特許異議申立
2023-700630
改善された接合耐久性を示す、および/またはリン含有表面を有するアルミニウム合金製品、ならびにその作製方法
- 審判番号
- 2023-700630
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-533082
- 登録番号
- 7191106
- 請求日
- 2023年06月14日
- 審決日
- 2024年11月22日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ノベリス・インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】松谷 道子
- 【権利者代理人】山本 宗雄
- 【権利者代理人】式見 真行
- 【異議申立人】黒野 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 相澤 啓祐
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1652.113-YAA(C22C) / P1652.121-YAA(C22C) / P1652.536-YAA(C22C) / P1652.537-YAA(C22C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第115条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7191106号発明「改善された接合耐久性を示す、および/またはリン含有表面を有するアルミニウム合金製品、ならびにその作製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7191106号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、15~34〕、〔7~14〕について訂正することを認める。
特許第7191106号の請求項1、2、5~18に係る特許を維持する。
特許第7191106号の請求項3、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7191106号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~34に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)10月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2017年12月21日、2018年10月 5日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願(特願2020-533082号。以下、「本願」という。)であって、令和 4年12月 8日にその特許権の設定登録がされ、同年12月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その請求項1~18に係る特許に対し、令和 5年 6月14日に特許異議申立人である黒野 美穂(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、以後の経緯は以下のとおりである。
令和 5年10月20日付け 取消理由通知書
令和 6年 1月23日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 2月13日付け 手続補正指令書(方式)
同年 3月 5日提出 手続補正書(特許権者)
同年 6月21日付け 訂正請求があった旨の通知書
同年 7月19日提出 意見書(申立人)
同年10月15日付け 手続補正指令書(方式)
同年11月13日提出 手続補正書(特許権者)
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
令和 6年 1月23日に提出され、同年 3月 5日に提出された手続補正書及び同年11月13日に提出された手続補正書によりそれぞれ補正された訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~34について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「アルミニウム合金製品であって、
移動元素と、
ある濃度の前記移動元素を有する表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分と、
を含み、1.5以下の濃縮比を含み、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいており、
前記移動元素は、合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である、アルミニウム合金製品。」
と記載されているのを、
「アルミニウム合金製品であって、
移動元素と、
ある濃度の前記移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、
を含み、個々の移動元素について1.5以下の濃縮比を含み、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいており、
前記移動元素は、合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である、アルミニウム合金製品。」
と訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6、17~34についても、同様に訂正する。ただし、請求項3は訂正事項2に係る訂正により、請求項4は訂正事項3に係る訂正により、請求項19は訂正事項8に係る訂正により、請求項20は訂正事項9に係る訂正により、それぞれ削除される。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1~4のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1または2」
と訂正する。
請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6、17~34についても、同様に訂正する。ただし、請求項19は訂正事項8に係る訂正により、請求項20は訂正事項9に係る訂正により、それぞれ削除される。
(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1~5のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1、2または5」
と訂正する。
請求項6を直接又は間接的に引用する請求項17~34についても、同様に訂正する。ただし、請求項19は訂正事項8に係る訂正により、請求項20は訂正事項9に係る訂正により、それぞれ削除される。
(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「アルミニウム合金製品を製造する方法であって、
移動元素を含むアルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を製造することと、
前記鋳造アルミニウム合金物品を圧延して圧延アルミニウム合金物品を用意することと、
前記圧延アルミニウム合金物品を熱処理してアルミニウム合金製品を形成することと、
を含み、1.5以下の濃縮比をもたらすように、前記移動元素が、前記アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布しており、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の濃度の比であり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいている、方法。」
と記載されているのを、
「アルミニウム合金製品を製造する方法であって、
移動元素を含むアルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を製造することと、
前記鋳造アルミニウム合金物品を圧延して圧延アルミニウム合金物品を用意することと、
前記圧延アルミニウム合金物品を熱処理してアルミニウム合金製品を形成することと、
を含み、個々の移動元素について1.5以下の濃縮比をもたらすように、前記移動元素が、前記アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布しており、
前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域であり、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であり、
前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の濃度の比であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいている、方法。」
と訂正する。
請求項7を直接又は間接的に引用する請求項8~14についても、同様に訂正する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項15に
「アルミニウム合金製品であって、
ある濃度の移動元素を有する表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分と、
を含み、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であり、
前記移動元素が、Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つであり、
前記比が原子%に基づいている、
アルミニウム合金製品。」
と記載されているのを、
「アルミニウム合金製品であって、
ある濃度の移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、
を含み、個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、
前記移動元素が、Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つであり、
前記比が原子%に基づいている、
アルミニウム合金製品。」
と訂正する。
請求項15を直接又は間接的に引用する請求項16~34についても、同様に訂正する。ただし、請求項19は訂正事項8に係る訂正により、請求項20は訂正事項9に係る訂正により、それぞれ削除される。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項19を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項20を削除する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項21に
「請求項17~20のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項17または18」
と訂正する。
請求項21を直接又は間接的に引用する請求項22~34についても、同様に訂正する。
(11)訂正事項11
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項23に
「請求項17~22のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項17、18、21または22」
と訂正する。
請求項23を直接又は間接的に引用する請求項24~34についても、同様に訂正する。
(12)訂正事項12
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項17に
「請求項1~6および15~16のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1、2、5、6および15~16のいずれか1項」
と訂正する。
請求項17を直接又は間接的に引用する請求項18~34についても、同様に訂正する。ただし、請求項19は訂正事項8に係る訂正により、請求項20は訂正事項9に係る訂正により、それぞれ削除される。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
