特許異議申立
2025-700001
シート、プリント基板用基材及びシートの製造方法
- 審判番号
- 2025-700001
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-102179
- 登録番号
- 7503597
- 請求日
- 2024年12月20日
- 審決日
- 2025年08月20日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ニチアス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人平和国際特許事務所
- 【異議申立人】早川 利子
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7503597号発明「シート、プリント基板用基材及びシートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7503597号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。
特許第7503597号の請求項1ないし4及び6ないし11に係る特許を維持する。
特許第7503597号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7503597号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和4年6月24日の出願であって、令和6年6月12日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月20日に特許異議申立人 早川 利子(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされ、令和7年3月13日付けで取消理由が通知され、同年5月14日に特許権者 ニチアス株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月26日に同年同月14日に提出された訂正請求書及び意見書それぞれを補正する手続補正書(方式)が提出され、同年同月30日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月4日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年5月26日に提出された手続補正書(方式)により補正された同年同月14日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 下記成分(A)~(B)を含むシートであって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの破断伸び率が150%超であり、
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり、
前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下である、シート。」と記載されているのを、
「 下記成分(A)~(B)を含むシートであって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの破断伸び率が150%超であり、
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり、
前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下であり、
前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である、シート。」に訂正する。併せて、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし4及び6ないし11も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「シート」の「熱膨張率」に関する限定を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2ないし4及び6ないし11についての訂正について
訂正事項1による請求項2ないし4及び6ないし11についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2ないし4及び6ないし11についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項5についての訂正について
訂正事項2による請求項5についての訂正は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし11についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2による請求項1ないし11についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし11は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項1ないし11についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議申立人からの特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし11に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記成分(A)~(B)を含むシートであって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの破断伸び率が150%超であり、
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり、
前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下であり、
前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である、シート。
【請求項2】
前記充填材の配合割合が、20~50体積%である、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は変性PTFEである、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
前記充填材が、アルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、及びマイカからなる群から選択される一以上である、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
請求項1又は2に記載のシートを含むプリント基板用基材。
【請求項7】
下記成分(A’)~(B)を混合して原料組成物を調製する工程と、
前記原料組成物を円筒形に成形した成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼成する工程と、
前記焼成された成形体の表面をスカイブ加工してシート状に形成する工程と、を含む、請求項1に記載のシートの製造方法。
(A’)前記シートの所定厚さに対して、50%以下の平均粒子径であるフッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
【請求項8】
前記フッ素樹脂粒子の平均粒子径が、0.1~10μmである、請求項7に記載のシートの製造方法。
【請求項9】
前記充填材の配合割合が、20~50体積%である、請求項7又は8に記載のシートの製造方法。
【請求項10】
前記原料組成物を調製する工程が、前記(A’)前記シートの所定厚さに対して、50%以下の平均粒子径であるフッ素樹脂及び前記(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材とを溶媒中に分散させた原料含有溶液から前記溶媒を除去することを含む、請求項7又は8に記載のシートの製造方法。
【請求項11】
