特許異議申立
2025-700564
支持シート、樹脂膜形成用複合シート、キット、及び、樹脂膜付きチップの製造方法
- 審判番号
- 2025-700564
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-062255
- 登録番号
- 7591453
- 請求日
- 2025年05月28日
- 審決日
- 2025年08月13日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】リンテック株式会社
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】五十嵐 光永
- 【権利者代理人】加藤 広之
- 【異議申立人】ジュネスプロパティーズ 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 小川 将之
- 審判官 緑川 隆
- 分類
- P1651.536-Y (H01L) / P1651.537-Y (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7591453号発明「支持シート、樹脂膜形成用複合シート、キット、及び、樹脂膜付きチップの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7591453号の請求項1~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7591453号(以下「本件特許」という。)の請求項1~17に係る特許について、特許異議の申立てに至る経緯は以下のとおりである。
令和3年3月31日 :本件特許の出願
令和6年11月20日:特許権の設定登録
令和6年11月28日:特許掲載公報の発行
令和7年5月28日 :特許異議申立人ジュネスプロパティーズ株式会社(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
第2 本件発明
本件特許の請求項1~17に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ワークまたはワークを分割したチップの加熱に用いられる支持シートであって、
前記支持シートを下記条件で流れ方向(MD)又は垂直方向(CD)のいずれかの引張モードで熱機械分析(TMA)したとき、
130℃における変位量(A130)が500μm以下であり、
23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)が、130℃から50℃まで徐冷したときの1℃当たりの平均変位量の絶対値(|B130→50|)よりも小さい、支持シート。
<熱機械分析(TMA)の条件>
サンプルサイズ:長さ20mm、幅5mm
チャック間隔:15mm
荷重:0.8g、昇温速度:10℃/minで23℃から130℃まで昇温し、30分間保持する。その後、荷重:0.8g、冷却速度1℃/minで130℃から50℃まで冷却する。その間の変位量[μm]を測定する。
【請求項2】
前記支持シートを前記条件で流れ方向(MD)の引張モード、及び、垂直方向(CD)の引張モードで熱機械分析(TMA)したとき、
130℃における変位量(A130)がいずれも500μm以下であり、
23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)が、130℃から50℃まで徐冷したときの1℃当たりの平均変位量の絶対値(|B130→50|)よりもいずれも小さい、請求項1に記載の支持シート。
【請求項3】
前記支持シートを前記条件で流れ方向(MD)又は垂直方向(CD)のいずれかの引張モードで熱機械分析(TMA)したとき、
23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)が正の値である、請求項1又は2に記載の支持シート。
【請求項4】
前記支持シートを前記条件で流れ方向(MD)の引張モード、及び、垂直方向(CD)の引張モードで熱機械分析(TMA)したとき、
23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)がいずれも正の値である、請求項3に記載の支持シート。
【請求項5】
前記支持シートを前記条件で流れ方向(MD)又は垂直方向(CD)のいずれかの引張モードで熱機械分析(TMA)したとき、
23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)に対する、60℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A60→130)の比が1未満である、請求項3又は4に記載の支持シート。
【請求項6】
前記支持シートを前記条件で流れ方向(MD)の引張モード、及び、垂直方向(CD)の引張モードで熱機械分析(TMA)したとき、
23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)に対する、60℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A60→130)の比がいずれも1未満である、請求項5に記載の支持シート。
【請求項7】
前記支持シートが、基材のみからなるもの、又は、基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層と、を備えたものであって、前記基材の構成材料が、ポリオレフィン樹脂を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の支持シート。
【請求項8】
前記支持シートが、基材のみからなるもの、又は、基材と、前記基材の一方の面上に設けられた粘着剤層と、を備えたものであって、前記基材が、延伸フィルムである、請求項1~7のいずれか一項に記載の支持シート。
【請求項9】
前記支持シートがロール状である、請求項1~8のいずれか一項に記載の支持シート。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の支持シートと、前記支持シートの一方の面上に設けられた樹脂膜形成層と、を備える、樹脂膜形成用複合シート。
【請求項11】
