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特許異議申立

2025-700837

シリカゾルの製造方法及びシリカゾル中の中間生成物の抑制方法

審判番号
2025-700837
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-109425
登録番号
7700819
請求日
2025年08月22日
審決日
2026年05月18日
公報発行日
2026年06月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】三菱ケミカル株式会社
  • 【権利者代理人】重野 剛
  • 【権利者代理人】重野 隆之
  • 【異議申立人】黒田 泰
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 松本 瞳
  • 審判官 深草 祐一
分類
P1651.537-Y (C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第44条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7700819号発明「シリカゾルの製造方法及びシリカゾル中の中間生成物の抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7700819号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7700819号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成30年11月7日を出願日とする特願2018-209547号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、令和5年7月3日に新たな特許出願として分割したものであって、令和7年6月23日に特許権の設定登録がされ、同年7月1日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その請求項1~6に係る特許に対し、令和7年8月22日に特許異議申立人である黒田泰(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、項番にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 以下の工程(1)及び工程(2)を含む、シリカゾル中のコロイダルシリカの平均2次粒子径のcv値が15~50であるシリカゾルの製造方法。 工程(1)テトラアルコキシシランをアンモニア存在下で加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程。 工程(2)前記シリカゾル反応液に過酸化水素を添加する工程であって、該過酸化水素の添加量が、加水分解・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、5質量部以下である工程。 【請求項2】 加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素を0.005質量部~5質量部添加する、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。 【請求項3】 工程(2)の後に以下の工程(3)を含む、請求項1又は2に記載のシリカゾルの製造方法。 工程(3)前記過酸化水素を添加したシリカゾル反応液を30℃~100℃に加温する工程。 【請求項4】 テトラアルコキシシランをアンモニア存在下で加水分解し縮合して得たシリカゾル反応液に、過酸化水素を添加する、シリカゾル中の中間生成物の抑制方法であって、該過酸化水素の添加量が、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、5質量部以下であり、該シリカゾル中のコロイダルシリカの平均2次粒子径のcv値が15~50である、シリカゾル中の中間生成物の抑制方法。 【請求項5】 加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素を0.005質量部~5質量部添加する、請求項4に記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。 【請求項6】 過酸化水素を添加したシリカゾル反応液を30℃~100℃に加温する、請求項4又は5に記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。」 第3 特許異議申立理由について 申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反) (1) 設定登録時の請求項1~6に係る特許は、その請求項1~6の記載が下記(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下「申立理由1」という。)。 (2) 本件発明1の「工程(2)前記シリカゾル反応液に過酸化水素を添加する工程であって、該過酸化水素の添加量が、加水分解・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、5質量部以下である工程。」との構成(構成要件C)に関して、本件特許権者は、本件特許の原出願である特願2018-209547号に関し、令和6年8月7日に提出した意見書(下記3の甲第1号証)において、シリカゾル反応液に過酸化水素を含む酸化剤を添加することで、中間生成物が抑制される機序について意見している。分割出願に係る本件発明1においても、シリカゾル反応液に過酸化水素を添加することで、中間生成物が抑制される機序は、原出願の意見書において本件特許権者が主張した上記内容と同一であると考えられる。