特許異議申立
2023-701108
水素吸蔵合金
- 審判番号
- 2023-701108
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-555676
- 登録番号
- 7260722
- 請求日
- 2023年10月17日
- 審決日
- 2024年05月24日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井金属鉱業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】田上 浩
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 相澤 啓祐
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7260722号発明「水素吸蔵合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7260722号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7260722号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。
特許第7260722号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7260722号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、2022年(令和 4年) 6月16日(優先権主張:令和 3年10月22日)を国際出願日とする出願(特願2022-555676号。以下、「本願」という。)であって、令和 5年 4月10日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月18日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その請求項1~5(全請求項)に係る特許に対し、同年10月17日に特許異議申立人である田上 浩(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年10月17日提出 特許異議申立書
令和5年12月28日付け 取消理由通知書
令和6年 2月22日提出 訂正請求書及び意見書
なお、以下の第2に記載するとおり、令和 6年 2月22日提出の訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、令和5年12月28日付け取消理由通知書において取消理由が通知された本件訂正前の請求項1、4を含む請求項1、3~5について、取消理由がないと判断された請求項2に記載の発明特定事項と同様の事項を追加するとともに、請求項2を削除するものである。
ここで、本件訂正請求の内容は、上記のとおり、実質的な判断に影響を与えるものではないため、申立人に意見を聴くまでもないことが明らかであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情」があると認められるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第7260722号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「Mm(Mmはミッシュメタルを表す。)、Ni、Mn、Al及びCoを含有し、残部不純物からなり、CaCu5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、
Mmに占めるLa及びCeの合計の割合が95質量%以上であり、
1モルのMmに対する、Ni、Mn、Al及びCoのモル比をそれぞれa、b、c及びdとしたとき、
dが0.00以上0.15未満であり、
d/bが0.00以上0.35以下であり、
a+b+c+dの合計が5.22以上5.44以下であり、
ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/Eが0.08以上0.15以下である、水素吸蔵合金。」
と記載されているのを、
「Mm(Mmはミッシュメタルを表す。)、Ni、Mn、Al及びCoを含有し、残部不純物からなり、CaCu5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、
Mmに占めるLa及びCeの合計の割合が95質量%以上であり、
1モルのMmに対する、Ni、Mn、Al及びCoのモル比をそれぞれa、b、c及びdとしたとき、
dが0.00以上0.15未満であり、
d/bが0.00以上0.35以下であり、
a+b+c+dの合計が5.22以上5.44以下であり、
ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/Eが0.08以上0.15以下であり、
