2022-701320
押出材用アルミニウム合金及びそれを用いた押出材並びに押出材の製造方法
- 審判番号
- 2022-701320
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-233007外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7093611
- 請求日
- 2022年12月28日
- 審決日
- 2023年07月31日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アイシン軽金属株式会社
- 【権利者代理人】大谷 嘉一
- 【異議申立人】中川 賢治
- 分類
- P1651.121-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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本件の特許第7093611号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2016-233007号。以下、「本願」という。)は、平成28年11月30日の出願であって、令和 4年 6月22日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~3(全請求項)に係る特許について、令和 4年 12月28日に特許異議申立人である中川 賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 5年 3月20日付けで取消理由が通知され、同年 5月17日に特許権者により訂正請求書及び意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 5年 5月17日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3に請求項1、2を組み込み独立形式に改め、
「【請求項3】以下質量%にて、Zn成分6.0~7.0%,Mg成分1.0~1.6%,Zr成分0.15~0.23%,Ti成分0.001~0.05%,Cu成分0.5%以下,Mn成分0.5%以下,Cr成分0.02%以下,Fe成分0.20%以下,Si成分0.10%以下で残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いたビレットであって、前記ビレット断面の微細組織が光学顕微鏡測定にて平均結晶粒径250μm以下の鋳造組織である押出材用アルミニウム合金ビレットを用いて、前記押出材用ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように押出加工するステップと、押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップと、85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップと、を有し、耐力380N/mm2以上の高強度で、シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有することを特徴とする高強度で靱性及び耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金押出材の製造方法。」
に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1、2について
訂正事項1、2に係る訂正は、本件訂正前の請求項1、2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内での訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(2)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3に請求項1、2を組み込み独立形式に改めるものであるから、特許第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当し、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~3について、訂正前の請求項2、3はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~3は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、当該一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであって、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~3〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(4)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】(削除)【請求項2】(削除)【請求項3】以下質量%にて、Zn成分6.0~7.0%,Mg成分1.0~1.6%,Zr成分0.15~0.23%,Ti成分0.001~0.05%,Cu成分0.5%以下,Mn成分0.5%以下,Cr成分0.02%以下,Fe成分0.20%以下,Si成分0.10%以下で残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いたビレットであって、前記ビレット断面の微細組織が光学顕微鏡測定にて平均結晶粒径250μm以下の鋳造組織である押出材用アルミニウム合金ビレットを用いて、前記押出材用ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように押出加工するステップと、押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップと、85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップと、を有し、耐力380N/mm2以上の高強度で、シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有することを特徴とする高強度で靱性及び耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金押出材の製造方法。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、下記2の甲第1号証~甲第6号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、あるいは甲1に記載された発明、及び甲2~甲6に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
第5 令和 5年 3月20日付けで通知した取消理由の概要
当審は、上記第4の申立理由1を採用せず、職権により、令和 5年 3月20日付けで以下の取消理由を通知した。
1 取消理由1(サポート要件)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、「靱性及び耐応力腐食割れ性に優れるとともに押出性が高い高強度のアルミニウム合金押出材及びそれに適した押出材用アルミニウム合金並びに押出材の製造方法を提供する」という本件発明が解決しようとする課題を解決できているとはいえない態様である「比較例No.14」に係る態様を含むものであり、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、2の記載は、本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、令和 5年 3月20日付けで通知した取消理由、及び特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(サポート要件)について
本件訂正により、取消理由1の対象となった特許に係る訂正前の請求項1、2はいずれも削除されたから、取消理由1は解消した。
2 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1の記載事項
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本願の出願前に公知となった甲1には、「熱間鍛造用アルミニウム合金鋳造棒の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「[図:0001403673000001.jpg][図:0001403673000002.jpg]」(特許請求の範囲)
イ 「[図:0001403673000003.jpg][図:0001403673000004.jpg][図:0001403673000005.jpg]」(第2頁左上欄第16行~同頁左下欄第20行)
ウ 「[図:0001403673000006.jpg][図:0001403673000007.jpg]」(第3頁左上欄第6行~同頁右上欄第17行)
エ 「[図:0001403673000008.jpg][図:0001403673000009.jpg]」(第3頁左下欄第19行~同頁右下欄第12行)
オ 「[図:0001403673000010.jpg][図:0001403673000011.jpg][図:0001403673000012.jpg]続きを表示(全11行)[図:0001403673000013.jpg][図:0001403673000014.jpg][図:0001403673000015.jpg][図:0001403673000016.jpg][図:0001403673000017.jpg][図:0001403673000018.jpg]」(第4頁右上欄第4行~第7頁左上欄第17行)
(2)甲1に記載された発明
上記(1)に摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、「本発明供試体1」、及び「比較用供試体1」の製造方法にそれぞれ着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「Mg:2.4wt.%、Zn:3.9wt.%、Mn:0.21wt.%、Zr:0.23wt.%、Cu:0.01wt.%、Cr:0.01wt.%、Ti:0.025wt.%、B:0.005wt.