特許異議申立
2024-700181
フレキソ印刷版原版及びフレキソ印刷版
- 審判番号
- 2024-700181
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-554039
- 登録番号
- 7366924
- 請求日
- 2024年02月27日
- 審決日
- 2025年06月03日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士フイルム株式会社
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【権利者代理人】三橋 史生
- 【権利者代理人】蜂谷 浩久
- 【権利者代理人】上西 浩史
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 本田 博幸
- 分類
- P1651.113-YAA(G03F) / P1651.121-YAA(G03F) / P1651.536-YAA(G03F) / P1651.537-YAA(G03F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第113条、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7366924号発明「フレキソ印刷版原版及びフレキソ印刷版」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7366924号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7366924号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7366924号の請求項1~5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2020-554039号、以下「本件出願」という。)は、2019年(令和元年)10月31日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年10月31日)を国際出願日とする出願であって、令和5年10月13日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月23日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年2月27日に、特許異議申立人 浅野 幸義(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年 7月 2日付け:取消理由通知書
令和6年 9月 2日 :意見書(特許権者)の提出
令和6年 9月 2日 :訂正請求書の提出
令和6年10月15日 :意見書(特許異議申立人)の提出
令和6年11月15日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 1月20日 :意見書(特許権者)の提出
令和7年 1月20日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を以下「本件訂正請求」という。)
また、令和7年1月28日付けで特許法120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を特許異議申立人に対して行ったところ、特許異議申立人からは何ら応答がなかった。
なお、特許法120条の5第7項の規定により、令和6年9月2日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7366924号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 前記感光層において、前記ポリマーの含有量に対する前記多官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、3.0以下である、」
と記載されているのを、
「 前記感光層において、前記ポリマーの含有量が、前記感光層の全固形分に対して、1~12質量%であり、かつ、前記ポリマーの含有量に対する前記多官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.3以上3.0以下であり、かつ、前記水分散性粒子の含有量が、前記感光層の全固形分に対して、5~35質量%である、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2および4~5についても同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「 前記感光層において、前記多官能モノマーの含有量に対する前記単官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.5以下である、請求項2に記載の水現像性フレキソ印刷版原版。」と記載されているのを、
「 水分散性粒子と、両末端に(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重量平均分子量が8,000以上100,000以下のジエン系ゴムであるポリマーと、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマーとを含有する感光層を有し、
前記感光層が、さらに、単官能モノマーを含有し、
前記多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物であり、
前記感光層において、前記ポリマーの含有量が、前記感光層の全固形分に対して、1~12質量%であり、かつ、前記ポリマーの含有量に対する前記多官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.3以上3.0以下であり、
前記感光層において、前記多官能モノマーの含有量に対する前記単官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.5以下である、水現像性フレキソ印刷版原版。
【化2】
[図:0001426802000001.jpg]
」
に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4~5についても同様に訂正する)。
(3)一群の請求項
本件訂正請求は、訂正後の一群の請求項である請求項〔1~5〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載された「感光層」が含有する「ポリマー」について、訂正前の請求項1では任意の含有量であったものを「感光層の全固形分に対して、1~12質量%」に限定するとともに、「ポリマー」に対する「多官能モノマー」の含有量の比率について、訂正前の請求項1では、質量比で、「3.0以下」であったものを「0.3以上3.0以下」に限定するものである。
また、訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載された「感光層」が含有する「水分散性粒子」について、訂正前の請求項1では任意の含有量であったものを「感光層の全固形分に対して、5~35質量%」に限定するものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4及び5についても、同様である。
イ 新規事項の有無
訂正事項1に係る訂正のうち、「感光層」が含有する「ポリマー」について、「感光層の全固形分に対して、1~12質量%」に限定する訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0025】における「本発明の感光層において特定ポリマーの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、本発明の感光層の全固形分に対して、1~50質量%であることが好ましく」との記載、及び、【0079】【表1】の「実施例5、7~9」において、「テレケリックポリマー」である「大阪有機化学工業 BAC-45」の「12(質量)%」との記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
