特許異議申立
2022-700482
一液型樹脂組成物
- 審判番号
- 2022-700482
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-006499外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6983380
- 請求日
- 2022年06月02日
- 審決日
- 2023年10月05日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1652.121-YAA(C08G) / P1652.113-YAA(C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2、特許法第120条の8第1項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6983380号発明「一液型樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6983380の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第6983380号の請求項1、2、4ないし6に係る特許を維持する。
特許第6983380号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6983380号の請求項1~14に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)1月18日を出願日とする出願であって、令和3年11月26日にその特許権の設定登録がされ、同年12月17日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~6に係る特許に対して、令和4年6月2日に特許異議申立人落合克弘(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和4年10月20日付け: 取消理由通知
同年11月11日 : 指定期間の延長の要請の旨の上申書
同年11月30日付け: 指定期間の延長を認める旨の特許権者への
通知
令和5年 1月24日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提
出
同年 2月16日 : 訂正請求があった旨の申立人への通知
同年 6月 1日付け: 訂正拒絶理由通知
同年 7月 5日 : 特許権者による意見書及び手続補正書の提
出
なお、訂正請求があった旨の申立人への通知を行ったが、申立人より何ら応答がなかった。
第2 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし6は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平7-25981号公報
甲第2号証:特開2017-88825号公報
甲第3号証:特開2016-164134号公報
甲第4号証:特開2016-164135号公報
甲第5号証:特開平4-80227号公報
なお、各甲号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
(2)当審が職権調査により発見した文献
参考文献1:特開2004-292635号公報
第3 訂正の適否についての判断
1 訂正拒絶理由の概要
当審が令和5年6月1日付けで特許権者に通知した訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
訂正事項7及び9によって訂正された後の本件訂正発明8及び11は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、請求項8及び11についての訂正の請求は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。
よって、本件訂正発明8及び11に係る訂正事項7及び9は認められず、したがって、請求項8及び11を含む一群の請求項である請求項5~14について、本件訂正は認められない。
2 本件補正の適否
(1)本件補正の内容
令和5年7月5日付けの訂正請求書に係る手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)の記載から、訂正事項7及び訂正事項9について、下記のとおりの内容で補正するものである。
ア 訂正事項7に係る補正の内容
訂正請求書の項目「(2)訂正事項」の「キ 訂正事項7」に記載された内容を削除する。ただし、訂正事項7の対象である訂正前の請求項8は、請求項1~7のいずれかの記載を引用するものであるが、請求項3は、訂正事項2によって削除されているため、請求項8は、請求項3を引用できない。そこで、訂正請求書の項目「キ 訂正事項7」に記載された内容を削除し、この補正に伴う不整合を解消するため、上記項目に記載された内容を以下のとおりに変更する。
「請求項8に記載された「接着剤として使用される、請求項1~7のいずれかに記載の一液型樹脂組成物。」のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、次のとおりに訂正する。」との記載を「請求項8に記載された「接着剤として使用される、請求項1~7のいずれかに記載の一液型樹脂組成物。」を次のとおりに訂正する。」との記載に変更する(下線は変更箇所を示す。)。
「A成分:エポキシ樹脂、B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及びC成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、前記B成分が、分子内に環骨格を有しておらず、接着剤として使用される、一液型樹脂組成物。」との記載を「接着剤として使用される、請求項1、2、4~7のいずれかに記載の一液型樹脂組成物。」との記載に変更する(下線は変更箇所を示す。)。
イ 訂正事項9に係る補正の内容