前記原料組成物を調製する工程が、前記(A’)前記シートの所定厚さに対して、50%以下の平均粒子径であるフッ素樹脂と前記(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材とを乾式混合する工程である、請求項7又は8に記載のシートの製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和6年12月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4及び6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし6は、甲第1号証に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明7及び11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし3、5、6及び8ないし10は、甲第2号証に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし11に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明の課題は、「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートを提供すること」(段落0007)である。詳細には、低熱膨張性を改善するために、従前より充填材を配合することが実施されているが、伸び特性とともに(且つ)、この低熱膨張性の改善をすることまでは容易でなかったことが、本件特許発明の解決しようとする課題である(段落0003~段落0006)。すなわち、「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ」ることは、本件特許発明において欠かすことのできない必須課題である。
ここで、独立形式の請求項である請求項1(本件特許発明1)と請求項7(本件特許発明7)について検討するに、(1)充填材の種類の限定がなく、(2)充填材の配合割合の限定がない。PTFEに充填材を配合して熱膨張係数を下げようとする場合、充填材の種類によってはこれを達成できないことは技術常識である。
例えば、甲第4号証(ニチアス ナフロン素材カタログ(2019年 8月改訂版))の16~17頁の表によれば、純PTFE(充填剤を含んでいないPTFE)と比較して、MD(成形加工に平行方向)では充填材の種類によって、線膨張係数が純PTFEよりも大きくなるものがあることが理解できる(例えば、カーボンファイバーなど)。また、この表にはないが、線膨張係数がPTFE樹脂と同等か、または、PTFE樹脂よりも大きい樹脂粉末のような充填材を含む場合には、当然に上記課題を達成できないといえる。
また、甲第4号証の16~17頁のGR15とGR30との対比等、同充填材であっても、その配合量により、線膨張係数が大きく影響を受けることも技術常識である。
本件明細書では、それ自体の熱膨張率がPTFEよりも小さく、配合することで熱膨張率を下げることが期待できる「球状シリカ」を多量に配合することで(体積比でPTFE粒子:球状シリカ=6:4)、熱膨張率を大きく下げる結果を得ているが、それ以外の種類の充填材や、充填材の配合量について、具体的な結果の記載はない。このため、いずれの充填材を配合する場合において、熱膨張率がどのような傾向を示すか等の示唆もない。
よって、本件明細書と出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1と本件特許発明7に係る発明の全範囲にまで、特に充填材の種類の限定がない範囲にまで、発明の詳細な説明に記載した内容を拡張ないし一般化することはできない。従属項に係る本件特許発明2~6、本件特許発明8~11についても同様である。
以上より、本件特許発明1~11は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開平5-301974号公報
甲第2号証:特開2021-59697号公報
甲第3号証:特表2022-522238号公報
甲第4号証:ニチアス社 ナフロン素材カタログ、2019年8月、ニチアス株式会社
甲第5号証:ニチアス社 技術時報No.390 2020年3号、2020年7月10日、ニチアス株式会社
甲第6号証:国際公開第2021/194810号
甲第7号証:国際公開第2022/131261号
甲第8号証:特開2016-113617号公報
甲第9号証:本件意見書、2024年3月22日、出願人(特許権者)
甲第10号証:特開2019-203055号公報
甲第11号証:特開2009-44018号公報
なお、甲第11号証は令和7年7月4日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。
証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和7年3月13日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、6、7、9及び11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3、5ないし7及び9ないし11に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5ないし7及び9ないし11に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は申立理由2と重複する。
2 取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3及び6ないし11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は申立理由3に包含される。
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシート」を提供することであり、本件特許発明6の解決しようとする課題は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートを含むプリント基板用基材」を提供することであり、本件特許発明7ないし11の解決しようとする課題は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートの製造方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)
ところで、PTFEに充填材を配合して熱膨張係数を下げようとする場合、充填材の種類によっては熱膨張係数を下げられないことは技術常識である。
例えば、甲4の第16及び17ページの表によれば、純PTFE(充填材を含んでいないPTFE)と比較して、MD(成形加工に平行方向)の線膨張係数が、充填材の種類によって、純PTFE(充填材を含んでいないPTFE)よりも大きくなるものがあることが理解できる(例えば、CF10(カーボンファイバー10%)又はCF15(カーボンファイバー15%)など。)。
また、線膨張係数がPTFE樹脂と同等か、または、PTFE樹脂よりも大きい樹脂粉末のような充填材を含む場合には、当然に熱膨張係数を下げられないといえる。
他方、発明の詳細な説明においては、それ自体の熱膨張率がPTFEよりも小さく、配合することで熱膨張率を下げることが期待できる「球状シリカ」を多量に配合することで(体積比でPTFE粒子:球状シリカ=6:4)、熱膨張率を大きく下げる結果を得ているが、それ以外の種類の充填材について、具体的な結果の記載はないし、充填材の種類によって熱膨張率がどのような傾向を示すか等を示唆する記載もない。
そうすると、当業者は、それ自体の熱膨張率がPTFEよりも小さく、配合することで熱膨張率を下げることが期待できるような充填材をPTFEシートが含むこと又はPTFEシートの熱膨張率が低いことが特定されていることが、発明の課題の解決に必要であると理解する。
しかし、本件特許発明1ないし3及び6ないし11においては、充填材がそれ自体の熱膨張率がPTFEよりも小さく、配合することで熱膨張率を下げることが期待できるような充填材に特定されておらず、また、PTFEシートの熱膨張率が低いことも特定されていない。
