特許異議申立
2025-700944
静電チャック
- 審判番号
- 2025-700944
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-008773
- 登録番号
- 7655410
- 請求日
- 2025年10月01日
- 審決日
- 2026年05月22日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】鎌田 徹
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】村井 賢郎
- 【権利者代理人】津田 拓真
- 【異議申立人】金 海松
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 緑川 隆
- 審判官 河本 充雄
- 分類
- P1651.537-YAA(H10P) / P1651.536-YAA(H10P) / P1651.121-YAA(H10P)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7655410号発明「静電チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7655410号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7655410号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7655410号の請求項1~3に係る特許(以下「本件特許」ともいう。)についての出願は、令和6年1月24日(優先権主張 令和5年11月27日)に出願され、令和7年3月25日にその特許権の設定登録がされ、令和7年4月2日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和7年10月1日に特許異議申立人 金 海松(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
以降の主な手続きは以下のとおりである。
令和7年11月26日 :申立人による手続補正書(方式)
令和8年 1月14日付け:取消理由通知
同年 2月16日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出
同年 3月30日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和8年2月16日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 誘電体基板と、
前記誘電体基板を支持するベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値、のことを基準値としたときに、
前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の50%から200%までの範囲内に収まることを特徴とする静電チャック。」と記載されているのを、
「 誘電体基板と、
前記誘電体基板を支持するベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、
前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値、のことを基準値としたときに、
前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の50%から200%までの範囲内に収まることを特徴とする静電チャック。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「 前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の90%から110%までの範囲内に収まることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。」と記載されているのを、
「 400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、
前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の90%から110%までの範囲内に収まることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「 前記接合層の温度が20℃から-60℃までの範囲内であるときには、前記接合層の誘電正接の値が0.0008よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。」と記載されているのを、
「 400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、
前記接合層の温度が20℃から-60℃までの範囲内であるときには、前記接合層の誘電正接の値が0.0008よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。」に訂正する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3について、請求項2、3は、請求項1を引用しているものであるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、「前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値、のことを基準値としたときに、 前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の50%から200%までの範囲内に収まること」が、「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において」であることを限定するものである。
よって、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項1による訂正は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1の構成を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
