特許異議申立
2024-700152
樹脂材料、積層構造体及び多層プリント配線板
- 審判番号
- 2024-700152
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-554576
- 登録番号
- 7332479
- 請求日
- 2024年02月20日
- 審決日
- 2025年04月04日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
- 【異議申立人】上田 精一
- 【異議申立人】水野 圭助
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 近野 光知
- 審判官 藤原 浩子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.161-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第4号、特許法第29条第1項第2号、特許法第184条の4第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8、特許法第41条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7332479号発明「樹脂材料、積層構造体及び多層プリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7332479号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
特許第7332479号の請求項1~3、5~20に係る特許を維持する。
特許第7332479号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7332479号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、2019年(令和1年)8月27日(優先権主張 平成30年8月27日)を国際出願日とする特願2019-554576号に係るものであって、令和5年8月15日にその特許権の設定登録(請求項の数20)がされ、同月23日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許の請求項1~20に係る特許に対して、令和6年2月20日に特許異議申立人 上田精一(以下「申立人A」という。)により、また、同月22日に特許異議申立人 水野圭助(以下「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされた。
以降の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 6月 7日付け 取消理由通知
同年 7月29日 特許権者との面接
同年 8月 7日 訂正請求書及び意見書(特許権者)の提出
同年 9月20日付け 訂正拒絶理由通知
同年10月18日 手続補正書及び意見書(特許権者)の提出
同年12月24日 意見書(申立人B)の提出
なお、令和6年11月28日付けで訂正請求があった旨の通知をしたが、申立人Aから意見書は提出されなかった。
第2 訂正請求に対する補正の適否
令和6年10月18日提出の手続補正書は、訂正請求書及びこれに添付した訂正特許請求の範囲を補正するものであるので、当該補正(以下「本件補正」という。)の適否について検討する。
(1)本件補正は、訂正請求書における「7.請求の理由」の「(3)訂正事項」及び「(4)訂正の原因」並びに訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲を、以下のとおり補正するものである。
ア 補正1
訂正請求書における「訂正事項4」の「特許請求の範囲の請求項2~5を削除する。」という訂正事項のうち、「特許請求の範囲の請求項2、3、5を削除する。」という訂正事項を削除する。
イ 補正2
訂正請求書における「訂正事項6」の「特許請求の範囲の請求項7を削除する。」という訂正事項を削除する。
ウ 補正3
訂正請求書における「訂正事項8」の「特許請求の範囲の請求項10~13を削除する。」という訂正事項を削除する。
エ 補正4
訂正請求書における「訂正事項10」の「特許請求の範囲の請求項15~21として、それぞれ、訂正前の請求項2~3、5、7、および10~12と同様の規定を行う従属請求項を設ける。請求項2~3、5、7、および10~12の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。」という訂正事項を削除する。
オ 補正5
補正1に伴い、削除されない請求項5の記載を、訂正後の請求項1に対応させるために、訂正前の請求項5の記載から「又はトリマートリアミンに由来する骨格」を削除する。
カ 補正6
補正1~4に伴い、引用する請求項の番号を本来の趣旨の番号とする。
(2)補正1~4は、訂正事項の削除であり、補正5は、訂正事項の削除により、削除されなくなった請求項5の記載を、補正後の請求項1に対応させるようにするための訂正を追加したものであり、補正6は、補正1~4の訂正事項の削除に伴い、引用する請求項の番号を本来の趣旨の番号とするものであるから、本件補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、本件補正は、特許法120条の5第9項において準用する同法131条の2第1項の規定に適合するものであるから、本件補正を認める。
第3 訂正の適否
1 訂正の内容
手続補正書により補正された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~20について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「ダイマージアミンに由来する骨格又はトリマートリアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物」との記載を、
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の
「マレイミド化合物を含み、」との記載を、
「マレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤とを含み、」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の
「を含み、前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である」との記載を、
「を含み、前記マレイミド化合物が、シトラコンイミド化合物であり、前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の
「前記マレイミド化合物が、主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格又はトリマートリアミンに由来する骨格を有する、」との記載を、
「前記マレイミド化合物が、主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、」と訂正する。
請求項5の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6の
「前記マレイミド化合物が、主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格又はトリマートリアミンに由来する骨格を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂材料。」との記載を、請求項1の記載を引用するものに限定し、かつ、請求項1の記載を引用しない形式に書き下すとともに、上記訂正事項1及び2と同様に訂正して、
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤とを含み、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上であり、
前記マレイミド化合物が、主鎖の両末端にのみ前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、樹脂材料。」と訂正する。
請求項6の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8の
「ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂材料。」との記載を、請求項1の記載を引用するものに限定し、かつ、請求項1の記載を引用しない形式に書き下すとともに、上記訂正事項1及び2と同様に訂正して、
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤と、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物を含み、
前記ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である、樹脂材料。」と訂正する。
請求項8の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項14の
「前記硬化剤が、前記ベンゾオキサジン化合物を含み、前記ベンゾオキサジン化合物が、ダイマージアミンに由来する骨格を有する、請求項13に記載の樹脂材料。」との記載を、請求項1の記載を引用する請求項13の記載を引用するものに限定し、かつ、請求項1及び13の記載を引用しないものに書き下すとともに、上記訂正事項1及び2と同様に訂正して、
