特許異議申立
2022-700526
立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置
- 審判番号
- 2022-700526
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-002827
- 登録番号
- 6981264
- 請求日
- 2022年06月15日
- 審決日
- 2023年11月10日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】山口 昭則
- 【権利者代理人】新川 圭二
- 【異議申立人】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
- 【異議申立人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【異議申立人代理人】バーナード 正子
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 井口 猶二
- 分類
- P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.536-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6981264号発明「立体造形用樹脂粉末、及び立体造形物の製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6981264号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1、2、4-13〕について訂正することを認める。
特許第6981264号の請求項1、2、4ないし13に係る特許を維持する。
特許第6981264号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第6981264号の請求項1~13に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2018-2827号)は、平成30年1月11日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年3月17日)を出願日とする出願であって、令和3年11月22日にその特許権の設定の登録がされ、令和3年12月15日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議申立ての経緯は、以下のとおりである。
令和4年 6月15日 :特許異議申立人 エボニック オペレーショ
ンズゲーエムベーハー(以下「異議申立人」
という。)による請求項1~13に係る特許
に対する特許異議の申立て
令和4年 9月 8日付け:取消理由通知書
令和4年10月24日 :訂正請求書の提出
令和4年10月24日 :意見書(特許権者)の提出
令和5年 2月 6日 :意見書(異議申立人)の提出
令和5年 5月16日付け:取消理由通知書 <決定の予告>
令和5年 7月 6日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の請
求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和5年 7月 6日 :意見書(特許権者)の提出
令和5年 9月25日 :意見書(異議申立人)の提出
なお、令和4年10月24日の訂正請求書による訂正の請求は、令和5年7月6日の訂正請求書によって新たな訂正の請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6981264号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至13について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容(訂正事項1~8)は、以下のとおりである。下線は訂正箇所を示す。
なお、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~13〕についてなされたものである。
(1)訂正事項1
請求項1に「前記略柱体樹脂粒子が、その周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含み、前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、「前記略柱体樹脂粒子が、底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子であって、その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含み、且つすべての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が、50%以上であり、前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上であり、前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。」に訂正する(請求項1を引用する請求項2、4~13も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から3のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、「前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径との粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、2.00以下である請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、「前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径との粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、2.00以下である請求項1、2及び4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「前記立体造形用樹脂粉末が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1から5のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、「前記立体造形用樹脂粉末が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1、2、4及び5のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「前記立体造形用樹脂粉末の安息角が、60度以下である請求項1から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、「前記立体造形用樹脂粉末の安息角が、60度以下である請求項1、2及び4から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11に「下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす請求項1から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」と記載されているのを、「下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす請求項1、2及び4から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲12に「請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段」と記載されているのを、「請求項1、2及び4から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段」に訂正する。