特許明細書等には、本実施形態1及び本実施形態2について、【0040】、【0042】に、各温度の誘電正接の値を測定した結果は、「400KHzの交流電場を接合層300に加えた状態」で測定したものであることが記載されており、【0041】、【0043】に、「接合層300が20℃のときにおける誘電正接の値」を「基準値」とすることが、【0046】、【0047】に、「接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化」したとき、「接合層300の誘電正接の値」が「概ね基準値の100%」であるか、「基準値の94%から106%の範囲内」に収まっていたことが、【0048】に、本実施形態1、2では、接合層300の温度が変化した場合であっても、接合層300の誘電正接の値は基準値と概ね近い値に維持され、接合層300における発熱量は、運転条件の変更前と殆ど同じとなることが記載されている。
そうすると、特許明細書等の【0049】の「接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化したときの、接合層300の誘電正接の値の変動は、少なくとも、基準値の50%から200%までの範囲内に収まることが好ましい。」との記載は、「400KHzの交流電場を接合層300に加えた状態」で接合層300を測定し、「接合層300が20℃のときにおける誘電正接の値」を「基準値」としたものであるから、特許明細書等には、訂正後の請求項1における「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値、のことを基準値としたときに、前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の50%から200%までの範囲内に収まる」ことが記載されているといえる。
よって、訂正事項1による訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2による訂正は、「前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の90%から110%までの範囲内に収まること」が、「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において」であることを限定するものである。
よって、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項2による訂正は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項2の構成を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記(1)ウの検討を踏まえれば、特許明細書等の【0050】の「接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化したときの誘電正接の値の変動は、より好ましくは、本実施形態1、2のように、基準値の90%から110%までの範囲内に収まることが好ましい。」との記載は、「400KHzの交流電場を接合層300に加えた状態」で接合層300を測定し、「接合層300が20℃のときにおける誘電正接の値」を「基準値」としたものであるから、特許明細書等には、訂正後の請求項2における「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の90%から110%までの範囲内に収まる」ことが記載されているといえる。
よって、訂正事項2による訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3による訂正は、「前記接合層の温度が20℃から-60℃までの範囲内であるときには、前記接合層の誘電正接の値が0.0008よりも小さいこと」が、「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において」であることを限定するものである。
よって、訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項3の構成を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記(1)ウの検討を踏まえれば、特許明細書等の【0051】の「接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化するときの誘電正接の値は、本実施形態1のように、常に0.0008よりも小さくなっていることが好ましい。」との記載は、「400KHzの交流電場を接合層300に加えた状態」で接合層300を測定したものであるから、特許明細書等には、訂正後の請求項3における「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、前記接合層の温度が20℃から-60℃までの範囲内であるときには、前記接合層の誘電正接の値が0.0008よりも小さいこと」が記載されているといえる。
よって、訂正事項3による訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、本件特許異議の申立ては、全請求項に対してされているから、訂正後の請求項1~3に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板を支持するベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、
前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値、のことを基準値としたときに、
前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の50%から200%までの範囲内に収まることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、
前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の90%から110%までの範囲内に収まることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、
前記接合層の温度が20℃から-60℃までの範囲内であるときには、前記接合層の誘電正接の値が0.0008よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。」
第4 申立理由の概要
1 特許異議の申立理由
申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1~3は、甲1に記載された発明、甲2~9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(サポート要件違反)
