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特許異議申立

2022-700163

プロセス用離型フィルム、その用途、及びそれを用いた樹脂封止半導体の製造方法

審判番号
2022-700163
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-084715外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6928924
請求日
2022年02月24日
審決日
2023年03月06日
公報発行日
2023年06月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の3第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6928924号発明「プロセス用離型フィルム、その用途、及びそれを用いた樹脂封止半導体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6928924号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。
特許第6928924号の請求項1~12、14、16~17に係る特許を維持する。
特許第6928924号の請求項13、15に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6928924号(以下「本件特許」という。)の請求項1~17に係る特許についての出願(特願2017-84715号)は、平成29年4月21日に出願され、令和3年8月12日にその特許権の設定の登録がされ、令和3年9月1日に特許掲載公報が発行された。

その後、令和4年2月24日に、請求項1~12に係る特許に対し、特許異議申立人 笠原 佳代子(以下「申立人1」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立1」という。また、特許異議申立人が証拠として提出した甲第1号証を「甲1」と略し、他も同様とする。)がされ、また、令和4年2月28日に、請求項1~17に係る特許に対し、特許異議申立人 田中 俊子(以下「申立人2」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立2」という。)がされた。

異議申立1及び異議申立2は、特許法第120条の3第1項の規定により、異議2022-700163号事件として併合して審理されることとなったところ、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和4年 6月30日付け:取消理由通知書
令和4年 9月 2日 :特許権者による訂正請求書の提出
令和4年 9月 2日 :特許権者による意見書及び実験成績証明書(乙第1号証)の提出
令和4年10月19日付け:申立人2による意見書の提出

なお、当審は、特許法120条の5第5項の規定に基づき、申立人に対して相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人1は、指定期間内に意見書を提出しなかった。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

令和4年9月2日付け訂正請求書でなされた訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。

なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~17〕についてなされたものである。

(1) 訂正事項1

請求項1に、「前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、1000ml/m2・day・MPa以下である、」と記載されているのを、「前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下である、」に訂正する。

請求項1の記載を引用して記載される請求項3~12、14、16~17についても同様に訂正する。

(2) 訂正事項2

請求項1において、「・・・ml/m2・day・MPa以下である、」の直後に、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」との記載を追加する。

請求項1の記載を引用して記載される請求項3~12、14、16~17についても同様に訂正する。

(3) 訂正事項3

請求項2において、「前記積層フィルムの以下の手順(1)から(3)に従い測定されたアウトガス透過度が・・・」の直前に、「前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下である、」との記載を追加する。

請求項2の記載を引用して記載される請求項3~12、14、16~17についても同様に訂正する。

(4) 訂正事項4

請求項2において、「前記積層フィルムの以下の手順(1)~(3)に従い測定されたアウトガス透過度が1.0重量%以下である」の直後に、「、熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」との記載を追加する。

請求項2の記載を引用して記載される請求項3~12、14、16~17についても同様に訂正する。

(5) 訂正事項5

請求項13を削除する。

(6) 訂正事項6

請求項14に、「請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。」と記載されているのを、「請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。」に訂正する。

請求項14の記載を引用して記載される請求項16についても同様に訂正する。

(7) 訂正事項7

請求項15を削除する。

(8) 訂正事項8

請求項16に、「請求項1から14のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルムを、」と記載されているのを、「請求項1から12、及び14のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルムを、」に訂正する。

2 訂正要件の判断

(1) 訂正事項1について

ア 訂正の目的

訂正事項1は、JIS K 7126に準じ、温度20℃、温度50%R.H.の条件で測定した積層フィルムの酸素透過度を、「1000ml/m2・day・MPa以下」から「500ml/m2・day・MPa以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無

本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」)という。)の【0012】及び【0029】には、積層フィルムの酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下であることが好ましいことが記載されているから、訂正事項1は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記ア及びイに照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 請求項3~12、14、16~17についても同様である。

オ 小括

よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。

(2) 訂正事項2について

ア 訂正の目的

訂正事項2は、プロセス用離型フィルムにつき、訂正前の請求項1においては、これが用いられるプロセスついて特定がなかったものを、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無

本件特許明細書の【0009】、訂正前の請求項13及び請求項15には、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ことが記載されている。

そうすると、訂正事項2は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 請求項3~12、14、16~17についても同様である。

オ 小括

よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。

(3) 訂正事項3について

ア 訂正の目的

訂正事項3は、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度につき、本件訂正前の請求項2においては特定がなかったものを、「500ml/m2・day・MPa以下」であるものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の追加の有無

本件特許明細書の【0012】及び【0028】~【0029】には、積層フィルムの、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下であることが好ましいことが記載されているから、訂正事項3は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記ア及びイに照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

エ 請求項3~12、14、16~17についても同様である。

オ 小括

よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。

(4) 訂正事項4について

ア 訂正の目的

訂正事項4は、プロセス用離型フィルムにつき、訂正前の請求項2においては、これが用いられるプロセスついて特定がなかったものを、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の追加の有無

本件特許明細書の【0009】、訂正前の請求項13及び請求項15には、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ことが記載されているから、訂正事項4は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記ア及びイに照らせば、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

エ 請求項3~12、14、16~17についても同様である。

オ 小括

よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。

(5) 訂正事項5について

ア 訂正の目的

訂正事項5は、請求項13を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 小括

よって、訂正事項5は、訂正要件を満たす。

(6) 訂正事項6について

ア 訂正の目的

訂正事項6は、訂正事項5に伴い、請求項14の記載が、削除された請求項13を引用するという不整合が生じたものを、整合させるように訂正して明瞭にするものである。

そうすると、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 小括

よって、訂正事項6は、訂正要件を満たす。

(7) 訂正事項7について

ア 訂正の目的

訂正事項7は、請求項15を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 小括

よって、訂正事項7は、訂正要件を満たす。

(8) 訂正事項8について

ア 訂正の目的

訂正事項8は、訂正事項7に伴い、請求項16の記載が、削除された請求項13を引用するという不整合が生じたものを、整合させるように訂正して明瞭にするものである。

そうすると、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 小括

よって、訂正事項8は、訂正要件を満たす。

3 まとめ

本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1項、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~請求項12、請求項14、請求項16~請求項17に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明12」、「本件特許発明14」、「本件特許発明16」~「本件特許発明17」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~請求項12、請求項14、請求項16~請求項17に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であり、
続きを表示(全38行)
前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下である、
熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いるプロセス用離型フィルム。
【請求項2】
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であり、
前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下であり、
前記積層フィルムの以下の手順(1)から(3)に従い測定されたアウトガス透過度が1.0重量%以下である、
熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる上記プロセス用離型フィルム:
(1)エポキシ封止樹脂組成物10mgをバイアル瓶1の中に入れ、キャップとゴム栓で密栓後、120℃30分間加熱し静的ヘッドスペース法によるGC-MS測定を実施して、バイアル瓶1中アウトガス量1を測定する;
(2)封止樹脂10mgをバイアル瓶1の中に入れ、バイアル瓶1の口に、プロセス用離型フィルムを瓶口にかぶせて密栓したものを用意し、続いてバイアル瓶1が入る大きさのバイアル瓶2を用意し、このバイアル瓶2の中にバイアル瓶1を格納し、キャップとゴム栓で密栓後、120℃30分間加熱し静的ヘッドスペース法によるGC-MS測定を実施し、プロセス用離型フィルムを透過したバイアル瓶2中のアウトガス量2を測定する;
(3)下記(式1)に従い、プロセス用離型フィルムのアウトガス透過度を計算する。
アウトガス透過度=アウトガス量2/アウトガス量1×100(重量%)(式1)
【請求項3】
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下である、請求項1又は2に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項4】
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項5】
前記耐熱樹脂層Bの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率と縦(MD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率の和が6%以下である、請求項4に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項6】
前記離型層Aが、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項7】
前記耐熱樹脂層Bに、ガスバリア層Cが積層されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項8】
前記ガスバリア層Cが、無機層又は有機層である、請求項7に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項9】
前記ガスバリア層C上に、有機コーティングである保護樹脂層Dが積層されている、請求項7又は8に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項10】
前記耐熱樹脂層BのJISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量20J/g以上、100J/g以下である、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項11】
前記積層フィルムが、更に離型層A’を有し、かつ、該離型層Aと、前記耐熱樹脂層Bと、前記離型層A’と、をこの順で含み、
該離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°である、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
【請求項12】
前記離型層A及び前記離型層A’の少なくとも一方が、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、請求項11に記載のプロセス用離型フィルム。」
「【請求項14】
半導体封止プロセスに用いる、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。」
「【請求項16】
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、請求項1から12、及び14のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルムを、前記離型層Aが前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
続きを表示(全12行)
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。
【請求項17】
樹脂封止半導体の製造方法であって、
成形金型内の所定位置に、樹脂封止される半導体装置を配置する工程と、
前記成形金型内面に、請求項11又は12に記載のプロセス用離型フィルムを、前記離型層A’が前記半導体装置と対向するように配置する工程と、
前記成形金型を型締めした後、前記半導体装置と、前記プロセス用離型フィルムとの間に封止樹脂を注入成形する工程と、
を有する、上記樹脂封止半導体の製造方法。」

第4 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1~17に係る特許に対して、当審が令和4年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、単に「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知」という。)の要旨は、次のとおりである。

●理由1(新規性欠如)

本件訂正前の請求項1~6、11、12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

●理由2(進歩性欠如)

本件訂正前の請求項1~17に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記引用例1あるいは引用例2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(引用例等一覧)

引用例1:特開2006-175672号公報(異議申立1に係る甲2、異議申立2に係る甲1)
引用例2:特開2008-62589号公報(異議申立1に係る甲1)
引用例3:包材構成 100問 100答 改訂版,株式会社 東洋紡パッケージング・プラン・サービス,2003年1月28日,第1葉~第5葉(異議申立2に係る甲3)

引用例4:「ガスバリヤー性」,「表3 各種フィルムの酸素透過率」,第1葉,三菱ガス化学株式会社,[online],2016年12月26日,インターネット<http://web.archive.org/web/20161226041521/http://www.mgc.co.jp./seihin/a/nmxd6/barrier.html>(異議申立2に係る甲4)

引用例5:酸素バリヤー性を有する食品包装材料,第1~第3葉,愛産研食品工業技術センターニュース,愛知県産業技術研究所食品工業技術センター,平成21年3月24日(異議申立2に係る甲5)
引用例6:ガスバリヤ性・保香性包装材料の新展開,株式会社 東レリサーチセンター,1998年8月21日,第1~第4葉(異議申立2に係る甲6)
引用例7:安田 武夫,「プラスチック材料の各動特性の試験法と評価結果〈5〉」,プラスチックス,日本工業出版,2000年6月,Vol.51,No.6,119~127頁(異議申立1に係る甲3)
引用例8:特開2002-200701号公報(異議申立1に係る甲5の1)
引用例9:国際公開第2007/125834号(異議申立2に係る甲7)
引用例10:特開2011-88351号公報(異議申立2に係る甲10)
引用例11:特開2014-113730号(異議申立2に係る甲11)
引用例12:特開2014-152240号公報(異議申立2に係る甲12)
引用例13:国際公開第2014/141512号
引用例14:国際公開第2010/023907号(異議申立2に係る甲13)
引用例15:特開2012-6213号公報(異議申立1に係る甲4の2)
引用例16:特開2009-34947号公報(異議申立1に係る甲4の3)

(引用例1及び引用例2が主引用例である。引用例3~7は、技術常識を例示する文献、引用例8~10は、副引用例、引用例12~13は、周知技術を例示する文献、引用例14は副引用例、引用例15~16は周知技術を例示する文献である。)