3 訂正の要件の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「略柱体樹脂粒子」について、「底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子」であるとする訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、「略柱体樹脂粒子」の形状を限定する訂正である。
また、訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「その周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子」について、「その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子」であるとする訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、周側面に凹部を有する略柱体樹脂粒子の形状を限定する訂正である。
さらに、訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「立体造形用樹脂粉末」に含まれる「略柱体樹脂粒子」について、「すべての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が、50%以上」であるとする訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、「立体造形用樹脂粉末」に含まれる「略柱体樹脂粒子」の含有割合を限定する訂正である。
また、訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「立体造形用樹脂粉末」について、「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上」であるとする訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、「立体造形用樹脂粉末」に含まれる一部の粒子の形状を特定する訂正である。
請求項1の記載を引用する請求項2、4~13に係る発明についても同様である。
以上のとおり、訂正事項1に係る訂正は、いずれも、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定する訂正事項からなるものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0011】、【0012】、【0020】及び【0024】の記載に基づけば、「略柱体樹脂粒子」が「底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子」であること、「略柱体樹脂粒子」がその「周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する」こと、「すべての略柱体樹脂粒子に対する周側面の略中央部に周方向に形成された凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率」が「50%以上」であること、「立体造形用樹脂粉末の平均円形度」が、「立体造形用樹脂粉末の粒径が0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上」であることは、本件特許明細書の上記記載から導き出せる事項といえる。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
また、請求項1の記載を引用する請求項2、4~13に係る発明についても同様である。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項1に係る訂正は、いずれも、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定する訂正事項からなるものである。また、請求項1の記載を引用する請求項2、4~13に係る発明についても同様である。そうすると、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1に係る訂正は、訂正要件を満たす。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項2に係る訂正は、請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項2に係る発明は、請求項を削除するものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
エ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項2に係る訂正は、訂正要件を満たす。
(3)訂正事項3~8
ア 訂正の目的
訂正事項3~8に係る訂正は、訂正事項2に係る訂正によって請求項3が削除されたことに整合させるため、訂正前の請求項3の記載を引用していた各請求項において、削除された請求項3を引用しないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項3~8に係る訂正は、前記アに記載したとおり、訂正前の請求項3の記載を引用していた各請求項において、削除された請求項3を引用しないようにするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に添付した事項内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項3~8に係る発明は、前記アに記載したとおり、訂正前の請求項3の記載を引用していた各請求項において、削除された請求項3を引用しないようにするものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
エ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項3~8に係る訂正は、訂正要件を満たす。
(4)まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6981264号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4~13〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記第2に記載したとおり、本件訂正は認められることになったので、本件訂正後の請求項1、2、4~13に係る発明(以下、請求項に付された番号に応じて「本件特許発明1」等という。)は、令和5年7月6日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4~13に記載された事項によって特定される、以下のとおりのものである。なお、請求項3に係る発明は、本件訂正により削除された。
【請求項1】
略柱体樹脂粒子を含む立体造形用樹脂粉末であって、
前記略柱体樹脂粒子が、底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子であって、その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含み、且つすべての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が、50%以上であり、
