特許異議申立
2024-700586
歯ブラシ
- 審判番号
- 2024-700586
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-148309
- 登録番号
- 7407091
- 請求日
- 2024年06月20日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ライオン株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】川越 雄一郎
- 【権利者代理人】加藤 広之
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 窪田 治彦
- 審判官 北村 英隆
- 審判官 永冨 宏之
- 分類
- P651 .536-YAA(A46B) / P651 .537-YAA(A46B) / P651 .121-YAA(A46B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7407091号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7407091号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7407091号の請求項1、6に係る特許を維持する。
特許第7407091号の請求項2~5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概略
特許第7407091号の請求項1~6に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」~「本件特許6」といい、総称して「本件特許」という。)についての手続の概略は、概ね、次のとおりである。
令和2年 9月 3日 出願(特願2020-148309号)
令和5年12月20日 特許権の設定登録
令和5年12月28日 特許掲載公報
令和6年 6月20日 特許異議申立人藤江桂子(以下「異議申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年11月13日付け 取消理由通知書
令和7年 1月 8日 意見書(特許権者)及び訂正請求書の提出
令和7年 3月 5日 意見書(異議申立人)の提出
令和7年 4月 2日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 6月 6日 意見書(特許権者)及び訂正請求書の提出
以下、令和7年6月6日提出の訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。なお、令和7年1月8日付け訂正請求書は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、「特許第7407091号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」ものであって、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「先端側に位置し植毛面を有するヘッド部と、前記ヘッド部より後端側に配置された把持部と、前記ヘッド部と前記把持部との間に配置されたネック部と、
を有するブラシ本体を備え、
前記ブラシ本体は、透明系飽和ポリエステル樹脂で形成され、
前記植毛面と直交する第1方向について、前記ヘッド部の厚さは全領域において2mm以上、3.8mm以下であり、
前記ブラシ本体が延びる長軸方向と前記第1方向とに直交する第2方向について、前記ネック部の最小幅は5.3mm以下であり、
前記ネック部が前記最小幅となる前記長軸方向の位置をWとし、前記位置Wにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをW1とし、
前記ヘッド部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をSとし、前記中心Sにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをS1とし、
前記把持部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をTとし、前記中心Tにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをT1とすると、
前記断面二次モーメントW1は、20mm4以上、50mm4以下であり、
W1/S1で表される値は、0.9以上、1.9以下であり、
T1/W1で表される値は、6以上、26以下であることを特徴とする歯ブラシ。」
とあるのを、
「先端側に位置し植毛面を有するヘッド部と、前記ヘッド部より後端側に配置された把持部と、前記ヘッド部と前記把持部との間に配置されたネック部と、
を有するブラシ本体を備え、
ヘッド部は、正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦で平行な面を形成しており、正面視におけるヘッド部は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の形状を有し、
正面視及び側面視におけるネック部と把持部との外形輪郭線は、前記ヘッド部と前記ネック部の境界から把持部側に向けて直線および曲線が複数繋がった形状であって、前記ネック部及び前記把持部の上記曲線の領域の幅及び厚さが漸次大きくなったり小さくなったりしており、
前記ブラシ本体は、透明または半透明となる透明系の非晶性のポリエステル樹脂で形成され、
前記植毛面と直交する第1方向について、前記ヘッド部の厚さは全領域において2mm以上、3.8mm以下であり、
前記ブラシ本体が延びる長軸方向と前記第1方向とに直交する第2方向について、前記ネック部の最小幅は3.5mm以上、5.0mm以下であり、
前記ネック部が前記最小幅となる前記長軸方向の位置をWとし、前記位置Wにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをW1とし、
前記ヘッド部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をSとし、前記中心Sにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをS1とし、
前記把持部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をTとし、前記中心Tにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをT1とすると、
前記断面二次モーメントW1は、20mm4以上、50mm4以下であり、
W1/S1で表される値は、1.0以上、1.9以下であり、
T1/W1で表される値は、6以上、26以下であり、
前記第1方向で前記植毛面側である正面側から視た正面視における前記ネック部の撓み領域の前記長軸方向の長さに対して中間となる位置をHとし、位置Hにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをH1とすると、
前記位置Hにおける前記第2方向の幅は、5.5mm以下であり、且つ、前記断面二次モーメントH1は、28mm4以上、70mm4以下であり、
前記位置Hを起点として、前記ヘッド部側に15mm離れた位置をQとし、前記把持部側に10mm離れた位置をRとし、位置Qにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをQ1とし、位置Rにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをR1とすると、
H1/Q1で表される値は、1.0以上、2.0以下であり、
R1/H1で表される値は、1.7以上、3.0以下であり、
前記撓み領域における前記正面視で前記長軸方向の前記先端側の端部は、前記植毛面に設けられた複数の植毛穴のうち、最も前記後端側に位置する前記植毛穴における前記後端側の縁の位置であり、
前記撓み領域における前記正面視で前記長さ方向の前記後端側の端部は、前記把持部の先端側の端部であり、
前記撓み領域における前記長さ方向の前記後端側の端部を位置Iとすると、
前記位置Hと前記位置Iとの間における前記正面視で前記第2方向の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して1.9°以上、6.5°以下の傾きであり、
前記第2方向の一方側から視た側面視で前記位置Hと前記位置Iとの間における前記第1方向で前記正面側とは逆側である背面側の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して3.0°以上、5.3°以下の傾きであり、
