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特許異議申立

2026-700253

ヒートシール紙、ロール、包装袋および包装体

審判番号
2026-700253
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-224783
登録番号
7747157
請求日
2026年03月25日
審決日
2026年05月28日
公報発行日
2026年06月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】王子ホールディングス株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
  • 【異議申立人】鈴木 多香子
審判長/審判官
  • 審判長 岩間 直純
  • 審判官 富澤 哲生
  • 審判官 久慈 渉
分類
P1651.121-Y (B32B)
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7747157号発明「ヒートシール紙、ロール、包装袋および包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7747157号の請求項1~10に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7747157号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和6年12月20日に出願され、同7年9月22日にその特許権の設定登録がされ、同年10月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、特許異議申立人 鈴木多香子(以下「申立人」という。)は、令和8年3月25日に特許異議の申立てを行った。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1~10の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 紙基材の一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙であって、 ヒートシール紙中の紙基材の含有量が50質量%以上であり、 ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下であり、 ヒートシール紙の縦方向の引張強さが1.80kN/m以上であり、 ヒートシール層の、紙基材とは反対側の面の静摩擦係数が0.750以下である、ヒートシール紙。 【請求項2】 ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度が1.20g・cm2/cm以下である、請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項3】 ヒートシール紙の横方向の純曲げ剛度が0.60g・cm2/cm以下である、請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項4】 ヒートシール層がスリップ剤を含有する、請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項5】 ヒートシール層がラミネート層である、請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項6】 坪量が80.0g/m2以下である、請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項7】 ヒートシール層を内側に有する包装袋用である、請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項8】 請求項1に記載のヒートシール紙の、ヒートシール層同士を重ね合わせた両端が縦方向にヒートシールされており、縦方向に巻き取られてなるロール。 【請求項9】 請求項1~7のいずれか1項に記載のヒートシール紙または請求項8に記載のロールを用いた、包装袋。 【請求項10】 請求項9に記載の包装袋に、被収容物を収容してなる包装体。」 第3 申立理由の概要 申立人は、以下の甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出し、申立理由として、甲1を主たる証拠とする進歩性欠如の取消理由(以下「理由1」という。)、及び甲3を主たる証拠とする進歩性欠如の取消理由(以下「理由2」という。)を主張している。 甲1: 特開2021-133981号公報 甲2: 特開2011-51336号公報 甲3: 特開2023-33091号公報 第4 甲号証の記載、甲号証に記載された発明 1 甲1 (1)甲1には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。 「【0014】 1.紙製品用包装体 図1は、本発明の紙製品用包装体(以下、単に「包装体」とも言う。)及び紙製品の一例を示す斜視図である。図1に示すように、本発明の包装体1は、包装基材10で、紙製品11の全体が覆われている。なお、包装体1において、包装基材10は紙製品11の全体ではなく一部を覆っていてもよく、紙製品11は密封されていなくてもよい(図示しない)。 また、包装体1は紙製品11を取り出す取り出し口を備えることが好ましい(図示しない)。この取り出し口は、包装基材10にミシン目等の切り取り線を形成し、使用時において、当該切り取り線を切り取って開口可能にするように設けることが好ましい。 【0015】 図1に示すように、包装体1においては、シール部12により紙製品11が密封されていることが好ましい。シール部12は、紙製品11を密封するように備えられていればよいが、図1に示すように、包装基材10が重なり合った両端部にそれぞれ略直線で、かつ、略平行になるように備えられていることが好ましい。シール部12は、後述するシール層によって紙製品11を密封するように設けられている。