また、訂正事項1に係る訂正のうち、「ポリマー」に対する「多官能モノマー」の含有量の比率について、訂正前は質量比で、「3.0以下」であったものを「0.3以上3.0以下」に限定する訂正は、本件特許明細書の【0079】【表1】の「実施例11」における「特定モノマー/特定ポリマー」の「0.3」との記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
さらに、訂正事項1に係る訂正のうち、「感光層」が含有する「水分散性粒子」について、「感光層の全固形分に対して、5~35質量%」に限定する訂正は、本件特許明細書の【0016】における「本発明の感光層において水分散性粒子の含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、本発明の感光層の全固形分に対して、5~80質量%であることが好ましく」との記載、及び、【0079】【表1】の「実施例1~11」において、「水分散ラテックス」である「日本ZEON Nipol LX111NF(固形分55%)」又は「日本エイアンドエル スマーテックスPA-3974(固形分50%)」の「35(質量)%」との記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4及び5についても、同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4及び5についても、同様である。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項3の記載を独立請求項の形式に記載する訂正であって、特許法120条の5第2項ただし書4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項3が引用する請求項1に記載された「感光層」が含有する「ポリマー」について、訂正前の請求項1では任意の含有量であったものを「感光層の全固形分に対して、1~12質量%」に限定するとともに、「ポリマー」に対する「多官能モノマー」の含有量の比率について、訂正前の請求項1では、質量比で、「3.0以下」であったものを「0.3以上3.0以下」に限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
請求項3の記載を引用して記載された請求項4及び5についても、同様である。
イ 新規事項の有無
訂正事項2に係る訂正のうち、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項3の記載を独立請求項の形式に記載する訂正が、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
また、訂正事項2に係る訂正のうち、「感光層」が含有する「ポリマー」について、「感光層の全固形分に対して、1~12質量%」に限定する訂正、及び、「ポリマー」に対する「多官能モノマー」の含有量の比率について、訂正前は質量比で、「3.0以下」であったものを「0.3以上3.0以下」に限定する訂正は、上記2(1)イのとおり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
請求項3の記載を引用して記載された請求項4及び5についても、同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
請求項3の記載を引用して記載された請求項4及び5についても、同様である。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するから、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求に係る訂正は認められた。
したがって、本件訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明5」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
水分散性粒子と、両末端に(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重量平均分子量が8,000以上100,000以下のジエン系ゴムであるポリマーと、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマーとを含有する感光層を有し、
前記多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物であり、
前記感光層において、前記ポリマーの含有量が、前記感光層の全固形分に対して、1~12質量%であり、かつ、前記ポリマーの含有量に対する前記多官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.3以上3.0以下であり、かつ、前記水分散性粒子の含有量が、前記感光層の全固形分に対して、5~35質量%である、水現像性フレキソ印刷版原版。
【化1】
[図:0001426802000002.jpg]
【請求項2】
前記感光層が、さらに、単官能モノマーを含有する、請求項1に記載の水現像性フレキソ印刷版原版。
【請求項3】
水分散性粒子と、両末端に(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重量平均分子量が8,000以上100,000以下のジエン系ゴムであるポリマーと、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマーとを含有する感光層を有し、
前記感光層が、さらに、単官能モノマーを含有し、
前記多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物であり、
前記感光層において、前記ポリマーの含有量が、前記感光層の全固形分に対して、1~12質量%であり、かつ、前記ポリマーの含有量に対する前記多官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.3以上3.0以下であり、
前記感光層において、前記多官能モノマーの含有量に対する前記単官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.5以下である、水現像性フレキソ印刷版原版。
【化2】
[図:0001426802000003.jpg]
【請求項4】
前記ジエン系ゴムがブタジエンゴムである、請求項1~3のいずれか1項に記載の水現像性フレキソ印刷版原版。
【請求項5】
画像部と非画像部とを有するフレキソ印刷版であって、
前記画像部が、請求項1~4のいずれか1項に記載の水現像性フレキソ印刷版原版が有する感光層を画像様に露光し、現像することにより得られる画像部である、フレキソ印刷版。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 特許異議申立人が提示した証拠方法
甲第1号証:国際公開第2013/146586号(以下「甲1」という。)
参考資料1:ABU-4の「安全データシート」(共栄化学(株)によって公表されているもの)参考資料2:ABU-4の「分子量測定」((株)UBE科学分析センターによって作成されたもの)
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1、2、4及び5に係る特許に対して、当合議体が令和6年11月15日付け取消理由通知書により通知した取消理由は、概略次のとおりである。
理由1:(進歩性)本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当合議体の判断
1 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載
令和6年11月15日付け取消理由通知書で引用された甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付したものであって、甲1に記載された発明の認定に用いた箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、コンピュータ製版(Computer to Plate)技術によりフレキソ印刷版を製造するために使用される感光性樹脂組成物に関する。」
