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特許異議申立

2021-700591

静電チャック

審判番号
2021-700591
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-051446外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6804053
請求日
2021年06月22日
審決日
2022年08月24日
公報発行日
2023年01月27日
結論
請求成立(取消)
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.536-ZAA(H01L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6804053号発明「静電チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6804053号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第6804053号の請求項1、4、5に係る特許を取り消す。 特許第6804053号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6804053号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年3月23日(優先権主張 平成31年3月28日)に出願され、令和2年12月4日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月23日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和3年 6月22日 :特許異議申立人 金 海松(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 8月23日付け:取消理由通知 同年10月12日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出 令和4年 1月 5日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年 3月 2日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出 同年 4月18日 :申立人による意見書の提出 同年 5月12日付け:審尋 同年 6月14日 :特許権者による回答書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和4年3月2日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」といい、本件訂正の請求を「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。 なお、令和3年10月12日にされた訂正請求は、本件訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「セラミック誘電体基板と、 前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、 前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、 を備え、 25℃における前記接合層の伸び率α2に対する-60℃における前記接合層の伸び率α1の比α1/α2は、0.80以上であることを特徴とする静電チャック。」 と記載されているのを、 「セラミック誘電体基板と、 前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、 前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、 を備え、 前記樹脂材料は、シリコーンを含み、 25℃における前記接合層の伸び率α2に対する-60℃における前記接合層の伸び率α1の比α1/α2は、0.80以上であり、 前記伸び率α1は、120%以上であり、 前記伸び率α2は、150%以上であることを特徴とする静電チャック。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項4、5も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1つに記載の静電チャック」と記載されているのを「請求項1記載の静電チャック」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する)。 なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~5〕に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「樹脂材料」、「伸び率α1」及び「伸び率α2」をそれぞれ限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 次に、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の【0036】には、「接合層60は、シリコーンを含むことが好ましい。」と記載されており、同【0049】には、「実施形態において、-60℃における接合層60の伸び率α1は、例えば、120%以上・・・である。」と記載されており、同【0051】には、「また、25℃における接合層60の伸び率α2は、例えば、150%以上・・・である。」と記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載されており、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項3を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項4が、請求項1~3のいずれか1つの記載を引用するとしていたのを、請求項1のみの記載を引用するとしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1~5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 セラミック誘電体基板と、 前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、 前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、 を備え、 前記樹脂材料は、シリコーンを含み、 25℃における前記接合層の伸び率α2に対する-60℃における前記接合層の伸び率α1の比α1/α2は、0.80以上であり、 前記伸び率α1は、120%以上であり、 前記伸び率α2は、150%以上であることを特徴とする静電チャック。