特許異議申立
2024-700065
粒子システムと方法
- 審判番号
- 2024-700065
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-512786
- 登録番号
- 7317000
- 請求日
- 2024年01月26日
- 審決日
- 2024年09月25日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】モノリス マテリアルズ インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】弁理士法人はるか国際特許事務所
- 【権利者代理人】小野 誠
- 【権利者代理人】安藤 健司
- 【権利者代理人】重森 一輝
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 渡辺 努
- 分類
- P1651.121-YAA(H01M) / P1651.16 -YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7317000号発明「粒子システムと方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7317000号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕、〔15、16〕について訂正することを認める。
特許第7317000号の請求項1ないし13、15ないし16に係る特許を維持する。
特許第7317000号の請求項14に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許7317000号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし16に係る発明についての出願は、2018年8月28日(パリ条約による優先権主張2017年8月28日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月20日にその特許権が設定登録され、令和5年7月28日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次のとおりである。
令和6年 1月26日 :特許異議申立人寺澤佳奈美による請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年 3月18日付け:取消理由通知
令和6年 6月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、特許異議申立人に対して令和6年7月4日付けで訂正請求があった旨の通知をし、意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは、何ら応答がなされなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年6月19日の訂正請求の趣旨は、特許第7317000号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有する」とあるのを「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有し、前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~13も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項15に「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有する」とあるのを「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有し、前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」に訂正する。(請求項15の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。)
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~14は、訂正の対象となる請求項1を引用しているものであるから、請求項1~14は一群の請求項を構成する。
本件訂正前の請求項16は、訂正の対象となる請求項15を引用しているものであるから、請求項15、16は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1~14〕及び一群の請求項〔15、16〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否についての判断
訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「導電性添加剤」について、「前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」ことの限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
願書に添付した明細書の段落【0061】には「導電性添加剤の体積抵抗率は、例えば、・・・0.10Ω-cm・・・以下であってもよい。・・・導電性添加剤は、例えば、約2メガパスカル(MPa)・・・(例えば、2MPa)でそのような体積抵抗率を有し得る。」と記載されている。
また、当該明細書に記載の実施例において2MPaでの体積抵抗率が示されたものは、0.09Ω-cm(実施例1、【0145】)、0.07Ω-cm(実施例2、【0149】)、0.05Ω-cm(実施例3、【0151】)であり、何れも0.10Ω-cm未満である。
したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項14を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3
訂正事項4は、訂正前の請求項15に記載された「導電性添加剤」を、「前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」ことの限定を付加するものであるから、訂正事項1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕、〔15、16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし16に係る発明(以下「本件発明1ないし16」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
電気活性材料と導電性添加剤とを含む電極体であって、ここで、前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有し、前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である、電極体。