イ 「発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、感光性樹脂組成物中に水分散性ラテックスを含有するCTP水現像性フレキソ版において、従来通りの現像性・画像再現性を保持しながら、CTP版特有の課題であるレリーフエッジ部の盛り上がりによる印刷カスレを抑え、さらに耐刷性をも満足する高性能なCTP感光性フレキソ印刷原版及びそのための感光性樹脂組成物を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、感光性樹脂層の架橋成分に特定の水酸基含有光重合性モノマーを使用することにより、所望の効果が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
[0009] 即ち、本発明は、以下の(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)少なくとも(A)水分散ラテックスから得られる疎水性重合体、(B)親水性重合体、(C)光重合性不飽和化合物、及び(D)光重合開始剤を含む感光性樹脂組成物であって、(C)光重合性不飽和化合物が、(C-1)水酸基非含有光重合性オリゴマー、(C-2)ペンタエリスリトール骨格、ジペンタエリスリトール骨格又はグリセリン骨格を持つ重量平均分子量200~1500の水酸基含有光重合性モノマー、及び所望により(C-3)水酸基非含有光重合性モノマーからなり、(C-2)水酸基含有光重合性モノマーの含有量が感光性樹脂組成物の1~20質量%であることを特徴とするCTPフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
(2)(E)ゴムをさらに含有し、(E)ゴムの含有量が感光性樹脂組成物の0.5~15質量%であることを特徴とする(1)に記載のCTPフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
(3)(E)ゴムの含有量が感光性樹脂組成物の1~7質量%であることを特徴とする(2)に記載のCTPフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
(4)(C-2)水酸基含有光重合性モノマー由来の水酸基濃度が0.1~1.5等量モル/kgであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のCTPフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層の表面に、感熱マスク層を設けたことを特徴とするCTPフレキソ印刷原版。
発明の効果
[0010] 本発明の感光性樹脂組成物は、使用する光重合性不飽和化合物において特定の水酸基含有光重合性モノマーを含有し、さらには特定量のゴムを使用するようにしたので、カッピング、カバーフィルム剥離性、感熱マスク層耐性、機械的強伸度、及び現像性に優れたCTP感光性フレキソ印刷原版を提供することができる。」
ウ 「発明を実施するための形態
[0011] 以下、本発明のCTPフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物及びそれから得られるCTPフレキソ印刷原版について説明する。
[0012] 本発明のCTPフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物は、少なくとも(A)水分散ラテックスから得られる疎水性重合体、(B)親水性重合体、(C)光重合性不飽和化合物、(D)光重合開始剤、及び所望により(E)ゴムを含み、特に(C)光重合性不飽和化合物として特定の(C-2)水酸基含有光重合性モノマーを使用したこと、及び特定量のゴムを使用したことに特徴がある。
[0013] (A)水分散ラテックスから得られる疎水性重合体としては、ポリブタジエン(BR)ラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)ラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ポリイソプレンラテックス、ポリウレタンラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、ビニルピリジン重合体ラテックス、ブチル重合体ラテックス、チオコール重合体ラテックス、アクリレート重合体ラテックスなどの水分散ラテックス重合体やこれら重合体にアクリル酸やメタクリル酸などの他の成分を共重合して得られる重合体が挙げられる。これらの中でも、分子鎖中にブタジエン骨格またはイソプレン骨格を含有する水分散ラテックス重合体が、硬度やゴム弾性の点から好ましく用いられる。具体的には、ポリブタジエンラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、ポリイソプレンラテックスが好ましい。ラテックスは、独立した微粒子としてその存在が確認できることが必要である。(A)成分の感光性樹脂組成物中の配合量は40~80質量%であることが好ましい。40質量%未満では、印刷板としての強度が不足し、80質量%を超えると、水現像に時間を要するおそれがある。
[0014] (B)親水性重合体としては、-COOH、-COOM(Mは1価、2価あるいは3価の金属イオンまたは置換または無置換のアンモニウムイオン)、-OH、-NH2、-SO3H、リン酸エステル基などの親水基を有するものが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸またはその塩類の重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類と酢酸ビニルとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアクリロニトリルとの共重合体、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、-COOM基を有するポリウレタン、-COOM基を有するポリウレアウレタン、-COOM基を有するポリアミド酸およびこれらの塩類または誘導体が挙げられる。これらはそれぞれを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。(B)成分の感光性樹脂組成物中の配合量は2~10質量%であることが好ましい。2質量%未満では、現像性が悪化し、10質量%を超えると、レリーフの耐水性が悪化するおそれがある。
[0015] (C)光重合性不飽和化合物は、(C-1)水酸基非含有光重合性オリゴマー、(C-2)水酸基含有光重合性モノマー、及び所望により(C-3)水酸基非含有光重合性モノマーからなる。(C)成分の感光性樹脂組成物中の配合量は25~45質量%であることが好ましい。25質量%未満では、現像性が悪化し、45質量%を超えると、強靭性が悪化するおそれがある。
[0016] (C-1)水酸基非含有光重合性オリゴマーは、共役ジエン系重合体の末端および/または側鎖にエチレン性不飽和基が結合した重合体であって、数平均分子量が1000以上、10000以下のものであることが好ましい。共役ジエン系エチレン性重合体を構成する共役ジエン系重合体は、共役ジエン不飽和化合物の単独重合体または共役ジエン不飽和化合物とモノエチレン性不飽和化合物との共重合体によって構成される。かかる共重合体としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン-クロロプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-イソプレン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-クロロプレン共重合体、アクリル酸メチル-ブタジエン共重合体、アクリル酸メチル-イソプレン共重合体、アクリル酸メチル-クロロプレン共重合体、アクリル酸メチル-クロロプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-クロロプレン-スチレン共重合体等が挙げられる。これらのうち、ゴム弾性と光硬化性の点で、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体が好ましく、特に好ましくはブタジエン重合体、イソプレン重合体である。(C-1)成分の感光性樹脂組成物中の配合量は10~30質量%であることが好ましい。10質量%未満では、レリーフの耐溶剤性が悪化し、30質量%を超えると、樹脂の粘着性が増大しハンドリングが悪化するおそれがある。
