特許異議申立
2023-701247
パン用包装フィルムおよびパン用包装体
- 審判番号
- 2023-701247
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-196165
- 登録番号
- 7306788
- 請求日
- 2023年11月27日
- 審決日
- 2025年02月21日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井化学東セロ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】平居 博美
- 【異議申立人】井戸田 能幸
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 木原 裕二
- 分類
- P1651.113-YAA(B65D) / P1651.121-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7306788号発明「パン用包装フィルムおよびパン用包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7306788号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7306788号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7306788号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成29年10月6日に出願され、令和5年7月3日に特許権の設定登録がされ、令和5年7月11日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年11月27日 :特許異議申立人平居博美(以下「申立人A」という。)による請求項1~14に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年12月 6日 :特許異議申立人井戸田能幸(以下「申立人B」という。)による請求項1~14に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年 2月22日 :申立人Aによる上申書の提出
令和6年 4月30日付け:取消理由通知書
令和6年 7月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 8月 9日 :申立人Bによる意見書の提出
令和6年 9月19日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年11月18日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和6年11月22日付けで当審から申立人A及び申立人Bに対して訂正請求があった旨の通知を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人A及び申立人Bから応答はなかった。
また、令和6年7月4日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
訂正請求書による訂正の請求(以下、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7306788号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「軽荷重引裂き試験機を使用して測定温度23±3℃、測定湿度50±5%RHの条件で測定される、前記パン用包装フィルムのTD方向の引裂き強度が4.0N/mm以上であり、」とあるのを、
「軽荷重引裂き試験機を使用して測定温度23±3℃、測定湿度50±5%RHの条件で測定される、前記パン用包装フィルムのTD方向の引裂き強度が4.0N/mm以上12N/mm以下であり、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。)
(2)訂正前の請求項1~14は、請求項2~14が、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~14〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「パン用包装フィルム」について、そのTD方向の引裂き強度の上限値を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件明細書の「TD方向の引裂き強度の上限値は特に限定されないが、例えば、12N/mm以下であり、好ましくは10N/mm以下である。」(【0017】)との記載に基づくものであり、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
パンを包装するためのパン用包装フィルムであって、
ポリオレフィンを含むコア層と、
前記コア層の一方の面に設けられたヒートシール層と、