(ア)訂正事項1に係る訂正のうち、表面下部分について「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である」ことを特定し、かつ、バルク部分について「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分である」ことを特定する訂正は、「表面下部分」及び「バルク部分」の定義を明らかにすることで、「「表面下部分」の深さ」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(1)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項1に係る訂正のうち、1.5以下の濃縮比が「個々の移動元素について」のものであることを特定する訂正は、濃縮比の対象を明らかにすることで、「複数の「移動元素」を含有する場合の「濃縮比」」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(4)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(ウ)訂正事項1に係る訂正のうち、移動元素の濃度が「グロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであ」ることを特定する訂正は、移動元素の濃度の算出方法を明らかにすることで、「「濃縮比」の算出方法」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(3)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
(ア)上記ア(ア)の訂正については、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0031】に「本明細書で使用される場合、「表面下」という用語は、合金製品の外部表面から合金製品の内部に約5μmまでの深さで延在する、アルミニウム合金製品の部分を指す。」「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分(例えば、合金製品の残部)は、本明細書において、合金製品のバルクと称される。」と記載されているから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(イ)上記ア(イ)の訂正については、本件明細書の【0038】に「特定の元素についての濃縮比が低いことは、移動元素の濃度が合金製品全体にわたり分布しており、主に表面下に局在していないことを示す。」と記載されており、同【0040】に「いくつかの場合において、1つ以上の移動元素については濃縮比が高く、他の移動元素については濃縮比が低い(例えば、除去)アルミニウム合金製品が望ましい。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、Mg、Si、および/またはCuについて低い濃縮比を有していてもよい。」と記載されていることを踏まえると、濃縮比が「個々の移動元素」についてのものであることは明らかであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(ウ)上記ア(ウ)の訂正については、本件明細書の【0172】に「アルミニウム合金シートの表面を、グロー放電発光分光分析(GDOES)により分析した。マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、および鉄(Fe)の量を分析した。」と記載されているから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2、3、8、9に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2、3、8、9に係る訂正は、それぞれ特許請求の範囲の請求項3、4、19、20を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項2、3、8、9に係る訂正は、それぞれ請求項3、4、19、20を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項2、3、8、9に係る訂正は、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項4、5、12に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項4、5、12に係る訂正は、上記訂正事項2、3に係る訂正によって請求項3、4が削除されたことに伴い、それぞれ請求項5、6、17の引用請求項から請求項3、4を削除する修正をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項4、5、12に係る訂正は、上記アの目的からみて、それぞれ願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項4、5、12に係る訂正は、上記アのとおり、それぞれ特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4)訂正事項6に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
(ア)訂正事項6に係る訂正のうち、1.5以下の濃縮比が「個々の移動元素について」のものであることを特定する訂正は、濃縮比の対象を明らかにすることで、「複数の「移動元素」を含有する場合の「濃縮比」」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(4)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項6に係る訂正のうち、表面下部分について「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域であ」ることを特定し、かつ、バルク部分について「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であ」ることを特定する訂正は、「表面下部分」及び「バルク部分」の定義を明らかにすることで、「「表面下部分」の深さ」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(1)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(ウ)訂正事項6に係る訂正のうち、移動元素の濃度が「グロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであ」ることを特定する訂正は、移動元素の濃度の算出方法を明らかにすることで、「「濃縮比」の算出方法」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(3)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
(ア)上記ア(ア)の訂正については、本件明細書の【0038】に「特定の元素についての濃縮比が低いことは、移動元素の濃度が合金製品全体にわたり分布しており、主に表面下に局在していないことを示す。」と記載されており、同【0040】に「いくつかの場合において、1つ以上の移動元素については濃縮比が高く、他の移動元素については濃縮比が低い(例えば、除去)アルミニウム合金製品が望ましい。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、Mg、Si、および/またはCuについて低い濃縮比を有していてもよい。」と記載されていることを踏まえると、濃縮比が「個々の移動元素」についてのものであることは明らかであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(イ)上記ア(イ)の訂正については、本件明細書の【0031】に「本明細書で使用される場合、「表面下」という用語は、合金製品の外部表面から合金製品の内部に約5μmまでの深さで延在する、アルミニウム合金製品の部分を指す。」「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分(例えば、合金製品の残部)は、本明細書において、合金製品のバルクと称される。」と記載されているから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(ウ)上記ア(ウ)の訂正については、本件明細書の【0172】に「アルミニウム合金シートの表面を、グロー放電発光分光分析(GDOES)により分析した。マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、および鉄(Fe)の量を分析した。」と記載されているから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項6に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項7に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
(ア)訂正事項7に係る訂正のうち、表面下部分について「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である」ことを特定し、かつ、バルク部分について「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分である」ことを特定する訂正は、「表面下部分」及び「バルク部分」の定義を明らかにすることで、「「表面下部分」の深さ」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(1)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項7に係る訂正のうち、4.1以上のバルク部分の移動元素の濃度に対する表面下部分の移動元素の濃度の比が「個々の移動元素について」のものであることを特定する訂正は、当該比の対象を明らかにすることで、「複数の「移動元素」を含有する場合の「濃縮比」」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(4)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(ウ)訂正事項7に係る訂正のうち、移動元素の濃度が「グロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであ」ることを特定する訂正は、移動元素の濃度の算出方法を明らかにすることで、「「濃縮比」の算出方法」が不明確であるとの取消理由(以下の第4の2(3)参照)を解消しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
(ア)上記ア(ア)の訂正については、本件明細書の【0031】に「本明細書で使用される場合、「表面下」という用語は、合金製品の外部表面から合金製品の内部に約5μmまでの深さで延在する、アルミニウム合金製品の部分を指す。」「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分(例えば、合金製品の残部)は、本明細書において、合金製品のバルクと称される。」と記載されているから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(イ)上記ア(イ)の訂正については、本件明細書の【0039】に「特定の元素についての濃縮比が高いことは、高濃度の移動元素が合金製品の表面下に局在していることを示す。」と記載されており、同【0040】に「いくつかの場合において、1つ以上の移動元素については濃縮比が高く、他の移動元素については濃縮比が低い(例えば、除去)アルミニウム合金製品が望ましい。」「いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、Cr、Mn、および/またはFeについて高い濃縮比を有していてもよい。」と記載されていることを踏まえると、上記ア(イ)の比が「個々の移動元素」についてのものであることは明らかであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(ウ)上記ア(ウ)の訂正については、本件明細書の【0172】に「アルミニウム合金シートの表面を、グロー放電発光分光分析(GDOES)により分析した。マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、および鉄(Fe)の量を分析した。」と記載されているから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項7に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項10、11に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項10、11に係る訂正は、上記訂正事項8、9に係る訂正によって請求項19、20が削除されたことに伴い、それぞれ請求項21、23の引用請求項から請求項19、20を削除する修正をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項10、11に係る訂正は、上記アの目的からみて、それぞれ願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項10、11に係る訂正は、上記アのとおり、それぞれ特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(7)独立特許要件について