第5 当審の判断

1 引用例1を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如について

(1) 引用例1の記載

引用例1(特開2006-175672号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの両面に塗布層を有するフィルムであり、当該塗布層表面の水滴接触角が80~120度の範囲であることを特徴とするプリント基板製造用離型フィルム。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板製造時の熱プレス成形工程で用いられる、離型フィルムに関するものである。
【0002】
続きを表示(全47行)
近年、電子機器の急速な進歩に伴い、ICの集積度が増大するにつれ、より高精度、高密度、高信頼性化への要求に対応する目的でプリント配線板が多用されてきている。このプリント配線板としては、・・・略・・・なかでも、3層以上の導体の中間に絶縁層をおいて一体化し、任意の導体層相互および実装する電子部品のリードと任意の導体層との接続ができる点で多層フレキシブルプリント配線基板(以後FPCという)の応用分野は広がっている。
【0003】
FPCの製造工程においては、絶縁基材上、例えば、ポリイミド樹脂フィルム表面に所定の回路を有するフレキシブル回路板上を、絶縁および回路保護を目的として接着剤付き耐熱樹脂フィルム(一般にはポリイミドフィルム)であるカバーレイ(以下、CLという)で被覆し、離型フィルムを介して、プレスラミネートによる成形を行う。・・・略・・・これらの製造工程において、FPC材料およびプレス板との離型性、対形状追従性、均一な成形性、FPCの仕上がり外観、後工程での回路へのメッキ付き等に優れた離型フィルムが求められている。
【0004】
このような状況で、その耐熱性を利して、不活性の添加粒子により適度の表面粗度を付与したポリエステル(PET)フィルムが、同様の離型フィルムとして提案されている(特許文献1)。PETフィルムは、融点が約260℃と高いため、CLのプレス成形においても優れた耐熱性を示す。ところが、近年では、FPCの生産性の観点から、成型時のプレス温度を上昇させる傾向があり、その際に、離型フィルムとFPC材料との離型性が不十分となる問題がある。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、FPC製造時の補強板貼付け工程(加熱プレス)において、FPC仕上がり外観、メッキ付き性などの要求特性を満たしつつ、従来のポリエステルフィルムでは発現することのできなかったプレス板とFPC材料に対する優れた離形性を有する、FPC製造用離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
・・・略・・・
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、本発明は、ポリエステルフィルムの両面に塗布層を有するフィルムであり、当該塗布層表面の水滴接触角が80~120度の範囲であることを特徴とするプリント基板製造用離型フィルムに存する。
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、代表的には、例えば、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレート・・・略・・・等が挙げられる。
・・・略・・・
【0010】
本発明のポリエステルフィルムに安定した離型性能を付与することを目的に、フィルム表面の水滴接触角を特定範囲すべく、適宜塗布層を設ける。以下に、本発明のポリエステルフィルムの水滴接触角を特定範囲とするための塗布層形成の方法について説明する。
【0011】
本発明においては、塗布層中に、ポリビニルアルコールと離型剤とを適宜比で混合して配合することにより、水滴接触角を特定範囲に調整する方法が好ましく用いられる。ポリビニルアルコールを塗布層中に含有しないと、水滴接触角が120度を超え、プレス加工においてフィルム表面(塗布層)からFPC材料表面に離型成分の転移が生じやすく、後工程でのメッキ付き性が阻害される傾向がある。一方、塗布層中に離型剤を含有しないと、水滴接触角が80度未満となり、プレス加工において、FPCもしくはプレス板との離型が困難となり、本用途での加工適性に支障をきたす傾向がある。
【0012】
塗布層中に使用する離型剤としては下記に限定されるものではないが、例えば、フッ素系アクリル樹脂、長鎖アルキル化合物、シリコーン、ワックス等が挙げられる。
・・・略・・・
【0019】
本発明におけるプリント基板製造用離型フィルムに関して、ポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の塗布量(乾燥後)に制限はないが、通常0.005~1g/m2、好ましくは0.005~0.5g/m2の範囲である。
・・・略・・・
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの水滴接触角は、80~120度であることが必要である。水滴接触角の上限に関しては、好ましくは117度、さらに好ましくは115度である。水滴接触角が120度を超える場合には、プレス加工においてフィルム表面(塗布層)からFPC材料表面に離型成分の転移が生じやすく、後工程でのメッキ付き性が阻害される傾向にある。一方、水滴接触角が80度未満では、目的とする剥離性が得られない傾向にある。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、プレス加工時における作業性からみた適度の腰強さ、シワの発生回避の観点から、通常10~100μm・・・略・・・の範囲である。
・・・略・・・
【0023】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、一般に所定に配合されたポリマーを溶融、押出しした後、少なくとも一軸方向にロール延伸法、テンター法等に従って延伸を施せばよい。なお機械的強度や熱寸法安定性を適度に満足させるためには、二軸延伸方法および熱処理方法を併用することが好ましい。
【0024】
ここで二軸延伸を用いた場合の一例を詳細に説明する。
まず原料を配合して押出機に供給し溶融混練後、溶融ポリマーを通常Tダイへ導き、スリット状に押し出す。次に、ダイから押し出された溶融シートを、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面均一性、冷却効果を向上させるためには、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法が好ましく採用される。次いで、得られたシートを二軸方向に延伸してフィルム化する。本発明のポリエステルフィルムの表面凹凸は、かかる延伸によって生成される。
【0025】
まず、通常70~150℃、好ましくは75~130℃の延伸温度、通常2.5~6.0倍、好ましくは3.0~5.0倍の延伸倍率の条件下、前記未延伸シートを一方向(縦方向)に延伸する。かかる延伸にはロールおよびテンター方式の延伸機を使用することができる。さらに、通常75~150℃、好ましくは80~140℃の延伸温度で、通常2.5~6.0倍、好ましくは3.0~5.0倍の延伸倍率の条件下、一段目と直交する方向(横方向)に延伸を行い、二軸配向フィルムを得る。かかる延伸には、テンター方式の延伸機を使用することができる。上記の一方向の延伸を2段階以上で行う方法も採用することができるが、その場合も最終的な延伸倍率が上記した範囲に入ることが好ましい。また、前記未延伸シートを面積倍率が7~30倍になるように同時二軸延伸することも可能である。次いで、テンター内熱処理を、通常200~250℃、好ましくは220~240℃で、1秒~3分間行う。この熱処理工程では、熱処理の最高温度のゾーンおよび/または熱処理出口直前の冷却ゾーンにおいて、横方向および/または縦方向に0.1~30%の弛緩を行うことが、熱寸法安定性付与の点で好ましい。特に横方向に1~30%の弛緩を行うことが好ましい。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、FPC製造時の補強板貼付け工程(加熱プレス)において、FPC仕上がり外観、メッキ付き性などの要求特性を満たしつつ、従来のポリエステルフィルムでは発現することのできなかったプレス板とFPC材料に対する優れた離形性を有する、FPC製造用離型フィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。」
ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
・・・略・・・
【0035】
続きを表示(全47行)
(4)熱収縮率(%)
フィルムを長手方向(MD)または幅方向(TD)に幅15mm長さ150mmに切り出し、100mm間隔にマーキングし、無張力状態で180℃の熱風循環式オーブン内で5分間熱処理した。熱処理前のマーキング間隔:a、熱処理後のマーキング間隔:bを測定し、下記式により熱収縮率を求めた。測定数nは3とし、その平均値をとった。
熱収縮率(%)=(a-b)×100/a
【0036】
(5)水滴接触角(°)
イオン交換水を2μL滴下し、1分後のフィルム表面における水滴接触角をθ/2法により、接触角測定器(協和界面科学株式会社製CA-A型)を使用して測定した。
【0037】
(6)熱プレスによる工程適性試験
・プレス熱板への付着物について。
(離型)フィルム/FPC/(離型)フィルムの順に重ねたものをプレス熱板で加圧(170℃、30kg/cm2、60分)後、50℃になるまで加圧冷却した後、以下の項目を評価した。
【0038】
「FPC離型性」
〇:FPCとの離型が容易であった。
×:FPCとの離型が困難であり、加工適性に問題が認められた。
【0039】
「プレス板離型性」
○:熱板との付着は認められず、良好であった。
×:熱板への付着が生じ、加工適性に問題があった。
【0040】
「メッキ付き性」
○:必要メッキ面積の90%以上にメッキが付いているもの
×:メッキ付きが必要メッキ面積の90%未満のもの
【0041】
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
・フッ素系アクリル樹脂
ガラス製反応容器中に、CF3(CF2)nCH2CH2OCOCH=CH2(n=5~11、nの平均=9)80.0g、アセトアセトキシエチルメタクリレート20.0g、ドデシルメルカプタン0.8g、脱酸素した純水354.7g、アセトン40.0g、C16H33N(CH3)3Cl1.0gおよびC8H17C6H4O(CH2CH2O)nH(n=8)3.0gを入れ、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩0.5gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しつつ60℃で10時間共重合反応させて、共重合体エマルションを得た。
【実施例1】
【0042】
平均粒径2.4μmの無定型シリカ粒子を0.07%含有する、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレートチップをベント付二軸押出機に直接投入して270℃で溶融、混練し、得られた溶融体をTダイを経由してスリット状に押出し、30℃の冷却ドラム上で冷却して無延伸シートを得た。次いで当該無延伸シートを縦方向に82℃で3.3倍延伸したフィルムの両面に、ポリビニルアルコール:フッ素系アクリル樹脂:ヘキサメトキシメチルメラミンの尿素共重合体=50:30:20の比率で混合させた液をバーコート方式により塗布した後、テンターに導き、横方向に120℃で4.1倍延伸し、段階的に昇温後、232℃で3秒間熱処理した。次いで180℃の雰囲気下、幅方向に2%の弛緩処理(テンターレール幅を狭める)を行った。最終的に、両面に塗工量(乾燥後)が0.02g/m2の塗布層が設けられた、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【実施例2】
【0043】
実施例1において、塗布層の配合比率をポリビニルアルコール:フッ素系アクリル樹脂:ヘキサメトキシメチルメラミンの尿素共重合体=35:45:20の比率に変更した以外は同様にして、両面に塗工量(乾燥後)が0.02g/m2の塗布層が設けられた、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【実施例3】
【0044】
実施例1において、塗布層の配合比率をポリビニルアルコール:フッ素系アクリル樹脂:ヘキサメトキシメチルメラミンの尿素共重合体=70:10:20の比率に変更した以外は同様にして、両面に塗工量(乾燥後)が0.02g/m2の塗布層が設けられた、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
・・・略・・・
以上、得られた結果を纏めて下記表1に示す。
【0048】
【表1】
[図:0001398237000001.jpg]
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のフィルムは、例えば、フレキシブルプリント配線板製造時の熱プレス成形工程で用いられる、離型フィルムとして好適に利用することができる。」

(2) 引用発明

ア 引用例1には、特許請求の範囲の請求項1に係る発明を具現化した態様である実施例1(【0035】~【0042】及び【0048】(【表1】))の「プリント基板製造用離型フィルム」に係る発明(以下「引用発明1」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。

「 塗布層を形成するフッ素系アクリル樹脂として、ガラス製反応容器中に、CF3(CF2)nCH2CH2OCOCH=CH2(n=5~11、nの平均=9)80.0g、アセトアセトキシエチルメタクリレート20.0g、ドデシルメルカプタン0.8g、脱酸素した純水354.7g、アセトン40.0g、C16H33N(CH3)3Cl1.0gおよびC8H17C6H4O(CH2CH2O)nH(n=8)3.0gを入れ、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩0.5gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しつつ60℃で10時間共重合反応させて、塗布層を形成する共重合体エマルションを得て、
平均粒径2.4μmの無定型シリカ粒子を0.07%含有する、固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレートチップをベント付二軸押出機に直接投入して270℃で溶融、混練し、得られた溶融体をTダイを経由してスリット状に押出し、30℃の冷却ドラム上で冷却して無延伸シートを得て、次いで当該無延伸シートを縦方向に82℃で3.3倍延伸したフィルムの両面に、ポリビニルアルコール:上記フッ素系アクリル樹脂:ヘキサメトキシメチルメラミンの尿素共重合体=50:30:20の比率で混合させた液をバーコート方式により塗布した後、テンターに導き、横方向に120℃で4.1倍延伸し、段階的に昇温後、232℃で3秒間熱処理し、次いで180℃の雰囲気下、幅方向に2%の弛緩処理(テンターレール幅を狭める)を行い、最終的に得られた、両面に塗工量(乾燥後)が0.02g/m2の塗布層が設けられた、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルムであるプリント基板製造用離型フィルムであって、
下記の定義による、熱収縮率(%)が長手方向(MD)は2.1%、幅方向(TD)は0.3%、水滴接触角(°)は110°、熱プレスによる工程適正試験によるプレス板離型性は○、FPC離型性は○、メッキ付き性は○である、プリント基板製造用離型フィルム。
(熱収縮率(%))
続きを表示(全20行)
フィルムを長手方向(MD)または幅方向(TD)に幅15mm長さ150mmに切り出し、100mm間隔にマーキングし、無張力状態で180℃の熱風循環式オーブン内で5分間熱処理した。熱処理前のマーキング間隔:a、熱処理後のマーキング間隔:bを測定し、下記式により熱収縮率を求めた。測定数nは3とし、その平均値をとった。
熱収縮率(%)=(a-b)×100/a
(水滴接触角(°))
イオン交換水を2μL滴下し、1分後のフィルム表面における水滴接触角をθ/2法により、接触角測定器(協和界面科学株式会社製CA-A型)を使用して測定した。
(熱プレスによる工程適性試験)
・プレス熱板への付着物について。
(離型)フィルム/FPC/(離型)フィルムの順に重ねたものをプレス熱板で加圧(170℃、30kg/cm2、60分)後、50℃になるまで加圧冷却した後、以下の項目を評価した。
「FPC離型性」
〇:FPCとの離型が容易であった。
×:FPCとの離型が困難であり、加工適性に問題が認められた。
「プレス板離型性」
○:熱板との付着は認められず、良好であった。
×:熱板への付着が生じ、加工適性に問題があった。
「メッキ付き性」
○:必要メッキ面積の90%以上にメッキが付いているもの
×:メッキ付きが必要メッキ面積の90%未満のもの」

(3) 本件特許発明1について

ア 対比

本件特許発明1と引用発明1とを対比する。

(ア) 引用発明1の「二軸配向ポリエステルフィルム」は、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなるところ、「PETフィルムは、融点が約260℃と高いため」、「優れた耐熱性を示す」ものである(引用例1の【0004】)。

