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特許異議申立

2021-700701

樹脂複合体及び樹脂複合体の製造方法

審判番号
2021-700701
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-565651外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6822420
請求日
2021年07月20日
審決日
2022年03月11日
公報発行日
2022年06月24日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6822420号発明「樹脂複合体及び樹脂複合体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6822420号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[14-15]について訂正することを認める。 特許第6822420号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6822420号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2017年(平成29年)2月3日(優先権主張 平成28年2月3日)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月12日にその特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対し、令和3年7月20日に特許異議申立人 大矢 真紀子(以下、「異議申立人」という。)より、特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし15)がされ、同年9月24日付で取消理由が通知され、同年11月24日に特許権者 王子ホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年12月2日付けで特許法第120条の5第5項に基づく通知を行ったところ、特許異議申立人より何ら応答がなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (訂正事項) 特許請求の範囲の請求項14に 「樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、 前記複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程と、を含む樹脂複合体の製造方法。」 と記載されているのを、 「樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、 前記複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程と、を含む樹脂複合体の製造方法であって、 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が、5MPa以上である、樹脂複合体の製造方法。」 に訂正する。 請求項14の記載を引用する請求項15も同様に訂正する。 なお、訂正前の請求項15は、請求項14を引用するものであるから、請求項14及び15は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項にかかる請求項14の訂正は、樹脂複合体の引張強度を特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項にかかる請求項14の訂正は、願書に添付した明細書の段落【0016】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項14の記載を引用する請求項15についても同様である。 3 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[14-15]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし15に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明15」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含む樹脂複合体であって、 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が、5MPa以上である、樹脂複合体。 【請求項2】 前記繊維は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースである請求項1に記載の樹脂複合体。 【請求項3】 前記イオン性官能基はアニオン性官能基である請求項1又は2に記載の樹脂複合体。 【請求項4】 前記イオン性官能基はリン酸基である請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項5】 前記多価イオンが金属イオンである請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項6】 前記樹脂は親水性樹脂である請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項7】 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をEとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の質量をFとした場合、(E-F)/F×100で表される吸水率が500%以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項8】 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の面積をGとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の面積をHとした場合、G/H×100で表される伸縮率が130%以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項9】 シートである請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項10】 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度をAとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張強度をBとした場合、A/B×100で表される引張強度残存率が9%以上である請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項11】 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張弾性率は、0.2GPa以上である請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項12】 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張弾性率をCとし、前記樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張弾性率をDとした場合、C/D×100で表される引張弾性率残存率が3%以上である請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項13】 リグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を実質的に含まない請求項1~12のいずれか1項に記載の樹脂複合体。 【請求項14】 樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、 前記複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程と、を含む樹脂複合体の製造方法であって、 前記樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が、5MPa以上である、樹脂複合体の製造方法。 【請求項15】 前記多価イオン含有溶液は、無機金属塩の水溶液である請求項14に記載の樹脂複合体の製造方法。」 第4 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし15に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記1~3)は、次のとおりである。 1 申立理由1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由1の概略は次のとおりである。 「本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の発明特定事項である「樹脂」、「イオン性官能基を有する繊維」及び「多価イオン」に関し、本件特許の各請求項に記載された上位概念に含まれるごく一部の下位概念についての実施の形態のみが実施可能に記載されるに過ぎない。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていない。」 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由2の概略は次のとおりである。 「本件特許明細書の発明の詳細な説明の開示からは、本件特許発明の発明特定事項である「樹脂」、「イオン性官能基を有する繊維」及び「多価イオン」に関して、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない。」 