前記硬度Hが1GPa以上11GPa以下である、水素吸蔵合金。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~5についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に「ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/Eが0.08以上0.15以下である」と記載されており、「硬度H(GPa)」の具体的な数値範囲が特定されていなかったものについて、「前記硬度Hが1GPa以上11GPa以下である」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1に係る訂正は、上述のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。
さらに、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0025】には、「硬度Hの値は1.0GPa以上11.0GPa以下・・・であることが好ましい。」と記載されており、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項2には、「前記硬度Hが1GPa以上11GPa以下である、請求項1に記載の水素吸蔵合金。」と記載されているから、訂正事項1に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである(なお、「・・・」は省略を意味する。以下同様。)。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~5について、本件訂正前の請求項2~5はそれぞれ本件訂正前の請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~5は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~5〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(4)独立特許要件について
本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
Mm(Mmはミッシュメタルを表す。)、Ni、Mn、Al及びCoを含有し、残部不純物からなり、CaCu5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、
Mmに占めるLa及びCeの合計の割合が95質量%以上であり、
1モルのMmに対する、Ni、Mn、Al及びCoのモル比をそれぞれa、b、c及びdとしたとき、
dが0.00以上0.15未満であり、
d/bが0.00以上0.35以下であり、
a+b+c+dの合計が5.22以上5.44以下であり、
ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/Eが0.08以上0.15以下であり、
前記硬度Hが1GPa以上11GPa以下である、水素吸蔵合金。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記CaCu5型の結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比が0.8080以上0.8110以下である、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
c/bが0.30以上0.85以下である、請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金の断面を走査型電子顕微鏡で観察したとき、該断面の面積に対する、偏析相の面積の割合が0.01%以上1.60%以下である、請求項1に記載の水素吸蔵合金。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、本願の優先日前に公知となった後述の甲第1号証(以下、「甲1」という。)を提出し、以下の申立理由1~4により、本件特許の本件訂正前の請求項1~5に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
1 申立理由1(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件、取消理由として不採用)
本件明細書に記載の実施例と比較例との比較から、本件訂正前の請求項1に係る発明における「比H/E」は、水冷式鋳型を用いたときのその後の熱処理回数と合金成分に影響を受けるものであることが理解できるところ、本件明細書に記載される所定の合金成分の配合からなる水素吸蔵合金と、それが有する「複合弾性率E」、「硬度H」の組合せは極めて膨大であるから、水素吸蔵合金の合金組成を組み合わせながら、やみくもに水素吸蔵合金を得て、それをナノインデンテーション法により複合弾性率Eと硬度Hを測定して、「比H/Eが0.08以上0.15以下」を満たすか否かを確認する必要があり、当業者に過度な試行錯誤を課すといえる。
よって、本件訂正前の請求項1~5に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本件特許の本件訂正前の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(サポート要件、取消理由として一部採用)
本件明細書に記載の比較例5(【0052】、【0053】、【表1】~【表3】)は、本件訂正前の請求項1に係る発明の全ての構成を満たしている。しかしながら、比較例5に係る水素吸蔵合金の「微粉化残存率指数」は69%、「比表面積増加量(ΔCS)×アルカリ処理後の磁化の値」は0.416であり、寿命特性と出力特性とが共に劣っている。