本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。
2 申立人の提出した証拠
申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲9」という。)を証拠として提出している。
甲1:特開2019-165184号公報
甲2:西川裕治、外3名、「付加型シリコーン粘着剤の界面熱分析」、高分子論文集、2008年7月、Vol.65、No.7、p.458-464
甲3:Christian Johansson、外1名、「Broadband Dielectric Characterization of a Silicone Elastomer」、Journal of Electronic Materials、2007年7月26日、Vol.36、No.9、p.1206-1210
甲4:前田祥三、「可溶可融性ケイ素樹脂の合成とその二、三の性質」、工業化学雑誌、1959年、第62巻、第3号、p.438-442
甲5:寺西常治、外2名、「シリコーン油の低温領域における誘電特性」、電気学会論文誌A、1975年、第95巻、第3号、p.118-124
甲6:「信越シリコーン シリコーンオイル KF-96 性能試験結果」、信越化学工業株式会社、2020年3月、p.1-35
甲7:中北倫男、「厚い熱硬化性合成樹脂板の部分放電劣化」、電気学会論文誌、1974年、Vol.94-A、No.3、p.91-96
甲8:伊藤邦雄編、「シリコーンハンドブック」、日刊工業新聞社、1990年8月31日、p.132-137,412-425,474-479
甲9:鹿目彰、「シリコーン樹脂」、株式会社工業調査会、1971年7月15日、p.25-31,44-49
第5 申立人の提出した証拠の記載
1 甲1の記載及び甲1発明
(1) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審において加筆した。以下同じ。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスからなる静電チャック部材と、金属からなる温度調整用ベース部材とを、接合層を介して接合してなる静電チャック装置であって、
前記温度調整用ベース部材の前記静電チャック部材側の面、または前記静電チャック部材の前記温度調整用ベース部材側の面のいずれか一方に、前記静電チャック部材を平面視した場合に多角形状のスペーサが複数個配設され、
前記接合層に含まれるフィラーの最大粒子径が10μm以下である静電チャック装置。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0016】
<静電チャック装置>
以下、図1を参照しながら、本実施形態に係る静電チャック装置について説明する。
なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率等は適宜異ならせてある。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。図1に示すように、静電チャック装置1は、円板状の静電チャック部材2と、静電チャック部材2を所望の温度に調整する円板状の温度調節用ベース部材3と、これら静電チャック部材2および温度調整用ベース部材3を接合・一体化する接合層4と、を有している。
以下の説明においては、載置板11の載置面11a側を「上」、温度調整用ベース部材3側を「下」として記載し、各構成の相対位置を表すことがある。
・・・
【0021】
載置板11を構成するセラミックスとしては、体積固有抵抗値が1013Ω・cm以上かつ1015Ω・cm以下程度であり、機械的な強度を有し、しかも腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するものであれば特に制限されるものではない。このようなセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化アルミニウム(Al2O3)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体等が好適に用いられる。
・・・
【0036】
[接合層]
接合層4は、図2に示すように、硬化体であるシリコーン系樹脂組成物と、フィラーとを含有する複合材料31に、静電チャック部材2を平面視した場合に多角形状のセラミックスからなるスペーサ32が複数個、同一平面内に略一定の密度で略規則的に配列されている。静電チャック部材2を平面視するとは、静電チャック部材2を載置板11の載置面11a側から視ることである。・・・
・・・
【0084】
次いで、温度調整用プレート部材の接合面を、アセトンを用いて充分脱脂・洗浄し、この接合面に、幅1mm、長さ1mm、厚さ0.1mmの酸化アルミニウム(Al2O3)からなるスペーサを、常温硬化型シリコーン接着剤 信越シリコーン KE4895T(信越化学工業株式会社製)を用いて接着した。スペーサの配置は、最外周の同心円上に等間隔に8個、さらに内側の同心円上に等間隔に8個、さらに内側の同心円上に等間隔に8個配置、さらに内側の同心円上に等間隔に4個、最内周の同心円上に等間隔に4個、それぞれ配置した。
次いで、この温度調整用プレート部材を大気中に5時間静置して、常温硬化型シリコーン接着剤を十分硬化させた後、上記のシリコーン系樹脂組成物を、ヘラを用いて静電チャック部材の接合面に17g、温度調整用ベース部材の接合面に22g、それぞれ塗布した。」
「
[図:0001438295000001.jpg]
」
(2) 甲1発明
上記(1)の【図1】からは、温度調整用ベース部材3は、静電チャック部材2の下面側に設けられることが見て取れる。
そうすると、上記(1)の【請求項1】、【図1】より、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「セラミックスからなる静電チャック部材と、金属からなる温度調整用ベース部材とを、接合層を介して接合してなる静電チャック装置であって、
前記温度調整用ベース部材の前記静電チャック部材側の面、または前記静電チャック部材の前記温度調整用ベース部材側の面のいずれか一方に、前記静電チャック部材を平面視した場合に多角形状のスペーサが複数個配設され、
前記接合層に含まれるフィラーの最大粒子径が10μm以下であり、
温度調整用ベース部材3は、静電チャック部材2の下面側に設けられる、
静電チャック装置。」
2 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000002.jpg]