したがって、本件特許発明1ないし3及び6ないし11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、本件特許発明1ないし3及び6ないし11に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであるとはいえない。
第6 取消理由についての当審の判断
取消理由1及び申立理由2は、対象請求項は完全には一致しないものの、同じ証拠(甲2)に基づく新規性・進歩性の理由であるから、併せて検討する。
また、取消理由2は申立理由3に包含されるから、併せて検討する。
1 取消理由1(甲2に基づく新規性・進歩性)及び申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「フッ素樹脂シート及び粘着テープ」に関しておおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
主としてフッ素樹脂から構成され、
L*a*b*表色系のL*値により表した黒色度が30以下であり、
表面抵抗率が1×1010Ω/sq以上であるフッ素樹脂シート。」
・「【請求項3】
主としてフッ素樹脂から構成され、
複合酸化物系の黒色フィラーを含有するフッ素樹脂シート。」
・「【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と記載する)をはじめとするフッ素樹脂は、高い耐熱性、耐寒性、耐薬品性、耐燃焼性、電気絶縁性及び耐候性、並びに低い摩擦係数及び誘電率といった各種の優れた物理的、化学的及び電気的特性を有している。主としてフッ素樹脂から構成されるシート(以下、「フッ素樹脂シート」と記載する)、及びフッ素樹脂シートを基材シートとして含む粘着テープ(以下、「フッ素樹脂粘着テープ」と記載する)では、フッ素樹脂に由来する上述の優れた特性が期待される。」
・「【0022】
黒色フィラー2の平均粒子径は、例えば0.05~1μmであり、0.1~0.8μm、0.15~0.6μmであってもよい。フッ素樹脂シート1に含まれる黒色フィラー2の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と記載する)によるフッ素樹脂シート1の断面の観察像を画像解析して評価できる。画像解析の際には、観察像に含まれる少なくとも200個の黒色フィラー粒子について粒子径を評価し、その平均値を黒色フィラー2の平均粒子径とすることができる。黒色フィラー2が上記範囲の平均粒子径を有する場合、フッ素樹脂シート1形成時における黒色フィラー2の分散性が特に良好であることから、黒色度及び表面抵抗率の非常に高いレベルでの両立がより確実となる。」
・「【0024】
フッ素樹脂シート1における黒色フィラー2の含有率は、例えば、フッ素樹脂100重量部に対して1重量部以上20重量部以下である。」
・「【0025】
フッ素樹脂シート1を主として構成するフッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン-ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、及びエチレン-ポリテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)から選ばれる少なくとも1種である。」
・「【0026】
フッ素樹脂シート1の厚さは、例えば1000μm以下であり、800μm以下、更には500μm以下であってもよい。フッ素樹脂シート1の厚さの下限は、例えば10μm以上である。」
・「【0033】
フッ素樹脂シート1は、フッ素樹脂、及び黒色フィラー2以外の材料を含んでいてもよい。フッ素樹脂シート1が含みうる材料は、例えば、帯電防止剤;ガラス繊維、二硫化モリブデン、ポリイミド及び芳香族ポリエステルといった充填剤;等の添加剤である。フッ素樹脂シート1が添加剤を含む場合、フッ素樹脂シート1における添加剤の含有率は、フッ素樹脂100重量部に対して、例えば60重量部以下であり、30重量部以下、25重量部以下であってもよい。
【0034】
フッ素樹脂シート1は、例えば、スマートフォン、スマートウォッチ、タブレット、ウェアラブルコンピュータをはじめとするモバイル機器等の電子機器に使用できる。より具体的には、電子機器の回路基板にフッ素樹脂シート1を使用してもよい。また、フッ素樹脂シート1が有する高い電気的特性に基づき、高周波回路、及び高電圧回路等の電気的に厳しい要求が課される電気回路への適用も視野に入れることができる。
【0035】
フッ素樹脂シート1を粘着テープの基材シートとして使用してもよい。」
・「【0037】
フッ素樹脂シート1は、例えば、フッ素樹脂の切削シート(スカイブシート)の製法に基づいて製造できる。ただし、フッ素樹脂シート1の製法は、これに限定されない。フッ素樹脂シート1のより具体的な製法の一例を、フッ素樹脂がPTFEである場合について、以下に示す。
【0038】
最初に、PTFE粉末(モールディングパウダー)と、黒色フィラー2とを十分に混合する。混合には、一般的な粉末ミキサーを利用できる。次に、得られた混合物を金型に導入し、金型内の混合物に対して所定の圧力を所定の時間加えて予備成形する。予備成形は、常温で実施できる。混合物を収容する金型の内部空間の形状は、後述の切削旋盤による切削を可能とするために円柱状であることが好ましい。この場合、円柱状のPTFEブロックを得ることができる。次に、形成された予備成形品を金型から取り出し、PTFEの融点(327℃)以上の温度で所定の時間焼成して、PTFEブロックを得る。次に、得られたPTFEブロックを所定の厚さに切削して、切削シート(スカイブシート)であるフッ素樹脂シート1を得ることができる。PTFEブロックが円柱状である場合には、ブロックを回転させながら連続的に表面を切削する切削旋盤の利用が可能となり、フッ素樹脂シート1を効率的に製造できる。また、切削旋盤によれば、製造するフッ素樹脂シート1の厚さの制御が比較的容易であり、帯状のフッ素樹脂シート1を製造することもできる。」
・「【0072】
(実施例1)
PTFE粉末(三井・デュポンフロロケミカル製、テフロン(登録商標)PTFEモールディングパウダー7A-J、平均粒径35μm)100重量部と、複合酸化物系の黒色フィラー(大日精化工業製、ダイピロキサイドBlack#9568)1重量部とを、ヘンシェルミキサーにより均一に混合した。使用した黒色フィラーは、銅、クロム及びマンガンの複合酸化物から構成され、C.I.ピグメントブラック28に該当するフィラーであった。
【0073】
次に、得られた混合物を円筒状の金型に導入し、金型内の混合物を、温度23℃、圧力60MPa、及び圧力印加時間1時間の条件で予備成形した。次に、形成された予備成形品を金型から取り出し、375℃で3時間焼成して、高さ100mm、外径50mmの円柱状であるPTFEブロックを得た。次に、得られたPTFEブロックを切削旋盤により切削して、複合酸化物系の黒色フィラーを含有する厚さ100μmのPTFEシートを得た。また、得られたPTFEシートの断面に対するSEMによる観察像(倍率10000倍)を画像解析して求めた黒色フィラーの平均粒子径は0.45μm、アスペクト比は1.3であった。画像解析の際には、観察像に含まれる少なくとも200個の黒色フィラー粒子について粒子径、及びアスペクト比を評価し、その平均値を、黒色フィラーの平均粒子径、及びアスペクト比とした。得られたPTFEシートの特性を、以下の表1に示す。
【0074】
(実施例2~6)
PTFE粉末と混合する黒色フィラーの量を以下の表1に示す量とした以外は、実施例1と同様にして、複合酸化物系の黒色フィラーを含有する厚さ100μmのPTFEシートを得た。得られたPTFEシートの特性を、以下の表1に示す。」
・「【0078】
【表1】
