特許異議申立
2023-700049
ポリイミドフィルムの製造方法
- 審判番号
- 2023-700049
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-069209外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7102191
- 請求日
- 2023年01月18日
- 審決日
- 2023年04月27日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7102191号発明「ポリイミドフィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7102191号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7102191号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、
平成30年 3月30日に出願され、
令和 4年 7月 8日にその特許権の設定登録(請求項の数 6)がされ、
令和 4年 7月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許に対し、
令和 5年 1月18日に中嶋俊夫(以下、「特許異議申立人」という。)が、全ての請求項に係る特許に対して特許異議の申立てを行ったものである。
第2 本件発明
特許第7102191号の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
ポリイミド構造中にフッ素原子を有し、
厚さ10μmのフィルムの状態において、450nmの光透過率が75%以上であり、黄色度が12以下であり、
動的粘弾性測定により算出される損失正接曲線における、ガラス転移点を表すピーク温度が400℃以上であり、1%重量減少温度が500℃以上である、ポリイミドフィルムの製造方法であって、
支持基材上にポリアミド酸溶液を塗布し、最高温度370℃以上430℃以下にて1分~2時間保持する条件で加熱処理を行い、イミド化する工程を有することを特徴とする、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
加熱処理を最高温度370℃以上420℃以下にて2分~1時間保持する条件で行う、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
ポリアミド酸が、フッ素原子を有するジアミンと、フッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物及びフッ素原子を有しないテトラカルボン酸二無水物の混合物とを反応させて得られたものである、請求項1又は2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
ポリイミドフィルムは、線膨張係数が30ppm/K以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
下記式(1)又は(2)で表されるジアミン由来の構造単位が、全ジアミン由来の構造単位の70モル%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【化1】
[図:0001398300000001.jpg]
(ここで、式(1)又は式(2)におけるR1~R8は、互いに独立に水素原子、フッ素原子、炭素数1~5までのアルキル基もしくはアルコキシ基、又はフッ素置換炭化水素基であり、式(1)にあってはR1~R4のうち、また、式(2)にあってはR1~R8のうち、それぞれ少なくとも一つはフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基である。)
【請求項6】
下記の式(3)-i~式(3)-vで表されるテトラカルボン酸二無水物由来の構造単位から選ばれる構造単位が全テトラカルボン酸二無水物由来の構造単位の70モル%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
[図:0001398300000002.jpg]
第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、本件特許に対する異議申立理由として、下記1ないし4の申立理由を主張し、5の証拠方法を提出した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書【0010】には、本件特許発明の課題は、従来の技術では困難であった、透明性に優れ、極めて高い耐熱性を有し、支持基材から容易に剥離することができる、透明ポリイミド基板材料として有用な、ポリイミドフィルム及びそれを用いたフレキシブルデバイスを提供することにあると記載されている。
そして、本件特許明細書の実施例の欄には、【表1】に記載の原料を含むポリアミド酸溶液を用いて、加熱処理条件を変化させてポリイミドフィルムを製造したこと、及びそのポリイミドフィルムの特性が【表2】~【表4】に記載されている。
しかしながら、ポリアミド酸A(ポリアミド酸が、フッ素原子を有するジアミンとフッ素原子を有しないテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られたもの)を用いた比較例3は、最高硬化温度が430℃/1hrであり、請求項1の条件を満たす加熱処理条件であるにもかかわらず、黄色度(YI)が36、透過率(T450)が56%であり、本件特許発明の課題を解決できていない。
