特許異議申立
2025-700757
窒化アルミニウム粉末及びその改質方法並びに高分子成形体
- 審判番号
- 2025-700757
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-115453
- 登録番号
- 7626801
- 請求日
- 2025年07月23日
- 審決日
- 2026年05月22日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社MARUWA
- 【権利者代理人】松原 等
- 【異議申立人】山川 隆久
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 松本 瞳
- 審判官 深草 祐一
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7626801号発明「窒化アルミニウム粉末及びその改質方法並びに高分子成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7626801号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。
特許第7626801号の請求項1、4、5に係る特許を維持する。
特許第7626801号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7626801号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和5年7月13日を出願日とする出願であり、令和7年1月27日にその特許権の設定登録がされ、同年2月4日に特許掲載公報が発行され、その後、同年7月23日に、その請求項1~5に係る特許を対象として特許異議申立人山川隆久(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年10月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月4日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求、並びに令和8年1月15日に訂正請求書を補正する手続補正書(方式)の提出があり、それに対し異議申立人からは意見書の提出がなかったものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
令和7年12月4日に提出され、令和8年1月15日に補正された訂正請求書で請求された訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「吸油量が13.0g/100g未満である窒化アルミニウム粉末」とあるのを、「吸油量が13.0g/100g未満であり、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である窒化アルミニウム粉末」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項4も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項に記載」とあるのを「請求項1に記載」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「吸油量が分級前に対して分級後に89.5%以下になるように、乾式ジェットミルによる分級を施す」とあるのを「吸油量が分級前に対して分級後に89.5%以下になって13.0g/100g未満であるように、捕集方法がサイクロンである乾式ジェットミルによる分級を施す」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、願書に添付した明細書の【0017】の「[3]メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である窒化アルミニウム粉末。」との記載に基づいて、窒化アルミニウム粉末に対し、「メジアン径(D50)」及び「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」という特性をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれか一項を引用していたのを、訂正事項2、3により請求項2、3が削除されたことに伴い、これに整合させるため引用する請求項から請求項2、3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が引用していた請求項2、3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項5について
訂正事項5は、本件訂正前の「乾式ジェットミルによる分級を施す窒化アルミニウム粉末の改質方法」に対し、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が「13.0g/100g未満である」窒化アルミニウム粉末を得るものであることに限定すると共に、上記の「乾式ジェットミル」における「捕集方法がサイクロンである」ことに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
次に、訂正事項5が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて検討する。
まず、願書に添付された明細書の【0011】に「本発明の目的は、樹脂等の高分子材料との濡れ性に優れた窒化アルミニウム粉末を提供することにある。」とあり、ここでの「窒化アルミニウム粉末」とは、同【0013】に記載される「[1]JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が13.5g/100g以下である窒化アルミニウム粉末。」であり、さらに、同【0014】で、「この吸油量は13.0g/100g未満であることがより好ましい。」とされるものである。そして、上記【0011】で「提供すること」には、本件訂正前の「乾式ジェットミルによる分級を施す窒化アルミニウム粉末の改質方法」が対応している。
そうすると、本件訂正前の「乾式ジェットミルによる分級を施す窒化アルミニウム粉末の改質方法」は、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満である窒化アルミニウム粉末を得ようとするものであることが理解できる。
また、「乾式ジェットミル」における「捕集方法がサイクロンである」ことは、同【0021】の「窒化アルミニウム粉末に乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じるだけでなく、乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンであるから、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくくなる。」との記載に基づいているから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
以上によれば、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、本件については、本件訂正前の請求項1~5に対して特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、請求項5、及び一群の請求項を構成する請求項〔1~4〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であり、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である窒化アルミニウム粉末。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】
請求項1に記載の窒化アルミニウム粉末を高分子材料に充填した高分子成形体。
【請求項5】
窒化アルミニウム粉末に、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が分級前に対して分級後に89.5%以下になって13.0g/100g未満であるように、捕集方法がサイクロンである乾式ジェットミルによる分級を施す窒化アルミニウム粉末の改質方法。」
第4 令和7年10月31日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和7年10月31日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~5に係る特許は、その請求項1~5の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由」とする。)。