[図:0001429020000001.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に実施例1ないし6に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」及び「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「PTFE粉末(三井・デュポンフロロケミカル製、テフロン(登録商標)PTFEモールディングパウダー7A-J、平均粒径35μm)100重量部と、銅、クロム及びマンガンの複合酸化物系の黒色フィラー(大日精化工業製、ダイピロキサイドBlack#9568)1、3、5、10、15又は20重量部とを、ヘンシェルミキサーにより均一に混合し、次に、得られた混合物を円筒状の金型に導入し、金型内の混合物を、温度23℃、圧力60MPa、及び圧力印加時間1時間の条件で予備成形し、次に、形成された予備成形品を金型から取り出し、375℃で3時間焼成して、高さ100mm、外径50mmの円柱状であるPTFEブロックを得、次に、得られたPTFEブロックを切削旋盤により切削して得た、平均粒子径0.45μmの複合酸化物系の黒色フィラーを含有する厚さ100μmのPTFEシート。」
<甲2製法発明>
「PTFE粉末(三井・デュポンフロロケミカル製、テフロン(登録商標)PTFEモールディングパウダー7A-J、平均粒径35μm)100重量部と、銅、クロム及びマンガンの複合酸化物系の黒色フィラー(大日精化工業製、ダイピロキサイドBlack#9568)1、3、5、10、15又は20重量部とを、ヘンシェルミキサーにより均一に混合し、次に、得られた混合物を円筒状の金型に導入し、金型内の混合物を、温度23℃、圧力60MPa、及び圧力印加時間1時間の条件で予備成形し、次に、形成された予備成形品を金型から取り出し、375℃で3時間焼成して、高さ100mm、外径50mmの円柱状であるPTFEブロックを得、次に、得られたPTFEブロックを切削旋盤により切削する、平均粒子径0.45μmの複合酸化物系の黒色フィラーを含有する厚さ100μmのPTFEシートを得る方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
甲2発明における「銅、クロム及びマンガンの複合酸化物系の黒色フィラー」の「平均粒子径0.45μm」は、甲2発明における「PTFEシート」の「厚さ100μm」の20%(20μm)以下である。
これを踏まえて、本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「PTFEシート」は本件特許発明1における「シート」に相当する。
甲2発明における「PTFE粉末」は本件特許発明1における「フッ素樹脂」に相当する。
甲2発明における「銅、クロム及びマンガンの複合酸化物系の黒色フィラー」は本件特許発明1における「充填材」に相当する。
甲2発明は本件特許発明1における「前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材」及び「前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり」という発明特定事項を有している。
甲2発明は本件特許発明1における「前記シートの所定厚さが、25~300μmであり」という発明特定事項を有している。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記成分(A)~(B)を含むシートであって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmである、シート。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-1a>
本件特許発明1においては「前記シートの破断伸び率が150%超であり」と特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2-1b>
本件特許発明1においては「前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2-1c>
本件特許発明1においては「前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である」と特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-1cについて検討する。
甲2には、甲2発明における「PTFEシート」の「熱膨張率」に関する記載はなく、甲2発明における「PTFEシート」の「熱膨張率」が「100ppm/℃未満」である蓋然性が高いともいえないから、相違点2-1cは実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2発明における「PTFEシート」の「熱膨張率」を「100ppm/℃未満」にする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2発明において、「PTFEシート」の「熱膨張率」を「100ppm/℃未満」にするようにして、相違点2-1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートが提供できる。」(発明の詳細な説明の【0009】)という、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和7年7月4日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張(以下、順に「主張1」のようにいう。)する。
a 主張1
「(3-1)特許権者の主張に対する意見1
・・・(略)・・・
これらの傾向を踏まえ、甲2に記載の複合酸化物系の黒色フィラーは、アスペクト比が1.3であることから、カーボンファイバーを含むCF10やCF15を参照にするよりも、グラファイトを含むGR15やGR30を参照にすることが妥当である。
そうすると、グラファイト15重量部を含むGR15のMD方向における温度範囲25~100℃の熱膨張係数が100ppm/℃であり、グラファイト30重量部を含むGR30のMD方向における温度範囲25~100℃の熱膨張係数が80ppm/℃であるので、甲2の複合酸化物系の黒色フィラーを20重量部配合した場合のシートの熱膨張係数は、100ppm/℃未満になっている蓋然性が高いといえる。
少なくとも、「甲2において黒色フィラーを上記記載の最大量の20重量部配合したとしても、シートの熱膨張率が100ppm/℃未満にはならない。」とまではいえない。
よって、特許権者の意見書での当該主張は失当である。」(上記意見書第3ないし5ページ)
b 主張2
「(3-2)特許権者の主張に対する意見2
・・・(略)・・・
以上のとおり、電子機器の回路基板(プリント基板)に用いるフッ素樹脂シートでは、熱膨張率を小さくするという技術課題は一般的な公知の課題であり、甲2においても潜在的に有する技術課題であるといえる。
よって、「甲2は、充填材の配合量とシートの熱膨張率との関係については着目も検討もしておらず、本件発明1の奏する効果も甲2に記載の発明に基づいて当業者が容易に予測できたとは言えません。」の主張は失当である。」(上記意見書第5ないし7ページ)
c 主張3
「(3-3)特許権者の主張に対する意見3
異議申立書の(4)具体的理由(キ)などに記載のとおり、周知技術である甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証などを参酌すれば、本件出願当時における「PTFEシート」において、その熱膨張係数(熱膨張率)が100ppm/℃未満であるものは一般的であり、特に顕著なものではない。
また、本件特許の明細書の段落0007と段落0030には、下記の記載がある。・・・(略)・・・
本件特許の明細書において、熱膨張率に関して言及されている箇所は、これらの段落の記載と、実施例の測定値のみである。段落0030の「100ppm/℃未満であってもよく」との記載から、段落0007の「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ」は、特に「100ppm/℃未満」のことを意味するのではなく、それを若千超える程度も当然に含まれる範囲と把握できる。また、上記の段落の記載は勿論、実測値のある実施例の記載を踏まえても、熱膨張率に関して「100ppm/℃未満」という閾値が、課題解決などに影響を及ぼす技術的な知見は一切記載及び示唆されていない。
したがって、「100ppm/℃未満」には少なくとも臨界的な技術的意義は存在せず、また、本件出願当時における「PTFEシート」において「100ppm/℃未満」が一般的な知られた範囲である以上、「100ppm/℃未満」に係る訂正発明1の奏する効果は、当業者であれば容易に予測できたものである。