ア 本件においては、本件訂正前の請求項1~18について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項1~18に対応する本件訂正後の請求項1~18に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
イ 一方、本件訂正前の請求項19~34について特許異議の申立てがされておらず、上記(3)ア、(6)アのとおり、上記訂正事項4、5、10~12に係る訂正(本件訂正前の請求項21~34についての訂正)はそれぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもあるため、削除された請求項19、20を除く本件訂正前の請求項21~34に対応する本件訂正後の請求項21~34に係る発明については独立特許要件が課されるところ、削除された請求項19、20を除く請求項21~34に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由を見いだすことはできない。
よって、訂正事項4、5、10~12に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
(8)一群の請求項について
ア 本件訂正前の請求項1~6、17~34について、訂正前の請求項2~6、17~34はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~6、17~34は一群の請求項である。
イ 本件訂正前の請求項7~14について、訂正前の請求項8~14はそれぞれ訂正前の請求項7を直接又は間接的に引用するものであって、請求項7の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7~14は一群の請求項である。
ウ 本件訂正前の請求項15~34について、訂正前の請求項16~34はそれぞれ訂正前の請求項15を直接又は間接的に引用するものであって、請求項15の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項15~34は一群の請求項である。
エ ここで、上記ア、ウのとおり、本件訂正前の請求項17~34は、訂正前の請求項1又は請求項15を直接又は間接的に引用するものであるから、上記ア、ウの各一群の請求項は組み合わされて1つの一群の請求項となるところ、本件訂正前の請求項1~6、15~34は一群の請求項である。
オ そして、本件訂正請求は、上記イ、エの一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであって、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~6、15~34〕、〔7~14〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、15~34〕、〔7~14〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~34に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~34に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、請求項1~34に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明34」といい、これらを総称して「本件発明」ともいう。
「【請求項1】
アルミニウム合金製品であって、
移動元素と、
ある濃度の前記移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、
を含み、個々の移動元素について1.5以下の濃縮比を含み、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいており、
前記移動元素は、合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である、アルミニウム合金製品。
【請求項2】
前記移動元素が、Zn又はCuのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記濃縮比が、1.0である、請求項1または2に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項6】
前記アルミニウム合金製品が、7xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、5xxx系アルミニウム合金、または2xxx系アルミニウム合金を含む、請求項1、2または5に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項7】
アルミニウム合金製品を製造する方法であって、
移動元素を含むアルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を製造することと、
前記鋳造アルミニウム合金物品を圧延して圧延アルミニウム合金物品を用意することと、
前記圧延アルミニウム合金物品を熱処理してアルミニウム合金製品を形成することと、
を含み、個々の移動元素について1.5以下の濃縮比をもたらすように、前記移動元素が、前記アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布しており、
前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域であり、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であり、
前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の濃度の比であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいている、方法。
【請求項8】
前記圧延ステップが、200℃~550℃の温度で実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理ステップが、400℃~580℃の温度で実施される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理ステップが、120秒以下にわたり実施される、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記鋳造アルミニウム合金製品を前処理することをさらに含み、前記前処理が、前記鋳造アルミニウム合金製品の表面を洗浄することと、前記鋳造アルミニウム合金製品の前記表面をエッチングすることと、前記鋳造アルミニウム合金製品の前記表面に前処理剤を適用することと、を含み、前記前処理剤は、接着促進剤、腐食抑制剤、カップリング剤、抗菌剤、またはそれらの混合物から選択された少なくとも1つである、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理が、前記熱処理ステップの後に実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記鋳造が、直接チル鋳造を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記鋳造が、連続鋳造を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
アルミニウム合金製品であって、
ある濃度の移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、
を含み、個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、
前記移動元素が、Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つであり、
前記比が原子%に基づいている、
アルミニウム合金製品。
【請求項16】
前記アルミニウム合金製品が、6xxx系アルミニウム合金または5xxx系アルミニウム合金を含む、請求項15に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項17】
表面下部分およびバルク部分を含み、前記表面下部分がPを含み、前記Pが、元素P、五酸化リン、三酸化リン、一酸化リン、又は四酸化二リンのうちの少なくとも1つとして前記表面下部分内に存在する、請求項1、2、5、6および15~16のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項18】
前記表面下部分が、Pを、2at%~10at%の量で含む、請求項17に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項19】
(削除)
【請求項20】
(削除)
【請求項21】
前記アルミニウム合金製品が、15を上回る黄色度指数を含む、請求項17または18に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項22】
前記黄色度指数が、20を上回る、請求項21に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項23】
請求項17、18、21または22に記載のアルミニウム合金製品の表面を処理する方法であって、
表面下部分およびバルク部分を有するアルミニウム合金製品を用意することと、
前記アルミニウム合金製品の表面をP含有化合物を含むエッチング溶液でエッチングすることと、を含み、
エッチング後において、前記表面下部分がPを含み、
前記Pが、元素P、五酸化リン、三酸化リン、一酸化リン、又は四酸化二リンのうちの少なくとも1つとして前記表面下部分内に存在する、方法。
【請求項24】
前記用意ステップが、少なくとも0.001重量%のMgを含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記用意ステップが、0.001重量%~10重量%のMgを含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記用意ステップが、5xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、または7xxx系アルミニウム合金を含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記P含有化合物が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、およびそれらの組み合わせを含む、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記エッチング溶液が、1つ以上のさらなる酸をさらに含む、請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記1つ以上のさらなる酸が、硫酸、フッ化水素酸、酢酸、および塩酸から選択された少なくとも1つである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記エッチング溶液が、リン酸および硫酸を含む、請求項23~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
硫酸に対するリン酸の比が、3~5である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記アルミニウム合金製品の前記表面をエッチングすることにより、前記アルミニウム合金製品の前記表面にMgが曝露される、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
