特許異議申立
2024-700108
3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントおよびその成形品
- 審判番号
- 2024-700108
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-515937
- 登録番号
- 7336079
- 請求日
- 2024年02月08日
- 審決日
- 2024年12月23日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【権利者代理人】伴 俊光
- 【権利者代理人】細田 浩一
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.536-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7336079号発明「3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントおよびその成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7336079号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7336079号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
特許第7336079号の請求項10に係る申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7336079号の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和2年4月3日(先の出願に基づく優先権主張 平成31年4月25日)を国際出願日とする出願であって、令和5年8月23日にその特許権の設定登録がされ、同月31日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議申立人小松一枝及び前田知子(以下両者をまとめて「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯の概要は、次のとおりである。
令和 6年 2月 8日 特許異議の申立
令和 6年 5月 7日付け 取消理由通知
令和 6年 5月29日 訂正請求書、及び、意見書(特許権者)
令和 6年 8月 1日 意見書(申立人)
令和 6年 8月30日付け 取消理由通知<決定の予告>
令和 6年10月18日 訂正請求書(この訂正請求書による訂正
の請求を、以下「本件訂正請求」とい
う。)、及び、意見書(特許権者)
なお、令和6年5月29日の訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。また、申立人に対し、令和6年10月25日付けで、訂正請求があった旨の通知をしたが、申立人からの意見書の提出はなかった。
第2 本件訂正請求
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7336079号の特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、特許権者が求める訂正事項1~3をまとめて「訂正事項A」とし、特許権者が求める訂正事項4を「訂正事項B」として判断する。また、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項A
特許請求の範囲の請求項1に記載される「全体の90%以上である3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。」を、「全体の90%以上であり、下記方法によって評価される横断面の真円度パラメータsの平均値Sが80%以上であり、下記式(4)により求められる真円度パラメータsの変動係数が2%以下であり、下記式(5)により求められる真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数が5%以下である3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
(i)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの軸方向と垂直な横断面の写真を撮影する。
(ii)該断面画像におけるフィラメントの内接円と外接円を描き、それぞれの直径長さを求める。
(iii)下記式(1)で定義する真円度パラメータsを算出する。
(iv)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの複数箇所において(i)~(iii)の手順を繰り返し、真円度パラメータsの平均値Sを算出する。
真円度パラメータs=内接円の直径/外接円の直径×100 (1)
真円度パラメータsの変動係数(%)=真円度パラメータsの標準偏差/真円度パラメータsの平均値×100 (4)
外接円の変動係数(%)=外接円直径長さの標準偏差/外接円直径長さの平均値×100 (5)」に訂正する。
(2)訂正事項B
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(3)一群の請求項であること
本件訂正請求による訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は請求項1の記載を引用しているものであって、訂正事項Aによって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項1~10に対して請求されたものである。
3 訂正の適否
(1)訂正事項Aについて
ア 訂正の目的
訂正事項Aによる訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント」について、「横断面の真円度パラメータsの平均値S」、「真円度パラメータsの変動係数」及び「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数」が特定の範囲であることを限定するものである。訂正事項Aによる訂正により、「3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント」の範囲を限定するといえるから、訂正事項Aによる訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
請求項1の記載を引用する請求項2~9についても同様である。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書の段落【0009】には、次の記載がある。
「上記課題を解決するために、本発明は、主として、以下の構成を有する。
[1]複数の連続した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントであって、下記方法によって評価される横断面の真円度パラメータsの平均値Sが60%~100%であり、かつ平均値Sを算出するために用いた複数の真円度パラメータsの元となる外接円の直径長さの変動係数が0%~10%である3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