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤とを含み、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上であり、
前記硬化剤が、前記ベンゾオキサジン化合物を含み、前記ベンゾオキサジン化合物が、ダイマージアミンに由来する骨格を有する、樹脂材料。」と訂正する。
請求項14の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(9)訂正事項9
訂正事項4により訂正前の請求項4が削除されたことに伴い、特許請求の範囲の請求項5、7、10、13、15、17、18及び20において、引用する請求項の番号から請求項4を除いたものに訂正する。
なお、訂正前の請求項1~20について、訂正される請求項1を、請求項2~20は直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正は、訂正前の請求項1~20に対応する訂正後の請求項1~20という一群の請求項についてするものである。
また、特許異議の申立ては、全ての請求項を対象とするものであるから、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は課されない。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1~3について
訂正事項1~3は、請求項1についての訂正であるところ、訂正事項1は、「マレイミド化合物」の選択肢から、「トリマートリアミンに由来する骨格」を有するものを削除して、「ダイマージアミンに由来する骨格を有する」ものに限定するものであり、訂正事項2は、訂正前の請求項13の記載に基づいて、「樹脂材料」が「エポキシ化合物」及び「硬化剤」を含むことを限定するものであり、訂正事項3は、訂正前の請求項4の記載に基づいて、「マレイミド化合物」を「シトラコンイミド化合物」に限定するものである。
したがって、訂正事項1~3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項4について
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項4を削除するものである。
したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項5において、「マレイミド化合物」の選択肢から、「主鎖の両末端に」「トリマートリアミンに由来する骨格」を有するものを削除して、「主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格」を有するものに限定するものである。
したがって、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項6~8について
訂正事項6及び7は、請求項6及び8において、請求項1の記載を引用するものに限定するとともに、請求項1の記載を引用しない形式に書き下したものである。
また、訂正事項8は、請求項14において、請求項1の記載を引用する請求項13の記載を引用するものに限定するとともに、請求項1及び13の記載を引用しない形式に書き下したものである。
したがって、訂正事項6~8は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項4により請求項4が削除されたことに伴い、請求項5、7、10、13、15、17、18及び20において、引用する請求項の番号から請求項4を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)別の訂正単位とする求めについて
特許権者は、(i)訂正後の請求項6とこれを引用する訂正後の請求項7、10~13、15~20、(ii)訂正後の請求項8とこれを引用する訂正後の請求項9~13、15~20、及び(iii)訂正後の請求項14とこれを引用する訂正後の請求項15~20については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。
しかしながら、訂正後の独立請求項である請求項1、6、8、14は、請求項15~20において、いずれも引用されていることから、特許権者が求める上記(i)~(iii)の請求項を、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることはできない。
3 訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
第4 本件発明
上記第3のとおり、本件訂正が認められるので、本件特許の請求項1~3、5~20に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5~20に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1~20の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤とを含み、
前記マレイミド化合物が、シトラコンイミド化合物であり、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である、樹脂材料。
【請求項2】
前記マレイミド化合物の重量平均分子量が1000以上50000以下である、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項3】
前記マレイミド化合物の重量平均分子量が3000以上30000以下である、請求項2に記載の樹脂材料。
【請求項4】削除
【請求項5】
前記マレイミド化合物が、主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂材料。
【請求項6】
ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤とを含み、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上であり、
前記マレイミド化合物が、主鎖の両末端にのみ前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、樹脂材料。
【請求項7】
前記マレイミド化合物が、主鎖の両末端以外の部分に、ダイマージアミン以外のジアミン化合物と酸二無水物との反応物に由来する骨格を有する、請求項1~3又は5~6のいずれか1項に記載の樹脂材料。
【請求項8】
ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤と、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物を含み、
前記ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である、樹脂材料。
【請求項9】
前記ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物が、N-フェニルマレイミド化合物を含む、請求項8に記載の樹脂材料。
【請求項10】
無機充填材を含み、
樹脂材料中の溶剤を除く成分100重量%中、前記無機充填材の含有量が50重量%以上である、請求項1~3又は5~9のいずれか1項に記載の樹脂材料。
【請求項11】
前記無機充填材の平均粒径が1μm以下である、請求項10に記載の樹脂材料。
【請求項12】
前記無機充填材がシリカである、請求項10又は11に記載の樹脂材料。
【請求項13】
エポキシ化合物と、
フェノール化合物、シアネートエステル化合物、酸無水物、活性エステル化合物、カルボジイミド化合物、及びベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも1種の成分を含む硬化剤とを含む、請求項1~3又は5~12のいずれか1項に記載の樹脂材料。
【請求項14】
ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤とを含み、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上であり、
前記硬化剤が、前記ベンゾオキサジン化合物を含み、
前記ベンゾオキサジン化合物が、ダイマージアミンに由来する骨格を有する、樹脂材料。
【請求項15】
硬化促進剤を含み、
前記硬化促進剤がアニオン性硬化促進剤を含む、請求項1~3又は5~14のいずれか1項に記載の樹脂材料。
【請求項16】
前記硬化促進剤100重量%中、前記アニオン性硬化促進剤の含有量が20重量%以上である、請求項15に記載の樹脂材料。
【請求項17】
樹脂フィルムである、請求項1~3又は5~16のいずれか1項に記載の樹脂材料。
【請求項18】
金属層を表面に有する積層対象部材と、前記金属層の表面上に積層された樹脂フィルムとを備え、
前記樹脂フィルムが、請求項1~3又は5~17のいずれか1項に記載の樹脂材料である、積層構造体。
【請求項19】
前記金属層の材料が銅である、請求項18に記載の積層構造体。
【請求項20】
回路基板と、
前記回路基板の表面上に配置された複数の絶縁層と、
複数の前記絶縁層間に配置された金属層とを備え、
複数の前記絶縁層の内の少なくとも1層が、請求項1~3又は5~17のいずれか1項に記載の樹脂材料の硬化物である、多層プリント配線板。」
第5 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由
