特許異議申立
2024-700760
熱硬化性組成物、硬化物、機器、及び機器の製造方法
- 審判番号
- 2024-700760
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-129617
- 登録番号
- 7437695
- 請求日
- 2024年08月13日
- 審決日
- 2025年05月08日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人北斗特許事務所
- 【異議申立人】松本 文彦
- 【異議申立人】小池 良
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 岡谷 祐哉
- 審判官 藤原 浩子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7437695号発明「熱硬化性組成物、硬化物、機器、及び機器の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7437695号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7437695号の請求項1~4、6~10に係る特許を維持する。
特許第7437695号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7437695号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年7月30日を出願日とする特願2020-129617号に係るものであって、令和6年2月15日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同月26日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許の請求項1~10に係る特許に対して、令和6年8月13日に特許異議申立人 松本文彦(以下「申立人A」という。)により、また、同月19日に特許異議申立人 小池良(以下「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされた。
以降の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和6年11月21日付け 取消理由通知
令和7年 1月29日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 2月 6日 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛て)
なお、申立人A及びBのいずれも、訂正請求についての意見書は提出しなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ラジカル捕捉剤(E)と、を含有し、」
とあるのを、
「ラジカル捕捉剤(E)と、
カルボジイミド化合物(H)と、を含有し、」
に訂正をする(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、6~10も同様の訂正をする)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、
「請求項1から5のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。」
とあるのを、
「請求項1から4のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。」
に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~10も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1から6のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。」
とあるのを、
「請求項1から4及び6のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。」
に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~10も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1から7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、」
とあるのを、
「請求項1から4、6及び7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、」
に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に、
「前記硬化物は、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、」
とあるのを、
「前記硬化物は、請求項1から4、6及び7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、」
に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、
「前記第一の部品と前記第二の部品との間に請求項1から7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を介在させ、」
とあるのを、
「前記第一の部品と前記第二の部品との間に請求項1から4、6及び7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を介在させ、」
に訂正する。
なお、訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は、訂正される請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正は、一群の請求項についてするものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項5の記載に基づいて、請求項1に係る「熱硬化性組成物」が、「カルボジイミド化合物(H)」を含むことを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項5を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3~7について
