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特許異議申立

2025-700964

水電解用イリジウム含有触媒

審判番号
2025-700964
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-533658
登録番号
7660679
請求日
2025年10月07日
審決日
2026年01月19日
公報発行日
2026年02月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
  • 【権利者代理人】林 一好
  • 【異議申立人】松山 徳子
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 田口 裕健
  • 審判官 原 賢一
分類
P1651.113-Y (B01J) / P1651.121-Y (B01J) / P1651.536-Y (B01J) / P1651.537-Y (B01J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7660679号発明「水電解用イリジウム含有触媒」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7660679号の請求項1~14に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7660679号の請求項1~14に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)12月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2020年12月23日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とするものであり、令和7年4月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1~14に係る特許について、同年10月7日に特許異議申立人松山徳子により特許異議の申立てがなされ、同年11月18日を特許庁での受付日として、甲第6号証(訳文:甲第6-1号証)を添付した、特許異議申立書に対する手続補正書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件の請求項1~14に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。 「【請求項1】 -担体材料と、 -前記担体材料上に設けられ、 -酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有し、 -1.5nm~5.0nmの範囲の平均層厚さを有する イリジウム含有コーティングと を含有する酸性水電解における酸素発生反応のための粒状触媒であって、 前記触媒は、最大50重量%のイリジウム含有量を含み、 前記イリジウム含有コーティングは、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲の、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を有する、 粒状触媒。 【請求項2】 前記触媒の前記イリジウム含有量が、最大40重量%である、請求項1に記載の粒状触媒。 【請求項3】 前記担体材料のBET表面積が、2m2/g~40m2/gである、請求項1又は2に記載の粒状触媒。 【請求項4】 -2m2/g~<10m2/gの範囲のBET表面積を含む担体材料と、 -前記担体材料上に設けられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有するイリジウム含有コーティングと を含有する酸性水電解における酸素発生反応のための粒状触媒であって、 前記触媒は、5重量%~20重量%のイリジウム含有量を含む、 粒状触媒。 【請求項5】 前記触媒の前記イリジウム含有量が、以下の条件: (1.705(g/m2)×BET)/(1+0.0199(g/m2)×BET)≦Ir-G≦(3.511(g/m2)×BET)/(1+0.0410(g/m2)×BET) (式中、BETは、m2/g単位で表される、前記担体材料の前記BET表面積であり、Ir-Gは、重量%単位で表される、前記触媒の前記イリジウム含有量である) を満たす、請求項3又は4に記載の粒状触媒。 【請求項6】 前記イリジウム含有コーティングの平均層厚さが、1.5nm~4.0nmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の粒状触媒。 【請求項7】 前記粒状触媒が、前記担体材料がコアを形成し、前記イリジウム含有コーティングがシェルを形成するコアシェル構造を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の粒状触媒。 【請求項8】 前記イリジウムが、+3酸化状態のイリジウム(イリジウム(III))及び/又は+4酸化状態のイリジウム(イリジウム(IV))として排他的に存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の粒状触媒。 【請求項9】 前記担体材料が、遷移金属の酸化物、主族金属の酸化物、SiO2、又は前述の担体材料のうちの2種以上の混合物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の粒状触媒。 【請求項10】 前記担体材料が、酸化チタンである、請求項9に記載の粒状触媒。 【請求項111】 酸化イリジウム、水酸化イリジウム又は水酸化酸化イリジウムを含有するイリジウム含有コーティングが、担体材料上に堆積する、請求項1~10のいずれか一項に記載の粒状触媒を製造するための方法。 【請求項12】 前記粒状触媒が、250℃超の温度で熱処理に供される、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 -請求項1~10のいずれか一項に記載の粒状触媒と、 -アイオノマーと を含有する組成物。 【請求項14】 請求項1~10のいずれか一項に記載の粒状触媒又は請求項13に記載の組成物の、水電解用アノードとしての使用。」 第3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(以下、「申立理由1」という。) 本件発明1、2、6、9、11~14は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(下記5に記載の甲第2~4号証を参考とする。)。 2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由2」という。) 本件発明3、4、7、10は、下記5に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(下記5に記載の甲第2~4号証を参考とする。)。 なお、特許異議申立書における「(4)具体的理由」では、上記申立理由1の対象としている請求項1等に対して、新規性の欠如だけでなく進歩性の欠如についても言及しているため、念のため、第4の当審の判断では、上記申立理由1の対象請求項については、申立理由2についても判断を行うと共に、申立理由2では、甲第2号証~甲第4号証を副引用例として引用されているものとして、判断を行う。 3 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由3」という。) 本件特許は、請求項1~14に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が後記第4の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(下記5に記載の甲第6号証を引用する。)。 4 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由4」という。) 本件特許は、請求項1~14の記載が後記第4の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(下記5に記載の甲第6号証を引用する。)。 5 本特許異議申立てで提出された証拠 甲第1号証:Daniel Boehm et al. 