訂正請求書の項目「(2)訂正事項」の「ケ 訂正事項9」に記載された内容を削除する。ただし、訂正事項9の対象である訂正前の請求項11は、請求項1~9のいずれかの記載を引用するものであるが、請求項3は、訂正事項2によって削除されているため、請求項11は、請求項3を引用できない。そこで、訂正請求書の項目「ケ 訂正事項9」に記載された内容を削除し、この補正に伴う不整合を解消するため、上記項目に記載された内容を以下のとおりに変更する。
「請求項11に記載された「請求項1~9のいずれかに記載の一液型樹脂組成物を熱硬化させてなる、硬化物。」のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、次のとおりに訂正する。」との記載を「請求項11に記載された「請求項1~9のいずれかに記載の一液型樹脂組成物を熱硬化させてなる、硬化物。」を次のとおりに訂正する。」との記載に変更する(下線は変更箇所を示す。)。
「A成分:エポキシ樹脂、B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及びC成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、一液塑樹脂組成物を熱硬化させてなる、硬化物。」との記載を「請求項1、2、4~9のいずれかに記載の一液型樹脂組成物を熱硬化させてなる、硬化物。」との記載に変更する(下線は変更箇所を示す。)。
(2)本件補正の適否
訂正事項7、9に係る補正は、訂正拒絶理由通知で指摘された訂正事項7、9に記載された内容を削除するものであり、さらに、訂正事項7及び9に係る請求項8及び11が引用する請求項から、後記する訂正事項2により削除された請求項3を除くものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
よって、本件補正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に違反するものではないので、これを認める。
3 訂正の内容
上記2に示したとおり本件補正は認められるから、令和5年1月24日付けの訂正請求による訂正 (以下、「本件訂正」という。)の内容は、令和5年7月5日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書の記載からみて、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。
(1)訂正事項1
請求項1に記載された「A成分:エポキシ樹脂、B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及びC成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、一液型樹脂組成物。」を次のとおりに訂正する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4も同様に訂正する。
「A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
さらにD成分:潜在性硬化促進剤を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、一液型樹脂組成物。」
(2)訂正事項2
請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
請求項4に記載された「前記B成分及び前記C成分が、水酸基を有していない、請求項1~3のいずれか1項に記載の一液型樹脂組成物。」を次のとおりに訂正する。
「前記B成分及び前記C成分が、水酸基を有していない、請求項1又は2に記載の一液型樹脂組成物。」
(4)訂正事項4
請求項5に記載された「前記C成分が、分子内に環骨格を有している、請求項1~4のいずれか1項記載の一液型樹脂組成物。」のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、次のとおりに訂正する。
「A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有しておらず、
前記C成分が、分子内に環骨格を有している、一液型樹脂組成物。」
(5)訂正事項5
請求項6に記載された「前記B成分の分子量が、130~1000の範囲である、請求項1~5のいずれか1項記載の一液型樹脂組成物。」のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、次のとおりに訂正する。
「A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有しておらず、
前記B成分の分子量が、130~1000の範囲である、一液型樹脂組成物。」
(6)訂正事項6
請求項7に記載された「前記B成分及び前記C成分のチオール基の数の合計を1としたときに、前記C成分のチオール基の数の占める割合(前記C成分の総チオール基数/(前記B成分の総チオール基数+前記C成分の総チオール基数))が、0.1~0.9である、請求項1~6のいずれか1項記載の一液型樹脂組成物。」のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、次のとおりに訂正する。
「A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有しておらず、
前記B成分及び前記C成分のチオール基の数の合計を1としたときに、前記C成分のチオール基の数の占める割合(前記C成分の総チオール基数/(前記B成分の総チオール基数+前記C成分の総チオール基数))が、0.1~0.9である、一液型樹脂組成物。」
(7)訂正事項7
請求項8に記載された「接着剤として使用される、請求項1~7のいずれかに記載の一液型樹脂組成物。」を次のとおりに訂正する。
「接着剤として使用される、請求項1、2、4~7のいずれかに記載の一液型樹脂組成物。」
(8)訂正事項8
請求項10に記載された「請求項1~7のいずれかに記載の一液型樹脂組成物を含む封止材。」のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、次のとおりに訂正する。
「A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、一液型樹脂組成物を含む封止材。」
(9)訂正事項9
