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特許異議申立

2019-700666

リチウムイオン二次電池

審判番号
2019-700666
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-173720外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年08月26日
審決日
2020年03月23日
公報発行日
2020年06月26日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6476094号発明「リチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6476094号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6476094号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 特許第6476094号の請求項4ないし6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6476094号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2015-173720)は,平成27年 9月 3日に出願され,平成31年 2月 8日にその特許権の設定の登録がされ,同年 2月27日に特許掲載公報が発行された。その後,本件特許について,令和 1年 8月26日に特許異議申立人落合憲一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,同年10月30日付けで取消理由が通知され,同年12月25日に意見書の提出及び訂正請求がされたものである。なお,上記意見書及び訂正請求に対し,申立人から意見書は提出されなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について, 「前記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、 前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たし、」を, 「前記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、 前記負極バインダは、ポリアミドイミドであり、 前記Si系負極活物質と黒鉛との混合比は、質量基準で20:80~90:10であり、 前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たし、」に 訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4~6を削除する。 (3)訂正事項3 明細書の段落【0023】【化1】の構造式(1)について, 「【化1】 」を, 「 」に 訂正する。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び,特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について この訂正は,請求項1を,「前記負極バインダは、ポリアミドイミドであり、前記Si系負極活物質と前記黒鉛との混合比は、質量基準で20:80~90:10であり」と記載することにより,「負極バインダ」の材料,及び,「Si系負極活物質」と「黒鉛」との混合比を具体的に特定し,限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,この訂正は,段落【0016】の表1,段落【0022】の「バインダは、本実施例において、ポリアミドイミドを用いた」,及び,段落【0050】の「本発明におけるSi合金と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であることが重要である」の各記載に基づくものであって,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。 (2)訂正事項2について この訂正は,請求項4~6を削除するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。 (3)訂正事項3について この訂正は,明細書の段落【0023】【化1】の構造式(1)中,R1が結合している窒素原子を含む5員環構造の部分において,窒素原子の両隣の炭素がメチレン(CH2)となっていたものをカルボニル(C=O)にすることにより,「ポリアミドイミド」の構造を明瞭にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,また,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。 3 一群の請求項について 訂正前の請求項2~6は,訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しており,訂正事項1により連動して訂正されるものであるから,請求項1~6は一群の請求項である。 4 独立特許要件について 本件においては,請求項1~6全てに対して特許異議の申立てがされているので,訂正事項1に関して,訂正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかを確認する必要はない。 5 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおり,本件訂正請求による明細書及び特許請求の範囲の訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号を目的とし,同条第4項に規定する一群の請求項であり,かつ,同条第9項で準用する第126条第5項,第6項の規定に適合するものである。よって,訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で検討したとおり,訂正請求による明細書及び特許請求の範囲の訂正は適法なものである。そして,訂正後の本件特許に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。下線は訂正箇所を表す。 「【請求項1】 負極と、正極と、セパレータと、を備え、 前記負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、 前記負極バインダは、ポリアミドイミドであり、 前記Si系負極活物質と黒鉛との混合比は、質量基準で20:80~90:10であり、 前記負極の放電容量Q(Ah/kg)と前記負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たし、 前記放電容量Q(Ah/kg)は、前記負極とLiとで構成した単極式電池を用いて、下限電圧5mVまで0.2CAの定電流充電と2時間の定電圧充電とを行い、上限電圧2.0Vまで0.2CAの定電流放電を行った際に測定した値であり、 前記破断強度A(MPa)は、引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、前記負極バインダが破断したときの強度であり、下記計算式(2)により算出され、 前記破断伸率B(%)は、引張試験機を用いて、速度0.2m/分で引張り、前記負極バインダが破断したときの伸率であり、下記計算式(3)により算出される、リチウムイオン二次電池。 