また、図1に示す両端部のシール部12の他に、シール部12のそれぞれの略中央部を結び、かつ、シール部12のいずれとも直交するようにシール部がさらに形成されていてもよい(図示しない)。このとき、直交するシール部は、上述した取り出し口が備えられた面の反対側の面に形成されることが好ましい。」 「【0017】 2.包装基材 包装基材10は、少なくとも紙基材とシール層とを含んでいる。紙基材には、包装体1として形成された際、外面側に印刷が施されていてもよい。また、紙基材は、防水性の確保のために、オーバーコートが施されたオーバーコート紙であってもよい。 【0018】 包装基材10の坪量(例えば、紙基材とシール層との合計坪量)は、35g/m2以上105g/m2以下であり、40g/m2以上85g/m2以下であることが好ましく、50g/m2以上75g/m2以下であることがより好ましい。坪量が35g/m2未満であると、包装基材10で包装するとき、包装基材10の強度が低すぎて破れやすくなり、紙製品11を包装し難い。坪量が105g/m2を超えると、包装基材10で包装するとき、包装基材10の強度が高すぎて適切な形状に曲がりにくく、紙製品11を包装し難い。包装基材10の坪量が上記範囲内にあることで、紙製品11を包装し易くなる。」 「【0028】 包装基材10の坪量(例えば、紙基材とシール層との合計坪量)に対する紙基材の坪量の割合は、51%以上100%以下であればよいが、通常、60%以上95%以下であることがより好ましく、70%以上90%以下であることが更に好ましい。上記範囲内とすることで、包装基材10の強度等が適正になって包装体1が紙製品11を包装し易くなり、また、包装体1が全体としてコンパクト性を有することができる。さらに、良好なヒートシール性又は接着性も確保できる。 【0029】 (2)シール層 本発明の包装体1において、包装基材10は、紙基材の他にシール層を含むが、シール層はヒートシール層及び/又は接着剤層であることが好ましい。本発明の包装基材10は、例えば、紙基材/ヒートシール層、紙基材/接着剤層、紙基材/ヒートシール層/接着剤層、紙基材/接着剤層/ヒートシール層等のような層構成を取ることができる。また、後述するキャラメル包装の場合は、ヒートシール層同士や接着剤層同士が接しない場合があるため、包装体1を包装する際に、糊やホットメルト接着剤で接着させることができる。この場合は、糊やホットメルト接着剤がシール層に該当し、ヒートシール層及び/又は接着剤層を更に形成しなくてもよい。」 「【0042】 (4)包装基材全体の物性 後述するように、本発明に係る包装体1の包装形式は種々あり、製造ライン方向(搬送方向;MD方向)から紙製品11を包むように包装する場合と、製造ライン方向と直交する幅方向(CD方向)から紙製品11を包むように包装する場合とがある。MD方向から紙製品11を包む場合、包装基材10のMD方向の引張強度は、2.0kN/m以上8.0kN/m以下であることが好ましく、2.5kN/m以上6.5kN/m以下であることがより好ましく、3.3kN/m以上5.5kN/m以下であることが更に好ましい。CD方向から紙製品11を包む場合、包装基材10のCD方向の引張強度は、0.7kN/m以上4.0kN/m以下であることが好ましく、0.9kN/m以上3.0kN/m以下であることがより好ましく、1.1kN/m以上2.0kN/m以下であることが更に好ましい。上記の範囲内にすることで、包装基材10の強度等が適正になって包装体1が紙製品11を包装し易くなり、また、包装体1が全体としてコンパクト性を有することができる。包装基材10の引張強度は、JIS P 8113に準拠して測定することができる。」 「【0076】 (実施例1) (包装基材) パルプ原料として針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)100重量%を用いた紙基材を用意した。そして、紙基材上に、ヒートシール層として、ポリエチレン層を押出法によって製膜し、包装基材を作製した。作製した包装基材の坪量、紙基材の坪量、及びヒートシール層の坪量と、包装基材の厚さ、密度、MD方向及びCD方向の引張強度、MD方向及びCD方向の破断伸び、破裂強度、MD方向及びCD方向の曲げこわさ、並びにMD方向及びCD方向の引裂強度、を測定した結果を表1に示す。」 「【0080】 (実施例2)~(実施例12)、(比較例1)~(比較例4) 実施例2~12及び比較例1~4も実施例1と同様にして、表1に示す物性を有する包装基材を作製し、これを用い、実施例1と同様にして、ティッシュペーパー包装体(ガゼット包装)を作製して、包装体の包装性及び包装体のコンパクト性とティッシュペーパーの触感を評価した。ただし、実施例10においては、紙基材上にヒートシール層としてポリエチレン層を設ける代わりに、スチレン-アクリル系接着剤層(接着剤塗布量:10.8g/m2)を設けた。 【0081】 【表1】 [図:0001436235000001.jpg] 【0082】 表1に示される結果から明らかなとおり、実施例1~12の包装体はいずれも包装性が良く、包装体のコンパクト性とティッシュペーパーの触感にも優れるものであった。」 (2)上記(1)の記載について、次のことがいえる。 ア 包装体1における包装基材10は、紙製品11の全体を覆うものである。(【0014】) イ 包装基材10は、紙基材とシール層とを含み、シール層は、ヒートシール層であり得る。(【0017】、【0029】) ウ 「実施例2」の包装体における包装基材は、紙基材として、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)100重量%を用い、ヒートシール層として、紙基材上にポリエチレン層を押出法によって製膜したものを用いたものであり、紙基材の坪量が30.7g/m2であり、ヒートシール層の坪量が13.1g/m2であり、厚さが53μmであり、引張強度(MD)が2.75kN/mである。