審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2026-700227

燃料電池用シール部材

審判番号
2026-700227
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-055325
登録番号
7742711
請求日
2026年03月17日
審決日
2026年06月24日
公報発行日
2026年07月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】住友理工株式会社
  • 【権利者代理人】西藤 征彦
  • 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
  • 【権利者代理人】西藤 優子
  • 【異議申立人】別役 重尚
  • 【異議申立人代理人】別役 重尚
審判長/審判官
  • 審判長 涌井 智則
  • 審判官 ▲吉▼澤 雅博
  • 審判官 木村 貴俊
分類
P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7742711号発明「燃料電池用シール部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7742711号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7742711号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和3年3月29日に出願したものであって、令和7年9月11日にその特許権の設定登録がされ、同年9月22日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許の請求項1~6に係る特許に対し、特許掲載公報の発行から6月以内である令和8年3月17日に、特許異議申立人 別役重尚(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。また、「本件発明1」~「本件発明6」をまとめて、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 下記の(A)、(B)および(D)成分を含有するゴム組成物の架橋体からなり、その反発弾性率が55~70%であることを特徴とする燃料電池用シール部材。 (A)エチレン-ブテン-ジエンゴム。 (B)BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000の、カーボンブラック。 (D)流動点が-30℃以下の可塑剤。 【請求項2】 上記(A)エチレン-ブテン-ジエンゴムのエチレン量が55重量%以下で、かつブテン量が35重量%以上である、請求項1記載の燃料電池用シール部材。 【請求項3】 上記ゴム組成物における上記(B)成分の含有量が、上記(A)成分100重量部に対し15~95重量部の範囲である、請求項1または2に記載の燃料電池用シール部材。 【請求項4】 上記ゴム組成物における上記(B)成分の含有量が、上記(A)成分100重量部に対し25~90重量部の範囲である、請求項2に記載の燃料電池用シール部材。 【請求項5】 上記ゴム組成物が、さらに下記(C)成分を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池用シール部材。 (C)有機過酸化物。 【請求項6】 上記ゴム組成物における上記(C)成分の含有量が、上記(A)成分100重量部に対し1.5~14重量部(原体換算)である、請求項5に記載の燃料電池用シール部材。」 第3 申立理由の概要 1 申立人の特許異議の申立ての理由の概要は、次のとおりである。 (1)特許法第29条第2項(進歩性) 本件発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第3、5、6号証記載事項から、本件発明2は、甲第1号証記載の発明及び甲第1~2、5~6号証記載事項から、本件発明3~6は、甲第1号証記載の発明及び甲第1~6号証記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号により取り消されるべきものである。 (2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号により取り消されるべきものである。 (3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号により取り消されるべきものである。 (4)特許法第36条第6項第2号(明確性要件) 本件発明は明確でないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号により取り消されるべきものである。 2 申立人が提出した証拠は次のとおりである。 甲第1号証:特開2017-183162号公報 甲第2号証:特開2017-075293号公報 甲第3号証:「TOKAI CARBON BLACK Seast」のカタログ、2011年12月改訂、第6頁、東海カーボン株式会社、の写し 甲第4号証:特開2012-197348号公報 甲第5号証の1:シェブロン フィリップス ケミカル カンパニー エルピー Synfluid(登録商標) PAO 2cSt テクニカルデータシートの写し(2011年4月改訂) (URL:https://www.cpchem.com/sites/default/files/2020-04/Synfluid%2520PAO%25202%2520cSt_0_0.pdf) 甲第5号証の2:シェブロン フィリップス ケミカル カンパニー エルピー Synfluid(登録商標) PAO 4cSt テクニカルデータシートの写し(2011年4月改訂) (URL:https://www.cpchem.com/sites/default/files/2020-04/Synfluid%2520PAO%25204%2520cSt_0_0.pdf) 