すなわち、本件特許発明1は、シリカゾル反応液に酸化剤として過酸化水素を適量添加することで、ゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働いて、中間生成物がシリカゾル中に取り残されることなくシリカ粒子に取り込まれ、微粒子の凝集成長に寄与する結果、シリカゾル反応液中の中間生成物の生成が抑制され、中間生成物の少ないシリカゾルの製造方法が提供される、また、中間生成物を少なくするシリカゾル中の中間生成物の抑制方法が提供されるものであると考えられる。 ここで、本件発明1では、過酸化水素の添加量が、加水分解・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、5質量部以下である。しかしながら、本件特許明細書の実施例1、2では、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素が0.5質量部となるよう、35質量%の過酸化水素水を添加したものでしか、中間生成物が少ないという効果が示されていない。すなわち、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素が0.5質量部よりも少ない添加量で、上記のような機序により中間生成物が少ないという効果が得られるかは明らかではない。 ここで、下記3の甲第2号証の図7は、研磨スラリー中のシリカ研磨材のゼータ電位を示し、スラリーは5%のコロイダルシリカ研磨材及び0.015MのKIO4を含有している。図7から、スラリーに酸化剤(KIO4)を添加すると、ゼータ電位が変化することがわかる。 さらに、下記3の甲第3号証の【0118】には、以下の記載がある。 「図23は、本発明の実施形態によるいくつかの組成物および本発明によるものではないいくつかの組成物の、過酸化水素含有量に対するゼータ電位のグラフである。図23は、多面体シルセスキオキサン(図23において「かご型(caged)TMAケイ酸塩」という。)を含む本発明の組成物によつて実現されるゼータ電位の向上を示す。図23は、酸化剤濃度に応じた種々の処方物のゼータ電位変化を示す。図23に示されるゼータ電位は、SiN粒子によつて得られた。」 甲第3号証の図23によれば、微粒子(SiN)を含む組成物への過酸化水素添加量を増やしていくと、ゼータ電位の絶対値が変化していくことがわかる。特に、図23からは、過酸化水素添加量がゼロに近いところではゼータ電位の変化が非常に大きく、ゼータ電位の絶対値も大きいが、過酸化水素をある程度添加するとゼータ電位の変化は緩やかとなり、ゼータ電位の絶対値も小さくなることがわかり、過酸化水素添加量とゼータ電位の変化との関係には、ある臨界的な添加量が存在するものと考えられる。よつて、図23から、ゼータ電位の絶対値を小さくするには、ある程度の量の過酸化水素を添加する必要があると推測される。 このように、甲第2号証及び甲第3号証を参照すると、シリカゾル反応液中に過酸化水素のような酸化剤を添加するとゼータ電位が変化することが知られており、また、ゼータ電位の絶対値がどの程度変化するかは酸化剤の添加量に依存することが明白である。特に、過酸化水素のような酸化剤の添加量が少ない場合には、本件特許権者が甲第1号証で主張したような、ゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働くかは不明であり、本件発明1の構成要件Cの、過酸化水素の添加量の下限値の定めのない条件によって、本件特許権者が意見した上記のような機序による中間生成物の抑制という効果が得られるかは明らかではない。換言すれば、上記のような機序によリシリカゾル中の中間生成物を抑制するという本件特許発明の課題を解決するためには、過酸化水素の添加量に下限値があると考えられる。 よって、本件発明1は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないか、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。本件発明4についても同様である。 また、本件発明2は、加水分解・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素を0.005質量部~5質量部添加するものであるが、特に、過酸化水素添加量の下限値に関し、甲第3号証の図23に鑑みると、実施例の0.5質量部の100分の1である0.005質量部という極めて少ない添加量で、上記のような機序により中間生成物が少ないという効果が得られるかは明らかではない。本件発明5についても同様である。 さらに、本件発明1又は2若しくは4又は5を引用する本件発明3、6についても同様である。 よって、本件発明1~6は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。 2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反) (1) 設定登録時の請求項1、3、4、6に係る特許は、その請求項1、3、4、6の記載が下記(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下「申立理由2」という。)。 (2) 本件発明1の前記構成要件Cに関して、上記1(2)のとおり、本件発明1において課題を解決するための過酸化水素添加量には下限値があると考えられるところ、過酸化水素添加量の上限値だけを示す数値範囲限定では、発明の範囲が不明確である。本件発明4についても同様である。 そして、本件発明1又は4を引用する本件発明3及び6についても同様である。 よって、本件発明1、3、4、6は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。 