2 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
ア 設定登録時の請求項3、4に係る発明は、下記3に記載の甲第8号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(「申立理由1-1」という。)。
イ 設定登録時の請求項3に係る発明は、下記3に記載の甲第9号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(「申立理由1-2」という。)。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1、2、4に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第3~7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2-1」という。甲第2、10号証を参考にしている。)。
イ 設定登録時の請求項3、4に係る発明は、下記3に記載の甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2-2」という。)。
ウ 設定登録時の請求項3、4に係る発明は、下記3に記載の甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2-3」という。)。
(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
設定登録時の請求項5に係る特許は、請求項5の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由3」という。甲第11、12号証を引用している。)。
3 提出された証拠
甲第1号証:特開2000-247615号公報
甲第2号証:FUJIFILM 「アマニ油」に関する安全データシート、富士フイルム株式会社、2023年2月9日(改訂日)
甲第3号証:特開2018-145037号公報
甲第4号証:国際公開第2022/059659号
甲第5号証:特開2021-127254号公報
甲第6号証:特開2022-54508号公報
甲第7号証:特開2015-196604号公報
甲第8号証:特開2000-86213号公報
甲第9号証:「シェイパル(R)(当審注:原文は、丸囲みのR、甲第11、12号証でも同じ)」(窒化アルミニウム粉末製品)の商品カタログ、株式会社トクヤマ、2013年1月
甲第10号証:特開2015-71730号公報
甲第11号証:「超微粉砕システム ナノジェットマイザー(R)」の商品カタログ、株式会社アイシンナノテクノロジーズ、2011年10月
甲第12号証:「picoline(R)」の商品カタログ、ホソカワミクロン株式会社、2023年1月13日
(以下、甲第1号証などを略して、「甲1」などという。)
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由及び申立理由1-1、1-2、2-1~2-3、3のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 サポート要件違反に関する取消理由、申立理由3について
申立理由3は、以下で記載する取消理由において、「窒化アルミニウム粉末の改質方法」に関する設定登録時の請求項5に係る発明に対する理由と同旨であるので、以下、「取消理由」として判断する。
(1)取消理由の概要
ア サポート要件の判断基準と本件発明の課題
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
次に、本件発明の課題について検討すると、願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件発明に対する従来技術として、「粉末の70%以上の粒子が角張った角部及び凹凸部を含まない外周形状を有している、球形度が高い球状窒化アルミニウム粉末により、充填性、混錬性及び熱伝導性を改善できること」が記載されている特許文献1(【0003】)、「メジアン径(D50)が1.9~4.0μmであり、粒子径0.9μm以下の粒子が10%以下であり、粒子径7μm以上の粒子が10%以下であり、球形度が0.8以上である球状窒化アルミニウム粉末により、流動性及び充填性を改善できること」が記載されている特許文献2(【0004】)、「余分な粗大粒子を除去することにより分級された窒化アルミニウム粉末」であり(【0006】)、「気流分級よりも湿式分級の方が分級後に残存する粗粒が少なく、さらに流体分級よりも湿式フィルター分級の方が精度が良く生産能力も高いとの比較が記されたうえで、実施例では湿式フィルター分級のみを採用している」ことが記載されている特許文献3(【0007】)が挙げられている。
そして、特許文献1、2の窒化アルミニウム粉末は、樹脂等の高分子材料との濡れ性に改善の余地があり(【0009】)、特許文献3のように窒化アルミニウム粉末に湿式分級を施すと、樹脂等の高分子材料との濡れ性は、分級前よりも分級後でかえって悪くなる(【0010】)という問題を受け、本件発明は、「樹脂等の高分子材料との濡れ性に優れた窒化アルミニウム粉末を提供すること」(【0011】)を発明の課題としている。
ここで、上記発明の課題は、特許文献1、2等に記載されている樹脂に対する充填性が改善された従来の窒化アルミニウム粉末に対し、さらに、濡れ性に優れた窒化アルミニウム粉末を得ようとするものであるから、上記発明の課題の「濡れ性に優れた」とは、充填性が改善された従来の窒化アルミニウム粉末に対し、さらに「濡れ性に優れた」ことであるといえる。
イ 本件発明の課題に対応する本件明細書の記載と、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲
(ア)窒化アルミニウム粉末について
本件明細書には、【課題を解決するための手段】に続く【0012】に「本発明者らはさらに、窒化アルミニウム粉末の粒子表面状態を変えることで樹脂等の高分子材料との濡れ性を改善することができないか検討を重ねた結果、窒化アルミニウム粉末に所定の乾式分級を施すことにより樹脂等の高分子材料との濡れ性が改善される可能性があることを見出し、さらに検討を重ねて本発明に至った。」と記載され、窒化アルミニウム粉末における樹脂等の高分子材料との濡れ性を改善する、すなわち上記アの発明の課題を解決するには、「所定の乾式分級を施す」ことにより、高分子材料との濡れ性に対応する指標であるといえる(【0014】)「吸油量」を所定値(13.0g/100g)以下とすることが重要であることが理解できる。
そして、「所定の乾式分級」については、【0021】に「窒化アルミニウム粉末に乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じるだけでなく、乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンであるから、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくくなる。そして、吸油量が低下し、樹脂等の高分子材料との濡れ性が改善される。」と記載され、「所定の乾式分級を施す」ことについて、上記アの発明の課題を解決するには、乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じることに加え、乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンによることにより、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくくなることが重要であることが理解できる。
ここで、上述の「乾式ジェットミルによる分級」については、分級を行ったことの前提として、【0017】に記載されるように、分級後の粉末の「メジアン径(D50)が1.5~10μmであ」ることが重要であり、また、「細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくくなる」ことは、【0018】の「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度とは、当該立ち上がり接線とx軸(粒子径の対数軸)からなる角度であり、後述する手順で算出する。この立ち上がり接線角度が45°以上であると、細かな破砕粒子が少ないことにより、樹脂等の高分子材料との濡れ性が改善される。この立ち上がり接線角度は50°以上であることが好ましく、55°以上であることがより好ましい。」との記載によれば、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」が「45°以上である」ことにより表されることが理解できる。