前記位置Iから前記後端側に20mm離れた位置をUとすると、
前記側面視で前記中心Sと、前記正面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記中心Sと、前記背面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uは、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線からの距離がいずれも5mm以下であり、
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線は全て半径45mm以上の円弧と直線とから選択された線で形成され、
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線における任意の二点を結んだ直線は、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線に対する交差角度が8°以下であり、
前記位置Uにおける厚さ方向の曲げに関する断面二次モーメントをU1とすると、U1/W1で表される値は、6以上、25以下であることを特徴とする歯ブラシ。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記透明系飽和ポリエステル樹脂は、PCTA樹脂である、請求項1から5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」とあるのを、「前記透明系飽和ポリエステル樹脂は、PCTA樹脂である、請求項1に記載の歯ブラシ。」に訂正する
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
(ア) 訂正事項1のうち、「ヘッド部は、正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦で平行な面を形成しており、正面視におけるヘッド部は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の形状を有し、正面視及び側面視におけるネック部と把持部との外形輪郭線は、前記ヘッド部と前記ネック部の境界から把持部側に向けて直線および曲線が複数繋がった形状であって、前記ネック部及び前記把持部の上記曲線の領域の幅及び厚さが漸次大きくなったり小さくなったりしており」との訂正は、ヘッド部とネック部と把持部とを有するブラシ本体に関し、具体的に限定するものである。
(イ) 訂正事項1のうち、「前記ブラシ本体は透明または半透明となる透明系の非晶性のポリエステル樹脂で形成され」との訂正は、ブラシ本体に関して材料である樹脂を具体的に限定し、明瞭とするものである。
(ウ) 訂正事項1のうち、「前記ブラシ本体が延びる長軸方向と前記第1方向とに直交する第2方向について、前記ネック部の最小幅は3.5mm以上、5.0mm以下であり」との訂正は、ネック部の最小幅に関して、具体的に限定するものである。
(エ) 訂正事項1のうち、「W1/S1で表される値は、1.0以上、1.9以下であり」との訂正は、断面二次モーメントW1と断面二次モーメントS1に関して、W1/S1で表される値を具体的に限定するものである。
(オ) 訂正事項1のうち、「前記第1方向で前記植毛面側である正面側から視た正面視における前記ネック部の撓み領域の前記長軸方向の長さに対して中間となる位置をHとし、位置Hにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをH1とすると、前記位置Hにおける前記第2方向の幅は、5.5mm以下であり、且つ、前記断面二次モーメントH1は、28mm4以上、70mm4以下であり、前記位置Hを起点として、前記ヘッド部側に15mm離れた位置をQとし、前記把持部側に10mm離れた位置をRとし、位置Qにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをQ1とし、位置Rにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをR1とすると、H1/Q1で表される値は、1.0以上、2.0以下であり、R1/H1で表される値は、1.7以上、3.0以下であり」との訂正は、ネック部分の撓み領域に関して、具体的に限定するものである。
(カ) 訂正事項1のうち、「前記撓み領域における前記正面視で前記長軸方向の前記先端側の端部は、前記植毛面に設けられた複数の植毛穴のうち、最も前記後端側に位置する前記植毛穴における前記後端側の縁の位置であり、前記撓み領域における前記正面視で前記長さ方向の前記後端側の端部は、前記把持部の先端側の端部であり、前記撓み領域における前記長さ方向の前記後端側の端部を位置Iとすると、前記位置Hと前記位置Iとの間における前記正面視で前記第2方向の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して1.9°以上、6.5°以下の傾きであり、前記第2方向の一方側から視た側面視で前記位置Hと前記位置Iとの間における前記第1方向で前記正面側とは逆側である背面側の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して3.0°以上、5.3°以下の傾きであり」との訂正は、ネック部分の撓み領域に関して、具体的に限定するものである。
(キ) 訂正事項1のうち、「前記位置Iから前記後端側に20mm離れた位置をUとすると、前記側面視で前記中心Sと、前記正面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、前記側面視で前記中心Sと、前記背面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、前記側面視で前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uは、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線からの距離がいずれも5mm以下であり」との訂正は、ヘッド部と把持部とネック部とを有するブラシ本体に関して、具体的に限定するものである。
(ク) 訂正事項1のうち、「前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線は全て半径45mm以上の円弧と直線とから選択された線で形成され、前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線における任意の二点を結んだ直線は、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線に対する交差角度が8°以下であり」との訂正は、ヘッド部と把持部とネック部とを有するブラシ本体の外形輪郭線に関して、具体的に限定するものである。
(ケ) 訂正事項1のうち、「前記位置Uにおける厚さ方向の曲げに関する断面二次モーメントをU1とすると、U1/W1で表される値は、6以上、25以下である」との訂正は、断面二次モーメントU1と断面二次モーメントW1に関して、U1/W1で表される値を具体的に限定するものである。
(コ) したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1に係る訂正は、前記アに示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、以下の点が記載されている(下線は、合議体が付した。)。
「【請求項2】
前記第1方向で前記植毛面側である正面側から視た正面視における前記ネック部の撓み領域の前記長軸方向の長さに対して中間となる位置をHとし、位置Hにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをH1とすると、
前記位置Hにおける前記第2方向の幅は、5.5mm以下であり、且つ、前記断面二次モーメントH1は、28mm4 以上、70mm4以下であり、
前記位置Hを起点として、前記ヘッド部側に15mm離れた位置をQとし、前記把持部側に10mm離れた位置をRとし、位置Qにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをQ1とし、位置Rにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをR1とすると、
H1/Q1で表される値は、1.0以上、2.0以下であり、
R1/H1で表される値は、1.7以上、3.0以下である、
請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記撓み領域における前記正面視で前記長軸方向の前記先端側の端部は、前記植毛面に設けられた複数の植毛穴のうち、最も前記後端側に位置する前記植毛穴における前記後端側の縁の位置であり、
