特許異議申立
2025-700006
ハイブリッド成形体、成形装置、及び成形方法
- 審判番号
- 2025-700006
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-014784
- 登録番号
- 7512919
- 請求日
- 2024年12月23日
- 審決日
- 2026年06月12日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】トヨタ自動車株式会社
- 【権利者代理人】家入 健
- 【権利者代理人】須藤 雄一郎
- 【異議申立人】石川 竜郎
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 植前 充司
- 審判官 高松 大
- 分類
- P1652.537-YAA(B29C) / P1652.55 -YAA(B29C) / P1652.113-YAA(B29C) / P1652.121-YAA(B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第120条の5第9項、特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7512919号発明「ハイブリッド成形体、成形装置、及び成形方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7512919号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7512919号の請求項1及び4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7512919号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願(特願2021-14784号)は、令和3年2月2日の出願であって、令和6年7月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和6年12月23日に特許異議申立人 石川 竜郎(以下「異議申立人」という。)から請求項1及び4に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和7年 3月28日付け:取消理由通知書
同年 5月23日提出:意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 6月 9日付け:訂正請求があった旨の通知
同年 7月 9日提出:意見書(異議申立人)
同年 9月19日付け:訂正拒絶理由通知書
同年12月23日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和8年 2月20日提出:意見書、訂正請求書(特許権者。この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)
同年 3月12日付け:訂正請求があった旨の通知
同年 4月 6日提出:意見書(異議申立人)
なお、令和7年9月19日付けで通知した訂正拒絶理由に対し、特許権者からは何ら応答がなかった。
また、令和7年5月23日になされた訂正請求については、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1) 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7512919号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものである。
(2) 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容(以下「訂正事項」という。)は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(特許掲載公報に記載されたものであって、本件訂正請求による訂正前のもの)について言及する際には、以下において、それぞれ、「本件特許明細書」、「本件特許請求の範囲」、「本件特許図面」といい、これらをまとめて「本件特許明細書等」という。
ア 訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1に「シート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形されたシート状のハイブリッド成形体であって、前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記樹脂が前記プリプレグを被覆する被覆部を備え」と記載されているのを、「シート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形され、前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成されたシート状のハイブリッド成形体であって、前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦であると共に、前記樹脂が前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有しており」に訂正する。
イ 訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項4に「前記境界部分に前記被覆部を形成する」と記載されているのを、「前記境界部分に前記突き合わせ面から前記被覆部に至る前記段差構造を形成する」に訂正する。
(3) 一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、「シート状のハイブリッド成形体」を「前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成された」ものに限定するとともに、「プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分」において、「前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦である」ことに限定し、さらに、「前記樹脂」が「前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有」するように限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~4についても、同様である。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の段落【0025】に、「ハイブリッド成形体10は、繊維強化プラスチックからなるプリプレグ11と樹脂12とが一体成形された、成形体である。」と記載されているとおり、訂正事項1の「シート状のハイブリッド成形体」を「前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成された」ものに限定する事項は、本件特許明細書に記載されている。
また、同段落【0027】には、「すなわち、被覆体13によって、プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分が被覆されている。」と記載されていることからみて、訂正事項1の「突き合わせ面」は、「プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分」を指し、本件特許図面の【図2】の記載を考慮すれば、「突き合わせ面が平坦である」とは、「プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分」に段差がないことを意味するものと解することができる。したがって、訂正事項1の「プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分」において、「前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦である」ことに限定する事項は、本件特許明細書等に記載されているといえる。
さらに、同段落【0027】に、「被覆体13は樹脂12の一部である。」及び「すなわち、被覆体13によって、プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分が被覆されている。」と記載されていることからみて、「プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分」を「被覆」する「被覆体13」は、「樹脂12の一部」であるといえるから、同段落【0027】に記載された「樹脂12」は、段差構造を有するといえる。そしてこのことは、本件特許図面の【図2】の記載によっても裏付けられている。したがって、訂正事項1の「前記樹脂」が「前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有」するように限定する事項は、本件特許明細書等に記載されているといえる。
そうしてみると、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~4についても、同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~4についても、同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項4の訂正は、「樹脂」を「前記境界部分に前記突き合わせ面から前記被覆部に至る前記段差構造を形成する」ように限定したものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2に係る請求項4の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1及び4に対してされているので、訂正を認める要件として、請求項1及び4に対しては特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されないが、請求項2及び3に対しては上記独立特許要件が課される。
