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特許異議申立

2022-701115

ポリイミドフィルム

審判番号
2022-701115
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-521278
登録番号
7072140
請求日
2022年11月15日
審決日
2026年04月15日
公報発行日
2026年08月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】UBE株式会社
  • 【権利者代理人】伊藤 克博
  • 【異議申立人】古川 興輝
  • 【異議申立人】猪狩 充
審判長/審判官
  • 審判長 植前 充司
  • 審判官 松田 成正
  • 審判官 加藤 友也
分類
P1651.121-YAA(C08J) / P1651.113-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7072140号発明「ポリイミドフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7072140号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 特許第7072140号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7072140号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)5月30日(優先権主張 平成29年5月31日)を国際出願日とする出願(特願2019-521278号)であって、令和4年5月12日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、同年11月15日に特許異議申立人 古川 興輝(以下、「特許異議申立人A」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、同年同月17日に特許異議申立人 猪狩 充(以下、「特許異議申立人B」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、令和5年2月27日付けで取消理由が通知され、同年4月28日に特許権者 UBE株式会社から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年6月1日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月4日に特許異議申立人Aから意見書が提出され、特許異議申立人Bからは何ら応答がなかったものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和5年4月28日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「波長308nmの光透過率が0.1%以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。」とあるのを、 「波長308nmの光透過率が0.1%以下であり、 前記ポリイミドは、 (a)テトラデカヒドロ-1H,3H-4,12:5,11:6,10-トリメタノアントラ[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,7,9-テトラオン、デカヒドロ-1H,3H-4,10-エタノ-5,9-メタノナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、およびトリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸の二無水物またはその誘導体からなる群より選ばれる1種または複数種を含むテトラカルボン酸成分;および (b)p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、および[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)からなる群より選ばれる1種または複数種を含むジアミン成分を反応させて得られるポリイミドであることを特徴とするポリイミドフィルム。」と訂正する。併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、430℃で1時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。」とあるのを、 「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、430℃で1時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、前記ジアミン成分がp-フェニレンジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、および4,4’-ジアミノベンズアニリド、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレートからなる群より選ばれる1種または複数種を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。」と訂正する。併せて、請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3ないし7も同様に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、ポリイミドを与えるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分を特定し、ポリイミドを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2についての訂正について 訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項2による請求項2についての訂正は、ポリイミドを与えるジアミン成分をさらに特定して、ポリイミドを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1及び2による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項3ないし7についての訂正について 訂正事項1及び2による請求項3ないし7についての訂正は、請求項1及び2についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1及び2による請求項3ないし7についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし7についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1及び2による請求項1ないし7についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし7は一群の請求項に該当するものである。 そして、訂正事項1及び2による請求項1ないし7についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 また、特許異議申立人A及びBからの特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし7に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ポリイミドを含むフィルムであって、 フィルム厚みが10μmで測定した場合の、 400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、 YI(黄色度)が10以下であり、且つ、 100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であり、且つ 波長308nmの光透過率が0.1%以下であり、 前記ポリイミドは、 (a)テトラデカヒドロ-1H,3H-4,12:5,11:6,10-トリメタノアントラ[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,7,9-テトラオン、デカヒドロ-1H,3H-4,10-エタノ-5,9-メタノナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、およびトリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸の二無水物またはその誘導体からなる群より選ばれる1種または複数種を含むテトラカルボン酸成分;および (b)p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、および[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)からなる群より選ばれる1種または複数種を含むジアミン成分 を反応させて得られるポリイミドであることを特徴とするポリイミドフィルム。 【請求項2】 フィルム厚みが10μmで測定した場合の、430℃で1時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、前記ジアミン成分がp-フェニレンジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、および4,4’-ジアミノベンズアニリド、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレートからなる群より選ばれる1種または複数種を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。 【請求項3】 フィルム厚みが10μmで測定した場合の、100~380℃の間の線熱膨張係数が65ppm/K以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。 