を備え、
軽荷重引裂き試験機を使用して測定温度23±3℃、測定湿度50±5%RHの条件で測定される、前記パン用包装フィルムのTD方向の引裂き強度が4.0N/mm以上12N/mm以下であり、
スリップテスターを使用し、下記方法1(傾斜法)により測定される、前記パン用包装フィルムの前記ヒートシール層側の表面の静摩擦係数(tanθ)が2.0以下であるパン用包装フィルム。
(方法1)
50mm×75mmのサイズに切断した前記パン用包装フィルムを2枚(以下、パン用包装フィルム1および2とする。)準備し、そのうちの1枚の前記パン用包装フィルム1を前記ヒートシール層側が上になるように傾斜板に固定する。次いで、もう1枚の前記パン用包装フィルム2の前記ヒートシール層側とは反対側の表面の中心に底面(サイズが41mm×26mm)が真鍮から構成されている摩擦体を固定し、前記摩擦体の上に、前記摩擦体から前記パン用包装フィルム2にかかる質量が150gとなるように重りを取り付ける。次いで、2枚の前記パン用包装フィルム1、2の前記ヒートシール層側の面同士を重ねる。次いで、前記傾斜板を1°/secの速度で傾斜させ、上部の前記パン用包装フィルム2が滑り出したときの角度θからtanθの値を求める。
【請求項2】
請求項1に記載のパン用包装フィルムにおいて、
JIS K7127:1999に準拠して、引張試験機を用いて測定温度23±3℃、測定湿度50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記パン用包装フィルムのMD方向のヤング率T1とTD方向のヤング率T2との合計値(T1+T2)が700MPa以上1500MPa以下であるパン用包装フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパン用包装フィルムにおいて、
JIS K7127:1999に準拠して、引張試験機を用いて測定温度23±3℃、測定湿度50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記パン用包装フィルムのMD方向のヤング率T1が300MPa以上800MPa以下であるパン用包装フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムにおいて、
5±2℃、50±5%RHの条件で測定される、前記パン用包装フィルムの衝撃強度が3.0kg・cm以上8.0kg・cm以下であるパン用包装フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムにおいて、
JIS Z1707:1997に準拠して、23±2℃、50±5%RHの条件で測定される、前記パン用包装フィルムの突き刺し強度が1.5N以上3.5N以下であるパン用包装フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムにおいて、
前記ポリオレフィンがプロピレン系ブロック共重合体を含むパン用包装フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のパン用包装フィルムにおいて、
前記コア層に含まれる前記プロピレン系ブロック共重合体の含有量が、前記コア層に含まれる前記ポリオレフィンの含有量を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下であるパン用包装フィルム。
【請求項8】
請求項6または7に記載のパン用包装フィルムにおいて、
JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される前記プロピレン系ブロック共重合体のメルトフローレート(MFR)が、0.5g/10分以上20g/10分以下であるパン用包装フィルム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムにおいて、
前記コア層の前記ヒートシール層が設けられた面とは反対側の面に表面層をさらに備えるパン用包装フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載のパン用包装フィルムにおいて、
前記表面層はホモポリプロピレン、プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含むパン用包装フィルム。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムにおいて、
前記ヒートシール層は前記コア層の前記一方の面に直接接するように設けられているパン用包装フィルム。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムにおいて、
前記ヒートシール層がホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含むパン用包装フィルム。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムにおいて、