1 申立人Aによる申立理由の概要
申立人Aは、証拠方法として甲第1~36号証(以下「甲1A」等という。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
(1)申立理由Aア(甲1A又は甲3Aに基づく新規性及び進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5~7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1A又は甲3Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~7に係る発明は、甲1A又は甲3Aに記載された発明及び周知慣用技術(甲14A~甲31A、甲33A~甲36A)に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由Aイ(甲12Aに基づく新規性及び進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5~13、15~19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲12Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~20に係る発明は、甲12Aに記載された発明及び周知慣用技術(甲14A~31A、33A~36A)に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由Aウ(サポート要件:特許法第113条第4号)
請求項1~20に係る発明は、発明の詳細な説明において所定の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、それらの請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(4)証拠方法
・甲1A:Federal Register(アメリカ合衆国連邦政府の官報)、2017年4月25日、Vol.82、No.78、p. 19047
・甲2A:インターネットURL https://www.epa.gov/reviewing-new-chemicals-under-toxic-substances-control-act-tsca/tsca-section-5a3c-determination-41にて得られたTSCA Section 5(a)(3)(C) Determination for Premanufacture Notice (PMN) P-17-0144:米国有害物質規制法セクション5(a)(3)(C)に基づく製造前届出(PMN)P-17-0144に対する決定(検索及び出力日2024年1月10日)、及び抄訳文
・甲3A:一般社団法人化学情報協会が提供する有料データベースCAS STNext(インターネットURL https://www.stn.org)にログインし、CAS登録番号2020378-57-6によって検索して得られた情報、全5頁(検索及び出力日2024年1月10日)
・甲4A:デジグナーモレキュールズ社(以下「DM社」という。)の製品BMI-2500の安全データシート:2022年9月1日差替え、2023年4月24日改訂:インターネットURL https://www.designermoleculesinc.com/にて入手(検索及び出力日2024年1月10日)、及び抄訳文
・甲5A:DM社の製品BMI-2500のテクニカルデータシート:2023年5月8日改訂:インターネットURL https://www.designermoleculesinc.com/にて入手(検索及び出力日2024年1月10日)、及び抄訳文
・甲6A:国際公開2018/237377号、及び抄訳文
・甲7A:特開2021-178928号公報
・甲8A:特開2020-173945号公報
・甲9A:特開2021-038318号公報
・甲10A:特開2021-042325号公報
・甲11A:特開2023-067339号公報
・甲12A:国際公開2017/027482号、及び抄訳文
・甲13A:DM社のイミド拡張ビスマレイミド製品「BMI-689」、「BMI-1500」及び「BMI-6000」のテクニカルデータシート:インターネットURL https://www.designermoleculesinc.com/にて入手(検索及び出力日2024年1月10日)、及び抄訳文
・甲14A:特開2017-071738号公報
・甲15A:特開2018-062570号公報
・甲16A:特開2008-045123号公報
・甲17A:特表2014-530953号公報
・甲18A:特開2017-206578号公報
・甲19A:特開2016-065232号公報
・甲20A:国際公開2018/062404号
・甲21A:国際公開2018/062405号
・甲22A:特開2017-119863号公報
・甲23A:特開2017-071738号公報
・甲24A:特開2017-186551号公報
・甲25A:特開2018-041961号公報
・甲26A:特開2016-121210号公報
・甲27A:国際公開2017/164260号
・甲28A:特開2013-185034号公報
・甲29A:特開2013-180432号公報
・甲30A:特開2013-199635号公報
・甲31A:特開2014-062150号公報
・甲32A:米国出願公開2018/0362715号公報、及び抄訳文
・甲33A:国際公開第2014/162734号
・甲34A:特開2006-028271号公報
・甲35A:特開2008-023760号公報
・甲36A:特開2015-135766号公報
2 申立人Bによる申立理由の概要
申立人Bは、証拠方法として甲第1~11号証(以下「甲1B」等という。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
(1)申立理由Bア(甲1Bに基づく公然実施及び進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5、7、17に係る発明は、本件特許の優先日前に公然実施された発明(甲1B)であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、それらの特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~5、7~13、15~17に係る発明は、本件特許の優先日前に公然実際された発明(甲1B)、及び、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8Bに記載された事項に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由Bイ(甲8Bに基づく新規性及び進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~5、7~10、12、13、15、17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~5、7~13、15~17に係る発明は、甲8Bに記載された発明、及び、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲9Bに記載された事項に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由Bウ(甲5Bに基づく拡大先願:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5、7、8、10~13、15~17に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、その優先日後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲5Bの特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が甲5Bの特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が甲5Bの特許出願の出願人と同一でもないから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由Bエ(甲4Bに基づく拡大先願:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5、7、8、10~13、17に係る発明は、本件特許の優先日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた甲4Bの国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が甲4Bに係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が甲4Bの出願人と同一でもないから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(同法第184条の13参照。)。
(5)申立理由Bオ(サポート要件:特許法第113条第2号)
請求項1~20に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、それらの請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(6)証拠方法
・甲1B:「テクニカルデータシート」(BMI-2500)、2016年11月(改訂日)、Designer Molecules Inc.(以下「DM社」という。)作成、及び抄訳文
