特許異議申立
2025-700787
熱可塑性樹脂組成物の製造方法
- 審判番号
- 2025-700787
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-213848
- 登録番号
- 7626611
- 請求日
- 2025年07月31日
- 審決日
- 2025年12月15日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ポリプラスチックス株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 植前 充司
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.113-Y (B29C) / P1651.121-Y (B29C) / P1651.537-Y (B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第113条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7626611号発明「熱可塑性樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7626611号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7626611号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2020-213848号)は、令和2年12月23日の出願であって、令和7年1月27日にその特許権の設定登録がされ、同年2月4日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年7月31日に特許異議申立人 山内 慶子(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項(請求項1~5)に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ニーディングディスクが装着された一対のスクリューをバレル内に有する二軸押出機を用いて、熱可塑性樹脂とカーボンブラックとを溶融混練する工程を含む、熱可塑性樹脂の製造方法であって、
前記ニーディングディスクの先端部と、前記バレルの内壁における、前記ニーディングディスクの先端部の対向位置との距離の最大値が1.0~5.0mmであり、
前記ニーディングディスクは順送りニーディングディスクである、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記二軸押出機のスクリュー回転数が250~600rpmであり、前記バレルの内径が40~85mmである、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記カーボンブラックの一次粒子径が10~60nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂と前記カーボンブラックとを溶融混練する工程の前に、前記熱可塑性樹脂と前記カーボンブラックとを予備混練する工程をさらに含み、
前記予備混練する工程において、厚さが0.05D~0.3Dのニーディングディスクを0.5D~5.0Dの長さとなるように装着された一対のスクリューを用いて前記熱可塑性樹脂と前記カーボンブラックとを溶融混練する、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人が主張する特許異議の申立理由、及び、特許異議申立人が提出した証拠方法は、概略以下のとおりである。
1 新規性欠如
本件特許発明1及び3は、下記甲第1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、請求項1及び3に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 進歩性欠如
本件特許発明1~5は、下記甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1~5に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 サポート要件違反
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 特許異議申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特開2005-35212号公報
甲第2号証:特開2020-76023号公報
甲第3号証:特開2014-240494号公報
甲第4号証:“二軸押出機”,[online],株式会社日本製鋼所,[取得日2025年7月1日],取得先<https://www.jsw.co.jp/ja/product/business/plastics_machinery/pm_0500/02.html>
甲第5号証:“高導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック)”,[online],ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社,[取得日2025年7月1日],取得先<https://www.lion-specialty-chem.co.jp/ja/catalog/01/k.php>
以下、甲号証に付された番号を使って、それぞれ、「甲1」などという。
第4 当合議体の判断
1 新規性欠如及び進歩性欠如について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、第2の実施例に係る、以下の、溶融したLDPEペレットにカーボンブラックを練り込む方法の発明(甲1の【0052】~【0058】(第2の実施例)、【0038】~【0044】、【図3】(第2の実施形態)、【請求項9】等を参照のこと。以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「同方向に回転駆動される二軸スクリュからなり、ニーディングディスクが押出シリンダ内に回転可能に収納された二軸押出機により、溶融したLDPEペレットにカーボンブラックを練り込む方法であって、
ニーデイングディスクは、2条正送りニーディングディスクであり、そのフライトチップの螺旋角度θは105°に設定され、チップクリアランス(フライトチップとシリンダの内壁のクリアランス)は、シリンダ内径Dをベースとして0.005~0.06Dである、
溶融したLDPEペレットにカーボンブラックを練り込む方法。」
イ 特許異議申立人は、特許異議申立書13~14頁において、甲1の11頁に記載された【図5】の「TEX65」という記載から、「甲1発明」のシリンダの内径Dが69mmであると認定しているが、同【図5】の「PP+20%タルク」という記載からみて、同【図5】は、甲1の「第1の実施例」(【0045】~【0052】)に係るものであって、溶融したLDPEペレットにカーボンブラックを練り込む「第2の実施例」に係るものではないというべきである。
なお、甲1の14頁に記載された【図5】に「TEX65」という記載はなく、甲1の12~15頁の記載からみて、平成16年9月13日付け手続補正により、補正前の図4と同一のものであった図5が、補正前の図6に差し替えられたと認められるところ、当該補正前の図6すなわち補正後の図5をみても、シリンダの内径Dについて記載されていないし、また、第2の実施例に係る【0058】から「図5」という記載を削除する補正が行われている(甲1の12頁を参照のこと。)。
そうすると、甲1の第2の実施例に係る、溶融したLDPEペレットにカーボンブラックを練り込む方法において用いた二軸押出機が「TEX65」であるとはいえないため、シリンダの内径Dは不明であって、特許異議申立人が主張するようにシリンダの内径Dが「69mm」であるとは認められない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