甲第5号証の3:シェブロン フィリップス ケミカル カンパニー エルピー Synfluid(登録商標) PAO 8cSt テクニカルデータシートの写し(2011年4月改訂) (URL:https://www.cpchem.com/sites/default/files/2020-04/Synfluid%2520PAO%25208%2520cSt_0_0.pdf) 甲第5号証の4:シェブロン フィリップス ケミカル カンパニー エルピー Synfluid(登録商標) mPAO 65cSt テクニカルデータシートの写し(2019年6月改訂) (URL:https://www.cpchem.com/sites/default/files/2020-12/Synfluid%20mPAO%2065%20cSt_0.pdf) 甲第6号証:特開昭57-154561号公報 第4 甲号証の記載事項 1 甲第1号証及び甲1発明 (1)甲第1号証の記載 甲第1号証には、以下の各記載がある。(なお、下線は当審で付与した。以下同様である。) 「【0001】 本発明は、燃料電池用構成部材をシールするために用いられる燃料電池用シール部材に関するものである。」 「【0008】 本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、シール部材に要求される機械的物性を維持しながら、極低温条件下においても優れたシール性を備えた、燃料電池用シール部材の提供を、その目的とする。」 「【発明を実施するための形態】 【0015】 つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。 【0016】 本発明の燃料電池用シール部材(以下、単に「シール部材」という場合がある。)は、燃料電池の構成部材をシールするために用いられるものであって、先に述べたように、下記の(A)~(C)成分を含有するゴム組成物の架橋体からなる。ここで、「ソリッドゴム」とは、常温(23℃)で固形を示すゴムであって、JIS K 6300-1に準拠し、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4 100℃)が5以上のゴムのことを言い、液状ゴムではないことを示す。 (A)エチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴム。 (B)100℃における動粘度が8mm2/s以下のポリαオレフィン化合物。 (C)有機過酸化物からなる架橋剤。 【0017】 上記(A)のエチレン-ブテン-ジエンゴムにおいて、そのエチレン含有量は、極低温下におけるシール性の向上の観点から、60重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは53重量%以下である。一方で、上記エチレン含有量が少なすぎると、ゴム物性が低下し、シール部材に必要な伸びや引張り特性を確保することが困難となることから、上記エチレン含有量が40重量%以上であることが好ましい。 【0018】 また、上記(A)のエチレン-ブテン-ジエンゴムにおいて、そのジエン量(ジエン成分の質量割合)は、低温ヘタリ性により優れるようになる観点から、1~20重量%の範囲が好ましく、より好ましくは3~15重量%の範囲が好ましい。 ・・・ 【0020】 上記(A)のエチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴムとともに、本発明のシール部材の材料として、100℃における動粘度が8mm2/s以下のポリαオレフィン化合物(B)が用いられる。上記ポリαオレフィン化合物(PAO)の100℃における動粘度は、低温性の観点から、より好ましくは、2~8mm2/sの範囲である。なお、ポリαオレフィン化合物の動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定されたものである。 ・・・ 【0022】 上記(A)のエチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴムの架橋剤(C)は、有機過酸化物からなるものである。上記有機過酸化物としては、例えば、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。このような有機過酸化物のなかでも、例えば、1時間半減期温度が160℃以下の有機過酸化物からなるものが好ましく用いられ、電解質膜と接着させるためには、1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物を用いることが好ましい。さらには、130℃程度の温度で架橋しやすく、架橋剤を加えて混練したゴム組成物の取扱性にも優れるという理由から、1時間半減期温度が100℃以上のパーオキシケタールおよびパーオキシエステルの少なくとも一方が好ましく、特に好ましくは、1時間半減期温度が110℃以上のものが好適である。また、パーオキシエステルを用いると、より短時間で架橋を行うことができる。 ・・・ 【0027】 上記特定の架橋剤(C)(純度100%の原体の場合)の配合量は、前記(A)のエチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴム100重量部に対して0.4~12重量部の範囲が好ましい。上記特定の架橋剤(C)の配合量が少なすぎると、架橋反応を充分に進行させることが困難となる傾向がみられ、上記特定の架橋剤(C)の配合量が多すぎると、架橋反応時に架橋密度が上昇して、伸びの低下を招く傾向がみられる。 【0028】 なお、本発明のシール部材に使用するゴム組成物には、前記(A)~(C)成分以外に、軟化剤(可塑剤)、架橋助剤、補強剤、老化防止剤、粘着付与剤、加工助剤等の、各種添加剤を配合しても差し支えない。 ・・・ 【0033】 前記補強剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ等があげられる。