特許異議申立
2017-700036
フォトマスクブランクス基板収納容器
- 審判番号
- 2017-700036
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-536432外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年01月13日
- 審決日
- 2018年01月10日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】信越ポリマー株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 洋
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 洋
- 【異議申立人】小関 勝成
- 分類
- P1651.121-ZDB(G03F) / P1651.536-ZDB(G03F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第3項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5952972号発明「フォトマスクブランクス基板収納容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
平成29年8月28日付け訂正請求において、特許第5952972号の特許請求の範囲を訂正後の請求項〔1-4〕、5について訂正することを認める。請求項6について訂正することを認めない。
特許第5952972号の請求項1ないし5に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
同請求項6に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5952972号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2014年7月24日(優先権主張 2013年9月11日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月17日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成29年1月13日付けで、その特許の請求項1ないし6に係る特許について、特許異議申立人、小関勝成により特許異議の申立てがなされたものである。
その後、同年3月22日付けで取消理由が通知され、同年5月18日付けで意見書が提出され、同年6月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年8月28日付けで意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、同年10月13日付けで異議申立人からの意見書が提出され、同年11月8日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年12月8日付けで意見書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年8月28日になされた訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1,2,3,4,5を削除する。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法により測定されるアウトガス中のカプロラクタム量が」
と記載されているのを、
「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法によりアウトガス中のカプロラクタムを分析してその量が」
に、同請求項中の
「かつ、表面抵抗値が1.0E+13オーム以下となる熱可塑性樹脂から成る構成部品を用いて、」
と記載されているのを、
「かつ熱可塑性樹脂から成る構成部品の表面抵抗値が1.0E+13オーム以下となる熱可塑性樹脂を選定し、その熱可塑性樹脂から成る構成部品を用いて、」
に、それぞれ訂正する。(下線は訂正個所を示す。)
2 訂正拒絶理由の概要
当審において通知された、本件訂正における訂正事項2に対しての訂正拒絶理由の概要は次のとおりである。
(1)新規事項の有無について
ア 上記の訂正事項2の訂正により、請求項6には、製造方法の発明において「(アウトガス中のカプロラクタムを)分析して」「(その量が・・・以下となる)熱可塑性樹脂を選定する」という発明特定事項(以下「分析して選定する特定事項」という。)が付加されたといえる。
イ 本件特許の明細書の発明の詳細な説明(【0006】~【0008】参照)においては、「好適なプラスチック材料の選定をするため、アウトガス成分中の窒素含有化合物総量を測定しなければならず、時間とコストがかかる」から「好適なプラスチック材料の選定をより簡略化」することを目的とするが、その手段は「プラスチック材料から発生するカプロラクタムが一定量以下・・・」の「プラスチック材料を使用する」ことにあることが記載されている。すなわち、簡略化の手段として、「アウトガス成分中の窒素含有化合物総量」を測定することに変えて「発生するカプロラクタム」が一定量以下のプラスチック材料を使用することが記載されているのみで、訂正によって付加された上記「ア」の「分析して選定する特定事項」について明記されていない。また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(【0006】~【0008】参照)の記載から、上記の「分析して選定する特定事項」が記載されていることが自明であるということもできない。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(【0025】~【0033】)において記載されている(実施例1)~(実施例6)は、いずれも、上蓋と下箱からなる収納容器を製造し、製造した上蓋について、アウトガス中のカプロラクタムを測定するものであって、上記の「分析して選定する特定事項」については、記載も示唆もなく、また、上記の「分析して選定する特定事項」が記載されていることが自明であるということもできない。
さらに、発明の詳細な説明において、上記の【0006】~【0008】及び【0025】~【0033】以外の箇所においても上記の「分析して選定する特定事項」については記載されておらず、また、上記の「分析して選定する特定事項」が記載されていることが自明であるということもできない。