訂正事項3~7は、訂正事項2により請求項5が削除されることに伴い、請求項6~10において引用する請求項から「請求項5」を削除するものである。
したがって、訂正事項3~7は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~7に関し、特許法第126条第7項に規定される要件(独立特許要件)は適用されない 。
3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、請求項1~10についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められるので、本件特許の請求項1~4、6~10に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6~10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1~10の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、
一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、
ラジカル重合性化合物(C)と、
光ラジカル重合開始剤(D)と、
ラジカル捕捉剤(E)と、
カルボジイミド化合物(H)と、を含有し、
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である、
熱硬化性組成物。
【請求項2】
硬化触媒(F)を更に含有する、
請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記硬化触媒(F)は、マイクロカプセル型潜在性硬化触媒(F1)を含有する、
請求項2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
有機ホウ酸化合物(G)を更に含有する、
請求項3に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
無機充填材(I)を更に含有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
接着剤である、
請求項1から4及び6のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1から4、6及び7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、
硬化物。
【請求項9】
第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備え、
前記硬化物は、請求項1から4、6及び7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を硬化させて得られる、
機器。
【請求項10】
第一の部品と、第二の部品と、前記第一の部品と前記第二の部品の間に介在して前記第一の部品と前記第二の部品とを接着する硬化物とを備える機器の製造方法であり、
前記第一の部品と前記第二の部品との間に請求項1から4、6及び7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物を介在させ、
前記熱硬化性組成物に光を照射することで前記第一の部品と前記第二の部品とを仮接着した後、前記熱硬化性組成物を加熱することで前記硬化物を作製することを含む、
機器の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由の概要
1 申立人Aによる申立理由の概要
申立人Aは、証拠方法として甲第1~7号証(以下「甲A1」等という。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する(なお、甲A1~甲A3は、いずれも本願出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である。)。
(1)申立理由Aア(甲A1、甲A2又は甲A3に基づく新規性:特許法第113条第2号)
請求項1~4、6~10に係る発明は、甲A1、甲A2又は甲A3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由Aイ(甲A1、甲A2又は甲A3に基づく進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~4、6~10に係る発明は、甲A1、甲A2又は甲A3に記載された発明及び技術常識並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由Aウ(サポート要件:特許法第113条第4号)
請求項1~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、それらの請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(4)証拠方法
・甲A1 :国際公開第2018/047849号
・甲A2 :国際公開第2016/143777号
・甲A3 :特開2014-77024号公報
・甲A4の1:国際公開第2016/143815号
・甲A4の2:特開2013-181991号公報
・甲A4の3:国際公開第2018/079466号
・甲A4の4:国際公開第2019/163818号
・甲A5の1:特開2009-51954号公報
・甲A5の2:国際公開第2018-181421号
・甲A5の3:特開2017-101112号公報
・甲A6の1:特開2008-1867号公報
・甲A6の2:特表2021-516267号公報
・甲A7 :特許第7437695号公報(本件特許公報)
2 申立人Bによる申立理由の概要
申立人Bは、証拠方法として甲第1~7号証(以下「甲B1」等という。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する(なお、甲B3及び甲B4は、いずれも本願出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である。)。
(1)申立理由Bア(明確性:特許法第113条第4号)