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】 前記セラミック誘電体基板は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸化イットリウムのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載の静電チャック。 【請求項5】 前記セラミック誘電体基板は、酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項4記載の静電チャック。」 第4 取消理由の概要 令和4年1月5日付け取消理由通知で通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 1 取消理由1(実施可能要件) 本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 2 取消理由2(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 1 取消理由1(実施可能要件)について (1)判断手法 本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載されていることが必要であると解される。 (2)本件発明1の「接合層」は、「樹脂材料を含」み、「樹脂材料」は、「シリコーンを含」むものであるところ、その他の組成は特定されておらず、「25℃における前記接合層の伸び率α2に対する-60℃における前記接合層の伸び率α1の比α1/α2は、0.80以上であり」、「前記伸び率α1は、120%以上であり」、「前記伸び率α2は、150%以上である」という3つの特性(パラメータ)により特定されている。 (3)本件発明1の「接合層」の組成について、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ともいう。)には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。 「【0035】 接合層60は、樹脂材料を含む。実施形態において、接合層60は、極低温下において柔軟性を保つことが可能に構成される。例えば、接合層60は、シリコーン系、アクリル系、変性シリコーン系、あるいはエポキシ系の高分子材料であって炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、ケイ素(Si)、及び酸素(O)の少なくとも1つを主成分とする高分子材料を含む。 ここで、本願明細書において、「極低温」とは、-60℃以下の低温環境をいう。具体的には、-60℃~-120℃をいう。 【0036】 接合層60は、シリコーンを含むことが好ましい。接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすい。これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できる。 【0037】 接合層60において、シリコーンとして、シロキサン骨格に種々の官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることができる。より具体的には、シロキサン骨格に結合した官能基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。接合層60にこのような官能基を含むシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができる。」 上記【0035】~【0039】には、「接合層」における樹脂材料の種類、シロキサン骨格に結合する官能基の種類が例示されており、樹脂材料については、シリコーンを含むことが好ましいこと、接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと、さらに、シリコーンとして、シロキサン骨格に種々の官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることができること、より具体的には、シロキサン骨格に結合した官能基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つを含むことが好ましいこと、接合層60にこのような官能基を含むシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができることが記載されている。 そうすると、接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと、また、接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができることは、一応記載されているといえる。 しかし、上記【0035】~【0039】には、「接合層」の具体的な組成、「接合層」の製造方法及び製造条件、樹脂材料の分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されていない。 また、上記【0035】~【0039】には、「接合層」における樹脂材料の種類、シロキサン骨格に結合する官能基の種類が、「-60℃における前記接合層の伸び率α1」(以下、「伸び率α1」ともいう。)、「25℃における前記接合層の伸び率α2」(以下、「伸び率α2」ともいう。)、及び「25℃における前記接合層の伸び率α2に対する-60℃における前記接合層の伸び率α1の比α1/α2」(以下、「伸び率の比α1/α2」ともいう。)にどのように寄与するのかについては何ら記載も示唆もされていない。 さらに、上記【0035】~【0039】には、「接合層」の組成、「接合層」の製造方法及び製造条件、樹脂材料の分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量が、「伸び率α1」、「伸び率α2」及び「伸び率の比α1/α2」にどのように寄与するかについても何ら記載も示唆もされていない。 (4)次に、発明の詳細な説明には、本件発明1の「伸び率α1」、「伸び率α2」及び「伸び率の比α1/α2」について、以下の記載がある。 「【0086】 図5及び図6は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表すグラフである。 図6は、図5のA部を拡大したグラフである。 図7は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表す表である。 実施例1は、実施形態に係る静電チャック110の一例である。参考例1は、実施例1とは物性が異なる接合層60を有する静電チャックの一例である。 【0087】 図2(a)~図2(c)及び図3に示した測定・算出方法で測定・算出した実施例1及び参考例1の接合層60の伸び率α、接合強度β、及び弾性率γを図5~図7に示す。 【0088】 また、実施例1及び参考例1に対して、剥離/割れ試験を行った結果を図7に示す。