%、残り、アルミニウム及び不可避不純物からなる化学成分組成を有するアルミニウム合金を溶製し、その溶湯を半連続鋳造法により鋳造して、直径53mmの鋳造棒を得、この鋳造棒の表皮層を施削し、直径を50mmとした上、温度420℃、17時間の予備熱処理を施して結晶粒の平均粒径が0.08mmの供試体を調製し、このようにして調製された供試体に対し、430℃の温度に加熱し、加熱された供試体を粗打ち、中間打ち後、更に430℃の温度で再加熱し、仕上げ打ちを施すことにより熱間鍛造加工し、上記熱間鍛造加工が施された鍛造材に対し、460℃の温度で2時間加熱した後冷却することからなる焼入れ処理を施し、次いで、24時間自然時効を施した後、110℃の温度で6時間加熱し引き続いて150℃の温度で8時間加熱することからなる人工時効を施すことにより熱処理し、上述の熱処理が施された鍛造材に対し硫酸水溶液中において電解処理を施し、アルミニウムを陽極酸化して、その表面に約10μmの厚さの硫酸アルマイト皮膜を形成することによりアルマイト処理して得た本発明供試体1であって、粗大再結晶粒模様やメタルフロー模様が生成せず、表面性状が優れており、上記本発明供試体1に対し、治具によってその両端部を拘束し、中央部を20kgf/mm2の応力によって曲げる3点曲げを施し、このように3点曲げの施されている上記本発明供試体1を、沸騰しているクロム混酸溶液中に浸漬し、3時間以上浸漬しても腐食割れが発生しない、耐応力腐食割れ性を有し、鍛造加工性が優れており、常温における引張り強度が高い、本発明供試体1の製造方法。」(以下、「甲1発明1」という。
「Mg:2.1wt.%、Zn:3.5wt.%、Mn:0.6wt.%、Zr:0.13wt.%、Cu:0.01wt.%、Cr:0.01wt.%、Ti:0.15wt.%、残り、アルミニウム及び不可避不純物からなる化学成分組成を有するアルミニウム合金を溶製し、そして鋳造して得たビレットを、450℃の温度に加熱し、この加熱されたビレットを、押出し速度12m/min、押出し比33の条件によって熱間押出しし、直径50mmの押出棒を得、この押出棒に温度480℃、5時間の予備熱処理を施して結晶粒の平均粒径が1.2mmの供試体を調製し、このようにして調製された供試体に対し、430℃の温度に加熱し、加熱された供試体を粗打ち、中間打ち後、更に430℃の温度で再加熱し、仕上げ打ちを施すことにより熱間鍛造加工し、上記熱間鍛造加工が施された鍛造材に対し、460℃の温度で2時間加熱した後冷却することからなる焼入れ処理を施し、次いで、24時間自然時効を施した後、110℃の温度で6時間加熱し引き続いて150℃の温度で8時間加熱することからなる人工時効を施すことにより熱処理し、上述の熱処理が施された鍛造材に対し硫酸水溶液中において電解処理を施し、アルミニウムを陽極酸化して、その表面に約10μmの厚さの硫酸アルマイト皮膜を形成することによりアルマイト処理して得た比較用供試体1であって、粗大再結晶粒模様やメタルフロー模様が全面的に生成し、表面性状が極めて劣化しており、上記比較用供試体1に対し、治具によってその両端部を拘束し、中央部を20kgf/mm2の応力によって曲げる3点曲げを施し、このように3点曲げの施されている上記比較用供試体1を、沸騰しているクロム混酸溶液中に浸漬し、3時間以上浸漬しても腐食割れが発生しない、耐応力腐食割れ性を有し、鍛造加工性が優れており、常温における引張り強度が高い、比較用供試体1の製造方法。」(以下、「甲1発明2」という。)
(3)甲2~甲6の記載事項
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ア 甲2の記載事項
本願の出願前に公知となった甲2には、「アルミニウム合金鋳塊の製造方法及びアルミニウム合金鋳塊」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。以下同様。)。
(ア)「【0060】そして、準備されたホットトップ鋳造装置における超音波発生装置の超音波ホーンの先端部を鋳型内の溶湯中に浸漬し、且つかかる超音波ホーンを、図1にθにて示される傾斜角度(超音波ホーンの中心軸の延長線と凝固殻の溶湯に対する接触面とのなす角の大きさ)が45°、図1にLにて示される距離(超音波ホーンの先端面の中心部:Oから、その直近に位置する鋳型の内壁面部までの距離)が40mm、図1にDにて示される距離(湯面から超音波ホーンの先端面の中心部:Oまでの距離)が15mmとなるように配置した。そして、その状態で、かかる超音波ホーンにより、溶湯に対して、注湯の開始から鋳造終了までの間、連続的に超音波振動を加えつつ、半連続鋳造を公知の手法に従って実施した。これにより、アルミニウム合金に対して微細化剤を何等添加することなしに、直径が約250mmのAl-Zn-Cu系アルミニウム合金鋳塊を製造した。そして、かくして得られたアルミニウム合金鋳塊を試験例1とした。この試験例1のアルミニウム合金鋳塊を製造する半連続鋳造では、超音波ホーンから発する超音波の周波数を19kHz、振幅を±17μmに設定した。また、鋳造速度は45mm/minとした。」
(イ)「【0062】また、比較のために、超音波装置を有しない以外、試験例1のアルミニウム合金鋳塊を製造するのに使用したものと同一構造を有するホットトップ鋳造装置と、Al-Ti-B系合金等の微細化剤が添加されたAl-Zn-Cu系アルミニウム合金の溶湯とを用いて、従来より公知のホットトップ方式による半連続鋳造を実施して、直径が約250mmのAl-Zn-Cu系アルミニウム合金鋳塊を製造した。そして、かくして得られたアルミニウム合金鋳塊を比較例1とした。なお、この比較例1のアルミニウム合金鋳塊を製造に際しては、その鋳造速度を45mm/minとした。」
(ウ)「【0064】また、試験例1のアルミニウム合金鋳塊と比較例1のアルミニウム合金鋳塊のそれぞれの平均結晶粒径を、ASTMで規定される求積法(ASTM Designation E 112-82)に基づいて評価した。その結果、比較例1のアルミニウム合金鋳塊の平均結晶粒径は約200μmであったのに対して、試験例1のアルミニウム合金鋳塊の平均結晶粒径は約50μmで、比較例1のアルミニウム合金鋳塊の平均結晶粒径の1/4程度の大きさとなっていた。」
イ 甲3の記載事項