Mgの曝露が、リン酸マグネシウム、リン化マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、またはそれらの任意の組み合わせの形成を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
リン酸マグネシウム、リン化マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、またはそれらの任意の組み合わせの形成が、前記表面下部分において0.001~10のMgに対するPの原子濃度比をもたらすことを含む、請求項33に記載の方法。」
第4 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1~4号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)を提出し、以下の申立理由1~7により、本件訂正前の請求項1~18に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
また、申立人は、本件訂正に付随して生じた新たな申立理由として、令和 6年 7月19日提出の意見書において、以下の申立理由8、9により、請求項15~18、21~34に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:水野薫、外1名、「自動車用アルミニウム合金の表面解析」、新日鉄技報、1996年、第359号、第12~19ページ
甲第2号証:国際公開第2013/133976号
甲第3号証:特開2006-249550号公報
甲第4号証:G.M.Treacy et.al., “Surface analytical study of the corrosion behaviour of chromate passivated Al 2014 A T-6 during salt fog exposure”, Applied Surface Science, 2000, Vol.157, pp.7-13
(1)申立理由1(新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項1、6、7に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項1、6~8に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項15~16に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項15~16に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項15に係る発明は、甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項15に係る発明は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(実施可能要件)
ア 申立理由5-1
本件訂正前の請求項1~2、5~18に係る発明は、表面下部分とバルク部分との境界の定め方が不明確であり、本願の願書に添付された明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明にも、表面下部分とバルク部分との境界の定め方が記載されておらず、移動元素の濃縮比を一義的に算出できるように記載されていないところ、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~2、5~18に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本件訂正前の請求項1~2、5~18に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由5-2
本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項7~10に係る発明で特定された移動元素の濃縮比を実現できるような鋳造、圧延及び熱処理の各プロセスの組合せが記載されていないところ、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項7~10に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本件訂正前の請求項7~10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由6(サポート要件)
本件訂正前の請求項7~10に係る発明が解決しようとする課題は、良好な接合耐久性を実現することであるが、当該課題を解決するための要件である移動元素の濃縮比について、本件明細書等の発明の詳細な説明には、当該移動元素の濃縮比を実現できるような条件の組合せが記載されておらず、当該移動元素の濃縮比を実現する条件は当業者における周知慣用技術でもないから、出願時の技術常識に照らして、本件訂正前の請求項7~10に係る発明の範囲まで、本件明細書等の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないところ、本件訂正前の請求項7~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由7(明確性要件)
本件訂正前の請求項1~2、5~18の記載は、表面下部分とバルク部分との境界の定め方が不明確であるところ、本件訂正前の請求項1~2、5~18に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(8)申立理由8(実施可能要件)
本件明細書等には、本件発明15における「個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、前記移動元素が、Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つであり、」との発明特定事項を具備する具体的な実施例は1つも記載されていない。
また、本件明細書等には、アルミニウム合金製品の製造条件が非常に多数の選択肢を伴って記載されているものの、上記発明特定事項を具備するアルミニウム合金製品を得るための製造条件やその選択指針については一切記載されていない。
さらに、上記発明特定事項を具備するアルミニウム合金製品を得るための製造条件が当業者における周知慣用技術であるともいえない。
そのため、たとえ当業者といえども、本件明細書等及び本願出願時における技術常識に基づいて本件発明15に係るアルミニウム合金製品を製造することは不可能である。
したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、請求項15~18、21~34に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、請求項15~18、21~34に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(9)申立理由9(サポート要件)
本件発明15が解決しようとする課題は、本件明細書の【0016】及び【0034】等の記載によれば、「高い接合耐久性及び高い耐食性」を実現することにあると解される。
一方で、上記(8)のとおり、本件明細書等には、本件発明15の発明特定事項を全て具備したアルミニウム合金製品の具体的な例は一切記載されていないし、本件発明15の技術分野において、上記(8)で示した発明特定事項における「移動元素の濃度の比」が「接合耐久性及び耐食性」に影響する旨の技術常識は存在しないから、本件明細書等に記載された例4のアルミニウム合金製品が良好な接合耐久性を有しているとしても、例4のアルミニウム合金製品から「移動元素の濃度の比」を変更した場合に、そのようなアルミニウム合金製品が同様に良好な接合耐久性を示すとまでは理解することができないところ、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された内容を本件発明15の範囲まで拡張ないし一般化することはできない。
したがって、請求項15~18、21~34に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由の概要
当審は、上記1の各申立理由のうち、申立理由7に申立理由5-1を併合して採用した上で一部職権により追加し、令和 5年10月20日付けで以下の取消理由1(明確性要件であり、以下の取消理由1-1~1-4を含む。)を通知した。
(1)取消理由1-1(「表面下部分」の深さについて(上記申立理由5-1、7))
本件訂正前の請求項1、7、15には、「表面下部分」「バルク部分」という記載があるが、当該記載からは、「表面下部分」とは、「アルミニウム合金製品」のどの部分であるのかが不明であるところ、本件訂正前の請求項1~18に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由1-2(「表面下部分」「バルク部分」の「移動元素」の「濃度」について)
本件訂正前の請求項1、7、15の記載からは、「表面下部分」「バルク部分」の「移動元素」の「濃度」とは、「表面下部分」「バルク部分」のどの部分の濃度であるのか、「表面下部分」「バルク部分」における「移動元素」の平均「濃度」であるのか、あるいは、その他の方法で算出された「濃度」であるのかが不明であるところ、本件訂正前の請求項1~18に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由1-3(「濃縮比」の算出方法について)
本件訂正前の請求項1、7に記載の「濃縮比」及び本件訂正前の請求項15に記載の「濃度の比」について、その定義が、当該請求項の記載と本件明細書の【0037】に記載の【数1】とで異なるところ、本件訂正前の請求項1~18に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)取消理由1-4(複数の「移動元素」を含有する場合の「濃縮比」について)
本件訂正前の請求項1、7、15に記載の「アルミニウム合金製品」が複数の「移動元素」を含有する場合、当該請求項に記載の「濃縮比」又は「濃度の比」をどのように算出するのかが不明であるところ、本件訂正前の請求項1~18に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるとおり、取消理由通知書に記載した取消理由1及び特許異議申立書に記載された申立理由1~7によっては、本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すことはできないし、令和 6年 7月19日提出の意見書に記載された申立理由8、9によっては、本件特許の請求項15~18に係る特許を取り消すことはできない
1 取消理由1(明確性要件)、申立理由5(実施可能要件)、申立理由7(明確性要件)
(1)取消理由1-1(明確性要件)、申立理由5-1(実施可能要件)、申立理由7(明確性要件)
ア 本件訂正により、請求項1、7、15において、「表面下部分」は「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域であ」ることが特定され、「バルク部分」は「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であ」ることが特定されたため、表面下部分とバルク部分との境界の定め方が明確となり、「表面下部分」とは、「アルミニウム合金製品」のどの部分であるのかも明確となった。
以上によれば、本件特許の請求項1、7、15及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項2、5、6、8~14、16~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、取消理由1-1、申立理由7によっては、本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すことはできない。
なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項3、4は削除されたため、本件特許の請求項3、4に係る特許に対する取消理由1-1、申立理由7は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
イ 上記アで述べたとおり、表面下部分とバルク部分との境界の定め方が明確となったことにより、表面下部分とバルク部分における移動元素の濃縮比又は濃度の比を一義的に算出できるようになった。