前記撓み領域における前記正面視で前記長さ方向の前記後端側の端部は、前記把持部の先端側の端部であり、
前記撓み領域における前記長さ方向の前記後端側の端部を位置Iとすると、
前記位置Hと前記位置Iとの間における前記正面視で前記第2方向の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して1.9°以上、6.5°以下の傾きであり、
前記第2方向の一方側から視た側面視で前記位置Hと前記位置Iとの間における前記第1方向で前記正面側とは逆側である背面側の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して3.0°以上、5.3°以下の傾きである、
請求項2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記位置Iから前記後端側に20mm離れた位置をUとすると、
前記側面視で前記中心Sと、前記正面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記中心Sと、前記背面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uは、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線からの距離がいずれも5mm以下である、
請求項3に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線は全て半径45mm以上の円弧と直線とから選択された線で形成され、
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線における任意の二点を結んだ直線は、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線に対する交差角度が8°以下である、
請求項4に記載の歯ブラシ。」
「【0022】
ブラシ本体2を構成する樹脂としては、透明または半透明となる透明系の非晶性の硬質樹脂で形成されている。本実施形態のブラシ本体2は、非晶性の硬質樹脂としてポリエステル樹脂が用いられている。非晶性のポリエステル樹脂としては、一例として、テレフタル酸(TA)とイソフタル酸(IPA)を主成分とするジカルボン酸成分と、1、4シクロヘキサンジメタノールジオール(CHDM)を主成分とするジオール成分から成るPCTA樹脂、あるいはポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアリレート樹脂が挙げられる。また、ポリエステル系以外の非晶性の樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂が挙げられる。」
「【0027】
(ヘッド部)
ヘッド部3は、複数の毛束により口腔内を刷掃する部分であり、略直方体状を為すと共に、角部が丸みを帯びた形状を有している。ヘッド部3は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の平板状の形状を有している。本実施形態において、ヘッド部3とネック部4との境界は、ヘッド部3の正面視形状における、ネック部4側の隅切を形成する曲線の終点、すなわち、隅切を形成する曲線の曲がり方向が変化する位置である。」
「【0029】
毛束は、複数本の刷毛(フィラメント)を束ねて二つ折りにし、その間に平線と呼ばれる金属製の抜止め具(図示せず)を挟んで植毛穴6に打ち込むことによって、各植毛穴6に植設されている。ヘッド部3は、正面側の植毛面3aと背面側の面とが互いに平坦で平行な面を形成している。」
「【0032】
(ネック部)
ネック部4は、把持部5とヘッド部3との間に配置され把持部5とヘッド部3とを連結する部分である。本実施形態では、正面視及び側面視におけるネック部4と把持部5との外形輪郭線は、ヘッド部3とネック部4の境界から把持部5側に向けて直線および緩やかな曲線が複数繋がった形状である。そして、正面視において、図2に示した第14曲線領域E14と第15曲線領域E15との交点であり曲率が変化する位置Iをネック部4と把持部5との境界とする。なお、上記の曲率変化が不明瞭な場合、あるいは曲率変化する位置が存在しない場合は、ブラシ本体2の全長に対してブラシ本体2(ヘッド部3)の先端から42.2%の位置(例えば、ブラシ本体2の全長が180mmの場合、ブラシ本体2の先端から76.0mmの位置)を境界とする。」
「【0034】
ネック部4は、ヘッド部3との境界から把持部5に向けて、正面視で外形輪郭線が第5直線領域L5で形成される領域が一定の最小幅であり、外形輪郭線が第13曲線領域E13および第14曲線領域E14で形成される領域が最小幅から幅が漸次広くなる。ネック部4の最小幅は、5.3mm以下であることが好ましく、5.0mm以下であることがより好ましく、4.8mm以下であることがさらに好ましい。ネック部4の最小幅を5.3mm以下とすることにより、奥歯への挿入性や操作性を向上させることができる。ネック部4の最小幅は、強度面から3.5mm以上であることが好ましい。
【0035】
ネック部4は、ヘッド部3との境界から把持部5に向けて、側面視で外形輪郭線が第1直線領域L1と第3直線領域L3とで形成される領域が一定の最小厚さであり、外形輪郭線が曲線領域E1、E2および曲線領域E8、E9で形成される領域が最小厚さから厚さが漸次広くなる。位置W(詳細は後述)におけるネック部4の最小厚さは、5.3mm以下であることが好ましく、5.0mm以下であることがより好ましく、4.8mm以下であることがさらに好ましい。ネック部4の最小厚さが5.3mmを超えた場合、奥歯への挿入性や操作性が低下する可能性がある。ネック部4の最小厚さは、強度面から3.5mm以上であることが好ましい。」
「【0038】
また、ヘッド部3における長軸方向、厚さ方向および幅方向のそれぞれで中央となる中心をSとし、中心Sにおける厚さ方向の曲げに関する断面二次モーメントをS1とすると、W1/S1表される値は、0.9以上、1.9以下であることが好ましく、0.9以上、1.8以下であることがより好ましく、1.0以上、1.8以下であることがさらに好ましい。」
「【0051】
把持部5は、ネック部4との境界の位置Iから後端側に向けて、正面視で外形輪郭線が第16曲線領域E16の極大値を示す位置まで幅が漸次広くなる。正面視で第16曲線領域E16が極大値を示す位置から後端側の外形輪郭線は、第17曲線領域E17が極小値を示す位置まで幅が漸次狭くなる。正面視で第17曲線領域E17が極小値を示す位置から後端側の外形輪郭線は、第18曲線領域E18が極大値を示す位置まで幅が漸次広くなる。本実施形態の把持部5は、第18曲線領域E18が極大値を示す位置で最大幅となる。正面視で第18曲線領域E18が極大値を示す位置から後端側の外形輪郭線は、後端側の端部まで幅が漸次狭くなる。
【0052】
把持部5は、ネック部4との境界の位置Iから後端側に向けて、側面視で外形輪郭線が第3曲線領域E3の極小値を示す位置まで厚さが漸次小さくなる。側面視で第3曲線領域E3が極小値を示す位置から後端側の外形輪郭線は、第4曲線領域E4が極大値を示す位置まで厚さが漸次大きくなる。側面視で第4曲線領域E4が極大値を示す位置から後端側の外形輪郭線は、第5曲線領域E5が極小値を示す位置まで厚さが漸次小さくなる。側面視で第5曲線領域E5が極小値を示す位置から後端側の外形輪郭線は、第6曲線領域E6が極大値を示す位置まで厚さが漸次大きくなる。」
「【0059】
位置Uにおける厚さ方向の曲げに関する断面二次モーメントをU1とすると、U1/W1で表される値は、6以上、25以下であることが好ましく、7以上、20以下であることがより好ましい。U1/W1で表される値が6よりも小さい場合、ネック部4が把持部5と比較して撓みにくくなり、厚さ方向の曲げに伴う応力集中がネック部3の先端側に生じやすくなり強度的に不利になる。一方、U1/W1で表される値が25よりも大きい場合、ネック部4の撓みに対して把持部5の撓みが過度に抑制され、ネック部4と把持部5との境界付近で応力集中しやすくなり強度的に問題が生じる可能性がある。」
「【図1】
[図:0001425741000001.jpg]
【図2】
[図:0001425741000002.jpg]
」
そして、段落【0051】には、ネック部4との境界の位置Iから後端部に向けて、正面視で、把持部の幅が漸次広くなり、また、漸次狭くなることが記載され、段落【0052】には、ネック部4との境界の位置Iから後端部に向けて、側面視で、把持部の厚さが漸次小さくなり、また、漸次大きくなることが記載されており、【図1】、【図2】とを併せみると、本件特許明細書等には、「正面視及び側面視におけるネック部と把持部との外形輪郭線は、前記ヘッド部と前記ネック部の境界から把持部側に向けて直線および曲線が複数繋がった形状であって、前記ネック部及び前記把持部の上記曲線の領域の幅及び厚さが漸次大きくなったり小さくなったり」する構成が記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項1に係る本件訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではない。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項1に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではないことは、明らかである。