(i)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの軸方向と垂直な横断面の写真を撮影する。
(ii)該断面画像におけるフィラメントの内接円と外接円を描き、それぞれの直径長さを求める。
(iii)下記式(1)で定義する真円度パラメータsを算出する。
(iv)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの複数箇所において(i)~(iii)の手順を繰り返し、真円度パラメータsの平均値Sを算出する。
真円度パラメータs=内接円の直径/外接円の直径×100 (1)」
また、本件特許の明細書の段落【0039】には、次の記載がある。
「本発明の繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントは下記方法によって評価される横断面の真円度パラメータsの平均値Sが60%以上であり、かつ平均値Sを算出するために用いた複数の真円度パラメータsの元となる外接円の直径長さの変動係数が0%~10%であることが必要である。平均値Sが60%以上であり、かつ平均値Sを算出するために用いた複数の真円度パラメータsの元となる外接円の直径長さの変動係数が0%~10%であることにより工程通過性や造形安定性が高くなる。真円度パラメータsの平均値Sは70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。また平均値Sを算出するために用いた複数の真円度パラメータsの元となる外接円の直径長さの変動係数は5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。」
さらに、本件特許の明細書の段落【0042】には、次の記載がある。
「さらに、平均値Sを算出するために用いた複数の真円度パラメータsの変動係数は式(4)より求められ、該変動係数は10%以下であることが好ましい。変動係数が10%を超える繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントは工程通過性が悪くなり詰まり等の原因となる。変動係数は5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
変動係数(%)=真円度パラメータsの標準偏差/真円度パラメータsの平均値×100 (4)」
また、本件特許の明細書の段落【0043】には、次の記載がある。
「また、平均値Sを算出するために用いた複数の真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数は式(5)より求められ、該変動係数は10%以下であることが好ましい。変動係数が10%を超える繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントはフィラメントの太さが安定せず、3Dプリントするさいの吐出量が不安定となるため、成形品の品質低下の要因となる。変動係数は5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
変動係数(%)=外接円直径長さの標準偏差/外接円直径長さの平均値×100 (5)」
そして、本件特許の明細書の段落【0093】~【0095】には、実施例1~12における「真円度パラメータsの変動係数」の値が、1.5~2.0であることが記載されている。
これらの記載に基づけば、本件特許の明細書には、以下の「3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント」が記載されていたといえる。
「下記方法によって評価される横断面の真円度パラメータsの平均値Sが80%以上であり、下記式(4)により求められる真円度パラメータsの変動係数が2%以下であり、下記式(5)により求められる真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数が5%以下である3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
(i)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの軸方向と垂直な横断面の写真を撮影する。
(ii)該断面画像におけるフィラメントの内接円と外接円を描き、それぞれの直径長さを求める。
(iii)下記式(1)で定義する真円度パラメータsを算出する。
(iv)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの複数箇所において(i)~(iii)の手順を繰り返し、真円度パラメータsの平均値Sを算出する。
真円度パラメータs=内接円の直径/外接円の直径×100 (1)
真円度パラメータsの変動係数(%)=真円度パラメータsの標準偏差/真円度パラメータsの平均値×100 (4)
外接円の変動係数(%)=外接円直径長さの標準偏差/外接円直径長さの平均値×100 (5)」
そうすると、訂正事項Aによる訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、訂正事項Aによる訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
請求項1の記載を引用する請求項2~9についても同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項Aによる訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項Aによる訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
請求項1の記載を引用する請求項2~9についても同様である。
(2)訂正事項Bについて
ア 訂正の目的
訂正事項Bによる訂正は、特許請求の範囲の請求項10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項Bによる訂正は、特許請求の範囲の請求項10を削除するものであるから、訂正事項Bによる訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項Bによる訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項Bによる訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第7336079号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明9」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。なお、請求項10に係る発明は、本件訂正請求によって削除された。
「【請求項1】
複数の連続した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントであって、フィラメント軸方向に対する強化繊維の配向角度の絶対値が0~4度となる割合が全体の90%以上であり、下記方法によって評価される横断面の真円度パラメータsの平均値Sが80%以上であり、下記式(4)により求められる真円度パラメータsの変動係数が2%以下であり、下記式(5)により求められる真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数が5%以下である3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