3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1) A=(引張荷重)÷(負極バインダ片の断面積) …(2) B=100×{(引張後の負極バインダ片の長さ)-(引張前の負極バインダ片の長さ)}÷(引張前の負極バインダ片の長さ) …(3) 【請求項2】 前記Si系負極活物質は、SiOx (ただし、0.5≦x≦1.5である。)、又は、SiとTi、Al、Fe、Ni及びMnからなる群から選択される1種類以上の異種金属元素とを含むSi合金である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。 【請求項3】 前記放電容量Q(Ah/kg)は、550以上1050以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) 【請求項6】(削除) 」 第4 異議理由の概要 1 申立人は,次の理由により,本件特許は取り消すべきである旨の申立てをしている。 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 訂正前の発明の詳細な説明において,リチウムイオン二次電池の容量を高め,かつ,寿命を長くするという発明の課題を解決するために,負極バインダに関していえば,特定の物性を有するポリアミドイミドのみが発明として記載されているが,訂正前の請求項1には,負極バインダがポリアミドイミドであることは特定されておらず,発明の課題を解決するための手段が請求項1に反映されていない。 (2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件) 訂正前の発明の詳細な説明において,負極バインダの破断強度A及び破断伸率Bの値は記載されているが,その具体的な負極バインダの化学構造が何ら記載されておらず,かつ,そのような値を有する負極バインダをどのように製造等できるのか理解できないから,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (3)特許法第36条第4項第1号(委任省令要件) 訂正前の請求項1における関係式(1)は,負極バインダの破断強度Aと破断伸率Bとの積で表される靭性と負極の放電容量との関係を規定するが,当業者は,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,本件発明が解決しようとする課題と,関係式(1)による特定との実質的な関係を理解することができず,本件発明の課題の解決手段を理解できないから,本件発明の技術上の意義が不明である。 2 当審は,上記1(1),(2)を採用し,令和 1年10月30日付けで次の取消理由を通知した。 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 訂正前の請求項1~6のうち,負極バインダがポリアミドイミドであるもの以外は,(A×B÷10)が3×Qを超えるべきでないとする根拠が不明であり,また,(A×B÷10)がQ以上かつ3×Q以下の範囲内であっても,Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上の負極活物質を用いたものは,負極の放電容量,100サイクルにおける容量維持率ともに低下する。 よって,負極バインダとしてポリアミドイミドを用いないものや,負極活物質の合計に対する黒鉛の比率が質量基準で10~80の範囲にないものまで含まれる訂正前の請求項1~6の記載は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 (2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件) 破断強度A及び破断伸率Bの値のみから化学構造を推定することは困難であり,ポリアミドイミドの構造式(1)におけるR1~R3やnを変えることでバインダの物性値を変化させる(段落【0024】)としても,破断強度Aや破断伸率Bをどのように変化させ得るのか不明である。まして,ポリアミドイミドに限定されない負極バインダとして,関係式3×Q≧(A×B÷10)≧Qを満たすものの中から,負極の放電容量や100サイクルにおける容量維持率が高いものを確認するため,当業者は過度の試行錯誤を要するものである。 よって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が訂正前の請求項1~6に記載されるリチウムイオン二次電池の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 第5 当審の判断 当審は,上記第4に示した理由はいずれも,訂正後の本件特許を取り消す理由として採用できないものと判断する。詳細は次のとおりである。 1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は,上記第3のとおりである。 (2)発明の詳細な説明の記載 これに対し,本件特許の発明の詳細な説明には,次の記載がある。なお,下線は当審が付した。 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 上述のように、ポリアミド、ポリイミド又はポリアミドイミドをバインダに用いて、膨張収縮を抑制し、サイクル寿命を改善する試みはなされているが、バインダの他の物性値とSiを含む活物質の量や容量に関する報告はなされていない。 【0007】 我々は、鋭意検討の結果、バインダの破断強度とサイクル特性との相関よりも、破断強度(A)と破断伸び(B)との積で表されるパラメータである靭性(A×B)とサイクル特性との相関が非常に高いことを見出した。さらに、靭性(A×B)にはある最適な範囲が存在し、靭性(A×B)が大きすぎる場合、バインダ中のイミド基の量を増やすことになるため、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなることがわかった。つまり、放電容量とサイクル特性はトレードオフの関係になることがわかった。さらに、Si系活物質の混合量(負極の放電容量)を変化させた場合においても、その最適な物性値は変化することもわかった。 【0008】 本発明の目的は、リチウムイオン二次電池の容量を高め、かつ、寿命を長くすることにある。」 「【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、セパレータと、を備え、負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含み、負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たす。 