(【0076】、【0080】、【表1】) (3)よって、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「包装体における、紙製品の全体を覆う包装基材であって、 紙基材とシール層とを含み、シール層はヒートシール層であり、 紙基材として、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)100重量%を用い、ヒートシール層として、紙基材上にポリエチレン層を押出法によって製膜したものを用いたものであり、 紙基材の坪量が30.7g/m2であり、ヒートシール層の坪量が13.1g/m2であり、厚さが53μmであり、引張強度(MD)が2.75kN/mである、包装基材。」 (4)また、上記(1)の記載中、特に段落【0042】に着目すると、甲1には、次の技術事項(以下「甲1技術事項」という。)も記載されていると認められる。 「MD方向から紙製品11を包む場合、包装基材10のMD方向の引張強度は、2.0kN/m以上8.0kN/m以下であることが、包装基材10の強度等が適正になって包装体1が紙製品11を包装し易くなり、また、包装体1が全体としてコンパクト性を有することができることから、好ましいこと。」 2 甲2 (1)甲2には、以下の記載がある。 「【請求項1】 坪量が5~50g/m2である紙を主体とする基材層と、メルトフローレートが1~50g/10分、密度が0.880~0.940g/cm3であるエチレン系樹脂を主体とするシーラント層とからなり、シーラント層は該エチレン系樹脂100重量部に対して脂肪酸アミド0.1~0.35重量部と脂肪酸ビスアミド0.1~0.35重量部とを配合してなることを特徴とする紙包装材用積層体。」 「【0001】 本発明は、紙を主体とする基材層に、シーラント材となるフィルムを使用する分野において、積層後、高温下で保管しても優れたスリップ性能を有する紙包装材用積層体に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来、紙包装材用シーラントフィルムとして、ポリエチレンが用いられており、スリップ性付与のために、高級炭化水素、高級脂肪酸、そのエステル誘導体、アミド誘導体、有機又は無機の微粒子など各種滑剤が用いられている。この技術によりシーラントフィルムに優れたスリップ性を付与できるようになった。しかしながら、気温が高くなる季節には、高温のため、経時でのスリップ性を維持することができず、低下する問題があった。」 「【0017】 本発明の紙包装材用積層体は、紙を主体とする基材層と、エチレン系樹脂を主成分とするシーラント層からなるものである。このシーラント層は、ヒートシール層などと呼ばれることもある。」 「【0034】 〔性能の測定〕 (1)メルトフローレート(MFR): JIS K6922-2(2005)に準拠して、190℃、荷重2.16kgで測定した。 (2)密度: JIS K7112(1999)に準拠して、23℃に保った密度勾配管を用いて測定した。 (3)スリップ性: ラミネート後の貼合フィルム面同士を、傾斜試験機(HEIDON社製)のスレッド(200g)と傾斜板に取り付けた後、傾斜板を傾斜角速度1.7°/秒にて傾斜させた。スレッドが滑り始めた時点で、角度(θ)を読み取り、静摩擦係数(μS)を測定した。 μS=tanθ(θ:滑り始めた時点の角度) スリップ性は、積層体の製造後、45℃の雰囲気下で保管して、7日間及び30日間経過した時点で測定を行ったものである。スリップ性の数値は、0.30以下であれば合格とし、好ましくは0.20以下であれば更に良い。 (4)手切れ性: 積層体を手で引裂いた結果、紙と一緒にシーラント層の樹脂が切れて、手切れ性が良好かつ樹脂伸びが発生しないものを○、手切れ性は良好だがポリエチレンの糸ひきによる樹脂伸びが発生したものを△、紙と樹脂の接着性が悪く、紙だけが切れて樹脂は樹脂伸びが発生して手で切れなかったものを×で示した。」 「【0044】 実施例1~4より明らかなように、本発明の紙を主体とした基材と、エチレン系樹脂に脂肪酸アミドと脂肪酸ビスアミドを所定量配合したシーラント層からなる積層体は、高温下で保管した場合でも、スリップ性、手切れ性のバランスに優れた積層体であることが分かる。」 (2)上記(1)の記載中、特に【0002】を除く部分に着目すると、甲2には、次の技術事項(以下「甲2技術事項1」という。)が記載されていると認められる。 「坪量が5~50g/m2である紙を主体とする基材層と、メルトフローレートが1~50g/10分、密度が0.880~0.940g/cm3であるエチレン系樹脂を主体とするヒートシール層とからなり、ヒートシール層は該エチレン系樹脂100重量部に対して脂肪酸アミド0.1~0.35重量部と脂肪酸ビスアミド0.1~0.35重量部とを配合してなり、 ラミネート後の貼合フィルム面同士を、傾斜試験機(HEIDON社製)のスレッド(200g)と傾斜板に取り付けた後、傾斜板を傾斜角速度1.7°/秒にて傾斜させ、スレッドが滑り始めた時点で読み取られる角度(θ)について、μS=tanθにより静摩擦係数(μS)を測定し、積層体の製造後、45℃の雰囲気下で保管して、7日間及び30日間経過した時点で測定されるスリップ性の数値が0.30以下である、紙包装材用積層体。」 (3)また、上記(1)の記載中、特に【0002】に着目すると、甲2には、次の技術事項(以下「甲2技術事項2」という。)も記載されていると認められる。 「ポリエチレンが用いられ、スリップ性付与のために、高級炭化水素、高級脂肪酸、そのエステル誘導体、アミド誘導体、有機又は無機の微粒子など各種滑剤が用いられる、スリップ性が付与された、紙包装材用シーラントフィルム。」 3 甲3 (1)甲3には、以下の記載がある。 「【0008】 [ガスバリア性積層体] 本実施形態のガスバリア性積層体(以下、単に「ガスバリア性積層体」ともいう)は、紙基材層と、樹脂層とを積層してなるガスバリア性積層体であって、ガスバリア性積層体の全光線透過率が70%以上であり、23℃、50%RHにおける酸素透過度が10mL/(m2・day・atm)以下であり、40℃、90%RHにおける水蒸気透過度が20g/(m2・day)以下であり、樹脂層同士を160℃、0.2MPa、1秒間接着した時のヒートシール剥離強度が2N/15mm以上であり、ガスバリア性積層体中の紙基材の含有量が50質量%以上である。 