特許異議申立
2025-700812
延伸ポリオレフィンフィルム
- 審判番号
- 2025-700812
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-099503
- 登録番号
- 7632733
- 請求日
- 2025年08月08日
- 審決日
- 2025年10月17日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】井戸田 能幸
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 古屋野 浩志
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7632733号発明「延伸ポリオレフィンフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7632733号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7632733号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願(特願2024-99503号)は、令和6年6月20日を出願日とする特許出願であって、令和7年2月10日にその特許権の設定登録がされ、同年2月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年8月8日に、本件特許の請求項1~8に係る特許に対し、特許異議申立人 井戸田 能幸(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオレフィン樹脂を含有する延伸ポリオレフィンフィルムであって、
MD方向及びTD方向の少なくとも一軸方向に延伸されており、
TD方向の膜厚分布の変動係数が0.200以下であって、
MD方向の引張強度が30MPa以上であり、且つTD方向の引張強度が50MPa以上であり、
膜厚分布の前記変動係数が、TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である、
延伸ポリオレフィンフィルム。
【請求項2】
MD方向の100℃での熱収縮率が7.0%以下であり、且つTD方向の100℃での熱収縮率が7.0%以下である、請求項1に記載の延伸ポリオレフィンフィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂がポリエチレン樹脂を含有する、請求項1に記載の延伸ポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
MD方向及びTD方向の二軸方向に延伸された二軸延伸フィルムである、請求項1に記載の延伸ポリオレフィンフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の延伸ポリオレフィンフィルムを含む、保護フィルム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の延伸ポリオレフィンフィルムを含む、電子部材向け保護フィルム。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の延伸ポリオレフィンフィルムを含む、離型フィルム。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の延伸ポリオレフィンフィルムを含む、包装フィルム。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和7年8月8日に申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
・申立理由1-1
請求項1~4:甲第1号証
・申立理由1-2
請求項1、3~4:甲第2号証
2 申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
・申立理由2-1
請求項1~8:甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証
・申立理由2-2
請求項1~8:甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証
3 証拠方法
甲第1号証:特開平8-80564号公報
甲第2号証:特開平11-188790号公報
甲第3号証:特開2022-157195号公報
甲第4号証:特開2016-74091号公報
(合議体注:「甲第1号証」を以下、「甲1」と略し、「甲第2号証」~「甲第4号証」についても同様とする。)
第4 合議体の判断
1 甲1を主引用例とする申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)
(1) 甲1に記載された事項
甲1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の事項が記載されている(下線は、引用発明の認定等に活用した箇所を示すために合議体が付したものである。以下同様。)。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、強化用繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる繊維強化複合材料の成形に好適に使用できる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、ゴルフクラブシャフト、釣竿、テニスやバトミントンラケットなどの各種の道具類は、強靱性が求められるために繊維強化プラスチック等の繊維強化複合材料が使用されている。
【0003】この様な道具類の製造は、一般に次のような方法によって行われている。まず、マンドレルと呼ばれる心軸材に、エポキシ樹脂等を含浸させたプリプレグをマンドレルに圧着しながら巻き付けて1次成形体を作成する。次に、1次成形体にテープ状フィルムを所定の引張り張力をかけながら巻き付け、2次成形体を得る。このときのテープ状フィルムの巻き付け張力が完成品の性能に大きく影響する。次いで、2次成形体を加熱炉に入れ所定の温度でエポキシ樹脂等を熱硬化させ3次成形体を得る。そして、3次成形体より心軸材であるマンドレルを抜き取ったのち、テープ状フィルムを巻き戻しながら剥ぎ取るか、または、3次成形体の側面に沿ってグラインダーでフィルムをプリプレグとの境界面まで直線状に研磨した後、フィルムを剥ぎ取る。
【0004】このときに用いられるテープ状フィルムにポリプロピレンフィルムが用いられる。このテープ状フィルムには、縦方向および横方向の引張破断強度がいずれも20kg/mm2以上であることが求められている。
・・・略・・・
【0005】
・・・略・・・。また、インフレーション法により製造されたポリプロピレンフィルムは、幅を10~30mmに裁断する際に、厚みむらが大きいことから広幅の原紙から一定の巻硬さの製品を得ることが困難である。よって、原紙の幅が制限されてしまい効率的な生産が出来ないという問題があった。
【0006】さらに、テープ状フィルムの製造方法として、一般の逐次二軸延伸方法として知られているテンター法を採用することが考えられる。この場合、延伸倍率を上げれば引張破断強度が向上する。しかしながら、この方法において、縦延伸倍率を上げることにより縦方向の引張破断強度を20kg/mm2以上にすることが可能であるが、そうすると、横方向の引張破断強度を満足させるための延伸倍率で延伸したときに破断するという問題が発生した。また、横方向の引張破断強度を満足させるために横方向の延伸倍率を上げるためには、縦方向の延伸倍率を上げられず、そのために縦方向の引張破断強度を満足させることができないという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の課題を解決するため、テンター法で目標とする引張強度、厚み精度を有する二軸延伸ポリプロピレンフィルムを安定して生産することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、本発明者らは、テンター法による二軸延伸について種々検討を加えた結果、縦方向の延伸を二段で行うことによって、縦方向および横方向の延伸倍率を共に高くすることができ、縦方向および横方向の引張強度を共に向上させることができることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0009】即ち、本発明は、メルトフローレートが0.5~5.0の結晶性ポリプロピレンのシートを、テンター法により、まず、140~150℃で縦方向に4.0~5.5倍に第1段の延伸を行い、次いで、第1段の延伸温度よりも高い145~155℃で同じく縦方向に全体の延伸倍率で6.5~7.5倍に第2段の延伸を行い、さらに150~180℃で横方向に6~10倍に延伸することを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法である。
