特許異議申立
2023-701044
熱伝導シート
- 審判番号
- 2023-701044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-132566
- 登録番号
- 7278998
- 請求日
- 2023年09月29日
- 審決日
- 2025年03月21日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【権利者代理人】千々松 宏
- 【異議申立人】柏木 里実
- 【異議申立人】永田 裕之
- 【異議申立人】白井 雅恵
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 柴田 昌弘
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-ZDA(C08J) / P1651.121-ZDA(C08J) / P1651.536-ZDA(C08J) / P1651.537-ZDA(C08J) / P1651.4 -ZDA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条1項特許法36条4項特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第39条第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7278998号発明「熱伝導シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7278998号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7278998号の請求項1~3、5~11、13及び14に係る特許を取り消す。
特許第7278998号の請求項4、12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7278998号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成29年7月24日に出願された特願2017-142796号の一部を令和2年8月4日に新たな特許出願としたものであって、令和5年5月12日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月29日に特許異議申立人 柏木 里実(以下「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年11月15日に特許異議申立人 永田 裕之(以下「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1、2、4及び14)がされ、同年同月21日に特許異議申立人 白井 雅恵(以下「特許異議申立人C」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和6年2月19日付けで取消理由が通知され、同年4月19日に特許権者 積水化学工業株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年6月24日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月18日に特許異議申立人Aから意見書が提出され、同年同月23日に特許異議申立人Cから意見書が提出され、特許異議申立人Bから何ら応答がなく、同年10月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、それに対して、特許権者から何ら応答がなかったものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年4月19日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
・訂正事項
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「樹脂」とあるのを「液状シリコーン樹脂」に訂正する。
併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~14も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に記載の「樹脂」を「液状シリコーン樹脂」に特定して限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2~14についての訂正について
訂正事項による請求項2~14についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項2~14についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項による請求項1~14についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項1~14についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1~14は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項による請求項1~14についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~14に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/m・K以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であり、さらに液状シリコーン樹脂を含有することを特徴とする、熱伝導シート。
【請求項2】
前記熱伝導性フィラーが非球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上である、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記樹脂の25℃における粘度が10~2000Pa・sである、請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180~700質量部である、請求項2又は5に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーの体積割合が、35~75体積%である、請求項2、5、又は6のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記熱伝導性フィラーが球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
前記樹脂の粘度が10Pa・s以下である、請求項8に記載の熱伝導シート。
【請求項10】
前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000~3000質量部である、請求項8又は9に記載の熱伝導シート。
【請求項11】
前記熱伝導性フィラーの体積割合が、65~95体積%である、請求項8~10のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項12】
少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい、請求項1~11のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項13】
前記熱伝導性フィラーの熱伝導率が12W/m・K以上である、請求項1~12のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項14】
前記樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、請求項1~13のいずれかに記載の熱伝導シート。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 令和5年9月29日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A-1(甲第A1-1及びA1-2号証に基づく同日出願)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許と同日出願である下記の甲第A1-1及びA1-2号証に係る出願の請求項1~14に係る発明と同一と認められ、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A-2(甲第A2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)証拠方法
甲第A1-1号証:特許第6746540号公報
甲第A1-2号証:管理番号第1385144号の特許決定公報
甲第A2号証:特開2014-209537号公報
甲第A3号証:特開2010-132856号公報
甲第A4号証:特開2011-162642号公報
甲第A5号証:特開2017-126614号公報
甲第A6号証:国際公開第2013/099089号
甲第A7号証:国際公開第2016/103424号
甲第A8号証:特開2015-92534号公報
甲第A9号証:特開2015-187263号公報
甲第A10号証:国際公開第2016/093110号
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。