前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上であり、
前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。
【請求項2】
前記立体造形用樹脂粉末の50%累積体積粒径が、5μm以上200μm以下である請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
前記立体造形用樹脂粉末の体積平均粒径と、前記立体造形用樹脂粉末の数平均粒径との粒径比(体積平均粒径/数平均粒径)が、2.00以下である請求項1、2及び4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項6】
前記立体造形用樹脂粉末が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1、2、4及び5のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項7】
前記ポリアミドが、芳香族ポリアミドを含む、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である請求項6に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項8】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である請求項6から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項9】
前記ポリエーテルが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である請求項6から8のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項10】
前記立体造形用樹脂粉末の安息角が、60度以下である請求項1、2及び4から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項11】
下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす請求項1、2及び4から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となる。
【請求項12】
請求項1、2及び4から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の前記立体造形用樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項13】
前記粉末接着手段が、電磁波を照射する手段である請求項12に記載の立体造形物の製造装置。
第4 異議申立人による証拠方法
甲第1号証:Berretta, Silvia; Ghita, O.; Evans, Kenneth E.; et al.
,“Size, shapes and flow of powders foe use in
Selective Laser Sintering (SLS)”, [online], 18 July
2014, ORE Open Research Exeter, [2022年(令和4年
)6月13日ダウンロード] , インターネット(甲1)
甲第2号証:国際公開第2009/135521号(甲2)
甲第3号証:国際公開第2013/138204号(甲3)
甲第4号証:Wulfhorst, J., “Neue Werkstoffe fur das Selektive
Lasersintern durch Konvertieren von primargesopnnenen
Chemiefasern.”,
(独), Leibniz Universitat, 2011, p.1-p.121
(当合議体注:タイトルのfurのu, primargesopnnenenのa及び
発行者のUniversitatのaには、ウムラウトが付与されている
。)(甲4)
甲第5号証:AVERAGE DENSITY OF AMORPPHOUS POLYMERS
(polymerdatabese.com/polymer physics/Polymer Density.
html)(甲5)
甲第6号証:共立出版株式会社、化学大辞典8 縮刷版、732頁(甲6
)
甲第7号証:株式会社プラスチックス・エージ、プラスチック読本 第2
0版、付録「主要なプラスチックの性能一覧表」(甲7)
甲第8号証:国際公開第2013/090174号(甲8)
甲第9号証:M.Schmid et.al., Materials perspective of polymers for
additive manufacturing with selective laser sintering,
Journal of Materials Research, vol.29, no.17, pp.1824-
1832, 2014 (甲9)
甲第10号証:特表2018-523718号公報
(特願2017-565308号)(甲10)
第5 取消理由<予告>の概要
当審が、令和4年10月24日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された請求項1~13に係る特許に対して、特許権者に令和5年5月16日付で通知した、取消理由<予告>の概要は、以下のとおりである。
(新規性及び進歩性)
本件特許の請求項1~13に係る発明は、本件特許の先の出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第4号証に記載された発明であるか、又は、甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(拡大先願)
本件特許の請求項1~2、6~9及び11~13に係る発明は、本件特許の先の出願の日前の外国語書面出願であって、先の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第10号証に係る外国語書面出願の外国語書面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が先の出願前の外国語書面出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願時において、その出願人が上記外国語書面出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
甲第4号証:Wulfhorst, J., “Neue Werkstoffe fur das Selektive Lasersintern durch Konvertieren von primargesopnnenen Chemiefasern”, (独), Leibniz Universitat, 2011, p.1-p.121(当合議体注:タイトルのfurのu, primargesopnnenenのa及び発行者のUniversitatのaには、ウムラウトが付与されている。)
甲第10号証:PCT/US2016/067911号(国際公開第2017/112723号、特表2018-523718号公報)
第6 令和5年5月16日付けで通知した取消理由についての当合議体の判断
1 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)甲4
ア 甲4の記載事項