そこで、請求項2及び3の独立特許要件について検討するに、訂正後の請求項2及び3に係る発明は、下記第5のとおり、令和7年12月23日付けで通知された取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことのできない訂正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て有するものであるから、訂正後の請求項1に係る発明と同様に上記取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては特許を受けることができないものであるとはいえない。また、他に訂正後の請求項2及び3に係る発明が特許を受けることができないものであるという理由も発見しない。
よって、訂正後の請求項2及び3に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のものである。
「 【請求項1】
強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形され、前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成されたシート状のハイブリッド成形体であって、
前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦であると共に、前記樹脂が前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有しており、
前記被覆部は、前記境界部分の全体に亘って設けられると共に、前記境界部分のみに設けられている、
ハイブリッド成形体。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド成形体を成形する成形装置であって、
前記成形装置は、
前記プリプレグをプレス加工する第1の型及び第2の型を備え、
前記第1の型及び前記第2の型が対向する面のうち少なくともいずれか一方が、前記被覆部を成形するための凹部を備える、
成形装置。
【請求項3】
前記第1の型及び前記第2の型のうち少なくともいずれか一方が、前記樹脂の射出手段を備える、
請求項2に記載の成形装置。
【請求項4】
プリプレグと樹脂とを一体成形して請求項1に記載のハイブリッド成形体を成形する成形方法であって、
プレス成形後のシート状の前記プリプレグに対し、前記境界部分に前記突き合わせ面から前記被覆部に至る前記段差構造を形成するように前記樹脂をシート状に射出して前記突き合わせ構造を有する前記ハイブリッド成形体を成形する、
成形方法。」
第4 取消理由の概要
令和7年12月23日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。
取消理由1:(明確性要件違反)
本件特許発明1及び4は明確でないから、請求項1及び4に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:(新規事項の追加)
請求項1に記載された「シート状の樹脂」なる発明特定事項は、令和6年4月8日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)によって特許請求の範囲に追加されたものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)には、「樹脂」が「シート状」であることは明記されておらず、本件補正が、新たな技術的事項を導入するものではないということはできないから、本件特許発明1及び4に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
したがって、特許法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由3:(新規性欠如、進歩性欠如)
本件特許発明1及び4は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1及び4に係る特許は、同項の規定に違反してされたものである。また、本件特許発明1及び4は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び4に係る特許は、同条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(異議申立人が提示した証拠方法)
甲第1号証:特開2010-46941号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2018/110293号(以下「甲2」という。)
(当合議体注:甲1及び2は主引用例である。)
第5 取消理由についての当合議体の判断
令和7年12月23日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由についての当合議体の判断は、以下のとおりである。
1 取消理由1(明確性要件)について
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 明確性要件についての判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び4の記載は上記第3のとおりである。そして、「シート状」とは、平面的で厚みが薄い形態を意味するものであり、部分的に段差構造が存在するとしても全体的な形状として、本件特許発明1の「ハイブリッド成形体」は、当業者であれば「シート状」と認識できるものといえるから、請求項1及び4の記載自体は明確であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。
よって、本件特許発明1及び4については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3) 異議申立人の意見について
ア 異議申立人は、令和8年4月6日に提出した意見書の2ページにおいて、「「シート状」とは通常、平面的で厚みが薄い形態を意味するものであり、段差構造を有するものまで「シート状」と称することはかえって不明確さを増大させるものです。」と主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり「シート状」とは、平面的で厚みが薄い形態を意味するものであり、部分的に段差構造が存在するとしても全体的な形状として、本件特許発明1の「ハイブリッド成形体」は、当業者であれば「シート状」と認識できるものといえるから、当該主張は採用できない。
また、異議申立人は、同意見書の2ページにおいて、「今回の訂正請求書による訂正は樹脂が段差形状を有しさえすればよいことを規定するに過ぎず、それによって「シート状」の外延が明確になったとは言えません。」、及び「出願時の明細書にはハイブリッド成形体がシート状であることは記載されておらず、この主張は根拠を欠きます。」とも主張するが、上記のとおり判断されるものであり、その主張は採用できない。
イ 異議申立人は、同意見書の2ページにおいて、「突き合わせ面」はあくまで「面」であり、この「面」から被覆部という「部位」に「至る」段差構造がどの部分を指すのか、技術的に特定できません。」と主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0027】には、「被覆体13が備える被覆部13aが、プリプレグ11のz軸正側のxy平面の少なくとも一部を被覆している。すなわち、被覆体13によって、プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分が被覆されている。」と記載されている。そうしてみると、本件特許発明1の「段差構造」は、「プリプレグ11のz軸正側のxy平面の少なくとも一部を被覆している」「被覆部13a」を備えた「被覆体13」と、「プリプレグ11」「との接合面Bの突き合わせ部分」を有する「樹脂12」からなる構造を指すといえ、本件特許図面の【図2】の記載とも整合する。
そうしてみると、当業者であれば、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮すれば、「段差構造」の意味を理解できるといえるのであるから、当該主張は採用できない。
ウ 異議申立人は、同意見書の3ページにおいて、「「突き合わせ面」がプリプレグ側の端面を指すのか、樹脂側の端面を指すのか、あるいは両者が接触する界面を指すのかが請求項の記載から一義的に特定できません。」、及び「また、「突き合わせ面が平坦である」の「平坦」も、何に対して平坦なのか(プリプレグの上面・下面に対して垂直な面が平滑であることを意味するのか、接合界面全体が段差なく平面的であることを意味するのか)が明確ではありません。」と主張する。
しかしながら、上記第2の2(1)イで述べたとおり、本件特許発明1の「突き合わせ面」は、「プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分」を指し、本件特許図面の【図2】の記載を考慮すれば、「突き合わせ面が平坦である」とは、「プリプレグ11と樹脂12との接合面Bの突き合わせ部分」に段差がないことを意味するものと解することができる。そしてこのことは、本件特許明細書の段落【0063】に、実施の形態4のハイブリッド成形体は、「プリプレグと樹脂との接合面が噛み合うように構成される」ことが記載されていること、そして、令和8年2月20日に特許権者が提出した意見書において、「訂正後の請求項1に係る「シート状の樹脂」は、・・・(略)・・・、本件特許明細書における実施の形態1のみを含み、実施の形態2、3、及び4については含まない」と主張していることとも整合する。
そうしてみると、当業者であれば、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮すれば、「突き合わせ面が平坦である」という記載の意味を理解できるといえるから、当該主張は採用できない。
(4) 小括
本件特許発明1及び4は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
2 取消理由2(新規事項の追加)について
(1)新規事項の追加の判断基準
「明細書又は図面に記載した事項」とは、技術的思想の高度の創作である発明について、特許権による独占を得る前提として、第三者に対して開示されるものであるから、ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ、「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正がこのようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