そうすると、上記の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、上記アの発明の課題を解決するには、「窒化アルミニウム粉末」という物の発明について見れば、「吸油量が所定値(13.0g/100g)以下」であること、「メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことが必要であることが理解できる。
本件明細書の【0032】~【0052】に記載される実施例においても、実施例における結果を示した以下の【0034】【表1】
[図:0001438287000001.jpg]
によれば、上記1の発明の課題を解決しているといえる実施例(実施例1~3、4、5)としては、「吸油量が所定値(13.2g/100g)以下」であり、「メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」もののみが示されている。
以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、上記アの発明の課題を解決するには、「窒化アルミニウム粉末」という物について見れば、「吸油量が所定値(13.0g/100g)以下」であること、「メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことの全てが必要であるといえる。
(イ)窒化アルミニウム粉末の改質方法について
上記(ア)で述べたように、上記アの発明の課題を解決するには、「所定の乾式分級を施す」ことにより、高分子材料との濡れ性に対応する指標であるといえる(【0014】)「吸油量」が所定値(13.0g/100g)以下とすることが重要であり、「所定の乾式分級」については、乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じることに加え、乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンによることにより、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくくなることが重要である。
そうすると、「窒化アルミニウム粉末の改質方法」という方法について見れば、上記アの発明の課題を解決するには、「捕集方法がサイクロンである乾式ジェットミルによる分級を施すこと」、これにより得られる窒化アルミニウム粉末が、「吸油量が所定値(13.0g/100g)以下」であることが必要であるといえる。
ウ 特許請求の範囲の記載と、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲との対比
(ア)窒化アルミニウム粉末について
上記イ(ア)で述べたように、窒化アルミニウム粉末について、上記アの発明の課題を解決するには、「吸油量が所定値(13.0g/100g)以下」であること、「メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことの全てが必要であるといえるところ、設定登録時の請求項1に係る発明等では、「メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことが特定されておらず、設定登録時の請求項3に係る発明等では、「吸油量が13.0g/100g以下」であることが特定されていない。
(イ)窒化アルミニウム粉末の改質方法について
上記イ(イ)で述べたように、窒化アルミニウム粉末の改質方法について、上記アの発明の課題を解決するには、「捕集方法がサイクロンである乾式ジェットミルによる分級を施すこと」、これにより得られる窒化アルミニウム粉末が、「吸油量が所定値(13.0g/100g)以下」であることが必要であるといえる。
これに対し、設定登録時の請求項5に係る発明は、「窒化アルミニウム粉末に、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が分級前に対して分級後に89.5%以下になるように、乾式ジェットミルによる分級を施す窒化アルミニウム粉末の改質方法。」と特定されている。
ここで、設定登録時の請求項5に係る発明で特定されるように、「窒化アルミニウム粉末に、JISK5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が分級前に対して分級後に89.5%以下になるように、乾式ジェットミルによる分級を施」し、分級を行って吸油量を低下させたとしても、改質前の窒化アルミニウム粉末の「吸油量」が大きければ、改質後の窒化アルミニウム粉末の吸油量は、必ずしも「所定値(13.0g/100g)以下」となるとはいえない。
また、乾式ジェットミルによる分級は、例えば、甲11に以下の図
[図:0001438287000002.jpg]
に捕集方法としてフィルターによるものが記載されるように、乾式ジェットミルにおける捕集方法はサイクロンに限られない。
そうすると、設定登録時の請求項5に係る発明では、乾式ジェットミルによる分級を施すことにおいて、「捕集方法がサイクロン」であること、得られる窒化アルミニウム粉末が、「吸油量が所定値(13.0g/100g)以下」であることが特定されているとはいえない。
エ まとめ
上記ウによれば、本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないから、本件発明に対応する特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合していない。
(2)取消理由(申立理由3)に対して
まず、上記第2の1(2)及び(3)に記載したように、設定登録時の請求項2、3に係る発明は削除されたので、これらの請求項に対する取消理由はないものとなった。
そして、上記(1)ウ(ア)に記載されているように、設定登録時の請求項1に係る発明等では、「メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことが特定されていないため、対応する特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合していないとされていたのに対し、上記第2の1(1)に記載した訂正事項1により、本件発明1(本件発明1を引用する本件発明4)は、窒化アルミニウム粉末に対して「メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことがさらに特定されるものとなったから、本件発明1、4に対応する特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものになったといえる。
また、上記(1)ウ(イ)に記載されているように、設定登録時の請求項5に係る発明では、乾式ジェットミルによる分級を施すことにおいて、「捕集方法がサイクロン」であること、得られる窒化アルミニウム粉末が、「吸油量が所定値(13.0g/100g)以下」であることが特定されていないため、対応する特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合していないとされていたのに対し、上記第2の1(5)に記載した訂正事項5により、本件発明5は、「吸油量が」「13.0g/100g未満であるように、捕集方法がサイクロンである乾式ジェットミルによる分級を施す」ことが特定されるものとなったから、本件発明5に対応する特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものになったといえる。
そうすると、取消理由及び申立理由3には、理由がない。
2 新規性欠如及び進歩性欠如に関する申立理由1-1、1-2、2-1~2-3について
(1)各甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「【請求項1】粒子表面の一部又は全部に-O-R基(O:酸素、R:アルキル基)が存在することを特徴とする窒化アルミニウム系粉末。」
(イ)「【0002】
【従来技術】窒化アルミニウムは、その高い熱伝導性と電気絶縁性からIC基板、ヒートシンク、ICパッケージ、封止材のフィラー、金属等との複合材料用等として幅広く利用されている。
【0003】しかしながら、従来の窒化アルミニウム粉末を油又は樹脂と混合して組成物を調製しようとする場合、次のような問題が生じる。すなわち、組成物中における窒化アルミニウム粉末の分散性が低く、また調製された組成物の流動性が時間の経過とともに低下する。このため、これらの問題が解消されない限り、その最終製品の品質向上を望むこともできない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように、窒化アルミニウム粉末を油又は樹脂と配合する場合に生じる問題を解決するための具体的な方策が待たれているものの、いまだ開発されるに至っていないというのが現状である。