補足すれば、訂正前の請求項6及び明細書の発明の詳細な説明には、構成部品を測定し、構成部品が特定の基準を満たしていることを確認した製造方法が記されていたのに対し、訂正後の請求項6に係る発明は、樹脂を分析して特定の基準を満たす樹脂を選定し、選定された樹脂で構成部品を製造する製造方法の発明となった。つまり、訂正により分析(測定)するタイミングが変わったといえる。
以上のとおりであるから、訂正事項2は、新たな技術事項を導入するものではないということはできず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面記載した事項の範囲内においてなされた訂正であるといえないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に違反するものである。
(2)訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記訂正事項2の訂正前の請求項6に係る発明は、特定の特性を備えた熱可塑性樹脂から成る構成部品を用いてフォトマスクブランクス基板収納容器を製造する製造方法であったところ、訂正事項2の訂正により、上記(1)の「ア」で述べたとおり、訂正前の請求項6に係る発明は、「(アウトガス中のカプロラクタムを)分析」すること及び「(その量が・・・以下となる)熱可塑性樹脂を選定する」ことを要件とするものとなった。
補足すれば、訂正前の請求項6及び明細書の発明の詳細な説明には、構成部品を測定し、構成部品が特定の基準を満たしていることを確認した製造方法が記されていたのに対し、訂正後の請求項6に係る発明は、樹脂を分析して特定の基準を満たす樹脂を選定し、選定された樹脂で構成部品を製造する製造方法の発明となった。つまり、訂正により分析(測定)するタイミングが変わったといえる。
これは、発明の内容を実質的に変更する訂正であるといえるから、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるということはできない。また、上記訂正が、「誤記又は後約の訂正」、「明瞭でない記載の釈明」又は「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」のいずれをも目的とするものではないことは明らかである。
よって、上記の訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項の規定に違反するものである。
また、上記の理由により、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲を実質的に変更する訂正であるといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に違反するものである。
3 被請求人(特許権者)の意見書での主張の概要
上記「2」の訂正拒絶理由に対しての、被請求人(特許権者)の意見書での主張の概要は次のとおりである。
(1)新規事項の追加に関して
本件訂正(訂正事項2による訂正)後の請求項6中の「0.001ppm以下となり」までの内容と、「熱可塑性樹脂から成る」という内容は、構成部品にかかる。すなわち、カプロラクタム量0.01ppm以下の分析対象は、構成部品である。これは実施例の記載とも合致する。
そして、本件特許の製法は、構成部品からカプロラクタム量の分析と表面抵抗値の測定を行い、合格基準になる樹脂を選定した上で、その樹脂から成る構成部品を用いて収容容器を製造する方法である。
以上より、訂正事項2は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定を満たすものである。
(2)訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(1)で説明したように、分析のタイミングが訂正の前後で変わったわけではない。訂正後の請求項6の製法は、「構成部品の分析及び測定」⇒「樹脂選定」⇒「容器の製造」というフローである。重要なことは、容器の製造に先立ち、カプロラクタム量と表面抵抗値とを調べて合格基準にある樹脂を選定するステップが存在することである。
なお、訂正の根拠に、明細書の段落【0006】を採用したのは、「選定」という文言を請求項6に使用するためにすぎない。
以上より、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項の規定及び特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定を満たすものである。
4 当審の判断
(1)訂正事項1についての判断
特許法第120条の5第3項及び第4項において、二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、請求項ごとに訂正の請求をし、当該特許請求の範囲の請求項中に一群の請求項があるときは当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならいことが規定されているところ、訂正事項1は、一群の請求項を構成する請求項1ないし4の全てを(一群ごと)削除する訂正、及び、一群の請求項を構成しない請求項5を削除する訂正からなり、上記第120条の5第3項及び第4項の規定を満たすものである。
そして、上記の訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項の規定を満たし、また、上記訂正は、新規事項を追加するものでもなく、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する」ものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。
よって、訂正事項1による訂正、すなわち、請求項1,2,3,4,5を削除する訂正は、適法な訂正であり、これを認める。
(2)訂正事項2についての判断
ア 訂正後の請求項6についての解釈
訂正後の請求項6における「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法によりアウトガス中のカプロラクタムを分析してその量がn-デカン換算で樹脂重量あたり0.01ppm以下となり、かつ熱可塑性樹脂から成る構成部品の表面抵抗値が1.0E+13オーム以下となる熱可塑性樹脂を選定し」の記載について、この文章構造からは、「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法によりアウトガス中のカプロラクタムを分析してその量がn-デカン換算で樹脂重量あたり0.01ppm以下となり」が、
