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特許異議申立

2024-700369

ゲルを有する物体の製造法

審判番号
2024-700369
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-111880
登録番号
7365020
請求日
2024年04月18日
審決日
2025年08月29日
公報発行日
2025年12月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】有限会社スワニー
  • 【権利者代理人】寺岡 秀幸
  • 【権利者】伊那食品工業株式会社
  • 【権利者代理人】寺岡 秀幸
  • 【異議申立人】山内 康伸
審判長/審判官
  • 審判長 神谷 健一
  • 審判官 高松 大
  • 審判官 植前 充司
分類
P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.536-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条、特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第2条
データ出所
審決公報(XML)

結論

結 論 特許第7365020号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された、訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。 特許第7365020号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7365020号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願(特願2019-111880号)は、令和元年6月17日の出願(先の出願に基づく優先権主張 平成30年6月18日)であって、令和5年10月11日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月19日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和6年4月18日に特許異議申立人 山内 康伸(以下「異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和6年 6月 6日提出:手続補正書(異議申立人。以下、当該手続補正書により補正された特許異議申立書を「申立書」という。) 令和6年 8月 9日付け:取消理由通知書 令和6年10月11日提出:意見書、訂正請求書(特許権者) 令和7年 1月16日提出:手続補正書(特許権者) 令和7年 2月13日提出:意見書(異議申立人) 令和7年 3月14日付け:訂正拒絶理由通知書 令和7年 5月23日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和7年 6月17日提出:意見書、訂正請求書(特許権者) 令和7年 7月 9日提出:手続補正書(特許権者。この手続補正書により補正された令和7年 6月17日提出の訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。) なお、令和6年10月11日になされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 また、本件は、既に特許異議申立人に意見書を提出する機会が与えられている場合であって、本件訂正請求によって、特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記検討のとおり、特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、特許法第120条の5第5項に規定する特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないとされる特別な事情にあたると認められるので、異議申立人に意見書を再度提出する機会を与えないこととした。 第2 本件訂正請求について 1 訂正の趣旨及び訂正の内容 (1) 訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、「特許第7365020号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。 (2) 訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。 なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「、表面の粗さ」と記載されているのを、削除する訂正をする(請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~8も同様に訂正する)。 イ 訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0006】に記載された「、表面の粗さ」を削除する訂正をする。 (3) 一群の請求項について 訂正前の請求項1~8について、請求項2~8はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の適否 (1) 訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「熱伝導率、表面の粗さ、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料」との記載のうち、物性に関する選択肢から「表面の粗さ」を削除するものであるから、「複数の樹脂材料」を限定する訂正である。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~8についても、同様である。 イ 新規事項の有無 訂正事項1は、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~8についても、同様である。 ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否 訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~8についても、同様である。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 また、訂正事項2に係る訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (3) むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条4項、5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のものである。 