特許異議申立
2024-700170
予測装置および予測方法
- 審判番号
- 2024-700170
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-088110
- 登録番号
- 7346356
- 請求日
- 2024年02月22日
- 審決日
- 2025年01月22日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日立製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
- 【異議申立人】笹井 栄治
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 田々井 正吾
- 審判官 大山 健
- 分類
- P1651.161-YAA(G05B) / P1651.113-YAA(G05B) / P1651.121-YAA(G05B) / P1651.537-YAA(G05B) / P1651.536-YAA(G05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7346356号発明「予測装置および予測方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7346356号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを認める。
特許第7346356号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7346356号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和2年5月20日に出願され、令和5年9月8日にその特許権の設定登録がされ、同月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議申立ての経緯は次のとおりである。
1 令和6年2月22日
特許異議申立人笹井栄治(以下「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て
2 令和6年6月19日付け
特許権者株式会社日立製作所(以下「特許権者」という。)に対して特許の取消しの理由(以下「取消理由」という。)を通知
3 令和6年8月20日
特許権者による訂正請求書、及び意見書の提出
4 令和6年8月28日付け
上記3の訂正請求書に対して手続補正(方式)を指令
5 令和6年9月20日
上記4の指令に対して、特許権者による上記3の訂正請求書を補正対象とする手続補正書(方式)の提出(補正がされた訂正請求書を、以下「本件訂正請求書」という。)
6 令和6年10月2日付け
申立人に対して訂正の請求があった旨を通知
7 令和6年11月1日
申立人による意見書の提出
第2 本件訂正請求による訂正の適否
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否について検討する。
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを求めるものである。
2 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、請求項1を引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件
本件特許異議申立ては、本件訂正前の全ての請求項1~8が対象とされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 一群の請求項である請求項1~7に係る訂正
(1)訂正事項1(下線は訂正箇所に付した。以下第2において同じ。)
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび/または前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、」と記載されているのを、
「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~7も同様に訂正する。)
(2)訂正事項1の訂正要件の検討
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データ」と「前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データ」が「および/または」で接続して記載され、「および」と「または」の2つの接続詞が選択的に記載されていたものを、前者の「および」のみに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1で選択的に記載されていた「および」と「または」の2つの接続詞を、「および」のみに限定するものであり、また、本件明細書等の段落【0072】には「なお、学習部12が、地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の実績値を示す第1風速実績データや地域範囲を第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の実績値を示す第2風速実績データと、地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する構成としてもよい。」と記載されており、上記の接続詞を「および」のみに限定した内容に対応する事項が記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1で選択的に記載されていた「および」と「または」の2つの接続詞を、「および」のみに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)一群の請求項の訂正
訂正事項1による訂正は、上記2の特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項1~7について行うものである。
5 請求項8に係る訂正
(1)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、
「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび/または前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、」
と記載されているのを、
「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、」
に訂正する。
(2)訂正事項2の訂正要件
訂正事項2は、上記訂正事項1により請求項1に係る発明の予測装置にお関して学習部が「地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値」との相関を学習する風速実績データについて訂正をするのと同じ内容の訂正を、請求項8に係る発明の予測方法に関してコンピュータが「地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値」との相関を学習する風速実績データについてするものである。