そうすれば、甲2B発明のシートにおいて、上記周知技術や甲第3号証(異議申立書の(4)具体的理由(コ))を参照して、その熱膨張率を「100ppm/℃未満」に設定することは、格別の技術的困難性は認められず、有利な効果も確認できず、当業者であれば適宜設定し得る事項であるといえる。」(上記意見書第7及び8ページ)
(イ)上記主張についての判断
そこで、上記主張について検討する。
a 主張1について
甲2発明における「黒色フィラー」は「銅、クロム及びマンガンの複合酸化物系の黒色フィラー(大日精化工業製、ダイピロキサイドBlack#9568)」であり、「カーボンファイバーを含むCF10やCF15」及び「グラファイトを含むGR15やGR30」のいずれにも該当しないから、どちらも参照することはできない。
したがって、特許権者の主張の妥当性はともかく、甲2発明における「シート」の「熱膨張係数」が「100ppm/℃未満」になっている蓋然性が高いとはいえない。
b 主張2について
電子機器の回路基板(プリント基板)に用いるフッ素樹脂シートでは、熱膨張率を小さくするという技術課題は一般的な公知の課題であり、甲2においても潜在的に有する技術課題であるといえるとしても、甲2発明において、「熱膨張係数」を「100ppm/℃未満」とする具体的な方法は、甲2を含めいずれの証拠にも記載されていない。
したがって、特許権者の主張の妥当性はともかく、甲2発明において、「熱膨張係数」を「100ppm/℃未満」とすることを当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c 主張3について
上記bのとおり、甲2発明において、「熱膨張係数」を「100ppm/℃未満」とする具体的な方法は、甲2を含めいずれの証拠にも記載されていない。
したがって、特許権者の主張の妥当性はともかく、甲2発明において、「熱膨張係数」を「100ppm/℃未満」とすることを当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3のいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明6について
本件特許発明6は本件特許発明1又は2の用途を「プリント基板用基材」に特定したものであるが、本件特許発明1又は2が上記(2)及び(3)のとおり甲2発明であるとはいえず、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明6は甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明7について
ア 対比
本件特許発明7と甲2製法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲2発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
甲2発明における「PTFE粉末(三井・デュポンフロロケミカル製、テフロン(登録商標)PTFEモールディングパウダー7A-J、平均粒径35μm)」は、平均粒径35μmであるから、「100μmのPTFEシート」の50%(50μm)以下の粒径である。
甲2製法発明における「得られた混合物を円筒状の金型に導入し、金型内の混合物を、温度23℃、圧力60MPa、及び圧力印加時間1時間の条件で予備成形し」は本件特許発明7における「前記原料組成物を円筒形に成形した成形体を形成する工程」に相当する。
甲2製法発明における「375℃で3時間焼成して、高さ100mm、外径50mmの円柱状であるPTFEブロックを得」は本件特許発明7における「前記成形体を焼成する工程」に相当する。
甲2製法発明における「得られたPTFEブロックを切削旋盤により切削」し「100μmのPTFEシートを得る」は本件特許発明7における「前記焼成された成形体の表面をスカイブ加工してシート状に形成する工程」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記成分(A)~(B)を含むシートの製造方法であって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり、
下記成分(A’)~(B)を混合して原料組成物を調製する工程と、
前記原料組成物を円筒形に成形した成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼成する工程と、
前記焼成された成形体の表面をスカイブ加工してシート状に形成する工程と、を含む、シートの製造方法。
(A’)前記シートの所定厚さに対して、50%以下の平均粒子径であるフッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-7a>
本件特許発明7においては「前記シートの破断伸び率が150%超であり」と特定されているのに対し、甲2製法発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2-7b>
本件特許発明7においては「前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下であり」と特定されているのに対し、甲2製法発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2-7c>
本件特許発明7においては「前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である」と特定されているのに対し、甲2製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-7cについて検討する。
相違点2-7cは相違点2-1cと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点2-7cは実質的な相違点である。
また、甲2製法発明において、「PTFEシート」の「熱膨張率」を「100ppm/℃未満」にするようにして、相違点2-7cに係る本件特許発明7の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明7は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートが提供できる。」という、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明7の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)本件特許発明8について
本件特許発明8は、請求項7の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7と同様に、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)本件特許発明9及び11について
本件特許発明9及び11のいずれも、請求項7の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7と同様に、甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(9)本件特許発明10について
本件特許発明10は、請求項7の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7と同様に、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(10)取消理由1及び申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3、6、7、9及び11は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし3及び6ないし11は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1ないし3及び6ないし11に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1及び申立理由2によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(サポート要件)及び申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