(a)「熱可塑性樹脂を選定し」における「熱可塑性樹脂」に掛かり、分析の対象、及び、選定の対象とも「熱可塑性樹脂」であると解することも、
(b)「構成部品」に掛かり、分析の対象が「構成部品」であり、選定の対象が「熱可塑性樹脂」であると解することも、
可能である。
上記「2」の当審での訂正拒絶理由においては、訂正後の請求項6の
「『40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法によりアウトガス中のカプロラクタムを分析してその量がn-デカン換算で樹脂重量あたり0.01ppm以下となり』、かつ『熱可塑性樹脂から成る構成部品の表面抵抗値が1.0E+13オーム以下となる』『熱可塑性樹脂』を選定し」(下線及び『 』の括弧は文章構造をわかりやすくするためにに当審において付加したものである。)
の文章構造上から、接続詞の「かつ」が「・・・が・・・以下となり」と「・・・が・・・以下となる」の2文を結ぶものであり、その両者が「熱可塑性樹脂」に係ると解するのが自然であるから、上記の(a)と解した上で、訂正拒絶理由を通知したものである。そして、その点については正解していると考えるが、以下においては、(a)の場合の他に、請求人が意見書で主張する(b)の場合についても、それぞれ判断する。
イ 分析の対象、及び、選定の対象とも「熱可塑性樹脂」であると解した場合((a)の場合)
この場合は、上記「2 訂正拒絶理由の概要」で述べたとおりであり、(1)に記載した理由により、訂正事項2による訂正(請求項6についての訂正)は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に違反するものである。
また、(2)に記載した理由により、上記の訂正事項2による訂正(請求項6についての訂正)は、特許法第120条の5第2項の規定に違反するものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に違反するものである。
ウ 分析の対象が「構成部品」であり、選定の対象が「熱可塑性樹脂」であると解した場合((b)の場合)
(ア)新規事項の追加について
この場合、特許権者が主張するように、「分析の対象が「構成部品」である」ことについては、本件特許の発明の詳細な説明の【0025】~【0033】の(実施例1)~(実施例6)と合致し、発明の詳細な説明に記載されている事項であるといえる。
しかしながら、この場合については、「構成部品を分析」した後に「熱可塑性樹脂を選定」することについては、本件特許の明細書の発明の詳細な説明のどこにも記載されていない。
上記の【0025】~【0033】の(実施例1)~(実施例6)においては、「構成部品」である上蓋を分析した後、合格品であった「構成部品」(上蓋)を用いた収容容器にフォトマスクブランク基板を収容して試験(当該収容容器の評価)を行うことが記載されているのみで、「構成部品を分析」した後に「熱可塑性樹脂を選定」することについては一切記載されていない。また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の他の箇所においても、どこにも「構成部品を分析」した後に「熱可塑性樹脂を選定」することについては記載されていない。
よって、上記の(b)の場合、すなわち、分析の対象が「構成部品」であり、選定の対象が「熱可塑性樹脂」であると解した場合においても、訂正事項2による請求項6の訂正は、新たな技術事項を導入するものではないということはできず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面記載した事項の範囲内においてなされた訂正であるといえないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に違反するものである。
(イ)訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0006】~【0008】から、本件発明が解決しようとする課題及び解決手段は、収容容器の製造の改善点として、従来技術においては、プラスチック材料の選定に窒素含有化合物の総量を測定する必要があり、時間とコストが掛かっていたところ、プラスチック材料の選定としてカプロラクタムのみを測定することによって簡略化したものであるといえる。すなわち、分析に用いる成分が、発明の課題を解決する手段を表すものであったといえる。
これに対して、訂正後の発明においては、分析の対象が「構成部品」であり、選定の対象が「熱可塑性樹脂」となることから、分析の対象及び選定の対象を何とするかという事項についても、課題を解決する手段としての新たな一要因となった。
したがって、上記の(b)の場合、すなわち、分析の対象が「構成部品」であり、選定の対象が「熱可塑性樹脂」であると解した場合においても、訂正事項2による請求項6の訂正は、発明を実質的に変更するものとなるから、特許法第120条の5第2項の規定に違反するものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に違反するものである。
エ 結論
以上のとおりであり、上記「ア」の(a)及び(b)のいずれに解釈した場合においても、本件訂正における訂正事項2による訂正(請求項6についての訂正)は違法なものであり、認められない。
第3 本件特許発明
上記「第2」の「3」で述べたとおりであり、訂正事項1による訂正、すなわち、請求項1,2,3,4,5を削除する訂正は、適法な訂正であり、これは認められ、訂正事項2による訂正、すなわち、請求項6についての訂正は、違法な訂正であり、これは認められないから、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、その特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法により測定されるアウトガス中のカプロラクタム量がn-デカン換算で樹脂重量あたり0.01ppm以下となり、かつ、表面抵抗値が1.0E+13オーム以下となる熱可塑性樹脂から成る構成部品を用いて、化学増幅型フォトレジスト塗布済みのフォトマスクブランクス基板を収納、搬送あるいは保管するフォトマスクブランクス基板収納容器を製造するフォトマスクブランクス基板収納容器の製造方法。」
第4 取消理由について
