぞれと甲1組成物発明の間には、本件特許発明1と甲1組成物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は少なくとも相違点1と同様の点で相違又は一応相違する。
そして、該相違点についての判断は、相違点1と同じである。
すなわち、本件特許発明2ないし5それぞれは甲1組成物発明であるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし5それぞれは甲1組成物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明6ないし13について
本件特許発明6ないし13は、請求項1ないし5それぞれを直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1ないし5それぞれの発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明1ないし5と同様に、本件特許発明6ないし9及び11ないし13は、甲1組成物発明であるとはいえないし、本件特許発明6ないし13は甲1組成物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明14について
甲1に、甲1組成物発明から形成された樹脂成形体の発明が記載されていることは当業者に明らかである。
本件特許発明14と甲1組成物発明から形成された樹脂成形体の発明を対比する。
本件特許発明14は、請求項1ないし5それぞれを直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1ないし5それぞれの発明特定事項を全て有するものであるから、両者は少なくとも相違点1と同様の点で相違又は一応相違する。
そして、該相違点についての判断は、相違点1と同じである。
すなわち、本件特許発明14は甲1組成物発明から形成された樹脂成形体の発明であるとはいえない。
また、本件特許発明14は甲1組成物発明から形成された樹脂成形体の発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明15について
甲1に、甲1組成物発明の製造方法の発明が記載されていることは当業者に明らかである。
本件特許発明15と甲1組成物発明の製造方法の発明を対比する。
本件特許発明15は、請求項1ないし5それぞれを直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1ないし5それぞれの発明特定事項を全て有するものであるから、両者は少なくとも相違点1と同様の点で相違する。
そして、該相違点についての判断は、相違点1と同じである。
すなわち、本件特許発明15は甲1組成物発明の製造方法の発明であるとはいえない。
また、本件特許発明15は甲1組成物発明の製造方法の発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明16について
ア 対比
本件特許発明16と甲1分散液発明を対比する。
甲1分散液発明における「カルボキシルメチル化セルロースナノファイバー又はリン酸化セルロースナノファイバー」は「セルロースナノファイバー」であり、しかも、「2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの」ではないから、本件特許発明16における「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたもの、カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く。)」と、「A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」という限りにおいて一致する。
甲1分散液発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は本件特許発明16における「(B)表面処理剤」に相当する。
甲1分散液発明における「カルボキシルメチル化セルロースナノファイバー又はリン酸化セルロースナノファイバー」が「水酸基」を有することは当業者に明らかであるから、甲1分散液発明は本件特許発明16における「前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し」という発明特定事項を充足する。
甲1分散液発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は、甲2によると、「疎水性のポリオキシプロピレンブロックポリマーが、2つの親水性のポリオキシエチレンブロックポリマーにより挟まれた構造より成」るものであるから、甲1分散液発明は本件特許発明16における「前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し」という発明特定事項を充足するとともに、「前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む」という発明特定事項を充足する。
甲1分散液発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は、甲2によると、「EO含有率40%」であり、「HLB値」は6.7(20×(0.4×44)/(0.4×44+0.6×58)=6.7)と計算されるから、甲1分散液発明は本件特許発明16における「前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し」という発明特定事項を充足する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)と、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、
前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、
前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、
前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、
前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点16>
「(A)セルロースナノファイバー(但し、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシフリーラジカル(TEMPO)酸化されたものを除く。)」に関して、本件特許発明16においては、さらに「カルボキシメチル化されたもの、及びリン酸化されたものを除く」と特定されているのに対して、甲1分散液発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