請求項11に記載された「請求項1~9のいずれかに記載の一液型樹脂組成物を熱硬化させてなる、硬化物。」を次のとおりに訂正する。
「請求項1、2、4~9のいずれかに記載の一液型樹脂組成物を熱硬化させてなる、硬化物。」
(10)一群の請求項について
訂正前の請求項1~14について、請求項2~14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~14に対応する訂正後の請求項1~14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~9による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
(11)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項5~7、10と、訂正後の請求項5を引用する請求項8、9、11~14と、訂正後の請求項6を引用する請求項8、9、11~14と、訂正後の請求項7を引用する請求項8、9、11~14については、上記一群の請求項である他の請求項とは別の訂正単位とすることが求められている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に対して、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「さらにD成分:潜在性硬化促進剤を含み」を特定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2によって削除された請求項3を請求項4が引用できなくなったことに伴い、訂正前の請求項4において、引用先の請求項のうち請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4~6、8について
訂正事項4~6、8は、訂正前の請求項5~7、10において、請求項1以外の請求項も直接または間接的に引用していたものを、請求項1を引用するものに限定して、独立形式(他の請求項の記載を引用しない)にするものであり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項2によって削除された請求項3を請求項8が引用できなくなったことに伴い、引用先の請求項のうち請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項2によって削除された請求項3を請求項11が引用できなくなったことに伴い、引用先の請求項のうち請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 独立特許要件について
請求項1~14についての訂正(訂正事項1~9)は、いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正を含むところ、訂正事項1~5については、訂正前の請求項1~6に対して特許異議の申立てがされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。一方、訂正前の請求項7~14に対しては、特許異議の申立てがされていないことから、当該請求項7~14についての訂正(訂正事項6~9)は、独立特許要件を満足しなければならない。
そこで、訂正後の請求項7~14に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて以下検討する。
(1) 甲1の記載事項
甲1には次の事項が記載されている。
甲1には、「エポキシ樹脂組成物」に関し、以下の事項が記載されている。
「【0061】
本発明のエポキシ樹脂組成物からなる樹脂モルタルの具体的な使用例を述べる。施工に先立ち、まず、施工面のごみ、埃、あるいはレイタンスを除去する。これらはワイヤーブラシ、サンダー掛け等によって除去する事が好ましく、また、必要に応じて高圧水等で施工面の洗浄を行う。次いで、本発明の組成物と被着体(施工面)との接着性を高める為、本発明の必須成分を含む結合材を均一に塗布する。(プライマー処理)更に、結合材、及び骨材粒子をモルタルミキサー等により十分に混合を行う事によって作成した、本発明の組成物を施工面に配置する。この際、組成物に圧力や振動を与え、組成物が施工面全体に行き渡るように処理する。その後、組成物表面を金鏝等を用いて均一に仕上げる。なお、組成物の施工厚さは特に制限はない。施工面に配置された組成物は、そのまま放置することにより硬化し、外気温5℃においても2~3時間で使用に耐え得る強度に達するが、更に施工面に加温処理をすると硬化速度は更に加速される。」
「【0063】
【実施例】
実施例1~7,比較例1
表1に示す組成のエポキシ樹脂組成物の、硬化速度を測定した。なお、硬化速度は、5℃においてE型粘度計(東機産業株式会社製、DVU-EII)を用い、調合から104ポイズ到達までの所用時間で示した。
【0064】
なお、表1において、“フレップ”-60は東レチオコール社製のポリサルファイド変性エポキシ樹脂、“エピコート”806は油化シェルエポキシ株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂、“チオコール”LP-70及び、“チオコール”LP-3はそれぞれ東レチオコール社製のポリサルファイド化合物、“アデカハードナー”EHC-30は旭電化工業株式会社製の第3級ミン類、“アデカグリシロール”ED-501、“アデカグリシロール”ED-523はそれぞれ旭電化工業株式会社製の反応性希釈剤、“ハイゾール”SAS296は日本石油化学株式会社製の非反応性希釈剤、“ダイトクラール”X-2392は、大都産業株式会社製の変性脂肪族ポリアミン硬化剤である。
【0065】
表1から明らかなように、本発明の実施例のエポキシ樹脂組成物用結合材は、低温における硬化速度が比較例1のエポキシ樹脂の硬化速度よりも速い事を示している。
【0066】
【表1】
[図:0001405780000001.jpg]
」
