特許異議申立
2025-700580
コポリエステルの製造方法
- 審判番号
- 2025-700580
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-519113
- 登録番号
- 7594101
- 請求日
- 2025年06月02日
- 審決日
- 2026年03月17日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】飯田 雅人
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【異議申立人】井関 久栄
- 審判長/審判官
- 審判長 岩田 行剛
- 審判官 藤原 浩子
- 審判官 浅野 裕之
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7594101号発明「コポリエステルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7594101号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7594101号の請求項1~4、8~10に係る特許を維持する。
特許第7594101号の請求項5~7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許である特許第7594101号についての出願(特願2023-519113号)は、2021年(令和3年)8月11日(パリ条約による優先権主張 2020年9月25日 (KR)大韓民国)を国際出願日とし、令和6年11月25日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年12月3日に特許掲載公報が発行された。
そして、令和7年6月2日に井関久栄(以下「申立人」という。)により、請求項1~10に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。その後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和7年 6月 2日提出 :特許異議申立書
同年 8月28日付け :取消理由通知書
同年12月 1日提出 :訂正請求書及び意見書
同年12月12日付け :訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
なお、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正について
1 訂正の内容
訂正請求書における請求の趣旨は、「特許第7594101号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める」というものであって、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「リン系熱安定剤の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階を含み、」と記載されているのを、「リン系熱安定剤の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階を含み、前記重縮合する段階で、コバルト系呈色剤をさらに含み、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記リン系熱安定剤は、カルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート](calcium bis[monoethyl(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxylbenzyl)phosphonate])またはトリエチルホスホノアセテート(triethyl phosphonoacetate)であり、」と記載されているのを、
「前記リン系熱安定剤は、カルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート](calciumbis[monoethyl(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxylbenzyl)phosphonate])またはトリエチルホスホノアセテート(triethylphosphonoacetate)であり、
前記リン系熱安定剤としてカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]を使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素含有量が300ppm以上1,000ppm以下であり、
前記リン系熱安定剤としてトリエチルホスホノアセテートを使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素含有量が5ppm以上20ppm以下であり、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下であり、」と記載されているのを、「リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]またはトリエチルホスホノアセテートであり、固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下であり、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下である、」と記載されているのを、「リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]であり、固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、co1or bの値が-8.0以上0以下である、」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項7に記載のコポリエステルの製造方法」と記載されているのを、「請求項1に記載のコポリエステルの製造方法」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項7に記載のコポリエステルの製造方法」と記載されているのを、「請求項1に記載のコポリエステルの製造方法」に訂正する。