甲第4号証(以下「甲4」という。)には、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等において活用した箇所を示す。以下同様である。また、参考訳は甲4及びその抄訳に基づいて当合議体が作成したものである。
(ア)要約 [第4頁第1~14行、第21~26行]
(なお、甲4の頁数は、上側欄外に付された頁番号を示している。)
「
[図:0001406669000001.jpg]
」
(参考訳:1 要約
本プロジェクト16111Nでは、選択的レーザー焼結(SLS)用の新材料を研究する。このために、マルチフィラメントヤーンを溶融紡糸し、ショートカットファイバーにしてレーザー焼結工程に供給する。溶融紡糸は、バイオポリマーであるポリラクチド(PLA)、ポリプロピレン(PP)などの安価な標準ポリマー、ポリアミド(PA)やポリエステル(PET)などの工業用ポリマーで実施される。紡糸工程は、高い紡糸速度と大きな歪みで確立され、高い結晶溶融温度を持つ高結晶・高配向の繊維素材を製造することができる。
これにより、溶融および結晶化の間の温度ウインドウが広がり、その中で二相混合領域の形成を伴う等温プロセス制御が行われる。このような粉末製造は、現在商業的に使用されているレーザー焼結用粉末(例:PA12ベース)よりも著しく堅牢なプロセス挙動を示すこともできる新材料(例:PPまたはPLA)を利用可能にすることを示すことができる。)
「
[図:0001406669000002.jpg]
」
(参考訳:ポジティブな構造特性は、選択的レーザー焼結中の一般的な温度条件下でも保持される。生成された繊維片は流動性が悪く、塗布挙動が不均一になる。しかし、プロジェクト支援委員会のメンバーは、繊維素材の非常に均一な塗布を達成できる新しいコーティングシステムを開発した。)
(イ)検討材料の範囲 [第42頁表5.3]
「
[図:0001406669000003.jpg]
」
(参考訳:表5.3 検討材料の範囲
[図:0001406669000004.jpg]
)
(ウ)切断結果[第62頁図5-40]
「
[図:0001406669000005.jpg]
」
(参考訳:図5-40には様々な切断結果が示されている。
GT ギロチン;MAG カッター;
RDK ローターノズルコンバーター;
RS シリアルカッター横型(TR)、回転型(RT);
PA ポリアミド;PET ポリエステル;PP ポリプロピレン;
AR アラミド;PLA ポリラクチド;
図5-40:プロジェクトの裁断結果)
(当合議体注:図5-40中の丸囲みは当合議体が付したものである。)
イ 甲4に記載された発明
(ア)甲4の図5-40から、レーザー焼結用粉末は、底面と上面より直径が小さな部位を有するショートカットファイバー(上記丸囲み)を含むことが見て取れる。
(イ)図4の図5-40に付されたスケールに基づけば、ショートカットファイバーには、粒径109.639μm及び108.228μm程度の粉末が含まれている。
上記ア(ア)の記載事項、及び、前記イ(ア)及び(イ)に基づけば、甲4には「レーザー焼結用粉末」の発明として、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「選択的レーザー焼結(SLS)用のレーザー焼結用粉末であって、(1 要約)
マルチフィラメントヤーンを溶融紡糸し、ショートカットファイバーにしてレーザー焼結工程に供給し、(1 要約)
溶融紡糸は、ポリラクチド(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PET)などのポリマーで実施され、(1 要約)
レーザー焼結用粉末は、底面と上面より直径が小さな部位を有し、粒径109.639μm及び108.228μm程度のショートカットファイバーを含む、(図5-40)
レーザー焼結用粉末。」
(2)甲10
ア 甲第10号証(以下「甲10」という。)の記載事項
甲10には、以下の記載がある。
(ア)技術分野
「【0001】
本開示は、消耗性粉末を製造するための方法及びシステムに関し、より詳しくは、選択的レーザー焼結(SLS)、高速焼結、及び選択的阻害焼結などの添加剤製造システムのための消耗性粉末に関する。」
(イ)背景技術
「【0002】 選択的レーザー焼結(SLS)、高速焼結及び選択的阻害焼結などの添加剤製造システムは、消耗性粉末を三次元物品に変換する。そのシステムは、消耗性粉末に熱エネルギーを選択的に印加して、その粉末粒子をモノリシック部品に融合させることにより積層してデジタル表現から物品を構築する。そのような添加剤製造システムのための消耗性粉末を製造するための現在の技術は、大きなポリマーペレットを粉砕または磨砕すること、または溶液からポリマー粒子を沈殿させることを含む。しかしながら、これらの技術は、高価であり、粒子形態の正確な制御を提供しない。消耗性粉末における粒子形態の変化は、粒子の溶融時間及び温度を変化させ、最終的には融合プロセスの均一性を低下させ、添加剤製造システムを用いて形成されるモノリシック部品を弱化する。したがって、業界は、粒子形態の制御が改善された、消耗性粉末のための改良された製造技術を求め続けている。」
(ウ)発明を実施するための形態
「【0018】
図1を参照すると、本開示の1つの態様は、消耗性粉末混合物を形成する方法100に関する。本明細書に記載の特定の実施形態によれば、この方法は、ポリマー供給原料を提供する第1のステップ110と、そのポリマー供給原料をポリマー系ヤーン(polymeric based yarn)へと形成する第2のステップ120と、複数のポリマー系ヤーンをトウへと集合させる第3の工程130と、複数のトウを集合トウへと集合させる第4のステップ140と、その集合ポリマー系トウを、消耗性粉末混合物の少なくとも一部を構成する複数のポリマー系粒子へと形成する第5のステップ150とを含む。…
【0020】 特定の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料としては、半結晶性ベースポリマー(semi-crystalline based polymer)、例えばポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレンアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせを含むことができる。なおさらに他の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料としては、脂肪族ナイロンポリアミド、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン10-10、ナイロン11、ナイロン12、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせを含むことができる。さらに別の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンまたはそれらの組み合わせを含むことができる。…
【0024】
次にステップ120を参照すると、ポリマー供給原料をポリマー系ヤーンへと形成することは、例えば、ポリマー供給原料を溶融し、次いでポリマー供給原料を押出しかつ延伸してポリマー系繊維を形成することを含むことができる。…
【0025】
次にステップ130を参照すると、複数のポリマー系ヤーンをポリマー系トウに形成することは、複数のポリマー系ヤーンを集合させてポリマー系トウを形成することを含むことができる。…
【0026】
次にステップ140を参照すると、複数のポリマー系トウを集合ポリマー系トウへと形成することは、複数のポリマー系トウを集合させて集合ポリマー系トウを形成することを含むことができる。…
【0027】
次にステップ150を参照すると、集合ポリマー系トウから消耗性粉末混合物を形成することは、集合ポリマー系トウを連続的に切断して複数のポリマー系粒子を作り出すことを含むことができる。集合ポリマー系トウが切断されると、それは複数のポリマー系繊維であり、その繊維は、一緒に集合されてポリマー系ヤーン、ポリマー系トウ及び最終的には集合ポリマー系トウを形成し、そして切断後に分離して複数のポリマー系粒子を作り出すことが理解されよう。…
