特許異議申立
2025-701030
静電チャック
- 審判番号
- 2025-701030
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-044728
- 登録番号
- 7670191
- 請求日
- 2025年10月28日
- 審決日
- 2026年06月17日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】鎌田 徹
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】村井 賢郎
- 【権利者代理人】津田 拓真
- 【異議申立人】金 海松
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 松永 稔
- 審判官 緑川 隆
- 分類
- P1651.113-YAA(H10P) / P1651.121-YAA(H10P) / P1651.16 -YAA(H10P) / P1651.537-YAA(H10P)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7670191号発明「静電チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7670191号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~2〕、3、4について訂正することを認める。
特許第7670191号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。
特許第7670191号の請求項2に係る特許についての異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7670191号に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和6年3月21日に出願され、令和7年4月21日にその特許権の設定登録がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和7年10月28日 :特許異議申立人 金 海松(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和7年12月24日付け:取消理由通知書
令和8年 3月 4日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和8年 3月26日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
令和8年 5月26日 :申立人による意見書の提出
申立人が提出した甲第1号証~甲第6号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲6」という。)は、次のとおりである。
甲1:特開2023-147159号公報
甲2:特表2007-515805号公報
甲3:特開2023-109671号公報
甲4:特開2014-187214号公報
甲5:特開2014-27220号公報
甲6:特開2024-152219号公報
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和8年3月26日提出の手続補正書(方式)により補正された、令和8年3月4日になされた訂正の請求(以下「本件訂正」という。)は、特許第7670191号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示すものとして、特許権者が付したとおり。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分には、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための乱流発生部が設けられており、
前記乱流発生部は、
前記冷媒流路のうち、冷媒の流れる方向に沿って前記貫通穴よりも上流側となる位置に設けられた第1乱流発生部と、
前記貫通穴よりも下流側となる位置に設けられた第2乱流発生部と、を含み、
前記第1乱流発生部及び前記第2乱流発生部のそれぞれにおいて、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されていることを特徴とする静電チャック。」
と記載されているのを、
「 被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分には、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための乱流発生部が設けられており、
前記乱流発生部は、
前記冷媒流路のうち、冷媒の流れる方向に沿って前記貫通穴よりも上流側となる位置に設けられた第1乱流発生部と、
前記貫通穴よりも下流側となる位置に設けられた第2乱流発生部と、を含み、
前記第1乱流発生部及び前記第2乱流発生部のそれぞれにおいて、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、前記貫通穴が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されており、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記第1乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記第1乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記第1乱流発生部の曲率半径よりも大きく、
前記冷媒流路のうち前記第2乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記第2乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記第2乱流発生部の曲率半径よりも大きいことを特徴とする静電チャック。」
に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「 被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分には、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための乱流発生部が設けられており、
前記乱流発生部において、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されていることを特徴とする静電チャック。」
と記載されているのを、
「 被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分には、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための乱流発生部が設けられており、
前記乱流発生部において、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、前記貫通穴が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されており、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記乱流発生部の曲率半径よりも大きいことを特徴とする静電チャック。」
に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「 被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分において、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されていることを特徴とする静電チャック。」
と記載されているのを、