甲1には、「エパン740」という特定の「濃縮助剤(A)」を用いる甲1分散液発明において、相違点16に係る本件特許発明16の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1分散液発明において、相違点16に係る本件特許発明16の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明16の奏する「乾燥後に容易に水又は有機溶媒にセルロースナノファイバーを再分散可能でかつ樹脂中へのセルロースナノファイバーの優れた分散性を与えるセルロースナノファイバー含水分散液が提供される」(発明の詳細な説明の【0017】)という効果は、甲1分散液発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明16の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和5年9月14日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
・「甲第1号証では、セルロースナノファイバーは、アニオン性の基(カルボキシル基やカルボキシメチル基、リン酸基など)を導入したセルロースナノファイバーを含む概念であり(段落0014参照)、甲第1号証におけるセルロースナノファイバーは、アニオン性の基(カルボキシル基やカルボキシメチル基、リン酸基など)を導入したセルロースナノファイバーに限定されるものではなく、変性されていないものを含んだセルロースナノファイバーである。
よって、甲第1号証には、甲1分散液発明におけるカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー又はリン酸化セルロースナノファイバーを、変性されていないものを含んだセルロースナノファイバーに置き換えた甲1’分散液発明が記載されており、訂正発明16~20は、この甲1’分散液発明と実質的に同一である。」(上記意見書第4ページ)
(イ)特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
甲1の【0014】に、「セルロースナノファイバーは、アニオン性の基(カルボキシル基やカルボキシメチル基、リン酸基など)を導入したセルロースナノファイバーに限定されるものではなく、変性されていないものを含んだセルロースナノファイバーである」旨記載されているとしても、カルボキシメチル基又はリン酸基などを導入したセルロースナノファイバー以外のセルロースナノファイバーを採用した場合に、「エパン740」という特定の「濃縮助剤(A)」を採用するとは限らないことから、「甲第1号証には、甲1分散液発明におけるカルボキシルメチル化セルロースナノファイバー又はリン酸化セルロースナノファイバーを、変性されていないものを含んだセルロースナノファイバーに置き換えた甲1’分散液発明が記載されて」いるとは認められない。
したがって、上記主張は採用できない。
エ まとめ
本件特許発明16と甲1分散液発明の間に相違点16がある以上、本件特許発明16は甲1分散液発明であるとはいえない。
また、本件特許発明16は甲1分散液発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)本件特許発明17ないし20について
本件特許発明17ないし20それぞれと甲1分散液発明を対比する。
甲2によると、甲1分散液発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は、本件特許発明17ないし20における「(B)表面処理剤」に関する発明特定事項を充足する。
また、上記以外の発明特定事項に関して、本件特許発明17ないし20と甲1分散液発明の間には、本件特許発明16と甲1分散液発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は少なくとも相違点16と同様の点で相違又は一応相違する。
そして、該相違点についての判断は、相違点16と同じである。
すなわち、本件特許発明17ないし20それぞれは甲1分散液発明であるとはいえない。
また、本件特許発明17ないし20それぞれは甲1分散液発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(8)本件特許発明21及び22について
本件特許発明21及び22は、請求項16ないし20それぞれを引用して特定するものであり、本件特許発明16ないし20それぞれの発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明16ないし20と同様に、本件特許発明21は、甲1分散液発明であるとはいえないし、本件特許発明21及び22は甲1分散液発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(9)本件特許発明23について
甲1に、甲1分散液発明の乾燥物である乾燥体の発明が記載されていることは当業者に明らかである。
本件特許発明23と甲1分散液発明の乾燥物である乾燥体の発明を対比する。
本件特許発明23は、請求項16ないし22それぞれを引用して特定するものであり、本件特許発明16ないし22それぞれの発明特定事項を全て有するものであるから、両者は少なくとも相違点16と同様の点で相違する。
そして、該相違点についての判断は、相違点16と同じである。
すなわち、本件特許発明23は甲1分散液発明の乾燥物である乾燥体の発明であるとはいえない。
また、本件特許発明23は甲1分散液発明の乾燥物である乾燥体の発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(10)本件特許発明24について
ア 対比
本件特許発明24と甲1製法発明を対比する。
甲1製法発明における「PVA」は「ポリビニルアルコール」のことであり、「熱可塑性樹脂」であるから、本件特許発明24における「(F)熱可塑性樹脂(但し、ポリビニルアルコールを除く。)」と、「(F)熱可塑性樹脂」という限りにおいて一致する。
また、上記以外の発明特定事項に関して、本件特許発明24と甲1製法発明の間には、本件特許発明1と甲1組成物発明の間と同様の相当関係及び本件特許発明16と甲1分散液発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)セルロースナノファイバーと、(B)表面処理剤と、水とを含むセルロースナノファイバー含水分散液であって、前記(A)セルロースナノファイバーが水酸基を有し、前記(B)表面処理剤がHLB値0.1以上8.0未満を有し、前記(B)表面処理剤が親水性セグメントと疎水性セグメントとを有し、前記親水性セグメントがポリオキシエチレンブロックを含む、セルロースナノファイバー含水分散液を調製する工程と、
前記セルロースナノファイバー含水分散液又はその乾燥体と(F)熱可塑性樹脂とを混合して、(A)セルロースナノファイバーと(B)表面処理剤と(F)熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を調製する工程と、