(2)新規事項の追加についての判断
「樹脂」が「シート状」であるとすること、「樹脂をシート状に射出して」なることは、上記第2の2(1)イ及び(2)で検討したとおりであり、出願当初明細書等に記載した事項との関係においても同様であるから、新規事項の追加にあたるものではない。
(3)異議申立人の意見について
異議申立人は、令和8年4月6日に提出した意見書の3ページにおいて、「段差構造の限定を追加しても、出願当初明細書に「樹脂がシート状である」旨の記載がないという事実は変わりません。」「本件特許の明細書[0027]では被覆体13がプリプレグのz軸正側から「突出するように設けられている」と記載されているに過ぎず、これを「段差構造」と称することは出願当初明細書の記載から導き出せない新たな技術的事項の導入に該当します。」と主張する。
また、異議申立人は、同意見書の3~4ページにおいて、「「突き合わせ面」も明細書に明示的記載がありません。特許権者自身が今回の訂正請求書において明示的記載がないことを認めた上で「接合面B」から自明であると主張しています。しかし、特許権者自身が今回の訂正請求書の4ページにおいて「接合面との表現は、プリプレグの上面と樹脂との接合面を含むか否か明確でないため、より適切な突き合わせ面との表現を用いた」と述べており、「接合面」と「突き合わせ面」は概念が異なることを自認しています。概念が異なることを自認しつつ明示的記載のない用語に置き換えることは、新規事項の追加に該当します。」と主張する。
しかしながら、いずれの点も上記第2の2(1)及び(2)で既に検討したとおり、本件特許明細書等の全ての記載を総合すれば、新規事項の追加にあたらないものと判断され、出願当初明細書等に記載した事項との関係においても同様であるから、異議申立人の主張はいずれも採用できない。
(4)小括
本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさないとはいえない。
3 取消理由3(新規性欠如、進歩性欠如)について(甲1を主引用例とした場合)
(1) 本件特許発明1について
ア 甲1の記載事項
令和7年12月23日付けで特許権者に通知した取消理由で引用した甲1は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。(当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下同様とする。)
(ア) 「【請求項2】
少なくとも一部に熱可塑性樹脂を有する繊維強化複合材料板(I)と、被着部材(II)を接合させて一体化成形品(III)を製造する方法において、該繊維強化複合材料板(I)の端部に段差形状を設け、かつ該被着部材(II)の接合部に該段差形状に相対する形状を形成し、該繊維強化複合材料板(I)の端部と該被着部材(II)の接合部とを嵌合させた後に、嵌合した箇所の少なくとも一部を熱溶着により接着させることで、該繊維強化複合材料板(I)と該被着部材(II)を接合する工程を有する、一体化成形品の製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項4】
少なくとも一部に熱可塑性樹脂を有する繊維強化複合材料板(I)と、被着部材(II)を接合させて一体化成形品(III)を製造する方法において、該繊維強化複合材料板(I)の端部に段差形状を設け、次いで、該繊維強化複合材料板(I)と該被着部材(II)を金型内部に挿入し、これらの材料をプレス成形することで、該繊維強化複合材料板(I)と該被着部材(II)を接合する工程を有する、一体化成形品の製造方法。」
(イ) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの異なる材料が接合される接合部において、接合強度の優れた一体化成形品を得るための製造方法に関する。詳しくは、本発明の製造方法は、端部に段差形状を有した繊維強化複合材料板に被着部材を接合させることで、とりわけ端部での接合性に優れた特性を有する一体化成形品を得る。
・・・(略)・・・
【0004】
特許文献1には、熱可塑性樹脂をコアとしたサンドイッチ構造を有する複合成形品が記載されており、該成形品の熱可塑性樹脂部に他の部材の少なくとも一部が凸形状を形成しており、嵌め合わせにより異種材料と優れた接合を発現することが可能である。このように、特許文献1に記載の成形品は機械的構造により優れた接合を発現する製造方法であるが、さらなる多種多様な用途への適用を想定して、積層板の端部断面における接合を強化することが強く望まれていた。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点の改善を試み、繊維強化複合材料板の端部と他の部材との端部における優れた接合強度を発現する、繊維強化複合材料板と他の部材からなる一体化成形品の製造方法を提供する事を目的とする。この製造方法を用いて得られた一体化成形品は、電気・電子機器、携帯情報端末などの筐体や自動車、航空機などの輸送機器の構造材に好適に使用される。」
(ウ) 「【発明を実施するための最良の形態】
・・・(略)・・・
【0010】
本発明に係る一体化成形品の製造方法において用いられる繊維強化複合材料板1は、その少なくとも一部に熱可塑性樹脂4を有しており、かつ、該繊維強化複合材料板1には、図3に示すように、端部に段差形状を設けることが重要である。そして、本発明に係る一体化成形品の製造方法の一態様においては、かかる段差形状を設けることに次いで、図4に示すように、前記繊維強化複合材料板を金型5の内部に挿入し、射出成形機6を使用して被着部材7を射出成形することで、該繊維強化複合材料板1と該被着部材7を接合することが重要である。
・・・(略)・・・
【0017】
前記マトリックス樹脂3を熱硬化性樹脂とした場合に、前記マトリックス樹脂3を熱可塑性樹脂とした場合と同様に、前記繊維強化複合材料板1をどのように加工しても段差形状の表面に熱可塑性樹脂4が存在し、段差形状における優れた接合強度が発現できることから、図8に示すように熱可塑性樹脂は該繊維強化複合材料板の全領域にわたって連続して層形状をなしていることが好ましい。なお、ここで言う「連続して」とは、断面において、前記熱可塑性樹脂4が板の全領域(幅または長さ方向)で途切れることなくつながっている状態を意味する。
・・・(略)・・・
【0022】
また、図11に示すように、本発明で用いられる繊維強化複合材料板(I)の端部に形成される段差形状が2つ以上設けられていることが好ましい。前記段差形状を増やすことによって、前記被着部材(II)との接合面積が増加すると共に、嵌合構造が複雑化されて嵌合力が向上する。段差の数については、特に制限されないが、接合強度と段差加工性の観点から、5つ程度あれば十分な接合強度と易加工性の両立が可能である。
・・・(略)・・・
【0031】
本発明で用いられる前記被着部材(II)としては、特に力学特性の観点からは、強化繊維を含む繊維強化樹脂材料で構成されていることが好ましい。さらに、強化繊維を含むことで前記被着部材(II)の寸法安定性が向上し、前記一体化成形品の寸法精度も向上される。このような構成とすることで、前記繊維強化複合材料板(I)と該被着部材(II)からなる一体化成形品の強度が向上され、該一体化成形品を力学特性の必要な箇所での適用が可能となる。
・・・(略)・・・
【0038】
また、被着部材(II)は、該被着部材(II)の熱可塑性樹脂を溶融させた状態で成形することにより形状を形成することも考慮すると、強化繊維は短繊維とし、熱可塑性樹脂中に均一に分散していることが好ましい。この場合の強化繊維の重量含有量Wfは、成形性、強度および軽量性とのバランスの観点から、該被着部材(II)に対して、5~75重量%が好ましく、より好ましくは10~50重量%である。」
(エ) 「【実施例】
【0055】
実施例および比較例に基づき、本発明をさらに詳細かつ具体的に説明する。なお、各項目の評価方法を記述する。
・・・(略)・・・
【0071】
(実施例1)
(実施例1-1:繊維強化複合材料板A1)
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂で、一方向に配列された多数本の炭素繊維からなる強化繊維群からなり、強化繊維の含有量が、重量割合(Wf)で67%のプリプレグ(東レ(株)製トレカプリプレグP3052S-12)から、所定の大きさ有する長方形のプリプレグシート19を10枚、共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製"アミラン"(登録商標)CM8000、ポリアミド6/66/610/612共重合体、融点128℃)製フィルム(厚み50μm)を1枚切り出した。図18において、これら10枚のプリプレグシート19と1枚のフィルム20が、斜視図をもって示される。
【0072】
長方形に切り出したシートの長辺の方向を0°として、繊維方向が、上から[90/0/90/0/90/フィルム/90/0/90/0/90]となるように、10枚のプリプレグシート19と1枚のフィルム20を、下から順次積層した(矢印Aで示される)。
【0073】
次に、プレス成形機にて、プリプレグシート19とフィルム20からなる積層体17を、0.6MPaの面圧をかけながら、150℃で30分間加熱して熱硬化性樹脂を硬化させた。硬化終了後、室温で冷却し、平均の厚み1.25mmの繊維強化複合材料板を得た。
【0074】
得られた繊維強化複合材料板の端部に、フライス加工機を使用して段差の最小厚みが0.6mm、奥行きLが3mmとなるように段差を形成させ、繊維強化複合材料板A1を得た。
実施例で製造した繊維強化複合材料板を評価方法1~6で評価した。結果は表1に示す。
【0075】
(実施例1-2:成形品A2)
図16に示される成形品A2を製造する。端部に段差を有する繊維強化複合材料板A1を射出成形用金型(図示せず)にインサートした。マトリックス樹脂がポリアミド系樹脂からなり、炭素繊維含有率が重量割合(Wf)で20%の長繊維ペレット(東レ(株)製TLP1146S)を用意した。このペレットを用いて、図16の被着部材7のような形状を有する射出成形材を射出成形にて形成させ、一体化成形品A2を製造した。射出成形は、日本製鋼所(株)製J350EIII射出成形機を用いて行い、シリンダー温度は280℃とした。実施例で製造した一体化成形品を評価方法7で評価した。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
(実施例2-1:繊維強化複合材料板B1)