3 申立理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由3の概略は次のとおりである。 「本件特許の請求項1~5、7~13に係る発明において、「樹脂」が、疎水性で(親水性樹脂以外かつ水溶性樹脂以外の樹脂)、かつ引張強度が5MPaよりもかなり高い樹脂を含む樹脂全般を広く包含する状態では、「樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が、5MPa以上である」との発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず、さらに、本件特許出願時の技術常識を考慮すると、本件特許の請求項1~5、7~13に係る発明は、樹脂の種類ないし特性に関する発明特定事項が不足していることが明らかであるから、本件特許の請求項1~5、7~13に係る発明は明確でない。 同様の明確性違反は、本件特許の請求項7、8、10、11及び12の各規定で特定される範囲についても妥当する。 本件特許の請求項6に係る発明において、「親水性樹脂」に包含される樹脂の範囲を、本件特許の明細書及び図面の記載並びに本件特許の出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解することができないから、本件特許の請求項6に係る発明は明確でない。」 第5 令和3年9月24日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要 当審が令和3年9月24日付けで特許権者に通知した取消理由通知における取消理由の概要は、次のとおりである。なお、申立理由2のうち請求項14及び15にかかる部分は取消理由に包含される。 取消理由(サポート要件) 本件特許の請求項14及び15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、取消理由の具体的理由は次のとおりである。 本件特許の明細書の段落【0006】及び【0007】の記載によると、請求項14及び15の発明の課題は、「耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体の製造方法を提供する」ことと認められる。 この点について、本件特許の明細書の記載、特に【0013】、【0014】及び【0016】の記載から、「樹脂とイオン性官能基を有する繊維に加えて、さらに多価イオンを配合」させることにより、製造される樹脂複合体に「繊維が有するイオン性官能基の電荷と、多価イオンが有する電荷の相互作用により、水に難溶性または不溶性の構造が形成」され、このような構造が「樹脂複合体の親水性を低下させることにより耐水性が付与」される、すなわち、「耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体の製造方法を提供する」との発明の課題を解決するものと認識できる。 しかしながら、請求項14及び15に係る発明は、繊維が有するイオン性官能基、多価イオンの組み合わせ、あるいは、特定の組み合わせの場合にもたらされる性状等が特定されておらず、「水に難溶性または不溶性の構造が形成される」組み合わせ以外のものも含みうるものであるから、請求項14及び15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 第6 当審の判断 1 取消理由についての判断 (1) サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2) 本件明細書の記載事項 本件明細書には次の事項が記載されている。(なお、下線は合議体で付したものである。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、樹脂複合体及び樹脂複合体の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。 【0003】 繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。また、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロースと樹脂成分を含む複合シートが開発されている。微細繊維状セルロースを含有するシートや複合シートにおいては、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度等が大きく向上することが知られている。また、繊維幅が可視光の波長より短くなることで、透明度が大きく向上することも知られている。 【0004】 例えば、特許文献1には、微細繊維状セルロースと、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含むガスバリア層が開示されている。ここでは、微細繊維状セルロース繊維と水溶性高分子を複合化することで、高湿度環境下においても高いガスバリア性が発揮されると報告されている。また、特許文献2には、微細繊維状セルロース、樹脂、金属酸化物及び薄片状無機材料の少なくとも1つを含む複合体が開示されている。特許文献2の実施例においては、樹脂としてエポキシ樹脂又はフェノール樹脂が用いられており、このような樹脂と薄片状無機材料を組み合わせて用いた実施例が開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】国際公開WO2011/118520号公報 【特許文献2】国際公開WO2010/055839号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 上述したように微細繊維状セルロースと樹脂を含む樹脂複合体を形成することにより、力学的物性等を向上させることが提案されている。しかしながら、微細繊維状セルロースと樹脂を含む従来の樹脂複合体を湿潤条件下においた場合、十分な強度が発揮されない場合があることが本発明者らの検討により明らかとなった。 また、微細繊維状セルロースと樹脂を混合した樹脂複合体においては、親水性の強い微細繊維状セルロースが、樹脂に覆われるため、耐水性が向上すると考えられていた。しかし、本発明者らの検討により、このような樹脂複合体においても十分な耐水性が得られないことが明らかとなった。 【0007】 そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体を提供することを目的として検討を進めた。」 「【課題を解決するための手段】 【0008】 上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、樹脂複合体に、特定の官能基を有する繊維、樹脂及び多価イオンを含有させることにより、樹脂複合体の耐水性を向上させ得ることを見出した。さらに本発明者らは、このような樹脂複合体においては、湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。 具体的に、本発明は、以下の構成を有する。 【0009】 [1] 樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含む樹脂複合体。 [2] 繊維は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースである[1]に記載の樹脂複合体。 [3] イオン性官能基はアニオン性官能基である[1]又は[2]に記載の樹脂複合体。 [4] イオン性官能基はリン酸基である[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [5] 多価イオンが金属イオンである[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [6] 樹脂は親水性樹脂である[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [7] 樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をEとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の質量をFとした場合、(E-F)/F×100で表される吸水率が500%以下である[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [8] 樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の面積をGとし、樹脂複合体を 23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の面積をHとした場合、G/H×100で表される伸縮率が130%以下である[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [9] シートである[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [10] 下記領域(a)~(c)に含まれるイオン性官能基を有する繊維の濃度を測定した場合、2領域間の繊維濃度比が2未満である[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂複合体。 (a)樹脂複合体の一方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域 (b)樹脂複合体の他方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域 (c)樹脂複合体の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域 [11] 樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度は、5MPa以上である[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [12] 樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度をAとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張強度をBとした場合、A/B×100で表される引張強度残存率が9%以上である[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [13] 樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張弾性率は、0.2GPa以上である[1]~[12]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [14] 樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張弾性率をCとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張弾性率をDとした場合、C/D×100で表される引張弾性率残存率が3%以上である[1]~[13]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [15] リグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を実質的に含まない[1]~[14]のいずれかに記載の樹脂複合体。 [16] 樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程と、を含む樹脂複合体の製造方法。 [17] 多価イオン含有溶液は、無機金属塩の水溶液である[16]に記載の樹脂複合体の製造方法。 【発明の効果】 【0010】 本発明によれば、耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体を得ることができる。」 「【発明を実施するための形態】 【0012】 以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。 【0013】 (樹脂複合体) 本発明は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含む樹脂複合体に関する。本発明においては、樹脂とイオン性官能基を有する繊維に加えて、さらに多価イオンを配合することにより、耐水性に優れた樹脂複合体を得ることができる。 【0014】 本発明の樹脂複合体においては、繊維が有するイオン性官能基の電荷と、多価イオンが有する電荷の相互作用により、水に難溶性または不溶性の構造が形成され、このような構造が樹脂複合体の親水性を低下させることにより耐水性が付与されるものと考えられる。また、本発明の樹脂複合体は、上記構造を有するため、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。 【0015】 本発明の樹脂複合体の形態は特に限定されるものではないが、例えば、シート、繊維、発泡体、塊状の成形体等とすることができる。中でも本発明の樹脂複合体は、シートもしくは繊維であることが好ましく、シートであることがより好ましい。 【0016】 本発明の樹脂複合体は、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。樹脂複合体の湿潤条件下における引張強度は、5MPa以上であることが好ましく、8MPa以上であることがより好ましく、10MPa以上であることがさらに好ましく、20MPa以上であることがよりさらに好ましく、25MPa以上であることが特に好ましい。また、樹脂複合体の湿潤条件下における引張強度の上限値は、特に限定されないが、たとえば500MPa以下とすることができる。なお、湿潤条件における引張強度は、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取ったものの引張強度である。樹脂複合体の湿潤条件における引張強度は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8135に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。 ここで、湿潤条件における引張強度は、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬後に、一辺の両端を挟持して引き上げて、その後に測定をするものであるから、イオン交換水に浸漬後に樹脂複合体を引き上げ可能なものである。イオン交換水に浸漬後に樹脂複合体を引き上げることができず、破断してしまうものは引張強度の測定ができず、引張強度は0MPaに近いものであると想定される。 【0017】 本発明の樹脂複合体は、調湿(乾燥)条件下における引張強度は、50MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましい。また、樹脂複合体の調湿(乾燥)条件下における引張強度の上限値は、特に限定されないが、たとえば1000MPa以下とすることができる。なお、調湿条件における引張強度は、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%の条件下に置いたものの引張強度である。樹脂複合体の調湿条件における引張強度は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。 【0018】 本発明においては、湿潤条件下における樹脂複合体の引張強度と調湿(乾燥)条件下における樹脂複合体の引張強度の差は小さいものであることが好ましい。湿潤条件とは、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した条件であり、乾燥条件(調湿条件)とは、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した条件である。本発明では、樹脂複合体がシートである場合であって、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度をAとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張強度をBとした場合、引張強度残存率(%)は、A/B×100の値となる。引張強度残存率(%)は9%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、35%以上であることが特に好ましい。また、引張強度残存率(%)の上限値は、特に限定されないが、たとえば95%以下とすることができる。引張強度残存率(%)が上記範囲内であることは、湿潤条件下においても良好な力学物性を保持し得ることをいう。 【0019】 本発明の樹脂複合体の湿潤条件下における引張弾性率は、0.2GPa以上であることが好ましく、0.5GPa以上であることがより好ましく、1GPa以上であることがさらに好ましく、2GPa以上であることがさらに好ましい。また、樹脂複合体の湿潤条件下における引張弾性率の上限値は、特に限定されないが、たとえば50GPa以下とする ことができる。樹脂複合体の湿潤条件下における引張弾性率は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8135に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。 なお、イオン交換水に浸漬後に樹脂複合体を引き上げることができず、破断してしまうものは引張弾性率の測定ができず、引張弾性率は0GPaに近いものであると想定される。 【0020】 本発明の樹脂複合体の調湿(乾燥)条件下における引張弾性率は、3GPa以上であることが好ましく、5GPa以上であることがより好ましく、7GPa以上であることがさらに好ましく、9GPa以上であることがさらに好ましい。また、樹脂複合体の調湿(乾燥)条件下における引張強度の上限値は、特に限定されないが、たとえば100GPa以下とすることができる。樹脂複合体の調湿条件下における引張弾性率は、樹脂複合体がシートである場合、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。 【0021】 本発明においては、湿潤条件下における樹脂複合体の引張弾性率と、乾燥条件(調湿条件)下における樹脂複合体の引張弾性率の差は小さいものであることが好ましい。本発明では、樹脂複合体がシートである場合であって、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張弾性率をCとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の引張弾性率をDとした場合、引張弾性率残存率(%)は、C/D×100の値となる。引張弾性率残存率(%)は3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりさらに好ましく、30%以上であることが特に好ましい。また、引張弾性率残存率(%)の上限値は、特に限定されないが、たとえば95%以下とすることができる。引張弾性率残存率(%)が上記範囲内であることは、湿潤条件下においても良好な力学物性を保持し得ることをいう。 【0022】 本発明の樹脂複合体は、吸水率が小さい。本発明において樹脂複合体の吸水率が小さいことは、耐水性に優れていることを意味する。本発明では、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をEとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の質量をFとした場合、吸水率(%)は、(E-F)/F×100で表される値となる。