「Efficient OER Catalyst with Low Ir Volume Density Obtained by Homogeneous Deposition of Iridium Oxide Nanoparticles on Macroporous Antimony-Doped Tin Oxide Support」、Advanced Functional Materials、2019年、1906670 甲第1号証-1:甲第1号証の日本語部分翻訳 甲第2号証:Daniel Boehm et al.「Efficient OER Catalyst with Low Ir Volume Density Obtained by Homogeneous Deposition of Iridium Oxide Nanoparticles on Macroporous Antimony-Doped Tin Oxide Support」、Advanced Functional Materials、2019年、1906670のSupporting Information 甲第2号証-1:甲第2号証の日本語部分翻訳 甲第3号証:S.J.Freakley et al. 「The X-ray photoelectron spectra of Ir, lr02 and lrCl3 revisited」、Surface and Interface Analysis、2017年、第49号、p.794-799 甲第3号証-1:甲第3号証の日本語部分翻訳 甲第4号証:Haoran Yu et al. 「Nano-size IrOx catalyst of high activity and stability in PEM water electrolyzer with ultra-low iridium loading」、Applied Catalysis B: Environmental、2018年、第239号、p.133-146 甲第4号証-1:甲第4号証の日本語部分翻訳 甲第5号証:Chuyen Van Pham et al.「Ir02 coated Ti02 core-shell microparticles advance performance of low loading proton exchange membrane water electrolyzers」、Applied Catalysis B: Environmental、2020年、第269号、118762 甲第5号証-1:甲第5号証の日本語部分翻訳 甲第6号証:Daniel F.Abbott「Iridium Oxide for the Oxygen Evolution Reaction: Correlation between Particle Size, Morphology, and the Surface Hydroxo Layer from Operando XAS」、Chemistry of Materials、2016年、第28号、6591-6604頁 甲第6号証-1:甲第6号証の日本語部分翻訳 以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。 なお、甲2は、甲1に関する補足情報を開示する「Supporting information」であるため、第4の「当審の判断」では、甲2の内容は、甲1に含まれているものとして判断を行った。 第4 当審の判断 当審は、上記申立理由1~4のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)について (1)甲1~5に記載された事項 ア 甲1に記載された事項(甲1は外国語で記載された文献であるところ、摘示は、甲1における記載箇所と、それに対応する異議申立人が提出した訳文のみを記載した。甲2~5についても同じ。) (ア)「1頁左欄(要約)10~15行」(一部、当審で訳文を付加した。) (熱酸化により、走査透過型電子顕微鏡トモグラフィデータと微粒子サイズ分布に基づいて触媒薄膜として計算された空隙体積率が約89%のATOに担持されたIrO2ナノ粒子が形成される。このIrを25重量%含む担持型酸化物触媒構造について、約0.08gcm-3という極めて低いIr体積密度を確認している。) (イ)「2頁右欄4段落~3頁左欄2段落」 (スキーム1は、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとする導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(Sb:SnO2またはATO)微粒子の超音波噴霧熱分解(ステップI)と、塩化イリジウム前駆体が水中で酸化して含水IrOxコロイドナノ粒子を形成する工程(ステップII)から始まる合成経路を示している。t-ブタノール、メタノール、H2Oを溶媒とするソルボサーマル反応を主要な工程として行うことで、酸化物微粒子表面のIrOxコロイドナノ粒子を還元し(ステップIII)、同サイズ(約2nm)の金属ナノ粒子(Ir tBuOHと称する)の均一層を形成する。ATO微粒子に担持されたIrナノ粒子の生成物をSG280Δ-Ir-YXと称する。ここで、「SG」は、ゾルゲル法で得られた生成物の略称、下付き文字(280または120)は逆オパール構造微粒子の合成で使用したPMMAビーズの直径(ナノメートル)、「Δ」は、熱硬化されたATO足場粒子、「Ir」は、ソルボサーマル合成で得られたIrナノ粒子が担持された生成物、「Y」=1/2、1、2、3、4は、ATO足場上のイリジウム量「X」の乗数で、複合触媒中のIr含有量を理論上約15wt%とするものである(詳細は実験セクションおよび補足情報の表S1を参照)。空気中での熱酸化(ステップIV)によって、ATO微粒子に担持されたIrO2ナノ粒子が形成される。この生成物をSG280Δ-IrO2-YXと称し、空気中の熱酸化で得られるATO足場粒子に担持されたIrO2ナノ粒子を表す。 上記触媒に加えて、ATO微粒子の合成に120nmのPMMAビーズを用いて、より小さいマクロ孔径の粒子も作製した。試料は、熱酸化前および熱酸化後の甲第1号証-1担持触媒それぞれについて、SG120Δ-Ir-YXおよびSG120Δ-IrO2-YXとした。この2つの一連の触媒は非常に似た材料特性を示すため、本稿では主として、より孔径の大きい粒子の特性評価結果を示し、より孔径の小さい一連の触媒の特性評価結果は補足情報に示す。) (ウ)「2頁スキーム1」 ( [図:0001432100000001.jpg] ) (エ)「4頁左欄3段落1~8行目」 (120nmおよび280nmのPMMAをテンプレートとして作成したATO微粒子のブローナー・エメット・テラー法による表面積は、それぞれ54m2g-1および52m2g-1であった。試料SG120Δにおける約70nmのマクロポアの存在は、図S6aの挿入図(補足情報)に示される細孔径分布から直接的な証拠が得られており、これはSEMおよびTEMによる細孔径の定量結果(補足情報の図S4参照)とよく一致している。) (オ)「4頁右欄4段落、5頁左欄1段落1~2行」 (空気中375℃で焼成した粒子(Ir tBuOHΔ)のXRDパターンは、33°2θ付近に幅広いピークを示しており、ナノサイズの酸化イリジウム相が存在することを示唆している(図2aおよび補足情報の図S9b)。熱処理中、金属ナノ粒子は正方晶のIrO2相(Ir tBuOHΔ、図2k、l)へと変化する。これは、図2lの電子顕微鏡画像に見られる幅広い回折環で確認され、X線回折データとよく一致している。このプロセスは、平均直径約3.2nm(図2k)までのわずかな粒子成長のみが伴う。) (カ)「5頁図2」 ( [図:0001432100000002.jpg] ) (キ)「7頁右欄3段落1~4行」 (酸性媒体中での酸素発生反応触媒としてのマクロ多孔質ATO微粒子に担持された酸化イリジウムナノ粒子の性能を評価するため、電気化学的特性評価を行った。) (ク)「11頁右欄4段落8~13行」 (総じて、イリジウム酸化物ナノ粒子と、適切な導電性を有し合理的に設計された多孔質酸化物とを組み合わせることは、イリジウム添加量を大幅に削減し、長期安定性の向上が期待できるPEM電解槽用の高活性アノードを実現する有効なアプローチであることが、本研究で示された。) (ケ)「12頁右欄4段落9~12行」 (Irナノ粒子およびIrナノ粒子を担持した多孔質ATO微粒子(ソルボサーマル処理されたIrOxコロイド)を、NABERTHERM社製ラボオーブン(モデルN15/65SHA)を使って空気中375℃で焼成した。