上記カーボンブラックのグレードは、特に限定されるものではなく、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等から適宜選択すればよい。 【0034】 上記補強剤の配合量は、前記(A)のエチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴム100重量部に対して、通常10~150重量部の範囲である。」 「【実施例】 【0052】 つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。 【0053】 まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示すゴム組成物の材料を準備した。 【0054】 〔EPDM〕 エチレン-プロピレン-ジエンゴム(JSR社製、EP342) 【0055】 〔EBT(A成分)〕 エチレン含量50重量%,ジエン含量7.6重量%の、エチレン-ブテン-ジエンゴム(三井化学社製、K-4030M) 【0056】 〔カーボンブラック〕 東海カーボン社製、シースト116 【0057】 〔パラフィンオイル〕 日本サン石油社製、Sunper 110 【0058】 〔低粘度PAO-1(B成分)〕 100℃における動粘度が2mm2/sのポリαオレフィン化合物(Chevron Phillips社製、Synfluid PAO 2cSt) 【0059】 〔低粘度PAO-2(B成分)〕 100℃における動粘度が4mm2/sのポリαオレフィン化合物(Chevron Phillips社製、Synfluid PAO 4cSt) 【0060】 〔低粘度PAO-3(B成分)〕 100℃における動粘度が8mm2/sのポリαオレフィン化合物(Chevron Phillips社製、Synfluid PAO 8cSt) 【0061】 〔低粘度PAO-4〕 100℃における動粘度が65mm2/sのポリαオレフィン化合物(Chevron Phillips社製、Synfluid PAO 65cSt) 【0062】 〔シリコーンオイル〕 信越化学社製、KF-50 【0063】 〔パーオキサイド(C成分)〕 日油社製、パーヘキサC-40 【0064】 [実施例1~3、比較例1~5] 後記の表1に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、バンバリーミキサーおよびオープンロールを用いて混練することにより、ゴム組成物を調製した。 また、上記ゴム組成物を、160℃で10分間保持することにより加硫し、シール部材となる所定の厚さの加硫ゴムを作製した。 【0065】 上記のようにして得られたゴム組成物および加硫ゴムに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。 ・・・ 【0070】 ≪総合評価≫ 上記各特性の評価において全て○の場合を、総合評価○とし、各特性の評価において一つでも×がある場合を、総合評価×とした。 【0071】 【表1】 [図:0001437435000001.jpg] 【0072】 上記表の結果から、実施例の加硫ゴム(シール部材)は、EBT(エチレン-ブテン-ジエンゴム)をポリマーとし、パーオキサイド(有機過酸化物)により架橋されたものであり、さらに、100℃における動粘度が8mm2/s以下のポリαオレフィン化合物(低粘度PAO-1~-3)を、その材料中に含むものである。そのため、機械的物性(TS、Eb)を維持しつつ、低温圧縮永久歪み(低温ヘタリ性)も良好である。しかも、ブリードアウトもみられない。」 (2)甲1発明 ア 上記(1)の記載事項によれば、以下のことが理解できる。 (ア)【0016】によれば、甲第1号証には、「下記の(A)~(C)成分を含有するゴム組成物の架橋体からなる」「(A)エチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴム。(B)100℃における動粘度が8mm2/s以下のポリαオレフィン化合物。(C)有機過酸化物からなる架橋剤。」「燃料電池用シール部材」が記載されている。 (イ)【0028】、【0033】によれば、甲第1号証には、「燃料電池用シール部材」の「ゴム組成物には、前記(A)~(C)成分以外に、」「補強剤」「等の、各種添加剤を配合しても差し支えな」く、「前記補強剤としては、例えば、カーボンブラック」「等があげられる」ことが記載されている。 (ウ)【0052】~【0072】によれば、甲第1号証には、「カーボンブラック」として、「東海カーボン社製、シースト116」を配合することによりゴム組成物を調整した実施例1~3が記載されている。 イ 以上から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「下記の(A)~(C)成分を含有するゴム組成物の架橋体からなる (A)エチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴム。 (B)100℃における動粘度が8mm2/s以下のポリαオレフィン化合物。 (C)有機過酸化物からなる架橋剤。 燃料電池用シール部材であって、 ゴム組成物には、前記(A)~(C)成分以外に、補強剤等の、各種添加剤を配合しても差し支えなく、前記補強剤としては、例えば、カーボンブラック等があげられ、 カーボンブラックとして、東海カーボン社製、シースト116を配合することによりゴム組成物を調整した 燃料電池用シール部材。」 2 甲第2号証の記載及び甲2記載事項 甲第2号証の、【0001】、【0169】~【0171】、【0182】、【0183】、【0208】、【0227】~【0234】、【0256】~【0258】によれば、甲第2号証には、次の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。 