【0005】従って、本発明は、特に油又は樹脂に対する分散性に優れ、良好な流動性を与える窒化アルミニウム系粉末を提供することを主な目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記従来技術の問題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、窒化アルミニウム粉末の粒子表面に特定基を存在させることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(ウ)「【0030】実施例3
内容積4リットルの密閉できる容器内に平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末(東洋アルミニウム株式会社製UMグレード)1kgと、IPA3リットル(2.36kg)を装入後十分に攪拌した。続いて、容器を密閉して70℃で1時間保持した。固液分離後、窒化アルミニウム粉末を150℃で1時間熱処理して本発明窒化アルミニウム系粉末を得た。
・・・
【0033】
・・・
試験例1
各実施例及び比較例のアルキル基量、吸油量及びちょう度を調べた。その測定結果をその平均粒子径等とともに表1に示す。
【0034】
【表1】
[図:0001438287000003.jpg]
【0035】
なお、各物性の試験方法は次のようにして実施した。
・吸油量
一定の条件下でAlN粉末に吸収されるあまに油量の測定により求めた。測定はJlS K5101に従った。
・ちょう度
試料粉末80重量部にシリコーンオイル(KF-54、信越化学工業株式会社製)20重量部を混合したオイルコンパウンドを測定試料に用いた。ちょう度の測定はJlS K2220(1/2コーン使用)に従った。
・平均粒子径
レーザー回折法により測定した。」
イ 甲2に記載された事項
(ア)「
[図:0001438287000004.jpg]
」(1/5頁)
(イ)「
[図:0001438287000005.jpg]
」(3/5頁)
ウ 甲3に記載された事項
(ア)「【請求項1】
体積頻度粒度分布において、
1~70μmの範囲に最頻径を有し、
D50が1~60μmであり、
かつ最頻径/D50が1.2以上であり、
1.0μm以下の累積頻度が0.5~30%であること、
を特徴とする、樹脂組成物添加用球状結晶質シリカ粉体。
・・・
【請求項4】
あまに油吸油量が15g/100g以下である請求項1~3の何れかに記載の樹脂組成物添加用球状結晶質シリカ粉体。」
(イ)「【0011】
(4)上述した(1)~(3)の何れかの樹脂組成物添加用球状結晶質シリカ粉体は、あまに油吸油量が15g/100g以下であることが好ましい。あまに油吸油量は粉体単体の状態で測定する値であり、小さい方が樹脂組成物に適用したときに高い充填性が実現できる。」
エ 甲4に記載された事項
(ア)「[請求項1] 酸化マグネシウム粒子を含む粉末であって、
JIS K 5101-13-1に準拠して測定した、アマニ油に対する、前記酸化マグネシウム粒子の吸油量が2.5mL/10g以下である、酸化マグネシウム粉末。」
(イ)「[0013](酸化マグネシウム粒子)
・・・
酸化マグネシウム粒子の吸油量は、樹脂に充填した際の成形性がより向上するとの理由により、2.2mL/10g以下であることが好ましく、1.8mL/10g以下であることがより好ましい。下限は、特に限定されないが、0.1mL/10g以上である。吸油量は、実施例に記載の方法で測定される。
[0014] 従来の酸化マグネシウム粒子は、吸油量が高く、樹脂分を吸収しやすいため、樹脂に対する分散性が低い。そのため、樹脂に従来の酸化マグネシウム粒子を充填する際に増粘し、そのような酸化マグネシウム粒子を高い割合で充填することが難しい。
しかしながら、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子は、吸油量が2.5mL/10g以下である。本実施形態の酸化マグネシウム粉末が、吸油量が上記範囲にある酸化マグネシウム粒子を含むことにより、樹脂中において、酸化マグネシウム粉末の流動性が向上し、樹脂との摩擦抵抗が低下し、樹脂に酸化マグネシウム粉末を充填する際の粘度上昇を抑制することができる。その結果、樹脂に、酸化マグネシウム粉末を高い割合で充填することが可能となり、樹脂中において、酸化マグネシウム粒子同士の接触が十分になり、接触面積が大きくなる。そのため、熱経路を効率よく形成でき、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。」
オ 甲5に記載された事項
(ア)「【請求項1】
体積平均粒子径が0.3~20μm、球形度が0.9以上、水分量が0.5質量%以下、亜麻仁油吸油量が0.25mL/g以下である二酸化チタンからなる粒子材料。」
(イ)「【0021】
本実施形態の粒子材料は、亜麻仁油吸油量が0.25mL/g以下であり、0.20mL/g以下であることがより好ましく、0.18mL/g以下であることが更に好ましく、0.15mL/g以下であることが特に好ましい。亜麻仁油吸油量が小さいほど、粒子材料の充填率が高くなり、誘電体材料としての性能が向上できる。亜麻仁油吸油量を小さくするためには、単分散に近い粒子径をもつ粒子材料に対して粒子材料の隙間に入ることができる相対的に小さな粒子径をもつ粒子材料を加えることで全体としての充填率が向上できる。つまり、粒子材料として2つの粒子径にピークをもつものを採用することにより充填性が向上できる。例えば、2つのピークのうちの粒子径が大きい方のピークの粒子径に対して、小さい方のピークの粒子径が40%以下であることが好ましく、30%以下であることが更に好ましい。」
カ 甲6に記載された事項
(ア)「【請求項1】
樹脂と、硬化剤と、無機粒子とを含む粉体塗料組成物であって、
前記無機粒子の表面は疎水化処理されており、
前記無機粒子の平均粒子径は0.01~5μmであり、
当該粉体塗料組成物の、試験温度120℃、公称荷重1.20kgの条件で測定されるメルトマスフローレートは8~30g/10minである粉体塗料組成物。」
(イ)「【0058】
(顔料)
本実施形態の粉体塗料組成物は、好ましくは、顔料を含む。・・・
【0059】
顔料粒子としては、公知の無機顔料や有機顔料などの着色顔料を挙げることができる。具体的には、酸化チタン(チタン白)、酸化亜鉛(亜鉛華)、鉛白、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白などの白色顔料・・・などが挙げられる。もちろん、使用可能な顔料粒子は、これらのみに限定されない。
・・・
【0062】
顔料としては、適当な吸油量を有するものを用いることが好ましい。より具体的には、適当な吸油量を有する顔料を適量用いることにより、粉体塗料組成物中に含まれる顔料の総吸油量が一定の数値範囲内であるようにすることが好ましい。こうすることで、例えば、塗膜の外観向上や、塗膜形成時のタレ抑制などを図ることができる。
顔料の吸油量は、おおよそ、上述の樹脂や硬化剤の「吸い込みやすさ」と相関する。顔料の吸油量が大きすぎないことで、塗膜形成時の塗料の流動性が落ちにくくなる(メルトマスフローレートが小さくなりにくくなる)と考えられる。このことは、平滑な塗膜形成による塗膜外観の良化に寄与すると考えられる。
また、顔料の吸油量が小さすぎないことで、塗膜形成時の塗料の流動性が適度に小さくなる(メルトマスフローレートが大きくなりにくくなる)と考えられる。このことは、塗膜形成時の塗料のタレの抑制につながると考えられる。」
キ 甲7に記載された事項
(ア)「【請求項1】
一次粒子の平均粒子径(D50)が100nm以下であり、一次粒子の平均粒子径(D50)(nm)とDOP吸油量(cm3/100g)との積が6,000以下であることを特徴とするアルミナ水和物粒子粉末。」
(イ)「【0029】
本発明に係るアルミナ水和物粒子粉末のフタル酸ジオクチル吸油量(以下、DOP吸油量という。)は、200cm3/100g以下であることが好ましく、より好ましくは180cm3/100g以下、更により好ましくは150cm3/100g以下である。一般に、アルミナ水和物粒子粉末のDOP吸油量が低いほど、樹脂への充填性が向上し、単位重量当りの樹脂に対してより多くのアルミナ水和物粒子粉末を充填することができる。」
ク 甲8に記載された事項
(ア)「【請求項1】レーザー回折法による粒度頻度分布において2つのピークを有し、当該2つのピークに対応する粒径D1及びD2が2≦D2/D1≦20(但し、D1は小さい方の粒径を示す。)を満たすことを特徴とする窒化アルミニウム系粉末。」
(イ)「【0025】
【実施例】以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。なお、各物性は、それぞれ以下の方法により測定した。
【0026】(1)粒度分布
マイクロトラック粒度分布測定装置(「HRA9320-X100」日機装(株)製)により、水を分散媒として測定した。なお、本発明の粒度分布はすベて重量基準である。
・・・
【0030】実施例1
