特許異議申立
2019-700816
水処理システム
- 審判番号
- 2019-700816
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-189125外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年10月10日
- 審決日
- 2020年08月25日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社日立製作所
- 【権利者代理人】ポレール特許業務法人
- 【異議申立人】飯田 進
- 分類
- P1652.113-ZC (C02F) / P1652.121-ZC (C02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6499952号発明「水処理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6499952号の請求項1に係る特許を取り消す。
同請求項2ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6499952号の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成27年9月28日に出願され、平成31年3月22日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月10日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年10月10日 : 特許異議申立人 飯田進による請求項1~3 に係る特許に対する特許異議の申立て
令和1年12月20日付け: 取消理由通知書
令和2年 2月19日 : 特許権者による意見書の提出
令和2年 4月21日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和2年 4月21日付けの取消理由通知(決定の予告)に対し、応答期間内に特許権者からの応答はなかった。
第2 本件特許発明
本件の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明のうち、請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」~「本件特許発明3」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも好気槽を含む反応槽と前記好気槽に設けられた散気部を有する複数の系列を備え、前記複数の系列全てに設置され前記好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、各系列の前記反応槽へ流入する被処理水の流量を計測する流量計又は前記被処理水の流量を推定する流量推定部と、一の系列の前記好気槽に設置される水質計と、各系列の前記散気部へ空気を供給するブロワと、を有する水処理装置と、
前記ブロワより各系列の散気部へ供給される空気の風量を制御する風量制御部と、を備え、
前記風量制御部は、
前記水質計の計測値に基づき前記水質計が設置される一の系列への風量を制御すると共に、
前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値と、前記一の系列の水質計が設置される一の系列の被処理水の流入流量及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御することを特徴とする水処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理システムにおいて、
前記風量制御部は、
前記水質計の計測値に基づき前記一の系列への目標風量を求める目標風量演算部と、
前記一の系列の溶存酸素濃度計測値及び被処理水の流入流量と、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める溶存酸素濃度目標値演算部と、を備え、
前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の前記溶存酸素濃度目標値と前記溶存酸素濃度計測値に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御することを特徴とする水処理システム。
【請求項3】
請求項1に記載の水処理システムにおいて、
前記風量制御部は、
前記水質計の計測値に基づき前記一の系列への目標風量を求める第1目標風量演算部と、
前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値が同様となる前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量を求め、当該求めた前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量と、前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への前記目標風量を補正する第2目標風量演算部と、を備え、
前記第2目標風量演算部による補正後の目標風量に基づき前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御することを特徴とする水処理システム。」
第3 令和2年4月21日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和2年4月21日付け取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
記
刊行物1:特許第4131955号公報
2 刊行物1の記載事項
上記取消理由において引用した刊行物1には、以下の事項が記載されている。(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下同様である。)
(1) 「【0001】
本発明は、それぞれ曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置に関する。」
(2) 「【0023】
請求項3に係る発明は、
それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置において、
系列毎に流入する下水の流量を計測する流入流量計と、複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計と、
処理水のアンモニア性窒素濃度目標値を設定する目標値設定手段と、
系列毎に曝気装置の散気効率を入力する散気効率入力手段と
それぞれ入力された散気効率に基づいて、アンモニア計が設置されている1つの系列の好気槽の曝気装置に対する、他の系列の好気槽の曝気装置それぞれの散気効率比を求める散気効率比演算手段と、
アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置を、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算するコントローラと、
アンモニア計が設置されている好気槽を含む系列に流入する下水の流量と曝気装置の曝気風量から当該系列の空気倍率を演算する空気倍率演算手段と、
コントローラで演算された曝気風量目標値に空気倍率を乗算し、この乗算して得られた曝気風量目標値、入力された散気効率に散気効率比を乗算した値、及び、流入する下水の流量計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置の曝気風量目標値を演算する曝気風量演算手段と、
を備えたことを特徴とする下水処理場の曝気風量制御装置。」
(3) 「【実施例5】
【0068】
図8は本発明に係る曝気風量制御装置の第5実施例を適用する下水処理場の処理系統を、計測器の配置と併せて示した系統図であり、図中、第3実施例を適用する図5と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、系列1の1号好気槽12に1号アンモニア計26の他に1号溶存酸素濃度計25を設け、系列2の図示を省略した2号好気槽に2号溶存酸素濃度計125を、系列3の図示を省略した3号好気槽に3号溶存酸素濃度計225をそれぞれ設けた点が図5と構成を異にし、これ以外は図5と全く同様に構成されている。