2 令和5年11月15日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B-1(甲第B1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1、2、4及び14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4及び14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B-2(サポート要件)
本件特許の請求項1、2、4及び14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明の課題は、「熱伝導性、柔軟性、及び取り扱い性に優れる熱伝導シートを提供する」ことであるが、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、種類や性状が問われない請求項1、2、4及び14に含まれる樹脂の全てが、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲にあるとはいえない。
(3)証拠方法
甲第B1号証:特開2017-126614号公報
甲第B2号証:特開2012-158695号公報
甲第B3号証:竹本喜一、化学教科書シリーズ 高分子材料化学、平成11年4月30日、第80頁
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。
3 令和5年11月21日に特許異議申立人Cが提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書C」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由C-1(甲第C1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、公然知られ又は公然実施された発明若しくは頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第C1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第1ないし3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1~14に係る発明は、公然知られ又は公然実施された発明若しくは甲第C1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由C-2(甲第C3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第C3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由C-3(甲第C4号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第C4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由C-4(実施可能要件)
本件特許の請求項1~14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1では、熱伝導シートの熱伝導率が7W/m・K以上、30%圧縮強度が1500kPa以下、引張強度が0.08MPa以上であることが規定されているが、熱伝導率、30%圧縮強度、及び引張強度の3つの特性全てが本件特許発明1規定の範囲を充足するような熱伝導シートの構造や組成は、当業者であっても容易には予測できない一方、本件特許明細書に具体的に製造方法が記載された物は実施例1~11に記載された特定の熱伝導シートのみであるため、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、実施例1~11に記載された熱伝導シート以外の上記本件特許発明1規定の範囲を充足する熱伝導シートをどのように作るかは当業者であっても理解できず、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要する。
イ 本件特許発明1における、熱伝導シートの熱伝導率が7W/m・K以上、30%圧縮強度が1500kPa以下、引張強度が0.08MPa以上、との記載は、それぞれ熱伝導性に優れる、柔軟性に優れる、取り扱い性に優れる、との課題に対応しており、各課題を物性として別の表現で記載したに過ぎないため、実質的に達成すべき結果によって物を特定しようとする記載に該当する一方、本件特許明細書に具体的に製造方法が記載された物は実施例1~11に記載された熱伝導シートのみであるため、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、実施例1~11に記載された熱伝導シート以外の上記本件特許発明1に規定の範囲を充足する熱伝導シートは実施することができない。
(5)申立理由C-5(サポート要件)
本件特許の請求項1~14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 熱伝導率、30%圧縮強度、及び引張強度の3つの特性全てが本件特許発明1規定の範囲を充足するような熱伝導シートの構造や組成は、当業者であっても容易には予測できないため、本件特許発明1に係る技術分野は、物の有する機能、特性等と、その物の構造との関係を理解することが困難な技術分野と言える一方、本件特許明細書に具体的に開示された物は実施例1~11に記載された熱伝導シートのみであるため、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、実施例1~11に記載された熱伝導シートを、本件特許発明1に含まれる全ての熱伝導シートまで拡張ないし一般化することはできない。
イ 本件特許発明1における、熱伝導シートの熱伝導率が7W/m・K以上、30%圧縮強度が1500kPa以下、引張強度が0.08MPa以上、との記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載に該当する一方、本件特許明細書に具体的に開示された物は実施例1~11に記載された熱伝導シートのみであるため、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、実施例1~11に記載された熱伝導シートを、本件特許発明1に含まれる全ての熱伝導シートまで拡張ないし一般化することはできない。
(6)申立理由C-6(明確性)
本件特許の請求項1~14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1では、熱伝導シートの熱伝導率が7W/m・K以上、30%圧縮強度が1500kPa以下、引張強度が0.08MPa以上であることが規定されているが、実現が困難な特性のみで熱伝導シートを規定するものであり、所望の熱伝導率、30%圧縮強度、及び引張強度の特性を実現するための手段が本件特許請求項1に何ら規定されていないため、技術的に十分に特定されていない。
イ 本件特許発明1では、熱伝導シートの熱伝導率が7W/m・K以上であることが規定されているが、本件特許明細書には熱伝導率の測定において通常必要となる、比重、比熱、厚み等の条件の記載がなく、熱伝導率の測定方法が不明確である。
(7)証拠方法
甲第C1号証:フジポリ(R)(合議体注:(R)は○の中にR。以下同様。)データシート サーコン(R)GR80Aシリーズ、富士高分子工業株式会社、2015年3月25日
甲第C2号証:放熱・電気絶縁シート SARCON(R)GUIDE、富士高分子工業株式会社、2017年5月20日
甲第C3号証:国際公開第2017/122817号
甲第C4号証:特開2005-64291号公報
甲第C5号証:特開2004-176016号公報
甲第C6号証:特開2017-5166号公報
甲第C7号証:特開2011-162642号公報
甲第C8号証:国際公開第2016/129257号
甲第C9号証:特開2018-52782号公報
甲第C10号証:中川紀壽等、「衝撃荷重を受ける印刷機インクロール皮膜用軟質ゴムの圧縮特性評価」、日本機械学会論文集(A編)、64巻621号(1998-5)、第233~238頁
甲第C11号証:昭和電工株式会社 アルミナ(1)(合議体注:(1)は○の中に1。)カタログ、2007年5月25日
甲第C12号証:李洪玲等、「陽電子消滅によるシリカ混入シリコーンゴム(エラストマー)の自由体積の研究」、日本化学会誌、1995、No.2、第128~135頁
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Cの記載におおむね従った。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和5年9月7日付けで通知された取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。
「結論
特許第7278998号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7278998号の請求項1~3、5~11、13及び14に係る特許を取り消す。
特許第7278998号の請求項4、12に係る特許を維持する。
理 由
・・・(略)・・・
第6 当審の判断
当審は、依然として、取消理由3(甲第C3号証に基づく新規性・進歩性)により、本件特許の請求項1~3、5~11、13及び14に係る特許は取り消すべきものと判断する。
以下、詳述する。
1 甲第C3号証に記載された事項等
(1)甲第C3号証に記載された事項
甲第C3号証には、「熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法、放熱部材及び半導体装置」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高い熱伝導性を有しつつ、絶縁性にも優れる熱伝導シート、及びその製造方法、並びに前記熱伝導シートを用いた放熱部材及び半導体装置を提供することを目的とする。」
