特許異議申立
2023-700465
ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット及び該ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの製造方法
- 審判番号
- 2023-700465
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-529189外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7167711
- 請求日
- 2023年05月02日
- 審決日
- 2023年07月10日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7167711号発明「ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット及び該ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7167711号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7167711号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、
2018年(平成30年) 6月 1日(優先権主張 平成29年 6月 2日)を国際出願日とする特許出願であって、
令和 4年10月31日にその特許権の設定登録(請求項の数 3)がされ、
令和 4年11月 9日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年 5月 2日に 竹口 美穂 (以下、「特許異議申立人」という。)が全請求項に係る特許に対して特許異議申立てを行ったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットであって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの23℃、50%RHでの硬度が100N以上であり、かつ210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が150~4000であり、ケン化度が70モル%以上であり、融点が150~230℃である、ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、可塑剤を0.1~8質量部含有する、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット。
【請求項3】
嵩比重0.60~0.80g/mlのポリビニルアルコール系樹脂粉末を圧縮し、切断する工程を含み、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が150~4000であり、ケン化度が70モル%以上であり、融点が150~230℃である、ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの製造方法。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 5年 5月 2日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、下記(1)ないし(2)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1ないし3には、PVA系樹脂が1,2-ジオール構造単位を含有することや変性率が特定されておらず、本件特許発明1ないし3の範囲まで、本件特許の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)本件特許発明1ないし2には、PVA系樹脂が1,2-ジオール構造単位を含有することや変性率及び嵩比重が特定されておらず、如何なるPVA系樹脂を用いれば本件特許発明1に記載の特性(構成B:ポリビニルアルコール径樹脂組成物ペレットの23℃、50%RHでの硬度が100N以上、構成C:210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下)を満たすのか把握できない。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、下記(1)ないし(2)の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1ないし2のうち、本件特許明細書に具体的な製造方法が記載された物以外の物について、当業者が、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、どのように製造するのか理解できない。
(2)本件特許発明1ないし2は、その実施(製造、使用)につき当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。
3 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、下記(1)ないし(2)の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許明細書には、錠剤径が3mm未満であるものについて、23℃、50%RHでの硬度をどのように測定するのか記載されていないし、その測定方法は本件特許出願時の技術常識でもないから、構成B(ポリビニルアルコール径樹脂組成物ペレットの23℃、50%RHでの硬度が100N以上)の機能、特性等の意味内容を理解することができない。
(2)「加熱及び加圧した後のYI値」によって規定されたPVA系樹脂組成物ペレットが具体的にどのようなものであるかを、当業者が理解することは困難である。
4 申立理由4(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 証拠方法
甲第1号証:“PC-30 PORTABLE CHECKER”(“ロードセル式錠剤硬度計 ポータブルチェッカー”)、第2頁、“仕様”欄、[online]、岡田精工株式会社、[令和5年4月12日検索]、インターネット <URL:http://okadaseiko.co.jp/wp-content/uploads/2018/03/bc00b75896e98bb4ad509c3d322eeb16.pdf>
甲第2号証:特開2011-241234号公報
甲第3号証:特開2001-181405号公報
甲第4号証:特開2004-75866号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
