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特許異議申立

2024-700711

ヨウ化物イオンに非選択的な無機系凝集剤で処理したリサイクル水溶液

審判番号
2024-700711
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-060254
登録番号
7426520
請求日
2024年07月26日
審決日
2025年03月31日
公報発行日
2025年07月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社合同資源
  • 【権利者代理人】速水 進治
  • 【権利者代理人】水長 雄大
  • 【権利者代理人】執行 敬宏
  • 【権利者】株式会社日本海水
  • 【権利者代理人】速水 進治
  • 【権利者代理人】水長 雄大
  • 【権利者代理人】執行 敬宏
  • 【異議申立人】山口 真知子
  • 【異議申立人】端 雅彦
審判長/審判官
  • 審判長 三崎 仁
  • 審判官 増山 淳子
  • 審判官 原 賢一
分類
P1651.113-YAA(C02F) / P1651.121-YAA(C02F) / P1651.16 -YAA(C02F) / P1651.536-YAA(C02F) / P1651.537-YAA(C02F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7426520号発明「ヨウ化物イオンに非選択的な無機系凝集剤で処理したリサイクル水溶液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7426520号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第7426520号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7426520号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和4年11月30日を出願日とする特願2022-191318号の一部を新たな特許出願として令和5年4月3日に出願されたものであり、令和6年1月24日にその特許権の設定登録がされ、同年2月1日に特許掲載公報が発行され、その後、同年7月26日に、その請求項1~6に係る特許を対象として特許異議申立人山口真知子(以下、「異議申立人1」という。)により、同じく、その請求項1、2、5、6に係る特許を対象として特許異議申立人端雅彦(以下、「異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年11月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月16日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、令和7年3月5日に異議申立人1により意見書の提出があり、異議申立人2からは意見書の提出がなかったものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 本件訂正は、本件特許請求の範囲を、それぞれ、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「カルシウム系凝集剤」とあるのを、「カルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)」に訂正する。 (請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1に記載のヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤の一部を含む」とあるのを、「ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤の一部を含み、 前記ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤が、 ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって、 前記無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含み、 フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させるものである、」に訂正する。 (請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 本件訂正後の請求項1で「フッ化物イオン」「に対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤」とされているカルシウム系凝集剤について、本件明細書の【0036】には、「カルシウム系凝集剤は、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム(消石灰)等」と記載されているように、水酸化カルシウム(消石灰)は、フッ化物イオンに反応し、凝集物を生成させるカルシウム系凝集剤である。そして、異議申立人1から提出された甲第2号証には、後記の第5の1(1)イ(エ)に「アルカリ土類金属が,水への溶解度が低いふっ化物を生成する」との記載があり、同(エ)の表7には、ふっ化物イオンの除去剤として、Ca(OH)2と共に、CaCO3、CaOが記載されている。以上によれば、Ca(OH)2と同じく、カルシウムを含むCaCO3、CaOも、フッ化物イオンに反応し、凝集物を生成させるカルシウム系凝集剤であるといえる。 そうすると、「カルシウム系凝集剤」を「カルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)」に訂正することは、「カルシウム系凝集剤」から、カルシウム系凝集剤に含まれる「CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも」除いて凝集剤を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また、「カルシウム系凝集剤」を「カルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)」に訂正すること、すなわち「カルシウム系凝集剤」から「CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも」除いて凝集剤を限定することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでもないことから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2において、訂正前の請求項5に記載される「ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤」を「前記ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤が・・・である」形式でさらに特定している、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって、 前記無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含み、 フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる」との記載は、訂正前の請求項1の記載であるから、訂正事項2は、訂正前の請求項1との引用関係を解消して、書き下して独立形式の訂正後の請求項5に改めるための訂正である。そうすると、訂正事項2は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 そして、訂正後の請求項5の内容は、訂正前の(請求項1を引用する)請求項5の内容と変わらないのであるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (3)別の訂正単位とする求めについて 訂正後の請求項5、6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、請求項1~4と別の訂正単位とする求めがなされているところ、これを認める。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~6〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~6に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。。 「【請求項1】 ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって、 当該無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含み、 フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤。 【請求項2】 請求項1に記載のヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤であって、 ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に、ヨウ化物イオンよりも選択的にフッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと反応する無機系凝集剤を接触させて、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと当該無機系凝集剤とが反応してなる凝集物を得る凝集工程に用いる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤。 【請求項3】 請求項1または2に記載のヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤であって、 下記の手順に従って測定される、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと当該無機系凝集剤とが反応してなる凝集物における(D90-D10)/D50が1.0以上5.0以下である、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤。 (手順) まず、ビーカー中のヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に所定量の当該無機系凝集剤を添加した後、スターラーを用いて300rpmで攪拌し、苛性ソーダまたは塩酸を使用してpHを約7に調整する。 続いて、pH調整後10分程度撹拌を継続した後に停止させ、凝集物を沈降させる。 ビーカー中の混合液を、目開き1μm程度のろ紙を用いてろ過処理を行い、ろ紙上の濾過残分を得る。 得られた濾過残分をイオン交換水に分散させ、周波数42kHz、照射時間180秒の条件にて超音波処理を施した後、かかる分散体中の前記凝集物の体積頻度粒度分布について、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて測定する。得られた前記体積頻度粒度分布において、粒子径が小さい側から10%、50%、90%累積したときの粒子径を、それぞれ、D10、D50、D90とする。 【請求項4】 請求項3に記載のヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤であって、 前記手順に従って測定される、前記凝集物におけるD50が、1μm以上80μm以下である、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤。 【請求項5】 ヨウ化物イオンを含むリサイクル水溶液であって、 当該リサイクル水溶液中の前記ヨウ化物イオンの濃度が5g/L以上であり、 当該リサイクル水溶液に含まれるフッ化物イオンの濃度および/またはリン酸イオンの濃度が8mg/L以下であり、 当該リサイクル水溶液中に、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤の一部を含み、 前記ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤が、 ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって、 前記無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含み、 フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させるものである、 リサイクル水溶液。 【請求項6】 請求項5に記載のリサイクル水溶液であって、 当該リサイクル水溶液中に、セリウムイオン、ジルコニウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオンの少なくとも一つを含む、リサイクル水溶液。」 第4 令和6年11月11日付けで通知した取消理由、及び異議申立人1、2による特許異議の申立理由の概要 1 令和6年11月11日付けで通知した取消理由の概要 ・特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「取消理由」という。) 設定登録時の請求項1~4に係る発明は、下記4(1)アに記載の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また同甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 異議申立人1による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(以下、「申立理由1」という。) 