請求項1~3、6~10に係る発明は、明確ではないので、それらの請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものである。
(2)申立理由Bイ(サポート要件:特許法第113条第4号)
請求項1~3、6~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているため、それらの請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものである。
(3)申立理由Bウ(実施可能要件:特許法第113条第4号)
請求項1~3、6~10に係る発明は、当業者が容易に実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されていないため、それらの請求項に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものである。
(4)申立理由Bエ(甲B3又は甲B4に基づく新規性:特許法第113条第2号)
請求項1~3、6~10に係る発明は、甲B3又は甲B4に記載された発明であるから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。
(5)申立理由Bオ(甲B3又は甲B4に基づく進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~3、6~10に係る発明は、甲B3又は甲B4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(6)証拠方法
・甲B1:久保亮五ら編集,「岩波 理化学辞典 第4版」,1987年10月12日,岩波書店,p.142右欄下から9~4行の「エポキシ樹脂」の項
・甲B2:化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典 1」,昭和35年3月30日,共立出版株式会社,p.968右欄12~22行の「エポキシ樹脂」の項
・甲B3:特開2011-162691号公報
・甲B4:再公表特許WO2018/181421号(発行日令和2年2月6日)
・甲B5:特開2020-123577号公報
・甲B6:特許第6667843号公報
・甲B7:特開2021-1268号公報
3 取消理由の概要
(1)取消理由1(甲B3又は甲B4に基づく新規性:特許法第113条第2号)
請求項1、7~9に係る発明は、甲B3に記載された発明であり、また、請求項1、2、7~9に係る発明は、甲B4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(甲A1、甲A2、甲A3、甲B3又は甲B4に基づく進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~4、6~10に係る発明は、甲A1、甲A2又は甲A3に記載された発明に基いて、また、請求項1~3、6~9に係る発明は、甲B3に記載された発明に基づいて、さらに、請求項1~3、6~10に係る発明は、甲B4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 請求項5に係る特許についての特許異議の申立の却下
本件訂正により、請求項5は削除されたため、申立人Aによる請求項5に係る特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。
請求項5に係る特許についての申立人Aによる特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下する。
2 取消理由及びそれと同旨の申立理由についての判断
(1)甲A1に基づく新規性及び進歩性(申立理由Aア、Aイ、取消理由2)について
ア 甲A1に記載された発明
甲A1には、表1~3に示す配合で樹脂組成物を調製し、それを基材上に塗布した後80℃×60分間保持することにより熱硬化させたことが記載されているところ([0056]、[0057])、甲A1の実施例19の記載([0062]の表3、[0016]、[0060]の表の下の説明)に基づくと、甲A1には、次の「甲A1発明」が記載されていると認められる。
<甲A1発明>
「以下の組成からなる熱硬化性樹脂組成物。
〔組成〕(「部」は質量部である。)
(F成分)エポキシ樹脂1(DIC製 EXA835LV エポキシ当量165g/eq):24.9部
(B成分)チオール化合物1(SC有機化学製 PEPT チオール当量 124g/eq):39.9部
(A成分)アクリル樹脂1(東亞合成製 ポリエステルアクリレート M7100 アクリル当量 188g/eq:24.9部
(D成分)ラジカル重合禁止剤1(和光純薬製 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシル-アミンアルミニウム:0.1部
(C成分)潜在性硬化促進剤1(旭化成イーマテリアルズ製 ノバキュアHXA9322HP):10.0部
(E成分)ホウ酸トリイソプロピル(東京化成工業製 :0.2部
合計100.0部 」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲A1発明の「(F成分)エポキシ樹脂1(DIC製 EXA835LV エポキシ当量165g/eq)」は、本件発明1の「エポキシ樹脂(A)」に相当する。
また、甲A1発明の「(A成分)アクリル樹脂1(東亞合成製 ポリエステルアクリレート M7100 アクリル当量 188g/eq)」、「(D成分)ラジカル重合禁止剤1(和光純薬製 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシ-アミンアルミニウム)」は、それぞれ本件発明1の「ラジカル重合性化合物(C)」、「ラジカル捕捉剤(E)」に相当する。
甲A1発明の「(B成分)チオール化合物1(SC有機化学製 PEPT チオール当量 124g/eq)」は、国際公開第2018/173991号の「ペンタエリスリトールトリプロパンチオール(商品名:PEPT、SC有機化学株式会社製)」([0022])との記載を考慮すると、本件発明1の「一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲A1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エポキシ樹脂(A)と、