・「[0026] 前記炭素繊維のアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)とし
ては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、8以上が好ましく、9~30がより好ましい。前記アスペクト比が、8未満であると、炭素繊維の繊維長(長軸長さ)が短いため、熱伝導率が低下してしまうことがある。
ここで、前記炭素繊維の平均長軸長さ、及び平均短軸長さは、例えばマイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)などにより測定することができる。」
・「[0038] 前記絶縁被覆炭素繊維の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10体積%~40体積%が好ましく、12体積%~38体積%がより好ましく、15体積%~30体積%が特に好ましい。
前記含有量が、10体積%未満であると、十分に低い熱抵抗を得ることが困難になることがあり、40体積%を超えると、前記熱伝導シートの成型性及び前記絶縁被覆炭素繊維の配向性に影響を与えてしまうことがある。」
・「[0045] 前記熱伝導性フィラーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25体積%~65体積%が好ましく、30体積%~60体積%がより好ましく、35体積%~55体積%が特に好ましい。前記含有量が、25体積%未満であると、前記熱伝導シートの熱抵抗が大きくなることがあり、60体積%を超えると、前記熱伝導シートの柔軟性が低下することがある。」
・「[0114](実施例1)
以下の配合で混合し、シリコーン樹脂組成物(熱伝導性樹脂組成物)を調製した。
-配合-
--配合物1(合計100体積%)--
・製造例1の絶縁被覆炭素繊維 22.34体積%
・アルミナ 20.66体積%
(商品名:DAW03、平均粒子径4μm、デンカ(株))
・窒化アルミ 23.84体積%
(商品名:H1、平均粒子径1μm、(株)トクヤマ)
・シリコーン樹脂 33.15体積%
[0115] なお、シリコーン樹脂は、以下のとおりである。
--シリコーン樹脂--
・シリコーン樹脂A 57質量%
(商品名:527(A)、東レ・ダウコーニング(株))
・シリコーン樹脂B 43質量%
(商品名:527(B)、東レ・ダウコーニング(株))
[0116] 得られたシリコーン樹脂組成物を、内壁に剥離処理したPETフィルムを貼った直方体状の金型(42mm×42mm)の中に押し出してシリコーン成型体を成型した。得られたシリコーン成型体をオーブンにて100℃で6時間硬化してシリコーン硬化物とした。
[0117] 得られたシリコーン硬化物を、オーブンにて100℃、1時間加熱した後、超音波カッターで切断し、厚み2.05mmの成型体シートを得た。超音波カッターのスライス速度は、毎秒50mmとした。また、超音波カッターに付与する超音波振動は、発振周波数を20.5kHzとし、振幅を60μmとした。
[0118] 得られた成型体シートを剥離処理をしたPETフィルムで挟んだ後、厚み1.98mmのスペーサを入れてプレスすることにより、厚み2.00mmの熱伝導シートサンプルを得た。プレス条件は、50℃、0.5MPa設定で、3minとした。スライス直後の表面に見えるフィラーはバインダで被覆されていないが、プレスによってフィラーがシートに押し付けられ、シート内に没入することでバインダ成分が表面に出てくるのでシート表面のフィラー形状を反映してバインダで被覆されている。プレス後にシートと接触していた剥離PET面にはバインダ成分が確認できる。
[0119]<評価>
以下の評価を行った。結果を表4-1に示した。
[0120]<<熱特性(有効熱伝導率、熱抵抗、圧縮率)>>
熱特性の測定は、ASTM-D5470に準拠した熱抵抗測定装置(デクセリアルズ(株)製)を用いて行った。
なお、有効熱伝導率は、厚み方向の熱伝導率である。
また、各特性は、荷重0.5kgf/cm2をかけて測定した。」
・「[0128]
[表4-1]
[図:0001427906000001.jpg]
」
(2)甲第C3号証に記載された発明
甲第C3号証に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲第C3号証には次の発明(以下「甲C3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲C3発明>
「下記実施例1の熱伝導シートであり、熱特性の測定は、ASTM-D5470に準拠した熱抵抗測定装置(デクセリアルズ(株)製)を用いて荷重0.5kgf/cm2をかけて行った、熱伝導シート。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲C3発明を対比する。
甲C3発明は、「炭素繊維」、「アルミナ」及び「窒化アルミ」を含有するから、本件特許発明1における「熱伝導性フィラーを含有する」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シート。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点C3-1>
本件特許発明1は、「熱伝導率が7W/m・K以上」とあるのに対して、甲C3発明は、有効熱伝導率が9.81W/m・Kであるものの測定方法が異なる点。
<相違点C3-2>
本件特許発明1は、「30%圧縮強度が1500kPa以下」とあるのに対して、甲C3発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点C3-3>
本件特許発明1は、「引張強度が0.08MPa以上」とあるのに対して、甲C3発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点C3-4>
本件特許発明1は、「液状シリコーン樹脂を含有する」とあるのに対して、甲C3発明は、そのようには特定されていない点。
(2)判断
ア 相違点C3-1について
甲C3発明の有効熱伝導率がASTM-D5470に準拠して測定された時に9.81W/m・Kであれば、本件特許発明と同様に、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置にて測定した場合には、7W/m・K以上となることは自明である。
したがって、相違点C3-1は実質的な相違点ではない。
イ 相違点C3-2について
甲C3発明において、荷重0.5kgf/cm2において圧縮率が27.61%(ASTM-D5470)であれば、本件特許明細書の【0051】の測定条件において測定した場合に「30%圧縮強度が1500kPa以下」となることは自明である。
したがって、相違点C3-2は実質的な相違点ではない。
ウ 相違点C3-3について
高い熱伝導性を有する熱伝導シートにおいて、一般的に引張強度は0.08Ma以上であるから(必要であれば、甲第C7号証の【0007】及び【0075】、甲第C8号証の[0007]及び[表1]を参照。)、甲C3発明は、相違点C3-3に係る本件特許発明1における「引張強度が0.08MPa以上」との特定事項を満たす蓋然性が高い。
したがって、相違点C3-3は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、甲C3発明において、甲第C7及びC8号証に基づき、相違点C3-3に係る本件特許発明1における上記特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
エ 相違点C3-4について
甲C3発明における熱伝導シートは、[0115]に記載されているとおり、シリコーン樹脂A(商品名:527(A)、東レ・ダウコーニング(株))57質量%及びシリコーン樹脂B(商品名:527(B)、東レ・ダウコーニング(株))43質量%を混合したシリコーン樹脂を含有するものであり、当該シリコーン樹脂は2液性の付加反応型シリーン樹脂であるから、甲C3発明の熱伝導シートが、少なくとも未反応の原料である液状シリコーンを含有していることは自明である。
したがって、相違点C3-4は実質的な相違点ではない。
(3)特許権者の主張について
特許権者は、意見書において、甲C3発明の「熱伝導シート」は、液状シリコーンの主剤と硬化剤とからなる2液性の付加反応型シリコーン樹脂を配合したシリコーン樹脂を硬化させたシリコーン硬化物を有する熱伝導シートであって、液状シリコーン樹脂を含有するものではないと主張している。
しかしながら、液状シリコーン樹脂の主剤と硬化剤とを混合して硬化物とする場合、原料の液状シリコーン樹脂の大部分は硬化剤と反応して硬化物になるものの、その全てが完全に硬化反応するわけではなく、原料の液状シリコーン樹脂の少なくとも一部は反応せずにそのまま残存することは技術常識である。そうすると、甲C3発明の「シリコーン樹脂」中には、末反応の液状シリコーン樹脂が含まれることとなるから、上述したように、甲C3発明の熱伝導シートは「液状シリコーン樹脂」を含有する蓋然性が高い。
したがって、特許権者の上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲C3発明であるか、甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件特許発明2、3、8、9及び14について
甲第C3号証の[0026]、[0041]、[0114]及び[0115]より、本件特許発明2、8、9及び14においてさらに特定された事項は、甲C3発明も有しているし、本件特許発明3においてさらに特定された事項は、甲C3発明も有している蓋然性が高い。