[0017] (C-2)水酸基含有光重合性モノマーは、分子内に少なくとも1個以上の水酸基を有するエチレン重合性不飽和炭化水素化合物である。構造としては、ペンタエリスリトール骨格、ジペンタエリスリトール骨格、またはグリセリン骨格の中で少なくとも一つの骨格を持ち、前記骨格由来の水酸基を分子内に持つ。これらの骨格にはエチレングリコールやプロピレングリコール等の二価アルコールを付加させても良い。感光性樹脂組成物中の水酸基含有光重合性モノマー由来の水酸基濃度としては、0.01~5等量モル/kgが好ましく、0.05~2等量モル/kgがより好ましく、0.1~1.5等量モル/kgが更に好ましい。また、水酸基含有光重合性モノマーの重量平均分子量は、200~1500であり、200~1000が好ましく、210~900がより好ましい。この(C-2)成分は、主露光時に非露後部から露光部に感光性樹脂成分が感光性樹脂版表層に染み出し、感熱マスク層や保護層などの感光性樹脂版表層の組織を膨潤、溶解させて離型部分のタック性を増加することから防ぐ役割を有する。
[0018] 水酸基含有光重合性モノマーとしては、具体的には、ペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、(ポリ)グリシジルエーテルペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、プロポキシ化ジペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、ポリグリシジルエーテルジペンタエリスリトール(ポリ)アクリレート、フタル酸グリシジル(ポリ)アクリレート、フタル酸ポリグリシジル(ポリ)アクリレート、ヘキサヒドロフタル酸グリシジル(ポリ)アクリレート、ヘキサヒドロフタル酸ポリグリシジル(ポリ)アクリレート、トリメチロールプロパングリシジル(ポリ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリグリシジル(ポリ)アクリレート、グリシジル(ジ)アクリレート、エトキシ化グリシジル(ジ)アクリレート、プロポキシ化グリシジル(ジ)アクリレート、ポリグリシジル(ポリ)アクリレート、以上のアクリレート及び/又はメタクリレートが挙げられる。(C-2)成分の感光性樹脂組成物中の配合量は、1~20質量%であり、好ましくは1.5~18質量%である。(C-2)成分が上記範囲未満では、印刷カスレが生じ、上記範囲を超えると、レリーフの強靭性が損なわれるおそれがある。
[0019] (C-3)水酸基非含有光重合性モノマーは、分子内に水酸基を有さないエチレン重合性不飽和炭化水素化合物である。(C-3)成分は、刷版表面の架橋密度を上げるために、本発明の効果を阻害しない範囲で添加されることができる。水酸基非含有光重合性モノマーは、分子量が100~500で、少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基を末端又は側鎖に有する化合物であることが好ましく、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ライトエステルP-2
M[共栄社化学(株)製]、ペンタエリスリトールの3モルエチレンオキサイド付加物のトリアクリレート、オリゴプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、特にアルキレングリコール系及びアルキレンエーテル系の架橋剤が好ましい。
[0020] また、印刷版の機械的強度を上げ、耐刷性を向上させるためには、(C-3)水酸基非含有光重合性モノマーは、前記以外に、少なくとも一種がアルキルメタクリレートであることが好ましく、特に、炭素数8~18でありかつ直鎖状であるアルキルメタクリレートが好ましい。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、クロロプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、特に好ましくはn-ラウリルメタクリレート、アルキル(C12~13)メタクリレート、トリデシルメタクリレート、アルキル(C12~15)メタクリレート等が挙げられる。(C-3)成分の感光性樹脂組成物中の配合量は、0~20質量%であることが好ましい。20質量%を超えると、樹脂の粘着性が増大しハンドリングが悪化するおそれがある。」
エ 「[0025] 本発明の感光性樹脂組成物は、CTPフレキソ印刷原版の感光性樹脂層に用いるためのものである。本発明のCTPフレキソ印刷原版は、少なくとも支持体、感光性樹脂層、保護層及び感熱マスク層の構成からなるものである。」
オ 「実施例
[0035] 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[0036]<感光性樹脂原版の作成>
実施例及び比較例のそれぞれで得られた感光性樹脂組成物を、厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリエステル系接着層を10μm厚でコーティングした支持体と、厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に保護層(ポリビニルアルコール)と感熱マスク層(ブチラール樹脂にカーボンブラックを分散)をコーティングしたカバーフィルムとで、接着層、保護層が感光性樹脂組成物と接触するように挟み、ヒートプレス機で100℃、15MPaの圧力で1分間加温加圧することにより、感光性樹脂層の厚みが1.0mmの感光性樹脂原版を作製した。
[0037]<評価レリーフの作成>
感光性樹脂原版を350nmにおける照度8.0w/m2の紫外線用蛍光灯(PHILIPS社製 10R)を用いて、10秒の裏露光を行い、カバーフィルムを剥離した。次にIRレーザー照射機で少なくとも線幅300μmの細線を含む画像を樹脂版感熱マスク層にアブレーションした。その後、同様の紫外線用蛍光灯で主露光し、現像装置で7分間現像した。現像液としては、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダを4質量%含有する40℃の中性水を使用した。次いで現像された版の水切りを行い、60℃で10分間乾燥し、同様の紫外線用蛍光灯を用いて5分間後露光を行い、その後殺菌灯を5分間照射して表面処理をし、評価レリーフを得た。」
カ 「[0044]実施例1A
(A)成分であるブタジエンラテックス(Nipol LX111NF、日本ゼオン(株)製)45質量部(固形分)、アクリロニトリル-ブタジエンラテックス(Nipol SX1503、日本ゼオン(株)製)10質量部(固形分)、(B)成分である親水性重合体(PFT-3、共栄社化学(株)製)12質量部(固形分)、(C)成分である(C-1)成分としては、オリゴブタジエンアクリレート(ABU-4、共栄社化学(株)製)12質量部、(C-2)成分としては、グリセリンモノメタクリレート(G101P、共栄社化学(株)製)7.5質量部、(C-3)成分としては、ラウリルメタクリレート7.5質量部、(D)成分である光重合開始剤0.7質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.03質量部、その他の添加剤としてカルボン酸系共重合体0.04質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、ニーダーを用いて80℃で混練しながら、トルエンと水を減圧除去した。得られた感光性樹脂組成物を上記感光性樹脂版の作成法のとおり樹脂原版を作成した。得られた原版を上記の方法でカッピング、カバーフィルム剥離性、感熱マスク層(コート層)耐性について評価した。感光性樹脂組成物の詳細((C)成分のみ)と評価結果を表1に示す。
[0045]実施例2A~6A、比較例1A~6A
実施例2A~6A、比較例1A~6Aは、(C-2)、(C-3)成分のみを表1のように変更した以外は実施例1Aと同様に感光性樹脂組成物、樹脂原版を作成し、評価した。感光性樹脂組成物の詳細((C)成分のみ)と評価結果を表1に示す。
[0046]
[表1]
[図:0001426802000004.jpg]
[0047] 表1の結果から明らかなように、実施例1A~6Aの感光性樹脂を使用したものは、カッピング、カバーフィルム剥離性、感熱マスク層(コート層)耐性においてバランス良く優れていた。」
(2)甲1に記載された発明
ア 甲1原版発明