なお、本実施形態において、ガスバリア性とは、主に酸素および水蒸気に対するバリア性を意味し、他のガスに対してもバリア性を有していてもよい。 また、紙基材層は、紙基材からなり、紙基材層と紙基材とを同義に使用する場合がある。 【0009】 本実施形態のバリア性積層体によれば、特定の紙基材層と樹脂層とを積層すること、すなわち、ガスバリア層を塗工することなく、紙基材上に押出ラミネートまたは貼り合わせ等により樹脂層を設けることで、ドライプロセスにより積層可能であり、環境負荷が低減され、かつ、高いガスバリア性が得られるガスバリア性積層体を提供することができる。なお、「ドライプロセスにより積層可能である」とは、ガスバリア層を塗工により形成せずに、ガスバリア性積層体が得られることを意味するものである。さらに、該ガスバリア性積層体は、ヒートシール性に優れると共に、透明性に優れ、例えば、ガスバリア性積層体を使用して包装材を作製した場合には、内容物の視認が可能という優れた効果を有する。 上記の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。全光線透過率が70%以上であるガスバリア性積層体は、紙基材として、全光線透過率が70%以上である紙基材を用いる必要がある。驚くべきことに、紙基材として全光線透過率が70%以上の紙基材を使用することにより、高いガスバリア性が得られ、さらに、高い透明性が得られた。従来、紙基材が高いガスバリア性を有することは知られていなかったが、全光線透過率が70%以上である特定の紙基材を使用することにより酸素バリア性が付与されることを見出したものである。なお、樹脂層と紙基材層とは、紙基材に樹脂を押出ラミネートまたは貼り合わせするなど、ドライプロセスにより積層可能であり、かつ、紙基材層をバリア性積層体の50質量%以上とすることにより、環境負荷が低減されたガスバリア性積層体が得られたと考えられる。 また、樹脂層を設けることで、より優れたガスバリア性が得られると共に、ヒートシール性が付与され、ガスバリア性積層体を包装材等として使用する場合の加工性にも優れる。 【0010】 本実施形態のガスバリア性積層体は、紙基材層と樹脂層とを積層してなり、紙基材層と樹脂層が直接に接していてもよいが、接着剤層を介して積層されていてもよく、また、樹脂層と接着剤層との間に、無機酸化物蒸着層を有していてもよい。なお、ヒートシール性の観点から、紙基材層と反対面の最上層は、樹脂層である。 また、ガスバリア性積層体の透明性の観点から、金属蒸着層などの不透明層を有しないことが好ましく、特に、アルミニウム蒸着層を有さないことが好ましい。 以下、各層について説明する。」 「【0019】 <樹脂層> 樹脂層としては、単一の樹脂で構成された単層フィルム、複数の樹脂を用いた単層または積層フィルム等が挙げられる。樹脂層は、樹脂を含有する層であり、例えば、他の基材(金属、木材、紙、セラミックス等)に積層された積層樹脂層を含むものではない。なお、本実施形態のガスバリア性積層体は、2層以上の樹脂層を有していてもよい。 樹脂層を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂(特に、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系樹脂(特に、ナイロン)、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂)、生分解性樹脂等が好ましく例示される。これらの中でも、樹脂層を構成する樹脂としては、ガスバリア性およびヒートシール性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリ塩化ビニリデン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましく、ポリオレフィン樹脂であることがさらに好ましい。 また、樹脂層が2種以上の樹脂層からなる積層樹脂層である場合、ヒートシール性の観点から、紙基材層と反対面がポリオレフィン樹脂層であることが好ましく、ポリエチレン樹脂層であることがより好ましい。 【0020】 ポリオレフィン樹脂は、ガスバリア性およびヒートシール性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン-プロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリエチレンおよびポリプロピレンの少なくとも一方であることがさらに好ましい。 なお、ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)でもよく、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)でもよく、中密度ポリエチレン(MDPE)でもよく、高密度ポリエチレン(HDPE)でもよい。 また、樹脂層は、未延伸であってもよく、一軸または二軸延伸されていてもよい。 樹脂層を構成する樹脂がポリプロピレンである場合は、ヒートシール性の観点から、樹脂層の紙基材層が積層されている面とは反対側に、ヒートシール層を設けることが好ましい。ヒートシール層は、公知のヒートシール剤を用いて形成することができる。ヒートシール層としては、ポリエチレン樹脂層が好ましく例示される。」 「【0041】 本実施形態のガスバリア性積層体は、ガスバリア性(酸素バリア性および水蒸気バリア性)およびヒートシール性に優れ、例えば、保香性を必要とする包装用紙(例えば、牛乳用紙パック、ジュース用紙パック、食品包装、医薬品包装等)として好適に用いられる。また、透明性に優れ、包装用紙として使用する場合には、内容物の視認が可能であるとの効果をも有する。」 「【0049】 実施例1 紙基材として、グラシン紙(坪量35g/m2、厚さ35μm、全光線透過率81.6%、王子エフテックス株式会社製、グラファン、離解パルプの変則フリーネス250mL)を使用した。 ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名ノバテックPP FL4、融解ピーク温度Tm:164℃、MFR:5.0g/10分)と、ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン株式会社製、商品名ノバテックLL UF240、融解ピーク温度Tm:123℃、MFR2.1g/10分、密度0.920g/cm3)とを、それぞれ別の押出機に投入し、多層スロットダイからTダイ法にて共押出して積層フィルム化した後、2軸延伸して、ヒートシール層として片面にポリエチレン層を有する二軸延伸ポリプロピレンフィルム(片面ヒートシールOPP、坪量18.2g/m2、ポリプロピレン厚さ18μm、ポリエチレン厚さ2μm、総厚さ20μm)を作製した。 前記片面ヒートシールOPPのOPP面(二軸延伸ポリプロピレンフィルム面)に、ニッポランID-816(東ソー株式会社製)18部およびHARDENER300(東ソー株式会社製)1部を混合した接着剤を4g/m2(厚さ5μm)になるようにグラビアコーターにより塗布した後に、紙基材であるグラシン紙とドライラミネートし、ガスバリア性積層体(グラシン紙/接着剤層/OPP層/ポリエチレン層)を作製した。なお、片面ヒートシールOPPのヒートシール層(ポリエチレン層)と反対側の面(OPP面)がグラシン紙に接するようにドライラミネートした。 【0050】 実施例2 片面ヒートシールOPPの代わりに、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルム(T.U.X.(登録商標) FCD、三井化学東セロ株式会社製、坪量27.6g/m2、厚さ30μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性積層体(グラシン紙/接着剤層/ポリエチレン層)を作製した。」 「【0058】 【表1】 [図:0001436235000002.jpg] 【0059】 表1から分かるように、本実施例のバリア性積層体によれば、ドライプロセスにより積層可能であり、かつ、環境負荷が低減され、さらに、ガスバリア性、ヒートシール性および透明性に優れるガスバリア性積層体が提供される。」 (2)上記(1)の記載について、次のことがいえる。 ア ガスバリア性積層体は、紙基材層と、樹脂層とを積層してなり、樹脂層を設けることでヒートシール性が付与される。(【0008】、【0009】) イ ガスバリア性積層体は、包装用紙として用いられる。(【0041】) ウ 「実施例2」のガスバリア性積層体は、紙基材層と樹脂層とが接着剤層を介して積層されたものである。(【0010】、【0050】) エ 「実施例2」のガスバリア性積層体は、紙基材として坪量が35g/m2、厚さが35μmのグラシン紙が使用され、樹脂層として、坪量が27.6g/m2、厚さが30μmの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムが使用されたものであり、紙基材比率が52.6重量%である。(【0019】、【0020】、【0049】、【0050】、【表1】) オ 「実施例2」のガスバリア性積層体は、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムの面に、塗工量が4g/m2(厚さ5μm)の接着剤層が塗布されたものである。(【0049】、【表1】) (3)よって、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「紙基材層と、樹脂層とを積層してなり、樹脂層を設けることでヒートシール性が付与され、包装用紙として用いられるガスバリア性積層体であって、 紙基材層と樹脂層とが接着剤層を介して積層され、 紙基材として坪量が35g/m2、厚さが35μmのグラシン紙が使用され、樹脂層として、坪量が27.6g/m2、厚さが30μmの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムが使用され、紙基材比率が52.6重量%であり、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムの面に、塗工量が4g/m2(厚さ5μm)の接着剤層が塗布された、 ガスバリア性積層体。」 第5 当審の判断 1 理由1について (1)本件特許発明1 ア 対比 (ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 a 甲1発明の「包装基材」は、「紙基材とシール層とを含」み、「シール層はヒートシール層」であるから、ヒートシール紙を構成しているといえ、本件特許発明1の「紙基材の一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙」に相当する。 b 甲1発明の「包装基材」は、「紙基材の坪量が30.7g/m2であり、ヒートシール層の坪量が13.1g/m2」であるから、「紙基材」の含有量が50質量%以上(約70質量%)といえる。 c 甲1発明の「包装基材」は、「引張強度(MD)が2.75kN/m」であるから、縦方向の引張強さは1.80kN/m以上といえる。 (イ)上記(ア)から、本件特許発明1と甲1発明とは次の点で一致する。 (一致点) 「紙基材の一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙であって、 ヒートシール紙中の紙基材の含有量が50質量%以上であり、 ヒートシール紙の縦方向の引張強さが1.80kN/m以上である、ヒートシール紙。」 (ウ)また、本件特許発明1と甲1発明とは次の点で相違する。 (相違点1) 本件特許発明1は、「ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下」であるのに対して、甲1発明は、「ヒートシール紙」の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均がどの程度かが特定されるものではない点。 (相違点2) 本件特許発明1は「ヒートシール層の、紙基材とは反対側の面の静摩擦係数が0.750以下である」であるのに対して、甲1発明は、「ヒートシール層」の「紙基材」とは反対側の面が存在することは明らかであるものの、その静摩擦係数がどの程度かが特定されるものではない点。 