(2) 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項について、実施例7に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「フレップ60(東レチオコール社製のポリサルファイド変性エポキシ樹脂)42.5重量部、エピコート806(油化シェルエポキシ株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂)42.5重量部、ハイゾールSAS296(日本石油化学株式会社製の非反応性希釈剤)15重量部、チオコールLP-70(東レチオコール社製のポリサルファイド化合物)20重量部、チオコールLP-3(東レチオコール社製のポリサルファイド化合物)20重量部、アデカハードナーEHC-30(旭電化工業株式会社製の第3級アミン類)10重量部、の組成からなるエポキシ樹脂組成物。」(以下、「甲1発明1」という。)
(3) 本件訂正発明7について
ア 本件訂正発明7と甲1発明1との対比
本件訂正発明7と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1における「フレップ60(東レチオコール社製のポリサルファイド変性エポキシ樹脂)」及び、「エピコート806(油化シェルエポキシ株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂)」は、本件訂正発明7における「A成分:エポキシ樹脂」に相当する。
また、甲1発明1における「チオコールLP-70(東レチオコール社製のポリサルファイド化合物)」について、参考文献1に添付の平成18年2月16日発行の「特許法第17条の2の規定による補正の掲載」の段落【0058】には、「チオコール LP-70 : 旧東レチオコール製品(LP-70は、たとえば特公平4-21693に記載の方法により製造できる。)、分子量1160、SH濃度14%。化合物(4)の直鎖ユニットCがC2H4OCH2OC2H4で、分岐ユニットDがCH2CHCH2であり、直鎖ユニットと分岐ユニットの比はおよそ60/40である。」と記載されている。ここで、化合物(4)について、参考文献1の請求項4には、「下記化合物(4)HSR4Sy(CSy)m(DSy)nR4’SH (4)(但し、yは平均1.5~2.5、mは1~50の整数、nは0~5の整数、R4とR4’は同一の構造であっても異なる構造であってもよく、炭素数2~12の有機基、CはSHを含まない直鎖の有機基、DはSHを含む炭素数2~10の分岐のアルキレン基)」と記載されている。
すなわち、参考文献1には、旧東レチオコール製品(LP-70)は、化合物(4)HSR4Sy(CSy)m(DSy)nR4’SH の分岐ユニットDがSHを含むCH2CHCH2であること、直鎖ユニットCがSHを含まず、C2H4OCH2OC2H4であり、直鎖ユニットと分岐ユニットの比はおよそ60/40であること、SH基の数は、分子量1160×SH濃度0.14/(SH基の分子量33.072)により、4.91程度であることが記載されており、旧東レチオコール製品(LP-70)は、分子内にチオール基を3つ以上有し、エステル骨格を含まないチオール化合物であるといえる。そうすると、甲1発明1における「チオコールLP-70(東レチオコール社製のポリサルファイド化合物)」は、本件訂正発明7における「C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物」に相当する。
さらに、甲1発明1における「チオコールLP-3(東レチオコール社製のポリサルファイド化合物)」について、甲第2号証の段落【0035】、【0036】には、「チオコール LP-3 東レ・ファインケミカル株式会社製」が以下の式1であることが記載されている。
加えて、甲1発明1における「チオコールLP-3(東レチオコール社製のポリサルファイド化合物)」について、参考文献1の公報に添付の平成18年2月16日発行の「特許法第17条の2の規定による補正の掲載」の段落【0058】には、「チオコール LP-3 : 東レ・ファインケミカル製品、分子量1070、SH濃度6.6%。化合物(4)における直鎖ユニットCと分岐ユニットDの比はおよそ98/2である。」と記載されている。ここで、化合物(4)について、参考文献1の請求項4には、「下記化合物(4)HSR4Sy(CSy)m(DSy)nR4’SH (4)(但し、yは平均1.5~2.5、mは1~50の整数、nは0~5の整数、R4とR4’は同一の構造であっても異なる構造であってもよく、炭素数2~12の有機基、CはSHを含まない直鎖の有機基、DはSHを含む炭素数2~10の分岐のアルキレン基)」と記載されている。
すなわち、甲第2号証には、「チオコール LP-3 東レ・ファインケミカル株式会社製」の化学式が上記式1であること、参考文献1には、「チオコール LP-3 :東レ・ファインケミカル製品」は、化合物(4)HSR4Sy(CSy)m(DSy)nR4’SHにおける直鎖ユニットCと分岐ユニットDの比はおよそ98/2であり、SH基の数は、分子量1070×SH濃度0.066/(SH基の分子量33.072)により、2.14程度であることが記載されており、「チオコール LP-3 東レ・ファインケミカル株式会社製」は、分子内にチオール基を2つ有し、エステル骨格を含まず、分子内に環骨格を有していないチオール化合物であるといえる。そうすると、甲1発明1における「チオコールLP-3(東レチオコール社製のポリサルファイド化合物)」は、本件訂正発明7における「分子内に環骨格を有していない」、「B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点1>、<相違点2>で一応相違する。
<一致点>
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、樹脂組成物。
<相違点1>
樹脂組成物について、本件訂正発明7は、「前記B成分及び前記C成分のチオール基の数の合計を1としたときに、前記C成分のチオール基の数の占める割合(前記C成分の総チオール基数/(前記B成分の総チオール基数+前記C成分の総チオール基数))が、0.1~0.9である」のに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点
<相違点2>
樹脂組成物について、本件訂正発明7は、「一液型」であるのに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点
イ 相違点の検討
そこで、上記相違点1について検討する。
