特許異議申立
2015-700193
複合材料の製造方法
- 審判番号
- 2015-700193
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-536960外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年11月16日
- 審決日
- 2016年11月08日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1651.113-ZDA(C08J) / P1651.121-ZDA(C08J) / P1651.537-ZDA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5717928号発明「複合材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5717928号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし10],11,12,13,14,15,16,17について、訂正することを認める。
特許第5717928号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。
特許第5717928号の請求項10ないし12、14ないし17に係る特許を維持する。
特許第5717928号の請求項13に係る特許についての申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 主な手続の経緯等
特許第5717928号(設定登録時の請求項の数は13。以下,「本件特許」という。)は,国際出願日である平成25年9月19日にされたとみなされる特願2014-536960号(優先権主張 平成24年9月21日 平成25年5月15日)に係るものであって,平成27年3月27日に設定登録された。
特許異議申立人 古川佳靖(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成27年11月13日付けで,本件特許の請求項1~13に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当合議体において,平成28年1月13日付けで取消理由を通知したところ,特許権者は,平成28年3月15日付けで,訂正請求書(以下,当該訂正請求書による訂正を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので,異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ,異議申立人は,平成28年4月20日付けで意見書を提出した。
当合議体において,平成28年6月29日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ,特許権者からの応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア~タのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1,第2行目に
「繊維マトリックス構造体であって,」
とあるのを,
「繊維マトリックス構造体であって,プレス工程前にマトリックス樹脂が粒状またはフィルム状であり,」
に訂正する。
イ 特許請求の範囲の請求項1,第2~3行目に
「該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,」
とあるのを,
「該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である,シート状の繊維マトリックス構造体を,」
に訂正する。
ウ 特許請求の範囲の請求項2,第2行目に
「繊維マトリックス構造体であって,」
とあるのを,
「繊維マトリックス構造体であって,プレス工程前にマトリックス樹脂が粒状またはフィルム状であり,」
に訂正する。
エ 特許請求の範囲の請求項2,第3~4行目に
「カルボジイミドが下記化学式(1)で示される構造である繊維マトリックス構造体を,」
とあるのを,
「カルボジイミドが下記化学式(1)で示される構造である,シート状の繊維マトリックス構造体を,」
に訂正する。
オ 特許請求の範囲の請求項8,第1行目に
「コールドプレス前に」
とあるのを,
「繊維マトリックス構造体が,補強用短繊維と粒状物又はフィルム状物の形状を有するポリエステル系樹脂からなる混合物を用いて構造体とするものであり,コールドプレス前に」
に訂正する。
カ 特許請求の範囲の請求項8,1行目に
「あらかじめ予備プレスを行う」
とあるのを,
「あらかじめ予備プレスを行い板状とする」
に訂正する。
キ 特許請求の範囲の請求項9に
「補強用繊維が炭素繊維である」
とあるのを,
「補強用繊維が炭素繊維であり,等方性の複合材料である」
に訂正する。
ク 特許請求の範囲の請求項10に
「主とするものである」
とあるのを,
「主とするものであり,繊維束で存在するものと,それ以外の開繊された繊維を含むランダムマットである」
に訂正する。
ケ 特許請求の範囲の請求項11に
「補強用繊維の一部が一方向性繊維シートである請求項1~10のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。」
とあるうち,請求項1を引用するものについて,独立請求項に改め,
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形する複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。」
に訂正する。
コ 特許請求の範囲の請求項12に
「構造体中において不連続繊維がランダムに配向している請求項10または11記載の複合材料の製造方法。」
とあるうち,請求項10を引用するものであって,請求項10が請求項1を引用するものについて,独立請求項に改め,
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形する複合材料の製造方法であって,補強用繊維が不連続繊維を主とするものであり,構造体中において不連続繊維がランダムに配向していることを特徴とする複合材料の製造方法。」
に訂正する。
サ 特許請求の範囲の請求項12に
「構造体中において不連続繊維がランダムに配向している」
とあるのを,
「構造体中において不連続繊維がランダムに配向しており,繊維長が3~100mmの不連続の繊維がランダムに配向したランダムマットである」
に訂正する。
シ 特許請求の範囲の請求項13を削除する。
