特許異議申立
2025-700211
静電チャック
- 審判番号
- 2025-700211
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-175472
- 登録番号
- 7537585
- 請求日
- 2025年02月19日
- 審決日
- 2026年03月18日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】鎌田 徹
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】村井 賢郎
- 【権利者代理人】津田 拓真
- 【異議申立人】金 海松
- 審判長/審判官
- 審判長 松永 稔
- 審判官 中野 浩昌
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.121-YAA(H10P)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5、特許法第126条第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7537585号発明「静電チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7537585号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7537585号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7537585号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和5年10月10日に出願され、令和6年8月13日にその特許権の設定登録がされ、同年8月21日に特許掲載公報が発行されたものである。
本件特許についての特許異議申立人金海松(以下「申立人」という。)による特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和7年 2月19日 :特許異議の申立て(全請求項)
同年 4月30日付け:取消理由通知書
同年 6月26日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
同年 7月11日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年 8月20日 :申立人による意見書の提出
同年10月 6日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年12月 8日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和8年 1月 9日 :申立人による意見書の提出
なお、特許権者が令和7年6月26日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
特許権者が令和7年12月8日に提出した訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の内容は以下のとおりである。(訂正箇所を示すため、当審が下線を付した。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「セラミックにより形成された部材であって、温度調整用のガスを供給するための複数の貫通穴が形成された誘電体基板と、
金属材料により形成されたベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065
が成り立つことを特徴とする静電チャック。」
と記載されているのを、
「セラミックにより形成された部材であって、温度調整用のガスを供給するための複数の貫通穴が形成された誘電体基板と、
金属材料により形成されたベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065
が成り立つ(ただし、前記接合層の厚さがT(μm)とし、-100℃における前記接合層のヤング率をE’(MPa)としたときに、
E’≦0.04×T-0.04
の条件を満たす場合を除く)ことを特徴とする静電チャック。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。
(2) 一群の請求項について
訂正前の請求項2、3は、請求項1を引用するものであるから、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の適否についての判断
以下、訂正事項1について、訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてした訂正であるか否か、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当するか否かについて検討する。
なお、特許異議の申立ては、上記第1のとおり全請求項に対してされているから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(1) 訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に「(ただし、前記接合層の厚さがT(μm)とし、-100℃における前記接合層のヤング率をE’(MPa)としたときに、
E’≦0.04×T-0.04
の条件を満たす場合を除く)」との限定事項を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2) 本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であること
