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特許異議申立

2025-700034

ヒートシール紙

審判番号
2025-700034
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-522339
登録番号
7513227
請求日
2024年12月25日
審決日
2026年03月19日
公報発行日
2026年06月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】王子ホールディングス株式会社
  • 【権利者代理人】松沼 泰史
  • 【権利者代理人】川越 雄一郎
  • 【権利者代理人】柳井 則子
  • 【権利者代理人】君塚 哲也
  • 【異議申立人】中村 靖子
  • 【異議申立人】ユー ピー エム スペシャルティ ペイパーズ オーイー
  • 【異議申立人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 金丸 治之
  • 審判官 八木 誠
  • 審判官 一ノ瀬 薫
分類
P1651.121-YAA(D21H) / P1651.113-YAA(D21H) / P1651.536-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7513227号発明「ヒートシール紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7513227号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 特許第7513227号の請求項1~3、5~7に係る特許を維持する。 特許第7513227号の請求項4に係る特許についての特許異議申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7513227号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、国際出願日を2024年(令和6年)1月25日(優先権主張 令和5年1月31日)とする特願2024-522339号に係るものであり、令和6年7月1日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和6年7月9日発行)がされ、令和6年12月25日に、全請求項に係る特許について特許異議申立人中村靖子(以下「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、令和7年1月8日に、全請求項に係る特許について、特許異議申立人ユー ピー エム スペシャルティ ペイパーズ オーイー(以下「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月27日付けで取消理由が通知され、同年7月16日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、同年7月29日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年8月26日に申立人1から意見書が提出され、同年9月17日に申立人2から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所に当審において付したものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「 パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、 前記紙基材が、無機顔料を含み、 前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である、ヒートシール紙。」と記載されているのを、 「 パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、 前記紙基材が、無機顔料を含み、 前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%であり、 JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である、ヒートシール紙。」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2、3、5~7についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項2~7は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項[1~7]についてされたものである。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び新規事項追加の有無 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された発明に係るヒートシール紙について、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」ことを特定する訂正をするものであり、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。 また、当該事項は、訂正前の請求項4及び願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0010】、【0081】の【表1】に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 3 独立特許要件 本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~3、5~7に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 4 訂正についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件訂正後の請求項〔1~7〕について訂正を認める。 第3 本件特許発明 上記のとおり、本件訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1~3、5~7に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5~7に記載された、次のとおりのものである。 「【請求項1】 パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、 前記紙基材が、無機顔料を含み、 前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%であり、 JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である、ヒートシール紙。 【請求項2】 前記無機顔料が、タルク、カオリン、炭酸カルシウムおよび酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のヒートシール紙。 【請求項3】 前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記ヒートシール成分の総質量に対して90質量%以上である請求項1または2に記載のヒートシール紙。」 「【請求項5】 前記ヒートシール紙の前記ヒートシール成分が付着した面同士を、140℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールし、引張速度300mm/分でT字剥離したときの剥離強度が2N/15mm以上である請求項1または2に記載のヒートシール紙。 【請求項6】 前記ヒートシール紙をJIS P 8220-1:2012に準拠して離解したパルプのJIS P 8121-2:2012に準拠して測定されるカナダ標準ろ水度が300~600mLである請求項1または2に記載のヒートシール紙。 【請求項7】 ピロー包装用である請求項1または2に記載のヒートシール紙。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 以下、本件訂正前の請求項1~7に係る発明を「本件訂正前発明1」等という。 1 令和6年12月25日に申立人1が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 以下、順に「甲第1号証」を「甲A1」のようにいう。 (1)申立理由1-1(甲A1に基づく拡大先願) 本件訂正前発明1~4、6及び7は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開がされた特許出願(下記の甲A1に係る特許出願)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件訂正前発明1~4、6及び7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由1-2(甲A2に基づく新規性) 本件訂正前発明1~3、7は、下記の甲A2に記載された発明であるから、本件訂正前発明1~3、7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由1-3(甲A2に基づく進歩性) 本件訂正前発明1~3、5及び7は、甲A2及び甲A3に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)証拠方法 甲A1:特願2022-113259号(特開2024-11338号) 甲A2:特開2022-134478号公報 甲A3:中田幸次郎、「製紙用白色粉体の効用について」、Gypsum & Lime、No.242(1993)、39~49ページ 甲A4:特開2022-11700号公報 2 令和7年1月8日に申立人2が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 以下、順に「甲第1号証」を「甲B1」のようにいう。 (1)申立理由2-1(甲B11に基づく拡大先願) 本件訂正前発明1~7は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開がされた特許出願(下記甲B11に係る特許出願。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2-2(甲B1に基づく新規性・進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲第1号証に記載された発明であるか、下記甲B1に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由2-3(甲B2に基づく新規性・進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B2に記載された発明であるか、下記甲B2に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項3号または同条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)申立理由2-4(甲B3に基づく新規性・進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B3に記載された発明であるか、下記甲B3に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してされたものである。 (5)申立理由2-5(甲B4に基づく新規性・進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B4に記載された発明であるか、下記甲B4に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してされたものである。 (6)申立理由2-6(甲B5に基づく新規性・進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B5に記載された発明であるか、下記甲B5に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してされたものである。 (7)申立理由2-7(甲B6に基づく新規性・進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B6に記載された発明であるか、下記甲B6に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してされたものである。 (8)申立理由2-8(甲B10に基づく新規性・進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B10に記載された発明であるか、下記甲B10に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してされたものである。 (9)申立理由2-9(甲B7に基づく進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B7に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (10)申立理由2-10(甲B14に基づく進歩性) 本件訂正前発明1~7は、下記甲B14に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (11)申立理由2-11(実施可能要件) 本件訂正前発明1~7に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 本件訂正前の請求項1~7において、無機顔料の種類及び粒径について規定されておらず、本件訂正前発明1~7の全域にわたって、実施例に示された効果と同様の効果が得られるとは当業者は認識できない。 イ 実施例で用いられているヒートシール成分はポリ乳酸のみであり、ポリブチレンサクシネートを用いた場合も実施例と同様な効果が得られるか当業者は認識することができないため、本件訂正前発明1~7の全域にわたって、実施例に示された効果と同様な効果が得られるとは当業者は認識できない。 ウ 本件訂正前の請求項1~7には、ポリ乳酸及びポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量については規定されておらず、環境負荷が小さくなるという効果が得られるかどうかは保証されない。 エ 実施例10は、製袋適正の評価結果が「C」であり、実施することが困難であることを示しており、本件訂正前発明1~3、5~7の範囲に含まれる実施形態であっても、実際には実施ができない実施形態が含まれる。 (12)申立理由2-12(サポート要件) 本件訂正前発明1~7に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 無機顔料の種類及び粒径は発明の作用機構に影響するが、本件訂正前の請求項1~7において規定されておらず、本件訂正前発明1~7の全域にわたって本件特許の発明が解決しようとする課題を解決することができるとはいえない。 イ 本件特許の明細書に記載の実施例で用いられているヒートシール成分はポリ乳酸のみであり、ポリブチレンサクシネートを用いた場合も発明が解決しようとする課題を解決できるとはいえないため、本件訂正前特許1~7の全域にわたって本件特許の発明が解決しようとする課題を解決することができるとはいえない。 ウ 本件訂正前の請求項1~7にはポリ乳酸及びポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量については規定されておらず、発明の詳細な説明に記載された内容は本件訂正前請求項1~7の全域まで拡張ないし一般化が可能であるとはいえない。 エ 本件特許の明細書における実施例10は、製袋適正の評価結果が「C」であり、実施することが困難であることを示しており、本件訂正前発明1~3、5~7の範囲に含まれる実施形態であっても、発明が解決しようとする課題を解決することができない実施形態が含まれる。 (13)申立理由2-13(明確性) 本件訂正前発明1~7に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア ヒートシール紙の中で紙基材の部分のみを他の部分と分離して取り出す方法については本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないため、製品としてのヒートシール紙について、どのように紙基材の総質量を測定すればよいかは不明であり、また紙基材中の無機顔料の質量をヒートシール成分中に含まれうる無機顔料(本件明細書の段落0049)と分離して測定するやり方についても不明である(本件訂正前発明1~7)。 イ 本件特許の明細書に記載の実施例1の記載を見ても、紙基材の総量がどのように計算された値であるのか、不明である(本件訂正前発明1~7)。 ウ ヒートシール成分とはどのように定義されるのかについて記載されておらず、ヒートシール成分の範囲にはどのような成分まで含まれるのかが不明であり、「ヒートシール成分の総質量」とはどのようにして求められる値であるのか不明である(本件訂正前発明3)。 (14)証拠方法 甲B1:国際公開第2013/182757号 甲B2:米国特許出願公開第2022/403602号明細書 甲B3:米国特許出願公開第2010/126685号明細書 甲B4:特開2022-134478号公報 甲B5:国際公開第2022/269141号 甲B6:国際公開第2022/243445号 甲B7:特開2022-102323号公報 甲B8:特許第7193029号公報 甲B9:国際公開第2023/282068号 甲B10:特開2022-149469号公報 甲B11:特開2024-11338号公報 甲B12:Raimo Alen, "Papermaking Science and Technology Book 4 Papermaking Chemistry", second edition, 2007年, p. 14, 54, 56-61(当審注:「Alen」の「e」はウムラウト) 甲B13:特願2023-012730号の優先権証明書 甲B14:特開2022-175023号公報 甲B15:特開2022-92203号公報 第5 取消理由の概要 当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 理由1.(拡大先願)請求項1~3、6、7に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた下記の特許出願又は実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。 理由2~理由6.(進歩性)請求項1~3、5~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 <引用文献等一覧> 甲A1(甲B11):特願2022-113259号(特開2024-11338号) 甲A2(甲B4):特開2022-134478号公報 甲A3:中田幸次郎、「製紙用白色粉体の効用について」、Gypsum & Lime、No.242(1993)、39~49ページ 甲B1:国際公開第2013/182757号 甲B7:特開2022-102323号公報 甲B10:特開2022-149469号公報 甲B14:特開2022-175023号公報 第6 当審における判断 1 当審において通知した取消理由について (1) 理由1(拡大先願)について ア 甲A1(甲B11)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「甲A1当初明細書等」という。)に記載されている発明 (ア) 甲A1当初明細書等に記載されている事項 甲A1当当初明細書等には、次の事項が記載されている。なお下線は当審において付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。 「【0019】 以上述べたように本発明によれば、プラスチックの使用量を低減し、かつヒートシール層面と原紙面の低温でのヒートシールにおいても良好なヒートシール強度を有する包装用紙を製造することが可能である。本発明の包装用紙を用いた容器製品であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。なお、本発明における包装用紙は、例えば、食品包装における一次袋や二次袋、アイスクリーム等の食糧カップ、カップ容器のフタ材、コーヒー等の飲料用コップ、ホットスナック等の食糧容器及びトレイ、箱、ケース、器等の紙製容器全般に加工可能である。」 「【0023】 図1(a)は、基紙13の一方の面に1層からなるヒートシール層11を設け、もう一方の面に1層からなる接着補助層16を設けた例である。図1(b)は基紙13の一方の面にアンダー層12をもう一方の面に印刷層15を設けて紙基材14とし、アンダー層12の上にヒートシール層最下層11b、ヒートシール層上層11aの計2層からなるヒートシール層11を塗工した。また、基紙13のもう一方の面に1層からなる接着補助層16を設けた例である。なお、図1(b)の例においては、ヒートシール層上層11aは複数層設けられても良い。 【0024】 本実施形態において、ヒートシール層は、アイオノマー、エチレン系コポリマー、熱可塑性ウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸及びポリブチレンサクシネートのいずれか1種以上を含むことを特徴とする。・・・」 「【0046】 本発明の実施形態において用いる基紙としては特に限定するものではなく、パルプを主成分とする公知の基紙を用いることができる。・・・ 【0047】 基紙としては填料を含有するものも使用できる。填料としては、カオリンクレー、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等)、焼成クレー、タルク、二酸化チタン、水酸化アルミニウムを例示できる。