【0069】
図9は第5実施例に係る曝気風量制御装置の構成を示すブロック図である。図中、第3実施例を示す図6と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。この実施例は図6に示した第3の実施例を構成する1号アンモニアコントローラ40、2号曝気風量演算部145及び3号曝気風量演算部245の出力段に、1号DOリミッタ装置47、2号DOリミッタ装置147及び3号DOリミッタ装置247を設けた点が図6と構成を異にし、これ以外は図6と全く同様に構成されている。なお、1号DOリミッタ装置47、2号DOリミッタ装置147及び3号DOリミッタ装置247はそれぞれ1号溶存酸素濃度計25、2号溶存酸素濃度計125および3号溶存酸素濃度計225の計測値に基づいて、各系列の曝気装置の風量目標値に制限を加えるものである。
【0070】
上記のように構成された第5実施例の動作について以下に説明する。1号DOリミッタ装置47、2号DOリミッタ装置147及び3号DOリミッタ装置247には溶存酸素濃度の下限値と上限値が設定される。1号溶存酸素濃度計25、2号溶存酸素濃度計125及び3号溶存酸素濃度計225の計測値がそれぞれ設定された上下限値の間の場合は第3の実施例のとおりに動作する。しかしながら、1号溶存酸素濃度計25、2号溶存酸素濃度計125及び3号溶存酸素濃度計225の計測値がそれぞれ設定された上下限値を逸脱した場合には、(26),(27)式及び(29),(30)式に示すようにその下限値もしくは上限値を目標値とした溶存酸素濃度一定制御に切り替わりDOがその上下限を逸脱しないように1号DOリミッタ装置47、2号DOリミッタ装置147及び3号DOリミッタ装置247が動作する。DOリミッタ装置の演算式を(26)~(30)式に示す。
【数7】
【0071】
ただし、
Q´airn(t):時刻tにおけるn号曝気風量目標出力値(m3/min)
Q´air0n:n号曝気風量初期値(m3/min)、
Qairn(t):時刻tにおけるn号曝気風量目標DOリミッタ装置入力値(m3/min)
Kp:比例ゲイン(m6/g・min)
TI:積分定数(min)
△t:制御周期(min)
e(t):偏差(mg/L)
DOmin:溶存酸素濃度下限値(mg/L)
DOmax:溶存酸素濃度上限値(mg/L)
PVO2n(t):n号溶存酸素濃度計計測値(mg/L)(n=1~3)
である。
【0072】
かくして、第5実施例によれば、溶存酸素濃度が下限値又は上限値を超えようとする場合、下限値又は上限値を目標値とする溶存酸素濃度一定制御に切り替えられ、処理水質を一定の範囲に維持することができる。」
(4) 「【図8】
」
(5) 「【図9】
」
(6) 「【0051】
図5は本発明に係る曝気風量制御装置の第3実施例を適用する下水処理場の処理系統を、計測器の配置と併せて示した系統図であり、図中、図3と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、系列1の1号流入ポンプ1の汚水送出側に1号流入流量計5が、系列2の2号流入ポンプ101の汚水送出側に2号流入流量計105が、系列3の3号流入ポンプ201の汚水流出側に3号流入流量計205がそれぞれ設けられている点で図3と構成を異にしている。
【0052】
図6は第3実施例に係る曝気風量制御装置の構成を示すブロック図である。図中、第2実施例を示す図4と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。図4に示す第2実施例においては、1号アンモニアコントローラ40の曝気風量目標値を一方入力、1号流入流量計5の計測値を他方入力として、1号曝気装置9の曝気風量の倍率を演算する1号空気倍率演算部246を新たに設け、2号曝気風量演算部145が1号対2号散気効率比演算部144、2号流入流量計105及び1号空気倍率演算部246の各出力に基づいて2号曝気装置109に対する曝気風量目標値を演算し、3号曝気風量演算部245が1号対3号散気効率比演算部244、3号流入流量計205及び1号空気倍率演算部246の各出力に基づいて3号曝気装置209に対する曝気風量目標値を演算するように構成した点が図4に示した第2の実施形態と構成を異にし、これ以外は図4と同一に構成されている。
【0053】
上記のように構成された第3実施例の動作について以下に説明する。下水処理場に流入する下水は水配管50から1号流入ポンプ1、2号流入ポンプ101、3号流入ポンプ201により、系列1から系列3に供給される。1号好気槽12に設置されたアンモニア計26の計測値は、信号線26aにより1号アンモニアコントローラ40に伝送される。1号アンモニアコントローラ40は、1号制御目標値設定器41に設定されたアンモニア性窒素濃度目標値に従うようたとえば(16),(17)式に示すようなPIコントローラにより1号曝気装置9の風量目標値を演算する。
【数5】
」
【0054】
だだし、
Qair1(t):時刻tにおける1号曝気風量目標値(m3/min)
Qair01:1号曝気風量初期値(m3/min)
Kp:比例ゲイン(m6/g・min)
TI:積分定数(min)
△t:制御周期(min)
e(t):偏差(mg/L)
SVNH41(t):1号アンモニア性窒素濃度目標値(mg/L)
PVNH41 (t):アンモニア計計測値(mg/L)
である。
【0055】
1号曝気装置9は(16),(17)式で演算された曝気風量目標値にしたがうように、風量調節弁の開度調整および曝気装置(ブロア)のインバータ制御より風量を調節する。
【0056】
また、1号2号散気効率比演算部144、1号3号散気効率比演算部では入力れた散気効率を基に(18),(19)式に示す演算によりアンモニア計による制御を行っている系列(系列1)とその他の系列の散気効率比を演算する。
【0057】
C12=Kl2/Kl1 …(18)
C13=Kl3/Kl1…(19)
ただし、
C12:1号2号散気効率比
C13:1号3号散気効率比
Kl1:1号曝気装置散気効率
Kl2:2号曝気装置散気効率
Kl3:3号曝気装置散気効率
である。
【0058】
一方、1号空気倍率演算部では1号流入流量計5の計測値と(16),(17)式より演算される1号曝気風量目標値から(20)式により1号空気倍率が演算される。
【0059】
A1(t)=Qair1(t)/Qin1(t) …(20)
ただし、
A1(t):1号空気倍率演算値
Qair1(t):時刻tにおける1号曝気風量目標値(m3/min)
Qin1(t):1号流入流量(m3/min)
である。
【0060】
ここで演算された1号空気倍率は(18),(19)式により演算される1号2号散気効率比、1号3号散気効率比、2号流入流量計105、3号流入流量計205の計測値とともにそれぞれ2号曝気風量演算部、3号曝気風量演算部に伝送され、式(21),(22)の演算式により曝気風量目標値が演算される。
【0061】
Qair2(t)=C12・A1(t)・Qin2(t) …(21)
Qair3(t)=C13・A1(t)・Qin3(t) …(22)
ただし、
Qair2(t):時刻tにおける2号曝気風量目標値(m3/min)
Qair3(t):時刻tにおける3号曝気風量目標値(m3/min)
C12:1号2号散気効率比
C13:1号3号散気効率比
A1(t):1号空気倍率演算値
Qin2(t):時刻tにおける2号流入流量(m3/min)
Qin3(t):時刻tにおける3号流入流量(m3/min)
である。
【0062】
2号曝気装置109、3号曝気装置209は、それぞれ(21),(22)式で演算された風量目標値に従うように、風量調節弁の開度調整および曝気装置(ブロア)のインバータ制御により風量を調節する。
【0063】
かくして、第3実施例によれば、・・・第1実施例及び第2実施例と比較して、各系列に流入する下水量が異なる場合でも制御することが可能になるという新たな効果も得られる。」
(7) 「【図5】
」
(8) 「【図6】
」
3 刊行物1に記載された発明(引用発明)
(1) 上記2(1)によれば、刊行物1には、それぞれ曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置に関する発明が記載されていると認められる。