したがって、本件訂正前の請求項1、2、4には、発明の詳細な説明に記載された、本件特許発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 よって、本件特許の本件訂正前の請求項1、2、4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲1:特許第6948441号公報
第5 取消理由の概要
当審は、上記第4の各申立理由のうち、申立理由4の一部を採用し、以下の取消理由1を通知した。
1 取消理由1(サポート要件)
本件明細書の【0002】~【0006】の記載からすると、本件訂正前の請求項1、4に係る発明が解決しようとする課題は、「出力特性及び寿命特性を維持しつつCoの使用量を低減した水素吸蔵合金を提供すること」にあると認められるところ、本件明細書に記載の比較例5の水素吸蔵合金は、本件訂正前の請求項1、4に係る発明の発明特定事項を全て充足しているにもかかわらず、上記課題を解決できないものであるから、本件訂正前の請求項1、4に係る発明は当該課題を解決できない態様を含むものであり、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるといえる。
したがって、本件特許の本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
以下に述べるとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許の請求項2が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項2に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
1 取消理由1及び申立理由4(サポート要件)について
上記第1で述べたとおり、本件訂正は、取消理由が通知された本件訂正前の請求項1、4を含む請求項1、3~5について、取消理由がないと判断された請求項2に記載の発明特定事項と同様の事項を追加するものである。すなわち、本件訂正により、本件特許発明1、4は、「前記硬度Hが1GPa以上11GPa以下である」との発明特定事項を備えたものとなったため、本件明細書に記載の硬度Hが15.0GPaである比較例5の水素吸蔵合金を包含するものではなくなったから、本件特許発明1、4は、課題を解決できない態様を含むものではなく、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
したがって、サポート要件についての取消理由1及び申立理由4は解消された。
よって、取消理由1及び申立理由4(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、4に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由通知において採用されなかった申立理由について
(1)申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
ア 甲1の記載事項
以下の(ア)~(エ)において、下線は強調を意味する。
(ア)「【請求項1】
一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.70、0.25≦b≦0.45、0.35≦c≦0.45、0≦d≦0.14(ただし、0≦d≦0.06の範囲を除く)、5.20≦a+b+c+d≦5.50)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末であって、
前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して90質量%以上100質量%以下の範囲内であり、前記水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下であることを特徴とする水素吸蔵合金粉末。」
(イ)「【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究し、所定の組成のCoを含有するAB5型水素吸蔵合金において、Co含有量の低減あるいはCo無添加により原料コストを抑制したうえで、粉砕で得られた合金粒子断面の単結晶相の機械的性質と電池特性の関係を詳細に調べた結果、水素吸蔵合金の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率と電池特性に強い相関があることを見出し、前記ヤング率を120GPa以上127GPa以下にコントロールすることで、水素吸蔵量の低下がなく、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制でき、負極活物質に用いたときの寿命特性が維持されるAB5型水素吸蔵合金とすることができることを見出し、本発明を完成させた。」
(ウ)「【0034】
本発明の水素吸蔵合金粉末は、上述のCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、前記合金粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa以上127GPa以下とすることができる製造方法であれば、どのような方法でもよく、例えば、真空溶融炉や大気溶融炉による溶解法、気相合成法、アーク溶融法、プラズマ溶解法、等で製造できる。前記製造した合金を熱処理したり、粉砕したりしてもよい。