剥離/割れ試験では、セラミック誘電体基板11とベースプレート50とを接合層60で接合したサンプルを作製し、サンプルを-60℃に少なくとも3000時間放置した後、室温に戻し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離の有無、及び、セラミック誘電体基板11の割れの有無を評価した。接合層60の剥離の有無は、接合層60の断面を顕微鏡で観察しクラックなどの有無を評価する直接観察と、超音波を当てて接合層60の内部のクラックなどの有無を評価する超音波探傷と、で行った。直接観察及び超音波探傷の少なくともいずれかでクラックが見られたものを剥離「あり」、直接観察及び超音波探傷の両方でクラックが見られなかったものを剥離「なし」と評価した。また、セラミック誘電体基板11の割れの有無は、セラミック誘電体基板11を目視で観察し、割れが見られたものを割れ「あり」、割れが見られなかったものを割れ「なし」と評価した。 【0089】 図5~図7に表したように、参考例1において、伸び率α1は107%、伸び率α2は195%、伸び率αの比α1/α2は0.5である。参考例1においては、接合層60がこのような伸び率α(伸び率比)を有するため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している。 【0090】 これに対し、実施例1において、伸び率α1は225%、伸び率α2は190%、伸び率αの比α1/α2は1.2である。実施例1においては、接合層60がこのような伸び率α(伸び率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0091】 このように、接合層60の伸び率α1を120%以上、または、伸び率αの比α1/α2を0.60以上にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。 【0092】 また、図5~図7に表したように、参考例1において、接合強度β1は29.8MPa、接合強度β2は0.56MPa、接合強度βの比β1/β2は53.2である。参考例1においては、接合層60がこのような接合強度β(接合強度比)を有するため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している。 【0093】 これに対し、実施例1において、接合強度β1は1.42MPa、接合強度β2は0.83MPa、接合強度βの比β1/β2は1.7である。実施例1においては、接合層60がこのような接合強度β(接合強度比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0094】 このように、接合層60の接合強度β1を0.4MPa以上10MPa以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。 【0095】 また、図5~図7に表したように、参考例1において、弾性率γ1は28MPa、弾性率γ2は0.29MPa、弾性率γの比γ1/γ2は96.6である。参考例1においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している。 【0096】 これに対し、実施例1において、弾性率γ1は0.63MPa、弾性率γ2は0.44MPa、弾性率γの比γ1/γ2は1.4である。実施例1においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0097】 このように、接合層60の弾性率γ1を0.1MPa以上10MPa以下、または、弾性率γの比γ1/γ2を0.6以上30以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。 【0098】 図8は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表す表である。 実施例2~14は、実施形態に係る静電チャック110の一例である。 実施例1及び参考例1と同様にして測定・算出した実施例2~14の接合層60の伸び率α、接合強度β、及び弾性率γを図8に示す。また、実施例1及び参考例1と同様にして剥離/割れ試験を行った結果を図8に示す。 【0099】 図8に表したように、実施例2~14において、伸び率α1は175%以上247%以下、伸び率α2は150%以上280%以下、伸び率αの比α1/α2は0.80以上1.17以下である。実施例2~14においては、接合層60がこのような伸び率α(伸び率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0100】 このように、接合層60の伸び率α1を120%以上、または、伸び率αの比α1/α2を0.60以上にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。 【0101】 図8に表したように、実施例2~14において、接合強度β1は0.70MPa以上1.90MPa以下、接合強度β2は0.51MPa以上1.60MPa以下、接合強度βの比β1/β2は0.8以上1.9以下である。実施例2~14においては、接合層60がこのような接合強度β(接合強度比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0102】 このように、接合層60の接合強度β1を0.4MPa以上10MPa以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。 【0103】 図8に表したように、実施例2~14において、弾性率γ1は0.34MPa以上1.02MPa以下、弾性率γ2は0.19MPa以上0.81MPa以下、弾性率γの比γ1/γ2は0.9以上2.1以下である。実施例2~14においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。 【0104】 このように、接合層60の弾性率γ1を0.1MPa以上10MPa以下、または、弾性率γの比γ1/γ2を0.6以上30以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。」 「【図5】 [図:0001393057000001.jpg] 【図6】 [図:0001393057000002.jpg] 【図7】 [図:0001393057000003.jpg] 【図8】 [図:0001393057000004.jpg] 」 上記【0086】~【0104】及び【図5】~【図8】には、参考例1では、伸び率αの比α1/α2は0.5であるため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している(【0089】、【図7】)のに対し、実施例1では、伸び率α1は225%、伸び率α2は190%、伸び率αの比α1/α2は1.2であるため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないこと(【0090】、【図7】)、実施例2~14では、伸び率α1は175%以上247%以下、伸び率α2は150%以上280%以下、伸び率αの比α1/α2は0.80以上1.17以下であるため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないこと(【0099】、【図8】)が記載されている。 