当審は以下に述べるように、申立理由1ないし4のいずれによっても本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には、「本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、着色が小さく且つ硬度特性を向上させたポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットを提供することを解決すべき課題としている。」と記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には課題を解決するための手段として、「特定の硬度とイエローインデックスの値(以下、「YI値」と称することがある。)を有するペレットを用いることで、上記課題を解決できることを見出し」た旨記載され、【0012】には本件特許発明の各特定事項に対応する事項が記載され、【0013】には発明の効果として、「低着色性と高硬度という2つの特性を両立させたポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットが提供される。よって、本発明のポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの製造時において、大量生産におけるロングラン性を確保し、安定して連続運転及び生産ができる。また、得られたペレットを用いて成形品とした場合には該成形品の外観をより向上させることができる。さらに、該成形品を着色する場合は正確な色を付与することができる。かかるペレットは、通常、溶融成形の材料として用いられるものである。」と記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0015】ないし【0016】にはPVA系樹脂について、【0017】ないし【0018】には嵩比重について、【0019】ないし【0020】には平均重合度について、【0021】にはケン化度について、【0022】には融点について、【0023】ないし【0028】には変性について、【0029】ないし【0038】には側鎖1,2-ジオール構造について、【0040】ないし【0041】には可塑剤について、【0043】にはPVA系樹脂組成物ペレットについて、【0044】ないし【0046】には硬度について、【0047】ないし【0049】にはYI値について、【0052】ないし【0067】にはペレットの製造方法について、それぞれ記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0069】ないし【0102】には、硬度に優れ、YI値が低いPVA系樹脂組成物ペレットの製造例が具体的に記載されている。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0010】から、本件特許発明1ないし3の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、着色が小さく且つ硬度特性を向上させたポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットを提供することである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0012】には、当該課題を解決するための手段として、ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、23℃、50%RHでの硬度が100N以上であり、かつ、210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下であるポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット、当該ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が70モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット、当該ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、可塑剤を0.1~8質量部含有するポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット、嵩比重0.60~0.80g/mlのポリビニルアルコール系樹脂粉末を圧縮し、切断する工程を含む、ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの製造方法、によって、低着色性と高硬度という2つの特性を両立させたポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットが提供されることが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0015】ないし【0016】にはポリビニルアルコール系樹脂について、【0017】ないし【0018】には嵩比重について、【0019】ないし【0020】には平均重合度について、【0021】にはケン化度について、【0022】には融点について、【0023】ないし【0028】には変性について、【0029】ないし【0038】には側鎖1,2-ジオール構造について、【0040】ないし【0041】には可塑剤について、【0043】にはPVA系樹脂組成物ペレットについて、【0044】ないし【0046】には硬度について、【0047】ないし【0049】にはYI値について、【0052】ないし【0067】にはペレットの製造方法について、それぞれ記載されており、【0069】ないし【0102】には、具体的に23℃、50%RHでの硬度が100N以上であり、かつ、210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下であるポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットが製造され、当該ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットは、平均重合度が150~4000であり、ケン化度が70モル%以上であり、融点が150~230℃であり、嵩比重が0.60~0.80g/mlのポリビニルアルコール系樹脂粉末を圧縮、切断することにより製造されることが示されている。
そうすると、当業者は、
・ポリビニルアルコール系樹脂ペレットの23℃、50%RHでの硬度が100N以上であり、かつ210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下であるポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットにより、又は、
・嵩比重0.60~0.80g/mlのポリビニルアルコール系樹脂粉末を圧縮し、切断する工程を含む、ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの製造方法により、
発明の課題を解決することができると認識する。
そして、本件特許発明1ないし3は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、これをさらに特定するものであるから、当然発明の課題を解決できるものである。
したがって、本件特許発明1ないし3は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許の発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
