特許異議申立
2025-700343
アルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材
- 審判番号
- 2025-700343
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-186323
- 登録番号
- 7568814
- 請求日
- 2025年03月25日
- 審決日
- 2025年06月27日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】MAアルミニウム株式会社
- 【権利者代理人】横井 幸喜
- 【異議申立人】後藤 麻衣子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 石川 雄太郎
- 分類
- P1651.113-Y (C22C) / P1651.121-Y (C22C) / P1651.537-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7568814号発明「アルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7568814号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7568814号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願(特願2023-186323号。以下「本願」という。)は、令和 5年10月31日の出願であって、令和 6年10月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年10月16日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 7年 3月25日に、その請求項1~13(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である後藤 麻衣子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~13に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明13」といい、総称して、「本件特許発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。
「【請求項1】
Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在し、融点(固相線温度)が590℃以上であり、
前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であることを特徴とするアルミニウム合金材。
【請求項2】
前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有する請求項1記載のアルミニウム合金材。
【請求項3】
前記組成に、質量%で0.35%以下のTi、V、Co、Ni、Zr、Nbの1種あるいは2種以上を含有する請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項4】
前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種を含有する請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項5】
前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種を含有する請求項3に記載のアルミニウム合金材。
【請求項6】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金材を心材とし、前記心材の片面あるいは両面に、別種アルミニウム合金材が1層以上貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項7】
請求項3に記載のアルミニウム合金材を心材とし、前記心材の片面あるいは両面に、別種アルミニウム合金材が1層以上貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項8】
請求項4に記載のアルミニウム合金材を心材とし、前記心材の片面あるいは両面に、別種アルミニウム合金材が1層以上貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項9】
請求項5に記載のアルミニウム合金材を心材とし、前記心材の片面あるいは両面に、別種アルミニウム合金材が1層以上貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項10】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金材を皮材とし、別種アルミニウム合金を心材として前記皮材が前記心材の片面あるいは両面に貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項11】
請求項3に記載のアルミニウム合金材を皮材とし、別種アルミニウム合金を心材として前記皮材が前記心材の片面あるいは両面に貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項12】
請求項4に記載のアルミニウム合金材を皮材とし、別種アルミニウム合金を心材として前記皮材が前記心材の片面あるいは両面に貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項13】
請求項5に記載のアルミニウム合金材を皮材とし、別種アルミニウム合金を心材として前記皮材が前記心材の片面あるいは両面に貼り合わされているアルミニウム合金クラッド材。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証~甲第5号証(以下「甲1」等という。)を提出し(下記4参照。)、以下の理由により、本件特許の請求項1~13に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
本件特許発明5、9、13は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
(1)申立理由2-1
本件特許発明5、9、13は、甲1に記載された発明、並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2
本件特許発明2~5は、甲3に記載された発明、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由2-3
本件特許発明2~5は、甲4に記載された発明、並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件特許発明1~13について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:特開平7-138686号公報
甲2:特開2017-57497号公報
甲3:国際公開第2013/111884号
甲4:国際公開第2013/080650号
甲5:特開2013-194243号公報