樹脂組成物について、本件訂正発明7は、「前記B成分及び前記C成分のチオール基の数の合計を1としたときに、前記C成分のチオール基の数の占める割合(前記C成分の総チオール基数/(前記B成分の総チオール基数+前記C成分の総チオール基数))が、0.1~0.9である」のに対し、甲1発明1ではそのような特定がない。ここで、本件明細書の【0027】には、「ここでチオール基の数とは、組成物に含まれるチオールの質量部をチオール基当量で割った値(チオールの質量部/チオール基当量)を示す。なお、組成物中にB成分やC成分としてのチオールが複数種含まれる場合は、それぞれのチオールの質量部をそれぞれのチオール基当量で割った値の合計を示す。また、チオール基当量とは、チオール基1個当たりのチオール化合物の質量を示す値であり、チオール化合物の分子量を、その化合物1分子に含まれるチオール基の数で除して得られる値である。」と記載されているが、甲1発明1における「チオコールLP-70」(本件訂正発明7における「C成分」に相当)、甲1発明1における「チオコールLP-3」(本件訂正発明7における「B成分」に相当)は、いずれも分子量やチオール基当量が不明である。そうすると、甲1発明1において、「前記B成分及び前記C成分のチオール基の数の合計を1としたときに、前記C成分のチオール基の数の占める割合(前記C成分の総チオール基数/(前記B成分の総チオール基数+前記C成分の総チオール基数))が、0.1~0.9である」ことは、甲1の記載から明らかであるとはいえない。
よって、<相違点1>は実質的な相違点である。
ついで、<相違点1>の容易想到性について、さらに検討する。
上述の通り、甲1には「C成分のチオール基の数の占める割合」についての記載がなく、「C成分のチオール基の数の占める割合」を採用する動機付けがあるともいえない。
また、「C成分のチオール基の数の占める割合」については、甲2~5及び参考文献にも何ら記載も示唆もされていない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明7は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件訂正発明8について
ア 本件訂正発明1、2、4を引用する本件訂正発明8について
後記第5で述べるとおり、訂正後の請求項1に係る発明は、取り消すべき理由がないから、直接又は間接的に引用する請求項1、2、4を引用する本件訂正発明8に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
イ 本件訂正発明5を引用する本件訂正発明8について
(ア)本件訂正発明5を引用する本件訂正発明8と甲1発明1との対比
本件訂正発明5を引用する本件訂正発明8と甲1発明1とを対比すると、上記(3)アと同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、上記(3)アの<相違点2>及び以下の<相違点3>で相違する。
<一致点>
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、樹脂組成物。
<相違点3>
樹脂組成物について、請求項5を引用する本件訂正発明8は、「前記C成分が、分子内に環骨格を有している」のに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点
(イ)相違点の検討
そこで、事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
甲1発明1における「チオコールLP-70」が、環骨格を有していることについては、甲1には記載がされていない。よって、相違点3は実質的な相違点である。
ついで、相違点3の容易想到性について、さらに検討する。
上述の通り、甲1には「チオコールLP-70」が、環骨格を有している点についての記載がないため、「分子内に環骨格を有」するものに置き換える動機付けがあるともいえない。
また、「前記C成分が、分子内に環骨格を有している」点については、甲2~5にも何ら記載も示唆もされていない。よって、甲1発明1において、「C成分」を「分子内に環骨格を有している」成分に置き換えることは、当業者であっても容易ではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、請求項5を引用する本件訂正発明8は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件訂正発明6を引用する本件訂正発明8について
(ア)本件訂正発明6を引用する本件訂正発明8と甲1発明1との対比
本件訂正発明6を引用する本件訂正発明8と甲1発明1とを対比すると、上記(3)アと同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、上記(3)アの<相違点2>及び以下の<相違点4>で相違する。
<一致点>
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、樹脂組成物。
<相違点4>
樹脂組成物について、請求項6を引用する本件訂正発明8は、「前記B成分の分子量が、130~1000の範囲である」のに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点
(イ)相違点の検討
そこで、事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
甲1発明1における「チオコールLP-3」(本件訂正発明8における「B成分」に相当)について、甲1には、「チオコールLP-3」分子量が「130~1000の範囲」であることは記載も示唆もされていないから、相違点4は実質的な相違点である。
ついで、<相違点4>の容易想到性について、さらに検討する。
上述の通り、甲1には「B成分の分子量が、130~1000の範囲である」点についての記載がなく、「B成分の分子量が、130~1000の範囲である」点を採用する動機付けがあるともいえない。