加熱速度は1.94℃/分、保持時間は1時間とした。) イ 甲2に記載された事項 (ア)「17頁表S1」 ( [図:0001432100000003.jpg] ) (イ)「18頁図S14」 ( [図:0001432100000004.jpg] ) ウ 甲3に記載された事項 (ア)「3頁表2」 ( [図:0001432100000005.jpg] ) (イ)「4頁図2」 ( [図:0001432100000006.jpg] [図:0001432100000007.jpg] ) エ 甲4に記載された事項(甲4には、頁数が付されていないので、論文の実際の内容の記載が始まる甲4の2頁目を1頁としている。) (ア)「1~2頁要約」 (要約 プロトン交換膜(PEM)水電解槽のアノードについて、触媒の添加量、活性、および安定性のバランスが課題として残っている。ここでは酸素発生反応(OER)における優れた活性とPEM水電解槽内での安定性の両方を有する、ナノサイズのIrOx/Nafion(R)(当審注:原文は丸囲みのR、以下同じ)複合触媒について報告する。IrOx/Nafion(R)触媒層は、反応性噴霧堆積技術という、火炎を使ったコスト効率の良いプロセスで作製する。このIrOx/Nafion(R)触媒は、湿式化学法で合成されたIrOxナノ粒子と比較して、OER質量活性が10倍近くまで向上している。また、IrOx/Nafion(R)触媒は、0.08mg cm-2という超低イリジウム添加量であるが、1.8A cm-2、80℃のMEA電解槽で、約4,500時間安定的に動作した。IrOxの構造と電気化学的性能を分析した結果、高い安定性と活性のバランスをとるための次の3つの主要因が明らかとなった。(1)Ir(III)に対するIr(IV)の比率が高く、表面の水酸化物の含有量が高い。(2)ナノサイズのIrOx粒子がNafion(R)イオノマー電解質中に良好に分散していることで、アノード電荷が高く表面積が大きい。(3)アノード触媒層が均質である。) (イ)「14頁、15頁表5」 (未使用IrOx/Nafion(R)の試料のスペクトルを図6aおよび図6cに示す。F1試料のIr4f7/2とIr4f5/2の測定ピーク位置は、F2試料よりもわずかに高い結合エネルギー側にシフトしている。これは、Ir(III)の結合エネルギーがIr(IV)の結合エネルギーよりも高く、F1試料のIr(III)含有量がF2試料よりも高いためである。その結果、F1試料のIr(IV)とIr(III)の比率は約6:4であるのに対し、F2試料では比率がより高く8:2となっている。F2の条件では高温域が長くなるため、酸化イリジウムナノ粒子が焼成される滞留時間が長くなる[59]。それにより、F2試料にはより多くのIr(IV)種が存在する。同様の傾向は、[33]で報告されているIrOx粒子でも見られ、焼成温度が高いほど、より多くのIr(IV)酸化物を含む粒子が生成される。XPSの結果は、F2試料がより高いA2/C2レドックス対を示したRDE測定(図5)とよく一致しており、これはイリジウム(IV)水酸化物のプロトン化および脱プロトン化が容易であることに起因する。Ir(IV)は二核OER機構の前駆体として機能するため、表面に存在するIr(IV)が多いほど、OER活性がより高くなる。 試験後のIr4fスペクトルを図6bおよび図6dに示す。F1試料およびF2試料の両方で、Ir(IV)の組成は数パーセント増加したが、MEA試験前の比率(表5)から大きく乖離していない。MEA試験後のF1試料のIr(III)含有量は高いままである。F1試料の動作可能時間は、わずか22時間であった(セル1)。F1試料の安定性が低いのは、酸素発生サイクルにおいてIr(III)含有量が高い状態で直接溶解することに起因すると考えられる(スキーム1)。対照的に、F2試料は安定性試験後も高いIr(IV)含有量を維持することができる。F2試料の安定性試験時間(セル5)は約4,500時間であり、F1試料(セル1)よりも著しく長い。このことから、高い安定性を達成するためには、試験前と試験後の両方のアノード表面で高いIr(IV)含有量を維持することが極めて重要である。 [図:0001432100000008.jpg] [図:0001432100000009.jpg] ) オ 甲5に記載された事項 (ア)「1頁要約1~2行」 (ここでは酸素発生反応触媒である新規なIrO2で被覆されたTiO2のコア-シェル型微粒子(IrO2@TiO2)を紹介する。) (イ)「2頁左欄1段落32~34行」 (著者らは、IrO2/TiO2のコアシェル設計によってIrO2の利用率を向上させることができ、触媒層でIrO2を最大限に分散できることを示唆した。) (2)甲1に記載された発明 甲1の上記(1)ア(ウ)には、「ATO微粒子に担持されたIrO2酸素発生反応触媒の合成」として、その工程を記載した「Scheme 1」が記載されている。ここで、この「Scheme 1」を説明している同(イ)で、下線を付した箇所をまとめると、同(イ)には、上記触媒を、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとする導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子の超音波噴霧熱分解(ステップI)と、塩化イリジウム前駆体が水中で酸化して含水IrOxコロイドナノ粒子を形成する工程(ステップII)から始まり、t-ブタノール、メタノール、H2Oを溶媒とするソルボサーマル反応を主要な工程として行うことで、酸化物微粒子表面のIrOxコロイドナノ粒子を還元し(ステップIII)、同サイズ(約2nm)の金属ナノ粒子の均一層を形成し、空気中での熱酸化(ステップIV)によって、ATO微粒子に担持されたIrO2ナノ粒子を形成して、合成することが記載されているといえる。 この記載について、最終生成物である「ATO微粒子に担持されたIrO2酸素発生反応触媒」に着目すると、以下の触媒が記載されているといえる。 「ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとする導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子の超音波噴霧熱分解(ステップI)と、塩化イリジウム前駆体が水中で酸化して含水IrOxコロイドナノ粒子を形成する工程(ステップII)から始まり、t-ブタノール、メタノール、H2Oを溶媒とするソルボサーマル反応を主要な工程として行うことで、酸化物微粒子表面のIrOxコロイドナノ粒子を還元し(ステップIII)、同サイズ(約2nm)の金属ナノ粒子の均一層を形成し、空気中での熱酸化(ステップIV)によって、ATO微粒子に担持されたIrO2ナノ粒子を形成することにより合成した、ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸素発生反応触媒。」 ここで、上記「ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとする導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子」について、同(エ)「120nmおよび280nmのPMMAをテンプレートとして作成したATO微粒子のブローナー・エメット・テラー法による表面積は、それぞれ54m2g-1および52m2g-1であった。」との記載によれば、120nmおよび280nmのPMMAをテンプレートとして作成した場合、ATO微粒子のブローナー・エメット・テラー法による表面積は、それぞれ54m2g-1および52m2g-1であるといえる。 また、同(ア)の「熱酸化により、走査透過型電子顕微鏡トモグラフィデータと微粒子サイズ分布に基づいて触媒薄膜として計算された空隙体積率が約89%のATOに担持されたIrO2ナノ粒子が形成される。このIrを25重量%含む担持型酸化物触媒構造について、約0.08gcm-3という極めて低いIr体積密度を確認している。」との記載によれば、甲1に記載される「ATO微粒子に担持されたIrO2酸素発生反応触媒」は、極めて低いIr体積密度を達成できるものであるところ、例えば、Irを25重量%含むものが記載されている。 さらに、上記「ATO微粒子に担持されたIrO2酸素発生反応触媒」の電気化学的特性評価を行うことに関する同(キ)の「酸性媒体中での酸素発生反応触媒としてのマクロ多孔質ATO微粒子に担持された酸化イリジウムナノ粒子の性能を評価するため、電気化学的特性評価を行った。」との記載によれば、甲1発明の「酸素発生反応触媒」は、「酸性媒体中での」「酸素発生反応触媒」であるといえる。 