発明の課題は上記第5 2のとおりである。すなわち、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシート」を提供することであり、本件特許発明6の解決しようとする課題は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートを含むプリント基板用基材」を提供することであり、本件特許発明7ないし11の解決しようとする課題は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートの製造方法」を提供することである。
また、発明の詳細な説明の【0008】には「本発明によれば、以下のシート等が提供される。
1.下記成分(A)~(B)を含むシートであって、前記シートの破断伸び率が150%超である、シート。
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
2.前記シートの所定厚さが、25~300μmである、1に記載のシート。
3.前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmである、1又は2に記載のシート。
4.前記充填材の配合割合が、20~50体積%である、1~3のいずれかに記載のシート。
5.前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は変性PTFEである、1~4のいずれかに記載のシート。
6.前記充填材が、アルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、及びマイカからなる群から選択される一以上である、1~5のいずれかに記載のシート。
7.前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である、1~6のいずれかに記載のシート。
8.前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下である、1~7のいずれかに記載のシート。
9.1~8のいずれかに記載のシートを含むプリント基板用基材。
10.下記成分(A’)~(B)を混合して原料組成物を調製する工程と、
前記原料組成物を円筒形に成形した成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼成する工程と、
前記焼成された成形体の表面をスカイブ加工してシート状に形成する工程と、を含む、シートの製造方法。
(A’)前記シートの所定厚さに対して、50%以下の平均粒子径であるフッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
11.前記シートの所定厚さが、25~300μmである、10に記載のシートの製造方法。
12.前記フッ素樹脂粒子の平均粒子径が、0.1~10μmである、10又は11に記載のシートの製造方法。
13.前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmである、10~12のいずれかに記載のシートの製造方法。
14.前記充填材の配合割合が、20~50体積%である、10~13のいずれかに記載のシートの製造方法。
15.前記原料組成物を調製する工程が、前記(A’)前記シートの所定厚さに対して、50%以下の平均粒子径であるフッ素樹脂及び前記(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材とを溶媒中に分散させた原料含有溶液から前記溶媒を除去することを含む、10~14のいずれかに記載のシートの製造方法。
16.前記原料組成物を調製する工程が、前記(A’)前記シートの所定厚さに対して、50%以下の平均粒子径であるフッ素樹脂と前記(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材とを乾式混合する工程である、10~14のいずれかに記載のシートの製造方法。
17.10~16のいずれかに記載の製造方法により得られた、シート。」と記載され、同【0013】には「本発明者らは、フッ素樹脂を含むシートに充填材を配合すると、該シートの熱膨張率が低く抑えられる一方、目的とするシートの厚さに近い粒子径を有する粗大粒子が原料組成物中に存在すると、該原料組成物からなる成形体をスカイブ加工して100μm程度の薄いシート状にしたときに、該シートに貫通孔(ピンホール)が発生し、該貫通孔が原因で破断し易くなり、伸び特性が低下することを見出した。」と記載され、同【0014】には「本態様のシートは、充填材を含有することにより、熱膨張率が低く抑えられており、熱的安定性に優れる。また、本態様のシートは、破断伸び率が150%超であることにより、優れた伸び特性を有する。これにより、本態様のシートは、高い熱的安定性(低熱膨張性)を有し、かつ高い伸び特性を有する。」と記載され、同【0022】には「充填材の平均粒子径はシートの所定の厚さに対して20%以下である。充填材粒子の平均粒子径が上記範囲であれば、ピンホールの発生を抑制するのに寄与できる。」と記載され、同【0023】には「充填材の平均粒子径は、所望のシートの厚さに対して適宜選択すればよいが、例えば、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、又は1μm以上であってもよい。また、充填材の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、9μm以下、8μm以下、5μm以下、又は3μm以下であってもよい。充填材の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
充填剤の平均粒子径が上記範囲であることにより、充填材粒子同士の凝集を抑制でき、粗大粒子の割合を低減できるため、シートにおける貫通孔(ピンホール)の発生を抑制でき、優れた伸び特性が得られる。」と記載され、同【0028】には「シートの厚さは、25μm以上であることが好ましく、30μm以上、50μm以上、70μm以上、又は100μm以上であってもよい。また、シートの厚さは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下、150μm以下、又は100μm以下であってもよい。
シートの厚さが25μm以上であることで、シートとしての強度を十分に保つことができ、良好なハンドリング性が得られる。
また、シートの厚さが300μm以下であることで、十分な可撓性が得られる。」と記載され、同【0029】には「一実施形態において、シートの破断伸び率は150%超であり、」と記載され、同【0030】には「一実施形態において、シートの熱膨張率は100ppm/℃未満であってもよく、」と記載され、同【0031】には「一実施形態において、シートに存在する直径50μm以上の貫通孔(ピンホール)の数は、シートの表面積100cm2当たり25個以下が好ましく」と記載されている。すなわち、発明の詳細な説明には本件特許発明1ないし4及び6ないし11に対応する記載がある。
さらに、発明の詳細な説明の【0063】ないし【0079】には「下記成分(A)~(B)を含むシートであって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの破断伸び率が150%超であり、
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり、
前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下であり、
前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である、シート。」という条件を満たす実施例1及び2が、上記条件を満たさない比較例1及び参考例1と比べて熱的安定性に優れ、且つ伸び特性に優れていることを確認する記載がある。