前記樹脂膜形成層が保護膜形成フィルムである、請求項10に記載の樹脂膜形成用複合シート。
【請求項12】
前記樹脂膜形成用複合シートがロール状である、請求項10又は11に記載の樹脂膜形成用複合シート。
【請求項13】
第1剥離フィルム、樹脂膜形成層及び第2剥離フィルムがこの順に積層された第一積層体と、前記樹脂膜形成層の貼着対象となるワーク及び前記樹脂膜形成層を支持するために用いられる、請求項1~9のいずれか一項に記載の支持シートと、を備えるキット。
【請求項14】
前記樹脂膜形成層が保護膜形成フィルムである、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記第一積層体がロール状である、請求項13又は14に記載のキット。
【請求項16】
チップと、前記チップの裏面に設けられた樹脂膜と、を備える樹脂膜付きチップの製造方法であって、
ワークの裏面に、請求項10~12のいずれか一項に記載の樹脂膜形成用複合シート中の樹脂膜形成層を貼付するか、又は、ワークの裏面に、請求項13~15のいずれか一項に記載のキット中の樹脂膜形成層を貼付して、前記樹脂膜形成層及びワークが、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルムを作製し、さらに、前記第1積層フィルム中の前記樹脂膜形成層に前記キット中の支持シートを貼付することにより、前記支持シート上に、前記樹脂膜形成層及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製する工程と、
前記第1積層複合シートの周縁部を固定用治具に貼付した状態で、前記第1積層複合シートを加熱して、前記樹脂膜形成層を硬化させ前記樹脂膜を形成することにより、前記支持シート上に、前記樹脂膜及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第2積層複合シートを作製する工程と、
前記第2積層複合シートを冷却し、その後、前記支持シート上で、前記第2積層複合シート中の前記ワークを分割し、前記樹脂膜を切断することにより、複数個の樹脂膜付きチップが前記支持シート上で固定されている第3積層複合シートを作製する工程と、
前記第3積層複合シート中の前記樹脂膜付きチップを前記支持シートから引き離すことによりピックアップする工程と、を有する、樹脂膜付きチップの製造方法。
【請求項17】
チップと、前記チップの裏面に設けられた樹脂膜と、を備える樹脂膜付きチップの製造方法であって、
ワークの裏面に、請求項10~12のいずれか一項に記載の樹脂膜形成用複合シート中の樹脂膜形成層を貼付するか、又は、ワークの裏面に、請求項13~15のいずれか一項に記載のキット中の樹脂膜形成層を貼付して、前記樹脂膜形成層及びワークが、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層フィルムを作製し、さらに、前記第1積層フィルム中の前記樹脂膜形成層に前記キット中の支持シートを貼付することにより、前記支持シート上に、前記樹脂膜形成層及び前記ワークがこの順に、これらの厚さ方向に積層されて構成されている第1積層複合シートを作製する工程と、
前記支持シート上で、前記第1積層複合シート中の前記ワークを分割し、前記樹脂膜形成層を切断することにより、複数個の樹脂膜形成層付きチップが前記支持シート上で固定されている第4積層複合シートを作製する工程と、
前記第4積層複合シートの周縁部を固定用治具に貼付した状態で、前記第4積層複合シートを加熱し、冷却して、前記第4積層複合シート中の前記樹脂膜形成層を硬化させ前記樹脂膜を形成することにより、前記支持シート上に、複数個の樹脂膜付きチップが前記支持シート上で固定されている第3積層複合シートを作製する工程と、
第3積層複合シート中の前記樹脂膜付きチップを前記支持シートから引き離すことによりピックアップする工程と、を有する、樹脂膜付きチップの製造方法。」
<略号について>
ア 以下の検討では、本件特許の請求項1~17に係る発明をまとめて「本件発明」、各請求項に係る発明をそれぞれ「本件発明1」等という。
イ 以下の検討では、本件特許の請求項1に特定される
「130℃における変位量(A130)が500μm以下であり、
23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)が、130℃から50℃まで徐冷したときの1℃当たりの平均変位量の絶対値(|B130→50|)よりも小さい」との条件を、「本件変位量条件」という。
ウ 以下の検討では、本件特許の請求項1の「130℃における変位量(A130)」を「変位量A130」、「23℃から130℃まで昇温したときの1℃当たりの平均変位量(A23→130)」を「平均変位量A」、「130℃から50℃まで徐冷したときの1℃当たりの平均変位量の絶対値(|B130→50|)」を「平均変位量B」といい、「変位量A130」、「平均変位量A」及び「平均変位量B」をまとめて「本件各変位量」という。
第3 特許異議申立理由と主張の概要
1 申立理由
令和7年5月28日提出の特許異議申立書における特許異議申立理由の概要は、本件特許の請求項1~17に係る特許は、以下の申立理由のとおり、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきというものである。
[申立理由1:実施可能要件]
・本件発明1~17についての発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号の規定に適合するものではないから、本件発明1~17に係る特許は、特許法113条4号に該当する。
[申立理由2:サポート要件]
・本件発明1~17は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号の規定に適合するものではないから、本件発明1~17に係る特許は、特許法113条4号に該当する。
2 申立人の主張の概要
上記申立理由に関する申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1について
ア 本件明細書の【0073】には、本件支持シートを構成する基材の構成材料として使用できる各種の樹脂材料として、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン;ポリプロピレン・・・(中略)・・・ポリエーテルケトン等が挙げられることが記載されている。