上記(1)オ及びカの記載(特に「実施例2A」)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1原版発明」という。)が記載されていると認められる。
「(A)成分であるブタジエンラテックス(Nipol LX111NF、日本ゼオン(株)製)45質量部(固形分)、アクリロニトリル-ブタジエンラテックス(Nipol SX1503、日本ゼオン(株)製)10質量部(固形分)([0044]及び[0045])、
(B)成分である親水性重合体(PFT-3、共栄社化学(株)製)12質量部(固形分)([0044]及び[0045])、
(C)成分である
(C-1)成分としては、オリゴブタジエンアクリレート(ABU-4、共栄社化学(株)製)12質量部([0044]及び[0045])、
(C-2)成分としては、CHKK(共栄社化学(株)製)7.5質量部([0044]~[0046][表1])、
(C-3)成分としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート7.5質量部([0044]~[0046][表1])、
(D)成分である光重合開始剤0.7質量部([0044]及び[0045])、
重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.03質量部([0044]及び[0045])、
その他の添加剤としてカルボン酸系共重合体0.04質量部([0044]及び[0045])をトルエン15質量部([0044]及び[0045])とともに容器中で混合し、ニーダーを用いて80℃で混練しながら、トルエンと水を減圧除去し、得られた感光性樹脂組成物([0044]~[0046][表1])を厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリエステル系接着層を10μm厚でコーティングした支持体([0036])と、厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に保護層(ポリビニルアルコール)と感熱マスク層(ブチラール樹脂にカーボンブラックを分散)をコーティングしたカバーフィルム([0036])とで、接着層、保護層が感光性樹脂組成物と接触するように挟み、ヒートプレス機で100℃、15MPaの圧力で1分間加温加圧することにより作製した、感光性樹脂層([0036])の厚みが1.0mmの感光性樹脂原版([0036])。」
イ 甲1レリーフ発明
また、上記(1)オ及びカの記載(特に「実施例2A」)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1レリーフ発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲1原版発明を350nmにおける照度8.0w/m2の紫外線用蛍光灯(PHILIPS社製 10R)を用いて、10秒の裏露光を行い、カバーフィルムを剥離し、次にIRレーザー照射機で少なくとも線幅300μmの細線を含む画像を樹脂版感熱マスク層にアブレーションし、その後、同様の紫外線用蛍光灯で主露光し、現像液としては、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダを4質量%含有する40℃の中性水を使用し、現像装置で7分間現像し、次いで現像された版の水切りを行い、60℃で10分間乾燥し、同様の紫外線用蛍光灯を用いて5分間後露光を行い、その後殺菌灯を5分間照射して表面処理をして得た、評価レリーフ([0037])。」
2 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1と甲1原版発明とを対比する。
ア 水分散性粒子
甲1原版発明における「(A)成分」とは、「ブタジエンラテックス(Nipol LX111NF、日本ゼオン(株)製)45質量部(固形分)、アクリロニトリル-ブタジエンラテックス(Nipol SX1503、日本ゼオン(株)製)10質量部(固形分)」であって、いずれも「固形分」そのものを意味している。また、上記「(A)成分」は「(A)水分散ラテックスから得られる疎水性重合体」であり、甲1の「ラテックスは、独立した微粒子としてその存在が確認できることが必要である」との記載([0013])によれば、「(A)成分」は、水分散性の粒子といえる。
さらに、甲1原版発明の「ブタジエンラテックス」は、本件訂正発明1の「実施例」において、「水分散ラテックス」として用いられた「日本ZEON製、NipLX111NF、ポリブタジエンの水分散ラテックス、固形分55%」と同一の製品であると認められる。
以上によれば、甲1原版発明の「ブタジエンラテックス及びアクリロニトリル-ブタジエンラテックス」は、本件訂正発明1の「水分散性粒子」に相当する。
イ ポリマー
甲1原版発明の「感光性樹脂層」は、「(C-1)成分であるオリゴブタジエンアクリレート(ABU-4、共栄社化学(株)製)」を含む([0036]、[0044]及び[0045])。
ここで、上記「(C-1)成分」は、「(C-1)水酸基非含有光重合性オリゴマー」であり、甲1の[0016]の記載および技術常識に照らせば、甲1原版発明の「ABU-4」は、ジエン系ゴムであると認められる。
さらに、参考資料1の「3.組成、成分情報」によると、「ABU-4」は、「ポリブタジエングリコールジアクリレート」であるから、両末端にアクリロイル基を有するものであり、参考資料2の「4.結果」によると、「ABU-4」のMw(重量平均分子量)は、約18,500であると認められる。
以上によれば、甲1原版発明の「ABU-4」は、本件訂正発明1の「ポリマー」に相当し、また、本件訂正発明1の「両末端に(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重量平均分子量が8,000以上100,000以下のジエン系ゴムである」という要件を満たす。
ウ 多官能モノマー
甲1原版発明の「感光性樹脂層」は、「(C-3)成分であるトリメチロールプロパントリメタクリレート」を含む([0036]、[0044]~[0046][表1])。
そして、「トリメチロールプロパントリメタクリレート」は、メタアクリロイルオキシ基を3つ有する多官能ポリマーであるから、本件訂正発明1の「(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマー」に相当し、また、本件訂正発明1の「前記多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物であ」るという要件を満たす。
【化1】
[図:0001426802000005.jpg]
エ 感光層
甲1原版発明の「感光性樹脂層」([0036])は、その成分からみて、本件訂正発明1の「感光層」に相当する。
ここで、甲1原版発明の「感光性樹脂層」において、「ABU-4」の含有量(12質量部)は、「感光性樹脂層」の全固形分に対して、(12×100)/(45+10+12+12+7.5+7.5+0.7+0.03+0.04)=12.7質量%である。
また、甲1原版発明の「感光性樹脂層」において、「ABU-4」の含有量(12質量部)に対する「トリメチロールプロパントリメタクリレート」の含有量(7.5質量部)の比率は、質量比で「7.5質量部/12質量部=0.63」と計算されるから、甲1原版発明の「感光性樹脂層」は、本件訂正発明1の「感光層」における「前記感光層において、前記ポリマーの含有量に対する前記多官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.3以上3.0以下である」という要件を満たす。
オ 水現像性フレキソ印刷原版
甲1原版発明の「感光性樹脂原版」は、「評価レリーフの作成」において、「現像液としては、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダを4質量%含有する40℃の中性水を使用し」ている([0037])から、「水現像性」であると認められる。
また、甲1の「本発明の感光性樹脂組成物は、CTPフレキソ印刷原版の感光性樹脂層に用いるためのものである。」との記載([0025])を考慮すると、甲1原版発明の「感光性樹脂原版」は、実質的に「フレキソ印刷原版」であると認められる。
したがって、甲1原版発明の「感光性樹脂原版」は、本件訂正発明1の「水現像性フレキソ印刷原版」に相当する。
(2)一致点及び相違点
