2024-700525
インターコネクタ部材、および、インターコネクタ部材の製造方法
- 審判番号
- 2024-700525
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-227820外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7390648
- 請求日
- 2024年06月04日
- 審決日
- 2024年10月30日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本特殊陶業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人プロスペック特許事務所
- 【権利者】国立大学法人室蘭工業大学
- 【権利者代理人】弁理士法人プロスペック特許事務所
- 【異議申立人】西内 大生
- 分類
- P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
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特許第7390648号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、令和1年12月18日に出願され、令和5年11月24日にその特許権が設定登録され、令和5年12月4日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年10月1日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7390648号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-5に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載のインターコネクタ部材であって、前記第2の被膜層の前記外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である、」と記載されているのを、「FeとCrとを含有する金属部材と、前記金属部材における第1の方向の一方側に配置され、Cr酸化物を含有する第1の被膜層と、前記第1の被膜層における前記一方側に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有する第2の被膜層と、を備えるインターコネクタ部材であって、前記第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であり、前記2の被膜層における前記一方側の部分を外側部分とし、前記第2の被膜層のうちの前記外側部分と前記第1の被膜層との間に位置する部分を内側部分としたとき、前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記外側部分における気孔率S1(%)は、前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きく、前記第2の被膜層の前記外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である、」に訂正する(請求項2の記載を直接的にまたは間接的に引用する請求項3~5においても同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または請求項2に記載のインターコネクタ部材において、」と記載されているのを、「請求項2に記載のインターコネクタ部材において、」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4においても同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のインターコネクタ部材の製造方法であって、」と記載されているのを、「請求項2または請求項3に記載のインターコネクタ部材の製造方法であって、」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する)。
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1ないし4に係る本件訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1を直接または間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし5に対応する本件訂正の請求項〔1-5〕は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項1に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用するものであったのを、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3の「請求項1または請求項2に記載のインターコネクタ部材」を、「請求項2に記載のインターコネクタ部材」とする訂正であって、訂正事項1により削除された請求項1を引用するという不明瞭な状態を正すための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4について
訂正事項4に係る請求項4の訂正は、訂正前の請求項4の「請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のインターコネクタ部材」を、「請求項2または3に記載のインターコネクタ部材」とする訂正であって、訂正事項1により削除された請求項1を引用するという不明瞭な状態を正すための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
オ 独立特許要件について
訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし5について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号および第3号ならびに第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】(削除)【請求項2】FeとCrとを含有する金属部材と、前記金属部材における第1の方向の一方側に配置され、Cr酸化物を含有する第1の被膜層と、続きを表示(全27行)前記第1の被膜層における前記一方側に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有する第2の被膜層と、を備えるインターコネクタ部材であって、前記第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であり、前記第2の被膜層における前記一方側の部分を外側部分とし、前記第2の被膜層のうちの前記外側部分と前記第1の被膜層との間に位置する部分を内側部分としたとき、前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記外側部分における気孔率S1(%)は、前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きく、前記第2の被膜層の前記外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である、ことを特徴とするインターコネクタ部材。【請求項3】請求項2に記載のインターコネクタ部材において、前記インターコネクタ部材は、電解質層と前記電解質層を挟んで前記第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含み、前記空気極および前記燃料極の少なくとも一方である特定電極の表面に面するガス室が形成された電気化学反応単セルを備える複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、前記金属部材に、前記第1の方向の前記一方に突出する複数の凸部が形成され、前記複数の凸部が前記第1の被膜層および前記第2の被膜層によって覆われており、前記複数の凸部が前記特定電極に接続されることにより前記特定電極に電気的に接続される導電性部材であり、前記第1の方向における前記一方とは反対の方向を他方とし、前記第1の方向に直交する方向を第2の方向とし、前記第2の被膜層のうち、前記第1の方向における前記金属部材の前記一方側の先端を通る前記第2の方向の仮想直線よりも前記一方に位置する部分を第1の部分とし、前記仮想直線よりも前記他方に位置し、少なくとも一部が前記ガス室に面する部分を第2の部分としたとき、前記第2の被膜層の前記第1の部分の気孔率Saは、前記第2の被膜層の前記第2の部分の気孔率Sbよりも少ない、ことを特徴とするインターコネクタ部材。【請求項4】請求項2または3に記載のインターコネクタ部材の製造方法であって、前記金属部材を準備する第1の工程と、前記金属部材に、泳動電析によりMn酸化物層を形成する第2の工程と、前記Mn酸化物層に、メッキによりCoを含有するCoメッキ層を形成する第3の工程と、前記第1の工程、前記第2の工程、および前記第3の工程を経た前記金属部材を焼成することにより、前記金属部材に前記第1の被膜層および前記第2の被膜層を形成する第4の工程と、を備える、ことを特徴とするインターコネクタ部材の製造方法。【請求項5】請求項4に記載のインターコネクタ部材の製造方法であって、前記第2の工程において、前記金属部材を浸す溶剤として、ケトン類の溶剤を用いる、ことを特徴とするインターコネクタ部材の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和6年8月1日付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献1:"Microstructural and electrical characterization of Mn-Co spinel protective coatings for solid oxide cell interconnects", Journal of the European Ceramic Society, Volume 37, 2017, pp4781-4791(甲第1号証)
2 当審の判断
本件訂正により、請求項1は削除されたので、上記取消理由通知で通知した取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人の主張
請求項2-5に係る特許について、申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張している。
(1)理由2(進歩性)について
請求項2に係る発明は下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、請求項4に係る発明は下記の甲第1または2号証に記載された発明に基づいて、或いは、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された技術或いは慣用技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:"Microstructural and electrical characterization of Mn-Co spinel protective coatings for solid oxide cell interconnects", Journal of the European Ceramic Society, Volume 37, 2017, pp4781-4791
甲第2号証:"Electrophoretic deposition of Mn1.5Co1.5O4 on metallic interconnect and interaction with glass-ceramic sealant for solid oxide fuel cells application", Journal of Power Sources, Volume 280, 2015, pp379-386
(2)理由3(実施可能要件)について