一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、
ラジカル重合性化合物(C)と、
ラジカル捕捉剤(E)と、
を含有する、熱硬化性組成物。」
<相違点A1-1>
本件発明1においては、「前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である」ことが特定されているのに対し、甲A1発明においては、当該特定がされていない点
<相違点A1-2>
本件発明1においては、「光ラジカル重合開始剤(D)」を含むのに対して、甲A1発明においては、当該成分を含んでいない点
<相違点A1-3>
本件発明1においては、「カルボジイミド化合物(H)」を含むのに対して、甲A1発明においては、当該成分を含んでいない点
(イ)判断
a 新規性について
相違点A1-3は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1に記載された発明ではない。
b 進歩性について
相違点A1-3について検討すると、甲A1には、カルボジイミド化合物を用いることについては記載も示唆もされてない。
また、他の甲号証にも、甲A1発明のような、エポキシ樹脂とチオールを含む熱硬化性樹脂組成物において、カルボジイミド化合物を添加することを記載又は示唆する記載は見いだせない。
そうすると、甲A1発明において、カルボジイミド化合物を添加する動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~4、6~10について
本件発明2~4、6~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4、6~10と甲A1に記載された発明とは、少なくとも相違点A1-3において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4、6~10は、甲A1に記載された発明ではなく、また、甲A1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲A2基づく新規性及び進歩性(申立理由Aア、Aイ、取消理由2)について
ア 甲A2に記載された発明
甲A2には、表1に示す配合で樹脂組成物を調製し([0051]、[0054]表1)、それをガラス板上に印刷し更にアルミナチップを搭載し、UVのみ、熱のみ、又は、UV及び熱で硬化させたことが記載されているところ([0053])、甲A2の実施例5に着目すると、甲A2には、次の「甲A2発明」が記載されていると認められる。
<甲A2発明>
「以下の組成からなる熱硬化性樹脂組成物。
〔組成〕(「部」は質量部である。)
(F成分)グリシジル基を有するポリブタジエン(ADEKA製 BF-1000):14.1部
(B成分)下記の化学式(1)で表される化合物(四国化成工業製 グリコールウリル誘導体:TS-G(C2) チオール当量95.7g/eq):21.2部
(A成分)アクリル樹脂1(ダイセル・オルネクス製 EBECTRYL810 アクリル当量 250g/eq):56.5部
(D成分)ラジカル重合禁止剤(和光純薬製 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシル-アミンアルミニウム)0.0001部
(C成分)潜在性硬化剤1(味の素ファインテクノ製 PN-55):7.1部
(E成分)ホウ酸トリイソプロピル(東京化成工業製):1.1部
合計100.0001部
[図:0001425747000001.jpg]
」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲A2発明の「(F成分)グリシジル基を有するポリブタジエン(ADEKA製 BF-1000)」、「(B成分)下記の化学式(1)で表される化合物(四国化成工業製 グリコールウリル誘導体:TS-G(C2) チオール当量95.7g/eq)」、「(A成分)アクリル樹脂1(ダイセル・オルネクス製 EBECTRYL810 アクリル当量 250g/eq)」、「(D成分)ラジカル重合禁止剤(和光純薬製 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシル-アミンアルミニウム)」は、それぞれ本件発明1の「エポキシ樹脂(A)」、「一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)」、「ラジカル重合性化合物(C)」、「ラジカル捕捉剤(E)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲A2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エポキシ樹脂(A)と、
一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、
ラジカル重合性化合物(C)と、
ラジカル捕捉剤(E)と、
を含有する、熱硬化性組成物。」
<相違点A2-1>
本件発明1においては、「前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である」ことが特定されているのに対し、甲A2発明においては、当該特定がされていない点
<相違点A2-2>
本件発明1においては、「光ラジカル重合開始剤(D)」を含むのに対して、甲A2発明においては、当該成分を含んでいない点
<相違点A2-3>
本件発明1においては、「カルボジイミド化合物(H)」を含むのに対して、甲A2発明においては、当該成分を含んでいない点
(イ)判断
a 新規性について
相違点A2-3は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A2に記載された発明ではない。
b 進歩性について
相違点A2-3について検討すると、甲A2には、カルボジイミド化合物を用いることについては記載も示唆もされてない。
また、他の甲号証にも、甲A2発明において、カルボジイミド化合物を添加することを記載又は示唆する記載は見いだせない。
そうすると、甲A2発明において、カルボジイミド化合物を添加する動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~4、6~10について