前記製造方法の1例として、秤量工程、混合工程、鋳造工程、熱処理工程、冷却工程および粉砕工程を経て製造する場合を説明する。秤量工程では、所望の合金組成となるように水素吸蔵合金の各原料を秤量する。混合工程では、秤量された複数種類の原料を混合する。鋳造工程において、高周波加熱溶解炉に混合原料を投入し、混合原料を溶解させて溶湯とし所定時間保持した後、この溶湯を鋳型に流し込んで鋳造する。鋳造時の溶湯温度は合金組成にもよるが、例えば、1150℃~1550℃の範囲の温度(鋳造温度=鋳造開始時の坩堝内溶湯温度)である。この工程は複数種類の原料を完全に混合することを目的にしているが合金が固化するときの体積収縮による内部歪が発生する。この内部歪を極力減らすために合金の鋳込み厚さは35mm以上とし、500℃以下まで冷却される時間を10分以上とすると良い。この鋳込み厚さとすることで合金がゆっくり固まり、内部歪を減らすことが出来る。この時、鋳込んだ合金のヤング率は50GPa以上、110GPa以下となる。
鋳造後の合金は、前述した内部歪を取り去るため熱処理を行う。必要であれば、熱処理工程において非酸化雰囲気下で熱処理してもよい。熱処理温度は、完全に歪を取り除く目的で合金組成に合わせて決められるが、例えば、1060℃~1150℃とすればよい。
熱処理温度は融点より若干低い温度が好ましいが、低すぎても熱処理時に組織が均質化されず、また、高すぎる温度の場合には偏析相が出現するため、局部的な組成ずれが起こる。結晶組織の均質化や局部的な組成ずれは合金の強直性に影響し、これがヤング率の低下に影響する。これを防ぐため今回の組成範囲では1060℃~1150℃が好ましい。
また、熱処理時間は、鋳造後のインゴット(水素吸蔵合金片)の大きさにもよるが、例えば、8時間から13時間である。熱処理は組織の均質性に影響する工程であり、この時間が短いと十分な結晶組織の均質性が得られず、このその局部的な均質性の低下が合金の強直性に影響し、ヤング率の低下につながる。
冷却工程では、熱処理された鋳造物が冷却される。冷却方法は、放冷でも強制冷却することもできる。
冷却速度は、合金組成に合わせて必要な合金特性を得るために適宜設定する方がよい。
この工程によりヤング率は120GPa以上127GPa以下となる。
次工程である粉砕工程では、鋳造した合金又は更に熱処理した合金塊を、粗粉砕、微粉砕等により必要な粒度の水素吸蔵合金粉末にする。例えば、500μmの篩目を通過するサイズまで粉砕して水素吸蔵合金粉末とする。
以上のような製造方法では、合金のヤング率は、合金組成、溶湯保持温度・時間、鋳造温度、鋳造した合金の熱処理温度・時間・冷却速度、等を適宜調整することができる。例えば、合金組成においての一例としては、CaCu5型の結晶構造における[Cu]/[Ca]比(ABxのx値)を増加するとヤング率を大きくすることができる。」
(エ)「【0039】
(実施例1-4)
MmとしてLaとCe、Ni、Mn、Al、Coの各金属原料を、表1に示した最終的な製品の合金組成となるように秤量した。
それらの原料を高周波溶解炉内のアルミナルツボに入れて27Paまで真空排気した後、アルゴンガスを導入してアルゴンガスの雰囲気とした。
次いで高周波加熱装置で加熱溶解し、溶湯を1550~1600℃、 20~30分間の範囲で保持した後、1300~1400℃の温度範囲の溶湯を水冷鉄鋳型に流し込んで鋳造を行った。この時の鋳込み厚さは40mmであった。
次に鋳込んだ合金を塊状に粉砕後、ステンレス製の容器に入れ、アルゴン雰囲気下1100℃で12.5時間の熱処理を行った。
ついで、熱処理後の900℃付近から500℃付近まで4.45℃/minの冷却速度
で降温し、ついで、100℃まで1℃/minの冷却速度で降温させた。
得られた合金は、アルゴンガス雰囲気下でクラッシャーにより粗粉砕し、続いて、不活性雰囲気下でカッティングミルを用いて粉砕し、続いて篩目500μmを通過する粒子サイズ(500μm以下)とした。
以上のようにして、表1に実施例1~4として示す水素吸蔵合金粉末を作製した。
なお、表1には、熱処理条件も併記した。
【0040】
(PCT特性の測定)
得られた水素吸蔵合金粉末について、PCT特性評価装置により、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力を測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
(微粉化難度の測定)
PCT特性評価装置を用いて、微粉化難度を測定した。その結果を表2に示す。
【0042】
(ナノインデンテーション法によるヤング率の測定)
上記のようにして作製した水素吸蔵合金粉末を、直径31mm、高さ30mmとなるよう樹脂包埋、鏡面研磨した試料をナノインデンター(Nanomechanics社iMicro型ナノインデンター、InForce50ヘッド使用)を用い、連続剛性測定法(CSM/CSR)により、測点点数として粒子当たり5点、押し込み試験5点、最大押し込み荷重50mN、ヤング率算出深さ30~40nmでヤング率の測定を行った。その結果を図2、表2に示す。