しかし、上記【0086】~【0104】及び【図5】~【図8】には、参考例1及び実施例1~14の「接合層」の具体的な組成、「接合層」の製造方法及び製造条件は全く記載されていないし、「伸び率α1」、「伸び率α2」及び「伸び率の比α1/α2」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていない。 また、上記【0086】~【0104】及び【図5】~【図8】には、参考例1及び実施例1~14の「接合層」における樹脂材料が、シリコーンを含むものであること、当該シリコーンとして、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有するものであることは記載されていない。 そうすると、上記(3)において、上記【0035】~【0039】に一応記載されているとした、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと」、及び、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができること」は、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。 また、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むこと」又は、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いること」で、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」であり、「25℃における」「伸び率α2」が「150%以上」であり、かつ、「伸び率α1の比α1/α2」が「0.80以上」である「接合層」が得られることは、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。 (5)以上によれば、発明の詳細な説明には、「接合層」における樹脂材料の種類、シロキサン骨格に結合する官能基の種類は例示されているものの、「接合層」の組成、「接合層」の製造方法及び製造条件、樹脂材料の分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されておらず、「接合層」の組成、「接合層」の製造方法及び製造条件、樹脂材料の種類・分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の種類・含有量が、「伸び率α1」、「伸び率α2」及び「伸び率の比α1/α2」にどのように寄与するのかについて、また、「伸び率α1」、「伸び率α2」及び「伸び率の比α1/α2」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない。 そうすると、発明の詳細な説明には、「シリコーンを含み」、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」であり、「25℃における」「伸び率α2」が「150%以上」であり、かつ、「伸び率α1の比α1/α2」が「0.80以上」である「接合層」を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。 そして、「シリコーンを含み」、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」であり、「25℃における」「伸び率α2」が「150%以上」であり、かつ、「伸び率α1の比α1/α2」が「0.80以上」である「接合層」を製造する方法が、本件特許の出願当時において、技術常識であったとはいえない(以下の(6)イ参照)。 (6)特許権者の主張について ア 特許権者の主張の概要は以下のとおりである。 (ア)令和4年3月2日付け意見書7ページ下から2行~8ページ下から13行の主張 本件特許明細書の【0080】、【0082】の記載から、伸び率αと弾性率γとの関係は、γ=100×(β/α)との式で表され、この関係式に表されるように、シリコーンの伸び率と弾性率との間には、負の相関関係があり、そして、シリコーンの伸び率と弾性率との間に負の相関関係があることは、一般的に知られているため、乙第7号証の図6に記載の温度と弾性率との関係は、一般的に、温度と伸び率との関係と類似するといえ、つまり、シリコーンでは、流動点温度以上の温度において、弾性率と同様に、伸び率の変化が少ないことは、本件特許の出願当時の技術常識であり、そのため、-60℃における伸び率α1が決まれば、25℃における伸び率α2もα1に対応した所定の範囲内の値に決まり、つまり、-60℃における伸び率α1が120%以上となるようなシリコーンを得れば、過度な試行錯誤なく25℃における伸び率α2を150%以上とすることができ、以上のことから、-60℃における伸び率α1を調整することで、25℃における伸び率α2及び比α1/α2も同様に調整されることは、本件特許の出願当時の技術常識である。 したがって、当業者であれば、本件特許明細書の記載と、本件特許の出願当時の技術常識と、に基づいて、シリコーンにおけるシロキサン骨格に結合させる官能基の種類及び量を調整することにより、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要なく、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」であり、「25℃における」「伸び率α1」が「150%以上」であり、かつ、「伸び率の比α1/α2」が「0.80以上」である「接合層」を製造することができる。 (イ)令和4年6月14日付け回答書の11ページ下から10~6行の主張 力が一定の場合、伸び率と弾性率との間に負の相関があり、弾性率が大きい場合には一般的に硬くなり、硬い場合には一般的に伸び率が小さいことは、十分に理解でき、多くの例において「伸び率と弾性率との間に負の相関がある」という関係を満たすことが知られており、例えば、本件特許明細書の実施例2、6~14は、この関係を満たすものである一方で、この関係を満たさない場合もあり得、例えば、本件特許明細書の実施例1、3~5は、この例外に相当し、このように、本件特許明細書においても、数例を除く多くの実施例では、「伸び率と弾性率との間に負の相関がある」関係を満たしており、「伸び率と弾性率との間に負の相関がある」という関係は、シリコーンにおいて概ね当てはまるものであるといえる。 イ 判断 (ア)シリコーンの伸び率と弾性率との関係について a 発明の詳細な説明の実施例の記載について (a)本件発明1の実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を示す表である【図7】、【図8】(上記(4)参照)における、-60℃及び25℃の伸び率、接合強度、弾性率をまとめると以下の【図A】のとおりである。 