基紙中の填料含有量は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、例えば、1~30質量部である。例えば、パルプの乾燥質量100質量部に対して、軽質炭酸カルシウムを1~10質量部含むと良い。」 (イ) 甲A1発明 上記(ア)から、甲A1当初明細書等には、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されている。 「包装用紙は、基紙の一方の面に、ヒートシール層を設けるものであり、 ヒートシール層は、ポリ乳酸又はポリブチレンサクシネートを含むものとすることができ、 基紙は、パルプを主成分とするものであって、填料を含有することができ、軽質炭酸カルシウムの場合、パルプの乾燥質量100質量部に対して軽質炭酸カルシウムは1~10質量部含むものであり、 食品包装における一次袋や二次袋に加工可能である、包装用紙。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲A1発明とを対比する。 甲A1発明の「パルプを主成分とする」「基紙」は、本件発明1の「パルプを主成分とする紙基材」に相当する。 甲A1発明の「ポリ乳酸又はポリブチレンサクシネートを含む」「ヒートシール層」は、ポリ乳酸及びポリブチレンサクシネートが熱可塑性樹脂であることは技術常識であるから、本件発明1の「ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」む「熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分」に相当し、甲A1発明の「基紙の一方の面に、ヒートシール層を設ける」ことは、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ことに相当する。 甲A1発明の「包装用紙」は、「基紙の一方の面に、ヒートシール層を設け」るものであるから、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、 「パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、ヒートシール紙。」 で一致し、次の相違点で相違する。 <相違点A1-1> 本件発明1の「前記紙基材が、無機顔料を含み、前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である」のに対し、甲A1発明の基紙は、「填料を含有することができ、軽質炭酸カルシウムの場合、パルプの乾燥質量100質量部に対して軽質炭酸カルシウムは1~10質量部含むものであ」る点。 <相違点A1-2> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲A1発明は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、まず上記相違点A1-2について検討する。 甲A1発明には、その包装用紙(ヒートシール紙)の引裂強度及び曲げ抵抗についての特定はなく、甲A1当初明細書等にも一切記載されていない。仮に、甲A1発明の基材に含まれる填料が紙基材の総重量に対して1~20質量%の範囲であり、紙基材の離解フリーネスが300~600の範囲であるとしても、ヒートシール紙の引裂強度及び曲げ抵抗の値は単純にそれらの値で決まるものではなく、紙の材質、厚み、ヒートシール層の厚み、ヒートシール層に含まれる樹脂の種類等の複数の因子により決定されるものであるから、甲A1発明のT/Sが10以下となるものとはいえない。 そして、申立人らが提示した全ての証拠をみても、上記相違点A1-2に係る構成が当該技術分野において周知技術、慣用技術であるとする事情は窺えない。 また、上記相違点A1-2に係る構成を採用することによって、本件発明1に係るヒートシール紙は、「ピロー包装機での製袋時にヒートシール紙が破れることを抑制できる」(【0010】)との新たな効果を奏するものである。 してみると、上記相違点A1-2は、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。 以上より、上記相違点A1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1発明と同一の発明であるとはいえない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は甲A1発明と同一の発明であるとはいえない。 エ 小括 したがって、本件発明1~3、5~7は甲A1発明ではない。 (2)理由2(進歩性)について ア 甲B10 (ア)甲B10に記載されている事項 甲B10には、次の事項が記載されている。 「【0010】 本発明の紙製包装材料は、紙支持体と、前記紙支持体の片面に第一塗工層と、紙支持体を基準として前記第一塗工層の外側に第二塗工層と、及び紙支持体を基準として前記第二塗工層の外側に第三塗工層とを有する。・・・ 【0011】 紙支持体は、・・・セルロースパルプの少なくとも一種と、填料と、サイズ剤と、さらに必要に応じて定着剤、歩留まり向上剤、紙力剤等の各種添加剤とを含有する紙料から、酸性、中性又はアルカリ性の条件で従来公知の方法によって抄造された抄造紙である。・・・ 【0012】 填料は、製紙分野で従来公知の顔料である。顔料の例としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸バリウム、二酸化チタン、・・・等の無機顔料を挙げることができる。 ・・・ 【0014】 いくつかの実施態様において、紙製包装材料は、紙支持体の灰分量が3質量%以上10質量%以下である。・・・灰分量は、抄造紙中の填料含有量を調整する等の従来公知の方法で制御することができる。」 「【0031】 第三塗工層はヒートシール層である。ヒートシール層は、ヒートシールによって紙製包装材料を袋状に封止できるシール機能を有する。ヒートシール層である第三塗工層は、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂を含有する。・・・少なくとも一つの実施態様において、第三塗工層は、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂が第三塗工層を形成する乾燥固形分に対して85質量%以上である。これらの理由は、シール強度が良化するからである。 ・・・ 【0035】 ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂は、包装材料分野で従来公知の樹脂である。ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂の例としては、・・・、ポリ乳酸及びその塩、並びにポリブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートアジペート等の生分解性樹脂を挙げることができる。」 (イ)甲B10発明 上記(ア)から、甲B10には、次の発明(以下「甲B10発明」という。)が記載されている。 「紙支持体と、前記紙支持体の片面に第一塗工層と、加味し事態を基準として前記第一塗工層の外側に第二塗工層と、及び紙支持体を基準として前記第二塗工層の外側に第三塗工層とを有する紙製包装材料であって、 第三塗工層はヒートシール層であり、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂を含有し、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂は、ポリ乳酸及びその塩、並びにポリブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートアジペート等の生分解性樹脂とすることができ、 ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂が第三塗工層を形成する乾燥固形分に対して85質量%以上とすることにより、シール強度が良化され、 紙支持体は、セルロースパルプと、填料、サイズ剤等の各種添加剤を含有する紙料から抄造された抄造紙であり、 填料として、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン等の無機顔料が挙げられ、抄造紙中の填料含有量を調整することで制御できる紙支持体の灰分量は、柔軟性を得ることができかつ紙力を低下しないことから、3質量%以上10質量%以下である、紙製包装材料。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B10発明とを対比する。 甲B10発明の「紙支持体」は、「セルロースパルプと、填料、サイズ剤等の各種添加剤を含有する紙料から抄造され」るところ、このうち、「セルロースパルプ」が主成分であることは技術常識であるから、本件発明1の「パルプを主成分とする紙基材」に相当する。 甲B10発明の「ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂を含有」する「第三塗工層」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分」に相当する。 甲B10発明の「紙支持体」は「填料」として「無機顔料」を含むものであり、本件発明1の「紙基材が、無機顔料を含」むことに相当する。 甲B10発明の「紙製包装用紙」は、紙支持体に「ヒートシール層であ」る「第三塗工層」を設けるものであるから、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲B10発明とは、 「パルプを主成分とする紙基材に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分を設けたヒートシール紙であり、 前記紙基材が、無機顔料を含む、ヒートシール紙。」 で一致し、次の点で相違する。 <相違点B10-1> 本件発明1の「ヒートシール成分」が、「紙基材の少なくとも一方の面に」「付着し」ているのに対し、甲B10発明の「第三塗工層」は、「紙支持体と、前記紙支持体の片面に第一塗工層と、紙支持体を基準として前記第一塗工層の外側に第二塗工層と、及び紙支持体を基準として前記第二塗工層の外側に」設けられたものである点。 <相違点B10-2> 本件発明1の「前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むのに対し、甲B10発明の「熱可塑性樹脂は、ポリ乳酸及びその塩、並びにポリブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートアジペート等の生分解性樹脂」である点。 <相違点B10-3> 本件発明1の「前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である」のに対し、甲B10発明の「抄造紙中の填料含有量を調整することで制御できる紙支持体の灰分量は、柔軟性を得ることができかつ紙力を低下しないことから、3質量%以上10質量%以下であ」る点。 <相違点B10-4> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B10発明は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、まず上記相違点B10-4について検討する。 甲B10発明には、その紙製包装材料の引裂強度及び曲げ抵抗についての特定はなく、甲B10に記載や示唆もない。甲B10発明の紙支持体の灰分量は3質量%以上10質量%以下であり、本件発明1における無機顔料の含有量と同程度であるが、紙製包装材料の引裂強度及び曲げ抵抗の値は単純にその値で決まるものではなく、紙支持体の材質、厚み、塗工層の厚み、塗工層に含まれる樹脂の種類等の複数の因子により決定されるものであるから、甲B10発明のT/Sが10以下となるものとはいえない。 そして、申立人らが提示した全ての証拠をみても、上記相違点B10-4に係る本件発明1の構成について、記載も示唆も見いだせず、また、上記相違点B10-4に係る本件発明1の構成が当該技術分野において周知技術、慣用技術であるとする事情は窺えない。 したがって、甲B10発明において、上記相違点B10-4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 以上より、本件発明1は、上記相違点B10-1~B10-3について検討するまでもなく、甲B10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明の有する発明特定事項をすべて含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲B10発明に基いて当業者が容易に発明とすることができたものではない。 エ 小括 よって、本件発明1~3、5~7は、甲B10発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (3)理由3(進歩性)について ア 甲A2(甲B4) (ア) 甲A2(甲B4)に記載されている事項 甲A2(甲B4)には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 紙基材と、該紙基材の一方又は両方の面側に設けられたシーラント層と、を有し、 前記シーラント層が、ガラス転移温度が0℃以下かつ融点が60℃以上である生分解性樹脂(A)と、フィラー(B)と、を含有する、熱融着性多層シート。」 「【0015】 [熱融着性多層シート] 本実施形態の熱融着性多層シートは、 紙基材と、該紙基材の一方又は両方の面側に設けられたシーラント層と、を有し、 前記シーラント層が、ガラス転移温度が0℃以下かつ融点が60℃以上である生分解性樹脂(A)と、フィラー(B)と、を含有する、 熱融着性多層シートである。 【0016】 ・・・ 図1には、本実施形態の一例である熱融着性多層シート1の断面模式図が示されている。熱融着性多層シート1は、紙基材10の一方の面にシーラント層20が直接積層された構成を有する。 また、図2には、本実施形態の別の一例である熱融着性多層シート2の断面模式図が示されている。熱融着性多層シート2は、紙基材10の両方の面にシーラント層20が直接積層された構成を有する。 ・・・ 【0017】 <紙基材> 本実施形態に係る熱融着性多層シートが有する紙基材としては、特に制限はなく、熱融着性多層シートの用途に応じて適宜選択することができる。 紙基材としては、例えば、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、パーチメント紙、レーヨン紙、グラビア紙、アート紙、コート紙、再生紙、合成紙等の紙基材等が挙げられる。・・・」 「【0024】 生分解性樹脂(A)としては、・・・、脂肪族ポリエステル及びその誘導体がより好ましい。 【0025】 脂肪族ポリエステル及びその誘導体としては、例えば、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸を含有するポリエステル等が挙げられる。これらの中でも、生分解性及びヒートシール性の観点から、ポリブチレンサクシネート系樹脂が好ましい。」 「【0060】 [熱融着性多層シートの作製] 実施例1、比較例1~3 ・・・、紙基材上に厚さ15μmのシーラント層を有する熱融着性多層シートを得た。」 「【図1】 [図:0001436157000001.jpg] 【図2】 [図:0001436157000002.jpg] 」 (イ) 甲A2(甲B4)に記載されている発明 上記(ア)から、甲A2(甲B4)には、次の発明(以下「甲A2発明」という。)が記載されている。 「紙基材と、該紙基材の一方又は両方の面上に設けられたシーラント層とを有し、前記シーラント層が、ガラス転移温度が0℃以下かつ融点が60℃以上である生分解性樹脂(A)と、フィラー(B)とを含有する熱融着性多層シートであって、 生分解性樹脂(A)としては、脂肪族ポリエステル及びその誘導体が好ましく、脂肪族ポリエステル及びその誘導体としては、例えば、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸を含有するポリエステル等が挙げられ、これらの中でも、生分解性及びヒートシール性の観点から、ポリブチレンサクシネート系樹脂が好ましいとされ、 紙基材としては、例えば、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、パーチメント紙、レーヨン紙、グラビア紙、アート紙、コート紙、再生紙、合成紙等である、熱融着性多層シート。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲A2発明を対比する。 甲A2発明の「紙基材」は、「例えば、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、パーチメント紙、レーヨン紙、グラビア紙、アート紙、コート紙、再生紙、合成紙等であ」るところ、これらの紙がパルプを主成分とすることは技術常識であるから、本件発明1の「パルプを主成分とする紙基材」に相当する。 甲A2発明の「ガラス転移温度が0℃以下かつ融点が60℃以上である生分解性樹脂(A)」は溶融することから熱可塑性樹脂であり、甲A2発明の「紙基材の一方又は両方の面上に設けられたシーラント層」は、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ものに相当する。 甲A2発明の「脂肪族ポリエステル及びその誘導体が好ましく、脂肪族ポリエステル及びその誘導体としては、例えば、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸を含有するポリエステル等が挙げられ、これらの中でも、生分解性及びヒートシール性の観点から、ポリブチレンサクシネート系樹脂が好ましいとされ」る「生分解性樹脂(A)」と、本件発明1の「ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種」の「熱可塑性樹脂」とは、「ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る」「熱可塑性樹脂」という限りで一致する。 甲A2発明の「熱融着性多層シート」は、紙基材にシーラント層を設けるものであるから、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲A2発明とは、 「パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る、ヒートシール紙。」 で一致し、次の点で相違する。 <相違点A2-1> 熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含む得ることに関し、 本件発明1は、「前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むのに対し、甲A2発明は、「生分解性樹脂(A)としては、脂肪族ポリエステル及びその誘導体が好ましく、脂肪族ポリエステル及びその誘導体としては、例えば、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸、モノマー単位として3-ヒドロキシアルカン酸を含有するポリエステル等が挙げられ、これらの中でも、生分解性及びヒートシール性の観点から、ポリブチレンサクシネート系樹脂が好ましいとされ」る点。 <相違点A2-2> 本件発明1の「前記紙基材が、無機顔料を含み、前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である」のに対し、甲A2発明の紙基材は、無機顔料を含むとは特定されておらず、その含有量も特定されていない点。 <相違点A2-3> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲A2発明は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、まず上記相違点A2-3について検討する。 相違点A2-3は、相違点B10-4と実質的に同じであるので、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、甲A2発明において、相違点A2-3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 以上より、本件発明1は、上記相違点A2-1~A2-2について検討するまでもなく、甲A2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明の有する発明特定事項をすべて含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲A2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 小括 したがって、本件発明1~3、5~7は、甲A2(甲B4)発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (4)理由4(進歩性)について ア 甲B1 (ア)甲B1に記載されている事項 甲B1には、次の事項が記載されているといえる(当審訳を記載する。)。 「包装材料は、セルロース含有天然繊維を含む基紙、前記基紙の少なくとも一方の面上にある第1のコーティング、並びに、第2のコーティングを含み、前記第2のコーティングは、バイオポリマーを含む1つ又は複数のコーティング層を含むものである。」(1ページ24~36行) 「第2のコーティングは、1つ又は複数のバイオポリマーを含み、バイオポリマーとして、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートを含み得るものである。バイオポリマーは、第2のコーティングのうち、最も有利には少なくとも90%又は少なくとも95%を構成する。」(8ページ15行~9ページ9行) 「第2のコーティングにヒートシール適性を持たせることができる。」(10ページ25~35行、11ページ10~11行) 「基紙は、セルロース含有天然繊維を、典型的には紙における主要原材料として含み、さらに、1つ又は複数の填料及び/又は添加剤を含んでもよい。」