【0010】 3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1) 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、リチウムイオン二次電池の高容量化及び長寿命化が実現できる。言い換えると、初期容量及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。」 「【実施例】 【0014】 (負極活物質及び負極バインダ) 表1は、実施例及び比較例の負極活物質を示したものである。 【0015】 本表に示すように、Si系活物質aと炭素系活物質bとを混合したものを負極活物質として用いた。Si系活物質aは、Si合金又は酸化ケイ素である。炭素系活物質bは、黒鉛である。Si系活物質aと炭素系活物質bとの混合比(a:b)は、質量基準である。以下では、当該混合比(a:b)を単に「混合比」ともいう。 【0016】 【表1】 」 「【0022】 バインダは、本実施例において、ポリアミドイミドを用いたが、ポリアミドまたはポリイミド、さらにはこれらの混合物であってもかまわないし、PVDFやSBRなど他のバインダとの混合バインダであってもかまわない。なお、ポリアミドイミドの厳密な定義は特に決まっておらず、ポリイミドとポリアミドイミドの混合バインダもポリアミドイミドと呼ばれている。ポリアミドイミドの構造例は、下記構造式(1)で表される。 【0023】 【0024】 上記構造式(1)のR1は、炭素数1~18のアルキレン基、アリーレン基、ベンゼンなどであり、窒素酸素、硫黄、ハロゲンを含んでいても構わない。また、上記構造式(1)のR2~R10は、水素、アルキル基またはアリール基である。R1~R3の炭素数を増やすことや上記構造式(1)のnを増やしポリマー量を変えること、つまり、イミド基を増やすことで、バインダの物性値(破断強度Aや破断伸率B)を変化させた。なお、上記構造式(1)において中央部の環構造は、ベンゼン環その他の不飽和環でもよい。」 「【0029】 【表2】 」 「【0048】 (試験結果1:負極の放電容量の測定結果) 表3に負極の放電容量測定結果を示す。 【0049】 本表から、実施例1~9並びに比較例1~3、5、7及び11は、特に問題なく、設計容量どおり発現したが、比較例4~6、8~10及び12~13は容量が少ないことがわかる。比較例4、6、8及び12は、(A×B÷10)>3Qであるために、つまりバインダ中のイミド基の量が多いために、負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ、負極の不可逆容量となり、負極の放電容量が低くなるものと考えられる。(A×B÷10)≦3Qであれば、放電容量が下がることはないことがわかる。 【0050】 一方、比較例9、10及び13は、混合比に問題がある。ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドを含むバインダの場合、Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上となると、結着性が悪化し、剥離することにより、容量が低下することがわかった。つまり、本発明におけるSi合金と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であり、酸化ケイ素と黒鉛の混合活物質の混合比は、質量基準で20:80以上90:10以下であることが重要である。 【0051】 【表3】 」 「【0052】 (試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定結果) 表4にセルの100サイクル後の容量維持率を示す。 【0053】 本表から、実施例1~9並びに比較例4、6、8及び12は、比較的高い容量維持率を示したが、比較例1~3、5~7、9~11及び13は、容量維持率が低いことがわかる。比較例1~3、5、7及び11は、(A×B÷10)<Qであるために、靭性(A×B)が低いためにサイクル特性が悪いものと考える。一方、比較例9、10及び13は、負極の放電容量と同様に、混合比に問題があり、ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドを含むバインダの場合、Si系活物質aと炭素系活物質bとの合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上となると、結着性が悪化し、剥離することにより、容量維持率も低下すると考える。 【0054】 以上、本発明は、負極と、正極と、セパレータと、を備え、負極は、ケイ素を含有するSi系負極活物質と、黒鉛と、負極バインダと、を含むリチウムイオン二次電池において、負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とは、下記関係式(1)を満たす。 【0055】 3×Q≧(A×B÷10)≧Q …(1) これにより、初期容量とサイクル特性とに優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。 【0056】 【表4】 」 (3)検討 ア 訂正後の請求項1に記載されるリチウムイオン二次電池は,負極に,ケイ素を含有するSi系負極活物質と,黒鉛と,負極バインダとを含み,負極バインダは,ポリアミドイミドであり,また,Si系負極活物質と黒鉛との混合比は,質量基準で20:80~90:10であり,かつ,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Q を満たすというものである。 イ 一方,訂正後の発明の詳細な説明の記載(上記(2))によれば,発明が解決しようとする課題は,リチウムイオン二次電池の容量を高め,かつ,寿命を長くすることであり(段落【0008】),その解決手段として,負極が,ケイ素を含有するSi系負極活物質と,黒鉛と,負極バインダとを含み,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式3×Q≧(A×B÷10)≧Qを満たすことにより,初期容量及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得るというものである(段落【0010】,【0011】)。 そして,負極活物質として,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)とを混合したものを用い(段落【0014】~【0016】),バインダとしてポリアミドイミドを用い,その構造式中の置換基や重合度を変化させることでバインダの物性値(破断強度Aや破断伸率B)を変化させ(段落【0022】~【0024】,【0029】),初期容量及びサイクル特性を確認している。 また,試験結果1:負極の放電容量の測定では,比較例4,6,8~10,12~13は設計容量より少なく,このうち,比較例4,6,8,12は,関係式(A×B÷10)>3Qであり,負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ,負極の不可逆容量となって負極の放電容量が低くなるものと考えられること,一方,比較例9,10,13は,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上であり,ポリアミドイミドを含むバインダの場合,結着性が悪化し、剥離することにより,容量が低下することが説明されている(段落【0048】~【0051】)。 