【請求項4】 フィルム厚みが10μmで測定した場合の、ヘイズが2%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。 【請求項5】 フィルム厚みが10μmで測定した場合の、厚み方向位相差(Rth)が1000nm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。 【請求項6】 請求項1~5のいずれかに記載のポリイミドフィルムがガラス基材上に形成されていることを特徴とする積層体。 【請求項7】 請求項1~5のいずれかに記載のポリイミドフィルムを備えることを特徴とするディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板。」 第4 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要等 1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要等 令和4年11月15日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 特許異議申立人Aの主張する特許異議申立ての理由は、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、本件特許の分割出願に係る特許(下記の甲第1A号証)に対する取消理由通知書(下記の甲第2A号証)に記載された理由により取り消すべきものであるというものであるところ、甲第2A号証に記載された理由はおおむね次のとおりである。 (1)申立理由A-1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし7についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 実施例において具体的に効果として、請求項1の全ての特定事項を満たすことが確認されているのは、酸二無水物としてTNDA、EMDAxxを、ジアミンとしてDABAN及びBAPBを用いた、極めて限られた範囲のものにすぎない。さらに、比較例3は、s-BPDA(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)と、PPD(p-フェニレンジアミン)を用いた例であるが、「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸」の酸二無水物は、【0044】で、本件特許の請求項1~7に係る発明のポリイミドフィルムを構成するポリイミドを得るために好適に使用できるテトラカルボン酸成分としてあげられているものであり、p-フェニレンジアミンは、【0045】で、本件特許発明1ないし7のポリイミドフィルムを構成するポリイミドを得るために使用できるジアミン成分としてあげられているものであるにも関わらず、YI値が大きく、本件特許の請求項1~7に係る発明の特定事項を満たさないものとされている。 以上の記載から見るに、【0012】、【0015】、【0017】、【0023】や他の記載はあるものの、発明の詳細な説明全体を通じてみても、実施例1、2以外の場合において、どのようなものをどのように組み合わせて実施すれば、課題を解決することができる、つまり、本件特許発明1ないし7の特定事項を満たすものを得ることができるのか、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されているとは認めることができない。 (2)申立理由A-2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし7についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 上記(1)のとおり、実施例1、2で具体的にあげられている条件を満たすもの以外の部分については、発明の詳細な説明には、当業者が課題を解決できると認識できる程度に記載されているものとはいえないから、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 (3)申立理由A-3(進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2016-74915号公報、国際公開第2016/084777号、特開2016-102147号公報又は再公表WO2014/208704号公報に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 なお、特開2016-74915号公報は下記の甲第1B号証であり、国際公開第2016/084777号は下記の甲第15B号証と同内容の文献(甲第15B号証は国際公開第2016/084777号の優先基礎出願の公開公報)であり、特開2016-102147号公報は同じく下記の甲第15B号証であり、再公表WO2014/208704号公報は同じく下記の甲第16B号証である。 (4)証拠方法 甲第1A号証:特許第6443579号公報 甲第2A号証:本件特許の分割出願である甲第1A号証の特許に対する特許異議申立事件である異議2019-700502号における令和1年9月11日付けの取消理由通知書 甲第3A号証:異議2019-700502号の異議決定公報 甲第4A号証:本件特許に対応するCN登録公報(CN109996839B) 証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲1A」のようにいう。 2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要等 令和4年11月17日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 (1)申立理由B-1(甲第1Bないし9B号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1B号証に記載された発明及び甲第2Bないし9B号証に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由B-2(甲第1Bないし14B号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1B号証に記載された発明及び甲第2Bないし14B号証に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由B-3(甲第15B号証及び甲第2Bないし9B号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第15B号証に記載された発明及び甲第2Bないし9B号証に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由B-4(甲第15B号証及び甲第2Bないし14B号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第15B号証に記載された発明及び甲第2Bないし14B号証に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)申立理由B-5(甲第16B号証に基づく新規性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第16B号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (6)申立理由B-6(甲第16B号証及び甲第2Bないし14B号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第16B号証に記載された発明及び甲第2Bないし14B号証に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (7)申立理由B-7(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明は、透明性、耐熱性に優れ、線膨張係数も低いポリイミドフィルムを提供することを目的とするものである(【0006】)。そして、本件特許発明1においては、透明性をYI(黄色度)の特定の範囲で具体的に特定し、耐熱性を重量保持率の特定の範囲で具体的に特定し、線膨張係数を特定の範囲で具体的に特定し、そして製造プロセスの観点から波長308nmの光透過率を特定の範囲で具体的に特定しているが、ポリイミドについては、それを構成する成分等は何ら特定していない。 当業者は、本件特許明細書の【0044】ないし【0052】の記載を参酌したとしても、実施例1及び2に具体的に記載されたポリイミドフィルム以外に、どのようにして本件特許発明1のポリイミドフィルムを製造することができるのか理解できない。 そうすると、本件特許発明のポリイミドを含むフィルムにおいて、それを構成する成分については、「ポリイミド」であること以外何ら特定していない本件特許発明は、明細書の発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い特許請求の範囲を記載していることになるから,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 (8)申立理由B-8(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし7についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 本件特許発明は、透明性、耐熱性に優れ、線膨張係数も低いポリイミドフィルムを提供することを目的とするものである(【0006】)。 そして、本件特許発明1においては、透明性をYI(黄色度)の特定の範囲で具体的に特定し、耐熱性を重量保持率の特定の範囲で具体的に特定し、線膨張係数を特定の範囲で具体的に特定し、そして製造プロセスの観点から波長3058nmの光透過率を特定の範囲で具体的に特定しているが、ポリイミドについては、それを構成する成分等は何ら特定していない。 当業者は、本件特許明細書の【0044】ないし【0052】の記載を参酌したとしても、実施例1及び2に具体的に記載されたポリイミドフィルム以外に、どのようにして特許発明1のポリイミドフィルムを製造することができるのか理解できない。 