以上によれば、本件特許の請求項1、7、15及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項2、5、6、8~14、16~18に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由5-1によっては、本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すことはできない。
なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項3、4は削除されたため、本件特許の請求項3、4に係る特許に対する申立理由5-1は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(2)取消理由1-2(明確性要件)
本件訂正により、請求項1、7、15において、「前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであ」ることが特定されたことと、特許権者が令和 6年 1月23日に提出した意見書において、「移動元素の濃度としては、表面下部分およびバルク部分のそれぞれにおける元素濃度の最大値(ピーク値)を用います。このことは、例えば、本件特許の段落[0037]における「いくつかの例では、濃縮比は、表面下における深さで、また合金の厚さにおけるかつ表面下の外部の(すなわち、合金のバルクにおける)深さで、移動元素のピーク原子濃度を測定することにより計算可能である。」により把握できます。」と主張していることとを踏まえると、「表面下部分」及び「バルク部分」における「移動元素」の「濃度」の定義は明確になったといえる。
以上によれば、本件特許の請求項1、7、15及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項2、5、6、8~14、16~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、取消理由1-2によっては、本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すことはできない。
なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項3、4は削除されたため、本件特許の請求項3、4に係る特許に対する取消理由1-2は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(3)取消理由1-3(明確性要件)
特許権者が令和 6年 1月23日に提出した意見書において、「濃縮または除去の量を報告するには2つの方法があります。第1の方法は、請求項1におけるように、狼縮を比率で示す方法であり、そして、第2の方法は、濃縮をパーセンテージで示す方法です。」「請求項1の定義と段落[0037]における等式の定義の両方を知る当業者であれば、請求項1の定義は比率であり、一方、上記等式はパーセンテージであるということを認識しています。したがって、濃縮比は、請求項1の記載のとおり、「前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比である」ことが明確であります」「請求項1についての上記の事項は、請求項7および請求項15についても同様であります。」と主張していることを踏まえると、本件明細書の【0037】に記載の【数1】は錯誤によって記載されたものであり、請求項1、7、15に記載の「濃縮比」又は「濃度の比」の算出方法は明確になったといえる。
以上によれば、本件特許の請求項1、7、15及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項2、5、6、8~14、16~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、取消理由1-3によっては、本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すことはできない。
なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項3、4は削除されたため、本件特許の請求項3、4に係る特許に対する取消理由1-3は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(4)取消理由1-4(明確性要件)
本件訂正により、請求項1、7、15において、「濃縮比」又は「濃度の比」が「個々の移動元素について」のものであることが特定されたため、「アルミニウム合金製品」が複数の「移動元素」を含有する場合、各請求項に記載の「濃縮比」又は「濃度の比」をどのように算出するのかが明確になった。
以上によれば、本件特許の請求項1、7、15及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項2、5、6、8~14、16~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、取消理由1-4によっては、本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すことはできない。
なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項3、4は削除されたため、本件特許の請求項3、4に係る特許に対する取消理由1-4は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(5)申立理由5-2(実施可能要件)
本件明細書の【0049】~【0084】には、アルミニウム合金製品を製造する方法が記載されており、各段落には、各プロセスの条件が記載されている。
上記のうち、【0050】~【0063】には、直接チル鋳造の場合について記載されているところ、特に【0059】には、「560℃以下の温度で溶体化させると、合金製品の表面下および合金製品のバルクにおいて所望の粒径および粒径分布の移動元素粒子を有し、かつ特定の移動元素(例えば、MgおよびSi)について低い濃縮比を有する、合金製品を得ることができる。」と記載されている。
また、上記のうち、【0064】~【0080】には、連続鋳造の場合について記載されているところ、【0064】~【0066】には、「連続鋳造法は、制御された手法で熱を除去して、金属物品中の移動元素の拡散を制御することを含み得る。いくつかの態様では、熱の除去の制御なしで溶融合金を凝固させると、溶融合金中の移動元素の不所望な拡散が起こる可能性がある。」(【0065】)と記載されている。
これに対し、上記のうち、【0081】~【0084】には、前処理について記載されているところ、【0081】には、「任意で、本明細書に記載される、DC鋳造またはCCにより鋳造され、続いて加工されるアルミニウム合金製品を前処理してもよい。」と記載されていることからすると、特定の移動元素について低い濃縮比を有する合金製品を得るに当たり、「前処理」は必須のプロセスではないと解される。
また、本件明細書の【0164】~【0186】には、実施例として、溶体化、熱間圧延、洗浄及び鋳造のうち、少なくとも1つの条件を変化させた例1~4が記載されている。
ここで、例1~4には、鋳造、圧延及び熱処理の各プロセスの条件が全て記載されたものはないが、各プロセスについて、各例において好ましいとされる条件をそれぞれ採用したり、【0059】及び【0064】~【0066】を始めとする【0049】~【0084】の記載を参酌したりすることにより、当業者であれば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することなく、本件発明7の発明特定事項の一部である「個々の移動元素について1.5以下の濃縮比をもたらすように、前記移動元素が、前記アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布して」いることを備えたアルミニウム合金製品を製造することができると解するのが相当である。
したがって、本件特許の請求項7及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項8~10に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由5-2によっては、本件特許の請求項7~10に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由6(サポート要件)
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0003】及び【0004】の記載からすると、良好な接合耐久性を有するアルミニウム合金製品及びその製造方法を提供することであると認められる。
ここで、本件明細書の【0033】には、「いくつかの例では、本明細書に記載の移動元素は、元素の濃縮が合金製品のすべての厚さ全体(すなわち、表面下部分およびバルク部分内)にわたり分布するように、合金製品全体にわたり拡散してもよい。例えば、合金製品は、合金製品全体にわたり分布されており、かつ表面下で濃縮されていないMgおよびSiの濃度を含み得る。そのような合金製品は、並外れた接合耐久性および耐食性を示す。」と記載されており、【0171】~【0186】には、実施例の例4として、連続鋳造法により製造したアルミニウム合金シートである「C1」~「C3」が記載されており、当該「C1」~「C3」について、表面へのMg及びSiの拡散が減少しており、当該表面からバルクへのMg及びSiの分布が均一であり、良好な接合耐久性を示すことも記載されている。
そうすると、「個々の移動元素について1.5以下の濃縮比をもたらすように、前記移動元素が、前記アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布して」いる「アルミニウム合金製品を製造する」との発明特定事項を備える本件発明7は、発明の詳細な説明において、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項7及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項8~10の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由6によっては、本件特許の請求項7~10に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由8(実施可能要件)
(1)申立理由8は、本件訂正に付随して生じた新たな申立理由として、令和 6年 7月19日提出の意見書において、請求項15~18、21~34について主張されたものである。
しかしながら、特許異議の申立ては、上記第1のとおり、請求項1~18についてされたものであるから、請求項21~34について申立理由8を主張することは、特許異議の申立ての対象として請求項21~34を追加することにほかならない。このように、特許異議の申立ての対象として請求項21~34を追加する(すなわち、実質的にそのように特許異議申立書を補正する)ことは、特許異議申立書の要旨を変更するものであり、認められるものではない(特許法第115条第2項)。よって、申立理由8のうち、請求項21~34について主張する部分については、採用できない。
一方、申立理由8のうち、特許異議の申立ての対象である請求項15~18について主張する部分については、申立人が主張するように、本件訂正に付随して生じたものと解する余地があるので、以下、念のため、検討することとする。
(2)本件明細書の【0049】~【0084】には、アルミニウム合金製品を製造する方法が記載されており、各段落には、各プロセスの条件が記載されている。
上記のうち、【0064】~【0080】には、連続鋳造の場合について記載されているところ、特に【0064】~【0067】には、「連続鋳造法は、制御された手法で熱を除去して、金属物品中の移動元素の拡散を制御することを含み得る」(【0065】)ことが記載されており、「いくつかの態様では、移動元素の拡散を制御することにより、鋳造金属物品表面の選択的な濃縮をもたらすことができ、したがって、調整された表面特性を有する鋳造金属物品がもたらされる。」(【0065】)及び「移動元素の拡散速度を制御することにより、移動元素を選択的に拡散させることができる。例えば、第1の移動元素の拡散を促進し、かつ同時に第2の移動元素の拡散を抑制することができる速度で、溶融金属から熱を除去することができる。したがって、金属物品をもたらすための溶融合金の凝固中に、選択された移動元素により、金属物品表面を選択的に濃縮することができる。」(【0067】)とも記載されている。