【0031】
本明細書に記載されているように、特定の実施形態は、複数のトウを集合ポリマー系トウへと組み合わせ、その集合ポリマー系トウを連続的に切断して複数のポリマー系粒子を形成することを含む。特定の実施形態によれば、本明細書に記載の実施形態に従って形成される消耗性ポリマー系粉末混合物は、複数のポリマー系粒子を含むことができる。…
【0033】
本明細書に記載の実施形態に従って形成された複数のポリマー系粒子を参照すると、図2aはポリマー系粒子200の画像を含む。図2bは、本明細書に記載の実施形態に従って形成された複数のポリマー系粒子200の画像を含む。」
(合議体注:図2a及び図2bを以下に示す。なお【図2b】中のポリマー系粒子を囲む丸は当合議体が付したものである。)
[図:0001406669000006.jpg]
図2a
[図:0001406669000007.jpg]
図2b
「【0039】
さらに別の実施形態によれば、ポリマー系粒子は、略円筒形状を有することができる。円筒形状は、任意の三次元切断柱体、例えば、直角柱または斜めに切断された円柱であり得ることが理解されよう。円筒形状は、任意の2次元形状基部を有し得ることがさらに理解されよう。例えば、円筒形状の基部は、多角形、円形、楕円形または三角形であり得る。…
【0043】
さらに別の実施形態によれば、ポリマー系粒子は、切断アーチファクトを有するものとして説明することができる。切断アーチファクトは、略円筒形状の粒子の2つの基部の一方または両方に配設されたポリマー系粒子の略円筒形状の違いである。切断アーチファクトは、切断プロセスを使用して形成されるポリマー系粒子を示すことが理解されよう。図2aは、ポリマー系粒子200の基部210上に配設された切断アーチファクト215を有するポリマー系粒子をさらに示している。
【0044】
粒子の実施形態によれば、特定のパーセンテージのポリマー系粒子は、少なくとも1つの切断アーチファクトを有し得る。例えば、切断アーチファクトを有するポリマー系粒子のパーセンテージは、少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%でさえもあり得る。少なくとも1つの切断アーチファクトを有するポリマー系粒子のパーセンテージは、上記値のいずれかの間の任意の値であり得ることが理解されよう。切断アーチファクトを有するポリマー系粒子のパーセンテージは、上記値のいずれかの間の範囲内であり得ることがさらに理解されよう。
【0045】
さらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の少なくとも大部分は、特定の最大長を有すると記載することができる。例えば、ポリマー系粒子の大部分の最大長は約250ミクロン以下、例えば約240ミクロン以下、約230ミクロン以下、約220ミクロン以下、約210ミクロン以下、約200ミクロン以下、約190ミクロン以下、約180ミクロン以下、約170ミクロン以下、約160ミクロン以下または約150ミクロン以下でさえもあり得る。なおさらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の大部分の最大長は、少なくとも約30ミクロン、例えば少なくとも約40ミクロンまたは少なくとも約50ミクロンでさえもあり得る。ポリマー系粒子の大部分の最大長は、上記の最小値と最大値のいずれかの間の任意の値であり得ることが理解されよう。ポリマー系粒子の大部分の最大長は、上記の最小値と最大値のいずれかの間の範囲内であり得ることがさらに理解されよう。」
(ウ)実施例
「【0155】 実施例1 第1のサンプルの消耗性ポリマー粉末S1を、本明細書に記載の実施形態に従って形成した。以下の表1に要約してあるように、切断長、直径及びアスペクト比(L/W)を含む粉末サイズ特性を測定した。
[図:0001406669000008.jpg]
」
イ 甲10に記載された発明
(ア)甲10の【図2b】から、消耗性ポリマー粉末は、底面と上面より直径が小さな部位を有するポリマー系粒子(上記丸囲み)を含むことが見て取れる。
(イ)上記ア及び(ア)から、甲10には「消耗性ポリマー粉末」の発明として、次の発明(以下「甲10発明」という。)が記載されている。
「ポリマー供給原料として、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレンアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ナイロンポリアミド、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン10-10、ナイロン11、ナイロン12を提供し、(【0020】)
ポリマー供給原料をポリマー系ヤーンへと形成し、(段落【0024】)
複数のポリマー系ヤーンをポリマー系トウに形成し、(段落【0025】)
複数のポリマー系トウを集合ポリマー系トウへと形成し、(段落【0026】)
集合ポリマー系トウを連続的に切断して複数のポリマー系粒子を作り出すことを含む、(段落【0027】)方法によって形成された消耗性粉末混合物であって、(段落【0018】)
耗性ポリマー系粉末混合物に含まれる複数のポリマー系粒子(段落【0031】)は、直角柱または斜めに切断された円柱である略円筒形状を有し、円筒形状は2次元形状基部を有しており(段落【0039】)、切断プロセスを使用して形成されるポリマー系粒子が、略円筒形状の粒子の2つの基部の一方または両方に配設されたポリマー系粒子の略円筒形状の違いである切断アーチファクトを有し(段落【0043】)、切断アーチファクトによって底面と上面より直径が小さな部位を有するポリマー系粒子を含み(【図2b】)、切断アーチファクトを有するポリマー系粒子のパーセンテージは、少なくとも約80%であり(段落【0044】)、ポリマー系粒子の大部分の最大長は約200ミクロン以下であり、ポリマー系粒子の大部分の最大長は、少なくとも約30ミクロンである(段落【0045】)、 選択的レーザー焼結(SLS)のための消耗性粉末(段落【0001】)混合物(段落【0018】)。」
2 新規性及び進歩性
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)立体造形用樹脂粉末
甲4発明の「レーザー焼結用粉末」は、用途が「選択的レーザー焼結(SLS)用」であり、材料が「ポリラクチド(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PET)などのポリマー」であるから、その用途や材料からみて、本件特許発明1の「立体造形用樹脂粉末」に相当する。
(イ)略柱体樹脂粒子
甲4発明の「ショートカットファイバー」は、「ポリマー」を「溶融紡糸し、ショートカットファイバーに」するものであるから、樹脂を繊維化し、その後裁断する製造工程からみて、本件特許発明1の「略柱体樹脂粒子」に相当し、本件特許発明1の「底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子」との要件を満たす。
(ウ)凹部
本件特許明細書の【0014】の「略柱体樹脂粒子における周側面の略中央部に周方向に形成された凹部とは、・・・底面と上面よりも直径が小さな部位を意味する。」との記載に照らせば、甲4発明の「ショートカットファイバー」(「略柱体樹脂粒子」)の少なくともいくつかは、「底面と上面より直径が小さな部位を有する」ものであるから、本件特許発明1の「その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子」との要件を満たす。
(エ)比重