上記第3 1特許異議申立人の主張について検討する。
上記(4)のとおり、当業者は、本件特許発明1ないし3により、発明の課題を解決することができると認識する。1,2-ジオール構造単位を含有することや変性率、嵩密度が特定されていないから発明の課題が解決することができないとする特許異議申立人の主張は理論的な説明ないし具体的証拠がなく、採用することができない。
(6)申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。
したがって、申立理由1によって本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし2は物の発明であり、本件特許発明3は物を製造する方法の発明である。
物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
物を製造する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造する方法を使用し、その物を製造する方法により製造した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
以上を踏まえて以下検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1ないし3の各発明特定事項について、その実現方法を含め具体的に記載されており、実施例についても具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし2の物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明3の製造方法を使用し、製造した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし3に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
上記第3 2特許異議申立人の主張について検討する。
上記(2)のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、実施可能要件を充足する。本件特許明細書に具体的な製造方法が記載された物以外の物について、当業者が、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、どのように製造するのか理解できない、当業者に過度の試行錯誤を強いるとする特許異議申立人の主張は、その主張の根拠について具体的な証拠ないし理論的な説明がなされておらず、採用することができない。
(4)申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。
したがって、申立理由2によって本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(明確性要件)
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を参酌し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載自体に不明瞭な記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明とも整合する。
したがって、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時の技術常識を基礎とすれば、本件特許発明1ないし3に関し、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1ないし3は明確である。
(3)特許異議申立人の主張について
上記第3 3特許異議申立人の主張について検討する。
請求項1及び2のペレットの23℃、50%RHでの硬度は、上記(2)で判断したとおり、明確である。なお、ポリビニルアルコール系樹脂組成物のペレットの23℃、50%RHでの硬度の測定方法の具体例としては、本件特許明細書【0044】、【0078】に記載の錠剤硬度計で測定することが説明されており、ここで記載される錠剤硬度計で測定できない径の場合等は、対応可能な硬度計にて測定されると当業者は理解する。
また、請求項1及び2の加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下との発明特定事項についても上記(2)で判断したとおり、明確である。本件特許明細書【0047】、【0079】に加熱及び加圧条件と測定条件が記載されており、このとおりに測定される。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
なお、請求項3には硬度、イエローインデックスの値について特定する記載はないから、特許異議申立人の主張する不備はない。
(4)申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は特許法第113条第4号に該当しない。
したがって、申立理由3によって本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には「ポリビニルアルコール系樹脂組成物」に関し、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、溶融成形による着色が少なく、溶融粘度の経時安定性が高い溶融成形用ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVOH系樹脂とも表記する。)組成物に関する。」
「【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶融成形が可能なPVOH系樹脂組成物であって、溶融成形による着色が少なく、溶融粘度の経時安定性が高いPVOH系樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明者らは、上記の実情に鑑みて、まず着色の原因について鋭意研究したところ、PVOH系樹脂中に存在するカルボニル基が影響しているとの知見を得た。カルボニル基が着色に影響を与える理由は、明らかではないが、カルボニル基を有するPVOH系樹脂では、カルボニル基に隣接する水酸基が脱水されやすくなり、その結果、着色の原因となる-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造が形成されると考えられる。」
「【0020】
本発明で用いるPVOH系樹脂は、下記一般式(1)で示される1,2-ジオール構造単位を有するもので、一般式(1)におけるR1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
【0021】
【化3】
[図:0001400522000001.jpg]
」
「【0030】