また、同(ク)の「総じて、イリジウム酸化物ナノ粒子と、適切な導電性を有し合理的に設計された多孔質酸化物とを組み合わせることは、イリジウム添加量を大幅に削減し、長期安定性の向上が期待できるPEM電解槽用の高活性アノードを実現する有効なアプローチであることが、本研究で示された。」との記載によれば、甲1発明の「酸素発生反応触媒」は、PEM電解槽用であり、PEM電解とは、固体高分子膜を用いて水を電気分解し、水素と酸素を生成するものであるから、「水電解」におけるものであるといえる。 以上をまとめると、甲1には、「ATO微粒子に担持されたIrO2酸素発生反応触媒」について、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「120nmおよび280nmのポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとした場合、ブローナー・エメット・テラー法による表面積が、それぞれ54m2g-1および52m2g-1である導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子の超音波噴霧熱分解(ステップI)と、塩化イリジウム前駆体が水中で酸化して含水IrOxコロイドナノ粒子を形成する工程(ステップII)から始まり、t-ブタノール、メタノール、H2Oを溶媒とするソルボサーマル反応を主要な工程として行うことで、酸化物微粒子表面のIrOxコロイドナノ粒子を還元し(ステップIII)、同サイズ(約2nm)の金属ナノ粒子の均一層を形成し、空気中での熱酸化(ステップIV)によって、ATO微粒子に担持されたIrO2ナノ粒子を形成することにより合成した、Irを25重量%含む、ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒。」 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明の「導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子」(「ATO微粒子」、「酸化物微粒子」)、「IrO2」は、それぞれ、本件発明1の「担体材料」、「酸化イリジウム」に相当する。 また、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」については、触媒作用を発揮するのはIrO2であるが、IrO2を担持したATO微粒子全体を触媒と見ることもできるから、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」は、本件発明1の「-担体材料と、-前記担体材料上に設けられ、-酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有」する「イリジウム含有コーティングとを含有する」「粒状触媒」と、「-担体材料と、-前記担体材料上に設けられ、-酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有」する「イリジウム含有物とを含有する」「粒状触媒」の点で共通する。 (イ)甲1発明の「酸性媒体中での水電解」における「酸性媒体」とは、「酸性水」のことであるといえるから、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」は、本件発明1の「酸性水電解における酸素発生反応のための粒状触媒」に相当する。 (ウ)甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」のIr含有量は、「25重量%」であるから、本件発明1の「前記触媒は、最大50重量%のイリジウム含有量を含み」との条件を満たす。 (エ)そうすると、本件発明1は、甲1発明と「-担体材料と、 -前記担体材料上に設けられ、 -酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有するイリジウム含有物と、 を含有する酸性水電解における酸素発生反応のための粒状触媒であって、 前記触媒は、最大50重量%のイリジウム含有量を含む、 粒状触媒。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> 「イリジウム含有物」について、本件発明1は、1.5nm~5.0nmの範囲の平均層厚さを有し、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲の、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を有する、イリジウム含有コーティングであるのに対し、甲1発明は、IrO2が、ATO微粒子に担持されているものであるものの、「イリジウム含有コーティング」といえるのか否か、「イリジウム含有コーティング」といえたとしても、1.5nm~5.0nmの範囲の平均層厚さを有するものであるのか否か、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲の、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を有するものであるのか否かが明らかでない点。 イ 上記相違点1に対する判断 (ア)イリジウム含有コーティングについて まず、本件発明1におけるイリジウム含有コーティングに関する本件明細書の記載を確認すると、本件発明1における「イリジウム含有コーティング」は、本件明細書の【0023】の「一定量の塗布された酸化イリジウム、水酸化イリジウム又は水酸化酸化イリジウムに対する担体材料のBET表面積が大きいほど、イリジウム含有コーティングの層厚さは小さくなる。」との記載、同【0024】の「イリジウム含有コーティングは、好ましくは比較的均一な層厚さを有する。例えば、平均層厚さは、局所的に最大2倍変化する。平均層厚さからの相対標準偏差は、好ましくは最大35%である。」との記載、さらには、担体材料上のイリジウム含有コーティングの平均厚さの測定方法である同【0083】~【0085】の「担体材料上のイリジウム含有コーティングの平均厚さを、TEM(transmission electron microscopy、透過型電子顕微鏡)によって決定した。 調査する数μgの材料をエタノール中に懸濁させた。続いて、懸濁液の液滴を、穿孔された炭素フィルム被覆Cuプレートレット(Plano、200メッシュ)上にピペットで移し、乾燥させた。層厚さの測定を、500,000倍の倍率で行った。・・・ イリジウム含有コーティングの厚さを、少なくとも2つのTEM画像上で、それぞれの場合にTEM画像上の少なくとも5つの点において決定した。」との記載によれば、塗布された一定量の酸化イリジウム等に対し、担体材料のBET表面積が大きいほど、イリジウム含有コーティングの層厚さは小さくなるものであることや、平均層厚さの局所的な変化が最大でも2倍変化する程度であること、少なくとも2つのTEM画像上で、それぞれの場合にTEM画像上の少なくとも5つの点での測定で、コーティング内で一定の値を示すことが期待される平均層厚さを求めることができることから、コーティングは、離散的な酸化イリジウム等によるものではなく、連続的に分布する酸化イリジウム等によるものであるといえる。 一方、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」は、「IrO2ナノ粒子」とあるとおり、IrO2ナノ粒子がATO微粒子上に分散して存在しているものであるといえ、概念図ではあるが、甲1の上記(1)ア(ウ)に記載される、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」に対応する「酸化イリジウム@酸化物微粒子」は、ATO微粒子上にIrO2が点状に分散した形状として示されている。これらのことによれば、甲1発明における、IrO2の状態は、連続的に分布するものとはいえないから、本件発明1における「コーティング」に該当するものとはいえない。 そして、甲1の同(ア)に「Irを25重量%含む担持型酸化物触媒構造について、約0.08gcm-3という極めて低いIr体積密度を確認している。」と記載されるように、甲1発明は、特定の構造のATO微粒子上にIrO2ナノ粒子を担持させることにより、極めて低いIr体積密度を実現しているものであるから、このIrO2ナノ粒子の分布状況を変更すると、極めて低いIr体積密度が損なわれるおそれがあるのであるから、甲1発明に、IrO2ナノ粒子の分布状況を変更し、IrO2ナノ粒子が連続的に分布するものとする動機付けがあるとはいえない。 