次に、ポリアミド酸D(ポリアミド酸が、フッ素原子を有するジアミンとフッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られたもの)を用いた比較例12は、最高硬化温度が400℃/2minであり、請求項1及び2の条件を満たす加熱処理条件であるにもかかわらず、ガラス転移点(Tg)が355℃であり、本件特許発明の課題を解決できていない。
さらに、ポリアミド酸B(ポリアミド酸が、フッ素原子を有するジアミンと、フッ素原子を有するテトラカルボン酸二無水物及びフッ素原子を有しないテトラカルボン酸二無水物の混合物とを反応させて得られたもの)を用いた比較例7は、最高温度が430℃/1hrであり、請求項1の条件を満たす加熱処理条件であるにもかかわらず、黄色度(YI)が19、透過率(T450)が71%であって、本件特許発明の課題を解決できていない。
そうすると、ポリアミド酸が、ポリアミド酸Dの場合であって、請求項1及び請求項2の要件を満たす条件で加熱処理しても、本件特許発明の課題を解決できない発明が含まれており、ポリアミド酸が、ポリアミド酸A、ポリアミド酸B、ポリアミド酸Dの場合であって、請求項1の要件を満たす条件で加熱処理しても、本件特許発明の課題を解決できない発明が含まれている。
よって、本件特許発明1ないし6は、本件特許発明の課題を解決できない発明が含まれるものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書の実施例の欄には、【表1】に記載の原料を含むポリアミド酸溶液を用いて、加熱処理条件を変化させてポリイミドフィルムを製造したこと、及びそのポリイミドフィルムの特性が【表2】~【表4】に記載されているが、
ポリアミド酸Aを用いた比較例3は、最高硬化温度が430℃/1hrであり、請求項1の条件を満たす加熱処理条件であるにもかかわらず、黄色度(YI)が36、透過率(T450)が56%であり、
ポリアミド酸Dを用いた比較例12は、最高硬化温度が400℃/2minであり、請求項1及び2の条件を満たす加熱処理条件であるにもかかわらず、ガラス転移点(Tg)が355℃であり、
ポリアミド酸Bを用いた比較例7は、最高温度が430℃/1hrであり、請求項1の条件を満たす加熱処理条件であるにもかかわらず、黄色度(YI)が19、透過率(T450)が71%であり、
それぞれ、請求項1及び/又は請求項2の条件を満たす加熱処理条件であるにもかかわらず、所望とする特性が得られていない。
5 証拠方法
甲第1号証:大韓民国特許出願公開第10-2018-0012196号公報
甲第2号証:特開2017-66396号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ポリアミド前駆体溶液及びその製造方法」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
なお、甲1は外国語文献のため訳文を摘記する。
「(54)[発明の名称]ポリアミド前駆体溶液及びその製造方法」
「[07]しかし、ディスプレイ分野に使用するためには、より低い熱膨張係数を有し、高い溶解度、透明度及び熱的安全性を有するフレキシブルディスプレイ用ポリマーの開発が必要である。」
「[048]一実施例によれば、前記ポリイミドフィルムが加熱後、冷却工程時の熱膨張係数(CTE)は正数である値を有するものであり、具体的に、前記ポリイミドフィルムが、100~450℃の範囲でn+1回(nは、0以上の整数)の加熱後、冷却工程を経た後の熱膨張係数(CTE)が、0~15ppm/℃を示すものであり得る。」
「[0143]また、前記ポリイミド系フィルムは、厚さが5~20μmであり、前記厚さ範囲でヘイズ(Haziness)が1以下、望ましくは、0.9以下、または0.7以下、より望ましくは、0.5以下であり、5~30μmのフィルムの厚さ範囲で380~760nm波長の光に対する透過度が80%以上であり、黄色度(YI)が約25以下、望ましくは、約20以下、より望ましくは、約16以下、あるいは15以下の値を有する無色透明ポリイミドフィルムであり得る。前記のように、優れた光透過度及び黄色度を有することによって、著しく改善された透明度及び光学特性を示すことができる。」
「[0154]<実施例2>TFMB(0.99)/PMDA(0.80)_6FDA(0.20)
[0155]窒素気流が流れる攪拌機内にN,N-ジエチルアセトアミド(DEAc)100gを満たした後、反応器の温度を25℃に保持した状態でTFMB(2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ビフェニルジアミン)12.7gを溶解させた。前記TFMB溶液にPMDA(ピロメリト酸二無水物)7g及び6FDA(4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物)3.56gを同じ温度で添加して、一定時間溶解しながら撹拌した。前記反応から製造されたポリイミド前駆体溶液の固形分濃度を10~10.5重量%になるようにDEAcを添加して、ポリイミド前駆体溶液を製造した。前記ポリイミド前駆体溶液の粘度は、6,800cPであった。」
「[0177]<実験例2>
[0178]実施例1から実施例5、比較例1及び比較例2で製造したそれぞれのポリイミド前駆体溶液をガラス基板に所定の厚さにスピンコーティングした。それぞれの厚さは、下記表1に記載した。
[0179]前記ガラス基板(100mmX100mm)にコーティングされたポリイミド前駆体溶液を26℃、50%の湿度条件で10~40分間放置した後、それぞれのディウェッティング特性を観察した。図1及び図2には、比較例2及び実施例1から製造されたポリイミド前駆体溶液のディウェッティング特性を経時的に観察した結果を示し、下記表1にそれぞれの組成物に対するディウェッティング率を記載した。