「 被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分において、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、前記貫通穴が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されている突出部を有し、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記突出部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記突出部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記突出部の曲率半径よりも大きいことを特徴とする静電チャック。」
に訂正する。
(5) 一群の請求項、及び独立特許要件について
ア 訂正前の請求項1~2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~2に対応する訂正後の請求項1~2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
イ 本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1~4が特許異議申立の請求の対象とされているので、訂正前の請求項1~4に係る訂正事項1~4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、「冷媒流路」が、「前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、円弧状に突出する経路」であることについて、載置面に対し垂直な方向から見た場合において、「前記貫通穴が設けられている方に向けて」円弧状に突出する経路であるとの事項(以下「限定事項1」という。)、更に、「前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記第1乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記第1乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記第1乱流発生部の曲率半径よりも大きく、
前記冷媒流路のうち前記第2乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記第2乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記第2乱流発生部の曲率半径よりも大きい」との事項(以下「限定事項2」という。)を付加するものであるから、訂正事項1に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
(ア)a 本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面等(以下「本件明細書等」という。)には次の記載がある。(下線は強調のために、当審において付加した。)
「【0031】
冷媒流路250の構成について説明する。図2には、ベースプレート200の内部に形成された冷媒流路250の構成が、上面視で模式的に描かれている。先に述べたように、ベースプレート200の面220には開口251、252が設けられている。冷媒流路250は、開口251と開口252との間を繋いでおり、上面視においてベースプレート200の略全体を通るような経路に沿って形成されている。
・・・(中略)・・・
【0047】
図5には、本実施形態における冷媒流路250の構成が、図3と同様の視点で描かれている。冷媒流路250のうち図5に示される部分は、第1実施形態における範囲A(図2を参照)と同じ部分である。また、図5に示される点線DL0、DL1、DL2は、いずれも図3に示されるものと同じである。
【0048】
本実施形態では、冷媒流路250の内壁面に突起270が形成されていない。本実施形態では、冷媒流路250のうち点線DL1と対応する位置、及び点線DL2と対応する位置のそれぞれに、突出部280が形成されている。それぞれの突出部280においては、冷媒流路250は円弧状に突出するような経路に沿って引き回されている。「円弧状に突出するような経路」とは、上面視において単一の真円に沿うような形状であってもよいが、経路の曲率中心が場所によって互いに異なっているような形状であってもよい。また、突出部280の一部においては冷媒流路250が直線状に伸びていてもよい。点線DL1の位置に形成された突出部280のことを、以下では「突出部281」とも称する。点線DL2の位置に形成された突出部280のことを、以下では「突出部282」とも称する。
・・・(中略)・・・
【0050】
このように、突出部281、282は、いずれもリフトピン穴260の近傍となる位置に形成されており、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための「乱流発生部」として機能する。突出部281は、冷媒流路250のうち、冷媒の流れる方向に沿ってリフトピン穴260よりも上流側となる位置に設けられており、本実施形態における「第1乱流発生部」に該当する。突出部282は、冷媒流路250のうち、冷媒の流れる方向に沿ってリフトピン穴260よりも下流側となる位置に設けられており、本実施形態における「第2乱流発生部」に該当する。本実施形態とは逆の方向に冷媒が流れる場合には、突出部282が「第1乱流発生部」に該当し、突出部281が「第2乱流発生部」に該当することになる。このような構成においても、図5に示される範囲AR1において乱流が発生することとなるので、第1実施形態で説明したものと同様の効果を奏することができる。
・・・(中略)・・・
【0053】
このように、本実施形態では、突出部281(第1乱流発生部)及び突出部282(第2乱流発生部)のそれぞれにおいて、冷媒流路250が、上面視においてリフトピン穴260が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路、に沿って引き回されている。このような構成とすることで、リフトピン穴260の近傍における局所的な温度上昇を更に抑制することができる。」
「【図2】
[図:0001439228000001.jpg]
」
「【図5】
[図:0001439228000002.jpg]
」
b 限定事項1について
限定事項1は、本件明細書等の段落0053の記載に対応するものであるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項とはいえない。
c 限定事項2について
静電チャック10が備えるベースプレート200の内部に形成された冷媒流路250の構成を上面視で示した図面、すなわち載置面に対し垂直な方向から見た図面である本件明細書等の図2において、リフトピン穴260より外側の範囲Aに示される冷媒流路250は、螺旋になっていないから、同じ曲率半径の円弧であるといえる。
そして、本件明細書等の図5、段落0048、0050の記載によると、冷媒流路250のうち第1乱流発生部281に対し下流側から隣り合っている部分、及び、上流側から隣り合っている部分とは、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成され且つ、当該円弧の曲率半径が前記第1乱流発生部281の曲率半径よりも大きいといえる。
また、第2乱流発生部282に対して下流側、及び上流側から隣り合っている部分についても同様である。
そうすると、限定事項2は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項とはいえない。
d 以上のとおり、訂正事項1に係る本件訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(イ) 申立人の主張
申立人は、令和8年5月26日に提出した意見書(以下「申立人意見書」という。)2~3ページの「4.(1)(1-1)」において、図2、及び、図1、3~5から、訂正後の請求項1の「第1乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分」と「第1乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分」が、同じ曲率半径を有する円弧状となっていることを読み取ること、及び、訂正後の請求項1の「第2乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分」の形状と「第2乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分」が、同じ曲率半径を有する円弧状となっていることを読み取ることはできないと主張する。