吸水率は、1000%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましく、400%以下であることがさらに好ましく、300%以下であることがよりさらに好ましく、200%以下であることが特に好ましい。なお、樹脂複合体の吸水率は0%であってもよい。 【0023】 本発明の樹脂複合体は、伸縮率が抑えられている点にも特徴がある。本発明において樹脂複合体の伸縮率が小さいことは、湿潤条件においた際の樹脂複合体の膨潤が抑えられていること意味する。本発明では、樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の樹脂複合体の面積をGとし、樹脂複合体を23℃、相対湿度50%条件下で24時間静置した後の樹脂複合体の面積をHとした場合、伸縮率(%)は、G/H×100で表される値となる。伸縮率は、140%以下であることが好ましく、130%以下であることがより好ましく、120%以下であることがさらに好ましい。なお、樹脂複合体の伸縮率は100%であってもよく、伸縮率が100%の場合、樹脂複合体の膨潤がないことを意味する。 【0024】 本発明の樹脂複合体が、シート以外の形状である場合、例えば繊維である場合はJIS L 1013に、ポリエチレン発泡体である場合はJIS K 6767などに準拠した方法、またはそれに準ずる方法にて強度等を測定する。 【0025】 (イオン性官能基を有する繊維) 本発明の樹脂複合体は、イオン性官能基を有する繊維を有する。イオン性官能基を有する繊維としては、セルロース繊維、キチン繊維、キトサン繊維、表面親水化カーボンナノファイバーなどが挙げられる。 【0026】 イオン性官能基を有する繊維は、セルロース繊維であることが好ましく、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(以下、微細繊維状セルロースともいう)であることがより好ましい。 【0027】 イオン性官能基を有する繊維の含有量は、樹脂複合体の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、イオン性官能基を有する繊維の含有量は、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。 【0028】 本発明の樹脂複合体においては、イオン性官能基を有する繊維は、好ましくは樹脂複合体中に分散しており、より好ましくは均一に分散している。すなわち、イオン性官能基を有する繊維は、樹脂複合体において補強繊維の働きをするものである。ここで、イオン性官能基を有する繊維が樹脂複合体中に均一に分散している状態とは、下記領域(a)~(c)に含まれるイオン性官能基を有する繊維の濃度を測定した場合に、2領域間の繊維濃度比が2未満である状態をいう。すなわち、どの2領域の濃度を比較しても2倍以上の差がでない状態をいう。 (a)樹脂複合体の一方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域 (b)樹脂複合体の他方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域 (c)樹脂複合体の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域 本発明においては、イオン性官能基を有する繊維が樹脂複合体中に均一に分散しているため、湿潤条件下における樹脂複合体の引張強度が高く、かつ、上述した引張強度残存率(%)も高く維持される。さらに、イオン性官能基を有する繊維が樹脂複合体中に均一に分散しているため、湿潤条件下における樹脂複合体の引張弾性率が高く、かつ、上述した引張弾性率残存率(%)も高く維持される。 【0029】 イオン性官能基を有する繊維は微細繊維状セルロースであることが好ましく、微細繊維状セルロースは、実質的にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を含まないことが好ましい。すなわち、本発明の樹脂複合体は、実質的にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を含まないことが好ましい。樹脂複合体中にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体が残存していると、その疎水的性質ゆえに、耐水性が高くなると予想されるが、セルロース繊維同士の間に、イオン性官能基を導入させるための化合物が染込みにくくなり、その結果、セルロース繊維の微細化が不十分になる。本発明の一実施形態においては、イオン性官能基を有する繊維は十分に微細化されていることが好ましく、セルロース繊維の微細化と耐水性の向上が両立され得る。 なお、本明細書において、樹脂複合体が、実質的にリグノフェノール及びリグノフェノール誘導体を含まない状態とは、樹脂複合体の全質量に対して、リグノフェノール及びリグノフェノール誘導体の含有量が1%以下であることをいう。 【0030】 <微細繊維状セルロース> 微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有する樹脂複合体は高強度が得られる傾向がある。 【0031】 微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。 【0032】 微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。 【0033】 (1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。 (2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。 【0034】 上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。 【0035】 微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。 【0036】 微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。 微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。 【0037】 微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。 【0038】 本発明において微細繊維状セルロースは、イオン性官能基を有する繊維であり、イオン性官能基は、アニオン性官能基(以下、アニオン基ともいう)であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。 【0039】 微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有するものであることが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO3H2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。 【0040】 本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。 【化1】 [図:0001385193000001.jpg] 【0041】 式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1~nの整数)及びα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。 【0042】 <リン酸基導入工程> リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。 【0043】 リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。 【0044】 化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。 【0045】 本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。 リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。 【0046】 これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。 【0047】 また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。 【0048】 繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。 【0049】 本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、1-エチル尿素などが挙げられる。 【0050】 化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。 【0051】 化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。 【0052】 リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。 【0053】 加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。 【0054】 加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。 【0055】 加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では 、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。 【0056】 リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、良好な強度発現が期待できる。 