・・・略・・・
【0013】本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、上記した結晶性ポリプロピレンのシートを、テンター法によって逐次二軸延伸することによって製造される。逐次二軸延伸は、縦延伸を二段階に分けて行い、次いで横延伸が行われる。
【0014】まず、縦延伸の第1段では、140~150℃で4.0~5.5倍に延伸が行われる。延伸温度が140℃未満のとき、または、延伸倍率が5.5倍を越えるときは、縦延伸機の負荷が大きくなると共にシートの破断が起こりやすいために好ましくない。一方、150℃を越えるとき、または、延伸倍率が4.0倍未満のときは、横延伸後のフィルムの引張強度が不足するために好ましくない。縦延伸の第1段では、延伸を行う前に結晶性ポリプロピレンのシートを140~150℃に予熱することが好ましい。また、延伸後の引取りロールは延伸を均一に行うために120~130℃に設定しておくことが好ましい。
【0015】次いで、縦延伸の第2段では、第1段の延伸温度よりも高い145~155℃で第1段と第2段とを併せた全体の延伸倍率で6.5~7.5倍で延伸が行われる。縦延伸の第2段では、第1段の延伸温度よりも5℃程度高めにすることが、横延伸時のフィルム破れを低減するために必要である。延伸温度および延伸倍率が上記範囲をはずれたときは、第1段の延伸と同様の理由で好ましくない。また、この場合も第1段の延伸と同様に、延伸を行う前に結晶性ポリプロピレンのシートを145~155℃に予熱することが好ましい。
【0016】さらに、150~180℃で横方向に6~10倍、好ましくは8~9倍で延伸が行われる。横方向の延伸倍率が6倍より低い場合は、幅方向での延伸むらが起こり、厚み不良が発生する。また、10倍より高い場合は、横方向の延伸が困難でありフィルム破れが起こり製膜が不能となる。
・・・略・・・
【0018】本発明で得られた二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、一般に、ゴルフシャフト、釣竿、弓矢の芯材、バトミントンやテニスラケットのシャフト材、スキー用ストック等のスポーツ・レジャー用具や工業用途では軽量搬送ローラー、軽量巻取軸等の繊維強化複合材料の製造においてプリプレグ成形のためのテープ状フィルムとして好適に使用される。
【0019】以下に、本発明で得られた二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いてプリプレグ成形を行う方法について説明する。本発明で得られた二軸延伸ポリプロピレンフィルムを繊維強化複合材料に巻き付ける際は、10~30mmのテープ状に裁断し、1次成形体に2~7kgfの巻き付け荷重を掛けながら、かつ、通常テーピングマシーンといわれる装置により2mmピッチ程度で重ね巻きを行う。
・・・略・・・
【0023】
【発明の効果】本発明の方法により、縦方向の引張強度が20~25kg/mm2、横方向の引張強度が25~35kg/mm2の厚み精度の優れた二軸延伸ポリプロピレンフィルムが安定して得られる。この二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、強化用繊維にエポキシ樹脂等を含浸させてなる繊維強化複合材料に精密な形状と高い強度を付与するために好適に使用できる。」
イ 「【0024】
【実施例】
・・・略・・・
【0027】(3)引張強度及び伸度
試料を10mm幅の短冊状に切断し、測定長を40mmとして引張試験機により引張速度300mm/分、チャート速度300mm/分でチャート紙に記録し、フィルムの破断時の強度と伸び率を読み取った。試験回数を10回とし、平均値を表示した。
【0028】(4)製膜安定性
縦方向に2段延伸装置を有するテンター法逐次2軸延伸装置により、製膜速度毎分50mにて行った。この時の製膜安定性を次の評価基準にて判定した。
◎:全くフィルム破れがなく安定している。
○:厚み調整中に1~2回破れが発生するが厚み精度が良好になると破れが無くなる。
△:厚みが良好となってもときどき破れが起こる。
×:頻繁に破れが発生し、連続製膜が困難である。
【0029】(5)厚み精度
前項の製膜安定性試験と同様の方法により製造したフィルムについて、ダイヤルゲージを用い、フィルムの幅方向に5cm間隔で1mにわたって厚みを測定し、厚みムラの最大値÷平均厚み×100で表示した。
◎:±5%以下
○:±5%を越えて±10%以下
△:±10%を越えて±20%以下
×:±20%を越える。
・・・略・・・
【0032】実施例1
MFR1g/分のホモポリプロピレンを、押出機により280℃で溶融、混練した樹脂をリップ間隙2mmのT型ダイスより押出し、30℃の冷却ロール上に押出し、厚さ1.8mmのシートを得た。得られたシートを縦方向に2段延伸装置を有するテンター法逐次2軸延伸装置により、第1段延伸機前の加熱ロールで145℃に予熱後、同温度で第1段延伸機にて5倍に延伸した。次いで第2段延伸機前の加熱ロールで150℃に予熱後、同温度で第2段延伸機にて7倍に延伸した。引き続いて横延伸機にて160℃に予熱後、同温度で横方向に9倍延伸し、次いで、165℃でおよそ5%横方向に収縮させた。得られたフィルムの厚みは30μmであった。こうして得られたフィルムの物性、製膜安定性および厚み精度を表1に示した。
【0033】次に、得られたフィルムを小幅スリット機により、15mm幅に裁断し、3インチ紙管に500m巻きとった。東邦レーヨン(株)製カーボンセンイプリプレグQ-1115 1400を使用し、ゴルフシャフト用のマンドレルに巻き付け1次成形体を作成した後、15mm幅に裁断した上記フィルムをテーピングマシーンにより引張り強度3.5kgf、ピッチ幅2.5mmで巻き付け、2次成形体を製造した。
・・・略・・・
【0036】実施例2
MFR2g/分、エチレン量0.3重量%のエチレン-プロピレンランダム共重合体を用いたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
・・・略・・・
【0037】実施例3~6
MFR1.8g/分、ホモポリプロピレンを縦方向に2段延伸装置を有するテンター法逐次2軸延伸装置により、第1段と第2段の延伸倍率および温度を表1に示す条件に変えた他は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示した。得られたフィルムを実施例1と同様に成形体の作製に用い、その結果を表1に示した。
・・・略・・・
【0042】
【表1】
[図:0001429051000001.jpg]
」
(2) 甲1に記載された発明
上記(1)の【0001】、【0032】(実施例1)、【0027】~【0029】及び【0042】【表1】の記載からみて、甲1には、「実施例1」で得られた「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の発明として、次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。なお、甲1発明の構成中の丸括弧内は、甲1発明の認定根拠箇所を示すものである。)。
「MFR1g/分のホモポリプロピレンを、押出機により280℃で溶融、混練した樹脂をリップ間隙2mmのT型ダイスより押出し、30℃の冷却ロール上に押出し、厚さ1.8mmのシートを得て、
得られたシートを縦方向に2段延伸装置を有するテンター法逐次2軸延伸装置により、第1段延伸機前の加熱ロールで145℃に予熱後、同温度で第1段延伸機にて5.0倍に延伸し、
次いで第2段延伸機前の加熱ロールで150℃に予熱後、同温度で第2段延伸機にて7.0倍に延伸し、
引き続いて横延伸機にて160℃に予熱後、同温度で横方向に9倍延伸し、次いで、165℃でおよそ5%横方向に収縮させて、得られた、厚みが30μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、(【0032】)
下記の定義による縦方向及び横方向の引張強度は、それぞれ23.5kg/mm2及び31.5kg/mm2であり、
下記の定義による製膜安定性は、◎であり、
下記の定義による厚み精度が◎である、(【0042】【表1】)
二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
(引張強度)
試料を10mm幅の短冊状に切断し、測定長を40mmとして引張試験機により引張速度300mm/分、チャート速度300mm/分でチャート紙に記録し、フィルムの破断時の強度を読み取った。試験回数を10回とし、平均値を表示した。(【0027】)
(製膜安定性)
縦方向に2段延伸装置を有するテンター法逐次2軸延伸装置により、製膜速度毎分50mにて行った。この時の製膜安定性を次の評価基準にて判定した。