繊維方向が上から[90/0/90/0/90/フィルム/90/0/90/0/90]となるように、前記実施例1-1と同じプリプレグシート10枚と共重合ポリアミド製フィルム(厚み50μm)1枚を下から順次積層した。前記実施例1-1と同じ条件で成形・加工を行い、端部に段差形状を有した平均の厚み1.25mmの繊維強化複合材料B1を製造した。
【0077】
(実施例2-2:成形品B2)
図19に示される成形品B2を製造する。端部に段差を有する繊維強化複合材料板B1とその段差に相対する形状を有した被着部材(II)を嵌合させて治具を用いて固定した。これらの各材料の接合部の上方から180℃の温風を5分ほどあて、成形品B2を製造した。
・・・(略)・・・
【0094】
(比較例1)
(比較例1-1:繊維強化複合材料板I1)
繊維方向が上から[90/0/90/0/90/フィルム/90/0/90/0/90]となるように、前記実施例1-1と同じ10枚のプリプレグシート19と1枚のフィルム20を、下から順次積層した。前記実施例1-1と同じ条件で成形し、平均の厚み1.25mmの繊維強化複合材料板I1を製造した。
【0095】
(比較例1-2:成形品I2)
前記実施例1-2と同じ要領で、前記繊維強化複合材料板I1を射出成形用金型にインサートし、成形品I2を製造した。
・・・(略)・・・
【0100】
【表1】
[図:0001439181000001.jpg]
」(合議体注:表1は、時計回りに90度回転させた。)
(オ) 「【図16】
[図:0001439181000002.jpg]
・・・(略)・・・
【図19】
[図:0001439181000003.jpg]
」
イ 甲1発明
甲1に記載の「被着部材(II)」は、図19の記載から、「繊維強化複合材料B1」と同等の厚みを有していて、「繊維強化複合材料B1」と「被着部材(II)」は面一となっていることが看て取れる。
したがって、甲1の記載(特に、請求項2、【0071】~【0077】、【0100】【表1】の記載、図19等を参照。)のうち、実施例2の記載に着目し整理すると、甲1には次の発明(なお、認定した発明において、甲1における記載箇所をそれぞれ括弧書きで添え書きする。甲2においても同様である。)が記載されているものと認める。
「端部に段差形状を設けた少なくとも一部に熱可塑性樹脂を有する繊維強化複合材料板B1の前記端部と、接合部に前記段差形状に相対する形状を形成した被着部材(II)の前記接合部とを、嵌合させ、熱溶着により接着させて一体化した成形品B2であって、(請求項2、【0076】、【0077】)
前記繊維強化複合材料板B1は、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂で、一方向に配列された多数本の炭素繊維からなる強化繊維群からなり、強化繊維の含有量が、重量割合(Wf)で67%のプリプレグ(東レ(株)製トレカプリプレグP3052S-12)から、所定の大きさを有する長方形のプリプレグシート19を10枚、前記熱可塑性樹脂からなる共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製"アミラン"(登録商標)CM8000、ポリアミド6/66/610/612共重合体、融点128℃)製フィルム(厚み50μm)からフィルム20を1枚切り出し、前記10枚のプリプレグシート19と前記1枚のフィルム20を積層して、プレス成形により前記熱硬化性樹脂を硬化して得られた繊維強化複合材料板の端部に、フライス加工により前記段差形状の段差を形成したものであり、(【0071】~【0074】、【0076】)
前記繊維強化複合材料板B1の平均の厚みは、1.25mmであり、(【0076】)
前記段差形状の段差は、最小厚みが0.6mm、奥行きLが3mmであり、(【0074】、【0076】)
前記被着部材(II)は、マトリックス樹脂がポリアミド系樹脂からなり、炭素繊維含有率が重量割合(Wf)で20%の長繊維ペレット(東レ(株)製TLP1146S)を用いて形成され、(【0075】、【0100】の【表1】)
前記被着部材(II)は前記繊維強化複合材料B1と同等の厚みを有していて、前記繊維強化複合材料B1と前記被着部材(II)は面一となっている、(図19の看取事項)
成形品B2。」(以下、「甲1成形品発明」という。)
「甲1成形品発明の製造方法であって、
前記プリプレグから所定の大きさを有する長方形のプリプレグシート19を10枚、前記共重合ポリアミド樹脂製フィルムからフィルム20を1枚切り出して、切り出したシートの長辺の方向を0°として、繊維方向が上から[90/0/90/0/90/フィルム/90/0/90/0/90]となるように、プリプレグシート10枚と共重合ポリアミド製フィルム1枚を下から順次積層し、プレス成形機にて、当該積層体17を、0.6MPaの面圧をかけながら、150℃で30分間加熱して熱硬化性樹脂を硬化させ、硬化終了後、室温で冷却し、平均の厚み1.25mmの繊維強化複合材料板とする工程と、(【0071】、【0072】、【0076】)
得られた繊維強化複合材料板の端部に、フライス加工機を使用して段差の最小厚みが0.6mm、奥行きLが3mmとなるように段差を形成して、端部に段差形状を有した前記繊維強化複合材料板B1とする工程と、(【0073】、【0076】)
前記繊維強化複合材料板B1の端部と前記被着部材(II)の接合部を嵌合させて治具を用いて固定し、上方から180℃の温風を5分ほどあてて熱溶着する工程と、(【0077】)
を有する製造方法。」(以下、「甲1製造方法発明」という。)
ウ 対比
本件特許発明1と甲1成形品発明を対比する。
(ア) 技術的にみて、甲1成形品発明の「繊維強化複合材料板B1」及び「被着部材(II)」は、本件特許発明1の「プリプレグ」及び「樹脂」にそれぞれ相当する。
(イ) 甲1成形品発明の「繊維強化複合材料板B1」は、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂で、一方向に配列された多数本の炭素繊維からなる強化繊維群からなり、強化繊維の含有量が、重量割合(Wf)で67%のプリプレグ(東レ(株)製トレカプリプレグP3052S-12)から、所定の大きさを有する長方形のプリプレグシート19を10枚、共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製"アミラン"(登録商標)CM8000、ポリアミド6/66/610/612共重合体、融点128℃)製フィルム(厚み50μm)からフィルム20を1枚切り出し、前記10枚のプリプレグシート19と前記1枚のフィルム20を積層して、プレス成形により前記熱硬化性樹脂を硬化して得られた平均の厚み1.25mmの繊維強化複合材料板の端部に、段差を形成したものであり、その平均の厚みが1.25mmであるから、「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグ」といえる。
また、甲1成形品発明の「被着部材(II)」は「繊維強化複合材料B1」と同等の厚みを有していて、「繊維強化複合材料B1」と「被着部材(II)」は面一となっているから、「被着部材(II)」は「シート状の樹脂」といえ、「繊維強化複合材料B1」と「被着部材(II)」を熱溶着により接着させて一体化した「成形品B2」は、「前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成されたシート状のハイブリッド成形体」といえる。
そして、甲1成形品発明における繊維強化複合材料板B1の最も被着部材側に位置する鉛直面(甲1の図19における繊維強化複合材料板の段差(水平面)から下に伸びる鉛直面)と、被着部材(II)の前記鉛直面に相対する形状を有する鉛直面とが接合する構造を、「突き合わせ構造」ということができ、甲1成形品発明の「成形品B2」は、「突き合わせ構造で一体成形された」ものといえる。
したがって、本件特許発明1と甲1成形品発明は、「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形され、前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成されたシート状のハイブリッド成形体」である点で一致する。
(ウ) 甲1成形品発明において、「被着部材(II)」の接合部は、「繊維強化複合材料板B1」の端部の段差形状に相対する形状を有し、「繊維強化複合材料板B1」の端部と嵌合しているところ、「繊維強化複合材料板B1」の段差形状の段差(水平面)は、「突き合わせ構造」(前記(イ)を参照。)における境界部分に存在しており、「被着部材(II)」によって被覆されているといえるから、本件特許発明1と甲1成形品発明は、「プリプレグと樹脂との突き合わせ構造における境界部分において、樹脂がプリプレグを被覆する被覆部を有して」いる点で一致する。
(エ) 前記(ウ)で述べた「被着部材(II)」の「被覆部」が、「突き合わせ構造」における「境界部分」の全体に亘って設けられること、及び「境界部分」のみに設けられていることは、甲1成形品発明の構成から自明であるから、本件特許発明1と甲1成形品発明は、「被覆部は、境界部分の全体に亘って設けられると共に、境界部分のみに設けられている」点で一致する。
(オ) 前記(ア)~(エ)に照らせば、本件特許発明1と甲1成形品発明は、以下の点で一致する。
「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形され、前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成されたシート状のハイブリッド成形体であって、
前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記樹脂が前記プリプレグを被覆する被覆部を有しており、
前記被覆部は、前記境界部分の全体に亘って設けられると共に、前記境界部分のみに設けられている、
ハイブリッド成形体。」
(カ) 本件特許発明1と甲1成形品発明は、以下の点で相違する。
(相違点1-1)
本件特許発明1は、「前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦である」のに対し、甲1成形品発明は、段差形状の段差(水平面)は、「突き合わせ構造」における境界部分に存在する点。
(相違点1-2)
樹脂が、本件特許発明1は、「前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有して」いるのに対して、甲1成形品発明は、段差構造を有することが記載されていない点。
エ 判断