なお、訂正前の請求項1~10は、請求項2~10が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~10について請求されている。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項7の「前記重縮合する段階で、コバルト系呈色剤をさらに含む、」の記載に基づいて、請求項1において、重縮合する段階をコバルト系呈色剤をさらに含むものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項5及び願書に添付した明細書【0036】の記載に基づいて、リン系熱安定剤としてカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]を使用する時に、そのリン元素含有量を、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して「300ppm以上1,000ppm以下」に限定し、また、訂正前の請求項6及び本件明細書の実施例2、4の記載に基づいて、リン系熱安定剤としてトリエチルホスホノアセテートを使用する時に、そのリン元素含有量を、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して「5ppm以上20ppm以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4は、願書に添付した明細書の実施例(【表1】【表2】)の記載に基づいて、「固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下」については、「リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]またはトリエチルホスホノアセテートであり、」とし、また、「固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、colorbの値が-8.0以上0以下」については、「リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]であり、」として、それぞれの固有粘度(IV)である時のリン酸熱安定剤を、もともと請求項1に特定されていたものの中から限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(4)訂正事項5~7について
訂正事項5~7は、訂正前の請求項5~7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(5)訂正事項8及び9について
訂正事項8及び9は、訂正前の請求項7の「前記重縮合する段階で、コバルト系呈色剤をさらに含む、」との記載を、請求項1に加える訂正(訂正事項1)がされたことに伴い、訂正前の請求項7が削除されたため、「請求項7に記載の」を、「請求項1に記載の」とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
なお、訂正前の全ての請求項1~10について特許異議申立てがされているので、訂正事項1~9に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、請求項1~10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項の番号を付して「本件発明1」などといい、願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
チタン系触媒の存在下で、テレフタル酸(terephtha1icacid)、エチレングリコール(ethyleneglycol)、およびシクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)をエステル化反応させる段階;および
リン系熱安定剤の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階を含み、
前記重縮合する段階で、コバルト系呈色剤をさらに含み、
前記リン系熱安定剤は、カルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート](ca1cium bis[monoethyl(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxylbenzyl)phosphonate])またはトリエチルホスホノアセテート(triethyl phosphonoacetate)であり、
前記リン系熱安定剤としてカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]を使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素含有量が300ppm以上1,000ppm以下であり、
前記リン系熱安定剤としてトリエチルホスホノアセテートを使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素含有量が5ppm以上20ppm以下であり、
リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]またはトリエチルホスホノアセテートであり、固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下であり、
リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]であり、固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下である、コポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記チタン系触媒は、テトラエチルチタネート、アセチルトリプロピルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ポリブチルチタネート、2-エチルヘキシルチタネート、オクチレングリコールチタネート、ラクテートチタネート、トリエタノールアミンチタネート、アセチルアセトネートチタネート、エチルアセトアセチックエステルチタネート、イソステアリルチタネート、およびチタンジオキシドからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載のコポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記チタン系触媒の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して前記チタン系触媒に含まれているチタンの含有量が5ppm以上200ppm以下である、請求項1に記載のコポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記テレフタル酸、エチレングリコール、およびシクロヘキサンジメタノールをエステル化反応させる段階は、200~270℃の温度で1~10時間行う、請求項1に記載のコポリエステルの製造方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記コバルト系呈色剤は、コバルトアセテート(Cobalt acetate)、コバルトアセチルアセトネート(Cobalt acetylacetonate)、コバルトベンゾイルアセトネート(Cobalt benzoylacetonate)、コバルトヒドロキシド(Cobalt hydroxide)、コバルトブロミド(Cobalt bromide)、コバルトクロリド(Cobalt chloride)、コバルトヨージド(Cobalt iodide)、コバルトフルオリド(Cobalt fluoride)、コバルトシアニド(Cobalt cyanide)、コバルトニトレート(Cobalt nitrate)、コバルトスルフェート(Cobalt sulfate)、コバルトセレニド(Cobalt selenide)、コバルトホスフェート(Cobalt phosphate)、コバルトオキシド(Cobalt oxide)、コバルトチオシアネート(Cobalt thiocyanate)およびコバルトプロピオネート(Cobalt propionate)からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載のコポリエステルの製造方法。
【請求項9】
前記コバルト系呈色剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記コバルト系呈色剤に含まれているコバルト元素含有量が3ppm以上100ppm以下である、請求項1に記載のコポリエステルの製造方法。
【請求項10】
前記エステル化反応の反応物を重縮合する段階は、250~300℃の温度および760~0.01mmHgの減圧条件で30分~6時間行う、請求項1に記載のコポリエステルの製造方法。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、甲第1~5号証(以下「甲1」などという。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する(なお、甲1~甲5は、いずれも本件特許の優先日前に公開された文献である。)。
申立理由1(甲1に基づく新規性欠如:特許法第113条第2号)
請求項1~3、7、9に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3、7、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如:特許法第113条第2号)
請求項1~10に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立理由3(実施可能要件違反:特許法第113条第4号)
請求項1~4、6~10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由4(サポート要件違反:特許法第113条第4号)
請求項1~4、6~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由5(明確性違反:特許法第113条第4号)
請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<甲号証一覧>
甲1:特表2005-521772号公報
甲2:特開2001-323054号公報
甲3:国際公開第2015/060335号
甲4:特表2000-504770号公報
甲5:特表2012-525466号公報
2 取消理由の概要
取消理由通知書における取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、当審合議体が職権調査により発見した、本件特許の優先日前に公開された文献である引1(特開2017-2147号公報)を、取消理由1及び2において引用した。
取消理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如:特許法第113条第2号)
請求項1~10に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2~甲4及び引1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2(甲4を主引例とする進歩性欠如:特許法第113条第2号)
請求項1~10に係る発明は、甲4に記載された発明、甲1~甲3及び引1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由3(実施可能要件違反:特許法第113条第4号)
請求項1~10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。
第5 当審における判断
1 請求項5~7に係る特許についての特許異議の申立ての却下
本件訂正により、請求項5~7は削除されたため、請求項5~7に係る特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。
請求項5~7に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下する。
2 取消理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)、申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