さらに、本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項2に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではないことは、明らかである。
さらに、本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項3に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではないことは、明らかである。
さらに、本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項4に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではないことは、明らかである。
さらに、本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項5に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、本件訂正前の請求項6が、請求項1~5の何れか1項を引用するものであったところ、訂正事項2~5により削除された請求項2~5との引用関係を解消するための訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6は、引用関係の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではないことは明らかである。
さらに、本件においては、本件訂正前の請求項1~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項6に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
(7)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6は、請求項2~6が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、本件訂正前の請求項〔1~6〕という一群の請求項ごとに請求されたものである。
(8)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明6」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
先端側に位置し植毛面を有するヘッド部と、前記ヘッド部より後端側に配置された把持部と、前記ヘッド部と前記把持部との間に配置されたネック部と、
を有するブラシ本体を備え、
ヘッド部は、正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦で平行な面を形成しており、正面視におけるヘッド部は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の形状を有し、
正面視及び側面視におけるネック部と把持部との外形輪郭線は、前記ヘッド部と前記ネック部の境界から把持部側に向けて直線および曲線が複数繋がった形状であって、前記ネック部及び前記把持部の上記曲線の領域の幅及び厚さが漸次大きくなったり小さくなったりしており、
前記ブラシ本体は、透明または半透明となる透明系の非晶性のポリエステル樹脂で形成され、
前記植毛面と直交する第1方向について、前記ヘッド部の厚さは全領域において2mm以上、3.8mm以下であり、
前記ブラシ本体が延びる長軸方向と前記第1方向とに直交する第2方向について、前記ネック部の最小幅は3.5mm以上、5.0mm以下であり、
前記ネック部が前記最小幅となる前記長軸方向の位置をWとし、前記位置Wにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをW1とし、
前記ヘッド部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をSとし、前記中心Sにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをS1とし、
前記把持部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をTとし、前記中心Tにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをT1とすると、
前記断面二次モーメントW1は、20mm4以上、50mm4以下であり、
W1/S1で表される値は、1.0以上、1.9以下であり、
T1/W1で表される値は、6以上、26以下であり、
前記第1方向で前記植毛面側である正面側から視た正面視における前記ネック部の撓み領域の前記長軸方向の長さに対して中間となる位置をHとし、位置Hにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをH1とすると、
前記位置Hにおける前記第2方向の幅は、5.5mm以下であり、且つ、前記断面二次モーメントH1は、28mm4以上、70mm4以下であり、
前記位置Hを起点として、前記ヘッド部側に15mm離れた位置をQとし、前記把持部側に10mm離れた位置をRとし、位置Qにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをQ1とし、位置Rにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをR1とすると、
H1/Q1で表される値は、1.0以上、2.0以下であり、
R1/H1で表される値は、1.7以上、3.0以下であり、
前記撓み領域における前記正面視で前記長軸方向の前記先端側の端部は、前記植毛面に設けられた複数の植毛穴のうち、最も前記後端側に位置する前記植毛穴における前記後端側の縁の位置であり、
前記撓み領域における前記正面視で前記長さ方向の前記後端側の端部は、前記把持部の先端側の端部であり、
前記撓み領域における前記長さ方向の前記後端側の端部を位置Iとすると、
前記位置Hと前記位置Iとの間における前記正面視で前記第2方向の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して1.9°以上、6.5°以下の傾きであり、
前記第2方向の一方側から視た側面視で前記位置Hと前記位置Iとの間における前記第1方向で前記正面側とは逆側である背面側の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して3.0°以上、5.3°以下の傾きであり、
前記位置Iから前記後端側に20mm離れた位置をUとすると、
前記側面視で前記中心Sと、前記正面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記中心Sと、前記背面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uは、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線からの距離がいずれも5mm以下であり、
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線は全て半径45mm以上の円弧と直線とから選択された線で形成され、
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線における任意の二点を結んだ直線は、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線に対する交差角度が8°以下であり、
前記位置Uにおける厚さ方向の曲げに関する断面二次モーメントをU1とすると、U1/W1で表される値は、6以上、25以下であることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
(削 除)
【請求項3】
(削 除)
【請求項4】
(削 除)
【請求項5】
(削 除)
【請求項6】
前記透明系飽和ポリエステル樹脂は、PCTA樹脂である、