「エチレン・1-ブテン・ENB共重合体(EBDM-1)100部に対し、補強剤としてカーボンブラック「旭#60G」(商品名;旭カーボン(株)製)を40部、架橋剤(加硫剤)としてカヤクミルD-40C(ジクミルペルオキシド40質量%、化薬アクゾ製)を6.8部の配合量で添加して混練し得た、配合物2(シールパッキン用組成物)であって、 エチレン・1-ブテン・ENB共重合体(EBDM-1)は、エチレン量が51.6重量%で、ブテン量が44.2重量%(=100重量%-51.6重量%-4.2重量%)であり、 架橋剤として、有機過酸化物を用いる場合、シールパッキン用組成物中のその配合量は、エチレン系共重合体Aおよび必要に応じて配合される架橋が必要な他のポリマー(架橋性ゴム等)の合計100質量部に対して、一般に0.1~20質量部である点。」 3 甲第3号証の記載及び甲3記載事項 甲第3号証の第6頁、物理化学的特性の表には、東海カーボン社製の「シースト116」は、窒素吸着比表面積が49m2/g、DBP吸収量(A法)が133cm3/100gであることが記載されている。 すると、甲第3号証には、次の事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されている。 「東海カーボン社製のシースト116は、窒素吸着比表面積が49m2/g、DBP吸収量(A法)が133cm3/100gであり、窒素吸着比表面積(m2/g)×DBP吸収量(A法)(cm3/100g)の値が6517の、カーボンブラックである点。」 4 甲第4号証の記載及び甲4記載事項 甲第4号証の【0019】によれば、FEF級カーボンブラックである「旭#60G:旭カーボン株式会社製」は、窒素吸着比表面積が41.2m2/g、DBP吸収量が110.2mL/100gであることが記載されている。 ここで、「1mL=1cm3」であるから、甲第4号証には、次の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されている。 「旭#60G:旭カーボン株式会社製は、窒素吸着比表面積が41.2m2/g、DBP吸収量が110.2cm3/100gであり、窒素吸着比表面積(m2/g)×DBP吸収量(cm3/100g)の値が4540.24の、カーボンブラックである点。」 5 甲第5号証の記載及び甲5記載事項 Chevron Phillips社製の製品について、甲第5号証の1には、「Synfluid PAO 2cSt」の流動点が-73℃であることが、甲第5号証の2には、「Synfluid PAO 4cSt」の流動点が-68℃であることが、甲第5号証の3には、「Synfluid PAO 8cSt」の流動点が-56℃であることが、甲第5号証の4には、「Synfluid mPAO 65cSt」の流動点が-43℃であることが記載されている。 すると、甲第5号証には、次の事項(以下、「甲5記載事項」という。)が記載されている。 「Chevron Phillips社製のSynfluid PAO 2cSt、4cSt、8cSt又は65cStの流動点は、-30℃以下であること。」 6 甲第6号証 (1)甲第6号証の記載 甲第6号証には、以下の各記載がある。 「1 発明の名称 シール材 2 特許請求の範囲 1 ゴム類の加硫物であって、硬度がA型ゴム硬度計で30°以下でF型ゴム硬度計で15°以上であり、かつ反撥弾性率が50%以上であるゴム材料で構成されてなることを特徴とするシール材。 3 発明の詳細な説明 本発明は新規なシール材に関する。さらに詳しくは、超低硬度かつ高反撓弾性の新規なゴム材料からなる、ドアのシール材などとして有用なシール材に関する。」(第1頁左下欄2~14行) 「 本発明に用いる前記特定のゴム材料は、ゴム類の加硫物であって、・・・反撥弾性率が50%以上、好ましくは60%以上、なかんづく70%以上のものである。」(第2頁左上欄10~16行) 「 前記特定の物性値を有する加硫ゴムは(A)ゴム成分100部(重量部、以下同様)、(B)フアクチス5~2000部、好ましくは50~2000部、なかんづく100~2000部および(C)軟化剤20~2000部、好ましくは100~2000部、なかんづく200~2000部からなるゴム組成物を加硫することによってえられる。・・・ (A)成分のゴム成分はとくに制限されないが、たとえばポリノルボルネン、天然ゴム、インプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴムなどの1種もしくは2種以上を主体とするものがあげられ、これらゴム成分にはそれらの再生ゴム(たとえばゴム粉など)も含まれる。・・・ (C)成分の軟化剤としては油、可塑剤、その他の軟化作用を有するものがあげられる。・・・ さらに前記ゴム組成物には(A)~(C)成分以外にカーボンブラック、酸化亜鉛などの充填剤、着色剤、ステアリン酸などの滑剤、老化防止剤などの通常用いられているゴム配合剤を前記物性を損なわない範囲内で適宜配合してもよい。」(第3頁左上欄4行~右下欄20行) 「本発明のシール材はそのすぐれた耐衝撃性、緩衝性を利用して、たとえば車輌、建物、冷蔵庫などにおけるドアのシール材、車のトランクのシール材、手提トランクのシール材などとして有用である。また前記特定のゴム材料は防音、吸音性にもすぐれているので防音窓のシール材としても有用である。」(第4頁右上欄20行~左下欄6行) (2)甲6記載事項 以上から、甲第6号証には、次の事項(以下、「甲6記載事項」という。)が記載されているといえる。 「ゴム類の加硫物であって、反撥弾性率が50%以上であるゴム材料で構成されてなる、ドアのシール材、車のトランクのシール材、手提トランクのシール材、防音窓のシール材などとして有用なシール材であって、 (A)ゴム成分100部(重量部、以下同様)、(B)フアクチス5~2000部、好ましくは50~2000部および(C)軟化剤20~2000部からなるゴム組成物を加硫することによってえられ、 (C)成分の軟化剤としては可塑剤があげられ、 さらに前記ゴム組成物には(A)~(C)成分以外にカーボンブラックなどの通常用いられているゴム配合剤を前記物性を損なわない範囲内で適宜配合してもよいこと。」 