【請求項2】
動的光散乱法(DLS)により測定される前記導電性添加剤のZ平均粒径が、式
【数1】
Da=(2540+71(DBP))/S
に基づいて予測される値よりも少なくとも30%大きく、
式中、Daは最大凝集径(ナノメートル)であり、SはSTSA(m2/g)であり、そして、<DBP>は標準試験手順ASTM D2414に準拠したフタル酸ジブチルの体積(ml/100g)に等しく、又は、
前記導電性添加剤の粒子総数の少なくとも5%の自由空間割合が、計数に基づいて90%以上である、
請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
(i)前記導電性添加剤の抽出可能な総PAHが1ppm未満であるか、又は
(ii)前記導電性添加剤が99.8%超のトートを有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項4】
前記導電性添加剤が50ppm未満の総硫黄含有量を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項5】
前記導電性添加剤は、酸素が0.4重量%以下の酸素含有量を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項6】
前記導電性添加剤は、水素が0.4重量%未満の水素含有量を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項7】
前記導電性添加剤が1%以下の総灰含有量を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項8】
前記灰含有量の90%以下が、Fe、Ni及び/又はCoの金属不純物であり、
又は、前記導電性添加剤が、5ppm未満のFe、200ppb未満のCr、200ppb未満のNi、10ppb未満のCo、10ppb未満のZn、10ppb未満のSn、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項7に記載の電極体。
【請求項9】
前記導電性添加剤が、(i)0.3重量%以下の水分含有量を有するか、又は(ii)相対湿度80%雰囲気から前記導電性添加剤の表面積1平方メートルあたり水0.5ml(ミリリットル)未満の水を吸着する親和性を有するか、又は
(iii)0と8mJ/m2の間の水拡散圧力(WSP)を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項10】
前記導電性添加剤が、0.5μmol/m2以下の総表面酸基含有量を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項11】
前記導電性添加剤が、40ミクロンよりも大きい粒子を実質的に含まない、請求項1に記載の電極体。
【請求項12】
前記導電性添加剤が、固形分重量基準で0.05%と7%の間のホウ素濃度を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項13】
前記電極体が、5メガパスカル(MPa)において、107オームセンチメートル(Ω-cm)未満の抵抗を有する、請求項1に記載の電極体。
【請求項14】 (削除)
【請求項15】
結合剤と導電性添加剤とを含む導電層であって、ここで、前記導電性添加剤は3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比とを有し、前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である、導電層。
【請求項16】
前記導電性添加剤が、1.3以上の表面積/電子顕微鏡表面積(STSA/EMSA)比を有する、請求項15に記載の導電層。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし16に係る特許に対して、当審が令和6年3月18日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(サポート要件)本件の請求項1ないし16に係る特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題は、電池の軽量化及び効率性に関するものであり、具体的には「容量の増加又は向上」であると認められる。
しかしながら、本件発明1の「3.0nm超の格子定数(Lc)」及び「1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比」を満たす、実施例1では、容量保持率が、3Cで125mAh/g、5Cで115mAh/gとなっており、比較例1及び2と比べて同等以下の容量しか得られておらず、「容量の増加又は向上」が達成されていない。
そうすると、本件発明1の「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有する」との特定では「容量の増加又は向上」が達成できるとは限らず、本件発明1の上記特定では上記の課題を必ずしも解決できない。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が適切に反映されていない。
よって、請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、請求項15に係る発明、及び請求項15を引用する請求項16に係る発明も同様な理由により、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 当審の判断
発明の詳細な説明には「本開示の炭素粒子及び導電性添加剤は、電池用途に適した純度、表面積(例えばN2SA)、構造及び/又は導電性を有し得る。」(【0043】)、「導電性添加剤及び/又は充填剤の目的は、材料への及び/又は材料内の導電性経路を提供することであり得る。」(【0028】)及び「炭素粒子(例えば、導電性添加剤)は、高い導電性を有し得る(例えば、電池での高性能が望まれる場合)。高い導電率は、低い抵抗率に対応し得る(体積抵抗率など)。」(【0061】)と記載されている。
そして、電極体(正極活物質層)に添加する導電性添加剤の導電率を高めて、充放電特性を改善することは電池における一般的な課題といえるので、導電性添加剤の導電性を向上させることも、発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題の一つであると認められる。
そして、実施例及び比較例で用いられている導電性添加剤の「格子定数(Lc)」、「統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比」、及び「体積抵抗率」の関係は以下の表(意見書の記載を引用)のようになる。
【表】
[図:0001417646000001.jpg]
上記表より、「3.0nm超の格子定数(Lc)」及び「1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比」を満たす実施例1~3は、0.10Ω-cm未満の体積抵抗率を示し、優れた導電性を有することが解る。