また、参考文献1の段落【0058】には、「チオコール LP-3 : 東レ・ファインケミカル製品、分子量1070」、甲2の【0035】はLP-3について、「平均分子量1000」、甲5の第5頁右下欄第18~19行には、「チオコールLP-3(分子量約1000;東レチオコール社製)」とあり、「LP-3」の分子量は必ずしも1000以内にあるとはいえないから、、甲1発明1において、「前記B成分の分子量が、130~1000の範囲である」ものに置き換えることは、当業者であっても容易ではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、請求項6を引用する本件訂正発明8は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件訂正発明7を引用する本件訂正発明8について
本件訂正発明7を引用する本件訂正発明8は、上記本件訂正発明7と甲1発明1との<相違点1>と同じ相違点を有するものであって、<相違点1>については上記(3)で検討したとおりである。
したがって、請求項7を引用する本件訂正発明8は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) 本件訂正発明9について
本件訂正発明8を直接又は間接的に引用する本件訂正発明9についても、上記(4)と同様の理由により、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6) 本件訂正発明10について
ア 本件訂正発明10と甲1発明1との対比
本件訂正発明10と甲1発明1とを対比すると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の上記(3)アの<相違点2>及び以下の<相違点5>で相違する。
<一致点>
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、樹脂組成物。
<相違点5>
樹脂組成物について、本件訂正発明10は、「封止材」であるのに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点
イ 相違点の検討
そこで、事案に鑑み、上記相違点5について検討する。
甲1には、「【産業上の利用分野】本発明は、エポキシ樹脂組成物に関し、特にコンクリート、アスファルト、金属に強力に接着する土木、建築工事材料に関する。」(【0001】)、「【発明の効果】本発明によれば、柔軟性、接着性、耐磨耗性、耐久性に優れ、しかも厳寒期においても急速に硬化する施工性の優れた土木、建築用工事材料などに適したエポキシ樹脂組成物が得られる。」(【0072】)と記載されており、甲1発明1の樹脂組成物は、土木、建築用工事材料の用途で使うものと認められる。そして、甲1には封止材として使用することは何ら記載されておらず、甲1発明1において封止材に使用することが動機付けられるとはいえない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明7は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7) 本件訂正発明11~14について
本件訂正発明1、2、4~9を直接又は間接的に引用する本件訂正発明11~14についても、上記(3)と同様の理由により、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8) 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項6ないし9によって訂正された後の本件訂正発明7ないし14は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものではないし、他に特許を受けることができない理由を発見しないため、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4 小括
以上のとおり、請求項1ないし14についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項、及び同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第4 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1~14に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるとおりのものであり、下記(1)で示すとおりである。以下、請求項1~14に係る発明を「本件発明1」~「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」ということもある。
(1)本件発明1ないし14
本件発明1ないし14は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
さらにD成分:潜在性硬化促進剤を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、一液型樹脂組成物。」
【請求項2】
前記B成分の含有量が、前記A成分100質量部に対して、10~40質量部である、請求項1に記載の一液型樹脂組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記B成分及び前記C成分が、水酸基を有していない、請求項1又は2に記載の一液型樹脂組成物。
【請求項5】
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有しておらず、前記C成分が、分子内に環骨格を有している、一液型樹脂組成物。
【請求項6】
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有しておらず、
前記B成分の分子量が、130~1000の範囲である、一液型樹脂組成物。
【請求項7】
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有しておらず、
前記B成分及び前記C成分のチオール基の数の合計を1としたときに、前記C成分のチオール基の数の占める割合(前記C成分の総チオール基数/(前記B成分の総チオール基数+前記C成分の総チオール基数))が、0.1~0.9である、一液型樹脂組成物。
【請求項8】
接着剤として使用される、請求項1、2、4~7のいずれかに記載の一液型樹脂組成物。
【請求項9】