1 請求項6に係る発明(以下「本件特許発明6」という。)に対する特許法第29条第2項違反について
(1)引用例に記載された事項
ア 刊行物一覧
甲1:特開2007-153401号公報
甲2:特開2003-140325号公報
甲7:特開平8-245868号公報
イ 甲2の記載事項、及び、甲2に記載された発明
(ア)甲2の記載事項
甲2には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体集積回路や高密度集積回路などの製造工程で使用される遮光膜又は位相シフト膜を有するフォトマスクブランク又はフォトマスクの保管方法並びに運搬方法に関する。」
b 「【0007】 フォトマスクブランク又はフォトマスク基板等を単数又は複数収納し、保管又は運搬する容器としてその機能性、重量、製造コストを考えるとその構成材料は高分子系材料にせざるを得ない。しかし、プラスチックに代表される高分子系材料からは、アウトガスとして何らかの成分が放出され、これを完全に断つことは容易ではない。
【0008】レジスト塗布基板を保管又は運搬する際に使用する収納容器からアミン類などの窒素含有化合物がアウトガス成分として放出されると、レジスト膜中に浸透し、その後の露光の段階で、発生した酸を失活させ設計通りのレジストパターンが得られなくなり、精密なパターンを有するCr系薄膜又は位相シフト膜を形成することができなくなる。
【0009】また、露光の段階まで環境の影響をほとんど受けない雰囲気中に保管したとしても、露光終了時からレジストを現像するまでの間にアミン類などの成分にさらされると露光で発生した酸が失活され、精密なパターンが得られなくなる。
【0010】このようなプラスチックからのアウトガスに関し、特開2001-77188号公報、特開2001-85507号公報では、収納容器内に吸着剤を収容し、上記アウトガスを物理吸着、化学吸着することによって収納された基板をケミカルコンタミネーションから防ぐ容器が提案されている。
【0011】しかし、これらの基板収納容器の問題点は、吸着剤に寿命があることから定期的に新しいものと交換する必要があり、またコストも高くなることである。さらに吸着剤からのパーティクルの発生も懸念される。
【0012】本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、フォトマスクブランクから化学増幅型レジスト膜を用いてフォトマスクを製造する際、保管又は運搬時に用いる容器から発生する窒素含有化合物による化学増幅型レジスト膜への影響を抑制し、レジスト特性に変化を与えることのない保管方法又は運搬方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク又はフォトマスクを保管又は運搬する際に、アウトガス成分として窒素含有化合物を放出しない高分子系材料からなる容器内に収納して保管又は運搬すると、そのレジスト特性が変化しないことを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】即ち、本発明は、下記の方法を提供する。
請求項1:フォトマスクブランクから化学増幅型レジスト膜を用いてフォトマスクを製造する工程間で化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク又はフォトマスクを保管する方法であって、アウトガス成分として窒素含有化合物を放出しない高分子系材料からなる容器に収納することを特徴とする化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク又はフォトマスクの保管方法。
請求項2:フォトマスクブランクから化学増幅型レジスト膜を用いてフォトマスクを製造する工程間で化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク又はフォトマスクを運搬する方法であって、アウトガス成分として窒素含有化合物を放出しない高分子系材料からなる容器に収納して運搬することを特徴とする化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク又はフォトマスクの運搬方法。
請求項3:容器が、窒素原子を含まない成分からなることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
請求項4:容器内を不活性ガスで置換することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法。」
c 「【0015】以下、本発明について更に詳しく説明する。 本発明は、化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク又はフォトマスク、例えば、Cr系遮光膜や位相シフト膜を有するフォトマスクブランクに化学増幅型レジスト液を塗布したものや、製造工程上で化学増幅型レジスト膜の一部を除去したフォトマスクブランクやフォトマスクを、フォトマスク製造の各工程間で保管又は運搬する際に、アウトガス成分として窒素含有化合物を放出しない高分子系材料からなる容器内に収納、好ましくは密閉して保管又は運搬するものである。
【0016】上記高分子系材料は、120℃、15分の条件で加熱したときに放出されるアウトガス成分中、パージ&トラップ法で吸着捕捉され、GC-MSにて検出される窒素含有化合物の総量が、トルエン換算で1.0ppm以下、特に0.5ppm以下のものが好ましい。なお、上記1.0ppmとは、例えば、上記高分子系材料50mgを用いて測定した窒素含有化合物の総量が、トルエン換算で0.05μgであることに相当する。
【0017】上記窒素含有化合物としては、アンモニア、アミン類、ニトリル類、アニリン類、ピリジン類等がレジストに影響を及ぼすため、これらの成分の放出量を低減することが望ましい。特に、塩基性の強いアンモニア、アミン類は大きな影響を及ぼすため低減することが望ましい。
【0018】また、上記高分子系材料は、窒素原子を含まない成分からなることが好ましく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)など、分子中に窒素原子を含まないモノマーを重合して得られる高分子を主成分とする高分子系材料を用いることが好ましい。また、高分子系材料の製造過程や容器の成型過程で窒素原子を含有する添加剤、窒素原子を含有する溶媒など、アウトガス中の窒素含有化合物の原因となる窒素含有物質を使用していないものであることが好ましい。」
d 「【0021】