設定登録時の請求項1~4に係る発明は、下記4(1)アに記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(下記4(1)アに記載の甲第2号証、甲第3号証を参考にする。)。 (2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由2」という。) 設定登録時の請求項1~6に係る発明は、下記4(1)アに記載の甲第1号証に記載された発明のみ、又は同甲第1号証に記載された発明及び下記4(1)アに記載の甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由3」という。) 本件特許は、設定登録時の請求項3、4の記載が下記(5)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)及び同法同条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由4」という。) 本件特許は、設定登録時の請求項3、4に対応する発明の詳細な説明の記載、及び設定登録時の請求項3、4の記載が下記(6)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (5)申立理由3の内容 請求項3には、以下の(手順)が特定された発明が記載されている。 (手順) まず、ビーカー中のヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に所定量の当該無機系凝集剤を添加した後、スターラーを用いて300rpmで攪拌し、苛性ソーダまたは塩酸を使用してpHを約7に調整する。続いて、pH調整後10分程度撹拌を継続した後に停止させ、凝集物を沈降させる。 非処理水に無機系凝集剤を添加し、pHを約7に調整することで得られる凝集物の体積頻度粒度分布は、非処理水に含まれる各イオンの濃度、及び非処理水に添加する無機系凝集剤の濃度によって変化することが、以下の本件明細書の【表8】において示されているところ、上記(手順)には凝集物の体積頻度粒度分布を評価するための基準となる非処理水の種類、及び無機系凝集剤の濃度について何ら特定されていない。 【表8】 [図:0001424591000001.jpg] 結果として、非処理水Aと非処理水Bとのいずれを採用するかによって、請求項3に係る発明への属否が変わることは明らかである。請求項3に特定された無機系凝集剤の発明は、条件により変化する凝集物の「粒度分布」という機能・特性等によって特定されることで、その発明の範囲が明確でなくなっている。 そうすると、請求項3に係る発明、及び請求項3に係る発明に従属する請求項4に係る発明の範囲は明確でない。 (6)申立理由4の内容 本件発明3及び4に関し、本件明細書には、実施例において非処理水Aと非処理水Bを用いて、凝集物における(D90-D10)/D50が評価されていること以外、本件明細書の全体を通して、どのように非処理水を設計し、無機系凝集剤及びその濃度を選択設計すれば、(D90-D10)/D50が所定の要件を満たす、凝集物が得られかについて何ら開示されていない。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、限られた実施例の記載以外の範囲において、当業者が本件発明3及び4を実施できるように十分かつ明確に記載されておらず、本件明細書の発明の詳細な説明に記載を本件発明3及び4の範囲まで拡張乃至一般化できるものでない。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件が欠如しているし、本件発明3及び4はサポート要件が欠如している。 3 異議申立人2による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由5」という。) 設定登録時の請求項1、2、5、6に係る発明は、下記4(2)に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、同甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)特許法第29条の2所定の規定違反(拡大先願)(以下、「申立理由6」という。) 設定登録時の請求項1、2、5、6に係る発明は、本件特許の出願日前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開された、下記4(2)に記載の甲第2号証である、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、まとめて「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が先願明細書等に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願時において、本件特許の出願人が先願の出願人と同一でもない。したがって、設定登録時の請求項1、2、5、6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。 4 提出された証拠 (1)異議申立人1から提出された証拠 ア 特許異議申立書に添付して提出 甲第1号証:特開平11-130427号公報 甲第2号証:矢嶋 一仁、「燃焼フラスコ法によるふっ素系ポリマー中のヨウ素,臭素の定量分析」、ニチアス技術時報、2016年 2号 No.373、1~4頁 甲第3号証:特表平8-507524号公報 イ 令和7年3月5日提出の意見書に添付して提出 参考文献1:和田 洋六、「フッ素化合物の廃液処理」、表面技術、Vol.48,No.3,1997、6~10頁 参考文献2:特開2012-130833号公報 (2)異議申立人2から提出された証拠 甲第1号証:T.Wajima, S.Asakura, T.Sato,“Selective Removal of Fluoride Ion from Iodine-containing Solution using Zirconium Silicate(ZrSiO4)”,ISXB5 5th INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON HALOGEN BONDING, 2022年11月6-10日,BOOK of ABSTRACTS,p.65 甲第2号証:特開2024-68179号公報、なお、甲第2号証として添付されているのは特開2024-68179号公報であるところ、甲第2号証の願書に最初に添付した明細書等の記載は、その特開2024-68179号公報の記載と同じである。 (以下、異議申立人1により提出された甲第1号証を甲1-1などといい、異議申立人2により提出された甲第1号証を甲1-2などという。) 第5 当審の判断 当審は、上記取消理由及び申立理由1~6のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 新規性欠如、進歩性欠如及び拡大先願に関する、取消理由、申立理由及び意見書における異議申立人1の主張について (1)各甲号証に記載された事項(「・・・」は、記載の省略を示し、下線は、強調のため当審が付した。) ア 甲1-1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液を蒸留して溶解金属の大部分が除去された蒸留混酸水溶液を得る蒸留工程と、該蒸留工程により得られた蒸留混酸水溶液に該混酸水溶液との反応後の濾液が酸性を維持するカルシウム塩を添加反応させて弗化カルシウムを生成沈殿させる生成沈殿工程と、該生成沈殿工程により生成沈殿された弗化カルシウムを取り出す取出工程とを順次実行することを特徴とする弗化カルシウムの製造方法。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本願発明は、弗化カルシウムの製造方法に関し、さらに詳しくはフロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液から純度の高い弗化カルシウムを製造する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】近年、オゾン層を破壊する環境汚染物質として知られているフロンガス等を無害化する技術が研究開発されてきており、この無害化処理により分解生成される混酸水溶液は、通常中和処理後に廃棄されていた。 【0003】ところで、上記混酸水溶液には、弗化水素酸HFが多く含まれており、この混酸水溶液中に含まれる弗化水素酸HFにカルシウム塩を反応させることにより有用物質である弗化カルシウムCaF2を製造する方法が注目されてきている。 【0004】従来から行われていた弗化カルシウムを製造する方法としては、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる混酸水溶液に直接カルシウム塩を添加反応させて弗化カルシウムCaF2を凝析沈殿物として取り出す方法が採用されていた。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】上記したように弗素化合物の分解処理により得られた混酸水溶液に直接カルシウム塩を反応させる方法を用いた場合、次のような問題が生ずる。 【0006】即ち、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる混酸水溶液は、弗化水素酸HFおよび塩酸HClからなる強酸性を呈する水溶液であり、当該混酸水溶液には、分解処理装置を構成する金属材料の溶出によって微量ではあるが金属が含まれる。従って、上記したように、金属を含有している混酸水溶液に直接カルシウム塩を添加反応させて弗化カルシウムCaF2を凝析沈殿物として取り出す方法を用いた場合、取り出された弗化カルシウム沈殿物中に不純物として金属成分が残留してしまう。 【0007】ところが、上記方法により得られた金属成分を含む弗化カルシウムCaF2は、高純度を必要としない用途に用いる場合は問題とはならないが、望遠鏡用レンズやカメラ用レンズとして用いられる蛍石レンズの原料として用いた場合、不純物が存在しているとレンズ性能を大幅に低下させてしまうため、金属成分を除去する必要がある。この金属成分の除去には、大掛かりな装置と手間を必要とし、多大の費用がかかっていた。 【0008】本願発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる混酸水溶液から純度の高い弗化カルシウムを低コストで得ることを目的とするものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】本願発明の方法では、上記課題を解決するために、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液を蒸留して溶解金属の大部分が除去された蒸留混酸水溶液を得る蒸留工程と、該蒸留工程により得られた蒸留混酸水溶液に該混酸水溶液との反応後の濾液が酸性を維持するカルシウム塩を添加反応させて弗化カルシウムCaF2を生成沈殿させる生成沈殿工程と、該生成沈殿工程により生成沈殿された弗化カルシウムCaF2を取り出す取出工程とを順次実行するようにしている。 【0010】上記のような方法とすると、蒸留工程において金属含有混酸水溶液から大部分の溶解金属が除去された混酸水溶液(例えば、弗化水素酸HFおよび塩酸HCl)に対して、カルシウム塩を添加反応させることにより弗化カルシウムCaF2を生成沈殿させることができ、金属成分を含まない生成沈殿物(換言すれば、弗化カルシウムCaF2)が得られる。つまり、この方法により得られた弗化カルシウムCaF2は高純度なものとなるのである。 【0011】なお、混酸水溶液に対して添加されるカルシウム塩としては、混酸水溶液との反応後の濾液が酸性を維持するもの(例えば、塩化カルシウムCaCl2、硝酸カルシウムCa(NO3)2、臭化カルシウムCaBr2、ヨウ化カルシウムCaI2等)が用いられるが、反応後の水溶液が強酸性を示すとともに、取り扱いがし易い点で塩化カルシウムCaCl2が望ましい。」 (ウ)「【0016】本実施の形態にかかる弗化カルシウムの製造方法は、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液から高純度の弗化カルシウムCaF2を製造するものである。 【0017】例えば、フロンガスCCl2F2は、下記の式により加水分解される。 【0018】 CCl2F2+2H2O→CO2+2HF+2HCl ここで生成される炭酸ガスCO2は気体として分離されるが、混酸水溶液(即ち、弗化水素酸HFと塩酸HClとの混合物)は、従来中和廃棄されることとなっていた。ところが、前記混酸水溶液中に含まれる弗化水素酸HFから高純度の弗化カルシウムCaF2(蛍石)をリサイクル製品として取り出すことが可能である。ところで、上記混酸水溶液には、弗化水素酸HFと塩酸HClとの他に、分解装置を構成する金属材料の溶出によって微量の金属成分が含まれているため、当該金属成分の除去が必要となる。」 イ 甲2-1に記載された事項 (ア)「1.はじめに ふっ素系ポリマーは耐熱性,耐薬品性,クリーン性などに優れるため,さまざまな工業用途で使用されている(図1)。なかでも,ふっ素ゴム(FKM)やパーフロロゴム(FFKM)はOリングなどに使用され,目的に応じた種々の製品が開発されている。これらのゴムは重合時にヨウ素を含む連鎖移動剤が使用されていたり1),架橋に寄与するヨウ素または臭素などを持ったキュアサイトモノマーが導入されることがあり2),その含有量を知ることは,配合選定,製造条件,使用環境への影響など,材料設計をする上で重要と考えられる。」(1頁左欄1~12行) (イ)「2.試料の前処理と測定方法の概要 図2にふっ素系ポリマー中のヨウ素,臭素の分析のフローチャートを示し,表1にポリマー分析時の標準的な前処理条件を示す。 前処理に採用した燃焼フラスコ法は,酸素を満たしたフラスコ内で試料を燃焼させ,発生したガスをフラスコ内の液に吸収させる検液調整法である3)。 [図:0001424591000002.jpg] 上記の方法で作製した検液中のヨウ素,臭素を正確に,そして低濃度(ppbオーダー)まで定量するため,ヨウ素は誘導結合プラズマ発光分光法(以下,ICP-AES),臭素はイオンクロマトグラフィー(以下,IC)で測定した(臭素の測定は,一般的なICP-AESの場合感度が極めて悪いためICを採用した)。」