◎:全くフィルム破れがなく安定している。
○:厚み調整中に1~2回破れが発生するが厚み精度が良好になると破れが無くなる。
△:厚みが良好となってもときどき破れが起こる。
×:頻繁に破れが発生し、連続製膜が困難である。(【0028】)
(厚み精度)
製膜安定性試験と同様の方法により製造したフィルムについて、ダイヤルゲージを用い、フィルムの幅方向に5cm間隔で1mにわたって厚みを測定し、厚みムラの最大値÷平均厚み×100で表示した。
◎:±5%以下
○:±5%を越えて±10%以下
△:±10%を越えて±20%以下
×:±20%を越える。(【0029】)」
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、甲1発明を対比する。
(ア) 甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」材料は、ホモポリプロピレンであるから、ポリオレフィン樹脂のみからなるといえる。
また、その製造工程からみて、甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「縦方向」及び「横方向」に「延伸」されたものであるところ、フィルムの「縦方向」及び「横方向」は、それぞれ「MD方向」及び「TD方向」とも称される。
そうすると、甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1の、「ポリオレフィン樹脂を含有する」とされる、「延伸ポリオレフィンフィルム」に相当し、本件特許発明1と、甲1発明は、「MD方向及びTD方向の少なくとも一軸方向に延伸されており」との構成を具備する点で共通する。
(イ) 甲1発明の「縦方向及び横方向の引張強度は、それぞれ23.5kg/mm2及び31.5kg/mm2であ」る。
1kg/mm2は9.8MPaに対応することから、甲1発明の「縦方向」及び「横方向」の引張強度は、それぞれ約230MPa及び約309MPaである、ということができる。
上記の甲1発明の縦方向及び横方向それぞれの引張強度(MPa)の値からみて、甲1発明の「引張強度」と本件特許発明1における「引張強度」(本件特許明細書の【0079】)には測定条件に相違があるものの、甲1発明は、本件特許発明1の「MD方向の引張強度が30MPa以上であり、且つTD方向の引張強度が50MPa以上であり」との構成を具備するといえる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、本件特許発明1と甲1発明は、
「ポリオレフィン樹脂を含有する延伸ポリオレフィンフィルムであって、
MD方向及びTD方向の少なくとも一軸方向に延伸されており、
MD方向の引張強度が30MPa以上であり、且つTD方向の引張強度が50MPa以上である、
延伸ポリオレフィンフィルム。」の構成で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1-1)
本件特許発明1においては、「TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である」、「TD方向の膜厚分布の変動係数が0.200以下」であるのに対して、甲1発明においては、上記「TD方向の膜厚分布の変動係数が0.200以下」であるかどうか不明である点。
イ 判断
(ア) 新規性について
a 甲1発明においては、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」「の幅方向に5cm間隔で1mにわたって厚みを測定し、厚みムラの最大値÷平均厚み×100で表示した」「厚み精度」が「±5%以下」、すなわち「厚みムラの最大値÷平均厚み」が±0.05以下である。
また、相違点1-1に係る、本件特許発明1の、「0.200以下」である「TD方向の膜厚分布の変動係数」は、「TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である」。
b 上記aより、本件特許発明1の「TD方向の膜厚分布の変動係数」は、フィルムTD方向の「厚さの標準偏差」/「平均厚さ」により基づくものであり、一方、甲1発明の「厚み精度」は、「厚みムラの最大値」/「平均厚み」に基づくものである点で異なる。
また、両者は、フィルムのTD方向の厚み測定点のサンプリング間隔(前者1mm、後者5cm)及びサンプリング個数(前者600個、後者20個)においても異なる。
c 上記bで述べた相違を踏まえると、甲1発明において、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の「厚みムラの最大値÷平均厚み」が0.05以下であるからといって、「厚みムラの最大値」という特定の値から「標準偏差」に換算し、「TD方向の膜厚分布の変動係数」を算出することはできないし、本件特許発明1におけるサンプリング間隔、及び、サンプリング個数は、甲1発明に比べ本件特許発明1のサンプリング間隔は50分の1、サンプリング個数は30倍と、本件特許発明1におけるサンプリングの方が細かく、甲1発明において「厚みムラの最大値÷平均厚み」が0.05以下であるからといって、より細かい本件特許発明1におけるサンプリングにより測定しても同様となるとは必ずしもいえないから、「TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値」である「TD方向の膜厚分布の変動係数」が0.200以下である蓋然性が高いとはいえない。
d さらに、二軸延伸により得られるフィルムのTD方向の膜厚の分布状態は、フィルムの材料(例えば、ポリエチレンであるか、ポリプロピレンであるか等、フィルム材料のTg(ガラス転移温度)、フィルム材料が結晶性であるか非結晶性であるか等)、二軸延伸工程及び熱履歴の詳細(例えば、同時延伸か逐次延伸か、TD方向の延伸が先かMD方向の延伸が先か、TD方向及びMD方向の延伸倍率、延伸工程前の予熱温度、延伸工程時の加熱温度、予熱や加熱の均一性、熱緩和処理の温度、時間、収縮率等)など多くの条件に依存することは技術常識である。
例えば、甲1の【0016】の「横方向の延伸倍率が6倍より低い場合は、幅方向での延伸むらが起こり、厚み不良が発生する。」、甲2の【0010】の「上記搬送の途中で冷えたフィルムは、テンター延伸機内の予熱ゾーンでは、フィルム表面については上記150~180℃のTD方向への延伸温度に加熱されても、その内部までは均一に該温度に到達していないことが多い。その結果、かかるフィルムを6~10倍の高倍率に延伸すると、微細な厚みムラが発生してしまう。」、【0019】の「二軸延伸ポリプロピレンフィルムのMD方向の引張破断強度を前記良好な値にするため、逐次二軸延伸におけるMD方向の延伸倍率を上げると、得られるフィルムの厚み精度は低下する。」、【0026】の「この工程において、延伸温度が低くなると、得られる延伸シートは、該工程に次ぐTD方向への延伸工程で、厚みムラや破断を生じ易くなるが、本発明では、後述する如くTD方向の延伸前に加熱ロールにより延伸シートを加温することにより、該TD延伸工程において、シートが破断したり厚みムラが生じることが良好に防止できる。」、【0027】も「延伸温度が、135℃を越えると、フィルムに白っぽくなる箇所や厚みムラが部分的に生じることがある。」、【0033】の「TD方向への延伸温度が150℃未満のときは、テンターの機械負荷が大きくなり過ぎると共に熱量不足のためフィルム破断が起こったり、フィルムの厚みムラが大きくなる。」、「TD方向への延伸温度が180℃を越えるときは、熱量過多になり、目標とするフィルム強度が得られなくなる。また、TD方向へ延伸が不均一となり、フィルムの厚みムラが大きくなる。」、本件特許明細書の【0025】の「中でも、延伸ポリオレフィンフィルムのTD方向の膜厚分布の変動係数及び引張強度が所望の範囲に調整されやすい点で、ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリエチレン樹脂を含むことがより好ましい。ポリエチレン樹脂の中でも、好ましくは低密度ポリエチレン・・・略・・・であり、より好ましくは直鎖状低密度ポリエチレン、いわゆるLLDPEである。」、【0052】の「一軸延伸の場合の(好ましくはTD方向の)予熱処理の温度、二軸延伸の場合の少なくとも一軸の延伸(好ましくはTD方向のみ)の予熱処理の温度を、147~163℃(好ましくは150~160℃、より好ましくは152~158℃、特に好ましくは153~157℃)とすることにより、前述の所望の膜厚分布を得ることが容易となる。」、【0055】の「緩和処理により(特に、MD方向の緩和処理(二軸延伸の場合は、さらにTD方向の緩和処理)により)、膜厚分布と熱収縮率をより良好な範囲に制御することができる。」等の記載を参照。