第4 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことができないと判断する。
1 申立理由1(新規性)、及び申立理由2-1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1(発明の名称:ろう付け後強度およびろう付け性に優れたAl合金フィン材)の【請求項1】~【請求項4】、【0009】~【0036】の記載を総合勘案し、特に、比較例の「No.C-6」、「No.C-15」の「Al合金フィン材」、及び実施例の「No.I-21」の「Al合金フィン材」に着目すると、甲1には、次の各発明が記載されていると認められる。
「化学成分組成(wt.%)でSi:1.08%、Mn:1.98%、Mg:1.11%、V:0.11%、Zr:0.13%、Cr:0.12%を含有し、残りが、Alおよび不可避不純物からなるAl合金フィン材であって、固相線温度が616℃である、Al合金フィン材。」(以下「甲1発明1」という。)
「化学成分組成(wt.%)でSi:1.28%、Mn:1.98%、Mg:0.74%、V:0.13%、Zr:0.12%、Cr:0.12%、Fe:0.90%、Ti:0.28%を含有し、残りが、Alおよび不可避不純物からなるAl合金フィン材であって、固相線温度が635℃である、Al合金フィン材。」(以下「甲1発明2」という。)
「化学成分組成(wt.%)でSi:1.13%、Mn:2.36%、Mg:0.64%、V:0.13%、Zr:0.12%、Cr:0.12%、Fe:0.23%、Ti:0.25%を含有し、残りが、Alおよび不可避不純物からなるAl合金フィン材であって、固相線温度が638℃である、Al合金フィン材。」(以下「甲1発明3」という。)
(2)本件特許発明5について
ア 甲1発明1との対比・判断
(ア)本件特許発明5と甲1発明1との対比
a 甲1発明1の「Al合金フィン材」は、本件特許発明5の「アルミニウム合金材」に相当する。
b 本件特許発明5の「アルミニウム合金材」のうち請求項1~3に記載された特定事項を全て備えたものの組成と、甲1発明1の「Al合金フィン材」の化学成分組成とを対比すると、両者は、「Siを」「含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという。)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって」、「前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であ」り、「前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」し、「前記組成に、質量%で0.35%以下のTi、V、Co、Ni、Zr、Nbの1種あるいは2種以上を含有」し、「前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」する点で一致する。
c 甲1発明1の「Al合金フィン材」の「固相線温度が616℃である」ことは、本件特許発明5の「アルミニウム合金材」の「融点(固相線温度)が590℃以上であ」ることに相当する。
d そうすると、本件特許発明5と甲1発明1とは、
「Siを含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという。)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であり、
前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有し、
前記組成に、質量%で0.35%以下のTi、V、Co、Ni、Zr、Nbの1種あるいは2種以上を含有し、
前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有し、
融点(固相線温度)が590℃以上である、
アルミニウム合金材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
Siの含有量(質量%)について、本件特許発明5は、1.1~2.5%であるのに対して、甲1発明1は、1.08%である点。
<相違点1-2>
本件特許発明5は、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するのに対して、甲1発明1は、このような特定事項を備えているか否かが不明である点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点1-2について検討する。
a 甲1の【0010】~【0011】には、真空ろう付け工法によって製造される自動車用熱交換器等に用いられる、ろう付け後強度およびろう付け性に優れたAl合金フィン材について、Al-Mn-Si系のAl合金中のMnには、SiがAl-Mn-Si系析出物として析出するのを促進する作用があり、Siの固溶量を抑制するので、Siの固溶によるAl合金の固相線温度の低下を防ぐ効果があること、および、V、Zr、およびCrの3元素が共存すると、これら3元素がAl-Mn-Si系析出物に取り込まれ、この析出物中のSi含有比率が増加し、Siの固溶量が減少するため、Al合金の固相線温度の低下が抑制されることが記載されている。
b しかしながら、甲1の記載や本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1発明1の「Al合金フィン材」において、Siと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上(本件特許発明5の「X」に相当)とを含有する金属間化合物が生成しているか否かは不明であり、仮に生成しているとしても、表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するSiと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上とを含有する金属間化合物が10000μm2あたり10個より多く存在するか否かも不明である。
c この点に関連して、申立人は、特許異議申立書の第38頁下から5行~第39頁第4行において、本件特許発明5と甲1発明1とが組成において一致していることを前提としたうえで、甲1の【0009】、【0011】及び【0019】の記載から、甲1発明1は、Siの作用で材料の固相線温度が低下して局部溶融を引き起こすことを防止するために、V、Zr及びCrがAl-Mn-Si系析出物に取り込まれることで、析出物中のSi含有比率が増加し、Siの固溶量を減少させることを特徴としたものであること、及び甲1発明1に固相線温度が616℃で本件特許発明5における「融点(固相線温度)が590℃以上である」との特定事項の下限よりもはるかに高い温度であることを根拠として、甲1発明1が上記相違点1-2に係る特定事項を満たしている蓋然性が高い旨主張している。
d しかしながら、上記(ア)において検討したとおり、本件特許発明5と甲1発明1とは、Siの含有量において相違しているから、上記cの主張はそもそも前提を欠くものであるし、仮にその点は措くとしても、Siの固溶量を減少させるという特徴を有する点で共通していることや、固相線温度が一致していることのみを根拠として、甲1発明1が本件特許発明5と同様に、上記相違点1-2に係る特定事項を備えているとは認められないのは明らかであるから、いずれにしても、上記cの主張は採用しない。