ス 特許請求の範囲の請求項11に
「補強用繊維の一部が一方向性繊維シートである請求項1~10のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。」
とあるうち,請求項2を引用するものについて,独立請求項に改め,
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該マトリックス樹脂がカルボジイミドを含有し,カルボジイミドが下記化学式(1)で示される構造である繊維マトリックス構造体を,プレス成形する複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。
【化1】
(構造式は省略)
(式中,Qは,脂肪族基,脂環族基,芳香族基またはこれらの組み合わせである2~4価の結合基であり,ヘテロ原子を含有していてもよい。)」
に訂正し,新たに請求項14とする。
セ 特許請求の範囲の請求項11に
「補強用繊維の一部が一方向性繊維シートである請求項1~10のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。」
とあるうち,請求項8を引用するものであって,請求項8が請求項6を引用し,請求項6が請求項1を引用するものについて,独立請求項に改め,
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形し,プレス成形における金型温度が170℃以下のコールドプレスであり,コールドプレス前にあらかじめ予備プレス成形を行う複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。」
に訂正し,新たに請求項15とする。
ソ 特許請求の範囲の請求項11に
「補強用繊維の一部が一方向性繊維シートである請求項1~10のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。」
とあるうち,請求項9を引用するものであって,請求項9が請求項1を引用するものについて,独立請求項に改め,
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形し,補強用繊維が炭素繊維である複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。」
に訂正し,新たに請求項16とする。
タ 特許請求の範囲の請求項11に
「補強用繊維の一部が一方向性繊維シートである請求項1~10のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。」
とあるうち,請求項10を引用するものであって,請求項10が請求項1を引用するものについて,独立請求項に改め,
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形し,補強用繊維が不連続繊維を主とするものである複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。」
に訂正し,新たに請求項17とする。
2 訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項アについて
訂正事項アは,訂正前の請求項1に係る発明は,プレス成形前の「マトリックス樹脂」の形状について特定されていなかったものを,訂正後に「プレス工程前にマトリックス樹脂が粒状またはフィルム状であり」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項アは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項アは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2) 訂正事項イについて
訂正事項イは,訂正前の請求項1に係る発明は,プレス成形前の「繊維マトリックス構造体」の形状について特定されていなかったものを,訂正後に「シート状の繊維マトリックス構造体を」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項イは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項イは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3) 訂正事項ウについて
訂正事項ウは,訂正前の請求項2に係る発明は,プレス成形前の「マトリックス樹脂」の形状について特定されていなかったものを,訂正後に「プレス工程前にマトリックス樹脂が粒状またはフィルム状であり」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項ウは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項ウは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4) 訂正事項エについて
訂正事項エは,訂正前の請求項2に係る発明は,プレス成形前の「繊維マトリックス構造体」の形状について特定されていなかったものを,訂正後に「シート状の繊維マトリックス構造体を」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項エは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項エは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5) 訂正事項オについて
訂正事項オは,訂正前の請求項8に係る発明は,コールドプレス成形前の「繊維マトリックス構造体」の構成について特定されていなかったものを,訂正後に「繊維マトリックス構造体が,補強用短繊維と粒状物又はフィルム状物の形状を有するポリエステル系樹脂からなる混合物を用いて構造体とするものであり,コールドプレス前に」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項オは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項オは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(6) 訂正事項カについて