取消理由1、申立理由1及び2は、甲1を主引例とする理由であるから、まとめて検討する。
(1)甲1に記載された発明
甲1には、
「【請求項31】
(a)(i)少なくとも1種の芳香族、脂肪族若しくは脂環式ジカルボン酸の二酸又はエステル誘導体(前記芳香族ジカルボン酸の芳香族部分は炭素数が6~20であり、前記脂肪族若しくは脂環式ジカルボン酸の脂肪族部分若しくは脂環式部分は炭素数が3~20である)100モル%と、少なくとも1種の炭素数2~20の脂肪族、脂肪族エーテル若しくは脂環式ジオールを含むジオール100モル%とを、二酸のエステル化又はエステル誘導体のエステル交換を行うのに充分な温度及び圧力において反応させ;そして
(ii)工程(i)の生成物を、重縮合を行うのに充分な温度及び圧力において、元素チタン約1~約30ppmの量(ppmはポリエステルの総重量に基づく)のチタン含有触媒化合物の存在下で、重縮合することによってポリエステルを生成し;そして
(b)工程(a)のポリエステル約1~約99重量%をポリカーボネート約99~約1重量%と配合してブレンドを形成する(重量%は前記ブレンドの総重量に基づく)
工程を含むポリエステルとポリカーボネートとのブレンドの製造方法。」
「【請求項34】
元素リン約1~約150ppmの量で前重縮合リン含有化合物を工程(a)(ii)に添加する請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記二酸が約80~約100モル%のテレフタル酸、イソフタル酸又はそれらの混合物を含み、且つ前記ジオールが約40~100モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール及び約0~約60モル%のエチレングリコールを含む(二酸100モル%及びジオール100モル%に基づく)を含む請求項31に記載の方法。」
が記載されている。
そして、実施例1では、【0077】の【表1】に記載された「ポリエステル#2」が製造され、それは【0076】及び【0077】の記載からみて、テレフタル酸と、30モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、70モル%のエチレングリコール(EG)とから製造され、そのTi含有量は16ppm、P含有量は77ppm、インヘレント粘度(IV)は0.74dl/gである。
また、そのペレットのb*値は【0082】【表2】の実施例1A(ブレンド中のPC(ポリカーボネート)が0重量%)の「b*ペレットPoly#2」において「-1.0」であることが示されている。
上記「ポリエステル#2」を製造する工程は、甲1の請求項31の工程(a)に相当し、請求項34、35で特定される要件も満たすものであるところ、その「ポリエステル#2」を製造する工程に着目し、請求項34、35及び請求項31の工程(a)に当てはめると、甲1には次の発明が記載されている。
「(a)(i)テレフタル酸100モル%と、30モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)及び70モル%のエチレングリコール(EG)からなるジオール100モル%とを、テレフタル酸のエステル化を行うのに充分な温度及び圧力において反応させ;そして
(ii)工程(i)の生成物を、重縮合を行うのに充分な温度及び圧力において、元素チタン16ppmの量(ppmはポリエステルの総重量に基づく)のチタン含有触媒化合物の存在下で、重縮合することによって、ポリエステルを生成する方法であって、
元素リン77ppmの量で前重縮合リン含有化合物を工程(a)(ii)に添加し、
得られるポリエステルのインヘレント粘度(IV)は0.74dl/gであり、ポリエステルをペレット化したときのb*値が-1.0である、
ポリエステルを生成する方法。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「テレフタル酸100モル%と、30モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)及び70モル%のエチレングリコール(EG)からなるジオール100モル%とを、テレフタル酸のエステル化を行うのに充分な温度及び圧力において反応させ」る工程は、本件発明1の「テレフタル酸(terephthalic acid)、エチレングリコール(ethyleneglycol)、およびシクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)をエステル化反応させる段階」に相当する。
甲1発明の、「元素リン77ppmの量で前重縮合リン含有化合物を工程(a)(ii)に添加し」、「(ii)工程(i)の生成物を、重縮合を行うのに充分な温度及び圧力において、元素チタン16ppmの量(ppmはポリエステルの総重量に基づく)のチタン含有触媒化合物の存在下で、重縮合する」ことは、本件発明1の「リン系熱安定剤の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階」と、「リン含有化合物の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階」である限りにおいて一致する。
また、甲1の実施例1において、ペレットの比色計上の結果を「L*,a*,b*」を測定することにより求めているところ(【0080】)、本件明細書においても、色を「L、a、b」を測定していることから、甲1発明の「b*値」は、本件発明1の「color bの値」に相当し、「インヘレント粘度(IV)」と「固有粘度(IV)」は同義であるから、甲1発明の「インヘレント粘度(IV)は0.74dl/gであり、ポリエステルをペレット化したときのb*値が-1.0である」ことは、本件発明1の「固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下」であることに相当する。
甲1発明のポリエステルは、ジオール成分としてCHDM及びEGの2種類のジオールを用いたものであるから、本件発明1の「コポリエステル」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「テレフタル酸(terephthalic acid)、エチレングリコール(ethyleneglycol)、およびシクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)をエステル化反応させる段階;および