e したがって、上記相違点1-2は、実質的な相違点である。
f 次に上記相違点1-2の容易想到性について検討する。
(a)甲1の記載を参照しても、Siと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上を含有する金属間化合物の表層面(RD-TD面)方向における分布についての記載は見当たらないし、甲2、甲3及び甲5の記載を参照しても、同様であるから、甲1発明1において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(b)この点に関し、申立人は、特許異議申立書の第39頁第5行~第40頁第8行において、甲2の【0033】、【0034】、【0047】~【0062】及び【0083】の記載、並びに甲3の【0066】の記載を参照しつつ、甲1発明1において、加工性が不十分となることを抑制し、Siの固溶量を減少させる観点等から、本件特許明細書の【0022】、【0028】~【0031】に記載されている程度の鋳造における冷却速度、均質化処理条件、熱間圧延における温度と時間、冷間圧延における1パスあたりの圧下率を採用することは、当業者にとって容易であり、したがって、上記相違点1-2に係る特定事項は、甲2及び甲3の記載に基づいて当業者が容易に想到し得た事項にすぎない旨主張している。
(c)しかしながら、仮に、甲1発明1において、本件特許明細書の【0022】、【0028】~【0031】に記載されている程度の鋳造における冷却速度、均質化処理条件、熱間圧延における温度と時間、冷間圧延における1パスあたりの圧下率を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであったとしても、そのような製造条件を採用すれば、必然的に、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するとの上記相違点1-2に係る特定事項を備えることになるとはいえないことは、明らかであるから、上記(b)の主張は採用しない。
(d)したがって、甲1発明1において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点1-1について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明1であるとはいえない。
また、上記相違点1-1、及び本件特許発明5によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明1、並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 甲1発明2との対比・判断
(ア)本件特許発明5と甲1発明2との対比
a 甲1発明2の「Al合金フィン材」は、本件特許発明5の「アルミニウム合金材」に相当する。
b 本件特許発明5の「アルミニウム合金材」のうち請求項1~3に記載された特定事項を全て備えたものの組成と、甲1発明2の「Al合金フィン材」の化学成分組成とを対比すると、両者は、「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという。)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって」、「前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であ」り、「前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%」と「Fe」「を含有」し、「前記組成に、質量%で0.35%以下のTi、V、Co、Ni、Zr、Nbの1種あるいは2種以上を含有」し、「前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」する点で一致する。
c 甲1発明2の「Al合金フィン材」の「固相線温度が635℃である」ことは、本件特許発明5の「アルミニウム合金材」の「融点(固相線温度)が590℃以上であ」ることに相当する。
d そうすると、本件特許発明5と甲1発明2とは、
「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという。)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であり、
前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%とFeを含有し、
前記組成に、質量%で0.35%以下のTi、V、Co、Ni、Zr、Nbの1種あるいは2種以上を含有し、
前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有し、
融点(固相線温度)が590℃以上である、
アルミニウム合金材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
Feの含有量(質量%)について、本件特許発明5は、0.05~0.7%であるのに対して、甲1発明2は、0.90%である点。
<相違点2-2>
本件特許発明5は、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するのに対して、甲1発明2は、このような特定事項を備えているか否かが不明である点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点2-2について検討する。
上記相違点2-2は、上記相違点1-2と同様のものであるから、上記ア(イ)において検討したのと同様に、当該相違点2-2は、実質的な相違点であり、また、甲1発明2において、上記相違点2-2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点2-1について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明2であるとはいえない。
また、上記相違点2-1、及び本件特許発明5によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明2、並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 甲1発明3との対比・判断
(ア)本件特許発明5と甲1発明3との対比
a 甲1発明3の「Al合金フィン材」は、本件特許発明5の「アルミニウム合金材」に相当する。
b 本件特許発明5の「アルミニウム合金材」のうち請求項1~3に記載された特定事項を全て備えたものの組成と、甲1発明3の「Al合金フィン材」の化学成分組成とを対比すると、両者は、「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという。)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって」、「前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であ」り、「前記組成に、」「Mn」と「質量%で、」「Fe:0.05~0.7%」「を含有」し、「前記組成に、質量%で0.35%以下のTi、V、Co、Ni、Zr、Nbの1種あるいは2種以上を含有」し、「前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」する点で一致する。