したがって、本件特許発明2、3、8、9及び14は甲C3発明であるか、甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 本件特許発明5について
甲C3発明において、「シリコーン樹脂」の粘度をどの程度にするかは、当業者が適宜行う設計的事項にすぎない。
したがって、本件特許発明5は甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 本件特許発明6、7及び11について
本件特許発明6、7及び11においてさらに特定された事項は、甲C3発明も有している。
したがって、本件特許発明6、7及び11は甲C3発明であるか、甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 本件特許発明10について
甲C3発明において、「シリコーン樹脂」に対してどの程度の「炭素繊維」、「アルミナ」及び「窒化アルミ」を含有するかは、当業者が適宜行う設計的事項にすぎない。
したがって、本件特許発明10は甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7 本件特許発明13について
甲C3発明の「有効熱伝導率」は、9.81W/m・Kであるから、「炭素繊維」、「アルミナ」及び「窒化アルミ」の熱伝導率は、本件特許発明13においてさらに特定された事項を満たす蓋然性が高い。
したがって、本件特許発明13は甲C3発明であるか、甲C3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
8 むすび
したがって、本件特許発明1~3、6~9、11、13及び14は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~3、5~11、13及び14は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3、5~11、13及び14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。」
第6 当審の判断
1 取消理由(決定の予告)について
上記取消理由(決定の予告)に対して、特許権者は何ら応答せず、再度検討しても、当該取消理由(決定の予告)は妥当なものと認められるので、本件特許の請求項1~3、6~9、11、13及び14に係る特許は、この取消理由(決定の予告)によって取り消すべきものである。
2 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A、B及びCに記載した申立理由について
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A、B及びCに記載した申立理由は、以下のとおりである。
(1)申立理由A-1(甲第A1-1及びA1-2号証に基づく同日出願)
(2)申立理由A-2(甲第A2号証に基づく進歩性)
(3)申立理由B-1(甲第B1号証に基づく進歩性)
(4)申立理由B-2(サポート要件)
(5)申立理由C-1(甲第C1号証に基づく新規性・進歩性)
(6)申立理由C-2(甲第C3号証に基づく進歩性)のうち請求項4、12についての理由
(7)申立理由C-3(甲第C4号証に基づく進歩性)
(8)申立理由C-4(実施可能要件)
(9)申立理由C-5(サポート要件)
(10)申立理由C-6(明確性)
これらのうち、本件特許の請求項4、12に係る特許に対して取消理由(決定の予告)に採用しなかった理由について、以下、順に検討する。
(1)申立理由A-1(甲第A1-1及びA1-2号証に基づく同日出願)について
ア 本件の特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
イ 甲第A1-1号証における特許請求の範囲の記載
甲第A1-1号証の特許請求の範囲は、甲A1-2号証の「第3 当審の判断 1.本件発明」(第3頁)に記載されているとおり、令和3年8月5日に提出された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された次のものである。
「【請求項1】
熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7.5W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、
引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。
【請求項2】
前記熱伝導性フィラーが非球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上である、請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している、請求項2又は3に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記樹脂の25℃における粘度が10~2000Pa・sである、請求項2~4のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180~700質量部である、請求項2~5のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーの体積割合が、35~75体積%である、請求項2~6のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記熱伝導性フィラーが球状フィラーである、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
前記樹脂の粘度が10Pa・s以下である、請求項8に記載の熱伝導シート。
【請求項10】
前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000~3000質量部である、請求項8又は9に記載の熱伝導シート。
【請求項11】
前記熱伝導性フィラーの体積割合が、65~95体積%である、請求項8~10のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項12】
少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい、請求項1~11のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項13】
前記熱伝導性フィラーの熱伝導率が12W/m・k以上である、請求項1~12のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項14】
前記樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、請求項1~13のいずれかに記載の熱伝導シート。」
ウ 判断
甲第A1-1号証に係る出願の特許請求の範囲の記載は、上記イのとおりであるから、本件特許発明4、12は甲第A1-1号証に係る出願の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明のいずれとも同一ではない。
エ 申立理由A-1についてのまとめ
上記ウのとおりであるから、申立理由A-1の理由では、本件特許発明4、12に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由A-2(甲第A2号証に基づく進歩性)について
ア 甲第A2号証に記載された発明
甲第A2号証の、特に請求項1、2及び4に関する記載を整理すると、甲第A2号証には次の発明(以下、「甲A2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A2発明>
「100℃におけるムーニー粘度が15~100ML(1+4)であるエラストマー(I)を50~70質量%、23℃における粘度が5~1000Pa・sであるエラストマー(II)を30~50質量%含有するエラストマー樹脂部分に熱伝導体を含有する発泡体シートであって、該エラストマー樹脂100質量部に対する該熱伝導体の含有量が100~300質量部であり、該発泡体シートの25%圧縮強度が200kPa以下であり、厚さが0.3mm以下であり、前記発泡体シートの50%圧縮強度が200kPa以下であり、前記発泡体シートの熱伝導率が0.1~10W/m・kである、電子機器用伝導性発泡体シート。」
イ 対比・判断
本件特許発明4、12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4、12と甲A2発明との対比判断の前に本件特許発明1と甲A2発明とを対比判断する。
(ア)本件特許発明1について
a 対比
甲A2発明の「熱伝導体」は、本件特許発明1における「熱伝導性フィラー」に相当し、甲A2発明の「エラストマー樹脂」は、本件特許発明1における「液状シリコーン樹脂」と「樹脂」という限りにおいて相当し、これらを含有する甲A2発明の「電子機器用伝導性発泡体シート」は、本件特許発明1の「熱伝導シート」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、さらに樹脂を含有する、熱伝導シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A2-1>
本件特許発明1においては、「熱伝導率が7W/m・K以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であ」ることが特定されているのに対し、甲A2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A2-2>