ア 訂正が、当業者によって、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということができるというべきである。
イ 本件訂正前の本件明細書等から導かれる技術的事項
(ア) 本件訂正前の本件明細書等の記載
本件訂正前の請求項1、明細書の記載はそれぞれ次のa、bのとおりである。(下線は参照箇所を示すために当審において付加した。)
a 「【請求項1】
セラミックにより形成された部材であって、温度調整用のガスを供給するための複数の貫通穴が形成された誘電体基板と、
金属材料により形成されたベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065
が成り立つことを特徴とする静電チャック。」
b 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエッチング装置等の半導体製造装置には、処理の対象となるシリコンウェハ等の基板を吸着し保持するための装置として、静電チャックが設けられる。静電チャックは、吸着電極が設けられた誘電体基板と、誘電体基板を支持するベースプレートと、を備え、これらが互いに接合された構成を有する。吸着電極に電圧が印加されると静電力が生じ、誘電体基板上に載置された基板が吸着され保持される。
【0003】
処理中においては、プラズマに曝されることにより基板の温度は上昇し、誘電体基板の温度も上昇する。一方、ベースプレートには低温の冷媒が供給されるため、ベースプレートの温度は-60℃もしくはそれ以下の温度まで低下することもある。基板の処理に伴う各部の温度変化や、誘電体基板とベースプレートとの間の温度差等に起因して、誘電体基板には大きな熱応力が加わる。
【0004】
熱応力による誘電体基板の破損を防止するためには、誘電体基板とベースプレートとの間を繋ぐ接合層の材料として、適切な物性を有する材料を選定する必要がある。例えば下記特許文献1では、-60℃における接合層(接着部材)の貯蔵弾性率を100MPa以下とすること、等が提案されている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接合層の材料として、可能な限りヤング率の小さな材料を用いれば、誘電体基板に加わる熱応力を小さく抑えることができる。しかしながら、接合層に求められる伝熱性能等に鑑みれば、接合層のヤング率をいくらでも小さくできるわけではない。接合層の材料は、ヤング率が所定の上限値以下であるという条件の下で、求められる伝熱性能等を考慮して適宜選定する必要がある。
【0007】
ところで、誘電体基板には、冷却用のガスの供給等を目的とした貫通穴が形成されている。本発明者らが行った実験等によれば、誘電体基板に加わる熱応力は、貫通穴の部分において特に大きくなり、その大きさは貫通穴の位置に応じて変化する、という知見が得られている。具体的には、誘電体基板の中心軸と貫通穴の中心軸との間の距離をXとしたときに、Xの値が大きくなるほど、当該貫通穴の部分に加わる熱応力は大きくなる。つまり、Xの値が大きくなるほど、接合層のヤング率について許容し得る範囲の上限値は狭くなる。
【0008】
このため、伝熱性能等の要求仕様を満たしつつ、誘電体基板に加わる熱応力を抑えるためには、「誘電体基板の中心軸と貫通穴の中心軸との間の距離」と、「接合層のヤング率の上限値」と、の相関を考慮しながら、それぞれのパラメータを適切に設定する必要がある。しかしながら、これらの相関をどのように考慮すべきか等について、これまでに具体的な検討は行われていなかった。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、接合層のヤング率の値を適切なものとし、誘電体基板に加わる熱応力を低減することのできる静電チャック、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る静電チャックは、貫通穴が形成された誘電体基板と、金属材料により形成されたベースプレートと、誘電体基板とベースプレートとの間を接合する接合層と、を備える。この静電チャックでは、接合層のヤング率をE(MPa)とし、誘電体基板の中心軸と貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある貫通穴について、E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065 が成り立つ。
【0011】
誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある貫通穴は、多くの場合、誘電体基板のうち最も大きな熱応力が加わる部分である。本発明者らが行った実験等によれば、E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065 の条件を満たすように、貫通穴の位置(X)及び接合層のヤング率(E)をそれぞれ設定しておけば、誘電体基板の当該貫通穴部分における熱応力を十分に低減できるという知見が得られている。静電チャックを上記構成とすることで、接合層のヤング率の値等を適切なものとしながら、誘電体基板に加わる熱応力を低減することが可能となる。
【0012】
接合層のヤング率に関する上記の式は、誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある貫通穴のみならず、誘電体基板に形成された全ての貫通穴について成立してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合層のヤング率の値を適切なものとし、誘電体基板に加わる熱応力を低減することのできる静電チャック、を提供することができる。