甲4発明の「レーザー焼結用粉末」(「立体造形用樹脂粉末」)は、材料が「ポリラクチド(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PET)などのポリマー」であり、列挙したポリマーの比重が0.8以上であることは技術的にみて明らかであるから、本件特許発明1の「比重が、0.8以上である」との要件を満たす。
(オ)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、
「略柱体樹脂粒子を含む立体造形用樹脂粉末であって、
前記略柱体樹脂粒子が、底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子であって、その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含み、
前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上である立体造形用樹脂粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件特許発明1は、「すべての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が、50%以上」であるとともに、「前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上である」のに対し、甲4発明は、全ての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が明らかでなく、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲における立体造形用樹脂粉末の平均円形度も明らかでない点。
イ 判断
甲4の前記1(1)ア(ウ)の各図は、各種材料からなるファイバーを、ギロチン、カッター、ローターノズルコンバーター、シリアルカッター等の各種切断手段を用いた際の切断結果を示すとされるものである。甲4の前記1(1)ア(ウ)の各図に示されるショートカットファイバーが、選択的レーザー焼結用の材料として研究されている(前記1(1)ア(ア))ものであることを考慮したとしても、甲4の記載からは、選択的レーザー焼結用の材料に前記1(1)ア(ウ)の各図に示される形状のショートカットファイバーが含まれると言えることにとどまり、甲4の図5-40に示される切断結果のうち、当合議体が赤丸を伏した、「底面と上面より直径が小さな部位を有するショートカットファイバー」が、選択的レーザー焼結用の材料に含まれる「含有比率」を特定することができない。そうすると、上記[相違点1]のうち、「すべての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が、50%以上」である点は、実質的な相違点である。
また、甲4発明は、粒径109.639μm及び108.228μm程度のショートカットファイバーを含んでいる。甲4発明に含まれるこれらのショートカットファイバーは、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲における立体造形用樹脂粉末であるといえる。そこで、当該ショートカットファイバーの平均円形度について検討すると、本件特許発明1における「平均円形度」が「面積(画素数)をSとし、周囲長をLとしたときに、下式(1)により円形度を測定し、それらを算術平均した値を用いることができる。」、「円形度=4πS/L2・・・式(1)」(本件特許明細書の段落【0024】)と記載されていることに鑑みれば、これらの各ショートカットファイバーの円形度が0.80以上の範囲にあるとは考えられない。そうすると、上記[相違点1]のうち、「前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上である」点も、実質的な相違点である。
(合議体注:撮像されたショートカットファイバーの形状が、一辺の長さが「r」である正方形であったと仮定すると、面積Sはr2となり、周囲長Lは4rとなる。そうすると、円形度4πS/L2=4πr2/16r2=π/4≒0.79となる。したがって、撮像された形状が正方形である粉末の円形度が080以上の範囲にないことは明らかである。そして、縦横の比が1:1でない長方形の場合や、いずれかの辺に凹部が形成された場合、面積Sに対する周囲長Lの比が正方形の場合よりも大きくなるため、円形度は0.79より小さくなることも明らかである。甲4に開示されるショートカットファイバーの画像は、いずれも、軸方向の長さと軸に直交する方向の幅が1:1ではない、長方形に近い形状であり、さらに、凹部が形成されている。そうすると、これらのショートカットファイバーの平均円形度を算出した場合、0.80以上の範囲にないことは明らかである。)
そして、甲4には、レーザー焼結用粉末に含まれるショートカットファイバーの円形度を制御調整することについて、何ら記載がない。異議申立人は、令和5年9月25日の意見書において、「粉末の流動性等に鑑みれば、樹脂粉末が円に近ければ有利であることは当業者にとって自明の事項である。」(第7頁第3~4行)と主張しており、特許異議申立書においても、「前記繊維を積層造形プロセス用の粉末として使用するにあたって、リコート時の粉面の平滑性や、得られる立体造形物の表面性に鑑みて、平均円形度を0.80以上または0.83以上程度の値とすることは、数値範囲の最適化または好適化であり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。」と主張している(第69頁第8~11行)。しかし、上記のとおり甲4には円形度についての記載がなく、また、甲1には図4に円形度の分布が示されているものの、平均円形度を0.80以上とすることについて何ら記載がなく、甲2には円形度の記載がない上、異議申立人が指摘する第5頁の記載は、「破断または面取りされている」ことによって「溶融時や焼結時に、繊維片の相互の機械的な接続が改善される。」というものであって、リコート時の平滑性とは何ら関係しない記載である。また、甲3にも平均円形度を調整することについての記載がない。そうすると、粉末の流動性、リコート時の粉面の平滑性、得られる立体造形物の表面性に関連し、平均円形度を特定の範囲にすることが、当業者にとって自明であったとする根拠を見いだせない。なお、甲4の要約(第4頁第21~26行)には、生成された繊維片の流動性が悪いため塗布挙動が不均一になることが記載されているものの、それを改善する手段として、新しいコーティングシステムを開発しており、繊維片(ショートカットファイバー)の形状を変更することを要しない。以上より、甲4発明のレーザー焼結用粉末に含まれるショートカットファイバーについて、平均円形度を0.80以上とする動機付けがあるとはいえない。
また、本件特許の段落【0020】の記載や、実施例に係る段落【0089】、【0090】の記載を参酌すれば、すべての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が、50%以上であり、前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が0.5μm以上200μm以下の粒子の範囲において、0.80以上である場合において、流動化剤を添加せずとも、リコート時の粉面の平滑性に優れ、得られる立体造形物の表面性を向上することができるという効果を奏することが確認されている。このような効果は、「生成された繊維片は流動性が悪く、塗布挙動が不均一になります。」とされる甲4発明が奏する効果と異なるものであるから、本件特許発明1は、上記[相違点1]に係る構成を備えることによって、格別な効果の差異を生じるものと理解できる。