訂正事項カは,訂正前の請求項8に係る発明は,コールドプレス成形前であって予備プレス成形後の「繊維マトリックス構造体」の形状について特定されていなかったものを,訂正後に「あらかじめ予備プレス成形を行い板状とする」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項カは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項カは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(7) 訂正事項キについて
訂正事項キは,訂正前の請求項9に係る発明は,「複合材料」の等方性,異方性についてなんら特定されていなかったものを,訂正後に「補強用繊維が炭素繊維であり,等方性の複合材料である」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項キは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項キは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(8) 訂正事項クについて
訂正事項クは,訂正前の請求項10に係る発明は,補強用繊維に関して「補強用繊維が不連続繊維を主とするものであり」としか特定されていなかったものを,訂正後に「補強用繊維が不連続繊維を主とするものであり,繊維束で存在するものと,それ以外の開繊された繊維を含むランダムマットである」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項クは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項クは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(9) 訂正事項ケについて
訂正事項ケは,訂正前の請求項11が請求項1乃至10を引用する記載であったものを,請求項2乃至10を引用しないものとした上で,請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして,当該訂正事項ケは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(10) 訂正事項コについて
訂正事項コは,訂正前の請求項12が請求項10又は請求項11を引用する記載であったものを,請求項11を引用しないものとした上で,請求項10(請求項1を引用する請求項10)を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして,当該訂正事項コは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(11) 訂正事項サについて
訂正事項サは,訂正前の請求項12に係る発明は,「構造体中において不連続繊維がランダムに配向している」としか特定されていなかったものを,訂正後に「構造体中において不連続繊維がランダムに配向しており,繊維長が3~100mmの不連続の繊維がランダムに配向したランダムマットである」との記載により特定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項サは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,当該訂正事項サは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(12) 訂正事項シについて
訂正事項シは,訂正前の請求項13を削除するというものであるから,当該訂正事項シは,特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものである。
そして,当該訂正事項シは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(13) 訂正事項スについて
訂正事項スは,訂正前の請求項11が請求項1乃至10を引用する記載であったものを,請求項1,請求項3乃至10を引用しないものとした上で,請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして,当該訂正事項スは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(14) 訂正事項セについて
訂正事項セは,訂正前の請求項11が請求項1乃至10を引用する記載であったものを,請求項1乃至6,請求項7,9,10を引用しないものとした上で,請求項8(請求項1を引用する請求項6を引用する請求項8)を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして,当該訂正事項セは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(15) 訂正事項ソについて
訂正事項ソは,訂正前の請求項11が請求項1乃至10を引用する記載であったものを,請求項1乃至8,請求項10を引用しないものとした上で,請求項9(請求項1を引用する請求項9)を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして,当該訂正事項ソは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(16) 訂正事項タについて
訂正事項タは,訂正前の請求項11が請求項1乃至10を引用する記載であったものを,請求項1乃至9を引用しないものとした上で,請求項10(請求項1を引用する請求項10)を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号を目的とする訂正である。
そして,当該訂正事項タは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(17) 一群の請求項
訂正事項ア~タは,一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり,本件訂正請求による訂正は適法であるので,本件特許の請求項1~17に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明17」という。)は,平成28年3月15日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,プレス工程前にマトリックス樹脂が粒状またはフィルム状であり,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である,シート状の繊維マトリックス構造体を,プレス成形することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項2】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,プレス工程前にマトリックス樹脂が粒状またはフィルム状であり,該マトリックス樹脂がカルボジイミドを含有し,カルボジイミドが下記化学式(1)で示される構造である,シート状の繊維マトリックス構造体を,プレス成形することを特徴とする複合材料の製造方法。
