特許異議申立
2026-700312
熱伝導性シリコーンゴムシート
- 審判番号
- 2026-700312
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-120405
- 登録番号
- 7763573
- 請求日
- 2026年04月10日
- 審決日
- 2026年07月13日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人牛木国際特許事務所
- 【異議申立人】鈴木 隆史
- 審判長/審判官
- 審判長 松永 稔
- 審判官 梶尾 誠哉
- 審判官 中野 浩昌
- 分類
- P1651.113-Y (H10W) / P1651.121-Y (H10W)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7763573号発明「熱伝導性シリコーンゴムシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7763573号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7763573号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和7年7月17日の出願であって、同年10月24日にその特許権の設定登録がされ、同年11月4日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1~3に係る特許に対し、令和8年4月10日に特許異議申立人 鈴木 隆史(以下、「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明3」といい、併せて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
無機充填材の含有量が60体積%以上90体積%以下である熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱伝導性シリコーンゴムシートであって、
前記熱伝導性シリコーンゴム組成物が、下記(A)、(B)及び(D)
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン
(B)ヒドロシリル基を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(D)付加反応触媒
を必須成分とし、前記(B)成分の添加量は、(B)成分由来のSi-H基が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して0.5~1.0個となる量である付加硬化型シリコーン組成物であり、
アスカーC硬度計により25℃で測定した硬さが60以下であり、
300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下である熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項2】
ホットディスク法により測定した前記熱伝導性シリコーンゴムシートの熱伝導率が2.0W/m・K以上である請求項1に記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項3】
前記熱伝導性シリコーンゴム組成物が付加硬化型シリコーンゴム組成物である請求項1に記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。」
第3 申立理由の概要
1 特許異議の申立理由
異議申立人の主張する特許異議の申立理由の概要は以下のとおりである。
(1) 理由1(新規性)
本件発明1~3は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
(2) 理由2(進歩性)
本件発明1~3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
2 異議申立人の提出した証拠
異議申立人は、次の甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ、「甲1」~「甲3」という。)を証拠として提出している。
甲1:特開2016-11322号公報
甲2:特開2010-251378号公報
甲3:特開2002-167511号公報
第4 異議申立人の提出した証拠の記載、甲1発明等
1 甲1について
(1) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審において加筆した。以下同じ。)。
「【発明の名称】熱伝導性複合シリコーンゴムシート」
「【請求項1】
(a)少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2~9個であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数が(a)成分中のアルケニル基1.0モルに対して0.1~1.5モルとなる量、
(c)熱伝導性充填材:500~4000質量部、及び
(d)白金族金属系硬化触媒:(a)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1~1000ppm
を含有して成り、
(a)成分のオルガノポリシロキサンにおいてアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数をLとし、
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度をL'としたとき、L'/L=0.6~3.0を満たす熱伝導性シリコーン組成物を、90~130℃の加熱工程で硬化させた後、さらに140~180℃のポストキュア工程を加えて成形させた熱伝導性シリコーンシート。
・・・
【請求項4】
(c)熱伝導性充填材が、(a)成分100質量部に対し下記の量含み、かつ熱伝導率が1.5W/m・Kを超えるものである、請求項1~3の何れか1項に係る熱伝導性シリコーンシート。
(C-1) 中心粒子径が0.5~5umの不定形アルミナ 300~1500質量部
(C-2) 中心粒子径が7~25umの球状アルミナ 300~1500質量部
(C-3) 中心粒子径が30~50umの球状アルミナ 300~1500質量部
(C-4) 中心粒子径が60~90umの球状アルミナ 300~1500質量部」
「【背景技術】
【0002】