c 甲1発明3の「Al合金フィン材」の「固相線温度が638℃である」ことは、本件特許発明5の「アルミニウム合金材」の「融点(固相線温度)が590℃以上であ」ることに相当する。
d そうすると、本件特許発明5と甲1発明3とは、
「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという。)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であり、
前記組成に、Mnと、質量%で、Fe:0.05~0.7%を含有し、
前記組成に、質量%で0.35%以下のTi、V、Co、Ni、Zr、Nbの1種あるいは2種以上を含有し、
前記組成に、質量%でZn:0.01~8.0%、Mg:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有し、
融点(固相線温度)が590℃以上である、
アルミニウム合金材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3-1>
Mnの含有量(質量%)について、本件特許発明5は、0.1~2.0%であるのに対して、甲1発明3は、2.36%である点。
<相違点3-2>
本件特許発明5は、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するのに対して、甲1発明3は、このような特定事項を備えているか否かが不明である点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点3-2について検討する。
上記相違点3-2は、上記相違点1-2と同様のものであるから、上記ア(イ)において検討したのと同様に、当該相違点3-2は、実質的な相違点であり、また、甲1発明3において、上記相違点3-2に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点3-1について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明3であるとはいえない。
また、上記相違点3-1、及び本件特許発明5によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明3、並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明9、13について
本件特許発明9、13は、本件特許発明5に係る特定事項をすべて備えたものであるから、上記(2)ア(ウ)、上記(2)イ(ウ)、及び上記(2)ウ(ウ)のとおり、本件特許発明5が甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由1及び申立理由2-1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明5、9、13は、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえないから、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許発明5、9、13は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2-1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2-2(進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲3(発明の名称:熱交換器フィン用のアルミニウム合金材及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金材を用いた熱交換器)の[請求項1]、[請求項3]~[請求項5]、[0009]~[0010]、[0024]、[0026]、[0035]、[0066]~[0073]、[0077]、[0086]~[0104]の記載を総合勘案し、特に、第1実施形態の「実施例27」、「実施例31」及び「実施例37」の「アルミニウム合金材の供試材」に着目すると、甲3には、次の各発明が記載されていると認められる。
「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Mn:1.0%、Cr:0.3%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分の試験材をDC鋳造法で厚さ400mm、幅1000mm、長さ3000mmのサイズで鋳造し、鋳塊を面削して厚さを380mmとした後、熱間圧延前の加熱保持工程として鋳塊を500℃まで加熱してその温度で5時間保持し、次いで、15%以上の圧下率となるパスを5回含み、総圧下率を93%とし、この段階で厚さ27mmまで圧延する熱間粗圧延段階と、熱間粗圧延段階後に圧延材を更に3mm厚まで圧延する熱間仕上圧延段階とを含む熱間圧延工程にかけ、その後、圧延板を0.09mm厚まで圧延する冷間圧延工程と、380℃で2時間の中間焼鈍工程と、最終板厚0.07mmまで圧延する最終冷間圧延段階を経て製造され、板厚方向に沿った断面をSEM観察(反射電子像観察)により測定した円相当径0.5~5μmのSi系金属間化合物の面密度が2.4E+03、円相当径5μmを超えるAl-Fe-Mn-Si系金属間化合物の面密度が1.5E+02であり、チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である、アルミニウム合金材の供試材。」(以下「甲3発明1」という。)
「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Mn:1.0%、Sr:0.1%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分の試験材をDC鋳造法で厚さ400mm、幅1000mm、長さ3000mmのサイズで鋳造し、鋳塊を面削して厚さを380mmとした後、熱間圧延前の加熱保持工程として鋳塊を500℃まで加熱してその温度で5時間保持し、次いで、15%以上の圧下率となるパスを5回含み、総圧下率を93%とし、この段階で厚さ27mmまで圧延する熱間粗圧延段階と、熱間粗圧延段階後に圧延材を更に3mm厚まで圧延する熱間仕上圧延段階とを含む熱間圧延工程にかけ、その後、圧延板を0.09mm厚まで圧延する冷間圧延工程と、380℃で2時間の中間焼鈍工程と、最終板厚0.07mmまで圧延する最終冷間圧延段階を経て製造され、板厚方向に沿った断面をSEM観察(反射電子像観察)により測定した円相当径0.5~5μmのSi系金属間化合物の面密度が7.8E+03、円相当径5μmを超えるAl-Fe-Mn-Si系金属間化合物の面密度が1.4E+02であり、チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である、アルミニウム合金材の供試材。」(以下「甲3発明2」という。)