そうすると、上記相違点1における本件発明1の「イリジウム含有コーティング」の点は、甲1発明との間で実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到し得るものでもない。 (イ)イリジウム含有コーティングが「1.5nm~5.0nmの範囲の平均層厚さを有」することについて 本件発明1は、上記(ア)で述べた内容からすると、コーティングが、連続的に分布する酸化イリジウム等によるものであることを前提として、上記(ア)でも記載した本件明細書の【0083】~【0085】に記載されるように、「少なくとも2つのTEM画像上で、それぞれの場合にTEM画像上の少なくとも5つの点において決定」して、イリジウム含有コーティングの厚さを定義することができるものである。 これに対し、甲1発明のIrO2ナノ粒子は、ATO微粒子上に連続的に分布するものとはいえないから、そもそも、本件発明1と同じように、平均層厚さを規定できるとはいえない。 ここで、甲1発明では、「ATO微粒子に担持されたIrO2ナノ粒子」の前段階のものである金属ナノ粒子のサイズが約2nmであること、甲1の上記(1)ア(オ)の「熱処理中、金属ナノ粒子は正方晶のIrO2相(Ir tBuOHΔ、図2k、l)へと変化する。・・・このプロセスは、平均直径約3.2nm(図2k)までのわずかな粒子成長のみが伴う。」との記載によれば、IrO2ナノ粒子のサイズも、金属ナノ粒子のサイズと同程度といえるが、この約2nm等のサイズはあくまで粒子の大きさであって、本件明細書に記載される上述の測定方法によって決められたイリジウム含有コーティングの平均厚さではない。 そして、上記(ア)で述べたように、甲1発明は、特定の構造のATO微粒子上にIrO2ナノ粒子を担持させることにより、その技術的な意義を発揮するのであるから、甲1発明には、コーティングの平均厚さを特定できるように、IrO2ナノ粒子の分布状況を、IrO2ナノ粒子が連続的に分布するものに変更する動機付けがあるとはいえない。 そうすると、本件発明1のイリジウム含有コーティングが、上記相違点1における「1.5nm~5.0nmの範囲の平均層厚さを有」する点は、甲1発明との間で実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到し得るものでもない。 (ウ)イリジウム含有コーティングが「1.9/1.0~4.7/1.0の範囲の、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を有する」ことについて a X線光電子分光法(XPS)のスペクトル図について (a)本件明細書の【0090】の「Ir(IV)対Ir(III)の原子比 酸化状態+4のIr原子対酸化状態+3のIr原子の相対的な割合、したがって、担持された水酸化酸化イリジウム中のIr(IV)/Ir(III)原子比を、X線光電子分光法(XPS)により決定した。」との記載によれば、本件発明1において、Ir(IV)対Ir(III)の原子比は、X線光電子分光法(XPS)により決定している。 ここで、甲1には、Ir(IV)対Ir(III)の原子比に関する何らの記載や示唆はないが、甲1の上記(1)ア(カ)には、図2のdとして、イリジウムナノ粒子とIrO2ナノ粒子のXPSナノスペクトルが記載され、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2ナノ粒子」に対応するIrO2ナノ粒子のXPSナノスペクトルとして以下のスペクトルが示されている(上側のスペクトル)。 「 [図:0001432100000010.jpg] (Ir4f7/2のコア電子結合エネルギーの60.8eVのピークは金属Ir(0)に帰属し、Ir4f7/2のコア電子結合エネルギーの61.9eVのピークはIr(IV)O2に帰属するとされている。)」 他方、甲3の上記(1)ウ(ア)には、IrO2(無水物)の4f7/2の結合エネルギーのピークが61.9eVであること、及びIrCl3(無水物)の4f7/2の結合エネルギーのピークが62.4eVであることが記載されると共に、同(イ)には、IrO2(無水物)のXPSスペクトルとして以下のスペクトルが記載されている。 「 [図:0001432100000011.jpg] 」 そして、特許異議申立書では、「Ir(III)とIr(IV)は異なる結合エネルギーを持つため、Ir(III)の化合物とIr(IV)の化合物を個別にXPSを測定した場合に異なる4f7/2ピークが現れるが、化合物中にIr(III)とIr(IV)とが混在する場合、これらのピークが近接して重なり合い、ピークがブロードになるため、FWHM(半値幅)も大きくなることは当業者の技術常識である。 甲第1号証の図2d)のIrO2ナノ粒子・・・のXPSスペクトル・・・と、甲第3号証の図2(a)のIrO2(無水物)のXPSスペクトルとを比較すると、甲第1号証の図2d)のIrO2ナノ粒子・・・は、甲第3号証の図2(a)のIrO2(無水物)よりも、4f7/2の結合エネルギーのピークがブロードになっていることがわかる。半値幅に関しても、甲第1号証の図2d)・・・に示された4f7/2ピークのFWHM(半値幅)は、・・・2eV以上であることが確認できる。・・・ 一方で、甲第3号証において、Ir(IV)のみで構成されるIrO2(無水物)の4f7/2ピークのFWHMは、0.7eVと記載されている。甲第1号証の図2d)・・・に示された4f7/2ピークのFWHM(半値幅)は、甲第3号証のIrO2(無水物)の4f7/2ピークのFWHMよりも大きく、このことからも、甲第1号証の図2d)・・・のIrO2にはIr(III)が含まれており、その結果として4f7/2ピークがブロード化していると考えられる。」(31頁19行~32頁14行)としている。 しかしながら、そもそも、甲1の図2d)のスペクトルは、スペクトルに対してIr(IV)O2等の4f7/2ピーク位置等の記載のみがなされているように、スペクトルの概略を示すものであって、FWHM(半値幅)等を定量的に導き出すことができる図面であるとはいえない。しかも、このスペクトルから何らかの定量を行うことを目的とした図面ではないため、FWHM(半値幅)をとる位置、及びスペクトルに対する結合エネルギーの目盛りとの関係も不鮮明である。 そうすると、甲1の図2d)及び甲3の図2(a)のスペクトルをもって、甲1の図2d)に示された4f7/2ピークのFWHM(半値幅)は、甲3の図2(a)のIrO2(無水物)の4f7/2ピークのFWHMよりも大きいということはできないから、甲1及び甲3の4f7/2ピークのFWHM(半値幅)の大小関係をもって、甲1の図2d)のIrO2にはIr(III)が含まれている、ということはできないし、さらには、イリジウム(IV)/イリジウム(III)の原子比1.9/1.0~4.7/1.0の範囲を満たしているということはできない。 仮に、甲1の図2d)に示された4f7/2ピークのFWHM(半値幅)は、甲3の図2(a)のIrO2(無水物)の4f7/2ピークのFWHMよりも大きいということがいえたとしても、その原因は、甲1の図2d)のIrO2にIr(III)が含まれている、ということに限られるとはいえない。 すなわち、甲1の図2d)に示されたIrO2ナノ粒子は、金属Ir(0)の熱酸化により生成したことに起因するのか、IrO2ナノ粒子の4f7/2ピークは、むしろピークの61.9eVより小さい側に広がっており(金属Ir(0)の4f7/2ピーク位置は、60,8eVである。)、甲1の図2d)に示された4f7/2ピークのFWHM(半値幅)が、甲3の図2(a)のIrO2(無水物)の4f7/2ピークのFWHMよりも大きいことが、甲1の図2d)のIrO2にIr(III)(ピーク位置が62.4eV)が含まれていることによるもの、とすることはできない。 (b)甲4の上記(1)エ(ア)によれば、甲4には、プロトン交換膜(PEM)水電解槽のアノードに用いるIrOx/Nafion(R)触媒が記載され、同(イ)に、Ir(IV)とIr(III)の比率が8:2であるF2試料の以下のスペクトルが記載されている。 「 [図:0001432100000012.jpg] (縦軸は「強度/a.u.」) 」 ここで、特許異議申立書では、「甲第1号証の図2d)のIrO2ナノ粒子・・・のXPSスペクトル・・・は、甲第4号証のF2試料のXPSスペクトルに類似している。