したがって、訂正事項2は、上記4(2)で訂正事項1について検討したのと同じく、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正の訂正事項1~2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、同法同条第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正を認めたから、本件請求項1~8に係る特許発明(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、同様に請求項○に係る発明を「本件特許発明○」という。また、「本件特許発明1」~「本件特許発明8」をまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正により訂正をした特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習し、前記地域範囲の風速に関する情報から前記地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測モデルを構築する学習部と、
前記予測モデルに、前記地域範囲における風速の予測値の情報を入力し、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測部と、
を有し、
前記学習部は、前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する、
予測装置。
【請求項2】
前記地域範囲は、一般送配電事業者が管轄する地域範囲である、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記学習部は、前記地域範囲における風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を機械学習により学習する、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項4】
前記学習部は、線形モデル、ベイズ推定、カルマンフィルタ、ARIMAモデル、決定木、ニューラルネットワーク、サポートベクタモデルの少なくとも1つの予測モデルを構築する、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項5】
前記学習部は、1日を複数に区切った時間帯毎および/または1年を複数に区切った季節毎に前記予測モデルを構築する、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項6】
前記風速の予測実績値と前記電力の実績値とに基づいて、前記風速の予測実績値および前記電力の実績値の外れ値を除外する外れ値データ除外部を更に有し、
前記学習部は、前記外れ値が除外された前記風速の予測実績値と前記電力の実績値との相関を学習する、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項7】
前記予測モデルに前記風速の予測実績値を入力して算出される電力の予測値と、前記電力の実績値とを比較することにより、前記予測モデルの予測精度を評価する評価部を更に有し、
前記学習部が、複数の異なるアルゴリズムを用いて複数の予測モデルを構築し、
前記評価部が、前記複数の予測モデルの予測精度を評価し、
前記予測部が、前記予測精度に基づいて選択された予測モデルを用いて電力の予測を行う、
請求項1に記載の予測装置。
【請求項8】
風力発電出力を予測するための予測方法であって、
コンピュータが、
所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習し、前記地域範囲の風速に関する情報から前記地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測モデルを構築し、
前記予測モデルに、前記地域範囲における風速の予測値の情報を入力し、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られる電力を予測する、
ことを実行する方法において、
前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する、
予測方法。」
第4 取消理由通知で通知した取消理由
1 取消理由の要旨
当審が、令和6年6月19日付け取消理由通知書(以下、単に「取消理由通知」という。)で通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
A.(拡大先願)請求項1~8に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開公報の発行がされた特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(甲第1号証)と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
B.(進歩性)請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は 線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立人が提出した甲号証
申立人が提出した各甲号証は以下のとおりである。
なお、各甲号証について、特許異議申立書の各甲号証の番号に従い甲第○号証を「甲○」等という。
(1)甲1:特開2020-166622号公報
(2)甲2:特開2004-19583号公報
(3)甲3:特開2012-233714号公報
(4)甲4:特開2011-239488号公報
(5)甲5:国際公開第2013/125527号
(6)甲6:特開2019-203728号公報
第5 通知した取消理由に対する判断
1 各甲号証について
(1)甲1の記載事項
ア 発明の詳細な説明
「【0018】
図1に示す発電量予測装置1は、サーバ、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いて構成され、コンピュータが備えるハードウェアと、プログラム、データ等のソフトウェアとの組み合わせで構成される機能的要素として、通信部11、予測部12および記憶部13を備える。また、記憶部13は、モデル14と、実績値15と、予測値16と、天気予測情報17を記憶する。
【0019】
本実施形態の発電量予測装置1は、自然エネルギ発電システム2における所定の時間毎の将来の発電量(発電電力量)を予測する。自然エネルギ発電システム2は、太陽光発電システム、小水力発電システム、風力発電システム等、自然エネルギを使用した発電システムである。発電量予測装置1は、自然エネルギ発電システム2から所定の通信回線を介して、所定の時間毎に発電量の実績値を受信する。発電量予測装置1は、例えば1時間毎に過去1時間の発電電力量あるいは平均発電電力の値を受信したり、天気予測情報提供システム3が新たな天気予測情報を発表する度に、所定時間分の過去の発電電力量あるいは平均発電電力の値を受信したりする。
【0020】
また、発電量予測装置1は、気象庁などの天気予測メディアが運営する天気予測情報提供システム3から広域のメッシュデータで天気予測情報を取得する。例えば、自然エネルギ発電システム2がメッシュM1に位置している場合、発電量予測装置1は、メッシュM1の天気予測情報とともに、天気予測情報提供システム3から周囲の複数のメッシュM2~M9等の天気予測情報も取得する。天気予測情報は、例えば、気温、日射量、雨量、降雪量、風速、風向、湿度、日照時間等のメッシュ毎の予測値を含む。天気予測情報は、例えば、数日先までの1時間毎の予測値を含み、数時間おきに新規な予測値や更新された予測値を含む天気予測情報が発表される。また、例えば、1つのメッシュの大きさは1~6km四方であり、発電量予測装置1は、自然エネルギ発電システム2の位置の周辺20~30km四方程度の天気予測情報を取得する。ただし、この大きさに限定されない。
【0021】
通信部11は、自然エネルギ発電システム2から発電量実績値を示すデータを受信したり、天気予測情報提供システム3から天気予測情報を示すファイルを受信したり、自然エネルギ発電システム2、天気予測情報提供システム3や図示していない他のシステムと所定の情報を送受信したりする。