(i)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの軸方向と垂直な横断面の写真を撮影する。
(ii)該断面画像におけるフィラメントの内接円と外接円を描き、それぞれの直径長さを求める。
(iii)下記式(1)で定義する真円度パラメータsを算出する。
(iv)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの複数箇所において(i)~(iii)の手順を繰り返し、真円度パラメータsの平均値Sを算出する。
真円度パラメータs=内接円の直径/外接円の直径×100 (1)
真円度パラメータsの変動係数(%)=真円度パラメータsの標準偏差/真円度パラメータsの平均値×100 (4)
外接円の変動係数(%)=外接円直径長さの標準偏差/外接円直径長さの平均値×100 (5)
【請求項2】
下記(a)~(c)の条件を満たす、請求項1に記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
(a)3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント中の強化繊維の体積割合が15~80%、熱可塑性樹脂の体積割合が85~20%
(b)3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの厚みが0.01~3mm
(c)3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントのフィラメント長が1m以上
【請求項3】
空隙率が10%以下である、請求項1または2に記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
【請求項4】
前記強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン(PEK)樹脂、およびポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
【請求項6】
下記方法によって評価される強化繊維の分散パラメータd(%)の平均値Dが90%以上である、請求項1~5のいずれかに記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
(i)該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの断面の全体が写るようにフィラメントの軸方向と垂直な横断面の写真を撮影する。
(ii)該断面画像全体を式(2)で規定された一辺の長さを有する正方形ユニットに分割する。
(iii)式(3)で定義する分散パラメータd(%)を算出する。
(iv) 該3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの複数箇所において(i)~(iii)の手順を繰り返し、分散パラメータd(%)の平均値Dを算出する。
1.5a≦t≦2.5a(a:繊維直径、t:ユニットの一辺の長さ) (2)分散パラメータd(%)=評価区間内に強化繊維が含まれるユニットの個数/評価区間内にフィラメントの一部でも含まれるユニット全体の個数×100 (3)
【請求項7】
前記平均値Dを算出するために用いた複数の分散パラメータdの変動係数が4%以下である、請求項6に記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
【請求項8】
フィラメントの外周部の少なくとも一部に熱可塑性樹脂層を有し、フィラメントの外周部の少なくとも一部に存在する前記熱可塑性樹脂層の体積割合が、繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント全体の体積に対して50%以下である、請求項1~7のいずれかに記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が熱可塑性ポリマーアロイ樹脂である、請求項1~8のいずれかに記載の3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に対して、令和6年5月7日付けで特許権者に通知した取消しの理由、及び、引用文献は、次のとおりである。
1 理由1(進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2017-94710号公報
甲第2号証:国際公開第2018/061597号
2 理由2(実施可能要件)
本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が不備のため、請求項10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
合議体が通知した理由2(実施可能要件)は、本件訂正請求により、対象となる請求項10が存在しないものとなった。
合議体が通知した理由1(進歩性)について以下に検討する。
1 引用文献
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願における優先権主張に係る先の出願前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証には、図面とともに以下の記載事項がある。なお、引用発明の認定や判断に用いた箇所に下線を付した。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項10】
コーティング済複合原料ストリップであって、
第1樹脂、及び、前記シートの中で互いに平行に延びている繊維を含む、複合原料ストリップと、
第2樹脂を含み、前記複合原料ストリップの外表面上に配置され、かつ、複合原料ストリップの周囲に外殻を形成する、コーティング層とを備える、コーティング済複合原料ストリップ。
【請求項11】
前記シートの中で互いに平行に延びている前記繊維は連続繊維である、請求項10に記載のコーティング済複合原料ストリップ。
【請求項12】
前記複合原料ストリップの断面全体を通じての前記繊維の濃度は、少なくとも約40体積%である、請求項10に記載のコーティング済複合原料ストリップ。
・・・
【請求項15】
前記第1樹脂と前記第2樹脂の一方は、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルイミド(PEI)、及び熱可塑性ポリイミド(TPI)から成る群から選択された、一又は複数の材料を含む、請求項10に記載のコーティング済複合原料ストリップ。」
(イ)背景技術
「【0001】
付加製造は、プラスチック及び金属のような材料の層を付加して、三次元(3D)物体を形成するプロセスである。このプロセスは、多くの場合、各層及び全体的なレイアッププロセスを設計するために、コンピュータシステムに、より具体的にはコンピュータ支援設計(CAD)に依拠する。付加製造は、例えば航空宇宙応用においてしばしば使用される、複雑で低体積の部品向けには特に好ましい。ステレオリソグラフィ(SLA)、選択的レーザ焼結(SLS)、及び溶融堆積モデリング(FDM)が現在、付加製造構成要素を作るために使用される3つの主要な方法である。典型的には、いかなる構造支持体(例えば繊維)も有さない材料である純樹脂が、この目的のために使用される。付加製造の原料に構造支持体を組み入れることは、困難であり、かつ、小型粒子及び短繊維に概して限定されることが分かっている。しかし、これらの種類の構造支持体は、連続繊維に関連付けられる機械的特性をもたらさない。更に、複合原料を製造するために使用される、押出しのような現行技法は、原料内に空隙及び他の不具合を引き起こしうる。最後に、押出し、及び、構造原料を製造する他の類似の技法では、構造支持体による詰まりが起こりがちである。」