(イ) 引用発明1は、「ポリエステルフィルムに安定した離型性能を付与することを目的に、フィルム表面の水滴接触角を特定範囲」とすべく「適宜塗布層を設け」(同【0010】)たものであるところ、引用発明1の「二軸配向ポリエステルフィルム」の両面に設けられた「塗布層」表面の「水滴接触角」は110°である。また、引用発明1の「FPC離型性」は、「○:FPCとの離型が容易であった。」との評価である。

(ウ) 上記(ア)、(イ)より、引用発明1の「塗布層」、「二軸配向ポリエステルフィルム」及び「塗布層が設けられた、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルム」は、それぞれ、本件特許発明1の「離型層A」、「耐熱樹脂層B」及び「積層フィルム」に相当する。

また、引用発明1は、「プリント基板製造用離型フィルム」であって、「フレキシブルプリント配線板製造時の熱プレス成形工程」(【0049】)というプロセス用に用いられるものであるから、本件特許発明1の「プロセス用離型フィルム」に相当する。

(エ) 引用発明1の「塗布層」の水滴接触角は110°である。

引用発明1の「水滴接触角(°)」の定義及び本件特許発明1の「水に対する接触角」の定義(本件特許明細書【0110】)からみて、引用発明1の「塗布層」(「離型層A」)の水に対する接触角は90°から130°の範囲内であるといえる。

(オ) 以上の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と、引用発明1は、

「離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°である、プロセス用離型フィルム。」

である点で一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点1-1-1)

本件特許発明1においては、「積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下」であるのに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

(相違点1-1-2)

本件特許発明1においては、「前記積層フイルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下」であるのに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

(相違点1-1-3)

本件特許発明1は、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ものであるのに対して、引用発明1は、「プリント基板製造用」に用いられるものである点。

イ 判断

(ア)新規性欠如について

相違点1-1-1について検討する。

a 本件特許発明1の「積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率」は、その測定方法及び測定条件につき、特許請求の範囲に記載がないので、発明の詳細な説明の記載を参照すると、本件特許明細書の【0109】には、フィルムサンプルを、「長さ20mm、幅4mmに切り出し」、「チャック間距離8mmにて0.005Nの荷重をかけた状態で23℃5分間保持後、23℃から120℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させ」、「寸法変化を測定し」、「L1:23℃時のサンプル長(mm)」、「L2:120℃時のサンプル長(mm)」として、式(1)「熱寸法変化率(%)(23→120℃)={[(L2-L1)/L1]×100}」により算出することが記載されている。

b これに対し、引用発明1における幅方向(TD)の熱収縮率の測定方法は、「フィルムの長手方向(MD)または幅方向(TD)に幅15mm長さ150mmに切り出し、100mm間隔にマーキングし、無張力状態で180℃の熱風循環式オーブン内で5分間処理し」、「熱処理前のマーキング間隔:a、熱処理後の、マーキング間隔:bを測定し」、「熱収縮率(%)=(a-b)×100/a」により熱収縮率を求め、測定数nは3とし、その平均値をとったものである。

ここで、一般に、熱収縮率の測定は、「JIS C2151:2006」20~21頁の「21.寸法変化」に、「室温まで冷却した後,初めに測定したときと同じ部分について長さ及び幅を測定する。」と記載され、また、特開2016-48397号公報の【0015】~【0016】に、「90℃で測定したフィルム長手方向熱収縮率とは、一定の大きさの高分子フィルムサンプルを準備し、室温でその長手方向(製造時の押出方向)に一定の長さ(L0)を測定し、そのサンプルを90℃に保持した恒温槽中に30分間放置後、同じ室温まで徐冷した後に、該L0に相当する部分の長さを測定し、その長さ(L)と初期の長さ(L0)から次式(1)にて算出した数値である。」(下線は当審が引いた。)と記載されるように、サンプルの長さを常温あるいは室温で測定することが、フィルム分野における技術常識であるから、引用例1の記載に接した当業者であれば、熱収縮率を、「熱処理前のマーキング間隔:a」及び「熱処理後の、マーキング間隔:b」を常温あるいは室温で測定したと解することが自然である。

c そうすると、本件特許発明1における「積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率」は、一般的な「熱収縮率」とは異なり、荷重をかけた状態で、23℃時と120℃時それぞれの温度におけるサンプル長を測定してその比をとったものであるのに対し、引用例1には、「熱収縮率」の値は示されているものの、この値は、技術常識に照らせば、常温ないし室温で測定された長さの比であって、かつ、無張力状態で測定されたものであるから、本件特許発明1における「積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率」の値と、引用発明1の「熱収縮率」の値とは、測定方法及び測定条件を異にし、互いに異なる特性を示す値であるといえる。

しかるところ、たとえ、引用発明1に係る「両面に塗工量(乾燥後)が0.02g/m2の塗布層が設けられた、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルム」の幅方向の熱収縮率が、0.3%であって、その値自体が、本件特許発明において特定される「積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率」の数値範囲である「3%以下」に含まれるにせよ、本件特許発明に係る「積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率」と、引用発明1に係る「熱収縮率」とは測定方法及び測定条件を異にし、互いに異なる特性を示す値であるから、その数値同士を対比することは不可能であり、引用発明1に係る「両面に塗工量(乾燥後)が0.02g/m2の塗布層が設けられた、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルム」について、その「積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率」の値が、本件特許発明1において特定された数値範囲を満たすとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1ではない。

(イ)進歩性欠如について

事案に鑑み、相違点1-1-1及び相違点1-1-3を併せて検討する。

a 本件特許発明1は、「樹脂封止後の成型品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け等の外観不良のない成形品を得ることができるとともに、金型の汚染を効果的に抑制できるプロセス用離型フィルムを提供する」(【0007】)という課題を解決すべく、「プロセス用離型フィルムの特定の温度における熱寸法変化率、とりわけプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムのTD方向(フィルムの面内であって、フィルムの製造時の長手方向に対して直交する方向。以下、「横方向」ともいう。)の熱寸法変化率を適切に制御し、かつ該積層フィルムの酸素透過度を所定の値以下に制御することが結果的に該積層フィルムの封止樹脂からアウトガス透過度を所定の値以下に制御することができることから、金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制に重要であることを見出し」(【0008】)なされたものである。

b これに対し、引用発明1は、フレキシブルプリント基板(以下、FPCという。)製造用離型フィルムに係る発明であって、引用例1の【0005】に、「FPC製造時の補強板貼付け工程(加熱プレス)において、FPC仕上がり外観、メッキ付き性などの要求特性を満たしつつ、従来のポリエステルフィルムでは発現することのできなかったプレス板とFPC材料に対する優れた離形性を有する、FPC製造用離型フィルムを提供すること」を目的とする旨記載されるとおり、FPC製造用プロセスにおける、プレス板とFPC材料に対する離形性を改善することを解決しようとする課題とするものであって、ポリエステルフィルムの両面に塗布層を有するフィルムにおける塗布層表面の水滴接触角を80~120度の範囲とすること(【0007】)によってかかる課題を解決したものである。

すなわち、本件特許発明1と引用発明1は、相違点1-1-3のとおり、前者が「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ものであるのに対して、引用発明1は、「プリント基板製造用」に用いられるものである点で、適用されるプロセスが、そもそも相違するものである。そして、適用されるプロセスが異なれば、解決しようとする課題も異なるのであるから、引用例1には、本件特許発明1のような、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」際の、皺の抑制という課題が認識すらされていない。まして、引用例1には、皺の抑制という課題を解決するため、特定の温度における積層フィルムのTD方向の熱寸法変化率に着目し、これを適切に制御するという技術思想について記載も示唆もされていない。

ここで、TD方向の熱寸法変化につき、引用例2(異議申立1に係る甲1)には、生分解性を有し、且つ耐熱性に優れる離型フィルムにおいて、(A)フィルムを、DSC測定における150~200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205~240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であるポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系延伸フィルムとすることにより、生分解性を有し、かつ、耐熱性に優れるものが得られること(【0020】)、(B)PLLA-1:PDLA-2を50:50(重量部)を出発材料とし、二軸延伸機で、縦方向に延伸温度;65℃で3倍、横方向に延伸温度;70℃で3倍に延伸し、テンター内で180℃で約40秒間のヒートセットを行うことにより製造した参考例1に係るポリ乳酸系二軸延伸フィルムのTD方向の耐熱性(【0035】(6))が、熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 熱・応用・歪測定装置 TMA/SS120)を用いてフィルムから幅4mmの試験片を切り出し、チャック間5mmで試験片に荷重0.25MPaを掛け、100℃(開始温度)から5℃/分で昇温し、各温度における試験片の変形(伸びまたは収縮)を測定した結果、120℃で0.1(%)であること(【0036】【表1】)、すなわち、TD方向の熱寸法変化が小さいポリ乳酸系二軸延伸フィルムが記載されている。

c しかしながら、上述のとおり、引用発明1に係る離型フィルムは、プリント基板製造プロセスに用いられるものであって、「金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制」を防止しようとする課題すら認識されておらず、かかる課題を解決すべく、特定の温度における積層フィルムのTD方向の熱寸法変化率に着目し、これを適切に設定するという技術思想が、そもそも引用例1に開示されていないのであるから、たとえ、引用例2に、TD方向の熱寸法変化が小さいポリ乳酸系二軸延伸フィルムが記載されているにしても、引用発明1に記載のフィルム材料に代えて、引用例2に記載のポリ乳酸系二軸延伸フィルムを採用することは、当業者にとり動機付けられるものではない。

しかも、引用例2に記載されたポリ乳酸系離型フィルムは、その用途として、引用例2の【0039】に「粘着ラベルや粘着テープなどの台紙、ポリ乳酸フィルムからなる包装袋、例えば規格袋等の粘着シール部の離型フィルムなどの多種の用途に用いられる。積層セラミックコンデンサー製造用の工程フィルムとして使用が可能」とあるとおり、引用発明1のような、「FPC製造時の補強板貼付け工程(加熱プレス)」とは適用されるプロセスが異なるものである。そして、適用されるプロセスが異なれば、プロセスの加熱温度、加熱時間なども異なるのであるから、望まれる材料の特性も当然に異なるのであり、引用発明1において、引用発明1とは適用されるプロセスの異なる引用例2に記載のフィルムを採用することは、なおのこと、当業者に動機付けられるものではない。

また、異議申立1に係る甲3~甲6、あるいは異議申立2に係る甲3~甲13を検討しても、「金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制」を防止するため、特定の温度における積層フィルムのTD方向の熱寸法変化率に着目し、これを適切に制御する点について、これらのいずれにも記載も示唆もされていない。

してみると、引用発明1において、相違点1-1-1及び1-1-3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、相違点1-1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2に記載に記載された技術的事項及び異議申立1に係る甲3~甲6、異議申立2に係る甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて容易に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ) 本件特許発明1の効果

本件特許発明1は、本件特許発明1に係る構成を備えることにより、「従来技術では実現できなかった高いレベルの離型性、皺の抑制、及び金型追従性を兼ね備え、かつ金型の汚染を効果的に抑制できるので、これを用いることで、半導体チップ等を樹脂封止等して得られる成形品を容易に離型できるとともに、皺や欠けなどの外観不良のない成形品を、高い生産性かつ低いコストで製造することができる。」(【0010】)という従来技術から予測し難い効果を奏するものである。

ウ 小括

以上のとおりであるから、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明ではなく、引用例1に記載された発明、引用例2に記載に記載された技術的事項及び異議申立1に係る甲3~甲6、異議申立2に係る甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

c 令和4年10月19日付け意見書(申立人2)における主張について

(a) 申立人2は、同意見書「3-2.引用例1を主引例とする理由1(新規性)及び2(進歩性)」「3-2-1.本件特許発明1について」「(1)相違点1-1-1について」「ア 相違点1-1-1が本件特許発明1と引用発明1との間で実質的な相違点ではないこと」(イ)において、甲2(特開2017-100397号公報)を挙げて、「二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムのTD方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、配向度に応じて変わり得るものの、3%を超えることがないことは周知事項である。」、「これらの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの熱寸法変化率に関する周知事項に照らすと、厚さの殆どが二軸延伸ポリエステルフィルムで占められている引用発明1については、TD方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である蓋然性が極めて高いことが明らかである。」と主張する。

しかしながら、そもそも、甲2は、本件特許出願後に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるから、当該文献の【0073】、【0085】、【0087】【表1】に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであるルミラーF865(東レ株式会社)、ルミラーS10(東レ株式会社)及びFT3PE(帝人デュポンフォルム株式会社)のTD方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率がそれぞれ-1.2%、0.3%及び1.3%であることが示されているにしても、このことが、本件特許の出願時当時の技術常識を示すものであるとはいえない。

そして、引用例1の【0023】、【0025】に示されるように、フィルムを構成する材料の組成や延伸倍率、熱処理等の製造条件に依存して、二軸延伸フィルムの熱寸法安定性等の特性が変化することは、二軸延伸フィルムの技術分野における当業者の技術常識であるから、甲2に示されるフィルムとは、材料の組成や延伸倍率、熱処理等の製造条件の異なる引用例1に記載の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムについて、甲2を参照して、そのTD方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が、3%を超えることがないなどとはいえない。