そうしてみると、上記dで述べた技術常識によれば、甲1発明における横方向の延伸前の予熱温度(160℃)が、本件特許明細書の【0052】に記載の、所望の膜厚分布を得ることが容易となる、二軸延伸のTD方向の予熱処理の温度条件「147~163℃(好ましくは150~160℃)」を満たすからといって、「TD方向の膜厚分布の変動係数」が「0.200以下」となる本件特許発明1と同様のものが得られるということはできない。
(本件特許明細書の【0063】~【0072】、及び【0086】【表1】に記載の実施例1~9により、「TD方向の膜厚分布の変動係数」が0.012~0.195の延伸ポリオレフィンフィルムが得られ、甲1発明の横方向の延伸前の予熱温度(160℃)が、同【0052】に記載の、所望の膜厚分布を得ることが容易となる、二軸延伸のTD方向の予熱処理の温度条件「147~163℃(好ましくは150~160℃)」を満たし、同【0055】に記載の、膜厚分布をより良好な範囲に制御できる、緩和処理(165℃でおよそ5%横方向に収縮)を有するとしても、上記dで述べた技術常識によれば、出発材料、及び、プロセスにおける縦延伸工程の予熱温度、延伸温度、延伸倍率、横延伸工程の延伸温度、延伸倍率、緩和処理など他の多くの点で実施例1~9と異なる甲1発明から求められる「TD方向の膜厚分布の変動係数」として、実施例1~9が参考になるわけでもない。)
e 異議申立書における申立人の主張について
(a) 申立人は、異議申立書9頁5行~10頁14行、及び、10頁最下行において、
本件特許発明1でいう「膜厚分布」はフィルムの材質や製造方法による点が大きいところ、特許権者は、令和6年10月21日付の意見書にて、本願特許発明1の特定事項C、F(当合議体注:相違点1-1に係る本件特許発明1の構成である。)で規定される微視的な膜厚の変動を一定に調整するためには、TD延伸前の予熱温度を147℃~163℃に調整することが重要であると述べている、
甲1発明は、段落0032に記載されているように、横方向の延伸前に横延伸機で160℃に予熱しており、特許権者が微視的な膜厚の変動を一定以下に調製するために重要であると述べたTD方向の予熱温度も一致している、
したがって、相違点1-1及び相違点1-2(当合議体注:上記ア(ウ)において当合議体が抽出した相違点1-1と同じである。)は実質的な相違点とはいえない、
以上から、本件特許発明1は甲1発明と同一である、と主張する。
(b) しかしながら、上記dで述べたとおり、二軸延伸により得られるフィルムのTD方向の膜厚の分布状態は、横方向の延伸前の予熱温度だけでなく、フィルムの材料、二軸延伸工程、及び、延伸温度、緩和処理等の熱履歴など多くの条件に依存するのであるから、甲1発明の横方向の延伸前の予熱温度が、本件特許明細書に記載の、所望の膜厚分布を得ることが容易となる、二軸延伸のTD方向の予熱処理の温度条件(147~163℃(好ましくは150~160℃))を満たすからといって、上記dで述べたのと同様、「TD方向の膜厚分布の変動係数」が「0.200以下」となるといえるわけでもない。
f してみると、相違点1-1は実質的な相違点である。
(イ) 進歩性について
a 甲1でいう本発明は、強化用繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる繊維強化複合材料の成形に好適に使用できる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法に関する(甲1の【0001】)ものであるところ、
甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「製膜安定性試験と同様の方法により製造したフィルムについて、ダイヤルゲージを用い、フィルムの幅方向に5cm間隔で1mにわたって厚みを測定し、厚みムラの最大値÷平均厚み×100で表示した」、「厚み精度」を「±5%以下」(「厚みムラの最大値÷平均厚み」が±0.05以下)とすることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを幅10~30mmに裁断(して、1次成形体に2~7kgfの巻き付け荷重を掛けながら、2mm~2.5mmピッチ程度で重ね巻きして、2次成形体を製造)する際に、厚みムラを小さくでき、広幅の原紙から一定の巻き硬さの製品を得ることができる点で好ましいものである(甲1の【0005】、【0007】~【0009】、【0019】、【0023】、【0029】、【0033】及び【0042】【表1】等参照。)。
b しかしながら、甲1発明は単に厚みムラの最大値÷平均厚みが所定の範囲内であるかを考慮するにとどまるものであり、甲1には、ポリオレフィンフィルムの利用において、フィルムロールを経て、フィルムを搬送し、表面処理、他の層の積層等を行う際に発生するロール皺に着目し、これを抑制するために、ポリオレフィンフィルムのTD方向の膜厚分布に着目して、ポリオレフィンフィルムのTD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である、TD方向の膜厚分布の変動係数を0.200以下とすることは、記載も示唆もされていない。
また、フィルムを平坦にすること自体は一般的な課題であったとしても、本件特許明細書に記載の材料、及び、プロセスとは異なる、強化用繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる繊維強化複合材料の成形に好適に使用できる二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、幅10~30mmに裁断され、1次成形体に2~7kgfの巻き付け荷重を掛けながら、2mm~2.5mmピッチ程度で重ね巻きして、2次成形体を製造する、二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、甲1に記載された厚みムラの最大値÷平均厚みが所定の範囲内であるかという条件とは大幅に異なる、フィルムのTD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である、TD方向の膜厚分布の変動係数を0.200以下とすることが、本件特許の出願前に周知の技術であるとも、当業者にとって自明の事項であるともいえない。
してみると、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、動機付けはなく、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
c 甲3及び甲4にも、ロール皺を抑制するために、ポリオレフィンフィルムのTD方向の膜厚分布に着目して、TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である、TD方向の膜厚分布の変動係数を0.200以下とすることは記載も示唆もされていない。
そうしてみると、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
d 異議申立書における申立人の主張について
(a) 申立人は、異議申立書10頁15~32行、及び、10頁最下行~11頁1行において、
甲第3号証の段落0080には、厚薄精度の算出方法として、幅80mm、長さ550mmの大きさのサンプル3枚を1mm間隔で測定して、3枚の連続厚さの平均値、最大値、最小値、及び標準偏差(σ)を算出することが記載されている、
したがって、本件特許発明1の特定事項Fで規定される「TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出」することは、公知の技術である、
厚みの測定間隔を小さくすればより細かな厚みの変動を捉えることができることは当業者にとって自明であり、測定箇所が600箇所であることも何ら特別なものではなく当業者が任意に設定できる設計事項に過ぎない、
さらに、甲1発明及び甲第3号証に記載された発明において、測定した厚みのデータから算出した厚みの精度や厚薄精度は、フィルムに厚みのばらつきがどの程度存在するかの指標となることは当業者にとって自明である、
厚みの精度等がより良いものであれば、フィルムの厚みムラがなく、すなわち、数の抑制されたフィルムとなることも当業者にとって自明である、
つまり、本件特許発明1の技術思想及び本件特許発明1により得られる作用効果も、甲第1号証又は甲第3号証の記載事項、従来周知の技術事項から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない、
以上から、本件特許発明1は、甲1発明(及び甲第3号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張する。