そうすると、発明の詳細な説明の記載により、当業者は、「下記成分(A)~(B)を含むシートであって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの破断伸び率が150%超であり、
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり、
前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下であり、
前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である、シート」、該「シート」を含む「プリント基板用基材」及び該「シート」の「製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「シート」であるか、それをさらに限定したものであり、本件特許発明6は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「プリント基板用基材」であるか、それをさらに限定したものであり、本件特許発明7ないし11は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「製造方法」であるか、それをさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし4及び6ないし11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし4及び6ないし11に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものである。
(3)取消理由2及び申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4及び6ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由2及び申立理由3によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)、申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)のうち請求項8に対する進歩性及び申立理由3(サポート要件)のうち請求項4に対するサポート要件である。
申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)のうち請求項8に対する進歩性及び申立理由3のうち請求項4に対するサポート要件については、上記第6 1及び2で検討したとおりである。
以下、申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について検討する。
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「粒状充填剤入り複合フィルム及びその製造法」に関しておおむね次の事項が記載されている。下線は予め付されたものと当審で付したものである。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、粒状充填剤入りポリマーマトリックス複合材料(particulate filled polymer matrix composit materials)及び、その製造法、特に高度に充填されたポリマーマトリックス複合材料の薄膜に関する。」
・「【0011】
【発明の概要】粒状充填剤入りフルオロポリマーマトリックス複合物品を開示する。本物品は、フルオロポリマーマトリックスと、約10ミクロン未満の最大等積球体直径(maximum equivalent spherical diameter)を有する、マトリックス内にくまなく分散させた約95容量%以下の充填剤粒子とを含む。
【0012】別の態様に於いては、粒状充填剤入りフルオロポリマーマトリックス複合物品は、フルオロポリマーマトリックスと、充填剤粒子のいずれもが約10ミクロン以上の単一線寸法(single linear dimension)を有しない、マトリックス内にくまなく分散させた約95容量%以下の充填剤粒子とからなる。
【0013】好ましい態様に於いては、粒状充填剤入りフルオロポリマーマトリックス複合フィルムは、非-フィブリル化(non-fibrillated)フルオロポリマーマトリックスと、マトリックス内にくまなく分散させた約15容量%以上の充填剤粒子とからなる。このフィルムは、肉眼的に明らかなピンホールまたは裂け目を持たず、約2mil未満の厚さである。」
・「【0047】本発明の方法により、約2mil以下、さらに約1mil以下の厚さを有するフィルムが経済的に製造できる。本明細書中、フィルムの厚さは、“mil”(1milが0.001インチに等しい)という用語で記述する。」
・「【0064】
【実施例】
実施例1
粒状充填剤入りフルオロポリマーマトリックス複合材料の薄膜を、本発明の方法により製造した。
【0065】充填剤粒子をシランカップリング剤で前処理した。被覆シリカ粒子6重量部、水4部及び界面活性剤(Triton X-100)0.05部の混合物を12時間ボールミルにかけて水性充填剤分散液を形成した。
【0066】フルオロポリマー粒子6重量部の水4重量部中水性分散液を、以下の表1に示す充填剤量を得るのに適切な相対量の水性充填剤分散液と混合した。
【0067】ポリマーと充填剤の水性分散液の粘度を、十分量のポリアクリル酸、粘度改質剤(Acrysol ASE 75,Rohm&Haas製)を添加することにより調節し、粘度1000cpのキャスティング組成物を製造した。
【0068】粘度調節したキャスティング組成物を、ラボラトリースケールのナイフ-オーバー-プレートコート装置を使用して、2mil厚さのステンレススチール箔上にキャストした。キャストフィルムを550°Fで1時間乾燥し、700°で10分間焼結した。
【0069】数々のサンプルフィルム組成物のマトリックス材料、充填剤材料、コーティング材料、コーティング量(充填剤粒子の重量百分率として表示)及びフィルム組成(被覆充填剤容量%/マトリックス材料容量%)を表1に示す。
【0070】サンプルフィルム組成物1及び4の水の吸収(50℃の水中に24時間浸漬)及び比重を測定し、表1に表示した。
【0071】
【表1】
[図:0001429020000002.jpg]
【0072】組成1のサンプルフィルムの引張特性を測定した。フィルムは引張強度0.731kpsi、破断点伸び167.4%及び引張弾性率4.62kpsiであった。」
・「【0078】実施例4
充填剤入りフルオロポリマーフィルムを連続的にMylar、Kapton及びPTFE基板上にキャストし、2つの領域(各々150℃及び250℃にセットした)のインラインオーブン中で固化した。
【0079】表3に示された相対量のフルオロポリマーと充填剤粒子を得るために、水性フルオロポリマー分散液と被覆した充填剤粒子の水性分散液とを混合してキャスティング組成物を作成した。キャストした各フィルム組成物のマトリックス材料、充填剤材料、コーティング、界面活性剤、粘度改質剤、pH及び粘度を表3に示す。ポリマーマトリックス材料、充填剤及び界面活性剤の量を部で表し、コーティング量を充填剤粒子の重量百分率として表し、並びに粘度改質剤の量を全キャスティング組成物の重量百分率で表す。
【0080】
【表3】
[図:0001429020000003.jpg]
【0081】ナイフ-オーバー-ロール装置で供給したパンを使用してキャストしたフィルム並びに、3つのロール逆転コーティング装置で供給したニップを使用してキャストしたフィルムの組成物の数、基板、コーティング速度(フィート/分;fpm)、オーブン温度(第1のゾーン/第2のゾーン)及びフィルムの厚さを各々表4及び表5に示す。」
・「【0083】
【表5】
[図:0001429020000004.jpg]