・・・(中略)・・・
【0060】
従って、接合層300のヤング率であるEと、最外周にある貫通穴140の距離Xとが、以下の式(2)で示される条件を満たすのであれば、誘電体基板100で生じる最大応力の値は図4の「閾値」以下に収まり、誘電体基板100の破損は確実に防止されることとなる。
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065・・・(2)
・・・(中略)・・・
【0067】
上記のように、貫通穴140の距離Xが大きくなるほど、当該貫通穴140の部分に加わる熱応力は大きくなる。少なくとも一つの貫通穴140が、X≧75mmとなるような外周側部分に形成されている誘電体基板100においては、当該貫通穴140の部分に加わる熱応力は、無視できない程度に大きくなることが多い。しかしながら、上記の式(2)の条件を満たすように接合層300の材料を選定しておけば、誘電体基板100の破損が生じない程度に熱応力を抑制することができる。
・・・(略)・・・」
(イ) 本件訂正前の請求項1に係る発明に関する技術的事項
上記(ア)a、bの記載によると、本件訂正前の請求項1に係る発明は、誘電体基板とベースプレートとの間を接合する接合層を備える静電チャックについて、
「前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065
が成り立つこと」を特徴とし、前記条件が成り立つことにより誘電体基板に加わる熱応力を抑制し、誘電体基板の破損を防止するという効果を奏する発明であるといえ、本件明細書等にはこのような技術的事項により特徴付けられる技術的思想が開示されているといえる。
ウ 訂正事項1について
本件訂正後の請求項1に係る発明についても、誘電体基板とベースプレートとの間を接合する接合層を備える静電チャックについて、「前記接合層の厚さがT(μm)とし、-100℃における前記接合層のヤング率をE’(MPa)としたときに、
E’≦0.04×T-0.04
の条件を満たす場合」以外の場合において、
「前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065
が成り立つこと」により誘電体基板に加わる熱応力を抑制し、誘電体基板の破損を防止するという効果を奏する発明であるといえ、後記第5の1(2)クの引用発明の内容となっている特定の条件を除外することによって、本件明細書等に記載された本件訂正前の発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから、訂正事項1が本件明細書等に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり、訂正事項1は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということができ、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に適合する。
エ 申立人の主張
(ア) 申立人は、令和8年1月9日に提出した意見書「4.(1)(a)」において、本件明細書等には、-100℃における接合層の厚さとヤング率との関係に関する記載は一切されていないから、訂正事項1の内容は、本件明細書等に記載も示唆も一切されておらず、「発明の詳細な説明中に数値限定が明示的に記載されている場合」とはいえず、「明細書等の記載全体からみて特定の範囲についての言及があったものと認められる場合」とも言えないから、特許法第120条の5第9項において規定されている、特許法第120条の5の第2項の場合に準用する特許法第126条第5項に規定する要件を満たしていない旨主張する。
(イ) しかしながら、上記ウで検討したとおり、訂正事項1による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということができるから、申立人の主張は採用できない。
(3) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1による訂正は、上記(1)のとおり、訂正前の請求項1に限定事項を付加するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
よって、許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。
3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は適法にされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
セラミックにより形成された部材であって、温度調整用のガスを供給するための複数の貫通穴が形成された誘電体基板と、
金属材料により形成されたベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065
が成り立つ(ただし、前記接合層の厚さがT(μm)とし、-100℃における前記接合層のヤング率をE’(MPa)としたときに、
E’≦0.04×T-0.04
の条件を満たす場合を除く)ことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴のうち、前記接合層とは反対側の端部における直径が0.2mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記接合層はシリコーン接着剤を硬化させたものであることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。」
第4 申立理由と取消理由について