「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Mn:1.0%、Ca:0.05%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分の試験材をDC鋳造法で厚さ400mm、幅1000mm、長さ3000mmのサイズで鋳造し、鋳塊を面削して厚さを380mmとした後、熱間圧延前の加熱保持工程として鋳塊を500℃まで加熱してその温度で5時間保持し、次いで、15%以上の圧下率となるパスを5回含み、総圧下率を93%とし、この段階で厚さ27mmまで圧延する熱間粗圧延段階と、熱間粗圧延段階後に圧延材を更に3mm厚まで圧延する熱間仕上圧延段階とを含む熱間圧延工程にかけ、その後、圧延板を0.09mm厚まで圧延する冷間圧延工程と、380℃で2時間の中間焼鈍工程と、最終板厚0.07mmまで圧延する最終冷間圧延段階を経て製造され、板厚方向に沿った断面をSEM観察(反射電子像観察)により測定した円相当径0.5~5μmのSi系金属間化合物の面密度が2.7E+03、円相当径5μmを超えるAl-Fe-Mn-Si系金属間化合物の面密度が1.5E+02であり、チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である、アルミニウム合金材の供試材。」(以下「甲3発明3」という。)
(2)本件特許発明2について
ア 甲3発明1との対比・判断
(ア)本件特許発明2と甲3発明1との対比
a 甲3発明1の「アルミニウム合金材の供試材」は、本件特許発明2の「アルミニウム合金材」に相当する。
b 本願出願時の技術常識によれば、アルミニウム合金材として、鋳造された段階での成分と、最終冷間圧延段階を経て製造された段階での成分とは一致しているのが通常であるため、甲3発明1の「アルミニウム合金材の供試材」は、「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Mn:1.0%、Cr:0.3%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分」を有しているものと認められるから、本件特許発明2と甲3発明1とは、「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、」「前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であ」り、「前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」する点で一致する。
c そうすると、本件特許発明2と甲3発明1とは、
「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であり、
前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有する
アルミニウム合金材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明2は、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するのに対して、甲3発明1は、このような特定事項を備えているか否かが不明である点。
<相違点4-2>
本件特許発明2の「アルミニウム合金材」は、「融点(固相線温度)が590℃以上であ」るのに対して、甲3発明1の「アルミニウム合金材の供試材」は、「チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である」ものの、融点(固相線温度)が590℃以上であるか否かが不明である点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点4-1について検討する。
a 甲3の[0035]には、甲3に係る「アルミニウム合金材」において、「(1)単体Si、及び(2)単体Siの一部にCa、Pなどの元素を含む」「Si系金属間化合物」について、「Si系金属間化合物が微細なほど、接合加熱時において、より速やかに液相が生成し易くなり、良好な接合性が得られる」との観点から、「0.5~5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が、その断面において250個/mm2以上7×104個/mm2以下存在する」ようにすることが記載されている。
b しかしながら、甲3の記載や本願出願時の技術常識を考慮しても、甲3発明1の「アルミニウム合金材の供試材」において、Siと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上(本件特許発明2の「X」に相当)とを含有する金属間化合物が生成しているか否かは不明であり、仮に生成しているとしても、表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するSiと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上とを含有する金属間化合物が10000μm2あたり10個より多く存在するか否かも不明である。
c この点に関し、申立人は、特許異議申立書の第44頁第2~11行において、本件特許発明2と甲3発明1とが組成において一致していることを前提としたうえで、甲3の[0035]には、Si系金属間化合物がCaなどの元素を含むものであることが記載され、加えて、甲3の[0024]等の記載によると、甲3におけるSi系金属間化合物は、アルミニウム合金材のマトリクス溶融に続いて溶融するものであり、マトリクスの溶融開始温度では溶解しないものである点で、本件特許発明2の金属間化合物と同じ性質を有していると解すべきであることを根拠として、甲3発明1が上記相違点4-1に係る特定事項を満たしている蓋然性が高い旨主張している。
d しかしながら、仮に、甲3発明1のSi系金属間化合物が、アルミニウム合金材のマトリクス溶融に続いて溶融するものであり、マトリクスの溶融開始温度では溶解しないものである点で、本件特許発明2の金属間化合物と同じ性質を有していると解すべきであるとしても、そのことのみを根拠として、甲3発明1が本件特許発明2と同様に、上記相違点4-1に係る特定事項を備えているとは認められないのは、明らかであるから、上記cの主張は採用しない。
e したがって、上記相違点4-1は、実質的な相違点である。
f 次に上記相違点4-1の容易想到性について検討する。
(a)甲3の記載を参照しても、Siと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上を含有する金属間化合物の表層面(RD-TD面)方向における分布についての記載は見当たらないし、甲2の記載を参照しても、同様であるから、甲3発明1において、上記相違点4-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(b)この点に関し、申立人は、特許異議申立書の第44頁第12行~第45頁第14行において、甲3の[0066]、[0069]、[0073]及び[0087]の記載、並びに甲2に記載された熱間圧延工程についての記載を参照しつつ、甲3発明1において、Si系金属間化合物等の存在量を制御する観点等から、本件特許明細書の【0022】、【0028】~【0031】に記載されている程度の鋳造における冷却速度、均質化処理条件、熱間圧延における温度と時間、冷間圧延における1パスあたりの圧下率を採用することは、当業者にとって容易であり、したがって、上記相違点4-1に係る特定事項は、甲3に記載されているかに等しいか、仮にそうでないとしても、甲2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得た事項にすぎない旨主張している。