(ウ)発明の概要
「【0002】
付加製造のための複合原料ストリップ、及びかかるストリップを形成する方法が提供される。複合原料ストリップは、互いに及びストリップの主軸に平行に延びている、連続単方向繊維を含みうる。この繊維連続性は、優れた、ストリップの主軸に沿った引張強度などの機械的特性をもたらす。複合原料ストリップは、複合積層板を繊維に平行な方向にスリット加工することによって製造されうる。いくつかの実施形態では、スリット加工されたストリップの断面形は、ストリップの少なくとも表面上に材料を再帰させることによって、かつ/又は、スリット加工されたストリップを別の材料でコーティングすることによって、変更されうる。断面形のこの変更は、ストリップの中の連続繊維を乱すことなく実行されうる。ストリップの中の繊維の断面分布は、例えば付加製造を支援するために、ストリップの主軸近辺に繊維がより集中している、不均一なものでありうる。
【0003】
付加製造のためのコーティング済複合原料ストリップを形成する方法が提供される。いくつかの実施形態では、方法は、シートをスリット加工して複合ストリップにすることと、複合原料ストリップの外表面をコーティングすることとを含む。例えば、外表面は、第2樹脂を含む材料でコーティングされうる。このコーティングプロセスで、複合原料ストリップの表面を覆うコーティング層が形成される。コーティング層と複合原料ストリップとのこの組み合わせは、コーティング済複合原料ストリップと称される。
【0004】
スリット加工に使用されるシートは、第1樹脂と、シートの中で互いに平行に延びている連続繊維とを含みうる。スリット加工は、シートの中の連続繊維に平行な方向に沿って実行され、それによって、繊維の連続性を保持しうる。コーティングは、クロスヘッド押出コーティング技法、又は、粉末コーティング及び溶液ベースコーティング技法などの他の任意の好適な技法を使用して、実行されうる。
【0005】
いくつかの実施形態では、複合原料ストリップの断面全体を通じての連続繊維の分布は、これらのストリップをコーティングする前には均一である。この繊維分布は、スリット加工中に保持される。そのため、スリット加工に使用されるシートの断面全体を通じての連続繊維の分布も、均一でありうる。・・・
【0007】
いくつかの実施形態では、第1樹脂と第2樹脂の一方は、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルイミド(PEI)、及び熱可塑性ポリイミド(TPI)から成る群から選択された、一又は複数の材料を含む。第1樹脂と第2樹脂とは同一である。例えば、第1樹脂と第2樹脂は両方ともポリエーテルケトンケトン(PEKK)でありうる。
・・・
【0011】
いくつかの実施形態では、コーティングされていない複合原料ストリップの断面形状は、長方形、正方形、及び台形から成る群から選択される。コーティング済複合原料ストリップの断面形状は、楕円形、円形、長方形、正方形、及び、角が丸くなっている長方形と角が丸くなっている正方形から成る群から選択される。
・・・
【0014】
付加製造のためのコーティング済複合原料ストリップも提供される。いくつかの実施形態では、コーティング済複合原料ストリップは、複合原料ストリップと、複合原料ストリップの外表面に配置されたコーティング層とを備える。複合原料ストリップは、第1樹脂と、シートの中で互いに平行に延びている連続繊維とを備える。コーティング層は、複合原料ストリップの周囲に完全な、又は部分的な外殻を形成していることがある。」
(エ)発明を実施するための形態
「【0021】
付加製造のための複合原料ストリップ、及びかかるストリップを形成する方法について、本書で説明する。これらの複合原料ストリップは、連続単方向繊維を含む。より具体的には、繊維は、互いに及びストリップの主軸に平行に延びる。これらの原料ストリップは、高品質な複合プライ及びフィルムから、空隙又は他の種類の不具合を取り込むことなく生産されうる。
【0022】
複合原料ストリップは、一又は複数の繊維含有プライと一又は複数の樹脂プライとのレイアップを積層させることによって、形成される。・・・
【0028】
複合原料ストリップとその形成の例
図1Aは、いくつかの実施形態による、付加製造のための複合原料ストリップを形成する方法100に対応するプロセスフロー図である。方法100は、工程102におけるレイアップの形成で始まってよく、工程110におけるレイアップの積層がそれに続く。積層されたシートが、工程110において形成され、その後工程120において、スリット加工されて複合原料ストリップになる。・・・」
合議体注:図1Aは次のものである。
[図:0001422413000001.jpg]
「【0030】
レイアップ200の一例を示している図2Aを参照するに、この特定のレイアップは、4つの繊維含有プライ204a~204dと、6つの樹脂プライ202a~202fとを含む。・・・」
合議体注:図2Aは次のものである。
[図:0001422413000002.jpg]
「【0032】
いくつかの実施形態では、樹脂プライ202は、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルイミド(PEI)、及び熱可塑性ポリイミド(TPI)から成る群から選択された、一又は複数の材料を含む。より具体的には、一又は複数の樹脂プライ202はポリエーテルスルホン(PES)を含む。同一のレイアップ202を形成する全ての樹脂プライ202は、同じ組成を有しうる。あるいは、同一のレイアップを形成する種々の樹脂プライ202は、種々の組成を有しうる。
【0033】
いくつかの実施形態では、繊維含有プライ204は、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルイミド(PEI)、及び熱可塑性ポリイミド(TPI)から成る群から選択された、一又は複数の材料を含む。これらの材料は、マトリクス樹脂と称されてよく、樹脂プライ202の樹脂とは区別すべきである。より具体的には、繊維含有プライ204は、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含みうる。
・・・
【0035】
繊維含有プライ204と樹脂プライ202に使用される一又は複数の樹脂は、熱可塑性樹脂でありうる。・・・
【0037】
図2Bを参照するに、繊維含有プライ204の連続繊維206は、ガラス(Sタイプ又はEタイプ)繊維、石英繊維、アラミド繊維、炭素繊維、炭素ナノチューブ、又はそれらの組み合わせのような、任意の好適な繊維状構成要素でありうる。各繊維含有プライ204の中の繊維206の実質的に全て(例えば90%を超過)は、連続的であり、例えば、Y軸に沿って延びている繊維206を図示している図2Bに示すように、単方向配置に配向される。単方向配置は0/0配置とも称されうる。具体的には、レイアップ200を形成する全ての繊維含有プライ204内の繊維206全ては、互いに平行である。当業者は、平行(parallel)という用語は、約5°未満、又は約±2°未満ですらあるような、いくらかの公差を許容することを理解するだろう。」