本願の出願前に公知となった甲3には、「セミソリッド鋳造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0069】(2) タンディシュ加熱の有無と溶湯流量の結晶組織に与える影響上述の実験条件で製作されたビレットのミクロ組織を図15に示す。溶湯の流量が0.034/sの場合、ビレットのミクロ組織はタンディシュの加熱あり、なしに関係なく結晶の平均粒径はいずれも60μm程度(まで微細化されたが、円形度係数は小さくなっていた)であった。しかし、溶湯の流量が0.018L/sである場合、(ビレットの鋳肌も綺麗であり、)結晶の平均粒径は45μmになった。これは、溶湯の流量が少なくなるに従って、溶湯の過冷が大きく発生したためだと考えられる。(尚、ビレットの外側のチル層も冷却板から遊離するαAlの数の増加に従って、2~3mmまで薄くなった)」
ウ 甲4の記載事項
本願の出願前に公知となった甲4には、「アルミニウム合金の熱変態及び半溶融成形」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
(ア)「 本発明によりビレットを製造するための鋳造は、ビレットを所望の樹枝状結晶構造を形成する速度で凝固できる空気及び液体クーラントを用いた鋳型法により達成できる。結晶粒子サイズは20~250μmであり、樹枝晶アームスペーシングは2~50μmである。」(第20頁第8~11行)
(イ)「 実施例3実施例1のアルミニウム鋳造合金を、実施例1の鋳造法を用いて鋳造して、直径6”のビレットとした。空気/水クーラントは、溶融アルミニウム合金体が5~10℃/秒の速度で凝固するように調整した。ビレットの構造の顕微鏡写真から、樹枝状ミクロ組織を有し、平均結晶粒子サイズが200μmであることが分かった。次に、1平方インチのビレット試料を、室温から過熱温度588℃に誘導過熱した。昇温速度は、約278℃/分であった。この過熱温度で5秒間保持後、物体を冷水で焼入れした。ミクロ組織を調査したところ、樹枝状構造が球状形態に変態されたことが分かった。球状物又は丸い構造体の直径は、約200μmであった。より大きなケイ素粒子は、5μm未満であった。」(第30頁第9~18行)
エ 甲5の記載事項
本願の出願前に公知となった甲5には、以下の記載がある。
(ア)「[図:0001403673000019.jpg]」(第132頁左欄中段)
(イ)「[図:0001403673000020.jpg]」(第132頁右欄中段)
オ 甲6の記載事項
本願の出願前に公知となった甲6には、「アルミニウムの連続鋳造技術と鋳塊組織」(論文の表題)に関して、以下の記載がある。
「[図:0001403673000021.jpg][図:0001403673000022.jpg]」(第314頁左欄下から5行~同頁右欄下から10行)
(4)本件発明3について
ア 甲1発明1との対比・判断
(ア)対比
a 甲1発明1の「wt.%」は、本件発明3の「質量%」に相当し、甲1発明1の「結晶粒の平均粒径が0.08mmの供試体」と、本件発明3の「アルミニウム合金を用いたビレット」乃至「押出材用アルミニウム合金ビレット」とは、Zn成分、Mg成分、Zr成分0.15~0.23%、Ti成分0.001~0.05%、Cu成分0.5%以下、Mn成分0.5%以下、Cr成分0.02%以下を含み、残部がAl及び不可避不純物を含むものであり、断面の微細組織が平均結晶粒径250μm以下の鋳造組織である、アルミニウム合金ビレットである点で共通する。
b 甲1発明1の「110℃の温度で6時間加熱し引き続いて150℃の温度で8時間加熱することからなる人工時効」は、本件発明3の「85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップ」に相当する。
c 甲1発明1の「常温における引張り強度が高い」点、及び「上記本発明供試体1に対し、治具によってその両端部を拘束し、中央部を20kgf/mm2の応力によって曲げる3点曲げを施し、このように3点曲げの施されている上記本発明供試体1を、沸騰しているクロム混酸溶液中に浸漬し、3時間以上浸漬しても腐食割れが発生しない、耐応力腐食割れ性を有」する点は、それぞれ、本件発明3の「高強度」の点、及び「耐応力腐食割れ性に優れた」点に相当する。
d 甲1発明1の「本発明供試体1の製造方法」と、本件発明3の「アルミニウム合金押出材の製造方法」とは、アルミニウム合金材の製造方法である点で共通する。
e そうすると、本件発明3と甲1発明1とは、
「以下質量%にて、Zn成分、Mg成分、Zr成分0.15~0.23%、Ti成分0.001~0.05%、Cu成分0.5%以下、Mn成分0.5%以下、Cr成分0.02%以下を含み、残部がAl及び不可避不純物を含むアルミニウム合金ビレットであって、前記ビレット断面の微細組織が平均結晶粒径250μm以下の鋳造組織であるアルミニウム合金ビレットを用いて、85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップを有し、高強度で耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金材の製造方法。」である点で一致するものの、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明3の「アルミニウム合金を用いたビレット」乃至「アルミニウム合金ビレット」は、そのビレットを用いて、「ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように押出加工するステップと、押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップと、85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップ」を施すことによって「アルミニウム合金押出材」を製造するための「押出材用アルミニウム合金ビレット」であるのに対して、甲1発明1の「結晶粒の平均粒径が0.08mmの供試体」は、その後、熱間鍛造加工、焼入れ処理、自然時効、人工時効、及びアルマイト処理が施されるものであって、押出材用のものではない点。