(2) 上記2(2)には、上記2(1)に示した下水処理場の曝気風量制御装置に関し、それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置において、
系列毎に流入する下水の流量を計測する流入流量計と、
複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計と、
処理水のアンモニア性窒素濃度目標値を設定する目標値設定手段と、
系列毎に曝気装置の散気効率を入力する散気効率入力手段と、
それぞれ入力された散気効率に基づいて、アンモニア計が設置されている1つの系列の好気槽の曝気装置に対する、他の系列の好気槽の曝気装置それぞれの散気効率比を求める散気効率比演算手段と、
アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置を、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算するコントローラと、
アンモニア計が設置されている好気槽を含む系列に流入する下水の流量と曝気装置の曝気風量から当該系列の空気倍率を演算する空気倍率演算手段と、
コントローラで演算された曝気風量目標値に空気倍率を乗算し、この乗算して得られた曝気風量目標値、入力された散気効率に散気効率比を乗算した値、及び、流入する下水の流量計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置の曝気風量を制御する手段と、
を備えた下水処理場の曝気風量制御装置が記載されていると認められる。
(3) そして、上記(2)に示した下水処理場の曝気風量制御装置の具体的態様として、上記2(3)~2(5)に示したような実施例が記載されている。すなわち、すべての系列の溶存酸素をそれぞれ計測する溶存酸素濃度計を備え、それらの溶存酸素濃度計の計測値がそれぞれ設定された上下限値を逸脱しない場合は第3の実施例のとおりに動作するが、それらの溶存酸素濃度計の計測値がそれぞれ設定された上下限値を逸脱した場合には、その下限値もしくは上限値を目標値とした、溶存酸素濃度一定制御を行うことが記載されている(【0070】)。
(4) また、上記(3)に示した下水処理場の曝気風量制御装置の動作に
ついては、上記2(6)~2(8)に示したような記載がされている。すなわち、アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置について、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算するコントローラによる前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節することが記載されている(【0053】~【0055】)。また、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置について、溶存酸素濃度計の計測値がそれぞれ設定された上下限値を逸脱しない場合は、系列毎に曝気装置の散気効率を入力する散気効率入力手段と、それぞれ入力された散気効率に基づいて、アンモニア計が設置されている1つの系列の好気槽の曝気装置に対する、他の系列の好気槽の曝気装置それぞれの散気効率比を求める散気効率比演算手段と、アンモニア計が設置されている好気槽を含む系列に流入する下水の流量と曝気装置の曝気風量から当該系列の空気倍率を演算する空気倍率演算手段と、前記コントローラで演算された曝気風量目標値に空気倍率を乗算し、この乗算して得られた曝気風量目標値、入力された散気効率に散気効率比を乗算した値、及び、流入する下水の流量計測値に基づいて、曝気風量目標値が演算され、前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節することが記載されている(【0056】~【0063】)。
(5) そして、上記(3)~(4)に示したような記載からすると、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置について、溶存酸素濃度計の計測値がそれぞれ設定された上下限値を逸脱した場合は、上記(4)に示した記載にかかわらず、その下限値もしくは上限値を目標値とした、溶存酸素濃度一定制御を行うこととなる。
ここで、当該溶存酸素濃度一定制御というのは、上記(3)~(4)の検討によれば、上記2(3)に示した(26),(27)式もしくは(29),(30)式の演算式により、アンモニア計が設置されていない好気槽の溶存酸素濃度の下限値もしくは上限値である溶存酸素濃度の目標値に基づいて、曝気風量目標値が演算され、前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節することであるが、当該演算式における曝気風量初期値は、上記2(6)に示した(20),(21),(22)式の演算式により、すなわち、系列毎に流入する流入する下水の流量計測値に基づいて演算されるのであるから、アンモニア計が設置されていない好気槽の溶存酸素濃度の下限値もしくは上限値である溶存酸素濃度の目標値、及び、系列毎に流入する流入する下水の流量計測値に基づいて、曝気風量目標値が演算され、前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節することであると認められる。
(6) 上記(1)~(5)の検討によれば、刊行物1には、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置について、溶存酸素濃度計の計測値がそれぞれ設定された上下限値を逸脱した場合に注目すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置において、
すべての系列の溶存酸素をそれぞれ計測する溶存酸素濃度計と、
系列毎に流入する下水の流量を計測する流入流量計と、
複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計と、
処理水のアンモニア性窒素濃度目標値を設定する目標値設定手段と、
系列毎に曝気装置の散気効率を入力する散気効率入力手段と、
それぞれ入力された散気効率に基づいて、前記アンモニア計が設置されている1つの系列の好気槽の曝気装置に対する、他の系列の好気槽の曝気装置それぞれの散気効率比を求める散気効率比演算手段とを備えており、
前記アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置について、アンモニア性窒素濃度の計測値を前記目標値に近づける曝気風量目標値が演算され、前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節するとともに、
アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置について、それらの溶存酸素濃度計の下限値もしくは上限値である溶存酸素濃度の目標値、及び、系列毎に流入する下水の流量計測値に基づいて、当該アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置の曝気風量目標値が演算され、前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節する、下水処理場の曝気風量制御装置。」
4 本件特許発明1と引用発明との対比・判断
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセス」は、「前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節する」ことから、本件特許発明1における「少なくとも好気槽を含む反応槽と前記好気槽に設けられた散気部を有する複数の系列を備え、」「前記散気部へ空気を供給するブロワと、を有する水処理装置と、前記ブロアより各系列の散気部へ供給される空気の風量を制御する風量制御部と、を備え」る「水処理システム」に相当する。