【0022】
記憶部13が記憶するモデル14は、深層学習等の機械学習における予測モデルであり、例えば、自然エネルギ発電システム2の位置(予測地点)を含むメッシュと周囲の複数のメッシュの各天気予測情報を少なくとも含む説明変数と、自然エネルギによる発電量に対応する目的変数とを用いた機械学習によって構築される。なお、モデル14は、過去の発電量の実績値と、過去の天気予測情報を用いて予測処理を行う前に機械学習によって予め構築される。また、必要に応じて、モデル14は、新たな説明変数と目的変数を用いて更新されたり新規に構築されたりする。実績値15は、自然エネルギ発電システム2から受信した過去の発電量実績値を複数含む。予測値16は、予測部12が予測した自然エネルギ発電システム2の発電量の予測値を複数含む。天気予測情報17は、天気予測情報提供システム3から取得した複数の天気予測情報を含む。
【0023】
予測部12は、少なくとも予測地点を含むメッシュと周囲の複数のメッシュの予測時刻の各天気予測情報をモデル14に対して入力し、モデル14からの出力として予測地点における発電量の予測値を求める。」
イ 図面
「【図1】
[図:0001422418000001.jpg]
」
ウ 甲1の記載事項の整理
(ア)段落【0019】~【0020】、【0022】、図1の記載からみて、甲1記載の発電量予測装置1は、予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における風速の予測値を含む各天気予測情報を含む説明変数と、予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量に対応する目的変数を用いた機械学習を行うものである。
また、発電量予測装置1は、予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における風速の予測値を含む各天気予測情報から予測地点における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量を予測するモデル14を構築する。
(イ)段落【0023】、図1の記載からみて、甲1記載の発電量予測装置1は、上記(ア)のモデル14に、予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における予測時刻の風速の予測値を含む各天気予測情報を入力し、前記予測地点における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量を予測する予測部12とを備える。
(ウ)段落【0020】、【0022】、図1の記載からみて、上記(ア)の機械学習は、例えば1つの大きさが1~6km四方のメッシュである前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における天気予測情報のメッシュデータを含む説明変数と、前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量に対応する目的変数とを用いた機械学習をする。
エ 甲1発明
上記ア~ウより、甲1には、本件特許出願の日前の特許出願(特願2019-67230)であって、本件特許出願公開後に出願公開公報(特開2020-166622号公報)の発行がされた特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明である次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における風速の予測値を含む各天気予測情報を含む説明変数と、前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量に対応する目的変数を用いた機械学習を行い、前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における風速の予測値を含む各天気予測情報から前記予測地点における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量を予測するモデル14を構築し、
前記モデル14に、前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における予測時刻の風速の予測値を含む各天気予測情報を入力し、前記予測地点における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量を予測する予測部12と、
前記機械学習は、例えば1つの大きさが1~6km四方のメッシュである前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における天気予測情報のメッシュデータを含む説明変数と、前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量に対応する目的変数とを用いた機械学習をする、
発電量予測装置1。」
(2)甲2の記載事項
ア 発明の詳細な説明
「【0003】
現在気象庁は、毎日9時、21時を初期値として51時間先までの数値予報を行い、その数値予報データであるGPV(Grid Point Value)データを各気象会社に気象業務支援センターを通じて配信している。従来、このGPVデータを入力データとして、風力発電施設における風速を予測し、予測された風速データから風力発電出力を予測する風力発電出力の予測方法が知られている(特許第3226031号公報参照)。ここで、風力発電施設とは、1つ又は複数の風力発電機からなる集合をいう。
・・・
【0005】
まず、風力発電施設を含む領域について数値予報データを段階的に計算するために、計算領域となる広領域及び狭領域を指定する。
広領域としては、図10に示すように、気象庁GPV領域(数1000Km程度の領域でメッシュ間隔は20km)から、風力発電施設を含む数100km程度の領域でメッシュ間隔は数kmの領域を選択する。図10には、広領域の例として、広領域(その1)、(その2)を示す。
【0006】
図11に、広領域(その1)内の風力発電施設を含む狭領域(その1)~(その3)を示す。狭領域は、数km~数10km程度の範囲で、メッシュ間隔は数10m~数100mである。○印が風力発電機を示す。
【0007】
以下、図9のフローに基づいて説明する。
ステップS0は、狭領域数値予報データを計算するステップである。
このような計算範囲である広領域及び狭領域を設定した後、まず、ステップS01で、広領域(数100km程度の領域でメッシュ間隔は数km)について、気象庁GPVデータ(20kmメッシュごとの気温、地上気圧、指定気圧面高度、湿度、風向・風速)と標高・土地利用データとを初期入力値として、気流場の予測計算(広領域)行い、例えば10分間隔の時間ステップ毎に広領域数値予報データ(気温、気圧、風向・風速、湿度、降水量)を得て保存しておく。
【0008】
次に、ステップS02で、風力発電施設がある領域を含む狭領域の範囲で、広領域数値予報データと標高・土地データを初期入力として気流場の予測計算(狭領域)を行う。このようにして、例えば10分間隔の時間ステップで、狭領域数値予報データ(気温、気圧、風向・風速、湿度、降水量)得て保存しておく。
・・・
【0023】
また、図2に記載の本発明の発電出力予測方法(その2)の概要は、風況の実測データが得られない場合等に関し、風況予測データ1から発電出力を予測する毎に、過去の風況予測データ2と過去の発電出力実測データ4とを統計解析5’し、誤差が少なくなるように逐次予測された発電出力予測データ10’を得るものである。
【0024】
図3に、本発明の発電出力予測システム全体の概観図を示す。