平均粒径2μmの窒化アルミニウム粉末と平均粒径6μmの窒化アルミニウム粉末とを1:1(重量比)で混合し、振動ミルで30分間かけて粉砕することにより、2つのピークを有する粉末を得た。得られた粉末の粒度分布を図1に示す。また、得られた粉末の平均粒径と上記ピークにおける粒径D1及びD2の値を表1に示す。
【0031】
【表1】
[図:0001438287000006.jpg]
・・・
【0035】実施例2
(1)平均粒径2μmの窒化アルミニウム粉末と平均粒径10μmの窒化アルミニウム粉末とを1:1(重量比)の割合で混合し、振動ミルで40分間粉砕し、2つのピークを有する粉末を得た。得られた粉末の粒度分布を図3に示す。また、表2には、得られた粉末の平均粒径と上記ピークにおける粒径D1及びD2の値を示す。
【0036】
【表2】
[図:0001438287000007.jpg]
・・・
【0038】(3)上記粉末80重量部にシリコーンゲル(「TSE3033(A)」東芝シリコーン社製)10重量部及びシリコーンゲル(「TSE3033(B)」東芝シリコーン社製)10重量部を添加混合し、脱泡し、成形した後、150℃で30分かけて硬化させ、ゴムコンパウンド成形体を得た。このゴムコンパウンド成形体の密度及び熱伝導率を表2に示す。」
(ウ)「【図1】
[図:0001438287000008.jpg]
・・・
【図3】
[図:0001438287000009.jpg]
」
ケ 甲9に記載された事項
甲9の表紙から1頁とする。
(ア)「
[図:0001438287000010.jpg]
」(1頁)
(イ)「
[図:0001438287000011.jpg]
[図:0001438287000012.jpg]
[図:0001438287000013.jpg]
[図:0001438287000014.jpg]
」(3頁)
(ウ)「
[図:0001438287000015.jpg]
」(5頁)
(2)甲1、甲8及び甲9に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1には、上記(1)ア(ア)の【請求項1】の記載によれば、特定の窒化アルミニウム系粉末が記載されているところ、同(ウ)の【0030】に記載される実施例3に着目すると、同段落の「実施例3
内容積4リットルの密閉できる容器内に平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末(東洋アルミニウム株式会社製UMグレード)1kgと、IPA3リットル(2.36kg)を装入後十分に攪拌した。続いて、容器を密閉して70℃で1時間保持した。固液分離後、窒化アルミニウム粉末を150℃で1時間熱処理して本発明窒化アルミニウム系粉末を得た。」との記載によれば、実施例3における窒化アルミニウム系粉末として、「容器内に平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末と、IPAを装入後十分に攪拌し、容器を密閉して70℃で1時間保持し、固液分離後、150℃で1時間熱処理して得た、窒化アルミニウム系粉末。」が記載され、この窒化アルミニウム系粉末の「吸油量」が同(ウ)の【0034】【表1】には、「14.2ml/100g」であることが記載され、さらに、同(ウ)の【0035】には、この「吸油量」が、「JlS K5101に従った、一定の条件下でAlN粉末に吸収されるあまに油量の測定により求めた吸油量」であることが記載されている。
また、甲2の上記(1)イ(イ)の記載によれば、あまに油の密度は、「0.920-0.935g/ml」とされているから、上記の吸油量の「14.2ml/100g」を「g/100g」に換算すると、およそ「13.1~13.3g/100g」となる。
これらの記載をまとめると、甲1には、以下の窒化アルミニウム系粉末の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「容器内に平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末と、IPAを装入後十分に攪拌し、容器を密閉して70℃で1時間保持し、固液分離後、150℃で1時間熱処理して得た、窒化アルミニウム系粉末であって、JlS K5101に従った、一定の条件下でAlN粉末に吸収されるあまに油量の測定により求めた吸油量がおよそ13.1~13.3g/100gである、窒化アルミニウム系粉末。」
イ 甲8に記載された発明
甲8には、甲8の上記(1)ク(ア)の【請求項1】の記載によれば、特定の窒化アルミニウム系粉末が記載されているところ、同(イ)の【0035】、【0036】【表2】、【0038】に記載される実施例2に着目すると、【0035】に「平均粒径2μmの窒化アルミニウム粉末と平均粒径10μmの窒化アルミニウム粉末とを1:1(重量比)の割合で混合し、振動ミルで40分間粉砕し、2つのピークを有する粉末を得た。得られた粉末の粒度分布を図3に示す。また、表2には、得られた粉末の平均粒径と上記ピークにおける粒径D1及びD2の値を示す。」との記載があり、得られた粉末の平均粒径は、同(イ)の【表2】によれば、3.6μmであることから、上記【0035】には、「平均粒径2μmの窒化アルミニウム粉末と平均粒径10μmの窒化アルミニウム粉末とを1:1(重量比)の割合で混合し、振動ミルで40分間粉砕し、2つのピークを有し、粒度分布が図3に示される、平均粒径が3.6μmである粉末を得た」ことが記載されているといえる。
そして、同(イ)の【0038】の「(3)上記粉末80重量部にシリコーンゲル(「TSE3033(A)」東芝シリコーン社製)10重量部及びシリコーンゲル(「TSE3033(B)」東芝シリコーン社製)10重量部を添加混合し、脱泡し、成形した後、150℃で30分かけて硬化させ、ゴムコンパウンド成形体を得た。」との記載によれば、上記【0035】に記載される粉末にシリコーンゲルを添加混合し、脱泡し、成形した後、硬化させ、ゴムコンパウンド成形体を得た、ことが記載されているから、甲8には、以下のゴムコンパウンド成形体に関する発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているといえる。
「平均粒径2μmの窒化アルミニウム粉末と平均粒径10μmの窒化アルミニウム粉末とを1:1(重量比)の割合で混合し、振動ミルで40分間粉砕し、2つのピークを有し、粒度分布が以下の図3に示される、平均粒径が3.6μmである粉末を得て、この粉末に、シリコーンゲルを添加混合し、脱泡し、成形した後、硬化させた、ゴムコンパウンド成形体。
図3
[図:0001438287000016.jpg]
」
ウ 甲9に記載された発明
甲9には、上記(1)ケ(イ)の記載によれば、「AlNフィラー」に関する記載がなされ、同(イ)には、「微細且つ球状粒子でシャープな粒度分布を持ち、種々の粒子サイズのAlN粒子を配合する事により、高熱伝導樹脂充填剤として優れた効果を発揮」すること、粒子サイズが5μmのAlN粒子と、その粒度分布が記載されている。ここで、AlN粒子が配合される樹脂に着目すれば、甲9から以下の高熱伝導樹脂に関する発明(以下、「甲9発明」という。)を認定することができる。
「微細且つ球状粒子でシャープな以下に示される粒度分布を持ち、粒子サイズが5μmのAlN粒子が充填剤として配合された高熱伝導樹脂。
[図:0001438287000017.jpg]
」
(3)申立理由2-1について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「窒化アルミニウム系粉末」は、本件発明1の「窒化アルミニウム粉末」に相当する。
そして、本件発明1は、甲1発明と、「窒化アルミニウム粉末」の点でのみ一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
「窒化アルミニウム粉末」について、本件発明1では、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であり、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上であるのに対し、甲1発明では、JlS K5101に従うとされる吸油量がおよそ13.1~13.3g/100gであり、原料の窒化アルミニウム粉末の平均粒子径は6.5μmとされるものの、IPAと攪拌、固液分離後、熱処理した後のメジアン径(D50)は不明であり、さらに、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度も不明である点。