リン含有化合物の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階を含み、
固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下である、
コポリエステルの製造方法。」
<相違点1-1>
「エステル化反応させる段階」(以下「エステル化段階」という。)及び「重縮合する段階」(以下「重縮合段階」という。)について、本件発明1では、エステル化段階が「チタン系触媒の存在下」で行われ、重縮合段階で「コバルト系呈色剤をさらに含」むのに対し、甲1発明では、重縮合段階が「チタン含有触媒化合物の存在下」で行われ、コバルト系呈色剤を用いることは特定されていない点
<相違点1-2>
「リン含有化合物」について、本件発明1では「リン系熱安定剤」と特定され、その種類と含有量が、「前記リン系熱安定剤は、カルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート](ca1cium bis[monoethyl(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxylbenzyl)phosphonate])またはトリエチルホスホノアセテート(triethyl phosphonoacetate)であり、
前記リン系熱安定剤としてカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]を使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素含有量が300ppm以上1,000ppm以下であり、
前記リン系熱安定剤としてトリエチルホスホノアセテートを使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素含有量が5ppm以上20ppm以下であり、」と特定されているのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点
(以下、カルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]を、単に「カルシウムホスネート」と省略していうことがある。)
<相違点1-3>
リン系熱安定剤、固有粘度及びcolor bの値の関係について、本件発明1では、「リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]またはトリエチルホスホノアセテートであり、固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下であり、 リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]であり、固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下である、」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点
イ 新規性について
相違点1-1~1-3は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
ウ 進歩性について
(ア)まず、相違点1-2について検討する。
甲1発明の、ポリエステルの総重量に対して元素リン77ppmとなる量で用いられた「前重縮合リン含有化合物」の具体的な構造は、甲1には記載されていないものの、甲1には、「前重縮合リン含有化合物」として、「ホスホン酸及び前記全ての置換誘導体」(【0032】)や、
「【化2】
[図:0001436192000001.jpg]
[式中、R1は同一又は異なる一価アルキル残基であり、R2は二価アルキル残基である]」(【0036】、【0037】)、「エチル酸ホスフェート(…)、ジエチル酸ホスフェート(…)、アリールアルキルホスフェート及びトリアルキルホスフェート、例えばトリエチルホスフェート及びトリス-2-エチルヘキシルホスフェート」(【0038】)などが例示され、前縮合リン含有化合物の元素リンは、ポリエステルの重量に基づき約10~約100ppmの量で存在すること(【0019】)も記載されている。
上記のとおり、甲1には、前重縮合リン含有化合物として、本件明細書の比較例で用いられた「トリエチルホスフェート」は記載されているものの、本件発明1の「カルシウムホスネート」又は「トリエチルホスホノアセテート」を用いることは具体的に記載されていない。
(イ)甲2には、触媒としてチタニウム系化合物を用いてテレフタル酸、1,4-シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコールを重縮合してポリエステルを製造する際に、「トリエチルホスホノアセテート」を、リンの重量が最終ポリマー(ポリエステル)に対して好ましくは10~100ppmとなるように使用することが記載されているものの(【0014】)、実施例における使用量は、リンの重量として50ppm~70ppmであって、本件発明1の「5ppm以上20ppm以下」とは異なる。
(ウ)また、甲3には、フェノール部を有するリン化合物を、ポリエステルの重合時に、得られる共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して10~100ppm程度残留するように添加することにより、重合したポリエステル樹脂の熱安定性が向上することが示され、そのようなリン化合物のうち好ましいものの一つとして、下記式(5)で表されるIrganox1425(本件発明1の「カルシウムホスホネート」に相当)が挙げられている([0037]~[0050]、特に[0046]~[0051])。
[図:0001436192000002.jpg]
しかしながら、甲3の実施例1~6で使用されたリン化合物は、Irganox1222であり、「カルシウムホスホネート」ではなく、その添加量も、共重合ポリエステル樹脂中のジカルボン酸成分に対して、リン原子として0.047モル%であり、共重合ポリエステル樹脂に対するリン元素の量は明記されていない。
(エ)そうすると、甲2及び甲3の記載を考慮しても、甲1発明において、「元素リン77ppmの前重縮合リン含有化合物」に代えて、甲1に具体的な記載のない、「トリエチルホスホノアセテート」を「5ppm以上20ppm以下」、又は、同様に甲1に具体的な記載のない「カルシウムホスホネート」を「300ppm以上1,000ppm以下」とすることを、当業者が容易に想到することができたとする根拠に乏しい。