したがって、「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有し、前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」と特定された請求項1、15に係る発明は、上記の課題を解決できるものである。
よって、請求項1ないし13、15、16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1ないし13、15、16に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 訂正前の請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由2
請求項1ないし16に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないめ、請求項1ないし16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立理由3
請求項1ないし16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由4
請求項1、3、4ないし11、13ないし15に係る発明は、甲第4号証の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、請求項1、3,4ないし11、13ないし15に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
証拠方法
甲第1号証:特表2016-526257号公報
甲第2号証:国際公開2017/048621号
甲第2号証の2:特表2018-534221号公報
甲第3号証:特開2014-93215号公報
甲第4号証:国際公開第2018/232263号(甲第4号証の外国語特許出願:PCT/US2018/037789号)
甲第4号証の2:特表2020-524192号公報
2 各号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。以下同様。)
「【請求項1】
リチウムイオン系電気活性材料;
100~250mL/100gの範囲のOANを有するカーボンブラック、
を含んでなり、
該カーボンブラックは、ラマン分光法によって測定される、少なくとも30Åの結晶子サイズ(La)を有している、
正極配合物。」
「【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項記載の前記正極配合物を含む正極。」
「【請求項20】
バインダーを更に含む、請求項18または19記載の正極。」
「【0055】
【表1】
[図:0001417646000002.jpg]
」
「【0058】
ラマン測定は、結晶ドメインの横方向サイズを捕捉するのに用いたが、表中ではLaラマン値によって示されている。初めは、基礎となるカーボンブラックの小さな結晶ドメインは21Åの水準のLaラマン値を有していたが、それは、1400℃での38Å(試料A)、そして最終的には2000℃での処理の後の95Å(試料B)まで増加した。同時に、%結晶化度もまた、ラマン測定によって、DおよびGバンドの比として測定されたが、慣用のカーボンブラックに典型的な33%から、1400℃での46%(試料A)、2000℃での熱処理後の68%(試料B)へと増加している。従って、基礎となるカーボンブラックから2000℃で熱処理された材料(試料B)へと進行するに従って、結晶化度は2倍以上になり、すなわちアモルファス相の量は、50%低下する。」
イ 上記記載より甲第1号証には、試料Bに着目すると正極に関して、次の技術的事項が記載されている。
・リチウムイオン系電気活性材料と、カーボンブラックを含む正極配合物と、バインダーを更に含む正極。(【請求項1】、【請求項18】、【請求項20】)。
・試料Bのカーボンブラックのラマン測定による結晶ドメインの横方向サイズであるLaラマン値が、95Åである。(【0058】、表1)
・試料BのカーボンブラックのN2BET表面積が、51m2/gである。(表1)
ウ 上記記載事項より、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「リチウムイオン系電気活性材料と、カーボンブラックを含む正極配合物と、バインダーを更に含む正極であって、
カーボンブラックが、
ラマン測定による結晶ドメインの横方向サイズであるLaラマン値が95Åで、
N2BET表面積が51m2/gである、正極。」
(2)甲第2号証
甲第2号証の翻訳文である甲第2号証の2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0032】
[0036]エラストマーの強化は、単純な粒子-基質の理論から予想される値を超えて増加する引張強度、耐引裂性、耐摩耗性、及びモジュラスの増加と定義される。言い換えると、カーボンナノ粒子は、カーボンブラックであろうと何らかの他のカーボンナノ粒子であろうと、エラストマーがタイヤ、ドアシール、ゴムホース等の用途でより有用となりうるように、ゴム状のエラストマーを硬化させることができる。」
「【0037】
【表1】
[図:0001417646000003.jpg]
」
「【0048】
[0047]0℃におけるタンデルタの増加は湿潤牽引力の改善と相関し、60℃におけるタンデルタの低下は転がり抵抗の改善と相関する。一般に、1つの温度におけるタンデルタを最適化する従来のトレッドゴム化合物は、他の温度におけるタンデルタに悪影響を及ぼす。したがって、基準ファーネスカーボンブラックと比較したとき、M550及びM762(上記の表3に提示)が0℃におけるタンデルタで同じ性能を示し、また60℃における性能の改善を示すことは驚異的である。これは、タイヤトレッドグレードのカーボンブラックにおいてウェットグリップ性能が維持される上に転がり抵抗が向上することに相当するはずである。」
(3)甲第3号証
「【0009】
・・・本発明で使用されるホウ素固溶カーボンブラックの固溶ホウ素量は、0.10~2.00質量%であることが好ましい。固溶ホウ素とは、カーボンブラック中に取り込まれ安定化したホウ素のことであり、導電性の付与に寄与する。」
「【0014】
本発明で使用されるホウ素固溶カーボンブラックは、20μm以上の凝集粒子が5ppm以下である。5ppmを超えると、活物質と混合時に凝集塊が残り、導電パス形成効果が低減するばかりか、電極膜として例えばバーコーターやドクターブレード等で塗工した際に、凝集粒子のために塗工スジができる。」
(4)甲第4号証
ア 甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、日本語ファミリーである甲第4号証の2の記載を、甲第4号証の和訳文として以下に記載した。)
「【請求項1】
電気伝導性基材、および