(1頁右欄1行~2頁左欄4行) (ウ)「3.ヨウ素の測定 ・・・ ICP-AESによる測定では検液を噴霧して装置に導入するが,ヨウ素はその際にI2ガスとなって揮散し,安定した結果が得られないことが知られている。これを防ぐ方法として,還元剤(ヒドラジンなど)を添加することでヨウ素をヨウ化物イオンの形態にして測定する手法が用いられる4.5)。」(2頁左欄下から23行~下から11行) (エ)「4.臭素の測定 臭素をICで測定する場合前述の検液に含まれる高濃度のふっ化物イオンが装置のカラムヘ与えるダメージに配慮する必要がある。ポリマー中の臭素量が比較的高濃度(100ppm以上)であれば,検液を希釈して(表1の条件で10~20倍希釈)ふっ化物イオン濃度をカラムに影響がないレベルまで下げても,臭素を精度よく測定できる(図4)。・・・ しかし,臭素の含有量が少ない,あるいは定量下限レベルの試料には希釈が適用出来ない。このような試料は検液からふっ化物イオンを除去してIC測定する方法が考えられる。 そこで表1の条件で作製した検液からふっ化物イオンを除去する方法を検討した。アルカリ土類金属が,水への溶解度が低いふっ化物を生成することに着目し,いくつかのCaおよびMg化合物をふっ化物イオンの除去剤として検液に過剰に添加することを試みた。その結果,表7に示すように,炭酸カルシウムが最もふっ素の除去率が安定して高く(概ね90%),ICに導入できる程度までふっ素を除去できることが分った。 [図:0001424591000003.jpg] 」 (オ)「5.実分析 これまでの検討をもとに,市販のふっ素系ゴムのベースポリマー(生ゴム)に本法を適用し,ヨウ素,臭素の定量を試みた。表9にFFKMとFKMの結果をまとめる。ヨウ素含有量はFFKMが0.3~0.6mass%,FKMが0.4~0.7mass%であり,どちらも0.5mass%前後の濃度レベルであることが分った。表9は,複数メーカーの複数の品番,ロットの結果であるが,本法により濃度レベルが明らかとなり,同一品番でもロットにより有意の差異があることが分った。 一方,臭素を含有するポリマーは,今回FFKMの1種のみであったが,約0.4mass%含有することが分った。 [図:0001424591000004.jpg] 」 ウ 甲3-1に記載された事項 (ア)「【特許請求の範囲】 1. 式CaHbBrcCldFeIfNgOh(ここで、aは1~8;bは0~2;c、d、g及びhは各々0~1;eは1~18;及びfは1~2である)を有する少なくとも1種のフルオロヨードカーボンと、少なくとも1種の添加剤とのブレンドを含む物質の組成物。 2. 少なくとも1種のフルオロヨードカーボンが、ブロモジフルオロヨードメタン、クロロジフルオロヨードメタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5-デカフルオロ-1,5-ジヨードペンタン、ジフルオロジヨードメタン、ジフルオロヨードメタン、1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロ-1,6-ジヨードヘキサン、フルオロヨードメタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-2-ヨードプロパン、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-1-ヨードプロパン、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1,3-ジヨードプロパン、1-ヨードヘプタデカフルオロオクタン、ヨードヘプタフルオロシクロブタン、1-ヨードペンタデカ-フルオロヘプタン、ヨードペンタフルオロシクロプロパン、1-ヨードトリデカフルオロヘキサン、1-ヨードウンデカフルオロペンタン、N-ヨードビス-(トリフルオロメチル)アミン、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロ-1-ヨードブタン、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-1,4-ジヨードブタン、ペンタフルオロヨードエタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1,2-ジヨードエタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-ヨードエタン、1,1,2-トリフルオロ-1-ヨードエタン、トリフルオロヨードメタン、及びトリフルオロメチル-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-ヨードエチルエーテルからなる群より選ばれるものである請求項1記載の組成物。」(2頁1~23行) (イ)「発明の要約(発明の開示) 本発明の第1の目的は、冷蔵、溶剤洗浄、発泡、エアゾール噴射及び消火の用途に、比較的無毒性の薬剤を提供することにある。本発明の他の目的は、不燃性で、環境に安全な物質の組成物を提供することにある。本発明の更なる他の目的は、クリーンで、電気的不伝導性のフルオロヨードカーボン化合物を提供することにある。本発明の更なる他の目的は、ゼロのオゾン破壊能、低い地球温暖化能、及び無視できる大気及び地球環境への影響を有するニート及びブレンドされたフルオロヨードカーボンを提供することにある。 本発明の一つの利点は、現存の冷媒、溶剤、発泡剤、エアゾール噴射剤、及び消火剤の低コストの複製物であることにある。本発明の他の利点は、フルオロヨードカーボンと選択された添加剤とのブレンドによる特性の最適化にある。本発明の更なる他の利点は、現存の化学物質の代替として、フルオロヨードカーボンの有効で、幾つかの場合には、より優れた組成物の提供にある。」(38頁8~21行) (ウ)「炭素-ヨウ素結合は、光分解に対して非常に敏感であり、太陽光の存在で、地上レベルでさえ、容易に開裂する。このように、フルオロヨードカーボンは、対流圏で光分解により急速に破壊され、したがって、オゾン破壊や実質的な地球温暖化に寄与することがない。 また、本発明の化合物は、オゾン破壊因子と共にますます考慮されている地球温暖化能を基礎に選択される。地球温暖化は、地表からの赤外放射の大気中での分子による吸収により引き起こされる。大気中での寿命が長いほど、分子の赤外吸収が大きいほど、そのGWPは大きくなる。幾つかのクロロフルオロカーボンは、二酸化炭素より数千倍ものGWPをもっていると認識されている。急速な光分解と、その結果としての大気中での短い寿命のため、フルオロヨードカーボンは、CFC、ハロン、HCFC、HFC、及びパーフルオロカーボンと比較して、非常に減少されたGWPをもっている。 フルオロヨードカーボンの大気中での短い寿命は、炭素-ヨウ素結合による選択的な紫外エネルギーの吸収によるものであり、大気中に入った後、短期間に自然光中での該薬剤の分解をもたらす。分解副生物は、自然の沈殿により環境から浄化される無害な塩である。フルオロヨードカーボンは、分子が対流圏でC-I結合の光分解により破壊され、成層圏には決して到達しないので、塩素または臭素原子を含んでいてもよく、測定可能な成層圏オゾン破壊を生じることはない。 急速な光分解を受けることに加えて、ヨードアルカンは、対応するクロロ-またはブロモアルカンよりも速く加水分解を受ける。このように、それらは、自然の水路で急速に分解し、ヨウ化ナトリウム(食塩への通常の添加剤)のような無害な生成物を形成する。この急速な分解のため、フルオロヨードカーボンは(CFCと対比して)、長期間の汚物または地上水汚染と結び付けられることはなかった。」(40頁13行~41頁10行) エ 甲1-2に記載された事項(原文の次に当審訳を記載する。) 「 [図:0001424591000005.jpg] 」(65頁) (ケイ酸ジルコニウム(ZrSiO4)を用いたヨウ素含有溶液からのフッ化物イオンの選択的除去 著者名等(略) ヨウ素は産業上重要な元素であり、医薬品、防腐剤、栄養補助食品、染料、触媒、ハロゲンランプ、写真フィルムの製造に使用されている。また、生物学的にも重要な元素であり、ヒトや高等動物は必須微量元素としてヨウ素を必要とするからである[1]。世界的に需要があるにもかかわらず、ヨウ素分子(I2)の生産はチリや日本など限られた地域の資源に依存している。日本では、分子状ヨウ素は千葉県房総半島の地下に貯留された地下塩水に含まれるヨウ素イオンからほぼ独占的に生産されているが、地盤沈下防止のため生産量は限られている。日本におけるもう一つの技術進歩はヨウ素のリサイクルである。 ヨウ素は、水や油をはじくコーティング剤(撥水撥油剤)であるフッ素ポリマーの製造触媒として使用されてきた。最終製品にはヨウ素が残留しないため、触媒反応後の排水にはヨウ素が多く含まれ、フッ化物イオンは少ない。排水中にヨウ素を残留させながらフッ化物イオンを選択的に除去することにより、ヨウ素を回収する新たな方法が考えられる。 本研究では、フッ素選択吸着能力の高いジルコンサンドを用いて、改質ヨウ素含有排水からフッ素イオンを選択的に除去することを試みた[2]。改質ヨウ素含有排水は、硫酸によりpH2に調整され、フッ化物イオン(50mg/L)とヨウ素(80g/L)を含んでいる。 日本のフッ化物排水基準(8.0mg/L)を下回り、ヨウ素(80g/L)が残存するように、改質ヨウ素含有排水からフッ化物を選択的に吸着することができ、そして、アルカリ溶液を用いたフッ化物の脱着においてNaOHとNa2CO3はNH3よりも効果的である。吸着剤のサイクル安定性は高い。) オ 甲2-2に記載された事項 なお、甲2-2として添付されているのは特開2024-68179号公報であるところ、甲2-2の願書に最初に添付した明細書等の記載は、その特開2024-68179号公報の記載と同じである。 (ア)「【請求項1】 フッ化物イオン、及び他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤により前記フッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製する第1工程を有することを特徴とするハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。 【請求項2】 前記イオン成分が、ヨウ化物イオンを含むことを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。」 (イ)「【0004】 また、一般的なフッ化カルシウム法に加えて、ポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いて更にフッ素イオン濃度を下げる二段沈殿法が提案されている。しかしながら、二段沈殿法ではフッ化物イオン濃度を十分に下げるために、カルシウム化合物以外に多種類の薬品の添加が必要となり、フッ化カルシウム法と異なり複数の元素を含む塩を生成するため、回収したフッ化カルシウムをリサイクル原料として用いることができず、フッ素を含む多量の産業廃棄物が発生してしまう。 【0005】 これらの問題を解決する方法として、近年、吸着剤を用いてフッ化物イオンを吸着分離する技術が提案されている。例えば、特許文献1の吸着剤は、酸化カルシウムとカルシウムアルミネートとからなり、粒子形状の吸着剤と被処理液を接触させることにより、常温において広い濃度範囲で有害アニオン、例えばフッ素イオン及びテトラフルオロホウ酸等のフッ素とホウ素化合物のイオンを吸着することができる。」 (ウ)「【0009】 上記課題を解決する本発明のハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法は、フッ化物イオン、及び他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤により前記フッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製する第1工程を有することを特徴としている。 この特徴によれば、被処理液中において、ジルコニウムを含む酸化物から構成される吸着剤の表面における水酸基とフッ化物イオンとのイオン交換反応が起こりやすく、他のハロゲン化物イオンとのイオン交換反応が起こりにくいことにより、フッ化物イオン濃度が低い被処理液に対しても吸着剤によりフッ化物イオンが選択的に吸着処理されるため、処理液としてフッ化物イオン濃度が他のハロゲン化物イオン濃度に比べて極めて低いハロゲン化物イオン含有水溶液を得ることができる。」 (エ)「【0017】 前記吸着処理後の吸着剤からpH6.0以上の水溶液を用いて前記フッ化物イオンを脱離させた脱離液を作製する第2工程を有することを特徴としている。 この特徴によれば、吸着剤に吸着されたフッ化物イオンを脱離液中に脱離させ、回収することができる。また、フッ化物イオンの脱離に伴い、吸着剤の表面に水酸基が戻り再生されるため、吸着剤をフッ化物イオンの吸着処理に繰り返し使用することができる。」 (オ)「【0039】 本吸着剤によるフッ化物イオンの吸着メカニズムとしては、改質処理によって吸着剤最表面に配置された水酸基とフッ化物イオンとのイオン交換反応により、フッ化物イオンの選択的吸着が起こるものと推測される。フッ化物イオンの選択的吸着が起こる理由としては、水酸基の有効イオン半径(145pm)に比べてフッ化物イオンの有効イオン半径(133pm)が小さく、イオン交換反応が起こりやすいためであると推測される。また、ハロゲン化物イオンである塩化物イオン(181pm)、臭化物イオン(196pm)、ヨウ化物イオン(220pm)は、水酸基よりも有効イオン半径が大きいため、吸着剤最表面に形成されたイオン交換サイトに入らず、ヨウ化物イオンとのイオン交換反応が起こりにくいものと推測される。」 (2)甲1-1、2-1、1-2、2-2に記載された発明 ア 甲1-1に記載された発明 甲1-1には、甲1-1の上記(1)ア(イ)の【0001】の記載によれば、「フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液から純度の高い弗化カルシウムを製造する方法」が記載されているところ、同(ア)には、「フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液を蒸留して溶解金属の大部分が除去された蒸留混酸水溶液を得る蒸留工程と、該蒸留工程により得られた蒸留混酸水溶液に該混酸水溶液との反応後の濾液が酸性を維持するカルシウム塩を添加反応させて弗化カルシウムを生成沈殿させる生成沈殿工程と、該生成沈殿工程により生成沈殿された弗化カルシウムを取り出す取出工程とを順次実行することを特徴とする弗化カルシウムの製造方法。」が記載されている。 この弗化カルシウムの製造方法において、「混酸水溶液」とは、同(イ)の【0006】の「即ち、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる混酸水溶液は、弗化水素酸HFおよび塩酸HClからなる強酸性を呈する水溶液であり、当該混酸水溶液には、分解処理装置を構成する金属材料の溶出によって微量ではあるが金属が含まれる。」との記載によれば、「弗化水素酸HFおよび塩酸HClからなる強酸性を呈する水溶液」である。 また、この弗化カルシウムの製造方法では、「カルシウム塩」が用いられるが、上記の「弗化カルシウムの製造方法」をこの方法に用いられる「カルシウム塩」に着目して整理すると、甲1-1には、この「カルシウム塩」に関する以下の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる。 「フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液を蒸留して溶解金属の大部分が除去された蒸留混酸水溶液を得る蒸留工程と、該蒸留工程により得られた蒸留混酸水溶液に該混酸水溶液との反応後の濾液が酸性を維持するカルシウム塩を添加反応させて弗化カルシウムを生成沈殿させる生成沈殿工程と、該生成沈殿工程により生成沈殿された弗化カルシウムを取り出す取出工程とを順次実行する弗化カルシウムの製造方法に用いられるカルシウム塩であって、 上記混酸水溶液は、弗化水素酸HFおよび塩酸HClからなる強酸性を呈する水溶液である、カルシウム塩。」 イ 甲2-1に記載された発明 上記(1)イ(エ)には、「臭素の測定」の項目の中の「表1の条件で作製した検液からふっ化物イオンを除去する方法を検討した。アルカリ土類金属が,水への溶解度が低いふっ化物を生成することに着目し,いくつかのCaおよびMg化合物をふっ化物イオンの除去剤として検液に過剰に添加することを試みた。」との記載によれば、甲2-1には、「水への溶解度が低いふっ化物を生成する」「いくつかのCaおよびMg化合物をふっ化物イオンの除去剤として検液に過剰に添加する」、「表1の条件で作製した検液からふっ化物イオンを除去する方法」が記載されているといえる。 ここで、「ふっ化物イオンの除去剤」である「いくつかのCaおよびMg化合物」に着目すれば、甲2-1には、上述の方法に対応した、「表1の条件で作製した検液に過剰に添加され、検液からふっ化物イオンを、水への溶解度が低いふっ化物を生成することにより除去する方法に用いられる、いくつかのCaおよびMg化合物である、ふっ化物イオンの除去剤。」が記載されているといえる。 そして、「表1の条件で作製した検液」とは、同(イ)の「前処理に採用した燃焼フラスコ法は,酸素を満たしたフラスコ内で試料を燃焼させ,発生したガスをフラスコ内の液に吸収させる検液調整法である3)。」との記載によれば、「酸素を満たしたフラスコ内で試料を燃焼させ、発生したガスをフラスコ内の液に吸収させた検液」であり、ここでの「試料」とは、同(イ)の「図2にふっ素系ポリマー中のヨウ素,臭素の分析のフローチャートを示し」との記載によれば、分析の対象である「ふっ素系ポリマー」であり、「フラスコ内の液」とは、同(イ)の表1によれば、「ヒドラジン0.05%水溶液」である。さらに、「ふっ化物イオンを除去する方法」は、臭素を測定する際に行われるものであるから、検液は、「臭素を含むもの」であるといえる。 また、上記の「いくつかのCaおよびMg化合物」は、同(エ)の表7によれば、上記の「酸素を満たしたフラスコ内で試料を燃焼させ、発生したガスをフラスコ内の液に吸収させた検液」に対応する「ふっ素ゴム燃焼吸収液」に対して、ふっ素の除去率が92%である炭酸カルシウム(CaCO3)、ふっ素の除去率が69%である水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等のCa化合物であるといえる。 さらに、ここでの水酸化カルシウム(Ca(OH)2)は、例えば、本件明細書の【0036】に、「カルシウム系凝集剤は、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム(消石灰)等」と記載されているように、カルシウム系凝集剤とされていることや、同(エ)に「アルカリ土類金属が,水への溶解度が低いふっ化物を生成する」との記載されていることからすると、甲2-1に記載される「除去剤」は、「凝集剤」であるといえる。 そうすると、甲2-1には、「ふっ化物イオンの凝集剤」に関する以下の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されているといえる。 「酸素を満たしたフラスコ内で、ふっ素系ポリマーを燃焼させ、発生したガスをフラスコ内のヒドラジン0.05%水溶液に吸収させた、臭素を含む検液に過剰に添加され、検液からふっ化物イオンを、水への溶解度が低いふっ化物を生成することにより除去する方法に用いられる、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のCa化合物である、ふっ化物イオンの凝集剤。」 ウ 甲1-2に記載された発明 上記甲1-2の下線を付した箇所には、フッ素選択吸着能力の高いジルコンサンドを用いて、硫酸によりpH2に調整され、フッ化物イオン(50mg/L)とヨウ素(80g/L)を含んでいる改質ヨウ素含有排水からフッ素イオンを選択的に除去し、 日本のフッ化物排水基準(8.0mg/L)を下回り、ヨウ素(80g/L)が残存するようにできる、ことが記載されている。 また、上記下線部の「フッ素選択吸着能力の高いジルコンサンドを用いて、改質ヨウ素含有排水からフッ素イオンを選択的に除去する」、「改質ヨウ素含有排水からフッ化物を選択的に吸着する」及び「吸着剤」との記載から、甲1-2において「フッ素選択吸着能力の高いジルコンサンド」は「吸着剤」であるといえる。 これらの事項を、「フッ素選択吸着能力の高いジルコンサンド」である「吸着剤」に着目してまとめると、甲1-2には、以下の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されているといえる。 「硫酸によりpH2に調整され、フッ化物イオン(50mg/L)とヨウ素(80g/L)を含んでいる改質ヨウ素含有排水に用いられ、フッ素イオンを選択的に除去し、 日本のフッ化物排水基準(8.0mg/L)を下回り、ヨウ素(80g/L)が残存するようにできる、 フッ素選択吸着能力の高いジルコンサンドである吸着剤。」 エ 甲2-2に記載された発明 甲2-2の上記(1)オ(ア)の記載によれば、請求項1を引用する請求項2として、「フッ化物イオン、及びヨウ化物イオンを含む他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤により前記フッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製する第1工程を有するハロゲン化物イオン含有水溶液の製造方法。」が記載されているといえる。 この製造方法を、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤に着目して整理すると、甲2-2には、この吸着剤に関し、以下の発明(以下、「甲2-2発明」という。)が記載されているといえる。 「フッ化物イオン、及びヨウ化物イオンを含む他のハロゲンで構成されたイオン成分を含有する被処理液に対して用いられ、前記フッ化物イオンを吸着処理して処理液を作製し、ハロゲン化物イオン含有水溶液を製造する、ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤。」 (3)甲2-1を主引用例として(取消理由) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2-1発明を対比する。 a 甲2-1発明の「酸素を満たしたフラスコ内で、ふっ素系ポリマーを燃焼させ、発生したガスをフラスコ内のヒドラジン0.05%水溶液に吸収させた、臭素を含む検液」は、甲2-1発明に「検液からふっ化物イオンを・・・除去する」とあるとおり、ふっ化物イオンを含むものである。 そして、本件発明1において、「非処理水」とは、何らかの処理がされていない水を意味するといえ、具体的には、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる」処理が行われていない水を意味するといえるところ、甲2-1発明の「検液」も、ふっ化物イオンを除去する前のものであるから、「非処理水」であるといえる。 さらに、甲2-1発明の「炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のCa化合物である、ふっ化物イオンの凝集剤」は、本件発明1の「無機系凝集剤」に相当する。 そうすると、甲2-1発明の「検液」に用いる「炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のCa化合物である、ふっ化物イオンの除去剤」は、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤」と、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンを含む非処理水に用いる無機系凝集剤」の点で共通している。 b 甲2-1発明の「炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のCa化合物である、ふっ化物イオンの凝集剤」の「Ca化合物である、ふっ化物イオンの凝集剤」は、甲2-1の上記(1)イ(エ)に「アルカリ土類金属が,水への溶解度が低いふっ化物を生成する」とあるように、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2だけに限定されるとはいえない。 そうすると、甲2-1発明の「ふっ化物イオンの凝集剤」が「炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のCa化合物である」ことは、本件発明1の「当該無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含」むことに相当する。 c 上記a及びbによれば、本件発明1と甲2-1発明は、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンを含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって、 当該無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含む、無機系凝集剤。」の点で共通し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> 無機系凝集剤が、本件発明1では、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤」であるのに対し、甲2-1発明では、「臭素を含む」「検液からふっ化物イオンを、水への溶解度が低いふっ化物を生成することにより除去する方法に用いられる」ものである点。 (イ)上記相違点に対する判断 a 甲2-1発明において、Ca化合物である、ふっ化物イオンの凝集剤が用いられる「臭素を含む」「検液」に「ヨウ化物イオン」が、含まれているか否かについて、以下、検討する。 甲2-1の上記(1)イ(ア)には、「これらのゴムは重合時にヨウ素を含む連鎖移動剤が使用されていたり1),架橋に寄与するヨウ素または臭素などを持ったキュアサイトモノマーが導入されることがあ」ることが記載されているが、この記載は、臭素を含む場合のゴムに必ずヨウ素が含まれることまでを示すものではない。また、同(イ)には、「図2にふっ素系ポリマー中のヨウ素,臭素の分析のフローチャートを示し」との記載や、「上記の方法で作製した検液中のヨウ素,臭素を正確に,そして低濃度(ppbオーダー)まで定量する」との記載があり、図2として「ふっ素系ポリマー中のヨウ素,臭素の分析フローチャート」が記載されているが、これらは、ふっ素系ポリマー中のヨウ素、臭素を、それぞれの分析法で分析できることを示すもので、ふっ素系ポリマー又は検液中に、ヨウ素及び臭素が含まれることまでを示すものではない。 そして、同(オ)の表9には、ゴム種が、FFKM又はFKMの複数の品番の複数のロットに対して、ヨウ素又は臭素の定量を行い、各品番の物に対して、ヨウ素又は臭素の一方の含有量が記載され、他方には「-」が記載されている。この「-」は、ヨウ素及び臭素の定量を行ったものの対象のものが含有されていなかったことを意味するのか、ヨウ素又は臭素のどちらかの定量自体を行わなかったことを意味するのか必ずしも明らかでないが、仮に、FFKM又はFKMにヨウ素又は臭素の含有が未知であるとすれば、同じ試料に対して、ヨウ素及び臭素の定量を行い、一方については含有が認められなかったとするのが合理的であるし、ヨウ素又は臭素の含有が既知であるとすれば、含有が既知であるヨウ素又は臭素の定量を行うはずであり、ヨウ素又は臭素の一方しか定量されていないということは、試料にはヨウ素又は臭素の一方しか含まれていないと考えるのが合理的である。 いずれにしろ、同(オ)の表9の結果は、甲2-1発明で対象とするふっ素系ポリマーには、ヨウ素又は臭素の一方しか含まれていないことを示しているといえる。 そうすると、甲2-1発明において、Ca化合物である、ふっ化物イオンの凝集剤が用いられる、「ふっ素系ポリマー」から生じる「臭素を含む」「検液」に「ヨウ化物イオン」が、含まれているということはできないから、甲2-1発明は、上記相違点1における、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる」との構成を充足していないから、上記相違点1の他の点を検討するまでもなく、上記相違点1は、実質的な相違点である。 