・・・
【0005】
シートはグリースに比べ、取り扱い性に優れており、熱伝導性シリコーンゴム等で形成された熱伝導シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)は様々な分野に用いられている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の目的は、高熱伝導率であり、かつ低硬度であるにもかかわらず、高温下での高復元性を有する、車載用途に適した熱伝導性シリコーンシートを提供することにある。」
「【発明の効果】
【0028】
本発明の熱伝導性シリコーンシートは、高熱伝導率を有し、かつ低硬度であるため、被放熱物の形状に沿うように変形し、被放熱物に応力をかけることなく良好な放熱特性を示す一方で、良好な高温下復元性を有するため、高温・振動下のような過酷な環境でも優れた長期信頼性を発揮することができる。また、取り扱い性、リワーク性にも優れ、車載用途などの発熱性電子部品とヒートシンク又は回路基板などの熱放散部材との界面に介在させて熱伝導により電子部品を冷却するための熱伝達材料として有用である。」
「【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(a)オルガノポリシロキサン]
(a)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し(即ち、少なくとも側鎖にアルケニル基を含有し)、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2~9個であるオルガノポリシロキサンである。(a)成分のオルガノポリシロキサンは、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のものであるのが一般的であるが、シロキサン結合の連鎖からなるポリシロキサン構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよい。アルケニル基は、非末端部分のケイ素原子にのみ結合していても、非末端部分のケイ素原子と末端のケイ素原子の両方に結合していてもよい。硬化物の機械的強度等、物性の点から、(a)成分は直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
(a)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0030】
(a)成分の一例として、以下の一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0031】
【化1】
[図:0001438317000001.jpg]
(式中、R1は独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Xはアルケニル基であり、nは0又は1以上の整数であり、mは2~9の整数である。)」
「【0035】
[(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(b)成分は、少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、通常は直鎖状のものである。(b)成分は、Si-H基を両末端にのみ有しても、両末端と非末端部分(即ち、側鎖)の両方に有してもよい。(b)成分は、少なくとも両末端がSi-H基で封鎖されているため、一分子中に少なくとも2個のSi-H基を有するが、平均で2~4個のSi-H基を有するものが好ましい。(b)成分中のSi-H基の数が2個未満の場合、得られる組成物は硬化しない虞がある。(b)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0036】
(b)成分の一例として、以下の平均構造式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0037】
【化2】
[図:0001438317000002.jpg]
(式中、R1は独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、oは0以上の正数であり、pは0以上2未満の正数である。)」
「【0048】
[(d)白金族金属系硬化触媒]
(d)成分の白金族金属系硬化触媒は、(a)成分中のアルケニル基と(b)成分中のSi-H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒を用いることができる。(d)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。」
「【0065】
<成形体の硬度>
本発明の成形物のアスカーC硬度、即ち、SRIS 0101に準拠してアスカーC硬度計で測定した25℃における硬度は30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましい。硬度が30を超える成形物は、被放熱物の形状に沿うように変形し、被放熱物に応力をかけることなく良好な放熱特性を示すことが困難になる場合がある。」
「【0084】
[成形方法]
得られた組成物を200mm x 300mm x 3mm厚の金型に流し込み、プレス成形機を用い120℃で10分間成形硬化させた。カバーフィルムにはPIフィルムを用いた。その後、片面のPIフィルムを剥離し、オーブン中で、下記表1に示す温度、時間でポストキュアを行った。ポストキュア後にシート露出面にPIフィルムを積層し、両面にPIフィルムをカバーフィルムとして設けた熱伝導性シリコーンシートとした。
ポストキュア条件は表1にまとめた。
【0085】
[評価方法]
・硬度:得られたシート状の成形物を4枚重ねてアスカーC硬度計で測定した。
・熱伝導率:得られたシート状の成形物を試料として用いて、熱伝導率計(TPA-501(商品名)、京都電子工業株式会社製)により該成形物の熱伝導率を測定した。
・復元率:得られたシート状成形物から、20mm角の試験片を型抜きし、厚み方向に50%(1.5mmまで)圧縮し、圧縮したまま150℃オーブン中で50時間および500時間エージングした。その後、試験片を圧縮から解放し、60分後の試験片の厚みを測定した。
上記評価を行った結果を表1に示す。
・ボイド:得られたシート状成形物の表面状態を観察し、ボイド有無を確認した。
上記評価を行った結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