本件発明2~4、6~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4、6~10と甲A2に記載された発明とは、少なくとも相違点A2-3において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4、6~10は、甲A2に記載された発明ではなく、また、甲A2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲A3基づく新規性及び進歩性(申立理由Aア、Aイ、取消理由2)について
ア 甲A3に記載された発明
甲A3には、十分に長いポットライフを有する光及び加熱硬化性組成物を提供することが、発明が解決しようとする課題であると記載され(【0004】)、実施例として、表1に示す配合で樹脂組成物を調製し(【0044】~【0053】表1)、当該樹脂組成物を80℃のホットプレートの上に乗せて20分間放置したところ良好な外観をする樹脂硬化物が得られたこと(【0063】)、また、当該樹脂組成物に対して紫外線を照射すると仮固定が可能な程度に硬化した樹脂硬化物が得られたこと(【0064】)が記載されているところ、甲A3の実施例6(【0053】表1、【0046】~【0052】)に着目すると、甲A3には、次の「甲A3発明」が記載されていると認められる。
<甲A3発明>
「以下の組成からなる光及び熱硬化性樹脂組成物。
〔組成〕(「部」は重量部である。)
(G1)グリシジル基を有するポリブタジエン(ADEKA製 分子量1000):20部
(B1)ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(SC有機化学製 PEMPII):50部
(A1)ポリエステルアクリレート(ダイセル・サイテック製 EBECRYL810 重量平均分子量約1000、4官能):80部
(D1)ラジカル重合禁止剤1(和光純薬工業製 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシル-アミンアルミニウム):0.0001部
(C1)潜在性硬化剤1(味の素ファインテクノ製 PN-50):10部
(E1)ホウ酸トリイソプロピル(東京化成工業製):1部
合計161.0001部 」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲A3発明の「(G1)グリシジル基を有するポリブタジエン(ADEKA製 分子量1000)」、「(B1)ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMPII)」、「(A1)ポリエステルアクリレート(ダイセル・サイテック製 EBECRYL810 重量平均分子量約1000、4官能)」、「(D1)ラジカル重合禁止剤(和光純薬製 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシル-アミンアルミニウム)」は、それぞれ本件発明1の「エポキシ樹脂(A)」、「一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)」、「ラジカル重合性化合物(C)」、「ラジカル捕捉剤(E)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲A3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エポキシ樹脂(A)と、
一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、
ラジカル重合性化合物(C)と、
ラジカル捕捉剤(E)と、
を含有する、熱硬化性組成物。」
<相違点A3-1>
本件発明1においては、「前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である」ことが特定されているのに対し、甲A3発明においては、当該特定がされていない点
<相違点A3-2>
本件発明1においては、「光ラジカル重合開始剤(D)」を含むのに対して、甲A3発明においては、当該成分を含んでいない点
<相違点A3-3>
本件発明1においては、「カルボジイミド化合物(H)」を含むのに対して、甲A3発明においては、当該成分を含んでいない点
(イ)判断
a 新規性について
相違点A3-3は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A3に記載された発明ではない。
b 進歩性について
相違点A3-3について検討すると、甲A3には、カルボジイミド化合物を用いることについては記載も示唆もされてない。
また、他の甲号証にも、甲A3発明において、カルボジイミド化合物を添加することを記載又は示唆する記載は見いだせない。
そうすると、甲A3発明において、カルボジイミド化合物を添加する動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~4、6~10について
本件発明2~4、6~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4、6~10と甲A3に記載された発明とは、少なくとも相違点A3-3において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4、6~10は、甲A3に記載された発明ではなく、また、甲A3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲B3に基づく新規性及び進歩性(申立理由Bエ、Bオ、取消理由1、2)について
ア 甲B3に記載された発明
甲B3の請求項1を引用する請求項3には、「(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂からなる群のうちの1種以上からなるエポキシ樹脂、(2)ポリエン、(3)ポリチオール、(4)光重合開始剤、(5)重合禁止剤、を含有する樹脂組成物。」が記載され、「本発明」は、紫外線で硬化する樹脂組成物と接着剤に関するものであることが記載されている(【0001】)。
また、(1)エポキシ樹脂中のエポキシ当量と(3)ポリチオール中のチオール基とのモル比は、(0.10~0.25)/1であることが好ましいと記載されている(【0040】)。
甲B3の上記記載に着目すると、甲B3には、次の「甲B3発明」が記載されていると認められる。
<甲B3発明>