そうだとすると、ポリイミドのモノマー成分や組成範囲等を含め、その構成が一切特定されていない本件特許発明を実施するためには、本件特許明細書及び出願当時の技術常識を合わせ考慮しても、当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し、本件特許発明を得ることができるものということはできない。 以上のとおり、本件特許明細書における記載は、本件特許発明のポリイミドを得るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであって、実施可能要件を満たすものということはできない。 (9)証拠方法 甲第1B号証:特開2016-74915号公報 甲第2B号証:マイクロエレクトロニクスにおける大面積レーザリフトオフ加工、ラルフ・デルムダール、LEDs Magazine Japan 2013年6月号、p.30-32 甲第3B号証:特開2011-227369号公報 甲第4B号証:特開2009-21322号公報 甲第5B号証:脂環式ポリイミドの合成と光学特性、松本利彦、高分子論文集、Vol.61,No.1,p.39-48(Jan.,2004) 甲第6B号証:透明ポリイミドの開発とその応用展開、福川健一 他、ポリイミド・芳香族系高分子 最近の進歩 2012 甲第7B号証:無色透明な耐熱樹脂基板-脂環式ポリイミド、松本利彦、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.16,No.5,p.370-373(2013) 甲第8B号証:trans-1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸2無水物からなる耐熱透明ポリイミドの高機能化、宇野高明、岡田敬 他、JSR TECHNICAL REVIEW No.122/2015,p.13-18 甲第9B号証:新訂 最新ポリイミド~基礎と応用~、日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編2010、第1編 基礎編 p102-103及びp174-177 甲第10B号証:低ウェハ応力i線対応感光性ポリイミド 佐々木顕浩、宮坂昌宏、廣昌彦、日立化成テクニカルレポート No.38 (2002-1)p.27-30 甲第11B号証:特開2015-214597号公報 甲第12B号証:FPC用ポリイミドフィルム 永野広作、繊維学会誌 Vol.50,No.3,p91-95(1994) 甲第13B号証:再公表WO2015/080158号公報 甲第14B号証:11p-D4-17 塗布・剥離形成基板を用いたフレキシブル液晶デバイスの作製、生内友輔 他 第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集(2015 東海大学湘南キャンパス) 甲第15B号証:特開2016-102147号公報 甲第16B号証:再公表WO2014/208704号公報 証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。以下、順に「甲1B」のようにいう。 第5 取消理由の概要 令和5年2月27日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 1 取消理由1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし7についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、該取消理由1は申立理由A-1及びB-8とおおむね同旨である。 実施例において具体的な効果として、請求項1の全ての特定事項を満たすことが確認されているのは、酸二無水物としてTNDA、EMDAxxを、ジアミンとしてDABAN及びBAPBを用いた、極めて限られた範囲のものにすぎない。 また、比較例1はPMDA-HS(1R,2S,4S,5R-シクロヘキサンテトラカルボンサン二無水物)と4,4’-ODA(4,4’-オキシジアニリン)を用いた例、比較例3は、s-BPDA(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)と、PPD(p-フェニレンジアミン)を用いた例であるが、「シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸」の酸二無水物や、「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸」の酸二無水物は、【0044】で、本件特許発明1ないし7のポリイミドフィルムを構成するポリイミドを得るために好適に使用できるテトラカルボン酸成分としてあげられているものであり、4,4’-オキシジアニリンやp-フェニレンジアミンは、【0045】で、本件特許発明1ないし7のポリイミドフィルムを構成するポリイミドを得るために使用できるジアミン成分としてあげられているものであるにも関わらず、比較例1では308nm透過率や線熱膨張係数が大きく、比較例3ではYI値が大きいことにより、本件特許発明1ないし7の特定事項を満たさないものとされている。 以上の記載から見るに、【0012】、【0015】、【0017】、【0023】や【0044】、【0045】他の記載はあるものの、発明の詳細な説明全体を通じてみても、実施例1、2以外の場合において、例えば、【0044】に列記されているテトラカルボン酸成分と【0045】に記載されているジアミン成分をどのように組み合わせて実施すれば、本件特許発明1ないし7の特定事項を満たすものを得ることができるのか、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されているとは認めることができない。 2 取消理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし7についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、該取消理由2は申立理由A-2及びB-7とおおむね同旨である。 発明の詳細な説明の記載から見るに、【0012】、【0015】、【0017】、【0023】や【0044】、【0045】他の記載はあるものの、発明の詳細な説明全体を通じてみても、実施例1、2以外の場合において、どのようなものが課題を達成するものであるのか、一般的な記載も含め発明の詳細な説明に記載されていない(上記1で検討したように、好ましいとされるテトラカルボン酸成分とジアミン成分を組み合わせても、課題を達成しないもの(比較例)が示されている。また、発明の詳細な説明に、各成分の組み合わせ指針が示されているわけでもない。)。 してみると、本件特許発明1ないし7のうち、実施例1、2で具体的にあげられている条件を満たすもの以外の部分については、発明の詳細な説明には、当業者が課題を解決できると認識できる程度に記載されているものとはいえないから、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 3 取消理由3(甲16B、甲1B又は甲15Bに基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲16Bに記載された発明、甲1Bに記載された発明又は甲15Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 なお、該取消理由3のうち、甲16Bに基づく進歩性(以下、「取消理由3(甲16B)」という。)は申立理由B-6とおおむね同旨であり、甲1Bに基づく進歩性(以下、「取消理由3(甲1B)」という。)は申立理由B-1及びB-2とおおむね同旨であり、甲15Bに基づく進歩性(以下、「取消理由3(甲15B)」という。)は申立理由B-3及びB-4とおおむね同旨である。 また、該取消理由3は申立理由A-3とおおむね同旨でもある。 第6 取消理由についての当審の判断 1 取消理由1(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第3のとおり、本件特許発明1ないし7は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、本件特許発明1ないし7の各発明特定事項について具体的に記載されており、本件特許発明1ないし7の製造方法及び用途についても具体的に記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0071】ないし【0115】には、本件特許発明1ないし5の各発明特定事項の条件を満たす実施例1及び2についても具体的に記載されている。 ところで、上記実施例1及び2で用いられた「テトラカルボン酸成分」(TNDA及びEMDAxx)及び「ジアミン成分」(DABAN)と同じ又は類似した化学構造を持つ「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」を反応させて得られる「ポリイミドフィルム」が、上記実施例1及び2の「ポリイミドフィルム」と同じ又は類似の特性を有することは、当業者であれば理解できる。 そして、本件特許発明1において特定される「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」は、上記実施例1及び2で用いられた「テトラカルボン酸成分」(TNDA及びEMDAxx)及び「ジアミン成分」(DABAN)と同じものであるか、類似した化学構造を持つ「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」であるから、本件特許発明1において特定される「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」を反応させて得られる「ポリイミドフィルム」が、上記実施例1及び2の「ポリイミドフィルム」と同じ又はおおむね類似の特性を有すること、すなわち「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、 400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、 YI(黄色度)が10以下であり、且つ、 100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であり、且つ 波長308nmの光透過率が0.1%以下であり」という特性を有するであろうことは当業者であれば理解できる。 したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし7を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1ないし7に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人A及びBの主張について 特許異議申立人Aの特許異議申立書Aにおける主張(申立理由A-1)及び令和5年7月4日に特許異議申立人Aから提出された意見書における主張(上記意見書第1ないし9ページ)並びに特許異議申立人Bの特許異議申立書Bにおける主張(申立理由B-8)はいずれも、要するに、発明の詳細な説明に実施例1及び2として記載されたポリイミドフィルム以外は実施可能でないというものであるが、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし7を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえるし、上記実施例1及び2として記載されたポリイミドフィルム以外は当業者といえども実施できないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。 したがって、特許異議申立人Aの特許異議申立書Aにおける主張及び令和5年7月4日に特許異議申立人Aから提出された意見書における主張並びに特許異議申立人Bの特許異議申立書Bにおける主張はいずれも採用できない。 (4)取消理由1についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。 2 取消理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 ア 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)の記載は上記第3のとおりである。 イ 発明の課題 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題は「透明性、耐熱性に優れ、線熱膨張係数も低いポリイミドフィルム」を「提供すること」であり、本件特許発明6の解決しようとする課題は該「ポリイミドフィルム」が「ガラス基板上の形成されている積層体」を「提供すること」であり、本件特許発明7の解決しようとする課題は該「ポリイミドフィルム」を備える「ディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板」を「提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。 ウ 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明の【0007】には「本発明は、以下の各項に関する。 1. ポリイミドを含むフィルムであって、 フィルム厚みが10μmで測定した場合の、 400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、 YI(黄色度)が10以下であり、且つ、 100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。 2. フィルム厚みが10μmで測定した場合の、430℃で1時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であることを特徴とする前記項1に記載のポリイミドフィルム。 3. フィルム厚みが10μmで測定した場合の、100~380℃の間の線熱膨張係数が65ppm/K以下であることを特徴とする前記項1または2に記載のポリイミドフィルム。 4. フィルム厚みが10μmで測定した場合の、ヘイズが2%以下であることを特徴とする前記項1~3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。 5. フィルム厚みが10μmで測定した場合の、厚み方向位相差(Rth)が1000nm以下であることを特徴とする前記項1~4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。 6. フィルム厚みが10μmで測定した場合の、波長308nmの光透過率が0.1%以下であることを特徴とする前記項1~5のいずれかに記載のポリイミドフィルム。 7. 前記項1~6のいずれかに記載のポリイミドフィルムがガラス基材上に形成されていることを特徴とする積層体。 8. 前記項1~6のいずれかに記載のポリイミドフィルムを備えることを特徴とするディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板。」と記載され、同【0044】には「本発明のポリイミドフィルムを構成するポリイミドを得るために好適に使用できるテトラカルボン酸成分としては、例えば、テトラデカヒドロ-1H,3H-4,12:5,11:6,10-トリメタノアントラ[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,7,9-テトラオン、デカヒドロ-1H,3H-4,10-エタノ-5,9-メタノナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、・・・(略)・・・これらのテトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸類等)は、1種を単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。」と記載され、同【0045】には「本発明のポリイミドフィルムを構成するポリイミドを得るために使用できるジアミン成分としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、・・・(略)・・・これらのジアミン成分は、1種を単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。」と記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0012】には「本発明のポリイミドフィルムは、フィルム厚みが10μmで測定した場合の、400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり・・・(略)・・・である。・・・(略)・・・フィルム厚みが10μmで測定した場合の、400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上・・・(略)・・・であれば、その高温の製造プロセスに耐えられ、良好な特性の薄膜トランジスタが得られる。また、ポリイミドの分解による製造設備の汚染を防止することができる。」と記載され、同【0015】に「本発明のポリイミドフィルムは、フィルム厚みが10μmで測定した場合のYI(黄色度)が10以下であり・・・(略)・・・である。ポリイミドフィルムをディスプレイ用の基板など、光が透過する用途に用いる場合、ポリイミドフィルムには透明性、より正確には無色(無彩色)透明性が求められる。YI(黄色度)の絶対値が小さい程、フィルムが無色(無彩色)に近いことを表す。フィルム厚みが10μmで測定した場合のYIが10以下、特に好ましくは5以下であれば、通常、必要とされる無色性を確保できる。」と記載され、同【0017】には「本発明のポリイミドフィルムは、フィルム厚みが10μmで測定した場合の、100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であり・・・(略)・・・である。・・・(略)・・・ポリイミドフィルムをディスプレイ用の基板などに用いる場合、ポリイミドフィルムの表面に導電層を形成し、トランジスタを形成する。その製造プロセスにおける温度範囲でポリイミドフィルムの線熱膨張係数が大きいと、金属などの導体との線熱膨張係数の差が大きくなり、そのため、基板の反りが増大するなどの不具合が生じることがある。通常の製造プロセスで、問題なく、良好な特性の薄膜トランジスタを得るには、少なくとも、フィルム厚みが10μmで測定した場合の、100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下、特に好ましくは40ppm/K以下であることが必要である。」と記載され、同【0023】には「さらに、本発明のポリイミドフィルムは、フィルム厚みが10μmで測定した場合の波長308nmの光透過率が、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下であることが好ましい。・・・(略)・・・ポリイミドフィルムが波長308nmの光透過率が高く、波長308nmの光(レーザー光)のエネルギーを吸収しないと、ポリイミドフィルムを基材から剥離できない。レーザーでポリイミドフィルムを基材から剥離する工程を含むプロセスに適用するためには、フィルム厚みが10μmで測定した場合の波長308nmの光透過率が低いこと、好ましくは0.1%以下であることが必要である。」と記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0071】ないし【0115】には、本件特許発明1ないし5の各発明特定事項の条件を満たす実施例1及び2について具体的に記載されている。 エ 判断 上記ウのとおり、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし7に対応する記載はある。 ところで、上記実施例1及び2で用いられた「テトラカルボン酸成分」(TNDA及びEMDAxx)及び「ジアミン成分」(DABAN)と同じ又は類似した化学構造を持つ「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」を反応させて得られる「ポリイミドフィルム」が、上記実施例1及び2の「ポリイミドフィルム」と同じ又は類似の特性を有することは、当業者であれば理解できる。 