(7ページ21~24行) 「基紙の填料含有量は最も有利には8~15%である。」(12ページ13~15行) 「 [図:0001436157000003.jpg] 」(Fig.1a) (イ)甲B1に記載されていると認められる事項 Fig.1aには、基紙4の一方の面に第1のコーティング3、他方の面に第2のコーティング6が設けられていることが示されている。 (ウ)甲B1に記載されている発明 上記(ア)及び(イ)から、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されている。 「セルロース含有天然繊維を含む基紙、前記基紙の少なくとも一方の面上にある第1のコーティング、並びに、第2のコーティングを含み、前記第2のコーティングは、バイオポリマーを含む1つ又は複数のコーティング層を含むものである、包装材料であって、 第2のコーティングは、1つ又は複数のバイオポリマーを含み、バイオポリマーとして、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートを含み得るものであり、バイオポリマーは、第2のコーティングのうち、最も有利には少なくとも90%又は少なくとも95%を構成し、第2のコーティングにヒートシール適性を持たせることができるものであり、 基紙は、セルロース含有天然繊維を紙における主要原材料として含み、さらに、1つ又は複数の填料及び/又は添加剤を含んでもよく、基紙の填料含有量は最も有利には8~15%であり、 基紙の一方の面に第1のコーティング、他方の面に第2のコーティングが設けられている、包装材料。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B1発明を対比する。 甲B1発明の「基紙」は、「セルロース含有天然繊維を紙における主要原材料として含」むものであり、本件発明1の「パルプを主成分とする紙基材」に相当する。 甲B1発明の「第2のコーティング」は、「1つ又は複数のバイオポリマーを含み」、基紙の「他方の面に」設けられ、「ヒートシール適性を持たせることができるものであ」るところ、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ものとは、「紙基材の少なくとも一方の面に、樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ものという限りで一致する。 甲B1発明の「バイオポリマー」が「ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートを含み得るもの」であるところ、本件発明1の「熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むこととは、「樹脂」が、「ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る」という限りで一致する。 甲B1発明の「包装材料」は、基紙にヒートシール適性を持たせた第2のコーティングを設けるものであるから、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲B1発明とは、 「パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る、ヒートシール紙。」 で一致し、次の点で相違する。 <相違点B1-1> 樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得ることに関し、本件発明1は、「前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むのに対し、甲B1発明は、「バイオポリマーとして、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートを含み得るものであ」る点。 <相違点B1-2> 本件発明1の「前記紙基材が、無機顔料を含み、前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である」のに対し、甲B1発明の基紙は、「1つ又は複数の填料及び/又は添加剤を含んでもよく、基紙の填料含有量は最も有利には8~15%であ」る点。 <相違点B1-3> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B1発明は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、まず上記相違点B1-3について検討する。 相違点B1-3は、相違点B10-4と実質的に同じであるので、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、甲B1発明において、相違点B1-3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 以上より、上記相違点B1-1~B1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明の有する発明特定事項をすべて含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲B1発明に基いて当業者が容易に発明とすることができたものではない。 エ 小括 したがって、本件発明1~3、5~7は、甲B1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (5)理由5(進歩性)について ア 甲B7 (ア)甲B7に記載されている事項 甲B7には、次の事項が記載されている。 「【0010】 <ヒートシール紙> 本発明の実施形態に係るヒートシール紙(以下、単に「ヒートシール紙」ともいう)は、紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層のヒートシール層を有するヒートシール紙であって、前記ヒートシール層が、ヒートシール性樹脂、顔料、およびシランカップリング剤が配合されてなる。・・・」 「【0021】 (任意成分) 紙基材には、必要に応じて、たとえば、アニオン性、カチオン性もしくは両性の歩留剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤、定着剤、填料等の内添助剤、耐水化剤、染料、蛍光増白剤等の任意成分を含んでいてもよい。 ・・・ 【0022】 ・・・ 填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の無機填料、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の有機填料が挙げられる。 ・・・ 【0024】 (紙基材の製造方法) ・・・ 紙料におけるパルプの含有量は、特に限定されず、通常用いられている範囲であってよい。たとえば、紙料の総質量に対して、60質量%以上100質量%未満である。」 「【0028】 ヒートシール性樹脂の骨格となるポリマーとしては、・・・、生分解性樹脂(ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体)、およびこれらの変性物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 【0029】 これらの中でも、高いヒートシール強度を有することから、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。 ・・・」 (イ)甲B7に記載されている発明 上記(ア)から、甲B7には、次の発明(以下「甲B7発明」という。)が記載されている。 「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層のヒートシール層を有するものであって、前記ヒートシール層が、ヒートシール性樹脂、顔料、およびシランカップリング剤が配合されてなるヒートシール紙であって、 ヒートシール性樹脂の骨格となるポリマーとしては、高いヒートシール強度を有することから、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、このうち生分解性樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体が挙げられ、 紙基材を製造する紙料におけるパルプの含有量は、紙料の総質量に対して60質量%以上100質量%未満であり、 紙基材には、必要に応じて、填料等の内添助剤を含んでいてもよく、填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機填料が挙げられる、ヒートシール紙。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B7発明を対比する。 甲B7発明の「紙基材」は、「紙料におけるパルプの含有量は、紙料の総質量に対して60質量%以上100質量%未満」であり、本件発明1の「パルプを主成分とする紙基材」に相当する。 甲B7発明の「ヒートシール層」は、「紙基材の少なくとも一方の面に」設けられ、「ヒートシール性樹脂」が配合されたものであるところ、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ものとは、「紙基材の少なくとも一方の面に、樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ものという限りで一致する。 甲B7発明の「ヒートシール性樹脂」は、「骨格となるポリマーとしては、高いヒートシール強度を有することから、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、このうち生分解性樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体が挙げられ」るところ、本件発明1の「熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むこととは、「樹脂」が、「ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る」という限りで一致する。 甲B7発明の「ヒートシール紙」は、紙基材にヒートシール層を設けるものであり、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲B7発明とは、 「パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る、ヒートシール紙。」 で一致し、次の点で相違する。 <相違点B7-1> 樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得ることに関し、 本件発明1は、「前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むのに対し、甲B7発明は、「ヒートシール性樹脂の骨格となるポリマーとしては、高いヒートシール強度を有することから、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、このうち生分解性樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸・3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体が挙げられ」る点。 <相違点B7-2> 本件発明1の「前記紙基材が、無機顔料を含み、前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である」のに対し、甲B7発明の「紙基材には、必要に応じて、填料等の内添助剤を含んでいてもよく、填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機填料が挙げられる」点。 <相違点B7-3> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B7発明は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、まず上記相違点B7-3について検討する。 相違点B7-3は、相違点B10-4と実質的に同じであるので、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、甲B7発明において、相違点B7-3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 以上より、上記相違点B7-1~B7-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明の有する発明特定事項をすべて含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲B7発明に基いて当業者が容易に発明とすることができたものではない。 エ 小括 したがって、本件発明1~3、5~7は、甲B7発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (6)理由6(進歩性)について ア 甲B14 (ア)甲B14に記載されている事項 甲B14には、次の事項が記載されている。 「【0011】 [ヒートシール紙] 本実施形態のヒートシール紙(以下、単に「ヒートシール紙」ともいう)は、紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層のヒートシール層を有し、前記ヒートシール層が、アスペクト比20以上の顔料およびヒートシール性樹脂を含み、・・・」 「【0020】 (任意成分) 紙基材には、さらに必要に応じて、たとえば、アニオン性、カチオン性もしくは両性の歩留剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、サイズ剤、填料等の内添助剤、染料、蛍光増白剤等の任意成分を含んでいてもよい。 ・・・ 填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の無機填料、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の有機填料が挙げられる。 ・・・ 【0022】 (紙基材の製造方法) 紙基材を製造する方法としては、パルプを含有する紙料を抄紙する方法が挙げられる。なお、紙料は、添加剤をさらに含有してもよい。添加剤としては、たとえば前記で挙げた添加剤が挙げられる。 紙料は、パルプスラリーに必要に応じて添加剤を添加することにより調製できる。 パルプスラリーは、パルプを水の存在下で叩解することにより得られる。パルプの叩解方法、叩解装置は特に限定されず、公知の叩解方法、叩解装置と同様であってよい。 紙料におけるパルプの含有量は、特に限定されず、通常用いられている範囲であってよい。たとえば、紙料の総質量に対して、60質量%以上100質量%未満である。」 「【0027】 ヒートシール性樹脂の骨格となるポリマーとしては、・・・、生分解性樹脂(ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸/3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体)、・・・等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。 これらの中でも、高いヒートシール強度を得る観点から、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、・・・」 (イ)甲B14に記載されている発明 上記(ア)から、甲B14には、次の発明(以下「甲B14発明」という。)が記載されている。 「紙基材の少なくとも一方の面に、少なくとも1層のヒートシール層を有し、前記ヒートシール層が、アスペクト比20以上の顔料およびヒートシール性樹脂を含むヒートシール紙であって、 ヒートシール性樹脂の骨格となるポリマーとしては、高いヒートシール強度を得る観点から、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、このうち生分解性樹脂には、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸/3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体が挙げられ、 紙基材を製造する紙料におけるパルプの含有量は、紙料の総質量に対して60質量%以上100質量%未満であり、 紙基材には、必要に応じて、填料等の内添助剤を含んでいてもよく、填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機填料が挙げられる、ヒートシール紙。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B14発明を対比する。 甲B14発明の「紙基材」は、「紙料におけるパルプの含有量は、紙料の総質量に対して60質量%以上100質量%未満」であり、本件発明1の「パルプを主成分とする紙基材」に相当する。 甲B14発明の「ヒートシール層」は、「紙基材の少なくとも一方の面に」設けられ、「ヒートシール性樹脂」が配合されたものであるところ、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ものとは、「紙基材の少なくとも一方の面に、樹脂を含むヒートシール成分が付着した」ものという限りで一致する。 甲B14発明の「ヒートシール性樹脂」は、「骨格となるポリマーとしては、高いヒートシール強度を得る観点から、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、このうち生分解性樹脂には、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸/3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体が挙げられ」るところ、本件発明1の「熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むこととは、「樹脂」が、「ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る」という限りで一致する。 甲B14発明の「ヒートシール紙」は、紙基材にヒートシール層を設けるものであり、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲B14発明とは、 「パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、 樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得る、ヒートシール紙。」 で一致し、次の点で相違する。 <相違点B14-1> 樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートを含み得ることに関し、 本件発明1は、「前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含」むのに対し、甲B14発明は、「ヒ骨格となるポリマーとしては、高いヒートシール強度を得る観点から、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン/不飽和カルボン酸系共重合体および生分解性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、このうち生分解性樹脂には、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、3-ヒドロキシブタン酸/3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体が挙げられ」る点。 <相違点B14-2> 本件発明1の「前記紙基材が、無機顔料を含み、前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である」のに対し、甲B14発明の「紙基材には、必要に応じて、填料等の内添助剤を含んでいてもよく、填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機填料が挙げられる」点。 <相違点B14-3> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B14発明は、この点を特定しない点。 事案に鑑み、まず上記相違点B14-3について検討する。 相違点B14-3は、相違点B10-4と実質的に同じであるので、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、甲B14発明において、相違点B14-3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 以上より、上記相違点B14-1~B14-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B14発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明1の有する発明特定事項をすべて含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲B14発明に基いて当業者が容易に発明とすることができたものではない。 エ 小括 したがって、本件発明1~3、5~7は、甲B14発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 (7)まとめ 以上のとおり、本件発明1~3、5~7は、当審において通知した取消理由によっては取り消すべきものではない。 2 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由に採用しなかった申立理由について、以下検討する。 (1)申立理由1-2(甲A2に基づく新規性)及び申立理由2-5(甲B4に基づく新規性)について ア 甲A2発明 甲A2(甲B4)に記載されている甲A2発明は、上記1(3)アに示したとおりである。 イ 甲A2(甲B4)に基づく新規性について 本件発明1と甲A2発明は、上記1(3)イに示した相違点A2-1~A2-3で相違する。そして、これらの相違点は実質的なものである。 したがって、本件発明1は、甲A2発明ではない。 また、本件発明2~3、5~7は、本件発明1の有する発明特定事項をすべて含むものであるから、同様に、甲A2発明ではない。 ウ 小括 よって、申立理由1-2(甲A2に基づく新規性)及び申立理由2-5(甲B4に基づく新規性)には理由がない。 (2)申立理由2-2(甲B1に基づく新規性)について ア 甲B1発明 甲B1に記載されている甲B1発明は、上記1(4)アに示したとおりである。 イ 甲B1に基づく新規性について 本件発明1と甲B1発明とを対比すると、上記1(4)イに示した相違点B1-1~B1-3で相違し、これらの相違点は実質的なものであるから、本件発明1は甲B1発明ではない。 本件発明2~3、5~7は、本件発明1の有する発明特定事項をすべて含むものであるから、同様に甲B1発明ではない。 したがって、本件発明1~3、5~7は、甲B1発明ではない。 ウ 小括 よって、申立理由2-2(甲B1に基づく新規性)には理由がない。 (3)申立理由2-3(甲B2に基づく新規性・進歩性)について ア 甲B2に記載されている発明 甲B2(明細書段落0001、0002、0011、0012、0013、0017、0018、0022、0028~0030、請求項1、2等参照。)には、次の発明(以下「甲B2発明」という。)が記載されている。 「パルプを主成分とする紙基剤の少なくとも一方の面がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン系コポリマー及びターポリマー、並びにアイソマーからなる群から、又はポリオレフィン非含有コーティング材料からなる群から選ばれるコーティング材料でコーティングされていて、一次パルプが4. 5 %未満の填料を含むヒートシール紙。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B2発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。 <相違点B2> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B2発明は、この点を特定しない点。 上記相違点B2について検討するところ、当該相違点B2は実質的なものである。 また、甲B2発明には、そのヒートシール紙の引裂強度及び曲げ抵抗についての特定はなく、甲B2に切記載や示唆もない。 そして、申立人らが提示した全ての証拠をみても、上記相違点B2に係る本件発明1の構成について、記載も示唆も見いだせず、また、上記相違点B2に係る本件発明1の構成が当該技術分野において周知技術、慣用技術であるとする事情は窺えない。 してみると、上記相違点B2は、当業者といえども、容易に想到し得たものということはできない。 したがって、本件発明1は、甲B2発明ではないし、甲B2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明1の有する発明特定事項を全て含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲B2発明ではないし、甲B2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 小括 よって、申立理由2-3(甲B2に基づく新規性・進歩性)は理由がない。 (4)申立理由2-4(甲B3に基づく新規性・進歩性)について ア 甲B3発明 甲B3(要約、明細書段落0003、0006、0007、0016、0027、0031、0033、0072、0073、請求項1、2、4、7、12、14、15、図2等参照。)には、次の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されている。 「基材層、フィラー層、及びキャップ層を含む板紙であって、前記フィラー層が基材層とキャップ層との間に配置されており、前記フィラー層はフィラー材料を含み、前記キャップ層はポリ乳酸系樹脂を含み、前記キャップ層はフィラー材料を実質的に含まない板紙を含む紙製品。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B3発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。 <相違点B3> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B3発明は、この点を特定しない点 上記相違点B3について検討するところ、当該相違点B2は実質的なものである。 また、甲B3発明には、その紙製品の引裂強度及び曲げ抵抗についての特定はなく、甲B3に記載や示唆もない。 そして、申立人らが提示した全ての証拠をみても、相違点B3に係る本件発明1の構成について、記載も示唆も見いだせず、また、上記相違点B3に係る本件発明1の構成が当該技術分野において周知技術、慣用技術であるとする事情は窺えない。 してみると、上記相違点B3は、当業者といえども、容易に想到し得たものということはできない。 以上より、本件発明1は、甲B3発明ではないし、甲B3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明1の有する発明特定事項を全て含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲B2発明ではないし、甲B3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 小括 よって、申立理由2-4(甲B3に基づく新規性・進歩性)には理由がない。 (5)申立理由2-6(甲B5に基づく新規性・進歩性)について ア 甲B5に記載されている発明 甲B5(明細書3ページ12~25行、6ページ5行、6ページ16~22行、7ページ30行~8ページ4行、8ページ9~11行、8ページ16~17行、8ページ28~30行、10ページ19~22行、請求項1、5、7、10~12等参照。)には、次の発明(以下「甲B5発明」という。)が記載されている。 「-セルロース繊維を含み、第1の大表面を含む基材、ここで、少なくとも第1のコーティング層及び第2のコーティング層が、前記基材の第1の大表面上にカーテンコーティングで付与されてバリアコーティングを形成し、前記第2のコーティング層が前記シート状製品の表面を形成する、 -前記第1のコーティング層は、第1の結晶化度及び第1の融点を有する第1のポリマーを含む、及び -前記第2のコーティング層は、第2の結晶化度及び第2の融点を有する第2のポリマーを含む、 を含む、紙等のシート状製品であって、 前記第1のポリマーはバイオベース及び/又は生分解性のポリマーであり、前記第2のポリマーの前記第2の結晶化度及び/又は前記第2の融点は、前記第1のポリマーの前記第1の結晶化度及び/又は前記第1の融点よりも高い、前記シート状製品。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B5発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。 <相違点B5> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B5発明は、この点を特定しない点。 上記相違点B5について検討するところ、当該相違点B2は実質的なものである。 また、甲B5発明には、そのシート状製品の引裂強度及び曲げ抵抗についての特定はなく、甲B5に記載や示唆もない。 そして、申立人らが提示した全ての証拠をみても、上記相違点B5に係る本件発明1の構成について、記載も示唆も見いだせず、また、上記相違点B5に係る本件発明1の構成が当該技術分野において周知技術、慣用技術であるとする事情は窺えない。 してみると、上記相違点B5は、当業者といえども、容易に想到し得たものということはできない。 以上より、本件発明1は、甲B5発明ではないし、甲B5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明1の有する発明特定事項を全て含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は甲B5発明ではないし、甲B5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 小括 よって、申立理由2-6(甲B5に基づく新規性・進歩性)には理由がない。 (6)申立理由2-7(甲B6に基づく新規性・進歩性)について ア 甲B6に記載されている発明 甲B6(明細書3ページ14~18行、4ページ16~31行、5ページ18~24行、25ページ20~24行、34ページ14行~35ページ3行、36ページ表2、38ページ表3、請求項1~4、6~7、10、17、20~22、26等参照。)には、次の発明(以下「甲B6発明」という。)が記載されている。 「セルロース層と、 前記セルロース層の少なくとも片面上のコーティングと を含むコート紙であって、 前記コーティングが、 ワックスと、 ポリエステル、多糖類、多糖エステル、多糖エーテル及び多糖エーテルエステルからなる群から選択されるポリマーと を含む、コート紙。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲B6発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。 <相違点B6> 本件発明1は、「JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である」と特定するのに対し、甲B6発明は、この点を特定しない点 上記相違点B6について検討するところ、当該相違点B2は実質的なものである。 また、甲B6には、「コート紙の縦方向の曲げ剛性は、好ましくは0.05~0.4Nmm、より好ましくは0.10~0.25Nmmである。横方向の曲げ剛性は、好ましくは0.01~0.1Nmm、より好ましくは0.01~0.06Nmmである。」(明細書25ページ11~14行)、「コート紙は、好ましくは100~1000mN、より好ましくは300~800mN、更により好ましくは500~800mNの縦方向の引裂抵抗を有する。横方向の引裂抵抗は、好ましくは100~1000mN、より好ましくは300~800mN、更により好ましくは500~800mNである。」(明細書第25ページ20~24行)と記載されている。ここで、甲B6の「縦方向」及び「横方向」とは、それぞれ本件発明1の「MD」及び「CD」である。 しかし、甲B6には、本件発明1に係る「引裂強度(mN)」及び「曲げ抵抗(mN)」に相当する記載はないし、甲B6の「曲げ剛性」及び「引裂抵抗」から本件発明1に係る「引裂強度(mN)」及び「曲げ抵抗(mN)」を求めることができるとの合理的な理由もなく、甲2-6発明(甲B6発明)における値をT/Sで表したとしても、10以上となるものではない。 