ここで、本件明細書の【0171】~【0186】には、実施例の例4として、連続鋳造法により製造したアルミニウム合金シートである「C1」~「C3」が記載されており、【図12A】~【図14A】には、それぞれ「C1」~「C3」の表面から2.0μmの深さまでのMn、Cr及びFe含量のGDOESデータが示されているものの、「表面下部分」である表面から5μmの深さまでの全領域におけるMn、Cr及びFe含量のGDOESデータは示されていない。
しかしながら、本件明細書の【0066】には、「溶融合金からの熱の除去は、水による冷却、空気による冷却、鋳造キャビティへの溶融合金の供給速度の制御、または一対の移動性の対向した鋳造表面の速度の制御を含む、任意の適切な方法により実施され得る。」と記載されているから、当業者であれば、これらの条件を適宜調整することにより、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することなく、本件発明15の発明特定事項の一部である「個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であ」ることを備えたアルミニウム合金製品を製造することができると解するのが相当である。
したがって、本件特許の請求項15及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項16~18に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由8によっては、本件特許の請求項15~18に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由9(サポート要件)
(1)申立理由9は、本件訂正に付随して生じた新たな申立理由として、令和 6年 7月19日提出の意見書において、請求項15~18、21~34について主張されたものである。
しかしながら、上記3(1)で述べたのと同様の理由により、申立理由9のうち、請求項21~34について主張する部分については、採用できない。
一方、申立理由9のうち、特許異議の申立ての対象である請求項15~18について主張する部分については、申立人が主張するように、本件訂正に付随して生じたものと解する余地があるので、以下、念のため、検討することとする。
(2)本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0003】及び【0004】の記載からすると、良好な接合耐久性を有するアルミニウム合金製品及びその製造方法を提供することであると認められる。 ここで、本件明細書の【0034】には、「いくつかの例では、本明細書に記載の移動元素は、移動元素の濃縮が合金製品の表面付近でもたらされるように、合金製品の表面下部分に向かって拡散することができる。例えば、合金製品は、合金製品の表面下部分に局在したZn、Cu、Mn、Cr、および/またはFeの濃度を含み得る。そのような合金製品は、並外れた接着性能を示し、前処理として機能することができる。」と記載されている。
また、本件明細書の【0171】~【0186】には、実施例の例4として、連続鋳造法により製造したアルミニウム合金シートである「C1」~「C3」が記載されており、【図12A】~【図14A】には、それぞれ「C1」~「C3」の表面から2.0μmの深さまでのMn、Cr及びFe含量のGDOESデータが示されているものの、「表面下部分」である表面から5μmの深さまでの全領域におけるMn、Cr及びFe含量のGDOESデータは示されていないため、「C1」~「C3」は、本件発明15の発明特定事項の一部である「個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であ」るという条件を満たさないものである可能性がある。
しかしながら、【0180】~【0186】には、上記「C1」~「C3」について、表面へのMn、Cr及びFeの拡散が増加しており、良好な接合耐久性を示すことが記載されているから、仮に上記条件を満たしていなくても、ある程度、表面へのMn、Cr及びFeの拡散が増加していれば、良好な接合耐久性を示すと解される。
そうすると、「個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であ」るとの発明特定事項を備える本件発明15は、「C1」~「C3」と同等かそれ以上に良好な接合耐久性を示すと解されるから、本件発明15は、発明の詳細な説明において、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項15及び当該請求項を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項16~18の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由9によっては、本件特許の請求項15~18に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由1(新規性・進歩性)
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、「自動車用アルミニウム合金の表面解析」(論文の標題)に関して、次の記載がある。
(ア)「
[図:0001419313000001.jpg]
」(第16ページ左欄第1~22行)
(イ)「
[図:0001419313000002.jpg]
」(第16ページ左欄下部)
イ 甲1に記載された発明
上記ア(ア)に摘記した、図9に関する試料に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「Al-0.9wt.%Mg-0.9wt.%Si合金の溶体化処理前の冷延板を機械的に研磨し、乾燥空気中で300℃で5時間焼鈍して加熱・酸化した冷延板。」(以下、「甲1発明」という。)。
「Al-0.9wt.%Mg-0.9wt.%Si合金の溶体化処理前の冷延板を機械的に研磨し、乾燥空気中で300℃で5時間焼鈍して加熱・酸化する冷延板の製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「Al-0.9wt.%Mg-0.9wt.%Si合金の溶体化処理前の冷延板を」「焼鈍して加熱・酸化した冷延板」は、本件発明1における「アルミニウム合金製品」に相当する。
(イ)また、甲1発明の「Al-0.9wt.%Mg-0.9wt.%Si合金」における「Mg」及び「Si」は、本件発明1における「MgおよびSiを含む」「移動元素」に相当するし、技術常識に照らして、「合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である」ことも明らかである。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「アルミニウム合金製品であって、
移動元素
を含み、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記移動元素は、合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である、アルミニウム合金製品。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1は、「ある濃度の前記移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含み、個々の移動元素について1.5以下の濃縮比を含み、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、」「前記濃縮比が原子%に基づいて」いるとの発明特定事項を備えるのに対し、甲1発明は、当該発明特定事項を備えるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点1-1について検討すると、上記(1)ア(イ)に摘記した図9は、XPSによる化学状態別depth profileであるから、「グロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したもの」ではないし、表面から約45nmの深さまでの領域において、数nm~十数nmおきにデータを取ったものにすぎないから、仮に甲1発明が「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、」「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含」むものであったとしても、「原子%に基づ」く「バルク部分の前記移動元素の前記濃度」及び「表面下部分の前記移動元素の前記濃度」、すなわち「表面下部分およびバルク部分のそれぞれにおける元素濃度の最大値(ピーク値)」(上記1(2)参照)は不明であるから、「前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であ」る「濃縮比」が「個々の移動元素について1.5以下」であるかも不明であるというほかない。
したがって、上記相違点1-1は、実質的な相違点である。
(イ)そして、甲1発明において、上記「濃縮比」を「個々の移動元素について1.5以下」とする動機付けがあるとはいえないから、甲1発明において、上記ア(ウ)の相違点1-1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明6も同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲1製法発明とを対比する。
(ア)甲1製法発明における「Al-0.9wt.%Mg-0.9wt.%Si合金の溶体化処理前の冷延板を」「焼鈍して加熱・酸化する冷延板の製造方法」は、本件発明7における「アルミニウム合金製品を製造する方法」に相当する。
(イ)また、甲1製法発明の「Al-0.9wt.%Mg-0.9wt.%Si合金」における「Mg」及び「Si」は、本件発明7における「MgおよびSiを含む」「移動元素」に相当する。
(ウ)さらに、甲1製法発明における「溶体化処理前の冷延板」が、「アルミニウム合金を鋳造し」た「鋳造アルミニウム合金物品を圧延し」た「圧延アルミニウム合金物品」であることは技術常識から明らかであるし、甲1製法発明における「乾燥空気中で」の「300℃で5時間」の「焼鈍」は、本件発明7における「熱処理」に相当する。
(エ)そうすると、本件発明1と甲1製法発明とは、
「アルミニウム合金製品を製造する方法であって、
移動元素を含むアルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を製造することと、
前記鋳造アルミニウム合金物品を圧延して圧延アルミニウム合金物品を用意することと、
前記圧延アルミニウム合金物品を熱処理してアルミニウム合金製品を形成することと、
を含み、
前記移動元素がMgおよびSiを含む、
方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-2>
本件発明7は、「個々の移動元素について1.5以下の濃縮比をもたらすように、前記移動元素が、前記アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布しており、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域であり、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であり、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の濃度の比であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、」「前記濃縮比が原子%に基づいている」との発明特定事項を備えるのに対し、甲1製法発明は、当該発明特定事項を備えるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
上記相違点1-2について検討すると、上記相違点1-2は、上記(2)ア(ウ)に示した相違点1-1と実質的に同じであるから、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、上記相違点1-2は、実質的な相違点であるし、甲1製法発明において、上記相違点1-2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明7は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明8について