請求項1に記載の歯ブラシ。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和7年4月2日付け取消理由通知書(決定の予告)及び令和6年11月13日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(サポート要件)(令和7年4月2日付け取消理由通知書(決定の予告))
請求項1~4、6に係る発明において、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための構成が反映されておらず、請求項1~4、6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2-1 取消理由2(明確性)(令和7年4月2日付け取消理由通知書(決定の予告))
請求項1に係る特許は、以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1において「側面視におけるヘッド部の外形輪郭線は、直線状の形状を有し」と記載されているが、「外形輪郭線」が「直線状の形状」とはどのような線を表しているのかが明確でない。また、「直線状の形状」は「直線」とどのように相違するのかが明確でない。
(2)請求項1において「略四角形の形状を有し」、「緩やかな曲線」及び「大きな凹凸部」と記載されているが、それぞれどの程度のものを示しているのかが明確でない。
2-2 取消理由2(明確性)(令和6年11月13日付け取消理由通知書)
請求項1に係る特許は、以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1には、「透明系飽和ポリエステル樹脂」と記載されているが、具体的な材料が不明である。
3 取消理由3(進歩性)(令和7年4月2日付け取消理由通知書(決定の予告))
請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、下記の引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに引用例2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
証拠方法
引用例1:国際公開第2005/039355号(甲第6号証)
引用例2:尾田十八/三好俊郎共著、演習材料力学[新訂版]、日本、株式会社サイエンス社、2001年4月10日、p.48-p.49(甲第1号証)
第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について(下線部は合議体が付した。)
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
発明の詳細な説明には、「歯ブラシ用の透明系樹脂としてはポリエステル系が主に使われてきたが、当該樹脂は一般的に耐疲労強度に課題がある」(【0005】)、「疲労破断は一般的にネック部で起こるため、耐疲労強度の確保には負荷エネルギーがネック部領域に蓄積しないようにすることが大事である。そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の薄型化施策として使われた、ネック部に特化した断面形状推移(すなわち、ネック部自体の強化)ではなく、当該エネルギーを広範囲に分散させるために、ヘッド部、ネック部および把持部の各位置における断面2次モーメントのバランスを適正化することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。」(【0008】)と記載されており、耐疲労強度についての課題を解決するために、「当該エネルギーを広範囲に分散させるために、ヘッド部、ネック部および把持部の各位置における断面2次モーメントのバランスを適正化すること」が示唆されている。
そして、当該課題を解決する具体的な第1の態様として、「本発明の第1の態様に従えば、・・・前記ネック部が前記最小幅となる前記長軸方向の位置をWとし、前記位置Wにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをW1とし、前記ヘッド部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をSとし、前記中心Sにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをS1とし、前記把持部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をTとし、前記中心Tにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをT1とすると、前記断面二次モーメントW1は、20mm4以上、50mm4以下であり、W1/S1で表される値は、0.9以上、1.9以下であり、T1/W1で表される値は、6以上、26以下であることを特徴とする歯ブラシが提供される。」(【0009】)と記載され、また「上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記第1方向で前記植毛面側である正面側から視た正面視における前記ネック部の撓み領域の前記長軸方向の長さに対して中間となる位置をHとし、位置Hにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをH1とすると、前記位置Hにおける前記第2方向の幅は、5.5mm以下であり、且つ、前記断面二次モーメントH1は、28mm4以上、70mm4以下であり、前記位置Hを起点として、前記ヘッド部側に15mm離れた位置をQとし、前記把持部側に10mm離れた位置をRとし、位置Qにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをQ1とし、位置Rにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをR1とすると、H1/Q1で表される値は、1.0以上、2.0以下であり、R1/H1で表される値は、1.7以上、3.0以下であることを特徴とする。」(【0010】)、また、「上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記撓み領域における前記正面視で前記長軸方向の前記先端側の端部は、前記植毛面に設けられた複数の植毛穴のうち、最も前記後端側に位置する前記植毛穴における前記後端側の縁の位置であり、前記撓み領域における前記正面視で前記長さ方向の前記後端側の端部は、前記把持部の先端側の端部であり、前記撓み領域における前記長さ方向の前記後端側の端部を位置Iとすると、前記位置Hと前記位置Iとの間における前記正面視で前記第2方向の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して1.9°以上、6.5°以下の傾きであり、前記第2方向の一方側から視た側面視で前記位置Hと前記位置Iとの間における前記第1方向で前記正面側とは逆側である背面側の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して3.0°以上、5.3°以下の傾きであることを特徴とする。」(【0011】)、また、「上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記位置Iから前記後端側に20mm離れた位置をUとすると、前記側面視で前記中心Sと、前記正面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、前記側面視で前記中心Sと、前記背面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、前記側面視で前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uは、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線からの距離がいずれも5mm以下であることを特徴とする。」(【0012】)、また、「上記本発明の一態様に係る歯ブラシにおいて、前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線は全て半径45mm以上の円弧と直線とから選択された線で形成され、前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線における任意の二点を結んだ直線は、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線に対する交差角度が8°以下であることを特徴とする。」(【0013】)と記載されている。
これらは、ポリエステル樹脂で形成された歯ブラシにおける課題である耐疲労強度について、当該課題を解決する具体的な第1の態様として示されたものであり、それぞれの構成は当該課題を解決するために必要な構成要件と認められる。そして、本件特許発明1はこれらの構成をすべて備えているといえる。