(c)しかしながら、仮に、甲3発明1において、本件特許明細書の【0022】、【0028】~【0031】に記載されている程度の鋳造における冷却速度、均質化処理条件、熱間圧延における温度と時間、冷間圧延における1パスあたりの圧下率を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであったとしても、そのような製造条件を採用すれば、必然的に、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するとの上記相違点4-1に係る特定事項を備えることになるとはいえないことは、明らかであるから、上記(b)の主張は採用しない。
(d)したがって、甲3発明1において、上記相違点4-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点4-2、及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲3発明1、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 甲3発明2との対比・判断
(ア)本件特許発明2と甲3発明2との対比
a 甲3発明2の「アルミニウム合金材の供試材」は、本件特許発明2の「アルミニウム合金材」に相当する。
b 本願出願時の技術常識によれば、アルミニウム合金材として、鋳造された段階での成分と、最終冷間圧延段階を経て製造された段階での成分とは一致しているのが通常であるため、甲3発明2の「アルミニウム合金材の供試材」は、「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Mn:1.0%、Sr:0.1%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分」を有しているものと認められるから、本件特許発明2と甲3発明2とは、「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、」「前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であ」り、「前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」する点で一致する。
c そうすると、本件特許発明2と甲3発明2とは、
「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であり、
前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有する
アルミニウム合金材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点5-1>
本件特許発明2は、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するのに対して、甲3発明2は、このような特定事項を備えているか否かが不明である点。
<相違点5-2>
本件特許発明2の「アルミニウム合金材」は、「融点(固相線温度)が590℃以上であ」るのに対して、甲3発明2の「アルミニウム合金材の供試材」は、「チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である」ものの、融点(固相線温度)が590℃以上であるか否かが不明である点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点5-1について検討する。
上記相違点5-1は、上記相違点4-1と同様のものであるから、上記ア(イ)において検討したのと同様に、当該相違点5-1は、実質的な相違点であり、また、甲3発明2において、上記相違点5-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点5-2、及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲3発明2、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 甲3発明3との対比・判断
(ア)本件特許発明2と甲3発明3との対比
a 甲3発明3の「アルミニウム合金材の供試材」は、本件特許発明2の「アルミニウム合金材」に相当する。
b 本願出願時の技術常識によれば、アルミニウム合金材として、鋳造された段階での成分と、最終冷間圧延段階を経て製造された段階での成分とは一致しているのが通常であるため、甲3発明3の「アルミニウム合金材の供試材」は、「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Mn:1.0%、Ca:0.05%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分」を有しているものと認められるから、本件特許発明2と甲3発明3とは、「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、」「前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であ」り、「前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」する点で一致する。
c そうすると、本件特許発明2と甲3発明3とは、
「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であり、
前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有する
アルミニウム合金材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点6-1>
本件特許発明2は、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するのに対して、甲3発明3は、このような特定事項を備えているか否かが不明である点。
<相違点6-2>
本件特許発明2の「アルミニウム合金材」は、「融点(固相線温度)が590℃以上であ」るのに対して、甲3発明3の「アルミニウム合金材の供試材」は、「チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である」ものの、融点(固相線温度)が590℃以上であるか否かが不明である点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点6-1について検討する。
上記相違点6-1は、上記相違点4-1と同様のものであるから、上記ア(イ)において検討したのと同様に、当該相違点6-1は、実質的な相違点であり、また、甲3発明3において、上記相違点6-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)小括