b 次に、甲2-1発明において、Ca化合物である、ふっ化物イオンの凝集剤が用いられる「臭素を含む」「検液」が「ヨウ化物イオン」を含むものとすることが、当業者にとり、容易に想到し得ることであるか否かについて、検討する。 甲2-1の上記(1)イ(イ)に「ヨウ素は誘導結合プラズマ発光分光法(以下,ICP-AES),臭素はイオンクロマトグラフィー(以下,IC)で測定した(臭素の測定は,一般的なICP-AESの場合感度が極めて悪いためICを採用した)。」と記載されるように、検液中のヨウ素、臭素は異なる方法により、定量するものである。 そして、甲2-1発明は、「検液からふっ化物イオンを、水への溶解度が低いふっ化物を生成することにより除去する方法」に用いられるものであるが、この方法は、同(エ)に記載されるように、「ポリマー中の臭素量が比較的高濃度(100ppm以上)であれば,検液を希釈して(表1の条件で10~20倍希釈)ふっ化物イオン濃度をカラムに影響がないレベルまで下げても,臭素を精度よく測定できる(図4)。」のに対し、「臭素の含有量が少ない,あるいは定量下限レベルの試料には希釈が適用出来ない」ため「このような試料は検液からふっ化物イオンを除去してIC測定する」ことに対応するものである。 そうすると、そもそも、検液中のヨウ素は、臭素とは異なる方法で定量するものであるし、甲2-1発明における「酸素を満たしたフラスコ内で、ふっ素系ポリマーを燃焼させ、発生したガスをフラスコ内のヒドラジン0.05%水溶液に吸収させた、臭素を含む検液に過剰に添加され、検液からふっ化物イオンを、水への溶解度が低いふっ化物を生成することにより除去する方法」は、検液に含まれる臭素を定量する際に、特有の方法であるから、このような方法における検液に、ヨウ素をさらに加える動機付けは、甲2-1発明に存在しない。 以上によれば、上記相違点1における、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる」との構成は、当業者が容易に想到し得るものではないから、上記相違点1の他の点を検討するまでもなく、上記相違点1は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点1は、実質的な相違点であると共に、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲2-1発明ではないし、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、これを、さらに限定するものであるか、本件発明1の構成を全て含むものであるところ、本件発明1が、甲2-1発明ではないし、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2~4も同様に、甲2-1発明ではないし、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 令和7年3月5日提出の意見書で異議申立人1が主張する甲2-1発明を基にした新規性欠如及び進歩性欠如に関する理由について (ア)異議申立人1の主張 異議申立人1は、甲2-1の記載から、甲2-1発明として、「ヨウ化物イオン及び/又は臭化物イオンと、フッ化物イオンと、を含む検液に用いる」ことが認定できることを前提として、本件発明1~6は、進歩性が欠如していることを主張している(13頁4行~22頁11行)。 そして、「ヨウ化物イオン及び/又は臭化物イオンと、フッ化物イオンと、を含む検液に用いる」ことが認定できることについて、以下の主張をしている。 「甲第2号証の「1.はじめに」には、ふっ素系ポリマーに、「ヨウ素を含む連鎖移動剤が使用されていたり,架橋に寄与するヨウ素または臭素などを持ったキュアサイトモノマーが導入されることがある」ことに由来するヨウ素及び臭素が含まれることが記載されている。 ・・・図2には、ヨウ素及び臭素の何れかによらず、同じ検液からICP-AES用の検液と、IC用の検液を調整できることが示されている。また、甲第2号証には、「ヨウ素は誘導結合プラズマ発光分光法(・・・),臭素はイオンクロマトグラフィー(以下,IC)で測定した(臭素の測定は,一般的なIPC-AESの場合感度が極めて悪いためICを採用した)。」と記載されているのであって、ヨウ素を含む検液は、誘導結合プラズマ発光分光法、臭素を含む検液は、イオンクロマトグラフィーで測定したとは記載されていない。 甲第2号証には、ふっ素ゴム(FKM)やパーフロロゴム(FFKM)に、ふっ素と、ヨウ素及び臭素の何れか又は両方とが含まれることが記載されているのであって、ふっ素ゴム(FKM)やパーフロロゴム(FFKM)を燃焼させたガスからふっ素と共に、ヨウ素及び臭素の何れか又は両方が検液に吸収されることが記載されている。同様に、「3.ヨウ素の測定」と「4.臭素の測定」とのそれぞれに示されたふっ素系ポリマーの検液は、表1の条件で調整されており、ふっ素系ポリマーの検液であることから、ヨウ素及び臭素の何れか又は両方が吸収されている。 よって、検液にふっ素とヨウ素のみ、又はふっ素と臭素とのみしか記載されていないという、特許権者の主張は失当である。」 (イ)上記(ア)の主張に対する当審の判断 甲2-1発明は、上記(2)イでも述べたように、ふっ素系ポリマー中の臭素を測定する際の手順を基に認定したものであるから、ふっ素系ポリマー中に臭素が含まれることは勿論であるが、この甲2-1発明が、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる」との構成を充足するには、甲2-1発明におけるふっ素系ポリマーが、ヨウ素も含んでいなければならない。すなわち、甲2-1に記載されるふっ素系ポリマーに、ヨウ素及び臭素が含まれていることが必要である。 これを踏まえて、甲2-1の記載を確認すると、上記ア(イ)aでも述べたように、甲2-1の「1.はじめに」における「ヨウ素を含む連鎖移動剤が使用されていたり,架橋に寄与するヨウ素または臭素などを持ったキュアサイトモノマーが導入されることがある」の記載からでは、ふっ素系ポリマーにヨウ素及び臭素が含まれるとすることはできない。 また、図2には、ヨウ素及び臭素の何れかによらず、同じ検液からICP-AES用の検液と、IC用の検液を調整できることが示されているといえるが、この記載からも、ふっ素系ポリマーにヨウ素及び臭素が含まれるとすることはできない。 その他、異議申立人1は、特許権者の令和6年12月16日提出の意見書での主張に反論するだけで、結局のところ、甲2-1で、ふっ素系ポリマーにヨウ素及び臭素が含まれることを示す記載を示していない。 そうすると、異議申立人1が、甲2-1に記載されているとする「ふっ素ゴム(FKM)やパーフロロゴム(FFKM)に、ふっ素と、ヨウ素及び臭素の何れか又は両方とが含まれること」の内、「ふっ素と、ヨウ素とが含まれること」、及び「ふっ素と、ヨウ素及び臭素の両方とが含まれること」は、記載されておらず、甲2-1発明として、「ヨウ化物イオン及び/又は臭化物イオンと、フッ化物イオンと、を含む検液に用いる」ことの内、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンと、を含む検液に用いる」こと、及び「ヨウ化物イオン及び臭化物イオンと、フッ化物イオンと、を含む検液に用いる」ことは認定することはできない。 以上によれば、「ヨウ化物イオン及び/又は臭化物イオンと、フッ化物イオンと、を含む検液に用いる」ことが認定できることを前提とする上記(ア)の主張は、その前提において誤りがあるから、この前提に基づいた、本件発明1~6は、進歩性が欠如しているとの主張を採用することはできない。 (4)甲1-1を主引用例として(申立理由1) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1-1発明を対比する。 a 甲1-1発明において、カルシウム塩を添加する混酸水溶液は、「弗化水素酸HFおよび塩酸HClからなる強酸性を呈する水溶液とあるとおり、ふっ化物イオンを含むものである。 そして、本件発明1において、「非処理水」とは、何らかの処理がされていない水を意味するといえ、具体的には、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる」処理が行われていない水を意味するといえるところ、甲1-1発明の「混酸水溶液」も、「カルシウム塩を添加反応」させる前のものであるから、「非処理水」であるといえる。 さらに、甲1-1発明の「カルシウム塩」は、混酸水溶液中の「弗化水素酸HF」と反応し、「弗化カルシウムを生成沈殿させる」させるものであるから、本件発明1の「無機系凝集剤」に相当する。 そうすると、甲1-1発明の「弗化水素酸HFおよび塩酸HClからなる強酸性を呈する水溶液である」「混酸水溶液」に添加する「カルシウム塩」は、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤」と、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンを含む非処理水に用いる無機系凝集剤」の点で共通している。 b 甲1-1発明の「カルシウム塩」は、上記aでの検討も踏まえると、「カルシウム系凝集剤」といえると共に、本件発明1でカルシウム系凝集剤から除かれているCaCO3、CaO、およびCa(OH)2以外のカルシウム塩も含んでいるといえるから、本件発明1の「セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上とを含」む「無機系凝集剤」に相当する。 c 上記a及びbによれば、本件発明1と甲1-1発明は、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンを含む非処理水に用いる無機系の剤であって、 当該無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含む 無機系凝集剤。」の点で共通し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2> 無機系凝集剤が、本件発明1では、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって」、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤」であるのに対し、甲1-1発明では、「弗化水素酸HFおよび塩酸HClからなる強酸性を呈する水溶液である」「混酸水溶液」に用いられるものである点。 (イ)上記相違点に対する判断 a 甲1-1発明に「フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液を蒸留して溶解金属の大部分が除去された蒸留混酸水溶液を得る蒸留工程」とあるとおり、混酸水溶液は、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られるものであるが、フロンとして記載されているのは、甲1-1の上記(1)ア(ウ)の【0017】等の記載によれば、「CCl2F2」であるように、甲1-1には、フロン等の弗素化合物にヨウ素が含まれること、また、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる混酸水溶液にヨウ素(ヨウ化物イオン)が含まれることは、何ら記載されていない。 b これに対し、異議申立人1が提出している特許異議申立書の18頁2~21行には、「甲3には、その特許請求の範囲に種々の「フルオロヨードカーボン」が記載されている。 甲3にはオゾン層を破壊する環境汚染物質としてのフロンガス等の代替としてのヨウ素を含む弗素化合物が記載されている。 すなわち、甲1に記載された「混酸水溶液(つまり、非処理水)」を得るための「フッ素化合物」に、甲3に記載された「フルオロヨードカーボン」が含まれることは、甲1の出願時において技術常識である。また、「フルオロヨードカーボン」を分解処理して得られる「混酸水溶液」が「フッ化水素酸」と「ヨウ化水素酸」との混酸水溶液を含み得ることは甲1の出願時において技術常識である。 甲1に構成要件A(当審注:「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる」こと)が記載されていることが、甲1の出願時の技術常識であることが甲3に記載されており、甲1には、構成要件Aが実質的に記載されている。」と記載され、 さらには、「たとえそうでなくとも、当業者が、甲1に記載の発明によって甲3に記載の「フルオロヨードカーボン」を処理することを着想し、「フッ化水素酸」と「ヨウ化水素酸」とを含む混酸水溶液(非処理水)である構成要件Aを想到することは容易である。」としている。 c しかしながら、甲3-1の上記(1)ウ(ア)に示されるような「フルオロヨードカーボン」は、「フロン」には含まれるものの、従来のフロンにはないヨウ素を含むものであるから、フロンの中でも特別なものであるいえ、甲1-1発明における「フロン等の弗素化合物」に、必ずヨウ素が含まれることや、通常はヨウ素が含まれることを示すものではない。 さらに、甲1-1の上記(1)ア(イ)の【0002】、【0003】の「【従来の技術】近年、オゾン層を破壊する環境汚染物質として知られているフロンガス等を無害化する技術が研究開発されてきており、この無害化処理により分解生成される混酸水溶液は、通常中和処理後に廃棄されていた。 ところで、上記混酸水溶液には、弗化水素酸HFが多く含まれており、この混酸水溶液中に含まれる弗化水素酸HFにカルシウム塩を反応させることにより有用物質である弗化カルシウムCaF2を製造する方法が注目されてきている。」との記載によれば、甲1-1発明における「フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる金属含有混酸水溶液」は、「オゾン層を破壊する環境汚染物質として知られているフロンガス等を無害化する」「無害化処理により分解生成される」されるものであるといえる。 