上述のとおり、甲第4号証のF2試料において、4f7/2ピークがIr(III)に起因する高い結合エネルギー側ヘシフトしていることは、類似のスペクトルを有する甲第1号証のIrO2ナノ粒子・・・のXPSスペクトルにおいても同様であり、これらはいずれもIr(III)の存在を示唆する。」(33頁15~22行)としている。 しかしながら、上記(a)で述べたのと同様に、そもそも、甲1の図2d)及び甲4の図6(c)のスペクトルは、スペクトルの概略を示すものであって、甲1の図2d)のスペクトルと甲4の図6(c)のスペクトルが定量的に一致することを確認できる図面であるとはいえない。しかも、これらのスペクトルは、スペクトルから何らかの定量を行うことを目的とした図面ではないため、スペクトルの形状と結合エネルギーの目盛りとの関係も不鮮明である。 そうすると、甲1の図2d)及び甲4の図6(c)のスペクトルをもって、甲1の図2d)に示されたIrO2ナノ粒子のXPSスペクトルは、甲第4号証のF2試料のXPSスペクトルに一致しているということはできないから、甲1の図2d)のIrO2にはIr(III)が含まれている、ということはできない。 さらに、甲1の上記(1)ア(カ)によれば、甲1の図2d)の説明では、「Ir4f7/2の結合エネルギーの61.9eVのピークはIr(IV)O2に帰属」とあるところ、甲3の上記(1)ウ(ア)によれば、IrO2(無水物)の4f7/2の結合エネルギーは、同じく61.9eVとされ、4f7/2ピークが、高い結合エネルギー側ヘシフトしているとはいえない。 そうすると、この点からも、甲1の図2d)のIrO2にはIr(III)が含まれている、ということはできないし、さらには、イリジウム(IV)/イリジウム(III)の原子比1.9/1.0~4.7/1.0の範囲を満たしているということはできない。 b 最終的に触媒を製造する熱処理方法について 本件発明1の粒状触媒の製造方法に関する本件明細書の【0059】の「被覆される担体材料は、例えば、水性媒体中に分散形態で存在する。水性媒体は、アルカリ性条件下でイリジウム含有固体として沈殿することができるイリジウム化合物を含有する。そのようなイリジウム化合物は、当業者に既知である。これは、好ましくは、イリジウム(IV)又はイリジウム(III)化合物である。」及び同【0062】の「水溶液中のアルカリ条件下で固体として沈殿する好適なイリジウム(III)又はイリジウム(IV)化合物は、当業者に既知である。例えば、イリジウム(III)又はイリジウム(IV)化合物は、塩(例えば、IrCl3若しくはIrCl4などのハロゲン化イリジウム;アニオンが塩素錯体IrCl62-である塩;硝酸イリジウム若しくは酢酸イリジウム)、又はH2IrCl6などのイリジウム含有酸である。好ましい実施形態では、水性媒体は、ハロゲン化イリジウム(IV)、特に塩化Ir(IV)を含有する。」との記載によれば、本件発明1の粒状触媒は、担体材料にIrCl3若しくはIrCl4などのハロゲン化イリジウム等のイリジウム(IV)又はイリジウム(III)化合物をアルカリ性条件下で沈殿させた後、同【0075】の「既に上記で説明したように、担体材料上に存在するイリジウム含有コーティングの導電性、したがって触媒の導電性は、熱後処理がいくらか高い温度で行われる場合に改善され得る。触媒の十分に高い導電性と高い電気化学活性との間の有利な折衷は、例えば、被覆担体材料が、250℃超、例えば>250℃~550℃、より好ましくは300℃~450℃、更により好ましくは300℃~380℃の温度で熱処理に供される場合に達成され得る。熱処理は、例えば、酸素含有雰囲気中で行うことができる。熱処理は、例えば、少なくとも1時間、ただし好ましくは3時間以下の期間にわたって行われる。」との記載によれば、250℃超の温度で少なくとも1時間熱処理に供されることで製造されるといえる。 他方、甲1発明の酸素発生反応触媒は、「同サイズ(約2nm)の金属ナノ粒子の均一層を形成し、空気中での熱酸化(ステップIV)によって、ATO微粒子に担持されたIrO2ナノ粒子を形成することにより合成」とあるように、Ir金属ナノ粒子を空気中で熱酸化することにより、IrO2ナノ粒子を製造している。そして、甲1の上記(1)ア(ケ)の記載によれば、ステップIVの熱酸化は、375℃で保持時間は1時間の条件である。 ここで、本件発明1の粒状触媒と甲1発明の酸素発生反応触媒について、原料が同一であって、製造条件が完全に一致していれば、製造される本件発明1の粒状触媒と甲1発明の酸素発生反応触媒は同じものとなる可能性がある。 特許異議申立書では、「本件特許明細書の実施例・・・では、酸素含有雰囲気中、350℃で1時間の熱後処理を行ったことが記載されている。 これに対して、甲第1号証・・・には、Irナノ粒子を担持した多孔質ATO微粒子(ソルボサーマル処理されたIrOxコロイド)の焼成が、375℃で1時間行われたことが記載され、このような焼成は、本件特許明細書の熱処理の好ましい温度、好ましい時間の範囲内であって、本件特許明細書の実施例で行われた、酸素含有雰囲気中、350℃で1時間の熱処理と極めて近いといえる。 以上より、甲第1号証において、375℃で1時間の熱処理(焼成)により得られたIrO2ナノ粒子は、イリジウム(IV)/イリジウム(III)の原子比1.9/1.0~4.7/1.0の範囲を満たす蓋然性が高い」と主張されている(34頁7~19行)。 しかしながら、本件発明1の粒状触媒の原料は、担体材料にIrCl3若しくはIrCl4などのハロゲン化イリジウム等のイリジウム(IV)又はイリジウム(III)化合物をアルカリ性条件下で沈殿させたものであるのに対し、甲1発明の酸素発生反応触媒の原料(熱酸化前の原料)は、Ir金属ナノ粒子であり、原料がそもそも相違しているのであるから、類似した熱処理を施したとしても、同じものが製造されるとはいえない。 そうすると、本件発明1の粒状触媒及び甲1発明の酸素発生反応触媒を製造する熱処理を経て同じものが製造されるとはいえないのであるから、甲1発明のIrO2ナノ粒子が、イリジウム(IV)/イリジウム(III)の原子比1.9/1.0~4.7/1.0の範囲を満たしているということはできない。 c イリジウム含有コーティングが「1.9/1.0~4.7/1.0の範囲の、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を有する」ことに関する容易想到性ついて 甲1発明は、IrO2ナノ粒子にイリジウム(III)が含まれる何らの認識もないのであるから、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲にする動機付けがあるとはいえない。 上述のとおり、甲1発明に、イリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲にする動機付けがないのであるから、甲1発明において、イリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲にすることが当業者にとり容易に想到し得るものではないことは、他の甲号証の記載により左右されるものではないが、念のためイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比について記載している甲4について検討する。 甲4の上記(1)エ(ア)に「IrOx/Nafion(R)触媒は、0.08mg cm-2という超低イリジウム添加量であるが、1.8A cm-2、80℃のMEA電解槽で、約4,500時間安定的に動作した。IrOxの構造と電気化学的性能を分析した結果、高い安定性と活性のバランスをとるための次の3つの主要因が明らかとなった。(1)Ir(III)に対するIr(IV)の比率が高く、表面の水酸化物の含有量が高い。(2)ナノサイズのIrOx粒子がNafion(R)イオノマー電解質中に良好に分散していることで、アノード電荷が高く表面積が大きい。(3)アノード触媒層が均質である。」との記載があり、甲4に記載される技術は、IrOx/Nafion(R)触媒の高い安定性と活性のバランスをとるためには、Ir(III)に対するIr(IV)の比率を高くすることを指向しているといえるから、当業者が甲4に接したとしても、Ir(III)に対するIr(IV)の比を1.9/1.0~4.7/1.0という所定の範囲、しかもIr(III)が相当量存在する範囲にしようとすることはない。 