水素吸蔵合金は鋳込み時、結晶成長するが、その合金断面のEBSD観察によるグレインサイズをみると、自由面に対して比較的グレインサイズが小さくなる冷却面であっても100~200μm程度となる。水素吸蔵合金の機械的粉砕により得られた粒子は粒界から優先して割れるため、得られた100μm程度の粒子であればほぼ単結晶となっている。この粒子を樹脂包埋し、研磨により得られた100μmの粒子断面の中心部であれば、単結晶相を選択していることになるので、ナノインデンテーションによるヤング率測定はこの部分で測定を行う(図1(b)参照)。
【0043】
(比較例1)
組成を表1の比較例1とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
(比較例2)
表1の比較例2の組成で熱処理時間を5時間とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
(比較例3)
表1の比較例3の組成で熱処理温度を1050℃とした以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
(比較例4)
表1の比較例4の組成で900から500℃までの冷却速度を10℃/minで降温した以外は、実施例と同じ方法で水素吸蔵合金を作製した。
上記比較例1~4についても、実施例と同様な方法で、水素吸蔵量(H/M)、平衡圧力、微粉化難度、ヤング率を測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
[図:0001413341000001.jpg]
【0045】
【表2】
[図:0001413341000002.jpg]
【0046】
表2、図2から、ヤング率は微粉化難度と相関があることが解かる。本発明の水素吸蔵合金は、比較例(従来)の水素吸蔵合金に比較してヤング率が120GPa以上と高いため微粉化難度が高い結果を示した。更に、H/Mが、0.92以上と比較的高く、平衡圧力も比較的低めであることが確認できた。
このことから、本発明の水素吸蔵合金は、Co含有量が少なく原料コストが低く、初期特性に優れ、微粉化難度に優れ、寿命特性に優れ、ニッケル水素電池用負極に好適な合金であることが確認できた。」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(エ)に記載の実施例1に着目し、上記ア(ア)に記載の請求項1の記載に倣って整理すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
(イ)「一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、a=4.42、b=0.38、c=0.41、d=0.09、a+b+c+d=5.30)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末であって、
前記Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して100質量%であり、前記水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPaである水素吸蔵合金粉末。」(以下、「甲1発明」という。)
ウ 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「水素吸蔵合金粉末」を構成する水素吸蔵合金に不純物が含まれることは技術常識から明らかであり、また、甲1発明において「d/b」の値がおよそ0.24(=0.09/0.38)と算出されることを踏まえると、甲1発明における「一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、a=4.42、b=0.38、c=0.41、d=0.09、a+b+c+d=5.30)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末」は、本件特許発明1における「Mm(Mmはミッシュメタルを表す。)、Ni、Mn、Al及びCoを含有し、残部不純物からなり、CaCu5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、」「1モルのMmに対する、Ni、Mn、Al及びCoのモル比をそれぞれa、b、c及びdとしたとき、dが0.00以上0.15未満であり、d/bが0.00以上0.35以下であり、a+b+c+dの合計が5.22以上5.44以下であ」「る、水素吸蔵合金」に相当する。
(イ)また、甲1発明における「Mmは、LaおよびCeの合計が、Mm全質量に対して100質量%であり」は、本件特許発明1における「Mmに占めるLa及びCeの合計の割合が95質量%以上であり」に相当する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、
「Mm(Mmはミッシュメタルを表す。)、Ni、Mn、Al及びCoを含有し、残部不純物からなり、CaCu5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、
Mmに占めるLa及びCeの合計の割合が95質量%以上であり、
1モルのMmに対する、Ni、Mn、Al及びCoのモル比をそれぞれa、b、c及びdとしたとき、
dが0.00以上0.15未満であり、
d/bが0.00以上0.35以下であり、