上記相違点1-1及び1-2は実質的にも相違点となるものである。してみると、本件特許発明1は、甲1成形品発明であるとはいえない。
次に、相違点1-1について検討する。
甲1成形品発明は、甲1の段落【0005】及び【0022】の記載からみて、「繊維強化複合材料板(I)の端部に」「段差形状」を設けることにより、「被着部材(II)との接合面積」を「増加」させると共に、「嵌合構造」を「複雑化」させて、「嵌合力」を向上させて、「繊維強化複合材料板の端部と他の部材との端部における優れた接合強度を発現」させたものである。
つまり、甲1成形品発明は、「繊維強化複合材料板(I)の端部に」「段差形状」を設けることにより、その効果を発現させるものであるから、甲1成形品発明において、「繊維強化複合材料板B1」の端面と「被着部材(II)」の接触面に段差構造を設けず平坦とする、すなわち、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けはない。
オ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲1成形品発明であるとはいえない。また、本件特許発明1は、甲1成形品発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2) 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを備えたハイブリッド成形体を成形する成形方法に関する発明であり、本件特許発明4と甲1製造方法発明とを対比すると、上記(1)ウと同様の相当関係、一致点、相違点があるものといえる。してみると、本件特許発明4も、上記(1)エと同じ理由により、甲1製造方法発明であるとはいえず、また、甲1製造方法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3) 甲1における他の実施例から甲1発明を認定した場合における理由について
上記(1)及び(2)における検討事項は、甲1の実施例1、3~8に係る成形品及びその製造方法を主引用発明とした場合でも同様である。
(4) 異議申立人の意見について
ア 異議申立人は、令和8年4月6日に提出した意見書の4~6ページにおいて、本件特許発明1は、甲1の比較例1に記載の成形品と同一であるか、当該成形品に基づいて当業者であれば容易に想到しうる旨主張する。そこで、上記点について検討する。
イ 甲1の比較例1に記載された発明
上記(1)アの記載によると、甲1には、比較例1として、以下の「成形品」の発明(以下「甲1比較例発明」という。)が記載されているものと認める。
「熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂で、一方向に配列された多数本の炭素繊維からなる強化繊維群からなり、強化繊維の含有量が、重量割合(Wf)で67%のプリプレグ(東レ(株)製トレカプリプレグP3052S-12)から、所定の大きさ有する長方形のプリプレグシート19を10枚、共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製"アミラン"(登録商標)CM8000、ポリアミド6/66/610/612共重合体、融点128℃)製フィルム(厚み50μm)を1枚切り出し、
繊維方向が上から[90/0/90/0/90/フィルム/90/0/90/0/90]となるように、10枚のプリプレグシート19と1枚のフィルム20を、下から順次積層し、
プレス成形機にて、面圧をかけながら、熱硬化性樹脂を硬化させ、平均の厚み1.25mmの繊維強化複合材料板I1を製造し、
繊維強化複合材料板I1を射出成形用金型にインサートし、マトリックス樹脂がポリアミド系樹脂からなり、炭素繊維含有率が重量割合(Wf)で20%の長繊維ペレット(東レ(株)製TLP1146S)を用意し、このペレットを用いて、端部に段差を有する繊維強化複合材料板A1をインサートし成形した場合に図16の被着部材7のような形状を形成する射出成形用金型により射出成形材を射出成形にて形成させて製造した、
成形品I2。」
ウ 対比
本件特許発明1と甲1比較例発明を対比する。
(ア) 技術的にみて、甲1比較例発明の「繊維強化複合材料板I1」及び「射出成形材」は、本件特許発明1の「プリプレグ」及び「樹脂」にそれぞれ相当する。
(イ) また、甲1比較例発明の「繊維強化複合材料板I1」は、その製法からみて、本件特許発明1の「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグ」といえる。
また、甲1比較例発明の「繊維強化複合材料板I1」と「射出成形材」を射出成形にて形成させて製造した「成形品I2」は、「前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成されたシート状のハイブリッド成形体」といえる。
(ウ) さらに、甲1比較例発明の「成形品I2」は、「繊維強化複合材料板I1」の端部に段差構造を設けることなく、「端部に段差を有する繊維強化複合材料板A1をインサートし成形した場合に図16の被着部材7のような形状を形成する射出成形用金型により射出成形材を射出成形にて形成させ」ているから、本件特許発明1の「前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦である」という要件を満たす。
エ 一致点及び相違点
上記ウより、本件特許発明1と甲1比較例発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。
(ア) 一致点
「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグと樹脂とが突き合わせ構造で一体成形され、前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成されたシート状のハイブリッド成形体であって、
前記被覆部は、前記境界部分の全体に亘って設けられると共に、前記境界部分のみに設けられている、
ハイブリッド成形体。」
(イ) 相違点
(相違点1-3)
樹脂が、本件特許発明1が、「シート状」であり、「前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有して」いるのに対し、甲1比較例発明は、「射出成形材」が、「端部に段差を有する繊維強化複合材料板A1をインサートし成形した場合に図16の被着部材7のような形状を形成する射出成形用金型により射出成形材を射出成形にて形成」した形状のものである点。
(相違点1-4)
本件特許発明1は、「前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦であ」るのに対して、甲1比較例発明は、「繊維強化複合材料板I1」と「射出成形材」が接する面の形状が一応明らかでない点。
オ 判断
事案に鑑み、上記相違点1-3と1-4をまとめて検討する。
端部に段差を有する繊維強化複合材料板A1をインサートし成形した場合に図16の被着部材7のような形状を形成する射出成形用金型により射出成形材を射出成形にて形成した場合、甲1比較例発明の「射出成形材」は、「繊維強化複合材料板I1」の端部と接する部分と、「繊維強化複合材料板I1」の下側に接する部分を有する略T字型の断面形状の構造を持つものと認められる。
そうすると、上記射出成形材と繊維強化複合材料板I1を組み合わせたものが、およそ「シート状」ではないことは当業者ならずとも明らかである(そもそも射出成形材は、シートを覆う部分を超えて明らかに突出している。)。したがって、甲1比較例発明は、本件特許発明1における「シート状」のものであるとはいえない。
また、甲1比較例発明の「繊維強化複合材料板I1」は「繊維方向が上から[90/0/90/0/90/フィルム/90/0/90/0/90]となるように、10枚のプリプレグシート19と1枚のフィルム20を、下から順次積層し、プレス成形機にて、面圧をかけながら、熱硬化性樹脂を硬化させ、平均の厚み1.25mmの繊維強化複合材料板I1を製造し」たものであるが、その端面の処理については甲1の段落【0094】~【0095】等の記載を参酌しても不明であり、上記射出成形用金型により射出成形材を射出成形にて形成した場合、突き合わせ面が必ずしも平坦であるとはいえない。
そして、上記射出成形用金型を別の形状の金型とする動機付けはなく、「繊維強化複合材料板I1」の端面と「被着部材(II)」の接触面を平坦とすることの動機付けがないことは上記(1)エで述べたとおりである。
そうしてみると、甲1比較例発明の「射出成形材」は、奥行きに比して比較的大きめの厚さを有するといえるから、「シート状」とはいえない。
また、甲1の段落【0103】に、「一方比較例1では、段差形状が形成されていないことから、嵌合構造による接合がなされず被着部材(II)との接合性が不足するものであった。」と記載されているとおり、甲1比較例発明の「繊維強化複合材料板I1」は、「段差形状が形成されていないことから、嵌合構造による接合がなされず被着部材(II)との接合性が不足する」ものであって、「射出成形材」の厚さを減らすと、接合性が下がることは明らかであるから、甲1比較例発明の「射出成形材」を「シート状」にする動機付けは存在しない。
したがって、異議申立人の意見は採用しない。
(5) 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。
4 取消理由3(新規性欠如、進歩性欠如)について(甲2を主引用例とした場合)
(1) 本件特許発明1について
ア 甲2の記載事項
令和7年12月23日付けで特許権者に通知した取消理由で引用した甲2は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ、以下の記載事項がある。
(ア) 「技術分野
[0001] 本発明は、例えばパソコンやOA機器、携帯電話等の部品や筐体部分として用いられる軽量、高強度・高剛性でかつ薄肉化が要求される用途に適した一体化成形体及びその製造方法に関する。
背景技術
[0002] 現在、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品などの電気・電子機器の携帯化が進むにつれ、より小型、軽量化が要求されている。その要求を達成するために、機器を構成する部品、特に筐体には、外部から荷重がかかった場合に筐体が大きく撓んで内部部品と接触、破壊を起こさないようにする必要があるため、高強度・高剛性化を達成しつつ、かつ薄肉化が求められている。