しかし、本件明細書の【0073】に挙げられた樹脂材料のうち、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体は、融点が130℃ 以下の樹脂であり、これらを構成材料として含む支持シートは、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された熱機械分析(TMA)の条件である130℃までの昇温により溶融するため、上記熱機械分析(TMA)に規定された各変位量を測定することができない。
そうすると、本件発明の詳細な説明は、請求項1に記載された上位概念に含まれる、低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体などの融点が130℃以下の樹脂を構成材料として含む支持シートについて、実施可能に記載されているとはいえない。
イ 本件発明1で規定する特性を満たす支持シートを製造するためには、樹脂の種類に応じて延伸処理における条件を非常に厳密に調整する必要があるところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、基材の構成材料がポリプロピレン以外の樹脂である場合の延伸処理の条件については一切記載されていない。
また、ポリプロピレンフィルムで製造した場合でも、延伸条件の違いやフィルムの物性の違いによって、本件発明1で規定する特性を満たしたり満たさなかったりするのであるから、ポリプロピレンフィルムとは物性が大きく異なるポリプロピレン以外の樹脂フィルムにおいて、本件明細書の【0086】~【0088】に記載された、ポリプロピレンフィルムにおける加熱温度、加熱時間、及び延伸張力を採用することにより、本件発明1で規定する特性を満たす支持シートが同様に得られると推認することはできない。
そうすると、基材の構成材料がポリプロピレン以外の樹脂である場合に本件発明1で規定する特性を満たす支持シートを製造するには、当業者において過度の試行錯誤を要するものである。
(2)申立理由2について
ア 本件明細書の【0012】から、本件発明は「加熱及び冷却による製造加工用シートの弛みの影響をなくし、ピックアップ装置のチップの認識性を向上させることのできる支持シート」を提供することを発明の課題とし、本件明細書の実施例1~6、比較例1~2から、ポリプロピレンフィルムを基材として用い、本件発明1で規定する特性を満たす支持シートが、本件発明の課題を解決できるものであることが示されているが、ポリプロピレンフィルム以外の樹脂フィルムを基材として用い、かつ本件発明1で規定する特性を満たす支持シートであっても、本件特許発明の課題を解決できることは証明されていない。また、ポリプロピレンのような結晶性樹脂ではない非晶質樹脂や、ポリプロピレンとは物理的特性が大きく異なる樹脂を構成材料とする支持シートであっても、本件発明1の特性を満たしさえすれば、実施例1~6の支持シートと同様の効果が得られ、本件発明の課題を解決できることは推認できない。
イ 本件発明1においては、平均変位量A(A23→130)が平均変位量B(|B130→50|)よりも小さいことは規定されているが、平均変位量Aと平均変位量Bとの差は特定されていない。
本件明細書の【0037】には、平均変位量Aから平均変位量Bを引いた値が負の値であり、「-0.10~-5μm/℃が好ましく、-0.40~-4μm/℃であることがより好ましく、-0.75~-3μm/℃であることがさらに好ましい。」と記載されている。また、本件明細書の実施例1~6においては、(平均変位量A-平均変位量B)が-0.73~-2.54μm/℃である場合に本件発明の課題が解決できることが理解できる。
しかし、出願時の技術常識を考慮しても、(平均変位量A-平均変位量B)が、例えば-0.01μm/℃や-100μm/℃である場合に、実施例1~6と同様の効果が得られ、本件発明の課題を解決できると推認することはできないから、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
第4 当審の判断
1 申立理由1(実施可能要件)について
(1)検討
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。
上記をふまえ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、【0278】~【0297】には、本件発明に係る支持シート及び樹脂膜(保護膜)形成用複合シートの構成材料及び製造方法について、実施例1~6として具体的に記載されている。また、【0299】~【0321】に記載された試験方法(本件発明1の<熱機械分析(TMA)の条件>については、【0307】~【0317】の[試験例5]参照。)により測定された実施例1~6の特性値が、【0322】の表1に記載されている。当該表1によれば、実施例1~6のシートは、いずれも本件変位量条件を満たす支持シートであり、かつ、弛み評価の試験、及び、3×3[mm]のチップ認識性の試験において、「A(優良)」の評価が得られたシートであることが記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1~9に係る支持シート、本件発明10~12に係る樹脂膜形成用複合シートを得ることができ、かつ、使用することができることが具体的に記載されているといえる。
また、これらの記載に加え、本件明細書の発明の詳細な説明の【0216】~【0225】には、本件発明13~15に係るキットを得ることができ、かつ、使用することができること、【0226】~【0273】には、本件発明16及び17に係る樹脂膜付きチップの製造方法を使用することができることが具体的に記載されているといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~17を実施することができる程度に記載されていると認められる。
(2)申立人の主張に対して
申立人は、上記第3の2(1)アのとおり、本件明細書の【0073】に挙げられた融点が130℃以下の低密度ポリエチレン(LDPE)等の樹脂について、本件発明1は実施可能ではない旨主張する。
しかしながら、本件発明1は本件変位量条件により特定される支持シートの発明であり、樹脂材料の種類は本件発明1の特定事項ではない。