本発明の発電出力予測システムは、予測計算装置31と風力発電施設データ収集装置32を備える。
予測計算装置31は、気象庁の気象業務支援センターから気象予測の数値データを入手し、データ受信サーバを通してファイルサーバ(A)に保管し、計算機で所望のデータに加工することができ、たとえば全国各地の天気予報が可能である。
【0025】
風力発電施設データ収集装置32は、各地の風力発電施設33の通信サーバ(D)と通信可能なファイル・通信サーバ(B)を備え、風力発電施設33の風況及び発電出力等の観測データを時々刻々収集し、蓄積できるものである。この観測データは、予測計算装置31の通信サーバ(C)を介してファイルサーバ(A)に送られる。
【0026】
予測計算装置31は、気象業務支援センター34から気象予測の数値データをもとに各地の風力発電施設33の風況及び発電出力を予測するとともに、予測のたびに蓄積された予測データと過去の実測データをもとに、予測誤差の修正を行って予測誤差が低減された発電出力の予測を行うことができる。そして、誤差の少ない発電出力の予測により正確で効率的な電力需給計画35を出すことができる。
また、データ収集は風力発電施設のパソコンからインターネット等を介することによって行うことができ、特別なネットワークを構築する必要はない。
【0027】
風力発電施設の実測データの入手については、
(1)各風力発電機について風速・風向及び発電出力の実測データが入手できる場合
(2)各風力発電機について発電出力の実測データが入手できる場合
(3)風力発電施設における総発電出力の実測データが入手できる場合
の3つのパターンがある。
以下、図4~図8を参照して、上記3パターンに対応する本発明の実施例を説明する。
・・・
【0029】
次のステップでは、風力発電機ごとの風速予測データWS0と風向予測データWD0を抽出する。また、これらの予測データを順次記憶装置に格納しておく。
一方で、各風力発電施設内の各風力発電機の実測データ(風向WDobs、風速WSobs、発電出力PWobs)を逐次オンラインにて取得し、記憶装置に格納しておく。
・・・
【0047】
(第3の実施例:風力発電施設における総発電出力の実測データが入手できる場合)
本例は、風力発電施設における総発電出力が入手できる場合に実施できるものであって、特に個々の風力発電機に対しては風況データとともに発電出力の実測データもとれないが、風力発電施設における総発電出力は入手できる場合に実施して好適な例である。
【0048】
図8に、本例のフローチャートを示す。
本例も、狭領域予測データを得て、風力発電機毎に風速予測データWS0及び風向予測データWD0を抽出するまでは、第1及び第2の実施例と共通する。
【0049】
第2の実施例では、この風力発電機毎の風速・風向の予測データと発電出力との関係にカルマンフィルタを適用したものであるが、本例では、ステップ80において、風力発電施設内の風力発電機毎の風速及び風向の予測データWS0及びWD0から、風力発電施設内での平均風速予測データWSs、平均風向予測データWDsを得て、これを風力発電施設ごとの風速風向の予測データWSs,WDsとする。
【0050】
ステップS81では、風力発電施設の過去の予測データ(風速WSsp、風向WDsp)と風力発電施設の総発電出力の実測データとの間で重回帰式を導き、カルマンフィルタを適用して予測式を更新する。すなわち、風力発電施設全体の発電出力を予測する毎にその係数を修正していくものである。
【0051】
そして、ステップ82において、更新された予測式を用いて、風力発電施設の予測データ(風速WSs、風向WDs)から風力発電施設の予測データPWsを計算して予測する。」
イ 図面
「【図2】
[図:0001422418000002.jpg]
【図3】
[図:0001422418000003.jpg]
・・・
【図8】
[図:0001422418000004.jpg]
【図9】
[図:0001422418000005.jpg]
【図10】
[図:0001422418000006.jpg]
【図11】
[図:0001422418000007.jpg]
」
ウ 甲2の記載事項の整理
(ア)段落【0007】~【0008】、【0029】、【0047】~【0050】、図2、8~11の記載からみて、甲2記載の予測装置は、風力発電施設毎の過去の予測データである風速WSsp、風向WDspと、風力発電施設の総発電出力の実測データWSobsとの間で重回帰式を導いてカルマンフィルタを適用し、風力発電施設毎の風速に関する情報から前記風力発電施設全体の発電出力を予測する予測式を更新するものである。
(イ)段落【0024】、【0026】、【0051】、図3、8の記載からみて、甲2記載の予測装置は、上記(ア)の予測式に、風力発電施設毎の風速、風向の予測データWSs、WDsの情報を入力し、風力発電施設の予測データPWsを計算して予測する予測計算装置31を有する。
(ウ)段落【0005】~【0008】、【0048】~【0050】、図9~11の記載からみて、甲2記載の予測装置における上記(イ)の予測計算装置31は、数100km程度の範囲でメッシュ間隔は数kmの広領域で10分間隔の時間ステップの広領域数値予報データおよび広領域内の風力発電施設を含む数km~数10km程度の範囲でメッシュ間隔は数10m~数100mの狭領域で10分間隔の時間ステップの狭領域数値予報データと、風力発電施設の総発電出力の実測データWSobsとの間で重回帰式を導いてカルマンフィルタを適用する。
エ 甲2発明
上記ア~ウより、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「風力発電施設毎の過去の予測データである風速WSsp、風向WDspと、前記風力発電施設の総発電出力の実測データWSobsとの間で重回帰式を導いてカルマンフィルタを適用し、前記風力発電施設毎の風速に関する情報から前記風力発電施設全体の発電出力を予測する予測式を更新し、
前記予測式に、前記風力発電施設毎の風速、風向の予測データWSs、WDsの情報を入力し、前記風力発電施設の予測データPWsを計算して予測する予測計算装置31と、を有し、
前記予測計算装置31は、数100km程度の範囲でメッシュ間隔は数kmの広領域で10分間隔の時間ステップの広領域数値予報データおよび広領域内の風力発電施設を含む数km~数10km程度の範囲でメッシュ間隔は数10m~数100mの狭領域で10分間隔の時間ステップの狭領域数値予報データと、前記風力発電施設の総発電出力の実測データWSobsとの間で重回帰式を導いてカルマンフィルタを適用する、予測装置。」
(3)甲3の記載事項
甲3には、次の技術的事項(以下「甲3記載の技術的事項」という。)が記載されている。
「第1の予測対象領域」と、「第1の予測対象領域よりも狭い範囲の第2の予測対象領域」とを含み、「第2の予測対象領域における相互間隔」を、「第1の予測対象領域における相互間隔よりも小さく設定」する環境状態予測システム(【請求項2】、【図2】、【図8】~【図10】等参照)。
(4)甲4の記載事項
甲4には、次の技術的事項(以下「甲4記載の技術的事項」という。)が記載されている。
基本的なメッシュ状の区画において、例えば、人口が集中していて、電力消費量が大きいとか、あるいは太陽光発電機や風力発電機の設置が多数行われた場合に、その対象とする区画をさらに細かく区画化(第2の区画分け)する、風力発電量を推定する風力発電推定部(【請求項5】、段落【0037】、【図3】(a)、(b)等参照)。
(5)甲5の記載事項
甲5には、次の技術的事項(以下「甲5記載の技術的事項」という。)が記載されている。
「第1時間間隔で前記格子毎の観測値」と、「前記第1時間間隔より短い第2時間間隔で前記格子毎の予測値」を用いて気象予測を行う気象予測装置([請求項1]、[図1]等参照)。
(6)甲6の記載事項
甲6には、次の技術的事項(以下「甲6記載の技術的事項」という。)が記載されている。