(式中,Qは,脂肪族基,脂環族基,芳香族基またはこれらの組み合わせである2~4価の結合基であり,ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項3】
ポリエステル系樹脂が,ポリエステル共重合体である請求項2記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂が,ポリブチレンテレフタレート成分を主とするものである請求項1~3いずれか1項記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
マトリックス樹脂が,カルボジイミドを含有する請求項1記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
プレス成形における金型温度が170℃以下のコールドプレスである請求項1~5のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
プレス成型時の繊維マトリックス構造体の温度がマトリックス樹脂の融点以上である請求項1~6のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。
【請求項8】
繊維マトリックス構造体が,補強用短繊維と粒状物又はフィルム状物の形状を有するポリエステル系樹脂からなる混合物を用いて構造体とするものであり,コールドプレス前にあらかじめ予備プレス成形を行い板状とする請求項6または7記載の複合材料の製造方法。
【請求項9】
補強用繊維が炭素繊維であり,等方性の複合材料である請求項1~8のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。
【請求項10】
補強用繊維が不連続繊維を主とするものであり,繊維束で存在するものと,それ以外の開繊された繊維を含むランダムマットである請求項1~9のいずれか1項記載の複合材料の製造方法。
【請求項11】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形する複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項12】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形する複合材料の製造方法であって,補強用繊維が不連続繊維を主とするものであり,構造体中において不連続繊維がランダムに配向しており,繊維長が3~100mmの不連続の繊維がランダムに配向したランダムマットであることを特徴とする複合材料の製造方法。」
【請求項13】(削除)
【請求項14】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,プレス工程前にマトリックス樹脂が粒状またはフィルム状であり,該マトリックス樹脂がカルボジイミドを含有し,カルボジイミドが下記化学式(1)で示される構造である繊維マトリックス構造体を,プレス成形する複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。
(式中,Qは,脂肪族基,脂環族基,芳香族基またはこれらの組み合わせである2~4価の結合基であり,ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項15】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形し,プレス成形における金型温度が170℃以下のコールドプレスであり,コールドプレス前にあらかじめ予備プレス成形を行う複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項16】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形し,補強用繊維が炭素繊維である複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項17】
結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,プレス成形し,補強用繊維が不連続繊維を主とするものである複合材料の製造方法であって,補強用繊維の一部が一方向性繊維シートであることを特徴とする複合材料の製造方法。」
第4 取消理由
平成28年1月13日付けで通知した取消理由は,本件特許の請求項1,4,9,10,12,13に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明4」,「本件発明9」,「本件発明10」,「本件発明12」,「本件発明13」という。)は,下記刊行物1に記載されているか,下記刊行物1に記載の発明及び周知技術に基いてこの発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1,4,9,10,12,13に係る特許は,特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものであって取り消すべきであり,本件特許の請求項2~10,12~13に係る発明(以下、同様に「本件発明2~10」,「本件発明12~13」という。)は,下記刊行物1に記載の発明及び刊行物2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明2~10,12~13に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって取り消すべきである。
刊行物1 : 特開2002-356611号公報(異議申立人の証拠方法である甲第19号証)
刊行物2 : 国際公開2010/071213号(異議申立人の証拠方法である甲第16号証)
第5 当合議体の判断