【0057】 リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。 【0058】 伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。 【0059】 リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。 【0060】 <カルボキシル基の導入> 本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、たとえばTEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって処理することで、カルボキシル基を導入することができる。 【0061】 カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。 【0062】 カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。 【0063】 カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。 【0064】 カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。 【0065】 <カルボキシル基の導入量> カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。カルボキシル基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。 【0066】 <カチオン性置換基導入> 本実施形態においては、イオン性置換基としてカチオン性置換基が微細繊維状セルロースに導入されていてもよい。例えば繊維原料にカチオン化剤及びアルカリ化合物を添加して反応させることにより、繊維原料にカチオン性置換基を導入することができる。 カチオン化剤としては、4級アンモニウム基を有し、かつセルロースのヒドロキシル基と反応する基を有するものを用いることができる。セルロースのヒドロキシル基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。 アルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩などの無機アルカリ化合物であってもよいし、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物及びその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等の有機アルカリ化合物であってもよい。カチオン性置換基の導入量の測定は、たとえば元素分析等を用いて行うことができる。 【0067】 <アルカリ処理> 微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。 アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。 また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。 【0068】 アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。 アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。 アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。 【0069】 アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。 【0070】 <解繊処理> リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。 解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。 【0071】 解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。 【0072】 本発明の微細繊維状セルロース含有スラリーは、解繊処理により得られた微細繊維状セルロース含有スラリーを、一度濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊処理を行って得てもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、及びWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、微細繊維状セルロース含有スラリーをシート化することで濃縮、乾燥し、該シートに解繊処理を行い、再度微細繊維状セルロース含有スラリーを得ることもできる。 【0073】 微細繊維状セルローススラリーを濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊(粉砕)処理をする際に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。 【0074】 上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。 【0075】(多価イオン) 本発明の樹脂複合体は多価イオンを含む。多価イオンは、価数が2以上の陽イオン又は価数が2以上の陰イオンである。イオン性官能基を有する繊維がアニオン性官能基を有する場合は、多価イオンは価数が2以上の陽イオンであることが好ましく、イオン性官能基を有する繊維がカチオン性官能基を有する場合は、多価イオンは価数が2以上の陰イオンであることが好ましい。 【0076】 多価イオンは金属イオンであることが好ましい。金属イオンは、多価イオンとしては緻密構造を有するものであり、樹脂複合体において難溶性または不溶性の構造を形成し易いため好ましい。金属イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン(Mg2+)、アルミニウムイオン(Al3+)、カルシウムイオン(Ca2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、鉄イオン(Fe2+、Fe3+)ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、カドミウムイオン(Cd2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、銅イオン(Cu2+)、コバルトイオン(Co2+)、スズイオン(Sn2+)等を挙げることができる。中でも、金属イオンは、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び鉄イオンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムイオン又はマグネシウムイオンであることがより好ましい。多価イオンとしては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 【0077】 多価イオンの金属イオンは、錯イオンであってもよい。錯イオンとしては、例えば、テトラアンミン亜鉛(II)イオン([Zn(NH3)4]2+)、テトラアンミン銅(II)イオン[Cu(NH3)4]2+等を挙げることができる。 【0078】 また、多価イオンは、金属イオン以外の多価イオンであってもよい。このような多価イオンとしては、例えば、硫酸イオン(SO42-)、チオ硫酸イオン(S2O32-)、硫化物イオン(S2-)、炭酸イオン(CO32-)、リン酸イオン(PO43-)等を挙げることができる。また、多価イオンはカチオン性及び/又はアニオン性を有する有機物であってもよく、カチオン性及び/又はアニオン性を有する有機物としては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、ポリアクリルアミド、キトサン、カチオン化でんぷん、クエン酸、ポリアクリル酸、リン酸変性でんぷん等を挙げることができる。 【0079】 多価イオンの含有量は、樹脂複合体に含まれるイオン性官能基を有する繊維の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、多価イオンの含有量は、樹脂複合体に含まれるイオン性官能基のイオン価数と等量のイオン価数となるように調整することが好ましい。 【0080】 樹脂複合体中に含まれる多価イオンの含有量は、例えば蛍光X線分析法を用いて測定することができる。蛍光X線分析法を用いて定量を行う場合は、まず、検量線作成用として、測定対象と組成及び形態が類似しており、かつ分析元素の含有量(mmol)が既知である試料(例えば、樹脂複合体がシート状である場合は、ろ紙等)を調製し、蛍光X線分析により当該試料のX線強度を測定する。ここでは、二価以上の金属が分析元素となる。次いで、これにより得られたX線強度と、分析元素の既知の含有量に基づき、検量線を作成する。 そして、蛍光X線分析により、測定対象のX線強度を測定する。次いで、これにより得られたX線強度と上記検量線から、測定対象中の分析元素の含有量(mmol)を求める。得られた測定対象中の分析元素の含有量を、測定対象の質量(g)で割ることにより、測定対象への二価以上の金属の導入量(mmol/g)を算出する。ここで、測定対象の質量Zは、下記式で算出される。 Z(g)=W(cm2)×X(g/cm3)×Y(cm) (W:蛍光X線分析に使用したシートの面積(cm2)、X:シートの密度(g/cm3)、Y:シートの厚み(cm)) 【0081】 その他、多価イオンの定量方法については、適切な前処理と組合せたICP発光分析、ICP質量分析、原子吸光法、イオンクロマトグラフィーなどを挙げることができる。また、多価イオンに含まれる特定の元素に注目した分析方法を用いることもできる。