・甲2B:DM社のウェブサイト(Wayback machine)(https://web.archive.org/web/20170426083836/http://designermoleculesinc.com:80/products.cfm)、及び抄訳文
・甲3B:「安全データシート」(BMI-2500)、2016年5月25日(改訂日)、DM社作成、及び抄訳文
・甲4B:国際公開第2018/237377号、及び抄訳文
・甲5B:特開2019-203122号公報
・甲6B:平成27年(行ケ)第10069号審決取消請求事件判決
・甲7B:平成31年(り)第7038号特許権侵害行為差止等請求事件(第1事件)、同第9618号損害賠償請求事件(第2事件)判決
・甲8B:国際公開第2017/027482号、及び抄訳文
・甲9B:特開2012-92262号公報
・甲10B:特願2018-096042号明細書(甲5Bの基礎出願、出願日2018年5月18日)
・甲11B:特表2020-525575号公報(甲4Bと同じ国際出願(PCT/US2018/039232)の公表公報、国際出願日2018年6月25日)
・参考文献1:熱硬化性樹脂,1994,Vol.15,No.3,pp.9-19
・参考文献2:特開平8-291252号公報
3 取消理由の概要
(1)取消理由1(甲1Bに基づく公然実施及び進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5、7に係る発明は、本件特許の優先日前に公然実施された発明(甲1B)であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項10~13、15~17に係る発明は、本件特許の優先日前に公然実際された発明(甲1B)、及び、甲8Bに記載された事項に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(甲10Bに基づく拡大先願:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5、7、10、12、13、15、16、17に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、甲10Bの特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が甲10Bの特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が甲10Bの特許出願の出願人と同一でもないから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(甲4B)に基づく拡大先願:特許法第113条第2号)
請求項1~3、5、7、17に係る発明は、本件特許の優先日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた甲4Bの国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が甲4Bに係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が甲4Bの出願人と同一でもないから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(同法第184条の13参照。)。
(4)取消理由4(サポート要件違反:特許法第113条第4号)
請求項1~20に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない出願に対してされたものである。
第6 当審の判断
1 請求項4に係る特許についての特許異議の申立の却下
本件訂正により、請求項4は削除されたため、申立人A及びBによる請求項4に係る特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。
請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下する。
2 取消理由及びそれと同旨の申立理由についての判断
(1)取消理由1及び申立理由Bアについて
取消理由1(甲1Bに基づく公然実施及び進歩性)は、申立理由Bア(甲1Bに基づく公然実施及び進歩性)と同旨であるから、まとめて検討する。
ア 甲1B発明(公然実施発明)
(ア)甲1Bは、2016年11月に改訂された、DM社が販売する「BMI-2500」のテクニカルデータシートであり、以下の事項が記載されている。
「TECH DATA SHEET
DM社
BMI-2500
説明
BMI-2500は、より高いTg及び弾性率が必要な用途のために、DM社のイミド延長型ビスマレイミドオリゴマーの使用に適した用途範囲を拡大するように設計されている。…
典型的な物理的及び化学的物性
物性 方法 結果
… … …
ガラス転移点 TMA 126℃
… … …
ガラス転移点 DMA 100℃
推奨される配合及び使用
…。ベースレジンとして使用されるとき、強靭性、柔軟性があり、かつ良好な剥離強度を示すフィルムを製造することができる。
問合せ先:
サンプルの依頼又は注文カスタマーサポート
TEL 858・348・1122
…
参考:DM社品番:BMI-2500
…
2016年11月改訂B」
(イ)上記(ア)によれば、2016年11月に改訂された甲1Bのテクニカルデータシートは、DM社が自社製品である「BMI-2500」というイミド延長型のビスマレイミドオリゴマーの技術的性能を評価したものであり、甲1Bには、「サンプルの依頼又は注文のカスタマーサポート」についての連絡先が記載されていることから、本件特許の優先日前の2016年11月には、DM社が「BMI-2500」というイミド延長型のビスマレイミドオリゴマーを、不特定者に販売していたと推認される。
そして、「BMI-2500」は、ガラス転移温度(TMA法)は126℃、ガラス転移温度(DMA法)は100℃であって、レジン材料として使用されるものであったことが理解できる。
そうすると、本件特許の優先日前には、次の「甲1B発明」が公然実施されていたものと認められる。
「イミド延長型のビスマレイミドオリゴマーであるBMI-2500(DM社製)を含み、
BMI-2500(DM社製)のガラス転移温度(TMA法)が126℃であり、ガラス転移温度(DMA法)が100℃である、レジン材料。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1B発明との対比
甲1B発明のBMI-2500は「イミド延長型のビスマレイミドオリゴマー」であるから、本件発明1の「マレイミド化合物」に相当する。
甲1B発明のBMI-2500は、TMA法(熱機械分析法)で測定したガラス転移温度が126℃であり、DMA法(動的弾性測定法)で測定したガラス転移温度が100℃であるところ、本件発明1の「ガラス転移温度は80℃以上」は、その測定方法は特定されていないから、本件発明1と甲1B発明とのガラス転移温度は「80℃以上」である点で一致している。
そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「マレイミド化合物を含み、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である、樹脂材料。」
<相違点1>
マレイミド化合物が、本件発明1では、ダイマージアミンに由来する骨格を有するものであるのに対し、甲1B発明では、対応する構造を有するか不明である点
<相違点2>
本件発明1は、「エポキシ化合物と、硬化剤」とを含むのに対し、甲1B発明は、それらを含むものではない点
<相違点3>
マレイミド化合物が、本件発明1では、「シトラコンイミド化合物」であるのに対し、甲1B発明では、シトラコンイミド化合物ではない点
(イ)相違点3についての検討
相違点3は、実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1B発明と同一ではない。
また、甲8B(甲12A)には、エポキシ成分と組み合わせる、飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミドについて記載され(請求項1~3)、甲8B(甲12A)に記載されたマレイミド化合物の全てのイタコンイミドとシトラコンイミドの誘導体も、実施をする際に使用することが企図されることが記載されている([0162])
甲14A(請求項1、請求項16、【0034】)及び甲15A(請求項1、請求項7、【0023】、【0051】)には、絶縁層の形成に用いるマレイミド化合物として、ビスマレイミドやビスシトラコンイミドが例示されている。
しかしながら、甲8B(甲12A)、甲14A、甲15Aの記載をみても、当業界において、マレイミド化合物として、ビスマレイミドとビスシトラコンイミドとが置換可能なものであることが周知であったとはいえない。
そうすると、公然実施をされていた甲1B発明のイミド延長型のビスマレイミドオリゴマーであるBMI-2500を、ビスマレイミドではなくビスシトラコンイミドとする動機付けがあったとまではいえない。
他の甲号証の記載を検討しても、同様である。
(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1B(公然実施発明)と同一ではなく、また、甲1B(公然実施発明)、及び、甲8B(甲12A)、甲14A、甲15Aなどの他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明1を引用する本件発明2、3、5、7~13、15~17について