しかしながら、上記(ア)のとおり、訂正事項1に係る本件訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、申立人の主張は採用できない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る本件訂正は、訂正前の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る本件訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、「冷媒流路」が、「前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、円弧状に突出する経路」であることについて、載置面に対し垂直な方向から見た場合において、「前記貫通穴が設けられている方に向けて」円弧状に突出する経路であるとの事項(以下「限定事項3」という。)、更に、「前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記乱流発生部の曲率半径よりも大きい」との事項(以下「限定事項4」という。)を付加するものであるから、訂正事項3に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、新規事項の有無について、申立人は、申立人意見書8ページの「4.(2)(2-1)」で上記(1)と同様の主張をするものの、限定事項3、4は、上記(1)で検討した限定事項1、2と同様に、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項とはいえないから、訂正事項3に係る本件訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
また、訂正事項3に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、「冷媒流路」が、「前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、円弧状に突出する経路」であることについて、載置面に対し垂直な方向から見た場合において、「前記貫通穴が設けられている方に向けて」円弧状に突出する経路である「突出部を有」するとの事項(以下「限定事項5」という。)、更に、「前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記突出部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記突出部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記突出部の曲率半径よりも大きい」との事項(以下「限定事項6」という。)を付加するものであるから、訂正事項4に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、新規事項の有無について、申立人は、申立人意見書10~11ページの「4.(3)(3-1)」で上記(1)と同様の主張をするものの、限定事項5、6は、上記(1)で検討した限定事項1、2と同様に、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項とはいえないから、訂正事項4に係る本件訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
また、訂正事項4に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
3 まとめ
上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、3、4について訂正することを認める。
第3 本件訂正による訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された訂正後の請求項1~4に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
(下線は、訂正特許請求の範囲の記載のとおり。)
「【請求項1】
被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分には、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための乱流発生部が設けられており、
前記乱流発生部は、
前記冷媒流路のうち、冷媒の流れる方向に沿って前記貫通穴よりも上流側となる位置に設けられた第1乱流発生部と、
前記貫通穴よりも下流側となる位置に設けられた第2乱流発生部と、を含み、
前記第1乱流発生部及び前記第2乱流発生部のそれぞれにおいて、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、前記貫通穴が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されており、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記第1乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記第1乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記第1乱流発生部の曲率半径よりも大きく、
前記冷媒流路のうち前記第2乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記第2乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記第2乱流発生部の曲率半径よりも大きいことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分には、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための乱流発生部が設けられており、
前記乱流発生部において、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、前記貫通穴が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されており、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記乱流発生部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記乱流発生部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記乱流発生部の曲率半径よりも大きいことを特徴とする静電チャック。
【請求項4】
被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に接合されたベースプレートと、を備え、
前記ベースプレートには、
冷媒の通る冷媒流路と、
前記載置面に対し垂直な方向に伸びる貫通穴と、が形成されており、
前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分において、前記冷媒流路は、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、前記貫通穴が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路であって、その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されている突出部を有し、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記冷媒流路のうち前記突出部に対し下流側から隣り合っている部分と、