申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立理由、及び当審における令和7年10月6日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 申立理由
本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証を主引例として、甲第2号証~甲第6号証に記載されている事項に基づいて、本件特許についての出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。以下、甲第1号証~甲第6号証を、それぞれ「甲1」~「甲6」という。
[証拠方法]
甲1:特許第7347709号公報
甲2:特開2020-167404号公報
甲3:特開2007-194320号公報
甲4:特開2005-136104号公報
甲5:登録実用新案第3157070号公報
甲6:特開2014-209615号公報
2 取消理由
訂正前の請求項1~3に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、本件特許についての出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献1:特許第7347709号公報(甲1)
引用文献2:登録実用新案第3157070号公報(甲5)
第5 甲号証の記載と甲号証に記載された発明等
1 引用文献1(甲1)
(1) 引用文献1(甲1)の記載
取消理由で引用した引用文献1には、次の記載がある。(引用箇所を示すため、当審において下線を付与した。以下同様。)
「【0023】
本実施形態に係る静電チャック10は、例えばCVD成膜装置のような不図示の半導体製造装置の内部において、処理対象となる基板Wを静電力によって吸着し保持するものである。基板Wは、例えばシリコンウェハである。静電チャック10は、半導体製造装置以外の装置に用いられてもよい。
【0024】
図1には、基板Wを吸着保持した状態の静電チャック10の構成が、模式的な断面図として示されている。静電チャック10は、誘電体基板100と、ベースプレート200と、接合層300と、を備える。
【0025】
誘電体基板100は、セラミック焼結体からなる略円盤状の部材である。誘電体基板100は、例えば高純度の酸化アルミニウム(Al2O3)を含むが、他の材料を含んでもよい。誘電体基板100におけるセラミックスの純度や種類、添加物等は、半導体製造装置において誘電体基板100に求められる耐プラズマ性等を考慮して、適宜設定することができる。」
「【0029】
図1に示されるように、誘電体基板100と基板Wとの間には空間SPが形成されている。半導体製造装置において成膜等の処理が行われる際には、空間SPには、後述のガス穴140等を介して外部から温度調整用のヘリウムガスが供給される。誘電体基板100と基板Wとの間にヘリウムガスを介在させることで、両者間の熱抵抗が調整され、これにより基板Wの温度が適温に保たれる。尚、空間SPに供給される温度調整用のガスは、ヘリウムとは異なる種類のガスであってもよい。」
「【0035】
誘電体基板100には、面120から面110側に向かって垂直に伸びるガス穴140が形成されている。図2に示されるように、ガス穴140のうち面110側の端部は、溝113の底面において開口している。誘電体基板100において、ガス穴140は複数形成されており、これらが溝113に沿って並んでいる。本実施形態では、4つに区分された空間SPのそれぞれに対して、ガス穴140が複数個ずつ繋がっている。」
「【0039】
ベースプレート200は、誘電体基板100を支持する略円盤状の部材である。ベースプレート200は、例えばアルミニウムのような金属材料により形成されている。ベースプレート200のうち、図1における上方側の面210は、接合層300を介して誘電体基板100に接合される「被接合面」となっている。」
「【0046】
接合層300は、誘電体基板100とベースプレート200との間に設けられた層であって、両者を接合している。接合層300は、絶縁性の材料からなる接着材を硬化させたものである。本実施形態では、上記接着剤としてシリコーン接着剤を用いている。ただし、接合層300は、他の種類の接着剤を硬化させたものであってもよい。いずれの場合であっても、誘電体基板100とベースプレート200との間の熱抵抗が小さくなるように、接合層300の材料としては、可能な限り熱伝導率が高い材料を用いるのが好ましい。
【0047】
誘電体基板100は、面120がベースプレート200の面210に対し平行となっている状態で、ベースプレート200に接合される。このため、接合層300の厚さは全体で均等となっている。接合層300の厚さを「μm」の単位で表した数値のことを、以下では「T」と表記する。例えば、接合層300の厚さが0.1mmである場合には、T=100である。」
「【0050】
接合層300のヤング率は、接合層300の温度に応じて変化する。接合層300の温度が-100℃となっているときにおける接合層300のヤング率を、「MPa」の単位で表した数値のことを、以下では「E」と表記する。例えば、-100℃における接合層300のヤング率が0.01GPaである場合には、E=10である。尚、上記における「-100℃」という温度は、接合層300の物性(ヤング率)を特定するための便宜上の基準に過ぎず、冷媒流路250に実際に供給される冷媒の温度について何ら限定するものではない。
【0051】
近年では、処理中において基板Wに入射するエネルギーの増大等に伴って、ベースプレート200には従来よりも高い冷却性能が求められる傾向がある。例えば、ベースプレート200の冷媒流路250には、-60℃もしくはそれ以下の温度の冷媒が供給されることもある。プラズマの高出力化等に伴って冷媒の温度は更に低くなるので、将来的には-100℃程度の冷媒が供給されるようになる可能性もある。