例えば、ポリアクリルアミドのN原子を微量窒素分析装置で定量することができる。 【0082】 (樹脂) 本発明の樹脂複合体は、樹脂を含む。樹脂としては、天然樹脂や合成樹脂を挙げることができる。また、樹脂は熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。 【0083】 天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。 【0084】 合成樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート、ポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリプロピルラクトン等のポリエステル、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリグルタミン酸、ポリリジン等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。 また、合成樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂を用いることも好ましい。 【0085】 本発明で用いる樹脂は、親水性樹脂であることが好ましい。また、樹脂は水溶性樹脂であることがより好ましい。本明細書において、親水性樹脂は、SP値が9.0以上の樹脂をいう。また、本明細書において、親水性樹脂は、100mlのイオン交換水に1g以上溶解するものをいう。なお、水溶性樹脂は親水性樹脂よりもSP値が高く、イオン交換水に対する溶解度も高いものをいう。親水性樹脂は、イオン性官能基を有する繊維との親和性が高いため、好ましく用いられる。 【0086】 親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。中でも、親水性樹脂は、ポリビニルアルコールであることが好ましい。ポリビニルアルコールは、イオン性官能基を有する繊維との親和性がよく、繊維間の隙間を充填し、樹脂複合体の強度と柔軟性を高めることができる。 【0087】 ポリビニルアルコール(PVA)は、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。ポリビニルアルコールのけん化度は、特に限定されないが、50mol%以上であることが好ましく、60mol%以上であることがより好ましく、70mol%以上であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度は、95mol%以下であることが好ましく、90mol%以下であることがより好ましく、85mol%以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度を上記範囲内とすることにより、樹脂複合体の耐水性をより効果的に高めることができ、さらに、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。 【0088】 ポリビニルアルコールの平均重合度は特に限定されないが、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1500以上であることがさらに好ましい。また、ポリビニルアルコールの平均重合度は20000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度を上記範囲内とすることにより、樹脂複合体の耐水性をより効果的に高めることができ、さらに、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる。 【0089】 本発明で用いる樹脂はマトリックス樹脂と呼ぶこともできる。ここで、マトリックス樹脂とは、イオン性官能基を有する繊維の交点に結着し得る樹脂をいい、樹脂複合体全域において広がりをもった状態で存在する樹脂をいう。すなわち、本発明の樹脂複合体においては、マトリックス樹脂中にイオン性官能基を有する繊維と、多価イオンが混合されてなるものであることが好ましい。 【0090】 樹脂の含有量は、樹脂複合体の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、イオン性官能基を有する繊維の含有量は、95質量%以下であることが好ましい。 【0091】 また、樹脂複合体中に含まれる、樹脂(A)とイオン性官能基を有する繊維(B)との質量比((A)/(B))は、5/95~95/5の範囲内であることが好ましく、30/70~95/5の範囲内であることがより好ましく、50/50~90/10の範囲内であることがさらに好ましい。樹脂とイオン性官能基を有する繊維の質量比を上記範囲内とすることにより、樹脂複合体の強度を高めることができ、かつ耐水性を高めることができる。」 「【0093】 (樹脂複合体の製造方法) 本発明は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含有する樹脂複合体を形成する工程を含む樹脂複合体の製造方法に関するものでもある。本発明の樹脂複合体の製造方法においては、以下に挙げる製造方法を採用することができる。 (1)樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンを全て混合した樹脂組成物から、樹脂複合体を形成する工程を含む製造方法。 (2)樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、複合体 を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程を含む製造方法。 (3)イオン性官能基を有する繊維から基材を形成する工程と、基材を形成する工程の後に、基材に多価イオン含有溶液を付与する工程と、樹脂を含浸させる工程を含む製造方法。 【0094】 中でも、樹脂複合体の製造方法においては、(2)の製造方法を採用することが好ましい。すなわち、本発明の樹脂複合体の製造工程は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程と、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程と、を含むことが好ましい。本発明の樹脂複合体の製造方法においては、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程を設けることにより、イオン性官能基を有する繊維の凝集を抑制することができ、繊維の均一分散性を高めることができる。樹脂複合体において、繊維が均一分散していることは繊維の補強効果を発揮させる観点からも重要である。樹脂複合体において、繊維が均一分散している場合、湿潤条件下における樹脂複合体の引張強度が高くなり、かつ引張強度残存率(%)も高く維持される。さらに、樹脂複合体において、繊維が均一分散している場合、湿潤条件下における樹脂複合体の引張弾性率が高くなり、かつ引張弾性率残存率(%)も高く維持される。 【0095】 なお、樹脂複合体の製造方法に用いる、樹脂、イオン性官能基を有する繊維、及び多価イオンとしては、上述したものを挙げることができ、好ましい範囲も同様である。 【0096】 樹脂複合体の製造方法においては、(2)の製造方法を採用する場合は、樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程においては、樹脂組成物を基材上に塗工することで複合体を形成してもよいし、樹脂組成物を抄紙することにより、複合体を形成してもよい。樹脂組成物を抄紙する場合は、樹脂及びイオン性官能基を有する繊維が歩留る適切なろ材を選択する。また、樹脂としてラテックスや、粉状、繊維状のものを選択することが好ましい。 なお、本発明の製造方法においては、樹脂組成物を基材上に塗工することで複合体を形成することが好ましい。」 「【0109】 <多価イオン含有溶液を付与する工程> 本発明の樹脂複合体の製造方法においては、複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程を含むことが好ましい。多価イオン含有溶液を付与する工程においては、多価イオン含有溶液を、樹脂とイオン性官能基を有する繊維を含む複合体に噴霧等により付与してもよいが、複合体を多価イオン含有溶液に含浸させることが好ましい。 【0110】 多価イオン含有溶液を付与する工程で用いる多価イオン含有溶液は、上述した多価イオンを含む溶液であればよいが、上述した金属種を含む無機金属塩の水溶液であることが好ましい。多価イオン含有溶液に含まれる無機金属塩の濃度は、特に限定されないが、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、多価イオン含有溶液を付与する工程が浸漬工程である場合、浸漬時間は特に限定されないが、1分以上120分以下であることが好ましい。 【0111】 多価イオン含有溶液を付与する工程の後には、洗浄工程を設けてもよく、さらに乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥工程としては、複合体を得る工程における乾燥条件と同様の条件を例示することができる。 【0112】 樹脂複合体はシート形状に限らず、繊維形状や発泡体形状としてもよい。たとえば、樹脂組成物を紡糸ノズルから適切な凝固液(たとえばメタノール等の貧溶媒)中に押し出し、回収、洗浄等することにより、繊維状の樹脂複合体を製造することができる。また、樹脂組成物から発泡体を製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2013/146847に記載の製造方法等が挙げられる。」 「【実施例】 【0125】 以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。 