大域風況解析部101、局所風況解析用の境界条件抽出部102、局所風況解析部103、局所補正係数算出部104、大域風況解析結果補正部105、出力部106の各機能により構成される気象予測装置(段落【0021】、【図1】等参照)。
2 理由A(拡大先願)
(1)請求項1
ア 本件特許発明1と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の「予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9」は本件特許発明1の「所定の地域範囲」に相当し、以下同様に「風速の予測値を含む各天気予測情報」は「風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値」に、「自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量」は「風力発電機の出力により得られた電力の実績値」に、「モデル14」は「予測モデル」に相当する。
(イ)上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における風速の予測値を含む各天気予測情報を含む説明変数と、前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量に対応する目的変数を用いた機械学習を行い」は、本件特許発明1の「所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習し」に相当する。
(ウ)上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における風速の予測値を含む各天気予測情報から前記予測地点における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量を予測するモデル14を構築し」は、「予測地点における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量」が「地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力」に包含されるから、本件特許発明1の「前記地域範囲の風速に関する情報から前記地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測モデルを構築する」に相当する。
(エ)甲1発明の「予測時刻の風速の予測値を含む各天気予測情報」は本件特許発明1の「風速の予測値の情報」に相当し、同様に「予測部12」は「予測部」に相当する。
(オ)甲1発明の「例えば1つの大きさが1~6km四方のメッシュである前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9」は、本件特許発明1の「地域範囲を所定の大きさに区切った各格子」に相当する。
(カ)上記(オ)を踏まえると、甲1発明の「例えば1つの大きさが1~6km四方のメッシュである前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における天気予測情報のメッシュデータを含む説明変数と、前記予測地点を含むメッシュM1と周囲の複数のメッシュM2~M9における自然エネルギ発電システム2である風力発電システムの発電量に対応する目的変数とを用いた機械学習をする」と本件特許発明1の「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する」を対比すると、「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する」という点に限り一致する。
イ 本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1発明は次の(ア)の点で一致し、(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習し、前記地域範囲の風速に関する情報から前記地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測モデルを構築する学習部と、
前記予測モデルに、前記地域範囲における風速の予測値の情報を入力し、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測部と、
を有し、
前記学習部は、前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する、
予測装置。
(イ)相違点
学習部が、風速実績データと、電力の実績値との相関を学習することについて、本件特許発明1が風速実績データとして、第1風速実績データに加えて、地域範囲を第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データを用いるのに対して、甲1発明は、第2風速実績データを用いない点。
ウ 相違点の検討
そうすると、本件特許発明1と甲1発明には前記相違点が存在し、また、この相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ではないので、両者が実質同一であるともいえないから、本件特許発明1と甲1発明は同一ではない。
(2)請求項2~7
本件特許発明2~7は、本件特許発明1に対して、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明と同一ではない。
(3)請求項8
方法の発明である本件特許発明8は、物の発明である本件特許発明1の予測装置として記載した発明特定事項を、予測方法の発明特定事項として記載したものであり、本件特許発明8は本件特許発明1とカテゴリーの相違による表現上の差異が存するに過ぎないから、上記(1)で本願特許発明1に対して示したのと同様の理由により、甲1発明と同一ではない。
(4)理由A(拡大先願)のまとめ
したがって、本件特許発明1~8は特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
3 理由B(進歩性)
(1)請求項1
ア 本件特許発明1と甲2発明の対比
(ア)甲2発明の「風力発電施設毎」は、甲2の段落【0005】~【0006】、【0047】、図10~11の記載からみて、本件特許発明1の「所定の地域範囲」に相当し、以下同様に「過去の予測データである風速WSsp、風向WDsp」は「風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値」に、「風力発電施設の総発電出力の実測データWSobs」は「風力発電機の出力により得られた電力の実績値」に、「予測式」は「予測モデル」それぞれ相当する。
そして、甲2発明の「風力発電施設毎の過去の予測データである風速WSsp、風向WDspと、前記風力発電施設の総発電出力の実測データWSobsとの間で重回帰式を導いてカルマンフィルタを適用し、前記風力発電施設毎の風速に関する情報から前記風力発電施設全体の発電出力を予測する予測式を更新し」と本件特許発明1の「所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習し、前記地域範囲の風速に関する情報から前記地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測モデルを構築する」とを対比すると、両者は「所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との関係を分析し、前記地域範囲の風速に関する情報から前記地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測モデルを構築する」という点に限り一致する。