」(458頁上段)
「
[図:0001438295000003.jpg]
」(462頁左欄中段)
「
[図:0001438295000004.jpg]
」(462頁右欄上段)
3 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000005.jpg]
」(1206頁上段)
(訳文)「
[図:0001438295000006.jpg]
」
「
[図:0001438295000007.jpg]
」(1207頁左欄中段)
(訳文)「
[図:0001438295000008.jpg]
」
「
[図:0001438295000009.jpg]
」(1207頁右欄上段)
「
[図:0001438295000010.jpg]
」(1207頁右欄下段)
4 甲4の記載
甲4には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000011.jpg]
」(438頁中段)
「
[図:0001438295000012.jpg]
[図:0001438295000013.jpg]
」(441頁左欄上段、中段)
「
[図:0001438295000014.jpg]
」(441頁右欄上段)
「
[図:0001438295000015.jpg]
」(441左欄上段)
「
[図:0001438295000016.jpg]
」(441右欄中段)
5 甲5の記載
甲5には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000017.jpg]
」(118頁左欄中段)
「
[図:0001438295000018.jpg]
」(118頁右欄中段)
「
[図:0001438295000019.jpg]
」(119頁右欄中段)
「
[図:0001438295000020.jpg]
」(119頁右欄中段、120頁左欄中段)
「
[図:0001438295000021.jpg]
」(119頁右欄下段)
6 甲6の記載
甲6には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000022.jpg]
」(2頁上段)
7 甲7の記載
甲7には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000023.jpg]
」(91頁左欄中段)
「
[図:0001438295000024.jpg]
」(94頁左欄下段)
8 甲8の記載
甲8には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000025.jpg]
」(133頁上段)
「
[図:0001438295000026.jpg]
」(134頁中段)
「
[図:0001438295000027.jpg]
」(416頁下段)
「
[図:0001438295000028.jpg]
」(416頁上段)
「
[図:0001438295000029.jpg]
」(475頁下段)
「
[図:0001438295000030.jpg]
」(477頁中段)
9 甲9の記載
甲9には、以下の記載がある。
「
[図:0001438295000031.jpg]
」(29頁中段、30頁上段)
「
[図:0001438295000032.jpg]
」(29頁下段)
「
[図:0001438295000033.jpg]
」(47頁下段)
「
[図:0001438295000034.jpg]
」(48頁上段)
第6 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
申立人が主張する申立理由2(サポート要件違反)を採用して、当審において特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
2 当審の判断
(1) サポート要件判断の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、以下、この観点で検討する。
(2) 特許請求の範囲の記載について
特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1には、誘電体基板と、ベースプレートと、接合層と、を備えた静電チャック(以下、単に「静電チャック」ともいう。)の接合層について、「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値、のことを基準値としたときに、前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の50%から200%までの範囲内に収まる」ものであることが記載されている(以下、上記「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値」である「基準値」のことを「本件基準値」といい、「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において」、「前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲」のことを「本件変動範囲」という。)。
また、請求項2及び3は、いずれも請求項1の記載を引用するものである。
(3) 発明の詳細な説明の記載について
ア 特許明細書等の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同様。)
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0006】
本発明者らは、半導体製造装置の運転条件等に応じて接合層の温度が変化すると、それに伴い、接合層の誘電正接の値も変化するという新たな知見を得た。誘電正接の値が変化すると、交流電場が加えられたことによる接合層の発熱量も変化するので、基板の面内温度分布はその影響を受けてしまう。
【0007】
先に述べたように、静電チャックでは、処理中における基板の面内温度分布が適切なものとなるように、冷媒流路の引き回し等が適切に設計されている。しかしながら、運転条件の変更等に伴って接合層の発熱量が大きく変化してしまうと、設計の前提が崩れるため、基板の面内温度分布を適切に保てなくなってしまう場合も生じ得る。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、処理中における基板の面内温度分布を適切に保つことのできる静電チャック、を提供することにある。
・・・
【0030】