を含む、樹脂組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点24>
「(F)熱可塑性樹脂」に関して、本件特許発明24においては、「(但し、ポリビニルアルコールを除く。)」と特定されているのに対して、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
甲1には、「エパン740」という特定の「濃縮助剤(A)」を用いる甲1製法発明において、相違点24に係る本件特許発明24の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1製法発明において、相違点24に係る本件特許発明24の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明24の奏する「樹脂成形体に充分な機械的特性及び熱特性を与えつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを与える樹脂組成物の製造方法が提供される」(発明の詳細な説明の【0017】)という効果は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明24の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和5年9月14日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
・「甲1製法発明についても、上記(1)で述べたように甲1組成物発明の場合と同様に、甲第1号証には、甲1製法発明におけるPVA(ポリビニルアルコール)を水溶性樹脂に置き換えた甲1’製法発明の製法が記載されており、訂正発明24~28は、この甲1’製法発明と実質的に同一である。」(上記意見書第5ページ)
(イ)特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
甲1組成物発明の場合と同様である。すなわち、「甲第1号証には、甲1製法発明におけるPVA(ポリビニルアルコール)を水溶性樹脂に置き換えた甲1’製法発明の製法が記載されて」いるとは認められない。
したがって、上記主張は採用できない。
エ まとめ
本件特許発明24と甲1製法発明の間に相違点24がある以上、本件特許発明24は甲1製法発明であるとはいえない。
また、本件特許発明24は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(11)本件特許発明25ないし28について
本件特許発明25ないし28それぞれと甲1製法発明を対比する。
甲2によると、甲1製法発明における「濃縮助剤(A)(エパン740)」は、本件特許発明25ないし28における「(B)表面処理剤」に関する発明特定事項を充足する。
また、上記以外の発明特定事項に関して、本件特許発明25ないし28と甲1製法発明の間には、本件特許発明24と甲1製法発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は少なくとも相違点24と同様の点で相違又は一応相違する。
そして、該相違点についての判断は、相違点24と同じである。
すなわち、本件特許発明25ないし28それぞれは甲1製法発明であるとはいえない。
また、本件特許発明25ないし28それぞれは甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 取消理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9、11ないし21及び23ないし28は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし28は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議の申立ての理由は、申立理由2(サポート要件)及び申立理由3(実施可能要件)である。
以下、順に検討する。
1 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
イ 発明の課題
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0014】によると、本件特許発明1ないし13の解決しようとする課題は「優れた機械的特性及び熱特性を有しつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを有する、セルロースナノファイバー樹脂組成物」を提供することであり、本件特許発明14の解決しようとする課題は「優れた機械的特性及び熱特性を有しつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを有する、樹脂成形体」を提供することであり、本件特許発明15及び24ないし28の解決しようとする課題は「優れた機械的特性及び熱特性を有しつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを有する、セルロースナノファイバー樹脂組成物の製造方法」を提供することであり、本件特許発明16ないし22の解決しようとする課題は「乾燥後にも容易に水又は有機溶媒にセルロースナノファイバーを再分散可能でかつ樹脂中へのセルロースナノファイバーの優れた分散性を与えるセルロースナノファイバー含水分散液」を提供することであり、本件特許発明23の解決しようとする課題は「樹脂に分散させたときに、樹脂組成物に充分な機械的特性及び熱特性を与えつつ、実用途において、優れた耐摩耗性と、優れた成形性及び/又は優れた塗装性とを与えるセルロースナノファイバー乾燥体」を提供することである(以下、総称して、「発明の課題」という。)。
ウ 判断
発明の詳細な説明の【0015】には「特定の表面処理剤を含むセルロースナノファイバー含水分散液を用いることで前記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。」と記載され、同【0016】には本件特許発明1ないし28に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0050】及び【0051】には「(B)表面処理剤」が「HLB値0.1以上8.0未満」であると「水又は有機溶媒へのセルロースナノファイバーの再分散性に優れる」ことが記載されている。
発明の詳細な説明の【0054】には「(B)表面処理剤」が「親水性セグメント」を有すると「セルロースの表面との親和性が良好である」こと及び「(B)表面処理剤」が「疎水性セグメント」を有すると「セルロース同士の凝集を抑制する事が出来る」ことが記載されている。
発明の詳細な説明の【0270】ないし【0372】には、「HLB値0.1以上8.0未満」であり、「親水性セグメント」と「疎水性セグメント」とを有する「(B)表面処理剤」を用いた実施例において、発明の課題を解決できることを確認する記載がある。