合議体注:図2Bは次のものである。
[図:0001422413000003.jpg]
「【0041】
図1Aを再度参照するに、工程102の完了後、方法100は、工程110におけるレイアップ200の積層に続く。この工程において、積層されたシート210が形成される。具体的には、全ての樹脂シート202及び全ての繊維含有シート204の材料は、この工程において統合されうる。その一方で、繊維206の単方向配向は保持される。繊維206は、この工程で互いに近づくように移動しうるか、若しくは、断面におけるその配向が変化しうる。例えば、レイアップを形成するために複数の繊維含有プライ204が使用される場合、これらの繊維含有プライ204のうちの1つの中の繊維206は、これらの繊維含有プライ204のうちの別の1つの中の繊維の近くに移動しうる。いくつかの実施形態では、繊維含有プライ204の各々内に提供された繊維206の配向は、実質的に同じままでありうる。例えば、繊維含有204は、事前に統合されうる。あるいは、レイアップ200が形成されると、繊維206の相対配向は、積層工程110でも同じままでありうる。
【0042】
図1A及び工程110を続けて参照するに、この積層工程110は、レイアップ200の加熱及び圧縮を伴いうる。いくつかの実施形態では、工程110は、例えば図7Aに示す装置700を使用して、連続的な様態で(例えばロールツーロールの様態で)実行されうる。具体的には、装置700は、積層温度までレイアップを予備加熱するための予加熱ゾーン704を含みうる。当業者は、積層温度が、繊維含有プライ204及び樹脂プライ202に使用される樹脂、これらのプライの厚み、及び、他のプロセスパラメータに依拠しうることを、理解するだろう。一般的に、温度下限値は、レイアップ200を形成する種々のプライの溶解統合、及び、レイアップを形成する材料(繊維206以外)のある程度の流れを確実にするに十分であるべきである。その一方で、温度上限値は、プライを統合して積層シート210にしている間に繊維206の配向を維持するよう、かつ、熱劣化を防止するよう、制御される必要がありうる。」
合議体注:図7Aは次のものである。便宜のため、図面を90度回転させた。
[図:0001422413000004.jpg]
「【0051】
図1Aを再度参照するに、方法100は、工程120における、積層されたシート210をスリット加工して複合原料ストリップ220にすることに続きうる。この工程において、積層されたシート210は複合原料ストリップ220になる。・・・
【0053】
図4B及び図4Cを参照するに、各複合原料ストリップ220内の全ての繊維206は、そのストリップの主軸223に平行である。本書においては、主軸223は、複合原料ストリップ220の最も長い寸法、例えば図4Cに示すストリップの長さ220cに沿って延びている軸と定義される。上述したように、全ての繊維206は、積層されたシート210のスリット加工の前にはその中で平行である。更に、スリット加工は繊維に平行な方向に沿って実行される。その結果として、全ての繊維206は、複合原料ストリップ220内で互いに(上述したように)平行なままであり、ストリップの主軸223に平行に延びる。繊維のこの連続した単方向性の配向は、複合原料ストリップ220の優れた引張強度及びその他の機械的特性をもたらす。例えば、いくつかの代表的な試験ストリップでは、90ksiを超える引張強度が測定された。」
合議体注:図4B及び図4Cは、次のものである。
[図:0001422413000005.jpg]
「【0054】
その一方で、複合原料ストリップ220は、その主軸223に垂直な方向に屈曲可能でありうる。この屈曲性能は、複合原料ストリップ220の中の、繊維206の単方向配向によって、いくつかの実施形態では繊維206の不均一な分布によって、提供される。具体的には、図6A及び図6Bは、ストリップ屈曲90°の断面を示している。第2表面部分226は、中央部分の屈曲半径(R2)よりも小さな屈曲半径(R1)となる。その一方で、表面部分226は、繊維206を有していないことがあり、その結果として、中央部分204よりも柔軟でありうる。この繊維分布は、複合原料ストリップ220が、保管、出荷、及びその後の付加製造における使用のために、小径パッケージに巻かれることを可能にする。」
合議体注:図6A及び図6Bは次のものである。
[図:0001422413000006.jpg]
「【0055】
いくつかの実施形態では、繊維206は、複合原料ストリップ220内で、少なくとも100フィート、又は少なくとも約1000フィートに及ぶ、平均長さを有しうる。このことは、複合原料ストリップ220内の繊維の連続的な態様を反映している。その一方で、例えば図5Cに示すような、再形成後の複合原料ストリップ220の主要断面寸法220dは、約0.060インチを下回り、又はより具体的には、約0.050インチを下回り、或いは約0.040インチすら下回りうる。この小さな断面寸法220dは、付加製造のために必要とされうる。複合原料ストリップ220の断面形状が円形である場合には、その主要断面寸法220dは図5Cに示すような円の直径である。しかし、複合原料ストリップ220の断面形状が正方形である場合には、その主要断面寸法は、図4Bに示すものと同じ、幅220b及び厚み220aである。
【0056】
図1Aを再度参照するに、方法100は、オプション工程130における各複合原料ストリップの断面形状の変更を伴いうる。・・・
【0057】
工程130は、複合原料ストリップ220を加熱すること(図1Aのブロック132)と、図5B及び図5Cに示すように、断面形状221aの角228から離れたところに材料229を再分配すること(図1Aのブロック134)とを伴いうる。具体的には、図5Bは、型枠510の中に配置された複合原料ストリップ220を示している。型枠510の断面形状は丸型でありうる。しかし、型枠510の直径は、・・・図5Bの点線で同定される最終断面形状221bの直径よりも大きい。この場所で、複合原料ストリップ220の角228は型枠510に接触する。角228は、最終断面形状221bの境界の外に延びており、かかる外側の材料はいずれも、工程130において、(例えば空隙を埋めることによって)境界の中に納まることになることに、留意すべきである。いくつかの実施形態では、角228から離れたところに再分配される材料229は、繊維206を有していない。」
合議体注:図5B及び図5Cは次のものである。
[図:0001422413000007.jpg]
「【0074】
いくつかの実施形態では、コーティングされていない複合原料ストリップ220の断面全体を通じての連続繊維206の濃度は、少なくとも約30体積%、又は少なくとも約40%ですらあり、少なくとも約50%、又は少なくとも約60%ですらある。繊維206のかかる高濃度は、非常に良好な、繊維206の方向における引張強度のような機械的特性を提供することが可能である。この濃度は、図4Bに示す表面部分222及び226のような、連続繊維206を有していない部分を無くすことによって、実現しうる。・・・
【0076】
図1Bを再度参照するに、方法100は、工程136における、複合原料ストリップ220の外表面225のコーティングを進めうる。・・・」
合議体注:図1Bは次のものである。
[図:0001422413000008.jpg]