a+b+c+dの合計が5.22以上5.44以下である、水素吸蔵合金。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1では、「ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/Eが0.08以上0.15以下であり、前記硬度Hが1GPa以上11GPa以下である」のに対し、甲1発明では、上記「比H/E」の値及び「硬度H」の値が不明である点。
エ 相違点についての判断
(ア)まず、上記相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(イ)甲1発明は、「水素吸蔵合金粉末の粒子断面の単結晶相をナノインデンターで測定したときに得られるヤング率が120GPa」のものであり、甲1には、上記ア(イ)に示されるとおり、上記ヤング率を120GPa以上127GPa以下にコントロールすることが記載されている。
(ウ)しかしながら、甲1には、「ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/Eが0.08以上0.15以下であ」ることや、ナノインデンテーション法によって測定される「硬度Hが1GPa以上11GPa以下である」ことは何ら記載されていない。また、技術常識を考慮しても、甲1発明において、上記ヤング率が「120GPa」であれば、必ず、上記「比H/E」が「0.08以上0.15以下」となり、上記「硬度H」が「1GPa以上11GPa以下」となるかどうかは不明である。
(エ)そこで、製造方法の観点から検討を加えると、本件明細書の【0033】~【0043】に、本件特許発明の水素吸蔵合金の好適な製造方法が記載されているので、これと上記ア(ウ)、(エ)に記載の甲1発明の水素吸蔵合金粉末の製造方法とを比較する。
(オ)そうすると、両者は、溶湯を水冷式鋳型に流し込んで鋳造し、得られた合金塊を粉砕して粉末を得る点で共通するものの、本件特許発明1の水素吸蔵合金の製造方法では、粉末への粉砕前後で熱処理を行うのに対し、甲1発明の水素吸蔵合金粉末の製造方法では、粉末への粉砕前にのみ熱処理を行う点で、少なくとも相違する。
(カ)この点について検討すると、甲1には、上記ア(ウ)に示されるとおり、「鋳造後の合金は、前述した内部歪を取り去るため熱処理を行う。・・・熱処理温度は、完全に歪を取り除く目的で合金組成に合わせて決められる」と記載されている。
(キ)一方、本件明細書の【0037】には、「このようにして得られた粉末を、第2回目の熱処理に付すことが好ましい。本熱処理の目的は、合金中に残存している、合金の結晶性不均一箇所を更に均質化させることによって、合金の機械的特性を目的の範囲内に正確にコントロールすることにある。上述した合金塊には、合金の結晶性不均一箇所が比較的多量存在していることから、該合金塊に対して行う第1回目の熱処理のみで合金の機械的特性を目的の範囲内に正確にコントロールことは容易でない。そこで、本製造方法では熱処理を2回に分けて行い、前記結晶性不均一箇所を段階的に均質化して、合金の機械的特性を目的の範囲内に正確にコントロールしている。」と記載されている。
(ク)ここで、合金塊の表層部と中心部とでは、鋳造後の組織や熱処理による熱履歴が異なることは技術常識であるから、上記(キ)にあるとおり、(粉末への粉砕前の)合金塊に対してのみ熱処理を行うよりも、(粉砕後の)粉末に対しても熱処理を行う方が、最終的な合金の結晶性不均一箇所の均質化をより一層図れることは明らかであり、たとえ上記(カ)にあるとおり、甲1に「完全に歪を取り除く目的で」「鋳造後の合金」に「内部歪を取り去るため熱処理を行う」ことが記載されているとしても、甲1発明が本件特許発明1と同水準の均質化した結晶性を有するものであるかは不明である。
(ケ)これを裏付けるように、本件明細書の【0046】~【0079】には、合金塊に対してのみ熱処理を行い、粉末に対して熱処理を行わなかった結果、水素吸蔵合金の「硬度H」が15.0GPaとなり、「1GPa以上11GPa以下」の範囲外である点で本件特許発明1と相違する、比較例5が記載されている。
(コ)上記(ク)及び(ケ)によれば、甲1発明は、上記ウ(ウ)の相違点1に係る発明特定事項を備えるかどうかは不明である。
この点、申立人は、「甲1に記載の発明では、本件発明1のように熱処理を2回に分けて行ってはいないものの、積算時間は本件発明1の合計(9時間30分)と同等若しくはそれを超えるものである。また、甲1では、合金の内部歪を完全に取り除くとしており、実際に得られた水素吸蔵合金粉末のヤング率は、本件発明1の実施例3や実施例9と同程度である。しかも、前述したとおり、本件発明1では、熱処理が1回のみの場合でも構成〔ニ〕を満足するものがある(比較例2、4、5)。そのため、甲1の実施例1に係る水素吸蔵合金は本件発明1の合金組成を満たし、かつ、その製造方法も実質的に同じであるから、甲1の実施例1における水素吸蔵合金は、本件発明1の構成〔ニ〕を満足する蓋然性が高い。」(特許異議申立書の第15頁下から第6行~第16頁第3行)と主張しているが、上記のとおりであるから、申立人の上記主張を採用することはできない。
よって、相違点1は実質的な相違点であるといえる。
(サ)次に、当業者であれば、甲1発明において、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることが容易に想到することができたのか否かについて検討する。