[図:0001438317000003.jpg]
」
ア 甲1には、上記【請求項1】及び【請求項4】に記載された「熱伝導性シリコーンシート」に係る発明が記載されている。
イ 上記【0035】によれば、(b)成分は、少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、少なくとも両末端がSi-H基で封鎖されているため、一分子中に少なくとも2個のSi-H基を有する。
ウ 上記【0048】によれば、(d)成分の白金族金属系硬化触媒は、(a)成分中のアルケニル基と(b)成分中のSi-H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒を用いることができる。
エ 上記【0065】によれば、上記「熱伝導性シリコーンシート」のアスカーC硬度、即ち、SRIS 0101に準拠してアスカーC硬度計で測定した25℃における硬度は30以下であることが好ましい。
オ 上記【0084】によれば、上記「熱伝導性シリコーンシート」は、得られた組成物を200mm x 300mm x 3mm厚の金型に流し込み、プレス成形機を用い120℃で10分間成形硬化させ、カバーフィルムにはPIフィルムを用い、その後、片面のPIフィルムを剥離し、オーブン中でポストキュアを行い、ポストキュア後にシート露出面にPIフィルムを積層し、両面にPIフィルムをカバーフィルムとして設けた熱伝導性シリコーンシートとしたものである。
(2) 甲1発明
上記(1)によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
[甲1発明]
(a)少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2~9個であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数が(a)成分中のアルケニル基1.0モルに対して0.1~1.5モルとなる量、
(c)熱伝導性充填材:500~4000質量部、及び
(d)白金族金属系硬化触媒:(a)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1~1000ppm
を含有して成り、
(a)成分のオルガノポリシロキサンにおいてアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数をLとし、
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度をL'としたとき、L'/L=0.6~3.0を満たす熱伝導性シリコーン組成物を、90~130℃の加熱工程で硬化させた後、さらに140~180℃のポストキュア工程を加えて成形させた熱伝導性シリコーンシートであって、
(c)熱伝導性充填材が、(a)成分100質量部に対し下記の量含み、かつ熱伝導率が1.5W/m・Kを超えるものであり、
(C-1) 中心粒子径が0.5~5umの不定形アルミナ 300~1500質量部
(C-2) 中心粒子径が7~25umの球状アルミナ 300~1500質量部
(C-3) 中心粒子径が30~50umの球状アルミナ 300~1500質量部
(C-4) 中心粒子径が60~90umの球状アルミナ 300~1500質量部
であり、
(b)成分は、少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、少なくとも両末端がSi-H基で封鎖されているため、一分子中に少なくとも2個のSi-H基を有し、
(d)成分の白金族金属系硬化触媒は、(a)成分中のアルケニル基と(b)成分中のSi-H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒を用いることができ、
アスカーC硬度、即ち、SRIS 0101に準拠してアスカーC硬度計で測定した25℃における硬度は30以下であることが好ましく、
得られた組成物を200mm x 300mm x 3mm厚の金型に流し込み、プレス成形機を用い120℃で10分間成形硬化させ、カバーフィルムにはPIフィルムを用い、その後、片面のPIフィルムを剥離し、オーブン中でポストキュアを行い、ポストキュア後にシート露出面にPIフィルムを積層し、両面にPIフィルムをカバーフィルムとして設けた、
熱伝導性シリコーンシート。
2 甲2について
甲2には、以下の記載がある。
「【0035】
また、通常、基板フィルムは、テンションロール及びラミネートシートを巻き取るシート巻き取り装置等により張力が調整されている。
しかしながら、本発明の方法では、シート化後の樹脂組成物の反応性液状樹脂を硬化させる必要があることから、ラミネートシートはすぐには巻き取らない。
そこで、通常の場合とは異なり、テンションロールのみにより基板フィルムの張力を調整する。
具体的には、圧延ロールの回転量を微調整することにより基板フィルムの張力を調整し、ラミネートシートの厚さは、圧延ロールに形成される樹脂組成物のバンクにより調整し、膜厚ムラが生じないようにしてある。」
3 甲3について
甲3には、以下の記載がある。
「【0016】
【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。表1及び表2に示す割合となるように、窒化ホウ素粉末、アルミニウム粉末(ミナルコ社製、品名「AL-AT250」)、窒化アルミニウム粉末及びアルミナ粉末(昭和電工社製、品名「アルミナAS-30」)をニーダに投入して混合した。その後、官能基比が約3.0であるシリコーンワニス(GE東芝シリコーン株式会社製、品名「TSR127B」)を表1及び表2に示す割合となるように投入し、混練し、熱導電性充填材が十分に分散されていることを目視により確認した後、ニーダから取り出した。次いで、平板開放成形型に敷きつめた後、アプリケーターで上面を平滑にした後、加熱炉において硬化させた。その後、得られた粒子状硬化物を表1の割合となるようにシリコーンゴム原料(GE東芝シリコーン株式会社製、品名「TSE3070」)中に混練して分散させた。次いで、PET樹脂製のフィルムにより混練物を上下から挟み、一対のカレンダーロールで圧延し、加熱炉(炉内温度200℃)で加熱炉内通過速度1.0mm/分で通過させながらシート状物である実験例1~5、比較例1及び2を得た。尚、表3に表1及び表2における各値を体積百分率に換算した値を示した。」
第5 当審の判断
1 理由1(新規性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と、甲1発明を対比する。