半導体製造装置においてプラズマを発生させる際には、一対の電極間に高周波電圧が印可される。これにより、静電チャック10の各部には交流電場が加えられることとなる。例えば、上記電極の一方は基板Wの上方側(静電チャック10とは反対側)となる位置に配置される。上記電極の他方としては、ベースプレート200が用いられることが多いが、ベースプレート200以外の部材が用いられてもよい。いずれの場合であっても、静電チャック10を構成する接合層300等の各部材には、比較的大きな交流電場が加えられることとなる。
【0031】
接合層300に交流電場が加えられると、交流電場のエネルギーの一部は熱に変化し、接合層300の温度を上昇させる。本発明者らは、このような交流電場の影響を確認するために、接合層300を構成する材料の誘電正接について調査を行った。
【0032】
その調査結果について説明する。図2及び図3に示されるのは、接合層300の温度(横軸)と、接合層300の誘電正接の値(縦軸)と、の関係の一例である。
【0033】
図2において三角形のドットでプロットされている各データは、一般的なシリコーン接着剤を用いて接合層300を形成し、各温度における当該接合層300の誘電正接の値を測定することで得られた結果を、本実施形態の「比較例」として示すものである。それぞれのデータは、400KHzの交流電場を接合層300に加えた状態で測定されたものである。
【0034】
この比較例では、接合層300の温度を20℃から下げて行くと、それに伴って、接合層300の誘電正接の値が変動することが確認された。接合層300が20℃のときにおける、接合層300の誘電正接の値のことを、以下では「基準値」とも称する。この比較例では、接合層300の温度が20℃から下がって行くに伴って、接合層300の誘電正接の値は基準値(この比較例では0.0006)から減少した。接合層300の温度が-40℃を下回ったあたりから誘電正接の値は急激に上昇し、温度が-60℃となった時点で、誘電正接の値は基準値の約220%程度まで上昇した。
【0035】
このように、接合層300の温度が変化すると、それに伴い、接合層300の誘電正接の値も変化することが判明した。誘電正接の値が変化すると、交流電場が加えられたことによる接合層300の発熱量も変化するので、基板Wの面内温度分布はその影響を受けてしまう。誘電正接の値が基準値の200%を超えると、基板Wの温度に対する影響は無視できない程に大きくなってしまう。
・・・
【0040】
そこで、本発明者らは、本実施形態の接合層300について、例えばその材料である接着剤の選定を適切に行うこと等により、上記のような誘電正接の温度依存性を抑制することを試みた。図2において円形のドットでプロットされている各データは、本実施形態1の接合層300を切り出したサンプルについて、各温度における誘電正接の値を測定(またはシミュレーションにより算出)した結果を示すものである。それぞれのデータは、上記の比較例と同様に、400KHzの交流電場を接合層300に加えた状態で測定等されたものである。
【0041】
接合層300が20℃のときにおける誘電正接の値、すなわち「基準値」は、本実施形態1では0.0007であった。本実施形態1に係る静電チャック10では、接合層300の温度を20℃から-60℃まで変化させても、その間における誘電正接の値の変動が殆ど観測されず、基準値と概ね等しい値が維持された。
【0042】
図3において円形のドットでプロットされている各データは、本実施形態2の接合層300を切り出したサンプルについて、各温度における誘電正接の値を測定(またはシミュレーションにより算出)した結果を示すものである。それぞれのデータは、図2に示される各データと同様に、400KHzの交流電場を接合層300に加えた状態で測定等されたものである。
【0043】
接合層300が20℃のときにおける誘電正接の値、すなわち「基準値」は、本実施形態2では0.0081であった。接合層300が-40℃のときにおける誘電正接の値は0.0086であり、接合層300が-60℃のときにおける誘電正接の値は0.0076であった。このように、本実施形態2に係る静電チャック10では、接合層300の温度を20℃から-60℃まで変化させても、その間における誘電正接の値の変動は比較的小さく、基準値と概ね等しい値が維持された。
【0044】
図4には、以上のような各サンプルにおける接合層300の誘電正接が、温度低下に伴って基準値からどのように変化したのかが示されている。同図の縦軸は、20℃のときにおける誘電正接の値(つまり基準値)を100%として、誘電正接の値の変動を百分率で表したもの、すなわち変動率である。
【0045】
先に述べたように、比較例では、接合層300の温度が-40℃を下回ったあたりから誘電正接の値は急激に上昇し、温度が-60℃となった時点で、誘電正接の値は基準値の約220%程度まで上昇している。
【0046】
一方、本実施形態1(シリコーン接着剤)では、接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化しても、接合層300の誘電正接の値の変動は観測できない程度に小さく抑えられており、概ね基準値の100%のままであった。
【0047】
また、本実施形態2(エポキシ系接着剤)では、接合層300の温度が20℃から-40℃まで変化すると、接合層300の誘電正接の値は基準値の106%程度まで上昇した。その後、接合層300の温度が-60℃まで変化すると、接合層300の誘電正接の値は基準値の94%程度まで減少した。このように、本実施形態2に係る接合層300では、誘電正接の値の変動は、基準値の94%から106%の範囲内に収まっていた。
【0048】
以上のように、本実施形態1、2に係る静電チャック10では、温度の変化に伴う接合層300の誘電正接の値の変動が、従来に比べて小さく抑えられている。半導体製造装置の運転条件が変更されたこと等により、基板Wの処理中における接合層300の温度が変化した場合であっても、接合層300の誘電正接の値は、基準値と概ね近い値に維持される。接合層300における発熱量は、運転条件の変更前と殆ど同じとなるので、静電チャック10の冷却性能は当初の設計通りに発揮され、基板Wの面内温度分布は適切に維持される。
【0049】
接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化したときの、接合層300の誘電正接の値の変動は、少なくとも、基準値の50%から200%までの範囲内に収まることが好ましい。誘電正接の値の変化を上記の程度に抑えれば、接合層300の発熱量の変動は従来よりも小さく抑えられるので、基板Wの面内温度分布を引き続き適切に保つことができる。
【0050】