(シ)上記(ウ)で述べたとおり、甲1には、「ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/Eが0.08以上0.15以下であ」ることや、ナノインデンテーション法によって測定される「硬度Hが1GPa以上11GPa以下である」ことは何ら記載されていないし、上記「比H/E」を「0.08以上0.15以下」としたり、「前記硬度H」を「1GPa以上11GPa以下」としたりすることについても何ら示唆されていない。
(ス)また、甲1の他の箇所を参照しても、甲1発明において、上記「比H/E」を「0.08以上0.15以下」とし、かつ、「前記硬度H」を「1GPa以上11GPa以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
(セ)したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(ソ)なお、申立人は、「本件発明1では熱処理を2回に分けて行って一見異なる水素吸蔵合金としているが、熱処理が2回であってもそれぞれの目的が組織の均一性向上であるので当業者であれば組織が不十分であれば熱処理時間を長くしたり熱処理の回数を増やしたりするのは容易に想到できるものであり材料の最適設計事項の範囲内であると言える。」(特許異議申立書の第16頁第5~9行)と主張している。
(タ)しかしながら、本件特許発明1は物の発明であり、本件特許発明1の進歩性の有無を検討するに当たり、「当業者であれば組織が不十分であれば熱処理時間を長くしたり熱処理の回数を増やしたりするのは容易に想到できるものであり」、その結果、本件特許発明1の発明特定事項を充足することになるという論理付けは後知恵にほかならないから、申立人の上記主張を採用することはできない。
(チ)以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 本件特許発明3と甲1発明との対比及び判断
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。上記エ(チ)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件特許発明3も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由3(実施可能要件)について
ア 本件特許発明1、3~5は、水素吸蔵合金に関するものであるところ、本件明細書の【0033】~【0043】には、本件特許発明の水素吸蔵合金の好適な製造方法が記載されている。また、本件明細書の【0046】~【0079】には、上記好適な製造方法に基づいて製造された本件特許発明1、3~5の水素吸蔵合金である実施例1~10が記載されている。
イ そうすると、当業者であれば、上記好適な製造方法の記載を参照しつつ、実施例1~10の製造条件を一部変更して実験を行うことにより、過度の試行錯誤を要することなく、実施例1~10以外の本件特許発明1、3~5の水素吸蔵合金を製造することができるといえる。
ウ 一方、申立人は、実施例と比較例とを対比した上で、以下のとおり主張している。
(ア)「<条件1>に関する水素吸蔵合金の機械的特性について、本件特許明細書の段落【0025】では「複合弾性率Eの値は4.OGPa以上138.5GPa以下」であるのが好ましいこと、及び「硬度Hの値は1.OGPa以上11.OGPa以下」であるのが好ましいことをそれぞれ記載しているが、これらの合金成分の配合からなる水素吸蔵合金と、それが有する「複合弾性率E」、「硬度H」の組合せからなる数は極めて膨大になる。そして、当該「比H/E」は、実際に水素吸蔵合金を測定してみるほかには知ることができず、それゆえ、<条件2>に関する水素吸蔵合金の合金組成を組み合わせながら、やみくもに水素吸蔵合金を得て、それをナノインデーション法により複合弾性率Eと硬度Hを測定して「比H/Eが0.08以上0.15以下」を満たすか否かを確認していく必要があり、これは当業者に過度な試行錯誤を課すことになる。」(特許異議申立書の第10頁第2~12行)
エ そこで、上記ウ(ア)の主張について検討すると、本件訂正により、本件特許発明1では、水素吸蔵合金の合金組成及び「ナノインデンテーション法によって測定される、複合弾性率E(GPa)に対する硬度H(GPa)の比H/E」に加え、「硬度H」も特定されることとなり、「硬度H」が決まれば、上記「比H/E」の数値範囲から「複合弾性率E」の数値範囲もおおよそ決まるため、「合金成分の配合からなる水素吸蔵合金と、それが有する「複合弾性率E」、「硬度H」の組合せからなる数は極めて膨大になる」とはいえなくなったし、「水素吸蔵合金の合金組成を組み合わせながら、やみくもに水素吸蔵合金を得」る必要があるともいえなくなった。
そして、当業者であれば、上記好適な製造方法の記載を参照しつつ、実施例1~10の製造条件を一部変更して実験を行うことにより、過度の試行錯誤を要することなく、実施例1~10以外の本件特許発明1、3~5の水素吸蔵合金を製造することができることは、上記イのとおりである。
オ したがって、申立人の主張を採用することはできない。
カ 以上のとおりであるから、申立理由3(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項2が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項2に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701108