・・・(略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0013] 本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、複数の構造体が高い接合強度で接合し、その接合境界部が良好な平滑性を有し、成形体が板材の構成部材を有していても反り低減が図れ、軽量・薄肉化を可能としうる一体化成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。」
(イ) 「発明を実施するための形態
[0017] 以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は図面や実施例に何ら限定されるものではない。
[0018] 本発明に係る一体化成形体の構成は、片側表面が意匠面である板材(A)と部材(B)との間に接合樹脂(C)が介在した一体化成形体において、前記部材(B)の内側に、前記板材(A)と前記部材(B)とが離間するように配置され、前記板材(A)の外周縁部の少なくとも一部の領域が前記接合樹脂(C)と接合する第1の接合部を有するとともに、前記一体化成形体の意匠面側の表面の少なくとも一部に、前記板材(A)、前記部材(B)、および前記接合樹脂(C)が露出する領域を有する構造である。
[0019] 図1~図3に示すように、本発明に係る一体化成形体1は、板材(A)2及び部材(B)3を別々に予め準備しておき、両者を接合樹脂(C)4により接合する構成である。例えば図3~図5に示すように、板材(A)2の外周縁部5の側面部と平面部に接合樹脂(C)4が接合し(第1の接合部と呼ぶ)、さらに接合樹脂(C)4と部材(B)3とが接合し(第2の接合部と呼ぶ)、両者の間に接合樹脂(C)4が介在して配置される構成である。
[0020] この構成により、接合樹脂量が低減しても接合強度を確保することができ、さらには従来の部材(B)の領域にも接合樹脂(C)を射出して板材(A)と一体化する成形方法と比べて、樹脂量を大幅に減らすことができ、樹脂の熱収縮による反りの低減を図ることが可能となる。
・・・(略)・・・
[0030] また、本発明において、接合樹脂(C)4が熱可塑性樹脂であることが好ましい。これにより射出成形により、板材(A)2と部材(B)3の間に容易に接合樹脂(C)4を挿入させることができ、一体化成形体1の接合強度を向上させることができる。
・・・(略)・・・
[0040] また、本発明において、板材(A)は、強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂部材及び金属製部材のいずれか少なくとも1つから構成される部材を含むスキン層でコア層の両表面を挟んだサンドイッチ構造を有し、コア層が、熱可塑性樹脂、発泡体、および不連続繊維と熱可塑性樹脂からなる多孔質基材のいずれかから選択されることが好ましい。
・・・(略)・・・
[0049] 板材(A)2の外周縁部にある第1の接合部12には、本体部の面内方向と略水平な肉厚の異なる領域を設け、下側のスキン層10が角度θの傾斜を持たせた段差部14を有する構成とする。これにより、第1の接合部12の接合面積が増え、単にサンドイッチ構造体の側面平坦部に別の構造体を接合する場合に比べて、その接合面積を広くすることができ、接合強度を高める効果が得られる。さらに、板材(A)2の厚さと接合樹脂(C)4の厚さとが同じ厚さとすることができ、高接合強度とともに構造体の薄肉化を実現できる。
・・・(略)・・・」
(ウ) 「実施例
[0064] 以下、実施例によって、本発明の一体化成形体およびその製造方法について具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を制限するものではない。まず、実施例で用いた測定方法を下記する。
・・・(略)・・・
[0074] (材料組成例3)一方向プリプレグの調製
材料組成例1で得たPAN系炭素繊維束をシート状に一方向に配列させ、材料組成例2で作製したエポキシ樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧により樹脂を含浸させ、炭素繊維の重量含有率が70%、厚み0.15mmの一方向プリプレグを作製した。
[0075] (材料組成例4)熱可塑接着フィルムの調製
ポリアミド樹脂(東レ(株)製CM8000、4元共重合ポリアミド6/66/610/12、融点130℃)のペレットを、プレス成形を行い、厚み0.05mmの熱可塑接着フィルムを得た。これを熱可塑性樹脂層(D)として使用した。
・・・(略)・・・
[0079] (材料組成例8)炭素繊維マットの調製
界面活性剤(和光純薬工業(株)社製、「n-ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム」(製品名))の1.5wt%水溶液100リットルを攪拌し、予め泡立てた分散液を作製した。この分散液に、材料組成例7で得られたチョップド炭素繊維束1を投入し、10分間撹拌した後、長さ400mm×幅400mmの抄紙面を有する抄紙機に流し込み、吸引により脱水後、150℃の温度で2時間乾燥し、炭素繊維からなる炭素繊維マットを得た。得られたマットは良好な分散状態であった。
[0080] (材料組成例9)ポリプロピレン樹脂フィルムの調製
無変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)社製、“プライムポリプロ”(登録商標)J105G、融点160℃)を90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)社製、“アドマー”(登録商標)QE510、融点160℃)を10質量%用意し、これらをドライブレンドした。このドライブレンド品を二軸押出機のホッパーから投入し、押出機にて溶融混練した後、400mm幅のT字ダイから押出した。その後、60℃のチルロールで引き取ることによって冷却固化させ、ポリプロピレン樹脂フィルムを得た。
・・・(略)・・・
[0085] (実施例1)
・・・(略)・・・
[0086] 次に、材料組成例5のガラス繊維強化ナイロン樹脂を用いて射出成形し、図2に示した四角枠形状をしたフレーム部材を得た。これを部材(B)3とした。
・・・(略)・・・
[0097] (実施例5)
材料組成例3の一方向プリプレグと、材料組成例4の熱可塑接着フィルムと、材料組成例8の炭素繊維マットと、材料組成例9のポリプロピレン樹脂フィルムとを用いた。これらを400mm角のサイズに調整した後、[一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/接着フィルム]の順序で積層した。
[0098] この積層体を離型フィルムで挟み、さらにツール板で挟んだ。盤面温度が180℃のプレス成形機の盤面の上にツール板を配置した後、盤面を閉じて3MPaで加熱プレスした。加圧から5分間経過した後、盤面を開き、ツール板を素早く盤面温度が40℃のプレス成形機の盤面の上に配置し、3MPaで冷却プレスした。5分後にプレス成形機からツール板を取り出し、コア層にポリプロピレン樹脂が含浸した板厚み0.85mmの熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体(板材(A)2)を得た。次に、得られた熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体を挟んだツール板の間に厚み1.25mmのスペーサを挿入し、さらに前記熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体の接着領域のみに厚み0.4mmのスペーサを配置し、再度同様の手順、条件で加熱プレスおよび冷却プレスを行った。熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体の中央部のコア層のみをスプリングバックさせることで、接着領域である外周部は厚み0.85mm、それ以外の領域は厚み1.25mmに調整された段差賦形された熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体を得た。ここで、熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体(板材(A)2)の面内方向に対するスキン層10の傾斜角度をθ(°)は45°であった。
[0099] 次に、実施例1で得たガラス繊維強化ナイロン樹脂製の四角枠形状をしたフレーム部材(部材(B)3)と、300mm×200mmのサイズに加工した段差賦形された熱可塑接着フィルム付きCFRP板とを実施例1と同様にして射出成形金型内にセットし、型締めを行った後、材料組成例5のガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)を射出成形して、図3に示す天板と4辺の立ち壁から構成された一体化成形体を製造した。得られた一体化成形体の接合部および立ち壁を含んだ断面を図11および図12に示す。なお、図3、図11および図12では、図の上方を意匠面側としている。
[0100] 一体化成形体の意匠面において、一体化成形体の段差賦形された熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体(板材(A)2)と接合樹脂(C)4の接合境界部と、接合樹脂(C)4とフレーム部材(部材(B)3)の接合境界部はいずれも良好な平滑性を有していた。また、一体化成形体の反り量も小さく良好であった。
・・・(略)・・・
[0107] (比較例1)
材料組成例3で得た一方向プリプレグを用いて、400mm角のサイズに調整した後、[一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°]の順序で積層した。この積層体を離型フィルムで挟み、さらにツール板で挟んだ。ここで、厚み調整としてツール板間に厚み1.2mmのスペーサを挿入した。盤面温度150℃の盤面の上にツール板を配置した後、盤面を閉じて3MPaで加熱プレスした。加圧から5分間経過した後、盤面を開き、厚み1.2mmの平板形状をしたCFRP板(板材(A)2)を得た。
[0108] 次に、301mm×201mmのサイズに加工したCFRP板(板材(A)2)の接着領域のみに接着剤を塗った。接着剤を塗ったCFRP板(板材(A)2)を射出成形金型内にセットし、型締めを行った後、材料組成例5のガラス繊維強化ナイロン樹脂を射出成形して、図18に示す天板と4辺の立ち壁から構成された一体化成形体を製造した。得られた一体化成形体の接合部および立ち壁を含んだ断面を図20に示す。なお、図18および図20では、図の上方を意匠面側としている。