接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化したときの誘電正接の値の変動は、より好ましくは、本実施形態1、2のように、基準値の90%から110%までの範囲内に収まることが好ましい。誘電正接の値の変化を基準値±10%の範囲内に抑えれば、接合層300の発熱量の変動を無視できる程度に小さく抑えることができる。
【0051】
接合層300の温度が20℃から-60℃まで変化するときの誘電正接の値は、本実施形態1のように、常に0.0008よりも小さくなっていることが好ましい。このような構成とすることで、処理中における接合層300の発熱量の変動幅のみならず、発熱量の絶対値をも十分に小さく抑えることができる。
【0052】
接合層300に用いる接着剤としては、温度低下時における誘電正接の値の変動が、上記範囲に収まるものを選定することが好ましい。また、既存の接着剤に対しフィラーを添加することで、温度低下時における誘電正接の値の変動を上記範囲に収めることも可能である。例えばアルミナのような無機材料をフィラーとして加えることで、誘電正接の値の変動幅を調整することができる。この場合、フィラーの添加量を増加させるほど誘電正接の値は小さくなり、低温時における誘電正接の変化量も小さくなることが判明している。ただし、フィラーの分散性が悪く凝集した場合には、誘電正接の値は逆に大きくなってしまうことがあるので、凝集しないように留意しながらフィラーを添加する必要がある。」
イ 上記アの【0006】、【0008】によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)は、「半導体製造装置の運転条件等に応じて接合層の温度が変化すると、それに伴い、接合層の誘電正接の値も変化し、交流電場が加えられたことによる接合層の発熱量も変化するので、基板の面内温度分布はその影響を受けてしまうため、処理中における基板の面内温度分布を適切に保つことのできる静電チャック、を提供すること」といえる。
ウ そして、上記アの【0033】~【0035】には、接合層の誘電正接の値について、400KHzの交流電場を接合層に加えた状態で測定した「比較例」では、温度が-60℃となった時点で、本件基準値の約220%まで上昇したこと、及び、本件基準値の200%を超えると、基板Wの温度に対する影響は無視できない程に大きくなってしまうことが記載されている。
また、上記アの【0040】及び【0041】には、接合層の誘電正接の値について、「比較例」と同じ400KHzの交流電場を接合層に加えた状態で測定した「本実施形態1」では、誘電正接の値の変動が殆ど観測されず、本件基準値と概ね等しい値が維持されたこと、【0042】及び【0043】には、接合層の誘電正接の値について、「比較例」と同じ400KHzの交流電場を接合層に加えた状態で測定した「本実施形態2」では、誘電正接の値の変動は比較的小さく、本件基準値と概ね等しい値が維持されたことが記載されている。
さらに、上記アの【0049】には、接合層の誘電正接の値の変動を本件変動範囲内に抑えれば、接合層の発熱量の変動は従来よりも小さく抑えられるので、基板Wの面内温度分布を引き続き適切に保つことができることが記載されている。
エ 以上によれば、発明の詳細な説明には、400KHzの交流電場を接合層に加えた状態において、「比較例」では、本件変動範囲が本件基準値の50%から200%までの範囲内に収まっていないから、基板Wの温度に対する影響は無視できないほどに大きくなってしまうため、基板Wの面内温度分布は適切に保つことができないのに対し、「本実施形態1」及び「本実施形態2」はいずれも、本件変動範囲が本件基準値の50%から200%までの範囲内に収まっているため、接合層の発熱量の変動は従来よりも小さく抑えられるので、基板Wの面内温度分布を引き続き適切に保つことができることが記載されているといえる。
したがって、発明の詳細な説明には、静電チャックの接合層について、400KHzの交流電場を接合層に加えた状態において、本件変動範囲が、本件基準値の50%から200%までの範囲内に収まることが記載されており、発明の詳細な説明の記載によれば、400KHzの交流電場を接合層に加えた状態において、本件変動範囲が、本件基準値の50%から200%までの範囲内に収まるようにすることで、本件課題を解決できることが認識できる。
(4) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との比較
特許請求の範囲の請求項1には、上記(2)で示したとおりの記載があるところ、本件発明1では、静電チャックの接合層について、400KHzの交流電場を接合層に加えた状態において、本件変動範囲が、本件基準値の50%から200%までの範囲内に収まることが特定されているから、上記(3)の検討を踏まえれば、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明であるし、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件発明2、3は、いずれも本件発明1の構成を有するものであるから、本件発明1と同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(5) 申立人の主張について
申立人は、令和8年3月30日に提出した意見書において、取消理由通知で通知した取消理由について何ら主張していない。
他方、申立人は、異議申立書51頁下から5行~55頁2行において、特許明細書等の発明の詳細な説明には、交流電場の周波数が400KHz以外である場合の接合層の誘電正接の値は記載も示唆もされておらず、交流電場の周波数が400KHz以外である場合の接合層の誘電正接の値を特定する本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する(当審注:異議申立書の「交流磁場」は「交流電場」の誤記と認める。)。
しかしながら、本件訂正によって、本件発明1、2は、接合層の誘電正接の値が、400KHzの交流電場を接合層に加えた状態の値であることが特定されたことから、申立人の上記主張は採用することができない。
(6) 小括
以上のとおり、本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものとはいえない。
したがって、取消理由は、本件訂正により解消した。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア) 甲1発明の「静電チャック部材」は、誘電体である「セラミックス」からなるものであるから、本件発明1の「誘電体基板」に相当する。
また、甲1発明の「温度調整用ベース部材」は、「静電チャック部材2の下面側」に設けられ、「静電チャック部材2」を支持しているといえるから、「本件発明1の「前記誘電体基板を支持するベースプレート」に相当する。