本発明で用いられるPVOH系樹脂は、4質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度が通常0.1~0.3であり、特に0.1~0.28、さらに0.1~0.25であることが好ましい。280nmの吸収は、PVOH系樹脂に含まれる-CO-(CH=CH)n-構造中のn=0の場合の孤立カルボニル基とn=2の場合の共役カルボニル基による。かかる吸光度が大きすぎると、共役系が長波長側に伸び、着色しやすくなり、熱安定性が低下する傾向がある。一方、一般的な工業的製造方法では吸光度が0.1を下回るものは得られず、吸光度が小さいPVOH系樹脂は、極低温重合などの生産効率の悪い製造方法を採用する必要があるため、かかるPVOH系樹脂は生産性、およびコスト面で好ましくない。なお、吸光度は、PVOH系樹脂の4質量%水溶液を調製し、UV分光光度計を用いて測定することができるが、カルボン酸およびアルカリ(土類)金属塩をさらに含有するPVOH系樹脂組成物を用いて、PVOH系樹脂の含有量が4質量%となるように水溶液を調製し、UV分光光度計を用いて測定しても良い。」
「【0062】
本発明のPVOH系樹脂組成物は、可塑剤を配合しなくても良好な溶融成形性を得ることができるが、別段必要に応じて、可塑剤を配合することも可能である。かかる可塑剤としては、脂肪族多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン等)、グリセリン等の多価アルコールへエチレンオキサイドを付加した化合物、各種アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの混合付加体等)、糖類(例えば、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール、キシロール、アラビノース、リブロース等)、ビスフェノールAやビスフェノールS等のフェノール誘導体、N-メチルピロリドン等のアミド化合物、α-メチル-D-グルコシド等のグルコシド類、水等が挙げられる。なお、その配合量としては、PVOH系樹脂100質量部に対して、100質量部以下、さらには20質量部以下、特には10質量部以下とすることが好ましい。」
「【0070】
(実施例1)
〔PVOH系樹脂の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル321.4g、メタノール241.1g、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン38.6gを仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(半減期102分)の4%メタノール溶液37.8gを610分かけて添加して重合を行った。また、重合開始から35分経過した時点で酢酸ビニル571.4g、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン68.6gを480分かけて添加し、さらに105分重合を行った。酢酸ビニルの重合率が89.5%となった時点で、重合禁止剤としてp-メトキシフェノール38ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合物のメタノール溶液を得た。
【0071】
次いで、該溶液をメタノールで希釈して共重合物の濃度66%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合物中の酢酸ビニル及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が粒子状に析出してスラリーとなった後、添加水酸化ナトリウム量に対して酢酸を0.35当量となるように加えて、さらにスラリー中の樹脂濃度が9%となるようにメタノールを添加して、15分間ニーダー内で攪拌し、濾別して熱風乾燥機中で乾燥し、酢酸および酢酸ナトリウムを含有するPVOH系樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0072】
得られたPVOH系樹脂組成物中のPVOH系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニル及び残存3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99.2モル%であり、平均重合度はJIS K6726に準じて分析を行ったところ450であった。また、1,2-ジオール構造を含有する側鎖の導入量は、1H-NMRスペクトル(溶媒:DMSO-d6、内部標準:テトラメチルシラン)で測定して算出したところ6モル%であった。また、PVOH系樹脂の含有量が4%となるように調製したPVOH系樹脂組成物の水溶液(以下、4質量%水溶液ともいう。)の紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度は0.18であり、該水溶液の20℃におけるpHは6.2であった。かかるpHは、ガラス電極式pHメーター(堀場製作所社製、F-22)、および低導電率用pH電極(堀場製作所社製、6377-10D)を用いて測定したものである。
さらに、PVOH系樹脂組成物のYI値、トルク比を下記の測定法により測定した。以上の物性値を表1にまとめる。
【0073】
〔YI値測定法〕
押出機を用いて下記の条件で得られた押出し物(溶融押出しペレット)のYI値を下記条件にて測定した。
押出機:テクノベル社製二軸押出機,KZW-15-60MG,スクリュー径15mm,L/D=60、
スクリュー:送りセグメントのみ(混練部なし)、
樹脂温度:210℃、
滞留時間:3分間、
測定機器:日本電色工業社製,分光色差計 Σ90、
測定条件:ホッパー部は窒素シールされている。」
「【0075】
(実施例2、3、4)
実施例1において、酢酸/酢酸ナトリウムの含有量比を変更することにより、4質量%水溶液(20℃)のpHが6.8(実施例2)、6.2(実施例3)、又は5.8(実施例4)のPVOH系樹脂組成物をそれぞれ得た。各物性値を表1にまとめる。」
「【0078】
【表1】
[図:0001400522000002.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
上記アの実施例1ないし4を中心にまとめると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」等という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
「1,2-ジオール構造を含有する側鎖の導入量が6モル%、重合度450、ケン化度99.2~98.8モル%のPVOH系樹脂を含有するPVOH系樹脂組成物(ペレット)であって、押出機を用いて下記の条件で得られた押出し物(溶融押出しペレット)のYI値が35~45であるPVOH系樹脂組成物(ペレット)。
押出機:テクノベル社製二軸押出機、KZW-15-60MG、スクリュー径15mm、L/D=60、
スクリュー:送りセグメントのみ(混練部なし)
樹脂温度:210℃
滞留時間:3分間」
(2)検討
ア 本件特許発明1についての対比・検討
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「PVOH系樹脂を含有するPVOH系樹脂組成物(ペレット)」は、本件特許発明1における「ポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット」に相当する。