【図A】 [図:0001393057000005.jpg] (b)まず、発明の詳細な説明には、実施例1~14の接合層に含まれる樹脂材料がシリコーンを含むものであることは記載されていない。 (c)そして、実施例1~14のうち、実施例2、6~10、12~14では、温度が上昇すると(-60℃から25℃になると)、伸び率は大きくなるのに対して、弾性率は小さくなっているから、伸び率と弾性率との間には負の相関関係があるといえる。 しかし、実施例1、4、11では、温度が上昇すると(-60℃から25℃になると)、伸び率と弾性率とはいずれも小さくなり、逆に、実施例3では、温度が上昇すると、伸び率と弾性率とはいずれも大きくなり、また、実施例5では、温度が上昇しても(-60℃から25℃になっても)、伸び率と弾性率はいずれも変化しないから、伸び率と弾性率との間には負の相関関係があるとはいえない。 以上によれば、上記実施例1~14のうち、伸び率と弾性率との間には負の相関関係があるとはいえない実施例は5つであるから、その割合は、5÷14×100=35.7%であり、この値は、例外といえるほど低い割合であるとはいえない。 (d)そうすると、発明の詳細な説明の実施例の記載からは、シリコーンの伸び率と弾性率との間には負の相関関係があるとはいえない。 b 発明の詳細な説明の【0080】、【0082】の記載から導き出される式について 発明の詳細な説明の【0080】、【0082】の記載から、接合層の伸び率αと弾性率γと接合強度βとの関係は、γ=100×(β/α)との式(以下、「関係式」という。)で表される。 ここで、上記関係式から、伸び率αと弾性率γとの間に負の相関関係があるといえるためには、接合強度βが一定であることが必要である。 しかし、接合層の材料や測定温度が変われば、通常は、接合強度βは変化するものであり、このことは、上記(4)の【図7】、【図8】(上記a(a)の【図A】)の記載から明らかである。 したがって、上記関係式からも、シリコーンの伸び率と弾性率との間に負の相関関係があるとはいえない。 c 上記a及びbによれば、発明の詳細な説明の記載からは、シリコーンの伸び率と弾性率との間に負の相関関係があるとはいえない。 (イ)乙第7号証の記載について a 乙第7号証には、以下の記載がある。 「3.4.2 耐寒性 天然ゴムや一般の合成ゴムは温度で形状が変化し, 高温では軟化, 低温では硬化しついにはぜい化してしまうが, シリコ-ンゴムはこの変化が非常に小さく, 低温側では一般のもので~50℃,フェニル系シリコ-ンゴムのような低温グレ-ドでは-90℃までも柔軟性を保持する. その様子を図6と表6に示す.」 「 [図:0001393057000006.jpg] 」 b 上記aにおける乙第7号証の図6には、「2:低温用シリコ-ンゴム」の弾性率は、-50℃よりも高温側ではほぼ一定になることが示されている。 ここで、上記(ア)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載からは、シリコーンの伸び率と弾性率との間に負の相関関係があるとはいえない。 そうすると、上記図6において、「2:低温用シリコ-ンゴム」の弾性率が、-50℃よりも高温側ではほぼ一定になるからといって、シリコーンの伸び率も-50℃よりも高温側ではほぼ一定になるとはいえない。 c したがって、シリコーンでは、流動点温度以上の温度において、弾性率と同様に、伸び率の変化が少ないことは、本件特許の出願当時の技術常識であるとはいえない。 (ウ)特許権者の上記主張は、シリコーンの伸び率と弾性率との間に負の相関関係があること、及び、シリコーンでは、流動点温度以上の温度において、弾性率と同様に、伸び率の変化が少ないことは、本件特許の出願当時の技術常識であることを前提として、「-60℃における伸び率α1が120%以上となるようなシリコーンを得れば、過度な試行錯誤なく25℃における伸び率α2を150%以上とすることができ、以上のことから、-60℃における伸び率α1を調整することで、25℃における伸び率α2及び比α1/α2も同様に調整されることは、本件特許の出願当時の技術常識である」というものである。 しかし、上記(ア)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載からは、シリコーンの伸び率と弾性率との間には負の相関関係があるとはいえないし、また、上記(イ)で検討したとおり、シリコーンでは、流動点温度以上の温度において、弾性率と同様に、伸び率の変化が少ないことは、本件特許の出願当時の技術常識であるとはいえない。 したがって、特許権者の上記主張は、前提において誤っており、「-60℃における伸び率α1が120%以上となるようなシリコーンを得れば、過度な試行錯誤なく25℃における伸び率α2を150%以上とすることができ、以上のことから、-60℃における伸び率α1を調整することで、25℃における伸び率α2及び比α1/α2も同様に調整されることは、本件特許の出願当時の技術常識である」とはいえない。 そうすると、「シリコーン」を含み、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」であり、「25℃における」「伸び率α2」が「150%以上」であり、かつ、「伸び率α1の比α1/α2」が「0.80以上」である「接合層」を製造する方法が、本件特許の出願当時において、技術常識であったとはいえない。 よって、特許権者の上記主張は採用できない。 (エ)以上のとおりであるから、本件発明1について、当業者が発明の詳細な説明の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。 (オ)また、本件発明4、5は、いずれも本件発明1を減縮した発明であるから、上記(ア)~(エ)で検討したのと同様の理由により、本件発明4、5について、当業者が発明の詳細な説明の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。 (7)まとめ 以上によれば、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1、4、5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1、4、5に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1、4、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本件請求項1、4、5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、請求項2、3は、本件訂正により削除されたため、請求項2、3に対する特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700591

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