本件発明8は、本件発明7の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(3)ウのとおり、本件発明7が、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明8も同様に、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1についてのまとめ
したがって、本件発明1、6、7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえないし、本件発明1、6~8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1、6~8に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由2(新規性・進歩性)
(1)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
甲2には、「IMPROVED 6XXX ALUMINUM ALLOYS, AND METHODS FOR PRODUCING THE SAME」(翻訳:改善された6XXXのアルミニウム合金及びその製造方法)(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
[図:0001419313000003.jpg]
」(翻訳:合金元素を下記の表に示す重量%で含む溶融アルミニウム合金を、ヒートシンクベルト鋳造装置により、上側ベルトがニップの下流の凝固金属に接触しないように連続鋳造した。ここで説明する試験はロール鋳造装置で行われたものではない。しかし、このプロセスは凝固金属を加工することなく一対のロールによって鋳造することを模擬している。)
(イ)「
[図:0001419313000004.jpg]
」(翻訳:合金6-2のストリップ(厚み0.1インチ)の合金元素の偏析を分析した。図6kに共晶形成元素(Mg、Mn、Cu、Fe及びSi)について、図6lに包晶形成元素(Ti及びV)についてのストリップの厚みの範囲における合金元素の濃度を図示する。共晶形成元素はストリップの中央部において局所的に欠乏している一方、包晶形成元素はストリップの中央部に濃縮されている。)
(ウ)「
[図:0001419313000005.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
上記ア(ア)、(イ)に摘記した合金6-2に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「0.9Mg-0.9Mn-0.5Cu-0.45Fe-0.3Siを重量%で含む溶融アルミニウム合金を、ヒートシンクベルト鋳造装置により、上側ベルトがニップの下流の凝固金属に接触しないように連続鋳造した厚み0.1インチのストリップ。」(以下、「甲2発明」という。)。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「アルミニウム合金」「のストリップ」は、本件発明1における「アルミニウム合金製品」に相当する。
(イ)また、甲2発明の「0.9Mg-0.9Mn-0.5Cu-0.45Fe-0.3Siを重量%で含む」「アルミニウム合金」における「Mg」及び「Si」は、本件発明1における「MgおよびSiを含む」「移動元素」に相当するし、技術常識に照らして、「合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である」ことも明らかである。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「アルミニウム合金製品であって、
移動元素
を含み、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記移動元素は、合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である、アルミニウム合金製品。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、「ある濃度の前記移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含み、個々の移動元素について1.5以下の濃縮比を含み、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、」「前記濃縮比が原子%に基づいて」いるとの発明特定事項を備えるのに対し、甲2発明は、当該発明特定事項を備えるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点2について検討すると、上記(1)ア(ウ)に摘記した図6kは、どのような分析法(装置)を用いて測定したものであるのか不明であるが、厚み0.1インチのストリップの全厚さに対して0.005インチおきに各合金元素の濃度を測定したものであると認められる。ここで、0.005インチは「127μm」であることを踏まえると、仮に甲2発明が「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、」「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含」むものであったとしても、「原子%に基づ」く「表面下部分の前記移動元素の前記濃度」、すなわち「表面下部分」「における元素濃度の最大値(ピーク値)」(上記1(2)参照)は不明であるから、「前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であ」る「濃縮比」が「個々の移動元素について1.5以下」であるかも不明であるというほかない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点である。
(イ)そして、甲2発明において、上記「濃縮比」を「個々の移動元素について1.5以下」とする動機付けがあるとはいえないから、甲2発明において、上記ア(ウ)の相違点2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2も同様に、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由2についてのまとめ
したがって、本件発明1、2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえないし、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項3、4は削除されたため、本件特許の請求項3、4に係る特許に対する申立理由2は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
7 申立理由3(新規性・進歩性)
(1)甲3の記載事項及び甲3に記載された発明
ア 甲3の記載事項
甲3には、「自動車ボディ用アルミニウム合金板」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を示す。
(ア)「【請求項1】
アルミニウム合金よりなる溶湯を、直接板状に連続的に鋳造することにより、板厚が0.8~10mmの連続鋳造板を作製する連続鋳造工程と、上記連続鋳造板に熱処理のみ、あるいは圧延と熱処理の組み合わせを施す下工程とを行うことにより得られた板厚が0.5~3.0mmの自動車ボディ用アルミニウム合金板であって、
該自動車ボディ用アルミニウム合金板は、Si:0.2~2.0%(mass%、以下同じ)、Mg:0.2~2.0%、Fe:1.5%以下を含有する成分組成を有し、
表面から3μm深さまでの表層領域におけるFe、Si、Mgの各元素の平均濃度が、上記成分組成における含有量よりも高く、かつ、それぞれ、Fe:3%以下、Si:4%以下、Mg:4%以下であり、
上記表層領域における各元素の最大濃度がFe:4%以下、Si:5%以下、Mg:5%以下であり、
表面からの深さが100~250μmの内部領域におけるAl-Fe系金属間化合物のセル境界被覆率が60%以下であると共に、上記Al-Fe系金属間化合物の個々の長さが40μm以下であり、
表面からの酸化皮膜厚さが200nm以下であることを特徴とする自動車ボディ用アルミニウム合金板。」
(イ)「【0029】
(実施例1)
本例では、双ロール式連続鋳造圧延法(板連続鋳造法)により、表1に示す組成を有する厚さ3mmの連続鋳造板を作製した。
図2に示すごとく、本例で用いた装置は、溶解炉1から樋2に移されたアルミニウム合金の溶湯5を、ノズル3を介して上下に配置された鋳造ロール4A、4Bからなる双ロール4の間に導入するよう構成されている。鋳造ロール4A、4Bは水冷されているので、これに接触した溶湯5が凝固し、その後、鋳造ロール4A、4B間で圧延されて連続鋳造板6として双ロール4から搬出される。
【0030】
本例では、図3に示すごとく、上側に配置された鋳造ロール4Aとノズル3を通じて導入された溶湯5とが最初に接する点Sと上側に配置された鋳造ロール4Aの中心点Oとを結んだ線L1と、該中心点Oからの垂線L2とのなす角(鋳造板と鋳造ロールの接触角度)θを8~15°として鋳造圧延した。Lはメニスカス長さである。
・・・
【0032】
【表1】
[図:0001419313000006.jpg]
【0033】
次に、上記の連続鋳造工程によって得られた連続鋳造板に対し、下工程として、圧延を行わずにT4調質を得る熱処理のみを行った。
具体的には、上記連続鋳造板を、平均昇温速度20℃/secで560℃に加熱し、10秒保持した後、平均冷却速度20℃/secで常温まで急冷する焼入れを行った。さらに200℃で30秒の復元処理を行い、常温まで冷却してT4調質材とした。その後、硫酸系酸洗浄剤による洗浄を行った。
【0034】
表2に、得られたアルミニウム合金板(自動車ボディ用アルミニウム合金板)における表面から3μm深さまでの表層領域におけるFe、Si、Mgの濃化状態(濃化領域、平均濃度及び最大濃度)と、表面からの深さが100μmの内部におけるAl-Fe系金属間化合物のセル境界被覆率(以下、単に被覆率という)及びAl-Fe系金属間化合物(以下、単に金属間化合物という)の最大長さと、酸化皮膜厚さの測定結果を示す。
【0035】
濃化領域および平均濃度、最大濃度、酸化皮膜厚さはいずれもGD-OES(Glow Discharge Optical Emission Spectrometer、グロー放電発光分析装置)により、分析直径2.5mmφで、表面からの深さ方向分析結果から算出した。
濃化領域は、検出元素を重量%に換算し、合金成分の1倍を超える領域とし、平均濃度は表面から3μmまでの濃度の平均値、最大濃度は濃度が量も高い部分の濃度とした。
【0036】
表面から100μm内部における、金属間化合物による鋳造時のセル境界の被覆率およびセル境界の連続存在領域は、EPMA(Electron Probe Micro Analyser、X線プローブマイクロアナライザー)により、200倍でFe元素を面分析した写真から、500μm×500μmの視野における、被覆率及び金属間化合物の最大長さを測定した。
被覆率は、500μm×500μmの視野における平均とし、金属間化合物の最大長さは、500μm×500μm内での量大のものを測定した。
また、酸化皮膜厚さは、酸素の濃度が最も高い部分から半減した深さまでとした。なお、このときのスパッタ速度は一定と仮定した。
【0037】
【表2】
[図:0001419313000007.jpg]
」
(ウ)「【図2】
[図:0001419313000008.jpg]
【図3】
[図:0001419313000009.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記ア(イ)に摘記した合金D及び試験材4に着目し、上記ア(ア)に摘記した【請求項1】の記載に倣って整理すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「アルミニウム合金よりなる溶湯を、直接板状に連続的に鋳造することにより、板厚が3mmの連続鋳造板を作製する連続鋳造工程と、上記連続鋳造板に熱処理のみを施す下工程とを行うことにより得られた板厚が3mmの自動車ボディ用アルミニウム合金板であって、
該自動車ボディ用アルミニウム合金板は、Si:1%(mass%、以下同じ)、Fe:0.15%、Cu:0.01%、Mn:0.06%、Mg:0.5%、Cr:0.01%、Zn:0.05%、Ti:0.02%、Al:残部の成分組成を有し、
表面から3μm深さまでの表層領域におけるFe、Si、Mgの各元素の平均濃度が、それぞれ、Fe:0.3%、Si:2.5%、Mg:0.6%であり、
上記表層領域における各元素の最大濃度がFe:0.8%、Si:4.0%、Mg:1.3%であり、
表面からの深さが100μmの内部領域におけるAl-Fe系金属間化合物のセル境界被覆率が15%であると共に、上記Al-Fe系金属間化合物の個々の長さが25μm以下であり、