甲2発明における「重合度450」、「ケン化度99.2~98.8モル%」は、それぞれ、本件特許発明1における「平均重合度が150~4000」、「ケン化度が70モル%以上」との特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットであって、ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が150~4000であり、ケン化度が70モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット。」
<相違点1>
本件特許発明1においては、「ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの23℃、50%RHでの硬度が100N以上であり、かつ、210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下」との特定を有するのに対して、甲2発明においては、そのような特定を有さない点。
<相違点2>
本件特許発明1においては、「融点が150~230℃」との特定を有するのに対して、甲2発明においてはそのような特定を有さない点。
相違点1について検討する。
特許異議申立人は当該相違点1のイエローインデックス値について、次のとおりの主張をしている。すなわち、
「本件特許発明1は、主鎖のビニレン基を生じさせないようにすることでYI値が低減され、よって本件特許発明1の構成要件C(当審注:構成要件Cは「かつ210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下であり」との発明特定事項を指す。)を実現するものである。」
「一方、甲2発明は、『溶融成形による着色が少なく、溶融粘度の経時安定性が高いPVOH系樹脂組成物を提供すること』を課題とするものであるところ、この着色の原因が『-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造』にあると記載されており、この共役二重結合が形成されると『着色しやすくなり、熱安定性が低下する傾向がある』と示唆している。このように、甲2発明では、着色の原因は-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造にあることが読み取れる。よって、甲2発明は、-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造を生じないようにすることを技術思想とするものと認められる。
ここで、本件特許明細書でいうビニレン基とは-CH=CH-で表される基であるところ、甲2発明が着色の原因とする-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造は、明らかにビニレン基を含む。
従って、甲2発明の上記技術思想は、本件特許発明1の上記技術思想と同等であると認められる。」
「そうすると、当業者は、甲2発明において、着色の原因となる-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造を生じさせないようにすることに容易に想到でき、この場合には、本件特許発明1の上記構成要件CでいうところのYI値が小さくなることは必然である。」
特許異議申立人の主張するとおり、甲2【0078】【表1】には、PVOH系樹脂を4質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度が測定されている。甲2【0030】には、280nmにおける吸光度は、PVOH系樹脂に含まれる-CO-(CH=CH)n-構造中のn=0の場合の孤立カルボニル基と及びn=2の場合の共役カルボニル基による吸収によるものであって、吸光度が大きすぎると、共役系が長波長側に伸び、着色しやすくなることが記載されており、甲2【0078】実施例1ないし4では、280nmにおける吸光度が0.18ないし0.19で、YI値は35ないし45であることが記載されている。
しかしながら、甲2発明におけるYI値は、「押出機:テクノベル社製二軸押出機、KZW-15-60MG、スクリュー径15mm、L/D=60、スクリュー:送りセグメントのみ(混練部なし)、樹脂温度:210℃、滞留時間:3分間」の条件で測定されたものであって、これが、本件特許発明1の「210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下」を満たすかどうか明らかでない。
すなわち、両者の測定条件は、測定温度は同等であるものの、圧力条件と時間が共に異なっており、それぞれの条件で測定されたYI値の大小関係が一律にいえるものではない。
また、本件特許発明1の「210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のイエローインデックスの値が50以下」を満たすか否かは、甲2において記載されている、PVOH系樹脂組成物中の-CO-(CH=CH)n-構造中のn=0の場合の孤立カルボニル基と及びn=2の場合の共役カルボニル基による吸収による、PVOH系樹脂を4質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度の数値から、直ちに導き出せるものでもない。
そして、甲2には、相違点1に係るポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの23℃、50%RHでの硬度及び210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のYI値に関する記載はなく、甲2発明において、ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレットの23℃、50%RHでの硬度及び210℃、5kgf/cm2で、2分間、加熱及び加圧した後のYI値を調製し、所定の数値範囲とする動機となる記載はない。
また、その他の証拠においても、甲2発明において、ポリビニルアルコール系樹脂組成物ペレット及びYI値を所定の数値範囲とする動機となる記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2についての対比・判断
本件特許発明2は、請求項1を直接引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2は、甲2発明ではなく、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由4についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、特許法第29条第2項に該当しないから、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は特許法第113条第2号に該当しない。
したがって、申立理由4によって本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700465