前記パンが食パンを含むパン用包装フィルム。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載のパン用包装フィルムを用いたパン用包装体。」
第4 取消理由通知(決定の予告)について
1 取消理由の概要
当審において令和6年9月19日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。以下、例えば申立人Aが提出した甲第1号証を「甲A1」という。他の証拠についても同様。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用文献一覧]
甲B1:「プラスチックフィルムレジン材料総覧2012」、株式会社加工技術研究会、2012年6月26日発行、360~361ページ
甲B2:国際公開第2017/018282号
2 当審における判断
(1)各甲号証について
(1-1)甲B1
ア 甲B1の記載
甲B1には以下の記載がある(以下において、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。)。
(ア)「「T.A.F」は、ポリオレフィンを原料とした無延伸共押出多層フィルムで、用途に応じて各層の合成樹脂を選定する。多品種あるが、単体フィルム用とラミシーラント用に大別される。表面層にヒートシール層を付与し、他層に印刷性、耐熱性(ラミシーラント用は他層にラミネート適性)を付与したもので、これらの各層の機能が相乗効果を発揮する機能性フィルムであり、単層では満足しえない高度の包装に使用されている。」(360ページの「1 概要」欄)
(イ)「(4)パン用(表5)
パンの包装用に品質設計した製品である。「505M」「505MC」「507」は食パン包装用であり、「506C」「509M」「509MC」は菓子パンの自動包装に優れている。中でも505M、505MC、509M、509MCは、マットタイプで装飾効果がある。」(360ページの「2 特徴と用途」欄)
(ウ)「表1 T.A.Fの各グレードの構成と特徴
[図:0001423446000001.jpg]
」(360ページの表1)
(エ)「表5 パン用グレード
[図:0001423446000002.jpg]
」(361ページの表5)
イ 上記アの記載から認定できること
(ア)上記ア(ア)の「表面層にヒートシール層を付与し、他層に印刷性、耐熱性・・・を付与したもの」との記載から、「T.A.F」は基材層の表面にヒートシール性を付与し、他層に印刷性、耐熱性を付与したものであるといえる。
(イ)上記ア(ウ)には、「T.A.F」の種類として、二層構成又は三層構成 のパン用フィルムが記載され、そのうち「食パンタイプの密封易開封タイプ」として三層構成のフィルム(品目:505M、505MC)、食パンの包装用として二層構成のフィルム(品目:507)がそれぞれ記載されていることがわかる。
(ウ)上記ア(エ)には、パン用グレードとして、TD方向の引裂強度(測定方法:JIS K 7128)やスリップ(傾斜板法により測定されたtanθ)等が記載され、そのうち品目505M、505MCでは、引裂強度が、MD方向で0.1N/20μm(=5N/1mm)、TD方向で4.9N/20μm以上(=245N/mm以上)、内/内のtanθが0.6又は0.5、品目507ではTD方向の引裂強度が4.9N/20μm以上(=245N/mm以上)、内/内のtanθが0.15であることがそれぞれ記載されている。そして、上記の「スリップ(傾斜板法により測定されたtanθ)」が静摩擦係数に相当することは技術常識から明らかである。また、上記「内/内」は、上記ア(ア)の記載及び技術常識を踏まえると、「ヒートシール層/ヒートシール層」を意味すると認める。
ウ 甲B1に記載された発明
上記ア及びイの記載事項を参照し、特に品目505Mに着目すると、甲B1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ポリオレフィンを原料とした基材層の表面にヒートシール層を付与し、他層に印刷性、耐熱性を付与した、食パン包装用フィルムであり、
JIS K 7128により測定した引裂強度が、MD方向で5N/mm、TD方向で245N/mm以上であり、傾斜板法により測定したヒートシール層同士のtanθ(静摩擦係数)が0.6である、食パン包装用フィルム。」
(1-2)甲B2
ア 甲B2の記載
甲B2には以下の記載がある。
「[0001] 本発明は、食品、雑貨、雑誌等を包装する包装材に使用する積層フィルム及び該フィルムからなる包装材に関する。」
「[0005] また、このような薄厚の包装用フィルムは、包装する内容物によっては、内容物を封入する際の接触や擦れにより裂けや破れが生じる場合があった。なかでも、パンが内容物となる場合、焼き立てのパン、特に食パンの耳部は鋭利な状態となるため、積層フィルムをガゼット状の包装袋に製袋して、当該包装袋中にパンを封入する場合には包装袋に裂けが生じやすい。・・・
[0006] 本発明が解決しようとする課題は、包装時や流通時に内容物が飛び出したりしない、強固な開封しないシール強度と共に、好適な耐破袋性を有するマット調フィルムを実現することにあり、特に低温下での耐破袋性に優れたマット調フィルムを実現することにある。