[0109] 一体化成形体の意匠面において、一体化成形体の接着層付きCFRP板(板材(A)2)と射出樹脂の接合境界部は良好な平滑性を有していた。ただし、一体化成形体の反り量が大きく不良であった。一体化成形体の特性をまとめて(表1)に示す。」
(エ) 「[請求項1] 片側表面が意匠面である板材(A)と部材(B)との間に接合樹脂(C)が介在した一体化成形体において、前記部材(B)の内側に、前記板材(A)と前記部材(B)とが離間するように配置され、前記板材(A)の外周縁部の少なくとも一部の領域が前記接合樹脂(C)と接合する第1の接合部を有するとともに、前記一体化成形体の意匠面側の表面の少なくとも一部に、前記板材(A)、前記部材(B)、および前記接合樹脂(C)が露出する領域を有する一体化成形体。
・・・(略)・・・
[請求項8] 前記板材(A)は強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂部材及び金属製部材の少なくとも1つから構成される部材を有する請求項1~7のいずれかに記載の一体化成形体。
[請求項9] 前記板材(A)は、強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂部材及び金属製部材のいずれか少なくとも1つから構成される部材を含むスキン層でコア層の両表面を挟んだサンドイッチ構造を有し、前記コア層が、熱可塑性樹脂、発泡体、および不連続繊維と熱可塑性樹脂からなる多孔質基材のいずれかから選択される請求項8に記載の一体化成形体。
・・・(略)・・・
[請求項12] 前記コア層が前記多孔質基材である前記板材(A)の前記第1の接合部と、該第1の接合部以外の領域との間に段差部を有し、前記段差部が前記板材(A)の面内方向に対して10°~90°の傾斜面を有する請求項9または10に記載の一体化成形体。」
(オ) 「[図3]
[図:0001439181000004.jpg]
・・・(略)・・・
[図11]
[図:0001439181000005.jpg]
[図12]
[図:0001439181000006.jpg]
・・・(略)・・・
[図18]
[図:0001439181000007.jpg]
・・・(略)・・・
[図20]
[図:0001439181000008.jpg]
」
イ 甲2発明
甲2の記載のうち、実施例5に着目し整理すると、甲2には次の発明が記載されているものと認める。
「片側表面が意匠面である板材(A)と部材(B)との間に接合樹脂(C)が介在した一体化成形体において、前記部材(B)の内側に、前記板材(A)と前記部材(B)とが離間するように配置され、前記板材(A)の外周縁部の少なくとも一部の領域が前記接合樹脂(C)と接合する第1の接合部を有するとともに、前記一体化成形体の意匠面側の表面の少なくとも一部に、前記板材(A)、前記部材(B)、および前記接合樹脂(C)が露出する領域を有し、前記板材(A)は、強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂部材及び金属製部材のいずれか少なくとも1つから構成される部材を含むスキン層でコア層の両表面を挟んだサンドイッチ構造を有し、前記コア層が、熱可塑性樹脂、発泡体、及び不連続繊維と熱可塑性樹脂からなる多孔質基材のいずれかから選択され、前記コア層が多孔質基材である前記板材(A)の前記第1の接合部と、該第1の接合部以外の領域との間に段差部を有し、前記段差部が前記板材(A)の面内方向に対して10°~90°の傾斜面を有する一体化成形体であって、(請求項1、請求項9、請求項12)
前記サンドイッチ構造として、[一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/接着フィルム]の順序で積層してプレス加工して得られる、面内方向に対するスキン層の傾斜角度θ(°)が45°、外周部が厚み0.85mm、それ以外の領域が厚み1.25mmに調整された段差賦形され、300mm×200mmのサイズに加工した熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)を用い、([0097]~[0099])
前記部材(B)として、ガラス繊維強化ナイロン樹脂を用いて射出成形して得られる、四角枠形状をしたフレーム部材(部材(B)3)を用い、([0086])
前記接合樹脂(C)は、前記フレーム部材(部材(B)3)と前記熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)とを射出成形金型内にセットし、ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)を射出成形することにより製造される、([0099])
一体化成形体。」(以下「甲2成形体発明」という。)
「甲2成形体発明を製造する製造方法であって、
一方向プリプレグと、熱可塑接着フィルムと、炭素繊維マットと、ポリプロピレン樹脂フィルムとを用い、これらを400mm角のサイズに調整した後、[一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/接着フィルム]の順序で積層し、この積層体を離型フィルムで挟み、さらにツール板で挟んで、盤面温度が180℃のプレス成形機の盤面の上にツール板を配置した後、盤面を閉じて3MPaで加熱プレスし、加圧から5分間経過した後、盤面を開き、ツール板を素早く盤面温度が40℃のプレス成形機の盤面の上に配置し、3MPaで冷却プレスし、5分後にプレス成形機からツール板を取り出し、コア層にポリプロピレン樹脂が含浸した板厚み0.85mmの熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体(板材(A)2)を得、次に、得られた熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体を挟んだツール板の間に厚み1.25mmのスペーサを挿入し、さらに前記熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体の接着領域のみに厚み0.4mmのスペーサを配置し、再度同様の手順、条件で加熱プレスおよび冷却プレスを行い、熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体の中央部のコア層のみをスプリングバックさせることで、面内方向に対するスキン層の傾斜角度θ(°)は45°、接着領域である外周部は厚み0.85mm、それ以外の領域は厚み1.25mmに調整された段差賦形された熱可塑接着フィルム付きサンドイッチ構造体を製造する工程と、([0097]、[0098])
ガラス繊維強化ナイロン樹脂を用いて射出成形し、前記部材(B)として、四角枠形状をしたフレーム部材(部材(B)3)を製造する工程と、([0086])
前記フレーム部材(部材(B)3)と、300mm×200mmのサイズに加工した段差賦形された熱可塑接着フィルム付きCFRP板とを射出成形金型内にセットし、型締めを行った後、前記接合樹脂(C)として、ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)を射出成形して、天板と4辺の立ち壁から構成された一体化成形体を製造する工程と、([0099])
を有する製造方法。」(以下「甲2製造方法発明」という。)
ウ 対比
(ア) 甲2成形体発明の「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」は、[一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/接着フィルム]の順序で積層してプレス加工して得られる、外周部が厚み0.85mm、それ以外の領域が厚み1.25mmに調整された段差賦形され、300mm×200mmのサイズを有する熱可塑接着フィルム付きCFRP板であるから、「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグ」といえる。
また、本件特許明細書に記載された実施の形態4(図12等を参照。)の樹脂の形状を参酌すると、甲2成形体発明の「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」は、甲2の図11、図12から看取される形状からみて、「シート状の樹脂」といえる。
そして、甲2成形体発明における熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)の最もガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)側に位置する鉛直面(甲2の図12における熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)の最も左側の鉛直面)と、ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)の対向する鉛直面とが接合する構造を、「突き合わせ構造」ということができ、甲2成形体発明の一体化成形体のうち「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」と「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」とからなる部分は、「突き合わせ構造で一体成形されたシート状のハイブリッド成形体」といえる。
したがって、本件特許発明1と甲2成形体発明の一体化成形体のうち「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」と「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」とからなる部分は、「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形されたシート状のハイブリッド成形体」である点で一致する。
