特許異議申立
2025-700231
リサイクル性を向上させた3D印刷用熱可塑性ポリマー粉末
- 審判番号
- 2025-700231
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-519871
- 登録番号
- 7541001
- 請求日
- 2025年02月26日
- 審決日
- 2025年07月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アルケマ フランス
- 【権利者代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
- 【異議申立人】中水 麻衣
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 高松 大
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (B29C) / P1651.121-Y (B29C) / P1651.536-Y (B29C) / P1651.537-Y (B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第29条、特許法第36条、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7541001号発明「リサイクル性を向上させた3D印刷用熱可塑性ポリマー粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7541001号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7541001号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願(特願2021-519871号)は、2019年(令和元年)10月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年(平成30年)10月11日、フランス)を国際出願日とする出願であって、令和6年8月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年2月26日に特許異議申立人 中水 麻衣(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1~14に対して特許異議の申立てがされ、同年4月21日及び同年5月28日に特許異議申立人より手続補正書が提出された。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱可塑性ポリアミドをベースとする3D印刷を意図した粉末であって、粉末の総重量に対して少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤を0.1~5重量%含み、前記少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であることを特徴とする、粉末。
【請求項2】
前記少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、100%に相当する粉末の総重量に対して、0.1%~4%に相当する、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
前記ポリアミドが、PA11、PA12、PA10.10、6~12個の炭素原子を含む脂肪族ジアミンと9~12個の炭素原子を含む脂肪族二酸との縮合で生じる脂肪族ポリアミド、90%超の単位11又は90%超の単位12のいずれかを含むコポリアミド11/12から選択される少なくとも1種のポリアミドを含む、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
前記ポリアミドが、10~150μmの範囲の体積中央直径D50を有する粉末の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
3D印刷方法における熱可塑性ポリアミドをベースとする粉末の色を安定化させるための方法であって、粉末の総重量に対して少なくとも0.1重量%の少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が組み込まれ、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される方法。
【請求項6】
3D印刷方法において、熱可塑性ポリアミドをベースとする粉末の固有粘度を増加させ、次いで安定化するための方法であって、粉末の総重量に対して0.1~5重量%の少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が組み込まれ、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、前記粘度が、1.5~2の範囲内である方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、100%に相当する粉末の総重量に対して、0.1%~4%に相当する、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
次の方法、すなわち、チオエーテルの水性分散液中へのポリマーの含浸、配合によるブレンドによるポリマー合成時のチオエーテルの添加、又はポリマーを用いて開始する粉末製造工程の任意の工程中のチオエーテルの添加の少なくとも1つによって、チオエーテルが取り込まれる、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリアミドが、PA11、PA12、PA10.10、6~12個の炭素原子を含む脂肪族ジアミンと9~12個の炭素原子を含む脂肪族二酸との縮合で生じる脂肪族ポリアミド、90%超の単位11又は90%超の単位12のいずれかを含むコポリアミド11/12から選択される少なくとも1種のポリアミド(ホモポリアミド又はコポリアミド)を含む、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリアミドが、10~150μmの範囲の体積中央直径D50を有する粉末の形態である、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末を用いる3D印刷方法。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末を用いて焼結することにより物品を製造する方法であって、未焼結粉末を回収し、再利用する方法。
【請求項13】
熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用であって、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される使用。
【請求項14】
熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末のリサイクル性を改善するための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用。」
第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠方法として下記8に示す甲第1号証~甲第8号証(以下、特許異議申立人が提出した甲第1号証~甲第8号証を、それぞれ「甲1」~「甲8」のようにいう。)を提出し、概略、下記1~7の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が仮に付与した。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件特許発明1~3、7~9、11は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである(申立書30~38及び122~124ページ)。
2 申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~14は、甲1に記載された発明、甲1~8に記載された事項及び技術常識に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1~14に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書30~38及び122~124ページ)。