(オ)甲4には、実施例において、テレフタル酸、エチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及びリン化合物を用いて製造されたコポリエステルの固有粘度(IV)が0.755dl/g、0.751dl/gであり、これらのb*値が-0.06、-0.23であること(実施例6、[表VI])が記載されていること、甲5には、ポリエステルの固有粘度として「0.4~1.5dL/g」(【0067】)、b値として「-8.6~+10.2」、「-3.0から、又は-1.5から、5.0未満、・・・2.6以下」(【0151】)が記載されていること、また、引1には、コバルト化合物がポリエステル樹脂の色相(b値)を改善できること(【0004】)が記載されていることを考慮しても、上記の判断には影響しない。
(カ)したがって、相違点1-1、相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、甲2~甲5及び引1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(キ)甲1の実施例2における、ポリエステルとして「Poly#3」又は「Poly#4」を使用したもの(インヘレント粘度(IV)の値は【表1】を参照。また、b*値は【表3】の実施例2Aの「b*ペレットS Poly#3」及び「b*ペレットS Poly#4」の値を参照。)を甲1に記載された発明とした場合も、同様のことがいえる。
エ 本件発明1についてのまとめ
上記イ及びウによれば、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明、甲2~5及び引1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)本件発明2~4、8~10について
本件発明2~4、8~10は、本件発明1の発明特定事項を含み、更に限定したものである。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~3、7、9は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明2~4、8~10は、甲1に記載された発明、甲2~5及び引1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)小括
以上によれば、本件発明1~4、8~10に係る特許は、取消理由1、申立理由1及び2によっては取り消すことはできない。
3 取消理由2(甲4を主引例とする進歩性欠如)について
(1)甲4に記載された発明
甲4には、
「1.グリコール成分中に30~90モル%のエチレングリコールを有し、中性色相、高透明度及び増加した明るさによって特徴付けられる、テレフタル酸、エチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールのコポリエステルの製造方法であって、
(1)1.7:1~6.0:1の全グリコールのジカルボン酸に対する供給モル比で、240℃~280℃の温度及び15psig(200kPa)~80psig(650kPa)の圧力で、100~300分間、テレフタル酸、エチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを反応させて、エステル化生成物を生成せしめる工程、
(2)工程(1)のエステル化生成物に、チタン、ゲルマニウム、アンチモン及びこれらの組合せからなる群から選択される重縮合触媒並びに0.1~40ppmのトナーを添加する工程並びに
(3)工程(2)の生成物を、260℃~290℃の温度及び400mmHg(50kPa)~0.1mmHg(0.01kPa)の減圧下で、少なくとも0.50dL/gのインヘレント粘度を有するコポリエステルを生成せしめるのに十分な時間重縮合させる工程
の各工程を含んでなり、工程(2)又は工程(3)に於いて10~100ppmのリン系安定剤を添加することを含んでなる方法。」
が記載されており、その具体例として例6が記載されている。
例6の表VI(甲4の17頁)における「275℃で45ppm Pでの重縮合」でのTi含有量が32ppmである重合例では、コポリエステル中のシクロヘキサンジメタノール含有量は、全グリコール含有量の31モル%(すなわち、エチレングリコールの含有量は100-31=69モル%)であり(甲4の16頁下から5~4行)、重縮合工程でTiの濃度が示されていることから、請求項1の工程(2)で用いられる重縮合触媒がチタン触媒であることがわかる。また、「溶融及び重縮合の前に、有機トナー染料をエステル化生成物に添加した。」(17頁7~8行)ことや、得られたポリエステルのb*色値が-0.06であったことも記載されている(表VI)。
そうすると、上記重合例に着目し、請求項1の記載にならって整理すると、甲4には次の発明が記載されている。
「グリコール成分中に69モル%のエチレングリコールを有する、テレフタル酸、エチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールのコポリエステルの製造方法であって、
(1)3.5:1の全グリコールのテレフタル酸に対する供給モル比で、255℃の温度及び27psig(290kPa)~69psig(580kPa)の圧力で、180分間、テレフタル酸、エチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを反応させて、エステル化生成物を生成せしめる工程、
(2)工程(1)のエステル化生成物に、32ppmのチタン重縮合触媒並びに有機トナー染料を添加する工程並びに
(3)工程(2)の生成物を、275℃の温度で130分、0.755dL/gのインヘレント粘度及び-0.06のb*色値を有するコポリエステルを生成せしめるように重縮合させる工程