【0126】 〔実施例1〕 <リン酸基導入セルロース繊維の作製> 針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93%、坪量208g/m2シート状 離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。 【0127】 得られたリン酸化パルプに、イオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流した。次いで、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが11以上13以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸変性セルロース繊維を得た。得られたリン酸変性セルロース繊維は、リン酸基の導入量が1.50mmol/gであった。 【0128】 なお、リン酸基の導入量は、セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。 【0129】 <機械処理> 洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が2.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース分散液を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、200MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させた。微細繊維状セルロース分散液に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は3~4nmであった。 【0130】 <繊維樹脂複合シートの作製> 機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と、3.0質量%のポリビニルアルコール(関東化学製:平均重合度2000、ケン化度78~82mol%)水溶液を、それぞれの絶乾質量が50質量部:50質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た。シートの仕上がり坪量が45g/m2になるように懸濁液を計量して、市販のアクリル板に塗工し35℃、相対湿度15%のチャンバーにて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置した。以上の手順により、繊維樹脂複合シートが得られ、その厚みは30μmであった。 【0131】 <繊維樹脂複合シートの浸漬処理> 繊維樹脂複合シートを、硫酸アルミニウム14~18水和物(関東化学製)を含む、硫酸アルミニウム純分が5質量%の水溶液に30分浸漬し、アルミニウムによる架橋処理を行った。このシートをイオン交換水に15分浸漬し、洗浄を行った。この洗浄を2回繰り返した後、アクリル板に貼り付け、35℃、相対湿度90%のチャンバーにて乾燥した。以上のようにして実施例1の樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。 【0132】 〔実施例2〕 浸漬処理時の水溶液を、塩化マグネシウム六水和物(関東化学製)を含む、塩化マグネシウム純分が10質量%の水溶液とした以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてマグネシウムイオンが含まれていた。 【0133】 〔実施例3〕 浸漬処理時の水溶液を、硫酸鉄(II)七水和物(関東化学製)を含む、硫酸鉄(II)純分が2質量%の水溶液とした以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとして鉄イオンが含まれていた。 【0134】 〔実施例4〕 機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と1.8質量%のポリエチレングリコール(和光純薬社製、重量平均分子量400万)を、それぞれの絶乾質量が83質量部:17質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た以外は実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。 【0135】 〔実施例5〕 機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と3.0質量%のポリビニルアルコール(関東化学製:平均重合度2000、ケン化度78~82mol%)水溶液を、それぞれの絶乾質量が30質量部:70質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た以外は実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。 【0136】 〔実施例6〕 機械処理工程で得られた微細繊維状セルロース分散液と3.0質量%のポリビニルアルコール(関東化学製:平均重合度2000、ケン化度78~82mol%)水溶液を、それぞれの絶乾質量が10質量部:90質量部になるように混ぜ合わせ、樹脂複合懸濁液を得た以外は実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。樹脂複合体(シート)には多価イオンとしてアルミニウムイオンが含まれていた。 【0137】 〔比較例1〕 硫酸アルミニウム水溶液による浸漬処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。 【0138】 〔比較例2〕 硫酸アルミニウム水溶液による浸漬処理を行わなかった以外は、実施例5と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。 【0139】 〔比較例3〕 硫酸アルミニウム水溶液による浸漬処理を行わなかった以外は、実施例6と同様にして樹脂複合体(シート)を得た。 【0140】 〔評価〕 <方法> 実施例及び比較例で作製した樹脂複合体(シート)について、以下の評価方法に従って評価を実施した。 【0141】 (1)シートの吸水率 50mm角の樹脂複合体(シート)をイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取り、湿潤質量を測定した。また、別のシートを23℃、相対湿度50%の条件で24時間調湿したものの調湿質量を測定した。シートの吸水率(%)は以下の式により算出した。 吸水率(%)=(湿潤質量-調湿質量)/調湿質量×100 【0142】 (2)シートの伸縮率 50mm角の樹脂複合体(シート)をイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取り、湿潤シート面積を測定した。また、別のシートを23℃、相対湿度50%の条件下で24時間調湿したものの調湿シート面積を測定した。シートの伸縮率(%)は以下の式により算出した。 伸縮率(%)=湿潤シート面積/調湿シート面積×100 【0143】 (3)シートの引張物性(調湿条件及び湿潤条件) JIS P 8113及びJIS P 8135に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて引張強度及び引張弾性率を測定した。調湿条件の測定においては、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片とした。湿潤条件の測定においては、シートをイオン交換水に24時間浸漬し、表面に残る余分な水をふき取ったものを試験片とした。 なお、表中の「測定不可(膨潤・破断)」とは、上記条件でイオン交換水に浸漬した後のシートが著しく膨潤することで、引張物性の測定準備段階で破断し、事実上測定が不可能である状態を指す。 【0144】 (4)シートの引張強度残存率、引張弾性率残存率(調湿条件及び湿潤条件) シートの引張強度残存率は、調湿条件の引張強度に対する湿潤条件の引張強度により算出した。シートの引張弾性率残存率は、調湿条件の引張弾性率に対する湿潤条件の引張弾性率により算出した。 【0145】 【表1】 [図:0001385193000002.jpg] 【0146】 表1から明らかなように、実施例では、吸水率と伸縮率が抑制されており、実施例で得られた樹脂複合体(シート)は耐水性に優れていることがわかる。また、実施例で得られた樹脂複合体(シート)は湿潤条件においても優れた引張物性を発現することわかる。一方、比較例においては、耐水性や、湿潤条件における引張物性に劣る結果が得られた。 なお、実施例で得られた樹脂複合体(シート)においては、繊維が均一に分散されてい ることが確認された。具体的には、実施例で得られた樹脂複合体(シート)において、下記領域(a)~(c)に含まれるイオン性官能基を有する繊維の濃度を測定した場合、2領域間の繊維濃度比が2未満であった。 (a)樹脂複合体の一方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域 (b)樹脂複合体の他方の面から樹脂複合体の全体の厚みの10%までの領域 (c)樹脂複合体の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域」 (3) サポート要件についての判断 本件特許の明細書の段落【0006】及び【0007】の記載によると、本件特許発明14及び15の発明の課題は、「耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体」の製造方法を提供することである。 この点について、本件特許の明細書の記載、特に【0013】、【0014】、【0016】、【0094】及び【0095】の記載から、「樹脂とイオン性官能基を有する繊維に加えて、さらに多価イオンを配合」させることにより、樹脂複合体において、「繊維が有するイオン性官能基の電荷と、多価イオンが有する電荷の相互作用により、水に難溶性または不溶性の構造が形成され、このような構造が樹脂複合体の親水性を低下させることにより耐水性が付与され」、「上記構造を有するため、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる」ものであること、「十分な強度」に関し、「樹脂複合体の湿潤条件下における引張強度は、5MPa以上」であることが理解でき、これらの要件を満たすことにより、「耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体」の製造方法を提供するとの発明の課題を解決するものと認識できる。 