【実施例】以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0022】 [実施例1]ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を主成分とする基板収納容器に化学増幅型レジスト液を塗布したMoSi系の位相シフトマスクブランクを3枚収納し、それぞれ1日、14日、30日間保管した後EB描画し、現像してレジストパターン(線幅約0.48μm)を得た。これらのレジストパターンの断面をSEM観察したところ、上記期間でのレジストパターンの線幅及び形状の変化はほとんどなく良好なものであり、収納容器の影響は受けていなかった(図1参照)。
【0023】また、この容器に使用した材料50mgをキュリーポイント・パージ&トラップ・サンプラー(日本分析工業 JHS-100A)を用いて120℃、15分の条件でアウトガス成分を吸着採取し、GC-MS(ヒューレットパッカード社 5971MSD)を用い、下記条件にて分析したところ、メタクリル酸エステル、その他エステル系、アルコール系の成分が数種検出されたが、窒素元素を含む分子は確認されなかった(図2参照)。
【0024】GC-MS分析条件
窒素含有化合物の定量は、トルエンを標準物質とし、トルエンに対する相対感度を1とした半定量分析により行った。GCカラム温度は50~300℃とし、MSDは29~600massとした。なお、前記分析方法及び本条件を用いた場合の検出限界はトルエン換算で0.001μg(0.02ppm)であった。
【0025】 [実施例2]
ポリプロピレン(PP)を主成分とする基板収納容器に化学増幅型レジスト液を塗布したMoSi系の位相シフトマスクブランクを3枚収納し、それぞれ1日、14日、30日間保管した後EB描画し、現像してレジストパターン(線幅約0.48μm)を得た。これらのレジストパターンの断面をSEM観察したところ、上記期間でのレジストパターンの線幅及び形状の変化はほとんどなく良好なものであり、収納容器の影響は受けていなかった(図1参照)。
【0026】また、この容器に使用した材料50mgをキュリーポイント・パージ&トラップ・サンプラー(日本分析工業 JHS-100A)を用いて120℃、15分の条件でアウトガス成分を吸着採取し、GC-MS(ヒューレットパッカード社 5971MSD)を用い、前記条件にて分析したところ、炭化水素成分が数種検出されたが、窒素元素を含む分子は確認されなかった(図3参照)。
【0027】 [比較例1]アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)を主成分とする基板収納容器に化学増幅型レジスト液を塗布したMoSi系の位相シフトマスクブランクを3枚収納し、それぞれ1日、14日、30日間保管した後EB描画し、現像してレジストパターン(線幅約0.48μm)を得た。これらのレジストパターンの断面をSEM観察したところ、上記期間でのレジストパターンの線幅は、14日で約35nm、30日で約50nm増加しており、収納容器の影響を受けていることがわかった(図1参照)。
【0028】また、この容器に使用した材料50mgをキュリーポイント・パージ&トラップ・サンプラー(日本分析工業 JHS-100A)を用いて120℃、15分の条件でアウトガス成分を吸着採取し、GC-MS(ヒューレットパッカード社 5971MSD)を用い、前記条件にて分析したところ、窒素原子を含む成分が多種(アクリロニトリルとその誘導体)検出され、その総量は、トルエン換算で0.2μg(4ppm)であった(図4参照)。」
(イ)甲2に記載された発明(甲2発明)
上記「(ア)甲2の記載事項」のa~dの記載事項から、甲2には、
「フォトマスクブランクから化学増幅型レジスト膜を用いてフォトマスクを製造する工程間で化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク基板を保管又は運搬する際に使用する収納容器の製造方法であって、
分子中に窒素原子を含まないモノマーを重合して得られるポリメタクリル酸メチル(PMMA)を主成分とし、
材料50mgをキュリーポイント・パージ&トラップ・サンプラー(日本分析工業 JHS-100A)を用いて120℃、15分の条件でアウトガス成分を吸着採取し、GC-MS(ヒューレットパッカード社 5971MSD)を用い、GCカラム温度は50~300℃とし、MSDは29~600massとするGC-MS分析条件にて分析し、前記分析方法及び条件を用いた場合の検出限界はトルエン換算で0.001μg(0.02ppm)であったところ、窒素元素を含む分子(窒素元素含有分子)は確認されなかった材料を使用して収納容器を製造する方法。」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
ウ 甲1の記載事項
甲1には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a 「【0001】
本発明は、塵埃を嫌う物品を収容して搬送するのに適した制電性の容器に関する。」
b 「【0004】
本発明は上記事情に対処するためになされたもので、帯電による塵埃の付着や静電破壊を防止でき、有機ガス発生による悪影響が生じることもなく、真空成形や圧空成形により効率良く量産することができる制電性の容器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明の容器は、合成樹脂製の容器本体と蓋体とからなり、その内部に塵埃を嫌う物品を収容する容器であって、容器本体と蓋体とのいずれもが、透光性の合成樹脂基層の両面又はいずれか片面に極細導電繊維を分散させた透光性の制電層を積層一体化したものであることを特徴としている。
【0006】
本発明の容器においては、極細導電繊維がカーボンナノチューブであることが好ましく、制電層に含まれるこのカーボンナノチューブの目付量が0.5~50mg/m2であることが好ましい。また、透光性の合成樹脂基層は、紫外線領域と短波長の可視光領域の光を遮蔽するものであることが好ましく、特に、520nm以下の波長の光を実質的に遮断するポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどのポリエステル系樹脂からなる基層であることが好ましい。そして、互いに当接される容器本体の上端のフランジ部と蓋体の下端のフランジ部との間にシール材を挟み込むことも好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の容器は、容器本体も蓋体も、透光性の合成樹脂基層の両面又はいずれか片面に極細導電繊維を分散させた透光性の制電層を積層一体化したものであるから、この制電層により帯電が防止されて塵埃が付着せず、塵埃による収容物品への悪影響を防止することができる。そして、容器本体も蓋体も透光性であるから、収容物品を外部から透視してその種類や内容などを確認することができる。