そうすると、これら構成要素を有する歯ブラシは、負荷エネルギーがネック部領域に蓄積することがないように当該エネルギーを広範囲に分散させるため、ヘッド部、ネック部および把持部の各位置における断面二次モーメントのバランスを適正化するものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるとともに、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。
以上によると、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものである。
2-1 取消理由2(明確性)について
(1)本件訂正により、「ヘッド部は、正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦で平行な面を形成しており」と訂正されたため、側面視におけるヘッド部の構成は明確となり、取消理由は解消した。
(2)本件訂正により、「ヘッド部は、正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦で平行な面を形成しており、正面視におけるヘッド部は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の形状を有し、正面視及び側面視におけるネック部と把持部との外形輪郭線は、前記ヘッド部と前記ネック部の境界から把持部側に向けて直線および曲線が複数繋がった形状であって、前記ネック部及び前記把持部の上記曲線の領域の幅及び厚さが漸次大きくなったり小さくなったりしており」と訂正されたため、取消理由は解消した。
2-2 取消理由2(明確性)について
(1)本件訂正により、「透明系飽和ポリエステル樹脂」との記載は、「透明または半透明となる透明系の非晶性のポリエステル樹脂」と訂正されたため、取消理由は解消した。
3 取消理由3(進歩性)について
(1)引用文献の記載及び引用発明
ア 引用例1(甲第6号証)の記載
異議申立人が甲第6号証として提出し、令和7年4月2日付け取消理由通知で引用した引用例1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「[0056] ヘッド部の厚さは、平線植毛法あるいは平線植毛法以外の植毛法によって若干の違いが見られるが、一般的には2~6mm程度が望ましい。ヘッド部の厚さを薄くすれば口腔内の操作性は向上するが、一方において十分な植毛強度と耐折強度を確保するにはある程度の厚さが必要である。したがって、この両方の要望を兼ね備えるものとして、上記厚さ範囲とすることが望ましい。これによって、強度充分で操作性のよい歯ブラシとすることができる。」
(イ)「[0057] ヘッド部を含めて歯ブラシハンドルの構成樹脂としては、熱可塑性樹脂として、曲げ弾性率500~3000MPa(JIS K 7203)のものが好ましく、例えば、ポリオレフイン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、・・・などを用いることができる・・・」
(ウ)「[0058] また、透明性を重視する場合には、米国イーストマン社製ポリエステルの一種であるPCTA樹脂がコストや耐歯磨剤性の点から好ましい。」
(エ)「[0064] [図6]本発明の歯ブラシの第1の具体例を示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は背面図である。
[図7]図6の歯ブラシの詳細図であって、(a)は図6(a)中のヘッド部の拡大平面図、(b)は図6(a)中の植毛穴の拡大断面図、(c)は図6(b)中のA-A’線位置における拡大断面図、(d)は図6(b)中のB-B’線位置における拡大断面図、(e)は図6(b)中のC-C’線位置における拡大断面図、(f)は図6(b)中のD-D’線位置における拡大断面図、(g)は図6(b)中のE-E'線位置における拡大断面図、(h)は図6(b)中のF-F’線位置における拡大断面図、(i)は図6(b)中のG-G’線位置における拡大断面図である。」
(オ)[0107]及び図6には、先端側に位置するヘッド部1と、前記ヘッド部より後端側に配置されたハンドル5と、前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材と、を有する歯ブラシ本体部が示されている。
(カ)植毛面2と直交する方向を第1方向とし、歯ブラシ本体部の長軸方向と前記第1方向とに直交する方向を第2方向とすると、図6(a)には、第2方向について、前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材の最小幅が5.5mmであることが図示されている。
(キ)図6(b)において、B-B’線位置は、前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材の最小幅となる長軸方向の位置といえる。そして、B-B’線位置における断面は、図7(d)によるとほぼ楕円形状ということができ、第1方向の断面二次モーメント(B-B’)は、(π/4)×a3×b=29.1mm4となる(引用例2のp.49の番号17を参酌し、2a=4.761mm、2b=5.5mmを当てはめた。)。
(ク)図6(b)において、A-A’線位置は、前記ヘッド部1の断面を表す位置に相当するといえる。そして、図6(a)等を参照すると前記ヘッド部1がほぼ同一断面を備えていることが推察できることから、A-A’線位置における前記ヘッド部1の断面形状は、前記ヘッド部1における長軸方向、前記第1方向及び前記第2方向のそれぞれで中央となる位置(「位置A」とする)における断面形状とほぼ同じ断面を備えているといえる。そして、A-A’線位置における断面は図7(c)によるとほぼ長方形ということができ、第1方向の断面二次モーメント(A-A’)は、(b×h3)/12=68.2mm4となる(引用例2のp.48の番号1を参酌し、b=8.2mm、h=4.638mmを当てはめた。)。
(ケ)図6(b)において、F-F’線位置は、ハンドル5における長軸方向、前記第1方向及び前記第2方向の中心(「位置F」とする)を含む断面を表す位置に相当するといえる。そして、F-F’線における断面は図13(h)によるとほぼ楕円形状ということができ、第1方向の断面二次モーメント(F-F’)は、(π/4)×a3×b=496.6mm4となる(引用例2のp.49の番号17を参酌し、2a=9.5mm、2b=11.8mmを当てはめた。)。
(コ)図7(c)には、A-A’線位置における断面において、厚さが4.638mmであることが示されている。
(サ)図6(a)において、ヘッド部1の植毛面2とその反対面である背面は、それぞれ平坦面を形成する構成であることが見て取れる。また、ヘッド部は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略長方形であることが図示されている。
(シ)図6(a)の正面視及び図6(b)の側面視において、ヘッド部1とハンドル5との間にくびれ部を有しており、ハンドル部5の輪郭線は、くびれ部からハンドル5側に向けてなだらかな線からなる形状を備えている。
(ス)図6~図7には、次の事項が図示されている。
【図6】
[図:0001425741000003.jpg]
【図7】
[図:0001425741000004.jpg]
イ 引用発明
前記ア(ア)~(ス)によると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ヘッド部1と、前記ヘッド部1より後端側に配置されたハンドル5と、前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材と、
を有する歯ブラシ本体部を備え、
ヘッド部1は、植毛面2と背面とがそれぞれ平坦面を形成しており、ヘッド部は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略長方形であり、
正面視及び側面視におけるヘッド部1とハンドル部5との間に配置された部材とハンドル部5との輪郭線は、ヘッド部1の後端部からハンドル部5に向けてなだらかな線からなる形状を備えており、
前記ヘッド部1を含めて歯ブラシハンドルの構成樹脂としては、透明性を重視する場合にはPCTA樹脂で形成され、
前記ヘッド部1の厚さが4.638mmであり、
第2方向について、前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材の最小幅が5.5mmであり、
前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材が前記最小幅となる軸方向の位置をB-B’線位置とし、前記B-B’線位置における第1方向の曲げに関する断面二次モーメントを(B-B’)とし、