本件発明1を引用する本件発明2、3、5、7~13、15~17と甲1B発明とは、少なくとも上記イの相違点3において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明1を引用する2、3、5、7、17は、甲1B発明と同一ではなく、また、本件発明1を引用する本件発明2、3、5、7~13、15~17は、甲1B発明(公然実施発明)、及び、甲8B(甲12A)、甲14A、甲15Aなどの他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、本件発明6、14、18~20は、取消理由1及び申立理由Bアの対象ではない。
エ 小括
以上によれば、本件発明1、2、3、5、7~13、15~17を、取消理由1及び申立理由Bアによっては、取り消すことはできない。
(2)取消理由2及び申立理由Bウについて
甲5B(特開2019-203122号公報)は、甲10B(特願2018-96942号明細書)を優先権の基礎とする特願2019-89575号の公開公報であるから、取消理由2(甲10Bに基づく拡大先願)及び申立理由Bウ(甲5Bに基づく拡大先願)は同旨であるので、まとめて判断する。
ア 甲10B発明
特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第41条第3項の規定により出願公開されたものとみなされる先願である甲10Bの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された実施例3に着目すると、甲10Bの当初明細書等には、次の「甲10B発明」が記載されていると認められる。
<甲10B発明>
「以下の組成を有する半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物。
マレイミド化合物(BMI-2500(DM社製)):50.0重量部
無機充填剤(溶融球状シリカ;平均粒径13μm):590.0重量部
硬化促進剤(過酸化物;パークミルD):1.0重量部
硬化促進剤(イミダゾール系触媒;1B2PD):0.3重量部
エポキシ樹脂(EPPN-501H):28.2重量部
硬化剤(フェノールノボラック樹脂;TD-2131):21.8重量部
離型剤(カルナバワックス;TOWAX-131):1.5重量部
(全体 692.8重量部) 」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲10B発明との対比
甲10B発明の「マレイミド化合物(BMI-2500(DM社製))」は、以下の構造(合議体注:構造中、mの繰り返し単位の右端のイミドのNとシクロヘキサンをつなぐC6のアルキレン鎖は、C8のアルキレン鎖の誤記であると認める。)を有することが記載されていることから(甲10B【0054】)、本件発明1の「ダイマージアミンに由来する骨格」「を有するマレイミド化合物」に相当する。
[図:0001424567000001.jpg]
また、2016年11月に改訂された、DM社が販売する「BMI-2500」のテクニカルデータシートである甲1Bによれば、上記(1)ア、イで説示したように、甲10Bの「マレイミド化合物(BMI-2500(DM社製))」は、本件発明1の「ガラス転移温度が80℃以上」という要件を満たすと認められる。
さらに、甲10B発明の「半導体封止用熱硬化性マレイミド樹脂組成物」は、本件発明1の「樹脂材料」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲10B発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物と、硬化剤とを含み、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である、樹脂材料。」
<相違点3>
マレイミド化合物が、本件発明1では、「シトラコンイミド化合物」であるのに対し、甲10B発明では、シトラコンイミド化合物ではない点
(イ)相違点3についての検討
上記(1)イ(イ)に説示したように、本件優先日当時、当業界において、マレイミド化合物として、ビスマレイミドとビスシトラコンイミドとが置換可能な等価なものであることが周知であったとはいえず、相違点3は、周知技術の転換ではない。
したがって、相違点3は、実質的な相違点であり、本件発明1と甲10B発明とは同一ではない。
ウ 本件発明1を引用する本件発明2、3、5、7、8、10~13、15~17について
本件発明1を引用する本件発明2、3、5、7、8、10~13、15~17と甲10B発明とは、少なくとも相違点3において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明1を引用する2、3、5、7、8、10~13、15~17は、甲10B発明と同一ではない。
なお、本件発明6、9、14、18~20は、取消理由2又は申立理由Bウの対象ではない。
エ 本件発明1~3、5、7、8、10~13、15~17と、甲10Bの実施例5に記載された発明とを対比しても、上記イ及びウに説示したものと同様の理由により、これらの発明は同一ではない。
オ 小括
以上によれば、本件発明1~3、5、7、8、10~13、15~17を、取消理由2及び申立理由Bウによっては、取り消すことはできない。
(3)取消理由3及び申立理由Bエについて
取消理由3(甲4Bに基づく拡大先願)及び申立理由Bエ(甲4Bに基づく拡大先願)は同旨であるから、まとめて判断する。
ア 甲4Bに記載された発明
甲4Bの実施例16に着目すると、甲4Bには、次の「甲4B発明」が記載されていると認められる。
<甲4B発明>
「以下の成分を、20gのアニソールに溶解した、UV硬化性配合物。
56 wt% 樹脂1-A(以下の構造参照)
19 wt% BMI 2500(DM社製)
19 wt% SR 454(エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート;サルトマーアルケマグループ、ペンシルバニア州エクストン)
2 wt% 4META
2 wt% Irgacure(登録商標)819
2 wt% Irgacure(登録商標)784
(構造:実施例1)
[図:0001424567000002.jpg]
」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4B発明との対比
2016年11月に改訂された、DM社が販売する「BMI-2500」のテクニカルデータシートである甲1Bに記載されたガラス転移温度の数値によれば(上記2(1)ア、イ)、 甲4B発明の「BMI-2500(DM社製)」は、本件発明1の「マレイミド化合物」であり、「ガラス転移温度が80℃以上である」という構成を有するものである。
また、甲4B発明の「UV硬化性配合物」は、本件発明1の「樹脂材料」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4B発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「マレイミド化合物含み、
前記マレイミド化合物のガラス転移温度が80℃以上である、樹脂材料。」
<相違点1>
マレイミド化合物が、本件発明1では、ダイマージアミンに由来する骨格を有するものであるのに対し、甲4B発明では、対応する構造を有するか不明である点
<相違点2>
本件発明1は、「エポキシ化合物と、硬化剤」とを含むのに対し、甲4B発明は、それらを含むものではない点
<相違点3>
マレイミド化合物が、本件発明1では、「シトラコンイミド化合物」であるのに対し、甲4B発明では、シトラコンイミド化合物ではない点
(イ)相違点3についての検討
上記(1)イ(イ)に説示したように、本件優先日当時、当業界において、マレイミド化合物として、ビスマレイミドとビスシトラコンイミドとが置換可能な等価なものであることが周知であったとはいえず、相違点3は、周知技術の転換ではない。
したがって、相違点3は、実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1と甲4B発明とは同一ではない。
ウ 本件発明8について
上記イ(ア)の対比を踏まえると、本件発明8と甲4B発明とは、上記イの相違点1、2に加え、次の相違点6において相違する。
<相違点6>
本件発明8は、「ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物」を含むのに対し、甲4B発明は、そのようなマレイミド化合物を含むことを特定していない点
そこで、相違点2及び6について検討する。
甲8Bには、ポリイミド含有組成物での使用に適したコモノマーの例として、「エポキシ」が挙げられているものの([0216])、ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、当該骨格を有さないマリミド化合物とを、「エポキシ」とともに使用することは、具体的に記載も示唆もされていない。
したがって、相違点2及び6は、実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8と甲4B発明とは、同一ではない。
エ 本件発明1又は8を引用する本件発明2、3、5、7、10~13、17について
本件発明1又は8を引用する本件発明2、3、5、7、10~13、17と甲4B発明とは、少なくとも相違点3、又は、相違点2及び6において相違する。
したがって、本件発明1又は8と同様の理由により、本件発明1又は8を引用する2、3、5、7、10~13、17は、甲4B発明と同一ではない。