本件特許発明1においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」と特定されているのに対して、甲A2発明においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」であるとは特定されていない点。
b 判断
相違点A2-1について検討する。
甲A2発明において、「引張強度が0.08MPa以上」とすることの動機付けとなる記載は甲第A2号証にはないし、他の証拠にもない。特に、甲A2発明において、熱伝導率及び圧縮強度の数値を維持した状態で、「引張強度が0.08MPa以上」となるように特性を調整することは示唆されていないし、そのようにすることが当業者にとって容易に想到し得るものでもない。
よって、本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c まとめ
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A2発明並びに甲第A2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4と甲A2発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点A2-1がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲A2発明において、相違点A2-1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明4は甲A2発明並びに甲第A2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(ウ)本件特許発明12について
本件特許発明12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明12と甲A2発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点A2-1がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲A2発明において、相違点A2-1に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明12は甲A2発明並びに甲第A2号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立理由A-2についてのまとめ
したがって、本件特許発明4、12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項4、12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A-2によっては取り消すことはできない。
(3)申立理由B-1(甲第B1号証に基づく進歩性)について
ア 甲第B1号証に記載された発明
甲第B1号証に記載された事項を、特に実施例1~5に関して整理すると、甲第B1号証には次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B1発明>
「下記実施例1ないし5のいずれかである熱伝導シート。
[図:0001427906000002.jpg]
」
イ 対比・判断
本件特許発明4、12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4、12と甲B1発明との対比判断の前に、本件特許発明1と甲B1発明とを対比判断する。
(ア)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と、甲B1発明とを対比する。
甲B1発明における「黒鉛粒子(B)」は、本件特許発明1における「熱伝導性フィラー」に相当する。
甲B1発明における「初期熱伝導率(W/mK)」は、14.8、15.6、15.9、15.5、14.7であるから、本件特許発明1における「熱伝導率が7W/m・K以上」との特定事項を満たす。
甲B1発明における「引張強度(MPa)」は、0.39、0.21、0.21、0.17、0.40であるから、本件特許発明1における「引張強度が0.08MPa以上」との特定事項を満たす。
甲B1発明は、「イソブチレン構造を含むエラストマ(A)」及び「脂環族炭化水素樹脂(C)」を含有するから、本件特許発明1における「液状シリコーン樹脂を含有する」と「樹脂を含有する」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/m・K以上であり、引張強度が0.08MPa以上であり、さらに樹脂を含有する、熱伝導シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B1-1>
本件特許発明1は、「30%圧縮強度が1500kPa以下」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-2>
本件特許発明1においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」であるとは特定されていない点。
b 判断
事案に鑑みて、相違点B1-2について検討する。
甲B1発明において、「イソブチレン構造を含むエラストマ(A)」及び「脂環族炭化水素樹脂(C)」に対して、「さらに液状シリコーン樹脂を含有」させることや、又は「脂環族炭化水素樹脂(C)」を「液状シリコーン樹脂」とすることの動機付けとなる記載は甲第B1号証にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B1発明において、相違点B1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c まとめ
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B1発明並びに甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4と甲B1発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点B1-2がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲B1発明において、相違点B1-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明4は甲B1発明並びに甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(ウ)本件特許発明12について
本件特許発明12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明12と甲B1発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点B1-2がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲B1発明において、相違点B1-2に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明12は甲B1発明並びに甲第B1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立理由B-1についてのまとめ
したがって、本件特許発明4、12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項4、12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B-1によっては取り消すことはできない。
(4)申立理由B-2(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
イ 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
ウ サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0004】によると、本件特許発明4、12の解決しようとする課題は「従来の課題に鑑みてなされたものであって、熱伝導性、柔軟性、及び取り扱い性に優れる熱伝導シートを提供すること」である(以下、「発明の課題」という。)。他方、発明の詳細な説明の【0006】には、本件特許発明4、12に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0005】には「本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の熱伝導率、30%圧縮強度、及び引張強度を有する熱伝導シートが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。」と記載され、同【0009】~【0010】には「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートは、一般に、熱伝導性を高めるために、熱伝導性フィラーを多く含有させると、柔軟性が低下する傾向があるが、本発明の熱伝導シートは、高熱伝導率と良好な柔軟性とを両立させた熱伝導シートである。これに加えて、本発明の熱伝導シートは、一定値以上の引張強度を有しており、例えば、被着体から剥がす際に破断し難いなどの取り扱い性も優れている。すなわち、本発明の熱伝導シートは、熱伝導性、柔軟性、取り扱い性の物性バランスに優れる熱伝導シートである。本発明の熱伝導シートは、上記したように各種物性に優れる熱伝導シートである。該良好な物性は、熱伝導シートを構成する熱伝導性フィラー等の個々の構造、組成などを適切に調整することにより達成される。」と記載され、同【0011】には「本発明の熱伝導シートは樹脂を含有することが好ましい。熱伝導シートを構成する樹脂の種類としては、特に制限されないが、柔軟性を良好とする観点から、ゴム、エラストマー樹脂であることが好ましい。ゴム、エラストマー樹脂のガラス転移温度は、室温以下(例えば25℃以下)であることが好ましい。このようなゴム、エラストマー樹脂を用いた熱伝導シートは、柔軟性に優れる。」と記載され、同【0013】には「熱伝導シートの柔軟性を向上させる観点から、樹脂は液状であることが好まし」いことが記載され、同【0014】には「本発明の熱伝導シートを構成する熱伝導性フィラーは熱伝導シート中に分散されている。」と記載され、同【0021】には「熱伝導シートの熱伝導率は、シートの放熱性を良好とする観点から、好ましくは8W/m・K以上であり、・・・熱伝導シートの30%圧縮強度は、シートの柔軟性を良好とする観点から、好ましくは1000kPa以下、・・・熱伝導シートの引張強度は、シートの取り扱い性を良好とする観点から、好ましくは0.1MPa以上である」ことが記載されている。