そうすると、当業者は、「HLB値0.1以上8.0未満」であり、「親水性セグメント」と「疎水性セグメント」とを有する「(B)表面処理剤」を用いた「セルロースナノファイバー樹脂組成物」、該「セルロースナノファイバー樹脂組成物」から形成された「樹脂成形体」、該「セルロースナノファイバー樹脂組成物」の「製造方法」、「HLB値0.1以上8.0未満」であり、「親水性セグメント」と「疎水性セグメント」とを有する「(B)表面処理剤」を用いた「セルロースナノファイバー含水分散液」及び該「セルロースナノファイバー含水分散液」の「乾燥物」である「乾燥体」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし13は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「セルロースナノファイバー樹脂組成物」をさらに限定したものであり、本件特許発明14は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「樹脂成形体」をさらに限定したものであり、本件特許発明15及び24ないし28は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明16ないし22は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「セルロースナノファイバー含水分散液」をさらに限定したものであり、本件特許発明23は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「乾燥体」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし28は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし28に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由2の(1)及び(2)における主張について検討する。
上記(2)ウのとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、「HLB値0.1以上8.0未満」であり、「親水性セグメント」と「疎水性セグメント」とを有する「(B)表面処理剤」を用いた「セルロースナノファイバー樹脂組成物」、該「セルロースナノファイバー樹脂組成物」から形成された「樹脂成形体」、該「セルロースナノファイバー樹脂組成物」の「製造方法」、「HLB値0.1以上8.0未満」であり、「親水性セグメント」と「疎水性セグメント」とを有する「(B)表面処理剤」を用いた「セルロースナノファイバー含水分散液」及び該「セルロースナノファイバー含水分散液」の「乾燥物」である「乾燥体」は、発明の課題を解決できると認識できる。
また、当業者は、「(A)セルロースナノファイバー」が、変性物、特にオキソ酸変性基含有の変性物である場合でも、「HLB値0.1以上8.0未満」であり、「親水性セグメント」と「疎水性セグメント」とを有する「(B)表面処理剤」を用いれば、程度の差はあるとしても、発明の課題を解決できると認識できるし、「(A)セルロースナノファイバー」が、変性物、特にオキソ酸変性基含有の変性物である場合に、発明の課題を解決することができないとする理論的な説明又は具体的な証拠が示されている訳ではない。
さらに、当業者は、「(B)表面処理剤」の親水性セグメントと疎水性セグメントとが、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックとの組合せと異なる種類や、カルボン酸など、水酸基以外の「(A)セルロースナノファイバー」の水酸基による水素結合に影響し得る官能基を含む場合でも、「HLB値0.1以上8.0未満」であり、「親水性セグメント」と「疎水性セグメント」とを有する「(B)表面処理剤」を用いれば、程度の差はあるとしても、発明の課題を解決できると認識できるし、「(B)表面処理剤」の親水性セグメントと疎水性セグメントとが、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックとの組合せと異なる種類や、カルボン酸など、水酸基以外の「(A)セルロースナノファイバー」の水酸基による水素結合に影響し得る官能基を含む場合に、発明の課題を解決することができないとする理論的な説明又は具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人の申立理由2の(1)及び(2)における主張はいずれも採用できない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし14及び16ないし23は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。また、本件特許発明15及び24ないし28は物を生産する発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0019】ないし【0269】には、本件特許発明1ないし28の各発明特定事項について、その技術的意義を含め具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0270】ないし【0372】には、本件特許発明1ないし28の実施例について、具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし14及び16ないし23を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえ、また、本件特許発明15及び24ないし28の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえ、本件特許発明1ないし28に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由3の(1)及び(2)の主張について検討する。
上記(2)のとおり、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし28を実施することができる程度の記載がある。
また、本件特許発明1ないし28それぞれについて、当業者が実施することができないものが含まれていることの理論的な説明又は具体的な証拠が示されている訳ではない。
したがって、特許異議申立人の申立理由3の(1)及び(2)における主張はいずれも採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし28に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし28に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700294