特許異議申立
2025-701068
エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂接着剤、及びエポキシ樹脂硬化物
- 審判番号
- 2025-701068
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-085162
- 登録番号
- 7692732
- 請求日
- 2025年11月12日
- 審決日
- 2026年02月19日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【異議申立人】落合 克弘
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 松本 直子
- 審判官 越本 秀幸
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7692732号発明「エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂接着剤、及びエポキシ樹脂硬化物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7692732号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7692732号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和3年5月20日に出願され、令和7年6月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和7年11月12日に特許異議申立人 落合 克弘(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~8に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」ともいう。
「【請求項1】
25℃で測定した粘度が6500mPa・s以上である第一のエポキシ樹脂と、6500mPa・s未満である第二のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物であって、
前記第二のエポキシ樹脂が、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、グリシジルアニリン、グリシジルトルイジン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、及びポリプロピレングリコール(400)ジグリシジルエーテルからなる群より選ばれるいずれか1種以上であり、
毎秒5℃で昇温した際のゲル化温度(TB)が170℃以下であり、
毎秒5℃で昇温した際の増粘開始温度(TA)と、前記ゲル化温度(TB)は、
前記第一のエポキシ樹脂と前記硬化剤とを含み、前記第二のエポキシ樹脂を含まない組成物の増粘開始温度(TA0)とゲル化温度(TB0)に対し、
TA0-TAが0℃以上であり、
かつ、
C=(TB-TB0)/(TA-TA0)が、0.5以上である、
エポキシ樹脂組成物(但し、フェノキシ樹脂及び/又は酸変性基を有する構成単位を有する変性ポリビニルアセタール樹脂を含むものを除く)。
【請求項2】
前記硬化剤は、コアシェル構造を有する硬化剤を含み、前記コアシェル構造は加熱により破壊されうる、
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化剤は、シアナミド系硬化剤を含む、
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記シアナミド系硬化剤は、ジシアンジアミドである、
請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記Cが、0.65以上である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記TBが、140℃以下である、
請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を含む、
エポキシ樹脂接着剤。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物であるエポキシ樹脂硬化物。」
第3 特許異議申立書に記載された申立理由
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1、2号証(以下「甲1」、「甲2」という。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
(1)申立理由1(進歩性)
請求項1~8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲1、2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~8に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
請求項1~8に係る発明についての特許は、以下の点で特許請求の範囲の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
請求項1において、「ゲル化温度」の判断基準に相当する構成要件が記載されておらず、何をもってゲル化温度とするか不明確である。また、「ゲル化温度」とは、本件明細書の【0044】に記載されているとおり、動粘度が10000mP・s(10Pa・s)に到達した温度をゲル化温度と定義したとしても、甲2の図5、7のように、常に10000mP・s(10Pa)より高い場合も存在するため、定義が不明確である。