「【0077】
工程136において、図5D及び図5Gに概略的に示すように、外表面225上にコーティング層522が形成される。コーティング層522は樹脂を含みうる。この樹脂は、レイアップ200を形成するプライの一部でありうる、コーティングされていない複合原料ストリップ220の樹脂と同じでありうるか、それとは異なりうる。明確に言うと、コーティングされていない複合原料ストリップ220の樹脂は第1樹脂207と称されうる一方、コーティング層522の樹脂は第2樹脂523と称されうる(例えば図5Gを参照のこと)。いくつかの実施形態では、第1樹脂207と第2樹脂522の一方は、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルイミド(PEI)、及び熱可塑性ポリイミド(TPI)から成る群から選択された、一又は複数の材料を含む。例えば、第1樹脂207と第2樹脂253は両方ともポリエーテルケトンケトン(PEKK)でありうる。」
合議体注:図5D及び図5Gは次のものである。
[図:0001422413000009.jpg]
「【0085】
付加製造で使用するためのコーティング済複合原料ストリップの様々な実施形態の特性が、例証的な解析を使用して探究された。この解析においては、純樹脂(繊維を有さない)のコーティング、又は、30wt%の不連続繊維を含有する樹脂のコーティングを、繊維含有プライで作られた正方形の積層コアに付着させる。このコアは、その厚み全体を通じて、約60%という一定の連続繊維の体積分率を有する。図8Bは、積層厚及びコーティングの厚みに応じての、円形コーティングのコーティング体積分率の図表である。正方形の積層コアに関しては、積層幅は積層厚に等しく、積層厚は、レイアップ内で使用される繊維含有プライの数に基づいてディスクリートに増大する。図8Bに記載の積層厚は、4~9の繊維含有プライに対応している。データ点の相対サイズは、コーティング済最終ロッドの直径に対応しており、実線は、実線で繋がれたデータ点の左側に記載の直径に等しい同一の直径を有する、実施形態を繋いている。コーティング厚は、挿入図に示すように、積層コアの角から径方向に測定される最小コーティング厚によって定まる。点線は、点線で繋がれたデータ点の右側に列挙されている厚みに等しい同一の最小コーティング厚を有する実施形態を繋いでいる。実践的な製造及び使用に関する技術上の意義の範囲に対する可能性の範囲を狭めるために、上記の実施形態、及び後に他のコーティング断面形となる実施形態に、下記の制約を課した。(1)実践的なスリット加工工程のために、積層厚は0.030インチを上回ること、(2)コーティング工程での製造公差を許容するために、断面内のいかなる場所においても、最小コーティング厚は0.004インチ以上であること、(3)原料が0.070インチの入口直径を有する液化装置に入ることを可能にするために、断面の最大寸法は0.070インチを下回るべきであること、及び、(4)連続繊維と液化装置の壁との干渉が発生しないことを確実にするために、いかなる形状変換の後にも、最小で0.001インチのコーティング材が連続繊維含有積層コアと液化装置の壁との間に維持されること。これらの制約があることで、満足のゆく実施形態の解空間が、図8B内に明示された三角形の領域によって示されている。51~65%という、比較的大きなコーティングの体積分率が必要とされる。これは、純樹脂コーティングに関しては、コーティング済最終ロッドにおける20~28体積%、30wt%の不連続繊維を有するコーティングに関しては36-40体積%の繊維含有量ということになる。」
合議体注:図8Bは次のものである。便宜のため、図面を90度回転させた。
[図:0001422413000010.jpg]
「【0088】
コーティングの体積分率は減少できたとみられ、従って全体的な繊維含有量は、図5O~図5Qに図示しているように、正方形のコーティングでコーティングすること、及び、その形の液化装置内での変化を可能にすることによって、増大した。正方形のコーティングの解空間は、0.070インチの液化装置の入口に原料が入ることを可能にするために、薄い積層厚に限定される。コーティング済原料の繊維含有量の範囲は、積層コアの面から測定した際のコーティング厚の変動によりもたらされ、より高い繊維含有量が、より薄いコーティング厚によりもたらされる。全体的なコーティング体積分率が、円形への形状変換後に積層コアの角と液化装置の壁との間に少なくとも0.001インチのコーティング材を維持するに十分なほど大きいことを確実にするために、最小0.005インチのコーティング厚が必要とされる。このコーティング厚は、純樹脂コーティングに関しては34%、30wt%不連続繊維添加コーティングに関しては44%の、最大繊維含有量をもたらす。」
合議体注:図5O~図5Qは次のものである。
[図:0001422413000011.jpg]
「【0089】
解空間は、より厚い積層厚まで拡大されうるが、それでも、図5Iに図示するコーティングのような角が丸くなっている正方形のコーティングを使用することによって、全体的な繊維含有量を最大化しうる。断面の最大寸法、対角線長が減少することから、より厚い積層コア厚が使用可能である。入口での液化装置の壁との接触の面積が少なくなると、その壁と全体的に接触する円形コーティングと比較して、より確実な送りが可能になることから、最大寸法が0.070インチである事例も許容される。所与の積層厚に関しては、コーティング済原料の繊維含有量は、対角線長が0.070インチになるように角が丸くされている積層板の面から測定した際のコーティングをより薄くすることによって、増大しうる。積層板の角から径方向に測定される、丸くなった角におけるコーティング厚が、実践的なコーティング工程のために0.004インチという許容可能な最小値に保たれている、各積層厚についても、実現可能な最大繊維含有量が記されている。上記のような最大の丸くなった角を有することで、積層板の面から測定されたコーティング厚は、0.033インチ、0.039インチ、及び0.044インチの積層厚に関してそれぞれ、0.005インチ、0.006インチ、及び0.007インチであるべきであり、純樹脂コーティングを使用すれば34~35体積%、30wt%の不連続繊維を有するコーティングを使用すれば44体積%の、繊維含有量がもたらされる。
【0090】
航空機、及び航空機を製造及び運航する方法の例
例示された実施形態は、連続繊維が連続して単方向に配向されており、かつ、これらの連続繊維がストリップの断面全体を通じて適切に分布している、複合原料ストリップを形成する新規な製造方法を提供する。更に、これらの方法は、ストリップの種々の断面形状及び/又は寸法を提供する。これらの方法において使用される連続処理は、処理スループットを増大させるだけでなく、複合原料ストリップの様々な特性の高水準な制御も提供する。実施形態は、例えば航空宇宙産業におけるものを含む多種多様な潜在的応用での、適用可能な使用法を見い出す。開示されている方法は、理想的には、ブラケット、クリップ支持体、リンクレバー、又はより一般的には、現在は金属で形成されている任意の不定形断面構造物(例えばラグ、端末取付具)のような複雑な形状寸法を有する部品の付加製造に適する。それらの部品は概して、ビームのような単純な(例えば線形の)形状寸法(変動しない断面など)を有する部品とは区別されるべきである。開示されている方法は、付加製造を使用して製造される可能性がある、一点ものの、カスタマイズされた、又は、変動しない断面を伴う非常に限定された部品にも適する。」
