特許異議申立
2026-700192
レゾール型フェノール樹脂、接着剤、及びレゾール型フェノール樹脂の製造方法
- 審判番号
- 2026-700192
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-164182
- 登録番号
- 7735773
- 請求日
- 2026年03月03日
- 審決日
- 2026年05月26日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【権利者代理人】重野 隆之
- 【異議申立人】池田 弥生
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 松本 直子
- 審判官 越本 秀幸
- 分類
- P1651.537-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7735773号発明「レゾール型フェノール樹脂、接着剤、及びレゾール型フェノール樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7735773号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7735773号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和3年10月5日(優先権主張:令和2年10月7日)の出願(特願2021-164182号)であって、令和7年9月1日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、令和8年3月3日に池田 弥生(以下「申立人」という。)により、請求項1~4に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
重量平均分子量(Mw)が20,000以上であり、且つ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比である分散度(Mw/Mn)が15以上の分子量分布を有するレゾール型フェノール樹脂であって、
重量平均分子量(Mw)が50,000となるようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)のチャートを分画したときの面積比率が50%以上であり、且つ1核体成分をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)のチャート上の面積比率で8%以上含有しているレゾール型フェノール樹脂。
【請求項2】
重量平均分子量(Mw)が25,000以上であり、且つ分散度(Mw/Mn)が20以上の分子量分布を有することを特徴とする請求項1に記載のレゾール型フェノール樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレゾール型フェノール樹脂を含有する接着剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のレゾール型フェノール樹脂の製造方法であって、
フェノール類とアルデヒド類を反応容器に分割添加して、多段階で反応させてレゾール型フェノール樹脂を得る方法であり、反応液の25℃におけるB型粘度計による粘度が、第1段階反応の反応終点で50~400dPa・s、最終段階反応の反応終点で3~6dPa・sであることを特徴とするレゾール型フェノール樹脂の製造方法。」
第3 申立理由の概要及び証拠方法
1 申立理由の概要
(1)申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1~4に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件発明1は、構成要件にゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という。)を含むが、GPCは測定条件によって結果が相違することは、本件特許出願時における技術常識であるところ、本件明細書には、本件発明1におけるGPCの測定条件について、段落0044に記載があるに過ぎず、一方、請求項1にはGPCの測定条件について全く記載がなく、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明2~4も同様である。
(2)申立理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1~4に係る特許は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件発明1は、構成要件にGPCを含むが、GPCは測定条件によって結果が相違することは、本件特許出願時における技術常識であり、請求項1には、少なくとも甲第1号証の段落0054に記載された程度のGPCの測定条件が記載されるべきところ、GPCの測定条件あるいは測定方法について全く記載がなく、特に試料濃度及び試料注入量については、本件明細書にも記載がないから、本件発明1は、発明特定事項の技術的意味を理解することができず、さらに、本件特許出願時における技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであり、不明確である。
本件発明1を引用する本件発明2~4も同様である。
2 申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開2011-1402号公報
3 当審合議体が職権で提示する証拠方法
参考文献1:JIS K 7252-3:2016(ISO 16014-3:2012)、「プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方-第3部:常温付近での方法」
(https://kikakurui.com/k7/K7252-3-2016-01.html)
第4 当審における判断
以下に述べるとおり、上記申立理由1及び2は、いずれもその理由がない。
ここで、申立理由1及び2は、いずれも本件発明1~4におけるGPCの定義に関する理由であり、事案に鑑み、先に申立理由2(明確性要件)から検討する。
1 申立理由2(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、本件明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)申立人の主張
申立人は、上記第3の1(2)のとおり主張する。以下、再掲する。
・本件発明1は、構成要件にGPCを含むが、GPCは測定条件によって結果が相違することは、本件特許出願時における技術常識であり、請求項1には、少なくとも甲第1号証の段落0054に記載された程度のGPCの測定条件が記載されるべきところ、GPCの測定条件あるいは測定方法について全く記載がなく、特に試料濃度及び試料注入量については、本件明細書にも記載がないから、本件発明1は、発明特定事項の技術的意味を理解することができず、さらに、本件特許出願時における技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであり、不明確である。
本件発明1を引用する本件発明2~4も同様である。
(3)検討
ア 本件発明1について