「(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂からなる群のうちの1種以上からなるエポキシ樹脂、(2)ポリエン、(3)ポリチオール、(4)光重合開始剤、(5)重合禁止剤、を含有し、
(1)エポキシ樹脂中のエポキシ当量と(3)ポリチオール中のチオール基とのモル比は、(0.10~0.25)/1である、紫外線で硬化する樹脂組成物。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲B3発明の「(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂からなる群のうちの1種以上からなるエポキシ樹脂」、「(3)ポリチオール」、「(2)ポリエン」、「(4)光重合開始剤」、「(5)重合禁止剤」は、それぞれ本件発明1の「エポキシ樹脂(A)」、「一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)」、「ラジカル重合性化合物(C)」、「光ラジカル重合開始剤(D)」、「ラジカル捕捉剤(E)」に相当する。
また、甲B3発明の「(1)エポキシ樹脂中のエポキシ当量と(3)ポリチオール中のチオール基とのモル比は、(0.10~0.25)/1である」は、エポキシ当量を1として換算すると、チオール基のモル比は「10~4」となり、本件発明1の「前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲B3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エポキシ樹脂(A)と、
一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、
ラジカル重合性化合物(C)と、
光ラジカル重合開始剤(D)と、
ラジカル捕捉剤(E)と、を含有し、
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である、組成物。」
<相違点B3-1>
本件発明1は「熱硬化性」であるのに対し、甲B3発明は「紫外線で硬化する」ものである点
<相違点B3-2>
本件発明1においては、「カルボジイミド化合物(H)」を含むのに対して、甲B3発明においては、当該成分を含んでいない点
(イ)判断
a 新規性について
相違点B3-2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B3に記載された発明ではない。
b 進歩性について
相違点B3-2について検討すると、甲B3には、カルボジイミド化合物を用いることについては記載も示唆もされてない。
また、他の甲号証にも、甲B3発明において、カルボジイミド化合物を添加することを記載又は示唆する記載は見いだせない。
そうすると、甲B3発明において、カルボジイミド化合物を添加する動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~4、6~10について
本件発明2~4、6~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4、6~10と甲B3に記載された発明とは、少なくとも相違点B3-2において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4、6~10は、甲B3に記載された発明ではなく、また、甲B3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)甲B4に基づく新規性及び進歩性(申立理由Bエ、Bオ、取消理由1、2)について
ア 甲B4に記載された発明
甲B4には、光硬化性及び熱硬化性に優れ、充分な接着強度を有する硬化物(接着層)を形成することができ、保存安定性に優れる硬化性組成物を提供することを課題とすることが記載され(【0007】)、実施例において表1~3の各成分を混合して、実施例1~15の硬化性組成物を調製したことが記載されているところ(【0109】~【0128】)、実施例11(【0126】【表2】、【0087】、【0109】~【0114】)に着目すると、次の「甲B4発明」が記載されていると認められる。
<甲B4発明>
「以下の組成からなる、光硬化性及び熱硬化性組成物。
〔組成〕(「部」は重量部である。)
(1A)エポキシ樹脂ハーフアクリレート(ダイセル・オルネクス製 UVACURE 1561:エポキシ当量 450g/eq、分子量450、1分子中のアクリロイル基とエポキシ基の数はそれぞれ1):50部
(2A)ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(SC有機化学製 PEMP、分子量489、1分子中のメルカプト基の数4):68部
(1F)リン酸変性メタクリレート(ダイセル・オルネクス製 EBECRYL168:1分子中のメタクリロリル基の数1.5):1部
(3A)光ラジカル発生剤(BASF製 IRGACURE 1173):1部
(6A)ラジカル重合禁止剤(和光純薬工業製 Q-1301 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩):0.1部
(4A)潜在性硬化剤(味の素ファインテクノ製 PN-23、アミン-エポキシアダクト系化合物):10部
(5A)熱ラジカル発生剤(和光純薬工業製 V-601):1部
合計 181.1部 」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲B4発明の「(1A)エポキシ樹脂ハーフアクリレート(ダイセル・オルネクス製 UVACURE 1561:エポキシ当量 450g/eq、分子量450、1分子中のアクリロイル基とエポキシ基の数はそれぞれ1)」、「(2A)ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(SC有機化学製 PEMP、分子量489、1分子中のメルカプト基の数4)」、「(1F)リン酸変性メタクリレート(ダイセル・オルネクス製 EBECRYL168:1分子中のメタクリロリル基の数1.5)」、「(3A)光ラジカル発生剤(BASF製 IRGACURE 1173)」、「(6A)ラジカル重合禁止剤(和光純薬工業製 Q-1301 N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩)」は、それぞれ本件発明1の「エポキシ樹脂(A)」、「一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)」、「ラジカル重合性化合物(C)」、「光ラジカル重合開始剤(D)」、「ラジカル捕捉剤(E)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲B4発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エポキシ樹脂(A)と、