[0180]26℃、50%の湿度条件で一定時間放置されたポリイミド前駆体溶液が塗布されたガラス基板をオーブンに入れ、4℃/minの速度で加熱し、350℃で30分間熱処理して、硬化工程を進行させた。硬化工程完了後に、それぞれのフィルムに対するディウェッティング率を測定して、下記表1に記載し、図2に、実施例1及び比較例2に、前記フィルムの硬化以後のディウェッティング率の結果を示した。
[0189]表2
[図:0001398300000003.jpg]
」
「[0211]実施例2と同じ条件で酸二無水物成分及び硬化条件を、下記表5に記載されたようにしてポリイミドフィルムを製造した。特に、比較例3の場合には、酸二無水物成分として3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を共に使用した。
[0212]表5
[図:0001398300000004.jpg]
」
イ.甲1に記載された発明について
上記アの記載のうち、表5の実施例2を中心にまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「ガラス基板上に、DEAc(N,N-ジメチルアセトアミド)100g、TFMB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ビスフェニルアミン12.7g、PMDA(ピロメリト酸二無水物)7g及び6FDA(4,4’-(ヘキサフルオロイソイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物)3.56gからなるポリイミド前駆体溶液(固形分含量(%)10.3、粘度6,800cp)を10.3μmの厚さにスピンコーティングし、当該ガラス基板にコーティングされたポリイミド前駆体溶液を26℃、50%の湿度条件で10~40分間放置した後、オーブンに入れ、4℃/minの速度で加熱し、400℃で50分間熱処理して、硬化工程を進行させ、硬化工程完了させたポリイミドフィルムであって、ヘイズが0.3、黄色度(YI)が5.5、フィルム厚さが9.8μmのポリイミドフィルムの製造方法。」
(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「ポリイミド前駆体溶液及びその製造方法並びにポリイミドフィルムの製造方法及び積層体の製造方法」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
「【0045】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明は、こらら実施例の内容に限定されるものではない。
【0046】
先ず、ポリイミド(前駆体)を合成する際のモノマーや溶媒の略語、及び、実施例中の各種物性の測定方法等を以下に示す。
【0047】
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル
DAPE:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
m-TB:2,2’-ジメチルベンジジン
HF-BAPP:2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
6FDA:2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
CBDA:シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物
GBL:γ-ブチロラクトン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
NMP:N-メチル-2-ピロリドン」
「【0053】
[実施例1]
(ポリイミド前駆体溶液A)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコにTFMB8.4914gを溶媒70gのγ―ブチロラクトンに溶解させた。次いで、この溶液に6FDA1.4680gを加え撹拌し、続けてPMDA5.0406gを加え、固形分が15wt%になるように15gのγ―ブチロラクトンを加えて、室温で5時間攪拌して重合反応を行った。反応後、粘稠な透明のポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液の特性を表1に示す。
【0054】
上記で得られたポリイミド前駆体溶液Aを厚み0.7mm、表面粗さRa=1.4nmのガラス基板上にアプリケーターを用いて熱処理後の膜厚が10~15μmとなるように塗布し、30分をかけて90℃から360℃まで昇温させ、ポリイミドフィルムAを得た。
得られたポリイミドフィルムAについて、各種評価を行った結果を表3に示す。
【0055】
[実施例2~7,比較例1~7]
ポリイミド原料のジアミン、テトラカルボン酸二無水物の原料並びに重合条件(溶媒、重合時間)を表1に示すものに変更した以外は実施例1と同様に重合反応を行い、ポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液の特性を表1及び表2に示す。
【0056】
【表1】
[図:0001398300000005.jpg]
」
「【0058】
なお、各実施例で得られたポリイミド前駆体溶液の外観を目視判定したところ、実施例1~7、比較例1、比較例5及び6で得られたポリイミド前駆体溶液の外観は無色から淡黄色透明であったが、比較例2で得られたポリイミド前駆体溶液の外観については、透明性は示したものの黄色に着色していた。
また、フッ素を含有しない酸成分及びジアミンを使用した比較例3及び比較例4においては、使用した溶媒ではモノマーが溶解しきれず重合が十分進行しなかった。また、比較例7においては、使用した溶媒では粘度、分子量が上がらず重合が十分進行しなかった。
【0059】
(ポリイミドフィルムの評価)