前記ヘッド部1における長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心を位置Aとし、前記位置Aにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントを(A-A’)とし、
前記ハンドル5における長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心を位置Fとし、前記位置Fにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントを(F-F’)とすると、
前記断面二次モーメント(B-B’)は、29.1mm4であり、
(B-B’)/(A-A’)で表される値は、0.4(=29.1/68.2)であり、
(F-F’)/(B-B’)で表される値は、17.1(=496.6/29.1)である歯ブラシ。」
(2)本件特許発明1についての検討
ア 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ヘッド部1」、「ハンドル5」、「前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材」、「歯ブラシ本体部」、「植毛面2」、「背面」、「正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略長方形」、「透明性を重視する場合にはPCTA樹脂」、「前記ヘッド部1と前記ハンドル5との間に配置された部材が前記最小幅となる軸方向の位置をB-B’線位置」、「前記B-B’線位置における第1方向の曲げに関する断面二次モーメントを(B-B’)」、「前記ヘッド部1における長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心を位置A」、「前記位置Aにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントを(A-A’)」、「前記ハンドル5における長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心を位置F」、「前記位置Fにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントを(F-F’)」は、本件特許発明1の「先端側に位置し植毛面を有するヘッド部」、「前記ヘッド部より後端側に配置された把持部」、「前記ヘッド部と前記把持部との間に配置されたネック部」、「ブラシ本体」、「植毛面」、「背面側の面」、「正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形」、「透明または半透明となる透明系の非晶性のポリエステル樹脂」、「前記ネック部が前記最小幅となる前記長軸方向の位置をW」、「前記位置Wにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをW1」、「前記ヘッド部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をS」、「前記中心Sにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをS1」、「前記把持部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をT」、「前記中心Tにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをT1」にそれぞれ相当する。
また、「ヘッド部」について、引用発明は「植毛面2と背面とがそれぞれ平坦面を形成」しているのに対して、本件特許発明1は「正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦で平行な面を形成」していることから、引用発明は本件特許発明1と、「正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦面を形成」している点で共通する。
また、引用発明の断面二次モーメント(B-B’)は「29.1mm4」であるのに対し、本件特許発明1の断面二次モーメントW1は、「20mm4以上、50mm4以下」であることから、引用発明の「断面二次モーメント(B-B’)は、29.1mm4」である構成は、本件特許発明の断面二次モーメントW1の範囲内にあり、相当するといえる。
さらに、引用発明において「(F-F’)/(B-B’)で表される値は、17.1(=496.6/29.1)」であるのに対し、本件特許発明1の「T1/W1で表される値は、6以上、26以下」であることから、引用発明の「(F-F’)/(B-B’)」は、本件特許発明のT1/W1の範囲内にあり、相当するといえる。そうすると、本件特許発明1と引用発明とは、次の点において一致し、相違する。
(一致点)
「先端側に位置し植毛面を有するヘッド部と、前記ヘッド部より後端側に配置された把持部と、前記ヘッド部と前記把持部との間に配置されたネック部と、
を有するブラシ本体を備え、
ヘッド部は、正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦面を形成しており、正面視におけるヘッド部は、正面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の形状を有し、
前記ブラシ本体は、透明または半透明となる透明系の非晶性のポリエステル樹脂で形成され、
前記ネック部が前記最小幅となる前記長軸方向の位置をWとし、前記位置Wにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをW1とし、
前記ヘッド部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をSとし、前記中心Sにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをS1とし、
前記把持部における前記長軸方向、前記第1方向および前記第2方向のそれぞれで中央となる中心をTとし、前記中心Tにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをT1とすると、
前記断面二次モーメントW1は、20mm4以上、50mm4以下であり、
T1/W1で表される値は、6以上、26以下である歯ブラシ。」
(相違点)
(ア)相違点1
「ヘッド部」について、本件特許発明1は、「正面側の植毛面と背面側の面とが互いに平坦で平行な面」を形成しているのに対し、引用発明は、「植毛面2と背面とがそれぞれ平坦面」を形成しており、互いに平行な面ではない点。
(イ)相違点2
本件特許発明1は、「正面視及び側面視におけるネック部と把持部との外形輪郭線は、前記ヘッド部と前記ネック部の境界から把持部側に向けて直線および曲線が複数繋がった形状であって、前記ネック部及び前記把持部の上記曲線の領域の幅及び厚さが漸次大きくなったり小さくなったり」する形状であるのに対して、引用発明は、「正面視及び側面視におけるヘッド部1とハンドル部5との間に配置された部材とハンドル部5との輪郭線は、ヘッド部1の後端部からハンドル部5に向けてなだらかな線からなる形状」である点。
(ウ)相違点3
本件特許発明1は、「植毛面と直交する第1方向について、ヘッド部の厚さは全領域において2mm以上、3.8mm以下」であり、「ブラシ本体が延びる長軸方向と第1方向とに直交する第2方向について、ネック部の最小幅は3.5mm以上、5.0mm以下」であるのに対し、引用発明は、「ヘッド部1の厚さが4.638mm」であり、「ヘッド部1とハンドル5との間に配置された部材の最小幅が5.5mm」である点。
(エ)相違点4
本件特許発明1は、断面二次モーメントW1とS1において「W1/S1で表される値は、1.0以上、1.9以下」であるのに対し、引用発明は、B-B’線位置と位置Aにおける断面二次モーメントにおいて「(B-B’)/(A-A’)で表される値は、0.4」である点。
(オ)相違点5
本件特許発明1は、
「前記第1方向で前記植毛面側である正面側から視た正面視における前記ネック部の撓み領域の前記長軸方向の長さに対して中間となる位置をHとし、位置Hにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをH1とすると、
前記位置Hにおける前記第2方向の幅は、5.5mm以下であり、且つ、前記断面二次モーメントH1は、28mm4以上、70mm4以下であり、
前記位置Hを起点として、前記ヘッド部側に15mm離れた位置をQとし、前記把持部側に10mm離れた位置をRとし、位置Qにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをQ1とし、位置Rにおける前記第1方向の曲げに関する断面二次モーメントをR1とすると、
H1/Q1で表される値は、1.0以上、2.0以下であり、
R1/H1で表される値は、1.7以上、3.0以下であり、