(一致点)
「ニーディングディスクが装着された一対のスクリューをバレル内に有する二軸押出機を用いて、熱可塑性樹脂とカーボンブラックとを溶融混練する工程を含む、熱可塑性樹脂の製造方法であって、
前記ニーディングディスクは順送りニーディングディスクである、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
(相違点)
本件特許発明1は「前記ニーディングディスクの先端部と、前記バレルの内壁における、前記ニーディングディスクの先端部の対向位置との距離の最大値が1.0~5.0mm」であるのに対し、甲1発明は、ニーディングディスクの先端部と、シリンダの内壁における、ニーディングディスクの先端部の対向位置との距離の最大値の範囲が明らかでない点。
ウ 判断
(ア)新規性欠如について
上記相違点は実質的な相違点である。
そうすると、本件特許発明1は甲1発明ではない。
(イ)進歩性欠如について
上記相違点について検討する。
甲1には、上記相違点に係る本件特許発明1の構成は記載されていない。そして、甲1発明の「チップクリアランス」が本件特許発明1の「ニーディングディスクの先端部と、シリンダの内壁における、ニーディングディスクの先端部の対向位置との距離の最大値」に相当するとしても、甲1発明においてシリンダ内径Dは不明であるから、当該シリンダ内径の大きさに対する比により特定されたものである同「チップクリアランス」が、本件特許発明1の「1.0~5.0mm」との値をとるものであるとはいえない。
また、上記相違点に係る本件特許発明1の構成は、特許異議申立人が提出した甲2~甲5のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。さらに、甲1発明において、上記相違点に係る本件特許発明1の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲1発明において、上記相違点に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1~甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明2、4及び5について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、4及び5は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2、4及び5は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が甲1~甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2、4及び5も甲1~甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明3について
本件特許の特許請求の範囲の請求項3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明3は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明3が、甲1に記載された発明でなく、また、甲1~甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明3も、甲1に記載された発明でなく、また、甲1~甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものではない。
2 サポート要件違反について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)サポート要件についての判断
ア 本件特許明細書の【0007】の記載からみて、本件特許発明(上記「第2」参照)が解決しようとする課題は、「カーボンブラックを良好に分散させることが可能な熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する」ことであると認められる。
そして、本件特許明細書の【0015】~【0032】の記載(特に【0024】の「ニーディングディスクAは、順送りニーディングディスク、逆送りニーディングディスク、直交ニーディングディスクのいずれでもよいが、滞留時間や発熱の点から、順送りニーディングディスクが好ましい」)、【0034】~【0042】の記載(特に【0034】の「[熱可塑性樹脂] 本実施形態に係る熱可塑性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)、液晶性樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂などが挙げられ、本実施形態においては、PBT樹脂に特に有用である。以下に、PBT樹脂を挙げて説明するが、本実施形態においてはそれに限定されるものではない」)、【実施例】【0049】~【0057】に記載された実施例及び比較例の評価結果に関する記載(【0052】【表1】、【0053】【表2】、【0054】【表3】の「カーボンブラックの分散度合」等)に基づけば、「ニーディングディスクが装着された一対のスクリューをバレル内に有する二軸押出機」を用いて「熱可塑性樹脂とカーボンブラックとを溶融混練する工程を含む、熱可塑性樹脂の製造方法」において、「ニーディングディスクの先端部と、前記バレルの内壁における、前記ニーディングディスクの先端部の対向位置との距離の最大値が1.0~5.0mm」との特定事項を満たすことにより、当業者はカーボンブラックを良好に分散させることができるもの、すなわち、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1~5はいずれも、上記発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、更に限定するものであるから、当業者はカーボンブラックを良好に分散させることができるもの、すなわち、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるというべきである。
そうすると、本件特許発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。
イ 特許異議申立人は、特許異議申立書28頁において、「本件発明1は、熱可塑性樹脂の種類を特定しておらず、また、「熱可塑性樹脂組成物の製造方法」に用いる「ニーディングディスクが装着された一対のスクリューをバレル内に有する二軸押出機」が「順送りニーディングディスク」以外のニーディングディスクを備えいてもよいことを排除しないことから、課題を解決できない態様を包含しており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである」と主張する。
しかしながら、本件特許発明は「熱可塑性樹脂とカーボンブラックとを溶融混練する工程を含む」ものであるから、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)と同様の熱特性を有する熱可塑性樹脂(本件特許明細書【0034】~【0042】)が用いられた場合でも、当業者は、本件特許発明が上記課題を解決できると認識できるというべきである。また、特許異議申立人は、「ポリブチレンテレフタレート樹脂」以外の熱可塑性樹脂が用いられた場合に、本件特許発明が上記課題を解決できなくなることを何ら示していない。
また、特許異議申立人は、二軸押出機に「順送りニーディングディスク」以外のニーディングディスクが備えられた場合に、本件特許発明が上記課題を解決できなくなることを何ら示していない。
したがって、上記主張は採用できない。
(3)まとめ
本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。
第5 むすび
請求項1~5に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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