そして、本件特許発明14及び15は、いずれも、「樹脂と、イオン性官能基を有する繊維を混合し、複合体を形成する工程」と、「前記複合体を形成する工程の後に、多価イオン含有溶液を付与する工程」と、を含む樹脂複合体の製造方法であって、前記樹脂複合体が「イオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が、5MPa以上である」ものであるとの特定事項を含むものである。 してみると、本件特許発明14及び15は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (4) 取消理由についてのまとめ したがって、本件特許の請求項14及び15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえないので、取消理由によって取り消すことはできない。 2 取消理由で採用しなかった異議申立理由について (1) 申立理由1(実施可能要件)について ア 実施可能要件の判断基準 本件特許発明1ないし13は「樹脂複合体」という物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 また、本件特許発明14及び15は「樹脂複合体の製造方法」という物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があることを要する。 イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記1(2)のとおりの記載がある。 ウ 実施可能要件についての判断 本件特許の明細書には、樹脂複合体として、「樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含む」(【0013】)こと及びその作用(【0014】)が記載され、用いられる樹脂の種類(【0082】ないし【0091】)、イオン性官能基を有する繊維(【0025】ないし【0074】)、多価イオン(【0075】ないし【0081】)、さらにはその製造方法(【0093】ないし【0096】)が具体的に記載され、樹脂複合体の各パラメータの意味についても記載されており(【0016】ないし【0023】)、さらに実施例の記載もある。 これらの記載を総合すれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし13を生産し、使用することができる程度に記載されているものといえるし、本件特許発明14及び15の物を生産する方法を使用し、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があるものといえる。 エ 異議申立人の主張について 異議申立人は、申立理由1について、要するに、「樹脂」、「イオン性官能基を有する繊維」、「多価イオン」が特定されていないこと、実施例で具体的に検討されているものは極めて限られることなどをあげつつ、「樹脂」と「イオン性官能基を有する繊維」と「多価イオン」のすべてを組み合わせてはじめて達成される、優れた耐水性と湿潤条件下における十分な強度を実現した樹脂複合体が得られることを、出願時の技術常識を加味しても、当業者といえども把握できない故に、本件特許発明1ないし15は実施可能要件を満たしていない旨主張する。 しかしながら、本件特許発明は、「繊維が有するイオン性官能基の電荷と、多価イオンが有する電荷の相互作用により、水に難溶性または不溶性の構造が形成され、このような構造が樹脂複合体の親水性を低下させることにより耐水性が付与される」(【0014】)点に着目し、「樹脂」に加え、特定の「イオン性官能基を有する繊維」と「多価イオン」を加えることで、イオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が5MPa以上といった優れた耐水性と湿潤下においても十分な強度をもつ樹脂複合体とするものである。 そして、「樹脂」、「イオン性官能基を有する繊維」、「多価イオン」としてそれぞれ用いることができるものが列記されていること(【0025】ないし【0074】、【0075】ないし【0081】)、さらにはその具体的な製造方法(【0093】ないし【0096】)も記載されていることからすれば、技術常識を有する当業者であれば、本件特許発明のような引張強度が5MPaとなる物性値を実現する特定のイオン対となる組み合わせを選ぶことに過度の試行錯誤を要するものとはいえない。 よって、異議申立人の当該主張は採用できない。 オ 申立理由1についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえないので、申立理由1によって取り消すことはできない。 (2) 申立理由2(サポート要件)について ア サポート要件の判断基準 上記1(1)のとおりである。 イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記1(2)のとおりの記載がある。 ウ サポート要件についての判断 本件特許の明細書の段落【0006】及び【0007】の記載によると、本件特許発明1ないし13の発明の課題は、「耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体」を提供することである。 この点について、本件特許の明細書の記載、特に【0013】、【0014】及び【0016】の記載から、「樹脂とイオン性官能基を有する繊維に加えて、さらに多価イオンを配合」させることにより、樹脂複合体において、「繊維が有するイオン性官能基の電荷と、多価イオンが有する電荷の相互作用により、水に難溶性または不溶性の構造が形成され、このような構造が樹脂複合体の親水性を低下させることにより耐水性が付与され」、「上記構造を有するため、湿潤条件下においても十分な強度を発揮することができる」ものであること、「十分な強度」に関し、「樹脂複合体の湿潤条件下における引張強度は、5MPa以上」であることが理解でき、これらの要件を満たすことにより、「耐水性に優れ、かつ湿潤条件下においても十分な強度を発揮し得る樹脂複合体」を提供するとの発明の課題を解決するものと認識できる。 そして、本件特許発明1ないし13は、いずれも、「樹脂と、イオン性官能基を有する繊維と、多価イオンと、を含む樹脂複合体」であって、前記樹脂複合体が「イオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が、5MPa以上である」との特定事項を有するものであるから、本件特許発明1ないし13は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 エ 異議申立人の主張について 異議申立人は、「樹脂」、「イオン性官能基を有する繊維」及び「多価イオン」に関して、具体的には極めて限られた例が示されているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張する。 しかしながら、本件特許発明1ないし13は、「繊維が有するイオン性官能基の電荷と、多価イオンが有する電荷の相互作用により、水に難溶性または不溶性の構造が形成され、このような構造が樹脂複合体の親水性を低下させることにより耐水性が付与される」(【0014】)との作用機序を有するものであり、このような電荷の相互作用が形成されれば本件特許発明の課題が解決できるであろうことは十分理解できるといえる。 よって、異議申立人の当該主張は採用できない。 オ 申立理由2についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえないので、申立理由2によって取り消すことはできない。 (3) 申立理由3(明確性要件)について ア 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記1(2)のとおりの記載がある。 ウ 明確性要件についての判断 本件特許発明1は、「樹脂」と「イオン性官能基を有する繊維」と「多価イオン」、を含む「樹脂複合体」であって、特定条件下での引張強度が「5MPa以上」であると特定されるものであり、その発明そのものは明確である。 また、本件特許発明2ないし13についても、それぞれ、繊維の繊維幅、イオン性官能基の種類、多価イオンの種類、樹脂の種類、樹脂複合体の特性を具体的に特定するものであって、いずれも発明として明確である。 エ 異議申立人の主張について 異議申立人は申立理由3として、要するに、「樹脂」あるいは「親水性樹脂」が特定されておらず、その範囲が不明であること、「樹脂複合体をイオン交換水に24時間浸漬した後の引張強度が、5MPa以上である」との発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できないことをあげ、本件特許の請求項1ないし13に係る発明は明確でない旨主張する。 しかしながら、そもそも、明確性要件は上記アの見地から判断されるものであって、特定条件下での引張強度が「5MPa以上」であることの技術的意味が明らかであるかどうかは関係がない。 よって、異議申立人の当該主張は採用できない。 オ 申立理由3についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえないので、申立理由3によって取り消すことはできない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700701

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