(b) しかしながら、上記bで述べたとおり、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成とすることには、動機付けはなく、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。また、上記cで述べたとおり、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであるということもできない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4) 本件特許発明2~4について
本件特許発明2~4は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記(3)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない、または、甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件特許発明2~4は、甲1に記載された発明であるということはできない、または、甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(5) 本件特許発明5~8について
本件特許発明5~8のいずれかと、甲1発明を対比すると、上記(3)アにおいて抽出した相違点1-1と同様な点で少なくとも相違する。
相違点1-1については上記(3)イにおいて述べたとおりである。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5~8は、甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(6) 本件特許発明1~8について
上記(1)~(5)においては、実施例1に基づいて甲1発明を認定し、対比、判断を行ったが、実施例1に替えて、実施例2~4に基づき、引用発明を認定し、対比を行っても、判断は同じである。
2 甲2を主引用例とする申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)
(1) 甲2に記載された事項
甲2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、詳しくは強化用繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる繊維強化複合材料の成形に好適に使用できる二軸延伸ポリプロピレンフィルム、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、ゴルフクラブシャフト、釣竿、テニスやバドミントンラケットなどの各種の道具類の素材としては、軽量化、強靭性がもとめられるために繊維強化プラスチック等の繊維強化複合材料が使用されている。
【0003】上記道具類の製造方法は、一般に次のような方法によって行われている。まず、マンドレルと呼ばれる心軸材に、エポキシ樹脂等を含浸させたプリプレグをマンドレルに圧着しながら巻き付けて1次成形体を作成する。次に、1次成形体にテープを巻き付け、2次成形体を得る。この時のテープの巻き付け張力が完成品の性能に大きく影響する。
・・・略・・・
【0005】このプリプレグ成形用テープを製造するためのフィルムには、フィルムの流れ方向(以下、MD方向と略す)と該方向と直角の方向(以下TD方向と略す)の引張破断強度がいずれも20kg/mm2以上であることが求められている。特に、MD方向の引張破断強度は、25kg/mm2以下であることも必要とされている。これは、MD方向及びTD方向の引張破断強度が20kg/mm2未満の時は、1次成形体にテープを2~7kgfの張力をかけて巻き付ける際、巻き付け張力によりテープが伸びてしまい、テープによる1次成形体の成形保持力が不足するためである。また、MDの引張破断強度が25kg/mm2を超えるときは、1次成形体にフィルムを巻き付けた際に、テープの保持力が大きすぎるために、この力により、巻き締まりがきつくなり過ぎることから、3次成形体が細くなってしまうためである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この様なプリプレグ成形用テープをスリットして得るためのフィルムとしては、これまで一軸延伸法、インフレーション(同時二軸延伸)法で製造されたポリプロピレンフィルムが用いられてきた。しかし、一軸延伸法で製造されたポリプロピレンフィルムは、MD方向には十分な引張破断強度を有しているが、TD方向の引張破断強度が著しく小さいため、該フィルムは、MD方向に沿って割れやすく、3次成形体からフィルムの取り除き作業において糸状となり、取り扱いが不便であった。
【0007】また、インフレーション法により製造されたポリプロピレンフィルムは、幅を10~30mmに裁断する際に、フィルムの厚みムラが大きいことから、広幅の原紙から一定の巻硬さの製品を得ることが困難であった。よって、原紙の幅が制限されてしまい効率的な生産が出来ないという問題があった。
・・・略・・・
【0010】そして、このフィルムは、厚み精度についても、5%弱のかなり良好な値にあるものの、今一歩満足できるものではなかった。これは、通常のテンター法による逐次二軸延伸方法では、MD方向のロール延伸の終了後、TD方向の延伸を行うテンター延伸機にフィルムを搬入するまでに、MD方向への延伸シートが空冷や温調していないガイドロールとの接触により50℃前後から室温近くまで温度が低下することに起因する。即ち、一般に、テンター延伸は、フィルムに延伸温度の熱風を吹き付けて予熱した後実施されるが、このような熱風の吹き付けによる加温では、前記の如く室温近くまで熱が冷めた延伸シートは、フィルム内部まで十分に加温され難い。従って、上記搬送の途中で冷えたフィルムは、テンター延伸機内の予熱ゾーンでは、フィルム表面については上記150~180℃のTD方向への延伸温度に加熱されても、その内部までは均一に該温度に到達していないことが多い。その結果、かかるフィルムを6~10倍の高倍率に延伸すると、微細な厚みムラが発生してしまう。無論、この問題は、テンター延伸機内の予熱ゾーンを長くすればある程度解決できるが、過度に長い予熱ゾーンを設けることは製造設備上効率的でない。
【0011】しかして、5%弱程度の微細な厚みムラであっても、広幅の原紙から小幅のテープを多丁取りにスリットする際、厚みの厚い部分は硬巻となるものが得られ、一方、厚みの薄い部分は柔巻となるものが得られ、一定の巻硬度のテープが得られなくなる問題が発生する。また、厚みムラにより部分的に張力差が生じるため、時折テープの巻端面が、巻きずれるという問題も生じる。
【0012】以上において本発明は、MD方向及びTD方向のいずれにも大きい引張破断強度を有し、且つ極めて優れた厚み精度を有し、繊維強化複合材料の成形に好適に使用できるポリプロピレンフィルムを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題点を解決するため鋭意研究を重ねた結果、テンター法による逐次二軸延伸について、MD方向への延伸を二段に分けて延伸し、且つTD方向への延伸の前に、MD方向延伸シートを加熱ロールにより加熱することにより得た二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、上記課題を解決できるものであることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】すなわち、本発明は、フィルムの流れ方向の引張破断強度が20~25kg/mm2であり、該方向と直角方向の引張破断強度が25~35kg/mm2であり、厚み精度が3.0%以下であることを特徴とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0015】また、本発明は、メルトフローレートが0.5~5.0g/10分のポリプロピレンシートを、まず、140~150℃でシートの流れ方向に4.0~5.5倍に第1段のロール延伸を行い、次いで、110~135℃で該シートの流れ方向に、全体の延伸倍率で6.5~8.0倍に第2段のロール延伸を行い、熱が冷めた延伸シートを加熱ロールにより80~130℃に加温した後、150~180℃で該シートの流れ方向と直交する方向に6~13倍にテンター延伸する上記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法も提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレンは、特に限定されるものではなく如何なるものを用いても良い。
・・・略・・・
【0019】さらに、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、厚み精度が3.0%以下、好ましくは2.5%以下である。ここで、フィルムの厚み精度は、TD方向での精度をいう。前記した如く、二軸延伸ポリプロピレンフィルムのMD方向の引張破断強度を前記良好な値にするため、逐次二軸延伸におけるMD方向の延伸倍率を上げると、得られるフィルムの厚み精度は低下する。こうした状況にあって、本発明は、前記良好なMD方向及びTD方向の引張破断強度を有し、且つこのような極めて優れた厚み精度を有する二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供した点に最大の特徴を有するものである。