イ 判断 (ア)相違点1について 甲1発明の「包装基材」が、「紙基材として、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)100重量%を用い」たものであること、「ヒートシール層として、紙基材上にポリエチレン層を押出法によって製膜したものを用い」たものであること、「紙基材の坪量が30.7g/m2」であること、「ヒートシール層の坪量が13.1g/m2」であること、及び「厚さが53μm」であることは、いずれも、「包装基材」の縦方向の純曲げ剛度及び横方向の純曲げ剛度がどの程度であるかに影響を及ぼすものと解されるところ、いずれにせよ、甲1発明における両者の相乗平均が「0.80g・cm2/cm以下」との数値範囲を満足するか否かは不明であって、甲1発明が当該数値範囲を満足する蓋然性が高いものと判断すべき根拠は見いだせないから、相違点1は、実質的な相違点といわざるを得ない。 そして、甲1発明には「ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均」をパラメータとすることは記載も示唆もされておらず、本件特許発明1の相違点1に係る構成について、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものと判断すべき根拠も見いだせない。 (イ)相違点2について a 上記第4の2(2)の甲2技術事項1は、「ラミネート後の貼合フィルム面同士を、傾斜試験機(HEIDON社製)のスレッド(200g)と傾斜板に取り付けた後、傾斜板を傾斜角速度1.7°/秒にて傾斜させ、スレッドが滑り始めた時点で読み取られる角度(θ)について、μS=tanθにより静摩擦係数(μS)を測定し、積層体の製造後、45℃の雰囲気下で保管して、7日間及び30日間経過した時点で測定されるスリップ性の数値が0.30以下である」ことを含むことから明らかなように、積層体を比較的高温下に置いた場合でもスリップ性を維持するとの課題を解決することを目的としたものといえる。 しかしながら、甲1発明にそのような課題が存在することについては、甲1には記載されておらず、当該課題が技術常識から自明の課題ともいえないから、甲1発明に甲2技術事項1を適用する動機付けがあるとは認められない。 b 上記第4の2(3)の、「スリップ性付与のために、高級炭化水素・・・など各種滑剤が用いられる」ことを含む甲2技術事項2において、「スリップ性付与」の目的は甲2の記載からは明らかではない。 一方、本件特許明細書における「ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下であり、かつ、ヒートシール層の、紙基材とは反対側の面の静摩擦係数が0.750以下であることにより、包装体とした際、対向するヒートシール層同士がスライドしやすく、開口性に優れるものと考えられる。」(【0010】)との記載は、本件特許発明1の「静摩擦係数が0.750以下」とすることの目的を示すものと解される。 そうすると、仮に、甲2技術事項2が周知技術であり、「スリップ性付与のため」の「高級炭化水素・・・など各種滑剤」を用いて甲1発明の「ヒートシール層」にスリップ性を付与することに動機付けがあるとしても、付与するスリップ性の程度についての「0.750」との静摩擦係数の上限が、単なる設計的事項であるとすることはできない。 c よって、本件特許発明1の相違点2に係る構成は、甲1発明、甲2技術事項1及び甲2技術事項2に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は、純曲げ剛度は主として包装基材を構成する紙基材及びヒートシール層の材質や厚さ(坪量)等の組成に依存して定まるものであるところ、甲1の実施例2の包装基材は、本件特許明細書に記載されている、純曲げ剛度の相乗平均が本件特許発明1の上限値を大幅に下回っている実施例5と極めて近似しており、また、本件特許明細書の表1に示されている実施例1~実施例3及び比較例2のデータは、紙基材の坪量が概ね30g/m2程度の場合には純曲げ剛度の相乗平均が本件特許発明1の上限値を大幅に下回ることを示すものであり、甲1の実施例2の包装基材は紙基材坪量が30.7g/m2であって上記の範囲に属するものであり、純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下であるという要件を満たす蓋然性は極めて高い旨主張している。 しかしながら、申立人は要するに、甲1及び本件特許明細書にそれぞれ記載されている紙基材及びヒートシール層の坪量の数値に着目して、相違点1は実質的な相違点ではないことを主張しているものと解されるところ、本件特許発明1と甲1発明との純曲げ剛度の対比が、紙基材及びヒートシール層の坪量についての検討のみで足りるとすることが妥当な根拠は見いだせないから、相違点1について上記イ(ア)で検討したように、甲1発明における「包装基材」の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均が「0.80g・cm2/cm以下」との数値範囲を満足するか否かは不明といわざるを得ず、その「蓋然性は極めて高い」との主張は採用できるものでない。 (イ)申立人は、甲1と同一の技術分野の技術が記載された甲2には、紙を主体とする基材にヒートシール層を積層した包装材において、ヒートシール層にスリップ剤(脂肪酸アミドおよび脂肪酸ビスアミド)を添加することにより静摩擦係数を0.30以下に低減できることが具体的に示されており、甲2の【0002】には、「従来、紙包装材用シーラントフィルムとして、ポリエチレンが用いられており、スリップ性付与のために、高級炭化水素・・・など各種滑剤が用いられている。この技術によりシーラントフィルムに優れたスリップ性を付与できるようになった」と記載されているから、シール層(ヒートシール層)にスリップ剤を添加して静摩擦係数を低減するという技術は、甲1と同一の技術分野における周知技術であって、当業者が普通に採用する設計事項であるから、甲1の実施例2の包装基材のヒートシール層にスリップ剤を添加して静摩擦係数を0.750以下とすることは、甲2の周知技術を適用することにより当業者が容易に想到できるものである旨主張している。 