(イ)甲2発明の「前記風力発電施設毎の風速、風向の予測データWSs、WDsの情報を入力し、前記風力発電施設の予測データPWsを計算して予測する予測計算装置31」は、本件特許発明1の「前記予測モデルに、前記地域範囲における風速の予測値の情報を入力し、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測部」に相当する。
(ウ)甲2発明の「数100km程度の範囲でメッシュ間隔は数kmの広領域で10分間隔の時間ステップの広領域数値予報データおよび広領域内の風力発電施設を含む数km~数10km程度の範囲でメッシュ間隔は数10m~数100mの狭領域で10分間隔の時間ステップの狭領域数値予報データと、前記風力発電施設の総発電出力の実測データWSobsとの間で重回帰式を導いてカルマンフィルタを適用する」と、本件特許発明1の「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する」とを対比すると、両者は「所定の大きさに区切った各格子における風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との関係を分析する」という点に限り一致する。
(エ)甲2発明の「予測計算装置31」は、本件特許発明1の「学習部」及び「予測部」の両方を兼ねていることが理解される。
イ 本件特許発明1と甲2発明の一致点及び相違点
上記(1)より、本件特許発明1と甲2発明は、以下の(ア)の点で一致し、(イ)~(ウ)の点で相違する。
(ア)一致点
所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との関係を分析し、前記地域範囲の風速に関する情報から前記地域範囲の風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測モデルを構築する学習部と、
前記予測モデルに、前記地域範囲における風速の予測値の情報を入力し、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られる電力を予測する予測部と、を有し、
前記学習部は、前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との関係を分析する、予測装置。
(イ)相違点1
所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値と、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との関係を分析することについて、本件特許発明1においては「風速の予測実績値」と「電力の実績値」の「相関を学習」するのに対して、甲2発明においては両実績値の間で「重回帰式を導いてカルマンフィルタを適用」する点。
(ウ)相違点2
第1風速実績データ及び第2風速実績データが、本件特許発明1においては「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データ」であるのに対して、甲2発明においては「数100km程度の範囲でメッシュ間隔は数kmの広領域で10分間隔の時間ステップの広領域数値予報データおよび広領域内の風力発電施設を含む数km~数10km程度の範囲でメッシュ間隔は数10m~数100mの狭領域で10分間隔の時間ステップの狭領域数値予報データ」である点。
ウ 相違点の検討
事案に鑑み相違点2から検討する。
本件特許発明1においては、「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データ」の第1風速実績データと第2風速実績データの格子の区切りの大きさの違い、予測実績値の期間の違いから、第1風速実績データによる長期間の低解像度の予測モデル、及び第2風速実績データによる短期間の高解像度の予測モデルが構築されることが、本件特許の段落【0030】、【0072】の記載などから把握される。
そして、前者の第1風速実績データによる予測モデルは、長期間であるが低解像度であり、後者の第2風速実績データによる予測モデルは、短期間であるが高解像であるという一長一短の特性があり、本件特許発明1においては、構築された2つの予測モデルを、これらの特性を活かすように用いることによって、風力発電機の出力により得られた電力を予測するものであることが理解される。
これに対して、甲2発明の広領域数値予報データ及び狭領域数値予報データは、具体的には、広領域数値予報データ(第1風速実績データ)を10分間隔の時間ステップで取得し、次いで、このデータと標高・土地データを入力として、広領域数値予報データと同じ時間ステップ(10分間隔)で取得した狭領域数値予報データ(第2風速実績データ)にカルマンフィルタを適用して更新した予測式により、風力発電機の出力により得られた電力を予測するものであることが理解される。
そうすると、本件特許発明1は、同じ地域範囲に対して、長期間であるが低解像度である予測モデルと、短期間であるが高解像度である予測モデルとを、その特性に応じて使用して電力を予測するのに対して、甲2発明は、広領域数値予報データを、標高・土地データを用いて修正した狭領域数値予報データによる予測式(予測モデル)により電力を予測するものである。
すなわち、本件特許発明1は、同じ地域範囲に対する第1風速実績データによるモデルと第2風速実績データによるモデルを、期間と解像度の特性に応じて使用して電力の予測を行うのに対して、甲2発明は、広領域に対する第1風速実績データを狭領域の土地・標高に合わせて修正した第2風速実績データによるモデルを取得し、このモデルを用いて電力の予測をするものといえるから、本件特許発明1と甲2発明は、単にデータを取得する領域が異なるだけでなく、予測する手法自体も異なるものである。
さらに、他の甲号証である甲3~甲6をみても、甲3、甲6には格子の区切りの大きさの異なる複数の予測データ取得領域について領域の大きさが異なるものが、甲4には格子の区切りの大きさが異なる複数の予測データ取得領域について領域の位置が異なるものが、甲5には予測データ取得の時間間隔を異ならせるものが、それぞれ記載されているところ、いずれも本件特許発明1の同じ地域範囲に対する第1風速実績データによるモデルと第2風速実績データによるモデルを、期間と解像度の特性に応じて使用して電力の予測を行うとの相違点2に係る構成を開示していない。
以上のことからみて、上記のように本件特許発明1とは予測する手法が異なる甲2発明に基づいて本件特許発明1に想到することが容易とはいえないし、このような甲2発明を出発点として、甲3~甲6記載の技術的事項を適用し、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが、容易であるともいえない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1が、甲2発明、及び甲3~6記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)請求項2~7
本件特許発明2~7は、本件特許発明1に対して、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明、及び甲3~6記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)請求項8
方法の発明である本件特許発明8は、物の発明である本件特許発明1の予測装置として記載した発明特定事項を、予測方法の発明特定事項として記載したものであり、本件特許発明8は本件特許発明1とカテゴリーの相違による表現上の差異が存するに過ぎない。
したがって、本件特許発明8は、上記(1)で本願特許発明1に対して示したのと同様の理由により、甲2発明、及び甲3~6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)理由B(進歩性)のまとめ