3 提出された証拠及び記載事項 (1)申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 ・甲第1号証:特願2018-209547号の拒絶査定不服審判における令和6年8月7日提出の意見書 ・甲第2号証:Jie Cheng, et al., Effects of KIO4 concentration and pH values of the solution relevant for chemical mechanical polishing of ruthenium, Microelectronic Engineering, 2016, 151, p.30-37 ・甲第3号証:特表2011-503326号公報 以下、甲1号証等を「甲1」等という。 (2)甲1に記載された事項 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様である。)。 ア「[4](イ) 審判官殿はまた、以下の通り付記されました。 『3 審尋 ・・・ 以下の点について、意見書において釈明してください。 (1) シリカゾル反応液に過酸化水素を添加したときに、過酸化水素の酸化作用によって中間生成物が抑制される機序を説明してください。 ・・・ (ロ) 本願発明において、シリカゾル反応液に過酸化水素を含む酸化剤を添加することで、中間生成物が抑制される機序は以下の通りです。 過酸化水素に限らず、一般にはシリカゾル反応液に酸化剤を添加すると、ゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働いて液性が等電点に近づくため、シリカ粒子同士の反発力の低下、凝集が起こります。 本願発明で対象とする中間生成物は、縮合が不十分であったり粒成長の不十分な微小なシリカ粒子と見なすことができます。 シリカゾル反応液の段階で酸化剤を適量添加することで、上記の作用が適度に働いて、中間生成物がシリカゾル中に取り残されることなくシリカ粒子に取り込まれ、微粒子の凝集成長に寄与する結果、シリカゾル反応液中の中間生成物の生成が抑制されると考えられます。 また、上記のような作用機序であることについて、本願明細書の実施例に基づいた根拠を以下に示します。 本願明細書の実施例1,2において、製造例で得られたシリカゾル反応液に過酸化水素を添加したのに対し、比較例1では製造例で得られたシリカゾル反応液をそのままシリカゾルとしています。 本願明細書の【表1】を見ると、比較例1に対して実施例1,2では、中間生成物抑制とシリカゾル粘度の低下に加えて、平均1次粒子径の低下が認められます 平均1次粒子径は、以下の式(1)で計算(密度は2.2g/cm3で計算)されており(本願明細書第【0056】段落)、平均1次粒子径の低下は比表面積の増加を意味します。 平均1次粒子径(nm)=6000/(比表面積(m2/g)×密度(g/cm3))・・・(1) つまり、中間生成物がシリカ粒子表面に取り込まれることで、シリカ粒子表面の凹凸が増えたために、比表面積が増大したと推察できます。 このように、本願発明における過酸化水素を含む酸化剤による中間生成物抑制の機序は、 当該酸化剤の添加によるゼータ電位の絶対値の低減→シリカゾル反応液の液性の導電点への変移→シリカ粒子同士の反発力の低下・凝集→縮合ないしは粒成長が不十分な微小なシリカ粒子である中間生成物のシリカ粒子の表面への取り込みにあります。 しかして、このことは、過酸化水素の添加により得られるシリカゾル中のシリカ粒子の比表面積の増加により裏づけられています。即ち、シリカ粒子表面に、縮合ないしは粒成長が不十分な微小なシリカ粒子である中間生成物が取り込まれる結果、シリカ粒子の表面に凹凸が増え、比表面積が増加しています。」(2ページ20行~3ページ下から4行) (3)甲2に記載された事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 ア「 [図:0001436203000001.jpg] 」 (当審訳:図7 研磨スラリー中のシリカ研磨材のゼータ電位。スラリーは、5%コロイダルシリカ研磨材及び0.015MのKIO4を含有する。 縦軸:ゼータ電位(mV) 横軸:pH 図中上段:0.015M KIO4あり 図中下段:KIO4なし) (4)甲3に記載された事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 ア「【0118】 図23は、本発明の実施形態によるいくつかの組成物および本発明によるものではないいくつかの組成物の、過酸化水素含有量に対するゼータ電位のグラフである。図23は、多面体シルセスキオキサン(図23において「かご型(caged)TMAケイ酸塩」という。)を含む本発明の組成物によつて実現されるゼータ電位の向上を示す。図23は、酸化剤濃度に応じた種々の処方物のゼータ電位変化を示す。図23に示されるゼータ電位は、SiN粒子によって得られた。・・・」 イ「【図23】 [図:0001436203000002.jpg] 」 第4 当審の判断 当審は、上記申立理由1、2のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 申立理由1について (1) サポート要件違反の判断手法について 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点に立って検討する。 (2) 本件発明の課題について ア 本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 ところで、アルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によるシリカゾルの製造時又は製造後において、中間生成物が発生することがある。この中間生成物は、成長不十分なまま固体として残存したシリカや製造後に溶存ケイ酸から析出したシリカ等と考えられる。