該電気伝導性基材の表面によって支持された組成物、該組成物は、80m2/g~1100m2/gの範囲のブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積、300mL/100g以下のオイル吸収数、10mJ/m2以下の表面エネルギー、および165nm以下のD50値を有する粒子径分布を有するカーボンブラック粒子を含んでいる、
を含んでなる電極。」
「【請求項3】
前記カーボンブラック粒子が、50Å以上のLa結晶子サイズ、および/または40Å以上のLc結晶子サイズを有する、
請求項1または2記載の電極。」
「【請求項12】
前記組成物が、リチウムイオン系の電気活性材料を更に含む、請求項1~11のいずれか1項記載の電極。」
「【0034】
・・・幾つかの態様では、カーボンブラック粒子は、0.8:1より大きな、例えば0.82:1より大きな、または0.84:1より大きな、または0.86:1より大きな、または0.88:1より大きな、または0.9:1より大きな、または0.92:1より大きな、または0.94:1より大きな、または0.96:1より大きな、または0.98:1より大きな、BET表面積に対するSTSAの比(STSA:BET)を有している。統計的厚さ表面積は、幾つかの場合には、幾つかのカーボンブラック粒子の熱処理は、STSAを定める能力に影響する可能性があるので、そのような測定が合理的に可能である限り、ASTM D6556-10によって測定される。」
イ 上記記載より甲第4号証には、電極に関して、次の技術的事項が記載されているといえる。
・電気伝導性基材、および、該電気伝導性基材の表面によって支持された組成物を含んでなる電極。(【請求項1】)
・組成物は、カーボンブラック粒子と電気活性材料を含んでいる。(【請求項1】、【請求項12】)
・カーボンブラック粒子が、40Å以上のLc結晶子サイズを有している。(【請求項3】)
・カーボンブラック粒子が、0.98:1より大きなBET表面積に対するSTSAの比(STSA:BET)を有している。(【0034】)
ウ 上記記載事項より、甲第4号証の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
「電気伝導性基材、および、該電気伝導性基材の表面によって支持された組成物を含んでなる電極であって、
該組成物は、カーボンブラック粒子と電気活性材料を含み、
カーボンブラック粒子が、40Å以上のLc結晶子サイズを有し、0.98:1より大きなBET表面積に対するSTSAの比(STSA:BET)を有している、電極。」
3 当審の判断
(1)申立理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 異議申立人の主張の概要
発明の詳細な説明には、本件発明1で特定される導電性添加剤を用いた実施例1~3が記載されているが(【0142】~【0153】)、実施例1~3でいう「本開示のプロセス」が具体的にどのようなプロセスを指しているのか、発明の詳細な説明の【0087】~【0141】の記載を参酌して理解できない。
したがって、本件発明1に係る「3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有する」「導電性添加剤」を作れるように、発明の詳細な説明の記載がなされていない。(特許異議申立書12頁13行~13頁16行)
イ 当審の判断
発明の詳細な説明には実施例4について、「炭素粒子は、炭化水素インジェクタが2つの同心電極の中心に挿入される図8に示すものと同様のセットアップを使用して製造される。インジェクタの先端部は、電極の平面から14インチ上にあり、電極は850kWで動作している。電極間の環における水素流量は235Nm3/時(通常の立方メートル/時間)で、電極の外側のシールドフローは192Nm3/時である。天然ガスは103kg/時間の割合で注入される。メタン変換率に基づくカーボンナノ粒子の収率は94%超である。」(【0152】)と具体的に製造方法が記載されている。
そして、「この例における炭素粒子のサンプル(例えばカーボンナノ粒子)は、N2SAは45.6m2/g、STSAは48.8m2/g」「Lcは6.9nm」(【0153】)と、表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比が1.07(=48.8/45.6)、格子定数(Lc)が6.9nmであることが示されている。
そうすると、少なくとも発明の詳細な説明の実施例4には、本件発明1に係る「3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有する」「導電性添加剤」を作れるように具体的に記載されている。
したがって、請求項1ないし13、15、16に係る発明について、発明の詳細な説明の記載には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。
(2)申立理由3(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。
a 甲1発明の「リチウムイオン系電気活性材料」、「カーボンブラック」は、それぞれ、本件発明1の「電気活性材料」、「導電性添加剤」に相当する。
b 甲1発明の「リチウムイオン系電気活性材料と、カーボンブラックを含む正極配合物と、」を「含む正極」は、甲1発明の「電気活性材料と導電性添加剤とを含む電極体」に相当する。
但し、本件発明1は「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有し、前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」のに対して、甲1発明はそのような特定がない点で相違する。
上記a及びbによれば、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「電気活性材料と導電性添加剤とを含む電極体。」
(相違点1)
本件発明1は「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有し、前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」のに対して、甲1発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
甲1発明はLaラマン値やN2BET表面積の値が特定されているにすぎず、また、甲第1号証にも、カーボンブラックの格子定数(Lc)、統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比、及び体積抵抗率については記載されていない。
そうすると、甲1発明の「カーボンブラック」において、格子定数(Lc)、統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比、及び体積抵抗率に着目し、その値を本件発明1で特定する範囲に含まれるものに限定すべき理由を見出すことはできない。