なお、本件発明6、9、14~16、18~20は、取消理由3又は申立理由Bエの対象ではない。
オ 小括
以上によれば、本件発明1~3、5、7、8、10~13、17を、取消理由3及び申立理由Bエによっては、取り消すことはできない。
(4)取消理由4、申立理由Aウ及び申立理由Bオについて
取消理由4(サポート要件)、及び申立理由Aウ(サポート要件)及び申立理由Bオ(サポート要件)は同旨であるから、まとめて判断する。
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
この観点に立って、以下検討する。
イ 本件発明の課題
本件明細書【0008】の記載によれば、本件発明の課題は、「1)エッチング後の表面粗度の均一性を高め、2)硬化物の熱寸法安定性を高め、3)メッキピール強度を高め、4)凹凸表面に対する埋め込み性を高め、5)ラミネート時における基板周囲からの過度のはみ出しを抑えることができる樹脂材料、及び、上記樹脂材料を用いた積層構造体及び多層プリント配線板を提供すること」であると認められる。
ウ 本件発明1について
(ア)本件明細書には、従来のダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつガラス転移温度(以下「Tg」という。)が80℃未満であるマレイミド化合物を含む樹脂材料では、エッチング性の高いダイマージアミンに由来する骨格部分が過度に凝集するため、エッチング後の表面粗度がばらつくことがあり、また、当該マレイミド化合物とエポキシ化合物とを併用した場合に、ラミネート後の周囲へのはみ出しが過度に大きくなることなどがあるところ(【0034】、【0035】)、「本発明に係る樹脂材料」は、ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物(以下「マレイミド化合物A」という。)を含み、マレイミド化合物AのTgが80℃以上である構成を備えることにより、上述した本件発明の課題の1)~5)に対応する本件発明の効果を発揮することができることが記載されている(【0032】、【0033】)。
また、マレイミド化合物Aは、シトラコンイミド化合物であってもよく、シトラコンイミド化合物は、マレイミド化合物よりも反応性が低いので、樹脂材料の保存安定性を高めることができることが記載されている(【0045】)。
マレイミド化合物AのTgは、硬化物の熱寸法安定性を高める観点、絶縁層と金属層との密着性を高める観点から、80℃以上であり、上限は特に限定されないことが記載されている(【0070】、【0071】)。
さらに、樹脂材料は、エポキシ化合物を含むことが好ましく、また、エポキシ化合物のエポキシ基と反応可能な官能基を含む硬化剤を含むことが好ましいと記載されている(【0077】、【0106】、【0107】)。
そして、実施例においては、マレイミド化合物Aであって、Tgが105℃である「マレイミド化合物A1」又はTgが120℃である「マレイミド化合物A2」、エポキシ樹脂、硬化剤を含む実施例1~14は、「マレイミド化合物A1」と「マレイミド化合物A2」のいずれも含まない比較例1及び2に比べ、凹凸表面に対する埋め込み性、はみ出し防止性、熱寸法安定性、エッチング後の表面粗度、メッキピール強度及び誘電正接のいずれも優れることが確認されている。
そうすると、上記の記載から、マレイミド化合物A、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂材料であれば、本件発明の課題を解決できることを当業者が理解できる。
(イ)本件明細書の【0045】の記載から、マレイミド化合物Aに代えて、より反応性が低く、樹脂材料の保存安定性を高めることができる、シトラコンイミド化合物(マレイミド化合物にメチル基が付加した化合物)を用いて、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む樹脂材料としても、本件発明の課題を解決できることを当業者が理解できるといえる。
(ウ)以上によれば、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、Tgが80℃以上であるシトラコンイミド化合物、エポキシ化合物及び硬化剤を含む樹脂材料である本件発明1は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
エ 本件発明6について
上記ウ(ア)に加え、実施例において用いられた「マレイミド化合物A1」は、主鎖の末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する、Tgが80℃以上であるマレイミド化合物であること(【0204】合成例1)を考慮すると、主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有し、Tgが80℃以上であるマレイミド化合物、エポキシ化合物及び硬化剤を含む樹脂材料である本件発明6は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
オ 本件発明8について
上記ウ(ア)に加え、本件明細書には、「ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物」を、マレイミド化合物Aと併用することにより、「本発明」の効果をより一層効果的に発揮することができると記載され(【0098】)、実施例7~9、14において、「ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物」(マレイミド化合物B)が用いられていることを考慮すると、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、Tgが80℃以上であるマレイミド化合物、エポキシ化合物及び硬化剤に加え、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物を含む樹脂材料である本件発明8は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
カ 本件発明14について
上記ウ(ア)に加え、本件明細書には、「本発明」の効果を効果的に発揮する観点及びデスミア性を向上させる観点から、ダイマージアミンに由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物を硬化剤として用いることが好ましいことが記載され(【0110】)、実施例13において、ダイマージアミンに由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物が硬化剤の一部として用いられていることを考慮すると、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、Tgが80℃以上であるマレイミド化合物、エポキシ化合物及びダイマージアミンに由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物を含む硬化剤を含む樹脂材料である本件発明14は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
キ 本件発明2、3、5、7、9~13、15~20について
本件発明2、3、5、7、9~13、15~17は、本件発明1、6、8、14を更に特定した「樹脂材料」であり、また、本件発明18~20は、本件発明1~3又は5~17のいずれかを引用した「積層構造体」又は「多層プリント配線板」であるから、上記ウ~カに説示した本件発明1、6、8、14と同様の理由により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
ク 申立人Bの主張について
申立人Bは、有機化合物は構造が異なれば、所定の同じ効果が得られるのか否か不明であることは技術常識であることを前提として、主に以下の点を挙げて、本件発明の広範な範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できず、本件発明1~3、5~20は、本件発明の1)~5)の全ての課題を解決できるとまでは認められない旨を主張する(意見書4~8頁)。
・本件明細書の実施例は、いずれも、無機充填材(シリカ)、硬化促進剤及び熱可塑性樹脂(ポリイミド)を含んでおり、特にシリカは68重量以上で含有されている。
・実施例において使用された、主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物は、「マレイミド化合物A1」のみである。
・実施例において使用された、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物は、N-フェニルマレイミド化合物のみである。
・実施例において、シトラコンイミド化合物は使用されていない。
しかしながら、上記ウ~キに説示したように、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件発明の課題を解決できることを認識できる範囲のものである。
そして、申立人Bは、実施例以外の本件発明がその課題を解決できないとする、具体的な理由を示していない。
したがって、申立人Bの上記主張は採用できない。
ケ 小括
以上によれば、本件発明1~3、5~20を、取消理由4及び申立理由Aウ、申立理由Bオによっては、取り消すことはできない。
3 取消理由通知書において採用しなかった申立理由についての判断
取消理由通知書において採用しなかった、申立理由Aア(甲1A又は甲3Aに基づく新規性及び進歩性)、申立理由Aイ(甲12Aに基づく新規性及び進歩性)、及び、申立理由Bイ(甲8Bに基づく新規性及び進歩性)について検討する。