各ポリイミド前駆体溶液を用いて実施例1と同様にポリイミドフィルムを製膜し、得られたポリイミドフィルムについて、各種評価を行った結果を表3及び表4に示す(実施例F1~F7及び比較例F1~F2及びF5~F6)。なお、比較例3、4及び7に対応するポリイミド前駆体J、K及びLからはポリイミドフィルムを成膜することはできなかった。
また、実施例F1のポリイミドフィルムについて1%熱重量減少温度(Td1%)を確認したところ、519℃であった。
1%熱重量減少温度(Td1%)は、窒素雰囲気下で5~10mgの重さのポリイミドフィルムを、SEIKO製の熱重量分析(TG)装置TG/DTA6200にて一定の昇温速度(10℃/min)で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、200℃の重量を基準(0%)として重量減少率が1%の時の温度を1%熱重量減少温度(Td1%)とした。
比較例F1のポリイミドフィルムは、製膜することは可能であったものの、ポリイミド前駆体溶液Dの樹脂粘度が実施例の前駆体溶液に比べ極めて高く、加工性が悪かった。
【0060】
【表3】
[図:0001398300000006.jpg]
」
イ.甲2に記載された発明について
上記アの記載のうち、表3の実施例F1を中心にまとめると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコにTFMB8.4914gを溶媒70gのγ―ブチロラクトンに溶解させ、次いで、この溶液に6FDA1.4680gを加え撹拌し、続けてPMDA5.0406gを加え、固形分が15wt%になるように15gのγ―ブチロラクトンを加えて、室温で5時間攪拌して重合反応を行って、分子量(Mw)147,400、樹脂粘度46440cp、黄色度(YI)4の粘稠な透明のポリイミド前駆体溶液Aを得、得られたポリイミド前駆体溶液Aを厚み0.7mm、表面粗さRa=1.4nmのガラス基板上にアプリケーターを用いて熱処理後の膜厚が10~15μmとなるように塗布し、30分をかけて90℃から360℃まで昇温させ、膜厚13.7μm、黄色度(YI)8、分光透過率(%、@450nm)83%、CTE(ppm/K)9、1%熱重量減少温度(Td1)が519℃のポリイミドフィルムAを得るポリイミドフィルムの製造方法。」
2 申立理由1(甲1に基づく新規性、進歩性)について
(1)本件特許発明1についての対比・検討
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「DEAc(N,N-ジメチルアセトアミド)100g、TFMB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ビスフェニルアミン12.7g、PMDA(ピロメリト酸二無水物)7g及び6FDA(4,4’-(ヘキサフルオロイソイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物)3.56gからなるポリイミド前駆体溶液(固形分含量(%)10.3、粘度6,800cp)を」「26℃、50%の湿度条件で10~40分間放置した後、オーブンに入れ、4℃/minの速度で加熱し、400℃で50分間熱処理して、硬化工程を進行させ、硬化工程完了させたポリイミドフィルム」は、本件特許発明1における「ポリイミド構造中有にフッ素原子を有」する「ポリイミドフィルム」に相当する。
甲1発明における「黄色度(YI)が5.5」は、本件特許発明1における「黄色度が12以下」に相当する。
甲1発明における「ポリイミド前駆体溶液(固形分含量10.3wt%、粘度6、800cp)を10.3μmの厚さにスピンコーティングし、当該ガラス基板にスピンコーティングされたポリイミド前駆体溶液を26℃、50%の湿度条件で10~40分間放置した後、オーブンに入れ、4℃/minの速度で加熱し、400℃で50分間熱処理して、硬化工程を進行させ、硬化工程完了させ」る工程は、本件特許発明1における「支持基材上にポリアミド酸溶液を塗布し、最高温度370℃以上430℃以下にて1分~2時間保持する条件で加熱処理を行い、イミド化する工程」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ポリイミド構造中にフッ素原子を有し、黄色度が12以下であり、支持基材上にポリアミド酸溶液を塗布し、最高温度370℃以上430℃以下にて1分~2時間保持する条件で加熱処理を行い、イミド化する工程を有するポリイミドフィルムの製造方法。」
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、厚さ10μmのフィルムの状態において、450nmの光透過率が75%以上であるとのとの特定を有するのに対して、甲1発明においてはそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては、動的粘弾性測定により算出される損失正接曲線における、ガラス転移点を表すピーク温度が400℃以上であるのに対して、甲1発明においてはそのような特定がない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1においては、1%重量減少温度が500℃以上であるのに対して、甲1発明においてはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
ポリイミドフィルムの、動的粘弾性測定により算出される損失正接曲線におけるガラス転移点を表すピーク温度(以下、「ガラス転移点」という。)は、ポリイミド化工程での加熱処理条件のみならず、ポリアミド酸を構成するモノマーの種類、ポリアミド酸の分子量分布等により変動することが知られているところ、甲1発明のポリイミドフィルムのガラス転移点が400℃以上であると判断できる根拠がない。
したがって、相違点1-2は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1は甲1発明ではない。