(b) 申立人2は、同意見書「3-2」「3-2-1」(1)ア(ウ)において、「甲第14号証には、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに関し、バランスドタイプ(配向度がMD及びTDでほぼ同様にしたもの)のTD方向の平均熱線膨張率は15.9×10-6/℃であり、テンシライズドタイプ(MD方向の配向度を高くしたもの)のTD方向の平均熱線膨張率は22×10-6/℃であることが示されている(76頁のTable3)。」、「バランスドタイプの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの・・・略・・・熱寸法変化率は0.16%・・・略・・・であり、テンシライズドタイプの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの・・・略・・・熱寸法変化率は0.21%・・・略・・・であると推測される。」、「甲第14号証の記載から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、バランスドタイプ又はテンシライズドタイプのいずれであっても、TD方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率は3%以下であることが明らかである。」、「引用発明1で使用されている二軸延伸ポリエステルフィルムは、MD方向3.3倍、TD方向に4.1倍の倍率で延伸されているため、・・・略・・・熱寸法変化率は3%以下であると認められる。」、「引用発明1の熱寸法変化率は、使用している二軸延伸ポリエステルフィルムの熱寸法変化率と略同一といえるので、TD方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率は3%以下である蓋然性が極めて高い。」と主張する。

しかしながら、甲14の「Table3」(76頁)は、「非晶の伸び切った分子鎖が揃って配列している方向では熱膨張率は小さい」(74頁右欄9~11行)ことを示すための表であって、Table3に記載のバランスドタイプ又はテンシライズドタイプのPETフィルムの平均熱線膨張率は、縦方向の延伸倍率4.8倍を前提とした特定のPETフィルムの値である。そして、材料の組成や延伸倍率、熱処理等の製造条件が異なれば、延伸PETフィルムの線膨張率も異なることは、当業者の技術常識に照らし明らかであって、甲14に記載の特定のバランスドタイプ又はテンシライズドタイプの二軸延伸PETフィルムの熱寸法変化率が0.16%、0.21%と推測されるからといって、これとは材料の組成も延伸倍率も、熱処理等の製造条件も異にする引用発明1に係る積層フィルムの熱寸法変化率が3%以下であるとは直ちには認められない。

(c) 申立人2は、同「3-2」「3-2-1」(1)イ「仮に、相違点1-1-1が本件特許発明1と引用発明1との間で実質的な相違点であるとしても、当業者であれば相違点1-1-1に係る発明特定事項を容易に想到できること」において、「引用発明1は、プリント基板製造用離型フィルムであり、プレス成型において優れた耐熱性を有することが要求されている・・・略・・・。そのため、引用発明1において優れた耐熱性を備えさせることは周知の課題といえる。」、「前述の通り、23℃から120℃までのTD方向の熱寸法変化率が3%以下であることは、一般的なポリエチレンテレフタレートフィルムが備えている特性に過ぎない。」、「そうしてみると、仮に、相違点1-1-1が実質的な相違点であるとしても、前記周知の課題を鑑みて、引用発明1において、熱変化が小さくなるように設計することは、当業者の通常の設計事項の範疇でなし得る事項に他ならず、引用発明1の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下に設定することは、当業者にとって容易になし得ることに過ぎない。」と主張する。

しかしながら、本件特許発明1は、「樹脂封止後の成型品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け等の外観不良のない成形品を得ることができるとともに、金型の汚染を効果的に抑制できるプロセス用離型フィルムを提供する」という課題を解決すべく、プロセス用離型フィルムの特定の温度における熱寸法変化率、とりわけプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムのTD方向(フィルムの面内であって、フィルムの製造時の長手方向に対して直交する方向。以下、「横方向」ともいう。)の熱寸法変化率を適切に制御し、かつ該積層フィルムの酸素透過度を所定の値以下に制御することが結果的に該積層フィルムの封止樹脂からアウトガス透過度を所定の値以下に制御することができることから、金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制に重要であることを見出し」なされたものであるところ、かかる課題が認識されていない引用発明1において、23℃から120℃までのTD方向の熱寸法変化率に着目して、その値を3%以下のものを選択することは、当業者にとり動機づけられたものとはいえない。

(4) 本件特許発明2について

ア 対比

本件特許発明2と、引用発明1との対比は、上記(3)アと同様である。

対比結果を踏まえると、本件特許発明2と、引用発明1は、「離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°である、プロセス用離型フィルム。」の点において一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点1-2-1)

本件特許発明2においては、「前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下」であるのに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

(相違点1-2-2)

本件特許発明2においては、「前記積層フイルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下である」のに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

(相違点1-2-3)

本件特許発明2においては、「前記積層フィルムの以下の手順(1)から(3)に従い測定されたアウトガス透過度が1.0重量%以下である」、「(1)エポキシ封止樹脂組成物10mgをバイアル瓶1の中に入れ、キャップとゴム栓で密栓後、120℃30分間加熱し静的ヘッドスペース法によるGC-MS測定を実施して、バイアル瓶1中アウトガス量1を測定する;

(2)封止樹脂10mgをバイアル瓶1の中に入れ、バイアル瓶1の口に、プロセス用離型フィルムを瓶口にかぶせて密栓したものを用意し、続いてバイアル瓶1が入る大きさのバイアル瓶2を用意し、このバイアル瓶2の中にバイアル瓶1を格納し、キャップとゴム栓で密栓後、120℃30分間加熱し静的ヘッドスペース法によるGC-MS測定を実施し、プロセス用離型フィルムを透過したバイアル瓶2中のアウトガス量2を測定する;

(3)下記(式1)に従い、プロセス用離型フィルムのアウトガス透過度を計算する。

アウトガス透過度=アウトガス量2/アウトガス量1×100(重量%)(式1)」のに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

(相違点1-2-4)

本件特許発明2は、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ものであるのに対して、引用発明1は、「プリント基板製造用」に用いられるものである点。

イ 判断

相違点1-2-1、相違点1-2-2及び相違点1-2-4は、それぞれ、上記相違点1-1-1、相違点1-1-2及び相違点1-2-3と同じである。

してみると、上記(3)イで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明2は、引用例1に記載された発明ではなく、引用例1に記載された発明、引用例2に記載に記載された技術的事項及び異議申立1に係る甲3~甲6、異議申立2に係る甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括

以上のとおりであるから、本件特許発明2は、引用例1に記載された発明ではなく、本件特許発明2は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載に記載された技術的事項及び異議申立1に係る甲3~甲6、異議申立2に係る甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5) 本件特許発明3~12、14、16~17について

本件特許発明3~12、14、16~17は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。

そうすると、上記(3)イ~ウ及び上記(4)イ~ウのとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2が、引用例1に記載された発明であるということはできない、あるいは、引用例1に記載された発明、引用例2に記載に記載された技術的事項及び異議申立1に係る甲3~甲6、異議申立2に係る甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明3~12、14、16~17は、引用例1に記載された発明であるということはできない、あるいは、引用例1に記載された発明、引用例2に記載に記載された技術的事項及び異議申立1に係る甲3~甲6、異議申立2に係る甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 引用例2を主引用例とする進歩性欠如について