【0008】
また、本発明の容器のように、制電層が極細導電繊維を分散させたものであると、この制電層を合成樹脂基層に積層した材料樹脂板を真空又は圧空成形して容器本体と蓋体を製作した場合でも、真空又は圧空成形時の材料樹脂板の伸び変形に伴って極細導電繊維が伸展しながら接触状態を保つことができ、金属酸化物等の導電粒子を含有する制電層のように伸び変形に伴って導電粒子相互の接触が断たれることがないため、真空又は圧空成形などの二次加工前と実質的に変わらない十分な制電性能を発現することができる。従って、真空又は圧空成形などの手段を採用して容器本体と蓋体を簡単に製作できるので、その分だけ本発明の容器は製造効率が向上する。
【0009】
さらに、極細導電繊維がカーボンナノチューブであって、制電層における該カーボンナノチューブの目付量が0.5~50mg/m2である容器は、制電層の透光性を実質的に阻害することなく、その表面抵抗率が105~1011Ω/□程度の十分な制電性を発現するため、塵埃の付着等を確実に防止することができる。
また、容器本体と蓋体の合成樹脂基層が紫外線領域と短波長の可視光領域の光を遮蔽する容器は、物品として紫外線で感光されるフォトマスクのマスクブランク板などを収容する場合でも、合成樹脂基層によって紫外線が遮蔽されるため、マスクブランク板の感光を防止することができる。特に、容器本体と蓋体の合成樹脂基層が、520nm以下の波長の光を実質的に遮断するポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどのポリエステル系樹脂からなる基層である容器は、上記の感光防止効果に加えて、後述の実験データに示されるように有機ガスの発生が実質的になく、イオンの溶出も極くわずかであるため、有機ガスやイオンによる収容物品への悪影響を防止することもできる。また、互いに当接される容器本体の上端周囲のフランジ部と蓋体の下端周囲のフランジ部との間にシール材を挟み込んだ容器は、シール材によって容器内部への塵埃の侵入を阻止することができる。」
エ 甲7に記載された事項
甲7には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a 「【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は、永久帯電防止性を有し、かつ、耐衝撃性に代表される機械的特性および耐熱性に優れ、透明性にも優れた制電性の帯電防止性に優れた樹脂組成物に関する。」
b 「【0003】ポリカーボネート樹脂の帯電防止化の方法は、樹脂に界面活性剤を練り込むか、または塗布する方法、導電フィラーを練り込む方法、親水性ポリマーを練り込む方法などが知られている。ポリカーボネート樹脂に界面活性剤を練り込むか、または塗布する方法は、制電効果の持続性が劣り、水洗いなどで効果が著しく低下する問題がある。一方、カーボンブラックやカーボン繊維、金属繊維などの導電性フィラーを添加したポリカーボネート樹脂組成物は、永久的に帯電防止性を持続できる反面、表面性の低下や着色が困難となったり、透明性が失われるなどの問題がある。これに対し、親水性ポリマーを練り込む方法として特開平1-163252号には、ポリカーボネートとポリエーテルエステルアミドおよび極性基を含むビニル系共重合体および特定のグラフト共重合体からなる組成物が、また、特開平5-43787号にはポリカーボネートとポリアミド-ポリエーテルブロック共重合体、およびホスファイトまたはフェノール系化合物を含有した組成物が開示されている。これらは、制電効果の持続性に優れており、また、表面性が良好で着色が容易であるなどの利点がある。しかし、ポリカーボネート本来の優れた透明性は失われ、また、混練段階で親水性ポリマーが分解したり、ポリカーボネートと反応して、ポリカーボネートの分子量が低下して衝撃強度が低下する等の問題がある。以上のように、著しい透明性や衝撃性の低下がなく、永久的に帯電防止性を有する新規なポリカーボネート樹脂組成物が望まれている。」
(2)本件特許発明6についての対比・判断
ア 対比
(ア)本件特許発明6と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「窒素元素を含む分子(窒素元素含有分子)は確認されなかった」ことから、甲2発明においては、当然に、「窒素元素を含む分子(窒素元素含有分子)」である「カプロラクタム」は確認できなかったといえる。すると、甲2発明の「材料50mgをキュリーポイント・パージ&トラップ・サンプラー(日本分析工業 JHS-100A)を用いて120℃、15分の条件でアウトガス成分を吸着採取し、GC-MS(ヒューレットパッカード社 5971MSD)を用い、GCカラム温度は50~300℃とし、MSDは29~600massとするGC-MS分析条件にて分析し、前記分析方法及び本条件を用いた場合の検出限界はトルエン換算で0.001μg(0.02ppm)であったところ、窒素元素を含む分子(窒素元素含有分子)は確認されなかった」ことは、カプロラクタム量が「前記分析方法及び本条件を用いた場合の検出限界」以下であったことと言い換えることができる。
また、本件特許発明6の「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法により測定されるアウトガス中のカプロラクタム量がn-デカン換算で樹脂重量あたり0.01ppm以下となる熱可塑性樹脂からな」ることにおいて、本件特許明細書の【表1】の「<0.01」との記載から、「0.01ppm」は、「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法」(なお、本件特許発明6では特定されていないが、本件特許明細書の記載を参照すると、「ダイナミックヘッドスペース法」で発生したアウトガスをGC-MS法を用いて分析したものである。)による検出限界値であると認められる。
よって、甲2発明の前記発明特定事項と、本件特許発明6の前記発明特定事項とは、「測定されるアウトガス中のカプロラクタム量が、採用された測定法での検出限界値以下となる熱可塑性樹脂からなる」点で一致する。