本件請求項2ないし5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
「本件特許発明の具体例である3つのサンプル(Sp1、Sp2、Sp3)について、本件明細書には、サンプルSp1およびSp2は、本実施形態のインターコネクタ複合体200のサンプルであり、サンプルSp3は、比較例のインターコネクタ複合体のサンプルである、と記載されている(本件明細書の〔0072〕段落及び〔0073〕段落)サンプルSp1においては、外側部分197に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合が60atm%以上(より具体的には、70atm%)であるのに対し、サンプルSp2においては、サンプルSp1に対して、当該割合が60atm%未満(より具体的には、50atm%)である。また、サンプルSp1及びサンプルSp2について、外側部分197における気孔率S1は30%であり、内側部分198における気孔率S2は10%であった、と記載されている(本件明細書の〔0072〕段落)。サンプルSp3について、サンプルSp3の外側部分のMnの物質量は、60atm%以上(より具体的には、70atm%)である。また、外側部分197における気孔率S1は20%であり、内側部分198における気孔率S2は15%であった、と記載されている(本件明細書の〔0073〕段落)。・・・サンプルSp1、Sp2及びSp3の外側部分197に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合や気孔率が上記構成となるようにするための具体的な情報が十分に開示されていない。焼成時の温度について、・・・当該甲2の記載から、1000℃より低い温度で焼成した場合は、Crの外部拡散を防止することができない。一方、本件明細書においては、〔0060〕段落において『例えば1000℃以下の所定の温度で所定の時間』と記載されているのみであり、焼成温度、焼成時間、及び焼成時の雰囲気についての具体的な記載がない。その他、Mn酸化物の固形分濃度、Coイオン濃度、電極間の距離、電界強度、堆積時間等といった具体的な情報の開示がない。本件特許発明のインターコネクタを製造するための具体的な指針が十分に開示されていない以上、当業者がこれに従って製造しようとしても、製造できるか不明なまま不相当に多くの試行錯誤をしなければならない。また、サンプルSp1及びSp2のMn-Co被膜層196におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であると記載されているが、具体的な比率についての開示がない。本件明細書に記載の製造方法によって上記比率となるのか不明である。さらに、サンプルSp3のMn-Co被膜層196におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は不明であり、どのような製造方法によってできるのか不明である。以上の通り、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施できる程度の明確かつ十分な記載が存在せず、当業者が本件特許発明1を実施するにあたって、当業者に過度の試行錯誤や負担を強いることは明らかであるから、本件特許発明1は実施可能要件を充足していない。また、これを引用する本件特許発明2~5も同様に実施可能要件を充足していない。」(第38頁第1行ないし第40頁第3行)
(3)理由4(明確性要件)について
本件請求項2ないし5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
「本件特許発明1の発明特定事項には、『第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2』、『外側部分における気孔率S1(%)は、内側部分における気孔率S2(%)よりも大きい』と規定されている。しかし、『第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比』が、『1:1~2』であることを、どのような測定方法によって知ることができるのかが不明であり、第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比が客観的に定まらない。さらに、『外側部分における気孔率S1(%)』は、『内側部分における気孔率S2(%)よりも大きい』ことを、どのような測定方法によって知ることができるのかが不明であり、外側部分における気孔率S1(%)及び内側部分における気孔率S2(%)の数値は客観的に定まらない。・・・本件特許発明2の発明特定事項には、『第2の被膜層の前記外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である』と規定されている。しかし、『第2の被膜層の前記外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合』が『60(atm%)以上である』ことをどのような測定方法によって知ることができるのかが不明である。」(第40頁第8行ないし第41頁第7行)
2 当審の判断
(1)甲各号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された技術事項
(ア)第4782頁右欄第49行ないし第4783頁左欄第5行の記載によれば、甲第1号証には「Crofer 22 APUを蒸着用基材として使用すると共に市販のMn1.5Co1.5O4スピネル粉末をエタノールと脱イオン水の混合液(EtOH/H2Oの体積比60/40)に固形分37.5 g L-1で分散させた懸濁液を使用し、電界強度50 V cm-1、析出時間20秒で、EPDにより蒸着し、静止空気雰囲気中、1000℃で2時間(加熱速度10℃ min-1)焼成してMn1.5Co1.5O4層を均質化した、Mn1.5Co1.5O4コーティングCrofer 22 APU試料」が記載されている。