なお、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量は、本件明細書の【0014】に「粉体10gに対してシリコーンオイルを少量ずつ滴下してヘラで練り合わせ、割れたり、ぼろぼろになったりせず広げることができ、かつ、測定板に軽く付着する程度の滴下量とし、それを粉体100g当たりの滴下量に換算するものである。」と記載されるとおり測定するものである。これによれば、吸油量は、粉体の性状によってその値が変化するものであり、吸油量と粉体の性状は互いに関連するものであるといえるから、窒化アルミニウム粉末の性状を表す、メジアン径(D50)、及び粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度と精製あまに油法に基づく吸油量は、一体的な相違点とするのが適切であるといえる。
(イ)相違点に対する判断
上記相違点1について検討する。
a 上記相違点1のうち「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことについて
本件発明1は、本件明細書の【0011】の記載によれば、「樹脂等の高分子材料との濡れ性に優れた窒化アルミニウム粉末を提供すること」を発明の課題とするものであり、同【0018】によれば、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことにより、「細かな破砕粒子が少ないことにより、樹脂等の高分子材料との濡れ性が改善される」ものである。
そして、このように、細かな破砕粒子を少なくすることができるのは、同【0021】の記載によれば、「窒化アルミニウム粉末に乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じ」、さらに「乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンであるから、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくく」していることによる。
他方、甲1には、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」に関する何らの記載もないし、甲1は、窒化アルミニウム粉末の粒度分布や、さらには、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上であることを達成するための、細かな破砕粒子が少なくなるようにすることに、何ら着目するものではないから、上記相違点1のうち「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」の点は、実質的な相違点であると共に、この接線角度を所定の値以下とする何らの動機付けもない。
b 上記相違点1のうち「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」ることについて
本件明細書の【0014】の記載によれば、「吸油量が13.0g/100g未満であ」ることは、「オイルに対する粉末の濡れ性が良くなり、樹脂等の高分子材料との濡れ性も改善される」ことを意味しているといえる。そして、この「高分子材料との濡れ性」は、同【0012】の「本発明者らはさらに、窒化アルミニウム粉末の粒子表面状態を変えることで樹脂等の高分子材料との濡れ性を改善することができないか検討を重ねた結果、窒化アルミニウム粉末に所定の乾式分級を施すことにより樹脂等の高分子材料との濡れ性が改善される可能性があることを見出し、さらに検討を重ねて本発明に至った。」との記載によれば、「所定の乾式分級を施すことにより」により改善するものであり、この「所定の乾式分級」とは、上記aでも引用した同【0021】の記載によれば、乾式ジェットミルと、乾式ジェットミルの捕集方法であるサイクロンである。
そうすると、「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」ることは、乾式ジェットミルと、乾式ジェットミルの捕集方法であるサイクロンによって得られた、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である窒化アルミニウム粉末によって得られる結果であるといえる。
他方、甲1発明における吸油量は、「JIS K5101-13-1:2004に準拠した」方法であるかはさておき、「およそ13.1~13.3g/100g」であるから、本件発明1の条件を満たしておらず、この点は、本件発明1との実質的な相違点である。
また、甲1の上記(1)ア(イ)の【0005】の記載によれば、甲1発明は、「特に油又は樹脂に対する分散性に優れ、良好な流動性を与える窒化アルミニウム系粉末を提供することを」課題とするものであるところ、ここでの「油又は樹脂に対する分散性」は、本件明細書に記載される「オイルに対する粉末の濡れ性」及び「樹脂等の高分子材料との濡れ性」に共通するものであるが、甲1発明は、「窒化アルミニウム粉末」に、「IPA」を反応させ、同(イ)の【0006】の記載によれば、「窒化アルミニウム粉末の粒子表面に特定基を存在させることにより」、甲1における上記の課題を解決しているものである。
以上によれば、甲1発明は、「オイルに対する粉末の濡れ性」及び「樹脂等の高分子材料との濡れ性」を高めることでは、本件発明1に共通するものではあるものの、これを高める手段が相違し、本件発明1にあるような、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことによるものではないことから、さらに、「オイルに対する粉末の濡れ性」及び「樹脂等の高分子材料との濡れ性」を高めるため、仮に、甲1発明における「吸油量」をさらに低下させることを試みたとしても、実際に、「窒化アルミニウム粉末の粒子表面に特定基を存在させることによ」る手段により、13.0g/100g未満の吸油量を達成することができるのか不明である。
実際、甲1において、最も好ましい態様ということができる同(ウ)の【0034】【表1】に記載される実施例において、甲1発明の認定の基礎となった「実施例3」の吸油量が14.2ml/100g(およそ13.1~13.3g/100g)で最も小さいことから、甲1発明における「窒化アルミニウム粉末の粒子表面に特定基を存在させることによ」る方法では、甲1発明における吸油量がおよそ13.1~13.3g/100gである状態から、本件発明1の13.0g/100g未満にまでさらに減少させることは、必ずしも容易であるということはできない。
さらに、甲3~甲7には、上記(1)ウ~キで摘示した事項が記載されているが、甲3は、球状結晶質シリカ粉体を対象とし、甲4は、酸化マグネシウム粉末を対象とし、甲5は、二酸化チタンからなる粒子を対象とし、甲6は、酸化チタン等の顔料を対象とし、甲7は、アルミナ水和物粒子を対象とするもので、いずれも、甲1の窒化アルミニウム粉末と対象を異にするものであるし、本件発明1において、精製あまに油法に基づく吸油量を13.0g/100g未満とする手段である、「粉末に乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じ」、さらに「乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンであるから、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくく」しているものでもない。
そうすると、甲3~甲7を参照したとしても、甲1発明を、「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」るものとすることはできない。
(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲3~甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、これを、本件発明1の構成を全て含むものであるところ、本件発明1が、甲1発明及び甲3~甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明4も、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲3~甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1-1及び申立理由2-2について
ア 対比
本件発明4と甲8発明を対比する。
本件発明4は、「請求項1に記載の窒化アルミニウム粉末を高分子材料に充填した高分子成形体。」とされるものであるところ、本件発明4を、請求項1の内容を加えて書き下すと、以下のようになるので、以下、本件発明4として、以下の発明と対比、判断を行う。
「JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であり、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である窒化アルミニウム粉末を高分子材料に充填した高分子成形体。」
ゴムは高分子であるから、甲8発明の「ゴムコンパウンド成形体」は、本件発明4の「高分子成形体」に相当する。