表面からの酸化皮膜厚さが25nmであり、
濃化領域および平均濃度、最大濃度、酸化皮膜厚さはいずれもGD-OES(Glow Discharge Optical Emission Spectrometer、グロー放電発光分析装置)により、分析直径2.5mmφで、表面からの深さ方向分析結果から算出したものである自動車ボディ用アルミニウム合金板。」(以下、「甲3発明」という。)。
(2)本件発明15について
ア 対比
本件発明15と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明における「自動車ボディ用アルミニウム合金板」は、本件発明15における「アルミニウム合金製品」に相当する。
(イ)また、甲3発明の「Si:1%(mass%、以下同じ)、Fe:0.15%、Cu:0.01%、Mn:0.06%、Mg:0.5%、Cr:0.01%、Zn:0.05%、Ti:0.02%、Al:残部の成分組成」における「Fe」「Mn」「Cr」は、本件発明15における「Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つであ」る「移動元素」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明15と甲3発明とは、
「アルミニウム合金製品であって、
Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つである移動元素を含む、
アルミニウム合金製品。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3>
本件発明15は、アルミニウム合金製品が、「ある濃度の移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含み、個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、」「前記比が原子%に基づいている」との発明特定事項を備えるのに対し、甲3発明は、当該発明特定事項を備えるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点3について検討すると、上記(1)ア(イ)に摘記した【表2】に記載の「最大濃度」は、GD-OESにより算出したものである点では本件発明15と共通するが、当該最大濃度は「表面から3μm深さまでの表層領域における」ものであり、表面から「5μm」深さまでの領域における最大濃度は不明であるから、仮に甲3発明が「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、」「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含」むものであったとしても、「個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が」「原子%に基づいて」「4.1以上であ」るかも不明であるというほかない。
したがって、上記相違点3は、実質的な相違点である。
(イ)そして、甲3発明において、上記「濃度の比」を「個々の移動元素について」「4.1以上」とする動機付けがあるとはいえないから、甲3発明において、上記ア(ウ)の相違点3に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明15は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明16について
本件発明16は、本件発明15の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明15が、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明16も同様に、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由3についてのまとめ
したがって、本件発明15、16は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえないし、本件発明15、16は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由3によっては、本件特許の請求項15、16に係る特許を取り消すことはできない。
8 申立理由4(新規性・進歩性)
(1)甲4の記載事項及び甲4に記載された発明
ア 甲4の記載事項
甲4には、「Surface analytical study of the corrosion behaviour of chromate passivated Al 2014 A T-6 during salt fog exposure」(翻訳:塩霧曝露中のクロメート不動態化Al 2014 A T-6の腐食挙動の表面分析研究)(論文の標題)に関して、次の記載がある。
(ア)「
[図:0001419313000010.jpg]
」(第8ページ右欄第3~14行)
(翻訳:表1に、2014 A-T6アルミニウム合金の微量元素の組成を示す。面積5X5cm2の合金板をはじめにアセトンで洗浄し、その後、濃度30g/lの熱浸漬洗浄剤MINCO(McDermid Cannings)に60℃の温度で3分間浸漬することによりアルカリ脱脂を行った。その後、サンプルを5%硝酸に25℃の温度で1分間浸漬することにより脱酸素を行った。各ステップの後に、脱イオン水を用いて完全な洗浄を行った。クロメート化成皮膜は、8g/lのAlocrom 1200(Henkel)に25℃の温度で5分間浸漬することにより形成した。)
(イ)「
[図:0001419313000011.jpg]
」(第8ページ右欄下部)
(ウ)「
[図:0001419313000012.jpg]
」(第10ページ左欄第26~33行)
(翻訳:図1aは、塩霧暴露前のクロメート不動態化Al 2014 A T-6表面についてAESを使用して得られた深さプロファイルを示している。一方、図1bは、24時間の塩霧暴露後のクロメート不動態化表面について得られた深さプロファイルを示している。低濃度で存在する元素の変化は、両方の図の挿入図としてより詳細に示されている。)
(エ)「
[図:0001419313000013.jpg]
・・・
[図:0001419313000014.jpg]
」(第11ページ上部)
(翻訳:図1a クロメート化成処理したAl 2014 A T-6のAESによる深さプロファイル (a)塩霧暴露前 (b)24時間の塩霧暴露後)
イ 甲4に記載された発明
上記ア(ア)~(ウ)に摘記した、図1aに関するサンプルに着目すると、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。
「Si:0.81%、Fe:0.33%、Cu:4.58%、Mn:0.80%、Mg:0.76%、Cr:0.01%、Zn:0.09%、Ti:0.01%、V:0.01%、Zr:0.00%、その他:0.03%を含む2014 A-T6アルミニウム合金の面積5X5cm2の合金板をはじめにアセトンで洗浄し、その後、濃度30g/lの熱浸漬洗浄剤MINCO(McDermid Cannings)に60℃の温度で3分間浸漬することによりアルカリ脱脂を行った後、サンプルを5%硝酸に25℃の温度で1分間浸漬することにより脱酸素を行った後に、脱イオン水を用いて完全な洗浄を行い、8g/lのAlocrom 1200(Henkel)に25℃の温度で5分間浸漬することによりクロメート化成皮膜を形成した合金板。」(以下、「甲4発明」という。)。
(2)本件発明15について
ア 対比
本件発明15と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明における「2014 A-T6アルミニウム合金の」「クロメート化成皮膜を形成した合金板」は、本件発明15における「アルミニウム合金製品」に相当する。
(イ)また、甲4発明の「Si:0.81%、Fe:0.33%、Cu:4.58%、Mn:0.80%、Mg:0.76%、Cr:0.01%、Zn:0.09%、Ti:0.01%、V:0.01%、Zr:0.00%、その他:0.03%を含む2014 A-T6アルミニウム合金」における「Fe」「Mn」「Cr」は、本件発明15における「Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つであ」る「移動元素」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明15と甲4発明とは、
「アルミニウム合金製品であって、
Mn、Cr、およびFeから選択された少なくとも1つである移動元素を含む、
アルミニウム合金製品。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点4>
本件発明15は、アルミニウム合金製品が、「ある濃度の移動元素を有する表面下部分であって、前記表面下部分が、合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分であって、前記バルク部分が、表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含み、個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であり、前記移動元素の前記濃度がグロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したものであり、」「前記比が原子%に基づいている」との発明特定事項を備えるのに対し、甲4発明は、当該発明特定事項を備えるのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点4について検討すると、上記(1)ア(エ)に摘記した図1aは、AESによるXPSによる深さプロファイルであるから、「グロー放電発光分光分析(GDOES)によって測定したもの」ではないし、表面から約72nmの深さまでの領域において、数nm~十数nmおきにデータを取ったものにすぎないから、仮に甲4発明が「合金製品の外部表面から合金製品の内部に5μmまでの深さで延在する領域である表面下部分と、」「表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分であるバルク部分と、を含」むものであったとしても、「個々の移動元素について、」「前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度」及び「前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度」、すなわち「表面下部分およびバルク部分のそれぞれにおける元素濃度の最大値(ピーク値)」(上記1(2)参照)は不明であるから、「個々の移動元素について、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が」「原子%に基づいて」「4.1以上であ」るかも不明であるというほかない。
したがって、上記相違点4は、実質的な相違点である。
(イ)そして、甲4発明において、上記「濃度の比」を「個々の移動元素について」「4.1以上」とする動機付けがあるとはいえないから、甲4発明において、上記ア(ウ)の相違点4に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明15は、甲4に記載された発明ではないし、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由4についてのまとめ
したがって、本件発明15は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえないし、本件発明15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由4によっては、本件特許の請求項15に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由1並びに特許異議申立書に記載された申立理由1~7及び令和 6年 7月19日提出の意見書に記載された申立理由8、9のいずれによっても、本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、5~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3、4が本件訂正によって削除されたことにより、申立人による請求項3、4に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700630