の各工程を含んでなり、工程(2)に於いて45ppmのリン系安定剤を添加することを含んでなる方法。」(以下「甲4発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明の「3.5:1の全グリコールのテレフタル酸に対する供給モル比で、255℃の温度及び27psig(290kPa)~69psig(580kPa)の圧力で、180分間、テレフタル酸、エチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを反応させて、エステル化生成物を生成せしめる工程」は、本件発明1の「テレフタル酸(terephthalic acid)、エチレングリコール(ethyleneglycol)、およびシクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)をエステル化反応させる段階」に相当する。
甲4発明の「リン系安定剤」は、甲4発明の工程(3)の重縮合反応の前に添加されるものであり、重縮合反応が「275℃の温度で130分」行われるものであることを考慮すると、本件発明1の「リン系熱安定剤」に相当する。
そうすると、甲4発明の「工程(2)に於いて45ppmのリン系安定剤を添加」し、「工程(2)の生成物を、275℃の温度で130分、0.755dL/gのインヘレント粘度及び-0.06のb*色値を有するコポリエステルを生成せしめるように重縮合させる工程」は、本件発明1の「リン系熱安定剤の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階」に相当する。
甲4の17頁6~7行に「b*色値は、より高い数字がより黄色である黄色度の尺度である。」と記載され、本件明細書にも「正のb値は黄色変色を意味し」(【0047】)と記載されていることから、甲4発明の「b*色値」は、本件発明1の「color bの値」に相当し、「インヘレント粘度」と「固有粘度(IV)」は同義であるから、甲4発明の「0.755dL/gのインヘレント粘度及び-0.06のb*色値を有する」は、本件発明1の「固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下」であることに相当する。
そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「テレフタル酸(terephthalic acid)、エチレングリコール(ethyleneglycol)、およびシクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)をエステル化反応させる段階;および
リン系熱安定剤の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階を含み、
固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下である、
コポリエステルの製造方法。」
<相違点2-1>
「エステル化段階」及び「重縮合段階」について、本件発明1では、エステル化段階が「チタン系触媒の存在下」で行われ、重縮合段階で「コバルト系呈色剤をさらに含」むのに対し、甲4発明では、重縮合段階において「チタン重縮合触媒」及び「有機トナー染料」を添加している点
<相違点2-2>
「リン系熱安定剤」が、本件発明1では「カルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート](ca1cium bis[monoethyl(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxylbenzyl)phosphonate])またはトリエチルホスホノアセテート(triethyl phosphonoacetate)であり、
前記リン系熱安定剤としてカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]を使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素含有量が300ppm以上1,000ppm以下であり、
前記リン系熱安定剤としてトリエチルホスホノアセテートを使用する時、前記リン系熱安定剤の含有量は、最終的に生産されるコポリエステルの重量に対して、前記リン系熱安定剤に含まれているリン元素有量が5ppm以上20ppm以下であり、」と特定されているのに対して、甲4発明ではそのような特定がない点
<相違点2-3>
リン系熱安定剤、固有粘度及びcolor bの値の関係について、本件発明1では、「リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]またはトリエチルホスホノアセテートであり、固有粘度(IV)が0.65~0.74dl/gである時、color bの値が-3.5以上0以下であり、 リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]であり、固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下である、」と特定されているのに対し、甲4発明ではそのような特定がない点
イ 相違点についての検討
(ア)まず、相違点2-2について検討する。
甲4には、重縮合の間に添加するリン系安定剤として、リン酸又はそのアルキルエステル、酸性リン酸ジエチル、リン酸トリオクチル等を、10~100ppm、好ましくは40~70ppmの量で添加することが記載されているものの(8頁16~20行)、「カルシウムホスホネート」又は「トリエチルホスホノアセテート」を用いることは記載されていない。
(イ)他方、甲1には、テレフタル酸、1,4-シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコールをエステル化した後、重縮合してポリエステルを製造する際に、前重縮合リン含有化合物を、ポリエステルの重量の基づき約10~約100ppmの量で存在させること(【0019】)、前重縮合リン含有化合物として使用できるものとして、本件明細書の比較例で用いられた「トリエチルホスフェート」は記載されているものの、本件発明1の「カルシウムホスネート」又は「トリエチルホスホノアセテート」を用いることは具体的には記載されていない(特許請求の範囲、【0031】~【0038】)。
また、甲2及び甲3の記載については、上記2(2)ウ(イ)及び(ウ)のとおりである。
(ウ)そうすると、相違点2-1、2-3について検討するまでもなく、甲1~甲3の記載を考慮しても、甲4発明において、「45ppmのリン系安定剤」に代えて、甲4に記載のない「トリエチルホスホノアセテート」を「5ppm以上20ppm以下」、又は、同様に甲4に記載のない「カルシウムホスホネート」を「300ppm以上1,000ppm以下」とすることを、当業者が容易に想到することができたはいえない。