しかしながら、当該主張は結局、甲1発明並びに甲2技術事項1及び甲2技術事項2に基づいて、相違点2に係る構成が容易に想到し得るとするものであるところ、この点については上記イ(イ)で検討したとおりである。 (ウ)よって、申立人の上記各主張はいずれも採用できない。 エ 小括 以上から、本件特許発明1は、甲1発明、甲2技術事項1及び甲2技術事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2~10 本件特許発明2~10は、本件特許発明1を減縮した発明であり、いずれも、相違点1、2に係る発明特定事項を含むものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)理由1についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立人の主張する理由1によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。 2 理由2について (1)本件特許発明1 ア 対比 (ア)本件特許発明1と甲3発明とを対比する。 a 甲3発明の「ガスバリア性積層体」は、「紙基材層と、樹脂層とを積層してなり、樹脂層を設けることでヒートシール性が付与され」たものであるから、ヒートシール紙を構成しているといえ、甲3発明の「樹脂層」は、本件特許発明1の「ヒートシール層」に相当し、本件特許発明1の「紙基材層と、樹脂層とを積層してなり、樹脂層を設けることでヒートシール性が付与され」た「ガスバリア性積層体」は、本件特許発明1の「紙基材の一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙」に相当する。 b 甲3発明の「ガスバリア性積層体」は、「紙基材比率が52.6重量%」であるから、「紙基材」の含有量が50質量%以上といえる。 (イ)上記(ア)から、本件特許発明1と甲3発明とは次の点で一致する。 (一致点) 「紙基材の一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙であって、 ヒートシール紙中の紙基材の含有量が50質量%以上である、ヒートシール紙。」 (ウ)また、本件特許発明1と甲3発明とは次の点で相違する。 (相違点3) 本件特許発明1は、「ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下」であるのに対して、甲3発明は、「ガスバリア性積層体」の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均がどの程度かが特定されるものではない点。 (相違点4) 本件特許発明1は、「ヒートシール紙の縦方向の引張強さが1.80kN/m以上」であるのに対して、甲3発明は、「ガスバリア性積層体」の縦方向の引張強さがどの程度かが特定されるものではない点。 (相違点5) 本件特許発明1は「ヒートシール層の、紙基材とは反対側の面の静摩擦係数が0.750以下である」であるのに対して、甲3発明は、「ガスバリア性積層体」の「紙基材」とは反対側の面が存在することは明らかであるものの、その静摩擦係数がどの程度かが特定されるものではない点。 イ 判断 (ア)相違点3について 甲3発明の「ガスバリア性積層体」が、「紙基材として坪量が35g/m2、厚さが35μmのグラシン紙が使用され」たものであること、「樹脂層として、坪量が27.6g/m2、厚さが30μmの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムが使用され」たものであること、「直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムの面に、塗工量が4g/m2(厚さ5μm)の接着剤層が塗布された」ものであることは、いずれも、「ガスバリア性積層体」の縦方向の純曲げ剛度及び横方向の純曲げ剛度がどの程度であるかに影響を及ぼすものと解されるところ、いずれにせよ、甲3発明における両者の相乗平均が「0.80g・cm2/cm以下」との数値範囲を満足するか否かは不明であって、甲3発明が当該数値範囲を満足する蓋然性が高いものと判断すべき根拠は見いだせないから、相違点3は、実質的な相違点といわざるを得ない。 そして、甲3発明には「ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均」をパラメータとすることは記載も示唆もされておらず、本件特許発明1の相違点3に係る構成について、甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものと判断すべき根拠も見いだせない。 (イ)相違点4について a 甲3発明の「ガスバリア性積層体」が、「紙基材として坪量が35g/m2、厚さが35μmのグラシン紙が使用され」たものであること、「樹脂層として、坪量が27.6g/m2、厚さが30μmの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムが使用され」たものであること、「直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムの面に、塗工量が4g/m2(厚さ5μm)の接着剤層が塗布された」ものであることは、いずれも、「ガスバリア性積層体」の縦方向の引張強さがどの程度であるかに影響を及ぼすものと解されるところ、いずれにせよ、甲3発明における縦方向の引張強さが「1.80kN/m以上」との数値範囲を満足するか否かは不明であって、甲3発明が当該数値範囲を満足する蓋然性が高いものと判断すべき根拠は見いだせないから、相違点4は、実質的な相違点といわざるを得ない。 b 甲3発明の「ガスバリア性積層体」は、「包装用紙として用いられる」ものであるから、包装のしやすさ等の向上を図る課題があるといえ、当該課題を解決するために、上記第4の1(4)の甲1技術事項を適用して、「MD方向の引張強度」の数値範囲を「2.0kN/m以上8.0kN/m以下」とすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、当該数値は、本件特許発明1の「縦方向の引張強さが1.80kN/m以上」であることに含まれる。