さらに,試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定では,比較例1~3,5,7,9~11,13は、容量維持率が低く,このうち比較例1~3,5,7,11は,関係式(A×B÷10)<Qであり,靭性(A×B)が低いためにサイクル特性が悪いこと,一方,比較例9,10,13は,試験結果1:負極の放電容量と同様,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上であり,ポリアミドイミドを含むバインダの場合,結着性が悪化し,剥離することにより,容量維持率も低下することが説明されている(段落【0052】~【0056】)。 ウ そうすると,発明の詳細な説明には,バインダとしてポリアミドイミドを用い,その構造式中の置換基や重合度を変化させることで破断強度Aや破断伸率Bを変化させることが示されるとともに,(A×B÷10)<Qでは,靭性(A×B)が低く,サイクル特性が悪いこと,及び,3×Q<(A×B÷10)では,負極バインダ中のイミド基にLiがトラップされ,負極の不可逆容量となるため,負極の放電容量が低くなることが示されている。 また,発明の詳細な説明には,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との合計に対する黒鉛の比率が質量基準で90以上,すなわち,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との混合比が20:80~90:10の範囲外である10以下:90以上となった場合には,負極の放電容量が低下するだけでなく,100サイクルにおける容量維持率も低下することも示されている。 そして,本件特許の請求項1に記載されるリチウムイオン二次電池は,訂正により,負極バインダがポリアミドイミドであり,また,Si系活物質aと炭素系活物質b(黒鉛)との混合比が質量基準で20:80~90:10であることが特定されているから,発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が請求項1に反映されているといえる。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2,3も同様である(なお,請求項4~6は,訂正により削除された。)。 2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 上記1(3)アのとおり,本件特許の請求項1~3に記載されるリチウムイオン二次電池は,負極バインダがポリアミドイミドであり,また,Si系負極活物質と黒鉛との混合比が20:80~90:10であり,かつ,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Q を満たすものであることが特定されている。 これに対し,発明の詳細な説明には,試験結果1:負極の放電容量の測定結果や,試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定結果に示されるとおり,上記特定の負極バインダや負極活物質の混合比を採用することにより,負極の放電容量や100サイクルにおける容量維持率が十分であることが記載されている。ここで,負極バインダとして用いたポリアミドイミドの具体的化学構造は明らかではないが,構造式(1)におけるR1~R3の炭素数を増やすことやnを増やすことによりイミド基を増やすことができること(段落【0024】)よりみて,種々のポリアミドイミドを準備してその物性値を調整することは,当業者であれば通常行う作業であるといえる。 よって,発明の詳細な説明の記載は,請求項1~3に記載されるリチウムイオン二次電池について,当業者が,過度の試行錯誤を要することなくその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 3 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について 上記1(3)アのとおり,本件特許の請求項1~3に記載されるリチウムイオン二次電池は,負極バインダがポリアミドイミドであり,また,Si系負極活物質と黒鉛との混合比が20:80~90:10であり,かつ,負極の放電容量Q(Ah/kg)と負極バインダ単体の破断強度A(MPa)と破断伸率B(%)とが,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Q を満たすものであることが特定されている。 これに対し,発明の詳細な説明には,試験結果1:負極の放電容量の測定結果や,試験結果2:ラミネートセルの100サイクル後の容量維持率の測定結果に示されるとおり,関係式(1):3×Q≧(A×B÷10)≧Qを満たすものは,発明が解決しようとする課題,すなわち,負極の放電容量や100サイクルにおける容量維持率が十分であることが記載されているといえる。 よって,発明の詳細な説明の記載により,当業者は,本件特許の請求項1~3に記載されるリチウムイオン二次電池の技術上の意義を理解することができる。 第6 むすび 以上のとおりであるから,当審が通知した理由,及び,特許異議申立書に記載した理由によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。また,他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,請求項4ないし6に係る特許は,上記のとおり訂正により削除されたから,請求項4ないし6に係る特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。

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2019-700666

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    共通の条文: 特許法120条の8第1項、特許法135条
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    共通の条文: 特許法120条の8第1項、特許法135条
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    共通の条文: 特許法120条の8第1項、特許法135条
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    共通の条文: 特許法120条の8第1項、特許法135条
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    共通の条文: 特許法120条の8第1項、特許法135条
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