(イ)第4783頁右欄第3ないし9行の記載、第4784頁左欄第16ないし29行の記載、そして、図3Aから、Crofer 22 APUに形成された酸化物皮膜であるCr2O3と直接接触しているMn-Co層は、Mn1.5Co1.5O4であることがみてとれることより、甲第1号証に記載された、EPDによりコーティングしたCrofer 22 APU試料は、「(Mn,Co)3O4スピネル相が存在する厚さ15μmのMn-Co層を有し、Mn-Co層は、外側はより多孔質で、内側は緻密な層であって、Crofer 22 APUに形成された酸化物皮膜と直接接触しているMn1.5Co1.5O4であり、酸化物は純粋なクロム酸化物(Cr35.6at.%、O56.4at.%)で構成されて」いると認められる。
(ウ)第4781頁のABSTRACT記載によれば、甲第1号証は、固体酸化物形燃料電池に用いられるスチールインターコネクタのコーティング法について開示するものであって、甲第1号証に記載されたMn1.5Co1.5O4コーティングCrofer 22 APU試料は、固体酸化物形燃料電池のスチールインターコネクタとして用いられるものであると認められる。
イ 甲第1号証に記載された発明
上記「ア(ア)」ないし「ア(ウ)」より、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「Crofer 22 APUを蒸着用基材として使用すると共に市販のMn1.5Co1.5O4スピネル粉末をエタノールと脱イオン水の混合液(EtOH/H2Oの体積比60/40)に固形分37.5 g L-1で分散させた懸濁液を使用し、電界強度50 V cm-1、析出時間20秒で、EPDにより蒸着し、静止空気雰囲気中、1000℃で2時間(加熱速度10℃ min-1)焼成してMn1.5Co1.5O4層を均質化した、Mn1.5Co1.5O4コーティングCrofer 22 APU試料であって、(Mn,Co)3O4スピネル相が存在する厚さ15μmのMn-Co層を有し、Mn-Co層は、外側はより多孔質で、内側は緻密な層であって、Crofer 22 APUに形成された酸化物皮膜と直接接触しているMn1.5Co1.5O4であり、酸化物は純粋なクロム酸化物(Cr35.6at.%、O56.4at.%)で構成されてなり、固体酸化物形燃料電池のスチールインターコネクタとして用いられる、Mn1.5Co1.5O4コーティングCrofer 22 APU試料。」
ウ 甲第2号証に記載された技術事項
(ア)第381頁左欄第4ないし36行の記載によれば、甲第2号証には「Crofer22APUシートを基板として採用すると共にエタノールと脱イオン水の混合液(EtOH/H2Oの体積比は60/40)を用いて適量のMn1.5Co1.5O4スピネル粉末を分散させた固形分37.5g L-1の濃縮懸濁液を使用し、50Vで1分または20秒の蒸着時間でスピネルコーティングを作製し、その後、緻密で均質なMn1.5Co1.5O4層を形成するために、アルゴン雰囲気または空気雰囲気中で、800℃、1000℃、1150℃で2時間の熱処理を行った、Mn1.5Co1.5O4でコーティングされたCrofer22APU試料」が記載されているものと認められる。
(イ)第382頁右欄第21ないし31行の記載によれば、「CrはMn1.5Co1.5O4被膜のすぐ下に限られており、少量のMnを含むCrofer22APU鋼を800-1000℃前後の温度で空気中で熱処理すると、保護的なCrリッチなサブスケールと外側の(Mn, Cr)3O4スピネル層からなる二層酸化スケールが成長する」。
(ウ)第382頁右欄第32ないし35行の記載によれば、「Mn1.5Co1.5O4コーティングの内層と中心層は外層よりも緻密である」。
(エ)第379頁左欄第2行ないし第380頁左欄第33行の記載によれば、甲第2号証に記載されたCrofer22APUは固体酸化物形燃料電池の金属インターコネクトとして用いられるものと認められる。
エ 甲第2号証に記載された発明
上記「ウ(ア)」ないし「ウ(エ)」より、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「Crofer22APUシートを基板として採用すると共にエタノールと脱イオン水の混合液(EtOH/H2Oの体積比は60/40)を用いて適量のMn1.5Co1.5O4スピネル粉末を分散させた固形分37.5g L-1の濃縮懸濁液を使用し、50Vで1分または20秒の蒸着時間でスピネルコーティングを作製し、その後、緻密で均質なMn1.5Co1.5O4層を形成するために、アルゴン雰囲気または空気雰囲気中で、800℃、1000℃、1150℃で2時間の熱処理を行った、Mn1.5Co1.5O4でコーティングされたCrofer22APU試料であって、CrはMn1.5Co1.5O4被膜のすぐ下に限られており、少量のMnを含むCrofer22APU鋼を800-1000℃前後の温度で空気中で熱処理すると、保護的なCrリッチなサブスケールと外側の(Mn, Cr)3O4スピネル層からなる二層酸化スケールが成長し、Mn1.5Co1.5O4コーティングの内層と中心層は外層よりも緻密である、固体酸化物形燃料電池の金属インターコネクトとして用いられる、Mn1.5Co1.5O4でコーティングされたCrofer22APU試料。」
(2)理由2(進歩性)について
ア 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
a Crofer 22 APUは、CrおよびFeを含有する、固体酸化物形燃料電池用に作られたフェライト系ステンレス鋼として知られているから、甲1発明の「Crofer 22 APU」は、本件発明2の「FeとCrとを含有する金属部材」に相当する。
b 甲1発明の「酸化物皮膜」は、Crofer 22 APUに形成された純粋なクロム酸化物(Cr35.6at.%、O56.4at.%)で構成されているものであるから、本件発明2の「前記金属部材における第1の方向の一方側に配置され、Cr酸化物を含有する第1の被膜層」に相当する。
c 甲1発明の「Mn-Co層」は、酸化物皮膜と直接接触しているMn1.5Co1.5O4であるから、酸化物皮膜の一方側に配置されるMnとCoとを含有する酸化物といえ、(Mn,Co)3O4スピネル相が存在するから、上記「Mn-Co層」のMn1.5Co1.5O4はスピネル型の酸化物であるものと認められる。