甲8発明において、「粉末」とは、「平均粒径2μmの窒化アルミニウム粉末と平均粒径10μmの窒化アルミニウム粉末とを1:1(重量比)の割合で混合し、振動ミルで40分間粉砕し」たものであるから、「窒化アルミニウム粉末」からなるものであり、「この粉末に、シリコーンゲルを添加混合し、脱泡し、成形した後、硬化させた、ゴムコンパウンド成形体」では、粉末は、ゴムコンパウンド成形体に充填された状態にあるといえる。
そうすると、甲8発明の「この粉末に、シリコーンゲルを添加混合し、脱泡し、成形した後、硬化させた、ゴムコンパウンド成形体」は、本件発明4の「窒化アルミニウム粉末を高分子材料に充填した高分子成形体」に相当するから、本件発明4と甲8発明は、「窒化アルミニウム粉末を高分子材料に充填した高分子成形体。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点2>
「窒化アルミニウム粉末」について、本件発明4では、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であり、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上であるのに対し、甲8発明では、精製あまに油法に基づく吸油量は不明であり、窒化アルミニウム粉末の平均粒子径は3.6μmであるものの、メジアン径(D50)は不明であり、さらに、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度も不明である点。
イ 相違点に対する判断
上記相違点2について検討する。
(ア)上記相違点2のうち「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことについて
上記(3)ア(イ)aで述べたように、本件発明4における窒化アルミニウム粉末において、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上」になるのは、「窒化アルミニウム粉末に乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じ」、さらに「乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンであるから、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくく」していることによる。
他方、甲8には、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」に関する何らの記載もないし、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上であることを達成するための、細かな破砕粒子が少なくなるようにすることに、何ら着目するものではないから、上記相違点2のうち「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」の点は、実質的な相違点であると共に、この接線角度を所定の値以下とする何らの動機付けもない。
ここで、特許異議申立書(32頁1行~38頁下から5行)に記載される理由では、本件明細書に記載される方法にしたがって、以下に記載されるように、図3に記載される粒度分布を示す図から、粒径0.29μm、頻度0%、粒径0.32μm、頻度0.12%の2点から、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度を約76°とし、本件発明4の「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」の範囲を満足しているとしている。
「
[図:0001438287000018.jpg]
」
しかしながら、甲8における粒度分布を示す図は概略図であって、この図から何らかの数値を正確に読み取ることを目的とするものではない。実際、図3では、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」を求めている粒径0.29μm~粒径0.32μmの微小な間隔の箇所でこの箇所での傾きを正確に読み取るに足る測定が行われているのか明らかでないし、グラフ自体もこの微小な間隔に対してグラフの線が太く、正確に「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」を求めることができる作図が行われているものとはいえない(特許異議申立書では、同様にして、甲8の第1図、第2図、第4図、第5図から、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」を求めているが、これらについても、同様に、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」正確に表すものということはできない。)。
ここで、本件明細書の【0034】【表1】に記載される、乾式ジェットミルによる分級がなされ、「乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンであるから、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくく」(【0021】)なっている実施例1~3と、乾式ジェットミルによる分級が行われていない比較例1、2の【図4】に記載される粒度分布曲線を参照する。
「【0034】
【表1】
[図:0001438287000019.jpg]
」
「【図4】
[図:0001438287000020.jpg]
[図:0001438287000021.jpg]
」
【図4】の粒度分布曲線の全体図(a)を見た場合には、実施例1~3と、比較例1、2とで、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」にそれほどの差はないようにも見えるが、「粒度分布曲線の小径側」を詳細に示した図(b)を見ると、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」の違いは歴然としている。
以上の本件明細書の内容からすると、粒度分布曲線の全体図では、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」が、本件発明4の範囲を一見満たしているようであっても、「粒度分布曲線の小径側」を詳細に観察しなければ、本件発明4の範囲を満たしているということはできない。
さらにいえば、上記【図4】(b)のグラフによれば、「細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくく」するような特定の操作をしなければ、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」は、本件発明4の範囲を満たすものとはならないといえ、そのような操作を行っていない甲8発明では、その粒度分布の「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」は、実際には、本件発明4の範囲を満たしていないといえる。
以上の検討によれば、特許異議申立書に記載される理由では、甲8発明の図3における粒度分布の「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」は、本件発明4の範囲を満たしているとはいえない。
(イ)上記相違点2のうち「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」ることについて
甲8には、「精製あまに油法に基づく吸油量」に関する何らの記載もないし、甲8は、「精製あまに油法に基づく吸油量」に、何ら着目するものではないから、「精製あまに油法に基づく吸油量」の点は、実質的な相違点であると共に、「精製あまに油法に基づく吸油量」を所定の値以下とする何らの動機付けもない。
しかも、上記(3)ア(イ)bで述べたように、本件発明4で、「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」ることは、乾式ジェットミルと、乾式ジェットミルの捕集方法であるサイクロンによって得られた、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である窒化アルミニウム粉末によって得られる結果であるといえる。