よって、本件発明は、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
2 申立書に添付して提出された証拠方法
甲1:特開平6-207152号公報
甲2:特開2006-278589号公報
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、上記申立理由1、2は、いずれもその理由がない。
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の実施例1に記載されたエポキシ樹脂組成物(【0100】~【0109】、【0078】、【0082】~【0087】、【表1】、【表3】)に着目すると、甲1には以下の発明が記載されているものと認める。
「EP825:ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、エポキシ当量175(油化シェルエポキシ(株)、エピコート825)85重量部、CGE:クレジルグリシジルエーテル(坂本薬品工業(株)、m,p-CGE)15重量部、以下の製造方法で得られた硬化剤SP15重量部の割合で含むエポキシ樹脂組成物。
硬化剤SPの製造方法:
温度計、還流冷却器およびテフロン製半月型撹拌装置を備えた内容積1,000mlの三つ口丸底フラスコに、28.0gの2-メチルイミダゾールおよび分散安定剤としてポリ((スチレン-co-グリシジルメタクリレート)-g-メチルメタクリレート)のグラフト共重合体(東亜合成化学工業株式会社製、レゼダGP-300)4.54gを仕込、これに542.53gのメチルイソブチルケトン(MIBK)を加えてから、温度を70℃に上げて完全に溶解した。次いでエピコート828の50%MIBK溶液125.60gを加え、内容物を300rpmの速度で撹拌しながら70℃で9時間反応させた。当初無色透明の反応液は、反応時間が経過するにつれて次第に乳白色・不透明な液に変化し、反応終期においてはクリーム色を帯びた乳白色の分散液となった。70℃で9時間の反応率100%に達したら、室温に冷却し、有機溶剤系用スプレードライヤー(ヤマト科学株式会社製、GS-31型)で噴霧乾燥して、硬化剤粒子を回収した。噴霧乾燥の条件は次の通りであった。
乾燥チャンバー入口温度: 100℃
乾燥チャンバー出口温度: 74℃
コンデンサー出口温度: 16℃
噴霧ノズル径: 0.4 mm
噴霧圧力: 1.2 kg/cm2
熱風流量: 0.5 m3/min
送液速度: 10 g/min
この噴霧乾燥により、ほぼ理論量の付加体粒子が白色の乾燥粉末として回収された。走査型電子顕微鏡による観察では、硬化剤粒子はほぼ一次粒子のままで回収されていることがわかった。また、超遠心式自動粒度分布測定装置(堀場製作所製、CAPA-700)による測定で、得られた付加体粒子の体積平均粒子径は2.8μmであった。この2Mz/BADGEエポキシ樹脂の球状付加体粒子の微粉体である球状付加体粒子を、多官能性エポキシ化合物及びカルボン酸化合物で処理した後、多官能性イソシアネート化合物(付加体粒子に対して16%の添加量、WS/A=0.10g/m2)を用いて反応させて、粉体型マイクロカプセル化潜在性硬化剤を製造した。製造方法の詳細は以下の通りである。
温度計、還流冷却器、滴下漏斗およびテフロン製半月型撹拌装置を備えた内容積1,000mlの四つ口丸底フラスコに、24.0gの2-メチルイミダゾール及び3.90gのレゼダGP-300を仕込、これに465.03gのMIBKを加えてから、温度を70℃に上げて完全に溶解した。次いでエピコート828の50%MIBK溶液107.66gを加え、内容物を300rpmの速度で撹拌しながら70℃で9時間反応させた。これにエピコート828の50%MIBK溶液51.01gおよび洗浄用のMIBK21.43gを添加し、さらに同温度で4時間反応させた。これに2-エチルヘキサン酸の30%MIBK溶液71.50gを漏斗よりゆっくり滴下し、滴下終了後さらに同温度で3時間反応させた。最後にメチレンジフェニルジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、ミリオネートMT)の10%MIBK溶液128.7gを漏斗より120分間にわたって滴下し、滴下終了後さらに同温度で10時間反応させ、反応率をほぼ100%まで到達させた。反応終期においては、若干クリーム色を帯びた乳白色を呈する均一かつ安定な分散液となった。こうして合成した硬化剤粒子の分散液をn-ヘキサンによる粒子の凝集沈降回収および40℃で3日間真空乾燥を行い、乾燥した白色の粉末をほぼ定量的に得た。得られた硬化剤粒子である粉体型マイクロカプセル化潜在性硬化剤(硬化剤SP)の体積平均粒子径は3.3μmであった。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「EP825」は、甲1【0110】に記載の「エピコート825(エポキシ当量=175、25℃粘度約6,000cps)が好ましい。」(当審注:1cps(センチポイズ)=1mPa・s)より、25℃での粘度が6000mPa・sであるから、本件発明1の「25℃で測定した粘度が6500mPa・s以上である第一のエポキシ樹脂」と「第一のエポキシ樹脂」である限りにおいて一致する。
(イ)甲1発明の「CGE」は、甲1の【0078】に記載されるように(B)反応性希釈剤であって、これは甲1の【0018】に「実用的には、室温における粘度が1,000センチポイズ以下、好ましくは500センチポイズ以下のものがよい。」と記載されていることから、上記(ア)の当審注を踏まえると、本件発明1の「6500mPa・s未満である第二のエポキシ樹脂」に相当する。