第5 当審の判断 1 進歩性について 1-1本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 甲1発明の「燃料電池用シール部材」は、「ゴム組成物の架橋体からなる」から、本件発明1の「燃料電池用シール部材」と、「ゴム組成物の架橋体からな」るものである点で一致する。 一方、本件発明1では、「その反発弾性率が55~70%である」と、燃料電池用シール部材の「反発弾性率」が特定されているのに対し、甲1発明では反発弾性率について特定されていない点で相違する。 イ 甲1発明のゴム組成物の成分である「(A)エチレン-ブテン-ジエンゴムからなるソリッドゴム。」は、本件発明1のゴム組成物の成分である「(A)エチレン-ブテン-ジエンゴム。」に相当する。 ウ 甲1発明のゴム組成物に配合された添加剤である「補強材」の「カーボンブラックとして、東海カーボン社製、シースト116」は、本件発明1のゴム組成物の成分である「(B)BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000の、カーボンブラック。」と、「(B)カーボンブラック。」である点で一致する。 一方、本件発明1では、「BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000」と、カーボンブラックの「BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値」が特定されているのに対し、甲1発明ではその値について特定されていない点で相違する。 エ 本件特許の明細書【0037】の「このような可塑剤としては、例えば、ポリ-α-オレフィン・・・等があげられる。」の記載も参酌すると、甲1発明の「(B)100℃における動粘度が8mm2/s以下のポリαオレフィン化合物」も一種の可塑剤として作用することは明らかである。 すると、甲1発明のゴム組成物の成分である「(B)100℃における動粘度が8mm2/s以下のポリαオレフィン化合物」は、本件発明1のゴム組成物の成分である「(D)流動点が-30℃以下の可塑剤。」と、「(D)」「可塑剤。」である点で一致する。 一方、本件発明1では、「流動点が-30℃以下」と、可塑剤の「流動点」が特定されているのに対し、甲1発明では流動点について特定されていない点で相違する。 2 一致点・相違点 以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点・相違点を有する。 (一致点) 「下記の(A)、(B)および(D)成分を含有するゴム組成物の架橋体からなる燃料電池用シール部材。 (A)エチレン-ブテン-ジエンゴム。 (B)カーボンブラック。 (D)可塑剤。」 (相違点) 相違点1 燃料電池用シール部材について、本件発明1では、「その反発弾性率が55~70%である」と特定されているのに対し、甲1発明では反発弾性率について特定されていない点。 相違点2 カーボンブラックについて、本件発明1では、「BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000」と特定されているのに対し、甲1発明ではその値について特定されていない点。 相違点3 可塑剤について、本件発明1では、「流動点が-30℃以下」と特定されているのに対し、甲1発明では流動点について特定されていない点。 (3)判断 ア 事案に鑑み、上記相違点1について検討する。 (ア)甲第1号証には、燃料電池用シール部材の反発弾性率について、記載も示唆もされていない。 また、本件発明1は、本件特許の明細書の【0009】及び【0010】に記載されているように、「低温~高温の広い温度領域において、圧縮割れ耐性および低へたり性に優れる、燃料電池用シール部材の提供」という課題を解決する為に、「・・・特定のカーボンブラックを加え、かつ上記シール部材の反発弾性率が特定の範囲内となるようにした・・・」ものである。 その一方、甲1発明は、甲第1号証の【0007】~【0010】に記載されているように、「シール部材に要求される機械的物性を維持しながら、極低温条件下においても優れたシール性を備えた、燃料電池用シール部材の提供」という課題を解決するために、「・・・エチレン-ブテン-ジエンゴムに対し相溶性に優れ、さらに、一般的なEPDM用可塑剤よりも低温での粘度が低く、低温シール性を悪化させにくい、特定のポリαオレフィン化合物(B)を配合した・・・」ものである。 すると、本件発明1と甲1発明とは、その課題も解決手段も異なり、甲1発明において、甲第1号証に記載も示唆もない反発弾性率を最適化又は好適化する動機があるとはいえない。 すると、甲1発明において、反発弾性率を「55~70%」とすることが、当業者の通常の創作能力の発揮であるとはいえない。 (イ)反発弾性率について、甲6記載事項には、「ゴム類の加硫物であって、反撥弾性率が50%以上であるゴム材料で構成されてなる、」「シール材」が記載されている。 しかしながら、甲1発明は「燃料電池用シール部材」であるのに対し、甲6記載事項は「ドアのシール材、車のトランクのシール材、手提トランクのシール材、防音窓のシール材などとして有用なシール材」である。 すると、甲1発明と甲6記載事項とは、技術分野が異なり、また、課題が共通するとも、その作用、機能が共通するともいえず、さらに、甲第1号証に甲6記載事項を適用することの示唆もないから、甲1発明に甲6記載事項を適用する動機があるとはいえない。 仮に、甲1発明に甲6記載事項を適用できたとしても、甲6記載事項は、反発弾性率が「50%以上」のゴム材料で構成されてなるシール材であって、反発弾性率が70%を超えるゴム材料も含まれるものであり、甲第6号証の「反撥弾性率が50%以上・・・なかんづく70%以上のものである。」との記載を参酌すれば、反発弾性率の上限を70%とする動機もない。 してみると、甲6記載事項は、反発弾性率を「55~70%」とするものでなく、甲1発明に甲6記載事項を適用しても、相違点1に係る構成に至らない。 (ウ)そして、特許異議の申立ての証拠として提出された他の証拠を検討しても、上記相違点1に係る構成についての記載はない。 そうすると、上記相違点1に係る構成は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~6号証の記載に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。 以上から、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 申立人の主張 (ア)申立人は上記相違点1について、「すなわち、本件の反発弾性率は、本件特許発明1の「(A)エチレン-ブテン-ジエンゴム」、「(B)BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000の、カーボンブラック」および「(D)流動点が-30℃以下の可塑剤」を含有する架橋ゴムサンプルを作製した後に測定されたものであり、作製時に予め反発弾性率を制御して得た架橋ゴムサンプルではなく、所定の調整を行ったゴム組成物であれば自動的に充足する範囲のものである。 そして、本件特許発明1のゴム組成物を構成する材料と、甲1発明のゴム組成物を構成する材料との間に差異はなく、ゴム組成物の反発弾性率は、配合量や架橋時の温度及び時間を適宜調整して作製したゴム組成物の物理特性として得られるものであって、反発弾性率を55~70%の範囲内とすることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、当業者という。)が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎず、「その反発弾性率が55~70%である」点は設計的事項である。 加えて、甲第6号証には、ゴム類の加硫物であるゴム材料で構成されたシール材の反撥弾性率が50%以上である点の記載がある。」と主張(申立書第17頁1~16行)している。 (イ)しかしながら、上記ア(ア)において検討したように、本件発明1と甲1発明とは、その課題も解決手段も異なり、甲1発明において、所定の調整を行い、反発弾性率を最適化又は好適化する動機はなく、反発弾性率を「55~70%」とすることが設計的事項であるとはいえない。 また、上記ア(イ)において検討したように、甲1発明に甲6記載事項を適用する動機もないし、適用したとしても相違点1に係る構成に至らない。 以上から、申立人の主張は採用できない。 1-2 本件発明2~6について 本件発明2~6は、本件発明1の構成を全て含み更に他の構成を付加したものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 1-3 小括 したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 2 実施可能要件について (1)当審の判断 ア 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。以下、本件特許の明細書について検討する。 (ア)本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0059】~【0073】には、(A)成分として「エチレン含有量50重量%、ブテン量42.9重量%、ジエン含有量7.1重量%の、エチレン-ブテン-ジエンゴム(三井化学社製、EBT-K9330M)」、(B)成分として異なる比表面積×吸油量の値を有する複数のカーボンブラックを、(D)成分として「ポリ-α-オレフィン(PAO601、日鉄ケミカル&マテリアル社製、40℃動粘度:30.7mm2/s、流動点(JIS K 2269):-63℃)」を、異なる割合で配合し、バンバリーミキサーおよびオープンロールを用いて混練することにより、ゴム組成物を調製した実施例が記載されている。 (イ)そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0074】~【0081】には、該ゴム組成物を、所定の金型を用いて170℃で15分間保持することにより架橋して脱型した後、オーブンにて150℃で120分加熱して二次架橋させることにより作製された、直径29mm、厚み12.5mmの、円柱状の架橋ゴムサンプルに対して、JIS K 6255にて記載されている、リュプケ式試験機を用い、標準試験温度にて、反発弾性率を測定したところ、実施例1、2、4、9は反発弾性率が55~68%の範囲であったことが記載されている。 (ウ)さらに、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0043】には、ゴム組成物を用いて燃料電池用シール部材を作製することも記載されている。 イ 以上のとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の燃料電池用シール部材に用いられるゴム組成物について、含有する成分、配合割合及び製造方法が具体的に記載されている。 すると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (2)申立人の主張について ア 申立人は特許異議申立書(第20頁10行~第21頁4行)において、実施可能要件について、概略以下のように主張する。 (ア)本件発明1には「その反発弾性率が55~70%である」との記載があり、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~6は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、実施可能要件を満たしていない。 (イ)本件特許の明細書には、有機過酸化物を用いない場合の実施例の記載はなく、有機過酸化物を用いない場合に本件発明1が課題を解決することができるか否かが不明であるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~4は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、実施可能要件を満たしていない。 