よって、上記相違点6-2、及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲3発明3、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明3~5について
本件特許発明3~5は、いずれも、上記相違点4-1と同様の相違点に係る特定事項を備えたものであって、上記(2)ア(ウ)、上記(2)イ(ウ)、及び上記(2)ウ(ウ)のとおり、当該特定事項を備えた本件特許発明2が甲3に記載された発明、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲3に記載された発明、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由2-2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明2~5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2-2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2-3(進歩性)について
(1)甲4に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲4(発明の名称:アルミニウム合金材、ならびに、アルミニウム合金構造体及びその製造方法)の[請求項1]~[請求項5]、[0009]~[0010]、[0013]、[0015]、[0020]~[0023]、[0043]、[0048]、[0050]、[0082]~[0099]の記載を総合勘案し、特に、第1実施形態の「サンプルNo.C90」の「アルミニウム合金材の供試材」に着目すると、甲4には、次の各発明が記載されていると認められる。
「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Cr:0.15%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分のB90の試験材をDC鋳造法で100mm×300mmのサイズで鋳造し、得られたスラブを面削後に加熱して3mm厚さまで熱間圧延し、その後、圧延板を0.070mmまで冷間圧延し、380℃×2Hrの中間焼鈍後に、0.050mmまで更に冷間圧延して製造され、板厚方向に沿った断面をSEM観察(反射電子像観察)により測定した円相当径0.5~5μmのSi系金属間化合物の面密度が1.5E+03、円相当径0.5~5μmのAl系金属間化合物の面密度が1.9E+03であり、チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である、アルミニウム合金材の供試材。」(以下「甲4発明」という。)
(2)本件特許発明2について
ア 本件特許発明2と甲4発明との対比
(ア)甲4発明の「アルミニウム合金材の供試材」は、本件特許発明2の「アルミニウム合金材」に相当する。
(イ)本願出願時の技術常識によれば、アルミニウム合金材として、鋳造された段階での成分と、冷間圧延を経て製造された段階での成分とは一致しているのが通常であるため、甲4発明の「アルミニウム合金材の供試材」は、「合金組成(mass%)がSi:2.5%、Fe:0.25%、Cr:0.15%、残部Al及び不可避的不純物からなる成分」を有しているものと認められるから、本件特許発明2と甲4発明とは、「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、」「前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であ」り、「前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有」する点で一致する。
(ウ)そうすると、本件特許発明2と甲4発明とは、
「Siを質量%で1.1~2.5%含有し、かつ、Siを含んだ金属間化合物を生成する元素(MnおよびFeを除く、以下Xという)を質量%で0.05~2.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金材であって、Xは最外殻の電子配置が4s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、3d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が3d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、3d軌道に1つ以上の空孔を持つもの、あるいは、最外殻の電子配置が5s軌道に電子が2つ配置されているものであって、かつ、4d軌道に電子を持たないもの、あるいは、最外殻の電子配置が4d軌道に電子を一つ以上持ち、かつ、4d軌道に1つ以上の空孔を持つものであって、前記Xが、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上からなる元素であり、
前記組成に、質量%で、Mn:0.1~2.0%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.01~1.5%の1種あるいは2種以上を含有する
アルミニウム合金材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点7-1>
本件特許発明2は、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するのに対して、甲4発明は、このような特定事項を備えているか否かが不明である点。
<相違点7-2>
本件特許発明2の「アルミニウム合金材」は、「融点(固相線温度)が590℃以上であ」るのに対して、甲4発明の「アルミニウム合金材の供試材」は、「チューブ材と接合する際の接合加熱温度が600℃である」ものの、融点(固相線温度)が590℃以上であるか否かが不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、上記相違点7-1について検討する。
(ア)甲4の[0020]~[0021]には、甲4に係る「アルミニウム合金材」において、「(1)単体Si、及び(2)単体Siの一部にCa、Pなどの元素を含む」「Si系金属間化合物」について、「金属間化合物の分散粒子が微細なほど、接合加熱時において、より速やかに液相が生成し易くなり、良好な接合性が得られる」との観点から、「0.5~5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が、その断面において250個/mm2以上7×105個/mm2以下存在する」ようにすることが記載されている。
(イ)しかしながら、甲4の記載や本願出願時の技術常識を考慮しても、甲4発明の「アルミニウム合金材の供試材」において、Siと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上(本件特許発明2の「X」に相当)とを含有する金属間化合物が生成しているか否かは不明であり、仮に生成しているとしても、表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するSiと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上とを含有する金属間化合物が10000μm2あたり10個より多く存在するか否かも不明である。