(ウ)甲1発明の「硬化剤SP」は、本件発明1の「硬化剤」に相当する。
(エ)甲1発明のエポキシ樹脂組成物は、フェノキシ樹脂及び/又は酸変性基を有する構成単位を有する変性ポリビニルアセタール樹脂を含まないことは明らかであるから、本件発明1の「エポキシ樹脂組成物(但し、フェノキシ樹脂及び/又は酸変性基を有する構成単位を有する変性ポリビニルアセタール樹脂を含むものを除く)」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、
「第一のエポキシ樹脂と、6500mPa・s未満である第二のエポキシ樹脂と、硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物(但し、フェノキシ樹脂及び/又は酸変性基を有する構成単位を有する変性ポリビニルアセタール樹脂を含むものを除く)。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
第一のエポキシ樹脂について、本件発明1では「25℃で測定した粘度が6500mPa・s以上」であるのに対して、甲1発明では25℃での粘度が6000mPa・sである点
<相違点2>
第二のエポキシ樹脂について、本件発明1では「2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、グリシジルアニリン、グリシジルトルイジン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、及びポリプロピレングリコール(400)ジグリシジルエーテルからなる群より選ばれるいずれか1種以上」であるのに対して、甲1発明では「クレジルグリシジルエーテル」である点
<相違点3>
本件発明では「毎秒5℃で昇温した際のゲル化温度(TB)が170℃以下であり、
毎秒5℃で昇温した際の増粘開始温度(TA)と、前記ゲル化温度(TB)は、前記第一のエポキシ樹脂と前記硬化剤とを含み、前記第二のエポキシ樹脂を含まない組成物の増粘開始温度(TA0)とゲル化温度(TB0)に対し、
TA0-TAが0℃以上であり、
かつ、
C=(TB-TB0)/(TA-TA0)が、0.5以上である」と特定されているのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点
イ 相違点についての判断
相違点3に係る各値は、エポキシ樹脂の化合物の種類や粘度等により変化するといえるため、エポキシ樹脂の化合物の種類や粘度に関する相違点1及び2と併せて検討する。
甲1には、エポキシ樹脂組成物の増粘開始温度(ゲル化開始温度)及びゲル化温度について記載されていないから、甲1発明の増粘開始温度(TA)及びゲル化温度(TB)は不明であり、上記相違点3に係るCの値も不明である。
ここで、上記相違点3に係るCの技術的意味を本件明細書の記載からみると、本件明細書【0018】に記載の「C=(TB-TB0)/(TA-TA0)が0.5以上であることは、硬化剤の反応性が高まる温度となった時点において、エポキシ樹脂組成物において反応急峻性が損なわれないことを意味している。」より、Cの値が反応急峻性を意味することがいえるので、【0016】の「硬化剤が均一に存在せず、例えば分布が均一で無い場合、濃度が低い部分は硬化時の粘度上昇が遅く、結果的に温度に対する急峻性が低いことになる。」との記載から、硬化剤の濃度の分布がCの値に影響することがいえる。また、本件明細書【0019】の「前記Cの値は、硬化剤の濃度や第一のエポキシ樹脂と第二のエポキシ樹脂との比率を適切に設定することにより、上記数値範囲に制御することができる。」との記載からは、硬化剤の濃度以外に、第一及び第二のエポキシ樹脂もCの値に影響することがいえる。そして、実施例において、上記相違点2に係る第二のエポキシ樹脂を用いた実施例1~11が上記相違点3に係る特定事項を満たし、上記相違点2に係る第二のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を用いた比較例1~5が上記相違点3に係るCの特定事項を満たさず、上記相違点2に係る第二のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を用いた比較例6、7が上記相違点3に係るCの条件を満たすものの、TBの特定事項を満たさず、上記相違点2に係る第二のエポキシ樹脂を用いるものの、その含有量が少ない比較例8が上記相違点3に係るCの特定事項を満たさないことから、第二のエポキシ樹脂の化合物の種類や含有量もCの値に影響することがいえる。
これらの記載からみて、上記相違点3に係るCの値は、第一のエポキシ樹脂及び第二のエポキシ樹脂の化合物の種類、粘度及び含有量並びに硬化剤の濃度等が相乗的に影響、すなわち上記相違点1~3が相互に関連してCの値が定まり、それによって反応急峻性という作用機能を生じることが当業者であれば理解できる。
一方、甲1には、上記相違点3に係るCの値について何ら記載されておらず、甲1発明は、少なくとも第一のエポキシ樹脂の粘度、第二のエポキシ樹脂の化合物の種類で相違することからCの値を満たすとはいえない。さらに、甲1【0110】の「主成分(A)として、汎用液状ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、例えば油化シェルエポキシ(株)のエピコート828(エポキシ当量=190、25℃粘度約12,000cps)を用いると、樹脂自身の粘度が高いため、必然的に(B)成分の反応性希釈剤を多量に配合しなければならない。これは、しばしば硬化物性の大幅な低下を招く原因となるので不利である。」との記載より、甲1発明のエピコート825から更に高い粘度のエポキシ樹脂を積極的に選択する記載がないことから、エピコート825の粘度を6500mPa・s以上に変更し、CGEを上記相違点2に係るエポキシ樹脂に変更し、Cの値を0.5以上に調整する動機付けはない。