3 申立理由2-2(甲2に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~14は、甲2に記載された発明、甲1~8に記載された事項及び技術常識に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1~14に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書39~59及び122~124ページ)。
4 申立理由2-3(甲3に基づく進歩性欠如)
本件特許発明1~14は、甲3に記載された発明、甲1~8に記載された事項及び技術常識に基づいて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1~14に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである(申立書59~73及び122~124ページ)。
5 申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである(申立書74~122及び124~125ページ)。
6 申立理由4(サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書74~122及び125ページ)。
7 申立理由5(明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明は明確でないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書74~122及び125~126ページ)。
8 特許異議申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特表2020-509137号公報
甲第2号証:特開2018-95880号公報
甲第3号証:特開2018-2944号公報
甲第4号証:特開2018-69681号公報
甲第5号証:特表2002-512645号公報
甲第6号証:特表2019-536909号公報
甲第7号証:国際公開第2018/158224号
甲第8号証:国際公開第2018/091855号
なお、甲7及び甲8は、甲1及び甲6に対応する本件特許の優先日以前に公開された国際公開として、令和7年4月21日及び同年5月28日に提出した手続補正書により特許異議申立人があらためて提出したものであり、提出された甲7の翻訳文及び甲8の翻訳文は、それぞれ甲1及び甲6と同一である。
第4 当合議体の判断
甲1及び甲6は、本件特許の優先日である2018年10月11日より後に公開された国内公表であるが、当該国内公表に対応する国際公開の国際公開日が本件特許の優先日前であることは甲1及び甲6の1ページの記載から明らかであるから、申立理由1~2-3の甲1及び甲6についての判断においては、それらの国際公開である甲7及び甲8に基づくものとする。
また、以下甲7及び甲8に記載された事項の摘記においては、それらの訳文を摘記し、甲7及び甲8原文の摘記は省略する。
1 申立理由1~2-1(甲7を主引用例とする新規性欠如・進歩性欠如)について
(1) 甲7の記載事項
甲7(特許異議申立人が提示した甲1の国際公開)には、以下の記載がある。なお、合議体が判断に用いた箇所に下線を付した。
「 成分A:
ISO 307に準拠して25℃で96質量%硫酸中の0.5質量%溶液で測定して、固有粘度がIV107ml/gのポリアミド6(BASF SE社からのUltramid(登録商標)B22)。
成分B:
アルミニウムハイポホスファイト(Italmatch Chemicals SPA社からのPhoslite(登録商標)IP-A)。
成分C:
ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩(Clariant GmbH社からのExolit(登録商標)OP1230)。
成分D:
平均粒径が約2.6μmのメラミンシアヌレート(BASF SE社からのMelapur(登録商標)MC25)。
・・・(略)・・・
成分E/2:
1500~2500ダルトンの数平均分子量Mnを有する粉状のポリビニルピロリドンホモポリマー(BASF SE社からのLuvitec(登録商標)K17)。
・・・(略)・・・
成分F/1:
ポリアミド用の標準チョップドガラス繊維、L=4.0mm、D=10μm。
成分F/2(PVPプレミックス):
製剤E1~E5では、次のさらなる添加剤:0.35%の3,3’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-N,N’-ヘキサメチレンジプロピオンアミド(CAS番号23128-74-7)を熱安定剤として、及び0.4%のエチレンビスステアラミド(CAS番号110-30-5)を処理助剤として、使用した。」(16ページ22行~17ページ24行、参考:甲1【0121】~【0130】。)
「表1中の成分A)~F)の割合の合計は、100質量%である。成形組成物の構成及び試験の結果は、同様に表1に見出すことができる。」(17ページ34~36行、参考:甲1【0132】。)
「成形組成物の製造
適切なプラスチック成形組成物を配合することによって調製した。このために個別の成分を、約250~270℃の平坦な温度プロファイルを有するZSK26(Berstorff)二軸押出機で、スループット20kg/hで混合し、ストランドの形態で排出してペレット化ができるまで冷却し、ペレット化した。
表1に列挙する試験の試験試料は、Arburg420C射出成形機で、溶解温度約250~290℃で、型温度約80℃で、射出成形した。」(17ページ39行~18ページ6行、参考:甲1【0133】~【0134】。)
「
[図:0001425785000001.jpg]
」(20ページ、参考:甲1【0143】。表は便宜のため時計回りに90度回転している。なお、表中の「発明例1・・・比較例3」は、原文では「E1・・・V3」と記載されている。)
(2)甲7に記載された発明
上記(1)の実施例1における「発明例1」の記載を中心に整理すると、甲7には以下の発明が記載されていると認められる。
「 成分A:
ISO 307に準拠して25℃で96質量%硫酸中の0.5質量%溶液で測定して、固有粘度がIV107ml/gのポリアミド6(BASF SE社からのUltramid(登録商標)B22) 45.25%、
成分B:
アルミニウムハイポホスファイト(Italmatch Chemicals SPA社からのPhoslite(登録商標)IP-A) 11.3%、
成分C:
ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩(Clariant GmbH社からのExolit(登録商標)OP1230) 5%、
成分D:
平均粒径が約2.6μmのメラミンシアヌレート(BASF SE社からのMelapur(登録商標)MC25) 6.7%、
成分E/2:
1500~2500ダルトンの数平均分子量Mnを有する粉状のポリビニルピロリドンホモポリマー(BASF SE社からのLuvitec(登録商標)K17) 1%、
成分F/1:
ポリアミド用の標準チョップドガラス繊維、L=4.0mm、D=10μm 30%、
成分F/2(PVPプレミックス):
0.35%の3,3’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-N,N’-ヘキサメチレンジプロピオンアミド(CAS番号23128-74-7)を熱安定剤として、及び0.4%のエチレンビスステアラミド(CAS番号110-30-5)を処理助剤として、使用し、
個別の成分を二軸押出機で混合し、ストランドの形態で排出してペレット化ができるまで冷却し、ペレット化し、
射出成形機で、溶解温度約250~290℃で、型温度約80℃で、射出成形した、
成形組成物。」(以下、「甲7成形組成物発明」という。)
「 成分A:
ISO 307に準拠して25℃で96質量%硫酸中の0.5質量%溶液で測定して、固有粘度がIV107ml/gのポリアミド6(BASF SE社からのUltramid(登録商標)B22) 45.25%、
成分B:
アルミニウムハイポホスファイト(Italmatch Chemicals SPA社からのPhoslite(登録商標)IP-A) 11.3%、
成分C:
ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩(Clariant GmbH社からのExolit(登録商標)OP1230) 5%、
成分D:
平均粒径が約2.6μmのメラミンシアヌレート(BASF SE社からのMelapur(登録商標)MC25) 6.7%、
成分E/2:
1500~2500ダルトンの数平均分子量Mnを有する粉状のポリビニルピロリドンホモポリマー(BASF SE社からのLuvitec(登録商標)K17) 1%、
成分F/1:
ポリアミド用の標準チョップドガラス繊維、L=4.0mm、D=10μm 30%、
成分F/2(PVPプレミックス):
0.35%の3,3’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-N,N’-ヘキサメチレンジプロピオンアミド(CAS番号23128-74-7)を熱安定剤として、及び0.4%のエチレンビスステアラミド(CAS番号110-30-5)を処理助剤として、使用し、
個別の成分を二軸押出機で混合し、ストランドの形態で排出してペレット化ができるまで冷却し、ペレット化し、
射出成形機で、溶解温度約250~290℃で、型温度約80℃で、射出成形した、
成形組成物の製造方法。」(以下、「甲7組成物製造方法発明」という。)
なお、甲7の記載事項からは、本件特許発明13の「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用であって、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される使用。」及び本件特許発明14の「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末のリサイクル性を改善するための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用。」に対応する発明を、認定することはできない。
(3) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲7成形組成物発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
・相違点7-1
本件特許発明1は、「熱可塑性ポリアミドをベースとする3D印刷を意図した粉末」であるのに対し、甲7成形組成物発明は、そのように特定されていない点。
・相違点7-2
本件特許発明1は、「粉末の総重量に対して少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤を0.1~5重量%含み、前記少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)である」のに対し、甲7成形組成物発明は、そのように特定されていない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、上記相違点7-2について検討する。
甲7及び他の全ての証拠を見ても、相違点7-2は実質的な相違点である。
また、甲7には、酸化遅延剤及び熱安定剤の例として、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])」が好ましいことが記載(甲7の14ページ8~9行)されているものの、甲7には、成形組成物にチオエーテル酸化防止剤を含有させることについて記載がない。
さらに、甲7及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲7成形組成物発明において、チオエーテル酸化防止剤を含有させる動機付けもない。
してみると、甲7成形組成物発明において、相違点7-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
なお、この点に関し、特許異議申立人は申立書において、甲7には、チオエーテル酸化防止剤を用いることが記載されている旨主張する(申立書30ページ)が、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]には硫黄原子は含まれていないから、特許異議申立人の当該主張は失当である。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7成形組成物発明ではなく、甲7成形組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件特許発明2~4、11及び12について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、4、11及び12は、いずれも、請求項1を引用するものであって、本件特許発明2、4、11及び12は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲7成形組成物発明ではないし、本件特許発明1が、甲7成形組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~4、11及び12も、甲7成形組成物発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明5について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲7組成物製造方法発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
・相違点7-3
本件特許発明5は、「3D印刷方法における熱可塑性ポリアミドをベースとする粉末の色を安定化させるための方法」であるのに対し、甲7組成物製造方法発明は、そのように特定されていない点。
・相違点7-4
本件特許発明5は、「粉末の総重量に対して少なくとも0.1重量%の少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が組み込まれ、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であ」るのに対し、甲7組成物製造方法発明は、そのように特定されていない点。
・相違点7-5
本件特許発明5は、「約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される」のに対し、甲7組成物製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、上記相違点7-4について検討する。
上記ア(イ)で述べたのと同様に、甲7及び他の全ての証拠を見ても、相違点7-4は実質的な相違点であるし、甲7組成物製造方法発明において、チオエーテル酸化防止剤を含有させる動機付けもない。
してみると、甲7組成物製造方法発明において、相違点7-4に係る本件特許発明5の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
特許異議申立人の主張についても、上記ア(イ)で述べたのと同様である。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲7組成物製造方法発明ではなく、甲7組成物製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明6~10について
本件特許の特許請求の範囲の請求項6~10は、いずれも、請求項5を引用するものであって、本件特許発明6~10は、本件特許発明5の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記ウのとおり、本件特許発明5は、甲7組成物製造方法発明ではないし、本件特許発明5が、甲7組成物製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明6~10も、甲7組成物製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件特許発明13について
上記(2)で述べたとおり、上記(1)の甲7の記載事項からは、「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用であって、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される使用。」に対応する発明は認定できない。
したがって、本件特許発明13は、甲7に記載された発明ではないし、甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ 本件特許発明14について
上記(2)で述べたとおり、上記(1)の甲7の記載事項からは、「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末のリサイクル性を改善するための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用。」に対応する発明は認定できない。