このような中間生成物は、所望のコロイダルシリカよりも低い縮合度のシリカと考えられるため、得られるシリカゾル中のコロイダルシリカの機械的特性を悪化させ、研磨速度を低下させる等、得られる研磨液の研磨特性に悪影響を及ぼす。また、得られる研磨液中に縮合度の低いシリカが含まれるため、得られる研磨液の研磨後の被研磨体からの除去性に劣る。更に、シリカゾルや研磨液のシリカの凝集、沈降、増粘、ゲル化等の問題が生じやすく、得られるシリカゾルや得られる研磨液が不安定な挙動を示し、保存安定性に劣る。 【0007】 特許文献1~3に開示されているアルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によりシリカゾルを製造する方法は、このような中間生成物の対処について何ら記載されておらず、製造条件次第では中間生成物を多く含むシリカゾルが得られてしまう。その結果、得られる研磨液の研磨特性に悪影響を及ぼし、得られる研磨液の研磨後の被研磨体からの除去性に劣り、得られるシリカゾルや得られる研磨液の保存安定性に劣る。 【0008】 本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、中間生成物の少ないシリカゾルの製造方法を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、中間生成物を少なくするシリカゾル中の中間生成物の抑制方法を提供することにある。」 イ 上記の記載から、本件発明1~6の課題(以下、「本件課題」という。)は、アルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によるシリカゾルの製造時又は製造後において、成長不十分なまま固体として残存したシリカや製造後に溶存ケイ酸から析出したシリカ等と考えられる中間生成物が発生することがあり、得られる研磨液の研磨特性に悪影響を及ぼす、研磨液の研磨後の被研磨体からの除去性に劣る、得られるシリカゾルや得られる研磨液が不安定な挙動を示し、保存安定性に劣るという課題に鑑み、中間生成物の少ないシリカゾルの製造方法を提供すること、また、中間生成物を少なくするシリカゾル中の中間生成物の抑制方法を提供することであるといえる。 (3) 本件発明の課題解決手段に関する記載について ア 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (ア)「【課題を解決するための手段】 【0009】 従来、中間生成物を含むシリカゾルが多く存在し、そのまま中間生成物を除去せずに研磨液として用いられてきたため、得られる研磨液の研磨特性や保存安定性が十分とは言えなかった。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、中性酸化剤に代表される酸化剤をシリカゾルに添加することで、中間生成物の少ないシリカゾルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」 (イ)「【発明を実施するための形態】 【0013】 ・・・ 【0014】 (シリカゾルの製造方法) 本発明のシリカゾルの製造方法は、以下の工程(1)及び工程(2)を含む。 工程(1)テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程。 工程(2)前記シリカゾル反応液に酸化剤を添加する工程。 【0015】 (工程(1)) 工程(1)は、テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程である。テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る方法は、公知の製造方法を用いればよい。 ・・・ 【0019】 加水分解反応・縮合反応を行う際、触媒存在下であってもよく、無触媒下であってもよいが、加水分解反応・縮合反応を促進できることから、触媒存在下が好ましい。 触媒としては、・・・が挙げられる。これらの触媒の中でも、触媒作用に優れ、粒子形状を制御しやすいことから、アルカリ触媒が好ましく、金属不純物の混入を抑制することができ、揮発性が高く縮合反応後の除去性に優れることから、アンモニアがより好ましい。 ・・・ 【0021】 (工程(2)) 工程(2)は、シリカゾル反応液に酸化剤を添加する工程である。 【0022】 酸化剤は、シリカゾル中の中間生成物を抑制する効果を有し、例えば、過酸化水素、・・・等が挙げられる。・・・これらの酸化剤の中でも、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持しつつ、効率よく中間生成物を抑制することができ、シリカゾルのpHを中性付近に維持することができることから、中性酸化剤が好ましく、過酸化水素がより好ましい。 【0023】 本明細書において、中間生成物は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて倍率10万倍~20万倍で撮影したFE-SEMの画像において、図1や図2でいう黒い線で囲まれた部分のように見える箇所をいう。 この中間生成物は、アルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によるシリカゾルの製造時又は製造後における、成長不十分なまま固体として残存したシリカや製造後に溶存ケイ酸から析出したシリカ等と考えられる。 【0024】 シリカゾル反応液への酸化剤の添加量は、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、0.005質量部~5質量部が好ましく、0.01質量部~1質量部がより好ましい。酸化剤の添加量が0.005質量部以上であると、効率よく中間生成物を抑制することができる。