一分子中に少なくとも二つのチオール基を有するチオール化合物(B)と、
ラジカル重合性化合物(C)と、
光ラジカル重合開始剤(D)
ラジカル捕捉剤(E)と、
を含有する、熱硬化性組成物。」
<相違点B4-1>
本件発明1においては、「前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対する前記チオール化合物(B)のチオール基の当量が0.80以上10.0以下である」ことが特定されているのに対し、甲B4発明においては、当該特定がされていない点
<相違点B4-2>
本件発明1においては、「カルボジイミド化合物(H)」を含むのに対して、甲B4発明においては、当該成分を含んでいない点
(イ)判断
a 新規性について
相違点B4-2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B4に記載された発明ではない。
b 進歩性について
相違点B4-2について検討すると、甲B4には、カルボジイミド化合物を用いることについては記載も示唆もされてない。
また、他の甲号証にも、甲B4発明において、カルボジイミド化合物を添加することを記載又は示唆する記載は見いだせない。
そうすると、甲B4発明において、カルボジイミド化合物を添加する動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~4、6~10について
本件発明2~4、6~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4、6~10と甲B4に記載された発明とは、少なくとも相違点B4-2において相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4、6~10は、甲B4に記載された発明ではなく、また、甲B4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)小括
以上によれば、取消理由1、2及び申立理由Aア、Aイ、Bエ、Bオによっては、本件発明2~4、6~10に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由通知書において採用しなかった申立理由について
(1)明確性(申立理由Bア)について
ア 申立人Bは、本件明細書の定義(【0023】)によれば、「エポキシ樹脂」は、エピクロルヒドリンなどのエポキシ基を一つ有する化合物や、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどの重合前のモノマーも含むところ、辞書的な意味では、「分子内にエポキシ基を2個以上含む重合体ないしプレポリマー」及び「そのエポキシ基の開環重合によって生成するポリマー」であるから(甲B1、B2)、本件発明1の「エポキシ樹脂」は、不明確である旨を主張する。
「【0023】
エポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を有する化合物であればよい。エポキシ樹脂(A)は、一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を含有することが好ましい。」
イ 判断
「エポキシ樹脂」とは、狭義には、甲B1、B2に記載されるように、「分子内にエポキシ基を2個以上含む重合体ないしプレポリマー」及び「そのエポキシ基の開環重合によって生成するポリマー」を意味するが、エポキシ基の開環反応によって重合する前の、エポキシ基を有するモノマー自体も「エポキシ樹脂」の概念に含めることがあり、その際には、エポキシ基の開環反応を生じるモノマーの一つとして、エポキシ基を一つ有するモノマーも使用可能であることは、当業者であれば理解できる。
そして、本件発明1は、従来技術であるエポキシ樹脂とチオール化合物とを含有する熱硬化性組成物において、(C)~(E)成分を同時に添加することにより当該発明の課題を解決するものであって、熱硬化できるようなエポキシ樹脂を当業者が使用すればよく、そのエポキシ樹脂を構成する成分の一つとして、エポキシ基を一つ有するモノマーが使用可能であることは、当業者において自明であるといえる。
したがって、本件明細書において、「エポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を有する化合物であればよい。エポキシ樹脂(A)は、一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を含有することが好ましい。」(【0023】)と記載されているからといって、一般的に使用されているものと異なるエポキシ樹脂を意図しているとはいえず、第三者に不測の不利益が生じるともいえない。
そうすると、本件発明1における「エポキシ樹脂」は明確であり、また、その他に本件発明1~3、6~10において、不明確な点は見いだせない。
したがって、本件発明1~3、6~10は、明確である。
(2)サポート要件(申立理由Aウ、Bイ)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
この観点に立って、以下検討する。
イ 本件発明の課題
本件明細書の【0002】~【0005】の記載によれば、従来、エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有する接着剤は、熱による反応性が高く、低温硬化性に優れているものの、保存安定性が悪く、また、光反応性を有さないため仮接着できず、アラインメント精度が必要とされる用途に適当しにくかったところ、本件発明の課題は、「エポキシ樹脂とチオール化合物とを含有し、仮接着が可能であり、かつ保存安定性の良好な熱硬化性組成物、この熱硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、この熱硬化性組成物を用いて製造される機器、及びこの熱硬化性組成物を用いる機器の製造方法を提供すること」である。