(エ)甲5には、ポリエステルの固有粘度として「0.4~1.5dL/g」(【0067】)、b値として「-8.6~+10.2」、「-3.0から、又は-1.5から、5.0未満、・・・2.6以下」(【0151】)が記載され、また、引1には、コバルト化合物がポリエステル樹脂の色相(b値)を改善できること(【0004】)が記載されていることを考慮しても、上記の判断には影響しない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
上記イによれば、本件発明1は、甲4に記載された発明、甲1~甲3、甲5及び引1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、8~10について
本件発明2~4、8~10は、本件発明1の発明特定事項を含み、更に限定したものである。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4、8~10は、甲4に記載された発明、甲1~甲3、甲5及び引1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
以上によれば、本件発明1~4、8~10に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。
4 取消理由3(実施可能要件)、申立理由3(実施可能要件)及び申立理由4(サポート要件違反)について
取消理由3(実施可能要件違反)において、実施可能要件違反であると判断したのは、訂正前の請求項1~10に記載された発明のうち、(i)リン系熱安定剤が「トリエチルホスホノアセテート」であり、かつ、「固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下である」コポリエステルの製造方法に係る部分(実施例2参照)、及び、(ii)重縮合段階でコバルト系呈色剤を使用しない部分についてであり、特許異議申立書においても、これらの2点を挙げて、訂正前の請求項1~4、6~10に係る発明について、実施可能要件違反及びサポート要件違反を主張している。
しかしながら、令和7年12月1日付け意見書において、「今回の訂正により、請求項1に規定する「固有粘度(IV)が0.75~0.80dl/gである時、color bの値が-8.0以上0以下である」との規定は「リン系熱安定剤がカルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]である」場合に限定された」と記載されているように、本件訂正により、本件発明1~4、8~10において、上記(i)の部分は削除され、(ii)については「前記重縮合する段階で、コバルト系呈色剤をさらに含み、」との発明特定事項が追加されたので、取消理由3、申立理由3及び申立理由4の理由は解消したことは明らかである。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1~4、8~10に係る製造方法について、具体的な反応条件等が記載され、本件発明1~4、8~10に対応するコポリエステルの製造方法が、実施例1、3及び4として実施できたことが示されていることから、発明の詳細な説明は、本件発明1~4、8~10について当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されており、実施例1、3及び4から本件発明1~4、8~10に拡張又は一般化することができる。
以上によれば、本件発明1~4、8~10に係る特許は、取消理由3、申立理由3及び申立理由4によっては取り消すことはできない。
5 申立理由5(明確性違反)について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1には、「リン系熱安定剤の存在下」で重縮合する段階が記載されているが、「存在下」という用語によっては、リン系熱安定剤が触媒のように反応には直接参加しないものであるか、あるいは、直接反応に参加するものであるかを明確に判断できず、発明の詳細な説明にも当該用語が具体的に意味するところが何かに係る説明が記載されていないから、本件発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明2~4、8~10は、不明確である旨を主張する。
しかしながら、本件発明1において、「リン系熱安定剤」は、カルシウムビス[モノエチル(3,5-ジ5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシルベンジル)ホスホネート]又はトリエチルホスホノアセテートの2種類に特定されているところ、「リン系熱安定剤の存在下でエステル化反応の反応物を重縮合する段階」とは、特定の2種類のリン系熱安定剤を反応器に投入した状態でエステル化反応物を重縮合する段階であることが明確であるから、明確性の観点において、特定の2種類のリン系熱安定剤が反応に直接参加するものか否かを本件発明1において特定する必要はない。
なお、本件明細書には、「リン系熱安定剤」は、コポリエステルの熱分解を減少させるためや、熱により発生される着色剤の生成を抑制したり、触媒の活性を調節して意図しない付加反応を抑制し、熱分解防止効果を示し、最終形成されるポリエステルの黄変を抑制するためのものであることが記載されていることから(【0031】【0032】)、「リン系熱安定剤」は、重縮合反応に直接参加してコポリエステルに組み込まれるものではないことは明らかである。
また、そのほかに、本件発明1~4、8~10に不明確な点は見いだせず、本件発明1~4、8~10は明確である。
以上によれば、本件発明1~4、8~10に係る特許は、申立理由5により、取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~4、8~10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~4、8~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正により削除された請求項5~7に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700580