(1) 引用例2の記載

引用例2(特開2008-62589号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系組成物からなり、DSC測定における150~200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205~240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であるポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に離型層を設けてなることを特徴とするポリ乳酸系離型フィルム。」
イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有し、且つ耐熱性に優れるポリ乳酸組成物層を用いてなる離型フィルムに関する。
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【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等からなる二軸延伸ポリエステルフィルムは、離型フィルムなどの材料として広く使用されている。離型フィルムの製造方法としては、例えば二軸延伸ポリエステルフィルムに、付加反応型、縮合反応型等のシリコーン樹脂などを塗工して製造され、粘着ラベル、粘着テープ等の台紙、セラミックシート製造時の支持体などに幅広く使用されている。
一方、近年、離型フィルムを使用した後の不要となったフィルムの廃棄において、環境意識の高揚や、廃棄物処理問題から焼却処分の必要のない生分解性離型フィルムへの要求が高まりつつある。この要求に対して、従来から離型フィルムの支持体として使用されてきた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムや二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムは生分解性が無く、焼却処分せざるを得ない状況にある。これに対し、ポリ乳酸をはじめとする脂肪族ポリエステル系フィルムは、自然環境下に棄却された場合に分解すること(例えば、ポリ乳酸フィルムは土壌中において自然に加水分解したのち微生物によって無害な分解物となること)を主眼にして開発されてきた。
かかる生分解性を有するポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルからなる二軸延伸フィルムを離型フィルムに用いることが種々提案されている・・・略・・・。
【0003】
しかしながら、かかるポリ乳酸等の生分解性ポリエステルは二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに比べ、耐熱性が不足することから用途が限られ、耐熱性を有する離型フィルムの開発が望まれている。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生分解性を有し、且つ耐熱性に優れる離型フィルムを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系組成物からなり、DSC測定における150~200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205~240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であるポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に離型層を設けてなることを特徴とするポリ乳酸系離型フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムを有してなる離型フィルムは、TMA測定による0.25MPa荷重での5%収縮温度が170℃と、従来のポリ乳酸の溶融温度を越えても熱変形が小さく、しかも生分解性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<ポリ-L-乳酸>
本発明のポリ乳酸系離型フィルムを構成する成分に係わるポリ乳酸系組成物の1成分であるポリ-L-乳酸(PLLA)は、L-乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。L-乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、後述のポリ-D-乳酸(PDLA)と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物からなる層あるいは当該層を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
・・・略・・・
<ポリ-D-乳酸>
本発明のポリ乳酸系離型フィルムを構成する成分に係わるポリ乳酸系組成物の1成分であるポリ-D-乳酸(PDLA)は、D-乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。D-乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、前述のポリ-L-乳酸と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物からなる層あるいは当該層を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性が劣る虞がある。
【0009】
・・・略・・・
【0011】
<ポリ乳酸系延伸フィルム>
本発明のポリ乳酸系離型フィルムに係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、前記ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系組成物からなり、DSC測定における150~200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205~240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下、好ましくは0.1以下であることを特徴とするポリ乳酸系延伸フィルムである。
【0012】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、前記特性に加え、205~240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が40J/g以上、より好ましくは50J/g以上であり、DSC測定における吸熱ピーク測定後に、降温した際の発熱量(ΔHc)が40J/g以上、より好ましくは50J/g以上の特性を有する。
・・・略・・・
【0016】
本発明におけるポリ乳酸系延伸フィルムの熱融解特性は、DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの融点(Tm)、205~240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)、150~200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205~240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)を求めるとともに、250℃に10分間維持した後、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させて、降温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの結晶化の際の発熱量(Hc)を求めた。
・・・略・・・
【0018】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムの厚さは、通常、5~500μm、好ましくは10~100μmの範囲にある。
【0019】
・・・略・・・
<ポリ乳酸系組成物>
本発明に係わる上記特性を有するポリ乳酸系延伸フィルムを得るには、ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系組成物として、以下の熱融解特性を有するポリ乳酸系組成物を用意して、延伸することが好ましい。
【0020】
本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、DSC測定において、ポリ乳酸系組成物を250℃で10分融解させた後に降温した際の発熱量(ΔHc)が好ましくは20J/g以上である熱特性を有することが望ましい。
さらに、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、そのDSCの第2回昇温時の測定(250℃で10分経た後に10℃/分で降温を行い、0℃から再度10℃/分で昇温)において得られたDSC曲線の150~200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク10)と205~240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク20)のピーク比(ピーク10/ピーク20)が好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下であるという熱特性を有することが望ましい。これは、この組成物がステレオコンプレックス晶を選択的に形成しているためと考えられる。
ピーク比(ピーク10/ピーク20)が0.5より大きいと、結晶化後にPLLA、PDLA単体結晶の形成量が大きく、ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とが十分に混練されていないので、結晶化後のα晶(PLLAあるいはPDLAの単独結晶)の形成量が大きいため、延伸しても耐熱性に劣る虞がある。
また、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、DSCの第2回昇温時における205~240℃の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が35J/g以上であることが好ましい。
本発明に係わるポリ乳酸系組成物の熱融解特性は、前記ポリ乳酸系延伸フィルムの熱融解特性を求めた方法と同様な方法で、DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠して求めた。なお、ポリ乳酸系組成物の熱融解特性は、降温時と第2回昇温時における特性を求めた。
・・・略・・・
【0024】
また、本発明に係わるポリ乳酸系組成物を調製する際に、PLLAとPDLAを十分に溶融混練することが望ましい。溶融混練時間は、用いる溶融混練機にもよるが、通常、5分間以上であればよい。PLLAとPDLAの溶融混練時間をより長くすればするほど、例えば、20分間以上、あるいは30分間以上とすることにより、得られるポリ乳酸系組成物は、DSCの第2回昇温時における205~240℃の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)が45J/g以上、あるいは50J/g以上となり、150~200℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量は3.5J/g以下、あるいは0J/gとなり、よりステレオコンプレックスの結晶化が早く、PLLAあるいはPDLAの単独結晶(α晶)が生成し難いポリ乳酸系組成物とすることができる。
【0025】
本発明に係るポリ乳酸系組成物は、ステレオコンプレックスの結晶化が早く、かつステレオコンプレックス結晶化可能領域も大きいので、PLLAあるいはPDLAの単独結晶(α晶)が生成し難いと考えられる。
【0026】
前述のように、本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、DSCによる250℃で10分経過後の降温時での測定(10℃/分)において結晶化によるピーク(発熱量ΔHc)が、20J/g以上であるとポリ乳酸系組成物の結晶化が速やかに起こる。
【0027】
また結晶化による発熱量が20J/gより小さいと結晶化速度が小さく、上記混練が十分でない虞がある。
・・・略・・・
【0029】
<ポリ乳酸系延伸フィルムの製造方法>
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、前記ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系組成物を用いて、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、好ましくは一方向に2倍以上、より好ましくは2~12倍、さらに好ましくは3~6倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルムが得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、12倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
【0030】
また、押出成形して得られるフィルムあるいはシートを、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2~7倍及び横方向に2~7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5~5倍及び横方向に2.5~5倍延伸することにより、耐熱性、透明性に優れる延伸フィルム(二軸延伸フィルム)が得られる。延伸倍率の上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、7倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。
【0031】
本発明に係わるポリ乳酸系延伸フィルムは、延伸した後、好ましくは140~220℃、より好ましくは150~200℃で、好ましくは1秒以上、より好ましくは3~60秒熱処理しておくと、更に耐熱性が改良される。
【0032】
<離型層>
本発明のポリ乳酸系離型フィルムに係わる離型層は、種々公知の重合体(樹脂)、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、各種ワックス、脂肪族オレフィンなどから形成されるが、特にシリコーン樹脂からなる層が好ましい。
・・・略・・・
<ポリ乳酸系離型フィルム>
本発明のポリ乳酸系離型フィルムは、前記熱的特性を有するポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に、前記離型層を設けてなる離型フィルムである。
<ポリ乳酸系離型フィルムの製造方法>
本発明のポリ乳酸系離型フィルムは、前記熱的特性を有するポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を含むポリ乳酸系延伸フィルムの少なくとも片面に離型層となる前記重合体、例えば、前記記載の付加反応系、縮合反応系、紫外線硬化系のシリコーン樹脂を樹脂成分とするいずれかの塗布液を塗布し、加熱乾燥、熱硬化または紫外線硬化することにより離型性塗膜を形成することができる。
・・・略・・・
離型層(硬化させたシリコーン樹脂層)の乾燥後の塗布量は、0.05~0.2g/m2の範囲が好ましい。シリコーン樹脂層の乾燥塗布量が0.05g/m2未満では、剥離性能が低下し、本来の剥離性能が出なくなる傾向がある。また、乾燥塗布量が0.2g/m2を超えると、硬化に時間がかかり生産上不都合が生じる虞がある。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例に制約されるものではない。
【0034】
実施例及び比較例等で使用したポリ乳酸は次の通りである。
(イ)ポリ-L-乳酸(PLLA-1):
D体量:1.9% Mw:22万(g/モル)、Tm:163℃。
(ロ)ポリ-D-乳酸(PURAC社製:PDLA-2):
D体量:100.0% Mw:135万(g/モル)、Tm:180℃。
・・・略・・・
本発明における測定方法は以下のとおりである。
・・・略・・・
(2)DSC測定
前記記載の方法で測定した。
・・・略・・・
(6)耐熱性
熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 熱・応用・歪測定装置 TMA/SS120)を用いてフィルムから幅4mmの試験片を切り出し、チャック間5mmで試験片に荷重0.25MPaを掛け、100℃(開始温度)から5℃/分で昇温し、各温度における試験片の変形(伸びまたは収縮)を測定した。
・・・略・・・
(9)酸素透過度
JIS K7126に基づいて20℃湿度0%RH(相対湿度)の条件で、酸素透過測定器(MOCON社製、OXTRAN2/21 ML)を使用して測定した。
(10)剥離力
ポリ乳酸系離型フィルムを水平台の上に離型層を上にして載置し、その離型層面に粘着テープ「No.31B」(日東電工(株)製)を貼り付けて200mm×50mmの大きさにカットし、さらにその粘着テープの上から20g/cm2となるように荷重を載せ、70℃で20時間エージングした。
ついで、引張試験機にて引張速度300mm/分で180°剥離を行い、剥離が安定した領域における平均剥離荷重を剥離力[N/50mm]として求めた。
参考例1
PLLA-1:PDLA-2を50:50(重量部)の比で計量し、二軸混練押出機を用い、溶融温度;250℃、混練時間;6分で、溶融混練してポリ乳酸系組成物を得た後、T-ダイシート成形機で、厚さ約300μmのポリ乳酸系組成物からなるシートを得た。かかるポリ乳酸系組成物の熱融解特性を前記記載の方法で測定した。
次に、当該シートをブルックナー社製二軸延伸機で、縦方向に延伸温度;65℃で3倍に、横方向に延伸温度;70℃で3倍に延伸し、テンター内で180℃で約40秒間のヒートセットを行い、ポリ乳酸系延伸フィルムを得た。得られたポリ乳酸系延伸フィルムの物性を前記記載の方法で測定した。測定結果を表1に、熱融解特性を図1及び図2に示す。
・・・略・・・
【0036】
【表1】
表1-1
[図:0001398237000002.jpg]
表1-2
[図:0001398237000003.jpg]
表1から明らかなように、参考例1で得られたポリ乳酸系組成物からなる二軸延伸フィルムは、熱融解特性において、150~200℃の範囲の吸熱ピーク(吸熱量)は僅かで、205~240℃の範囲の吸熱ピークは大きく、吸熱量(ΔHm)も66.1J/gと多く、降温した際の発熱量(ΔHc)も49.7J/gある。また、二軸延伸フィルムの素材となるポリ乳酸系組成物(シート)の熱融解特性は、第1回降温時の発熱量(ΔHc)が20.3J/gと20J/g以上であり、第2回昇温時には、150~200℃の範囲には吸熱ピークはみられず、205~240℃の範囲の吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)は51.0J/gと35J/g以上である。さらに、参考例1で得られたポリ乳酸系組成物からなる二軸延伸フィルムは、透明性、耐熱性に優れ、透湿度及び酸素透過度も低く、バリア性能を有し、・・・略・・・。
・・・略・・・
実施例1
参考例1のポリ乳酸系延伸フィルムの片面にコロナ処理を行い(濡れ調は39ダイン)、当該コロナ面に、シリコーン〔シリコーン 商品名:KS-847(信越化学(株)製)および触媒 商品名:PL-50T(信越化学(株)製)〕のトルエン/メチルエチルケトン(70/30容量比)混合溶媒の溶液をメーヤーNo.4を用いて塗布し、100℃のオーブンで20秒乾燥させ、 0.1g/m2の離型層を形成させ、40℃で数十時間エージングしてポリ乳酸系離型フィルムを得た。
・・・略・・・
得られたポリ乳酸系離型フィルムの離型層の剥離力は、0.1(N/50mm幅)である・・・略・・・本発明のポリ乳酸系離型フィルムは離型フィルムとしての性能を有していた。
・・・略・・・
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のポリ乳酸系離型フィルムは、TMA測定による0.25MPa荷重での5%収縮温度が170℃と、従来のポリ乳酸の溶融温度を越えても熱変形が小さく、しかも生分解性を有している。かかる特性を利用して、粘着ラベルや粘着テープなどの台紙、ポリ乳酸等生分解性フィルムからなる包装袋、例えば規格袋等の粘着シール部の離型フィルムなどの多種の用途に用いられる。積層セラミックコンデンサー製造用の工程フィルムとして使用が可能であり、離型フィルムとして使用した後には自然界で分解し、焼却処理などの必要が無く、離型フィルムとして極めて有用である。」

(2) 引用発明2

ア 引用例2の【0035】の記載によれば、【0036】の表1-1及び表1-2は、参考例1で得られた「ポリ乳酸系延伸フィルム」の物性の測定結果である。

イ そうすると、引用例2には、特許請求の範囲の請求項1に係る発明を具現化した態様である、参考例1で得られた「ポリ乳酸系延伸フィルム」の片面に「離型層」を形成した、実施例1の「ポリ乳酸系離型フィルム」の発明(以下「引用発明2」という。)として、以下の発明が記載されているものと認められる。

「 ポリ-L-乳酸(PLLA-1):ポリ-D-乳酸(PDLA-2):を50:50(重量部)の比で計量し、二軸混練押出機を用い、溶融温度;250℃、混練時間;6分で、溶融混練してポリ乳酸系組成物を得た後、T-ダイシート成形機で、厚さ約300μmのポリ乳酸系組成物からなるシートを得て、
次に、当該シートをブルックナー社製二軸延伸機で、縦方向に延伸温度;65℃で3倍に、横方向に延伸温度;70℃で3倍に延伸し、テンター内で180℃で約40秒間のヒートセットを行い、ポリ乳酸系延伸フィルムを得て、
ポリ乳酸系延伸フィルムの片面にコロナ処理を行い(濡れ調は39ダイン)、当該コロナ面に、シリコーン〔シリコーン 商品名:KS-847(信越化学(株)製)および触媒 商品名:PL-50T(信越化学(株)製)〕のトルエン/メチルエチルケトン(70/30容量比)混合溶媒の溶液をメーヤーNo.4を用いて塗布し、100℃のオーブンで20秒乾燥させ、0.1g/m2の離型層を形成させ、40℃で数十時間エージングして、得られたポリ乳酸系離型フィルムであって、
ポリ乳酸系延伸フィルムの、
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1st heatingのΔHmは66.1J/gであり、
1st heatingのTm=150~180℃のピーク高さ(ピーク1)は0.00W/g、Tm=200~250℃のピーク高さ(ピーク2)は0.55W/g、ピーク比(ピーク1/ピーク2)は0.00であり、
1st coolingのΔHcは49.7J/gであり、
耐熱性は、100℃、120℃、140℃、160℃、180℃、200℃、220℃において、MD方向は、それぞれ-0.7、-0.8、-1.2、-2.6、-5.9、-8.7、溶解、TD方向は、0.3、0.1、-0.5、-2.8、-7.3、-12.0、溶解であり、
酸素透過度(30μm)は、55cc/m2・d・atmであり、
ポリ乳酸系延伸フィルムは、透明性、耐熱性に優れ、透湿度及び酸素透過度も低く、バリア性能を有するものであり、
ポリ乳酸系離型フィルムの離型層の剥離力は0.1N/50mm幅である、ポリ乳酸系離型フィルム。
ここで、ΔHm、ピーク高さ及びΔHcは、以下のDSC測定によるものであり、耐熱性、酸素透過度及び剥離力は、以下の定義による。
(DSC測定)
DSC(示差走査熱量計)として、ティー・エイ・インスツルメント社製 Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K 7121及びJIS K 7122に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、0℃から加熱速度:10℃/分で250℃まで昇温して昇温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの融点(Tm)、205~240℃の範囲にある吸熱ピークの吸熱量(ΔHm)、150~200℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク1)と205~240℃の範囲にある吸熱ピークの最大吸熱ピークのピーク高さ(ピーク2)とのピーク比(ピーク1/ピーク2)を求めるとともに、250℃に10分間維持した後、冷却速度:10℃/分で0℃まで降温して結晶化させて、降温時のDSC曲線を得、得られたDSC曲線から、延伸フィルムの結晶化の際の発熱量(Hc)を求めた。
(耐熱性)
熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 熱・応用・歪測定装置 TMA/SS120)を用いてフィルムから幅4mmの試験片を切り出し、チャック間5mmで試験片に荷重0.25MPaを掛け、100℃(開始温度)から5℃/分で昇温し、各温度における試験片の変形(伸びまたは収縮)を測定した。
(酸素透過度)
JIS K7126に基づいて20℃湿度0%RH(相対湿度)の条件で、酸素透過測定器(MOCON社製、OXTRAN2/21 ML)を使用して測定した。
(剥離力)
ポリ乳酸系離型フィルムを水平台の上に離型層を上にして載置し、その離型層面に粘着テープ「No.31B」(日東電工(株)製)を貼り付けて200mm×50mmの大きさにカットし、さらにその粘着テープの上から20g/cm2となるように荷重を載せ、70℃で20時間エージングした。
ついで、引張試験機にて引張速度300mm/分で180°剥離を行い、剥離が安定した領域における平均剥離荷重を剥離力[N/50mm]として求めた。」

(3) 本件特許発明1について

ア 対比

(ア) 引用発明2の「離型層」は、その文言どおり、本件特許発明1の「離型層A」に相当する。

(イ) 引用発明2の「ポリ乳酸系延伸フィルム」は、「耐熱性に優れ」るものである。そうすると、引用発明2の「ポリ乳酸系延伸フィルム」は、「耐熱樹脂層B」に相当する。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)と、引用発明2の積層構造より、引用発明2の「ポリ乳酸系離型フィルム」は、本件特許発明1の「離型層Aと、耐熱樹脂層Bとを、含む」とされる、「積層フィルム」に相当する。

また、引用発明2の「ポリ乳酸系離型フィルム」は、本件特許発明1の「離型フィルム」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と、引用発明2とは、「離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムである離型フィルム。」の点において一致し、以下の点で、相違する。

(相違点2-1-1)

本件特許発明1においては、「前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°」であるのに対して、引用発明2においては、その特定がない点。

(相違点2-1-2)

本件特許発明1においては、「前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下」であるのに対して、引用発明2においては、かかる熱寸法変化率を満たすか不明である点。

(相違点2-1-3)