また、引用発明における「すべての系列の溶存酸素をそれぞれ計測する溶存酸素濃度計」、「系列毎に流入する下水の流量を計測する流入流量計」、「いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計」は、それぞれ、本件特許発明1における「前記複数の系列全てに設置され前記好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計」、「各系列の前記反応槽へ流入する被処理水の流量を計測する流量計又は前記被処理水の流量を推定する流量推定部」、「一の系列の前記好気槽に設置される水質計」に相当する。
また、引用発明における「前記アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置について、アンモニア性窒素濃度の計測値を前記目標値に近づける曝気風量目標値が演算され、前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節する」ことは、本件特許発明1における「前記水質計の計測値に基づき前記水質計が設置される一の系列への風量を制御する」ことに相当する。
そして、引用発明における「アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置について、それらの溶存酸素濃度計の下限値もしくは上限値である溶存酸素濃度の目標値、及び、系列毎に流入する下水の流量計測値に基づいて、当該アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置の曝気風量目標値が演算され、前記曝気風量目標値に従うように、風量調整弁の開度調整およびブロアのインバータ制御により風量を調節する」という技術事項は、その技術事項のうちの、「それらの溶存酸素濃度計の下限値もしくは上限値である溶存酸素濃度の目標値」が、「すべての系列の溶存酸素をそれぞれ計測する溶存酸素濃度計」で計測された溶存酸素濃度の値に基づいており、また、「系列毎に流入する下水の流量計測値」は、上記3(5)の検討によれば、すべての系列のそれぞれに流入する下水の流量計測値を意味していることを考慮すると、本件特許発明1における「前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値と、前記一の系列の水質計が設置される一の系列の被処理水の流入流量及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御すること」に他ならない。
してみると、両者の間に、相違点は見出せない。
よって、本件特許発明1は、刊行物1に記載された発明である。
5 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 令和2年4月21日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった令和1年12月20日付け取消理由通知書に記載した取消理由について
1 採用しなかった取消理由の概要
令和1年12月20日付け取消理由通知書に記載した取消理由のうち、令和2年4月21日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった取消理由は、以下のとおりである。
<取消理由1>
請求項2及び3に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明(引用発明)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項2及び3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<取消理由2>
請求項2及び3に係る特許は、上記刊行物1に記載された発明(引用発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2及び3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
以下、これら取消理由1及び2について検討する。
2 本件特許発明2及び3と引用発明との対比・判断
(1) 本件特許発明2について
特許権者の令和2年2月19日提出の意見書における主張を踏まえて、本件特許発明2と引用発明とを再度対比する。
本件特許発明2は、「前記一の系列の溶存酸素濃度計測値及び被処理水の流入流量と、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める溶存酸素濃度目標値演算部」を備えているのに対し、引用発明は、「アンモニア計が設置されていない」「他の系列」における「溶存酸素濃度の目標値」は、「溶存酸素濃度計の下限値もしくは上限値」であり、「アンモニア計が設置されている1つの系列」の「溶存酸素濃度」及び「系列毎に流入する下水の流量計測値」に基づき求められたものではない点(以下、「相違点1」という。)で、両発明は相違している。
そして、刊行物1には、「アンモニア計が設置されていない」「他の系列」における「溶存酸素濃度の目標値」を、「アンモニア計が設置されている1つの系列」の「溶存酸素濃度」及び「系列毎に流入する下水の流量計測値」に基づき求めることについては何ら記載乃至示唆されておらず、このことを示す出願時の技術常識もない。
したがって、相違点1は実質的なものである上、相違点1に係る本件特許発明2の構成は、引用発明、刊行物1の記載及び出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、令和1年12月20日付け取消理由通知書に記載した取消理由により、請求項2に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 本件特許発明3について
特許権者の令和2年2月19日提出の意見書における主張を踏まえて、本件特許発明3と引用発明とを再度対比する。
本件特許発明3は、「前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値が同様となる前記他の系列のうち少なくとも一つの系への目標風量を求め、当該求めた前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量と、前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への前記目標風量を補正する第2目標風量演算部」を備えているのに対し、引用発明は、「アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置の曝気風量目標値」を「系列毎に流入する下水の流量計測値に基づいて」演算しているものの、当該演算は、「アンモニア計が設置されている1つの系列」と「他の系列」の溶存酸素濃度計測値が同様となるようにあらかじめ求められた「他の系列」の風量の目標値に対して補正を行うものではない点(以下、「相違点2」という。)で、両発明は相違している。
そして、刊行物1には、そのような目標風量の補正については何ら記載乃至示唆されておらず、このことを示す出願時の技術常識もない。
したがって、相違点2は実質的なものである上、相違点2に係る本件特許発明3の構成は、引用発明、刊行物1の記載及び出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、令和1年12月20日付け取消理由通知書に記載した取消理由により、請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
3 小括
以上のとおりであるから、上記取消理由1、2はいずれも理由がなく、請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 採用しなかった特許異議申立理由の概要
異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が令和2年4月21日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである。
<申立理由1>
請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第3号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
よって、請求項2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<申立理由2>