「【請求項1】 3Dプリンタを用いて、熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料を、成形型の部位毎に配置して、前記成形型を作製する工程と、 熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する成形材料を前記成形型に供給し、成形物を得る工程、または、 熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル化特性を有する1以上の成形材料を、前記成形物の部位毎に異なる物性を有するように、前記成形型を用いて成形し、前記成形物を得る工程と、 を有する、ゲルを有する物体の製造法。 【請求項2】 前記成形物は、生体組織を模した成形物である請求項1記載のゲルを有する物体の製造法。 【請求項3】 前記成形物中に、前記成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料の一部または全部を埋設させることを特徴とする、 請求項1または2に記載のゲルを有する物体の製造法。 【請求項4】 前記生体組織を模した成形物、または手術材料の一部または全部を、物性または色の違う複数の樹脂材料で製造する、 請求項3に記載のゲルを有する物体の製造法。 【請求項5】 前記成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料は、3Dプリンタを用いて形のあるものを造形する造形物および/または、成形型を用いて成形する第2成形物を有する、 請求項1から4のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。 【請求項6】 前記成形材料が、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ゼラチン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、アルギン酸塩、ペクチン、カードラン、澱粉、卵白、卵白加工物、ポリビニルアルコール、乳清タンパク質素材、ゼラチン酵素反応物、タマリンドガム酵素反応物、サイリウムシードガムから選ばれるいずれか1以上を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。 【請求項7】 前記成形物とは異なる生体組織を模した成形物、または手術材料と、前記成形物が、それぞれ視覚により判別できる異なる色彩をなすことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。 【請求項8】 前記ゲルを有する物体は、手術練習用、または医療用ロボットの操作の習得用の前記ゲルを有する物体である請求項1から7のいずれか1項に記載のゲルを有する物体の製造法。」 第4 取消理由の概要 令和7年5月23日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。 理由1:(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲1~8の記載が「表面の粗さ」「の違う樹脂材料」が明確でない点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法113条4項に該当し、取り消されるべきものである。 理由2:(新規性)本件特許の請求項1~5及び7~8に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 理由3:(進歩性)本件特許の請求項1~8に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法113条2項に該当し、取り消されるべきものである。 (異議申立人が提示した証拠方法) 甲第1号証:特開2017-26791号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2017-105001号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開2010-156894号公報(以下「甲3」という。) 甲第4号証:特開2015-36809号公報(以下「甲4」という。) 甲第5号証:特許第5745155号公報(以下「甲5」という。) 甲第6号証:特開2017-203950号公報(以下「甲6」という。) 甲第7号証:「高精細3Dカタログ AGILISTAシリーズ」カタログ、株式会社キーエンス、2019年(以下「甲7」という。) 甲第8号証:国際公開第2017/126313号(以下「甲8」という。) (当合議体注:甲1は主引用文献であり、甲2~8は副引用又は周知技術を示す資料である。) 第5 取消理由についての当合議体の判断 令和7年5月23日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由についての当合議体の判断は、以下のとおりである。 1 理由1(明確性要件)について 本件訂正により、請求項1において「表面の粗さ、」が削除されたため、明確性要件違反が解消された。 2 理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について (1) 本件特許発明1について ア 甲1の記載事項 令和7年5月23日付けで特許権者に通知した取消理由で引用した甲1は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。(当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。) (ア) 「【請求項1】 ハイドロゲル構造体と、該ハイドロゲル構造体の表面の外周に形成された皮膜とを有する立体造形モデルであって、該立体造形モデルを、温度25℃、湿度50%RHの環境下において1週間保管した時の立体造形モデルの質量減少率が5%以下であることを特徴とする立体造形モデル。 ・・・(略)・・・ 【請求項7】 少なくとも、有機モノマー、層状粘土鉱物、水を含むハイドロゲル前駆体液を型に注入して硬化、もしくは3次元プリンターにより積層造形して、ハイドロゲル構造体を形成した後、ハイドロゲル構造体の表面に皮膜を塗布形成することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の立体造形モデルの製造方法。 【請求項8】 少なくとも、有機モノマー、層状粘土鉱物、水を含むハイドロゲル前駆体液を型に注入して硬化、もしくは3次元プリンターにより積層造形して、ハイドロゲル構造体を形成した後、ハイドロゲル構造体の表面に熱収縮フィルムをラミネートすることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の立体造形モデルの製造方法。 