したがって、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
4 小括
上記2~3のとおりであるから、本件特許は、取消理由通知で通知した理由A(拡大先願)及び理由B(進歩性)によっては取り消すことができない。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書の申立ての理由
1 申立ての理由の概要
上記第4の理由以外で、特許異議申立書において申し立てられた理由の要旨は以下のとおりである。
C.(新規性)本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
D.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記3(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
E.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記4(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
F.(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記4(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 理由C(新規性)
本件特許発明1と甲2発明は、上記第4の3(1)イ(イ)、(ウ)の相違点1、2で相違するから、本件特許発明1は甲2に記載された発明ではない。さらに、本件特許発明1に対してさらに発明特定事項を追加した本件特許発明2~7、及び本件特許発明1とカテゴリーの相違による表現上の差異が存するに過ぎない本件特許発明8も同様であるから、本件特許の請求項1~8に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
したがって、本件特許は上記理由C(新規性)により取り消すことはできない。
3 理由D(明確性)
(1)理由の説明
申立人が特許異議申立書において申し立てた理由D(明確性)は、請求項1及び請求項8の「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび/または前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データと、前記地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する」の発明特定事項について、「および/または」を「および」と解釈した場合には、当該第1風速実績データ及び第2風速実績データの風速実績データをどのように用いるかについては、何ら特定されておらず、以下のア~エのいずれを意味するかが不明確であるというものである。
ア 「地域範囲全体について、2つの風速実績データを共に用いて、学習部による学習に用いること」
イ 「地域範囲の一部については、一方の風速実績データを用い、地域範囲の他の一部については他方の風速実績データを用いて、学習部による学習に用いること」
ウ 「2つの風速実績データのうち、いずれか一方の風速実績データを選択して、学習部による学習に用いること」
エ 上記ア~ウ以外の解釈
(2)理由の検討
ア 本件特許の発明の詳細な説明の段落【0030】、【0072】の記載
申立人が、この申立ての理由に関して特許異議申立書で引用した本件特許の発明の詳細な説明の段落【0030】及び【0072】には、次の記載がある。
【0030】
管内風速(実績)データベースDB1には、風速のメッシュデータの実績値(以下、管内風速(実績)という)が格納されている。風速のメッシュデータとは、例えば、気象庁から提供される気象予測モデルを用いて算出した気象要素の予測値であるGPVデータを用いる。なお、気象予測モデルとしては、長期間の低解像度予測や、短期間の高解像度予測等が存在するが、どちらか一方の気象予測モデルを用いても良いし、両方の気象予測モデルを用いても良い。
【0072】
なお、学習部12が、地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の実績値を示す第1風速実績データや地域範囲を第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の実績値を示す第2風速実績データと、地域範囲における風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する構成としてもよい。
イ 上記アの発明特定事項の解釈について
上記(1)の請求項1及び請求項8に記載した発明特定事項は、本件訂正により「および/または」を「および」と訂正され、第1風速実績データと第2風速実績データの両方と、電力の実績値との相関を学習するものであると解釈されることが明らかである。
そして、第1風速実績データと第2風速実績データは、これらの格子の区切りの大きさ、実績値の期間の違いから、段落【0030】、【0072】の記載などから、第1風速実績データにより長期間の低解像度の予測モデルが構築され、第2風速実績データにより短期間の高解像度の予測モデルが構築されることが把握され、期間と解像度に関して一長一短の特性があるから、本件特許発明の本件訂正により訂正された発明特定事項においては、構築された2つの予測モデルを、これらの特性を活かすように用いるものであることが、当業者であれば特に困難を伴わずに理解できる。
したがって、「本件明細書には、どのような解像度の気象予測モデルを用いるか」や、「2種類の風速実績データ」をどのように組み合わせて、風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する具体的な構成(実施例)については記載されていない」としても、「第1風速実績データ及び第2風速実績データの風速実績データをどのように用いるか」については、上記の2つの予測モデルを構築して特性に応じて用いることが明らかであるから、本件訂正により「および」と訂正をした上記発明特定事項は明確である。
よって、本件特許は、上記理由D(明確性)により取り消すことはできない。
4 理由E(サポート要件)、理由F(実施可能要件)
(1)理由の説明
申立人が特許異議申立書において申し立てた理由E(サポート要件)及び理由F(実施可能要件)は、本件の発明の詳細な説明には、どのような解像度の気象予測モデルを用いるかや、「2種類の風速実績データ」をどのように組み合わせて、風力発電機の出力により得られた電力の実績値との相関を学習する具体的な構成(実施例)については記載されていないから、本件特許発明は本件の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件の発明の詳細な説明は当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないというものである。
(2)理由の検討
上記3(2)イで検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0030】及び【0072】の記載などから、第1風速実績データにより長期間の低解像度の予測モデルが構築され、第2風速実績データにより短期間の高解像度の予測モデルが構築されることが把握され、期間と解像度に関する一長一短の特性を活かすように用いるものであり、どのような解像度の気象予測モデルを用いるかについては、高解像度と低解像度のものを用いることが、当業者であれば特に困難を伴わずに理解できる。