なお、甲12Aと甲8Bとは同じ文献であるから、申立理由Aイと申立理由Bイはまとめて検討する。
(1)申立理由Aア(甲1A又は甲3Aに基づく新規性及び進歩性)について
ア 甲1A発明又は甲3A発明
甲1A又は甲3Aの記載によれば、甲1A又は甲3Aに記載された発明は、次の「甲1・3A発明」という、同じ発明であると認められる。
<甲1・3A発明>
「アミン、C36―アルキレンジ-、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタンアミン及びピロメリット酸無水物を備え、マレイン酸変性されたポリマー(CAS RN:2020378-57-6)」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1・3A発明との対比
甲1・3A発明は、「アミン、C36―アルキレンジ-」と「オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタンアミン」という2種のジアミンと、「ピロメリット酸無水物」を反応させたものを、マレイン酸変性したポリマーであると解される。
甲1・3A発明の「アミン、C36―アルキレンジ-」、すなわち「C36―アルキレンジ-アミン」は、本件発明1の「ダイマージアミン」に相当し、また、「マレイン酸変性」されて「マレイミド」構造を有するするもの認められる。
また、甲1・3A発明の「ポリマー」は、本件発明1の「樹脂材料」に相当する。
そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物を含む、樹脂材料。」
<相違点2>
本件発明1は、「エポキシ化合物と、硬化剤」とを含むのに対し、甲1・3A発明は、それらを含むものではない点
<相違点3>
マレイミド化合物が、本件発明1では、「シトラコンイミド化合物」であるのに対し、甲1・3A発明では、シトラコンイミド化合物ではない点
<相違点4>
マレイミド化合物のガラス転移温度(Tg)が、本件発明1では、「80℃以上」であるのに対し、甲1・3A発明では、不明である点
(イ)相違点3についての検討
相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1・3A発明と同一ではない。
また、甲12Aには、エポキシ成分と組み合わせる、飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミドについて(請求項1~3)、多数例示がされている中に以下の構造を有するビスマレイミドが記載され([0161])、
[図:0001424567000003.jpg]
当該構造は、甲1・3A発明に係るポリマーの概念に含まれ得るものである。そして、甲12Aに記載されたマレイミド化合物の全てのイタコンイミドとシトラコンイミドの誘導体も、実施をする際に使用することが企図されることが記載されている([0162])。
甲14A(請求項1、請求項16、【0034】)及び甲15A(請求項1、請求項7、【0023】、【0051】)には、絶縁層の形成に用いるマレイミド化合物として、ビスマレイミドやビスシトラコンイミドが例示されている。
しかしながら、甲12A、甲14A、甲15Aの記載をみても、当業界において、マレイミド化合物として、ビスマレイミドとビスシトラコンイミドとが置換可能なものであることが周知技術であったとはいえない。
そうすると、CAS RN:2020378-57-6の情報として記載された、甲1・3A発明に係るポリマーにおいて、マレイン酸変性に代えてシトラコン酸変性を採用する動機付けがあるとはいえない。
他の甲号証の記載を検討しても、同様である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1A又は甲3Aに記載された発明ではなく、また、甲1A又は甲3Aに記載された発明、及び、甲12A、甲14A、甲15Aなどの他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明6について
本件発明6と甲1・3A発明とは、上記イの相違点2及び4に加え、以下の点で相違する。
<相違点5>
マレイミド化合物が、本件発明6では、「主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する」ものであるのに対し、甲1・3A発明では、その具体的な構造が不明である点
相違点5について検討する。
相違点5は、実質的な相違点であるから、本件発明6は、甲1・3A発明と同一ではない。
甲1A及び甲3Aには、「アミン、C36―アルキレンジ-」と「オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタンアミン」という2種のジアミンと、「ピロメリット酸無水物」の反応順序については具体的に記載されていない。
そうすると、甲1・3A発明において、上記反応順序を制御して、「主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する」ものとする動機付けがあるとはいえない。
他の甲号証をみても同様である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1A又は甲3Aに記載された発明ではなく、また、甲1A又は甲3Aに記載された発明及び他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2、3、5、7について
本件発明2、3、5、7は、本件発明1又は6を引用するものであり、少なくとも相違点3又は5において、甲1・3A発明と相違する。
したがって、本件発明1又は6と同様の理由により、本件発明2、3、5、7は甲1A又は甲3Aに記載された発明ではなく、また、甲1A又は甲3Aに記載された発明及び他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由Aイ及びBイ(甲12A(甲8B)に基づく新規性及び進歩性)について
ア 甲12A発明
甲12Aの請求項1及び請求項3の記載に着目すると、甲12Aには、以下の「甲12A発明」が記載されていると認められる。
<甲12A発明>
「以下を含む硬化可能な、接着剤用組成物。
(a)少なくとも1つの飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミドを含むマレイミド成分、
(b)少なくとも1つのエポキシ基を含むエポキシ成分、及び、
(c)少なくとも1つの陰イオン性硬化触媒
(ただし組成物は、フリーラジカルイニシエータを含まない。)」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲12A発明との対比
本件発明1と甲12A発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物を含む、樹脂材料。」
<相違点2’>
本件発明1は、「硬化剤」を含むのに対し、甲12A発明は、硬化剤を含むことを特定していない点
<相違点3>
マレイミド化合物が、本件発明1では、「シトラコンイミド化合物」であるのに対し、甲12A発明では、シトラコンイミド化合物ではない点
<相違点4>
マレイミド化合物のガラス転移温度(Tg)が、本件発明1では、「80℃以上」であるのに対し、甲12A発明では、不明である点
(イ)相違点3及び4についての検討
相違点3及び4について併せて検討する。
甲12Aには、「ダイマージアミンのBMI(当審注:ビスマレイミド)のTgは非常に低く、本発明のある実施形態では、室温に近い。」([0147])、「上記の範囲のマレイミド末端のポリイミドは、・・・25℃で粘ちょうな液体から非晶質粉末まで変化する。これらの材料は、また、低いTg(50℃以下)から非常に高いTg(200℃以上)の熱硬化樹脂までのガラス転移温度の範囲を有する。」([0160])ことが記載されているものの、ダイマージアミンのビスマレイミドのTgとして、特段、80℃以上のものを選択する動機付けとなる記載はない。
また、甲12Aには、甲12Aに記載されたマレイミド化合物の全てのイタコンイミドとシトラコンイミドの誘導体も、実施をする際に使用することが企図されることが記載されている([0162])。
甲14A(請求項1、請求項16、【0034】)及び甲15A(請求項1、請求項7、【0023】、【0051】)には、絶縁層の形成に用いるマレイミド化合物として、ビスマレイミドやビスシトラコンイミドが例示されている。
しかしながら、甲12A、甲14A、甲15Aの記載をみても、甲12A発明において、「(a)少なくとも1つの飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミドを含むマレイミド成分」のTgを80℃以上とし、さらに、ビスマレイミドに代えてシトラコンイミドとすることを、当業者が容易に想到することができたとする、具体的な根拠があるとまではいえない。
他の甲号証を検討しても同様である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲12Aに記載された発明、及び、甲14A、甲15A等の他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲12A発明との対比
本件発明6と甲12A発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物を含む、樹脂材料。」
<相違点2’>
本件発明1は、「硬化剤」を含むのに対し、甲12A発明は、硬化剤を含むことを特定していない点
<相違点4>