また、甲1にはポリイミドフィルムのガラス転移点について、何ら記載も示唆もされておらず、甲1発明において、ポリイミドフィルムのガラス転移点を400℃以上とする動機がない。
したがって、甲1発明において、相違点1-2に係るポリイミドフィルムのガラス転移点を400℃以上とすることは、当業者が適宜なし得たものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし6についての対比・検討
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)についてのまとめ
上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし6は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、それらの発明に係る特許は特許法第113条第2項に該当せず、申立理由1によって取り消すことはできない。
3 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1についての対比・検討
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「TFMB」及び「6FDA」「PMDA」を重合した「ポリイミド前駆体溶液A」を「30分をかけて90℃から360℃まで昇温させ」た「ポリイミド」は、本件特許発明1における「ポリイミド構造中にフッ素原子を有し」ている「ポリイミドフィルム」に相当する。
甲2発明における「分光透過率(%、@450nm)83%」は、本件特許発明1における「厚さ10μmのフィルムの状態において、450nmの光透過率が75%以上」に相当する。
甲2発明における「黄色度(YI)8」は、本件特許発明1における「黄色度が12以下」に相当する。
甲2発明における「1%熱重量減少温度(Td1)が519℃」は、本件特許発明1における「1%重量減少温度が500℃以上」に相当する。
甲2発明における「ポリイミド前駆体溶液Aを」「ガラス基板上にアプリケーターを用いて」「塗布し、30分をかけて90℃から360℃まで昇温させ」「ポリイミドフィルムAを得る」工程は、本件特許発明1における「支持基材上にポリアミド酸溶液を塗布し」「1分~2時間保持する条件で加熱処理を行い、イミド化する工程」に相当する。
本件特許発明1と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ポリイミド構造中にフッ素原子を有し、厚さ10μmのフィルムの状態において、450nmの光透過率が75%以上であり、黄色度が12以下であり、1%重量減少温度が500℃以上である、ポリイミドフィルムの製造方法であって、支持基材上にポリアミド酸溶液を塗布し、1分~2時間保持する条件で加熱処理を行い、イミド化する工程を有するポリイミドフィルムの製造方法。」
<相違点2-1>
本件特許発明1においては、ポリイミドフィルムのガラス転移点が「400℃以上」であるとの特定を有するのに対して、甲2発明においてはそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1においては、イミド化する工程が「最高温度370℃以上430℃以下」との特定を有するのに対して、甲2発明においてはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
甲2【0035】には、イミド化する工程の温度について「イミド化のための熱処理は130~360℃程度の温度で0.5~60分程度行うことが適当である。この熱処理における昇温時の最高加熱温度(最高到達温度)より20℃低い温度から最高到達温度までの高温加熱温度域での加熱時間(以下、高温保持時間という。)を60分以内とすることが好ましい。」と記載されており、イミド化のための熱処理としては~360℃程度の温度にすることが好ましいとされている。したがって、甲2発明において、イミド化する工程における最高温度を370℃以上430℃以下とする動機がない。
そうすると、甲2発明において、相違点2-2に係るイミド化する工程における最高温度を370℃以上430℃以下とすることは、当業者が適宜なし得たものであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし6についての対比・検討
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2(甲2に基づく進歩性)についてのまとめ
上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、それらの発明に係る特許は特許法第113条第2項に該当せず、申立理由2によって取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0010】によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「従来の技術では困難であった、透明性に優れ、極めて高い耐熱性を有し、支持基材から容易に剥離することができる、透明ポリイミド基材材料として有用な、ポリイミドフィルム及びそれを用いたフレキシブルデバイスを提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】ないし【0016】には、本件特許発明1ないし6に対応する記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0023】には、イミド化の工程における加熱処理の条件が、得られるポリイミドフィルムが、厚さ10μmのフィルムに換算して、450nmの光透過率が75%以上であり、黄色度が12以下であり、動的粘弾性測定により算出される損失正接曲線(以下、「tanδ曲線」ともいう。)