(イ) 甲2成形体発明の「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」における前記鉛直面の下端から右に伸びる水平面及び傾斜面(図12を参照。)を、「突き合わせ構造」(前記(ア)を参照。)における境界部分ということができるところ、甲2成形体発明の「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」は、当該境界部分において「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」を覆っているから、本件特許発明1と甲2成形体発明の一体化成形体のうち「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」と「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」とからなる部分は、「プリプレグと樹脂との突き合わせ構造における境界部分において、樹脂がプリプレグを被覆する被覆部を備え」る点で一致する。
(ウ) 前記(イ)で述べた「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」の「被覆部」が、「突き合わせ構造」における「境界部分」の全体に亘って設けられること、及び「境界部分」のみに設けられていることは、甲2成形体発明の構成から自明であるから、本件特許発明1と甲2成形体発明の一体化成形体のうち「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」と「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」とからなる部分は、「被覆部は、境界部分の全体に亘って設けられると共に、境界部分のみに設けられている」点で一致する。
(エ) 前記(ア)~(ウ)に照らせば、本件特許発明1と甲2成形体発明(のうち「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」と「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」とからなる部分)は、以下の点で一致する。
「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形されたシート状のハイブリッド成形体であって、
前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記樹脂が前記プリプレグを被覆する被覆部を備え、
前記被覆部は、前記境界部分の全体に亘って設けられると共に、前記境界部分のみに設けられている、
ハイブリッド成形体。」
(オ) 本件特許発明1と甲2成形体発明は、以下の点で相違する。
(相違点2-1)
シート状のハイブリッド成形体が、本件特許発明1は、「前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成された」のに対し、甲2成形体発明は、「板材(A)と部材(B)との間に接合樹脂(C)が介在した一体化成形体」である点。
(相違点2-2)
前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分が、本件特許発明1は、「前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦である」のに対し、甲2成形体発明は、「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」と「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」とからなる部分が、一応そのように特定されていない点。
(相違点2-3)
樹脂が、本件特許発明1は、「前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有して」いるのに対して、甲2成形体発明は、「ガラス繊維強化ナイロン樹脂(接合樹脂(C)4)」がそのように特定されていない点。
エ 判断
相違点2-1について検討する。
甲2成形体発明は、「板材(A)と部材(B)との間に接合樹脂(C)が介在した一体化成形体」であるから、本件特許発明1の「前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成された」という要件を満たさない。
また、甲2の段落[0013]に記載のとおり、甲2成形体発明は、「複数の構造体」を「高い接合強度で接合」させ、「反り低減」を図り、「軽量化・薄肉化を可能としうる一体化成形体」を提供することを目的とした発明であるから、甲2成形体発明を、「板材(A)」と「接合樹脂(C)」のみから構成させる動機付けが存在しない。
したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2成形体発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(2)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを備えたハイブリッド成形体を成形する成形方法に関する発明であり、本件特許発明4と甲2製造方法発明とを対比すると、上記(1)ウと同様の相当関係、一致点、相違点があるものといえる。してみると、本件特許発明4も、上記(1)エと同じ理由により、甲2製造方法発明であるとはいえず、また、甲2製造方法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)甲2における他の実施例から甲2発明を認定した場合における理由について
前記(1)、(2)では、甲2の実施例5に係る一体化成形体及びその製造方法を主引用発明として判断したが、実施例1、4、6に係る一体化成形体及びその製造方法を主引用発明とした場合でも、同様である。
(4) 異議申立人の意見について
ア 異議申立人は、令和8年4月6日に提出した意見書の5~6ページにおいて、本件特許発明1は、甲2の比較例1に記載の成形品と同一であるか、当該成形品に基づいて当業者であれば容易に想到しうる旨主張する。そこで、上記点について検討する。
イ 甲2の比較例1に記載された発明
上記4(1)アの記載によると、甲2には、比較例1として、以下の「成形品」の発明(以下「甲2比較例発明」という。)が記載されているものと認める。
「一方向プリプレグを用いて、 [一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°/一方向プリプレグ90°/一方向プリプレグ0°]の順序で積層し、加熱プレスしてCFRP板(板材(A)2)を得、
301mm×201mmのサイズに加工したCFRP板(板材(A)2)の接着領域のみに接着剤を塗り、CFRP板(板材(A)2)を射出成形金型内にセットし、ガラス繊維強化ナイロン樹脂を射出成形して、製造された、
天板と4辺の立ち壁から構成された一体化成形体。」
ウ 対比
本件特許発明と甲2比較例発明を対比する。
(ア) 甲2比較例発明の「CFRP板(板材(A)2)」は、本件特許発明1の「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグ」といえる。
(イ) また、甲2比較例発明の「一体化成形体」における、「CFRP板(板材(A)2)の接着領域のみに」「接着剤」が塗られた部分は、本件特許発明1の「ハイブリッド成形体」にあたるといえる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)に照らせば、本件特許発明1と甲2比較例発明(のうち「熱可塑接着フィルム付きCFRP板(板材(A)2)」と「接着剤」とからなる部分)は、以下の点で一致する。
「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグから構成されたハイブリッド成形体。」
(エ) 本件特許発明1と甲2比較例発明は、以下の点で相違する。
(相違点2-1)
シート状のハイブリッド成形体が、本件特許発明1は、「強化繊維プラスチックからなるシート状のプリプレグとシート状の樹脂とが突き合わせ構造で一体成形され、前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成された」のに対し、甲2比較例発明は、「CFRP板(板材(A)2)の接着領域のみに」「接着剤」が塗られた部材である点。
(相違点2-2)
本件特許発明1は、「前記プリプレグと前記樹脂との前記突き合わせ構造における境界部分において、前記プリプレグと前記樹脂との突き合わせ面が平坦であると共に、前記樹脂が前記突き合わせ面から前記プリプレグの上面を被覆する被覆部に至る段差構造を有して」いるのに対して、甲2比較例発明は、そのように特定されていない点。
(相違点2-3)
本件特許発明1は、「前記被覆部は、前記境界部分の全体に亘って設けられると共に、前記境界部分のみに設けられている」のに対して、甲2比較例発明は、そのように特定されていない点。
エ 判断
相違点2-1について検討する。
甲2比較例発明は、「シート状の樹脂」を具備していない。そして、甲2比較例発明において、「接着剤」として「シート状の樹脂」を使用する動機付けが存在しない。
なお、異議申立人は、令和8年4月6日に提出した意見書の5~6ページにおいて、甲2比較例発明において、「ガラス繊維強化ナイロン樹脂を射出成形して、製造された」、「4辺の立ち壁」が、「シート状の樹脂」である旨主張しているものと解される。
しかしながら、甲2比較例発明の「ガラス繊維強化ナイロン樹脂を射出成形して、製造された」、「4辺の立ち壁」は、甲2の段落[0088]に記載のとおり、「フレーム部材」であるから、これが本件特許発明1の「シート状の樹脂」に相当するとはいえない。
仮に、甲2比較例発明の「ガラス繊維強化ナイロン樹脂を射出成形して、製造された」、「4辺の立ち壁」が、本件特許発明1の「シート状の樹脂」に相当したとしても、甲2比較例発明は、「CFRP板(板材(A)2)」とは別に、「接着剤」を具備するから、本件特許発明1の「前記プリプレグ及び前記樹脂のみから構成された」という要件を満たさない。
以上のとおりであるから、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2比較例発明であるとはいえないし、甲2比較例発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。
したがって、異議申立人の意見は採用しない。
(5) 小括
本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるともいえない。
第6 むすび
本件特許の請求項1及び4に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700006