[0007] さらには、上記課題に加え、内容物を封入する際の接触や擦れによる裂けや破れが生じにくい耐摩擦性に優れたマット調フィルムを実現することを課題とする。」
「[0062] なかでも、本発明の積層フィルムは、鋭利な先端部や鉤部を有する結束具(クロージャー)が使用される食パンや菓子パン等のパン包装に適用した際に、結束時の破袋が生じにくく、また、移送時に当該結束具や搬送容器との接触が生じた場合にもピンホールや裂けが生じにくい。また内容物である食品とフィルム内面(シール面)とのこすれや混入されたプラスチックトレーとの摩擦、突き刺し等によるピンホールや裂けも生じにくい。・・・」
「[0064](実施例1)
印刷層、中間層及びシール層の各層を形成する樹脂成分として、各々下記の樹脂を使用して、各層を形成する樹脂混合物を調整した。・・・印刷層:プロピレン-エチレンブロック共重合体樹脂(プロピレン由来成分含量:90質量%、密度:0.90g/cm3、MFR(測定温度230℃):5g/10分)(以下、プロピレン系ブロック共重合体(1)と称する)100質量%
中間層:プロピレン系ブロック共重合体(1)85質量%、直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.905g/cm3、MFR(測定温度190℃):4g/10分)(以下、LLDPE(1)と称する)15質量%
シール層:プロピレン-エチレン共重合体(エチレン由来成分含量:5.0質量%、密度:0.90g/cm3、MFR(測定温度230℃):7g/10分間)(以下、COPP(1)と称する)70質量%、1-ブテン-プロピレン共重合体(密度:0.90g/cm3、MFR(測定温度230℃):4g/10分間)(以下、1-ブテン系共重合体(1)と称する)30質量%」
「[0067](実施例4)
中間層に使用する樹脂混合物の樹脂成分を下記とした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
中間層:プロピレン系ブロック共重合体(1)95質量%、LLDPE(1)25質量%」(当審注:[0094][表1]も併せみると、「95質量%」は「75質量%」の誤記であると認められる。)
「[0094][表1]
[図:0001423446000003.jpg]
」
「[0095][表2]
[図:0001423446000004.jpg]
」
イ 甲B2に記載された事項
上記アの記載事項を参照し、特に実施例4に着目すると、甲B2には以下の事項(以下「甲B2記載事項」という。)が記載されているといえる。
「印刷層、中間層及びシール層を有し、一方の表層が印刷層、他方の表層がシール層からなり、
前記印刷層がプロピレン系ブロック共重合体樹脂を100質量%含有し、
前記中間層がプロピレン系ブロック共重合体樹脂を75質量%及び直鎖状低密度ポリエチレンを25質量含有し、
前記シール層がプロピレン-エチレン共重合体を70質量%、1-ブテン-プロピレン共重合体樹脂を30質量%含有し、
シール層表面の摩擦係数が0.2であって、
多層フィルムの剛性がMD方向620MPa、CD方向580MPaであり、
耐衝撃度(0℃)が0.3Jである、
好適な耐破袋性を有する食品包装用の積層フィルム。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
引用発明の「ポリオレフィンを原料とした基材層」、「基材層の表面に」「付与」した「ヒートシール層」、「食パン包装用フィルム」はそれぞれ、本件発明1の「ポリオレフィンを含むコア層」、「前記コア層の一方の面に設けられたヒートシール層」、「パンを包装するためのパン用包装フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致し、相違する。
[一致点]
「パンを包装するためのパン用包装フィルムであって、
ポリオレフィンを含むコア層と、
前記コア層の一方の面に設けられたヒートシール層と、
を備えるパン用包装フィルム。」
[相違点1]
パン用包装フィルムのTD方向の引裂き強度について、
本件発明1では、「軽荷重引裂き試験機を使用して測定温度23±3℃、測定湿度50±5%RHの条件で測定される、前記パン用包装フィルムのTD方向の引裂き強度が4.0N/mm以上12N/mm以下であ」るのに対し、
引用発明では、「JIS K 7128により測定した引裂強度が、MD方向で5N/mm、TD方向で245N/mm以上であ」る点。
[相違点2]
ヒートシール層側の表面の静摩擦係数について、