<相違点2>
アルミニウム合金ビレットの組成について、本件発明3は、質量%で「Zn成分6.0~7.0%、Mg成分1.0~1.6%」、「Fe成分0.20%以下、Si成分0.10%以下」で、Zn成分、Mg成分、Zr成分、Ti成分、Cu成分、Mn成分、Cr成分、Fe成分、Si成分以外の残部が「Al及び不可避的不純物からなる」のに対して、甲1発明1は、「Zn:3.9wt.%」、「Mg:2.4wt.%」であり、Fe成分及びSi成分の含有量(wt.%)が不明であるのに加えて、「B:0.005wt.%」が含まれている点で、Zn成分、Mg成分、Zr成分、Ti成分、Cu成分、Mn成分、Cr成分、Fe成分、Si成分以外の残部が「Al及び不可避的不純物からなる」ものとは認められない点。
<相違点3>
アルミニウム合金ビレットの平均結晶粒径について、本件発明3は、「光学顕微鏡測定にて」測定、算出されたものであるのに対して、甲1発明1は、測定、算出方法が不明である点。
<相違点4>
本件発明3は、「ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように押出加工するステップと、押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップ」を有するのに対して、甲1発明1は、それらのステップを有しない点。
<相違点5>
高強度で耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金材について、本件発明3は、「耐力380N/mm2以上の高強度」を有し、さらに「シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有する」のに対して、甲1発明1は、耐力380N/mm2以上の高強度を有するか否か、シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有するか否かがいずれも不明である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点1、2、4、5についてまとめて検討する。
a 上記相違点1、2、4、5はいずれも実質的な相違点である。
b そして、それぞれの相違点の容易想到性について検討するに、上記(1)に摘記した甲1の記載事項、上記(3)に摘記した甲2~甲6の記載事項、及び本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲1発明1において、Zn成分、Mg成分、Fe成分、及びSi成分の含有量をそれぞれ「6.0~7.0%」、「1.0~1.6%」、「0.20%以下」、及び「0.10%以下」の範囲とすること、Bを含まないようにして、Zn成分、Mg成分、Zr成分、Ti成分、Cu成分、Mn成分、Cr成分、Fe成分、Si成分以外の残部が「Al及び不可避的不純物からなる」ものとすること、「ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように押出加工するステップと、押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップ」を施して、「アルミニウム合金押出材」を製造すること、及びアルミニウム合金材を「シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有する」ものとすることについての動機付けを見出すことはできない。
c そうすると、甲1発明1において、上記相違点1、2、4、5に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
d したがって、上記相違点3、及び本件発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明1に基いて、あるいは甲1発明1、及び甲2~甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 甲1発明2との対比・判断
(ア)対比
a 甲1発明2の「wt.%」は、本件発明3の「質量%」に相当し、甲1発明2の「Mg:2.1wt.%、Zn:3.5wt.%、Mn:0.6wt.%、Zr:0.13wt.%、Cu:0.01wt.%、Cr:0.01wt.%、Ti:0.15wt.%、残り、アルミニウム及び不可避不純物からなる化学成分組成を有するアルミニウム合金を溶製し、そして鋳造して得たビレット」と、本件発明3の「アルミニウム合金を用いたビレット」乃至「押出材用アルミニウム合金ビレット」とは、Zn成分、Mg成分、Zr成分、Ti成分、Cu成分0.5%以下、Mn成分、Cr成分0.02%以下を含み、残部がAl及び不可避不純物からなる押出材用のアルミニウム合金ビレットである点で共通する。
b 本件発明3と甲1発明2とは、「押出加工するステップ」を有する点で共通する。
c 甲1発明2の「110℃の温度で6時間加熱し引き続いて150℃の温度で8時間加熱することからなる人工時効」は、本件発明3の「85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップ」に相当する。