さらに、発明の詳細な説明の【0048】~【0062】において、「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上である熱伝導シート」の条件を満足する熱伝導シートは、上記条件を満足しない熱伝導シートと比べて、成形性、引っ張り強度に起因する取り扱い性、熱伝導率及び圧縮強度に起因する柔軟性の点で優れていることを確認している。
そうすると、当業者は、「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上である熱伝導シート」は、本件発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明4、12は本件発明の課題を解決できると認識できる上記「熱伝導シート」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明4、12は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明4、12に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
エ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの申立理由B-2における主張について検討するに、次のとおり採用できない。
発明の詳細な説明の【0048】~【0062】に記載された実施例のうち、本件特許発明4、12に対応する実施例である実施例7は、比較例1~4より作用効果を奏することが示されており、同【0011】~【0013】には、好ましい樹脂について記載されており、本件特許の明細書全体の記載を参酌すれば、実施例以外の樹脂を用いた熱伝導シートであっても、実施例と同様に発明の課題を解決できると認識できるものといえる。
また、異議申立人Bは、本件特許発明の範囲内で課題が解決できないとする具体的な証拠を示すものでもない。
したがって、本件特許の明細書全体の記載を参酌すれば、本件特許発明4、12に含まれる実施例以外の熱伝導シートであっても、実施例と同様に発明の課題を解決できると認識できるものであるといえるから、特許異議申立人Bの主張は採用できない。
オ 申立理由B-2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項4、12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B-2によっては取り消すことはできない。
(5)申立理由C-1(甲第C1号証に基づく新規性・進歩性)
ア 甲第C1号証に記載された発明
甲第C1号証に記載された事項を、特に「サーコン(R)GR80A」(当審注:「(R)」はRを丸で囲んだ記号のことである。以下、同様。)に関して整理すると、甲第C1号証には次の発明(以下「甲C1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲C1発明>
「熱伝導率が13.0W/m・K(ASTM D5470)であり、圧縮荷重特性が、ASTM D575-91に準拠した測定方法において圧縮率30%、2.0mmTにおいて379N/6.4cm2(592kPa)であり、JIS K6251(2号)に準拠した試験方法において引張強さが0.3MPaであり、熱伝導性を有するシリコーンゲル・シート。」
イ 対比・判断
本件特許発明4、12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4、12と甲C1発明との対比判断の前に、本件特許発明1と甲C1発明とを対比判断する。
(ア)本件特許発明1について
a 甲C1発明の公知・公然実施について
甲第C1、C2号証には、サーコン(R)GR80Aが市販されていることが記載されており、甲第C1号証は2015年3月25日に、甲第C2号証は2017年5月20日に、それぞれ公開されている。
したがって、甲C1発明は、本件特許の出願日である2017年7月24日より前に製品として出回っており、本件特許の出願前に公然に知られ、公然に実施されていたものである。
b 対比
本件特許発明1と甲C1発明を対比する。
甲C1発明は、「シリコーンゲル・シート」であるから、本件特許発明1における「液状シリコーン樹脂を含有する」と「シリコーン樹脂を含有する」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導シートであって、さらにシリコーン樹脂を含有する、熱伝導シート。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点C1-1>
本件特許発明1は、「熱伝導性フィラーを含有する」とあるのに対して、甲C1発明は、そのようには特定されていない点。
<相違点C1-2>
本件特許発明1においては、「熱伝導率が7W/m・K以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であ」ることが特定されているのに対し、甲C1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点C1-3>
本件特許発明1においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」と特定されているのに対して、甲C1発明においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」であるとは特定されていない点。
c 判断
事案に鑑みて、相違点C1-2について検討する。
本件特許発明1と甲C1発明では、各パラメータの測定方法が異なり、特に、甲C1発明の測定に用いるサンプルの寸法が本件発明1の測定に用いるサンプルの寸法と同じといえる根拠がなく、さらに測定条件も同じとはいえないから、甲C1発明におけるシートが、本件特許発明1と同等の物性を有するとまではいえないし、また、本件特許発明1に記載された範囲内の物性とすることの動機付けとなる記載は甲第C1号証及び他の証拠にもない。
したがって、甲C1発明において、相違点C1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
d まとめ
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲C1発明並びに甲第C1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4と甲C1発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点C1-2がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲C1発明において、相違点C1-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明4は甲C1発明並びに甲第C1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(ウ)本件特許発明12について
本件特許発明12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明12と甲C1発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点C1-2がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲C1発明において、相違点C1-2に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明12は甲C1発明並びに甲第C1号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立理由C-1についてのまとめ
したがって、本件特許発明4、12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項4、12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由C-1によっては取り消すことはできない。
(6)申立理由C-2(甲第C3号証に基づく進歩性)の請求項4、12について
ア 甲第C3号証に記載された発明
甲第C3号証には、上記第5のとおり、甲C3発明が記載されていると認める。
イ 対比・判断
本件特許発明1と甲C3発明との対比判断の結果は、上記第5で示したとおり、相違点を有さないものである。