b フォトマスクブランクの収納容器は、箱部分、蓋部分などの複数の構成部分からなることが普通であるから、甲2発明の「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を主成分と」する「材料を使用して収納容器を製造する」ことが、本件特許発明6の「熱可塑性樹脂からなる」「構成部品を用いて」「収納容器を製造する」ことに相当する。
c 甲2発明の「フォトマスクブランクから化学増幅型レジスト膜を用いてフォトマスクを製造する工程間で化学増幅型レジスト膜を有するフォトマスクブランク基板を保管又は運搬する際に使用する収納容器」が、本件特許発明6の「化学増幅型フォトレジスト塗布済みのフォトマスクブランクス基板を収納、搬送あるいは保管するフォトマスクブランクス基板収納容器」に相当する。
(イ)一致点
よって、本件特許発明6と甲2発明とは、
「測定されるアウトガス中のカプロラクタム量が、採用された測定法での検出限界値以下となり、かつ、熱可塑性樹脂から成る構成部品を用いて、化学増幅型フォトレジスト塗布済みのフォトマスクブランクス基板を収納、搬送あるいは保管するフォトマスクブランクス基板収納容器を製造するフォトマスクブランクス基板収納容器の製造方法。」
の発明である点において一致し、次の各点で相違する。
(ウ)相違点
a 相違点1
本件特許発明6においては、「表面抵抗値が1.0E+13オーム以下である」のに対して、甲2発明においてはその点についての特定がない点。
b 相違点2
測定されるアウトガス中の「カプロラクタム量(甲2発明においては窒素元素含有分子)の測定・分析の条件・方法」及び「検出限界値」が、本件特許発明6においては「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法」及び「n-デカン換算で0.01ppm」(なお、本件特許発明6では特定されていないが、本件特許明細書の記載を参照すると、「ダイナミックヘッドスペース法」で発生したアウトガスをGC-MS法を用いて分析したものである。)であるのに対して、甲2発明においては「材料50mgをキュリーポイント・パージ&トラップ・サンプラー(日本分析工業 JHS-100A)を用いて120℃、15分の条件でアウトガス成分を吸着採取し、GC-MS(ヒューレットパッカード社 5971MSD)を用い、GCカラム温度は50~300℃とし、MSDは29~600massとするGC-MS分析条件にて分析」及び「トルエン換算で0.02ppm」である点。
c 相違点3
本件特許発明6の記載(文言)のみでは特定されていない事項ではあるが、上記「第2」の「2」の「(2)」で述べたように、本件特許発明6(本件訂正前の請求項6に係る発明)は「構成部品を測定し、構成部品が特定の基準を満たしていることを確認した」ことが特定されているものと解釈できる。
そうすると、本件特許発明6においては「構成部品を測定し、構成部品が特定の基準を満たしていることを確認」するが、甲2発明においてはその点についての特定がない点(相違点3)についても、一応の相違点となる。
イ 当審の判断
(ア)上記相違点について検討する。
a 相違点1について
基板収納容器において、塵埃の付着防止のために表面に導電性を付与し、表面抵抗を低くすることは、例えば、甲1にも記載されている周知の技術事項である。
引用発明の「フォトマスクブランク基板を保管又は運搬する際に使用する収納容器」においても、塵埃の付着を防止することは自明の技術課題であり、当該技術課題の解決のため、表面に導電性を付与し、表面抵抗値を低くすることは当業者が容易に想到し得たことである。
なお、上記相違点についての本件特許発明6に係る「1.0E+13オーム以下」の数値範囲自体は臨界的意義を有するものではなく、上記数値範囲は単なる設計的事項である。
b 相違点2について
本件特許発明6と甲2発明は、「採用された測定法での検出限界値以下となる」、すなわち、カプロラクタムが含まれないか、含まれるとしても極めて少量である点で一致するから、相違点2は、実質的に、カプロラクタムが含まれないか、含まれるとしても極めて少量である点を示す指標としての、測定・分析の条件・方法及びその検出限界値が異なることであるといえる。
ここで、甲2において、上記(1)イ(ア)cの【0018】に
「分子中に窒素原子を含まないモノマーを重合して得られる高分子を主成分とする高分子系材料を用いることが好ましい。また、高分子系材料の製造過程や容器の成型過程で窒素原子を含有する添加剤、窒素原子を含有する溶媒など、アウトガス中の窒素含有化合物の原因となる窒素含有物質を使用していないものであることが好ましい。」
と記載されているように、甲2発明は、(カプロラクタムを含む)窒素含有物質をできるだけ少なくする方が好ましいという技術思想を有することが示唆されていること、
また、本件特許発明6の「0.01ppm」の値に臨界的意義は認められないこと、
また、ダイナミックヘッドスペース法は周知であること
を総合勘案すると、甲2発明の測定・分析方法及びその検出限界値を相違点2に係る「40℃で60分保持の下でダイナミックヘッドスペース法」「n-デカン換算で樹脂重量あたり0.01ppm以下」に変えることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。
c 相違点3について
甲2には、【0008】において「収納容器からアミン類などの窒素含有化合物がアウトガス成分として放出されると、レジスト膜中に浸透し、その後の露光の段階で、発生した酸を失活させ設計通りのレジストパターンが得られなくなり」と記載されており、フォトマスクブランク基板の保管中に、収容容器からカプロラクタムを含むアミン類が生じることを技術課題とするものである。よって、甲2発明においても収納容器の筺体・蓋等の構成部品の製造後、「構成部品を測定し、構成部品が特定の基準を満たしていることを確認」することは当業者が容易に想到し得ることである。
(イ)作用効果について
また、上記相違点に基づいて本件特許発明6が奏する作用効果は、甲2発明及び上記の周知技術から当業者が予測し得た事項にすぎない。
(ウ)特許権者の意見書での主張について
a 特許権者の主張の概要
平成29年5月18日付けで提出された意見書において、特許権者は、概略、
(a)甲2発明に関し、甲2の出願時におけるGC-MS分析の検出精度は、本件特許発明6の「0.01ppm」とは比べものにならないほど低い。
(b)窒素元素含有化合物フリー(ゼロ)の理想的な熱可塑性樹脂を用いた場合は、カプロラクタムが0.01ppmという分析結果になるが、そうでない限り、カプロラクタム量が0.01ppmを超える樹脂は頻出する。