請求項3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第3号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
よって、請求項2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<甲号証一覧>
甲第1号証:特許第4131955号
甲第2号証:特開平5-265513号公報
甲第3号証:「活性汚泥モデル」,国際水協会・生物学的排水処理の設 計および運転を支援するための数学モデルに関するタスク グループ編,株式会社環境新聞社,2005年1月31日 ,p.140,p.144
なお、甲第3号証は、周知技術について主張するための証拠である。
以下、これら申立理由1及び2について検討する。
2 甲第1~3号証の記載事項
(1) 甲第1号証の記載事項
上記「第3」2(1)~(8)と同様である。
それに加え、甲第1号証には以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、それぞれ曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置に関する。」
イ 「【0003】
図10はこの種の下水処理場の処理系統図であり、図11はこの下水処理場に適用される従来の曝気風量制御装置の計測器の配置を、処理系統と併せて示した系統図である。図10に示した下水処理場は系列1、系列2及び系列3の3つの処理系統からなっている。・・・系列1、系列2及び系列3は同一に構成されているため、系列1についてのみ、その詳細な構成を説明することとする。
【0004】
・・・この1号嫌気槽10には1号無酸素槽11及び1号好気槽12が順次に連結されている。そして、1号好気槽12の流出側が水配管52によって1号最終沈殿地13の流入側に結合されており、・・・
【0005】
図11に示すように、1号好気槽12は1号曝気装置9を備えており、・・・」
ウ 「【0010】
(a)窒素の除去 好気槽12において、曝気装置9から供給される酸素を利用して、硝化菌はアンモニア性窒素(NH4-N)を亜硝酸性窒素(NO2-N)、硝酸性窒素(NO3-N)に酸化する。・・・」
エ 「【0021】
請求項1に係る発明は、
それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置において、
全ての系列に流入する下水の流量が等しくなるように制御する流量制御手段と、
複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計と、
複数系列の全ての系列の好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、
処理水のアンモニア性窒素濃度目標値を設定する第1の目標値設定手段と、
アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度計による溶存酸素濃度計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない他の系列の好気槽の溶存酸素濃度目標値をそれぞれ設定する第2の目標値設定手段と、
アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置を、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算し、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置を、それぞれ溶存酸素濃度の計測値を溶存酸素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算するコントローラと、
を備えたことを特徴とする下水処理場の曝気風量制御装置。」
オ 「【実施例1】
【0028】
図1は本発明に係る曝気風量制御装置の第1実施例を適用する下水処理場の処理系統を、計測器の配置と併せて示した系統図であり、従来装置を示した図11又は図13と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する、ここでは、各系列の好気槽の曝気装置を制御するために1号溶存酸素濃度計25及びアンモニア計26が設置され、詳細な構成説明を省略した系列2の2号好気槽(図示せず)に2号溶存酸素濃度計125が、系列3の3号好気槽(図示せず)に3号溶存酸素濃度計225がそれぞれ設置されている点が図11又は図13と構成を異にし、これ以外は、図11又は図13と同一に構成されている。なお、これら1号溶存酸素濃度計25、アンモニア計26、2号溶存酸素濃度計125及び3号溶存酸素濃度計225は下水の流れ方向に同等の位置に設置されている。
【0029】
図2は上記の下水処理場に適用される曝気風量制御装置の第1実施例の構成を示すブロック図である。この装置は、系列1の1号好気槽12のアンモニア性窒素濃度の目標値を設定する1号制御目標値設定器41と、1号溶存酸素濃度計25の計測値に基づいて系列2の2号好気槽の溶存酸素濃度目標値を演算する2号制御目標値演算器132と、1号溶存酸素濃度計25の計測値に基づいて系列3の3号好気槽の溶存酸素濃度目標値を演算する2号制御目標値演算器232とを備え、さらに、アンモニア計26によるアンモニア性窒素濃度の計測値が1号制御目標値設定器41のアンモニア性窒素濃度の目標値に追随するように1号曝気装置9の曝気量を制御する1号アンモニアコントローラ40と、2号溶存酸素濃度計125による溶存酸素濃度の計測値が2号制御目標値演算器132の制御目標値に追随するように2号曝気槽109の曝気量を制御する2号DOコントローラ130と、3号溶存酸素濃度計225による溶存酸素濃度の計測値が3号制御目標値演算器232の制御目標値に追随するように3号曝気装置209を制御する3号DOコントローラ230とを備え、これらが1つのコントローラを構成している。
【0030】
この場合、1号溶存酸素濃度計25は信号線25aによって2号制御目標値演算器132及び3号制御目標値演算器232の各入力端に接続されている。また、1号制御目標値設定器41、2号制御目標値演算器132及び3号制御目標値演算器232の各出力端が信号線41a,132a及び232aによって1号アンモニアコントローラ40、2号DOコントローラ130及び3号DOコントローラ230の各一方の入力端に接続され、1号アンモニア計26、2号溶存酸素濃度計125及び3号溶存酸素濃度計225が信号線26a,125a及び225aによって1号アンモニアコントローラ40、2号DOコントローラ130及び3号DOコントローラ230の各他方の入力端に接続されている。さらに、1号アンモニアコントローラ40、2号DOコントローラ130及び3号DOコントローラ230の各出力端が信号線26b,125b及び225bによって1号曝気装置9、2号曝気装置109及び3号曝気装置209に接続されている。
【0031】
上記のように構成された第1実施例の動作について、特に、従来装置と構成を異にする部分を中心にして以下に説明する。下水処理場に流入する下水は水配管50から1号流入ポンプ1、2号流入ポンプ101及び3号流入ポンプ201により、系列1,2,3に供給される。各系列に流入する流入量は等量となるように図示を省略した制御装置により1号流入ポンプ1、2号流入ポンプ101及び3号流入ポンプ201は制御される。1号好気槽12に設置された1号アンモニア計26の計測値は、信号線26aを介して、1号アンモニアコントローラ40に伝送される。1号アンモニアコントローラ40は、1号制御目標値設定器41に設定されたアンモニア性窒素濃度目標値に従うように、例えば、(5),(6)式に示すようなPIコントローラにより1号曝気装置9の風量目標値を演算する。
【数1】
【0032】
ただし、
Qair1(t):時刻tにおける1号曝気風量目標値(m3/min)
Qair01:1号曝気風量初期値(m3/min)
Kp:比例ゲイン(m6/g・min)
TI:積分定数(min)
△t:制御周期(min)
e(t):偏差(mg/L)
SVNH41(t):1号アンモニア性窒素濃度目標値(mg/L)
PV NH41 (t):アンモニア計計測値(mg/L)