(ア) 甲1発明の「熱伝導性シリコーンシート」は、「熱伝導性シリコーン組成物を、90~130℃の加熱工程で硬化させた後、さらに140~180℃のポストキュア工程を加えて成形させた」ものであるから「熱伝導性シリコーン組成物」の硬化物からなるといえる。
また、甲1は、発明の名称を「熱伝導性複合シリコーンゴムシート」とするものであって、甲1の【背景技術】の【0005】において、「熱伝導性シリコーンゴム等で形成された熱伝導シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)」が挙げられ、甲1発明の「熱伝導性シリコーンシート」は、「アスカーC硬度」が「30以下であること」が好ましいものである。
そうすると、甲1発明は、「熱伝導性シリコーンゴムシート」に係る発明ということができ、甲1発明の「熱伝導性シリコーン組成物」は、「熱伝導性シリコーンゴム組成物」ということができる。
したがって、甲1発明の「熱伝導性シリコーンシート」は、本件発明1の「無機充填材の含有量が60体積%以上90体積%以下である熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱伝導性シリコーンゴムシート」と、「熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱伝導性シリコーンゴムシート」である点で共通する。
(イ) 甲1発明の「オルガノポリシロキサン」は、「(a)少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2~9個である」から、1分子中に2個以上の「ケイ素原子に結合したアルケニル基」を有しているといえる。
そうすると、甲1発明の「(a)少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2~9個であるオルガノポリシロキサン」は、本件発明1の「(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン」に相当する。
(ウ) 甲1発明の「(b)成分」は、「少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、少なくとも両末端がSi-H基で封鎖されているため、一分子中に少なくとも2個のSi-H基」を有する。
そして、「ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)」は、ヒドロシリル基であるといえる(本件明細書の【0030】も参照。)。
そうすると、甲1発明の「(b)少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサン」は、本件発明1の「(B)ヒドロシリル基を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン」に相当する。
(エ) 甲1発明の「(d)白金族金属系硬化触媒」について、「(d)成分の白金族金属系硬化触媒は、(a)成分中のアルケニル基と(b)成分中のSi-H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒を用いること」ができるから、甲1発明の「(d)白金族金属系硬化触媒」は、付加反応触媒ということができる。
そうすると、甲1発明の「(d)白金族金属系硬化触媒」は、本件発明1の「(D)付加反応触媒」に相当する。
(オ) 甲1発明の「熱伝導性シリコーン組成物」は、上記(イ)~(エ)で述べた(a)成分、(b)成分、(d)成分を含有して成るから、これらの成分は必須成分であるといえ、また、本件発明1の付加反応触媒に相当する「(d)成分」を含むから、「付加硬化型」といえる。
そうすると、甲1発明において、(a)成分、(b)成分、(d)成分を含有して成る「熱伝導性シリコーン組成物」は、本件発明1の「(A)、(B)及び(D)」を必須成分とする「付加硬化型シリコーン組成物」に相当する。
(カ) 甲1発明における「アスカーC硬度、即ち、SRIS 0101に準拠してアスカーC硬度計で測定した25℃における硬度は30以下であることが好ましく」との構成は、本件発明1の「アスカーC硬度計により25℃で測定した硬さが60以下であり」との構成に含まれる。
以上によれば、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物からなる熱伝導性シリコーンゴムシートであって、
前記熱伝導性シリコーンゴム組成物が、下記(A)、(B)及び(D)
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン
(B)ヒドロシリル基を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(D)付加反応触媒
を必須成分とする付加硬化型シリコーン組成物であり、
アスカーC硬度計により25℃で測定した硬さが60以下である熱伝導性シリコーンゴムシート。
[相違点]
[相違点1]
熱伝導性シリコーンゴム組成物について、本件発明1は、「無機充填材の含有量が60体積%以上90体積%以下である」と特定され、「前記(B)成分の添加量は、(B)成分由来のSi-H基が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して0.5~1.0個となる量である」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのように特定されるのか不明である点。
[相違点2]
熱伝導性シリコーンゴムシートについて、本件発明1は、「300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下」であるのに対し、甲1発明は、「300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下」であるのか不明である点。
イ 判断
上記アのとおり、本件発明1と甲1発明は、相違点を有するから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(2) 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を限定した発明であって、甲1発明と対比すると、少なくとも、上記(1)アの相違点を有するから、上記(1)イのとおり、本件発明1が甲1発明であるといえない以上、本件発明2及び3も、甲1発明であるとはいえない。