【請求項9】 少なくとも、有機モノマー、層状粘土鉱物、水を含むハイドロゲル前駆体液を型に注入して硬化、もしくは3次元プリンターにより積層造形して、ハイドロゲル構造体を形成した後、ハイドロゲル構造体の表面に皮膜を噴霧形成することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の立体造形モデルの製造方法。」 (イ) 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、外科手術等の手術シミュレーション用として好適な立体造形モデルに関する。 【背景技術】 【0002】 従来より、外科手術等の手技練習用にはシリコーン、ウレタンエラストマー、スチレンエラストマー等で製造された臓器モデルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。患者の術後の回復の良否及びQOL向上のためにも、外科医と補助スタッフの手技レベルを一定水準以上に向上することが求められている。そのためにも、より人間の臓器に触感や、超音波メス、電気メス等の手術デバイスの使用感の類似した臓器モデルを提供することが求められている。しかし、現在普及している擬似モデルは触感や内部構造が実物とは程遠いものである。 【0003】 このため、より実物に近い臓器を用いて練習する必要があり、ウェットラボと呼ばれるミニブタを用いた動物実験による手術トレーニングが行われている。しかし、前記ウェットラボの場合もミニブタでは人間の臓器とは異なる部位もあった。また、練習のために適切な疾患を持ったミニブタを提供することは困難であった。更に、ミニブタを生育し、鮮度を維持管理できる環境は非常に高価であり、練習のために何度もウェットラボを開催することは現実的に困難であった。 したがって、外科医の手技能力を向上するために形状だけでなく触感、切れ味等の質感についても忠実に再現した立体造形モデルが必須であった。 【0004】 一方、実際の手術に際して患者本人の臓器を忠実に再現された臓器モデルがあれば、術前に手術計画を立案する際に実際にこれを切ったり、縫合したりするシミュレーションが可能になり、難易度の高い腫瘍摘出手術などの成功率を向上することが可能となる。 また、質感を再現することを目的とした臓器モデルとしては、ポリビニルアルコールを主体とする材料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 従来の臓器モデルは、実物の臓器に比較して比較的硬く、また、血管や腫瘍部分等の内部構造(内包物)を忠実に再現することができていなかった。このため、血管や疾患部等の内部構造を忠実に再現でき、かつ臓器の触感及び切れ味が所望の臓器に極めて近く、更に手術用メスでの切開が可能な立体造形モデルの提供が望まれている。 そこで、本発明は、血管や疾患部等の内部構造を忠実に再現でき、かつ臓器の触感及び切れ味が所望の臓器に極めて近く、更に手術用メスでの切開が可能な立体造形モデルを提供することを目的とする。 また、本発明はこの立体造形モデルの保存安定性、形状保持性、外観性などを付与することを目的とする。」 (ウ) 「【発明を実施するための形態】 【0009】 (立体造形モデル) 本発明の立体造形モデルは、有機ポリマーと、水に分散可能な層状粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目構造中に水が包含されているハイドロゲルからなる立体構造物(以下、「ハイドロゲル構造体」という)の表面の外周に皮膜が形成されている。更に、ハイドロゲル構造体は必要に応じてその他の成分を含んでなる。 【0010】 前記立体造形モデルは、機械的強度を保持し、弾力を臓器と同等にする必要がある。このために、立体造形モデルは、有機ポリマーと、水に分散可能な層状粘土鉱物とを複合化したハイドロゲルを含む。 ・・・(略)・・・ 【0013】 [ハイドロゲル前駆体液] 前記ハイドロゲル前駆体液は、有機ポリマーと、水に分散可能な層状粘土鉱物とを含み、水を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。 ・・・(略)・・・ 【0032】 <立体造形モデルの製造方法> 本発明の立体造形モデルの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に立体造形モデルは複雑な形状を再現する必要があり、更に複数の性質の異なる部位が混在する必要があるため、以下に示すような製造方法が好ましい。 例えば、適切な加工方法で型を製作し、型にハイドロゲル前駆体液を注入し硬化させる方法である。また、血管等の内包物は別途成形しておき、型の所定位置に配置することができる。 【0033】 前記型、及び前記血管等の内包物としては、金属や樹脂を切削加工、光造形、又は3次元プリンターなどで製造することが好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0035】 [3次元プリンターによる製造方法] まずは、ハイドロゲル前駆体を含む液体を、適切な精度で目的の場所に塗布する。この際、塗布の方式は塗布できる方式であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスペンサー方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。 ・・・(略)・・・ 【0037】 次いで、上記で形成された膜を硬化させる。 前記膜を硬化する手段としては、例えば、紫外線(UV)照射ランプ、電子線などが挙げられる。前記膜を硬化する手段には、オゾンを除去する機構が具備されることが好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0039】 以上の様な方法により、ハイドロゲル構造体を形成する。 次いで、以下に示すような方法により、ハイドロゲル構造体の表面の外周に、皮膜を設けることで本発明の立体造形モデルを製造することが出来る。 ・・・(略)・・・ 【0044】 ハイドロゲル構造体の表面に皮膜を形成することで、外観性を改善することができる。例えば、ハイドロゲル構造体の表面に傷や表面荒れが存在する場合は皮膜により外観性を補うことができる。また、表面の皮膜が犠牲層となることで、内部のハイドロゲル構造体を保護することができる。また、ハイドロゲル構造体の表面はマーキングなどの記入を行うことができないが、ハイドロゲル構造体の表面に皮膜を形成することにより、術前シミュレーションの際手順マーキングを書き込むことができるため、モデルとしての機能性を付与することができる。 ・・・(略)・・・ 【0046】 本発明の立体造形モデルが適用できる臓器には、特に制限はなく、人体内のあらゆる内臓部位を再現することが可能であるが、例えば、脳、心臓、食道、胃、膀胱、小腸、大腸、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、子宮などが挙げられる。 【0047】 また、本発明の立体造形モデルは、血管や疾患部等の内部構造を忠実に再現でき、かつ臓器の触感及び切れ味が所望の臓器に極めて近く、更に手術用メスでの切開が可能である。