ウ 本件発明1について
(ア)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題の解決手段は、エポキシ樹脂(A)と一分子に少なくとも2つのチオール基を有する化合物(B)とに加えて、ラジカル重合性化合物(C)、光ラジカル重合開始剤(D)及びラジカル捕捉剤(E)とを含有することであると記載されている(【0006】)。
エポキシ樹脂(A)とチオール化合物(B)とを含有させることで、比較的低い温度で硬化させることが可能であり、エポキシ樹脂(A)及びチオール化合物(B)の具体例とともに、エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対するチオール化合物(B)のチオール当量(以下「チオール/エポキシ当量比」という。)は「0.50以上10.0以下であることが好ましい。・・・0.80以上3.0以下であれば更に好ましい。」と記載されている(【0022】~【0037】)。
ラジカル重合性化合物(C)により光硬化性を付与でき、光ラジカル重合開始剤(D)により十分な光硬化性を付与でき、ラジカル捕捉剤(E)により保存安定性が高まることが記載され、これらの成分の具体例とともに、カルボジイミド化合物(H)、硬化触媒(F)、有機ホウ酸化合物(G)及び無機充填材(I)等の具体例についても、詳細に記載されている(【0038】~【0065】)。
さらに、上記(A)~(I)成分を含む熱硬化性組成物を実施例1~23として製造し、その光硬化性、保存安定性等について評価を行ったところ、ラジカル捕捉剤を含まない比較例1、2又はラジカル重合性化合物と光ラジカル重合開始剤を含まない比較例3に比べ、光硬化性及び保存安定性に優れ、本件発明の課題が解決できたことが記載されている(【0078】~【0087】)。
(イ)「チオール/エポキシ当量比」について
実施例1~23における「チオール/エポキシ当量比」は、発明の詳細な説明に記載されていないものの、計算すると、1.37、1.38、2.70(申立人Bが提出した特許異議申立書15~18頁参照)、あるいは、1.2又は2.4(申立人Aが提出した特許異議申立書110~112頁参照)であり、実施例1~23は、いずれも、本件発明1に対応するものである。
本件発明1における「チオール/エポキシ当量比」は、「0.80以上10.0以下」であるとところ、この範囲は、エポキシ基とチオール基とが反応して熱硬化するのに十分な比として記載されていると解され、この当量比の数値が、光硬化性及び保存安定性に関する本件発明の課題解決できるか否かに直接影響するとはいえないから、「チオール/エポキシ当量比」が「0.80以上10.0以下」の範囲であれば、本件発明の課題は解決できるものと当業者は認識できる。
(ウ)「ラジカル重合性化合物(C)」について
実施例1~23において用いられたラジカル重合性化合物(C)は、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルイソシアヌレートを所定量で含むものであるが、ラジカル重合性化合物(C)は、エポキシ樹脂とチオール化合物を含む熱硬化性組成物に光重合性を付与するものであるから、実施例において使用された特定の(C)成分とその量に限られず、ラジカル重合性化合物(C)を用いれば、光重合性が付与でき、本件発明の課題は解決できるものと当業者は認識できる。
(エ)「エポキシ樹脂(A)」について
実施例1~23において用いられたエポキシ樹脂は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有液状エポキシ樹脂であるが、これらの特定のものだけでなく、熱硬化性樹脂組成物を形成できるエポキシ樹脂(A)を用いれば、本件発明の課題を解決できる熱硬化性組成物とできることを当業者は認識できる。
(オ)以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明により、実施例1~23の熱硬化性組成物だけでなく、本件発明1に係る熱硬化性組成物であれば、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できる。
エ 本件発明2~4、6~10について
本件発明2~4、6~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明により、本件発明2~4、6~10は、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できる。
(3)実施可能要件(申立理由Bウ)について
ア 物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
以下、この観点に立って検討する。
イ 本件発明1について
本件明細書の発明の詳細な説明には、上記(2)ウ(ア)に示した内容が記載されており、本件発明1に係る熱硬化性組成物は、仮接着が可能で、保存安定性の良好な接着剤として様々な機器の製造に使用できることを、当業者が理解することができる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係る熱硬化性組成物を製造し、使用することができる程度のものである。
ウ 本件発明2、3、6~10について
本件発明2、3、6~10は、本件発明1を更に限定した熱硬化性組成物、その硬化物、その熱硬化性組成物を用いて製造した機器とその製造方法の発明である。
したがって、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2、3、6~9に係る熱硬化性組成物、硬化物及び機器を製造し、使用することができ、また、本件発明10に係る機器の製造方法を使用できる程度のものである。
(4)小括
以上によれば、本件発明1~4、6~10を、明確性(申立理由Bア)、サポート要件(申立理由Aウ、Bイ)、実施可能要件(申立理由Bウ)によっては、取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~4、6~10に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、請求項5に係る特許は、本件訂正により削除されたので、申立人Aによる請求項5に係る申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700760