上記(1)の対比結果を踏まえれば、両者は下記アの点で一致し、下記イの点で相違する。
ア 一致点
「水分散性粒子と、両末端に(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重量平均分子量が8,000以上100,000以下のジエン系ゴムであるポリマーと、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマーとを含有する感光層を有し、
前記多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物であり、
前記感光層において、前記ポリマーの含有量に対する前記多官能モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.3以上3.0以下である、水現像性フレキソ印刷版原版。
[化1]
[図:0001426802000006.jpg]
」
イ 相違点
[相違点1]
本件訂正発明1は、「感光層において、ポリマーの含有量が、前記感光層の全固形分に対して、1~12質量%であ」るのに対し、甲1原版発明は、感光性樹脂層において、ABU-4の含有量が、前記感光性樹脂層の全固形分に対して、12.7質量%である点。
[相違点2]
本件訂正発明1は、「感光層において、」「前記水分散性粒子の含有量が、前記感光層の全固形分に対して、5~35質量%であ」るのに対し、甲1原版発明は、感光性樹脂層において、「ブタジエンラテックス及びアクリロニトリル-ブタジエンラテックス」の含有量が、前記感光性樹脂層の全固形分に対して、{(45+10)/(45+10+12+12+7.5+7.5+0.7+0.03+0.04)}×100=58質量%と算出される点。
(3)判断
ア 相違点2
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1には、「(A)成分の感光性樹脂組成物中の配合量は40~80質量%であることが好ましい。40質量%未満では、印刷板としての強度が不足し、80質量%を超えると、水現像に時間を要するおそれがある。」([0013])との記載がある。
してみれば、甲1原版発明の「感光性樹脂層」における「(A)成分」である「ブタジエンラテックス及びアクリロニトリル-ブタジエンラテックス」の含有量が40質量%未満では、印刷板としての強度が不足するのであるから、「ブタジエンラテックス及びアクリロニトリル-ブタジエンラテックス」の含有量を「感光性樹脂層」の全固形分に対して、5~35質量%とすることには阻害要因がある。
したがって、当業者が、甲1原版発明に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得たとはいえない。
イ 小括
以上のとおり、上記相違点2は、当業者が容易に想到し得たということはできないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本件訂正発明2、4及び5について
本件訂正発明2及び4は、本件訂正発明1に、さらに限定を付加した「水現像性フレキソ印刷版原版」に係る発明である。また、本件訂正発明5は、当該「水現像性フレキソ印刷版原版」が有する感光層を画像様に露光し、現像することにより得られる画像部と非画像部とを有する「フレキソ印刷版」に係る発明である。そうすると、本件訂正発明2、4及び5と甲1原版発明あるいは甲1レリーフ発明とを対比した場合、少なくとも上記相違点2において相違する。
そして、上記相違点2は、上記2(3)アにおいて検討したとおり、当業者が容易に想到し得たということができないものであるから、本件特許発明2、4及び5も、同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 小括
以上のとおり、本件訂正発明1、2、4及び5は、甲1原版発明又は甲1レリーフ発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
第6 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立ての理由について
1 申立ての理由の概要
取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
(1)明確性要件
本件特許の請求項1~5に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、請求項1~5に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)実施可能要件及びサポート要件
本件特許の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~5の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(3)新規性
本件特許の請求項1~5に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1又は甲2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。
(4)進歩性
本件特許の請求項1~5に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1又は甲2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条2号又は4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 当合議体の判断
(1)明確性要件
ア 「前記多官能モノマー」について
特許異議申立人は、特許異議申立書の9頁下から3行目~11頁最終行において、本件特許の請求項1の記載では、本件特許の請求項1の最後の段落における「前記多官能モノマー」が指すものが、「(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマー」を指すとする「第一の解釈」と、「ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンとり(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンとり(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物
[図:0001426802000007.jpg]
」
を指すとする「第二の解釈」の二通りに解釈できる結果、本件特許発明1の発明の外延が不明確であると主張している。
しかしながら、本件訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1には、「・・・(中略)・・・、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマーとを含有する感光層を有し、
前記多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物であり(合議体注:化合物の化学式は省略した。以下同様である。)」と記載されており、当該記載は、「(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマー」が、「ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物」であることを特定しているものと認められるから、最後の段落の「前記多官能モノマー」が、「ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物」を指す、すなわち、「第二の解釈」を指すことは明らかである。
そうすると、本件訂正発明1は明確であり、第三者に不測の不利益をもたらすとはいえない。
本件訂正発明3も本件訂正発明1と同様の理由により明確であり、第三者に不測の不利益をもたらすとはいえない。
本件訂正発明1あるいは本件訂正発明3の記載を直接あるいは間接的に引用する、本件訂正発明2、4及び5についても同様である。
イ プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて
特許異議申立人は特許異議申立書の12頁1~26行において、本件特許発明5は「フレキソ印刷版」(物の発明)であるが、請求項5には、「請求項1~4のいずれか1項に記載の水現像性フレキソ印刷版原版が有する感光層を画像様に露光し、現像することにより得られる画像部」という、その物の製造方法が記載されており、また、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせないから、本件特許発明5は明確でないと主張している。
しかしながら、「請求項1~4のいずれか1項に記載の水現像性フレキソ印刷版原版が有する感光層を画像様に露光し、現像することにより得られる画像部」との記載は、「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」に該当するから、「その物の製造方法が記載されている場合」に該当しないものである。
そうすると、本件訂正発明5は明確であり、第三者に不測の不利益をもたらすとはいえない。
ウ 小括
本件訂正発明は、特許請求の範囲の請求項1~5の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている。
(2)実施可能要件及びサポート要件
ア サポート要件について
(ア) 判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
これを本件訂正発明についてみると、以下のとおりとなる。
(イ)本件訂正発明の課題
本件特許明細書の【0005】の記載によれば、本件訂正発明が解決しようとする課題は、「水現像性に優れ、且つ、フレキソ印刷版にしたときに優れた耐刷性、ハンドリング性及び後端部着肉性を示す、フレキソ印刷版原版、並びに、上記フレキソ印刷版原版を露光及び現像することにより得られるフレキソ印刷版を提供すること」(以下「本件課題」という。)と認められる。
(ウ)本件訂正発明における課題解決手段について
本件特許明細書の【0075】~【0084】に記載された評価基準及び評価結果によれば、本件課題の解決には、感光層における「水分散性粒子と、両末端に(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重量平均分子量が8,000以上100,000以下のジエン系ゴムであるポリマー(以下「特定ポリマー」という。)と、「(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ以上有する多官能モノマー」であって、「前記多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物であ」る「多官能モノマー」(以下「特定モノマー」という。)の有無」及び「特定ポリマーの含有量に対する特定モノマーの含有量の比率」が寄与していると認められる。
したがって、これらの観点から、本件特許発明が本件課題を解決することができる範囲のものと当業者が認識することができるかについて、以下検討する。
(エ)判断
a 水分散性粒子と特定ポリマーと特定モノマーの有無の観点からの検討
本件訂正発明1及び3は、感光層が、「水分散性粒子」と「特定ポリマー」と「特定モノマー」とを必須成分として含有するものである。
そして、本件特許明細書の【0079】【表1】において、感光層が「水分散性粒子」と「特定ポリマー」と「特定モノマー」とを含有する「実施例1」~「実施例11」が、「水現像性」、「後端部着肉性」及び「耐刷性及びハンドリング性」について、いずれも本件特許明細書の【0075】~【0078】に記載された実用上の「評価基準」を満たしているのに対し、感光層が「水分散性粒子」を含有しない「比較例1」の「水現像性」の評価が「C」であり、感光層が「特定ポリマー」を含有しない「比較例2」及び「比較例5」の「後端部着肉性」の評価が「1」であり、感光層が「特定モノマー」を含有しない「比較例3」及び「比較例4」の「水現像性」の評価が「B」であって、「耐刷性及びハンドリング性」の評価が「1」であり、いずれも上記実用上の「評価基準」を満たしていないことを考慮すると、本件訂正発明1及び3は、当業者が本件課題を解決することができると認識できるものといえる。
したがって、本件訂正発明1及び3は、当業者が本件課題を解決することができると認識できるものといえるから、本件訂正発明1及び3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、本件訂正発明1又は3を引用する本件特許発明2、4及び5についても同様である。
b 特定ポリマーの含有量に対する特定モノマーの含有量の比率の観点からの検討
本件訂正発明1及び3は、感光層において、「特定ポリマーの含有量に対する特定モノマーの含有量の比率が、質量比で、0.3以上3.0以下であ」ることを発明特定事項とするものである。
そして、本件特許明細書の【0079】【表1】において、感光層の「特定モノマー/特定ポリマー」が、質量比で、「0.3以上3.0以下」である「実施例1」~「実施例9」及び「実施例11」が、「水現像性」、「後端部着肉性」及び「耐刷性及びハンドリング性」について、いずれも本件特許明細書の【0075】~【0078】に記載された実用上の「評価基準」を満たしているのに対し、感光層の「特定モノマー/特定ポリマー」が、質量比で、「0.7」であるものの、「水現像性」の評価が「C」であり、「後端部着肉性」及び「耐刷性及びハンドリング性」の評価を行っていない「比較例1」や、感光層が「特定ポリマー」又は「特定モノマー」を含有しておらず、感光層の「特定モノマー/特定ポリマー」を算出できない「比較例2」~「比較例5」を考慮すると、感光層の「特定モノマー/特定ポリマー」が、質量比で、「0.3以上3.0以下」であることを発明特定事項とする本件訂正発明1及び3は、当業者が本件課題を解決することができると認識できるものといえる。
したがって、本件訂正発明1及び3は、当業者が本件課題を解決することができると認識できるものといえるから、本件訂正発明1及び3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、本件訂正発明1又は3を引用する本件特許発明2、4及び5についても同様である。
c 特許異議申立人の主張について
(a)「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の要件
特許異議申立人は、特許異議申立書の13頁1行~18頁7行において、本件特許発明の課題を解決するためには、本件特許発明1の「特定モノマー/特定ポリマー」の比率の要件(「3.0以下」)を満たしていること、及び本件特許発明3の「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の要件(「0.5」以下)を満たしていることの両方が必須であることが明らかであるにも関わらず、本件特許の請求項1の記載は、本件特許発明3の「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の要件(「0.5」以下)を規定していない点で、本件特許発明の課題を解決することができない態様まで包含している旨を主張している。
しかしながら、上記第6 2(2)ア(エ)bのとおり、「特定モノマー/特定ポリマー」の比率の要件を満たす本件訂正発明1~5は、当業者が本件課題を解決することができると認識できるものといえる。
また、特許異議申立人は、本件特許発明の課題を解決するためには、「特定モノマー/特定ポリマー」の比率の要件と、「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の要件の両方を満たしていることが必須であると主張しているが、本件特許明細書の【0029】及び【0030】には、「単官能モノマー」が、感光層が含有していてもよい「任意成分」であると記載されており、【0033】には、「単官能モノマー/特定モノマー」が、「本発明の効果等がより優れる」理由から、質量比で、0.5以下であることがより好ましい旨が記載されており、これらの記載からは、本件訂正発明の課題を解決するために、「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の要件の満たしていることが必須であるとは認められない。
このことは、本件特許明細書の【0079】【表1】において、「実施例1~11」及び「比較例1~5」の全てに「単官能モノマー」が含有されており、「単官能モノマー」の有無による効果の差異を評価できないこと、及び、「特定モノマー/特定ポリマー」の比率が「0.6」である「実施例11」において、本件特許発明の課題を解決できていることからも明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(b)「特定モノマー/特定ポリマー」の比率の要件及び「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の要件