したがって、当業者であっても、甲4発明について、上記[相違点1]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者であっても、甲4発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件特許発明2,4~13
本件特許発明2、4~13は、本件特許発明1に、さらに要件を付加した発明である。そうすると、本件特許発明2、4~13は、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲4発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 拡大先願
(1)本件特許発明
ア 対比
本件特許発明1と甲10発明とを対比する。
(ア)立体造形用樹脂粉末
甲10発明の「選択的レーザー焼結(SLS)のための消耗性粉末」は、「選択的レーザー焼結(SLS)」に用いられるものである。選択的レーザー焼結(SLS)は、「選択的レーザー焼結(SLS)、高速焼結及び選択的阻害焼結などの添加剤製造システムは、消耗性粉末を三次元物品に変換する」(甲10記載事項(イ)背景技術)ものであるから、甲10発明の「選択的レーザー焼結(SLS)のための消耗性粉末」は、本件特許発明1の「立体造形用樹脂粉末」に相当する。
(イ)略柱体樹脂粒子
甲10発明の「ポリマー系粒子」は、「直角柱または斜めに切断された円柱である略円筒形状」を有するものであるから、本件特許発明1の「略柱体樹脂粒子」に相当し、本件特許発明1の「底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子」との要件を満たす。
(ウ)凹部
本件特許明細書の【0014】の「略柱体樹脂粒子における周側面の略中央部に周方向に形成された凹部とは、・・・底面と上面よりも直径が小さな部位を意味する。」との記載に照らせば、甲10発明の「ポリマー系粒子」(「略柱体樹脂粒子」)の少なくともいくつかは、「底面と上面より直径が小さな部位を有する」ものであるから、本件特許発明1の「その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子」との要件を満たす。
(エ)比重
甲10発明の「消耗性ポリマー粉末」(「立体造形用樹脂粉末」)は、「提供されるポリマー供給原料としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレンアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ナイロンポリアミド、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン10-10、ナイロン11、ナイロン12」であり、列挙したポリマーの比重が0.8以上であることは技術的にみて明らかであるから、本件特許発明1の「比重が、0.8以上である」との要件を満たす。
(オ)粒径
甲10発明の消耗性粉末混合物に含まれるポリマー系粒子の大部分は、「最大長は約200ミクロン以下」であり、「少なくとも約30ミクロン」である。そうすると、本件特許発明1の「前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上である」点について、本件特許発明1と甲10発明は「前記立体造形用樹脂粉末」「が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲」の粉末を含む点で共通している。
(カ)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲10発明とを対比すると、
「略柱体樹脂粒子を含む立体造形用樹脂粉末であって、
前記略柱体樹脂粒子が、底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子であって、その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子を含み、
前記立体造形用樹脂粉末の比重が、0.8以上であ
前記立体造形用樹脂粉末が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲の粉末を含む立体造形用樹脂粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点2]本件特許発明1は、「すべての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が、50%以上」であるとともに、立体造形用樹脂粉末の0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲における「平均円形度」が「0.80以上」であるのに対し、甲10発明は、全ての略柱体樹脂粒子に対する前記周側面の略中央部に周方向に凹部を有する略柱体樹脂粒子の含有比率が明らかでなく、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲における立体造形用樹脂粉末の平均円形度も明らかでない点。
イ 判断
甲10発明の消耗性粉末混合物に含まれるポリマー系粒子は、「直角柱または斜めに切断された円柱である略円筒形状」を有し、「略円筒形状の粒子の2つの基部の一方または両方に配設されたポリマー系粒子の略円筒形状の違いである切断アーチファクト」を有している。そうすると、前記2(1)イにおいて検討したとおり、本件特許発明における「平均円形度」が「面積(画素数)をSとし、周囲長をLとしたときに、下式(1)により円形度を測定し、それらを算術平均した値を用いることができる。」、「円形度=4πS/L2・・・式(1)」(段落【0024】)とされるものであることに鑑みれば、直角柱または斜めに切断された円柱である略円筒形状の円形度が、0.80以上の範囲にあるとは考えられない。さらに、切断アーチファクトを有する粉体の円形度が、より小さなものとなることも明らかである。そうすると、上記相違点2のうち、立体造形用樹脂粉末の0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲における「平均円形度」が「0.80以上」とする点が実質的な相違点であることは明らかである。そして、甲10には、消耗性粉体混合物に含まれるポリマー系粒子の平均円形度を0.8以上とすることについての記載がなく、前記2(1)イにおいて検討したとおり、平均円形度を特定の範囲にすることが、当業者にとって自明であったとする根拠を見いだせない。そして、立体造形用樹脂粉末の0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲における「平均円形度」を「0.80以上」とすることが甲10に記載されていたに等しいということもできない。
ウ 小括
以上のとおり、本件特許発明1と甲10発明とは、上記[相違点2]において実質的に相違するものであるから、両者が同一の発明であるとは言えない。
(2)本件特許発明2,6~9,11~13
本件特許発明2、4~13は、本件特許発明1に、さらに要件を付加した発明である。そうすると、本件特許発明2、4~13は、本件特許発明1と同じ理由により、甲10発明と同一の発明であるとは言えない。
第7 令和4年9月8日付けで通知した取消理由についての当合議体の判断
1 サポート要件
令和4年9月8日付けで通知した取消理由のうち、理由1(サポート要件)は、概略、本件特許発明1~13は、発明の詳細な説明から、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとなっており、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないから、特許を受けることができない、というものである。