このため、例えば、医師、大学の医学部、病院などにおいて、医師、研修医、医学生などの手技練習用の臓器モデル、製造された手術用メスを出荷する前に、その切れ味を検査するための手術用メスの切れ味検査用の臓器モデル、手術を行う前に手術用メスの切れ味を確認するための臓器モデルなどとして好適である。」 (エ) 「【実施例】 【0051】 以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。 【0052】 (実施例1) <ハイドロゲル前駆体液の調製> 以下では、減圧脱気を10分間実施したイオン交換水を、「純水」と記載する。 まず、開始剤液として、純水98質量部に対してペルオキソ二硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)2質量部を溶解させた水溶液を準備した。 次に、純水195質量部を攪拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na-0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)8質量部を少しずつ添加し、攪拌して分散液を作製した。 次に、前記分散液に重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させて重合禁止剤を除去したN,N-ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)を20質量部添加した。 次に、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を0.2質量部添加し、混合した。 次に、得られた混合液を氷浴で冷却しながらテトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)を0.1質量部添加した。 次に、前記開始剤液を5質量部添加して攪拌混合した後、減圧脱気を10分間実施し、均質なハイドロゲル前駆体液を得た。 【0053】 <ハイドロゲル構造体の成形> 得られたハイドロゲル前駆体液を、以下に示す型に流し込み、25℃環境下で20時間静置し、型から取り出すことでハイドロゲル構造体を得た。 【0054】 <型の作製> インクジェット光造形装置としてのキーエンス社製アジリスタを用い、肝臓の3次元モデルデータを適用して加工した型を製作した。 【0055】 <皮膜の形成> 上記で得たハイドロゲル構造体の表面に、プラスティコート#100:大京化学社製をディップ法にて塗布し、厚さ30μmのフィルムを形成して、肝臓モデルを得た。」 (オ) 「【0058】 (実施例4) 実施例1に記載の方法で肝臓モデルを造形する際に、血管についてインクジェット光造形装置を用いて造形し、血管が判別可能な着色を行った。この血管を前記型の一部に固定化した後に、実施例1と同じハイドロゲル前駆体液を流し入れ、最後に型からゲル造形物を取り出す際に血管を臓器モデル内に内包する形で残した。以上により、血管が内包された肝臓モデルを作製した。」 イ 甲1発明 甲1には、次の発明が記載されているものと認める。 「 開始剤液として、純水98質量部に対してペルオキソ二硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)2質量部を溶解させた水溶液を準備し、 純水195質量部を攪拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na-0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)8質量部を添加し、攪拌して分散液を作製し、前記分散液に重合性モノマーとして、N,N-ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)を20質量部添加し、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を0.2質量部添加し、得られた混合液を氷浴で冷却しながらテトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)を0.1質量部添加し、前記開始剤液を5質量部添加して攪拌混合し、ハイドロゲル前駆体液を得、 ハイドロゲル前駆体液を、インクジェット光造形装置としてのキーエンス社製アジリスタを用い、肝臓の3次元モデルデータを適用して加工した型に流し込み、25℃環境下で20時間静置し、型から取り出すことでハイドロゲル構造体を得、 ハイドロゲル構造体の表面に、プラスティコート#100:大京化学社製をディップ法にて塗布し、厚さ30μmのフィルムを形成して、肝臓モデルを造形する際に、 血管についてインクジェット光造形装置を用いて造形し、血管が判別可能な着色を行い、この血管を型の一部に固定化した後に、ハイドロゲル前駆体液を流し入れ、血管を臓器モデル内に内包する形で残した、 手技練習用の肝臓モデルの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。) ウ 甲2の記載事項 令和7年5月23日付けで、特許権者に通知した取消理由で引用した甲2は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。 「【0013】 (第1の実施形態) 図1は、第1の実施形態に係る射出成形品の製造システム100の構成例を示す図であり、図2は、本実施形態に係る射出成形品の製造方法のフローを示す図である。本実施形態に係る射出成形品の製造方法は、樹脂製の成形型10の空洞部12に樹脂材料20を充填する工程(S20)と、充填した樹脂材料20を固化させる工程(S30)とを含む。そして、充填する工程(S20)では、空洞部12を排気しながら充填する。以下に詳細を説明する。 ・・・(略)・・・ 【0023】 成形型10は樹脂組成物を用いて作製できる。樹脂組成物に含まれる樹脂としては、たとえばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、アクリルニトリルブタジエンスチレン、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、転写性に優れることから、シリコーン樹脂が好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0027】 成形型10はたとえば、得たい成形品と同一形状の原型を準備し、型取りすることで得られる。このとき、原型の注入孔18や孔14とする位置に凸部を設けておいたり、もしくは型取り後に型を切削したりすることにより、成形型10に孔14や注入孔18を設けることができる。また、成形型10は、たとえば3Dプリンターで作製することもできる。」 エ 甲3の記載事項 令和7年5月23日付けで、特許権者に通知した取消理由で引用した甲3は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。 (ア) 「【請求項1】 少なくとも表面層がポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールで構成されていることを特徴とする臓器モデル。」 (イ) 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給しても膨潤しすぎない臓器モデルを提供することを目的とする。 ・・・(略)・・・ 【発明を実施するための最良の形態】 【0013】 本発明者は、前記した従来の臓器モデルが抱えている永年の技術的課題に着目して鋭意研究を重ねたところ、臓器モデルを構成する材料として、ポリビニルアルコールをホウ酸化合物で架橋させた架橋ポリビニルアルコールを用いた場合には、驚くべきことに、生体臓器と同様の弾性を有し、切開をしたときに切開部が生体臓器のように広がり、水濡れ性および切り心地が生体臓器に近似するとともに、その表面がべとつかずに含水率が低く、乾燥したときに水分を補給しても膨潤しすぎないという優れた性質を有し、医師などが手技練習をするのに好適に使用することができる臓器モデルが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。 ・・・(略)・・・ 【0035】 本発明の臓器モデルは、実際の臓器に近似させる観点から、架橋ポリビニルアルコールからなる表面層を有し、その内部が空洞であることが好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0045】 内部に空洞を有する臓器モデルにおいて、その内部は、臓器の種類によっては空洞のままであってもよいが、必要により、液体やゲルをその内部に充填することができる。 【0046】 例えば、液体として、血液と同様の色彩を有する液体を臓器モデルの内部の空洞に充填した場合には、その臓器モデル内に血液状の液体が充填された臓器モデルを製造することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、その内部に充填されている液体が創傷口から漏出するので、適切な手技練習が行われているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。 【0047】 また、臓器モデルの内部の空洞にゲルを充填した場合には、その臓器モデル内に、その臓器を構成している臓器の組織物と同様の色彩や硬さなどを有する臓器の組織物状のゲルが充填された臓器モデルを製造することができる。この臓器モデルは、人体などの切開や切削縫合などの手術における手技練習の際に、切開による創傷が深すぎて適切でないとき、その内部に充填されているゲルが創傷口から漏出するので、実践に即して適切な手技練習が行われているかどうかを容易に確認することができる手技練習用の臓器モデルとして好適に使用することができる。 【0048】 臓器モデルの内部に充填されるゲルには特に限定がなく、流動性を有するものから寒天状の高いゲル強度を有するものまで、生体臓器の種類に応じて幅広いゲル強度を有するゲルを臓器モデルの内部の空洞部分に充填することができる。ゲルとしては、例えば、ポリビニルアルコール水溶液を冷解凍することによって得られるゲル、吸水性樹脂に水を吸収させたゲル、寒天、ゼリーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、ゲルには、その臓器の種類に応じ、その臓器内の組織に近似した性状を有するゲルを用いることが好ましい。また、ゲルには、必要により、例えば、顔料、染料などの着色剤、香料、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤などの添加剤が適量で添加されていてもよい。 ・・・(略)・・・ 【0057】 なお、臓器モデルの表面、その内部や内面には、より実物の臓器に近似させるために、必要により、前記架橋ポリビニルアルコールのシートや塊状物などを用いて、襞、皺、血管に見立てた管などを形成させてもよい。」 オ 甲4の記載事項 令和7年5月23日付けで、特許権者に通知した取消理由で引用した甲4は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。 (ア) 「【請求項1】 10~20重量%のポリビニルアルコールに、0.1~7重量%の塩を添加し、疾患を有する組織の形状を模していることを特徴とする導電性臓器モデル。」 (イ) 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、弾性が生体組織に酷似した臓器モデルであって、高周波スネアを用いた手技をトレーニング可能なように導電性を付与した臓器モデルを提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明の導電性臓器モデルは、10~20重量%のポリビニルアルコールに、0.1~7重量%の塩を添加し、疾患を有する組織の形状を模していることを特徴とする。 【0012】 塩を0.1~7重量%の割合で入れることにより、ポリビニルアルコールに導電性を付与することができる。臓器、組織の物理的性質によって、導電性は異なるが、0.1~7重量%の塩を加えることによって、所望の導電性を付与することができる。 【0013】 また、臓器によってその組織の硬さは異なるが、ポリビニルアルコール濃度を上記範囲で調節することによって、本発明の導電性臓器モデルは、所望の硬さにすることが可能となり、種々の組織モデルを形成することができる。」 カ 甲5の記載事項 令和7年5月23日付けで、特許権者に通知した取消理由で引用した甲5は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 ここで、切開等に使用される切除具としては、手術用メス、手術用ナイフ、手術用エネルギーデバイス(例えば、電気メス、超音波メス、高周波ラジオ波メス等)を挙げることができる。これらの内、エネルギーデバイスは、切開のみならず体液を凝固できる点で多用されている。このように、エネルギーデバイスに適した擬似臓器モデルが求められるところ、特許文献1及び特許文献2の臓器モデルのいずれも、質感(例えば切開前の硬さ)及び生体反応の再現(特に、切断直後の体液の状態)という点で不十分であるという課題がある。 ・・・(略)・・・ 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、擬似体液(例えば血)として特定の素材を用いることにより、実際の臓器と類似した質感を実現できると共に、エネルギーデバイスの使用を用いた際の生体反応をリアルに再現できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。 ・・・(略)・・・ 【発明を実施するための形態】 【0016】 本発明に係る臓器モデルは、常温でゲル状であり、かつ、エネルギーデバイスで切開した際に切開部分周辺が体液を模した色の液状になる体液層を有し、前記体液層が、ハイドロゲル材料からなり、該ハイドロゲル材料がポリビニルアルコールを含有することを特徴とするエネルギーデバイス切開用臓器モデルである。 ・・・(略)・・・ 【0021】 『第1実施形態』 ≪第1実施形態に係る臓器モデルの構成≫ <全体の構成> 実施形態に係る臓器モデルは、目的に応じて、常温でゲル状であり、かつ、エネルギーデバイスで切開した際に切開部分周辺が血液を模した色の液状になる血液層を有し、前記血液層が、ハイドロゲル材料からなり、該ハイドロゲル材料がポリビニルアルコールを含有することを特徴とするエネルギーデバイス切開用臓器モデルであって、前記血液層上にハイドロゲル材料からなる組織層が少なくとも1 以上積層した積層体であることを特徴としている。」 キ 甲6の記載事項 令和7年5月23日付けで、特許権者に通知した取消理由で引用した甲6は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。 「【0003】 臓器モデルは、生体の感触を模倣するため柔軟性が必要であり、従来、生体と同程度の硬度を有する寒天、ゼラチン等の材料によって制作されてきた。」 ク 甲7の記載事項 令和7年5月23日付けで、特許権者に通知した取消理由で引用した甲7は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。 (ア) 「 [図:0001429979000001.jpg] 」 (イ) 「 [図:0001429979000002.jpg] 」 ケ 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア) 成形型を作製する工程 甲1発明の「インクジェット光造形装置としてのキーエンス社製アジリスタ」は、上記(1)ク(ア)で示した甲7の記載からみて、本件特許発明1の「3Dプリンタ」に相当する。そして、甲1発明の「肝臓モデルの製造方法」は、「肝臓の3次元モデルデータを適用して」「型」を「加工し」ているから、「3Dプリンタを用いて」「成形型を作製する工程」を有するといえる。 (イ) 成形物を得る工程 甲1発明の「ハイドロゲル構造体」は、その材料組成からみて、「N,N-ジメチルアクリルアミド」の重合体を含む「ゲル」である。そして、甲1発明の「ハイドロゲル構造体」は、「熱可逆性」といえる(要すれば、特開平3-286973号公報の第3頁左上欄第12~20行及び同頁右下欄第8行、特開平7-228639号公報の段落【0018】~【0019】、開平10-139689号公報の段落【0006】を参照されたい。)から、本件特許発明1の「熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル特性を有する」という要件を満たす。また、甲1発明の「肝臓モデルの製造方法」は、「ハイドロゲル前駆体液を」、「型に流し込み」、「25℃環境下で20時間静置し、型から取り出すことでハイドロゲル構造体を得」ているから、本件特許発明1の「熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル特性を有する成形材料を前記成形型に供給し、成形物を得る工程、または、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル特性を有する1以上の成形材料を、前記成形物の部位毎に異なる物性を有するように、前記成形型を用いて成形し、前記成形物を得る工程」を有するといえる。 (ウ) ゲルを有する物体の製造法 甲1発明の「肝臓モデル」は、「ハイドロゲル構造体の表面に」、「フィルムを形成し」て得られるから、本件特許発明1の「ゲルを有する物体」に相当する。そうしてみると、甲1発明の「肝臓モデルの製造方法」は、本件特許発明1の「ゲルを有する物体の製造法」に相当する。 コ 一致点及び相違点 本件特許発明1と甲1発明は、「3Dプリンタを用いて、材料を、成形型の部位毎に配置して、前記成形型を作製する工程と、 熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル特性を有する成形材料を前記成形型に供給し、成形物を得る工程、または、熱可逆性、熱硬化性、カチオン反応性のいずれかのゲル特性を有する1以上の成形材料を、前記成形物の部位毎に異なる物性を有するように、前記成形型を用いて成形し、前記成形物を得る工程と、 を有する、ゲルを有する物体の製造法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 材料が、本件特許発明1は、「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料」であるのに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。 サ 判断 (ア) 新規性について a 上記相違点1についての検討 甲1の【0054】には、「インクジェット光造形装置としてのキーエンス社製アジリスタを用い、肝臓の3次元モデルデータを適用して加工した型を製作した。」と記載されていることにとどまり、上記相違点1に係る「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料」が記載されているのではない。また、甲1の【0058】には、「実施例1に記載の方法で肝臓モデルを造形する際に、血管についてインクジェット光造形装置を用いて造形し、血管が判別可能な着色を行った。」と記載されていることにとどまり、インクジェット光造形装置を用いて造形した血管が着色されたのであって、型を製作する樹脂材料が着色されたものではない。 したがって、相違点1は実質的にも相違点である。 b 異議申立人の主張についての判断 (a) 異議申立人は、申立書(16~19頁「第5 新規性・進歩性要件違反」欄)、及び、令和7年2月13日に提出した意見書において、取消理由2(新規性)について、概略次のように主張している。 本件特許発明1の「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂」は、「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性の樹脂」(相違点A)、または「色の違う複数の樹脂」(相違点B)と認められる。 甲1発明の「立体造形モデルを製造するための型」は、ある程度の「熱伝導率、硬度、弾力性」(1以上の物性)を有することは当然であるから、相違点Aが相違点とはならない。 したがって、取消理由2を解消していない。 (b) しかしながら、本件特許明細書の【0075】に、「たとえば、成形型50a,50bの各区画の熱伝導率を変えることができると、ゲルの硬化速度を部分的に調整することができる。」、「また、成形型50a,50bの各区画の硬さを変えることができると、成形型50a,50bの頑丈さまたは強度を部分的に調整することができる。」、「また、成形型50a,50bの各区画の弾力性を変えることができると、縁部233a,233bによる成形型50a,50bの密閉、または、断面内層53による成形型50a,50bの略全体の柔軟性の付与が実現できる。」