特許異議申立人は、特許異議申立書の18頁8行~19頁16行において、本件特許発明の課題を解決するためには、本件特許発明1の「特定モノマー/特定ポリマー」の比率の下限、及び本件特許発明3の「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の下限について、それぞれ本件特許明細書の実施例によって検証されている範囲のものに限定することが必要である旨を主張している。
しかしながら、上記第6 2(2)ア(エ)bのとおり、本件訂正発明1及び3は、「特定モノマー/特定ポリマー」の比率の下限を「0.3」しているから、本件訂正発明1~5は、当業者が本件課題を解決することができると認識できるものといえる。
また、上記第6 2(2)アc(a)のとおり、「単官能モノマー」は、感光層が含有していてもよい「任意成分」であり、実施例において、「単官能モノマー」の有無による効果の差異を評価できないことから、「単官能モノマー/特定モノマー」の比率の下限特定しないことにより、当業者が本件課題を解決することができると認識できないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(c)「特定ポリマー」の重量平均分子量、構成材料、「特定モノマー」の種類、「単官能モノマー」の種類、及び、「可塑剤」について
特許異議申立人は、特許異議申立書の19頁17行~24頁16行において、「特定ポリマー」の重量平均分子量及び構成材料、「特定モノマー」の種類を請求項1に規定される範囲まで拡張ないし一般化できるとは言えないこと、本件特許発明1が、「単官能モノマー」として「イソボニルメタクリレート」を含有することを規定していない点で、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていること、及び、本件特許発明1が、「可塑剤」を含有することを規定していない点で、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていることを主張している。
しかしながら、ポリマーの重量平均分子量が8,000~100,000程度で類似の特性を有すること、及び、ジエン系ゴムが類似の特性を有することは、当業者の技術常識であり、本件特許明細書の実施例において、「特定ポリマー」として、「重量平均分子量が10,000のポリブタジエン」しか使用されてなかったとしても、「特定ポリマー」の重量平均分子量及び構成材料を本件訂正発明1~5に規定される範囲まで拡張ないし一般化できることは、当業者であれば理解できる。
また、「ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、または、下記式で表せる構造を有する化合物」は、いずれも3官能のモノマーであり、それらの化学構造も類似しているから、本件特許明細書の実施例において、「特定モノマー」として、「トリメチロールプロパントリメタクリレート」しか使用されてなかったとしても、「特定モノマー」の種類を本件訂正発明1~5に規定される範囲まで拡張ないし一般化できることは、当業者であれば理解できる。
そして、上記第6 2(2)アc(a)のとおり、「単官能モノマー」は、感光層が含有していてもよい「任意成分」であり、実施例において、「単官能モノマー」として、「イソボニルメタクリレート」しか使用していなかったとしても、他の化合物を「単官能モノマー」として使用することにより、本件訂正発明3~5の課題が解決できることを当業者が認識できることは明らかである。
さらに、本件特許明細書の【0029】及び【0042】には、「可塑剤」が、感光層が含有していてもよい「任意成分」であることが記載されており、本件特許明細書の【0079】【表1】においては、「実施例1~11」及び「比較例1~5」の全てに「可塑剤」が含有されており、「可塑剤」の有無による効果の差異を評価することもできないから、本件訂正発明1~5が、「可塑剤」を含有することを特定していないことにより、当業者が本件課題を解決することができると認識できないとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、いずれも採用することはできない。
イ 実施可能要件について
特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許発明1~5はサポート要件違反であるとともに実施可能要件違反であると主張するのみであるから、特許異議申立人の主張は、上記第6 2(2)アのサポート要件違反に関する主張と同様の理由により、いずれも採用することができない。
(3)新規性
ア 甲1に記載された発明
上記第5 2(2)イの[相違点2]のとおり、本件訂正発明1は、「感光層において、」「前記水分散性粒子の含有量が、前記感光層の全固形分に対して、5~35質量%であ」るのに対し、甲1に記載された発明は、感光性樹脂層において、「ブタジエンラテックス及びアクリロニトリル-ブタジエンラテックス」の含有量が、前記感光性樹脂層の全固形分に対して、58質量%と算出される。
したがって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
本件訂正発明1を直接あるいは間接的に引用する本件訂正発明2、4及び5についても同様である。
イ 甲2に記載された発明
本件訂正発明1及び3は、「感光層において、」「ポリマーの含有量が、前記感光層の全固形分に対して、1~12質量%であ」るのに対し、甲2に記載された発明は、感光性樹脂層において、「ABU-4」の含有量が、前記感光性樹脂層の全固形分に対して、13質量%である。
したがって、本件訂正発明1及び3は、甲2に記載された発明ではない。
本件訂正発明1又は3を直接あるいは間接的に引用する本件訂正発明2、4及び5についても同様である。
(4)進歩性
ア 甲1に記載された発明
甲1に記載された発明において、印刷版の耐刷性を向上させるために、「(C-3)水酸基非含有光重合性モノマー」として、「トリメチロールプロパントリメタクリレート」に加えて、「単官能モノマー」である「ラウリルメタクリレート」を「感光性樹脂層」に含有させることが、当業者が容易になし得たことであったとしても、甲1に記載された発明において、「トリメチロールプロパントリメタクリレート」の含有量に対する「ラウリルメタクリレート」の含有量の比率を質量比で0.5以下とする動機付けはない。
したがって、本件訂正発明3は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
本件訂正発明3を直接あるいは間接的に引用する本件訂正発明4及び5についても同様である。
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された発明は、感光性樹脂層が、光重合性不飽和化合物(架橋剤)として、「オリゴブタジエンアクリレート(ABU-4)」、「トリメチロールプロパントリメタクリレート」及び「ラウリルメタクリレート」を含有しているが、甲2の[0024]には、「光重合性不飽和化合物の感光性樹脂層中の配合量は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%である」と記載されており、光重合性不飽和化合物全体の好ましい配合量しか特定されていないため、感光性樹脂層における「ABU-4」の含有量を前記感光性樹脂層の全固形分に対して、1~12質量%とするとともに、「ABU-4」の含有量に対する「トリメチロールプロパントリメタクリレート」の含有量の比率を質量比で0.3以上3.0以下とする動機付けはない。
したがって、本件訂正発明1及び3は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
本件訂正発明1又は3を直接あるいは間接的に引用する本件訂正発明2、4及び5についても同様である。
第7 むすび
本件特許の請求項1~5に係る発明は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消しの理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700181