これに対し、甲3-1の上記(1)ウ(イ)の「本発明の更なる他の目的は、ゼロのオゾン破壊能、低い地球温暖化能、及び無視できる大気及び地球環境への影響を有するニート及びブレンドされたフルオロヨードカーボンを提供することにある。」との記載や、同(ウ)の「炭素-ヨウ素結合は、光分解に対して非常に敏感であり、太陽光の存在で、地上レベルでさえ、容易に開裂する。このように、フルオロヨードカーボンは、対流圏で光分解により急速に破壊され、したがって、オゾン破壊や実質的な地球温暖化に寄与することがない。」等の記載によれば、甲3-1に記載される「フルオロヨードカーボン」は、オゾン層を破壊する環境汚染物質であるとはいえないし、環境中で容易に分解し、無害化処理の必要があるとはいえないものであるから、甲1-1発明で対象としている、オゾン層を破壊する環境汚染物質として知られている、「フロン等の弗素化合物」であるとはいえない。 そうすると、甲3-1は、甲1-1発明における「フロン等の弗素化合物」に、必ずヨウ素が含まれることや、通常はヨウ素が含まれることを示すものではないし、甲3-1に記載される「フルオロヨードカーボン」は、甲1-1発明における「フロン等の弗素化合物」に含まれるともいえないのであるから、甲1-1発明は、上記相違点2における、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤」との構成を充足しておらず、上記相違点2の他の点を検討するまでもなく、上記相違点2は、実質的な相違点である。 さらに、甲1-1発明は、甲1-1の上記(1)ア(イ)の【0008】に記載されるように、フロン等の弗素化合物を分解処理して得られる混酸水溶液から純度の高い弗化カルシウムを低コストで得ることを目的とするものであって、何ら、ヨウ素に着目するものではないから、甲1-1発明には、甲1-1発明における「フロン等の弗素化合物」として、甲3-1に記載される「フルオロヨードカーボン」を採用する動機付けがあるとはいえないし、また、上述のように、甲3-1に記載される「フルオロヨードカーボン」は、甲1-1発明で対象としている「フロン等の弗素化合物」のように、無害化処理を行うことによる混酸を生じさせる必要のないものであるから、この点でも、甲1-1発明には、甲1-1発明における「フロン等の弗素化合物」として、甲3-1に記載される「フルオロヨードカーボン」を採用する動機付けがあるとはいえない。 さらに、甲2-1も、甲1-1の「フロン等の弗素化合物」が、ヨウ素を含むことを示すものではない。 そうすると、上記相違点2における、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤」との構成は、当業者が容易に想到し得るものではないから、上記相違点2の他の点を検討するまでもなく、上記相違点1は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点2は、実質的な相違点であると共に、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1-1発明ではないし、甲1-1発明に基づいて、又は甲1-1発明及び甲2-1、甲3-1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、これを、さらに限定するものであるか、本件発明1の構成を全て含むものであるところ、本件発明1が、甲1-1発明ではないし、甲1-1発明に基づいて、又は甲1-1発明及び甲2-1、甲3-1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2~4も同様に、甲1-1発明ではないし、甲1-1発明に基づいて、又は甲1-1発明及び甲2-1、甲3-1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明5について 本件発明5は、上記第2の2(2)で述べたように、設定登録時には、請求項1に係る発明の「無機系凝集剤」を引用していたものを、本件訂正により、訂正前の請求項1との引用関係を解消して、書き下して独立形式のものに改めたものであり、本件発明5には、訂正前の請求項1に係る発明の構成である、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤であって」、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる」ことが含まれている。 そうすると、本件発明5と甲1-1発明を対比すると、本件発明5と甲1-1発明との間には、少なくとも上記相違点2と同じ相違点が存在することになる。 そして、上記ア(イ)及び(ウ)で述べたように、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点2に係る本件発明5の構成も、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 以上によれば、本件発明5は、甲1-1発明に基づいて、又は甲1-1発明及び甲2-1、甲3-1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明6について 本件発明6は、本件発明5を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明5が、甲1-1発明に基づいて、又は甲1-1発明及び甲2-1、甲3-1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明6も同様に、甲1-1発明に基づいて、又は甲1-1発明及び甲2-1、甲3-1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 令和7年3月5日提出の意見書で異議申立人1が主張する新規性欠如及び進歩性欠如に関する理由について (ア)異議申立人1の主張 異議申立人1は、甲1-1には、「無機系凝集剤である、カルシウム塩」という発明、周知技術文献1(特開昭63-162094号公報)には、「無機系凝集剤である、硫酸アルミニウム」という発明が記載されているとし、本件発明1~4は、上記の甲1-1に記載された発明及び周知技術文献1に記載された発明と相違するところがないため、本件発明1~4は、甲1-1及び周知技術文献1のそれぞれに記載された発明であり、新規性が欠如していること、また、本件発明1~4は、新規性が欠如しているため、進歩性も欠如していることを主張している(5頁下から2行~10頁20行)。 そして、この主張は、本件発明1の「無機系凝集剤」における「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる」との構成を、以下に示されるように、「ない」ものとすることを前提としている。 「構成要件Aは、「無機系凝集剤」の用途を特定する構成要件である。 なお、上述の通り、本件特許明細書において「無機系凝集剤」とは、「無機化合物」であり「組成物」でない。 特許審査基準第III部第2章第4節の「3.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」における3.1.3には、『「~用」といった用途限定が付された化合物(例えば、用途Y用化合物Z)については、3.1.1及び3.1.2に示される考え方が適用されない。その化合物について、審査官は、用途限定のない化合物(例えば、化合物Z)そのものと解釈する。』と記載されている。 また、特許審査基準第III部第2章第4節の3.22(当審注:3.2.2)には「この場合において、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明特定事項とが、用途限定以外の点で相違しない場合は、審査官は、両者を異なる発明であると判断しない。」と記載されている。 ・・・ よって、用途を特定する構成要件Aを備える「無機系凝集剤」は、構成要件Aによる限定のない「無機化合物(無機系凝集剤)」そのものであると解釈されるものである。 ・・・本件訂正発明1は、用途限定のない化合物そのものと解釈されるべきであり、構成要件Aに新規性がない。 よって、本件訂正発明1は、甲第1号証及び周知技術文献1に記載されたものであり新規性が欠如している。また、新規性が欠如している故に、進歩性も欠如している。」 (イ)上記(ア)の主張に対する当審の判断 本件発明1~4は、「無機系凝集剤」に係る発明であって、「化合物発明」ではないから、本件発明1~4は、用途限定のない化合物そのものと解釈することはできない。 また、上記(ア)の主張の「この場合において、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明特定事項とが、用途限定以外の点で相違しない場合は、審査官は、両者を異なる発明であると判断しない。」における「この場合」とは、「請求項に記載された発明に係る物に用途限定が付されているものの、用途限定がその用途に特に適した物を意味していない場合であって、請求項に係る発明が3.1.2の用途発明にも該当しない場合」であり、「3.1.2の用途発明」とは、「(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう。」とされている。 本件発明1~4は、本件発明1に特定されるとおり、「無機系凝集剤」における「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性」という属性を発見し、この属性により、この「無機系凝集剤」が、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水」の処理に適することを見い出したものであるから、用途限定がその用途に特に適した物を意味し、本件発明1~4は、3.1.2の用途発明に該当し、上記(ア)の主張の「この場合において、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明特定事項とが、用途限定以外の点で相違しない場合は、審査官は、両者を異なる発明であると判断しない。」における「この場合」に該当しない。 そうすると、本件発明1~4における「無機系凝集剤」における「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる」との点をないものとすることはできない。 以上によれば、上記(ア)の主張は、前提において、誤りがあるから、上記主張によって、本件発明1~4は、甲1-1及び周知技術文献1のそれぞれに記載された発明であり、新規性が欠如し、また、本件発明1~4は、新規性が欠如しているため、進歩性も欠如しているとすることはできない。 (5)甲1-2を主引用例として(申立理由5) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1-2発明を対比する。 a 甲1-2発明の「フッ化物イオン(50mg/L)とヨウ素(80g/L)を含んでいる改質ヨウ素含有排水」は、「改質ヨウ素含有排水からフッ素イオンを選択的に除去」する処理前のものであり、「非処理水」といえることから、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水」に相当する。 また、甲1-2発明の「ジルコンサンドである吸着剤」は、本件発明1の「無機系凝集剤」と「無機系剤」である点で共通するから、甲1-2発明の「フッ化物イオン(50mg/L)とヨウ素(80g/L)を含んでいる改質ヨウ素含有排水に用いられ」る「ジルコンサンドである吸着剤」は、本件発明1の「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系凝集剤」と、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系剤」の点で共通する。 b 甲1-2発明の「フッ素選択吸着能力の高いジルコンサンドである吸着剤」は、ヨウ化物イオンよりも選択的にフッ化物イオンと反応(ヨウ素に対しては非選択性)し、反応物を生成するものといえるから、本件発明1の「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、凝集物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系凝集剤」と、「フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、反応物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系剤」の点で共通する。 c 上記a及びbによると、本件発明1と甲1-2発明は、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水に用いる無機系剤であって、 フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンに対して、ヨウ化物イオンよりも選択的に反応し、反応物を生成させる、ヨウ化物イオン非選択性の無機系剤。」の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点3> 「無機系剤」が、本件発明1では、フッ化物イオンと反応し凝集物を生成させる「無機系凝集剤」であって、当該「無機系凝集剤」が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含むものであるのに対し、甲1-2発明では、フッ化物イオンと反応し凝集物を生成させるのか明らかでなく、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤(ただし、CaCO3、CaO、およびCa(OH)2のいずれも除く)および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含むものであるのか明らかでない「吸着剤」である点。 (イ)上記相違点に対する判断 a 甲1-2発明において用いられているのは「吸着剤」(原文「adsorbent」)であり、「凝集剤」とは異なるものである。一般に、吸着剤は、「吸着剤[英adsorbent]多量の正吸着を起こさせるような界面を提供する物質をいう.・・・またイオン交換樹脂もイオン交換吸着の目的で利用される.」