前記撓み領域における前記正面視で前記長軸方向の前記先端側の端部は、前記植毛面に設けられた複数の植毛穴のうち、最も前記後端側に位置する前記植毛穴における前記後端側の縁の位置であり、
前記撓み領域における前記正面視で前記長さ方向の前記後端側の端部は、前記把持部の先端側の端部であり、
前記撓み領域における前記長さ方向の前記後端側の端部を位置Iとすると、
前記位置Hと前記位置Iとの間における前記正面視で前記第2方向の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して1.9°以上、6.5°以下の傾きであり、
前記第2方向の一方側から視た側面視で前記位置Hと前記位置Iとの間における前記第1方向で前記正面側とは逆側である背面側の外形輪郭線において、前記先端側の端点と前記後端側の端点とを結ぶ直線は、前記長軸方向に対して3.0°以上、5.3°以下の傾きであり、
前記位置Iから前記後端側に20mm離れた位置をUとすると、
前記側面視で前記中心Sと、前記正面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記中心Sと、前記背面側の前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uとは略直線上にあり、
前記側面視で前記外形輪郭線における位置H、位置Iおよび位置Uは、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線からの距離がいずれも5mm以下であり、
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線は全て半径45mm以上の円弧と直線とから選択された線で形成され、
前記中心Sと前記位置Uとの間において、前記側面視の前記外形輪郭線における任意の二点を結んだ直線は、前記中心Sを起点として前記長軸方向に延びる直線に対する交差角度が8°以下であり、
前記位置Uにおける厚さ方向の曲げに関する断面二次モーメントをU1とすると、U1/W1で表される値は、6以上、25以下」
であるのに対し、引用発明はそのような構成を備えるか不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、まず、前記相違点5について検討する。
a 本件特許発明1は、ポリエステル樹脂からなる歯ブラシであるが、ポリエステル系樹脂は、比較的軽い力を継続して受けると破断しやすいという特性を有している(本件特許明細書【0006】)。疲労破断は一般的にネック部で起こるため、耐疲労強度の確保には負荷エネルギーがネック部領域に蓄積しないようにすることが大事であり、この課題を解決するために、本件特許発明1は、ネック部自体の強化ではなく、当該エネルギーを広範囲に分散させるために、ヘッド部、ネック部および把持部の各位置における断面2次モーメントのバランスを適正化したものである(同【0008】)。
そして、本件特許発明1は、前記相違点5を含む構成を有することにより、ヘッド部における中心Sから、撓み領域における後端側の端部である位置I、さらに位置Iから後端側に20mm離れた位置Uにかけて、位置W、Q、H、Rの断面二次モーメントの関係を規定し、また、これら領域における歯ブラシの外形輪郭線を特定することで、中心Sから位置Uにかけての断面二次モーメントのバランスを適正化した構成であることが認められる。
b 引用発明は、PCTA樹脂からなる歯ブラシであり、引用例1において「PTT毛の熱水収縮率およびヒステリシス特性を種々検討することにより、PTT毛の毛開き耐久性をさらに向上し、より耐久性に優れた歯ブラシを提供することを第1の目的とするもの」であり、「さらに、PTT毛特有の植毛部仕様とすることにより、毛開き耐久性の向上に加え、歯ブラシとしての操作性、刷掃実感、使用感もより向上させることを第2の目的とするもの」(引用例1[0009])と記載されているように、植毛部についての課題を解決するものである。そして、図6には正面視及び側面視からみた歯ブラシ全体の寸法が示されているが、引用例1において、断面二次モーメントの関係を規定することにより、耐疲労強度を確保することに関する記載や示唆はされていない。
c そして、本件特許発明1は、前記相違点5を含む構成を有することにより、負荷エネルギーを広範囲に分散し、耐疲労強度を高めるといった、顕著な効果を奏するものである。
(イ)異議申立人の主張について
特許異議申立書において本件特許発明1で限定された本件訂正前の請求項2~5で特定される「歯ブラシの各断面の形状、ネック部断面とヘッド部断面との寸法比、ネック部断面と把持部断面との寸法比及び歯ブラシの外形輪郭」について、異議申立人は「例えば、甲第10号証~甲第19号証(それぞれの証拠の全図参照。)にみられるように多様である。」(特許異議申立書(6)(iv)(b))と主張している。しかしながら、甲第10号証~甲第19号証には、歯ブラシの様々な形状が開示されているものの具体的な寸法は記載されておらず、また歯ブラシ本体において耐性疲労強度を確保するための構成についての記載や示唆はされていない。
よって、異議申立人の主張は、採用することができない。
以上のとおりであるから、その余の事項を検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明及び引用例2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3)本件特許発明6についての検討
本件特許発明6は、本件特許発明1を特定するための事項を全て含むものであるから、その余の事項を検討するまでもなく、本件特許発明6は、本件特許発明1と同様の理由により、引用発明及び引用例2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は特許異議申立書において、「本願発明は、(条件1)「負荷エネルギーが局所的に留」ることを防ぎ、「耐疲労強度を確保した透明系の歯ブラシを提供すること」と、(条件2)「口腔内操作性」を確保した歯ブラシを提供すること、という2つの条件を両方満たす発明のはずである」(特許異議申立書(6)(i)(a))が、本件特許発明1は「「耐疲労強度を確保した透明系の歯ブラシ」とはいえない歯ブラシや「口腔内操作性」を確保した歯ブラシの発明とはいえない歯ブラシを含んでいることは、明らかである」(同(6)(i)(e))と主張し、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない旨主張する。
しかし、本件特許発明1が解決しようとする課題は、耐疲労強度を確保した透明系の歯ブラシを提供することであり、そのために、負荷エネルギーを広範囲に分散させ、ヘッド部、ネック部および把持部の各位置における断面二次モーメントのバランスを適正化しようとするものである(本件特許明細書【0008】)。したがって、「条件2」として主張する「口腔内操作性」を確保することは、本件特許発明において必須の事項とまではいえない。
そして「条件1」についてみると、本件特許発明1は、「正面視及び側面視におけるネック部と把持部との外形輪郭線」について「前記ヘッド部と前記ネック部の境界から把持部側に向けて直線および曲線が複数繋がった形状であって、前記ネック部及び前記把持部の上記曲線の領域の幅及び厚さが漸次大きくなったり小さくなったり」する構成を備え、さらにブラシ本体に定められた位置W、S、T、H、Q、R及びUにおける断面二次モーメントの関係を規定することにより、負荷エネルギーが局所的に留まることを防ぐものであることから上記課題を解決するための手段を備えたものということができ、耐疲労強度を確保した透明系の歯ブラシであるといえる。そして、本件特許明細書には当該構成を備えた歯ブラシ本体を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることから、本件特許発明1は特許法36条4項1号及び同法36条6項1号の要件を満たす。
したがって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許1、6は、特許法第36条第4項第1号、同法第36条第6項第1号及び同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。また、本件特許1、6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとは認められないから、同法113条2号により取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、6を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2~5は、本件訂正により削除され、これにより、請求項2~5に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700586