マレイミド化合物のガラス転移温度(Tg)が、本件発明6では、「80℃以上」であるのに対し、甲12A発明では、不明である点
<相違点5>
マレイミド化合物が、本件発明6では、「主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する」ものであるのに対し、甲12A発明では、そのような構造を有することが特定されていない点
(イ)相違点4及び5についての検討
相違点4及び5について併せて検討する。
相違点4及び5は、実質的な相違点であるから、本件発明6は、甲12Aに記載された発明ではない。
また、上記イ(イ)に説示したとおり、甲12Aには、ダイマージアミンのビスマレイミドのTgとして、特段、80℃以上のものを選択する動機付けとなる記載はない。
さらに、甲12Aには、「主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する」ビスマレイミドについて、明確に特定された記載はない。
そうすると、甲12A発明において、「(a)少なくとも1つの飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミド」のTgを80℃以上とし、さらに、「主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する」ものとすることを当業者が容易に想到することができたとする、具体的な根拠があるとまではいえない。
他の甲号証を検討しても同様である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲12Aに記載された発明ではなく、また、甲12Aに記載された発明及び他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明8について
(ア)本件発明8と甲12A発明との対比
本件発明8と甲12A発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物を含む、樹脂材料。」
<相違点2’>
本件発明1は、「硬化剤」を含むのに対し、甲12A発明は、硬化剤を含むことを特定していない点
<相違点4>
マレイミド化合物のガラス転移温度(Tg)が、本件発明6では、「80℃以上」であるのに対し、甲12A発明では、不明である点
<相違点6>
本件発明8は、「ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物」を含むのに対し、甲12A発明は、そのようなマレイミド化合物を含むことを特定していない点
(イ)相違点4及び6についての検討
相違点4及び6について併せて検討する。
相違点4及び6は、実質的な相違点であるから、本件発明8は、甲12Aに記載された発明ではない。
また、上記イ(イ)に説示したとおり、甲12Aには、ダイマージアミンのビスマレイミドのTgとして、特段、80℃以上のものを選択する動機付けとなる記載はない。
さらに、甲12Aには、飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミドを、他のマレイミド及び/又はビスマレイミドと組み合わせて含むことができる旨が記載され([0018])、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物も例示されているものの([0020][0021])、それを組み合わせて用いることが好ましい旨の記載はない。
そうすると、甲12Aの記載に接した当業者が、甲12A発明において、(a)少なくとも1つの飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミドを含むマレイミド成分」において、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物も併用すると同時に、「飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミド」のTgを80℃以上とする、具体的な根拠があるとまではいえない。
他の甲号証を検討しても同様である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲12Aに記載された発明及び他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明14について
(ア)本件発明14と甲12A発明との対比
本件発明14と甲12A発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物と、エポキシ化合物を含む、樹脂材料。」
<相違点4>
マレイミド化合物のガラス転移温度(Tg)が、本件発明6では、「80℃以上」であるのに対し、甲12A発明では、不明である点
<相違点7>
本件発明14は、「ダイマージアミンに由来する骨格を有する」「ベンゾオサジン化合物」を含む「硬化剤」含むのに対し、甲12A発明は、硬化剤を含むことを特定していない点
(イ)相違点4及び7についての検討
相違点4及び7について併せて検討する。
上記イ(イ)に説示したとおり、甲12Aには、ダイマージアミンのビスマレイミドのTgとして、特段、80℃以上のものを選択する動機付けとなる記載はない。
また、甲12Aには、硬化剤を含有することについて具体的な記載はない。
他方、甲24A~甲28Aをみても、エポキシ樹脂の硬化剤として、ダイマージアミンに由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物を用いることは記載されていない。
そうすると、甲12Aの記載に接した当業者が、甲12A発明において、「飽和又は不飽和のダイマージアミンのビスマレイミド」のTgを80℃以上とすると同時に、エポキシ樹脂の硬化剤として「ダイマージアミンに由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物」を用いる具体的な根拠があるとまではいえない。
他の甲号証を検討しても同様である。
したがって、本件発明14は、甲12Aに記載された発明、及び、甲24A~甲28Aなどの他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明2、3、5、7、9~13、15~20について
本件2、3、5、7、9~13、15~20は、本件発明1、6、8又は14を引用するものであり、少なくとも相違点4と、それに加えて相違点3、5~7のいずれかにおいて相違する。
したがって、本件発明1、6、8又は14と同様の理由により、本件発明2、3、5、7、9~13、15~19は、甲12Aに記載された発明ではなく、また、本件発明2、3、5、7、9~13、15~20は、甲12Aに記載された発明及び他の甲号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
以上によれば、申立理由Aア、申立理由Aイ及び申立理由Bイによっては、本件発明1~3、5~20を取り消すことはできない。
4 申立人Bの意見書における本件発明6の実施可能要件に関する主張について
申立人Bは、意見書において、ポリアミド酸にアミン化合物を加えるとアミド交換反応が促進されることは技術常識として知られているところ(参考資料1及び2)、本件明細書の合成例1の条件においても、アミド交換とイミド化が主反応となり、主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミドは決して得られないと当業者が考えることが最も合理的で、本件明細書には、主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミドの生成を証明・同定する分析に関する記載は一切ないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明6及びこれを引用する本件発明7、10~13、15~20を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の要件(実施可能要件)を満たさない旨を主張する(9~12頁)。
しかしながら、本件発明6の「主鎖の両末端にのみ」ダイマージアミンに由来する骨格を有するという発明特定事項は、訂正前から存在しており、上記の実施可能要件違反の理由は、特許異議申立書において主張できたものであるにもかかわらず、意見書において初めて主張された。
したがって、申立人Bの上記の実施可能要件違反の理由は、時機に遅れたものであり、採用できない。
仮に、上記の実施可能要件違反の主張について検討しても、参考文献1及び2に記載されているのは、ポリアミド酸ワニス(溶液)において、アミド交換反応が進行するということであって、本件明細書の合成例1における条件のように、ポリアミド酸を経ることが特定されていない合成法においても、アミド交換反応が進行することを示すものではない。
したがって、参考文献1及び2の記載から、直ちに、本件明細書の合成例1において、「主鎖の両末端にのみ」ダイマージアミンに由来する骨格を有するマレイミド化合物が得られないとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~3、5~20に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~3、5~20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項4は、本件訂正により削除されたので、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700152