また、酸化剤の添加量が5質量部以下であると、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持することができる。 加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量とは、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシラン全量が加水分解反応・縮合反応を経てシリカになった際の、シリカの理論量をいう。 ・・・ 【0027】 (シリカゾル中の中間生成物の抑制方法) 本発明のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法は、テトラアルコキシシランを加水分解し縮合して得たシリカゾル反応液に、酸化剤を添加する方法であり、前述した工程(1)及び工程(2)を行えばよく、必要に応じて、前述した工程(3)を行えばよい。 ・・・ 【0040】 シリカゾル中のコロイダルシリカの平均2次粒子径は、20nm~300nmが好ましく、30nm~200nmがより好ましい。・・・ 【0041】 コロイダルシリカの平均2次粒子径は、公知の条件・方法により、所望の範囲に設定することができる。 【0042】 シリカゾル中のコロイダルシリカのcv値は、15~50が好ましく、20~40がより好ましい。コロイダルシリカのcv値が15以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れる。また、コロイダルシリカのcv値が50以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れる。 コロイダルシリカのcv値は、動的光散乱粒子径測定装置を用いてコロイダルシリカの平均2次粒子径を測定し、下記式(2)を用いてcv値を算出するものとする。 cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm))×100 ・・・ (2)」 (ウ) 「【実施例】 【0052】 以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。 ・・・ 【0054】 (シリカゾル中の中間生成物の測定) 実施例2・比較例1で得られたシリカゾルについて、以下の操作により中間生成物の面積の割合を算出した。 まず、シリカゾルを分取して、超純水で5,000倍に希釈した。5,000倍に希釈した希釈液を5μL分取して、ミラーシリコンウエハ(株式会社エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション製)に滴下して、50℃で10分間乾燥させた。それを、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、機種名「S-5200型」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)に装着して、加速電圧5kVで、倍率15万倍で、100個~200個のコロイダルシリカの粒子を観察し、画像を撮影した。 コロイダルシリカの粒子と中間生成物との識別は、撮影した画像を、画像解析式粒度分布測定ソフトウエア(ソフト名「Mac-View Ver.4」、株式会社マウンテック製)へ取り込み、実施した。中間生成物の面積をa、コロイダルシリカの粒子の面積をbとしたとき、下記式(4)を用い、中間生成物の面積の割合を算出した。 中間生成物の面積の割合(%)={a/(a+b)}×100 ・・・ (4) ・・・ 【0057】 (平均2次粒子径・cv値の測定) 実施例・比較例で得られたシリカゾルを、動的光散乱粒子径測定装置(DLS、機種名「ゼーターサイザーナノZS」、マルバーン社製)を用いて、コロイダルシリカの平均2次粒子径を測定し、下記式(2)を用いてcv値を算出した。 cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm))×100 ・・・ (2) ・・・ 【0059】 [製造例] テトラメトキシシランとメタノールとを3:1(体積比)で混合し、原料溶液を調製した。温度計、攪拌機、供給管、留出ラインを備えた反応槽に、予めメタノール、純水、アンモニアを混合した反応溶媒を仕込んだ。反応溶媒中の水の濃度は32質量%、反応溶媒中のアンモニアの濃度は1.5質量%であった。 反応溶媒の温度を33℃に保持しながら、反応溶媒と原料溶液とを2.3:1(体積比)とし、原料溶液を180分間、均等速度で反応槽へ滴下し、シリカゾル反応液を得た。得られたシリカゾル反応液を、コロイダルシリカの含有率が約20質量%になるように、液量を純水追加で調整しながら、温度を上げてメタノールとアンモニアの除去を行い、コロイダルシリカの含有率が約20質量%のシリカゾル反応液を得た。 【0060】 [実施例1] 製造例で得られたシリカゾル反応液に、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素が0.5質量部となるよう、35質量%の過酸化水素水を添加し、シリカゾルを得た。 得られたシリカゾルの評価結果を、表1に示す。 【0061】 [実施例2] 製造例で得られたシリカゾル反応液に、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素が0.5質量部となるよう、35質量%の過酸化水素水を添加し、ヒーターで加温し、50℃で1時間保持し、更に、80℃で1時間保持し、シリカゾルを得た。 得られたシリカゾルの評価結果を、表1に示す。 【0062】 [比較例1] 製造例で得られたシリカゾル反応液をそのままシリカゾルとした。 得られたシリカゾルの評価結果を、表1に示す。 【0063】 【表1】 [図:0001436203000003.jpg] 表1、図1及び図2からも分かるように、酸化剤を添加する工程を含む実施例2の製造方法で得られたシリカゾルは、酸化剤を添加する工程を含まない比較例1の製造方法で得られたシリカゾルと比較して、中間生成物の面積の割合が低く、中間生成物の量が抑制されることが分かる。 