である。
【0033】
1号曝気装置9は(5),(6)式で演算された風量目標値に従うように、風量調節弁の開度調整および曝気装置(ブロア)のインバータ制御により風量を調節する。また、この時の1号好気槽溶存酸素濃度計25の計測値は信号線25aを介して、2号制御目標値演算器132、3号制御目標値演算器232に伝送される。
【0034】
2号制御目標値演算器、3号制御目標値演算器は一定周期(5分~30分周期)で(7)式により溶存酸素計25の計測値をフィルタリング処理した値を信号線132a、信号線232aを介してそれぞれ、2号DOコントローラ130、3号DOコントローラ230に伝送する。
【数2】
【0035】
ただし
PVfO2(t):時刻tにおける1号溶存酸素濃度計フィルタリング値
PV O2 (t):時刻tにおける1号溶存酸素濃度計計測値
n:整数
である。
【0036】
2号DOコントローラ130、3号DOコントローラ230は2号制御目標値演算器、3号制御目標値演算器からの出力値に従うように、例えば(8),(9)式に示すようなPIコントローラによりそれぞれ2号曝気装置109、3号曝気装置209の風量目標値を演算する。
【数3】
【0037】
ただし、
Qairn(t):時刻tにおけるn号曝気風量目標値(m3/min)
Qair0n:n号曝気風量初期値(m3/min)
Kp:比例ゲイン(m6/g・min)
TI:積分定数(min)
△t:制御周期(min)
e(t):偏差(mg/L)
SVO2n(t):n号溶存酸素濃度目標値(mg/L)
PV O2n (t):n号溶存酸素濃度計計測値(mg/L)(n=2、3)
である。
【0038】
2号曝気装置109、3号曝気装置209は、それぞれ式(8),(9)式で演算された風量目標値に従うように、風量調節弁の開度調整および曝気装置(ブロア)のインバータ制御により風量を調節する。」
(2) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には以下の事項が記載されている。
「【0018】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は一般的な排水ポンプ所システムの概要を示したものである。図において、排水区域8に降った雨水は下水管渠6を通りポンプ所9に集まってくる。ポンプ所9では、制御装置1を用いてポンプ群5を運転し、集まった雨水を河川に放流する。一般に排水ポンプ所システムでは、雨水を自然流下によってポンプ所9に集めるために、河川水位よりも低いところにポンプ井4およびポンプ群5があり、流入雨水を適切に処理しなければポンプ所自体が浸水してしまうと同時に、万一、ポンプによる放流が停止した場合には、排水区域内の浸水を引き起こし、付近の住民に多大な損害を与える恐れがある。このため、排水ポンプ所システムにおいては、適切なポンプ運転制御を行うことが非常に重要なこととなっている。
【0019】このようなポンプ運転制御の中心的役割をなす制御装置1は、図に示すように流入予測部2とファジィ制御部3とにより構成されている。
【0020】流入量予測部2は、排水区域8内に設置された複数の雨量計7からの降雨量デ-タと、下水管渠6内の複数個所に設置された管渠内水位計12からの水位デ-タと、ポンプ井4に設置されたポンプ井水位センサ10からの水位デ-タを入力とし、ポンプ井4と管渠6内の貯留を考慮した系への雨水流入量を予測する。
【0021】なお、図1では地上設備の雨量計を用いているが、その代わりにレーダ雨量計を用いた場合でも、本発明を適用することができるのは勿論である。
【0022】ファジィ制御部3は、流入量予測部2からの予測流入量とポンプ井水位センサ10からのポンプ井水位デ-タと、河川水位センサ11からの河川水位デ-タと、ポンプ群5の運転状況等を入力とし、現在から一定時刻後までのポンプ群5の運転量を決定し、ポンプ群5に対して運転指示を行なう。」
(3) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には以下の事項が記載されている。
ア 第140頁
「表3.7 ASM2dの反応速度式
各反応速度論定数の定義は表4.3に示してある。
プロセス 反応速度式 ρj ρj≧0 [MlL-3T-1]
・・・
」
イ 第144頁
「表4.3 ASM2dの反応速度定数の定義と典型的な例
(水温) 20℃ 10℃ 単位
・・・
」
3 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、上記刊行物1のことであるから、甲第1号証には、上記「第3」3(6)において認定した引用発明(以下では、「甲1発明」ということとする。)が記載されていると認められる。
また、上記2(1)エの記載から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1’発明」という。)が記載されていると認められる。
「それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置において、
全ての系列に流入する下水の流量が等しくなるように制御する流量制御手段と、
複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計と、
複数系列の全ての系列の好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、
処理水のアンモニア性窒素濃度目標値を設定する第1の目標値設定手段と、
アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度計による溶存酸素濃度計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない他の系列の好気槽の溶存酸素濃度目標値をそれぞれ設定する第2の目標値設定手段と、
アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置を、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算し、アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置を、それぞれ溶存酸素濃度の計測値を溶存酸素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算するコントローラと、
を備えたことを特徴とする下水処理場の曝気風量制御装置。」
4 申立理由1についての判断
(1) 本件特許発明2と甲1発明との対比・判断
ア 本件特許発明2と甲1発明との対比
両者は上記「第4」2(1)と同様の相違点1を有するものである。
イ 相違点1についての検討
甲第2号証には、本件特許発明2の相違点1に係る「前記一の系列の溶存酸素濃度計測値及び被処理水の流入流量と、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める溶存酸素濃度目標値演算部」なる構成に関し、何らの記載も示唆もない。
また、甲第3号証には、上記2(3)アに記載のとおり、XAUTの好気条件下での増殖速度は、「SO2/(KO2+SO2)」に比例することが記載されている。ここで、「SO2」は反応槽の溶存酸素濃度を表し、「KO2」は、SO2に対する飽和・阻害定数を表し、例えば、上記2(3)イの記載に従えば、「KO2」は0.5[gO2m-3]であるので、当該増殖速度は、「SO2/(0.5+SO2)」に比例することとなるから、結局、甲第3号証には、溶存酸素濃度を上げると、硝化細菌の増殖速度が上がり、硝化速度が上がるという技術的事項が示されているということができる。しかしながら、甲第3号証には、水質計が設置される代表系列と他の系列における曝気風量制御に関する記載や示唆は一切ない。そうである以上、本件特許発明2の相違点1に係る「前記一の系列の溶存酸素濃度計測値及び被処理水の流入流量と、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める溶存酸素濃度目標値演算部」なる構成を、甲第3号証の記載及び出願時の技術常識から当業者が容易に想起し得るとは到底いえるものではない。
よって、本件特許発明2は、甲1発明並びに甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件特許発明2と甲1’発明との対比・判断