イ 申立人の上記主張について検討する。 (ア)主張(ア)について 上記(1)アに記載したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「その反発弾性率が55~70%である」ゴム組成物が含有する(A)、(B)及び(D)成分や、その配合割合、製造方法が、実施例1、2、4、9として具体的に記載されている。 なお、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における、実施例1と4とを比較すると、ゴム組成物が含有する(A)、(B)及び(D)成分が同じであっても、その配合の割合によって反発弾性率が変化することが理解でき、また、実施例1と2とを比較すると、ゴム組成物が含有する(A)、(B)及び(D)成分の配合の割合が同じであっても、(B)成分が異なることによって、反発弾性率が変化することが理解できる。 してみると、上記記載から、ゴム組成物が含有する(A)、(B)及び(D)成分の配合の割合や、(B)成分を変えることにより、反発弾性率を調節することができると、当業者は理解することができる。 すると、当業者は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、ゴム組成物が含有する(A)、(B)及び(D)成分の配合の割合や、(B)成分を変えることにより、過度の試行錯誤を要することなく、「反発弾性率が55~70%である」燃料電池用シール部材を作製することができるといえる。 (イ)主張(イ)について 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0027】に「ここで、本発明のシール部材に使用するゴム組成物には、上記(A)および(B)成分以外に、下記に示す有機過酸化物(C)、・・・といった、各種添加剤を配合しても差し支えない。」と記載されているように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、有機過酸化物を用いるものも、用いないものも記載されているといえる。 そして、上記(ア)で検討したように、当業者はゴム組成物が含有する(A)、(B)及び(D)成分の配合の割合や、(B)成分の種類を変えることにより反発弾性率を調節できるから、有機過酸化物を用いない場合においても、過度の試行錯誤を要することなく、「反発弾性率が55~70%である」燃料電池用シール部材を作製することができるものといえる。 (3)小括 したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 3 サポート要件について (1)当審の判断 ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。 イ 発明の詳細な説明の記載の概要 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0009】から、本件発明の課題は「低温~高温の広い温度領域において、圧縮割れ耐性および低へたり性に優れる、燃料電池用シール部材」を提供することである。 そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0010】には、「本発明者らは、・・・エチレン-ブテン-ジエンゴムといったゴム成分を用いるとともに、低温~高温の広い温度領域において、圧縮割れ耐性および低へたり性を全て満足することができるよう、各種添加剤の配合および実験を繰り返し行った。その結果、特定のカーボンブラックを加え、かつ上記シール部材の反発弾性率が特定の範囲内となるようにしたところ、低温~高温における耐圧縮破壊性(圧縮割れ耐性)と低へたり性を両立することができることを見いだし、本発明に到達した。」、【0024】には、「・・・カーボンブラック(B)としては、・・・、BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000のカーボンブラックが用いられる」ことが、【0016】には、「・・・上記ゴム組成物の架橋体の反発弾性率(上記シール部材の反発弾性率)は、45~70%の範囲であることが好まし」いことが、【0037】には、「上記可塑剤(D)のなかでも、流動点が-30℃以下の可塑剤が好まし」いことが、記載されている。 また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0059】~【0081】には、(A)成分として「エチレン-ブテン-ジエンゴム」、(B)成分として「カーボンブラック」、(D)成分として「ポリ-α-オレフィン」を配合し、反発弾性率が55~68%である、実施例1、2、4、9において、高温圧縮永久歪み及び低温圧縮永久歪みの評価が◎、圧縮割れ耐性の評価が◎又は○であることが記載されている。 ウ 判断 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2に記載したとおりのものであるところ、本件の明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1の「(A)エチレン-ブテン-ジエンゴム。」、「(B)BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000の、カーボンブラック。」および「(D)流動点が-30℃以下の可塑剤。」成分を含有するゴム組成物の架橋体からなり、「その反発弾性率が55~70%であ」れば、本件発明の課題である、低温~高温の広い温度領域において、圧縮割れ耐性および低へたり性に優れる、燃料電池用シール部材を提供するという、本件発明の課題を解決できるといえる。 したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (2)申立人の主張について ア 申立人は特許異議申立書において、概略以下のように主張する。 (ア)本件特許の明細書には、有機過酸化物を用いない場合の実施例の記載はなく、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~4は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(特許異議申立書第21頁5~18行) (イ)本件特許の請求項1の記載によれば、BETとDBPのいずれか一方が1で、他方が1500といった場合も、(B)成分に含まれるが、本件特許の明細書の【0024】には「・・・上記BET比表面積は、20~125m2/gであることが好ましく・・・上記DBP吸油量は、50~200cm3/100gであることが好ましく・・・」と、一方が1、他方が1500といった値が含まれることは記載されていないから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~6は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(特許異議申立書第21頁19~22頁12行) イ 申立人の上記主張について検討する。 (ア)主張(ア)について 上記2(2)イ(イ)で検討したように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、有機過酸化物を用いないものも記載されているといえる。 そして、上記(1)ウのとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1の「(A)エチレン-ブテン-ジエンゴム。」、「(B)BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が1500~15000の、カーボンブラック。」および「(D)流動点が-30℃以下の可塑剤。」成分を含有するゴム組成物の架橋体からなり、「その反発弾性率が55~70%であ」れば、本件発明の課題である、低温~高温の広い温度領域において、圧縮割れ耐性および低へたり性に優れる、燃料電池用シール部材を提供するという課題を解決できるから、申立人の主張(ア)は採用できない。 (イ)主張(イ)について 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0024】には、「・・・上記BET比表面積は、20~125m2/gであることが好ましく・・・上記DBP吸油量は、50~200cm3/100gであることが好ましく・・・」と記載されている一方、本件特許の明細書に、20m2/g未満及び125m2/gを超えるBET比表面積、並びに、50cm3/100g未満及び200cm3/100gを超えるDBP吸油量であるカーボンブラックを排除する記載はない。 すると、申立人の主張(イ)は本件特許の明細書の記載に基づくものでなく、採用できない。 (3)小括 したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 4 明確性要件について (1)当審の判断 ア 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。以下検討する。 イ 特許請求の範囲の記載及び判断 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、上記第2に記載されたとおりのものであるところ、請求項1~6の記載自体は明確であり、明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。 よって、請求項1~6に係る発明について、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (2)申立人の主張 ア 申立人は特許異議申立書において、概略以下のように主張する。 (ア)本件発明1は「反発弾性率が55~70%である」ことを規定している一方、本件の明細書には、55%という値の臨界的意義については何ら記載されておらず、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~6は不明確である。(特許異議申立書第22頁13~27行) (イ)本件発明1は「(B)BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)」という量を規定している一方、本件の明細書には、BET比表面積(m2/g)とDBP吸油量(cm3/100g)について、「積」を用いることの技術的意義については何ら記載されておらず、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~6は不明確である。(特許異議申立書第23頁1~7行) イ 申立人の上記主張(ア)及び(イ)について検討する。 請求項1の記載から、本件発明1が、燃料電池用シール部材の反発弾性率が「55~70%であ」り、かつ、BET比表面積(m2/g)×DBP吸油量(cm3/100g)の値が「1500~15000」であるカーボンブラックを(B)成分として含有するゴム組成物の架橋体からなる燃料電池用シール部材であることは明確であり、申立人が主張するように、「55%という値の臨界的意義」や「「積」を用いることの技術的意義」が本件特許の明細書に記載されていないとしても、請求項1の記載に不明確な点はない。 その一方、申立人は、「55%という値の臨界的意義」や「「積」を用いることの技術的意義」が記載されていないと主張するのみで、請求項1の記載のどの点が不明確であるのか、具体的な主張を何らしていない。 すると、申立人の上記主張(ア)及び(イ)は理由がなく、採用できない。 (3)小括 したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700227

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存