また、表1からも分かるように、酸化剤を添加する工程を含む実施例の製造方法で得られたシリカゾルと、酸化剤を添加する工程を含まない比較例の製造方法で得られたシリカゾルとで、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値及び会合比のコロイダルシリカの物性がほぼ一緒であるにもかかわらず、中間生成物の発生に起因したシリカゾルの粘度差を有することから、酸化剤を添加する工程を含むことで、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持しつつ、効率よく中間生成物を抑制することができる。」 イ 上記ア(ア)には、従来、中間生成物を含むシリカゾルが多く存在し、そのまま中間生成物を除去せずに研磨液として用いられてきたが、本発明者らは、中性酸化剤に代表される酸化剤をシリカゾルに添加することで、中間生成物の少ないシリカゾルが得られることを見出したことが記載されている。そして、上記ア(イ)には、本発明のシリカゾルの製造方法は、以下の工程(1)及び工程(2)を含むことが記載されている。 工程(1)テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程。 工程(2)前記シリカゾル反応液に酸化剤を添加する工程。 さらに、工程(2)は、シリカゾル反応液に酸化剤を添加する工程であり、酸化剤は、シリカゾル中の中間生成物を抑制する効果を有し、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持しつつ、効率よく中間生成物を抑制することができ、シリカゾルのpHを中性付近に維持することができることから、中性酸化剤が好ましく、過酸化水素がより好ましいことも記載されている。そして、シリカゾル反応液への酸化剤の添加量は、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、0.005質量部~5質量部が好ましく、酸化剤の添加量が0.005質量部以上であると、効率よく中間生成物を抑制することができ、酸化剤の添加量が5質量部以下であると、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持することができることが記載されている。 ウ これらの記載から、本件課題であるシリカゾルの製造において中間生成物を少なくするためには、前記工程(1)で得たシリカゾル反応液に、前記工程(2)を行って、中性酸化剤に代表される酸化剤をシリカゾルに添加することで、シリカゾル中の中間生成物を抑制することが肝要であることが理解できる。そして、酸化剤としては、過酸化水素がより好ましいこと、その添加量は、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、0.005質量部~5質量部が好ましく、0.005質量部以上であると、効率よく中間生成物を抑制することができ、5質量部以下であると、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持することができることが分かる。 エ そして、上記ア(ウ)には、実施例による具体的な説明が記載されており、テトラメトキシシランを含む原料溶液を、アンモニアを含む反応溶媒を仕込んだ反応槽へ滴下することで、シリカゾル反応液を得た後、アンモニアの除去を行い、コロイダルシリカを含有するシリカゾル反応液を得たこと、そして、得られたシリカゾル反応液に、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素が0.5質量部となるよう、35質量%の過酸化水素水を添加し、シリカゾルを得たこと、酸化剤を添加する工程を含む実施例の製造方法で得られたシリカゾルは、酸化剤を添加する工程を含まない比較例の製造方法で得られたシリカゾルと比較して、中間生成物の面積の割合が低く、中間生成物の量が抑制されることが表1のデータと共に示されている。この記載から、上記ウで理解した、本件課題の解決のために肝要となる、酸化剤をシリカゾルに添加することでシリカゾル中の中間生成物を抑制することに関し、具体的には、酸化剤として、上記ウのとおり、より好ましいとされる過酸化水素を用い、好ましい添加量とされるテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して0.005質量部~5質量部の範囲内の量を添加した場合に、実際に中間生成物の量が抑制されたことが理解される。 オ また、上記ア(イ)には、コロイダルシリカの平均2次粒子径は、公知の条件・方法により、所望の範囲に設定することができること、そして、シリカゾル中のコロイダルシリカのcv値は、15~50が好ましいことが記載されており、コロイダルシリカのcv値が15以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れ、前記cv値が50以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れるため、より好ましいものであることが理解できる。そして、上記ア(イ)には、加水分解反応・縮合反応を行う際、触媒存在下が好ましく、触媒としては、触媒作用に優れ、粒子形状を制御しやすいことから、アルカリ触媒が好ましく、金属不純物の混入を抑制することができ、揮発性が高く縮合反応後の除去性に優れることから、アンモニアがより好ましいことが記載されており、アンモニア触媒の存在下で加水分解反応・縮合反応を行うことがより好ましいことも理解できる。したがって、コロイダルシリカのcv値の数値範囲及びアンモニア触媒については、本件課題の中間生成物の抑制とは別の観点から、より好ましい要件であることが理解できる。 