そして、申立人らが提示した全ての証拠をみても、上記相違点B6に係る本件発明1の構成について、記載も示唆も見いだせず、また、上記相違点B6に係る本件発明1の構成が当該技術分野において周知技術、慣用技術であるとする事情は窺えない。 してみると、上記相違点B6は、当業者といえども、容易に想到し得たものということはできない。 以上より、本件発明1は、甲B6発明ではないし、甲B6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2~3、5~7について 本件発明2~3、5~7は、本件発明1の有する発明特定事項を全て含むものであるから、上記イと同様、本件発明2~3、5~7は、甲B6発明ではないし、甲B6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 小括 よって、申立理由2-7(甲B6に基づく新規性・進歩性)には理由がない。 (7)申立理由2-8(甲B10に基づく新規性)について ア 甲B10発明 甲B10に記載された甲B10発明は、上記1(2)アに示したとおりである。 イ 甲B10に基づく新規性について 上記1(2)イ、ウに示したとおり、本件発明1~3、5~7と甲B10発明を対比すると、両者は少なくとも相違点B10-1~B10-4で相違するから、本件発明1~3、5~7は甲B10発明ではない。 ウ 小括 よって、申立理由2-8(甲B10に基づく新規性)には理由がない。 (8)申立理由2-11(実施可能要件)について ア 実施可能要件の判断基準 本件発明は、物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要するものである。以下、この観点に立って、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かについて検討する。 イ 本件発明について 発明の詳細な説明の【0010】~【0012】にはT/Sについて、【0019】~【0030】には紙基材について、【0031】~【0049】にはヒートシール成分について、【0050】~【0057】にはヒートシール紙の製造方法について、それぞれ具体的に記載されており、【0060】~【0083】には、本件発明の実施例に相当するヒートシール紙が具体的な製造方法と共に記載されていて、その効果についても確認されている。 そうすると、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~3、5~7に係る「ヒートシール紙」を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。 よって、本件発明1~3、5~7に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 ウ 申立人2の申立理由2-11における主張について 申立人2は、申立理由2-11に関し、上記第4 2(11)のア~エの主張を行っているので、以下順に検討する。 (ア)主張ア~ウについて 実施可能要件の判断は、上記アの判断規範に従って行われるものであり、発明の詳細な説明に実施可能な実施形態が示されていればよいから、申立人2の主張ア~ウはいずれも失当であって採用できない。 (イ)主張エについて 本件訂正により、申立人2が主張している本件特許の詳細な説明に記載の実施例10は、本件発明1及びそれに従属する請求項2、3、5~7の実施例ではなくなったので、申立人2の申立理由は存在しない。 エ 小括 以上のとおりであるから、申立理由2-11には理由がない。 (9)申立理由2-12(サポート要件)について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 本件発明の課題 本件特許の【0004】~【0005】の記載から、「ポリ乳酸やポリブチレンサクシネートは生分解性に優れるため、これらの樹脂をヒートシール紙のヒートシール層に用いることで、環境負荷をさらに軽減できる。しかし、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネートをヒートシール層に用いたヒートシール紙は、剛度が高いため、加工時、特にピロー包装機での製袋(ピロー加工)時にシワが発生しやすい。」ことを前提として、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は「ピロー加工においてもシワが発生しにくいヒートシール紙を提供すること」である。 ウ サポート要件の判断 本件発明1は「パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記紙基材が、無機顔料を含み、 前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%であり、 JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である、ヒートシール紙。」と規定している。 ここで、【0010】には「ヒートシール紙のMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、MDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値は、10以上が好ましく、11.5以上がより好ましく、13以上がさらに好ましい。T/Sの上限は特に限定されないが、例えば50以下、または40以下とすることができる。引裂強度は、JIS P 8116:2000に準拠して測定される。曲げ抵抗は、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定される。本発明者は鋭意検討の結果、ヒートシール紙のT/Sが、ピロー包装機での製袋適性に影響することを見出した。Tは破れにくさの指標であり、Sは硬さの指標である。Sが高すぎる(硬すぎる)と、Tが高くても、ピロー包装機での製袋時に破れやすい。T/Sを10以上とすることで、ピロー包装機での製袋適性が向上し、ピロー包装機での製袋時にヒートシール紙が破れることを抑制できる。」と説明されており、【0060】~【0083】では、請求項1に規定する構成を有する実施例1~9が、製袋時のシワの発生がなく、製袋適性に優れることを確認している。 そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の当該記載により、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであると判断できる。 エ 申立人2の主張について 申立人2は、申立理由2-12に関し、上記第4 2(12)のア~エの主張を行っているので、以下順に検討する。 (ア)主張アについて サポート要件の判断は、上記アの判断規範に従って行われるものであり、その判断は上記のとおりであって、申立人2がアで主張する、ヒートシール紙中における無機顔料の粒径とその種類は、本件発明の課題解決手段ではないから、申立人2の主張アは失当であって採用できない。 (イ)主張イについて 発明の詳細な説明の【0010】の記載や、【0060】~【0083】の実施例についての記載を参照すると、ヒートシール成分に含まれる熱可塑性樹脂がポリ乳酸である場合に、本件発明は、引裂強度と曲げ抵抗という物理的な性質について、ヒートシール紙のMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、MDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である場合に、上記発明が解決しようとする課題を解決できると当業者であれば認識できるところ、ヒートシール成分に含まれる熱可塑性樹脂がポリブチレンサクシネートの場合についても、引裂強度と曲げ抵抗という物理的な性質について、T/Sで表される値が10以上であれば、上記発明が解決しようとする課題を解決できると当業者であれば認識できると推認される。したがって、申立人2の主張イも採用できない。 (ウ)主張ウについて サポート要件の判断は、上記アの判断規範に従って行われるものであり、その判断は上記のとおりであって、申立人2が主張ウで主張する、ヒートシール成分に含まれる熱可塑性樹脂の含有量については、本件発明の課題解決手段ではないから、申立人2の主張ウは失当であって採用できない。 (エ)主張エについて 本件訂正により、申立人2が主張している本件特許の詳細な説明に記載の実施例10は、本件発明1~3、5~7の実施例ではなくなったので、申立人2の申立理由は存在しない。 オ 小括 以上のとおりであるから、申立理由2-12には理由がない。 (10)申立理由2-13(明確性)について ア 明確性の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものである。 イ 明確性の判断 特許請求の範囲の記載は、上記第3に記載のとおりであり、それ自体で不明確な記載はなく、詳細な説明の記載とも整合している。 第三者に不測の不利益を及ぼすかどうかについて検討すると、第三者は製造するヒートシール紙が、本件特許の範囲内かどうかは、自分が製造するものであるから理解できる。してみれば、現在の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を与えるものであるとはいえない。 ウ 申立人2の主張について 申立人2は、申立理由2-13に関し、上記第4 2(13)のア~ウの主張を行っているので、以下順に検討する。 (ア)主張ア、イについて 本件発明1において、「無機顔料の含有量」は、「紙基材の総質量」に対する質量%であることは明確であり、「紙基材の総質量」も、ヒートシール成分が付着する前の紙基材の総質量であることは明確だから、本件発明1における「無機顔料の含有量」や「紙基材の総質量」との記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 そして、実施例の【表1】、【表2】に記載の数値は、ほぼ妥当な数値であるといえる。 よって、申立人2の主張アは失当であって採用できない。 (イ)主張ウについて 本件発明3で特定している「熱可塑性樹脂の含有量」は「ヒートシール成分の総質量」に対する質量%であることは明確であり、「ヒートシール成分の総質量」も、紙基材に付着したヒートシール成分の総質量であることは明確だから、請求人の主張は失当であり、採用できない。 エ 小括 以上のとおりであるから、申立理由2-13には理由がない。 (11)まとめ よって、取消理由に採用しなかった特許異議申立理由には理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項4に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てにおける請求項4に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700034

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