したがって、相違点4に係る事項は、甲3発明及び甲1技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものといえる。 (ウ)相違点5について a 上記第4の2(2)の甲2技術事項1は、「ラミネート後の貼合フィルム面同士を、傾斜試験機(HEIDON社製)のスレッド(200g)と傾斜板に取り付けた後、傾斜板を傾斜角速度1.7°/秒にて傾斜させ、スレッドが滑り始めた時点で読み取られる角度(θ)について、μS=tanθにより静摩擦係数(μS)を測定し、積層体の製造後、45℃の雰囲気下で保管して、7日間及び30日間経過した時点で測定されるスリップ性の数値が0.30以下である」ことを含むことから明らかなように、積層体を比較的高温下に置いた場合でもスリップ性を維持するとの課題を解決することを目的としたものといえる。 しかしながら、甲3発明にそのような課題が存在することについては、甲3には記載されておらず、当該課題が技術常識から自明の課題ともいえないから、甲3発明に甲2技術事項1を適用する動機付けがあるとは認められない。 b 上記第4の2(3)の、「スリップ性付与のために、高級炭化水素、高級脂肪酸、そのエステル誘導体、アミド誘導体、有機又は無機の微粒子など各種滑剤が用いられる」ことを含む甲2技術事項2において、「スリップ性付与」の目的は甲2の記載からは明らかではない。 一方、本件特許明細書における「ヒートシール紙の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下であり、かつ、ヒートシール層の、紙基材とは反対側の面の静摩擦係数が0.750以下であることにより、包装体とした際、対向するヒートシール層同士がスライドしやすく、開口性に優れるものと考えられる。」(【0010】)との記載は、本件特許発明1の「静摩擦係数が0.750以下」とすることの目的を示すものと解される。 そうすると、仮に、甲2技術事項2が周知技術であり、「スリップ性付与のため」の「高級炭化水素・・・など各種滑剤」を用いて甲3発明の「ガスバリア性積層体」にスリップ性を付与することに動機付けがあるとしても、付与するスリップ性の程度についての「0.750」との静摩擦係数の上限が、単なる設計的事項であるとすることはできない。 c よって、本件特許発明1の相違点5に係る構成は、甲3発明、甲2技術事項1及び甲2技術事項2に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は、純曲げ剛度は主として積層体を構成する紙基材層及び樹脂層(ヒートシール層)の材質や厚さ等の組成に依存して定まるものであるところ、甲3の実施例2はグラシン紙(坪量35g/m2)を紙基材として使用するものであり、本件特許の実施例(グラシン紙を使用した実施例1~4)と紙基材の種類が共通しており、本件特許明細書の表1の実施例2、実施例3及び比較例2のデータからすれば、グラシン紙を使用した積層体において、紙基材の坪量が概ね65g/m2以下であれば純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下となる蓋然性が高く、甲3の実施例2及び実施例5で使用されているグラシン紙の坪量はいずれも35g/m2であって、上記の範囲を大きく下回るものであることから、「純曲げ剛度の相乗平均が0.80g・cm2/cm以下」を満たす蓋然性は極めて高い旨主張している。 しかしながら、申立人は要するに、甲3及び本件特許明細書にそれぞれ記載されている紙基材の種類並びに紙基材及びヒートシール層の坪量の数値に着目して、相違点3は実質的な相違点ではないことを主張しているものと解されるところ、本件特許発明1と甲3発明との純曲げ剛度の対比が、紙基材の種類並びに紙基材及びヒートシール層の坪量についての検討のみで足りるとすることが妥当な根拠は見いだせないから、相違点3について上記イ(ア)で検討したように、甲3発明における「ガスバリア性積層体」の縦方向の純曲げ剛度と横方向の純曲げ剛度の相乗平均が「0.80g・cm2/cm以下」との数値範囲を満足するか否かは不明といわざるを得ず、その「蓋然性は極めて高い」との主張は採用できるものでない。 (イ)申立人は、甲1と同一の技術分野の技術が記載された甲2には、紙を主体とする基材にシール層(ヒートシール層)を積層した包装材において、シール層にスリップ剤(脂肪酸アミドおよび脂肪酸ビスアミド)を添加することにより静摩擦係数を0.30以下に低減できることが記載されており、これは当該技術分野における周知技術であり、したがって、甲3の実施例2の積層体のヒートシール層(樹脂層)にスリップ剤を添加して静摩擦係数を0.750以下とすることは、甲2の周知技術を適用することにより当業者が容易に想到できるものである旨主張している。 しかしながら、当該主張は結局、甲3発明及び甲2技術事項1に基づいて、相違点5に係る構成が容易に想到し得るとするものであるところ、この点については上記イ(ウ)で検討したとおりである。 (ウ)よって、申立人の上記各主張はいずれも採用できない。 エ 小括 以上から、本件特許発明1は、甲3発明、甲2技術事項1、甲2技術事項2及び甲1技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2~10 本件特許発明2~10は、本件特許発明1を減縮した発明であり、いずれも、相違点3、5に係る発明特定事項を含むものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲3発明、甲2技術事項1、甲2技術事項2及び甲1技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立人の主張する理由2によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2026-700253

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