における、ガラス転移点(Tg)を表すピーク温度が400℃であり、1%重量減少温度が500℃以上となる範囲において行われることが記載され、最高温度が330~430℃であると、ポリイミドがフッ素ポリイミドである場合に、優れた透明性を維持したまま、極めて耐熱性を有するポリイミドを得ることができることが記載されている。また、最高温度が330℃未満の場合、tanδ曲線におけるTgを表すピーク温度や、1%重量減少温度が低くなる傾向があり、脆くなることもあること、最高温度が430℃を超えると、可視光領域の透過率が低下し、黄色度(YI)が上昇する傾向にあることが記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0027】ないし【0032】には、厚さ10μmのフィルムに換算して450nmの光透過率が75%以上である構成、YIが12以下である構成、tanδ曲線におけるガラス転移点(Tg)を表すピーク温度が400℃以上である構成、1%重量減少温度が500℃以上である構成についての技術的意義が記載されており、本件特許の発明の詳細な説明【0050】ないし【0069】においては具体的に本件特許発明1ないし6の製造方法を満たすポリイミドフィルムの製造方法にて製造されたポリイミドフィルムが記載され、有機EL素子の基板及び投影型容量結合方式のタッチパネルに適用されたことも記載されている。
そうすると、当業者は、ポリイミド構造中にフッ素原子を有しているポリイミドフィルムであって、厚さ10μmのフィルムの状態において450nmの光透過率が75%以上であり、黄色度が12以下であり、動的粘弾性測定により算出される損失正接曲線におけるガラス転移点を表すピーク温度が400℃以上であり、1%重量減少温度が500℃以上であるものの製造方法として、支持基材上にポリアミド酸溶液を塗布し、最高温度370℃以上430℃以下にて1分~2時間保持する条件で加熱処理を行い、イミド化する工程を有することにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1は、上記ポリイミドフィルムの製造方法であり、本件特許発明2ないし6は、上記ポリイミドフィルムの製造方法をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし6は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3の主張について検討する。
上記(2)において検討したとおり、本件特許の発明の課題を解決するためには、請求項1に記載された他のフィルム特性に関する数値条件を満たすことが必要であり、イミド化する工程の最高温度のみによって本件特許の発明の課題を解決しているものではない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0062】【表2】の比較例3、【0063】【表3】の比較例7は、イミド化する工程の最高温度が430℃/1hrであって、最高温度の条件に関しては請求項1の条件を満たすが、黄色度(YI)及び光透過率(T450)がそれぞれ請求項1に記載された条件を満たしていないため発明の課題を解決しないものである。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0064】【表4】の比較例12は、イミド化する工程の最高温度が400℃/2minであり、最高温度の条件に関しては請求項1及び2の条件を満たすが、ガラス転移点(Tg)が請求項1に記載された条件を満たしていないため発明の課題を解決しないものである。
これらの比較例の結果は、いずれも本件特許の発明の詳細な説明の記載と矛盾するものではない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(4)申立理由3(サポート要件)についてのまとめ
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとはいえないので、特許法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし6は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記4(2)のとおりであり、本件特許発明1ないし6の各発明特定事項について、その実現方法を含め具体的に記載されており、実施例についても具体的に記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が、本件特許の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし6の物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし6に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人が上記第3 4で主張している、本件特許の発明の詳細な説明の比較例3、比較例7、比較例12は、請求項1および/または請求項2に記載される最高温度の条件を満たしてはいるが、請求項1に記載されるフィルム特性(黄色度、光透過率、ガラス転移点)を満たさないものを比較例として記載しているにすぎない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足することは、上記(2)のとおりであるところ、これら各比較例において、所望とする特性が得られていないことは、本件特許発明1ないし6が実施できないことと、何ら関係がない。
よって、特許異議申立人の上記第3 4の主張は採用し得ない。
(4)申立理由4(実施可能要件)についてのむすび
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700049