また、甲2の記載を考慮しても、そのような動機付けはない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1、2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲1の実施例2~10を引用発明としても、上記と同様に判断される。
(3)本件発明2~8において
本件発明2~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、本件発明2~8は、甲1に記載された発明及び甲1、2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下ア、イの点を主張する。
ア 「甲第2号証の甲2発明は反応性希釈剤を含まれていないものの、甲2記載事項1から、図6においては170℃以下で10000mPa・s(10Pa・s)に達している。また、硬化すると最終的な粘度は1×105~1×106Pa・sに達することから、甲1発明は160℃において19~27秒で硬化した時の粘度は1×105~1×106Pa・sに達すると推認され、甲1発明が170℃以下で10000mPa・s(10Pa・s)に到達している蓋然性が高い」点(申立書7頁下から3行~8頁2行)
イ 「構成要件Dに関する関係式は、甲第1号証には記載されていない。しかしながら、甲1記載事項2から、下図の通り、反応性希釈剤を抜いた時(TA0、TB0)、よりも増粘開始温度(TA)とゲル化温度(TB)は共に低温側にシフトすることを示唆している。増粘開始温度とゲル化温度がそのまま低温側にシフトした場合には、TA0-TAが0℃以上になり、C=1となることからC≧0.5を充足する」点(申立書8頁3行~6行)
アについて
申立人は、甲2記載事項から甲1発明の160℃において19~27秒で硬化した時の粘度を推認しているが、甲1発明のエポキシ樹脂組成物と甲2記載のエポキシ樹脂組成物とは、(B)反応性希釈剤を含むかどうかの点で異なるものであり、同じ組成物ではないため、甲2記載事項からの上記推認は、その前提を欠くことから、申立人の主張は採用することができない。
イについて
申立人は、甲1発明が反応性希釈剤を含むことで、本件発明1で特定されたCがC=1である、すなわち反応性希釈剤を含むことで増粘開始温度とゲル化温度が、共に等しい値だけ温度低下するという前提で主張している。
しかし、本件明細書の実施例1と実施例4を検討すると、実施例1ではゲル化開始温度(増粘開始温度)は10.1℃、ゲル化温度は5.8℃、それぞれ低下しており、実施例4ではゲル化開始温度(増粘開始温度)は3.7℃、ゲル化温度は11.2℃、それぞれ低下していることから、増粘開始温度とゲル化温度の温度低下の程度は異なるものであり、また反応性希釈剤を含むことで増粘開始温度とゲル化温度が、共に等しい値だけ温度低下するという技術常識があったともいえない。そうすると、甲1発明が反応希釈剤を含むことをもって、本件発明1で特定されたCがC=1となるとは認められないことから、C≧0.5を充足するとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(5)申立理由1についてのまとめ
よって、本件発明1~8は、甲1に記載された発明及び甲1、2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1によっては本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)申立人は上記第3の1(2)の点、すなわち「ゲル化温度」の定義が不明確であるから、本件発明は実施できない旨を主張する。
しかしながら、本件明細書【0044】に「5℃/minの昇温速度で、25℃から250℃まで加熱した際、加熱によりいったん減少した粘度が、エポキシ樹脂組成物中の硬化剤とエポキシ樹脂の反応開始に伴い上昇に転じる際の温度を増粘開始温度TA、動粘度が10,000mPa・sに到達した温度」と定義が記載されており、25℃で測定した測定した粘度が10,000mPa・sを超えるエポキシ樹脂(例えば、本件明細書【0049】に記載の「jER828」)であっても、上記の定義のとおり、加熱によりいったん粘度が10,000mPa・s未満まで減少した後、「動粘度が10,000mPa・sに到達した温度」は、測定可能であるので(本件明細書の参照例1、2)、ゲル化温度の定義は明確である。
また、甲2の図5、7の様に常に10000mPa・sより高いエポキシ樹脂組成物も存在する旨の主張については、甲2は本件発明の第二のエポキシ樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物であるから、本件発明の範囲外であることは明らかであり、定義が明確でないことの根拠にはならない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(2)また、上記(1)以外に、当業者が本件発明について実施をすることができないとの理由を発見しない。
(3)申立理由2についてのまとめ
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~8について、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合するから、申立理由2によっては本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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