そうすると、甲4を含め他の甲号証を考慮したとしても、イリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲にすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (エ)相違点1に対する判断のまとめ 上記(ア)~(ウ)で述べたように、上記相違点1は、実質的な相違点であると共に、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 ウ 小括 上記イで述べたように、上記相違点1は、実質的な相違点であると共に、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (4)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、甲1発明ではないし、本件発明2、3は、甲1発明及び甲2~甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (5)本件発明4について ア 対比 本件発明4と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明の「導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子」(「ATO微粒子」、「酸化物微粒子」)、「IrO2」は、それぞれ、本件発明4の「担体材料」、「酸化イリジウム」に相当する。 また、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」については、触媒作用を発揮するのはIrO2であるが、IrO2を担持したATO微粒子全体を触媒と見ることもできるから、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」は、本件発明4の「-担体材料と、-前記担体材料上に設けられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有するイリジウム含有コーティングとを含有する」「粒状触媒」と、「-担体材料と、-前記担体材料上に設けられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有するイリジウム含有物とを含有する」「粒状触媒」の点で共通する。 (イ)甲1発明の「酸性媒体中での水電解」における「酸性媒体」とは、「酸性水」のことであるといえるから、甲1発明の「ATO微粒子に担持されたIrO2である、酸性媒体中での水電解における酸素発生反応触媒」は、本件発明4の「酸性水電解における酸素発生反応のための粒状触媒」に相当する。 (ウ)そうすると、本件発明4は、甲1発明と「-担体材料と、 -前記担体材料上に設けられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム、若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうちの少なくとも2種の混合物を含有するイリジウム含有物と を含有する酸性水電解における酸素発生反応のための粒状触媒。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2> 「担体材料のBET(ブローナー・エメット・テラー)表面積」が、本件発明4では、「2m2/g~<10m2/g」の範囲であるのに対し、甲1発明では、54m2g-1又は52m2g-1である点。 <相違点3> 「イリジウム含有物」が、本件発明4では、「イリジウム含有コーティング」であるのに対し、甲1発明では、IrO2が、ATO微粒子に担持されているものであるものの、「イリジウム含有コーティング」であるのか否か明らかでない点。 <相違点4> 「触媒」における「イリジウム含有量」が、本件発明4では、「5重量%~20重量%」であるのに対し、甲1発明では、25重量%である点。 イ 上記相違点に対する判断 (ア)上記相違点2について 担体材料のBET表面積について、本件発明4と甲1発明で相違しているのであるから、上記相違点2は実質的な相違点である。 そして、甲1発明は、120nmおよび280nmのポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとし、超音波噴霧熱分解(ステップI)によって製造された、特徴的な構造を有する導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子を担体とするものであり、甲1の上記(1)ア(ク)の「総じて、イリジウム酸化物ナノ粒子と、適切な導電性を有し合理的に設計された多孔質酸化物とを組み合わせることは、イリジウム添加量を大幅に削減し、長期安定性の向上が期待できるPEM電解槽用の高活性アノードを実現する有効なアプローチであることが、本研究で示された。」との記載によれば、「適切な導電性を有し合理的に設計された多孔質酸化物」とは、甲1発明における、超音波噴霧熱分解(ステップI)によって製造された「導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子」のことであるから、イリジウム添加量を大幅に削減し、長期安定性の向上が期待できるPEM電解槽用の高活性アノードを実現するには、導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子の特別な構造が必須であるといえる。 ここで、導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子は、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとして製造され、同(ウ)でマクロポーラス微粒子として、特徴的な概略図が記載されているとおり、比較的大きなBET表面積を有するところ、このBET表面積を、仮に「2m2/g~<10m2/g」の範囲まで減少させることを試みた場合には、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をテンプレートとして製造すること、また、この製造方法を前提とした特徴的な導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子の構造を維持すること、さらには、この構造によってもたらされる、イリジウム添加量を大幅に削減し、長期安定性の向上が期待できるPEM電解槽用の高活性アノードを実現するということができなくなるおそれがあるのであるから、甲1発明における導電性マクロ多孔質アンチモン添加酸化スズ(ATO)微粒子のBET表面積を、54m2g-1又は52m2g-1から「2m2/g~<10m2/g」に減少させることには、阻害要因があるというべきである。 そうすると、甲2~甲5の記載に左右されることなく、上記相違点2における本件発明4の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 (イ)上記相違点3について 上記(3)イ(ア)で述べたのと同様に、本件発明4における「イリジウム含有コーティング」とは、離散的な酸化イリジウム等によるものではなく、連続的に分布する酸化イリジウム等によるものであるといえる。 他方、甲1発明における、酸化イリジウムの状態は、連続的に分布する酸化イリジウム等であるとはいえないから、本件発明4におけるコーティングに該当するとはいえない。 そして、甲1発明は、特定の構造のATO微粒子上にIrO2ナノ粒子を担持させることにより、極めて低いIr体積密度を実現しているといえるから、このIrO2ナノ粒子の分布状況を変更すると、極めて低いIr体積密度が損なわれるおそれもあるのであるから、甲1発明において、IrO2ナノ粒子の分布状況を変更し、本件発明4におけるコーティングである連続的に分布するIrO2ナノ粒子からなるものとする動機付けがあるとはいえない。 そうすると、上記相違点3における本件発明4の「イリジウム含有コーティング」の構成は、甲1発明との間で実質的な相違点となるものであるし、甲1発明において、IrO2ナノ粒子の分布状況を変更し、本件発明4におけるコーティングである連続的に分布するIrO2ナノ粒子からなるものとする動機付けがあるとはいえないから、上記相違点3における本件発明4の「イリジウム含有コーティング」の構成は、当業者が容易に想到し得るものでもない。 