しかし、本件訂正後の本件特許発明1、2、4~13は、略柱体樹脂粒子について、「底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子であって、その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する」ことが特定されている。そうすると、本件特許明細書等に記載された実施例や発明の詳細な説明の記載からみて、「流動化剤を添加せずとも、リコート時の粉面の平滑性に優れ、得られる立体造形物の表面性が良好な立体造形用樹脂粉末を提供する」(段落【0006】)という本件特許発明が解決しようとする課題を解決できることは明らかである。
したがって、本件訂正後の本件特許発明1、2、4~13は、いずれも、発明の詳細な説明から、当業者が課題を解決できると認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしている。
なお、異議申立人は、特許異議申立書において、「上記のとおりの深さを有する凹部を備えていることによる効果は、立体造形用樹脂粉末のサイズにも依存すると考えられ、…5μm程度…である場合には、深さ2.0μmまたは5.0μmの凹部を有していたとしても、実施例1、2と同等の効果が奏されると認めることはできない。」、「三角柱や四角柱も含まれると考えられるが、そのような形状の粒子によっても、『その周側面に凹部を有する』という要件を満たしてさえいれば、…上記の課題を解決できると認めることができるような記載は発明の詳細な説明にはない。」と主張している。また、令和5年2月6日の意見書においても、「長さもしくは高さや、幅もしくは直径といった寸法が何ら特定されていないのみか、…円柱状であることすら特定されていない任意の立体造形用樹脂粉末…を用いた場合であっても、その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する限り、本願発明による効果を奏し、ひいては発明の課題を解決できると当業者が認識できるものではない。」と主張し、令和5年9月25日の意見書においても、「任意の樹脂からなる略柱体の粒子を使用した場合に、本件特許発明1において特定されているその他の構成要件さえ満たしていれば、上記の課題を解決できると当業者が理解することができると解することはできず、」と主張している。
しかし、本件特許発明1は、「立体造形用樹脂粉末。」であって、「前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上である」ことも要件としている。そして、異議申立人が特許異議申立書において「そもそも立体造形に用いる樹脂粉末の場合、その粒径は任意の範囲であってよいはずがなく、」と記載しているとおり、本件特許発明1の立体造形用という用途が付された粉末は、その限定された用途に適した形状、構造、組成等を備えた粉末を意味するものと理解できる。立体造形用である本件特許発明1の粉末は、リコートや接着が可能な粒径範囲及び組成であることを要件とすると理解できる。そして、さらに本件特許発明1は、平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.80以上であると限定されていることから、異議申立人が主張する「長さもしくは高さや、幅もしくは直径といった寸法」の範囲も、自ずから制限されていると理解できる。そうすると、本件特許発明1が特定する全ての要件を満たす粒子が、中空、角柱であったとしても、又は、実施例で使用された樹脂以外の、通常立体造形用に用いられる組成を有する樹脂であったとしても、これらの場合に、本件特許発明が解決しようとする課題が解決できなくなるとする根拠を見いだせない。
以上より、異議申立人の主張を採用することができない。
2 甲1~甲3を主引用例とした新規性及び進歩性
令和4年9月8日付けで通知した取消理由のうち、甲1~甲3を主引用例とした新規性及び進歩性(理由2及び理由3)について検討すると、本件訂正後の本件特許発明1、2、4~13は、略柱体樹脂粒子について、「底面と上面を持つ柱状あるいは筒状の形状を有する粒子であって、その周側面の略中央部に周方向に凹部を有する」ことが特定されている。
これに対し、甲1発明~甲3発明が、上記要件を満たす粒子を含んでいるとはいえない。異議申立人は、令和5年2月6日の意見書において、「甲第2号証の図3には、繊維の断面図が記載されており、511cは、粒子の『周側面の略中央部に周方向に凹部を有する』ものであることは明らかである。」、「甲第3号証に記載のタンブリングも、回転運動によってマイクロペレットに『物理的な力を与えることが可能な方法』であることから、本件特許発明の場合と同様に、粒子の周側面の略中央部に周方向に形成された凹部が形成される蓋然性は高い。」と主張している。しかし、甲2の図3は、繊維の例示的断面を示すものである。甲2発明の粉体に、断面が円形、楕円または不規則形状を示す繊維片が含まれていたとしても、これが、周側面の略中央部に周方向に凹部を有することを示すとはいえない。また、甲3の段落[18]には、「マイクロペレット22のエッジを丸めるために追加のステップとしてタンブリングされてもよい。他の実施形態では、丸みは、他の機械的手段によって達成されてもよい。」と記載されている。甲3におけるタンブリンや他の機械的手段を経たマイクロペレットは、エッジを丸められていると理解できるものの、周側面の略中央部に周方向に凹部を有する形状を備えていると理解することはできない。
以上より、異議申立人の主張を採用することができない。
第8 取消理由を通知しなかった特許異議申立理由についての当合議体の判断
1 実施可能要件
異議申立人は、本件特許発明11~13について、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明11~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると主張している。
異議申立人の主張の概略は、本件特許発明11において、立体造形用樹脂粉末が少なくとも1種を満たすと特定された要件(1)~(3)を挙げ、本件特許明細書には、当該(1)~(3)のいずれかを備えた立体造形用樹脂粉末を製造するための方法や条件は何ら記載されていないから、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明11の立体造形用樹脂粉末という「物」の発明を作ることができ、ひいては本件特許発明11を引用する本件特許発明12及び13の立体造形物の製造装置を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない、というものである。
しかし、本件特許の段落【0043】に記載されているように、当該(1)~(3)の要件は、結晶性熱可塑性樹脂であるかを判別するための要件であり、段落【0036】に「前記結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、熱処理、延伸、結晶核材、超音波処理等、従来公知の外部刺激の方法により、得ることができる。」と記載されているように、結晶性樹脂を結晶制御する手法も従来公知である(なお、甲4にも結晶性を制御した樹脂を得る手法が記載されている。)。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明11~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1,2,4~13を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1,2,4~13を取り消すべき理由を発見しない。
なお、請求項3は、訂正により存在しないこととなったため、請求項3に係る申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700526