本件特許発明1においては、「前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃で、湿度50%R.H.条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下である」のに対して、引用発明2においては、その特定がない点。

(相違点2-1-4)

本件特許発明1は、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ものであるのに対して、引用発明2は、そのように用いられるか不明である点。

イ 判断

(ア) 新規性欠如について

a 相違点2-1-2について

引用発明2の「耐熱性」は、TD方向で120℃、0.1%であるところ、その「耐熱性」は、熱分析装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製 熱・応用・歪測定装置 TMA/SS120)を用いてフィルムから幅4mmの試験片を切り出し、チャック間5mmで試験片に荷重0.25MPaを掛け、100℃(開始温度)から5℃/分で昇温し、100℃~220℃(20℃おき)の各温度における試験片の変形(伸びまたは収縮)を測定したものであるから、試験片に0.25MPaの荷重を掛けた状態での各温度の試験片の長さから常温の試験片の長さを引いた差(正であれば伸びとなり、負であれば収縮となる)を常温の試験片の長さで割り、%表示で求めたものである。

ここで、相違点2-1-2に係る「熱寸法変化率」の測定方法とは、上記1(3)イ(ア)aで述べたとおりであり、長さ20mm、幅4mmに切り出したフィルムサンプルに0.005Nの荷重をかけた状態で23℃から120℃まで昇温させて、23℃及び120℃のフィルムサンプルの各長さに基づき求めたものであるところ、当該測定方法におけるフィルムサンプルの荷重0.005Nを、フィルムサンプルの断面積(2×10-7m2(幅:4mm、厚さ50μm))から圧力の単位に換算すると、0.005(N)/2×10-7(m2)=2.5×104(Pa)=0.025(MPa)となる。しかるところ、引用発明2の「耐熱性」は、相違点2-1-2に係る「熱寸法変化率」の測定方法における荷重とは、1桁異なる荷重をかけて測定された値であるといえる。

そして、測定時に負荷される荷重等の測定条件が異なれば、測定値が変動することは測定の分野における当業者の技術常識であり、上記のような両者のフィルムへの荷重(圧力)の違いを踏まえれば、本件特許発明1でいう横(TD)方向の23℃から120℃までの寸法変化率が3%以下であるとまではいえない。

b 相違点2-1-3について

引用発明2の「ポリ乳酸系延伸フィルム」の、JIS K7126に基づいて20℃湿度0%RH(相対湿度)の条件で、酸素透過測定器(MOCON社製、OXTRAN2/21 ML)を使用して測定した、30μmの厚みにおける「酸素透過度(30μm)」は、55cc/m2・d・atmであるところ、これを単位換算すると、略543ml/m2・day・MPaとなる。

当該値は、あくまで、塗布層を塗布する前の「ポリ乳酸系延伸フィルム」をの30μmの厚みで測定した場合の酸素透過度の値であって、引用発明2の「厚さ約300μmのポリ乳酸系組成物からなるシートを得て」、「次に、当該シートをブルックナー社製二軸延伸機で、縦方向に延伸温度;65℃で3倍に、横方向に延伸温度;70℃で3倍に延伸し、テンター内で180℃で約40秒間のヒートセットを行」ったうえ、「ポリ乳酸系延伸フィルム」の片面にシリコーンからなる0.1g/m2の離型層を形成したものの値は不明であるといわざるを得ない。

すなわち、引用発明2に係る「ポリ乳酸系延伸フィルム」の厚みが不明であるから、「酸素透過度(30μm)」の値に基づき換算することができないうえ、離型層を設けることにより、積層フィルム全体としての酸素透過度が低減するにしても、どの程度低減するかは不明であるから、引用発明2の片面に離型層を形成した「ポリ乳酸系延伸フィルム」の、積層フィルムとしての、JIS K7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が500ml/m2・day・MPa以下であるとまではいえない。

c したがって、本件特許発明1と引用発明2は、少なくとも相違点2-1-2及び相違点2-1-3において相違するから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明2ではない。

(イ)進歩性欠如について

a 相違点2-1-1について

(a) 引用例15の請求項1,2、【0001】、【0010】、【0025】、【0036】、【0048】及び【0071】【表1】や、引用例16の請求項1,2、【0001】、【0011】、【0025】、【0037、【0039】、【0050】、【0072】【表1】等に記載されているように、積層セラミックコンデンサ製造用の離型フィルムにおいて、離型性、低離型強度や、セラミックスラリの幅縮みの抑制、シート破れ、シートピンホール発生の抑制の観点から、離型層表面の水との接触角を100°から110°とすることは、本件出願前に周知の技術的事項である。

(b) 引用発明2は、「積層セラミックコンデンサー製造用の工程フィルムとして使用が可能」(【0039】)であるところ、引用発明2のポリ乳酸系離型フィルムにおいても、積層セラミックコンデンサー製造用の工程フィルムとしての使用に際し、離型性、低離型強度や、セラミックスラリの幅縮みの抑制、シート破れ、シートピンホール発生の抑制等は当然に求められることから、上記(a)の周知技術に基づき、離型層の水に対する接触角を100°~110°とすることは、当業者が容易になし得たことである。

b 相違点2-1-2、相違点2-1-3及び相違点2-1-4について

離型フィルムに関し、その適用されるプロセスが異なれば、求められる耐熱性、寸法安定性等の特性が異なることは明らかである。そうすると、適用されるプロセスに係る相違点2-1-4と、離型フィルムの特性に係る相違点2-1-2~相違点2-1-3は互いに関連するものであるから、ひとまとまりの構成として検討すべきものである。

以下、相違点2-1-4、相違点2-1-2及び相違点2-1-3をまとめて検討する。

(a) 本件特許発明1は、「樹脂封止後の成型品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け等の外観不良のない成形品を得ることができるとともに、金型の汚染を効果的に抑制できるプロセス用離型フィルムを提供する」(【0007】)という課題を解決すべく、「プロセス用離型フィルムの特定の温度における熱寸法変化率、とりわけプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムのTD方向(フィルムの面内であって、フィルムの製造時の長手方向に対して直交する方向。以下、「横方向」ともいう。)の熱寸法変化率を適切に制御し、かつ該積層フィルムの酸素透過度を所定の値以下に制御することが結果的に該積層フィルムの封止樹脂からアウトガス透過度を所定の値以下に制御することができることから、金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制に重要であることを見出し」(【0008】)なされたものである。

(b) これに対し、引用発明2に係る離型フィルムは、「生分解性を有し、且つ耐熱性に優れる離型フィルムを開発」(【0004】)することを目的とするものであって、引用例2の【0039】には、「特性を利用して、粘着ラベルや粘着テープなどの台紙、ポリ乳酸等生分解性フィルムからなる包装袋、例えば規格袋等の粘着シール部の離型フィルムなどの多種の用途に用いられる、積層セラミックコンデンサー製造用の工程フィルムとして使用が可能」である旨、多種の用途に適用し得ることが記載されている。

しかしながら、引用例2には、離型フィルムが適用される多種の用途として、熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いることについては記載も示唆もされていない。

そして、引用例2に例示された、粘着レベルや粘着テープなどの台紙や、規格袋等の粘着シール部の離型フィルムや積層セラミックコンデンサー製造用の工程フィルムに求められる特性と、熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる離型フィルムに求められる特性とでは、所望の耐熱性、形状安定性や皺の抑制や金型汚染性について異なることは、当業者の技術常識に照らし、明らかであって、引用例2には、適用プロセスが本件特許発明1と異なるものである結果、樹脂封止プロセス等において生じる、「金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制」といった課題すら認識されておらず、かかる課題を解決するために、「プロセス用離型フィルムの特定の温度における熱寸法変化率、とりわけプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムのTD方向(フィルムの面内であって、フィルムの製造時の長手方向に対して直交する方向。以下、「横方向」ともいう。)の熱寸法変化率を適切に制御し、かつ該積層フィルムの酸素透過度を所定の値以下に制御する」という技術思想についての開示も示唆もない。

そうしてみると、粘着レベルや粘着テープなどの台紙や、規格袋等の粘着シール部の離型フィルムや積層セラミックコンデンサー製造用の工程フィルムとして用いることが想定された引用発明2において、熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いるものとし、係るプロセスにおいて生じる「金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制」するとの課題を解決するために、特定の温度における積層フィルムのTD方向の熱寸法変化率に着目して、これを3%以下とし、かつ、酸素透過度に着目して、これを500ml/m2・day・MPa以下とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

申立人1及び申立人2が提出した他の証拠を検討しても同様である。

(c) してみると、引用発明2において、相違点2-1-2、相違点2-1-3及び相違点2-1-4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(d) 本件特許発明1の効果

本件特許発明1は、本件特許発明1に係る構成を備えることにより、「従来技術では実現できなかった高いレベルの離型性、皺の抑制、及び金型追従性を兼ね備え、かつ金型の汚染を効果的に抑制できるので、これを用いることで、半導体チップ等を樹脂封止等して得られる成形品を容易に離型できるとともに、皺や欠けなどの外観不良のない成形品を、高い生産性かつ低いコストで製造することができる。」(【0010】)という従来技術から予測し難い効果を奏するものである。

ウ 小括

以上のとおりであるから、本件特許発明1は、引用例2に記載された発明、及び異議申立1に係る甲2~甲6、異議申立2に係る甲1、甲3~甲13に記載された技術的事項基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4) 本件特許発明2について

ア 対比

本件特許発明2と引用発明2との対比は、上記(3)アの対比と同様である。

対比結果を踏まえると、本件特許発明2と、引用発明2とは、「離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルム。」の点において一致し、以下の点で、相違、又は一応相違する。

(相違点2-2-1)

本件特許発明2においては、「前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°」であるのに対して、引用発明2においては、その特定がない点。

(相違点2-2-2)

本件特許発明2においては、「前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下」であるのに対して、引用発明2においては、その特定がない点。

(相違点2-2-3)

本件特許発明2においては、「前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃で、湿度50%R.H.条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下」であるのに対して、引用発明2においては、その特定がない点。

(相違点2-2-4)

本件特許発明2においては、「前記積層フィルムの」「手順(1)から(3)に従い測定されたアウトガス透過度が1.0質量%以下」であるのに対して、引用発明2においては、その特定がない点。

(相違点2-2-5)

本件特許発明2は、「熱硬化性樹脂による封止プロセス、繊維強化プラスチック成形プロセス、またはプラスチックレンズ成形プロセスに用いる」ものであるのに対して、引用発明2は、そのように用いられるか不明である点。

イ 判断

相違点2-2-1~相違点2-2-3及び相違点2-2-5は、それぞれ上記(3)アで述べた相違点2-1-1~相違点2-1-4と同じである。

そうすると、上記(3)イ(イ)で相違点2-1-2、相違点2-1-3及び相違点2-1-4について述べた理由と同様な理由により、引用発明2において、相違点2-2-2、相違点2-2-3及び相違点2-2-5に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるということはできない

ウ 小括

以上のとおりであるから、本件特許発明2は、引用例2に記載された発明、及び異議申立1に係る甲2~甲6、異議申立2に係る甲1、甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5) 請求項3~12、14、16~17について

特許請求の範囲の請求項3~12、14、16~17は、いずれも、請求項1又は請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明3~12、14、16~17は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。

そうすると、上記(3)イ~ウ及び上記(4)イ~ウのとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2が、引用例2に記載された発明及び異議申立1に係る甲2~甲6、異議申立2に係る甲1、甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明3~12、14、16~17は、引用例2に記載された発明、及び異議申立1に係る甲2~甲6、異議申立2に係る甲1、甲3~甲13に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 申立人2は、特許異議申立書において、申立理由3(サポート要件違反(1))として、

(I) 本件特許発明1について、

「本件発明1の課題は、本件明細書の段落0007に記載のとおり、「樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け等の外観不良のない成形品を得ることができるとともに、金型の汚染を効果的に抑制できるプロセス用離型フィルムを提供すること」である。」、

「本件発明1では、前記課題を解決するための発明特定事項の一つとして、「前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、1000ml/m2・day・MPa以下である」ことが特定されている。」、「そして、本件明細書の段落0028には「当該積層フィルムの酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa以下であることにより、半導体封止プロセス等における金型の汚染を有効に抑制することができる。」と記載されている。即ち、本件明細書の記載からは、本件発明1の課題の一つである「金型の汚染を効果的に抑制できる」ことは、20℃、50%R.H.での酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa以下であることに基づいて解決されると解される。」、

「一方、本件明細書の実施例及び比較例には、・・・略・・・25℃、50%R.H.での酸素透過度が10~50ml/m2・day・MPa以下である場合に、金型の汚染を抑制できることが示されているに止まっている。」、

「本件特許明細書には、本件発明1において20℃、50%R.H.での酸素透過度の上限値を1000ml/m2・day・MPaに設定したことの技術的意義は一切説明されておらず、25℃、50%R.H.での酸素透過度が10~50ml/m2・day・MPaである場合に金型の汚染を抑制できたことをもって、20℃、50%R.H.での酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa(本件発明1の上限値)の場合に金型の汚染を抑制できると理解することはできない。」、

「従って、本件発明1は、20℃、50%R.H.での酸素透過度の範囲に関し、前記課題を解決できるとは認識できない範囲を包含しており、本件特許の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、サポート要件を満たしていない。」、