したがって、本件特許発明14は、甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4) 申立理由1~2-1についてのまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~14は、特許法29条の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法113条2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由1~2-1によって取り消すことはできない。
2 申立理由2-2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について
(1) 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の説明
従って、本発明の目的は、良好な加工特性および良好な機械的性質を有し、特に、高透明度および低ヘイズとともに、高い引張弾性率と破断点引張ひずみの組み合わせを与える透明ポリアミド成形組成物を提供することである。本発明は、特に衝撃変形試験に関して改良された熱可塑性透明ポリアミド成形組成物を提供することである。
・・・(略)・・・
【0017】
本発明の透明ポリアミド成形組成物から構成される成形物に適切な使用は、ハウジング要素またはディスプレイ要素または機械の構成要素、自動車、家庭用装置、玩具、スポーツ品目または特に携帯型電気または電子装置、例えば特に携帯電話、コンピュータ、ラップトップ、GPS装置、MP3プレーヤー、カメラ、光学装置またはこれらの組み合わせであるか、または眼鏡の枠、眼鏡レンズまたは他のレンズ、双眼鏡、油が直接接触する暖房方式のための視界窓、飲料水処理のためのフィルターカップ、哺乳瓶、炭酸用ボトル、陶器、気体または液体のための流量計、時計ケーシング、腕時計ケーシング、ランプハウジングまたは自動車灯のための反射器またはこれらの要素、さらには装飾用パーツおよび玩具のパーツである。
それ故、さらに、本発明は、これらのポリアミド成形組成物でできている、好ましくは上述のプロセスによって製造される特許請求の範囲に記載の成形物に関する。言い換えると、上述の目的も、上述のポリアミド成形組成物から得られうるこれらの成形物によって達成され、好ましくは、好ましくは230℃~320℃である溶融温度での射出成形プロセス及び射出圧縮成形プロセスによって製造され、ここで、モールドは、好ましくは40℃~130℃である温度に調節され、任意により、好ましくは40℃~130℃、非常に好ましくは60~120℃である温度のモールドがキャビティに充填後に高温成形物に圧縮を加えてもよい。」
「【0019】
好適実施態様の説明
本発明の好適実施態様を本発明の実施例によって以下に記載するが、これらは単に説明として用いられ、限定するものとして解釈すべきでない。
成形組成物の製造:
実施例IE1、IE2およびCE7: ポリアミドIE1、IE2およびCE7は、供給容器および反応容器を備えた撹拌可能な圧力オートクレーブ内で製造した。下記の材料:
(a)本発明の実施例IE1には: 17.518kgのビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、14.526kgの1,6-ヘキサンジアミン、10.123kgのテレフタル酸、10.123kgのイソフタル酸、17.209kgのドデカン二酸、30kgの脱イオン水および11gの次亜リン酸(50%溶液)、
(b)本発明の実施例IE2には: 12.871kgのビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、18.594kgの1,6-ヘキサンジアミン、13.090kgのテレフタル酸、13.090kgのイソフタル酸、12.433kgのドデカン二酸、30kgの脱イオン水および8gの次亜リン酸(50%溶液)、
(c)比較例CE7には: 23.045kgのビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、12.895kgの1,6-ヘキサンジアミン、29.065kgのイソフタル酸、10.073kgのドデカン二酸、30kgの脱イオン水および8gの次亜リン酸(50%溶液)、
を供給容器に供給し、いずれの場合においても、窒素によって不活性化した。系を生じた圧力下で撹拌しながら180~ 230℃ に均一な溶液が得られるまで加熱した。この溶液を反応容器へ篩を通して移し、そこで、高くても30バールの圧力で270~ 310℃の反応温度に加熱し、これらの条件下で2~ 4時間撹拌した。次の減圧相において、圧力を1~2時間の間に大気圧にし、温度を270~ 300℃の範囲において維持した。本発明の実施例IE1には相対粘度1.73、本発明の実施例IE2には1.70および比較例CE7には1.53に達した後、ポリアミド成形組成物をストランドの形で放出し、水浴中で冷却し、ペレット化する。ペレットを80℃で12時間0.06%より低いことが好ましい含水量に乾燥する。
・・・(略)・・・
【0021】
表1 :
[図:0001425785000002.jpg]
HMDA:1,6-ヘキサメチレンジアミン;MACM:ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン;PACM:ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン;IPA:イソフタル酸;TPA:テレフタル酸;DDA:ドデカン二酸; LC12:ラウロラクタム;nf:破砕なし;EP'373:EP-A-1930373号における対応する実施例参照;nd:未定。
・・・(略)・・・
【0024】
貯蔵中の黄色指数の変化:
上記の通り製造したペレットを射出成形して、乾燥直後に60×60×2mmの大きさのプラークを得た(貯蔵前の試験片)。ASTM D1925に従う黄色指数は、これらのプラークについて定量した。このために、いずれの場合においても、5個のプラークを試験し、算術平均値を算出した。貯蔵の前のペレットから定量されるこの黄色指数を、初期値として使用した。これと一緒に、乾燥からのペレットをバッグに詰め、60℃で6週間乾燥炉内に貯蔵した。溶媒を使用せずに2-成分接着剤を使用して貼り合せた12/9/100μmの層の厚さを有するPET/アルミニウム/PEでできている35×53.5cmの大きさの材料をバッグに貯蔵した(供給業者: Vacopack H. Buchegger AG、スイス)。2kgのポリアミドペレットを計量してバッグに入れた。バッグ内の材料の上の残留空気をバッグから外に押出し、充填境界線の真上で気密であるようにバッグを融着した。貯蔵後、バッグを23℃に冷却し、開け、ポリアミドペレットを射出成形して60×60×2mmの大きさのプラークを得、これらのプラークの黄色指数(ASTM D1925)を測定した(最終値;5個のプラークについて測定値の算術平均)。表は、貯蔵前のペレット(初期値)および6週間貯蔵したペレット(最終値)でできているプラークの黄色指数から算出される黄色指数差(ΔYI)を示している。」
(2) 甲2に記載された発明
甲2の実施例IE1に関する記載を中心に整理すると、甲2には以下の発明が記載されていると認める。
「 下記の材料:
17.518kgのビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、14.526kgの1,6-ヘキサンジアミン、10.123kgのテレフタル酸、10.123kgのイソフタル酸、17.209kgのドデカン二酸、30kgの脱イオン水および11gの次亜リン酸(50%溶液)、
を供給容器に供給し、窒素によって不活性化し、系を生じた圧力下で撹拌しながら180~230℃ に均一な溶液が得られるまで加熱し、この溶液を反応容器へ篩を通して移し、高くても30バールの圧力で270~310℃の反応温度に加熱し、これらの条件下で2~4時間撹拌し、減圧相において、圧力を1~2時間の間に大気圧にし、温度を270~300℃の範囲において維持し、相対粘度1.73に達した後、水浴中で冷却し、ペレット化し、乾燥した、成形組成物。」(以下、「甲2成形組成物発明」という。)
「 下記の材料:
17.518kgのビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、14.526kgの1,6-ヘキサンジアミン、10.123kgのテレフタル酸、10.123kgのイソフタル酸、17.209kgのドデカン二酸、30kgの脱イオン水および11gの次亜リン酸(50%溶液)、
を供給容器に供給し、窒素によって不活性化し、系を生じた圧力下で撹拌しながら180~230℃ に均一な溶液が得られるまで加熱し、この溶液を反応容器へ篩を通して移し、高くても30バールの圧力で270~310℃の反応温度に加熱し、これらの条件下で2~4時間撹拌し、減圧相において、圧力を1~2時間の間に大気圧にし、温度を270~ 300℃の範囲において維持し、相対粘度1.73に達した後、水浴中で冷却し、ペレット化し、乾燥する、成形組成物の製造方法。」(以下、「甲2成形組成物の製造方法発明」という。)
なお、甲2の記載事項からは、本件特許発明13の「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用であって、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される使用。」及び本件特許発明14の「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末のリサイクル性を改善するための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用。」に対応する発明を、認定することはできない。
(3) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲2成形組成物発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2-1
本件特許発明1は、「熱可塑性ポリアミドをベースとする3D印刷を意図した粉末」であるのに対し、甲2成形組成物発明は、そのように特定されていない点。
・相違点2-2
本件特許発明1は、「粉末の総重量に対して少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤を0.1~5重量%含み、前記少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)である」のに対し、甲2成形組成物発明は、そのように特定されていない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、上記相違点2-2について検討する。
甲2及び他の全ての証拠を見ても、相違点2-2は実質的な相違点である。
また、甲2には、成形組成物にチオエーテル酸化防止剤を含有させることについて記載がない。
さらに、甲2及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2成形組成物発明において、チオエーテル酸化防止剤を含有させる動機付けもない。
してみると、甲2成形組成物発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
なお、この点に関し、特許異議申立人は申立書において、甲3には、本件優先日当時の技術常識としてチオエーテル酸化防止剤が記載され、当業者であれば、甲2発明を甲1、3及び6ならびに技術常識と組み合わせて考慮することにより本件発明1を容易に想到し得る旨主張する(申立書40ページ)が、甲2成形組成物発明において、チオエーテル酸化防止剤を含有させる動機付けがないから、特許異議申立人の当該主張は失当である。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2成形組成物発明ではなく、甲2成形組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項2、4、11及び12について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、4、11及び12は、いずれも、請求項1を引用するものであって、本件特許発明2、4、11及び12は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲2成形組成物発明ではないし、本件特許発明1が、甲2成形組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~4、11及び12も、甲2成形組成物発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明5について
(ア) 対比
本件特許発明5と甲2成形組成物の製造方法発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2-3
本件特許発明5は、「3D印刷方法における熱可塑性ポリアミドをベースとする粉末の色を安定化させるための方法」であるのに対し、甲2成形組成物の製造方法発明は、そのように特定されていない点。
・相違点2-4
本件特許発明5は、「粉末の総重量に対して少なくとも0.1重量%の少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が組み込まれ、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であ」るのに対し、甲2成形組成物の製造方法発明は、そのように特定されていない点。
・相違点2-5
本件特許発明5は、「約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される」のに対し、甲2成形組成物の製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、上記相違点2-4について検討する。
上記ア(イ)で述べたのと同様に、甲2及び他の全ての証拠を見ても、相違点2-4は実質的な相違点であるし、甲2成形組成物の製造方法発明において、チオエーテル酸化防止剤を含有させる動機付けもない。
してみると、甲2成形組成物の製造方法発明において、相違点2-4に係る本件特許発明5の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
特許異議申立人の主張についても、上記ア(イ)で述べたのと同様である。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲2成形組成物の製造方法発明ではなく、甲2成形組成物の製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明6~10について
本件特許の特許請求の範囲の請求項6~10は、いずれも、請求項5を引用するものであって、本件特許発明6~10は、本件特許発明5の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記ウのとおり、本件特許発明5は、甲2成形組成物の製造方法発明ではないし、本件特許発明5が、甲2成形組成物の製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明6~10も、甲2成形組成物の製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件特許発明13について
上記(2)で述べたとおり、上記(1)の甲2の記載事項からは、「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用であって、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される使用。」に対応する発明は認定できない。
したがって、本件特許発明13は、甲2に記載された発明ではないし、甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ 本件特許発明14について
上記(2)で述べたとおり、上記(1)の甲2の記載事項からは、「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末のリサイクル性を改善するための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用。」に対応する発明は認定できない。
したがって、本件特許発明14は、甲2に記載された発明ではないし、甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4) 申立理由2-2についてのまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~14は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法113条2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由2-2によって取り消すことはできない。