してみると、甲1発明の「Mn-Co層」は、本件発明2の「前記第1の被膜層における前記一方側に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有する第2の被膜層」に相当する。
d 甲1発明の「Mn1.5Co1.5O4コーティングCrofer 22 APU試料」は、固体酸化物形燃料電池のスチールインターコネクタとして用いられるものであり、本件発明2の「インターコネクト部材」に対応するといえる。
e 甲1発明の「Mn-Co層」は、Mn1.5Co1.5O4であるから、Mn-Co層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は1:1であり、甲1発明の「Mn-Co層」は本件発明2の「前記第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2」に含まれる構成を有する。
f 甲1発明の「Mn-Co層」は、酸化物皮膜と直接接触しているから、その「外側」は酸化物皮膜と接する側と反対側であり、本件発明2の「前記第2の被膜層における前記一方側の部分」である「外側部分」に相当する。
また、甲1発明の「Mn-Co層」の「内側」は、酸化物皮膜と接する部分であり、本件発明2の「前記第2の被膜層のうちの前記外側部分と前記第1の被膜層との間に位置する部分」である「内側部分」に相当する。
そして、甲1発明の「Mn-Co層」は、外側はより多孔質で、内側は緻密な層であるから、外側における気孔率は内側の気孔率よりも大きいといえる。
してみると、甲1発明における「Mn-Co層は、外側はより多孔質で、内側は緻密な層であり、Crofer 22 APUに形成された酸化物皮膜と直接接触している」ことは、本件発明2における「前記第2の被膜層における前記一方側の部分を外側部分とし、前記第2の被膜層のうちの前記外側部分と前記第1の被膜層との間に位置する部分を内側部分としたとき、前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記外側部分における気孔率S1(%)は、前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きい」ことに相当する。
g 本件発明2は「前記第2の被膜層の前記外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
h 上記aないしgによれば、本件発明2と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「FeとCrとを含有する金属部材と、前記金属部材における第1の方向の一方側に配置され、Cr酸化物を含有する第1の被膜層と、前記第1の被膜層における前記一方側に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有する第2の被膜層と、を備えるインターコネクタ部材であって、前記第2の被膜層におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2であり、前記第2の被膜層における前記一方側の部分を外側部分とし、前記第2の被膜層のうちの前記外側部分と前記第1の被膜層との間に位置する部分を内側部分としたとき、前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記外側部分における気孔率S1(%)は、前記内側部分における気孔率S2(%)よりも大きいことを特徴とするインターコネクタ部材。」
〈相違点〉
本件発明2は「前記第2の被膜層の前記外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点。
(イ)判断
上記相違点について検討する。
上記相違点について申立人は、甲第1号証の第4789頁左欄第10ないし12行には、図9の元素マップの分析から、Mn2CoO4スピネル相がMnCo2O4スピネル相よりも高い程度で示されている旨記載され、また、甲第1号証の図8Cに示される5000時間電気測定後の電気泳動堆積試料の断面のEDSラインスキャン分析の結果からは、第2の被覆膜の外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合が60(atm%)以上である部分が存在することが見てとれる旨主張している(申立書第34頁第6ないし11行)。
しかしながら、Mn2CoO4スピネル相がMnCo2O4スピネル相よりも高い程度という甲第1号証の上記記載のみから、電気泳動堆積試料の外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、60(atm%)以上であるとまではいえず、また、甲第1号証の図8Cからは、申立人が主張している構成を見てとることはできない。さらに、甲第1号証の図8Aに記載された組成(at.%)から算出される電気泳動堆積試料の外側部分の(Mn,Co)3O4層での酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合は、約54.3(atm%)および約58.5(atm%)である。
そして、甲第1号証のその他の記載を見ても、電気泳動堆積試料の外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合を60(atm%)以上とすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲第1号証に記載された発明に基づいて、上記相違点に係る構成を得ることは、本件特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、当業者という。)であっても、容易になし得たこととはいえない。
そして、本件明細書の【0065】の記載を考慮すれば、本件発明2は、上記相違点に係る構成を備えることにより、Mn-Co被膜層における熱伝導が抑制され、Mn-Co被膜層と酸化被膜層との熱膨張差による応力が生じることに起因するMn-Co被膜層の酸化被膜層からの剥離をより効果的に抑制することができるものである。