以下述べるように,本件発明1及び4は,取消理由で通知した刊行物1に記載された発明であるか,刊行物1に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものであって取り消されるべきものであり,また,本件発明2,3,5ないし9は,取消理由で通知した刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反して,あるいは,刊行物1に記載された発明及び刊行物2の記載事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって取り消されるべきものであり,その余の本件発明10ないし12,14ないし17には取消理由はない。
また,請求項13は,本件訂正請求により削除され,異議申立ての対象が存在しないこととなったので,当該請求項13に対する異議申し立てを却下する。
1 本件発明1について
(1)刊行物
刊行物1: 特開2002-356611号公報(異議申立人の証拠方法である甲第19号証)
(2)刊行物の記載事項
本件の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開2002-356611号(以下,「引用文献A」という。)には,以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 (A)ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を含むポリブチレンテレフタレート系樹脂であって,全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3~30mol%であるポリブチレンテレフタレート系樹脂30~95重量部,(B)ポリカーボネート樹脂1~30重量部,(C)エラストマ1~30重量部,(D)繊維状強化材3~60重量部からなり,前記(A)~(D)の合計量が100重量部であるポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】 前記(A)~(D)の合計量100重量部に対し,(E)シリコーン化合物を0.1~5重量部添加配合してなる請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】 前記(E)のシリコーン化合物が,25℃で測定した粘度が10000mm2 /s以下であり,かつ,分子量800以下の低分子シロキサンを1000ppm以下含有するジメチルシリコーンオイルである請求項2記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】 前記(C)のエラストマが,エチレンに,炭素数3以上のα-オレフィン,α,β不飽和酸およびそのアルキルエステルから選択された1種類以上の共単量体を共重合させてなるエチレン系共重合体である請求項1~3いずれか記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】 前記(D)の繊維状強化材が,ガラス繊維又はワラステナイトである請求項1~4のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】 インサート成形に用いられる,請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項7】 請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物よりなるインサート成形品。
」(特許請求の範囲の請求項1~7)
イ 「【産業上の利用分野】本発明は,ポリエステル系樹脂組成物およびその成形品に関し,さらに詳しくは,耐薬品性,中でもアルカリ溶液に対する耐性に優れ,かつ,機械的強度に優れたポリエステル系樹脂組成物,および該樹脂組成物を金属インサート成形した成形品に関する。」(【0001】)
ウ 「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,耐アルカリ性に優れ,かつ,機械的強度にも優れたポリエステル系樹脂組成物,並びにその組成物を用いたインサート成形品を提供することにある。」(【0011】)
エ 「本発明の(D)繊維状強化材(以下,(D)成分))としては,ガラス繊維,ワラステナイト,チタン酸カリウムウィスカ,酸化亜鉛ウィスカ,炭素繊維,アルミナ繊維,炭化珪素繊維,セラミック繊維,アスベスト繊維,石コウ繊維,金属繊維などが挙げられ,好ましい例としてガラス繊維,ワラステナイトが挙げられる。
さらに,これら繊維状充填材をシラン系,エポキシ系あるいはチタネート系などのカップリング剤で予備処理して使用することは,機械的強度などの面からより好ましい。
本発明で用いられる(D)成分の添加配合量は,流動性と機械的強度のバランスから,(A)~(D)成分の合計量100重量部に対して3~60重量部の範囲であり,10~40重量部の範囲がより好ましい。」(【0025】~【0027】)
オ 「本発明の樹脂組成物は,射出成形,押出成形,ブロー成形,トランスファー成形,真空成形など一般に熱可塑性樹脂の公知の成形方法により成形されるが,なかでも射出成形が好ましい。
本発明のポリエステル系樹脂組成物は,耐アルカリ性と機械的強度に優れた樹脂組成物であり,かかる特性を活かして,金属をインサート成形した成形品,自動車搭載部品,セメントに埋め込んで使用される成形品に有用である。
具体的な用途としては,電磁バルブ,センサー,エンジンコントロールユニット,イグニッションコイルなどの電装部品,セメント接合時具等の建設部品などが挙げられる。」(【0042】~【0044】)
(3) 引用文献Aに記載された発明
引用文献Aには,上記(2)アの請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物を成形材料として成形する具体的な成形方法として,上記(2)オの記載から,当該組成物から成形された成形品が実質的に記載されているといえるから,次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「(A)ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を含むポリブチレンテレフタレート系樹脂であって,全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3~30mol%であるポリブチレンテレフタレート系樹脂30~95重量部,(B)ポリカーボネート樹脂1~30重量部,(C)エラストマ1~30重量部,(D)繊維状強化材3~60重量部からなり,前記(A)~(D)の合計量が100重量部であるポリエステル系樹脂組成物を射出成形,押出成形,ブロー成形,トランスファー成形,真空成形など一般に熱可塑性樹脂の公知の成形方法により成形する成形品の製造方法。」
(4) 対比・判断