また、本件特許発明1において特定される「テトラカルボン酸成分」及び「ジアミン成分」が、実施例1及び2で用いられた「テトラカルボン酸成分」(TNDA及びEMDAxx)及び「ジアミン成分」(DABAN)と同じ又は類似した化学構造を持つことは当業者に明らかである。 そうすると、発明の詳細な説明の記載及び当業者の出願時の技術常識から、当業者は「ポリイミドを含むフィルムであって、 フィルム厚みが10μmで測定した場合の、 400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、 YI(黄色度)が10以下であり、且つ、 100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であり、且つ 波長308nmの光透過率が0.1%以下であり、 前記ポリイミドは、 (a)テトラデカヒドロ-1H,3H-4,12:5,11:6,10-トリメタノアントラ[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,7,9-テトラオン、デカヒドロ-1H,3H-4,10-エタノ-5,9-メタノナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、およびトリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸の二無水物またはその誘導体からなる群より選ばれる1種または複数種を含むテトラカルボン酸成分;および (b)p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、および[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)からなる群より選ばれる1種または複数種を含むジアミン成分 を反応させて得られるポリイミドであるポリイミドフィルム」、該「ポリイミドフィルム」が「ガラス基材上に形成されている積層体」及び該「ポリイミドフィルム」を「備えるディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板」は発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし5は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリイミドフィルム」であるか、それをさらに限定したものであり、本件特許発明6は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリイミドフィルム」が「ガラス基材上に形成されている積層体」であるか、それをさらに限定したものであり、本件特許発明7は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリイミドフィルム」を「備えるディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板」であるか、それをさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載及び当業者の出願時の技術常識により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (3)特許異議申立人A及びBの主張について 特許異議申立人Aの特許異議申立書Aにおける主張(申立理由A-2)及び令和5年7月4日に特許異議申立人Aから提出された意見書における主張(上記意見書第1ないし9ページ)並びに特許異議申立人Bの特許異議申立書Bにおける主張(申立理由B-7)はいずれも、要するに、発明の詳細な説明に実施例1及び2として記載されたポリイミドフィルム以外は発明の課題を解決できるとは当業者は認識できないから、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しないというものであるが、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえるし、本件特許発明1ないし7において特定される発明特定事項を有するだけでは、発明の課題を解決できないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。 したがって、特許異議申立人Aの特許異議申立書Aにおける主張及び令和5年7月4日に特許異議申立人Aから提出された意見書における主張並びに特許異議申立人Bの特許異議申立書Bにおける主張はいずれも採用できない。 (4)取消理由2についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。 3 取消理由3(甲16B、甲1B又は甲15Bに基づく進歩性)について 取消理由3(甲16B)(甲16Bに基づく進歩性)、取消理由3(甲1B)(甲1Bに基づく進歩性)、取消理由3(甲15B)(甲15Bに基づく進歩性)の順に検討する。 なお、申立理由B-5(甲16Bに基づく新規性)と取消理由3(甲16B)(甲16Bに基づく進歩性)は、同じ証拠(甲16B)に基づく理由なので、併せて検討する。 (1)申立理由B-5(甲16Bに基づく新規性)及び取消理由3(甲16B)(甲16Bに基づく進歩性)について ア 甲16Bに記載された事項等 (ア)甲16Bに記載された事項 甲16Bには、「ポリイミド前駆体、及びポリイミド」に関しておおむね次のとおり記載されている。下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。 ・「【0015】 本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、熱イミド化によって製造される、特定のジアミン成分とテトラカルボン酸成分とからなり、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性に優れ、線熱膨張係数が低いポリイミドが得られるポリイミド前駆体を提供することを目的とする。本発明は、また、線熱膨張係数が低く、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性にも優れたポリイミド、より好ましくは透明性にも優れたポリイミドが得られるポリイミド前駆体を提供することを目的とする。」 ・「【0033】 13. 前記項10または11に記載のポリイミドを含むTAB用フィルム、電気・電子部品用基板、配線基板、電気・電子部品用絶縁膜、電気・電子部品用保護膜、ディスプレイ用基板、タッチパネル用基板、または太陽電池用基板。 【0034】 本発明によって、熱イミド化によって製造され、延伸操作を行うことなく、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性に優れ、線熱膨張係数が低いポリイミドが得られるポリイミド前駆体を提供することができる。また、本発明によって、線熱膨張係数が低く、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性に優れ、さらには透明性にも優れたポリイミドが得られるポリイミド前駆体を提供することができる。本発明によれば、熱イミド化において延伸操作を行うことなく、優れた特性を保持しながら、ポリイミドの線熱膨張係数を低下させることができ、さらには耐熱性を向上させることもできる。」 ・「【0134】 以下の各例で使用した原材料の略称、純度等は、次のとおりである。 【0135】 [ジアミン成分] DABAN: 4,4’-ジアミノベンズアニリド〔純度:99.90%(GC分析)〕 TFMB: 2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン〔純度:99.83%(GC分析)〕 PPD: p-フェニレンジアミン〔純度:99.9%(GC分析)〕 FDA: 9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン BAPB: 4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル [テトラカルボン酸成分] CpODA:ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸無水物 DNDAxx:(4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボン酸二無水物〔DNDAxxとしての純度:99.2%(GC分析)〕 s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 ODPA:4,4’-オキシジフタル酸無水物 【0136】 [溶媒] DMAc: N,N-ジメチルアセトアミド NMP: 1-メチル-2-ピロリドン 【0137】 表1に実施例、比較例で使用したテトラカルボン酸成分、ジアミン成分の構造式を記す。 【0138】 【表1】 [図:0001438249000001.jpg] 【0139】 〔実施例1〕 窒素ガスで置換した反応容器中にTFMB 2.000g(6.246ミリモル)を入れ、DMAcを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が 20質量%となる量の32.8gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にCpODA 1.600g(4.164ミリモル)を徐々に加え、50℃で5時間撹拌した。その後、160℃へ昇温し、トルエンを25mL添加し、3時間トルエンを還流させた後、トルエンを抜き出し、室温まで冷却し、イミド化合物を含む溶液を得た。仕込みモノマー量から計算されるこのイミド化合物の重合度(n)は2であり、末端はアミノ基である。その溶液にDABAN 1.419g(6.246ミリモル)を入れ、室温で1時間攪拌した。この溶液にCpODA 3.201g(8.327ミリモル)を入れ、室温で24時間攪拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。 