(化学大事典2(1997年9月20日、共立出版(株)発行)821頁)というものであり、凝集剤は、「凝集剤[英coagulant, coagulant agent]=凝結剤」(同847頁)、「凝結剤[英coagulant, coagulant agent]コロイド溶液中の粒子を凝結させるために加える物質.・・・(2)沈降分離によって清澄水を得るために原水に加えてフロックを生じせしめ,懸濁物質の沈降を容易にするために用いられる.」(同841頁)というものであるから、両者は、明らかに化学的機能が異なる「剤」である。 ここで、本件発明1の「凝集剤」も、本件明細書において「凝集工程において、無機系凝集剤の種類を適切に選択することにより、凝集物の大きさ(フロックサイズ)を制御できるので、固液分離時における濾過性を向上できる。」(【0015】)、「反応槽10内の混合液中において、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと無機系凝集剤2とが反応して、凝集物が生じる。そして、凝集物を含む非処理水1(混合液)を、固液分離槽20に導入する。固液分離槽20において、非処理水1(混合液)から凝集物を汚泥4として分離し、凝集物を含まない処理水5を回収する。」(【0044】、【0045】)、「分離された沈殿物(汚泥4)は、ヨウ素回収システム100系外に排出される。排出された汚泥4は、乾燥させた後、汚泥処理が施される。汚泥4の発生量が少ないほど、汚泥処理に必要な設備費や処理コストを低減できる。」(【0051】)と説明されるものであり、自身に対してフッ化物等を吸着する吸着剤とは明らかに異なる化学的機能を有するものである。 一方、甲1-2発明の「吸着剤」は、甲1-2の上記(1)エに「アルカリ溶液を用いたフッ化物の脱着においてNaOHとNa2CO3はNH3よりも効果的である。吸着剤のサイクル安定性は高い。」と記載されているように、吸着されたフッ化物を脱着させるものであり、沈殿物(汚泥)として排出するようなものではないことに鑑みても、「凝集剤」としての機能を要しないものである。 そうすると、甲1-2発明において用いられている「吸着剤」を「凝集剤」とする動機付けがあるとはいえない。 以上のとおり、上記相違点3における、本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点3は、実質的な相違点であると共に、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1-2発明ではないし、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるか、本件発明1の構成を全て含むものであるところ、本件発明1が、甲1-2発明ではないし、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2も同様に、甲1-2発明ではないし、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明5について 本件発明5は、上記第2の2(2)で述べたように、設定登録時には、請求項1に係る発明の「無機系凝集剤」を引用していたものを、本件訂正により、訂正前の請求項1との引用関係を解消して、書き下して独立形式のものに改めたものであり、本件発明5には、訂正前の請求項1に係る発明の構成である、「無機系凝集剤であって、 当該無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含」む「無機系凝集剤」の点が少なくとも含まれている。 そして、この本件発明5の「無機系凝集剤」の点は、上記ア(イ)及び(ウ)で述べたのと同様に、甲1-2に記載されたものであるとはいえないし、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 以上によれば、本件発明5は、甲1-2発明ではないし、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明6について 本件発明6は、本件発明5を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明5が、甲1-2発明ではないし、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明6も同様に、甲1-2発明ではないし、甲1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)甲2-2を主引用例として(申立理由6) ア 本件発明1について (ア)対比・判断 a 上記(5)ア(ア)及び(イ)で述べたことも考慮しつつ、本件発明1と甲2-2発明を対比すると、本件発明1と甲2-2発明は、少なくとも、フッ化物イオンを除去するものが、本件発明1では、「無機系凝集剤」であるのに対し、甲2-2発明では、「吸着剤」である点で相違している。 ここで、甲2-2において、「凝集剤」と「吸着剤」とは異なる「剤」として使い分けて用いられており、前者は、甲2-2の上記(1)オ(イ)に記載されているとおり、沈殿させてフッ化物イオンを除去しているのに対し、後者は、同(イ)及び(ウ)に記載されているとおり、フッ化物イオンとのイオン交換反応によりフッ化物イオンを選択的に吸着させて除去している。 b 上記aを踏まえると、甲2-2発明における「ジルコニウムを含む酸化物から構成され表面を水酸基により改質した吸着剤」は「無機系(ジルコニウム系)凝集剤」ではない。 そうすると、本件発明1は、少なくとも、甲2-2発明における「吸着剤」が、「無機系凝集剤」ではない点で、甲2-2発明と相違する。 (イ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲2-2の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明と同一ではない。 イ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるか、本件発明1の構成を全て含むものであるところ、本件発明1が、甲2-2の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明と同一ではない以上、本件発明2も同様に、甲2-2の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明と同一ではない。 ウ 本件発明5について 本件発明5は、上記第2の2(2)で述べたように、設定登録時には、請求項1に係る発明の「無機系凝集剤」を引用していたものを、本件訂正により、訂正前の請求項1との引用関係を解消して、書き下して独立形式のものに改めたものであり、本件発明5には、訂正前の請求項1に係る発明の構成である、「無機系凝集剤であって、 当該無機系凝集剤が、セリウム系凝集剤、ジルコニウム系凝集剤、アルミニウム系凝集剤、およびカルシウム系凝集剤および鉄系凝集剤からなる群から選ばれる一または二以上を含」む「無機系凝集剤」の点が少なくとも含まれている。 そして、この本件発明5の「無機系凝集剤」の点は、上記ア(ア)で述べたのと同様に、本件発明5と甲2-2発明との間で、実質的な相違点となるものである。 以上によれば、本件発明5は、甲2-2の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明と同一ではない。 エ 本件発明6について 本件発明6は、本件発明5を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明5が、甲2-2の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明と同一ではない以上、本件発明6も同様に、甲2-2の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明と同一ではない。 (7)新規性欠如、進歩性欠如及び拡大先願に関する理由についてのまとめ 以上のとおり、本件特許1~6は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反してされたものであるとも、本件特許1、2、5、6は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであるともいえない。 2 記載要件に関する、申立理由及び意見書における異議申立人1の主張について (1)申立理由3(明確性要件違反)について まず、上記第4の2(5)で「非処理水に無機系凝集剤を添加し、pHを約7に調整することで得られる凝集物の体積頻度粒度分布は、非処理水に含まれる各イオンの濃度、及び非処理水に添加する無機系凝集剤の濃度によって変化することが、以下の本件明細書の【表8】において示されている」としていることについて、この【表8】に係る試験では、用いる無機凝集剤の濃度は、全て0.6質量%である(本件明細書の【0080】)から、凝集物の体積頻度粒度分布が、非処理水に添加する無機系凝集剤の濃度によって変化することは、【表8】には示されていない。 また、同(5)で、「非処理水Aと非処理水Bとのいずれを採用するかによって、請求項3に係る発明への属否が変わることは明らかである」としているが、この【表8】に係る試験において、非処理水Aに無機系凝集剤Aを用いた場合、(D90-D10)/D50は1.6であり、非処理水Bに無機系凝集剤Aを用いた場合、(D90-D10)/D50は2.6であり、共に、本件請求項3に記載される(D90-D10)/D50の条件を満たしており、同じ無機系凝集剤を用いた場合でも、非処理水Aと非処理水Bとのいずれを採用するかによって、(D90-D10)/D50の値は、変わるものの、本件請求項3に記載される(D90-D10)/D50の条件の範囲外になる程変わるものであるのか、【表8】には示されていない。 そうすると、同(5)で、「請求項3に特定された無機系凝集剤の発明は、条件により変化する凝集物の「粒度分布」という機能・特性等によって特定されることで、その発明の範囲が明確でなくなっている」と結論付けることの前提となる「凝集物の体積頻度粒度分布は、無機系凝集剤の濃度によって変化すること」、及び「非処理水Aと非処理水Bとのいずれを採用するかによって、請求項3に係る発明への属否が変わること」の根拠が示されておらず、これが事実であるのか明らかでないから、同(5)の理由を理由があるものとすることはできない。 さらに、検討を進めても、無機系凝集剤の濃度については、請求項3の(手順)において、無機系凝集剤の濃度は、「所定量」とされるものの、本件明細書の【0004】、【0005】等の記載によれば、本件発明は、フッ化物イオン等の濃度を十分に低減することを目的としているものであるから、この「所定量」は、非処理水中のフッ化物イオンおよび/またはリン酸を十分に凝集することができる濃度であり、例えば、請求項3での(D90-D10)/D50の測定に対する説明である、同【0080】の記載によれば、非処理水中のフッ化物イオンおよび/またはリン酸を十分に凝集することができる濃度である、「0.6質量%」程度であると理解できる。 そうすると、同(5)にあるように、請求項3における(手順)において、凝集物の体積頻度粒度分布を評価するための無機系凝集剤の濃度が、「所定量」とされることによって、請求項3の記載が、特に不明確になるということはない。 そして、無機系凝集剤の濃度が、「所定量」とされている点が不明確でないのであれば、(手順)の記載に記載上の不明確な点は見当たらない。さらに、同【0080】の「無機系凝集剤Aを使用した凝集物の方が、無機系凝集剤Cを使用した場合よりも、フィルター詰まりがなく、濾過性に優れる結果を示した。」との記載によれば、非処理水によってというよりは、無機系凝集剤の種類によって、請求項3に係る発明への属否が変わることが理解できる。 以上によれば、請求項3に特定された無機系凝集剤の発明は、その発明の範囲が明確でないということはできないし、請求項3を引用する請求項4についても、事情は同じであるから、同(5)さらには同(3)の明確性要件違反の理由について、理由があるものとすることはできない。 (2)申立理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)について 「実施例において非処理水Aと非処理水Bを用いて、凝集物における(D90-D10)/D50が評価されていること以外、本件明細書の全体を通して、どのように非処理水を設計し、無機系凝集剤及びその濃度を選択設計すれば、(D90-D10)/D50が所定の要件を満たす、凝集物が得られるかについて何ら開示されていない」との理由は、本件発明3の(手順)によって得られる体積頻度粒度分布が、含まれる各イオンの濃度が異なる非処理水の種類及び非処理水に添加する無機系凝集剤の種類や濃度によって、本件発明3への属否が変わる程変化することを前提としているといえる。 しかしながら、本件発明3において、無機系凝集剤の濃度は、「所定量」とされるものの、上記(1)で述べたように、非処理水中のフッ化物イオンおよび/またはリン酸を十分に凝集することができる濃度であり、例えば、請求項3での(D90-D10)/D50の測定に対する説明である、本件明細書の【0080】の記載によれば、「0.6質量%」程度であると理解できる。 そして、無機系凝集剤の種類によって、体積頻度粒度分布が、本件発明3への属否が変わる程変化することは、【表8】に示されている一方、非処理水の種類によって、体積頻度粒度分布が、本件発明3への属否が変わる程変化することは、【表8】、さらには本件明細書には記載されていない。 そうすると、上記の「実施例において非処理水Aと非処理水Bを用いて、凝集物における(D90-D10)/D50が評価されていること以外、本件明細書の全体を通して、どのように非処理水を設計し、無機系凝集剤及びその濃度を選択設計すれば、(D90-D10)/D50が所定の要件を満たす、凝集物が得られるかについて何ら開示されていない」との理由において、無機系凝集剤の濃度を選択設計する必要はないし、また、どのように非処理水を設計するかを明らかにしなければならないとする根拠はない。 さらに、無機系凝集剤の種類については、同【0080】の「無機系凝集剤Aを使用した凝集物の方が、無機系凝集剤Cを使用した場合よりも、フィルター詰まりがなく、濾過性に優れる結果を示した。」