(ア)本件特許発明4について
a 対比
本件特許発明4は、本件特許発明1における「熱伝導性フィラー」が「熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している」ことを特定するものである。そして、その他の発明特定事項に関する対比判断については、上記第5で示したとおりである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7.5W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であり、さらに液状シリコーン樹脂を含有する、熱伝導シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点C3-3>
本件特許発明4においては、「熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している」ことが特定されているのに対し、甲C3発明においては、そのようには特定されていない点。
b 判断
相違点C3-3について検討する。
甲C3発明において、「熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向」させることの動機付けとなる記載は甲第C3号証にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲C3発明において、相違点C3-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c まとめ
したがって、本件特許発明4は甲C3発明並びに甲第C3号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明1における「熱伝導シート」が「少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい」ことを特定するものである。そして、その他の発明特定事項に関する対比判断については、上記第5で示したとおりである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導性フィラー及び樹脂を含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7.5W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であり、さらに液状シリコーン樹脂を含有する、熱伝導シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点C3-4>
本件特許発明12においては、「少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい」ことが特定されているのに対し、甲C3発明においては、そのようには特定されていない点。
b 判断
相違点C3-4について検討する。
甲C3発明において、「少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大き」くすることの動機付けとなる記載は甲第C3号証にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲C3発明において、相違点C3-4に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c まとめ
したがって、本件特許発明12は甲C3発明並びに甲第C3号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立理由C-3についてのまとめ
したがって、本件特許発明4、12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項4、12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由C-3によっては取り消すことはできない。
(7)申立理由C-3(甲第C4号証に基づく進歩性)
ア 甲第C4号証に記載された発明
甲第C4号証に記載された事項を、特に実施例3に関して整理すると、甲第C4号証には次の発明(以下「甲C4発明」という。)が記載されていると認める。
<甲C4発明>
「オルガノポリシロキサンの基材に、熱伝導性フィラーとして昭和電工株式会社製アルミナ(酸化アルミニウム(Al2O3))粉「AL30」を用いて、その含有量を変えて加硫剤と共に混合し、絶縁シート状に成型した後に、加熱、加硫させ、表1の実施例3に示された熱伝導性フィラーの含有量、熱伝導性フィラー中の導電性不純物の含有量などの構成条件からなり、表2の実施例3に示された評価結果を有する、絶縁シート。
【表1】
[図:0001427906000003.jpg]
【表2】
[図:0001427906000004.jpg]
」
イ 対比・判断
本件特許発明4、12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4、12と甲C4発明との対比判断の前に、本件特許発明1と甲C4発明とを対比判断する。
(ア)本件特許発明1について
b 対比
本件特許発明1と甲C4発明を対比する。
甲C4発明は、「昭和電工株式会社製アルミナ(酸化アルミニウム(Al2O3))粉「AL30」」、「オルガノポリシロキサンの基材」は、本件特許発明1における「熱伝導性フィラー」、「樹脂」に相当し、これらを混合させた甲C4発明の「絶縁シート」は、本件特許発明1における「熱伝導シート」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱伝導シートであって、さらに樹脂を含有する、熱伝導シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点C4-1>
本件特許発明1においては、「熱伝導率が7W/m・K以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であ」ることが特定されているのに対し、甲C4発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点C4-2>
本件特許発明1においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」と特定されているのに対して、甲C4発明においては、「樹脂」が、「液状シリコーン樹脂」であるとは特定されていない点。
b 判断
相違点C4-1について検討する。
甲C4発明において、「引張強度が0.08MPa以上」とすることの動機付けとなる記載は甲第C4号証にはないし、他の証拠にもない。特に、甲C4発明において、「熱伝導率が7W/m・K以上であり」、「引張強度が0.08MPa以上」であることを維持した状態で、「30%圧縮強度が1500kPa以下」となるように特性を調整することは示唆されていないし、そのようにすることが当業者にとって容易に想到し得るものでもない。
したがって、甲C4発明において、相違点C4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c まとめ
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲C4発明並びに甲第C4号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)本件特許発明4について
本件特許発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明4と甲C4発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点C4-1がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲C4発明において、相違点C4-1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明4は甲C4発明並びに甲第C4号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(ウ)本件特許発明12について
本件特許発明12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、本件特許発明12と甲C4発明を対比すると、両者の間には、少なくとも相違点C4-1がある。
そして、上記(ア)で検討したとおり、甲C4発明において、相違点C4-1に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明12は甲C4発明並びに甲第C4号証及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立理由C-3についてのまとめ
したがって、本件特許発明4、12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項4、12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由C-3によっては取り消すことはできない。
(8)申立理由C-4(実施可能要件)
ア 実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明4、12は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
イ 実施可能要件の判断