【0140】 PTFE製メンブレンフィルターでろ過したポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)、そのままガラス基板上で室温から420℃まで加熱して熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミドフィルム/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、乾燥して、膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。 【0141】 このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表2-1に示す。 【0142】 ・・・(略)・・・ 【0266】 〔実施例33〕 窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 1.591g(7.000ミリモル)とPPD 1.108g(1.000ミリモル)とBAPB 0.737g(2.000ミリモル)を入れ、NMPを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が 20質量%となる量の21.83gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.023g(10.000ミリモル)を徐々に加え、室温で24時間撹拌した。その後、160℃へ昇温し、トルエンを25mL添加し、15分間トルエンを還流させた後、トルエンを抜き出し、室温まで冷却し、均一で粘稠なポリイミド前駆体(イミド化率:35%)溶液を得た。 【0267】 PTFE製メンブレンフィルターでろ過したポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)、そのままガラス基板上で室温から430℃まで加熱して熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミドフィルム/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、乾燥して、膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。 【0268】 このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表2-6に示す。 【表2-1】 [図:0001438249000002.jpg] ・・・(略)・・・ 【表2-6】 [図:0001438249000003.jpg] 」 (イ)甲16Bに記載された発明 甲16Bに記載された事項を整理すると、甲16Bには次の発明(以下、「甲16B発明」という。)が記載されていると認める。 <甲16B発明> 「テトラカルボン酸成分としてCpODA(ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5”,6,6”-テトラカルボン酸無水物)、DNDAxx((4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボン酸二無水物)、s-BPDA(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)、ODPA(4,4’-オキシジフタル酸無水物)の少なくとも1種、ジアミン成分としてDABAN(4,4’-ジアミノベンズアニリド)、TFMB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン)、PPD(p-フェニレンジアミン)、FDA(9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン)、BAPB(4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル)の少なくとも1種を含むポリイミド前駆体から製造された、線熱膨張係数が低く、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、透明性にも優れた、ディスプレイ用基板、タッチパネル用基板、または太陽電池用基板に用いられるポリイミドを含むフィルム。」 イ 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲16B発明とを対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリイミドフィルム。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点16-1> 本件特許発明1においては「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、 400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、 YI(黄色度)が10以下であり、 100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であり」と特定されているのに対し、甲16B発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点16-2> 本件特許発明1においては「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、」「波長308nmの光透過率が0.1%以下である」と特定されているのに対し、甲16B発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点16-3> 本件特許発明1においては「前記ポリイミドは、 (a)テトラデカヒドロ-1H,3H-4,12:5,11:6,10-トリメタノアントラ[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,7,9-テトラオン、デカヒドロ-1H,3H-4,10-エタノ-5,9-メタノナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、およびトリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸の二無水物またはその誘導体からなる群より選ばれる1種または複数種を含むテトラカルボン酸成分;および (b)p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、および[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)からなる群より選ばれる1種または複数種を含むジアミン成分を反応させて得られるポリイミドであること」と特定されているのに対し、甲16B発明においては「テトラカルボン酸成分としてCpODA(ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5”,6,6”-テトラカルボン酸無水物)、DNDAxx((4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボン酸二無水物)、s-BPDA(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)、ODPA(4,4’-オキシジフタル酸無水物)の少なくとも1種、ジアミン成分としてDABAN(4,4’-ジアミノベンズアニリド)、TFMB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン)、PPD(p-フェニレンジアミン)、FDA(9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン)、BAPB(4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル)の少なくとも1種を含むポリイミド前駆体から製造された」と特定されている点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点16-3について検討する。 甲16B発明における「テトラカルボン酸成分」は、本件特許発明1において特定される「テトラカルボン酸成分」とは異なることから、相違点16-3は実質的な相違点である。 そして、甲16B発明における「テトラカルボン酸成分」を、相違点16-3に係る本件特許発明1の「テトラカルボン酸成分」にする動機付けとなる記載は甲16Bにはないし、他の証拠にもない。 また、甲16B発明における「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」の組み合わせを、相違点16-3に係る本件特許発明1の「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」の組み合わせにする動機付けとなる記載も甲16Bにはないし、他の証拠にもない。 そうすると、甲16B発明において、甲16B及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点16-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲16B発明であるとはいえないし、甲16B発明並びに甲16B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (エ)特許異議申立人Aの主張について 令和5年7月4日に特許異議申立人Aから提出された意見書における特許異議申立人Aの主張(上記意見書第9ないし14ページ)は、要するに、本件特許発明1において、テトラカルボン酸成分を15種に規定したこと及びジアミン成分を17種に規定したことに意義が認められないから、進歩性の取消理由は解消していないというものであるが、本件特許発明1において、テトラカルボン酸成分を15種に規定したこと及びジアミン成分を17種に規定したことの意義の有無にかかわらず、甲16B発明において、相違点16-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けがない以上、本件特許発明1は、甲16B発明並びに甲16B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。 