、段落【0076】に、「そのため、成形型50a,50bの製造に必要な樹脂材料を、一度の印刷作業で、繋ぎ部材を必要としない一体造形物(一つのかたまり)として配置し、成形型50a,50bを製造できる。」と記載されていることから、本件特許発明1の「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂」は、「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性の違う複数の樹脂」または「色の違う複数の樹脂」と解するのが相当である。 そして、甲1発明は、「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂」を使用することが特定されていないため、本件特許発明1が甲1発明であるということはできない。 (イ) 進歩性について a 上記相違点1についての検討 上記(ア)で述べた事項に加え、上記相違点1に係る構成は、甲1の他の箇所にも記載されていない。また、上記相違点1に係る構成は、他の甲号証にも記載されておらず、周知技術であるともいえない。 そうしてみると、たとえ当業者といえども、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得たとはいえない。 b 効果についての検討 本件特許発明1は、甲1~8の記載事項に比して本件特許明細書の【0019】に効果として記載された「本発明では、製造を容易にすることを可能とし、且つ低コスト化を可能とするゲルを有する物体の製造法およびゲルを有する物体および成形材料を提供することができる。」といった作用効果を奏するものである。 c 異議申立人の主張についての判断 (a) 異議申立人は、申立書(16~19頁「第5 新規性・進歩性要件違反」欄)、及び、令和7年2月13日に提出した意見書において、取消理由3(進歩性)について、概略次のように主張している。 上記相違点Bについて、甲1発明は「色の違う複数の樹脂」を使用することが特定されていない点で一応相違する。 しかしながら、成形型を製造する際に「単色の樹脂」及び「色の違う複数の樹脂」のいずれを用いたとしても、同一の成形体が得られることは当たり前のことである。また、「色の違う複数の樹脂」を使用すると生産効率が低下することは、技術常識である。さらに、「色の違う複数の樹脂」を使用することにより甲1発明と対比して有利な効果が奏されることが、本件明細書の記載からは認められない。 したがって、取消理由3を解消していない。 (b) しかしながら、上記第5の2(1)サ(イ)で述べたとおり、甲1~8には、「色の違う複数の樹脂材料」が記載されておらず、周知技術であるともいえない。 そうしてみると、たとえ当業者といえども、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることが容易に想到し得たとはいえない。 (ウ) 小括 したがって、本件特許発明1は、甲1発明と同一ではない。また、当業者といえども、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (2) 本件特許発明2~8について 本件特許発明2~8は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを備え、さらに限定するものであるから、本件特許発明2~8も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 3 まとめ 上述のとおり、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。 また、上述のとおり、本件特許発明1~8は、甲1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたともいえず、本件特許発明1~8は、特許法29条の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法113条2号に該当しない。 よって、本件特許の請求項1~8に係る特許は、取消理由1~3によって取り消すことはできない。 第6 令和7年5月23日付け取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由について 1 令和7年5月23日付け取消理由通知(決定の予告)(以下、「決定の予告」という。)で採用しなかった異議申立理由概要 異議申立人が申立書において主張する異議申立理由のうち、決定の予告で採用しなかった異議申立理由は概略次のとおりである。 (1) 申立理由1(実施可能要件違反) 請求項1に「1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料」とあるが、そのような物性または色を有し、使用可能な樹脂材料が具体的にどのようなものであるのかが、発明の詳細な説明に記載されていないため、発明の詳細な説明を参酌しても本件特許発明を実施できない。 (2) 申立理由2(サポート要件違反) 請求項1に「熱伝導率・・・硬度・・・または色の違う複数の材料を、成形型の部位毎に配置して、前記成形型を作製する工程」が記載されている。 しかし、成形型を形成させるために使用される材料の熱伝導率、硬度または色は、得られる成形物自体の形状、性質、色等に影響を与えるものではない。 してみれば、本件特許発明のように熱伝導率、硬度または色の違う材料を用いて型を作製したとしても、熱伝導率、硬度または色が同じ材料を用いて成形型を作製したときと対比して、得られる成形物自体に差異が生じるものとは認められない。それどころか、成形型の材料に熱伝導率、硬度または色が違う複数の材料を使用することは、却って製造工程が複雑になるとともにコスト高となる。 したがって、請求項1に係る発明は、熱伝導率、硬度または色が違う材料を使用しているため、本件明細書の[0005]に記載の「製造を容易にすることを可能とし、且つ低コストを可能とする」という課題を解決しない。 (3) 申立理由3(明確性要件違反) ア 請求項1に「1以上の物性・・・複数の樹脂材料」とあるが、当該「1以上の物性」の概念には、「1の物性」、換言すれば単一の物性が含まれている。 そうすると、「1の物性を有する樹脂材料」は「複数の樹脂材料」でないから、本件特許発明が明確でない。 イ 請求項1に「硬度、または弾力性」とあるが、当該「または」は、択一的表現である。しかし、その語句の後に「から選ばれる1以上の物性」とあり、当該「1以上の物性」は、複数の物性を包含しているため、前述の物性が択一的であることと矛盾していることから、本件特許発明が明確でない。 ウ 請求項1の「1以上の成形材料を、前記成形物の部位毎に異なる物性を有するように、前記成形型を用いて成形し」とあるが、当該「1以上」の概念には1種類の成形材料が含まれている。 そうすると、1種類の成形材料を用いることにより、部位毎に異なる物性(熱伝導率、硬度、弾力性等)をどのようにして付与することができるかが不明であるため、本件特許発明が明確でない。 