本件発明1では、「スリップテスターを使用し、下記方法1(傾斜法)により測定される、前記パン用包装フィルムの前記ヒートシール層側の表面の静摩擦係数(tanθ)が2.0以下である」「(方法1)50mm×75mmのサイズに切断した前記パン用包装フィルムを2枚(以下、パン用包装フィルム1および2とする。)準備し、そのうちの1枚の前記パン用包装フィルム1を前記ヒートシール層側が上になるように傾斜板に固定する。次いで、もう1枚の前記パン用包装フィルム2の前記ヒートシール層側とは反対側の表面の中心に底面(サイズが41mm×26mm)が真鍮から構成されている摩擦体を固定し、前記摩擦体の上に、前記摩擦体から前記パン用包装フィルム2にかかる質量が150gとなるように重りを取り付ける。次いで、2枚の前記パン用包装フィルム1、2の前記ヒートシール層側の面同士を重ねる。次いで、前記傾斜板を1°/secの速度で傾斜させ、上部の前記パン用包装フィルム2が滑り出したときの角度θからtanθの値を求める。」のに対し、
引用発明では、「傾斜板法により測定したヒートシール層同士のtanθ(静摩擦係数)が0.6である」点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1のうち引裂き強度の数値範囲について検討する。
本件発明は「特に冬場において、パンを袋に充填する際の袋の裂けの発生を抑制でき、パンの充填性や製品の生産性を低下させず、結果的に生産性を向上させることができるパン用包装フィルムを提供する 」(【0007】)ことを課題とするものであり、【0072】~【0086】には、フィルムの引裂き強度と静摩擦係数の数値範囲を特定することにより、上記課題を解決する好適なパン用包装フィルムが得られることが示されている。
一方で甲B1には、引用発明において「特に冬場において、パンを袋に充填する際の袋の裂けの発生を抑制でき、パンの充填性や製品の生産性を低下させず、結果的に生産性を向上させる」ことについて検討することは記載も示唆もされていないから、引用発明の「TD方向で245N/mm以上」の引裂強度を、本件発明1のように「4.0N/mm以上12N/mm以下」と設計変更する動機付けはない。
そして、申立人A、Bが提出した他の証拠を参照しても、引用発明において相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 申立人Bの主張について
申立人Bは、「甲2文献の発明の課題(段落[0004]~[0007]等参照)から明らかなように、この種のパン用包装フィルムにおいて、・・・低温下でのフィルムの耐性を向上・・・することは周知である。・・・TD方向の引裂き強度・・・を具体的にどの程度とするかは、・・・設計的事項に過ぎない。」(申立書B8ページ13~23行)と主張している。
しかしながら、上述したように、相違点1に係る、本件発明1の引裂き強度とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(2)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~14は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
以下、申立人Aによる申立理由を「申立理由A1」等といい、申立人Aが提出した甲号証を「甲A1」等といい、同様に、申立人Bによる申立理由を「申立理由B1」等といい、申立人Bが提出した甲号証を「甲B1」等という。
(1)申立理由A1-1(甲A1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、甲A1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。また、本件特許の下記の請求項に係る発明は、甲A1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由A1-2(甲A2に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、甲A2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由B1-1(甲B1に基づく新規性)
本件特許の請求項1、9、11、13、14に係る発明は、甲B1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由A2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 本件発明の「引裂き強度が4N/mm以上」について、本件明細書にはコア層として特定の態様の実施例しか記載されておらず、他のあらゆるポリオレフィンにおいて課題を解決できることを本件明細書はサポートしていない。
イ 本件発明の「静摩擦係数(tanθ)が2.0以下」について、本件明細書にはシーラント層が特定の態様の実施例しか記載されておらず、他のあらゆるポリオレフィンにおいて課題を解決できることを本件明細書はサポートしていない。
(5)申立理由B2(サポート要件)
本件特許(この出願)は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 本件発明は「引裂き強度が4.0N/mm以上」であるところ、これは、特許権者自身の製品である甲B1におけるTD方向の引裂き強度が4.9N/20μm(=245N/mm)以上であるとの記載からみてもはるかに小さく、甲B3の「易引裂性フィルムは、・・・エルメンドルフ引裂強度が、・・・1N/mm以上30N/mm未満であることが好ましい。」(【0093】)との記載からみても、「引裂き強度が4.0N/mm」のものを含む本件発明は「良好な耐破袋性」という課題を解決できない。