ウ 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7はいずれも請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1における発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲16B発明であるとはいえないし、甲16B発明並びに甲16B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ 申立理由B-5及び取消理由3(甲16B)についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし7は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B-5及び取消理由3(甲16B)によっては取り消すことはできない。 (2)取消理由3(甲1B)(甲1Bに基づく進歩性)について ア 甲1Bに記載された事項等 (ア)甲1Bに記載された事項 甲1Bには、「ポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリイミドフィルム、ワニス、及び基板」に関しておおむね次のとおり記載されている。 ・「【請求項1】 ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、またはその誘導体を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン、またはその誘導体を含むジアミン成分とから得られるポリイミドであって、 ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物が、下記条件でガスクロマトグラフィー分析を行って得られるガスクロマトグラムにおいて、保持時間が31.7-33.5のすべてのピーク面積の総和に対して、保持時間が33.4-33.5のピーク面積の割合が、60%以上であり、 窒素気流中、昇温速度10℃/分で25℃から600℃まで昇温したときの5%重量減少温度が、490℃以上であることを特徴とするポリイミド。 (ガスクロマトグラフィー分析条件) 測定試料:ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解した溶液 カラム:株式会社島津ジーエルシー製、Rtx-5 Amine(長さ30m) カラム温度:50℃から300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で保持 キャリアガス:He 流速(キャリアガス流量):10mL/分 試料注入口温度:290℃ 検出器温度:310℃ ・・・(略)・・・ 【請求項5】 請求項1~3のいずれかに記載のポリイミド、又はその前駆体を含むワニスを用いて得られたポリイミドフィルム。」 ・「【0001】 本発明は、高い透明性、高耐熱性などの優れた特性を有し、さらに高温まで極めて低い線熱膨張係数を有するポリイミド、及びその前駆体に関する。また、本発明は、ポリイミドフィルム、ポリイミド前駆体またはポリイミドを含むワニス、及び基板にも関する。」 ・「【0013】 本発明は、テトラカルボン酸成分として特定の脂環式テトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン成分として好ましくは芳香族ジアミンを用いたポリイミドであって、高い透明性、高耐熱性などの優れた特性を有し、さらに高温まで極めて低い線熱膨張係数を有するポリイミド、及びその前駆体を提供することを目的とする。」 (イ)甲1Bに記載された発明 甲1Bに記載された事項を整理すると、甲1Bには次の発明(以下、「甲1B発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1B発明> 「ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、またはその誘導体を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン、またはその誘導体を含むジアミン成分とから得られるポリイミドであって、 ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物が、下記条件でガスクロマトグラフィー分析を行って得られるガスクロマトグラムにおいて、保持時間が31.7-33.5のすべてのピーク面積の総和に対して、保持時間が33.4-33.5のピーク面積の割合が、60%以上であり、 窒素気流中、昇温速度10℃/分で25℃から600℃まで昇温したときの5%重量減少温度が、490℃以上であるポリイミドを用いて得られたポリイミドフィルム。 (ガスクロマトグラフィー分析条件) 測定試料:ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解した溶液 カラム:株式会社島津ジーエルシー製、Rtx-5 Amine(長さ30m) カラム温度:50℃から300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で保持 キャリアガス:He 流速(キャリアガス流量):10mL/分 試料注入口温度:290℃ 検出器温度:310℃」 イ 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1B発明とを対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリイミドフィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1においては「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、 400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、 YI(黄色度)が10以下であり、 100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であり」と特定されているのに対し、甲1B発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点1-2> 本件特許発明1においては「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、」「波長308nmの光透過率が0.1%以下である」と特定されているのに対し、甲1B発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点1-3> 本件特許発明1においては「前記ポリイミドは、 (a)テトラデカヒドロ-1H,3H-4,12:5,11:6,10-トリメタノアントラ[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,7,9-テトラオン、デカヒドロ-1H,3H-4,10-エタノ-5,9-メタノナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、およびトリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸の二無水物またはその誘導体からなる群より選ばれる1種または複数種を含むテトラカルボン酸成分;および (b)p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、および[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)からなる群より選ばれる1種または複数種を含むジアミン成分を反応させて得られるポリイミドであること」と特定されているのに対し、甲1B発明においては「ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物、またはその誘導体を含むテトラカルボン酸成分と、ジアミン、またはその誘導体を含むジアミン成分とから得られるポリイミドであって、 ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物が、下記条件でガスクロマトグラフィー分析を行って得られるガスクロマトグラムにおいて、保持時間が31.7-33.5のすべてのピーク面積の総和に対して、保持時間が33.4-33.5のピーク面積の割合が、60%以上であり、 窒素気流中、昇温速度10℃/分で25℃から600℃まで昇温したときの5%重量減少温度が、490℃以上であるポリイミド (ガスクロマトグラフィー分析条件) 測定試料:ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解した溶液 カラム:株式会社島津ジーエルシー製、Rtx-5 Amine(長さ30m) カラム温度:50℃から300℃まで10℃/分で昇温し、300℃で保持 キャリアガス:He 流速(キャリアガス流量):10mL/分 試料注入口温度:290℃ 検出器温度:310℃」と特定されている点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点1-3について検討する。 甲1B発明において「ポリイミドフィルム」の原料として相違点1-3に係る本件特許発明1の「テトラカルボン酸成分」を採用する動機付けとなる記載は甲1Bにはないし、他の証拠にもない。 また、甲1B発明におけるポリイミドフィルム」の原料を、相違点1-3に係る本件特許発明1の「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」の組み合わせにする動機付けとなる記載も甲1Bにはないし、他の証拠にもない。 