(c)甲2には、「カプロラクタム」そのものの記載がないから、カプロラクタムという特定物質がレジスト膜に影響を与えるからアウトガス中に「カプロラクタム」が少ない樹脂を用いるという技術思想は記載されていない。
(d)本件特許発明6の分析条件下でカプロラクタム量が0.01ppm以下である点も、一切記載されていない。
ことを主張している。
b 上記主張に対する当審の判断
しかしながら、上記(ア)の「b 相違点2について」においても述べたように、
(a)甲2発明における「0.02ppm」の検出限界と、本件特許発明6の「0.01ppm」の検出限界は、それぞれ、「トルエン換算」、「n-デカン換算」であるから、直接数値を比較することに意味はなく、また、これらの値が桁違いの数値ではないことから、甲2発明の分析精度が本件特許発明6の測定精度に対して「比べものにならないほど」に低い精度であるともいえない。
(b)特許権者のいう「窒素元素含有化合物フリー(ゼロ)の理想的な熱可塑性樹脂」でない樹脂が、どの程度の「窒素元素含有化合物」を含むのかが明らかにされていないから、「カプロラクタム量が0.01ppmを超える樹脂は頻出する」という主張には根拠がない。
さらに、甲2発明は「分子中に窒素原子を含まないモノマーを重合して得られるポリメタクリル酸メチル(PMMA)を主成分と」する樹脂を用い、しかも、甲2の【0018】にも記載されているように「高分子系材料の製造過程や容器の成型過程で窒素原子を含有する添加剤、窒素原子を含有する溶媒など、アウトガス中の窒素含有化合物の原因となる窒素含有物質を使用していない」ものであるから、上記の特許権者のいうところの「窒素元素含有化合物フリー(ゼロ)の理想的な熱可塑性樹脂」にできるだけ近い樹脂を用いることが示唆されている。
(c)「カプロラクタム」は「窒素原子含有分子」の一種であるから、「窒素原子含有分子」が検出されないことから当然に「カプロラクタム」は検出されないことは記載されているといえるし、また、「(悪影響を及ぼす)窒素原子含有分子」が含まれる樹脂を用いないようにする技術思想は、当然「カプロラクタム」が含まれる樹脂を用いないとする技術思想を含むものといえる。
(d)「本件特許発明6の分析条件下でのカプロラクタム量が0.01ppm以下である」点については、上記「(ア)」「b」で検討したとおりである。
ウ 小括
よって、本件特許発明6は、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 本件特許発明6に対する特許法第36条第4項第1号違反について
(1)取消理由で引用した異議申立書における特許法第36条第4項第1号違反の概要
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、実施例に用いた樹脂について「市販の」と記載されているのみであり、どこから購入できるどのような商品であるかについて記載がなく、その特定ができない以上、当業者であっても、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例を、必ず過度の試行錯誤なしに追試、再現できるということはできない。つまり、本件特許発明1~6を実施するには、市販されている多数の樹脂の各々についてカプロラクタム量の測定を行わなければならず、過度の試行錯誤を強制するものであるといえる。
(2)特許権者の主張
上記の取消理由に対し、特許権者は意見書において、概略、
a 本件特許発明1~6を実施するには、カプロラクタム量の分析を経て収納容器用の樹脂としての合否が判定されるが、そのような分析は従来の分析と比べて,非常に低労力で、過度の試行には当たらない。
b 逆にメーカー名や製品名を特定しても、アウトガス中のカプロラクタム量が0.01ppm以下なら合格、それを超えれば不合格となるから、メーカー名や製品名の開示は本件特許発明1にとって殆ど意味がない。
ことを主張している。
(3)上記主張に対する当審の判断
a 市販されている樹脂は多数に渡り、本件特許の明細書にはどのような樹脂を選択するのかの示唆も全くないことを勘案すれば、低労力ですむとは到底認められない。
b 製品名を特定しても、合格/不合格がでるとの主張を考慮すると、一般に許容できる程度以上の率で合格するためには、特定の製品を使用するだけでなく、さらなる工夫が必要であると認められるが、本件特許の明細書には市販の樹脂を使用したことを開示するにとどまり、さらなる工夫の開示はないから、製品名の開示がない以上の実施困難性があるといえる。すると、特許権者の上記主張は製品名を開示するだけでは、実施可能要件を満たせないことを自ら認めていることになる。
また、メーカー名や製品名を考慮せずに購入した市販の樹脂においては、多数の樹脂についてカプロラクタム量を測定しても、一般に許容できる程度以上の率で合格品を見出すことができるとは限らず、「過度」に多数の樹脂について分析する必要があるといえるから、市販の樹脂から分析結果において合格品のみを使用して製品を作製することが「過度」の試行錯誤を要するものでないとはいえない。
よって、特許権者の主張を採用することはできない。
(4)結論
本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、過度の試行錯誤を強制することなく本件特許発明6を実施できる程度に、明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反している。
3 請求項1ないし5に係る発明について
請求項1ないし5については、本件訂正請求により削除された。
そうすると、請求項1ないし5についての異議申立ては、その対象が存在しないものとなるから、却下されるべきである。
第4 まとめ
請求項1~5についての異議申立ては、却下する。
請求項6に係る発明は、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本願の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項6に係る発明を実施できる程度に、明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反している。
請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定及び特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700036