他方、甲8発明における窒化アルミニウム粉末は、上記(ア)で述べたように、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ものではないし、甲8発明は、窒化アルミニウム粉末に対して、乾式ジェットミルと、乾式ジェットミルの捕集方法であるサイクロンを行うものでもないし、このような方法を採用しようとする動機付けもないのであるから、甲8発明における窒化アルミニウム粉末は、「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」るものとはいえないし、窒化アルミニウム粉末において、吸油量を本件発明4の範囲にすることが当業者に容易に想到し得ることであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、上記相違点2は、実質的な相違点であるし、上記相違点2に係る本件発明4の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明4は、甲8発明ではないし、甲8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1-2及び申立理由2-3について
申立理由1-2は、対象の請求項3が、本件訂正によって削除されたため、その理由はないものとなった。
ア 対比
本件発明4と甲9発明を対比する。
樹脂は高分子であるから、甲9発明の「高熱伝導樹脂」は、本件発明4の「高分子」に相当する。
甲9発明の「AlN粒子」は、本件発明4の「窒化アルミニウム粉末」に相当し、甲9発明の「AlN粒子が充填剤として配合された高熱伝導樹脂」は、本件発明4の「窒化アルミニウム粉末を高分子材料に充填した高分子」に相当するから、本件発明4と甲9発明は、「窒化アルミニウム粉末を高分子材料に充填した高分子。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点3>
「窒化アルミニウム粉末」について、本件発明4では、JIS K5101-13-1:2004に準拠した精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であり、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上であるのに対し、甲9発明では、精製あまに油法に基づく吸油量は不明であり、粒子サイズは5μmであるものの、メジアン径(D50)は不明であり、さらに、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度も不明である点。
<相違点4>
「高分子」について、本件発明4では、「成形体」であるのに対し、甲9発明では、「成形体」であるのか明らかでない点。
イ 相違点に対する判断
まず、上記相違点3について検討する。
(ア)上記相違点3のうち「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ことについて
上記(4)イ(ア)で述べたように、本件発明4における窒化アルミニウム粉末において、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上」になるのは、「窒化アルミニウム粉末に乾式ジェットミルによる分級を施すことにより、凝集粉末の解砕/粉砕が進行してDmaxの低減、粒度分布のシャープ化が生じ」、さらに「乾式ジェットミルの捕集方法はサイクロンであるから、細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくく」していることによる。
他方、甲9には、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」に関する何らの記載もないし、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上であることを達成するための、細かな破砕粒子が少なくなるようにすることにすることに、何ら着目するものではないから、上記相違点3のうち「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」の点は、実質的な相違点であると共に、この接線角度を所定の値以下とする何らの動機付けもない。
ここで、特許異議申立書(40頁3行~41頁4行)に記載される理由では、甲9発明における粒度分布を示す図から、粒径0.6μm、頻度0%、粒径0.66μm、頻度0.076%の間で、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度を、約56°とし、本件発明4の「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」の範囲を満足しているとしている。
「
[図:0001438287000022.jpg]
」
しかしながら、同(ア)で述べたのと同様に、甲9における粒度分布を示す図は概略図であって、この図から何らかの数値を正確に読み取ることを目的とするものではない。実際、この図では、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」を求めている粒径0.6μm~粒径0.66μmの微小な間隔の箇所でこの箇所での傾きを正確に読み取るに足る測定が行われているのか明らかでないし、グラフ自体もこの微小な間隔に対してグラフの線が太く、正確に「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」を求めることができる作図が行われているものとはいえない
さらにいえば、「細かな破砕粒子が分級後の粉末に含まれにくく」するような特定の操作をしなければ、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」は、本件発明4の範囲を満たすものとはならないといえ、そのような操作を行っていない甲9発明では、その粒度分布の「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」は、実際には、本件発明4の範囲を満たしていないといえる。
以上の検討によれば、特許異議申立書に記載される理由では、甲9発明の粒度分布の「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度」は、本件発明4の範囲を満たしているとはいえない。
(イ)上記相違点3のうち「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」ることについて
甲9には、「精製あまに油法に基づく吸油量」に関する何らの記載もないし、甲9発明は、「精製あまに油法に基づく吸油量」に、何ら着目するものではないから、「精製あまに油法に基づく吸油量」の点は、実質的な相違点であると共に、「精製あまに油法に基づく吸油量」を所定の値以下とする何らの動機付けもない。
しかも、上記(4)イ(イ)で述べたように、本件発明4で、「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」ることは、乾式ジェットミルと、乾式ジェットミルの捕集方法であるサイクロンによって得られた、メジアン径(D50)が1.5~10μmであり、粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である窒化アルミニウム粉末によって得られる結果であるといえる。
他方、甲9発明におけるAlN粒子は、上記(ア)で述べたように、「粒度分布曲線の小径側の立ち上がり接線角度が45°以上である」ものではないし、甲9発明は、AlN粒子に対して、乾式ジェットミルと、乾式ジェットミルの捕集方法であるサイクロンを行うものでもないし、このような方法を採用しようとする動機付けもないのであるから、甲9発明におけるAlN粒子は、「精製あまに油法に基づく吸油量が13.0g/100g未満であ」るものとはいえないし、AlN粒子において、吸油量を本件発明4の範囲にすることは当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、上記相違点3に係る本件発明4の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲9発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)新規性欠如及び進歩性欠如に関する申立理由1-1、1-2、2-1~2-3に関するまとめ
上記(3)~(5)で述べたとおり、申立理由1-1、1-2、2-1~2-3に、理由はない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1、4、5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第1項第3号及び第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1-1、1-2、2-1~2-3、3では、本件特許1、4、5を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、4、5を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許2、3は、本件訂正により削除され、本件特許2、3に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700757