そうすると、甲1B発明において、甲1B及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1B発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7はいずれも請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1における発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1B発明並びに甲1B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 取消理由3(甲1B)についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし7は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、取消理由3(甲1B)によっては取り消すことはできない。 (3)取消理由3(甲15B)(甲15Bに基づく進歩性)について ア 甲15Bに記載された事項等 (ア)甲15Bに記載された事項 甲15Bには、「ポリイミドフィルム、それを用いた基板、及び、ポリイミドフィルムの製造方法」に関しておおむね次のとおり記載されている。 ・「【請求項1】 下記一般式(1)及び(2): 【化1】 [図:0001438249000004.jpg] [式(1)及び(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、R4は炭素数6~40のアリール基を示し、nは0~12の整数を示す。]で表される繰り返し単位のうちの少なくとも1種を含有し、 前記一般式(1)及び(2)で表される繰り返し単位の総量が全繰り返し単位に対して90モル%以上であり、 350℃の線膨張係数が10ppm/℃以下であり、かつ、 窒素雰囲気下、昇温速度5℃/分の条件で50℃~400℃の温度範囲において長さの変化を測定して求められる平均線膨張係数が15ppm/℃以下である、 ポリイミドからなるフィルムであることを特徴とするポリイミドフィルム。」 ・「【0010】 本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、光透過性や耐熱性に優れ、しかも高温での線膨張係数が十分に低いポリイミドフィルム及びその製造方法を提供することを目的とし、更には、そのポリイミドフィルムからなる、フレキシブル配線基板、透明電極用基板、液晶配向膜積層用基板、有機ELディスプレイ用基板及び有機EL照明用基板を提供することを目的とする。」 ・「【0159】 ・・・(略)・・・ (実施例1) <脂環式テトラカルボン酸二無水物系モノマーの準備工程> 先ず、国際公開第2014/034760号の実施例1のモノマー合成工程に準拠して、下記一般式(14): 【0160】 【化17】 [図:0001438249000005.jpg] 【0161】 で表されるトランス、エンド、エンド-ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物及び下記一般式(15): 【0162】 【化18】 [図:0001438249000006.jpg] 【0163】 で表されるシス、エンド、エンド-ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物の混合物(脂環式テトラカルボン酸二無水物系モノマー:上記一般式(14)及び(15)で表される化合物の含有比率が99モル%(残りの成分はノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物のトランス-エンド-エンド異性体及びシス-エンド-エンド異性体以外の他の異性体である。)であり、上記一般式(14)で表される化合物と上記一般式(15)で表される化合物のモル比([式(14)]:[式(15)])が63:37である混合物)を準備した。」 (イ)甲15Bに記載された発明 甲15Bに記載された事項を整理すると、甲15Bには次の発明(以下、「甲15B発明」という。)が記載されていると認める。 <甲15B発明> 「下記一般式(1)及び(2): 【化1】 [図:0001438249000007.jpg] [式(1)及び(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、R4は炭素数6~40のアリール基を示し、nは0~12の整数を示す。]で表される繰り返し単位のうちの少なくとも1種を含有し、 前記一般式(1)及び(2)で表される繰り返し単位の総量が全繰り返し単位に対して90モル%以上であり、 350℃の線膨張係数が10ppm/℃以下であり、かつ、 窒素雰囲気下、昇温速度5℃/分の条件で50℃~400℃の温度範囲において長さの変化を測定して求められる平均線膨張係数が15ppm/℃以下である、 ポリイミドからなるポリイミドフィルム。」 イ 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲15B発明とを対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリイミドフィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点15-1> 本件特許発明1においては「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、 400℃で4時間保持した時の重量保持率が99.0%以上であり、 YI(黄色度)が10以下であり、 100~350℃の間の線熱膨張係数が55ppm/K以下であり」と特定されているのに対し、甲15B発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点15-2> 本件特許発明1においては「フィルム厚みが10μmで測定した場合の、」「波長308nmの光透過率が0.1%以下である」と特定されているのに対し、甲15B発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点15-3> 本件特許発明1においては「前記ポリイミドは、 (a)テトラデカヒドロ-1H,3H-4,12:5,11:6,10-トリメタノアントラ[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,7,9-テトラオン、デカヒドロ-1H,3H-4,10-エタノ-5,9-メタノナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、およびトリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸の二無水物またはその誘導体からなる群より選ばれる1種または複数種を含むテトラカルボン酸成分;および (b)p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、および[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)からなる群より選ばれる1種または複数種を含むジアミン成分を反応させて得られるポリイミドであること」と特定されているのに対し、甲15B発明においては「下記一般式(1)及び(2): 【化1】 [図:0001438249000008.jpg] [式(1)及び(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、R4は炭素数6~40のアリール基を示し、nは0~12の整数を示す。]で表される繰り返し単位のうちの少なくとも1種を含有し、 前記一般式(1)及び(2)で表される繰り返し単位の総量が全繰り返し単位に対して90モル%以上であり」と特定されている点。 (イ)判断 事案に鑑み、相違点15-3について検討する。 甲15B発明において「ポリイミドフィルム」の原料として相違点15-3に係る本件特許発明1の「テトラカルボン酸成分」を採用する動機付けとなる記載は甲15Bにはないし、他の証拠にもない。 また、甲15B発明における「ポリイミドフィルム」の原料を、相違点15-3に係る本件特許発明1の「テトラカルボン酸成分」と「ジアミン成分」の組み合わせにする動機付けとなる記載も甲15Bにはないし、他の証拠にもない。 そうすると、甲15B発明において、甲15B及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点15-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲15B発明並びに甲15B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7はいずれも請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1における発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲15B発明並びに甲15B及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 取消理由3(甲15B)についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし7は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、取消理由3(甲15B)によっては取り消すことはできない。 第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載された特許異議申立ての理由について 取消理由として採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載された特許異議申立ての理由は、申立理由B-5(甲16Bに基づく新規性)であるが、該申立理由については、上記第6 3(1)において検討したとおりである。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取消理由並びに特許異議申立書A及びBに記載された特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701115

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