イ 本件発明は「引裂き強度が4.0N/mm以上」であり上限値が特定されていないところ、実施例1~6で効果が検証されているのは「7.7N/mm」までであるから、「引裂き強度が4.0N/mm以上」のあらゆる範囲において課題を課題を解決できることを本件明細書はサポートしていない。
(6)申立理由A3(明確性要件)
本件特許(この出願)は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1の「引裂き強度が4.0N/mm以上」について、上限値が特定されていないから発明の範囲が不明確である。
(7)申立人A、Bが提出した証拠
甲A1:特開2008-162163号公報
甲A2:特開2007-237641号公報
甲A3:特開2003-55509号公報
甲A4:特開2010-173326号公報
甲A5:特開2002-370320号公報
甲B1:「プラスチックフィルムレジン材料総覧2012」、株式会社加工技術研究会、2012年6月26日発行、360~361ページ
甲B2:国際公開第2017/018282号
甲B3:特開2017-100419号公報
2 当審における判断
(1)申立理由A1-1(甲A1に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲A1に記載された発明
甲A1の請求項1、【0001】、【0046】、【0048】【表1】を参照し、特に実施例1に着目すると、甲A1には以下の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されている。
「シール層と中間層と印刷層からなり(請求項1)、
3層Tダイ共押出キャスト成形機によりフィルム全体厚みが30μmとなるように製膜して得た3層フィルムであって、(【0046】)
シール層は、プロピレン系ランダム共重合体(A)52質量%とスリップ剤マスターバッチ3質量%を含有し、中間層は、プロピレン系ブロック共重合体(B)70質量%とプロピレン系ブロック共重合体(C)30質量%を含有し、印刷層は、プロピレン系ブロック共重合体(B)97質量%と帯電防止剤マスターバッチ3質量%を含有し、(【0046】、【0048】【表1】の実施例1)、
シール層面同士の滑り[tanθ]が0.21である、食パン包装用の3層フィルム。」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲A1発明を対比すると、少なくとも下記の点で相違する。
[相違点A1]
本件発明1は「TD方向の引裂き強度が4.0N/mm以上12N/mm以下」であるに対し、甲A1発明は引裂き強度が不明な点。
上記相違点A1について検討する。
まず、相違点A1は実質的なものであるので、本件発明1は甲A1発明ではない。
次に、本件発明は「特に冬場において、パンを袋に充填する際の袋の裂けの発生を抑制でき、パンの充填性や製品の生産性を低下させず、結果的に生産性を向上させることができるパン用包装フィルムを提供する 」(【0007】)ことを課題とするものであり、【0072】~【0086】には、フィルムの引裂き強度と静摩擦係数の数値範囲を特定することにより、上記課題を解決する好適なパン用包装フィルムが得られることが示されている。
一方で甲A1発明は、「マット感に優れ、かつ滑り性、・・・フィルム傷つき防止性の優れた」(【0010】)ものであるところ、甲A1には上記本件発明の課題に関する記載も示唆もないから引裂き強度を変更する動機付けはないから、甲A1発明において相違点A1に係る本件発明1の構成とすることは、申立人A、Bが提出した他の証拠を参照しても、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、申立人Aは、本件発明1(【0019】)と甲A1発明(実施例1)はいずれもコア層にプロピレン系ブロック共重合体を含むから同等の引裂き強度となる蓋然性が高い旨主張する(申立書Aの19ページ)。しかしながら、多層フィルムの引裂き強度はコア層以外の層の材料や各層厚さ等に大きく影響を受けることは技術常識である。したがって、申立人Aの上記主張は採用できない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲A1発明ではなく、また、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を含み、さらに限定するものであるから、上記イと同様の理由により、甲A1発明ではなく、また、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由A1-2(甲A2に基づく進歩性)について
ア 甲A2の記載、発明
甲A2の実施例4、【0055】、【0071】【表2】を参照すると、甲A2には以下の発明(以下「甲A2発明」という。)が記載されている。