【0052】
基板Wの処理の開始に伴う各部の温度変化や、誘電体基板100とベースプレート200との間の温度差等に起因して、誘電体基板100には大きな熱応力が加わる。特に、誘電体基板100のうちガス穴140の出口部分においては熱応力が集中しやすく、当該部分を起点として誘電体基板100の破損が生じる可能性がある。
【0053】
接合層300の材料として、可能な限りヤング率の小さな材料を用いれば、誘電体基板100に加わる熱応力を小さくすることができる。しかしながら、接合層300に求められる伝熱性能等に鑑みれば、接合層300のヤング率をいくらでも小さくできるわけではない。接合層300の材料は、ヤング率が所定の上限値以下であるという条件の下で、求められる伝熱性能等を考慮して適宜選定する必要がある。」
「【0056】
図3のそれぞれのグラフは、接合層300のヤング率(具体的には、-100℃におけるヤング率)の値を変化させながら都度解析を行い、低温時において誘電体基板100で生じる応力の最大値をプロットして行くことにより得られたものである。上記の「低温時」とは、具体的には、静電チャック10全体の温度が40℃の状態で接合層300を硬化させた後に、静電チャック10全体の温度を-100℃まで低下させた時のことである。いずれの解析においても、誘電体基板100のうち最も熱応力が高くなると算出された部分は、最外周に配置されたガス穴140の、面110側の端部近傍の部分であった。
【0057】
各グラフの右側に付された「T1」や「T2」等の文字列は、接合層300の厚さを表している。これらのうち、T1が最も薄く、T5が最も厚くなっている。
【0058】
図3に示されるように、接合層300のヤング率が大きくなるに従って、低温時に誘電体基板100で生じる最大応力は大きくなることがわかる。また、接合層300のヤング率を同一とした条件の下で比較すると、接合層300の厚さが薄くなるほど、低温時に誘電体基板100で生じる最大応力は大きくなることがわかる。
【0059】
図3の縦軸に示される「閾値」は、誘電体基板100において破損が生じることの無い最大応力の範囲、の上限値のことである。
【0060】
同図の「E1」は、接合層300の厚さが「T1」の静電チャック10において、最大応力の値が上記閾値となるようなヤング率(E)の値である。「E2」は、接合層300の厚さが「T2」の静電チャック10において、最大応力の値が上記閾値となるようなヤング率(E)の値である。「E3」、「E4」、「E5」についてもこれらと同様である。E1乃至E5のそれぞれは、誘電体基板100の破損を生じさせないために、「-100℃におけるヤング率」の値として許容し得る範囲の上限値、ということができる。このようなヤング率の上限値のことを、以下では「許容ヤング率」とも称する。図3から明らかなように、許容ヤング率(E1乃至E5)は、接合層300の厚さ(T1乃至T5)に応じて異なる値となる。
【0061】
図4には、接合層300の厚さであるT1乃至T5(横軸)と、許容ヤング率であるE1乃至E5(縦軸)との対応関係が示されている。同図に示されるように、両者の間には概ね一次の相関があることがわかる。図4に示される一次の相関は、以下の式(1)で表すことができる。
(許容ヤング率)=0.04×(接合層300の厚さ)-0.04・・・(1)
【0062】
従って、-100℃における接合層300のヤング率であるEと、接合層300の厚さあるTとが、以下の式(2)で示される条件を満たすのであれば、誘電体基板100で生じる最大応力の値は図3の「閾値」以下に収まり、誘電体基板100の破損は確実に防止されることとなる。
E≦0.04×T-0.04・・・(2)」
「【0064】
上記の知見は、本実施形態のように、誘電体基板100にガス穴140のような貫通穴が形成されている場合において特に有用である。このような構成においては、貫通穴のうち特に基板W側の端部近傍の部分で熱応力が大きくなる傾向がある。しかしながら、上記の式(2)の条件を満たすように接合層300の厚さ及びヤング率を設定しておけば、誘電体基板100に貫通穴が形成されている場合であっても、誘電体基板100の破損が生じない程度に熱応力を抑制できることが、解析等により確認されている。
【0065】
尚、ガス穴140等の貫通穴のうち、接合層300とは反対側の端部(つまり面110側の端部)における直径が小さくなる程、誘電体基板100で生じる熱応力は大きくなることが判明している。ガス穴140のように、不活性ガスの供給を目的とする貫通穴は、絶縁破壊を防止するために、直径が0.2mm以下の小さな穴とされることが多い。上記の式(2)の条件を満たすように接合層300の厚さ及びヤング率を設定しておけば、貫通穴の直径が0.2mm以下となっている場合であっても、誘電体基板100の破損が生じない程度に熱応力を抑制できることが、解析等により確認されている。尚、上記の記載は、貫通穴の直径を0.2mm以上とすることについて何ら否定するものではない。
【0066】
接合層300の厚さが薄くなるほど、誘電体基板100に加わる熱応力は大きくなる。しかしながら、接合層300の厚さを100μm以下まで薄くした場合であっても、上記の式(2)の条件を満たすように接合層300の材料を選定しておけば、誘電体基板100の破損が生じない程度に熱応力を抑制することができる。つまり、本発明者らによって得られた上記知見によれば、接合層300の厚さを、従来よりも薄い100μm以下まで抑え、これにより接合層300における伝熱性能を十分に高めながらも、熱応力による誘電体基板100の破損を防止することが可能となる。尚、上記の記載は、接合層300の厚さを100μm以上とすることについて何ら否定するものではない。」