【0020】なお、本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、MD方向の引張破断伸度が130%以下であるのが好ましい。このような引張破断伸度を有するフィルムをスリットして得たテープは、1次成形体に適度に密着させることができ、加熱、硬化工程においてエポキシ樹脂等の液漏れを防ぐことができ好適である。
・・・略・・・
【0024】本発明において、上記ポリプロピレンシートのMD方向への延伸は、ロール速度差により延伸するロール延伸により、2段階に分けて行う。まず、ロール延伸の第1段では、140~150℃で4.0~5.5倍、より好適には4.5~5.0倍に延伸する。延伸温度が140℃未満のとき、または、5.5倍を越えるときは、延伸機の負荷が大きくなると共にシート破断が起こり易くなり好ましくない。一方、150℃を越えるとき、または、延伸倍率が、4.0倍未満のときは、二軸延伸後のフィルムの引張破断強度が不足すると共に、MD方向への引張破断伸度が大きくなるため好ましくない。ここで、上記延伸温度は、ロール延伸で用いられる加熱ロールの温度をいう。
【0025】次いで、MD方向への第2段のロール延伸を、110~135℃、好適には118~135℃の延伸温度で、第1段と第2段を併せた全体の延伸倍率で6.5~8.0倍、好適には6.8~7.5倍の条件で実施する。このように延伸を2段に分けることにより、高倍率にシートを安定的に延伸することが可能になる。また、この第2段の延伸温度を、上記第1段の延伸温度よりやや低下させることにより、シートに延伸傷や白っぽくなる部分が生じることが防止できる。
【0026】一方、この工程において、延伸温度が低くなると、得られる延伸シートは、該工程に次ぐTD方向への延伸工程で、厚みムラや破断を生じ易くなるが、本発明では、後述する如くTD方向の延伸前に加熱ロールにより延伸シートを加温することにより、該TD延伸工程において、シートが破断したり厚みムラが生じることが良好に防止できる。
【0027】ここで、延伸温度が、135℃を越えると、フィルムに白っぽくなる箇所や厚みムラが部分的に生じることがある。また、全体の延伸倍率が6.5倍未満だと目標とする引張破断強度に足らず、並行して引張破断伸度が目標より大きくなる。一方、延伸温度が110℃未満のとき、または、全体の延伸倍率が8.0倍を越えるとMD方向への配向が強くなり過ぎ、目標とする引張強度を越えてしまう他、シートの破断の問題も生じる。
【0028】以上のMD方向への延伸の終了後、得られた延伸シートは、通常、テンター延伸機の予熱ゾーンに搬入されるまでの間に、空冷やニップロールとの接触により、フィルムは50℃前後から室温近くまで温度が低下する。そうして本発明では、このようにして熱が冷めた延伸シートを、加熱ロールにより80~130℃、好ましくは90~125℃に加温してから、テンター延伸機の予熱ゾーンに搬入する。加熱ロールによる加熱は、加熱効率が良いため、上記冷えたフィルムは、表面から内部まで均一に該80~130℃に加温される。ここで、上記加熱は、前記温度の加熱ロールにより、赤外放射温度計で測定したシートの表面温度が該温度に上昇するように実施される。
【0029】加熱ロールによる加熱温度が80℃未満のときは、TD方向への延伸時にフィルム内部に低温部が残り、該TD方向への延伸性が劣るようになり、部分的な厚みムラが発生し、連続的な製膜や、厚み調整が困難になる。一方、130℃を越えるとMD方向への配向が緩和されて目標とする引張強度が得られなくなったり、熱量過多になり、フィルムに白っぽくなる箇所が生じたりする。
・・・略・・・
【0031】本発明では、上記加熱ロールにより加温された延伸シートを、続いて、テンター延伸機に搬入し、150~180℃、好ましくは160~175℃でTD方向に6~13倍、好ましくは8~12倍に延伸する。ここで、上記延伸温度は、該テンター延伸で、延伸シートの加熱に用いられる熱風の温度をいう。
【0032】そして、本発明では、延伸シートは、前記加熱ロールによる加温によりシート内部まで既に80~130℃に加温されているため、テンター延伸機の熱風による加熱でも、該フィルム内部まで上記延伸温度に加温され易い。従って、通常のテンター延伸機が備えている5~20m程度の予熱ゾーンの長さでも、延伸シートは内部まで均一に加温でき、TD方向への延伸は、極めて延伸性よく実施できる。
【0033】ここで、TD方向への延伸温度が150℃未満のときは、テンターの機械負荷が大きくなり過ぎると共に熱量不足のためフィルム破断が起こったり、フィルムの厚みムラが大きくなる。TD方向への延伸温度が180℃を越えるときは、熱量過多になり、目標とするフィルム強度が得られなくなる。また、TD方向へ延伸が不均一となり、フィルムの厚みムラが大きくなる。一方、TD方向への延伸倍率が6.0倍より低い場合は、目的とするTD方向への引張破断強度が得られなくなる。
・・・略・・・
【0040】
【発明の効果】本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、良好なMD方向及びTD方向の引張破断強度を有し、且つ極めて優れた厚み精度を有する。従って、強化繊維にエポキシ樹脂等を含浸してなる繊維強化複合材料に、精密な形状と高い強度を付与するプリプレグ成型用テープを得るためのフィルムとして好適に使用できる。
【0041】
【実施例】
・・・略・・・
【0043】(2)引張破断強度及び伸度
試料を15mmの短冊状に切断し、測定長さを100mmとして引張試験機で引張速度200mm/分、チャート速度100mm/分でチャート用紙に記録し、フィルム破断時の強度及び伸度を算出した。
【0044】(3)フィルムの厚み精度測定
アンリツ(株)製フィルムシックネステスターKG601Aを使用し、フィルムのTD方向5mの範囲を、測定速度1.5m/分にて測定し、下記式によりR値(%)を算出した。なお、測定は、任意の場所を10回測定し、その平均値とした。
【0045】
[図:0001429051000002.jpg]
・・・略・・・
【0048】(6)製膜安定性
MD方向に2段延伸された延伸シートを加熱ロールにて加熱し、テンター式延伸装置を経て、製膜速度50m/分にて製膜を行い。24時間製膜した時の製膜安定性を下記の評価基準にて判定した。
【0049】良好:製膜開始から、全くフィルム破断がなく安定して連続製膜できる。
【0050】可:厚み調整中にフィルム破断があるが、調整後は安定して連続製膜できる。
【0051】不可:頻繁にフィルム破断があり、連続製膜が困難である。
【0052】(7)小幅スリット適性
各実施例及び比較例にて製膜した二軸延伸フィルムを、スリット機で幅300mmにスリットした後、小幅スリット機により幅15mmに裁断し、巻長500mのテープを巻き取った。このテープ間の巻硬度の最大値と最小値の差を硬度ムラとし、小型スリット適性として下記の評価基準にて判定した。尚、硬さ測定は、スイス、Proceq社製、商品名パロテスターを使用した。
【0053】○:巻き取ったテープ間の巻硬度差が80未満。
【0054】△:巻き取ったテープ間の巻硬度差が80以上180未満。
【0055】×:巻き取ったテープ間の巻硬度差が180以上及び、スリット端面に巻きズレがあるもの。
・・・略・・・
【0057】実施例1、2 比較例1~4
エチレン-プロピレン共重合体(MFR:2.0g/10分、エチレン単位の含有量0.5重量%)をTダイより押出し、未延伸シートを得た。このシートを表1に示す条件でMD方向延伸機にて2段延伸を行った後、50℃まで冷めた延伸シートを2本の加熱ロールにより表1に示す加熱温度まで加熱し、次いで、テンター延伸機に搬入し、表1に示す条件でTD方向に延伸し、30μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0058】得られたフィルムの性能および、プリプレグ成形用テープとしての適性評価を表1に示した。
【0059】実施例3 比較例5
プロピレン単独重合体(MFR:1.6g/10分)をTダイより押出し、未延伸シートを得た。このシートを表1に示す条件でMD方向延伸機にて2段延伸を行った後、50℃まで冷めた延伸シートを2本の加熱ロールにより表1に示す加熱温度まで加熱し、次いで、テンター延伸機に搬入し、表1に示す条件でTD方向に延伸し、30μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
・・・略・・・
【0061】実施例4~6 比較例6、7