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を含むポリブチレンテレフタレート系樹脂であって,全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3~30mol%であるポリブチレンテレフタレート系樹脂」は,本件特許の明細書の「ここで本発明においては,マトリックスに用いられる樹脂としては,結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするものであることが必要である。・・・このような結晶化温度のポリエステル系樹脂とするためには,共重合体であることが好ましい。」(4頁32~41行)の記載及び同じく本件特許の明細書5頁24~26行,同頁34~39行,実施例1~4,比較例1の記載から,本件発明1の「テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分を含有する」「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂」に相当する。
引用発明の「繊維状強化剤」は,本件発明1の「補強用繊維」に相当する。
そして,引用発明の「成形品」は,本件発明1の「複合材料」に相当することも明らかである。
そうすると,本件発明1と引用発明とは
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,該ポリエステル系樹脂がテレフタル酸成分およびイソフタル酸成分を含有する共重合体樹脂である繊維マトリックス構造体を,成形する複合材料の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点1>
プレス工程前のマトリックス樹脂に関し,本件発明1は「粒状またはフィルム状」と特定するのに対し,引用発明は,この点を特定しない点。
<相違点2>
繊維マトリックス構造体の形状及び複合材料(成形品)の成形方法に関し,本件発明1は繊維マトリックス構造体の形状を「シート状」とし,成形方法を「プレス成形する」と特定するのに対し,引用発明は繊維マトリックス構造体の形状は特定せず,成形方法は「射出成形,押出成形,ブロー成形,トランスファー成形,真空成形など一般に熱可塑性樹脂の公知の成形方法により成形する」ものである点。
以下,相違点について検討する。
相違点1について
本件発明1の「プレス工程前」の「マトリックス樹脂」は,プレス工程に供する原料としてのマトリックス樹脂と解されるから,原料樹脂の形態も包含するものとなる。そうすると,一般的なプレス工程に供される樹脂は,ペレット形状で供給されるものであって,ペレット形状は粒状であるから,引用発明においても,マトリックス樹脂は粒状物として供給されているといえ,相違点1は実質上の相違点ではない。
相違点2について
引用発明において具体的な例示はされていないが,成形方法としてシート状物を用いたプレス成形は,熱可塑性樹脂の一般的な成形方法(要すれば,特開平5-220746号公報(甲第1号証),国際公開第2007/097436号(甲第5号証),国際公開第2012/117593号(甲第6号証)参照)といえるから,相違点2は,実質的な相違点でない。仮に,実質的な相違点であったとしても,当業者であれば想到容易である。
その効果について検討する。
本件明細書においては,プレス成形時の金型充填率が確認されている。しかし,当該金型充填率は,繊維マトリクス構造体として,ランダムマットを利用した繊維マトリクス構造体をプレス成形した場合の効果であって,本件発明1の押出成形により成形されたフィルム状をも包含する繊維マトリクス構造体のプレス成形において奏される効果とはいえないから,当該効果は,本件発明1として特定されている発明の特有の効果とはいえない。
したがって,本件発明1は,引用発明と同一である。そうでないとしても,引用発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 本件発明2について
(1)刊行物
刊行物1: 特開2002-356611号公報(上記1(1)での引用文献A)
刊行物2: 国際公開2010/071213号(異議申立人の証拠方法である甲第16号証)
(2)刊行物の記載事項と引用発明
引用文献Aには,上記1(2)の記載内容及び上記1(3)の引用発明が記載されている。そして,本件の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である国際公開2010/071213号(以下,「引用文献B」という。)には,以下の事項が記載されている。
ア 「1.ポリエステル(A成分),およびカルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を含む化合物(B成分)を含有する樹脂組成物。
3.B成分の環状構造が,下記式(1)で表される請求項1記載の樹脂組成物。
(イメージ省略) (1)
(式中,Qは,脂肪族基,脂環族基,芳香族基またはこれらの組み合わせである2~4価の結合基であり,ヘテロ原子,置換基を含んでいてもよい。)」(特許請求の範囲の請求項1,3)
イ 「背景技術
カルボジイミド化合物をカルボキシル基などの酸性基を末端に有する高分子化合物の末端封止剤として用い,高分子化合物の加水分解を抑制することは既に提案されている(特許文献1および2)。」(明細書1頁9~12行)
ウ 「<成形品>
本発明の樹脂組成物よりなる成形品は,射出成形,押し出し成形,真空,圧空成形およびブロー成形等により成形できる。成形品として,ペレット,繊維,布帛,繊維構造体,フィルム,シート,シート不織布などが挙げられる。」(明細書63頁6~9行)
エ 「発明の効果
本発明によれば,イソシアネート化合物を遊離させず,環状カルボジイミド化合物により,ポリエステルの末端を封止することができる。その結果,遊離のイソシアネート化合物による悪臭の発生を抑制することができ作業環境を向上させることができる。
また,環状カルボジイミド化合物により,ポリエステルの末端を封止すると,ポリエステルの末端にイソシアネート基が形成され,そのイソシアネート基の反応により,ポリエステルの高分子量化が可能となる。また環状カルボジイミド化合物は,ポリエステル中の遊離単量体やその他酸性基を有する化合物を捕捉する作用も有する。さらに本発明によれば,環状カルボジイミド化合物は,環状構造を有することにより,線状カルボジイミド化合物に比較して,より温和な条件で,末端封止できる利点を有する。」(明細書79頁1~13行)
(3) 本件発明2と引用発明との対比・判断
本件発明2と引用発明とを対比すると,上記1(4)の対比のとおりであるから,