さらに、甲1発明の「接合層」は、「静電チャック部材」と「温度調整用ベース部材」を接合するから、本件発明1の「前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層」に相当する。
そして、甲1発明の「静電チャック装置」は、後記相違点を除き、本件発明1の「静電チャック」に相当する。
(イ) 上記(ア)より、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「 誘電体基板と、
前記誘電体基板を支持するベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備える静電チャック。」
[相違点]
「接合層」について、本件発明1は、「400KHzの交流電場を前記接合層に加えた状態において、前記接合層の温度が20℃のときにおける前記接合層の誘電正接の値、のことを基準値としたときに、前記接合層の温度が20℃から-60℃まで変化したときに、前記接合層の誘電正接の値が変動する範囲が、前記基準値の50%から200%までの範囲内に収まる」のに対し、甲1発明は、そのような構成を備えているか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア) 検討
甲2~甲9には、上記第5の2~9の記載があるところ、相違点に係る構成は記載も示唆もされておらず、また、本件特許の優先権主張の日前における技術常識であるともいえない。
そうすると、甲1発明に甲2~甲9に記載された事項を適用しても、相違点に係る本件発明1の構成には至らない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
(イ) 申立人の主張について
a 相違点に関して、申立人は、令和8年3月30日に提出した意見書2頁5行~4頁11行において、甲3のFig.2より、交流電場の周波数が106Hzでのシリコーンエラストマーの誘電正接の値は、20℃においておおよそ1.8×10-3、-60℃においておおよそ3.6×10-3となることが見て取れるし、交流電場の周波数が400KHzの誘電正接の値は、106Hzの場合と大差ないことは明らかであるから、甲3には、シリコーンエラストマーについて、400KHzの交流電場において、温度が20℃のときにおける誘電正接の値を基準値とした場合、温度が20℃から-60℃まで変化したときに誘電正接の値が変化する範囲が、基準値の50%から200%までの範囲内に収まることが記載されており、さらに、シリコーン材料の誘電正接が温度や周波数に影響されにくいことは、甲8や甲9に記載されているように周知技術であるから、甲1の静電チャックが備える接合層として、甲3、甲8、甲9の記載事項に基づいて、「温度変化に対して誘電正接の値が変動する範囲が小さい、周知のシリコーンエラストマー」を選択することは、単なる設計変更にすぎない旨主張する。
b しかしながら、甲3のFig.2(第5の3)からは、交流電場の周波数が106Hzでのシリコーンエラストマーの誘電正接の正確な値は見て取ることはできず、20℃においておおよそ1.8×10-3、-60℃においておおよそ3.6×10-3であるとはいえない。
また、甲3のFig.2(第5の3)から、シリコンエラストマーの温度や周波数が変化することで誘電正接が変化することが見て取れ、甲3のFig.4(第5の3)から、400KHzが含まれる105Hz~106Hzの-100℃(データラベル「+」)と20℃(データラベル「*」)の誘電正接の値は大きく異なること、及び、-100℃の誘電正接の値は、400KHzが含まれる105Hz~106Hzの範囲において、周波数が下がるほど小さくなることが見て取れることに鑑みれば、シリコーン材料の誘電正接が温度や周波数に影響されにくいことが周知技術であるとはいえない。
そうすると、申立人の主張は前提において誤りがあるから、採用することができない。
c また、申立人は、令和8年3月30日に提出した意見書7頁最終行~8頁24行において、甲3、甲8、甲9にそれぞれ記載されているとおり、比較的広い温度範囲の比較的広い周波数範囲において誘電正接が変動する範囲が極めて小さいことは、シリコーンエラストマーという材料自体が持つ一般的な固有の性質(内在的特定)であるから、本件発明1は、甲1に記載されている静電チャック装置の接合層について、特定の周波数および特定の温度条件下での内在的な特性を単に確認し、パラメータとして表現したにすぎず、進歩性を有していない発明である旨主張する。
d しかしながら、上記bで示したように、シリコーン材料の誘電正接は温度や周波数に影響されにくいものではなく、甲1に記載されている静電チャック装置の接合層が、相違点に係る本件発明1の構成を有するものとはいえないから、本件発明1は、甲1に記載されている静電チャック装置に用いられている接合層について、特定の周波数および特定の温度条件下での内在的な特性を単に確認し、パラメータとして表現したにすぎないとの申立人の主張は、採用することができない。
(ウ) まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を限定した発明であり、甲1発明と対比すると、少なくとも、上記(1)ア(イ)の相違点を有するところ、当該相違点については、上記(1)イで検討したとおりであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3は、甲1発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 小括
以上のとおり、本件発明1~3は、甲1発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1~3は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
したがって、申立理由1には理由がない。
2 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件発明1~3は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、特許明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、特許明細書等の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすといえる。
(2) 判断