2 合議体の判断 (1) 申立理由1(実施可能要件違反)について ア 実施可能要件の判断基準 本件特許発明1~8は「物体の製造法」であるから、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法2条3項3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。 イ 実施可能要件についての判断 本件特許の請求項1には、「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料を、成形型の部位毎に配置して、前記成形型を作製する工程」が記載されている。 当業者であれば、樹脂材料として、熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う材料を用いることは、熱伝導率、硬度又は弾力性の異なる樹脂材料を選択したり、樹脂材料に着色剤を添加したりして色の違う材料とすることは、実施可能である。また、複数の樹脂材料を成形型の部位毎に配置して、成形型を作製することも、甲1に記載されたインクジェット光造形装置を用いるなどして実施可能である。 これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1~8に係る発明の製造方法を使用することができるものといえる。 よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1~8について、当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載されており、実施可能要件を満たすということができる。 (2) 申立理由2(サポート要件違反)について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 イ サポート要件についての判断 本件特許明細書の【0005】には、課題として、「本発明の目的は、製造を容易にすることを可能とし、且つ低コストを可能とするゲルを有する物体の製造法およびゲルを有する物体および成形材料を低供することである。」と記載されている。 本件特許明細書において、【0075】の第4の実施の形態には、「第4の実施の形態によって、成形型50a,50bの各区画の硬さ、表面の粗さ、耐熱性、弾力性および熱伝導率等を変えることができる。たとえば、成形型50a,50bの各区画の熱伝導率を変えることができると、ゲルの硬化速度を部分的に調整することができる。」(下線は当合議体が付与した。)と記載されている。この点について、【0095】及び【0096】には、「第4の実施形態では、成形型50a,50bの、樹脂材料の熱伝導率、硬さ、耐熱性、弾力性を調整した。しかし、その他に、色,表面の粗さ,吸水性,表面温度,耐衝撃性,粘度,密着性から選ばれる1以上を調整しても良い。」及び「また、第4の実施形態では、ゲルの流動性、硬化速度、または表面の粗さから選ばれる1以上を、部位によって調整した。」と記載されている。これらの記載により、第4の実施形態において、樹脂材料の熱伝導率、硬さ、耐熱性、弾力性等を調整することにより、ゲルの流動性、硬化速度又は表面の粗さ部位によって調整できることが理解できる。ここで、ゲルとは、本件特許発明1に係るゲル化特性を有する成形材料であることは明らかである。そうしてみると、本件特許明細書の第4の実施形態においては、樹脂材料の熱伝導率、硬さ、耐熱性、弾力性等を調整することで、成形材料の特性を調整できることから、製造を容易にすることが可能であるといえる。 そうすると、上記の記載によれば、本件特許発明1に係る「製造法」においては、「成形型50a,50bの各区画の硬さ、・・・(略)・・・、弾力性および熱伝導率等を変える」、「成形型50a,50bの、樹脂材料の熱伝導率、硬さ、・・・(略)・・・、弾力性を調整し・・・(略)・・・、その他に、色・・・(略)・・・を調整」するとの特定事項を満たすことにより、当業者は発明の課題を解決できると認識できる。 したがって、本件特許発明1に係る「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料を、成形型の部位毎に配置して、前記成形型を作製する工程」は、課題を解決する手段が反映されているといえる。 そうすると、本件特許発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。 (3) 申立理由3(明確性要件違反)について ア 明確性要件の判断基準 特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 イ 明確性要件についての判断 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8の記載は上記第3のとおりである。 本件特許の請求項1の「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性または色の違う複数の樹脂材料」の記載は、物性が異なるのは1又は複数であるのに対して、樹脂材料は複数あるという意味であると理解できる。例えば、熱伝導率という1つの物性の違う2種類の樹脂材料がある場合を示すといえる。 また、同「熱伝導率、硬度、または弾力性から選ばれる1以上の物性」の記載は、物性が異なるのは1つであってもよく、あるいは複数であってもよいという意味であると理解できる。例えば、熱伝導率のみ異なる2種類の樹脂材料があってもよく、あるいは熱伝導率及び硬度が異なる2種類の樹脂材料があってよいといえる。 そして、同「1以上の成形材料を、前記成形物の部位毎に異なる物性を有するように、前記成形型を用いて成形し」の記載自体は明確であり、上記(2)イで示した本件特許明細書の【0075】、【0095】及び【0096】の記載とも整合していると理解できる。 したがって、請求項1~8の記載それ自体は明確であり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。 よって、本件発明1~8については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 3 まとめ 上記のとおり、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法36条4項1号又は6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。 よって、本件特許の請求項1~8に係る特許は、申立理由1~3によって取り消すことはできない。 第7 むすび 本件特許1~8は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許1~8を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700369

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