エチレン-プロピレン共重合体(MFR:2.7g/10分、エチレン単位の含有量0.8重量%)をTダイより押出し、未延伸シートを得た。このシートを表1に示す条件でMD方向延伸機にて2段延伸を行った後、50℃まで冷めた延伸シートを2本の加熱ロールにより表1に示す加熱温度まで加熱し、次いで、テンター延伸機に搬入し、表1に示す条件でTD方向に延伸し、25μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
・・・約・・・
【0065】実施例7、比較例9
エチレン-プロピレン共重合体(MFR:2.2g/10分、エチレン単位の含有量0.6重量%)をTダイより押出し、未延伸シートを得た。このシートを表1に示す条件でMD方向延伸機にて2段延伸を行った後、50℃まで冷めた延伸シートを2本の加熱ロールにより表1に示す加熱温度まで加熱し、次いで、テンター延伸機の予熱ゾーンに搬入し、熱風により加温した後、表1に示す条件でTD方向に延伸し、22μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
・・・略・・・
【0069】
【表1】
[図:0001429051000003.jpg]
」
(当合議体注:便宜のため、【0069】【表1】は、時計回りに90度回転させている。)
(2) 甲2に記載された発明
ア 甲2の【0013】~【0015】(【課題を解決するための手段】)、【0061】(実施例5)及び【0069】【表1】の記載からみて、実施例5で得られた「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「143℃」「でシートの流れ方向に」「5.0倍」「に第1段のロール延伸を行い、次いで」、「126℃」「で該シートの流れ方向に、全体の延伸倍率で」「7.0倍」「に第2段のロール延伸を行い、熱が冷めた延伸シートを加熱ロールにより」「120℃」「に加温した後」、「165℃」「で該シートの流れ方向と直交する方向に」「11.0倍」「にテンター延伸」して得られたものであることが理解できる。
イ 上記アと上記(1)の【0061】(実施例5)、【0043】~【0045】及び【0069】【表1】の記載からみて、甲2には、「実施例5」で得られた「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の発明として、次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲2発明」という。)。
「エチレン-プロピレン共重合体(MFR:2.7g/10分、エチレン単位の含有量0.8重量%)をTダイより押出し、未延伸シートを得て、
このシートを、MD方向延伸機にて、143℃でシートの流れ方向に5.0倍に第1段のロール延伸を行い、次いで、126℃で該シートの流れ方向に、全体の延伸倍率で7.0倍に第2段のロール延伸を行った後、
50℃まで冷めた延伸シートを2本の加熱ロールにより、120℃に加温した後、テンター延伸機に搬入し、165℃で該シートの流れ方向と直交する方向に11.0倍にテンター延伸して得られた25μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、(【0061】、【0015】、【0069】【表1】)
下記定義によるMD方向及びTD方向の引張破断強度が、それぞれ22.5kg/mm2及び32.2kg/mm2であり、
下記定義による厚み精度R値が0.7%である、(【0069】【表1】)
二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
(引張破断強度)
試料を15mmの短冊状に切断し、測定長さを100mmとして引張試験機で引張速度200mm/分、チャート速度100mm/分でチャート用紙に記録し、フィルム破断時の強度及び伸度を算出した。(【0043】)
(フィルムの厚み精度測定)
アンリツ(株)製フィルムシックネステスターKG601Aを使用し、フィルムのTD方向5mの範囲を、測定速度1.5m/分にて測定し、下記式によりR値(%)を算出した。なお、測定は、任意の場所を10回測定し、その平均値とした。
[図:0001429051000004.jpg]
」
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、甲2発明を対比する。
(ア) 甲2発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の材料は、「エチレン単位の含有量0.8重量%」の「エチレン-プロピレン共重合体」であるから、ポリオレフィン樹脂のみからなるといえる。
また、その製造工程からみて、甲2発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「MD方向」及び「TD方向」に「延伸」されたものである。
そうすると、甲2発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1の、「ポリオレフィン樹脂を含有する」とされる、「延伸ポリオレフィンフィルム」に相当し、本件特許発明1と、甲2発明は、「MD方向及びTD方向の少なくとも一軸方向に延伸されており」との構成を具備する点で共通する。
(イ) 甲2発明の「MD方向及びTD方向の引張破断強度が、それぞれ22.5kg/mm2及び32.2kg/mm2であ」る。
ここで、引張強度が、フィルムが破断時の引張力/フィルム断面積(MPa)を意味する、甲2の「引張破断強度」を同じ意味であることは技術常識より明らかである。
そうすると、甲2発明の「MD方向」及び「横方向」の引張強度は、それぞれ約221MPa及び約316MPaである、ということができる(上記1(3)ア(イ)参照。)。
してみると、甲2発明の「MD方向」及び「TD方向」の引張強度(MPa)の値からみて、甲2発明の「引張破断強度」と本件特許発明1における「引張強度」(本件特許明細書の【0079】)には測定条件に相違があるものの、甲2発明は、本件特許発明1の「MD方向の引張強度が30MPa以上であり、且つTD方向の引張強度が50MPa以上であり」との構成を具備するといえる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、本件特許発明1と甲2発明は、
「ポリオレフィン樹脂を含有する延伸ポリオレフィンフィルムであって、
MD方向及びTD方向の少なくとも一軸方向に延伸されており、
MD方向の引張強度が30MPa以上であり、且つTD方向の引張強度が50MPa以上である、
延伸ポリオレフィンフィルム。」の構成で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2-1)
本件特許発明1においては、「TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である」、「TD方向の膜厚分布の変動係数が0.200以下」であるのに対して、甲2発明においては、上記「TD方向の膜厚分布の変動係数が0.200以下」であるかどうか不明である点。
イ 判断
(ア) 新規性について
a 甲2発明においては、アンリツ(株)製フィルムシックネステスターKG601Aを使用し、フィルムのTD方向5mの範囲を、測定速度1.5m/分にて測定し、
[図:0001429051000005.jpg]
により算出した(なお、測定は、任意の場所を10回測定し、その平均値とした。)とされる、「厚み精度」を示す「R値」が0.7%、すなわち、[(測定厚みの最大値(μm))-(測定厚みの最小値(μm))]/測定厚みの平均値(μm)が0.007である。
しかしながら、甲2発明における「フィルムのTD方向5mの範囲を、測定速度1.5m/分にて測定」するとの定義からでは、「R値」を算出する際のサンプリング間隔及びサンプリング個数が不明である。
一方、本件特許発明1における「TD方向の膜厚分布の変動係数」は、「TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である」。
b ここで、甲2発明における「R値」は、そのサンプリング間隔及びサンプリング個数に依存すること、及び、測定厚みの最大値、最小値、及び、平均値から算出される厚み精度に基づき測定厚みの標準偏差を直接演算することができないことは技術常識より明らかことである。
そうすると、上記aで述べた相違を踏まえると、甲2発明において、「R値」が0.7%であるからといって、「TD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値」である「TD方向の膜厚分布の変動係数」がどのような値となるかは不明であり、0.200以下であるとはいえない。