ア 特許明細書等の【0025】には、接着剤300として、例えば、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤等を用いることができることが記載されている。
また、特許明細書等の【0049】~【0052】には、接合層300に用いる接着剤として、温度低下時における誘電正接の値の変動及び誘電正接の値が、本件発明1~3で特定される範囲に収まるものを選定することが記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者であれば、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤等の既存の接着剤の中から、20℃から-60℃における誘電正接の値を測定し、誘電正接の値の変動及び誘電正接の値が本件発明1~3で特定される範囲に収まるものを選定すればよく、これらの記載に接した当業者であれば、本件発明1~3の静電チャックを生産することができるといえる。
イ また、特許明細書等の【0052】には、既存の接着剤に対しフィラーを添加することで、温度低下時における誘電正接の値の変動が、本件発明1~3で特定される範囲に収めることが可能であること、及び、アルミナのような無機材料を加えることで誘電正接の値の変動幅を調整することができ、フィラーの添加量を増加させるほど誘電正接の値が小さくなり、低温時における誘電正接の変化量を小さくすることができることも記載されている。
そうすると、これらの記載に接した当業者であれば、既存の接着剤に対してアルミナのような無機材料のフィラーを添加し、その添加量を調整することで、20℃から-60℃における誘電正接の値の変動及び誘電正接の値を、本件発明1~3で特定される範囲に収めることができ、本件発明1~3の静電チャックを生産することができるといえる。
ウ 以上によれば、特許明細書等の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、実施可能要件を満たす。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、異議申立書55頁3行~56頁最終行、61頁下から7行~62頁1行、及び、意見書9頁20行~29行において、特許明細書等の【0052】には、接合層300に用いる接着剤について、「低温低下時における誘電正接の値の変動が、上記範囲に収まるものを選定することが好ましい」との記載があるが、例えば、分子構造、極性、ガラス転移点などの物理的・化学的特性としてどのような特性を有する接着剤を選定すればよいのか記載されておらず、膨大な数の種類が存在する公知の接着剤の中から本件発明1~3の特性を有する接着剤をしらみつぶしに試さなければならず、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある旨主張する。
しかしながら、上記(2)アで示したように、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤等の既存の接着剤の中から、誘電正接の値の変動が本件発明1又は本件発明2で特定される範囲に収まるものを選定すればよく、接合層に用いる接着剤を選定するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、異議申立書57頁1行~58頁17行、62頁2行~5行、及び、意見書9頁30行~38行において、特許明細書等の【0052】には、接合層に含まれるフィラーについて、「添加量を増加させるほど誘電正接の値は小さくなり、低温時における誘電正接の変化量も小さくなることが判明している」と記載があるが、低温時における接合層の誘電正接の変化量は、フィラーの添加量以外の複数の因子によっても変化するものであり、例えば、フィラーの材料であるアルミナの粒子径や形状等、フィラーの添加量の具体的な範囲、フィラーを接着剤に均一に分散させるための具体的な方法が記載されておらず、特許明細書等の発明の詳細な説明は、当業者であっても本件発明1~3の静電チャックを作れるように記載されていない旨主張する。
しかしながら、フィラーの材料は、市販されている既存のフィラーを使用すればよく、また、フィラー添加量は、フィラーを添加した接着剤の誘電正接の値を測定し、測定結果に応じて添加量を適宜増減させればよく、さらに、フィラーを接着剤に均一に分散させるための具体的な方法としては、超音波ホモナイザー等の周知の方法を利用すればよく、当業者であれば、本件発明1~3の静電チャックを作れるように記載されていないとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立人は、異議申立書59頁4行~59頁最終行において、特許明細書等には、本件発明1に含まれるとされる「本実施形態1」及び「本実施形態2」と「比較例」との電気的特性の比較を示すだけであって、「本実施形態1」、「本実施形態2」、「比較例」のそれぞれの製造方法に関する情報が全く記載されておらず、当業者であっても、本件発明1~3の静電チャックを作れるように記載されていない旨主張する。
また、申立人は、令和8年3月30日に提出した意見書10頁20行~11頁5行において、特許明細書等には、「本実施形態1」の製造方法及び「本実施形態2」の製造方法との差異は明確に記載されておらず、「本実施形態1」と「比較例」がどのようにして誘電正接や比誘電率を異ならせたか全く不明であり、当業者であっても、本件発明1~3の静電チャックを作れるように記載されていない旨主張する。
しかしながら、上記(2)ア及びイの検討を参酌すると、「本実施形態1」、「本実施形態2」、「比較例」は、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤等の既存の接着剤の中から、誘電正接の値の変動及び誘電正接の値が本件発明1~3で特定される範囲に収まるもの又は収まらないものを選定するか、既存の接着剤に対してアルミナのような無機材料のフィラーを添加し、その添加量を調整することによって、誘電正接の値の変動及び誘電正接の値が本件発明1~3で特定される範囲に収まるもの又は収まらないものを選定すればよいから、特許明細書等の発明の詳細な説明は、当業者であれば、本件発明1~3の静電チャックを作れるように記載されているということができる。
よって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
(4) 小括
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものとはいえない。
したがって、申立理由3には理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700944