ア 本件特許発明2と甲1’発明との対比
本件特許発明2と甲1’発明との対応関係は以下のとおりである。
・甲1’発明における「曝気装置」は、上記2(1)ウによれば好気槽に酸素を供給する装置であり、上記2(1)オ【0033】によればブロアのインバータ制御により風量を調節するものであるから、本件特許発明2における「各系列の前記散気部へ空気を供給するブロワ」に相当する。
・甲1’発明における「それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置」は、本件特許発明2における「少なくとも好気槽を含む反応槽と前記好気槽に設けられた散気部を有する複数の系列を備え」た「水処理装置」を備える「水処理システム」に相当する。
・甲1’発明における「複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計」及び「複数系列の全ての系列の好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計」は、それぞれ本件特許発明2における「一の系列の前記好気槽に設置される水質計」及び「前記複数の系列全てに設置され前記好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計」に相当する。
・甲1’発明における「アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置を、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算し」は、本件特許発明2における「前記水質計の計測値に基づき前記一の系列への目標風量を求める目標風量演算部」で「前記水質計が設置される一の系列への風量を制御する」に相当する。
・甲1’発明における「アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度計による溶存酸素濃度計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない他の系列の好気槽の溶存酸素濃度目標値をそれぞれ設定」し「アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置を、それぞれ溶存酸素濃度の計測値を溶存酸素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算する」は、本件特許発明2における「前記一の系列の溶存酸素濃度計測値」「に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める溶存酸素濃度目標値演算部と、を備え、」「前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の前記溶存酸素濃度目標値と前記溶存酸素濃度計測値に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御する」に相当する。
・甲1’発明における「コントローラ」は本件特許発明2における「前記ブロワより各系列の散気部へ供給される空気の風量を制御する風量制御部」に相当する。
したがって、両発明は以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
「少なくとも好気槽を含む反応槽と前記好気槽に設けられた散気部を有する複数の系列を備え、前記複数の系列全てに設置され前記好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、一の系列の前記好気槽に設置される水質計と、各系列の前記散気部へ空気を供給するブロワと、を有する水処理装置と、
前記ブロワより各系列の散気部へ供給される空気の風量を制御する風量制御部と、を備え、
前記風量制御部は、
前記水質計の計測値に基づき前記一の系列への目標風量を求める目標風量演算部を備え、前記水質計が設置される一の系列への風量を制御すると共に、
前記一の系列の溶存酸素濃度計測値に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める溶存酸素濃度目標値演算部と、を備え、
前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の前記溶存酸素濃度目標値と前記溶存酸素濃度計測値に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御することを特徴とする水処理システム。」
<相違点>
相違点A:本件特許発明2は「各系列の前記反応槽へ流入する被処理水の流量を計測する流量計又は前記被処理水の流量を推定する流量推定部」を備えるのに対し、甲1’発明は「全ての系列に流入する下水の流量が等しくなるように制御する流量制御手段」を有するものの、「流量計」又は「流量推定部」を有するものであるか明らかでない点。
相違点B:本件特許発明2は「前記一の系列の溶存酸素濃度計測値及び被処理水の流入流量と、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める」のに対し、甲1’発明は「アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度計による溶存酸素濃度計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない他の系列の好気槽の溶存酸素濃度目標値をそれぞれ設定」しており、当該溶存酸素濃度目標値設定に、「アンモニア計が設置されている系列」の流入流量及び「アンモニア計が設置されていない他の系列」の流入流量が用いられていない点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、はじめに相違点Bについて検討する。
当該相違点Bは、上記(1)アの相違点1と同旨であるところ、上記(1)イと同様、甲第2号証及び甲第3号証には、本件特許発明2の相違点Bに係る「前記一の系列の溶存酸素濃度計測値及び被処理水の流入流量と、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度目標値を求める溶存酸素濃度目標値演算部」なる構成に関し、何らの記載も示唆もなく、当該構成を甲第2号証の記載、甲第3号証の記載及び出願時の技術常識から当業者が容易に想起し得るとは到底いえるものではない。
また、そもそも甲1’発明は、「全ての系列に流入する下水の流量が等しくなるように制御」されたものであるから、上記「溶存酸素濃度目標値」の設定に際し、あえて「アンモニア計が設置されている系列」の流入流量と、「アンモニア計が設置されていない他の系列」の流入流量の双方を用いた演算を行うことの動機付けはないものといえる。
よって、相違点Aについて検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1’発明並びに甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 申立理由2についての判断
(1) 本件特許発明3と甲1発明との対比・判断
ア 本件特許発明3と甲1発明との対比
両者は上記「第4」2(2)と同様の相違点2を有するものである。
イ 相違点2についての検討
甲第2号証には、本件特許発明3の相違点2に係る「前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値が同様となる前記他の系列のうち少なくとも一つの系への目標風量を求め、当該求めた前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量と、前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への前記目標風量を補正する第2目標風量演算部」なる構成に関し、何らの記載も示唆もない。