よって、本件発明2は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明4について
本件訂正により、本件発明4は、本件発明2を引用するものと、本件発明2を引用する本件発明3を引用するものとなった。
そして、本件発明4が引用する本件発明2は、上記イのとおり、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同様の理由により、本件発明4も、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものではない。
また、上記2(1)ウないしエのとおり、甲第2号証は「固体酸化物型燃料電池の金属インターコネクトとして用いられるMn1.5Co1.5O4でコーティングされたCrofer 22 APU試料」を開示するものの、上記相違点に係る構成、すなわち、「第2の被膜層の外側部分に存在する、酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合を60(atm%)以上とする」構成は記載も示唆もされていない。そして、当該構成が慣用技術であるとも認められないから、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明に加えて、甲第2号証に記載された発明ならびに慣用技術に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)理由3(実施可能要件)について
本件の明細書段落【0057】ないし【0060】には、金属部材にメッキによりNiメッキ層を形成し、次に、ケトン類の溶剤を含む溶液にMnO粉末及びヨウ素を入れ、溶液中に金属部材と炭素電極を入れ、金属部材と炭素電極との間に電圧を印加することにより、プロトンが付着したMn酸化物がNiメッキ層に引き寄せられ、Niメッキ層に付着したプロトンが電子を受け取りH2となりNiメッキ層から離脱しMn酸化物が残ることにより多孔質のMn酸化物層を形成し、次に、Coイオンを含む溶液に金属部材とCo電極を入れ、金属部材とCo電極との間に電圧を印加することにより、CoイオンをMn酸化物層に引き寄せてMn酸化物層に付着させ、Mn酸化物層に形成された気孔を埋めるCoメッキ層を形成し、次に、金属部材を1000℃以下の所定の温度で所定の時間大気中で熱処理することにより、酸化被膜層の表面上にMn-Co被膜層が形成され、インターコネクタ複合材が製造されることが記載されている。
これらの記載によれば、Mn酸化物層形成用の溶液中のMnO粉末の量や金属部材と炭素電極との間の電圧等を調整することにより金属部材の外側部分に付着するMn酸化物の量を調整可能であり、Coメッキ層形成用の溶液中のCoイオンの量や金属部材とCo電極との間の電圧等を調整することにより金属部材の外側部分のMn酸化物層に形成された気孔を埋めるCoメッキの量を調整可能であると、当業者は認識し得る。
そして、上記Mn酸化物の量とCoメッキの量を調整することで、金属部材の外側部分に存在する酸素元素を除いた残りの元素の物質量に対するMnの物質量の割合や気孔率が調整可能であることは、当業者には自明のことと認められる。
そうしてみると、当業者であれば、如何なる変量を調整すればMnの物質量の割合や気孔率を調整可能であるかを理解することができるから、変量の具体的な数値が開示されていないとしても、本件発明2ないし5を実施するにあたり、当業者に過度の試行錯誤を強いるとまではいえない。
また、サンプルSp1、Sp2のMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比が1:1~2であると記載されるのみで各サンプルの具体的な比率についての開示がないことが、当業者にとって、本件発明2ないし5の実施を困難にしているとも認められない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2ないし5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえないから、本件請求項2ないし5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものでない。
(5)理由4(明確性要件)について
甲第1号証及び2号証にもみられるように、電子顕微鏡を用いたEDS分析等で物質の組成(各元素の濃度)を測定することは、当業者には周知のことであり、本件明細書において、第2の被膜層のMnの濃度(atm%)、Coの濃度(atm%)及びそれらの比の具体的な測定方法が特定されていないとしても、当業者であれば、EDS分析等の通常用いられる一般的な測定方法を用いて測定されたものと理解し得る。
また、電子顕微鏡により得られた画像の解析等により試料の構造を測定することも当業者には周知のことであり、本件明細書に第2の被膜層の気孔率の具体的な測定方法が特定されていないとしても、当業者であれば、電子顕微鏡により得られた画像の解析等の通常用いられる一般的な測定方法を用いて測定されたものと理解し得る。
したがって、本件明細書において、第2の被膜層の各元素の濃度や気孔率の具体的な測定方法が特定されていないとしても、本件発明2は、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項2を引用する請求項3ないし5に係る発明についても同様である。
よって、本件請求項2ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない発明に対してされたものでない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項2ないし5に係る特許を取り消すことはできない。さらに、ほかに請求項2ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1は訂正により削除されたため、請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700525