カ しかしながら、本件課題は作用効果の予測が難しい化学反応に関わるものであるところ、発明の詳細な説明には、シリカゾル反応液に酸化剤を添加することで中間生成物を抑制できる作用機序について特段の記載がなく、前記ウで理解した範囲において、実際に前記実施例で実証されたような中間生成物の抑制効果が得られるのか否か、発明の詳細な説明の記載だけからは理解することができない。 (4) 技術常識について ア 甲1には、本願発明においてシリカゾル反応液に過酸化水素を含む酸化剤を添加することで中間生成物が抑制される機序について、以下の記載がある。 「過酸化水素に限らず、一般にはシリカゾル反応液に酸化剤を添加すると、ゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働いて液性が等電点に近づくため、シリカ粒子同士の反発力の低下、凝集が起こります。 本願発明で対象とする中間生成物は、縮合が不十分であったり粒成長の不十分な微小なシリカ粒子と見なすことができます。 シリカゾル反応液の段階で酸化剤を適量添加することで、上記の作用が適度に働いて、中間生成物がシリカゾル中に取り残されることなくシリカ粒子に取り込まれ、微粒子の凝集成長に寄与する結果、シリカゾル反応液中の中間生成物の生成が抑制されると考えられます。」 さらに、その根拠について、以下の説明が記載されている。 「本願明細書の【表1】を見ると、比較例1に対して実施例1,2では、中間生成物抑制とシリカゾル粘度の低下に加えて、平均1次粒子径の低下が認められます・・・平均1次粒子径の低下は比表面積の増加を意味します。・・・つまり、中間生成物がシリカ粒子表面に取り込まれることで、シリカ粒子表面の凹凸が増えたために、比表面積が増大したと推察できます。・・・しかして、このことは、過酸化水素の添加により得られるシリカゾル中のシリカ粒子の比表面積の増加により裏づけられています。即ち、シリカ粒子表面に、縮合ないしは粒成長が不十分な微小なシリカ粒子である中間生成物が取り込まれる結果、シリカ粒子の表面に凹凸が増え、比表面積が増加しています。」 イ シリカゾル溶液に関する技術常識を踏まえ、上記記載のように考えれば、発明の詳細な説明に記載された実施例と比較例との差は、過酸化水素の添加により得られるシリカゾル中のシリカ粒子の平均1次粒子径の低下すなわち比表面積の増加に関連したものと理解することができ、一般にシリカゾル反応液に酸化剤を添加すると、ゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働いて液性が等電点に近づくという技術常識も考慮すれば、シリカ粒子同士の反発力の低下、凝集が起こり、シリカ粒子表面に、縮合ないしは粒成長が不十分な微小なシリカ粒子である中間生成物が取り込まれる結果、シリカ粒子の表面に凹凸が増え、比表面積が増加していることで生じたものと理解することができる。 ウ さらに、申立人が提示した甲2及び甲3にも、微粒子含有溶液に酸化剤を添加した場合にゼータ電位が変化することが示されており、酸化剤の添加によってゼータ電位に変化が起こることは一般的な技術常識であって、上記イのような理解を支持するものといえる。ただし、下記(6)で後述するように、ゼータ電位の変化の傾向は含まれる成分によって様々であり、シリカゾルに対するゼータ電位の変化の作用は、酸化剤によって異なり、単純に予測はできないということもまた技術常識であるといえる。 エ そこで、発明の詳細な説明の記載を上記技術常識に照らして理解すれば、実施例で実証されているように、シリカゾルに過酸化水素を添加することで、一般的に予測されるゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働き、シリカ粒子同士の反発力の低下と凝集が起こることから、中間生成物が少なくなって、本件課題が解決できることを当業者は理解できるといえる。しかしながら、加水分解反応によって生成したシリカゾル反応液に酸化剤を添加することによるさらなる化学反応を伴う状況下において、反応液に含まれる化合物の複雑な挙動が予測されることから、上記アで理解した作用機序のとおりの結果が得られるか否かは、実際に実験等を行って確認してみなければ予測することは難しいというべきであり、発明の詳細な説明に具体的に開示されている過酸化水素以外の酸化剤を添加した場合に、実際に前記実施例のように凝集が起こり、中間生成物を少なくできるのか否かは不明といわざるを得ない。そうすると、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて当業者が本件課題を解決できると認識できるのは、効果が実証された過酸化水素を添加する場合にとどまるというべきである。 (5)判断 上記(3)、(4)から、本件課題を解決するためには、前記工程(1)で得たシリカゾル反応液に、前記工程(2)を行って、酸化剤である過酸化水素をシリカゾルに添加することで、シリカゾル中の中間生成物を抑制することが必要であることが理解できる。 そして、特許請求の範囲の請求項1、4には、本件課題を解決するために必要な事項が全て特定されている。 このことを前記(1)の判断手法に照らせば、本件特許請求の範囲の請求項1、4の記載はサポート要件に適合する。 また、本件発明1に係る請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明2~3、5~6についても事情は同じである。 (6) 申立人の主張について ア 申立人は、サポート要件違反に関して、特許異議申立書の第6頁第9行~第13頁第12行において、前記第3の1(2)のように主張し、甲2及び甲3を参照すれば、シリカゾル反応液中に過酸化水素のような酸化剤を添加するとゼータ電位が変化することが知られており、また、ゼータ電位の絶対値がどの程度変化するかは酸化剤の添加量に依存することが明白であるから、本件特許権者が甲1で主張したような、ゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働くかは不明であり、本件発明1の過酸化水素の添加量の下限値の定めのない条件によって、本件特許権者が意見した上記のような機序による中間生成物の抑制という効果が得られるかは明らかではないし、実施例の0.5質量部の100分の1である0.005質量部という極めて少ない添加量で、上記のような機序により中間生成物が少ないという効果が得られるかも明らかではない旨主張している。 イ ここで、甲2の記載からは、コロイダルシリカ研磨材に酸化剤であるKIO4を添加した場合に、ゼータ電位が変化すること、そしてゼータ電位の絶対値が増加するか減少するか、及びその程度は、pHによって異なり、およそアルカリ性領域ではゼータ電位の絶対値は減少することが把握できる。 ウ また、甲3の記載からは、多面体シルセスキオキサンとSiN粒子を含む溶液において、過酸化水素の添加量に応じてゼータ電位の絶対値が減少すること、その減少の度合いが過酸化水素濃度が小さい範囲において急激であり、濃度が大きい範囲では緩やかであることが把握できる。 エ しかしながら、いずれの証拠においても、本件発明のように、コロイダルシリカに対して過酸化水素を添加した場合のデータ等は記載されておらず、そのような場合のゼータ電位の変化の傾向を予測できるほどの記載はない。そして、甲2に記載されたコロイダルシリカのゼータ電位の変化の傾向は、pHに依存して異なり、また酸化剤濃度による変化傾向も不明であることから、コロイダルシリカに関して、過酸化水素を添加した場合に、甲3に記載されたシルセスキオキサンとSiNを含む溶液と同様のゼータ電位の変化傾向を示すことが技術常識ということはできず、申立人の主張は、十分な根拠を欠くものである。 オ また、仮に、コロイダルシリカに過酸化水素を添加した場合においても、甲3の図23に示されたのと同様にゼータ電位の変化の度合いが濃度によって異なるものだとしても、甲3によれば、むしろ添加量が少ない領域において、過酸化水素をごく少量添加しただけで急激にゼータ電位の絶対値が減少し、過酸化水素を添加しない場合との差が顕著に現れるといえる。そして、前記(3)及び(4)のように、過酸化水素の添加によってゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働き、シリカ粒子同士の反発力の低下と凝集が起こって中間生成物が少なくなることを当業者は理解できるところ、少量の過酸化水素添加でも、比較例のように過酸化水素を加えない従来の方法と比較すれば、凝集促進による中間生成物を少なくする効果が生じ得ることが理解されるのであり、過酸化水素添加量の下限値が特定されなければ、また、実施例程度となるような下限値が特定されなければ、本件課題を解決できると認識できないということはできない。 カ よって、申立人の主張は採用できない。 (7) 小括 したがって、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、申立理由1には理由がない。 2 申立理由2について (1) 明確性要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。 (2) 判断 ア 本件発明1の構成に当業者が理解できないような不明確な点はなく、各構成の技術的意味についても、前記1(3)イ~オで理解したとおりであり、何ら不明確なところはない。このことは、本件発明4の各構成要件についても同様である。また、本件発明3の、「工程(3)前記過酸化水素を添加したシリカゾル反応液を30℃~100℃に加温する工程」との事項、本件発明6の、「過酸化水素を添加したシリカゾル反応液を30℃~100℃に加温する」との事項についても、記載のとおりに問題なく理解できる事項である。よって、本件発明1~6について、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な点はない。 イ 申立人は、本件発明1の「工程(2)前記シリカゾル反応液に過酸化水素を添加する工程であって、該過酸化水素の添加量が、加水分解・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、5質量部以下である工程」(構成要件C)に関して、過酸化水素添加量には下限値があると考えられるところ、過酸化水素添加量の上限値だけを示す数値範囲限定では、発明の範囲が不明確であると主張している。 ウ しかしながら、特許請求の範囲において、過酸化水素の添加量に上限値だけが記載され下限値の記載がないとしても、そのこと自体により特許請求の範囲の記載が不明確になるということはない。 そして、本件発明については、前記1(6)で検討したとおり、過酸化水素の添加によってゼータ電位の絶対値を小さくする作用が働き、シリカ粒子同士の反発力の低下と凝集が起こって中間生成物が少なくなることを当業者は理解できるところ、少量の過酸化水素添加でも、比較例のように過酸化水素を加えない従来の方法と比較すれば、凝集促進による中間生成物を少なくする効果が生じ得ることが理解されるのであり、過酸化水素添加量の上限値だけを示し下限値が特定されなければ発明の範囲が不明確ということはない。 エ このことは、前記構成要件Cと同様の構成要件を有する本件発明4についても同様であり、本件発明1又は4を引用する本件発明3又は6についても、同様である。 (3) 小括 したがって、本件特許の請求項1、3、4、6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、申立理由2には理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700837

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