(II) 本件特許発明2について

「本件発明2では、前記課題を解決するための発明特定事項の一つとして、「前記積層フィルムのアウトガス透過度が1.0重量%以下」ことが特定されている。」、

「そして、本件明細書の段落0020には「積層フィルムのアウトガス透過度が、1.0重量%以下であることにより、半導体封止プロセス等における金型の汚染を有効に抑制することができる。」と記載されている。即ち、本件明細書の記載からは、本件発明2の課題の一つである「金型の汚染を効果的に抑制できる」ことは、アウトガス透過度が、1.0重量%以下であることに基づいて解決されると解される。」、

「一方、本件明細書の実施例及び比較例には、・・・略・・・アウトガス透過度が0.5質量%未満である場合に、金型の汚染を抑制できることが示されているに止まっている。」、

「本件特許明細書には、本件発明2においてアウトガス透過度の上限値を1.0質量%に設定したことの技術的意義は一切説明されておらず、アウトガス透過度が0.5質量%未満である場合に金型の汚染を抑制できたことをもって、アウトガス透過度が1.0質量%(本件発明1の上限値)の場合に金型の汚染を抑制できると理解することはできない。特に、アウトガス透過度が1.3質量%である場合(比較例1)に金型の汚染を抑制できていないという実験結果からは、アウトガス透過度が1.0質量%(本件発明2の上限値)の場合には、金型の汚染を抑制できない可能性が高いと予測するのが自然といえる。」、

(III) 本件発明3~17について

「本件発明3~17についても、本件発明1又は2の場合と同様の理由から、サポート要件を満たしていない。」と主張する。

また、申立人2は、特許異議申立書において、申立理由3(サポート要件違反(2))として、

(IV)「本件明細書の実施例及び比較例では、25℃、50%R.H.での酸素透過度の値について示されているに過ぎず、20℃、50%R.H.での酸素透過度の値については一切示されていない(本件明細書の表1参照)。」、

「そうしてみると、本件特許の発明の詳細な記載からは、20℃、50%R.H.の酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa以下の場合である場合に、前記課題を解決できるとは認識できず、サポート要件を満たしていない。また、本件発明3~17についても、同様の理由から、サポート要件を満たしていない。」と主張する。

2 当審の判断

(1) 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な脱明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解される。

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、プロセス用離型フィルム、好適には半導体封止プロセス用離型フィルムに関し、特に金型内に半導体チップ等を配置して樹脂を注入成形する際に、半導体チップ等と金型内面との間に配置されるプロセス用離型フィルム、及びそれを用いた樹脂封止半導体の製造方法に関する。」(【0001】)、「近年、半導体パッケージ等の小型軽量化に伴い、封止樹脂の使用量を減らすことが検討されている。そして、封止樹脂の使用量を減らしても、半導体チップ等と樹脂との界面を強固に接着できるようにするため、封止樹脂に含まれる離型剤の量を減らすことが望まれている。このため、硬化成形後の封止樹脂と金型との離型性を得る方法として、金型内面と半導体チップ等との間に離型フィルムを配置する方法が採られている。」(【0002】)、「このような離型フィルムとして、離型性および耐熱性に優れる、フッ素系樹脂フィルム・・・、ポリ4-メチル-1-ペンテン樹脂フィルム・・・等が提案されている。しかしながら、これらの離型フィルムは、金型内面に装着された際に皺が発生し易く、この皺が成形品の表面に転写されて外観不良を生じるという問題があった。」(【0003】)、「これに対して、離型層と、耐熱層とを有する積層離型フィルムが提案されている。これらの離型フィルムは、離型層で離型性を得るとともに、耐熱層で皺を抑制しようとするものである。これらの提案の代表的なものは、離型層と、耐熱層との貯蔵弾性率の関係に着目したものである・・・。」(【0004】)、「しかしながら、当該技術分野の発展に伴い半導体封止プロセス用離型フィルム等のプロセス用離型フィルムに対する要求水準は年々高まっており、より過酷なプロセス条件においても皺の発生が抑制されたプロセス用離型フィルムが求められており、特に、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が更に高いレベルでバランスしたプロセス用離型フィルムが強く求められている。また、半導体封止樹脂の種類によっては、成形時加熱された封止樹脂から発生するオリゴマー等の低分子量の気体(以下、「アウトガス」という。)が離型フィルムを透過して金型を汚染が生ずる場合があり、その抑制が求められていた。特に、半導体封止プロセス用離型フィルムに皺が発生する場合、例えばガス透過抑制層に無機膜や有機膜を有する離型フィルムを使用する場合、そのガス透過抑制層自体がフィルムに比べ薄膜であるため、離型フィルムに皺が発生するとガス透過抑制層はクラックや破れ、穴などが生じやすくなる。その結果加熱によって発生する封止樹脂から穴などが生じやすくなった箇所からアウトガスがフィルムを透過して金型面に堆積し局所的な金型の汚染が顕著に発生する場合がある。このような金型の汚染の進行によりフィルムの皺が発生しやすくなることがあるため、金型の洗浄サイクルが短くなることから半導体パッケージ工程の生産効率の低下や製造コスト等の観点から、金型汚染防止が求められていた。」(【0005】)、「本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け等の外観不良のない成形品を得ることができるとともに、金型の汚染を効果的に抑制できるプロセス用離型フィルムを提供することを目的とする。」(【0007】)、「本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、プロセス用離型フィルムの特定の温度における熱寸法変化率、とりわけプロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムのTD方向(フィルムの面内であって、フィルムの製造時の長手方向に対して直行する方向。以下、「横方向」ともいう。)の熱寸法変化率を適切に制御し、かつ該積層フィルムの酸素透過度を所定の値以下に制御することが結果的に該積層フィルムの封止樹脂からアウトガス透過度を所定の値以下に制御することができることから、金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制に重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0008】)との記載がある。

これらの記載を総合すると、本件特許発明は、

半導体封止プロセス用離型フィルム等のプロセス用離型フィルムにおいて、より過酷なプロセス条件においても皺の発生が抑制されたプロセス用離型フィルムが求められており、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が更に高いレベルでバランスしたプロセス用離型フィルムが強く求められているという事情に鑑み、プロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムの特定の温度におけるTD方向の熱寸法変化率を適切に制御し、かつ該積層フィルムの酸素透過度を所定の値以下に制御することが、結果的に該積層フィルムの封止樹脂からアウトガス透過度を所定の値以下に制御することができることから、金型内面に装着された際の皺の抑制及び金型の汚染の抑制に重要であることを見出しなされたものであって、

「樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつ皺や欠け等の外観不良のない成形品を得ることができるとともに、金型の汚染を効果的に抑制できるプロセス用離型フィルムを提供する」ものであると認められる。

(3) そこで、本件特許発明が、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又は本件特許出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえるかについて検討する。

ア 本件特許明細書の発明の詳細の説明には、「発明を実施するための形態」として、以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。

「【0012】
プロセス用離型フィルム
本発明のプロセス用離型フィルムは、以下の2態様を含む。
(第1態様)
続きを表示(全15行)
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であり、
前記積層フィルムの酸素透過度が、1000ml/m2・day・MPa以下である、上記プロセス用離型フィルム。なお、本発明における酸素透過度とはモコン社OX-TRAN2/21MLを用いて、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度をいう。
酸素透過度としては、金型汚染を効果的に防止する観点から、500ml/m2・day・MPa以下であることがより好ましく、250ml/m2・day・MPa以下であることが特に好ましい。
・・・略・・・
(第2態様)
離型層Aと、耐熟樹脂層Bと、を含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであって、
前記離型層A、及び前記離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であり、
後述の方法で測定された前記積層フィルムのアウトガス透過度が、1.0重量%以下である、上記プロセス用離型フィルム。」
「【0014】
本発明のプロセス用離型フィルムは、成形金型の内部で半導体素子等を樹脂封止するときに、成形金型の内面に配置される。このとき、離型フィルムの離型層A(離型層A’が存在する場合には離型層A’であってもよい)を、樹脂封止される半導体素子等(成形品)側に配置することが好ましい。本発明の離型フィルムを配置することで、樹脂封止された半導体素子等を、金型から容易に離型することができる。
離型層Aの水に対する接触角は、90°から130°であり、この様な接触角を有することにより離型層Aは濡れ性が低く、硬化した封止樹脂や金型表面に固着することなく、成形品を容易に離型することができる。」
「【0016】
本発明においては、上記目的を達成するために、プロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムとして、離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに該離型層を支持する耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムであって、その横(TD)方向の熱寸法変化率が特定の値を示す積層フィルムを用いる。
すなわち、離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに該離型層を支持する耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムは、そのTD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下である。また、そのTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下であることが好ましい。
上記積層フィルムのTD方向(横方向)の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であり、好ましくは更にそのTD方向(横方向)の23℃から170℃までの熱寸法変化率が4%以下であることにより、樹脂封止工程等における離型層の皺の発生を有効に抑制することができる。プロセス用離型フィルムを構成する積層フィルムとして横(TD)方向の熱寸法変化率が上記の特定の値を示すもの用いることで、離型層の皺の発生が抑制されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、比較的熱膨張/収縮の小さい積層フィルムを用いることにより、プロセス時の加熱/冷却による離型層A(又は離型層A’)の熱膨張/収縮が抑制されることと関連があるものと推測される。」
「【0020】
本発明の第2態様においては、離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムのアウトガス透過度は、1.0重量%以下である。・・・略・・・
積層フィルムのアウトガス透過度が、1.0重量%以下であることにより、半導体封止プロセス等における金型の汚染を有効に抑制することができる。
従来技術においては、封止樹脂であるエポキシ樹脂等からの易揮発性成分等がフィルムを透過し、金型への汚染を起こしていると推定される。そのアウトガスの成分としては封止樹脂から加熱時に揮発する低分子量成分であり、その中でも特に例えばシリコーンオイルのような常温で非揮発性の物質が金型を汚染すると推定される。
アウトガス透過度が所定値以下である、第2態様のプロセス用離型フィルムを構成する積層体はアウトガス中の汚染物質も透過しにくいために、封止樹脂等からの汚染物質を遮断して汚染物質の金型への付着を防止しうるものと推定される。」
「【0028】
本発明の第1態様のプロセス用離型フィルムを構成する、離型層A(及び所望により離型層A’)、並びに耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムの酸素透過度は、1000ml/m2・day・MPa以下である。
ここで、酸素透過度は、モコン社製OX-TRAN2/21MLを用いて、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50R.H.の条件で測定される。
当該積層フィルムの酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa以下であることにより、半導体封止プロセス等における金型の汚染を有効に抑制することができる。
酸素透過度は、上述のアウトガス透過度と一定の正の相関関係が有り、酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa以下である揚合、アウトガス透過度も金型の汚染を有効に抑制できるような低い値、例えば本発明の第2態様に規定するような値である可能性が高い。従って、本発明の第1態様における様に、より簡便に測定可能であり、また市販のフィルムについては測定済みで既知である場合も多い酸素透過度を指標とすることで、所定のアウトガス透過度を有する本発明の第2態様のプロセス用離型フィルムまたはその部材を、一層効率良く、設計、製造、又は入手することができる。」
「【0029】
積層フィルムの酸素透過度は、500ml/m2・day・MPa以下であることがより好ましく、・・・50ml/m2・day・MPa未満であることが特に好ましい。
」
「【0030】
離型層A
本発明のプロセス用離型フィルムを構成する離型層Aは、水に対する接触角が、90°から130°であり、・・・略・・・である。」
「【0037】
離型層Aは、成形時の金型の温度(典型的には120~180℃)に絶え得る耐熱性を有することが好ましい。かかる観点から、離型層Aとしては、結晶成分を有する結晶性樹脂を含むことが好ましく、当該結晶性樹脂の融点は190℃以上であることが好ましく、200℃以上300℃以下がより好ましい。
離型層Aに結晶性をもたらすため、例えばフッ素樹脂においてはテトラフルオロエチレンから導かれる構成単位を少なくとも含むことが好ましく、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体においては4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を少なくとも含むことが好ましく、ポリスチレン系樹脂においてはシンジオタクチックポリスチレンを少なくとも含むことが好ましい。離型層Aを構成する樹脂に結晶成分が含まれることにより、樹脂封止工程等において皺が発生し難く、皺が成形品に転写されて外観不良を生じることを抑制するのに好適である。」
「【0046】
耐熱樹脂層B
本発明のプロセス用離型フィルムを構成する耐熱樹脂層Bは、離型層A(及び場合により離型層A’)を支持し、かつ金型温度等による皺発生を抑制する機能を有する。」

イ 上記アで摘記した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からすると、本件特許発明1及び本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。