3 申立理由2-3(甲3を主引用例とする進歩性欠如)について
(1) 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、優れた機械特性と靭性のバランスに優れることから、射出成形用途を中心として、各種自動車および電気・電子部品用途へ好ましく用いられている。これに加え、ポリアミド樹脂は、調色性にも優れることから意匠部に使用されることが多く、これら部材には紫外線暴露下における耐候性が求められており、近年では大気汚染によるオゾン層の破壊も懸念され、年々紫外線量は強くなっており、求められる耐候要求も高度化しつつある。さらに意匠性部材の小型薄肉化、複雑形状化に対応可能な高度な成形性も求められている。
【0003】
このような要求に答えるべく、従来よりポリアミド樹脂の耐候性改良技術検討が行われており、有機または無機リン系化合物を添加する技術(特許文献1、2)、ヒンダードアミン系耐光剤を添加する技術(特許文献3)が開示されている。
・・・(略)・・・
【0006】
しかしながら、いずれの文献においても、長期使用時の耐候性および成形性の両立は未だ不十分であるという課題がある。特に前記特許文献4~6のポリアミド樹脂組成物から得られる成形品は、ヒンダードアミン系耐光剤や紫外線吸収剤などの従来の耐候用添加剤を使用しているため、添加量の増加とともに、機械物性が低下したり、色調悪化が生じたり、添加剤がブリードアウトするといった課題がある。さらに、近年の紫外線量増加により、求められる耐候性も高度化しつつある。また、小型薄肉化や複雑形状化に対応可能な高度な成形性も今後求められると予想される。
【0007】
本発明は、これら従来技術の課題に鑑み、成形性、特に成形時の流動性および滞留安定性に優れ、紫外線暴露部材の機械物性および紫外線暴露時の耐候性、特に長期紫外線暴露時の色調安定性、機械物性保持性、ブリードアウト性に優れる紫外線暴露部材を提供することを課題とする。」
「【0023】
本発明の実施形態に用いられるポリアミド樹脂組成物は、(B)少なくとも3つの水酸基を有する化合物を含有する。(B)水酸基含有化合物は、流動性を向上させる効果があることが知られている。さらに本発明においては、後述する(C)リン含有化合物由来のリン原子を(A) ポリアミド樹脂に対して特定量で含有することにより、(A)ポリアミド樹脂と(B)水酸基含有化合物の相溶性をよりいっそう向上させ、ポリアミド樹脂組成物中において微細な分散構造を形成させることができ、流動性に加え、滞留安定性が向上し、得られる紫外線暴露部材の機械物性、紫外線暴露時の色調安定性、機械物性保持性、ブリードアウト性および耐熱老化性を向上させることができる。
・・・(略)・・・
【0111】
また、各種添加剤の具体例としては、銅化合物以外の熱安定剤、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物などの可塑剤、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、耐衝撃改良材、発泡剤などを挙げることができる。これら添加剤を含有する場合、その含有量は、ポリアミド樹脂の特徴を十分に活かすため、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して1重量部以下が好ましい。
【0112】
銅化合物以外の熱安定剤としては、フェノール系化合物、硫黄系化合物、アミン系化合物などが挙げられる。銅化合物以外の熱安定剤としては、これらを2種以上用いてもよい。
【0113】
フェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが好ましく用いられる。
【0114】
硫黄系化合物としては、有機チオ酸系化合物、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、チオウレア系化合物等が挙げられる。これら硫黄系化合物の中でも、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物および有機チオ酸系化合物が好ましい。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系化合物は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、熱安定剤として好適に使用することができる。チオエーテル系化合物としては、具体的には、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトメチルベンゾイミダゾール、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が好ましく、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)がより好ましい。硫黄系化合物の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3,000である。」
「【実施例】
【0138】
以下に実施例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。特性評価は下記の方法に従って行った。
・・・(略)・・・
【0182】
(実施例1~7、10~24、30~32、比較例1~18)
表に示す(A)ポリアミド樹脂および(G)その他添加剤、ならびに(H)着色剤を、シリンダー設定温度をポリアミド樹脂の融点+15℃、スクリュー回転数を200rpmに設定した(株)日本製鋼所製TEX30型2軸押出機(L/D=45)のメインフィーダーから2軸押出機に供給し、溶融混練した。このメインフィーダーはスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て0の位置、つまりスクリューセグメントの上流側の端部の位置に接続されていた。続いて、表に示す(B)水酸基化合物、(C)リン含有化合物、(D)充填材をサイドフィーダーから2軸押出機に供給し、溶融混練した。このサイドフィーダーはスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て0.65の位置、つまりスクリュー長の1/2より下流側の位置に接続されていた。2軸押出機のスクリュー構成は、(B)水酸基含有化合物等の供給位置の上流側にあるニーディングゾーンの合計長さをLn1、(B)水酸基含有化合物等の供給位置の下流側にあるニーディングゾーンの合計長さをLn2とした場合、Ln1/Lが0.14、Ln2/Lが0.07となるよう構成した。ダイから吐出されるガットを即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。各実施例および比較例の評価結果を表に示す。
・・・(略)・・・
【0190】
【表1】
[図:0001425785000003.jpg]
」
(2) 甲3に記載された発明
甲3の実施例1に関する記載(段落【0182】及び【0190】【表1】を参照のこと。)を中心に整理すると、甲3には以下の発明が記載されていると認める。
「 表に示す(A)ポリアミド樹脂および(G)その他添加剤、ならびに(H)着色剤を、2軸押出機に供給し、溶融混練し、続いて、表に示す(B)水酸基化合物、(C)リン含有化合物、(D)充填材を2軸押出機に供給し、溶融混練し、ダイから吐出されるガットを即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した、
ポリアミド樹脂組成物。
[図:0001425785000004.jpg]
」(以下、「甲3ポリアミド樹脂組成物発明」という。)
「 表に示す(A)ポリアミド樹脂および(G)その他添加剤、ならびに(H)着色剤を、2軸押出機に供給し、溶融混練し、続いて、表に示す(B)水酸基化合物、(C)リン含有化合物、(D)充填材を2軸押出機に供給し、溶融混練し、ダイから吐出されるガットを即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化する、
ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
[図:0001425785000005.jpg]