前記冷媒流路のうち前記突出部に対し上流側から隣り合っている部分と、のいずれもが、共通の円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されており、且つ、当該円弧の曲率半径が前記突出部の曲率半径よりも大きいことを特徴とする静電チャック。」
第4 取消理由の概要
当審が令和7年12月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由1(新規性) 請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
取消理由2(進歩性) 請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由3(拡大先願) 請求項1、3、4に係る発明は、本件出願の日前の甲6に係る特許出願であって、本件出願の出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が他の特許出願に係る上記発明をした者と同一ではなく、また、本件特許の出願の時に本件特許の出願人が他の特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1、2
(1) 本件発明1
ア 限定事項2(上記「第2の2(1)ア」参照)に係る本件発明1の構成については、甲1に記載されていないから、本件発明1は甲1に記載された発明とはいえない。
また、限定事項2に係る本件発明1の構成については、いずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって、本件発明1についての取消理由1、2は理由がない。
イ 申立人の主張
(ア)
[図:0001439228000003.jpg]
申立人は、申立人意見書3~6ページの「4.(1)(1-2)」において、甲1の図9に基づく上記参考図1に基づいて、第2通路部301bに対する第5通路部301e、及び、第1通路部301aが仮想円弧Varcの形状に沿って形成されていると主張する。
しかしながら、甲1の段落0116の「例えば、連通路301は、一筆書きの渦巻き状である。すなわち、連通路301は、積層方向に沿って見た場合に、中心300cの周りを周方向に沿って回りながら、中心300cから離れる形状である。ただし、「渦巻き状」の一部は、中心300cに近づくように延びていてもよい。「渦巻き状」の一部は、蛇行していてもよい。」との記載によると、甲1の第2通路部301bに対する第5通路部301e、及び、第1通路部301aは、共通の曲率半径が特定できるような円弧に沿って円弧状に伸びるように形成されているとはいえない。
第3通路部301cに対する第6通路部301f、及び、第3通路部301cに対する第1通路部301aについても同様である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(イ) 申立人は、さらに、ベースプレートに形成される冷媒流路が貫通孔や電極を迂回するように形成される部分(迂回部分)を有し、迂回部分の形状が円弧形状である場合には、冷媒流路において、迂回部分を除く冷媒流路の形状の曲率半径が、迂回部分の曲率半径よりも大きくなることは、設計上の必然的な結果に過ぎず、いわゆる当業者であれば容易に想到される事項である旨主張する。
しかしながら、本件特許1の第1乱流発生部、第2乱流発生部は、貫通穴が設けられている方に向けて円弧状に突出する経路であって、冷媒流路が貫通孔や電極を迂回する部分(迂回部分)とはいえず、申立人の上記主張は前提において誤っているから、採用できない。
(2) 本件発明3、4
限定事項4(上記「第2の2(3)」参照)に係る本件発明3の構成、及び、限定事項6(上記「第2の2(4)」参照)に係る本件発明4の構成は、いずれも甲1に記載されていないから、本件発明3、4は、いずれも甲1に記載された発明とはいえない。
また、限定事項4に係る本件発明3の構成、及び、限定事項6に係る本件発明4の構成については、いずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、本件発明3、4は、いずれも、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
申立人は、申立人意見書8~9ページの「4.(2)(2-2)」、申立人意見書11ページの「4.(3)(3-2)」で、上記(1)イと同様の主張をするが、上記(1)と同様の理由で採用できない。
したがって、本件発明3、4についての取消理由1、2は、理由がない。
2 取消理由3
限定事項1、2(上記「第2の2(1)ア」参照)に係る本件発明1の構成、限定事項3、4(上記「第2の2(3)」参照)に係る本件発明3の構成、限定事項5、6(上記「第2の2(4)」参照)に係る本件発明4の構成は、いずれも甲6に記載されていないから、本件発明1、3、4は、甲6に係る特許出願の当初明細書等に記載された発明と同一とはいえない。
したがって、本件発明1、3、4についての取消理由3は理由がない。
第6 取消理由として採用しなかった申立ての理由についての当審の判断
取消理由として採用しなかった特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載された明確性要件違反について申立理由を検討する。
1 「前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分」について
申立人は、申立書63~64ページの「3(4)(4-4)(4-4-1)」において、本件発明1、3、4の「前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分」とは、冷媒流路のどの部分を指すのか明確でないため、乱流発生部が設けられる位置が明確となっていない旨主張する。
しかしながら、本件明細書等の段落0006、0008、0009の記載によると、本件発明は、誘電体基板のうち、ベースプレートに形成された貫通穴の直上となる部分では、ベースプレート側への熱引きが行われにくく、このため、当該部分において局所的な温度上昇が生じ、基板の面内温度分布がばらついてしまう可能性があるとの課題を、冷媒流路のうち貫通穴の近傍の部分に、冷媒の流れにおいて乱流を発生させるための乱流発生部を設けることによって、ベースプレートのうち貫通穴の近傍の部分を、乱流発生部が無い場合に比べて効率的に冷却し、その温度を低下させることにより解決するものである。
そうすると、「前記冷媒流路のうち前記貫通穴の近傍の部分」とは、冷媒流路において、ある貫通穴に対して、乱流発生部を設けることによって、より効率的に冷却を行える範囲であることが明らかであるから、当該申立理由は理由がない。
2 「その曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されており」について
申立人は、申立書64~66ページの「3(4)(4-4)(4-4-2)」において、本件発明1、3、4の「曲率半径が局所的に小さくなっている経路に沿って引き回されている」とされている冷媒流路の部分は、冷媒流路のどの部分との比較によって「曲率半径が局所的に小さくなっている」とされているかが明確になっていない旨主張する。
しかしながら、本件訂正における限定事項2(上記「第2の2(1)ア」参照)、限定事項4(上記「第2の2(3)」参照)、限定事項6(上記「第2の2(4)」参照)において、冷媒流路のうち(第1、第2)乱流発生部に対し上流側、及び下流から隣り合っている部分の円弧の曲率半径に対して、曲率半径が局所的に小さくなっていることが明らかであるから、当該申立理由は理由がない。
第7 むすび
上記第5、第6のとおりであるから、取消理由、並びに、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、3、4に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3、4に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2に係る特許は、本件訂正により削除されたから、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-701030