ウ そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の実施例として、以下の記載がある。

「【0118】
[実施例1]
無機ガスバリア層Cを積層した耐熱樹脂層Bとして、フィルムの片面に酸化アルミ(ALO膜)を蒸着した膜厚12μmの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムB1(三井化学東セロ株式会社製、製品名:TL-PET H)を使用した。当該フィルムB1の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で0.1%、横(TD)方向で0.4%であった。また、当該二軸延伸PETフィルムの融点は、260℃であり、結晶融解熱量は、38J/gであった。
【0119】
続きを表示(全40行)
離型層A及びA’として、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムA1を使用した。・・・略・・・
当該4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で6.5%、横(TD)方向で3.1%であった。
・・・略・・・
【0121】
(離型フィルムの製造)
無機ガスバリア層Cを積層した二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムB1の一方の面に、グラビアロートで上記ウレタン系接着剤を1.5g/m2で塗工し、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムのコロナ処理面をドライラミネートにて貼り合わせ後、続いてこのラミネートフィルムの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム面の側に、ウレタン系接着剤を1.5g/m2で塗工し、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムのコロナ処理面をドライラミネートにて貼り合わせて、5層構造(離型層A/接着層/ガスバリア層C/耐熱樹脂層B/接着層/離型層A’)のプロセス用離型フィルムを得た。
・・・略・・・
【0122】
当該プロセス用離型フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で0.8%、横(TD)方向で1.2%であった。また、25℃、相対湿度50%における酸素透過度は、15ml/m2・day・MPaであり、アウトガス透過度は、0.5重量%未満であった。
離型性、皺、金型追従性、及び金型汚染性の評価結果を表1に示す。離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる良好な離型性を示し、離型フィルムおよび半導体パッケージのいずれにも皺が全くなく、すなわち皺が十分に抑制され、半導体パッケージに樹脂欠けが全くない良好な金型追従性を示した。また、金型の汚染は認められなかった。すなわち、実施例1のプロセス用離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好であるうえに金型の汚染を有効に抑制することが可能なプロセス用離型フィルムであった。
【0123】
[実施例2]
無機ガスバリア層Cを積層した二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムB1に代えて、ポリビニルアルコールを含む有機ガスバリア層Cを積層したOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルムB2(膜厚20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面にポリビニルアルコール共重合体ガスバリア層Cを形成したガスバリアフィルムB2(三井化学東セロ株式会社製 製品名:A-OP AG))を用いて有機ガスバリア層Cの面の反対側の面にコロナ処理を行った他は、実施例1と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。なお、フィルムB2の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で0.2%、横(TD)方向で-0.3%であった。また、OPPフィルムB2の融点は、161℃であり、結晶融解熱量は、93J/gであった。
作製されたプロセス用離型フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で2.4%、横(TD)方向で0.4%であった。また、25℃、相対湿度50%における酸素透過度は、10ml/m2・day・MPaであり、アウトガス透過度は、0.5重量%未満であった。
離型性、皺、金型追従性、及び金型汚染性の評価結果を表1に示す。離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる良好な離型性を示し、離型フィルムおよび半導体パッケージのいずれにも皺が全くなく、すなわち皺が十分に抑制され、半導体パッケージに樹脂欠けが全くない良好な金型追従性を示した。また、金型の汚染は認められなかった。すなわち、実施例2のプロセス用離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好であるうえに金型の汚染を有効に抑制することが可能なプロセス用離型フィルムであった。
【0124】
[実施例3]
耐熱樹脂層BとしてB2に代えて膜厚20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面にポリ塩化ビニリデン共重合体を形成したガスバリアフィルムB3(三井化学東セロ株式会社製 製品名:V-OP OLE)(融点:160℃、結晶融解熱量:91J/g)を用いた以外は実施例2と同様にしてプロセス用離型フィルムを作成し封止、離型を行い、特性を評価した。なお、フィルムB3の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で0.4%、横(TD)方向で0.7%であった。また、OPPフィルムB2の融点は、160℃であり、結晶融解熱量は、91J/gであった。
作製されたプロセス用離型フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で2.6%、横(TD)方向で0.7%であった。また、25℃、相対湿度50%における酸素透過度は、50ml/m2・day・MPaであり、アウトガス透過度は、0.5重量%未満であった。
離型性、皺、金型追従性、及び金型汚染性の評価結果を表1に示す。離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる良好な離型性を示し、離型フィルムおよび半導体パッケージのいずれにも皺が全くなく、すなわち皺が十分に抑制され、半導体パッケージに樹脂欠けが全くない良好な金型追従性を示した。また、金型の汚染は認められなかった。すなわち、実施例3のプロセス用離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好であるうえに金型の汚染を有効に抑制することが可能なプロセス用離型フィルムであった。
[比較例1]
無機ガスバリア層を積層した二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムB1に代えて、ガスバリア層を有さないOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルムB4(膜厚20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製、製品名:U-2))を用いた他は、実施例1と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。なお、OPPフィルムB4の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で0.3%、横(TD)方向で-0.4%であった。また、OPPフィルムB4の融点は、161℃であり、結晶融解熱量は、92J/gであった。
作製されたプロセス用離型フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で2.1%、横(TD)方向で1.3%であった。また、25℃、相対湿度50%における酸素透過度は、15,000ml/m2・day・MPaであり、アウトガス透過度は、1.3重量%であった。
離型性、皺、金型追従性、及び金型汚染性の評価結果を表1に示す。離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる良好な離型性を示し、離型フィルムおよび半導体パッケージのいずれにも皺が全くなく、すなわち皺が十分に抑制され、半導体パッケージに樹脂欠けが全くない良好な金型追従性を示したが、金型に汚染が認められた。すなわち、比較例1のプロセス用離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性は良好であったものの、金型の汚染を有効に抑制することができなかった。
【0125】
[比較例2]
二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムB1を用いず、フィルムA2(三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:MX022)を用いて厚み50μmの無延伸フィルムを成膜したもの(融点:229℃、結晶融解熱量:21.7J/g))を単独でプロセス用離型フィルムとして使用し、実施例1と同様にして、封止、離型を行い、特性を評価した。なお、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムA2の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で7.2%、横(TD)方向で3.6%であった。また、25℃、相対湿度50%における酸素透過度は、300,000ml/m2・day・MPaであり、アウトガス透過度は、30重量%であった。
離型性、皺、金型追従性、及び金型汚染性の評価結果を表1に示す。離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる良好な離型性を示し、半導体パッケージに樹脂欠けが全くない良好な金型追従性を示したが、離型フィルムはもちろん、半導体パッケージにも多数の皺が認められ、皺を十分に抑制することができなかった。また、金型に汚染が認められた。すなわち、比較例2のプロセス用離型フィルムは、離型性、及び金型追従性は良好であったものの、皺及び金型の汚染を有効に抑制することができなかった。
[比較例3]
無機ガスバリア層を積層した二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムB11に代えて、無機ガスバリア層を積層した無延伸ポリプロピレンフィルムB5(膜厚20μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製、製品名:S))の両面にコロナ処理を行い、さらにその片面に酸化アルミニウム蒸着膜(ALO膜)を10nm厚付与したガスバリアフィルム)を用いた他は、実施例1と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。なお、無機ガスバリア層を積層した無延伸ポリプロピレンフィルムB5の23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で5.7%、横(TD)方向で6.2%であった。また、無延伸ポリプロピレンフィルムB5の融点は、162℃であり、結晶融解熱量は、114J/gであった。
作製されたプロセス用離型フィルムの23℃から120℃までの熱寸法変化率は、縦(MD)方向で6.8%、横(TD)方向で7.2%であった。また、25℃、相対湿度50%における酸素透過度は、30ml/m2・day・MPaであり、アウトガス透過度は、0.5重量%未満であった。
離型性、皺、金型追従性、及び金型汚染性の評価結果を表1に示す。良好な離型性を示したものの、皺の発生を有効に抑制することができず、さらに金型汚染性評価においても×の判定となった。フィルムに皺が発生した箇所でガスバリア性低下が生じた結果、アウトガス透過性が大きくなり汚れが顕在化したものと推測される。
【0126】
【表1】
[図:0001398237000004.jpg]
(当審注:便宜のため、図面を90度回転させ、縦横比を変えている。)」

エ 上記ウで摘記した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、離型層の水に対する接触角(°)、23℃から120℃までの横(TD)方向の熱寸法変化率(%)、25℃、相対湿度50%における酸素透過度(ml/(m2・day・MPa))及びアウトガス透過度(重量%)が、それぞれ105°、1.2%、15ml/m2・day・MPa、0.5重量%未満の実施例1のプロセス用離型フィルム、105°、0.4%、10ml/m2・day・MPa及び0.5重量%未満の実施例2のプロセス用離型フィルム、105°、0.7%、50ml/m2・day・MPa及び0.5重量%未満の実施例3のプロセス用離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好であるうえに金型の汚染を有効に抑制できることが、実施例の裏付けをもって開示されているといえる。

一方、比較例1~3のプロセス用離型フィルムについてみると、接触角、熱寸法変化率、酸素透過度及びアウトガス透過度が、それぞれ105°、1.3%、15000ml/m2・day・MPa及び1.3重量%の比較例1のプロセス用離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性は良好であったものの、金型の汚染を有効に抑制できないこと、接触角、熱寸法変化率、酸素透過度及びアウトガス透過度が、それぞれ105°、7.2%、30ml/m2・day・MPa及び0.5重量%の比較例3のプロセス用離型フィルムは、離型性、及び金型追従性は良好であったものの、皺の発生を有効に抑制することができず、フィルムに皺が発生した箇所でガスバリア性低下が生じた結果金型の汚染を有効に抑制できないこと、離型層Aの接触角、熱寸法変化率、酸素透過度及びアウトガス透過度が、それぞれ105°、3.6%、300000ml/m2・day・MPa及び30重量%の比較例2の離型層のみからなるプロセス用離型フィルムは、離型性、及び金型追従性は良好であったものの、皺及び金型の汚染を有効に抑制することができないことが開示されているといえる。

カ 上記アで摘示した本件特許明細書の各段落のメカニズムに係る記載と、上記イ、ウ、エの比較実験の結果を踏まえると、本件明細所の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の「前記離型層Aの水に対する接触角が、90°から130°であり」、「前記積層フィルムの横(TD)方向の23℃から120℃までの熱寸法変化率が3%以下であり」、「前記積層フィルムのJIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が、500ml/m2・day・MPa以下である」との発明特定事項を備えるプロセス用離型シート、及び、本件特許発明2の、前記3つの発明特定事項に加え「前記積層フィルムの」「手順(1)から(3)に従い測定されたアウトガス透過度が1.0重量%以下である」との発明特定事項を備えるプロセス用離型シートは、上記(2)で示した本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。

請求項1又は請求項2を直接又は間接的に引用する本件許発明3~12、14、16~17についても、同様である。

キ したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではない。

ク 申立人2は、「25℃、50%R.H.での酸素透過度が10~50ml/m2・day・MPaである場合に金型の汚染を抑制できたことをもって、20℃、50%R.H.での酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa(本件発明1の上限値)の場合に金型の汚染を抑制できると理解することはできない。」(上記1(I))、「本件明細書の実施例及び比較例では、25℃、50%R.H.での酸素透過度の値について示されているに過ぎず、20℃、50%R.H.での酸素透過度の値については一切示されていない」、「本件特許の発明の詳細な記載からは、20℃、50%R.H.の酸素透過度が1000ml/m2・day・MPa以下の場合である場合に、前記課題を解決できるとは認識できず、サポート要件を満たしていない。」(上記1(IV))と主張する。

しかしながら、フィルムの気体透過度は温度の上昇とともに増加することは技術常識であって、温度20℃、湿度50%の条件で測定した酸素透過度は、温度25℃、湿度50%の条件で測定した酸素透過度よりも小さくなることは明らかである。かかる技術常識に照らせば、実施例1~3の上記の評価結果から、熱寸法変化率が小さく(0.4~1.2%)、耐熱性に優れ、JIS K 7126に準じ、温度20℃、湿度50%R.H.の条件で測定した酸素透過度が500ml/m2・day・MPaよりも小さいような離型フィルムは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好であるうえに金型の汚染を有効に抑制できると認識できる。

したがって、申立人2の主張は採用できない。

また、申立人2は、「本件特許明細書には、本件発明2においてアウトガス透過度の上限値を1.0質量%に設定したことの技術的意義は一切説明されておらず、アウトガス透過度が0.5質量%未満である場合に金型の汚染を抑制できたことをもって、アウトガス透過度が1.0質量%(本件発明1の上限値)の場合に金型の汚染を抑制できると理解することはできない。特に、アウトガス透過度が1.3質量%である場合(比較例1)に金型の汚染を抑制できていないという実験結果からは、アウトガス透過度が1.0質量%(本件発明2の上限値)の場合には、金型の汚染を抑制できない可能性が高いと予測するのが自然といえる。」(上記1(II))と主張する。

しかしながら、アウトガス透過度が減少すれば、アウトガス量が減少して、上記アで摘示した本件明細書のメカニズムに係る記載からみて、金型への汚れの付着量が減少することは、当業者にとり明らかである。

そうすると、実施例1~3の上記の評価結果から、熱寸法変化率が小さく(0.4~1.2%)、耐熱性に優れ、アウトガス透過度が1.0重量%以下であるプロセス用離型シートは、離型性、皺の抑制、及び金型追従性が良好であるうえに金型の汚染を有効に抑制できると認識できる。

したがって、申立人2の主張は採用できない。

第7 むすび

1 本件特許発明1~12、14、16~17は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。

また、他に本件特許発明1~12、14、16~17を取り消すべき理由を発見しない。

2 本件特許の請求項13及び請求項15は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、申立人2による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項13及び請求項15に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

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2022-700163

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