イ 甲第1号証に記載された発明
前記ア(ア)に基づけば、甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項10の記載を引用する請求項12に係る発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 コーティング済複合原料ストリップであって、
第1樹脂、及び、前記シートの中で互いに平行に延びている繊維を含む、複合原料ストリップと、
第2樹脂を含み、前記複合原料ストリップの外表面上に配置され、かつ、複合原料ストリップの周囲に外殻を形成する、コーティング層とを備え、
前記複合原料ストリップの断面全体を通じての前記繊維の濃度は、少なくとも約40体積%である、コーティング済複合原料ストリップ。」
(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願における優先権主張に係る先の出願前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証には、図面とともに以下の記載事項がある。なお、甲第2号証に記載された技術的事項の認定に用いた箇所に下線を付した。
(ア)技術分野
「[0001] 本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂基材およびそれを用いた成形品に関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「[0006] そこで本発明の課題は、熱可塑性樹脂をマトリックスとした繊維強化熱可塑性樹脂基材に関して、強化繊維がより確実に均一に分散し、機械特性のばらつきの小さい繊維強化熱可塑性樹脂基材を提供することにある。」
(ウ)課題を解決するための手段
「[0007] 上記課題を解決するために、本発明は、主として、以下の構成を有する。
[1]連続した強化繊維が平行に引き揃えられるとともに、熱可塑性樹脂が含浸された繊維強化熱可塑性樹脂基材であって、繊維体積含有率が40~65体積%の範囲内にあり、且つ下記の方法によって求められる繊維の分散パラメーターDが90%以上であることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂基材。
(i)前記繊維強化熱可塑性樹脂基材の強化繊維配向方向と垂直な横断面を複数の区画に分割し、その中の1つの区画を撮影する。
(ii)前記区画の撮影画像を、式(1)で規定された一辺の長さtを有する複数の正方形ユニットに分割する。
(iii)式(2)で定義する分散パラメーターdを算出する。
(iv)異なる区画について(i)~(iii)の手順を繰り返し、前記横断面から得られる複数の区画の分散パラメーターdの平均値を分散パラメーターDとする。
1.5a≦t≦2.5a (a:繊維直径、t:ユニットの一辺の長さ)・・・(1)
分散パラメーターd=区画内における強化繊維が含まれるユニットの個数/区画内におけるユニットの総個数×100・・・(2)
[2]前記分散パラメーターdの変動係数が4%以下である、[1]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂基材。」
(エ)発明の効果
「[0008] 本発明によれば、強化繊維が高い均一性をもって分散し、優れた機械特性が小さなばらつきをもって安定して発現される繊維強化熱可塑性樹脂が得られる。」
イ 甲第2号証に記載された技術的事項
甲第2号証の上記記載事項に基づけば、甲第2号証には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「機械特性の優れた繊維強化熱可塑性樹脂基材を得るために、分散パラメーターDを90%以上とし、分散パラメーターdの変動係数を4%以下とすること」
2 本件特許発明1
(1)対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
ア 強化繊維
引用発明の「互いに平行に延びている繊維」は、コーティング済複合原料ストリップ中に、複数の繊維が連続するように配置されているといえる。また、引用発明の「互いに平行に延びている繊維」は、コーティング済複合原料ストリップ中に含まれることにより、コーティング済複合原料ストリップの機械的強度を強化しているといえる。したがって、引用発明の「互いに平行に延びている繊維」は、本件特許発明1の「複数の連続した強化繊維」に相当する。
また、引用発明の「互いに平行に延びている繊維」は、「複合原料ストリップ」に含まれるものであり、さらに、外殻を形成する「コーティング層」によって複数の「互いに平行に延びている繊維」が、ひとまとまりとされ、「束」を形成しているといえる。したがって、引用発明の「互いに平行に延びている繊維」は、本件特許発明1の「複数の連続した強化繊維」を形成しているといえる。
イ 熱可塑性樹脂
本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」と引用発明の「第1樹脂」とは、「樹脂」である点で共通する。
ウ フィラメント
引用発明の「コーティング済複合原料ストリップ」は、「第1樹脂」、「第2樹脂」及び「互いに平行に延びている繊維」を含むものであり、細長い形状を有するものといえる。
したがって、引用発明の「コーティング済複合原料ストリップ」は、本件特許発明1の「フィラメント」に相当する。
エ 一致点及び相違点
本件特許発明1と引用発明とは、
「複数の連続した強化繊維と樹脂を含む繊維強化樹脂フィラメント。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1-1]
樹脂が、本件特許発明1では「熱可塑性」であるのに対し、引用発明では樹脂が熱可塑性であるとされていない点。
[相違点1-2]
本件特許発明1は、複数の連続した強化繊維を有する強化繊維束に樹脂を「含浸」させているのに対し、引用発明は、シートの中で互いに平行に延びている複数の繊維に第1樹脂を含浸させていると特定されていない点。
[相違点1-3]
フィラメントが、本件特許発明1では「3Dプリンタ用」であるのに対し、引用発明のコーティング済複合原料ストリップは用途を特定していない点。
[相違点1-4]
本件特許発明1は、「フィラメント軸方向に対する強化繊維の配向角度の絶対値が0~4度となる割合が全体の90%以上」であるのに対し、引用発明は、互いに平行に延びている繊維の、コーティング済複合原料ストリップに対する配向角度及びその割合を特定していない点。
[相違点1-5]
本件特許発明1は、「真円度パラメータsの平均値Sが80%以上」であり、「真円度パラメータsの変動係数が2%以下」であり、「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数が5%以下」であるのに対し、引用発明は、本件特許発明1において定義される「真円度パラメータsの平均値」、「真円度パラメータsの変動係数」及び「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数」を特定していない点。
(当合議体注:「真円度パラメータsの平均値S」、「真円度パラメータsの変動係数」及び「外接円の変動係数」の定義については,再掲を省略している。)
(2)判断
事案に鑑みて、[相違点1-5]について検討する。