(ア)請求項1には、GPCの測定方法又は測定条件についての記載はないものの、本件発明1が明確であるかどうかは、上記(1)の観点から判断されるべきであるところ、本件明細書には、GPCの測定方法及び測定条件について、以下の記載がある。
「【0019】
本発明において、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン標準物質換算の値であり、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で求められる。」
「【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0044】
[ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定方法]
レゾール型フェノール樹脂を溶離液に溶解し、60℃で加熱放冷後、析出物を除去したものをGPC測定サンプルとし、下記装置仕様で測定した。
本体 :東ソー株式会社製 HLC-8320GPC
カラム :TSK-GEL SUPER AW4000
TSK-GEL SUPER AW3000
TSK-GEL SUPER AW2500
溶離液 :DMF
流量 :0.6mL/min
検出器 :UV
1核体成分の溶出時間については、オルソメチロールフェノール、パラメチロールフェノール及び2,4,6-トリメチロールフェノールを標準物質として求めた。」
すなわち、本件明細書の段落0019には、「本発明において」と断った上で、「レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)」が、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」により求められること、具体的な測定方法は、「実施例の項」、つまり段落0044に記載の方法で求められることが記載されていることから、本件発明1のGPCの測定方法及び測定条件については、本件明細書の段落0019の記載を踏まえて、段落0044に記載の測定方法及び測定条件を考慮するものと当業者は認識できる。
(イ)また、参考文献1は、JIS K 7252-3で定められる「サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方」に関する規格であって、「2012年に第2版として発行されたISO 16014-3を基に,技術的内容及び構成を変更することなく」、2016年に作成されたものであり、GPCが、サイズ排除クロマトグラフィーの一種であることは本件特許出願時の技術常識であるから、本件特許出願時において、GPCによる高分子の平均分子量及び分子量分布の測定方法及び測定条件について、当業者が参酌し得る技術常識が存在していたということができる。
そして、参考文献1には、例えば、「7.2 試料溶液の調製」には適切な「試料溶液の濃度」について記載され、「7.5.2 注入量及び注入体積」には、適切な注入量及び注入体積が記載されているように、種々の測定条件が具体的に示されていることから、当業者であれば、本件明細書の段落0044に記載の測定方法及び測定条件に加えて、本件特許出願時の技術常識として、参考文献1における試料溶液の濃度及び注入量等の測定条件を参照して、本件発明1のGPCの測定方法及び測定条件を理解することができる。
(ウ)そうすると、本件発明1において、GPCの測定方法又は測定条件についての記載がないとしても、本件明細書の記載を考慮し、また、当業者の本件特許出願時における技術常識を基礎として、本件発明1のGPCの測定方法及び測定条件を理解することができるから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、本件発明1において、その他に不明確な点は見いだせない。
イ 本件発明2~4について
本件発明1を引用する本件発明2~4についても、上記アと同様である。
ウ 申立人の上記(2)の主張について
申立人は、請求項1に、GPCの測定条件あるいは測定方法について全く記載がない旨を主張するが、明確性要件は上記(1)の観点から判断すべきであり、上記アにおいて検討したとおりである。
また、申立人は、GPCは測定条件によって結果が相違することは、本件特許出願時における技術常識である旨、甲第1号証の段落0054に、「試料:濃度1重量%の試料を50μl注入」等の記載があることを根拠に、特に試料濃度及び試料注入量については、本件明細書にも記載がない旨を主張するが、上記アのとおり、当業者であれば、本件明細書の段落0044に記載の測定方法及び測定条件に加えて、本件特許出願時における技術常識として、参考文献1における試料溶液の濃度及び注入量等の測定条件を参照して、本件発明1のGPCの測定方法及び測定条件を理解することができる。そして、GPCの測定条件及び測定方法について、甲第1号証に記載される程度の記載が、本件特許の特許請求の範囲又は本件明細書に記載されなければ、本件発明1が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である理由について具体的に主張していない。
そうすると、上記(2)の主張は採用することができず、上記ア及びイの判断を左右するものではない。
(4)申立理由2についてのまとめ
したがって、本件発明1~4は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、申立理由2によっては本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1(サポート要件)について
(1)申立人の主張
申立人は、上記第3の1(1)のとおり主張する。以下、再掲する。
・本件発明1は、構成要件にGPCを含むが、GPCは測定条件によって結果が相違することは、本件特許出願時における技術常識であるところ、本件明細書には、本件発明1におけるGPCの測定条件について、段落0044に記載があるに過ぎず、一方、請求項1にはGPCの測定条件について全く記載がなく、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明2~4も同様である。
(2)検討
ア 請求項1には、GPCの測定方法又は測定条件についての記載はないものの、本件発明1が明確であるかどうかは、上記1(1)の観点から判断されるべきであることから、本件発明1の特定事項を解釈するに当たっても、本件明細書にその定義を示す記載があれば、それを考慮して解釈すべきであるところ、上記1(3)において検討したように、本件発明1のGPCの測定方法及び測定条件については、本件明細書の段落0019の記載を踏まえて、段落0044に記載の測定方法及び測定条件を考慮するものと当業者は認識できる。
そうすると、GPCの測定条件について、本件明細書の0044に記載があるに過ぎず、請求項1には全く記載がないことを理由とする「本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない」との主張は採用できない。
イ そして、その他に、本件発明1~4がサポート要件を満たさないという理由は見いだせない。
(3)申立理由1についてのまとめ
したがって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、申立理由1によっては本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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