【0084】ナイフ-オーバー-ロール及び逆転ロールを使用した上記キャストフィルムは、高品質で且つ肉眼的に明らかな欠陥(例えば、ピンホール、フィッシュアイ及び裂け目など)がなかった。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例4の組成物番号14の組成物をキャストしたフィルム厚さ1.7milのフィルムに関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」及び「甲1製法発明」のようにいう。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「表3の組成物番号14で示された組成物を表5に示した条件でキャストしたフィルム厚さ1.7milの肉眼的に明らかな欠陥(例えば、ピンホール、フィッシュアイ及び裂け目など)がないフィルム。」(当審注:「表3」及び「表5」については上記ア参照。以下、同様。)
2 本件特許発明1について
(1)対比
甲1発明における「表3の組成物番号14で示された組成物」は、PTFEにシリカ(公称粒径8μm)を60部:40部で配合したものである。
甲1発明における「フィルム厚さ」の「1.7mil」は約43μmに換算される。
甲1発明における「表3の組成物番号14で示された組成物」中のシリカの公称粒径は、シリカの「平均粒径」と実質的に同等である。
甲1発明における「表3の組成物番号14で示された組成物」中のシリカの公称粒径8μmは、甲1発明における「フィルム厚さ」(約43μm)の20%(約8.6μm)以下である。
以上を踏まえて、本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「フィルム」は本件特許発明1における「シート」に相当する。
甲1発明における「表3の組成物番号14で示された組成物」中のPTFEは本件特許発明1における「フッ素樹脂」に相当する。
甲1発明における「表3の組成物番号14で示された組成物」中のシリカは本件特許発明1における「充填材」に相当する。
甲1発明は本件特許発明1における「前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材」及び「前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmであり」という発明特定事項を有している。
甲1発明は本件特許発明1における「前記シートの所定厚さが、25~300μmであり」という発明特定事項を有している。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記成分(A)~(B)を含むシートであって、
(A)フッ素樹脂
(B)前記シートの所定厚さに対して、20%以下の平均粒子径を有する充填材
前記シートの所定厚さが、25~300μmであり、
前記充填材の平均粒子径が、0.1~10μmである、シート。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1a>
本件特許発明1においては「前記シートの破断伸び率が150%超であり」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-1b>
本件特許発明1においては「前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下である」と特定されているのに対し、甲1発明においては「肉眼的に明らかな欠陥(例えば、ピンホール、フィッシュアイ及び裂け目など)がない」と特定されている点。
<相違点1-1c>
本件特許発明1においては「前記シートの熱膨張率が100ppm/℃未満である」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点1-1bについて検討する。
発明の詳細な説明の【0076】の「(貫通孔(ピンホール)の数)
実施例1~2、比較例1で得られたシートの任意の位置(例えば、長尺シートの長手方向の端を除く途中位置で短手方向の中心部や、シート中央部)から、表面積100cm2の貫通孔(ピンホール)計数用試料を採取し、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、「VHX-5000」)を用いて拡大観察し、50μm以上の最長径を有する貫通孔(ピンホール)の数をカウントした。」という記載によると、本件特許発明1における「前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔」は、「マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、「VHX-5000」)を用いて拡大観察」して数をカウントするものであり、マイクロスコープを用いて拡大観察しなければならないようなものが肉眼的に明らかとはいえないから、「肉眼的に明らかな欠陥(例えば、ピンホール、フィッシュアイ及び裂け目など)」であるとはいえない。すなわち、相違点1-1bは実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1発明における「肉眼的に明らかな欠陥(例えば、ピンホール、フィッシュアイ及び裂け目など)」を「前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下である」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明において、肉眼的に明らかな欠陥(例えば、ピンホール、フィッシュアイ及び裂け目など)」を「前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔の数が、該シートの表面積100cm2当たり25個以下である」とするようにして、相違点1-1bに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「熱的安定性(低熱膨張性)に優れ、且つ伸び特性に優れたシートが提供できる。」という、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次のとおり主張する。
「なお、甲第1号証におけるピンホールは「肉眼的に明らかな」の記載のとおり肉眼で確認できる大きさであり、本件特許発明1は「直径50μm以上」であり、マイクロスコープを用いて拡大観察しているが、直径50μm以上であれば十分に肉眼で確認できる大きさである(特に裏側から光を当てることにより)といえる。」(特許異議申立書第16ページ)
イ 上記主張についての判断
そこで、上記主張について検討する。
上記(2)のとおり、本件特許発明1における「前記シートに存在する直径50μm以上の貫通孔」は、「マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、「VHX-5000」)を用いて拡大観察」して数をカウントするものであり、マイクロスコープを用いて拡大観察しなければならないようなものが肉眼的に明らかとはいえないから、「肉眼的に明らかな欠陥(例えば、ピンホール、フィッシュアイ及び裂け目など)」であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4のいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 本件特許発明6について
本件特許発明6は本件特許発明1又は2の用途を「プリント基板用基材」に特定したものであるが、本件特許発明1又は2が上記2及び3のとおり甲1発明であるとはいえず、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明6は甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
5 申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4及び6は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1ないし4及び6に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし4及び6ないし11に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4及び6ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項5に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700001