引用発明は、コーティング済複合原料ストリップの断面形状を特定していない。そうすると、「真円度パラメータsの平均値S」、「真円度パラメータsの変動係数」及び「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数」について、本件特許発明1の要件を満たすということはできないから、当該[相違点1-5]は、実質的な相違点である。
次に、当該[相違点1-5]について、本件特許発明1が具備する構成とすることを、当業者が容易に想到し得たかについて検討する。甲第1号証の段落【0011】には、「コーティング済複合原料ストリップの断面形状は、楕円形、円形、長方形、正方形、及び、角が丸くなっている長方形と角が丸くなっている正方形から成る群から選択される。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲第1号証には、引用発明のコーティング済複合原料ストリップについて、その断面形状を円形とすることが示唆されているといえる。
しかし、甲第1号証には、コーティング済複合原料ストリップの断面形状について、本件特許発明1における「真円度パラメータsの平均値S」、「真円度パラメータsの変動係数」及び「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数」を制御することについて何ら記載がない。そうすると、引用発明の「真円度パラメータsの平均値S」、「真円度パラメータsの変動係数」及び「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数」について、その値を調整しようとする動機付けがあるとはいえない。また、請求人が提示する甲第2号証~甲第4号証の記載を参酌しても、コーティング済複合原料ストリップについて、「真円度パラメータsの平均値S」、「真円度パラメータsの変動係数」及び「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数」の値を調整しようとする動機付けが存在したということができない。
そうすると、当業者であっても、引用発明について、「真円度パラメータsの平均値Sが80%以上」であり、「真円度パラメータsの変動係数が2%以下」であり、「真円度パラメータsの元となる外接円の変動係数が5%以下」とすることが容易になし得たということができない。
(3)小括
以上より、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が甲第1号証に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
3 本件特許発明2~9
本件特許発明2~9は、本件特許発明1に更に限定を加えたものである。本件特許発明2~9と引用発明とを対比すると、少なくとも前記[相違点1-5]において相違するから、本件特許発明2~9は、前記2(3)に記載した理由と同じ理由により、当業者が甲第1号証に基づいて容易に発明できたものとはいえないから、請求項2~9に係る特許も、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
申立人は、「申立ての理由 その3」として、特許異議申立書において、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件特許発明1ないし6及び8は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものと主張している。
また、申立人は、「申立ての理由 その4」として、本件特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許発明8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものと主張している。
1 申立ての理由 その3について
申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「フィラメント軸方向に対する強化繊維の配向角度の絶対値が0~4度となる割合が全体の90%以上」、「繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの繊維体積含有率(Vf)を15~80%、熱可塑性樹脂の体積割合が85~20%」、「空隙率が10%以下」、「強化繊維の分散パラメータd(%)の平均値Dが90%以上」、「平均値Dを算出するために用いた複数の分散パラメータdの変動係数が4%以下」、「フィラメントの外周部の少なくとも一部に存在する前記熱可塑性樹脂層の体積割合が、繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント全体の体積に対して50%以下」とするための操作条件等については何も記載されていないと主張している。
しかしながら、強化繊維の配向角度を制御し、強化繊維と熱可塑性樹脂、コーティングに用いる樹脂の配合割合を制御し、含浸や成形の条件を制御することにより、「フィラメント軸方向に対する強化繊維の配向角度の絶対値が0~4度となる割合」、「繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの繊維体積含有率(Vf)」、「熱可塑性樹脂の体積割合」、「空隙率」、「強化繊維の分散パラメータd(%)の平均値D」、「平均値Dを算出するために用いた複数の分散パラメータdの変動係数」、「フィラメントの外周部の少なくとも一部に存在する前記熱可塑性樹脂層の体積割合」を変更できることは自明である。そうすると、これらの条件を最適化することにより上記パラメータを調節できるものであり、過大な試行錯誤を要するということはできない。
したがって、本件特許発明1~6及び8は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、申立人の当該主張は採用できない。
2 申立ての理由 その4について
申立人は、本件特許発明8について、「50%以下であれば常として、造形時に強化繊維が存在しない樹脂層の部分で材料破壊が起こることを避けるとの課題を解決できるとは到底理解できない。」と主張している。
本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0008】の記載からみて、「真円度やボイド率、強化繊維の分散性、強化繊維の直進性といった品位に優れ、3Dプリンタによる成形時の工程通過性や造形安定性に優れた3Dプリンタ用繊維強化熱可塑性樹脂フィラメント」を提供することにあるといえる。そして、その課題は、本件特許発明1において解決できるのであるから、本件特許発明1に、更に、要件を付加してなる本件特許発明8においても、同様に当該課題を解決できるものである。
したがって、本件特許発明8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、申立人の当該主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に、本件特許発明1~9を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項10は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てのうち、請求項10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700108