(3) 異議申立人の主張について
異議申立人は、上記相違点2について、異議申立書5頁下段から6頁上段において、甲1の【0084】に記載された熱伝導性シリコーンシートの成形方法と、本件明細書の【0053】に記載されたシートの成形方法は実質的に同一であるから、甲1発明のシートも「300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下」となる旨主張する。
そこで、本件明細書をみると、【0053】には以下の記載がある。
「【0053】
[成形方法]
下型の上に厚さ50μmのPETフィルムを配置し、さらにPETフィルムの上に厚さ2mm、サイズ330mm×440mmの中型を配置した。中型に表1に示す所定の量で得られた組成物を流し込み、組成物の上から厚さ50μmのPETフィルムを被せた。その後、ロールプレスにより組成物の厚さを2.5~3.0mmに調整した。その後、PETフィルムの上に上型を置いてプレス成形に供した。成形は、プレス成形機を用いて、圧力5×106Pa、120℃、10分間の条件で行った(実施例1~3、比較例1~2)。
一方では、上記工程から、ロールプレスによる組成物の厚さ調整の工程を除いた工程でシート成形を行った(比較例3~5)。
成形後のシートは300mm×400mmのサイズとなるよう、端部を均等にカットした。」
当該記載によれば、本件明細書における「実施例1~3」では、ロールプレスにより組成物の厚さを調整した後、プレス成形により、シートを形成していることが理解できる。
一方、甲1の【0084】には以下の記載がある(上記第4の1(1)参照、再掲)。
「【0084】
[成形方法]
得られた組成物を200mm x 300mm x 3mm厚の金型に流し込み、プレス成形機を用い120℃で10分間成形硬化させた。カバーフィルムにはPIフィルムを用いた。その後、片面のPIフィルムを剥離し、オーブン中で、下記表1に示す温度、時間でポストキュアを行った。ポストキュア後にシート露出面にPIフィルムを積層し、両面にPIフィルムをカバーフィルムとして設けた熱伝導性シリコーンシートとした。・・・」
当該記載によれば、甲1の【0084】では、プレス成形機を用いているから、甲1発明の「熱伝導性シリコーンシート」は、組成物をプレス成形しているとはいえるものの、本件明細書における「実施例1~3」のように、ロールプレスにより組成物の厚さを調整した後、プレス成形により形成しているものではないから、甲1発明の「熱伝導性シリコーンシート」は、本件明細書の「熱伝導性シリコーンゴムシート」と同一の成形方法で成形されているとはいえない。
したがって、申立人の主張は、主張の前提を欠いており、採用できない。
(4) 理由1(新規性)のまとめ
以上によれば、本件特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものではない。
したがって、異議申立人の主張する理由1は理由がない。
2 理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
事案に鑑みて、先に相違点2について検討する。
相違点2が周知技術であることの根拠として申立人が提出する甲2及び甲3の記載は、上記第4の2及び3のとおりであるところ、甲2及び甲3をみても、上記相違点2の構成は記載も示唆もされていないから、上記相違点2に係る「300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下」との構成が、本件特許の出願時において、周知技術であったということはできない。
そうすると、甲2及び甲3に記載された事項を参酌したとしても、甲1発明において、相違点2に係る「300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下」である構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1は、「300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下」である構成を採用することによって、本件明細書の【0010】に記載されているように、「本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートによれば、厚さ、形状など所望の構造に成形して得られるため、シートの構造の制限はなく、厚さのばらつきが小さいため、発熱部材に対する密着性に優れている。また、発熱部材に対して熱伝導性シリコーンゴムシートが隙間なく密着するため、熱抵抗が高くなることがなく、効率よく放熱することができる。」という顕著な効果を奏するものである。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を限定した発明であるから、上記(1)のとおり、本件発明1が甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件発明2及び3も、甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書6頁上段中段において、本件発明1と甲1発明とに相違点2があるとしても、甲2の【0035】に記載されているように、ロールプレスを使用すれば膜厚ムラが生じないことはよく知られており、甲3の【0016】に記載されているように、ロールプレスはよく知られているから、本件発明1の技術分野において、ロールプレスは周知である旨主張する。
しかしながら、甲1~3のいずれにも、厚さのばらつきを小さくすることによって、発熱部材に対する密着性を向上させ、熱抵抗が高くなることがなく、効率よく放熱する(本件明細書の【0010】)ことは、記載も示唆もされていないから、甲1発明において、相違点2に係る「300×400mmのシートにおける厚さばらつきが150μm以下」である構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではない。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(4) 理由2(進歩性)のまとめ
以上によれば、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、異議申立人の主張する理由2は理由がない。
第6 むすび
以上の次第であるから、特許異議の申立ての理由及び異議申立人の提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700312