したがって、申立人の主張する、低密度ポリエチレン(LDPE)等の樹脂が本件変位量条件を充足し得ないことは、本件変位量条件により特定された発明である本件発明1の実施可能要件の判断を左右しない。
また、申立人は、上記第3の2(1)イのとおり、ポリプロピレン以外の樹脂を用いる場合については過度の試行錯誤を要するから、本件発明1は実施可能ではない旨主張する。
しかしながら、本件発明1は、本件変位量条件により特定される支持シートの発明であるから、本件変位量条件を満たす支持シートが実施例において具体的に示され、かつ、実施例において本件発明の課題を解決できることが実験結果で示されていれば、本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に説明したものであるといえる。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明が、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができる程度に記載されていることは、上記(1)のとおりである。
したがって、上記第3の2(1)の申立人の主張はいずれも採用できない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明の詳細な説明は、本件発明1~17を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法36条4項1号の規定に適合するものである。
したがって、申立理由1には理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)検討
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
上記をふまえ、本件発明1について検討すると、本件発明の課題は「加熱及び冷却による製造加工用シートの弛みの影響をなくし、ピックアップ装置のチップの認識性を向上させることができる支持シート」を提供すること(【0012】)であるところ、上記1(1)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件変位量条件の範囲内にある支持シートである実施例1~6で、弛み評価の試験、及び、3×3[mm]のチップ認識性の試験において、「A(優良)」の評価が得られたこと、すなわち、本件発明の課題を解決できることが記載されている。
そして、本件変位量条件について、本件明細書の【0029】には、「130℃における変位量(A130)が500μm以下であることにより、加熱時の支持シートの弛みを少なくできる。」と記載され、【0036】には「前記平均変位量(A23→130)が、前記平均変位量の絶対値(|B130→50|)よりも小さいことにより、加熱及び冷却による支持シート上のチップの位置変化を少なくすることができ、ピックアップ装置のチップの認識不良をなくすことができる。」と記載されている。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件発明2~17についても、本件発明1の構成を有するから、同様に、発明の詳細な説明に記載された発明であり、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(2)申立人の主張に対して
申立人は、上記第3の2(2)アのとおり、ポリプロピレン以外の樹脂を用いた場合に、本件発明の課題を解決できることは証明されていないし、本件発明1の特性を満たしさえすれば、ポリプロピレンを用いた実施例の場合と同様に、本件発明の課題を解決できることも推認できない旨主張する。
しかしながら、本件発明1は本件変位量条件により特定される発明であるところ、本件各変位量は加熱及び冷却による支持シートの伸長、収縮量を評価したものであるから、異なる樹脂を用いた支持シートであっても本件各変位量が同じであれば、加熱及び冷却によるシートの挙動が同様となることは明らかである。
そして、上記(1)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件変位量条件の範囲内の支持シートであれば本件発明の課題が解決できることが記載されているから、ポリプロピレン以外の樹脂を用いたとしても、本件変位量条件を満たす支持シートであれば、本件発明の課題を解決し得ることを当業者は理解し得るといえる。
また、申立人は、上記第3の2(2)イのとおり、本件発明1では、平均変位量Aが平均変位量Bよりも小さいことしか特定されておらず、平均変位量Aと平均変位量Bの差は特定されていないところ、例えば平均変位量Aと平均変位量Bの差が、-0.01μm/℃や-100μm/℃である場合にも本件発明の課題を解決できると推認することはできないから、本件発明1の範囲まで、本件発明の詳細な説明の内容を拡張ないし一般化することはできない旨主張する。
しかしながら、本件発明1における平均変位量A(A23→130)が平均変位量B(|B130→50|)よりも小さい旨の特定事項の技術的意義は、「加熱及び冷却による支持シート上のチップの位置変化を少なくすること」(【0036】)であるから、当業者は上記の技術的意義を前提として、平均変位量Aが平均変位量Bよりも小さいとの特定事項を認識するものといえ、申立人の主張するような平均変位量Aと平均変位量Bの差を認識するものとはいえない。
そうすると、上記特定事項を含む本件発明1は、本件発明の詳細な説明により本件課題を解決し得ると当業者が認識できる範囲内のものであるといえる。
したがって、上記第3の2(2)の申立人の主張はいずれも採用できない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1~17は、本件発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件特許請求の範囲の請求項1~17の記載は特許法36条6項1号の規定に適合するものである。
したがって、申立理由2には理由がない。
3 まとめ
以上によれば、本件特許の請求項1~17に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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