c また、上記1(3)イ(ア)dで述べたとおり、二軸延伸により得られるフィルムのTD方向の膜厚の分布状態は、フィルム材料、二軸延伸工程及び熱履歴(予熱、緩和等)の詳細などの多くの条件に依存することは技術常識であるところ、甲2発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の製造条件から、甲2発明の「TD方向の膜厚分布の変動係数」が「0.200以下」となるといえるわけでもない。
d 異議申立書における申立人の主張について
(a) 申立人は、異議申立書11頁下から3行~12頁6行、及び、12頁20行において、
甲2発明の厚み測定方法は、連続的な測定であることから、微視的な膜厚分布を捉えている、
つまり、甲2発明の厚み精度は、微視的な膜厚分布の変動を評価したものである、
そして、甲2発明の式中の「厚み最大値-厚み最小値」は「標準偏差」よりも小さくなることはない、
つまり、上記相違点2-1及び2-2は実質的な相違点とはいえない、
以上から、本件特許発明1は甲2発明と同一である、と主張する。
(b) しかしながら、上記a及びbで述べたとおり、甲2発明における「フィルムのTD方向5mの範囲を、測定速度1.5m/分にて測定」するとの定義からでは、「測定厚みの最大値(μm)」、「測定厚みの最小値(μm)」及び「測定厚みの平均値(μm)」に基づき「R値」を算出する際のサンプリング間隔及びサンプリング個数が不明なのであるから、甲2発明の「厚み精度」は、微視的な膜厚分布の変動を評価したものであるとはいえない。
甲2発明の測定厚みの最大値、最小値及び平均値から算出される厚み精度に基づき測定厚みの標準偏差を直接演算することもできない。
e してみると、相違点1-1は実質的な相違点である。
(イ) 進歩性について
a 甲2でいう本発明は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、強化用繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる繊維強化複合材料の成形に好適に使用できる二軸延伸ポリプロピレンフィルム及びその製造方法に関する(甲2の【0001】)ものであるところ、
甲2発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「アンリツ(株)製フィルムシックネステスターKG601Aを使用し、フィルムのTD方向5mの範囲を、測定速度1.5m/分にて測定し、下記式(当合議体注:式の再掲は省略。)により」「を算出」(「なお、測定は、任意の場所を10回測定し、その平均値とした。」)した「厚み精度」を示す「R値」を「0.7%」とすることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを幅10~30mmに裁断する際に、フィルムの厚みムラを小さくすることができ、広幅の原紙から一定の巻硬さの製品を得ることができる点で好ましいものである(甲2の【0003】、【0007】、【0040】、【0052】~【0055】及び【0069】【表1】等参照。)。
b しかしながら、甲2発明は単に「測定厚みの最大値(μm)-測定厚みの最小値(μm)」/「測定厚みの平均値(μm)」により算出した「厚み精度」を示す「R値」が所定の値以下であるかを考慮するにとどまるものであり、甲2には、ポリオレフィンフィルムの利用において、フィルムロールを経て、フィルムを搬送し、表面処理、他の層の積層等を行う際に発生するロール皺に着目し、これを抑制するために、ポリオレフィンフィルムのTD方向の膜厚分布に着目して、ポリオレフィンフィルムのTD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である、TD方向の膜厚分布の変動係数を0.200以下とすることは、記載も示唆もされていない。
また、フィルムを平坦にすること自体は一般的な課題であったとしても、本件特許明細書に記載の材料、及び、プロセスとは異なる、強化用繊維にエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる繊維強化複合材料の成形に好適に使用できる二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、幅10~30mmに裁断される二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、甲2に記載された「測定厚みの最大値(μm)-測定厚みの最小値(μm)」/「測定厚みの平均値(μm)」が所定の値以下であるかという条件とは大幅に異なる、フィルムのTD方向に1mm間隔で厚さ測定を行って得られた600箇所の厚さデータから平均厚さ(単位:μm)及び厚さの標準偏差(単位:μm)を算出して、得られた厚さの標準偏差を得られた平均厚さで除してなる値である、TD方向の膜厚分布の変動係数を0.200以下とすることが、本件特許の出願前に周知の技術であるとも、当業者にとって自明の事項であるともいえない。
してみると、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、動機付けはなく、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
c また、上記1(3)イ(イ)cで述べたとおり、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
d 異議申立書における申立人の主張について
(a) 申立人は、異議申立書12頁7~18行、及び、12頁20~21行において、
本件特許発明の特定事項Fで規定される厚さ測定方法は公知の技術であって、厚みの測定間隔を小さくすればより細かな厚みの変動を提えることができることは当業者にとって自明であり、測定箇所が600箇所であることも何ら特別なものではなく当業者が任意に設定できる設計事項に過ぎない(甲第3号証)、
甲2発明において、測定した厚みのデータから算出した厚み精度はフィルムに厚みのばらつきがどの程度存在するかの指標となることは当業者にとって自明である、
厚みの精度等がより良いものであれば、フィルムの厚みムラがなく、すなわち、皺の抑制されたフィルムとなることも当業者にとって自明である、
つまり、本件特許発明1の技術思想及び本件特許発明1により得られる作用効果も、甲第2号証又は甲第3号証の記載事項、従来周知の技術事項から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとはいえない、
以上から、本件特許発明1は、甲2発明(及び甲第3号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張する。
(b) しかしながら、上記bで述べたとおり、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成とすることには、動機付けはなく、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。また、上記cで述べたとおり、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであるということもできない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲2に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4) 本件特許発明2~4について
本件特許発明2~4は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記(3)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるということはできない、または、甲2に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、本件特許発明2~4は、甲2に記載された発明であるということはできない、または、甲2に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(5) 本件特許発明5~8について
本件特許発明5~8のいずれかと、甲2発明を対比すると、上記(3)アにおいて抽出した相違点2-1と同様な点で少なくとも相違する。
相違点2-1については上記(3)イにおいて述べたとおりである。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5~8は、甲2に記載された発明、甲3に記載された技術的事項及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(6) 本件特許発明1~8について
上記(1)~(5)においては、実施例5に基づいて甲2発明を認定し、対比、判断を行ったが、実施例5に替えて、実施例1~4、6~7に基づき、引用発明を認定し、対比を行っても、判断は同じである。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700812