被着体としてのネオジウム磁石を接着するために用いられる請求項8に記載の一液型樹脂組成物。
【請求項10】
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、一液型樹脂組成物を含む封止材。
【請求項11】
請求項1、2、4~9のいずれかに記載の一液型樹脂組成物を熱硬化させてなる、硬化物。
【請求項12】
請求項11記載の硬化物を含む、電子部品。
【請求項13】
被着体と、前記被着体の接着に用いられた請求項11記載の硬化物と、を含む、ネオジウム磁石含有モーター。
【請求項14】
ネオジウム磁石含有モーターを含む電子部品であって、請求項11記載の硬化物を含む、電子部品。」
第5 取消理由の概要
令和4年10月20日付けで通知した取消理由通知の取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(甲1を根拠とする新規性)、取消理由2(甲1を根拠とする進歩性)
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は、本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由についての当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1、2、4ないし6に係る特許は取り消すことはできない。
そして、第2で示したとおり、本件特許の請求項3は本件訂正により削除され、この特許に対する申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
1 取消理由1、2及び申立理由1について
取消理由1(甲1を根拠とする新規性)及び取消理由2(甲1を根拠とする進歩性)は、申立理由1(甲1を根拠とする進歩性)と同旨であるから、以下、同旨である取消理由及び申立理由を併せて検討する。
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明1
甲1に記載された事項及び甲1発明1は上記第2 3 (2)で示したとおりである。
イ 甲2に記載された事項
甲2には、「チオコール LP-3」について、以下の事項が記載されている。
「【0035】
・・・
・一般式1の化合物(平均分子量1000)(チオコール LP-3 東レ・ファインケミカル株式会社製)・・・
【0036】
【化1】
[図:0001405780000002.jpg]
」
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、「潜在性硬化促進剤」について、以下の事項が記載されている。
「【0025】
従ってまた、本発明によれば、このようなエポキシ樹脂組成物を含み、耐加水分解性にすぐれ、低弾性で柔軟性にすぐれた接着剤及びシール剤を得ることができる。」
「【0149】
(エポキシ樹脂組成物の調製)
以下においては、エポキシ樹脂(三菱化学(株)製「jER828」)に上記実施例1で得られた1,3,4,6-テトラキス[3-(2-メルカプトエチルスルファニル)プロピル]グリコールウリル、上記実施例2で得られた1,3,4,6-テトラキス[3-(4-メルカプトブチルスルファニル)プロピル]グリコールウリル及び上記実施例3で得られた1,3,4,6-テトラキス{3-[2-(2-メルカプトエチルスルファニル)エチルスルファニル]プロピル}グリコールウリルをそれぞれ硬化剤として配合し、硬化促進剤として固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤(味の素ファインテクノ(株)製「アミキュアPN-23」)をそれぞれ配合してエポキシ樹脂組成物を調製した。」
「【0155】
実施例4
エポキシ樹脂100重量部に1,3,4,6-テトラキス[3-(2-メルカプトエチルスルファニル)プロピル]グリコールウリル90重量部と潜在性硬化促進剤2重量部を混合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。」
エ 甲4に記載された事項
甲4には、「潜在性硬化促進剤」について、以下の事項が記載されている。
「【0024】
従って、本発明によれば、このようなエポキシ樹脂組成物を含み、耐加水分解性にすぐれ、低弾性で柔軟性にすぐれた接着剤及びシール剤を得ることができる。」
「【0106】
(エポキシ樹脂組成物の調製)
以下においては、エポキシ樹脂(三菱化学(株)製「jER828」)に上記実施例1で得られた1,3,5-トリス[3-(4-メルカプトブチルスルファニル)プロピル]イソシアヌレートを硬化剤として配合し、硬化促進剤として固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤(味の素ファインテクノ(株)製「アミキュアPN-23」)2重量部を配合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。」
「【0112】
実施例2
エポキシ樹脂100重量部に1,3,5-トリス[3-(4-メルカプトブチルスルファニル)プロピル]イソシアヌレート90重量部と潜在性硬化促進剤2重量部を配合して、エポキシ樹脂組成物を調製した。」
オ 甲5に記載された事項
甲5には、「チオコールLP-3」について、以下の事項が記載されている。
「比較例4
チオコールLP-3(分子量約1000;東レチオコール社製)」(第5頁の右下欄第18~19行)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1を対比すると、両者は、以下の<一致点>で一致し、上記第3 3(3)アの<相違点2>及び以下の<相違点6>で相違する。
<一致点>
A成分:エポキシ樹脂、
B成分:分子内にチオール基を2つ有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物、及び
C成分:分子内にチオール基を3つ以上有し、かつエステル骨格を含まないチオール化合物を含み、
前記B成分が、分子内に環骨格を有していない、樹脂組成物。
<相違点6>
樹脂組成物について、本件発明1は、「さらにD成分:潜在性硬化促進剤を含」むのに対し、甲1発明1ではそのような特定がない点
(イ)相違点の検討
そこで、事案に鑑み、上記相違点6について検討する。