d 甲1発明2の「常温における引張り強度が高い」点、及び「上記比較用供試体1に対し、治具によってその両端部を拘束し、中央部を20kgf/mm2の応力によって曲げる3点曲げを施し、このように3点曲げの施されている上記比較用供試体1を、沸騰しているクロム混酸溶液中に浸漬し、3時間以上浸漬しても腐食割れが発生しない、耐応力腐食割れ性を有」する点は、それぞれ、本件発明3の「高強度」の点、及び「耐応力腐食割れ性に優れた」点に相当する。
e 甲1発明2の「比較用供試体1の製造方法」は、押出加工するステップを有するものであるから、本件発明3の「アルミニウム合金押出材の製造方法」に相当する。
f そうすると、本件発明3と甲1発明2とは、
「以下質量%にて、Zn成分、Mg成分、Zr成分、Ti成分、Cu成分0.5%以下、Mn成分、Cr成分0.02%以下を含み、残部がAl及び不可避不純物からなる押出材用のアルミニウム合金ビレットを用いて、押出加工ステップと、85~110℃×2~6時間+110~160℃×2~12時間の2段人工時効処理を行うステップと、を有し、高強度で耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金押出材の製造方法。」である点で一致するものの、以下の点で相違する。
<相違点6>
押出材用のアルミニウム合金ビレットの組成について、本件発明3は、質量%で「Zn成分6.0~7.0%、Mg成分1.0~1.6%、Zr成分0.15~0.23%、Ti成分0.001~0.05%」、「Mn成分0.5%以下」、「Fe成分0.20%以下、Si成分0.10%以下」であるのに対して、甲1発明2は、「Zn:3.5wt.%」、「Mg:2.1wt.%」、「Zr:0.13wt.%」、「Ti:0.15wt.%」、「Mn:0.6wt.%」であって、Fe成分及びSi成分の含有量(wt.%)が不明である点。
<相違点7>
押出用のアルミニウム合金ビレットの断面の微細組織について、本件発明3は、「光学顕微鏡測定にて平均結晶粒径250μm以下の鋳造組織である」のに対して、甲1発明2は、光学顕微鏡測定による平均結晶粒径が不明である点。
<相違点8>
本件発明3は、「ビレットを500~560℃にて均質化処理するステップと、押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように押出加工するステップと、押出直後に冷却速度50~500℃/minにて空冷するステップ」を有するのに対して、甲1発明2は、上記「均質化するステップ」、及び「空冷するステップ」を有さず、「押出加工するステップ」が「押出加工直後の形材温度が500~585℃になるように」したものか否かが不明である点。
<相違点9>
高強度で耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金押出材について、本件発明3は、「耐力380N/mm2以上の高強度」を有し、さらに「シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有する」のに対して、甲1発明2は、耐力380N/mm2以上の高強度を有するか否か、シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有するか否かがいずれも不明である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点6、9についてまとめて検討する。
a 上記相違点6、9はいずれも実質的な相違点である。
b そして、それぞれの相違点の容易想到性について検討するに、上記(1)に摘記した甲1の記載事項、上記(3)に摘記した甲2~甲6の記載事項、及び本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲1発明2において、Zn成分、Mg成分、Zr成分、Ti成分、Mn成分、Fe成分、及びSi成分の含有量をそれぞれ「6.0~7.0%」、「1.0~1.6%」、「0.15~0.23%」、「0.001~0.05%」、「0.5%以下」、「0.20%以下」、及び「0.10%以下」の範囲とすること、及びアルミニウム合金押出材を「シャルピー衝撃値10J/cm2以上の靱性を有する」ものとすることについての動機付けを見出すことはできない。
c そうすると、甲1発明2において、上記相違点6、9に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
d したがって、上記相違点7、8、及び本件発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明2に基いて、あるいは甲1発明2、及び甲2~甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明3は、甲1に記載された発明に基いて、あるいは甲1に記載された発明、及び甲2~甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
3 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項1、2は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項1、2は存在しないものとなったから、請求項1、2に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701320