「ラミネート層として、樹脂(A)60質量%、樹脂(B)20質量%、樹脂(C)20質量%、及び平均粒子径3μmの不定形シリカ(サイリシア550)600ppm、エルカ酸アミド400ppmよりなる組成物を、
中間層として、エチレン含有量が4質量%の樹脂[A]70質量%、樹脂(B)5質量%、樹脂(C)25質量%、及びエルカ酸アミド300ppmよりなる組成物を、
シール層として、樹脂(A)88質量%、樹脂(C)12質量%、及び平均粒子径3μmの不定形シリカ(サイリシア550)2000ppm、平均粒子径4μmの球状シリカ1000ppm、エルカ酸アミド600ppm、ベヘニン酸アミド200ppmよりなる組成物を、
それぞれ別個の押出機を用い溶融押出しし、Tダイ出口樹脂温度250℃、速度50m/min、冷却ロール温度30℃の条件でTダイキャスティングして得た、ラミ層厚み10μm、中間層厚み20μm、シール層厚み10μmであって、(【実施例4】)
フィルムのシール面同士を合わせて滑り性をJIS-K7215-1987に準拠して測定した静摩擦係数が0.37である、(【0055】、【0071】【表2】)
ポリプロピレン系無延伸複合フィルム。(【0001】)」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲A2発明を対比すると、少なくとも下記の点で相違する。
[相違点A2]
本件発明1は「TD方向の引裂き強度が4.0N/mm以上12N/mm以下」であるに対し、甲A2発明は引裂き強度が不明な点。
上記相違点A2について検討する。
本件発明は「特に冬場において、パンを袋に充填する際の袋の裂けの発生を抑制でき、パンの充填性や製品の生産性を低下させず、結果的に生産性を向上させることができるパン用包装フィルムを提供する 」(【0007】)ことを課題とするものであり、【0072】~【0086】には、フィルムの引裂き強度と静摩擦係数の数値範囲を特定することにより、上記課題を解決する好適なパン用包装フィルムが得られることが示されている。
一方で甲A2発明は、「低温ヒートシール性と耐ブロッキング性、透明性を併せ持ち、かつ低温での耐衝撃性に優れて」(【0010】)いるものであるところ、甲A2には上記本件発明の課題に関する記載も示唆もなく引裂き強度を変更する動機付けはないから、甲A2発明において相違点A2に係る本件発明1の構成とすることは、申立人A、Bが提出した他の証拠を参照しても、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
なお、申立人Aは、本件発明1(【0019】)と甲A2に記載された発明(実施例4)はいずれもコア層にプロピレン系ブロック共重合体を含むから同等の引裂き強度となる蓋然性が高い旨主張する(申立書Aの25ページ)。しかしながら、多層フィルムの引裂き強度はコア層以外の層の材料や各層厚さ等に大きく影響を受けることは技術常識である。したがって、申立人Aの上記主張は採用できない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲A2発明ではなく、また、甲A2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を含み、さらに限定するものであるから、上記イと同様の理由により、甲A2発明ではなく、また、甲A2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由B1-1(甲B1に基づく新規性)について
ア 対比
本件発明1と甲B1に記載された発明である引用発明とを対比すると、上記第4の2(2)アで説示した相違点1及び2において相違する。
そして、少なくとも相違点1は、上記第4の2(2)イで説示したとおり実質的な相違点である。
よって、本件発明1は引用発明ではない。
(4)申立理由A2及びB2(サポート要件)について
本件発明の解決しようとする課題は「パンを袋に充填する際の袋の裂けの発生を抑制」(【0007】)することであり、当該課題を解決するための手段は「上記パン用包装フィルムのTD方向の引裂き強度が4.0N/mm以上」かつ「上記パン用包装フィルムの上記ヒートシール層側の表面の静摩擦係数(tanθ)が2.0以下」とすることある。
そして、本件明細書の【0072】~【0086】において、上記条件を満たす実施例1~6においてパンの充填性(袋の裂けの発生)が良好であったことが示されているから、上記条件を満たすことで課題を解決できると当業者であれば認識できる。
そして、本件発明1は、本件発明を解決できると認識できる上記条件を特定しているから、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(5)申立理由A3(明確性要件)について
請求項1の「引裂き強度が4.0N/mm以上」との記載は、上限値が示されずとも明確であるから本件発明1~14の範囲も明確である。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~14に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701247