「【図3】
[図:0001436167000001.jpg]
」
(2) 引用発明
上記(1)によれば、引用文献1には、「静電チャック10」について、以下の事項が記載されている。
ア 静電チャック10は、誘電体基板100と、ベースプレート200と、接合層300と、を備える(【0024】)。
イ 誘電体基板100は、セラミック焼結体からなる部材であり(【0025】)、誘電体基板100には、ガス穴140のような貫通孔が形成され(【0064】)、ガス穴140を介して外部から温度調整用のヘリウムガスが供給され(【0029】)、ガス穴140は複数形成されている(【0035】)。
ウ ベースプレート200は、金属材料により形成されている(【0039】)。
エ 接合層300は、誘電体基板100とベースプレート200との間に設けられた層であって、両者を接合している(【0046】)。
オ 引用文献1には、接合層300の厚さをT「μm」(【0047】)、接合層300の温度が-100℃となっているときにおける接合層300のヤング率をE「MPa」(【0050】)としたときに、以下の式(2)で示される条件を満たすのであれば、誘電体基板100の破損は確実に防止されることが記載されている。
E≦0.04×T-0.04・・・(2)(【0062】)
カ 上記オに関して、引用文献1には、「誘電体基板100のうちガス穴140の出口部分においては熱応力が集中しやすく、当該部分を起点として誘電体基板100の破損が生じる可能性がある」(【0052】)こと、及び「誘電体基板100のうち最も熱応力が高くなると算出された部分は、最外周に配置されたガス穴140の、面110側の端部近傍の部分であった」(【0056】)こと、「式(2)で示される条件を満たすのであれば、誘電体基板100で生じる最大応力の値は図3の「閾値」以下に収まり、誘電体基板100の破損は確実に防止されること」(【0062】)が記載されている。
そうすると、式(2)で示される条件を満たすヤング率は、接合層300において、誘電体基板100のうち最も熱応力が高くなる、最外周に配置されたガス穴140の、面110側の端部近傍の部分に破損が生じることのない値であるといえる。
キ 引用文献1には、上記イのガス穴140について、接合層300とは反対側の端部における直径が0.2mm以下であること(【0065】)が記載されている。
ク 以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
[引用発明]
セラミック焼結体からなる部材であり、外部から温度調整用のヘリウムガスが供給される貫通孔である複数のガス穴140が形成された誘電体基板100と、
金属材料により形成されているベースプレート200と、
誘電体基板100とベースプレート200とを接合する接合層300と、を備え、
接合層300の厚さをT「μm」、接合層300の温度が-100℃となっているときにおける接合層300のヤング率をE「MPa」としたときに、以下の式(2)で示される条件を満たすものであり、
E≦0.04×T-0.04・・・(2)
式(2)で示される条件を満たすヤング率Eは、接合層300において、誘電体基板100のうち最も熱応力が高くなる、最外周に配置されたガス穴140の、面110側の端部近傍の部分に破損が生じることのない値であり、
さらに、ガス穴140は、接合層300とは反対側の端部における直径が0.2mm以下である、
静電チャック10。
2 引用文献2(甲5)
(1) 引用文献2(甲5)の記載
取消理由で引用した引用文献2には、次の記載がある。
「【0022】
以上詳述した本実施形態のセラミックスヒーター10によれば、ガス供給孔14aが抵抗発熱体30の回路33の穴33cを貫通し且つセラミックスプレート11を貫通しているので、ガス供給孔14aを避けて抵抗発熱体30が埋設されている場合に比べて、抵抗発熱体30が形成されていない領域を小さくすることができる。(以下省略)」
「【0031】
続いて、第1中間体とは別に誘電体層11aと同様の材料により、下層11cとなる外径350mm,厚さ2mmの円盤状の酸化アルミニウム焼結体を用意しておき、これに導電層と同じ印刷ペーストを用いて図3に示すパターンの抵抗発熱体30を印刷した。抵抗発熱体30の印刷厚みは20μmであった。なお、抵抗発熱体30のうち回路31は、酸化アルミニウム焼結体の中心と同心で内径283mm,外径302mmの円環状の第1ゾーン内に位置しており、幅2.7mmで、隣り合う帯の間隔は2.1mmであった。同様に、回路32は内径254mm,外径283mmの第2ゾーン内に位置し幅2.7mmで隣り合う帯の間隔は2.1mmであった。回路33は内径183mm,外径254mmの第3ゾーン内に位置し幅4.4mmで隣り合う帯の間隔は2.7mmであった。回路34は酸化アルミニウム焼結体の中心と同心で直径183mmの第4ゾーン内に位置し幅4.7mmで隣り合う帯の間隔は2.1mmであった。なお、回路33の所定の8箇所に開けられた穴33cは直径3mmであり、穴33cの開けられた箇所は幅が4.4mmよりも広い7.3mmとなっている。(以下省略)」
「【図2】
[図:0001436167000002.jpg]
」
(2) 引用文献2記載事項
上記(1)によれば、引用文献2には、ガス供給孔14aをセラミックスプレート11の内径183mm、外径254mmの第3ゾーン内に位置する回路33内に設けること、すなわちセラミックスプレート11の中心軸からガス供給孔14aの中心軸との間の距離Xを91.5mmと127mmの間の距離とすること(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。
第6 申立理由及び取消理由についての判断