」(以下、「甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明」という。)
なお、甲3の記載事項からは、本件特許発明13の「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用であって、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される使用。」及び本件特許発明14の「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末のリサイクル性を改善するための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用。」に対応する発明を、認定することはできない。
(3) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲3ポリアミド樹脂組成物発明を対比すると、両者は以下の点で相違する。
・相違点3-1
本件特許発明1は、「熱可塑性ポリアミドをベースとする3D印刷を意図した粉末」であるのに対し、甲3ポリアミド樹脂組成物発明は、そのように特定されていない点。
・相違点3-2
本件特許発明1は、「粉末の総重量に対して少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤を0.1~5重量%含み、前記少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)である」のに対し、甲3ポリアミド樹脂組成物発明は、そのように特定されていない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、上記相違点3-1について検討する。
甲3及び他の全ての証拠を見ても、相違点3-1は実質的な相違点である。
また、甲3には、「ポリアミド樹脂組成物」を、「射出成形」することについて記載があるが、「ポリアミド樹脂組成物」を「3D印刷」に用いることについて記載がない。さらに、甲3及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲3ポリアミド樹脂組成物発明を「3D印刷」に用いる動機付けがない。
してみると、甲3ポリアミド樹脂組成物発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(特許異議申立人の主張について)
なお、この点に関し、特許異議申立人は申立書において、甲3には、3D印刷を意図したものが記載されている旨主張する(申立書27ページ)が、上記のとおり甲3には「ポリアミド樹脂組成物」を「3D印刷」に用いることについて記載がないから、特許異議申立人の当該主張は失当である。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3ポリアミド樹脂組成物発明ではなく、甲3ポリアミド樹脂組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件特許発明2~4、11及び12について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、4、11及び12は、いずれも、請求項1を引用するものであって、本件特許発明2、4、11及び12は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲3ポリアミド樹脂組成物発明ではないし、本件特許発明1が、甲3ポリアミド樹脂組成物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~4、11及び12も、甲3ポリアミド樹脂組成物発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明5について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明を対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3-3
本件特許発明5は、「3D印刷方法における熱可塑性ポリアミドをベースとする粉末の色を安定化させるための方法」であるのに対し、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明は、そのように特定されていない点。
・相違点3-4
本件特許発明5は、「粉末の総重量に対して少なくとも0.1重量%の少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が組み込まれ、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であ」るのに対し、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明は、そのように特定されていない点。
・相違点3-5
本件特許発明5は、「約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される」のに対し、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(イ) 判断
事案に鑑み、上記相違点3-3について検討する。
甲3及び他の全ての証拠を見ても、相違点3-3は実質的な相違点である。
また、甲3には、「3D印刷方法における熱可塑性ポリアミドをベースとする粉末の色を安定化させるための方法」に用いることについて記載がない。さらに、甲3及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明を「3D印刷方法における熱可塑性ポリアミドをベースとする粉末の色を安定化させるための方法」に用いる動機付けがない。
してみると、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明において、相違点3-3に係る本件特許発明5の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
特許異議申立人の主張についても、上記ア(イ)で述べたのと同様である。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明ではなく、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件特許発明6~10について
本件特許の特許請求の範囲の請求項6~10は、いずれも、請求項5を引用するものであって、本件特許発明6~10は、本件特許発明5の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記ウのとおり、本件特許発明5は、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明ではないし、本件特許発明5が、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明6~10も、甲3ポリアミド樹脂組成物の製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件特許発明13について
上記(2)で述べたとおり、上記(1)の甲3の記載事項からは、「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用であって、該少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート又は3-ラウリルチオプロピオネート)であり、約50mLの容量の180℃の温度の空気に曝露された前記粉末の黄色度指数(YI)が48時間後に15未満である場合に前記色が安定化される使用。」に対応する発明は認定できない。
したがって、本件特許発明13は、甲3に記載された発明ではないし、甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
カ 本件特許発明14について
上記(2)で述べたとおり、上記(1)の甲3の記載事項からは、「熱可塑性ポリアミドをベースとする、3D印刷を意図した粉末のリサイクル性を改善するための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用。」に対応する発明は認定できない。