との記載によれば、無機系凝集剤A、すなわち同【0060】の記載によれば、セリウム系凝集剤を用いれば、凝集物における(D90-D10)/D50を、本件発明3で特定される範囲に収めることができると理解できる。 また、本件発明3に対応する試験例として、具体的に同【0062】の【表1】、同【0063】の【表2】に記載され、各イオンの含有量が明示されている非処理水、添加する凝集剤として同【0060】に記載されるものを用い、同【0080】に記載される手順で試験を行った結果が【表8】に記載されていることから、この具体例を参考にし、非処理水のフッ素等のイオン濃度、凝集剤の種類を変更し、同【0080】に記載される手順に従って試験を行っていけば、同【0080】の試験例以外の場合であっても、(D90-D10)/D50を、本件発明3で特定される範囲内とすることは、当業者が過度の試行錯誤なく行うことができることであるといえるし、本件発明3の範囲が、実際に試験を行っている同【0080】の試験例に限定されるということもない。 本件発明3を引用する本件発明4についても、事情は同じであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、限られた実施例の記載以外の範囲において、当業者が本件発明3及び4を実施できるように十分かつ明確に記載されたものではないということはないし、本件発明3及び4は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を、本件発明3及び4の範囲にまで拡張乃至一般化できるものでないということはない。 以上によれば、同(6)さらには(4)の実施可能要件違反及びサポート要件違反の理由について、理由があるものとすることはできない。 (3)令和7年3月5日提出の意見書で異議申立人1が主張する実施可能要件違反及びサポート要件違反に関する理由について 同意見書において、異議申立人1は、本件発明5及び6が、実施可能要件違反及びサポート要件違反であることを主張しているが、この主張は、特許異議申立ての理由にはない新たな内容を含むものである。 そして、本件発明5及び6は、訂正はされているものの、その訂正の内容は、上記第2の2(2)で述べたように訂正前後で実質的な変更はないものであるから、上記の理由は、特許権者による訂正の請求に付随して生じた理由でもなく、採用することができるものではないものの、念のため以下検討する。 ア 異議申立人1の主張する理由 参考文献1及び2には、本件特許の出願時の技術常識として、フッ素含有排水からフッ素を除去する方法として、塩化カルシウムや水酸化カルシウムなどを反応させてフッ化カルシウムを沈殿分離することと併せて、単に塩化カルシウムや水酸化カルシウムを用いるのみでは廃水に含まれるフッ素イオンの濃度を15mg/Lよりも低くすることは容易でないことが記載されている。 これに対し、本件明細書には、どのようにカルシウム塩である無機系凝集剤を使用して、フッ化物イオンの濃度が8mg/L以下である本件発明5のリサイクル水溶液を製造できるかについて記載されていない。また、本件明細書の【表5】に示されているように、カルシウム系凝集剤(CaCl2)を用いた実施例16ではF濃度(フッ素濃度)は21.1mg/Lであり、実施例17では、F濃度は13.0mg/Lであり、フッ化物イオンの濃度が8mg/L以下になっていない。 【表5】 [図:0001424591000006.jpg] 本件明細書は、実施例の記載も含め、カルシウム系無機系凝集剤をどのように使用すれば、フッ化物イオンの濃度が8mg/L以下であるリサイクル水溶液を製造できるかについて、当業者が実施することができる程度に十分かつ明確に記載されたものでない。 さらに、本件発明5に特定されたカルシウム系凝集剤にまで、本件明細書に記載された内容を拡張ないし一般化できるものでない。 そうすると、本件明細書の記載は、実施可能要件に違反しており、本件発明5及び6は、サポート要件に違反している。 また、本件特許出願時の技術常識を参照し、本件明細書が、当業者が本件発明5及び6を実施できるように記載されているというのであれば、カルシウム系凝集剤を用いて「フッ化物イオンの濃度が8mg/L以下である」という効果を奏するための条件(課題の解決手段)が本件発明5及び6には反映されていないというべきである。よって、本件発明5及び6はサポート要件に違反している。 イ 上記アの理由に対する当審の判断 本件明細書には、非処理水に無機系凝集剤を添加することについて、以下の記載がある。 「【0036】 ・・・ カルシウム系凝集剤は、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム(消石灰)等を用いることができる。 ・・・無機系凝集剤を複数回反応槽10に添加する場合、同一の凝集剤を添加してもよく、2回目以降、別の凝集剤を併用または別の凝集剤に変更してもよい。」 「【0050】 なお、反応槽10中の混合液の上澄みを回収し、その上澄みを別の反応槽に導入し、この別の反応槽に無機系凝集剤を添加して、2回以上の凝集反応処理を施してもよい。 また、別の反応槽は、攪拌器付きのタンクでもよいが、無機系凝集剤が充填されたカラムでもよい。カラムに上澄みを通液することで凝集反応処理を行うことができる。 そして、別の反応槽から回収された混合液(非処理水1)を、固液分離槽20に導入する。」 「【0060】 (無機系凝集剤) ・無機系凝集剤A:セリウム系凝集剤(日本海水社製、READ-CX(L)) ・無機系凝集剤B:アルミニウム系凝集剤(ポリ塩化アルミニウム(PAC)) ・無機系凝集剤C:カルシウム系凝集剤(CaCl2) 【0061】 (非処理水(廃液)) 化学反応において排出される廃液を用いて、下記の表1、2の化学組成を有する非処理水A、Bを調整した。 ・非処理水A:下記の表1の成分組成を有する、ヨウ化物イオンおよびフッ化物イオンを含む水溶液 ・非処理水B:下記の表2の成分組成を有する、ヨウ化物イオンおよびリン酸イオンを含む水溶液 表1,2中、検出限界以下の成分は記載しなかった 【0062】 【表1】 [図:0001424591000007.jpg] 」 「【0071】 <試験2:凝集剤の添加量> (実施例11~17) 試験2では、所定量の表1の非処理水Aをビーカーに入れ、表5に示す添加量(質量%)で無機系凝集剤A~Cのいずれかを添加した後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを用いて、非処理水AのpHを約7.0~7.5に調整し、ジャーテスターを用いて、上記試験1と同じ攪拌条件にて攪拌を行った(凝集工程)。 攪拌後、ビーカー中に生じた凝集物を沈殿させ、ビーカー中の上澄み溶液を回収し、実施例11~17の処理水を得た。得られた処理水について、上述の手法にて、組成分析を行った。結果を、表5に示す。」 「【0075】 【表5】 [図:0001424591000008.jpg] 」 本件明細書の【0071】によれば、カルシウム系凝集剤を用いる実施例16、17は、所定量の【0062】の【表1】に示される非処理水Aをビーカーに入れ、【表5】に示す添加量(質量%)でカルシウム系凝集剤を添加した後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを用いて、非処理水AのpHを約7.0~7.5に調整し、ジャーテスターを用いて、攪拌を行い(凝集工程)、攪拌後、ビーカー中に生じた凝集物を沈殿させ、ビーカー中の上澄み溶液を回収し、処理水を得たものである。 この結果では、カルシウム系凝集剤を1.0質量%添加した場合は、F濃度が21.1mg/Lであり、5.0質量%添加した場合は、F濃度が13.0mg/Lである。 ここで、カルシウム系凝集剤を含め他の無機系凝集剤でも、無機系凝集剤の添加量を増やせば、F濃度が低下する傾向が見てとれるから、カルシウム系凝集剤の添加量を5.0質量%よりも過剰に多くすれば、5.0質量%添加した場合でも、F濃度が8mg/Lに近接する13.0mg/Lまで低減できているのであるから、8mg/Lまでは、十分低減することができるといえる。 さらに、上記の実施例16、17では、単に非処理水が入れられているビーカーにカルシウム系凝集剤を添加して撹拌するだけであるが、上記【0036】に記載されるように、「無機系凝集剤を複数回反応槽10に添加」したり、上記【0050】に記載されるように、「反応槽10中の混合液の上澄みを回収し、その上澄みを別の反応槽に導入し、この別の反応槽に無機系凝集剤を添加して、2回以上の凝集反応処理を施し」たり、別の反応槽を、「無機系凝集剤が充填されたカラム」とし、「カラムに上澄みを通液することで凝集反応処理を行うこと」ことなどをすれば、単に非処理水が入れられているビーカーにカルシウム系凝集剤を添加して撹拌するだけよりも、さらに、水溶液中のF濃度を低減することができるといえる。 以上によれば、本件明細書には、カルシウム系凝集剤を、非処理水に対して5.0質量%添加した場合は、F濃度を13.0mg/Lまで低減することが記載されているが、カルシウム系凝集剤の添加量をさらに増加させることや、添加の方法を工夫する等で、F濃度をさらに低減し、8mg/Lまで低減することは、十分可能であることが本件明細書の記載から理解できるといえる。 ここで、上記アの理由では、参考文献1、2を引用して、フッ素含有排水からフッ素を除去する方法として、塩化カルシウムや水酸化カルシウムなどを反応させてフッ化カルシウムを沈殿分離することと併せて、単に塩化カルシウムや水酸化カルシウムを用いるのみでは廃水に含まれるフッ素イオンの濃度を15mg/Lよりも低くすることは容易でないことが記載されている、としている。 しかしながら、参考文献1の9頁左欄下から5~3行の「プリント基板や半導体の製造プロセスではエッチング液としてフッ化水素酸,フッ化アンモニウム,硝酸および過酸化水素水などが用いられる。」との記載によれば、参考文献1に記載の技術でフッ素除去の対象としている液は、プリント基板や半導体の製造プロセスでのエッチング液等、フッ素が多量に含まれている液であるといえる。また、参考文献2の【0001】の「本発明は特に、半導体工場などから排出される高濃度のフッ素含有排水の処理方法に関する。」との記載によれば、参考文献2に記載の技術でフッ素除去の対象としている液は、参考文献1に記載される技術と同じく、フッ素が多量に含まれている液であるといえる。 他方、本件発明で対象とする非処理水は、「ヨウ化物イオンと、フッ化物イオンおよび/またはリン酸イオンと、を含む非処理水」であり、具体的には、上記【0062】の【表1】や、【0063】の【表2】に記載されるものであり、特にフッ素(231mg/L)に対してヨウ素(37,422mg/L)が大過剰に含まれる液(【表1】)であり、参考文献1及び2の技術で対象とする液と事情が異なるから、参考文献1及び2に記載される事項を直ちに本件発明の場合に当てはめることはできない。 むしろ、参考文献1の6頁右欄下から14~9行には、「フッ素含有廃水にカルシウム成分を過剰に加えればフッ素濃度は8mg/dm3程度まで処理できるはずである。しかし,これはフッ素濃度が100mg/dm3以下のときで100mg/dm3以上の濃度では15mg/dm3以下にはならない。」と記載されるように、「フッ素濃度が100mg/dm3以下のとき」とされるものの、「フッ素含有廃水にカルシウム成分を過剰に加えればフッ素濃度は8mg/dm3程度まで処理できる」ことが記載されている。また、フッ素濃度が100mg/dm3以上の濃度であったとしても、段階的にカルシウム成分を添加し、フッ素濃度を段階的に低減していけば、最終的にフッ素濃度を8mg/dm3程度まで低減できることは、当業者ならば容易に理解できることであるといえる。 さらに、本件発明5は、「リサイクル溶液」そのものに関する発明であるから、特に、請求項にカルシウム系凝集剤を用いた場合での「フッ化物イオンの濃度が8mg/L以下」とするための条件や手段を特定しなければならないということはない。 以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明は、カルシウム系無機系凝集剤をどのように使用すれば、フッ化物イオンの濃度が8mg/L以下であるリサイクル水溶液を製造できるかについて、当業者が実施することができる程度に十分かつ明確に記載されたものでない、ということはないし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を、本件発明5に特定されたカルシウム系凝集剤にまで、拡張ないし一般化できるものでない、ということもない。 そうすると、本件明細書の記載は、実施可能要件に違反しているものではないし、本件発明5及び本件発明5を引用する本件発明6は、サポート要件に違反しているものではないから、上記アの理由には、理由がない。 (4)記載要件の理由に関するまとめ 以上のとおり、本件特許3、4は、請求項3、4の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、ということはできないし、請求項3、4に対応する発明の詳細な説明の記載が不備のため、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、ということもできないから、申立理由3、4には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1~6は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとも、本件特許1、2、5、6は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであるとも、本件特許3、4は、同法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1~6では、本件特許1~6を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~6を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700711

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