本件発明の詳細な説明には、【0009】~【0019】、【0024】~【0035】及び【0042】~【0045】には熱伝導シートの含有材料及び含有量が具体的に記載されており、【0021】~【0023】には課題を解決するための指標である熱伝導率、30%圧縮強度、引張強度などの物性について記載されており、【0051】には物性の評価法が、【0037】~【0041】、【0046】には熱伝導性シートの製造法などが記載されており、発明の詳細な説明の【0048】~【0062】には、上記段落で説明されている材料及び製法を用いて具体的な実施例及び比較例の熱伝導シートを製造することできることが記載されている。
また、上記(4)ウに記載したとおり、実施例及び比較例の実験データ等を参照すると、「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であり、さらに液状シリコーン樹脂を含有する、熱伝導シート」は、熱伝導性、柔軟性、及び取り扱い性に優れる熱伝導シートとして使用することができることが記載されている(【0007】)。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/m・K以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であり、さらに液状シリコーン樹脂を含有する、熱伝導シート」を生産し、使用することができることが示されている。
したがって、本件発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明4、12を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明4、12に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
ウ 特許異議申立人Cの主張について
特許異議申立人Cの申立理由C-4における主張について検討するに、次のとおりいずれも採用できない。
上記イのとおり、本件明細書の記載に接した当業者は「熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/m・K以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であり、さらに液状シリコーン樹脂を含有する、熱伝導シート」を調製することができるといえ、また、特許異議申立人Cは、本件特許発明に実施できない範囲があることを具体的な証拠や理論的な根拠に基づいて証明していない。
したがって、特許異議申立人Cの上記主張は採用できない。
エ 申立理由C-4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項4、12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由C-4によっては取り消すことはできない。
(9)申立理由C-5(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
上記(4)アのとおりである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
ウ サポート要件の判断
上記(4)ウのとおりである。
エ 特許異議申立人Cの主張について
特許異議申立人Cの申立理由C-5における主張について検討するに、次のとおりいずれも採用できない。
上記(4)エでも述べたとおり、発明の詳細な説明の【0048】~【0062】に記載された実施例のうち、本件特許発明4、12の実施例である実施例7は、比較例1~4よりは作用効果を奏することが示されており、同【0011】~【0013】には、好ましい樹脂について記載されており、本件特許の明細書全体の記載を参酌すれば、実施例以外の樹脂を用いた熱伝導シートであっても、実施例と同様に発明の課題を解決できると認識できるものといえる。
また、特許異議申立人Cは、本件特許発明の範囲内で課題が解決できないとする具体的な証拠や理論的な根拠を示していない。
したがって、本件特許の明細書全体の記載を参酌すれば、本件特許発明4、12に含まれる実施例以外の熱伝導シートであっても、実施例と同様に発明の課題を解決できると認識できるものであるといえるから、特許異議申立人Cの上記主張は採用できない。
オ 申立理由C-5についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項4、12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由C-5によっては取り消すことはできない。
(10)申立理由C-6(明確性要件)について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
イ 明確性要件の判断
本件特許の請求項4、12の記載は、上記第3のとおりであり、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
また、発明の詳細な説明の【0048】~【0062】に記載された実施例には、具体的な材料及び製造方法が記載されており、出願時の技術常識を考慮すれば、機能や特性等によって規定された事項が技術的に十分に特定されているといえる。
したがって、本件特許発明4、12に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
ウ 特許異議申立人Cの主張について
特許異議申立人Cの申立理由C-6における主張について検討するに、次のとおり採用できない。
本件特許発明における「熱伝導率」は、一般的に用いられる用語であり、また、発明の詳細な説明の【0051】には熱伝導率の測定に用いる装置も具体的に記載されているから、本件特許の請求項4、7の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
エ 申立理由C-6についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項4、12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由C-6によっては取り消すことはできない。
3 特許異議申立人Aの令和6年7月18日に提出された意見書における主張について
(1)意見書における主張の概要
ア サポート要件違反
「本件訂正発明1は、本件特許公報の段落【0049】の「・液状シリコーン1信越化学工業株式会社製、商品名「KF-96H-10万cs」の記載を根拠にしている。しかし、前記は「液状シリコーン」のすべてを含むものではなく、たった一つの化合物である「信越化学工業株式会社製、商品名「KF-96H-10万cs」に限定されている。それにもかかわらず、本件訂正発明1は「さらに液状シリコーン樹脂を含有する」と訂正されており、これは実施例の記載に比較してあまりにも広すぎる。すなわち、特許法第36条第6項第1号に明らかに違反している。」(上記意見書第2~3頁)。
イ 実施可能要件違反
「本件特許権者は令和6年4月19日付け意見書7頁(b1)において、「シリコーンオイルを含むものが想定されているといえます。」と主張している。しかし、シリコーンオイルがベースポリマーだとすると、硬化されていないので、圧縮強度も引張強度も測れない。すなわち、本件特許権者は同意見書7頁(b1)において、本件明細書の段落【0060】には「信越化学工業株式会社製、商品名「KF-96H-10万cs」であり、…シリコーンオイルの品番です」と主張している。そこで確認すると、添付の参考資料3:信越シリコーン社の「KF-96シリーズ」のカタログには非反応シリコーンオイルであることが記載されている。しかし、甲第A7号証:国際公開第2016-103424の【0036】にはグリースになると記載されている。・・(略)・・以上のとおり、グリースでは本件訂正発明1の「圧縮強度」も「引張強度」も測れないので、本件訂正発明1は特許法第36条第4項第1項に規定する実施可能要件に違反する。」(上記意見書第3及び5ページ)。
(2)上記主張についての判断
上記主張について検討するに、次のとおりいずれも採用できない。
ア 上記(1)アの主張について
サポート要件の判断は、上記2(4)のとおりであり、発明の詳細な説明の【0048】~【0062】には、本件特許発明4、12に対応する実施例7が記載されており、当該実施例が比較例より好ましい作用効果を奏することが示されており、同【0011】~【0013】には好ましい樹脂の種類や粘度などが記載されている。
また、特許異議申立人Aは、本件特許発明の範囲内で課題が解決できないとする具体的な証拠を示すものでもない。
したがって、この点で、サポート要件を満たしていないとはいえず、特許異議申立人Aの上記(1)アの主張は採用できない。
イ 上記(1)イの主張について
本件特許発明1は「熱伝導率が7W/m・K以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であ」る「熱伝導性シート」であるから、当該数値範囲を満たさないものは本件特許発明が対象とするものではないことは明らかである。
したがって、この点で、実施可能要件を満たしていないとはいえず、特許異議申立人Aの上記(1)イの主張は採用できない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1~3、5~11、13及び14に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項4、12に係る特許は、取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立書A、B及びCに記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項4、12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701044