また、本件特許に係る特許出願の出願時点において、機械学習により入力及び出力に対するモデルが構築できることは一般的に知られていたから、上記のとおり第1風速実績データにより長期間の低解像度の予測モデルが構築され、第2風速実績データにより短期間の高解像度の予測モデルが構築されることが把握されれば、本件特許発明の「学習部」において、機械学習を用いて、第1風速実績データおよび第2風速実績データをどのように組み合わせて電力の実績値との相関を学習するかについても、当業者にとって理解するのが困難であるということはできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、上記(1)で申立人が列挙するような事項が具体的な構成(実施例)として記載されていなくても、本件訂正後の上記3(1)の発明特定事項を「および/または」を「および」とした本件特許発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載されており、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることが認められる。
よって、本件特許を、上記理由E(サポート要件)及び理由F(実施可能要件)により取り消すことはできない。
5 小括
したがって、本件特許は、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書の申立て理由によっては、取り消すことができない。
第6 申立人の主張
申立人による令和6年11月1日提出の意見書(以下「申立人意見書」という。)について検討する。
この申立人意見書における主張のうち、5(1)「本件訂正発明の取消理由について」(申立人意見書第2~4ページ)で説明される理由は、取消理由通知書で通知し既に上記第4の2で検討した理由B(進歩性)、及び取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書の申立ての理由であり既に上記第5の3~4で検討した理由D(明確性)、理由E(サポート要件)、及び理由F(実施可能要件)の内容に包含されているため、採用することができないことが明らかであるから、それ以外の主張について以下検討する。
1 特許権者が令和6年8月20日に提出した意見書(以下「特許権者意見書」という。)に対しての主張(申立人意見書5(2):第4~7ページ)
(1)主張の概要
ア 特許権者意見書における相違点3に根拠がない旨の主張
申立人意見書の5(2)「特許権者の提出した令和6年8月20日付の意見書について」においては、特許権者意見書で提起された相違点3(以下「意見書相違点3」という。)」、すなわち「第1風速実績データと第2風速実績データの地域範囲に関し、本件特許発明1においては両風速実績データの地域範囲が同じであるのに対して、甲2発明においては、第1風速実績データ数100km程度の範囲でメッシュ間隔は数kmの広領域と、数km~数10km程度の範囲でメッシュ間隔は数10m~数100mの狭領域の地域範囲が異なる」という相違点について、申立人は次の主張をする。
本件特許発明1及び本件特許発明8における「第2風速実績データの地域範囲」は「前記地域範囲」と特定されているが、「前記地域範囲全体」などとする特定はされてなく、本件の発明の詳細な説明にも「第2風速実績データの地域範囲」を「前記地域範囲全体」と解釈する根拠となる具体的な記載は存在せず、第1風速実績データ及び第2風速実績データの風速実績データをどのように用いるかについて、第5の3(1)ア~エのいずれを意味するかが不明確であるから、上記意見書相違点3に関する特許権者の主張は根拠がない。
イ 意見書相違点3に進歩性がない旨の主張
上記アの意見書相違点3について、甲3~6に記載されているように、格子領域の大きさや時間間隔が異なる2つの気象予測値を用いて、気象を予測して発電量を予測することは周知技術にすぎず、気象データなどの膨大なデータに対して計算を行う場合に、限られた計算資源を有効に利用することは、当然に配慮すべき事項というべきであり、データ量が相対的に少ない「低解像度のデータ」については長期間のデータの計算を行うとともに、データ量が相対的に多い「高像度のデータ」については短期間のデータの計算を行う構成とすることにより、限られた計算資源を有効に利用することは、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎないから、甲2発明を 「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データ」および「前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データ」の2つの風速実績データを用いる構成とすることは、当業者が容易に発明できたものである。
(2)上記(1)の主張の検討
ア 上記(1)アの主張について
本件特許発明1及び本件特許発明8においては、請求項1及び請求項8に記載した「所定の地域範囲における風速を予測した実績のデータである風速の予測実績値」の発明特定事項における「地域範囲」について、請求項1及び請求項8の全体において、同じ地域範囲を一貫して「前記地域範囲」と表記していることが認められる。
そうすると、請求項1及び請求項8に記載した「前記地域範囲を所定の大きさに区切った各格子における所定の期間の風速の予測実績値を示す第1風速実績データおよび前記地域範囲を前記第1風速実績データの格子よりも小さく区切った各格子における前記第1風速実績データの期間よりも短い期間の風速の予測実績値を示す第2風速実績データ」の発明特定事項における2つの「前記地域範囲」について、たとえ申立人が指摘するように「前記地域範囲全体」などとする特定はされてなく、本件特許の発明の詳細な説明に「第2風速実績データの地域範囲」を「前記地域範囲全体」と解釈する根拠となる具体的な記載は存在していないとしても、例えば、気象庁が数値予報モデルとして同じ地域範囲に対して期間と解像度の異なるメソモデル(2001年~)と局地モデル(2012年~)を、本件特許出願前から提供している事実などを考慮すれば、いずれも同じ地域範囲を意味することが明らかであり、第1風速実績データ及び第2風速実績データの風速実績データをどのように用いるかが不明確であることはない。
したがって、上記意見書相違点3に関する特許権者の主張は根拠がないという申立人の主張は採用することができない。
イ 上記(1)イの主張について
既に第4の3(1)ウで理由B(進歩性)について検討したとおり、甲3~6には、第4の3(1)イで認定した本件特許発明1と甲2発明との間の相違点2について開示されていない。よって、仮に「格子領域の大きさや時間間隔が異なる2つの気象予測値を用いて、気象を予測して発電量を予測すること」が周知技術であり、また、データ量が相対的に少ない「低解像度のデータ」については長期間のデータの計算を行うとともに、データ量が相対的に多い「高像度のデータ」については短期間のデータの計算を行う構成とすることにより、限られた計算資源を有効に利用することは、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項であるとしても、本件特許発明1及び本件特許発明8が、甲2発明、及び甲3~6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、申立人の主張は採用することができない。
2 小括
したがって、申立人意見書の主張は、いずれも採用することができない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことができない。
そして、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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