「結晶化温度が185℃以下のポリエステル系樹脂を主とするマトリックス樹脂と補強用繊維とからなる繊維マトリックス構造体であって,繊維マトリックス構造体を,プレス成形することを特徴とする複合材料の製造方法。」の点で一致し,上記1(4)に記載の相違点1及び2に加えて下記の相違点3で相違する。
<相違点3>
繊維マトリクス構造体に関し,本件発明2は「該マトリックス樹脂がカルボジイミドを含有し,カルボジイミドが下記化学式で示される構造である
(式中,Qは,脂肪族基,脂環族基,芳香族基またはこれらの組み合わせである2~4価の結合基であり,ヘテロ原子を含有していてもよい。)」
と特定するのに対して,引用発明は,この点を特定しない点。
以下,相違点について検討する。
相違点1及び2については,上記1(4)のとおりであって,実質上の相違点ではないか,そうでなくとも当業者であれば想到容易である。
相違点3について
引用文献Bの上記(2)ア~エには,ポリエステル樹脂組成物に対して下記で表される環状構造を有するカルボジイミド化合物
を含有することで,ポリエステルの末端を封止すること(加水分解を抑制)ができ,遊離のイソシアネート化合物による悪臭の発生を防止でき,また,ポリエステルの高分子量化が可能とできることが記載されている。
また,ポリエステル樹脂の成形品において,ポリエステルの加水分解の抑制を図ることは明記はなくとも当業者が常に考慮している技術事項といえる(要すれば,特開平5-220746号公報(甲第1号証)の【0013】参照)。
してみれば,引用発明のポリエステルの成形品においても,ポリエステルの加水分解を抑制するために,引用文献Bに記載の技術を採用することは,当業者であれば想到容易である。
そして,そのことによる効果についても,引用文献Bの記載から当業者が予測し得たことであって格別のものとはいえない。
以上のことから,本件発明2は,引用発明および引用文献Bの記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件発明3について
(1) 本件発明3と引用発明との対比・判断
本件発明3は,本件発明2を引用する発明であって,当該本件発明3で特定する「ポリエステル系樹脂が,ポリエステル共重合体である」点は,引用発明における「ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体」はポリエステル共重合体であるから,引用発明との間で新たな相違点とはならない。
そうすると,本件発明3と引用発明との対比・判断は,上記2での検討のとおりであって,本件発明3は,引用発明および引用文献Bに記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 本件発明4について
(1) 本件発明4と引用発明との対比・判断
本件発明4は,本件発明1~3を引用する発明であって,当該本件発明4で特定する「ポリエステル系樹脂が,ポリブチレンテレフタレート成分を主とするものである」点は,引用発明においてもポリブチレンテレフタレートを主とするものといえるから,引用発明との間で新たな相違点とはならない。
そうすると,本件発明4と引用発明との対比・判断は,上記1ないし3での検討のとおりであって,本件発明4は,引用文献Aに記載された発明である。そうでないとしても,引用発明および周知技術に基いて,あるいは,引用発明および引用文献Bの記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 本件発明5について
(1) 本件発明5と引用発明との対比・判断
本件発明5と引用発明とを対比すると,上記1(4)での検討のとおりであって,上記1(4)の相違点1及び2に加えて以下の点で相違する。
<相違点4>
ポリエステル樹脂組成物に関し,本件発明5は「カルボジイミドを含有する」と特定するのに対して,引用発明はこの点を特定しない点。
以下,相違点について検討する。
相違点1及び2については,上記1(4)で検討のとおりである。
相違点4については,引用文献Bの記載(上記2(2)ア~エ参照)及びポリエステル樹脂の成形品において,ポリエステルの加水分解の抑制を図ることは明記はなくとも当業者が常に考慮している技術事項といえる(上記2(3)の相違点3において提示した文献参照)ことから,引用発明のポリエステルの成形品においても,ポリエステルの加水分解を抑制するために,カルボジイミドを配合することは,当業者であれば想到容易である。
そして,そのことによる効果についても,引用文献Bの記載から当業者が予測し得たことであって格別のものとはいえない。
以上のことから,本件発明5は,引用発明および引用文献Bの記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 本件発明6及び7について
(1) 本件発明6及び7と引用発明との対比・判断
本件発明6及び7において特定している事項は,プレス成形において周知の事項であるから(本件異議申立書に添付された甲1~4,6,8参照),この点は周知技術に基づいて当業者であれば想到容易である。
そうすると,本件発明6及び7と引用発明とを対比すると,上記1(4),上記2(3),上記4,5に記載のとおりであって,本件発明6及び7は,引用発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。あるいは,引用発明および周知技術並びに引用文献Bの記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7 本件発明8について
(1) 本件発明8と引用発明との対比・判断
本件発明8は,本件発明6又は7を,さらに「繊維マトリックス構造体が,補強用短繊維と粒状物又はフィルム状物の形状を有するポリエステル系樹脂からなる混合物を用いて構造体とするもの」及び「コールドプレス前にコールドプレス前にあらかじめ予備プレス成形を行い板状とする」ことを特定するものである。
これらの事項は,繊維マトリクス構造体として,及び,プレス成形において,周知技術であるから,当業者が周知技術に基いて容易に想到し得たことである。そして,そのことによる効果は,当業者が予測し得たことであって格別のものとはいえない。
そうすると,その余の点は上記6に記載のとおりであって,本件発明8は,引用発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。あるいは,引用発明および周知技術並びに引用文献Bの記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
8 本件発明9について
(1) 本件発明9と引用発明との対比・判断
本件発明9において特定している事項は,複合材料としては周知の事項であるから,この点は周知技術に基いて当業者であれば想到容易である。