1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア 本件発明1の「誘電体基板」と引用発明の「誘電体基板100」を対比すると、引用発明の「セラミック焼結体からなる部材」であることは、本件発明1の「セラミックにより形成された部材」であることに相当する。また、引用発明の誘電体基板100に形成された「外部から温度調整用のヘリウムガスが供給される貫通孔である複数のガス穴140」は、本件発明1の誘電体基板に形成された「温度調整用のガスを供給するための複数の貫通孔」に相当する。
したがって、引用発明の「セラミック焼結体からなる部材であり、外部から温度調整用のヘリウムガスが供給される貫通孔である複数のガス穴140が形成された誘電体基板100」は、本件発明1の「セラミックにより形成された部材であって、温度調整用のガスを供給するための複数の貫通穴が形成された誘電体基板」に相当する。
イ 引用発明の「金属材料により形成されているベースプレート200」は、本件発明1の「金属材料により形成されたベースプレート」に相当する。
ウ 上記ア、イを踏まえると、引用発明の「誘電体基板100とベースプレート200とを接合する接合層300」は、本件発明1の「前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層」に相当する。
エ 引用発明の「静電チャック10」は、誘電体基板100、ベースプレート200及び接合層300を備える点で、本件発明1の「静電チャック」に相当する。
オ 以上によれば、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
セラミックにより形成された部材であって、温度調整用のガスを供給するための複数の貫通穴が形成された誘電体基板と、
金属材料により形成されたベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備える
静電チャック。
[相違点]
本件発明1は、
「前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X2-59.3887×X+4278.8065
が成り立つ(ただし、前記接合層の厚さがT(μm)とし、-100℃における前記接合層のヤング率をE’(MPa)としたときに、
E’≦0.04×T-0.04
の条件を満たす場合を除く)」
と特定されているのに対し、引用発明は、
「接合層300の厚さをT「μm」、接合層300の温度が-100℃となっているときにおける接合層300のヤング率をE「MPa」としたときに、以下の式(2)で示される条件を満たし、
E≦0.04×T-0.04・・・(2)
式(2)で示される条件を満たすヤング率Eは、接合層300において、誘電体基板100のうち最も熱応力が高くなる、最外周に配置されたガス穴140の、面110側の端部近傍の部分に破損が生じることのない値であり」
というものである点。
(2) 判断
相違点について検討する。
引用文献1(上記第5の1(1)の【0059】、【0062】)の記載によれば、引用発明は、相違点に係る引用発明の構成を有することで、-100℃における接合層300のヤング率であるEと、接合層300の厚さであるTとが、「E≦0.04×T-0.04・・・(2)」で示される条件を満たすのであれば、誘電体基板100で生じる最大応力の値は、「閾値」、すなわち誘電体基板100において破損が生じることのない最大応力の範囲の上限値以下に収まり、誘電体基板100の破損は確実に防止されるというものであるといえるから、引用発明において、接合層300の-100℃におけるヤング率を、式(2)で示される条件の範囲外とすることは、想定していない事項である。
そうすると、引用発明の前記条件のものを除いたものに相当する相違点に係る本件発明1の構成は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に想到し得たものということはできない。
さらに、引用文献2を含む甲2~甲6にも、相違点に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、引用文献2を含む甲2~甲6の記載を参照しても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立人の主張
ア 申立人は、令和8年1月9日に提出した意見書「4.(1)(b)」において、令和7年10月6日付け取消理由通知書(決定の予告)「第5の2イ(ウ)」に「本件発明1のヤング率Eの不等式と、引用発明の式(2)は、表現が違うものの、引用発明の式(2)を満たす接合層300は、同じ技術思想に基づく本件発明1のヤング率Eの不等式を満たすといえるから、本件発明1と引用発明における接合層のヤング率についての相違は実質的なものではない。」と記載されていることを踏まえれば、引用発明を除外した本件発明1も、引用発明と同じ技術的思想に基づくものであることに変わりないから、本件発明1は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない旨主張する。
イ しかしながら、上記(2)のとおり、本件発明1は、引用文献2を含む甲2~甲6の記載を参照しても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人の主張は採用できない。
2 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の構成を全て備えたものであって、上記1(1)の相違点に係る本件発明1の構成を備えるから、上記1(2)で検討した理由と同様の理由により、引用文献2を含む甲2~甲6の記載を参照しても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700211