また、甲第3号証には、上記4(1)イでの検討と同様、溶存酸素濃度を上げると、硝化細菌の増殖速度が上がり、硝化速度が上がるという技術的事項が記載されているに過ぎず、水質計が設置される代表系列と他の系列における曝気風量制御に関する記載や示唆は一切なく、本件特許発明3の相違点2に係る「前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値が同様となる前記他の系列のうち少なくとも一つの系への目標風量を求め、当該求めた前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量と、前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への前記目標風量を補正する第2目標風量演算部」なる構成を、甲第3号証の記載及び出願時の技術常識から当業者が容易に想起し得るとは到底いえるものではない。
よって、本件特許発明3は、甲1発明並びに甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件特許発明3と甲1’発明との対比・判断
ア 本件特許発明3と甲1’発明との対比
本件特許発明3と甲1’発明との対応関係は以下のとおりである。
・甲1’発明における「曝気装置」は、上記2(1)ウによれば好気槽に酸素を供給する装置であり、上記2(1)オ【0033】によればブロアのインバータ制御により風量を調節するものであるから、本件特許発明3における「各系列の前記散気部へ空気を供給するブロワ」に相当する。
・甲1’発明における「それぞれ曝気風量目標値に従って動作する曝気装置を有する好気槽を含み、同じ処理方式の複数系列の下水処理プロセスを備える下水処理場の曝気風量制御装置」は、本件特許発明3における「少なくとも好気槽を含む反応槽と前記好気槽に設けられた散気部を有する複数の系列を備え」た「水処理装置」を備える「水処理システム」に相当する。
・甲1’発明における「複数系列のうち、いずれか1つの系列の好気槽のアンモニア性窒素濃度を計測するアンモニア計」及び「複数系列の全ての系列の好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計」は、それぞれ本件特許発明3における「一の系列の前記好気槽に設置される水質計」及び「前記複数の系列全てに設置され前記好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計」に相当する。
・甲1’発明における「アンモニア計が設置されている好気槽の曝気装置を、アンモニア性窒素濃度の計測値をアンモニア性窒素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算し」は、本件特許発明3における「前記水質計の計測値に基づき前記一の系列への目標風量を求める目標風量演算部」で「前記水質計が設置される一の系列への風量を制御する」に相当する。
・甲1’発明における「アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置を、それぞれ溶存酸素濃度の計測値を溶存酸素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算する」は、本件特許発明3における「目標風量に基づき前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御する」に相当する。
・甲1’発明における「コントローラ」は本件特許発明3における「前記ブロワより各系列の散気部へ供給される空気の風量を制御する風量制御部」に相当する。
したがって、両発明は以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
「少なくとも好気槽を含む反応槽と前記好気槽に設けられた散気部を有する複数の系列を備え、前記複数の系列全てに設置され前記好気槽の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、一の系列の前記好気槽に設置される水質計と、各系列の前記散気部へ空気を供給するブロワと、を有する水処理装置と、
前記ブロワより各系列の散気部へ供給される空気の風量を制御する風量制御部と、を備え、
前記風量制御部は、
前記水質計の計測値に基づき前記一の系列への目標風量を求める目標風量演算部を備え、前記水質計が設置される一の系列への風量を制御すると共に、
目標風量に値に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への風量を制御することを特徴とする水処理システム。」
<相違点>
相違点C:本件特許発明3は「各系列の前記反応槽へ流入する被処理水の流量を計測する流量計又は前記被処理水の流量を推定する流量推定部」を備えるのに対し、甲1’発明は「全ての系列に流入する下水の流量が等しくなるように制御する流量制御手段」を有するものの、「流量計」又は「流量推定部」を有するものであるか明らかでない点。
相違点D:本件特許発明3は「前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値が同様となる前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量を求め、当該求めた前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量と、前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への前記目標風量を補正する第2目標風量演算部」を備えるのに対し、甲1’発明は「アンモニア計が設置されている系列の好気槽の溶存酸素濃度計による溶存酸素濃度計測値に基づいて、アンモニア計が設置されていない他の系列の好気槽の溶存酸素濃度目標値をそれぞれ設定」し、「アンモニア計が設置されていない好気槽の曝気装置を、それぞれ溶存酸素濃度の計測値を溶存酸素濃度目標値に近づける曝気風量目標値を演算」するにとどまり、「アンモニア計が設置されている系列」の流入流量及び「アンモニア計が設置されていない他の系列」の流入流量を用いた曝気風量目標値の補正を行っていない点。
イ 相違点についての判断
上記相違点Dは、上記(1)アの相違点1と同旨であるから、まず、この相違点から検討してみると、上記(1)イと同様、甲第2号証及び甲第3号証には、本件特許発明3の相違点Dに係る「前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の溶存酸素濃度計測値が同様となる前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量を求め、当該求めた前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への目標風量と、前記一の系列及び前記他の系列のうち少なくとも一つの系列の被処理水の流入流量に基づき、前記他の系列のうち少なくとも一つの系列への前記目標風量を補正する第2目標風量演算部」なる構成に関し、何らの記載も示唆もなく、当該構成を甲第2号証の記載、甲第3号証の記載及び出願時の技術常識から当業者が容易に想起し得るとは到底いえるものではない。
また、そもそも甲1’発明は、「全ての系列に流入する下水の流量が等しくなるように制御」されたものであるから、上記「目標風量」を、あえて「アンモニア計が設置されている系列」の流入流量と、「アンモニア計が設置されていない他の系列」の流入流量の双方を用いて補正することの動機付けはないものといえる。
よって、相違点Cについて検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1’発明並びに甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 小括
以上のとおりであるから、上記申立理由1、2はいずれも理由がなく、請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許発明1は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2及び3に係る特許については、令和1年12月20日付け取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、取り消すことはできない。他にこれらの特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700816