また、特許異議申立人は、甲第2号証の表1に、カーボンナノ粒子である「M762」が、N2SAで24.5m2/g、STSAで26.5m2/g、Lcで6.8nmの値であること(即ち、6.8nmの格子定数(Lc)と、1.08の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比)、及び、カーボンナノ粒子である「M550」が、N2SAで45.6m2/g、STSAで48.8m2/g、Lcで6.9nmの値であること(即ち、6.9nmの格子定数(Lc)と、1.07の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比)が記載されているので、「3.0nm超の格子定数(Lc)と1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比を有する」カーボンブラックは当業者によく知られたもので、相違点に係る数値範囲が何ら特殊なものでなく、当業者の通常の創作能力の発揮により想到し得る旨を主張している。(特許異議申立書15頁14-21行)
しかしながら、甲第2号証のカーボンナノ粒子はタイヤ、ドアシール、ゴムホース等の用途を想定したものであり(【0032】)、特に、0℃においてタンデルタを増加させてかつ60℃においてタンデルタを低下させることにより、タイヤのウェットグリップ性能の維持や転がり抵抗を向上させるものである(【0048】)。
そうすると、リチウムイオン電池の「正極」である甲1発明に、甲第2号証に記載のタイヤ用のカーボン粒子における数値範囲を適用する理由はなく、例え適用したとしても、体積抵抗率が2MPaにおいて0.10Ω-cm未満であることを導き出すことは出来ない。
したがって、上記相違点1に係る構成は、甲1発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明11について
甲第3号証には「本発明で使用されるホウ素固溶カーボンブラックは、20μm以上の凝集粒子が5ppm以下である。」(【0014】)と記載されているものの上記相違点1に係る構成は記載されていない。
そして、請求項11は請求項1を引用するものであるから甲第3号証の記載を考慮しても、本件発明11は、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明12について
甲第3号証には「本発明で使用されるホウ素固溶カーボンブラックの固溶ホウ素量は、0.10~2.00質量%であることが好ましい。」(【0009】)と記載されているものの上記相違点1に係る構成は記載されていない。
そして、請求項12は請求項1を引用するものであるから甲第3号証の記載を考慮しても、本件発明12は、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明15、16について
本件発明15、16は、上記相違点1に係る構成と同じ構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由4(特許法第29条の2)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明を対比すると、次のことがいえる。
a 甲4発明の「カーボンブラック粒子」は、本件発明1の「導電性添加剤」に相当する。
したがって、甲4発明の「カーボンブラック粒子と電気活性材料を含」む「電極」は、本件発明1の「電気活性材料と導電性添加剤とを含む電極体」に相当する。
b 甲4発明の「カーボンブラック粒子が、40Å以上のLc結晶子サイズを有」することは、本件発明1の「前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)」「を有」することに相当する。
但し、本件発明1は「前記導電性添加剤は」「1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比とを有」するのに対して、甲4発明は「カーボンブラック粒子が、」「0.98:1より大きなBET表面積に対するSTSAの比(STSA:BET)を有している」点で相違する。
また、本件発明1は「前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」のに対して、甲4発明はそのような特定がない点で相違する。
上記a及びbによれば、本件発明1と甲4発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「電気活性材料と導電性添加剤とを含む電極体であって、ここで、前記導電性添加剤は、3.0nm超の格子定数(Lc)である、電極体。」
(相違点2)
本件発明1は「前記導電性添加剤は」「1.01~1.4の統計的厚さ表面積/窒素表面積(STSA/N2SA)比とを有」するのに対して、甲4発明は「カーボンブラック粒子が、」「0.98:1より大きなBET表面積に対するSTSAの比(STSA:BET)を有している」点。
(相違点3)
本件発明1は「前記導電性添加剤の体積抵抗率が、2MPaにおいて0.10Ω-cm未満である」のに対して、甲4発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
まず、上記相違点3について検討する。
甲4発明は「カーボンブラック粒子」について「40Å以上のLc結晶子サイズを有し、0.98:1より大きなBET表面積に対するSTSAの比(STSA:BET)を有している」と特定されているにすぎず、また、甲第4号証にも、カーボンブラック粒子の体積抵抗率は記載されていない。
そうすると、甲4発明の「カーボンブラック粒子」において、体積抵抗率に着目し、その値を本件発明1で特定する範囲に含まれるものに限定することは、甲第4号証の記載から導き出せない構成を付加するものであり、課題解決のための具体化手段の微差とはいえない。したがって、上記相違点3に係る構成は実質同一ではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証の外国語特許出願に記載された発明と同一でない。
イ 本件発明3,4ないし11、13について
本件発明3,4ないし11、13は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第4号証の外国語特許出願に記載された発明と同一でない。
ウ 本件発明15について
本件発明15は、上記相違点3に係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第4号証の外国語特許出願に記載された発明と同一でない。
(4)まとめ
したがって、特許異議申立人の申立理由2ないし4にかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし13、15、16に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし13、15、16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項14に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項14に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700065