したがって、本件特許発明14は、甲3に記載された発明ではないし、甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4) 申立理由2-3についてのまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~14は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法113条2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由2-3によって取り消すことはできない。
4 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1~4は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。
また、本件特許発明5~10は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法2条3項3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、本件特許発明11~12及び13~14は、上記第2のとおり「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の1つの主題は、粉末(ポリマー+チオエーテル酸化防止剤)の総重量(100%)に対して少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤を少なくとも0.1重量%組み込んだ熱可塑性ポリマーをベースとする、有利にはリサイクル性が改善された、3D印刷、特に焼結方法における3D印刷を意図する粉末である」(【0033】)との記載、「本発明の主題はまた、3D印刷方法において熱可塑性ポリマーをベースとする粉末の固有粘度を増加させ、次いで安定化させるための、又は色を安定化させるための方法であって、粉末の総重量に対して少なくとも0.1重量%の少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤が組み込まれ、該チオエーテルは、好ましくは120℃、110℃、100℃、90℃、80℃又は70℃未満の融点を有する、方法である」(【0034】)との記載、「本発明の主題はまた、熱可塑性ポリマーをベースとする、3D印刷を意図する粉末の色を安定化させるための少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤の使用である」(【0035】)との記載、「本発明はまた、前記定義の3D印刷を意図した粉末を使用する3D印刷方法に関する」(【0036】)との記載があり、ポリアミドに関する記載(【0047】~【0071】)、チオエーテル酸化防止剤に関する記載(【0080】~【0084】)、出発ポリマーの形態に関する記載(【0085】~【0086】)があり、具体的な実施例の記載(【0092】~【0110】)の記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1~4に係る発明の粉末を生産することができ、本件特許発明5~10に係る発明の製造方法を使用することができ、本件特許発明11及び12に係る発明の方法を実施することができ、本件特許発明13及び14に係る使用方法を行うことができるものといえる。
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1~14について、当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載されており、実施可能要件を満たすということができる。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立書の74~122ページにおいて、本件特許発明1~14に係る発明について、個々の用語等をとりあげつつ実施可能要件を満たしていない旨を縷々主張するが、実施可能要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、特許異議申立人のいずれの主張も、上記(2)の判断に影響するものではない。
(4) 申立理由3についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。
5 申立理由4(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) サポート要件についての判断
本件特許明細書の【0023】の記載からみて、本件特許発明(上記「第2」参照)が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「焼結処理において、実施が容易で、各サイクル又は構築又は「ラン」のために、各ラン時に機械に使用される粉末の総重量に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%重量のリサイクル粉末の含有率で、数回、すなわち、少なくとも3回、好ましくは少なくとも5回、さらに良いのは少なくとも10回リサイクル可能であり、許容可能かつ再現可能な機械的特性を有する対象物を生成する粉末を提供すること」であると認められる。
そして、本件特許明細書の段落【0029】~【0033】、及び段落【0092】~【0112】に記載された実施例及び比較例の評価結果に関する記載に基づけば、当業者は、請求項1~14に記載された発明特定事項を備える本件特許発明が、「ポリマー粉末、特にポリアミド中に少なくとも1種のチオエーテル酸化防止剤を使用する」との特定事項を満たすことにより、「粉末の色、特に白色である場合にはその白色度を、特にその黄変を制限することによって安定化させ」、「焼結処理の最初の通過(粉末の最初のラン)中に、未焼結の(このため再使用可能な)ポリアミドのようなポリマー粉末の固有の粘度を増加させ」、「まだ焼結されていない場合、すなわち、未焼結粉末の最初のランに続くランの間に、3D対象物の構築に関与していない固体状態の粉末の分子量の変化を抑制」し、「未焼結粉末をリサイクルし、ランの過程で許容可能で再現性のある機械的特性を有する」、「3D印刷を意図する粉末」を提供する、すなわち、発明の課題を解決できるものと当業者が認識することができるというべきである。
そうすると、本件特許発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立書の74~122ページにおいて、本件特許発明1~14に係る発明について、個々の用語等をとりあげつつサポート要件を満たしていない旨を縷々主張するが、サポート要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、特許異議申立人のいずれの主張も、上記(2)の判断に影響するものではない。
(4) 申立理由4についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由4によって取り消すことはできない。
6 申立理由5(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 明確性要件についての判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14の記載は上記第2のとおりであり、請求項1~14の記載それ自体は明確であり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。
よって、本件発明1~14については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立書の74~122ページにおいて、本件特許発明1~14に係る発明について、個々の用語等をとりあげつつ明確性要件を満たしていない旨を縷々主張するが、明確性要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、特許異議申立人のいずれの主張も、上記(2)の判断に影響するものではない。
(4) 申立理由5についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1~14に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法113条4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~14に係る特許は、申立理由5によって取り消すことはできない。
第5 むすび
請求項1~14に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700231