(ウ)この点に関し、申立人は、特許異議申立書の第48頁下から10行~下から1行において、本件特許発明2と甲4発明とが組成において一致していることを前提としたうえで、甲4の[0020]には、Si系金属間化合物がCaなどの元素を含むものであることが記載され、加えて、甲4の[0013]等の記載によると、甲4におけるSi系金属間化合物は、アルミニウム合金材のマトリクス溶融に続いて溶融するものであり、マトリクスの溶融開始温度では溶解しないものである点で、本件特許発明2の金属間化合物と同じ性質を有していると解すべきであることを根拠として、甲4発明が上記相違点7-1に係る特定事項を満たしている蓋然性が高い旨主張している。
(エ)しかしながら、仮に、甲4発明のSi系金属間化合物が、アルミニウム合金材のマトリクス溶融に続いて溶融するものであり、マトリクスの溶融開始温度では溶解しないものである点で、本件特許発明2の金属間化合物と同じ性質を有していると解すべきであるとしても、そのことのみを根拠として、甲4発明が本件特許発明2と同様に、上記相違点7-1に係る特定事項を備えているとは認められないのは、明らかであるから、上記(ウ)の主張は採用しない。
(オ)したがって、上記相違点7-1は、実質的な相違点である。
(カ)次に上記相違点7-1の容易想到性について検討する。
a 甲4の記載を参照しても、Siと、Ca、Cr、SrおよびMoの一種または二種以上を含有する金属間化合物の表層面(RD-TD面)方向における分布についての記載は見当たらないし、甲2、甲3の記載を参照しても、同様であるから、甲4発明において、上記相違点7-1に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
b この点に関し、申立人は、特許異議申立書の第49頁第1行~第50頁第4行において、甲4の[0043]、[0082]の記載、及び甲2に記載された熱間圧延工程についての記載を参照しつつ、甲4発明1において、Si系金属間化合物等の存在量を制御する観点等から、本件特許明細書の【0022】、【0028】~【0031】に記載されている程度の鋳造における冷却速度、均質化処理条件、熱間圧延における温度と時間、冷間圧延における1パスあたりの圧下率を採用することは、当業者にとって容易であり、したがって、上記相違点7-1に係る特定事項は、甲4に記載されているかに等しいか、仮にそうでないとしても、甲2、甲3の記載に基づいて当業者が容易に想到し得た事項にすぎない旨主張している。
c しかしながら、仮に、甲4発明において、本件特許明細書の【0022】、【0028】~【0031】に記載されている程度の鋳造における冷却速度、均質化処理条件、熱間圧延における温度と時間、冷間圧延における1パスあたりの圧下率を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであったとしても、そのような製造条件を採用すれば、必然的に、「SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在」するとの上記相違点7-1に係る特定事項を備えることになるとはいえないことは、明らかであるから、上記bの主張は採用しない。
d したがって、甲4発明において、上記相違点7-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点7-2、及び本件特許発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲4に記載された発明、並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明3~5について
本件特許発明3~5は、いずれも、上記相違点7-1に係る特定事項を備えたものであって、上記(2)ウのとおり、当該特定事項を備えた本件特許発明2が甲4に記載された発明、並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲4に記載された発明、並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)申立理由2-3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明2~5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2-3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件特許明細書の【0005】の記載からすれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、アルミニウム合金材の融点低下を抑止してろう付けを可能にするアルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材を提供することにあると認められる。
(2)そして、本件特許明細書の【0006】、【0013】~【0024】(特に、【0013】~【0016】、【0022】~【0023】)の記載を参照すれば、上記(1)の課題は、アルミニウム合金材において、Siと、Siと金属間化合物を形成する際にSiの含有比率が原子量%で15%以上となり、かつその電子状態の安定性が高くなるような元素Xとが所定量含有され、SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在し、融点(固相線温度)が590℃以上であることによって解決できることを、当業者であれば認識できるといえる。
(3)一方、本件特許発明1~13の「アルミニウム合金材」は、質量%でSi:1.1~2.5%、元素Xを0.05~2.0%含有すること、SiとXを含有する金属間化合物が表層面(RD-TD面)方向の観察より、円相当径で1μm以上の径を有するものが10000μm2あたり10個より多く存在すること、及び融点(固相線温度)が590℃以上であることを特定事項として含むものであるから、上記(2)の検討を踏まえると、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
(4)したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、本件特許発明1~13について、特許受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえる。
(5)なお、申立人は、特許異議申立書の第52頁下から9行~第53頁第9行において、本件特許発明が解決しようとする課題には、アルミニウム合金材の融点低下を抑止してろう付を可能にすることのみならず、材料強度や耐食性の点で良好なろう付を達成できることが含まれると主張するが、本件特許明細書の記載からすれば、本件特許発明が解決しようとする課題の一つとして、少なくとも上記(1)のとおり認定できることから、申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。
(6)申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件特許発明1~13について、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700343