そうすると,本件発明9と引用発明とを対比すると,上記1(4),上記2(3),上記3~7に記載のとおりであって,本件発明9は,引用発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。あるいは,引用発明および周知技術並びに引用文献Bの記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
9 本件発明10について
(1) 本件発明10と引用発明との対比・判断
本件発明10と引用発明とを対比すると,上記相違点1ないし4に加えて少なくとも以下の点で相違する。
<相違点5>
補強用繊維に関し,本件発明10においては,「補強用繊維が不連続繊維を主とするものであり,繊維束で存在するものと,それ以外の開繊された繊維を含むランダムマットである」と特定するのに対し,引用発明においては,この点を特定しない点。
以下,相違点5について検討する。
引用文献Aにおいて,補強用繊維は,「繊維状強化材(以下,(D)成分))としては,ガラス繊維,ワラステナイト,チタン酸カリウムウィスカ,酸化亜鉛ウィスカ,炭素繊維,アルミナ繊維,炭化珪素繊維,セラミック繊維,アスベスト繊維,石コウ繊維,金属繊維などが挙げられ,好ましい例としてガラス繊維,ワラステナイトが挙げられる。」(上記1(2)エ)と記載されるとともに,すべての実施例においてガラス繊維のチョップドストランドを利用したものしか記載されていない。
そして,補強用繊維として不連続繊維を主とするランダムマットについては周知といえても,不連続繊維を主とするものであり,繊維束で存在するものと,それ以外の開繊された繊維を含むランダムマットは,異議申立人が提示するいずれの証拠にも示されていない。
さらに,本件特許の明細書には,補強用繊維として「不連続繊維を主とするものであり,繊維束で存在するものと,それ以外の開繊された繊維を含むランダムマット」を利用した本件発明10の製造方法で複合材料を製造すると,プレス成形時の金型充填率が向上することが示されている。
そうすると,引用発明における補強用繊維を「補強用繊維が不連続繊維を主とするものであり,繊維束で存在するものと,それ以外の開繊された繊維を含むランダムマット」とすることは,当業者においても想到容易ということはできない。
以上のことから,本件発明10は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
10 本件発明11について
(1) 本件発明11と引用発明との対比・判断
本件発明11と引用発明とを対比すると,上記1(4)に記載の相違点1及び2に加えて,以下の点で相違する。
<相違点6>
補強用繊維に関し,本件発明11においては,「一部が一方向性繊維シートである」と特定するのに対し,引用発明においては,この点について特定しない点。
以下,相違点6について検討する。
引用文献Aにおける補強用繊維に関する記載は,上記9(1)に記載のとおりであって,引用文献Aにおける補強用繊維は組成物に配合される充填剤として利用されているものである。
そうすると,引用発明における補強用繊維を「一部が一方向性繊維シート」とすることは,当業者においても想到容易ということはできない。
以上のことから,本件発明11は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
11 本件発明12について
本件発明12と引用発明とを対比すると,上記1(4)に記載の相違点1及び2に加えて,以下の点で相違する。
<相違点7>
補強用繊維に関し,本件発明12においては,「繊維長が3~100mmの不連続の繊維がランダムに配向したランダムマット」であって,「構造体中において不連続繊維がランダムに配向している」と特定するのに対し,引用発明においては,この点について特定しない点。
以下,相違点7について検討する。
引用文献Aにおける補強用繊維に関する記載は,上記9(1)に記載のとおりであって,引用文献Aにおける補強用繊維は組成物に配合される充填剤として利用されているものである。
そうすると,引用発明における補強用繊維を「繊維長が3~100mmの不連続の繊維がランダムに配向したランダムマット」とすることは,当業者においても想到容易ということはできない。
以上のことから,本件発明12は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
12 本件発明14について
本件発明14と引用発明とを対比すると,上記2(3)に記載の相違点1ないし3に加えて,上記10(1)に記載の相違点6で相違している。そして当該相違点6は上記10(1)に記載のとおり想到容易とはいえない。
そうすると,本件発明14は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
12 本件発明15~17について
本件発明15~17と引用発明とを対比すると,上記1(4)に記載の相違点1及び2に加えて,少なくとも上記10(1)に記載の相違点6で相違している。そして当該相違点6は,上記10(1)に記載のとおり想到容易とはいえない。
そうすると,本件発明15~17は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 むすび
したがって,本件発明1,4については,引用文献Aに記載された発明であるから,本件発明1,4に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当しているから,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。また,本件発明1~9については,引用文献Aに記載された発明及び引用文献Bの記載事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1~9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。
また,当審の平成28年1月28日付け取消理由並びに異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠方法によっては,本件発明10~12,14~17に係る特許を取り消すことができない。さらに,本件発明10~12,14~17に係る特許が特許法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
さらに,本件発明13に係る特許は,訂正により,削除されたため,本件特許の請求項13に対して,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2015-700193