ウ 小括 上記イで述べたように、上記相違点2及び3に係る本件発明4の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲2~甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (6)本件発明5~14について 本件発明5~14は、本件発明1又は4を直接又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1又は4の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1又は4と同様に、本件発明6、9、11~14は、甲1発明ではないし、本件発明5~14は、甲1発明及び甲2~甲5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (7)申立理由1及び2に関するまとめ 上記(3)~(6)で述べたとおり、申立理由1及び2には、理由がない。 2 申立理由3(実施可能要件違反)、4(明確性要件違反)について (1)申立理由3及び4の概要 本件発明1の「前記イリジウム含有コーティングは、1.9/1.0~4.7/1.0の範囲の、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるイリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比を有する」との構成要件に関して、本件明細書の【0090】には、Ir(IV)/Ir(III)原子比の決定方法として、「担持された水酸化酸化イリジウム中のIr(IV)/Ir(III)原子比を、X線光電子分光法(XPS)により決定した。この比は、Ir(4f)二重線(BE75~55eV、Al-Kα源)の詳細スペクトルにおいて、シャーリーバックグラウンドを用いた補正非対称ローレンツピークフィットによって決定される。」と記載され、さらに、「対応する手順は、例えば、Abbott et al.,Chem.Mater.,2016,6591-6604に記載されている。」と記載されている。 本件明細書では、イリジウム(IV)/イリジウム(III)原子比の決定手法として、Abbott et al.,Chem.Mater.,2016を引用しているが、同論文では材料間の相対比較を示すにとどまり、絶対的な原子比を決定するための標準試料・較正手法・補正条件などが開示されていない。 本件明細書においても、標準試料・較正手法・補正条件が開示されておらず、上記構成要件におけるIr(IV)/Ir(III)原子比は、測定装置・解析条件・試料特性によって結果が変動し得る部分を含んでおり、上記構成要件の内容が不明確である。 したがって、本件発明1~14は、明確性要件違反であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。 また、上記のとおり、本件明細書には、Ir(IV)/Ir(III)原子比を決定するための標準試料・較正手法・補正条件などの情報が欠けており、上記構成要件を再現性良く測定・特定することが困難であるから、本件明細書の発明の詳細の説明は、本件発明1~14について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとも言え、実施可能要件を満たしていない。 したがって、本件発明1~14に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に違反しており、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。 (2)申立理由3、4に対する当審の判断 明確性要件を判断するにあたって、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものとされている。 また、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かは、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があるか否かという観点から判断すべきものとされている。 これに対し、申立理由3及び4では、本件明細書で、Ir(IV)/Ir(III)原子比を決定するための標準試料・較正手法・補正条件などの情報が欠けていると、どのような状況が生じるのか等が、具体的かつ客観的に明らかにされていないから、これらの情報が欠けていると、何故、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確となるのか、また、当業者が、本件発明を実施するのに過度の試行錯誤を必要とすることになるのか、明らかでない。 そうすると、申立理由3及び申立理由4の内容では、本件発明1~14が、明確性要件に違反しているとも、また、本件発明1~14に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に違反しているということはできない。 さらに検討しても、本件明細書の【0090】には、X線光電子分光法(XPS)によるIr(IV)/Ir(III)の原子比の決定について、「この比は、Ir(4f)二重線(BE75~55eV、Al-kα源)の詳細スペクトルにおいて、シャーリーバックグラウンドを用いた補正非対称ローレンツピークフィットによって決定される。更に、O(1s)の詳細スペクトル(BE約531eV、Al-kα源)中のIrOH種の存在もまた、非対称ピークフィット(Shirleyバックグラウンド、ガウスコンテンツ30%のガウス-ローレンツ複合関数)によって検出される。対応する手順は、例えば、Abbott et al.,Chem.Mater.,2016,6591-6604に記載されている。」と記載され、ここで引用されている一般学術文献である甲6には、日本語訳のみで記載すると、「X線光電子分光(XPS)測定は、アルミニウムKα単色X線源(15kV/150W、ビーム径500μm)および磁気レンズシステムを備えたVG ESCALAB 220iXL分光器(Thermo Fischer Scientific製)を用いて行った。取得したスペクトルの結合エネルギーは、284.6eVでのC 1sピークに基づいて補正した。バックグラウンドは、Shirley法[38]に従って除去し、原子組成の推定にはScofieldの原子感度係数(ASF)を適用した39。」(原文の第2頁右欄3段落11~18行の日本語訳)との記載がある。 また、同じく一般学術文献である甲4は、上記1(1)エ(イ)の記載によれば、Ir(IV)とIr(III)を含む試料をXPSにより測定しているものであるところ、そのXPSによる測定については、日本語訳のみで記載すると、「表面イリジウム組成を調べるため、Phi 510 X線光電子分光計(線源:Al Kα,λ=1486.6eV)を用いてXPSを測定した。本研究で報告された結合エネルギーは、不定性の炭素1sの結合エネルギー284.8eVを得て、電荷補正された。XPSデータは、CASA-XPSソフトウェアを用いて処理された。」(6頁4段落14~17行)」との記載がある。 これらの記載では、Ir(IV)/Ir(III)原子比を決定するための標準試料・較正手法・補正条件などの情報の詳細は明らかにされていないが、実験の再現性が重要視される一般の学術文献における記載が、上述のとおりであるということは、Ir(IV)/Ir(III)原子比を決定するための標準試料・較正手法・補正条件などの情報の詳細を記載しなくとも、当業者にとっては、Ir(IV)/Ir(III)原子比のXPSにおける測定に支障がないということができる。 以上の点を踏まえても、Ir(IV)/Ir(III)原子比を決定するための標準試料・較正手法・補正条件の詳細を記載していないからといって、本件発明1~14が、明確性要件に違反している、また、本件発明1~14に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に違反しているということはできない。 そうすると、申立理由3及び申立理由4には、理由がない。 (3)申立理由3、4に関するまとめ 上記(2)で述べたとおり、申立理由3及び4には、理由がない。 第5 むすび 上記第4で検討したとおり、本件特許1~14は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1~4では、本件特許1~14を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~14を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700964

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