甲1発明1の「アデカハードナーEHC-30(旭電化工業株式会社製の第3級アミン類)」は、甲1の【0045】の「本発明で用いる第3級アミン類としては、例えば、・・・旭電化工業株式会社製の“アデカハードナー”EHC-30・・・等が挙げられる」という記載より、第3級アミン類であると認められる。しかしながら、本件特許明細書の【0029】には、「[D成分:潜在性硬化促進剤]・・・潜在性硬化促進剤とは、室温(20℃±15℃(JISZ8703)ではエポキシ樹脂の硬化に寄与せず、加熱時にエポキシ樹脂の硬化を促進させる機能を有する添加剤である。」という記載があり、第3級アミン類や甲1発明1の「アデカハードナーEHC-30」が、加熱時にエポキシ樹脂の硬化を促進させる機能があるか不明だから、潜在性硬化促進剤に相当するとはいえない。よって、<相違点6>は実質的な相違点である。
また、第3級アミン類が含まれる甲1発明1において、甲2ないし甲4に記載の潜在性硬化促進剤PN-23をさらに添加する動機付けがあるともいえない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張及び検討
申立人は、特許異議申立書の第7頁の(ウ)において、本件特許発明の明細書の段落0035には、「第3級アミノ基を有する化合物は、優れた硬化促進能を有する潜在性硬化促進剤を与える原料」と記載があること、本件特許明細書の実施例でも使用しているPN-23は、甲3ないし甲4に記載されている通り、アミンアダクト系潜在性硬化促進剤として添加することが開示されていることより、本件特許発明3(訂正後の本件発明1)は、甲1~4の記載事項から容易に想到し得るものである旨主張する。
しかしながら、甲1発明1の「アデカハードナーEHC-30(旭電化工業株式会社製の第3級アミン類)」が、潜在性硬化促進剤に相当しないことは既に述べた通りであり、甲1発明1に甲3、甲4の潜在性硬化促進剤PN-23を適用する動機付けがあるともいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
イ 本件特許発明2、4について
本件特許発明2、4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2、4は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)取消理由1ないし2(申立理由1)についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1、2、4は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2~5に係る特許は、取消理由1ないし2及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(進歩性)のうち請求項3、5、6であるため、これらについて以下検討する。
1 申立理由1の請求項3について
上記第5で述べたとおり、訂正により特許請求の範囲の請求項3は削除された。よって、請求項3については取消理由の対象が存在しない。
2 申立理由1の請求項5について
(1)対比・判断
上記第3 3(4)イで述べたとおりの理由により、本件特許発明5は、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
(2)申立人の主張及び検討
申立人は、特許異議申立書の第7頁の(オ)において、ポリチオールを含むエポキシ樹脂組成物の分野では、甲3または甲4に記載されている通り、耐湿性を向上する目的で環骨格を有するポリチオール化合物が周知であり、LP-70を甲3の1,3,4,6-テトラキス[3-(2-メルカプトエチルスルファニル)プロピル]グリコールウリルや甲4の1,3,5-トリス[3-(4-メルカプトブチルスルファニル)プロピル]イソシアヌレートに置き換えることは容易である旨主張する。
しかしながら、甲1発明1のLP-70は環骨格を有していない点で本件特許発明5と相違しており、甲1発明1のLP-70を甲3、甲4の環骨格を有するポリチオール化合物に置き換える動機付けがあるともいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由1の請求項6について
(1)対比・判断
上記第3 3(4)ウで述べた通りの理由により、本件特許発明6は、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
(2)申立人の主張及び検討
申立人は、特許異議申立書の第7頁の(カ)において、甲5にはチオコールLP-3の分子量は1000であることが記載されており、本件特許発明6(訂正後の本件特許発明6)は、甲1~5の記載事項から容易に想到し得るものである旨主張する。
しかしながら、本件特許発明6は、B成分の分子量が、「130~1000の範囲」であり、参考文献1の段落【0058】には、「チオコール LP-3 : 東レ・ファインケミカル製品、分子量1070」、甲2の【0035】はLP-3について、「平均分子量1000」、甲5の第5頁右下欄第18~19行には、「チオコールLP-3(分子量約1000;東レチオコール社製)」とあり、必ずしも1000以内にあるとはいえない。また、甲1発明1において、「LP-3」の分子量を分子量が、「130~1000の範囲」とする動機付けがあるともいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項3、5、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項3、5、6に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。
第8 むすび
上記第6及び第7のとおり、本件特許の請求項1、2、4ないし6に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1、2、4ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項3は、本件訂正により削除され、請求項3に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700482